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【バンドリ】今井リサ「友よ、末永い希望を」
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22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:20:38.35 ID:/398vgmN0
リサ「ロゼリアの時もそうだったし、もっと前……それこそ、出会った時からずっと、ずっと」
紗夜「…………」
リサ「でも、でもさ。気付いたんだ。気付いちゃったんだ。友希那が幸せそうで、元気そうで……遠い街で、ひとりだってやっていけるんだって姿見てさ」
リサ「アタシが本当にしたかったことって、友希那のためじゃないんだ」
リサ「アタシはただ、アタシが友希那に認められたくて、必要とされたくて、ずっと、ずっと、アタシを押し付けてただけなんだって」
紗夜「…………」
リサ「そう、気付いちゃったからさ、じゃあ、アタシってなんなのって」
リサ「今までずっと自分のためだけにお節介焼いてきてさ、友希那のことだって考えた振りをして、本当は自分のことばっか考えてたのにさ」
紗夜「…………」
リサ(声が震えている。それをまるで他人事みたいに感じていた。紗夜はそれでも何も言わない)
リサ「じぶっ、自分勝手な善意を押し付けて……友希那を傷付けて、ロゼリアだって台無しにしちゃって……」
リサ「アタシなんて最初から、っ、いない方が良かったんじゃないかって……っ」
リサ「アタシさえいなきゃ、ロゼリアだってきっと無くならなくって、友希那だって紗夜だって燐子だってあこだって、今も笑い合ってさ……っ」
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:21:50.99 ID:/398vgmN0
紗夜「今井さん」
リサ(黙ったままだった紗夜が言葉を発する。俯かせていた顔を起こして、雫が溜まった瞳を紗夜に向ける。滲んだ視界からだと紗夜がどんな表情をしているかよく見えなかった)
紗夜「先に謝ります。ごめんなさい」
リサ「え……?」
紗夜「……っ!」
リサ(要領を得ない謝罪のあと、紗夜の手がスッと伸びてきた。何をするんだろう、と思った後に、頬に熱い衝撃があった。パン、と小気味のいい音がファミレスの喧騒に小さく溶けていく)
リサ(……ちょっとしてから、紗夜に顔をはたかれたんだと分かった)
紗夜「私は今、怒っています。何故だか分かりますか?」
リサ「……アタシが――」
紗夜「悪い、いなければよかった。そう言ったらもう一回はたくわよ。次は謝罪も手加減もしないわ」
リサ「…………」
紗夜「あまり私も人のことは言えない。それは分かっているけれど、言わせていただきます」
紗夜「あなたはバカなの?」
リサ「ばっ……!?」
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:23:20.57 ID:/398vgmN0
紗夜「口答えは結構よ。バカに決まっているわ。ええ、バカ以外の何物でもない」
リサ「な、なんで……」
紗夜「考えすぎです」
リサ(先ほどと打って変わって、アタシの言葉に聞く耳をもたずに紗夜は言葉を続ける)
紗夜「つまり今井さんは、今井さんだけのせいでロゼリアもなくなったし湊さんも傷付いたし私や白金さんや宇田川さんにも迷惑をかけたと、全部自分が悪いから最初から今井さん自身がいなければ良かったなんていうバカで傲慢な主張をしたいのよね?」
リサ「そっ」
紗夜「ええ、それならやっぱり今井さんはバカね。それも救いようのない類のバカよ」
リサ「ば、バカってそんな」
紗夜「冷静になりなさい。頭を冷やして考えなさい」
リサ「……何を」
紗夜「あなたの言うそれは、私たちが今も大切にしているロゼリアという場所を否定する言葉よ」
紗夜「それだけじゃない。湊さんも白金さんも宇田川さんも私も、全員を否定してコケにするような言葉にもなるわ」
リサ「…………」
紗夜「少なくとも、私は今井さんがいなければロゼリアというバンドは存在しなかったと思っているわ。仮に存在していたとしても取るに足らない下らないバンドという認識のまま、すぐに辞めていたわ」
リサ「そんなの」
紗夜「分からない、とでも言いたいのかしら? 分からないならどうしてあなたは決めつけるの。今井リサがいないロゼリアは今よりももっと素晴らしいものだった、なんて」
リサ「…………」
紗夜「あなたが勝手に決めつけるなら私も勝手に決めつけるわ。今井さんのいないロゼリアなんて存在する意味もない下らないバンドだったと」
紗夜「納得がいきませんか? それなら白金さんと宇田川さんにも聞くわよ。彼女たちも絶対に私と同意見だから、多数決なら3対1であなたの負けです」
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:25:15.05 ID:/398vgmN0
リサ「でも……」
紗夜「……湊さんだってきっと同じことを言うわよ」
リサ「…………」
紗夜「今井さんと湊さんの付き合いの深さと長さは、私たちでは到底及ばない。だからあなたたちの間でしか分からない気持ちというものもあるのかもしれない」
紗夜「でも、僅かな時間であったかもしれないけれど、私や白金さんや宇田川さんだって、あなたたちと大切な日々を一緒に過ごしたのは紛れもない事実よ」
紗夜「だから湊さんだって同じ気持ちでいると私は信じています」
紗夜「それと……あの日に選択を誤ってしまったのも事実。その結果ロゼリアというバンドがなくなってしまったのも事実」
紗夜「その責任がきっと私たち全員に、それぞれ何かしらの形であったということも事実」
紗夜「誰が悪いとか、そういう話じゃない。1人で責任を感じていた私にそう言ってくれたのは今井さんたちです」
紗夜「……今度は私からその言葉を贈るわ」
紗夜「今井さんだけのせいじゃない。1人で全部を抱え込むなんてバカな真似と……今井さんがいなければ、なんて、そんな悲しい話は二度としないで」
紗夜「今だって私は……あなたをかけがえのない大切な友人の1人だと思っているんだから」
リサ「……うん。ごめん、紗夜」
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:25:47.06 ID:/398vgmN0
リサ(瞳に浮かんでいたものがやっと乾いてくれて、視界がクリアになる)
リサ(紗夜の目も少し赤くなっていることにそこで気付いて、申し訳なさと一緒に大きな嬉しさが胸の中いっぱいに広がる)
リサ(それからちょっと大きく息を吸って吐いて、先ほどまでの自分を振り返ってみる)
リサ(……ああ、やっぱり過ぎた憂鬱は悲劇じゃなくて喜劇的だ)
リサ(もうセピア色に染まりかけた記憶。いつかにアタシが急なバイトで行けなくなったスタジオ練習のことを思い出す)
リサ(あの時、紗夜も、あこも、燐子も、そして友希那も……アタシはロゼリアに必要だって言ってくれていた。その大切な思い出すら忘れてしまっていた)
リサ(紗夜の言う通りだ。アタシって……本当にバカだ)
リサ「ごめんっていうか、ありがとね」
紗夜「いえ。こちらこそ頬を張ってしまってすいませんでした」
リサ「ううん、おかげで目が覚めた……と思う」
紗夜「そう。それは重畳ね」
リサ「うん」
リサ(頷いて、テーブルナプキンで目元を拭う。紗夜はフイと顔を背け、しばらく天井の一角を睨みつける。それから大きく息を吸って、少しだけ震えた息を吐き出した。それからまたアタシに、いつもの凛とした顔を向ける)
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:27:33.92 ID:/398vgmN0
紗夜「それで……今井さんはこれからどうするのかしら」
リサ「どうする、っていうと……」
紗夜「湊さんを見つけて、バカみたいに塞ぎ込んで……それでおしまいなんですか」
リサ「…………」
リサ(紗夜はジッとアタシを見つめる。その瞳を真正面から受けて考える)
リサ(アタシはこれからどうするのか)
リサ(千載一遇、砂漠で落としたコンタクトレンズを見つけたような、友希那との偶然の再会)
リサ(もちろんまたロゼリアがあった時のように話がしたいし、あの日に間違えた選択肢を少しでも間違いじゃなかったって思えるようにしたい)
リサ(けど……正直に言えば怖い)
リサ(紗夜はああ言ってくれたけど、やっぱりまだ怖い。もしも友希那に拒絶されたら、と考えてしまうと足が竦む思いだ)
紗夜「もしも今日があの日の続きなら」
リサ「え?」
リサ(意気地なく逡巡していると、紗夜がポツリと言葉を紡ぎだす)
紗夜「もしも今日があの日の続きなら……今度は今井さんが思うようにやってみればいいのではないか、と思うわ」
リサ「アタシが思うように……?」
紗夜「ええ。今井さんが今井さんの思うように、やりたいように。……寂しいけれど、もうロゼリアはない。それなら私たちのことは気にしなくたっていいのだから」
リサ「……アタシのしたいように」
リサ(したいように。それなら、3年前のあの日からずっと答えは出ている)
リサ(友希那のためとかアタシのためだとか、そういうのは無視するとして)
リサ(そういった面倒なことを全部剥がして捨てていった先にあるのは、友希那とまた笑い合いたいという気持ちだ。だから……)
リサ「アタシは……友希那ともう一度向き合いたい」
リサ「あの日のことを謝って、それで、虫が良い話だけど、また友希那と一緒に笑いたい」
紗夜「では、きっとそれが一番正解に近い答えでしょう」
リサ(アタシの言葉を聞いて、紗夜は優しい笑みを浮かべて頷いてくれた。その表情の中には、今まで背負っていた重荷をようやく下ろせたような、そんな感情が混ざっているような気がした)
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:28:52.93 ID:/398vgmN0
リサ「あー、でも、ちょっと勇気がないっていうかなんていうか……」
紗夜「この期に及んでまだそんなことを?」
リサ(その優しい笑顔も救われたような感情も、アタシが続けた言葉を聞いてすぐに引っ込んで、見慣れた呆れ顔に打って変わった)
リサ「い、いやいや、紗夜だって同じ立場なら絶対悩むでしょ!?」
紗夜「……まぁ、そうね。否定はしないわ」
リサ「でしょ? うーん、どうしよう……」
紗夜「それなら、ライブに招待したらどうかしら。今井さんは大学でもバンドをやっているでしょう?」
リサ「ん、まぁ……コピーバンドだけど」
紗夜「であれば、湊さんをライブに誘ってみて、歌に気持ちを乗せてみるのもいいのではないかしら。焦って空回りするより、まずは誰かの言葉を借りて気持ちを伝えるのもひとつの手段だと思うわよ」
紗夜「面と向かっていきなり色々と話すのは無理だとしても、誘いをかけるだけならそこまで気負わないでしょうし」
リサ「そっか……」
リサ(確かに言われてみればその通りだ。いま友希那と面と向かってアレコレ話したら……先ほどまでじゃないにしても、テンパって変なことを口走る可能性は100%に近い)
リサ(それならロゼリアでそうしてたように、言葉ではなく音楽でアタシの気持ちを伝える方がずっといいだろう)
リサ「うん、そうだね。そうしてみるよ」
リサ「あ、そしたら紗夜たちも来る?」
紗夜「遠慮しておきます。物事には順序がありますから。今井さんより先に湊さんと話す、というのは恐れ多いわ」
リサ「…………」
リサ(気を遣ってくれている、というのは分かっている。けれど紗夜にしては珍しい軽口が出てきて、それがちょっとおかしくて笑ってしまった)
リサ(そんなアタシを見て、紗夜は少し気恥しいような顔をして声を出す)
紗夜「不器用な私にはこういう物言いしか出来ないのよ」
リサ「ううん。ありがとね、紗夜」
リサ(言葉のあと、フイと背けられた横顔に向かって、アタシはお礼を言う)
紗夜「いいえ。友人のためであれば当然のことですから」
リサ(そしてとても優しい親友は、生真面目な口調を作ってそんな返事をくれるのだった)
……………………
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:29:24.32 ID:/398vgmN0
リサ(決心してからは早かった)
リサ(紗夜にもう一度お礼を言ってから別れ、一度家に帰って準備をしてから大学へ向かう)
リサ(そして軽音楽サークルのバンドメンバーに対して、多分初めてのワガママを言った)
リサ(どうしてもあそこの近くでライブがしたい。そこでどうしてもやりたいことがある、というワガママ)
リサ(大学から友希那を見つけた場所までは3時間くらいかかるだろう。縁もゆかりもない地方都市でのライブ)
リサ(やっぱり断られちゃうかな。そう思ったけど、バンドのみんなは二つ返事でオッケーと言ってくれた)
リサ(詳しい理由も聞かずにあっさりと頷いてくれたものだから、逆にアタシの方が「え、オッケーなの?」と驚いてしまった)
「リサちゃんはいつも助けてくれるし、断る理由がないよ」
リサ(そして口を揃えて返ってきた言葉にちょっとだけ泣きそうになった)
リサ(お節介。大きなお世話。みんなに対してもそうなんじゃないかと思っていたことを否定してもらえたから)
リサ(ライブの日程を決めて、友希那がいた場所の近くのライブハウスをすぐに押さえる)
リサ(それからどの曲をやろうか、という話の中で、もう一回だけアタシのワガママを聞いてもらった)
リサ(これで残るライブの準備は練習をするだけ)
リサ(……あとはアタシと友希那の問題だ)
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:30:02.91 ID:/398vgmN0
リサ(大学から家に帰って、どうするべきか、どうやって誘うべきか、頭を悩ませた)
リサ(ライブに来てほしい。そう伝えるには必ず一度は友希那と顔を合わせなければいけない)
リサ(もうスマホで連絡はとれない。知らないうちに機種を変えていた友希那の電話番号もアドレスも、みんな知らないから)
リサ(だからまた直接会いに行くしかない)
リサ(紗夜は「そこまで気負わないでしょう」と言っていたけど、友希那と面と向かうこと自体がまだ怖い。そのうえ誘い文句をかけなければいけないともなると、やっぱり感情が高ぶっておかしなことになりそうだ)
リサ(それなら……と一つの案を思い付いたのは午前2時。自分で作った歌詞を書き留めたノートをパラパラ捲っているときだった)
リサ(アタシの気持ちを文字に起こそう。そして友希那に伝えたいことを手紙にして、それと一緒に予約を入れたライブハウスから送られてくる招待券を渡そう)
リサ(そうすれば話すことは最低限で済むし、きっと意気地のないアタシでもちゃんと出来るはずだ)
リサ(そうと決まれば、と早速近所のコンビニへレターセットを買いに行き、ああでもないこうでもないとまた文面に頭を悩ませ、手紙を書き終えたのが午前5時)
リサ(新聞配達のバイクのエンジン音が聞こえて、なんだかんだもう24時間以上起きていたことに気付く)
リサ(すると途端に眠気とダルさが襲ってきて、アタシはパタリとベッドに倒れて、そのまま大学を2日連続でサボることになるのだった)
……………………
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:31:12.56 ID:/398vgmN0
リサ(週末。日曜日。余命いくばくもない秋の空は高々と晴れ渡っていた)
リサ(太陽の陽射しは暖かいけど、バイクで走れば身を切る風は冷たい)
リサ(止まると暑いけれど走ると寒い。服装を朝晩に合わせると日中は汗をかき、日中に合わせると朝晩は凍える。ちょうどいい塩梅を模索するのが大変な時期だ)
リサ(こういう時は寒いに合わせるのがいい、と何かの雑誌で読んだような気がする)
リサ(確かにそうだ。走っている時が一番気持ちいいのだから、そこでの不便利をなくすのが最善だろう)
リサ(着こんだジャケットだって脱いでしまえば……嵩張るのは無視するとして、暑いのだって解決するし)
リサ(そう思って厚手のジャケットを着こんだアタシは、東に向かってバイクを走らせる)
リサ(軽排気量の単気筒エンジン。最高速度なんてたかが知れているけれど、そもそも高速にも乗れない原付二種だ。車体の軽さと低速域での加速の方が重要だろうし、アタシにはとっては十分すぎるパワーがある)
リサ(最初は少し怖かった公道にも、シーソーペダルというらしいシフト操作にも、気付けばずいぶん慣れたものだ。手足のよう……は言い過ぎだけれど、大体自分の思う通りにバイクを動かせるようになっていた)
リサ(寒い日はエンジンの機嫌が悪くてなかなか始動しないこともあったし、夏に渋滞にハマってオーバーヒートしかけて、やむを得ずに車の間を縫ってコンビニの駐車場を目指したこともあった)
リサ(そんな風にこのバイクと一緒に友希那を探して、偶然に偶然が重なって、友希那を見つけることができた)
リサ(思い返せば2年以上の付き合いだ。この子はもう半ば相棒と言ってもいいのかもしれない)
リサ(そんなことを考えながら、マップアプリにピン付けした公園を目指す)
リサ(本当はコンビニに直接停めればいいんだけど、アタシにはまだもう少しだけ心の準備が必要だった)
リサ(あの銀杏並木を歩いて、少しでも気持ちを落ち着かせてから友希那と対面したかった)
リサ(色々な言葉を書いては消して、消しては書き連ねた便箋と、ライブチケットの入った封筒)
リサ(これを手渡すとき、どんな顔をすればいいのか。そもそも友希那がいなかったらどうしようか)
リサ(色々と不安要素は多いけれど、それでも進もう)
リサ(アタシはまた友希那と話がしたいし、出来ることなら一緒に笑い合いたいから)
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:32:00.40 ID:/398vgmN0
リサ(約2時間半のツーリングを終えて、アタシは公園に辿り着く)
リサ(この前と同じようにバイクを駐車場に停めて、目的地へ向かって歩を進める)
リサ(今日はいつも以上に早く時間が過ぎているような気がした)
リサ「あ、そっか」
リサ(なんでだろ、と少し考えて、すぐに合点がいった)
リサ(目標がある、明確な目的地の決められたツーリングはこれが初めてだった)
リサ(だからだろう。進むべき道に迷うこともないし、アタシの足もしっかりと地面を踏んで、前だと思える方へ歩めている)
リサ(今のアタシと先週のアタシを比べると、その明暗の差に可笑しな気持ちになってちょっと笑ってしまった)
リサ(ああ、やっぱり過ぎた憂鬱は喜劇的だ)
リサ(この短期間でもそう思えるのだ。だからきっと、あの日の涙や後悔や間違いだって笑い話に出来るはずだ)
リサ(友希那と、みんなと、またあの陽だまりのような日々を送れるはずなんだ)
リサ(やっぱり公園から歩いて正解だった。少しだけ心がちゃんと整理できた気がする)
リサ(そう思ったところで、目的のコンビニが見えた)
リサ(少し深呼吸をして、たすき掛けしているボディバッグから封筒を取り出す)
リサ(そしてお店の入り口に立って、手押しの扉を開いた)
「いらっしゃいませー!」
リサ(すぐにレジから明るい声が飛んできた。そちらにチラリと視線をやると、この前友希那と一緒に歩いていた女の子がレジに立っていた)
リサ(店内を見回す。友希那の姿も、アタシ以外のお客さんの姿もない)
リサ(日曜日の午前11時過ぎ。駐車場には車が1台も止まっていなかったし、今は暇な時間なんだろう。やっぱり観光施設の近くじゃないと休日はどこのコンビニも暇なんだな、と思う)
リサ(それはさておき、友希那がいないのは可能性として考えてはいた。いなかったら出直そうという気持ちでいたけれど、友希那に親し気に笑いかけていたあの子がいるのであれば話は別だ)
リサ(ちょうど店内にはアタシとあの子だけ。もしかしたらバックヤードに友希那か他の従業員の人がいるかもだけど、いたらいたでそれはそれでいい)
リサ(そう思って、アタシはレジに足を運んでその子に話しかける)
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:32:48.07 ID:/398vgmN0
リサ「あの」
「はい、なんでしょう?」
リサ(ぱっちりとした大きな瞳と短く切り揃えられたフワフワの髪の毛。キョトンとあどけなく首を傾げた仕草に、人懐っこそうな女の子だという印象を受けた)
リサ(その子に向かって、アタシは言葉を投げる)
リサ「友希那……います?」
「え、友希那さんですか?」
リサ(それを聞いて、女の子は少し訝しげな表情になる)
リサ(それもそうか。いきなりそんなことを言われたって戸惑うだろうし、怪しまれるだけだ。これでアタシが男の人だったら通報されていたかもしれない)
「今日はお休みですけど……」
リサ(それは「友希那はこのお店で間違いなく働いていますよ」と言っているのと変わりない。警戒心が薄いというか、なんというか)
リサ(……多分、そんな女の子だからこそ、友希那も柔らかい雰囲気で対応しているんだろう)
リサ「そうなんだ。えぇっと、いきなりで何言ってるんだって思うかもだけど……これを友希那に渡しておいてもらえないかな」
「これ……手紙?」
リサ「今井リサから、って」
「はぁ、今井リサさんから友希那さんへ……」
リサ「うん。幼馴染、なんだ」
「幼馴染さんですか? あ、じゃあもしかして、前に友希那さんが組んでたっていうバンドの……」
リサ「そうだよ。友希那はボーカルで、アタシはベース……だったんだ」
「わーそうなんですね! 友希那さんからちょっとだけ話聞いてますよ! 名前までは話してくれなかったですけど!」
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:33:22.21 ID:/398vgmN0
リサ(友希那の幼馴染、と分かると、疑っていた表情もどこかへ飛んでいき、人懐っこい笑顔がパッと弾けた)
リサ(それだけ友希那を慕っているんだろうけど、本当に警戒心が薄いというか純粋すぎるというか……放っておけない子だ)
リサ(友希那もこんな女の子に懐かれるなら、絶対嫌な気にならないだろうな)
リサ「そうなんだ……。いい話なら、いいんだけどね」
「んー、どうでしょう? 友希那さん、なんだかいつも嬉しいような寂しいような悲しいような、よく分からない顔で話すので……」
リサ「……そっか」
「あっ、友希那さんがいる日、教えましょうか?」
リサ「ううん、アタシが勝手に来ただけだからそれは大丈夫だよ。悪いけど、その手紙だけ渡しておいてくれないかな?」
「はーい、承りました! お世話になってる友希那さん宛てですからね、何があろうと死ぬ気で渡します!」
リサ「そ、そこまで気負わなくてもいいんじゃないかな……?」
「いえいえ! バイトにバンドのこととか、友希那さんには頭が上がらない思いですから!」
リサ「バンド……キミもバンドやってるんだ?」
「はい!」
リサ「そっか。……じゃあ、その中にさ、アタシたちが来週やるライブのチケットがあるんだ」
「そうなんですか?」
リサ「うん。良かったら……友希那と一緒に見に来てよ。2人までタダで招待できるからさ」
リサ(卑怯な手だな、と思いながらそんな誘いの言葉をかける)
リサ(きっとこの子に嘆願されたら友希那だって足を運ばざるを得ないだろうし、それでもなお来れないようなら……その時は、そういうことだって……泣いちゃうかもしれないけど、多分割り切れるから)
リサ(友希那がこんなアタシにはとっくに愛想を尽かしていて、もう二度と顔も見たくないっていうなら……その方が傷付かずに済むから)
「ほんとですか!? わー、ありがとうございます!」
リサ(そんなアタシの打算的な気持ちなんて知らずに、この子は明るい笑顔でお礼を言う)
リサ(一点の曇りもないそれに少し目が眩みそうだった)
……………………
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:34:07.16 ID:/398vgmN0
リサ(過ぎる景色、時間は日めくり)
リサ(やるべきことを決めて、それに向かって邁進すると時の流れはあっという間だ)
リサ(友希那とあの子へ誘いはかけた。2人が来てくれるかはまだ不透明だけど、みっともない演奏を見せないようにと練習に励む)
リサ(そうしているうちに、気付いたらもうライブ当日の土曜日になっていた)
リサ(大学でバンドメンバーと待ち合わせて、みんなで一緒に電車に乗り込む)
リサ(そして過ぎていく車窓からの風景を眺めながら、この一週間を振り返る)
リサ(大学から片道2時間半の駅近くのハコでのライブ。交通費だってばかにならないし、時間だってかかる面倒な場所なのに「ツアー気分であっちに1泊しちゃう?」「しちゃうしちゃう!」なんてノリノリで盛り上がるバンドメンバー)
リサ(「今井さんなら絶対に大丈夫です。陰ながら応援していますよ」という紗夜のメッセージ)
リサ(それらを見てしみじみと思ったのは、アタシがいかに人間関係に恵まれているかということ)
リサ(みんなみんな、アタシなんかにはもったいないくらいに良い人ばかりだ)
リサ(そう思うけれど、そんなことをまた口にしようものなら「やっぱりあなたはバカね」と紗夜にビンタされるような気がしたから言わないことにする)
リサ(代わりに口にする言葉はきっと『ありがとう』が一番だろう)
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:34:37.78 ID:/398vgmN0
リサ(『ありがとう』)
リサ(アタシはそのお礼の言葉に今までたくさん助けられてきたんだ)
リサ(昔から人に世話を焼くのが好きだ)
リサ(そして感謝されることが嬉しい。感謝してくれる人がいて嬉しい。アタシを認めてくれたって気持ちになれて、それが幸せだった)
リサ(確かにこれは自分自身のための行動なのかもしれない)
リサ(それならきっと、アタシはみんなのおかげで生きているんだろう)
リサ(アタシは到底ひとりぼっちにはなれない。ひとりぼっちになったら、そのまま寂しさに溺れて死んでいってしまう)
リサ(そう思うと、友希那はとても強い人なんだと改めて思い知らされる)
リサ(アタシがアタシの都合で拒絶して、ひとりになってもそれでも前を向いて歩いていた)
リサ(出来ることなら、そんな強い幼馴染の隣に並んで、また一緒に歩きたい)
リサ(それが出来るようになるかは分からないけれど、でも、今はそれは置いておこう)
リサ(友希那に伝えたいことがある。それだけを考えて、目の前のライブに臨もう)
……………………
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:35:17.36 ID:/398vgmN0
リサ(ライブハウスに到着して、控室で準備を始める)
リサ(東京からは離れたところだけど、大体のことは一緒だ)
リサ(ワンマンライブじゃないから、今日同じステージに立つ他のバンドの人と簡単に挨拶を交わして、順々にリハーサルを行う)
リサ(それからアタシたちに割り当てられた時間を確認して、セットリストの最終確認)
リサ(今日は4つのバンドがライブステージに立つようで、アタシたちの出番はトリだった)
リサ(懐かしいCiRCLEと比べれば小規模なライブハウス)
リサ(けど、「近くにあんまりライブハウスがないからけっこう人が来るんだよね」と、控室で話した近くの大学に通うバンドの女の子が言っていた)
リサ(コピーバンドにオリジナルバンド、老若男女問わずにこの近辺の色々な人たちがここでライブをするらしい)
リサ(そんなライブハウスで土曜日にステージが空いていたのは幸運だった)
リサ(まさに偶然の積み重ねで得られた千載一遇の好機だ)
リサ(色々なものが複雑に絡み合って、友希那の姿を再び見つけることができて、こういう形ではあるけど向き合おうと思えるようになった)
リサ(だから頑張らないと)
リサ(……でも、そう思う中で、やっぱりまだ不安な気持ちがあるのも事実だった)
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:36:40.72 ID:/398vgmN0
◆
リサ(ライブハウスが開場され、お客さんが入ってくる)
リサ(最初のバンドのステージが始まるころには、満員とは言えないけれど、オールスタンディングの観客席は自由に歩き回るのが難しい程度に人で埋まっていた)
リサ(控室のモニターにその様子が映し出されていたけれど、アタシは少しだけ視線をやってすぐに目を逸らした)
リサ(もしも友希那がいなかったら。来なかったら)
リサ(何か予定があった、バイトのシフトだった……ということもあるだろうけど、でも、その根底にあるのは拒絶の意思なんだとアタシは感じるだろう)
リサ(もう二度と、友希那はアタシと話をするつもりはない。つまりはそういうこと)
リサ(だから怖かった。紗夜はファミレスで「湊さんも同じ気持ちだ」と言ってくれたけど、そんな友希那に対して勝手な別れを告げたのはアタシだ)
リサ(虫のいい話だろう。ボロボロに泣きながらみっともなく別れを告げておいて、今さらまた昔のように戻ろうだなんて)
リサ(そう思う方が自然だ。だから怖い。友希那と……現実と向き合うことが怖い)
リサ(ライブ前の緊張とは違った緊張に身体が少し震える)
リサ(そうしている間にも時間はどんどん過ぎていく。いつの間にか3つ目のバンドの出番になっていて、気が付けばそのバンドも最後の曲を演奏していた)
リサ(メンバーに促されて、アタシも深呼吸をしてからベースを担ぐ)
リサ(そして舞台袖にたどり着いたところで、前のバンドの演奏も終わったようだ。次はとうとうアタシたちの番)
リサ(演奏を終え、興奮した面持ちの人たちとすれ違う)
リサ(「君たちも頑張ってね!」と声をかけられた。それに「ありがとう」と硬い声で返す)
リサ(それからまずアタシたちのバンドのギターボーカルがステージへ足を進めた)
リサ(それにドラム、そしてキーボードと続く。最後はアタシだ)
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:37:32.89 ID:/398vgmN0
リサ(震える足に力を入れて、ステージへ踏み込む)
リサ(舞台上を強く照らす照明が熱い。観客席にもさっきのバンドの演奏の熱が残っているようだ)
リサ(縁もゆかりもないアタシたちを大きな拍手で迎えてくれる)
リサ(だけど、やっぱりアタシは俯いたままだった)
リサ(怖い)
リサ(観客席を見るのが怖い)
リサ(怖くて怖くて仕方がない)
リサ(ずっと考えていたことがまったくの虚勢だったんだと思い知らされる)
リサ(友希那がアタシを拒絶するならそれでいい?)
リサ(嘘だよ、それは。そんなのはただの強がりなんだよ)
リサ(嫌だよ。拒絶されたくない。友希那と離れたくない。嫌だ。それでいいわけないよ。もう会えないと思ったのに会えたんだから、勝手だって知ってるけどまた友希那と笑い合いたいよ)
リサ(だから怖くて怖くてしょうがないんだ。光の向こう側にあるのがより深い闇なのか、暖かい陽だまりなのか。それを知るのが怖い。手が震えて止まらない)
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:38:43.30 ID:/398vgmN0
「リサさーん!」
リサ(手どころか全身が震えているのを痛いほど実感していたら、声が聞こえた)
リサ(どこかで聞いた声だ。これは……そう、先週、友希那のコンビニで聞いた声)
リサ(俯かせていた視線を少し上げると、最前列の柵のところにあの子がいた)
リサ(やっぱり曇りがない、どこまでも眩しい笑顔でアタシに手を振る)
リサ(それから客席の後ろの方を指さした)
リサ(その先へ、恐る恐る、視線を動かす)
リサ(最前列から、中列、最後尾へ。そしてそのどん詰まり、壁に背をあずける人物と目が合った)
リサ(腰のあたりまでかかるストレートの髪の毛。明るい色の瞳。記憶の中より少し痩せた気がする立ち姿)
リサ「友希那……」
リサ(あの日に別れてしまってから、何度も何度も顔を見合わせることを夢に見続けた、誰よりも大切な幼馴染がそこにいてくれた)
湊友希那「…………」
リサ(友希那は少し迷うような、困ったような笑顔を浮かべた後、小さく手を振ってくれた)
リサ(それから口が動く)
リサ(『頑張って』)
リサ(そう言ってくれたような気がした)
リサ(だからアタシはそれに強く頷き返した)
「リサちゃん、大丈夫?」
リサ「うん、大丈夫」
リサ(隣に立つギターボーカルの友人に声をかけられる。それにもアタシは強く返事をした)
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:39:12.78 ID:/398vgmN0
リサ(……つくづく、アタシは現金な人間だと思う)
リサ(あんなに怖がっていた。あんなに震えていた)
リサ(それなのに、ただ友希那がそこにいる)
リサ(アタシを見て、アタシに言葉をくれる)
リサ(それだけでもう何も怖いものなんてないし、身体だって全然震えない)
リサ(やっぱりアタシは打算的でずる賢くて、誰かのためじゃなく自分のために人に優しくする人間なのかもしれない)
リサ(でも、それでいいや)
リサ(友希那がそれで笑ってくれるなら、アタシのことを見てくれているなら、もうそれだけでよかった)
「よっし、それじゃあ行きましょうか!」
リサ(ステージの上で、ドラムの友人がみんなに声をかける)
リサ(それに頷き返して、アタシたちの演奏は始まった)
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:40:17.90 ID:/398vgmN0
リサ(コピーバンド。誰かの言葉を借りて、自分のために吐き出す音楽)
リサ(この歌が好きだ。この歌詞が好きだ。このメロディーが好きだ)
リサ(その好きなものたちに自分の気持ちを乗せて、誰かに何かを伝えるための音楽)
リサ(本来はそんな高尚なものでも意味があるものでもないのかもしれない。だけど、今の、今日のアタシはそうだ)
リサ(1曲、2曲、3曲、4曲、5曲。続けざまに誰かが作った音楽を借りたアタシたちは、いよいよ最後の曲を演奏することになる)
リサ(アタシがどうしても、とワガママを言った曲だ)
「ふぅー……それでは次が最後の曲ですっ! この曲は、ベースのリサちゃんが歌いまーす!」
リサ(ギターボーカルの明るい声が会場に響くと、視線が一気にアタシに集まる)
リサ(友希那もあの子も、ジッとアタシを見つめる)
リサ「あー、はい、アタシが歌います」
リサ(集まった視線にちょっとだけドギマギしながら、アタシはスタンドマイクに向かって言葉を放つ)
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:41:49.92 ID:/398vgmN0
リサ「ほんと、みんなには今日はアタシのワガママに付き合って貰ったっていうか、そんな身内話になっちゃうんだけど」
リサ(ベースを弾きながら歌うことはロゼリアでもあった。それはパートだったりコーラスだったり、友希那を彩るための僅かなものだった)
リサ(だけど、今日はフルでベースボーカルだ)
リサ「どうしても、言いたいこととか、伝えたいこととか、そういう色んなものがあって……」
リサ(自分の言葉でなければ、その本質の意味は薄いものになってしまうのかもしれない)
リサ(綺麗事ばかりを取り繕った歌詞に意味なんてないのかもしれない。けど……)
リサ「今は自分の言葉だと、なんていうか、絶対ワケ分かんないことになるって思って、だから、その、歌で……少しでも、離れてしまった大切な人に何かが届けばいいなって思います」
リサ(でも、だけど、そうだとしても。アタシは伝えたい気持ちを歌にしたい)
リサ「だから、歌います。『ロングホープ・フィリア』」
リサ(曲名を呟き、ステージへ視線を送る)
リサ(ここにはロゼリアのみんなはもういないけど、こんなアタシのワガママに付き合ってくれる大事な友達がいてくれる)
リサ(観客席へ目を移す。アタシを導いてくれた無邪気なあの子と、ステージと観客席みたいに隔たれ、近いけど遠くに離れてしまった大切な幼馴染がいてくれる)
リサ(地元へ行けば、高校時代を、青春を共にした大切な仲間たちがいる)
リサ(利己的でも、本質はアタシのためでもいい。友希那に、みんなに、アタシの気持ちが少しでも届きますように)
リサ(そんな願いを込めて、アタシは歌を歌う)
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:42:23.36 ID:/398vgmN0
「歩くほどに靴底が汚れていく そんな風に」
「僕らの魂も磨り減れば影ってしまうよ」
「そんな時に思い出して 君が諦められない理由を」
「救ったはずが救われたっけ 握ったつもりが握られた手」
「遍く旅路に光あれ 強さや弱さでは語れないぜ」
「立ち向かうその一歩ずつが 君の勇敢さの勝利だった」
「叫ぶ為に息を吸うように 高く飛ぶ為に助走があって」
「笑う為に僕らは泣いた それを敗北とは言わない」
「ロングホープ・フィリア」
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:42:49.74 ID:/398vgmN0
リサ(正解ではなかったけど、きっと間違いじゃなかった)
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:44:02.38 ID:/398vgmN0
「時を経ては変わってく 街並みも友達も」
「大抵は離れて分かる 寄る辺なさは瞭然たる感傷」
「ましてや自分 僕は僕を離れられぬやましさを背負って」
「だから友よ見届けてくれ 変わったのじゃなく変えたのだ」
「遍く挫折に光あれ 成功、失敗に意味はないぜ」
「最終話で笑った奴へ トロフィーとしてのハッピーエンド」
「願わなきゃ傷つかなかった 望まなきゃ失望もしなかった」
「それでも手を伸ばすからこその その傷跡を称え給え」
「ロングホープ・フィリア」
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:44:28.69 ID:/398vgmN0
リサ(またこうして友希那と出会えたから。この気持ちを少しでも伝えられたから)
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:44:55.68 ID:/398vgmN0
「諦めて疑って塞いで 期待外れって言われたっけ」
「でも失くしたことが武器になった それがどん底に咲いた花」
「遠き友よ 今ではもう蒼い星座」
「少なからず僕ら生きてる 荷物ならばそれで充分だ」
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:45:25.18 ID:/398vgmN0
リサ(友希那はアタシを許してくれないかもしれない。本当はそんなの嫌だけど、それでも伝えられたから、ここに来てくれたから……アタシは最後まで強がってみせるよ)
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:45:52.48 ID:/398vgmN0
「遍く命に光あれ 生きる為に理由はいらないぜ」
「うなだれても踏み留まった そこをスタートラインと呼ぶんだ」
「今日の君が笑ったことで 敗北も無駄にはならなかった」
「故に咲くどん底の花」
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:46:18.69 ID:/398vgmN0
リサ(もしもこれが最後の別れだとしても、また笑い合える日々が続くんだとしても、アタシの願いはやっぱりたった一つだから)
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:46:53.33 ID:/398vgmN0
「友よ、末永い希望を」
リサ(そして、あなたの行く先に那由他の幸福がありますように)
「ロングホープ・フィリア」
……………………
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:47:38.00 ID:/398vgmN0
リサ(ライブが終わって控室に戻ると、アタシはバタバタと慌ただしく帰り支度を整える)
リサ(ベースもエフェクターもかなり乱雑にバッグに突っ込み、しっちゃかめっちゃかに絡まるシールドがもどかしくて変な声をあげてしまった)
リサ(その様子をバンドの友人たちに笑われたけど、理由も話してないのに訳知り顔でいてくれた)
リサ「ごめん、ちょっと……」
「行ってきなって。片付けとかそういうのは私たちに任せて」
リサ「……ありがと!」
リサ(ああ、やっぱりアタシは友人に恵まれている)
リサ(そう思いながら、ドアを蹴破る勢いで控室を飛び出して、ライブハウスの出入口へ走る)
リサ(最後まで強がって、友希那が幸せならいいってずっと思ってたけど)
リサ(でも、それでも、友希那がここに来てくれたから。アタシを見てくれたから)
リサ(あの手紙の最後に、何度も何度も書こうか書くまいか悩んでから綴った言葉に、もしも友希那が頷いてくれているのだとしたら)
リサ(最後の扉を開け放ち、外へ飛び出した)
リサ(11月中旬。初冬の夜風が冷たく吹き抜ける)
リサ(半分の月がのぼる空。申し訳程度に星が煌めく夜空。その寒空の下には――)
――――――――――
―――――――
――――
……
54 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:48:12.90 ID:/398vgmN0
――CiRCLE スタジオ――
リサ「……っていう感じかな」
友希那「…………」
リサ「ん? どしたの、ポカンとして?」
友希那「……何の話なの?」
リサ「ああほら、この前友希那が話してたじゃん? もしもひとりぼっちになったらって」
友希那「……ああ」
リサ「思い出した?」
友希那「ええ、私が夢を見た話ね」
リサ「そうそう。そんでさ、もしも友希那がひとりぼっちになるなら、アタシはそうするかなって」
友希那「なるほど。ずいぶん行動的なのね」
リサ「いや〜、そりゃあ友希那のためだからね?」
リサ「どんな理由があろうと、友希那と離れ離れになるなら……アタシは人生をかけてもう一回友希那に巡り合うよ」
友希那「ふふ、ありがとう。私はどこでもあなたに助けられてばっかりね」
リサ「そんなことないって。アタシが友希那に助けられてることの方が多いからね」
友希那「あら、そうなの?」
リサ「うん、そうなの」
友希那「……そうだとしたら、私はもっと嬉しいわ。私がいることでリサの助けになれているなら、それ以上の幸せはないもの」
リサ「アタシもだよ、友希那」
友希那「リサ……」
リサ「友希那……」
55 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:49:00.65 ID:/398vgmN0
宇田川あこ「おっつかれさまでーす!」バーン
友希那「!?」シュバ
リサ「っ!?」シュババ
あこ「……あれ、どうしたんですか、友希那さんにリサ姉? なんか2人して変なポーズしてますけど」
友希那「なっ、な、なんでもないわよ?」
リサ「そ、そーそー! 別に、これっぽっちも、ねぇ、友希那っ!?」
友希那「え、ええ、まさにその通りだわ、流石リサねっ……」
あこ「ふーん?」
友希那「そ、それより、今日は早いわね、あこ。いい心がけだわ」
リサ「だ、だね。まだ練習まで30分近くあるのに偉いぞー」
あこ「えへへ、今日はホームルームが早く終わったんで、走ってきちゃいました!」
友希那「そ、そう。燐子と紗夜ももう来るかしらね」
あこ「んー、りんりんと紗夜さんは多分遅くなると思いますよ?」
リサ「え、どうして?」
あこ「えっと、さっきさあやちゃんたちとすれ違ったんだけど……なんか花女の中庭で、りんりんと紗夜さんがずーっと睨めっこしてたって言ってて……」
あこ「それはそれはとても邪魔できる雰囲気じゃなかったんだー、って一緒にいたかすみちゃんとありさも言ってましたから!」
あこ「まだ時間に余裕があるし、2人で一緒に遊んでるんだと思います!」
友希那「……そう」
リサ「……へぇ」
56 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:49:43.41 ID:/398vgmN0
友希那「…………」
リサ「…………」
あこ「あれ? 2人とも、なんか変な顔になってるよ?」
友希那「いえ……」
リサ「お赤飯でも炊いた方がいいのかなーって」
あこ「お赤飯?」
友希那「それは早計だと思うのだけど」
リサ「えー、いやでも、あの紗夜と燐子が何もなく睨めっこって……ねぇ?」
あこ「……? 何の話ですか?」
リサ「あこにはちょっと早い話かなぁ」
友希那「そうね」
あこ「えーっ、なんですかそれー!? ずるーいっ、あこにも教えてよリサ姉〜!」
リサ「いやぁ……あこにはいつまでも純粋でいて欲しいって言うか、なんていうか」
友希那(その口ぶりだと、私もリサも燐子も紗夜も不純だって言っているように聞こえるのだけど……これは言わない方がいい気がするわね)
あこ「そんなぁ〜……」
リサ「あーごめんごめんって。ほら、そしたらさ、まだ練習まで時間あるし、あの2人が来るまでカフェでお茶しよっか」
リサ「さっきまりなさんにパフェの引換券貰ったんだ。だから、ね?」
あこ「本当!? わーい、パフェパフェ〜!」
リサ(……本当は貰ってないけど、この場を切り抜けるためには仕方ないよね)
友希那(ああ……そんなもの貰ったかしらってちょっと考えてしまったわ……)
あこ「さぁさぁ、そうと決まれば早く行きましょーよー!」
友希那「ええ」
リサ「はいはい、パフェは逃げないからそんなに慌てない慌てない」
あこ「はーい!」
おわり
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:50:11.87 ID:/398vgmN0
――――――――――――
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:50:50.47 ID:/398vgmN0
今年も気付けば春だった。
いつの間にか桜が咲いていて、そしてもうほとんどが散っていってしまっていた。
四月中旬のぬるい風に吹かれ、地方都市の片隅にあるこの公園の木々がささめき合う。新緑の匂いに混じって、あたたかい春の香りがした。
「…………」
私はひとり、休日の公園のベンチに腰かけて、広場を見回す。秋には色づく銀杏並木も今は緑の衣を身にまとっていて、私の近くに植えられた木々はその枝に小さな花をほころばせていた。
それらを順々に見やりながら、年々時間が過ぎる速度が加速していることをしみじみ実感する。
気付いたらもう22歳。大学を卒業して、社会人となって迎える初めての春だった。
大学にいた頃の記憶を掘り返せば……前半はあまり思い出したくもないし、思い出す内容にも乏しいものばかりだけど、後半は実に色濃い日々だったと言えるだろう。
最低な日々の最悪な夢の始まり。それがもう五年も前のことなんだと思えば、随分遠くまで来たものだと思える。
だけど、私が生まれ変わったつもりになれたあの日からは2年半。そう思うとかつての暗い思い出は近くにあるような気もしてしまう。
……まぁ、どっちでもいいわね。
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:51:22.01 ID:/398vgmN0
「おーい、友希那ぁー!」
「あら、リサ……」
頭を振って、浮かべた下らない考えを打ち消す。そしてしばらく頭を空っぽにしてボーっと佇んでいると、私を呼ぶ声が聞こえてくる。
そちらへ視線を移すと、リサが小走りで駆け寄ってくる姿が目に映った。そして私の座るベンチまでたどり着くと、「ふぅ」と大きく息を吐き出す。
「まだ約束の時間より早いわよ。そんなに急がなくたっていいじゃない」
「あーいや、なんかね?」
「なによそれ……ふふ」
要領を得ない言い訳に思わず笑ってしまう。リサも照れたように笑って、私の隣に腰かけた。
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:51:57.55 ID:/398vgmN0
……あの日。ロゼリアがなくなってしまったあの日ではない、あの日。
リサからの手紙という青天の霹靂では到底済まされないものをあの子から受け取り、その中にあったライブチケットを手にして、リサのステージを見に行った日だ。
あの日から私とリサの関係は、またこうして笑い合えるものに変わっていた。
とは言っても、ロゼリアの頃のように頻繁に顔を合わせている訳ではない。私は在学中からずっとこっちで過ごしているし、リサもリサで、私たちの思い出が詰まった場所を離れはしなかったから。
少ない時は月に一度。多い時は週に一度。リサが私の元に来たり、私があの街へ足を運んでは顔を合わせる。そして近況報告をしてどこかへ遊びに行ったりする。
昔に比べれば会う頻度はずいぶんと減ったものだ。それでも私にとってリサは一番の親友であり大切な幼馴染だし、リサもそういう風に思ってくれているはずだ。そうでなければ、あんな藁にも縋るような、雲を掴むようなことをし続けたりしないだろう。
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:52:50.37 ID:/398vgmN0
「どう、社会人生活は?」
リサに声をかけられる。私は考えていた昔のことを頭から放り出して、それに応える。
「まぁ……やっぱり大変ね。覚えることが山のようにあるし、学生とは何もかも勝手が違うから。そういうリサはどうなの?」
「アタシも同じだよ。はぁー、やっぱお金を稼ぐって大変なんだねぇ……」
「ええ、本当にそう思うわ。何年も普通に働いているお父さんが素直にすごいと思ったもの」
「あーそれ分かる。しっかり働いて、それで普段なんでもないような顔してるのってすごいよね」
そうして、いつものように近況を報告し合う。始まったばかりの仕事の愚痴や、どこどこのお店のスイーツが美味しかったとか、この前バイトの送別会であの子に大泣きされたとか、ツーリングで行った場所がすごく綺麗だったとか、近所の野良猫が子猫を産んだとか、紗夜や燐子やあこが最近なにをしているかとか。
他愛のない話だ。どこを切り取っても、世界中に掃いて捨てるほどある普通の話。それを交わし合う平凡極まりない時間。
だけど、私はリサと分かち合うこの時間が何よりも好きだった。世界中のどんなものより尊いものだと感じていた。
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:53:30.84 ID:/398vgmN0
そう思えるようになったのは、あの別れと、どん底に落ちて自分を責め続けた暗い日々があったおかげだろう。
だとするならばやっぱりリサは魔法使いだ。最低な日々も最悪な夢も、いつの間にかこうして笑い合える時間をより大切に思わせてくれる糧にしてくれたんだから。
なのに例の手紙に綴ってあった言葉は「アタシは自分勝手に友希那を傷付けた」だとか「結局全部自分のためで、今まで本当にゴメン」だとか、リサがリサ自身を責めるものばかりだった。
あの寒空の下で、半分の月がのぼる空の下で、リサと仲直りというか元通りというか……とにかく、またこうして昔のような関係になってから交わした最初の約束の時まで謝ってくるものだから、思わず言ってしまった。「リサ、あなたはバカなの?」と。
そうしたらどうしてかリサはすごく嬉しそうな顔をして「あはは、紗夜にもそう言われた」と言うのだから私も反応に困ってしまった。リサもバカだけど、一番バカなのは間違いなく私なんだから「友希那も大概バカだよ」くらい言ってほしかった。
だからその後に、
「紗夜も燐子もあこも、みんな友希那に会いたがってるよ。また一緒にさ、色んなことがしたいって」
と言われて泣いてしまったのもリサのせいだ。私は悪くない。誰がなんと言おうと、おかしなことばかり言うリサが悪いのだ。
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:54:13.41 ID:/398vgmN0
「……やっぱり幼馴染ね。湊さんも今井さんに負けず劣らずバカよ」
なんて主張を去年の暮れの忘年会でしたら、紗夜にそんなことを言われた。
「ひ、氷川さん……もう少し言葉を選ばないと……」
燐子も燐子で私とリサがバカなことを微妙に否定していなかった。
「わ、私は思ってないですよ! そんな、友希那さんとリサ姉がおバカさんだなんて……」
ずいぶんと大人びたあこにもフォローのつもりの追撃をもらった。正直、目を泳がせながらあこにそう言われるのが一番ダメージが大きかった。
「……えっと、その……その節はホントごめん……」
「……ご、ごめんなさい、反省しているわ……」
だから私とリサは、花咲川のある居酒屋の席で、二人して縮こまってそう謝ることしか出来なかったのだった。
……ともあれ、今ではロゼリアの――元ロゼリアのみんなとも、そうやって顔を合わせて冗談を言い合える仲になっていた。
そしてそういう時間も、私の中で何を差し置いてももう二度と失くしたくない大切なものになっている。
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:55:31.69 ID:/398vgmN0
「……はぁー、やっぱ環境が変わると話すことってたくさん出来るねぇ」
「そうね」
ベンチに腰かけての近況報告。それにも一段落ついたところで、リサはぐっと背伸びをした。その横顔に私は言葉をかける。
「今日はバイクで来たの?」
「んーん、車だよ」
「ああ、そういえば免許を取ったって言ってたわね」
「うん、やっぱないと不便かなーって。それにツーリングだとアタシ一人になっちゃうけど、車なら友希那やみんなと一緒に色んなとこ行けるじゃん?」
「ふふ、そうね」
昔から変わらない、変わっていない、みんなのことを考えてくれる幼馴染の言葉。例えその言葉がリサ自身の為に放たれたものだとしても、私がそれを聞いて嬉しく思うことも昔から変わらない。
「そんなあなただから、私は大切なのよ」
「ん? 何か言った?」
「何でもないわ。いつもありがとう、リサ」
「どしたの、そんな急に改まって」
「別に。言いたかっただけよ」
「そう? じゃあ、どういたしまして!」
リサは笑顔を弾けさせる。それを見て私も表情が綻ぶ。
「さーってと、今日はなにしよっか?」
「リサのしたいことをしましょう」
「え、いいの?」
「ええ。せっかくこっちまで来てくれたんだし」
「んー……そんじゃさ、一緒にドライブ行こーよ」
「私は全然構わないけれど……運転するのはリサだし、大変じゃないかしら?」
「あはは、心配してくれてありがと。大丈夫だよ。えっとね、こういうとちょっと照れるけど……アタシがバイクに乗って一人で見た景色、友希那とも見てみたいんだ」
「……そう。それじゃあ、お言葉に甘えようかしら」
「決まりだね! それじゃあ早速……」
「あ、ちょっと待って」
「うん?」
ベンチから立ち上がろうとしたリサは首を傾げる。私は一つ咳ばらいをする。先ほど言ったリサの言葉の比じゃないくらい、照れくさいことを言おうとしているから。
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:56:32.69 ID:/398vgmN0
「ねえ、リサ」
「どうしたの、友希那?」
「少し……手を握ってもいいかしら」
「手? それくらいならいつでもいいよ。はい」
個人的にはかなり照れくさいことを言ったつもりだったのだけど、リサは何でもないように私に右手を差し出す。少しだけ深呼吸をしてから、その手に私の左手を重ねる。
「…………」
リサの手は温かかった。目を瞑って、この温もりを失くしたことに、またこうして触れられたことに、しみじみと想いを馳せる。
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:57:49.01 ID:/398vgmN0
本当に、ここに至るまで色々なことがあった。
ロゼリアというバンドがなくなったあの日。
大切なものを全て失くして空っぽになったと思ったあの日。
何もかも終わってしまえと願ったあの日。
それでもその喪失を受け入れて、再び立ち上がれたあの日。
大切な人たちとまた巡り合えて、笑い合えるようになったあの日。
そして繋ぎ合う手に、時を経た分、それだけの温もりを感じられるこの日。
もしもロゼリアがなくならなかったら、私たちの前にはどんな世界が広がっていたんだろう。
あのすれ違いを乗り越えて、より強固な結束を得て、私たちがフューチャーワールドフェスを制覇する世界。
ロゼリア以外の人たちとバンドを組んでみて、対バンしたりする世界。
リサとずっと一緒にいて、おかしな空想の世界を話し合う世界。
……きっと数え切れないくらいの色んな世界があったんだろう。
だけど、紗夜曰く『幼馴染と揃いも揃ってバカな湊友希那』が見れるのはこの世界だけだ。
だから私はあの日救った――いや、大切な人に救ってもらったこの世界の続きを懸命に生きていこう。あまりに愚かすぎて、大切な幼馴染や親友たちに愛想を尽かされないように。
「……ありがとう。もう大丈夫よ」
「ん。じゃあ、行こっか」
手を離す。私がお礼を言って、リサが微笑む。
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 09:59:32.66 ID:/398vgmN0
永遠に変わらないものは世界中のどこを探してもない。それを知らず、この温もりを私は一度手放してしまった。
だけどもう知ったから。二度と手放すつもりはないけれど、やむを得ずに離れてしまったとしてもきっと大丈夫だ。
花はいつか散るけれど、何かしら芽吹く種子を残していく。残されたその種はやがて草木になり、いつかまた蕾を開かせる。
そうやって季節は次々死んでいく。そして巡り巡って、季節は次々生き返る。
苦悩にまみれて、嘆き悲しみ、それでも途絶えぬ歌に陽は射さずとも……形を変えて、花はいつかまた咲き誇る。
もう青い薔薇は二度と咲かないのかもしれない。だけど新たな姿を持って、ここに芽吹き、花開いたものが確かにあった。それを大事に抱えて、私は大切な人たちと共に歩いて行こう。
ベンチから立ち上がって、リサと肩を並べて駐車場を目指す。
その道すがら。背の低い木の枝に、椿の花が二輪、寄り添って咲いていた。
おわり
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 10:00:36.90 ID:/398vgmN0
参考にしました
菅田将暉 「ロングホープ・フィリア」
https://youtu.be/5KABLiUE1zQ
リサ姉のバイク
YAMAHA YB125SP
https://i.imgur.com/zU8lUiK.jpg
一年くらい前に初めて書いたSSも夢オチだったことをふと思い出し、夢オチはそんな頻繁にやるもんじゃないかと思いました。
ジュブナイルは最後の最後に笑えたらそれでいいという受け売りの信条が貫けて楽しかったです。
お付き合いいただきましてありがとうございました。
HTML化依頼出してきます。
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 12:21:05.37 ID:XLYfT7Tbo
おつ!
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/13(火) 12:24:56.19 ID:EYVW1HTMO
良かった
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/14(水) 18:33:00.27 ID:xBXxVDsAo
乙
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