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冷泉麻子「そど子卒業に際して」
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1 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:05:49.00 ID:Nn2yIfhz0
季節が冬に移り変わってから随分と経つが、寒さというのは肌に馴染むものではない。
私は布団から出るのに、一苦労どころか二苦労も三苦労も重ねて、ようやく体を起こした。
今日は沙織が起こしに来てくれなかったな、と他人のせいにしてみるが、彼女は生徒会の仕事で朝から忙しいと言っていたのをすぐに思い出す。
そもそも彼女に責はなく、まぁ、悪いのは私だ。
「ぅあー……」
寝ぼけ眼で服を着替えて、髪をヘアバンドでまとめて、家を出るのに起床から一時間もかけてしまった。
また今日も遅刻である。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1542189948
2 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:09:35.27 ID:Nn2yIfhz0
「冷泉さんっ! これで連続遅刻記録56日目よっ!」
気力を振り絞ってなんとか校門まで辿り着いてみれば、見慣れたおかっぱ頭に叱責される。
すでに風紀委員は引退して、相談役だか特別顧問だかいう役職に収まっているというのに、ご苦労なことだ。
「はいはい、そど子……」
すれ違いざま、呟くように返してやると、そど子は表情をさらに険しくした。
「『はい』は一回っ!」
背中から聞こえる声を聞き流し、校舎へと入る。
3 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:13:48.86 ID:Nn2yIfhz0
「あ、麻子っ」
下駄箱を抜けたところで沙織と鉢合わせた。
右手にピンク色のノートを持っている。
戦車データの記されているものでなく、生徒会用のものだ。
ちょうど朝の業務を終えたところだったのだろう。
「もー、いい加減、一人で起きられるようにならなきゃ駄目っ! 冬の大会が終わってから遅刻続きでしょーっ?」
私は「そうだな」と短く答え、
「沙織は生徒会の仕事か。今日は何をしていたんだ」
追求を避けるべく、話題を逸らした。
4 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:16:06.06 ID:Nn2yIfhz0
「卒業式の準備っ! もう来週だからね」
「あぁ、いつの間にかそんな時期か。ご苦労」
「放課後は麻子も手伝ってねっ!」
「わかった」
イベントごとは生徒会主導で盛大に。
先代の角谷会長の始めた気風だが、五十鈴さんの代になってもそれは受け継がれている。
関わりの深い三年生を見送る卒業式ともなれば、尚更だろう。
沙織たちも大変だ。
――三年生、三年生か。
例の元風紀委員長も、よくよく考えてみれば三年生だ。
そうか。そど子も来週には大洗からいなくなるのか。
5 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:18:25.24 ID:Nn2yIfhz0
初めは同学年と勘違いをしていた。
身長も私と同じくらいだし、上級生らしき威厳もない。
桜散る校門の前で生活指導をする影に、私は元気な一年生もいるものだと素朴な感想を抱いた。
学年が違うと気付いたのは、再び春が近づき、彼女が『風紀委員長』と呼ばれるのを耳にしたからだ。
それでなるほど最高学年になるのかと合点した。
初めて彼女を目にしたのが大洗女子に入学して間もなくだったから、丸々一年も気付かなかったことになる。
私もなかなかのものだ。
本来であれば風紀委員長だとか園先輩だとか呼んでやるべきなのだろうが、その頃にはもう『そど子』という呼び名が私の中で定着していた。
あえて改める気にもならなかった。
6 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:22:06.80 ID:Nn2yIfhz0
付き合いのある三年生は何人かいるが、私と一番縁が深いのはやはりそど子だと思う。
初対面の頃はまさかここまでの付き合いになるとは想像していなかったが、いつの間にやら。
俗にいう腐れ縁という奴だ。
なんだかんだ毎朝顔を合わせているし、戦車道の仲間でもある。
雪の中、二人で偵察に赴いたのも懐かしい。
長い付き合いだ。小言をぐちぐちと続けられた印象が強いしこちらから世話してやった覚えもあるが、まぁ世話にはなっている部分はある。
餞別の一つくらいくれてやっても良いだろうと思う。
――しかし、如何せん、そど子が卒業するというのにどうもピンとこない。
7 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:25:00.00 ID:Nn2yIfhz0
「冷泉さんっ! これで連続遅刻記録57日目よっ!」
昨日と比して、数字だけが一つ増えている。
たったそれだけの違いで、変わらずそど子は校門前に立っている。
「む、冷泉さん? 返事くらいしたらどうなのっ?」
「そど子、お前は本当に卒業する気があるのか。留年でもするんじゃないか」
「しないわよ留年なんて! 馬鹿にしないでっ!」
「そうか。悪かった」
このやり取りも普段と同じ。
まるでいつまでもこの生活が続くんじゃないかと錯覚させられる。
8 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:26:56.05 ID:Nn2yIfhz0
「さあ、わかったら早く校舎に入るっ! 遅刻の時間がどんどん広がっていくわよ! ほら、一秒、二秒――」
「はいはい、そど子……」
そど子の卒業後の進路を私は知らない。
四月からそど子がどこへ行くのかを私は知らない。
だから尚更、そど子の卒業を信じられないのだと思う。
「このまま風紀委員相談役として大洗に居座るつもりじゃないだろうな……」
とか、そんな想像をしてしまうのも無理はないだろう。
あまりに現実味がなくて、段々と餞別をやるのすら面倒になってくる。
9 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:29:41.20 ID:Nn2yIfhz0
「麻子〜。卒業式の打ち合わせするから、麻子、カモさんチームのみんな呼んできて。あ、そど子先輩は駄目。在校生だけね」
ぐうたら生徒会室のソファに寝そべっていたら、沙織にお使いを頼まれてしまった。
仕方ない。「わかった」と返事をして起き上がる。
そど子が別というのは、卒業式の出し物の話でもするのだろう。
校内放送を使わないのも、卒業生には内緒で話を進めるためだ。
校舎を出て、てくてく校庭の端へと向かう。
10 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:32:50.54 ID:Nn2yIfhz0
「金春さん」
「んー? あれ、どうしたの?」
風紀委員の群れの中から、金春さんの姿を見つけ声をかける。
「卒業式の打ち合わせだ。生徒会室に来てほしい」
金春さんは「おーけー」と頷くが、近くに相方である後藤さんの姿が見当たらない。
「後藤さんは?」
「あそこ」
金春さんはそう言って、すっと腕を上げる。
彼女の指さす先には、そど子に見守られながら、風紀委員の集団の前でわたわたと口を動かす後藤さんの姿があった。
11 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:34:43.15 ID:Nn2yIfhz0
「何をしてるんだ」
「風紀委員のみんなに指示を出してるの。ゴモヨ、風紀委員長だからね」
あぁ、そうか、そど子はあくまで引退した身だからな。
今は後藤さんが風紀委員長として指揮を執る立場なのだった。
「いまは席を外すのは難しいか」
「そだね。私一人でいい?」
「それでお願いする」
金春さんと連れ立って、私は風紀委員の集会場を離れた。
12 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:38:57.35 ID:Nn2yIfhz0
生徒会室へ向かう道中。
「金春さん。少し訊きたいことがある」
そう切り出すと、金春さんは「なに?」と短く応えた。
ふと思えば、金春さんと二人きりというのはこれが初めてのことだった。
いつもはそど子や後藤さんが傍にいるからな。
同学年の彼女らより、学年の違うそど子と話す機会の方が多いというのは、考えてみればおかしなものだ。
「そど子のことなんだが、風紀委員は、なにかあいつに餞別を用意しているのか」
「そりゃあね。卒業式の日に花束渡したりとか……いろいろ考えてるよ」
「ということは、やっぱりそど子は卒業するんだな」
「うん、するよ?」
金春さんは『何をおかしなことを』とでも言いたげな表情で返す。
13 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:40:22.67 ID:Nn2yIfhz0
「しかし、あまり卒業する様子を見せないだろう」
「そうかな? きちんと引き継ぎとかしてくれてるよ」
金春さんは平然と口にする。
私にとっては驚愕の事実だ。
「引き継ぎ? そど子が?」
「うん。そど子はあの性格だし、面倒見いいからね。自分がいなくなっても風紀委員が回るように指導してくれてる」
そう言って、金春さんは緩く口角を上げた。
彼女の表情に嘘をついている様子はない。
そもそも嘘をつく意味もない。
私の知らないだけで、そど子は卒業の準備を進めていたのだ。
「あいつもやることはやっていたんだな」
「まあね。そりゃあ変なところも多いけど、尊敬できる先輩だと思うよ」
14 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:42:07.91 ID:Nn2yIfhz0
確かに言われてみれば、そど子が後輩教育に勤しむ姿はありありと思い浮かんだ。
引退する自覚がないのではないかと邪推してしまって、若干の申し訳なさを抱くが――、
「しかし、引退した身の割に、毎朝、先頭切って校門の前には立っているだろう。あれはなんだ」
「あー、あれ、ホントなんだろうね。ゴモヨとか私とか――他の風紀委員だけでやれる仕事なのに」
「金春さんにもわからないのか」
一つ前へ進んだかと思ったのに、疑問が残ってしまった。
せめて金春さんから疑問のヒントを得ようとしたのだが、そこで生徒会室へと到着、会話は打ち切りとなった。
15 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:45:01.54 ID:Nn2yIfhz0
「冷泉さんっ! これで連続遅刻記録58日目よっ! まったく、毎日きまって遅刻する生徒なんて貴女くらいなんだから!」
「そど子……」
眠気で頭が回らないが、今日もまた朝からそど子の顔を眺めることになっているのは、私が遅刻したからだった。
威勢良く甲高いそど子の声は、寝起きの脳みそにぐさぐさ突き刺さる。
「な、なによ、そんなにじっと見つめてっ」
「……眠い」
「し、知らないわよ、そんなこと! 早寝早起きは生活の基本よっ! ちゃんと起きなさい!」
そど子の反応はもっともで、そりゃあそう返すしかないだろうと自分でも思う。
けれど頭が回らないものは回らないのだから仕方がない。
16 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:47:22.87 ID:Nn2yIfhz0
「そど子、どうしてここにいるんだ」
とりあえず脳裏に浮かんだ言葉をそのまま口にしてみる。
昨日からずっと考えていたことだ。
「突然なによ。決まってるじゃない! 遅刻した生徒を取り締まるためよ!」
「取り締まりって、何をするんだ、具体的に」
「こうしてお説教して、二度と遅刻なんかしないようになってもらうの! 冷泉さん、そんなこともわかってなかったのっ?」
17 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:50:16.46 ID:Nn2yIfhz0
「……そど子に説教されたら遅刻しなくなるものなのか」
失言だったらしく、私の言葉にそど子は「はあっ!?」と、より一層、語気を強めた。
「私が何のためにここまでやってると思ってるのっ!?」
何のために……。
「それは自分で言っただろう。遅刻した生徒を取り締まるためなんじゃないのか」
そこでそど子は、一瞬、口を噤んだ。
しかしすぐに勢いを取り戻し叫ぶ。
「もう、いいから、校舎に入りなさいっ!」
……意味がわからない。
が、まぁそど子の気が短いのは今に始まったことじゃないか。
私は「はいはい」と大人しく従い、そど子の隣を横切る。
18 :
◆JeBzCbkT3k
[saga]:2018/11/14(水) 19:52:12.08 ID:Nn2yIfhz0
そど子は私が通り過ぎると校門の扉を閉めた。
その様子は、まるで私を待っていたかのようだった。
ふらふらとした体を泥のように引きずり校舎の中へ。
ホームルームの終了した教室へと入り、机へ倒れ込む。
そしてやがてチャイムが鳴り、授業が始まった。
寝ぼけていた私の脳みそもようやく覚醒し出して、そこでようやく、「あぁ」と勘付いた。
そど子の言葉を整理してみればすぐにわかることだった。
『毎日遅刻する生徒なんて貴女くらい』
『遅刻した生徒を取り締まるために立ってる』
そして、『何のためにここまでやってると思ってる』とまで言うのならば、答えは明白だ。
「なるほど、私か」
まるで、ではない。
そど子は、毎日、校門で私を待っていたのだ。
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