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男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」
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347 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/22(木) 19:43:05.09 ID:yWpaGhzG0
女(これからどうすればいいのか、私は目をつぶったまま全神経を集中して情報を収集する)
女(まず気配からして男君が私をベッドに下ろした後移動していないことが掴めた)
女(視線も感じるため私を見下ろしていると思う)
女(寝たままの私を見つめる男君……女友がいれば嬉々としていじりそうな局面だ)
女(なのに女友が口を開く様子はない)
女(……ん、いや、そもそも女友が部屋にいないような)
女(そういえば私の介抱を男君がしていることから疑問に思うべきだった)
女(男君の性格からして、女友に押しつけそうである)
女(なのに私を運んだのは女友が先に帰ってしまったか、女友より先に帰ることにしたからだろう)
女(そして部屋に女友の気配がないということは後者であるということで…………)
女(え、じゃあ今、私男君と部屋に二人きりなの?)
348 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/22(木) 19:44:08.05 ID:yWpaGhzG0
女「………………」
女(顔に出ないよう必死に自分の気持ちを落ち着けた)
女(寝たフリをしているのに顔を赤くしては、私を見ている男君にバレるからである)
女(と、というか、二人きりなのに寝ている私を見つめるって男君どういうつもりなの!?)
女(も、もしかしてあれなのかな!? 私の身体を品定めしているとか!?)
女(だとしたら今にも――)
男『すまん、女。もう我慢できないんだ!』
女(とか言って襲ってくるかもしれない……!)
女(そ、そんなことになったら……私は寝たフリをしているわけだし、抵抗できないよね!)
女(べ、別に襲われたいとか他意があるわけじゃないけど!!)
女(自分で自分が何を考えてるのか分からなくなってくる)
女(そのタイミングで男君が口を開いて)
349 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/22(木) 19:44:43.56 ID:yWpaGhzG0
男「ったく、幸せそうに寝やがって」
男「俺がここまで運ぶのにどれだけ苦労したのかも知らずに……やっぱり明日文句言ってやる」
女(二人きりの状況などまるで意識していない、いつも通りの口調で吐かれた悪態で私は冷静になれた)
女「………………」
女(それでこそ男君だ。こんなときでも誠実な彼に私は魅かれたのだから)
350 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/22(木) 19:45:26.50 ID:yWpaGhzG0
男「さて、明日から宝玉を手に入れるために動かないと行けないし、さっさと寝るか」
女(男君の視線が私から外れたことが感じられた)
女(つぶやいた言葉は私たちの使命に関すること)
女(今の口振りはどうも具体的な行動を思いついているようだ)
女(私が酔い潰れている間に状況が進展したのだろう)
女(というかそもそも情報収集のために酒場に行ったことを今の今まで私は忘れていた)
女「………………」
女(浮かれていた自分が嫌になる)
女(クラスメイトみんなの前で『元の世界に戻るために頑張ろう』と言ったのは誰だったか)
女(それなのにこうして自分のことでいっぱいいっぱいになって)
女(恥ずかしい。穴があったら入りたい)
351 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/22(木) 19:46:02.47 ID:yWpaGhzG0
女(……でも、仕方ないじゃん)
女(一年ほど前、男君に助けられたあのときから、ずっと片思いしていた)
女(けど男君は壁を作って誰も寄せ付けずに人間関係の全てを拒絶していた)
女(私はそれを割って入るほどの度胸を持てず、このまま高校を卒業したら男君に忘れ去られるんだろうなと悲観していた)
女(そんな状況がこの異世界に来てぶち壊された)
女(男君の魅了スキルが暴発したおかげで、私は近づく口実を得た)
女(戦う力を持たない男君を守れる力を授かることが出来た)
女(そしてパーティーを組んで目的のために一緒に行動している)
女(舞い上がるな、と言われても土台無理な話だ)
女(今日一日中ふわふわとした感覚が抜けなかった)
女(そんな状況がこれからも続くのだ)
女(何と幸せなことだろうか)
352 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/22(木) 19:46:36.93 ID:yWpaGhzG0
女(でも……それは私だけなんだよね)
女(二人きりの状況になっても変わらない男君の様子)
女(緊張しているのは私だけ)
女(いや、アプローチもしていないのに、私のことを意識している方がおかしいんだけど)
女(それでも私にドキドキして欲しかった)
女(理不尽なことを言っているのは分かっている)
女(だから私は自分の気持ちを抑えきれず)
女(寝たフリをしている今だからこそ取れる……卑怯な手をつい打ってしまった)
353 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/22(木) 19:47:03.65 ID:yWpaGhzG0
女「……男君…………好きだよ……」
男「っ……!?」
女(男君が息を呑む気配が感じられる)
女(寝言を装った告白)
女(好意を打ち明けながらも、失敗した場合は寝ていたからと言い訳できる卑怯な手)
354 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/22(木) 19:48:30.24 ID:yWpaGhzG0
男「……ね、寝言だよな?」
女(男君が私の顔をのぞき込んで確認する。その声は上擦っていた)
女(寝たフリを続けながら、私はとても嬉しかった)
女(男君が動揺している。男君が緊張している。男君が私を意識している)
女(再び私の気持ちが浮つくのが分かった)
女(どうしよう、ここは勝負に出るべきか)
女(目を開けて「寝言じゃないよ」と言って。そうしてお互いの気持ちを確かめて――)
男「そうか……でも、その気持ちは分かっているさ」
女(えっ……!?)
女(男君、今、何て言ったの!? 私の気持ちは分かっている……っていうことは……!)
女(私の感情はどこまでも高ぶっていき――)
女(――だから、男君の言葉がとても平坦に発せられていたことに気づけず)
355 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/22(木) 19:49:13.13 ID:yWpaGhzG0
男「だって魅了スキルがかかっているんだからな」
女(次の言葉で今度こそ私の気持ちは地の底まで叩き付けられた)
男「ったく、寝ているときまで効果があるのか、このスキルは」
女(私は現状について全く理解できていなかった)
男「まあ暴発させた俺が言えた立場じゃないが」
女(吐いた嘘のメリットばかりを見ていて、デメリットを全く見ていなかった)
男「俺なんかを好きになってしまってすまんな。しばらく辛抱してくれ」
女(男君が私に向ける一番の感情は罪悪感で)
356 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/22(木) 19:49:58.24 ID:yWpaGhzG0
男「いくら魅了スキルが解除不能でも、元の世界に戻れば効力は切れるだろうしな」
女(私は少しも男君の心に入り込めていなかった)
女「………………」
女(何がお互いがお互いを思い合うのが理想、なのか)
女(私は自分の気持ちを押しつけるばかりで、男君の気持ちをちっとも考えていなかったのに)
357 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/22(木) 19:50:27.89 ID:yWpaGhzG0
続く。
上げたら落とす、基本。
358 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/22(木) 20:00:08.82 ID:W8JYxjMz0
乙
男は自称・恋愛アンチになっているだけで、そこまでひねくれたり腐ったりしていないんだよね。拒絶しているけどそこまでじゃないし
そもそもそうだったら女さんが惚れていないかもしれないけど…
何が言いたいかというと本来はトラウマになって荒れたりしていたりするもんだけど、ここの男は結構平常心なんだよね
気質なのか荒れるのではなく、人を拒絶する方向を選んだ結果なのか……
359 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/11/23(金) 01:09:34.62 ID:djG0BgPIO
乙ー
360 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/23(金) 06:24:56.35 ID:1p1FELrfO
乙!
361 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/23(金) 20:57:42.71 ID:shycYZkm0
乙、ありがとうございます。
>>358
>>230
で村長が指摘したように表面上は真面目なんですよね
投下します。
362 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/23(金) 20:59:03.17 ID:shycYZkm0
男(翌朝、商業都市滞在二日目)
男(俺たちは昨夜も訪れた酒場のスペースにいた)
男(夜は酒場として営業されているが、朝は宿屋に滞在する客の朝食会場となっているようだ)
男(俺と女と女友は同じテーブルで朝食を取る)
男(そして昨夜介抱を強要された女に文句を言ってやるつもりだったのだが)
女「………………」
男(その女が死んだ目で黙っているので、どうにも切り出すことが出来なかった)
男(この異世界でずっとリーダーシップを取り、みんなをまとめて元気だった女らしからぬ姿である)
男「……なあ、女友。どうして女は落ち込んでいるんだ? あれか、貧血で朝は元気が出ないとかなのか?」
女友「私が知る限りではそんなことは無いはずですが……」
363 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/23(金) 20:59:37.94 ID:shycYZkm0
男「だったら、どうして……」
女友「男さんが原因じゃないんですか? 昨夜、あの後介抱して二人で部屋に戻ったんですよね? そのときに何かあったとか」
男「俺が女を襲ったとでも言いたいのか? 言っておくが神に誓って何もしてねえぞ」
男(ベッドに寝かせた後は一切女の身体に触れていない)
男(それとは別に寝言の告白は聞いたが……寝言だし関係ないことだろう)
女友「いえ、その心配はしてません。どちらにもその度胸がないのは分かっているので」
男「どちらにも……?」
女友「ですからこの事態の原因は……男さんが何もしなかったことか、それとも女が墓穴を掘ったか、どちらかですかね」
男「…………?」
364 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/23(金) 21:00:38.44 ID:shycYZkm0
女友「女、少しいいですか?」
女「……何、女友?」
女友「話はまた今度聞きます。ですから今は私たちの使命に……宝玉を手に入れることに集中してもらえますか?」
女「……そうだね。せめてそっちの失敗だけでも挽回しなきゃ」
女「よしっ!!」
男「そっちの失敗……?」
女友「なるほど、墓穴の方でしたか」
女「昨日は早々に酔いつぶれてごめんね。情報収集の結果から教えてもらえる?」
男「……ああ、じゃあ俺から話すぞ」
男(何が理由で落ち込んでいたのか気にはなったが、女が前向きな姿勢になったところ水を差すわけにも行かず)
男(俺は昨夜、商会長とその秘書から聞いた宝玉関連の情報を伝えた)
365 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/23(金) 21:02:35.46 ID:shycYZkm0
女「大商人会にも属する古参商会が、30年前に女神教の教会を取り壊した」
女「そしてそのときに出た宝玉を古参商会のトップ、商会長が持ち続けている」
女「だからまずは商会長と話の場を設けないといけない……ってことね」
男「ああ。想定通り面倒なことになったな」
男(行政トップの人間に一市民が交渉を持ちかけることが大変だとは道中で共有している)
女「女友の方は何かあるの?」
男「飲み比べで馴染んだ客から、古参商会に関する情報をゲットできたか?」
男(昨夜、女友は結局俺が寝るまでの間に帰ってこなかった)
男(朝もここまで話す余裕はなかったため、情報収集の結果がどうなったのか俺にも分からない)
女友「そうですね……古参商会に私たちの価値を認めさせる方法と気になる情報と一つずつ仕入れました」
女友「ひとまず話しながら移動しませんか?」
366 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/23(金) 21:03:17.58 ID:shycYZkm0
男(俺たちは朝食を平らげると宿屋を出て、女友の先導の元に歩き出した)
男(足取りからしてどこかに向かっているようだが、どこなのかは説明されていない)
女友「まずは気になる情報から話しましょうか」
男(目的地が気になる俺たちを前に、マイペースで話し始める女友)
女友「ところで質問なのですが、男さんは秘書さんか商会長から、古参商会がその地位を脅かされそうになった出来事について聞きませんでしたか?」
男「えっと……あ、そうだ。最古参で一番力のある商会だったが、新参商会に抜かれそうになったって話は聞いたぞ」
男「改革が上手く行ったが、それでも何故か遅れを取っているって話も」
女「へえ、そうだったんだ」
女友「それなら話が早いですね。気になる情報とはその遅れを取っている理由について」
女友「どうやら古参商会には、新参商会のスパイが潜り込んでいるようです」
男「スパイ?」
367 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/23(金) 21:04:09.47 ID:shycYZkm0
女友「例えば古参商会が売り出す商品の値段より少しだけ安い値段で同じ商品を新参商会が売り出していたり」
女友「独自に開発していた商品に非常に類似した商品が売り出されたりと」
女友「本来機密であるはずの様々な情報が漏れているとしか言えない状況が何年か前から現在まで続いているため」
女友「巷ではスパイがいるのではないかと噂されている……という話を聞くことが出来ました」
女「興味深い情報だけど……宝玉を手に入れるために関係ある情報なの?」
男「何言ってるんだ、大有りだろ」
女「え、でも、どうやって……」
男「古参商会、宝玉の持ち主である組織がスパイに悩まされているんだろ」
男「ならそのスパイを見つけてやる『対価』に、宝玉を譲ってもらう……とかそういう交渉が可能じゃねえか」
368 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/23(金) 21:04:50.59 ID:shycYZkm0
女「なるほど……けど、商会だってそのスパイを見つけようと調査しているはずだよね?」
女「それなのに部外者の私たちがスパイを見つけることが出来るかな?」
男「そんなの簡単だ、簡単。流石に古参商会だってスパイの目星くらいは付けてるはずだろ」
男「だったら後は怪しいやつ全員に俺の魅了スキルを使って口を割るように命令すればいい」
女「あ、そっか……」
男「もちろん男がスパイの可能性はあるが、それでも魅了スキルを使ってその周囲の女から情報を聞き出したりも出来る」
男「とにかく人間関係における問題において、魅了スキルは無敵の力を発揮する」
男(実際に使うかはどうかとして重要な交渉カードを手に入れることが出来たな)
369 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/23(金) 21:05:17.37 ID:shycYZkm0
女友「とはいえ、今のままでは私たちの言葉に力はありません」
女友「スパイの調査に力を貸しますといっても、突っ返されるのがオチでしょう」
女友「ですから予定通り一手目は古参商会に私たちの『価値』をアピールしなければなりません」
男(女友の言うとおり交渉を切り出すためには対等な立場に立たなければならない)
男「そうだな……そこでもう一つの情報、古参商会に俺たちの価値を認める方法とやらが聞きたいんだが」
女友「それなら見た方が早いでしょう、ちょうど着きましたし」
男「着いた……って」
男(女友が足を止める。俺たちの目の前にある建物が目的地だったようだ)
男(それは周囲の建物より群を抜いて高く大きかった)
男(まだ朝だというのにひっきりなしに人が出入りしていることから活気のあることが分かる)
男(看板には『古参商会・本館』と書かれていた)
370 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/23(金) 21:05:48.92 ID:shycYZkm0
男(女友が人の流れに割って建物に入っていくのに合わせて、俺と女も付いていく)
男「どういうことだ、いきなり古参商会の本館って。何か物騒なことして正面突破とか考えてるんじゃないだろうな?」
女友「そんな野蛮なことは考えてませんよ。古参商会が新参商会に対抗するためにした改革の一つに、幅広い層から商品を仕入れることを始めたと聞きました」
男「仕入れ……?」
女友「ここがその部署のようですね」
男(そこは広い一階フロアの中でも、一番人が集まっている区画だった)
男(五つあるカウンターの前には行列が途切れず、順番が来た者が次々に農作物や畜産物、魔物を狩って手に入れた素材などを職員に渡す)
男(職員は受け取った物を鑑定スキルによってどれだけの価値があるかを判断し、応じたお金を渡して買い取っているようだ)
371 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/23(金) 21:07:23.07 ID:shycYZkm0
男「なるほどな……」
男(客にとっては商品を買い取ってくれる場所で、商会にとっては仕入れということか)
女友「特に煩わしい手続き無しに商品を個人からでも買い取ってくれるこのシステム」
女友「客にとっては売る相手を捜す手間が省けますし、商会にとっては珍しい商品も入ってくることもあって成功しているようです」
男「個人からも……つまり俺たちでも可能ってわけか」
女「でも、ここまで売る人が多いってことは私たちもその内の一人になって、特に価値を示せないんじゃないの?」
女友「ええ。ですが私たちにしか手に入れられないようなものを持ち込めば……価値を示せるとは思いませんか?」
男「俺たちにしか……?」
女友「あれを見てください」
372 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/23(金) 21:07:50.86 ID:shycYZkm0
男(女友が指さした壁は雑多に張り紙がされていた)
男(一番大きな張り紙は仕入れ価格目安表、つまりこの商品はだいたいこれくらいの価格で買い取っていますよー、という指標だ)
男(もちろんあくまで目安で、在庫が多いものは安くなるし、逆に在庫が少ないものは高くで買い取るようだ。商売の基本である)
男(その例外を示しているのが他の張り紙のようだ)
男(これは在庫が十分にあるため現在買い取れません、これは在庫が無いため現在高額で買い取っていますなどの内容で溢れている)
男(中でも一際強調して張られているのが)
『ドラゴンの素材、ここ一年仕入れがないため、高価買い取り中です!』
『※ただし強大な魔物のため討伐に向かう際はきちんとしたパーティーを組み、準備をしてください』
『※当商会は狩りの際に命を落とされても保証は出来ません』
『※気になる方は情報をまとめた資料があります』
373 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/23(金) 21:09:03.23 ID:shycYZkm0
男「へえ、やっぱファンタジー世界だな。ドラゴンとかもいるのか」
女「まあ私が『竜闘士』だし、そういう存在がいてもおかしくないかもね」
男「あ、そうか」
女友「二人とも良い目の付け所ですね。ちょうど良さそうですし、それにしましょうか」
男「…………は?」
女「え?」
男(それにする……どれにするんだ?)
女友「昨日飲み比べで馴染んだ客の一人が自慢話をしてくれました」
女友「曰く、とても珍しい商品を偶然手に入れて古参商会に売ったところ、商会長直々にお礼をされたとのこと」
女友「直接会って話をする『価値』があると認めたわけでしょう」
女友「ならば私たちも同じことをすればいいのです。一年仕入れが無いドラゴンの素材ならそれにピッタリです」
女友「というわけで私たちでドラゴン討伐をしましょう♪」
男「………………」
男(女友がピクニックに行きましょうくらいのテンションで言ったことに俺は耳を疑った)
男(ドラゴン討伐って……マジで? 命の保証は無いとか書いてるけど、大丈夫なのか?)
374 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/23(金) 21:09:53.09 ID:shycYZkm0
続く。
メイン軸進めていきます。
375 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/11/24(土) 01:19:13.81 ID:9zJazxUao
乙ー
376 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/24(土) 08:38:08.62 ID:lcGzFO1F0
乙
そもそも女は男が女の子を避けている事情を知らないのに自分勝手なことばかり言っているからダメなんだよ
多分、詳しい事情を知っている女友のほうがまだ好感度がある
377 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/24(土) 11:16:29.82 ID:TQNamApH0
乙!
378 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/24(土) 17:35:40.72 ID:GGmEXmXW0
乙、ありがとうございます。
>>376
女もまた未熟なのです。前回の最後で反省しているので今後成長するはず。
投下します。
379 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/24(土) 17:36:37.13 ID:GGmEXmXW0
男(女友が提案したドラゴン討伐というワードに思考停止していた俺だが、すぐに首を振って否定する)
男「いやいやいや、無理だろそんなの。そもそもドラゴンって人間が倒せるのか?」
女友「一年は入荷が無いということは、一年前に誰か倒した人がいるってことでしょう」
女友「頑張れば人間でも倒せる存在ってことじゃないですか?」
男「100人くらいの大規模なドラゴン討伐隊を組んでようやく倒せたって可能性もあるじゃねえか」
男(少なくとも俺たち三人、いや魅了スキルだけの俺は戦力にならないので二人だけで倒せるとは思えない)
女「とりあえずドラゴンについて商会が掴んでいる情報をまとめた資料を借りられたから、それを見ながら話そうよ」
男「そうだな」
女友「このまま想像で話しても埒が開きませんものね」
男(俺たちは女が持ってきた資料に目を落とす)
380 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/24(土) 17:37:16.22 ID:GGmEXmXW0
『素材高価買い取り中:ドラゴン』
『生息地:洞穴』
『個体特徴:大きさ20m級。レッドドラゴン種。耐火装備推奨』
男(その下には生息地付近の情報やドラゴンの習性、注意事項やその他の情報と続いていた)
男(中には前回ドラゴンを討伐した際の記録もあり、100人規模の討伐隊を組んでなお死闘だったようで)
男(どうにか死者を出さずに帰還出来たのは奇跡だったと書いてある)
男「………………」
男(20mもある生物ってヤバいな)
男(とりあえず昔近所にいた大型犬にもビビっていた俺が対峙出来るとは思えない)
男(レッドドラゴン種とやらが何かは分からないが、耐火装備という注意があるくらいだからおそらく火を吹くのだろう)
男(つうかやっぱり100人規模の討伐隊でやっとなんじゃねえか)
男(やっぱり無理だ、ドラゴン討伐なんて諦めて――)
381 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/24(土) 17:38:15.60 ID:GGmEXmXW0
女「うーん、これならどうにかなりそうかな」
男「マジで!?」
女「男君は初期職で分からないかもだけど、職の力って元から自分が持っていたかのように使いこなせるのね」
女「だから自分がどれくらい戦えるかも感覚で分かって……」
女「うん、ここにある情報の感じドラゴン相手に私一人で互角、女友のサポートもあれば余裕を持って倒せると思うよ」
男「でも100人でやっとって書いているぞ!?」
女友「資料を見る限り、前回の討伐隊は私たち二人には遠く及ばないレベルの人たちの集まりだったみたいですし、参考になりませんよ」
男「………………」
男(二人の言葉に改めて思い知る。俺の仲間って規格外だったんだな、と)
女「じゃあドラゴン討伐に挑むってことで……男君もいい?」
男「……あ、ああ。二人で倒せる計算なら任せた。古参商会に俺たちの価値を認めさせる近道であることは確かだしな」
382 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/24(土) 17:39:07.47 ID:GGmEXmXW0
女「よし、そうと決まれば準備をしないとね」
女「ドラゴンの生息地、洞窟は地図を見た感じここから歩いて一日半はかかるみたいだし」
女友「道中は野宿でしょうか。その準備をして……女はドラゴン相手に装備は今のままで大丈夫ですか」
女「うん。『竜闘士』は素手でも十分に戦えるし、女友の方こそ『魔導士』だし杖とかいらないの?」
女友「杖は魔法発動の補助道具です。あったら便利ですが、無くても魔法は十分に使えますし」
女友「それに高位魔法まで補助出来る杖となると高級品なので、しばらくは無しで行こうと思っています」
女「そっか」
男(目の前で繰り広げられる二人の会話から現実味が感じられない)
男(……あ、そっか。ここ異世界か。二人とも馴染んでるなあ)
男(俺もやっぱり戦闘力のある職が欲しかったなあ)
383 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/24(土) 17:39:56.38 ID:GGmEXmXW0
女「じゃあ三人分の野宿の準備をして――」
男「…………ちょっと待った。俺もそれに付いていくのか?」
女「え、当然でしょ。一緒のパーティーなんだし」
男「いや、でも知っての通り俺は魅了スキルだけの戦闘力無しの雑魚でだな」
女「男君の強みが戦闘力以外のところにあるのは分かっているからそんな卑下しないでって」
男(自虐の言葉を女にたしなめられる)
男「でも付いて行っても役に立たないのは事実だぞ」
女「じゃあ逆に質問だけど、私たち二人でドラゴン討伐に行ってる間、男君はここで留守番してるの?」
男「そっちの方が安全だろ」
女「もしイケメン君が襲ってきたらどうしようもないよ?」
男「………………」
384 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/24(土) 17:40:46.29 ID:GGmEXmXW0
女友「そうですね。イケメンさんがこの短期間でまた襲ってくるとは思えませんが、そうでなくてもここは異世界です」
女友「この商業都市は治安が良い方とはいえ、日本ほどではないでしょう」
女友「何らかの犯罪まがいの出来事に巻き込まれる可能性も考えると、身を守ることも出来ない男さん一人置いていくのは反対ですね」
女「私たちがパーティーを組んだのは男君を守るため」
女「なのに男君と離れてたら守れないでしょ。だから一緒にいるべきだよ」
女「大丈夫、ドラゴンの指一本も男君には触れさせないんだから!」
男(やだ、何この男前……)
男(ここまで言われては「正直ドラゴンとか見たらチビりそうなんだよな」とか臆病なことも言えるわけが無く)
男「分かった、俺も付いていく方向で話を進めるぞ」
男(腹をくくるしかなかった)
385 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/24(土) 17:41:35.38 ID:GGmEXmXW0
男(話がまとまった俺たちは借りてきたドラゴンに関する資料を返すと、必要な準備をするためその場を離れる)
男(そして古参商会・本館の総合受付前で黒山のような人だかりと遭遇した)
男「何だ、この集まりは」
女友「受付ですから人が集まる場所ではあるんでしょうけど……それだけでは無さそうですね」
女「あの二人が原因じゃない?」
男(女が見ている方向には、昨夜会った商会長とその秘書がいた)
男(酒場で見たときと違って今朝はスーツを着ている古参会長)
男(その貫禄はこの都市を仕切る大商人会で一番の影響力を持つ人間にふさわしいものであった)
男(秘書は変わらず会長の傍らに付き添っている)
男(大物感露わとなった会長を変わらずに支えているところがその能力の高さを表していた)
女「二人とも何してるんだろう?」
女友「受付に来た人に挨拶か、外回りに出る前に通りかかっただけかと推測しますけど、近づけないので判断出来ませんね」
男「………………」
男(女友の言うとおりこの人の数では近づけそうにない)
386 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/24(土) 17:42:31.14 ID:GGmEXmXW0
女「にしてもあの酒場で見た二人が本当に商会長と秘書だったなんて」
女「話は聞いてたけど、実際に見てようやく信じられた感じ」
男(二人の正体を偽った状態しか知らない女の言葉)
女友「あのときと変わらずに秘書さんが商会長を支えているのは伝わりますね」
女「そうだよね、本当お互いを信じ合っているって感じ」
女友「昨夜聞いた話によると商会長はかなりの古株で、秘書さんが商会に入ったのが後みたいですね」
女友「まあ年齢からしてそうでしょうが」
女友「秘書さんはそこからメキメキと頭角を現していき、10年ほど前に古参商会長の右腕に収まったそうです」
女友「新参商会の台頭により改革を迫られたときも、二人で協力して頑張ったみたいですね」
女「10年も一緒に戦ってきた戦友……あの二人出来ていないのかな!? オフィスラブあるんじゃない!?」
女友「さあどうでしょう。ただ二人とも独身であるとは聞きましたが」
女「やっぱりどっちにも気があるんだよ!!」
387 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/24(土) 17:43:18.71 ID:GGmEXmXW0
男「………………」
男(恋愛話が好きな女子らしい会話を意識の片隅に聞きながらも、商会長を眺めていた)
男(話しかけてくる人に対応している彼の目に、俺の姿は移っていないだろう)
男(それだけ物理的にも立場的にも距離がある)
男(昨夜は少々不甲斐ないところを見せたが……俺にだって使命がある)
男(宝玉を集めて、元の世界に戻る)
男(そのために最初から躓いている場合じゃない)
男「二人とも行くぞ、準備をするんだろ」
女「……そうだね!」
女友「今度ここに来るときはドラゴンの素材と共にですね」
男(俺は決意を新たにして、古参商会本館を後にした)
388 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/24(土) 17:53:15.12 ID:GGmEXmXW0
続く。
一言コメントが思いつかない……。
389 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/11/24(土) 22:17:43.91 ID:+Cwac7G5O
乙ー
390 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/25(日) 03:04:54.42 ID:khCE/AWs0
乙!
391 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/25(日) 15:51:39.68 ID:QYwNNmf40
乙、ありがとうございます。
投下します。
392 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/25(日) 15:52:26.91 ID:QYwNNmf40
男(俺たちは必要な準備を終わらせると、午前の内に商業都市を出た)
男(目的地はドラゴンが生息する洞窟である)
男(森の中の道を行くが……昨日村から商業都市に向かった道より荒れているため苦労していた)
女友「この道の先には洞窟しかなく人里はありません」
女友「その洞窟も昔は鉱石など求める人が訪れていたようですが」
女友「最近はドラゴンが住み着いたためすっかり誰も寄りつかなくなったようです」
男(ドラゴンに関する資料で得た情報を女友が披露する)
男「人の往来が少ないから荒れているのか」
男(日本にいるときは意識していなかったが、道というものを維持するには人の手がいる)
男(誰も通らないのに整備するのはコストがかかるし、この世界には魔物に襲われる危険性が常につきまとう)
男(そのため放置されているのだろう)
393 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/25(日) 15:53:00.24 ID:QYwNNmf40
男(昨日とは違って道中では散発的に魔物と遭遇した)
男(この辺りは魔物が多いらしい。女と女友が瞬殺するも、気が抜けないことには変わりない)
男(休憩を挟みながらでも、職による身体能力強化が無い俺が一番疲労が早かった)
男「なあ、昨日みたいに空を飛んで進むのは駄目なのか?」
女「空を飛ぶのには魔力を多く消費するからね」
女「もし魔力が少ない状態で魔物に囲まれたりしたら、さすがに私たちでも危ないし」
女「昨日は商業都市に着く直前だったから魔力を使い切っても大丈夫だったけど」
女「今日は森で野宿だから魔力は出来るだけ節約して進むよ」
男「……その通りだな」
男(守られているからって……気楽な思考になっていたな)
男(この世界において、魔物に襲われて死ぬことは少なくない)
男(俺だってあの夜、イノシシ型の魔物に襲われて死にかけたじゃねえか)
男(慎重になってなりすぎることはない)
394 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/25(日) 15:53:30.18 ID:QYwNNmf40
女友「そう自分を責めないでくださいね、男さん」
女友「言われてみれば職によって身体能力が強化された私たち二人のペースに付き合わせるのは酷でしたね」
男(俺の自己嫌悪を読んだのか、女友がフォローを入れてくる)
男(ドラゴンを二人で倒せると豪語するくらい、二人の身体能力はこの異世界に来て強化されている)
女「あ、そっか。ごめん、男君。進むの早すぎた?」
男「そんなことねえよ…………と言いたいところだが、ちょっとペースを落としてくれると助かる」
男(意地を張る元気もなくなった俺の言葉)
男(すると女友が少々考え込んで)
女友「そうですね……これなら魔力の消費も抑えられるでしょうか」
女友「男さん、強化魔法かけますね」
男「強化魔法……って何だ?」
女友「百聞は一見に如かずです。発動『妖精の羽根(フェアリーフェザー)』!」
男(女友は有無を言わさず魔法を発動した)
男(その対象は俺のようで、女友の手元から発せられた光が俺を包み込んだ後に消える)
395 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/25(日) 15:54:03.52 ID:QYwNNmf40
男「な、何だ今の……って、うわっ!?」
男(女友に向かって一歩踏みだそうとした足から伝わる感触に違和感を覚えて俺は声を上げる)
女友「男さんの身体を軽くしました。これで長時間歩いても疲労しにくくなるはずです」
男「身体を軽く……って、そんなことも出来るのかよ」
男(昔、小学校の遠足で行った科学館で補助具を使った月面歩行体験を思い出す)
男(月は地球の重力の6分の1で、それを再現した装置によって歩く度にふわふわ浮き上がっていた)
男(今の状態はそれに近い)
女友「昨日はその身体を軽くする魔法と『一陣の風(ストレートウィンド)』という風を起こす魔法を合わせることで空を飛んでいたんです」
男「あー、そういや女の飛翔に女友も空飛んで付いて来てたな。そんなことしてたのか」
女友「風まで起こすと魔力の消費が大きいので身体を軽くするだけですが、歩く分にはそれで十分楽になりませんか?」
男「そうだな。助かる、女友」
男(進むにつれて道にせり出す木の根っこなどを乗り越えながら進んでいるのだが、身体が軽いため障害物を一跳びで越えられる)
男(着地の衝撃も軽くなり足が疲れにくい)
396 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/25(日) 15:54:39.96 ID:QYwNNmf40
男「いや、これやべえわ。さっきまでとは大違いだ」
女友「そこまで効果があるなら最初から使っておけば良かったですね」
男(森の中を先ほどよりスピードを上げて駆け抜ける)
男(女友と女は何のスキルも使わず、素の状態で遅れずに付いてきた)
男(……俺にペース合わせてなくて謝られたけど、あれでも十分にセーブしていたんだな)
女「女友の『魔導士』いいなあ。私の『竜闘士』はどうしても攻撃や自己強化に特化しているから」
女「男君の手助け出来るようなスキル無いんだよね。あ、『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!」
男(女は進みながらも『千里眼』で周囲の索敵を怠らず)
男(捉えた魔物が姿を現した瞬間『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』の衝撃波を飛ばして粉砕する)
男(……いやいや、十分に強いと思いますが)
男(まあ、竜の力を体現して戦うってくらいだから他者のサポートは苦手なのだろう)
397 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/25(日) 15:55:23.57 ID:QYwNNmf40
男「そういえば女友の『魔導士』って色んな魔法を極めているとは聞いたが、実際にはどんな魔法が使えるんだ」
男「さっきかけられるまでこんな身体を軽くする魔法を持っているなんて知らなかったし」
女友「男さんには説明していませんでしたか。失念してましたね」
女友「使える魔法というと、まずは攻撃魔法でしょうか」
女友「単純に雷を呼び出して敵に落としたり、火の玉をぶつけたり出来て、しかもあらゆる属性の魔法が使えます」
女友「また煙を出して敵を攪乱したり、イケメンさんに使ったように蔦を使って敵を拘束する魔法なども含まれますね」
女友「強化魔法はその名の通り自分や他者を強化する魔法です」
女友「男さんに現在かかっている身体を軽くする魔法や、筋力を上げる魔法などもありますね。これもあらゆる種類が使えます」
女友「回復魔法も傷を治す魔法や、状態異常を治す魔法が使えます」
女友「クラスの皆さんの二日酔いを治したのはこの系統ですね」
女友「他には結界魔法や……」
女友「そうそう、昨夜酒場で秘書さんの『認識阻害(ジャミング)』を破った『真実の眼(トゥルーアイ)』は判別魔法ですね」
女友「後まだ説明していないのは……」
398 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/25(日) 15:56:03.52 ID:QYwNNmf40
男「いや、そこらへんでいいわ。多すぎるだろ」
男(どこまでも説明が続きそうだったため、こちらから打ち切る)
女友「そんな! もっと私のこと知って欲しいのに!」
男「言い方。というかここまで使える魔法が多いと、使えない魔法を聞いた方が早そうだな」
女友「私が使えない魔法となると、もう単純にこの異世界に存在しない魔法と言い換えた方が早そうですね」
男「早いのかよ」
男(改めて規格外な存在だな)
女友「創作物などでよく目にする魔法で、私が使えないものといえば転移魔法でしょうか」
女友「物体を一瞬で移動させるような魔法はこの世界に存在しません」
男「まあだろうな。そんなのがあったら今ごろ俺たちは一瞬で洞窟に到着しているだろうし」
男(だからこそこうして足を動かしているのである)
女友「あとは蘇生魔法ですね。回復魔法で傷を治すことは出来ますが、死んでしまった場合生き返らせることは出来ません」
男「……この世界でも死は絶対なのか」
男(魔法なんてゲームみたいな存在があってもコンティニューは出来ない)
男(まあそれくらい現実に則していた方がいいだろう。死んでもいい世界なんて正直怖い)
399 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/25(日) 15:56:37.63 ID:QYwNNmf40
女友「他にも出来ないことは時間を止めたり、未来の出来事を予知したりなどですかね」
男「総じて現実をぶっ壊すような魔法は使えないってことか」
男(超人的ではあるが神とまでは行かない。そんなイメージでいいだろう)
男(まあ個人で神のような力を振るえたら危ないし――)
女友「それと魅了スキルのように人に命令出来るなんて魔法もありませんね。その点では男さんの方が優れています」
男「……そうだな」
男(女友の言葉にハッとなった)
男(好意を抱かせ、命令出来る……やろうと思えば世界の半分を支配して、この世界を滅茶苦茶にすることも出来る)
男(このスキルの力はまるで神みたいなもので……実際神の持ち物だったのか?)
男(言われてみればあの石碑には召喚にあたって俺たちに力を分け与えたと書いてあった)
男(メッセージは女神が残したものだと思われるから、女神が力を分け与えたと考えていいだろう)
男(その中に俺が授かった力として魅了スキルがあったのだから……元々魅了スキルは女神の持ち物だったとなる)
男(災いを愛の力で納めた結果、神として祀られた女性)
男(女神は魅了スキルの持ち主だった)
男「………………」
男(この符号は何か意味があるのだろうか?)
400 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/25(日) 15:57:03.57 ID:QYwNNmf40
女(その夜)
女(私たちは、男君が『妖精の羽根(フェアリーフェザー)』を受けて以来、かなりのスピードで森を進むことが出来た)
女(結果、一日半かかる予定だった洞窟までの道を一日で踏破)
女(とはいえ消耗した状態でドラゴンと戦うのは無謀なため、洞窟の近くで野宿することにした)
男「zzz……」
女(疲れていたのか男君は夕食を取ってすぐにテントで眠っている)
女(私は男君を起こさないようにそっとテントから出た)
女友「これでよし……っと」
女(そこでは女友がテントの周りで作業をしている)
女(どうやら結界魔法『対魔結界』を張るために魔法陣を描いているらしい)
女(準備が必要な分その効果は強力で、結界の内に魔物を寄せ付けない)
女(これで魔物がいる森の中でも見張りを立てることなく全員寝ることが出来るとのこと)
401 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/25(日) 15:57:37.98 ID:QYwNNmf40
女「調子はどう、女友?」
女友「ええ、万全です。これで朝まで魔物にこのテントが襲われることは無いでしょう」
女「じゃあ今日はもうゆっくり寝て明日はドラゴン討伐だね」
女(私はテントに誘うが、女友はその場から動かず)
女友「その前にちょうど二人きりですし、聞いておきましょうか。昨夜女が犯した失敗について」
女「それは……」
女(親友の気遣いに日中ずっと押し込めていた感情が去来して)
女「……ありがと、女友。じゃあ聞いてくれる?」
女(私は礼を返して話し始めた)
402 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/25(日) 15:58:24.56 ID:QYwNNmf40
続く。
そろそろ書き溜めが尽きそう。
403 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/25(日) 17:14:37.22 ID:khCE/AWs0
乙!
404 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/25(日) 17:24:20.92 ID:gnhkXfDBO
乙
作者の中でキャラにCVって付いているの?
405 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/11/25(日) 17:51:40.98 ID:s9bhmMlTO
乙ー
406 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/26(月) 21:46:01.05 ID:ukyExNHy0
乙、ありがとうございます。
>>404
CVはあまり考えるタイプじゃないのですが、女友だけキャラ作るのに参考にしたキャラがいて、そのキャラのCVが小清水亜美さんですね
投下します。
407 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/26(月) 21:47:13.04 ID:ukyExNHy0
女(夜の森は私と、女友の二人きり)
女(今はテントの中で眠りこけている男君と昨夜あった出来事――)
女(男君に介抱されて部屋まで送られて、寝言のフリして告白したことについて語る)
女(聞き終えた女友の反応はというと)
女友「はぁ………………」
女(とても大きなため息だった)
女「お、女友様……?」
女友「何でしょうか、女さん」
女(普段の呼び捨てではなく『さん』付けで呼ばれる。この時点でもうとても怖い)
408 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/26(月) 21:48:02.51 ID:ukyExNHy0
女「お、怒っているのでしょうか?」
女友「どうして私が怒らないといけないんですか? 怒られるような出来事をしたと思っているんですか?」
女「た、たぶんそうだと思います」
女友「たぶん? はっきりと何が原因なのか自覚していないんですか?」
女「すいません、私の何が至らなかったのかお教えください」
女(ビクビクと震えながら親友に許しを乞う)
女友「……冗談ですよ。怒ったフリです」
女友「今朝の落ち込み様を見るに反省はしているみたいですし、私まで責めるのは止めておきましょう」
女「あ、ありがとうございます」
女友「お礼なんていいですよ。怒ったら女をいじって楽しむ余裕も無くなりますしね」
女「……お礼言うんじゃなかった」
女(ニコニコしながら告げられた言葉は冗談で私を元気づけるためか、本心なのか…………後者じゃないよね?)
409 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/26(月) 21:48:57.25 ID:ukyExNHy0
女友「さて。まずは何から言いましょうか……」
女友「あ、そういえば昨夜はあれだけ私がお膳立てしたのに間違いは起きなかったんですね」
女「間違いって……1+1=3とか?」
女友「何早速ボケてるんですか。一夜の過ちって言った方が分かりやすいですか?」
女「一夜の……も、もちろん起きてないってば!!」
女友「酔っぱらった女性を介抱して部屋に連れ込み二人きり……」
女友「普通なら何も起きていないと言っても絶対に信じられない状況ですが」
女「そ、それでも何も起きなかったんだからね!! 男君はちゃんと私を紳士的に介抱したんだから!!」
女友「そっちは分かってます。私の期待は逆です。酔っぱらった女が男さんを誘う方です」
女「私からっ!?」
女友「当然でしょう。男さんの理性は鋼鉄です」
女友「それくらいで襲うようなら、とっくの昔に魅了スキルの命令で私たちは好き勝手されています」
女「そ、それは……そうかもだけど」
女(私から誘うって……そんなはしたないことは出来ない)
410 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/26(月) 21:49:52.93 ID:ukyExNHy0
女友「現時点で男さんから手を出すのを期待するなんて甘い見通しですよ」
女「で、でも。男君、あの夜に私のパーティーに入れてくださいって……」
女「私のこと少しは求められていると思ってたんだけど……」
女友「何言ってるんですか。あのとき男さんが求めたのは女の体だけですよ」
女「体だけっ!?」
女友「ええ。竜闘士の力を振るうその体だけです」
女「……ねえ、今わざと私の勘違いを誘うような言い回ししたでしょ?」
女友「鋼鉄の理性を持ってるって言ったばかりなのに勘違いする方が悪いんですよ」
女(私のあわてる姿に『してやったり』という表情の女友だが、そこで一転真剣な表情になった)
女友「大体女自身も言ったじゃないですか」
女友「私と一緒なら男さんに危険が陥ったときも助けられる、そのためにパーティーを組もうって」
女「そ、それは男君をパーティーに誘うための建前で……」
女友「男さんにとっては建前じゃないということですよ。現時点で男さんの女評はただの戦力です」
女「……そっか」
女友「まあほんの少しくらいは他の感情も混ざっているんでしょうが……」
女友「しかし、女はそんな認識だったから寝たフリで告白なんてしたわけですね」
女(ワンクッション終えて、女友が本題を切り出す)
411 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/26(月) 21:50:27.40 ID:ukyExNHy0
女「……はい」
女友「誰だって間違うことはあります。大事なのはそこから学ぶことです」
女友「これで現状についてちゃんと理解できましたね?」
女「うん。男君は魅了スキルで私が好意を持ったと……」
女「いや、好意を持たせてしまったと思って、そのことに罪悪感すら覚えている」
女友「まあ分からなくはない感情ですね」
女友「自分がスキルを暴発させたせいで女の行動を歪めている、という気持ちなのでしょう」
女「そんな私は元から男君のことを…………って」
女「『魅了スキルにかかったフリ』なんて嘘吐いた私が悪いのに言うのはズルいよね」
女友「よって告白を受けても想定内」
女友「むしろそこまで歪めているのかと罪悪感を強くしてしまったというわけですね」
女(このことはこの前の夜二人で話したはずだったのに……私は全く分かっていなかった)
412 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/26(月) 21:51:49.87 ID:ukyExNHy0
女「どうすればいいかな?」
女友「この件自体にはもうさわれないでしょう」
女友「寝言のフリなので女は知らない設定ですし、男さんも自分の胸の内にしまっているようなので取っ掛かりがありません」
女「……そう」
女(男君に心労を増やしてしまったな……)
女友「ですから挽回するためにどうするかです。女も男さんの厄介さについては身に染みて分かりましたよね」
女「厄介って……男君をそう悪く言うのは……」
女友「いいんですよ、乙女をここまで悩ませているのは悪い人です」
女(女友が悪戯っぽく微笑む)
413 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/26(月) 21:52:40.28 ID:ukyExNHy0
女「男君は私がいくらアプローチしても、魅了スキルでの好意により起こした行動だから受け入れないんだよね」
女「その理由はトラウマから来る恋愛アンチによるものだから克服させるしかない」
女友「はい。この前の夜話した通りです」
女「前半は今回の失敗で身に染みて分かったけど……でも、どうして恋愛アンチでそうなるの?」
女友「……そこからですか」
女(女友が呆れている)
女「ご、ごめん」
女友「……いえ。言われてみれば、ちゃんと説明しないと女のような人には分からないでしょうね」
女友「男さんとは真逆の思考回路をしていますし」
女「……?」
女(どういうことだろう?)
414 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/26(月) 21:53:44.46 ID:ukyExNHy0
女友「まず前提ですが、男さんは女のことを魅力的に思っています」
女友「これは女に魅了スキルがかかっていない理由を聞いたときにこぼした言葉から分かってましたが」
女友「今回の寝たフリの告白に動揺したことで補強されました。嫌いな人間の告白に動揺する人はいません」
女「そ、そう……それは嬉しいな」
女友「そして現在魅了スキルによってではありますが、女に好意を抱かれる状況が出来ています」
女友「となれば男さんも好意を返して結ばれる……それが普通のはずです」
女(女友が話す仮定はとても幸せなものだが、あくまで仮定だ)
女「でも現実は違うよね?」
女友「はい。おそらくですが男さんは女に裏切られるのが怖いのでしょう。実体の無い好意に怯えていることから予想できます」
女「私は裏切らないよ!」
女友「それが男さんにとっては確信が付かないのです」
女友「女の言葉は魅了スキルによって歪められていますし、女の心の内も分かりませんから」
女友「ですから裏切られるくらいなら、最初から信じない、受け入れない、距離を置くというわけです」
女「……ん、ちょっと待って」
女(女友が何か不可解なことを言った気がする)
415 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/26(月) 21:54:46.83 ID:ukyExNHy0
女友「どうしましたか、女?」
女「それっておかしいでしょ。最初から駄目だったときのことを考えてたら何も動けないじゃん」
女友「……ええ、その通りですよ。ですが男さんはそういう考えなのです」
女「???」
女(女友の答えでさらに分からなくなる)
女友「やはり今回の失敗は根本的なところから出たズレによるものですか。これはどうすれば……」
女「え、え? 私、何かおかしなこと言った?」
女友「いえ、私個人としては女は正しいことを言っていると思いますよ」
女友「でも世の中女が考えもしないような人もいるわけで……」
女友「これは言葉で説明しても理解してもらえないと思います」
女「そんな諦めないでよ!」
女友「前回説明しておいたことを理解せずに失敗した人の言葉ではないですね」
女「ごめんなさい、調子乗りました……」
女(まさにその通りだ)
416 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/26(月) 21:55:19.82 ID:ukyExNHy0
女友「百の言葉より、一の体験です」
女友「女と男さん、これからも一緒に旅するわけですし……」
女友「いつか男さんの本質を目の当たりにするでしょう。話はまたそのときにします」
女「男君の本質……」
女(私が男君と結ばれるために乗り越えないといけない障害)
女(今はピンとこないけど……女友の言葉によればいずれ分かるのだろう)
女友「さて、明日はドラゴン討伐ですし今日は早めに寝ましょうか」
女「……うん、分かった」
女(女友の言葉に従って二人でテントに入った)
417 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/26(月) 21:59:23.94 ID:ukyExNHy0
続く。
具体的には第二章ラスト付近です。
418 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/11/26(月) 23:11:17.66 ID:NYKLWEZ/o
乙ー
419 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/11/26(月) 23:12:06.12 ID:/igTKaGbO
乙ー
420 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/27(火) 06:52:22.76 ID:lXW0kPBpO
乙!
421 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:41:34.75 ID:ZofcgQfe0
乙、ありがとうございます。
投下します。
422 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:42:02.00 ID:ZofcgQfe0
男(翌朝、俺たちはドラゴンが生息する洞窟に乗り込んでいた)
男(洞窟内部の道は鉱石の採掘に訪れる人のために整備されていたようだが)
男(この一年ドラゴンが出たせいで近寄る人がいなかったため少々荒れているという状況だった)
男(その道を俺は普通の状態で進んでいた)
男(体を軽くする魔法『妖精の羽根(フェアリーフェザー)』を今日は女友に使ってもらっていない)
男(この異世界に来て初めての強敵を相手する前に魔力を無駄使いするわけにもいかないので当然の判断だ)
男(そうでなくとも、昨日ほど早くは進めなかっただろう)
男(進むにつれて魔物と遭遇する頻度が上がり、倒すために止まることが多かったからだ)
423 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:43:10.13 ID:ZofcgQfe0
女「『竜の爪(ドラゴンクロー)』!」
男(女の手から伸びたエネルギー体の爪がコウモリのような魔物を引き裂く)
男(いつも使っている衝撃波『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』は洞窟の狭い通路で使うと危ないのと)
男(コウモリやネズミといったすばしっこい魔物が多くなったため、小回りの利くスキルをメインで使っている)
男「しかし魔物が多くなってきたな……」
女友「それだけドラゴンが近いのでしょう」
男「え、何か関係があるのか?」
女友「ドラゴンのように強大な魔物の周辺は魔物が多くなるようです」
女友「その魔力が周囲を汚染して魔物の発生を促進させるのが原因だそうです」
男「へえ……っていうか魔物って発生するものなんだな」
女友「今回のドラゴン討伐はその素材が重宝されるのもありますが」
女友「討伐することでこの洞窟から魔物が減り、鉱石を採掘する者が訪れやすくなるという点でも意義があるのです」
女「多くの人のためになる……よし、頑張らないとね!」
男(女らしいやる気の出し方だ)
男(にしてもドラゴンがいるだけで迷惑ってまるで害獣みたいな扱いだな)
男(神秘さとか神々しさもねえ)
424 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:43:42.42 ID:ZofcgQfe0
男(しばらく進むと通路を抜けた)
男(そこは天井は吹き抜けとなって外と繋がっており)
男(とてつもなく大きい……はずの……空間が広がっている)
男(何故疑問系になったのかというと今までの狭い通路とのギャップに加えて)
男(そこにいる生物のサイズが俺のこれまでの常識からすると規格外すぎて、感覚を狂わせているからだった)
男(つまりは討伐対象であるドラゴンが目の前にいた)
男(商会で見た資料によると20m級とあったが、まだ少々距離があるのと比較するものがないためピンと来ない)
男(誰か隣にタバコの箱を置いてくれ)
425 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:44:18.29 ID:ZofcgQfe0
ドラゴン「ガァァァァァッ!!」
男(と、呑気に考えてたらドラゴンが咆哮をあげた)
男「ひっ……!」
男(目と目があったような気がした)
男(まだ距離があるというのにドラゴンは確実にこちらを認識している)
男(その圧倒的な存在感、勇ましい咆哮、鋭い視線)
男(全てに俺は畏怖していた)
男(誰だよ、神秘さも神々しさも無いって言ったの)
男(十分にヤバいやつじゃねえか!?)
426 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:44:54.48 ID:ZofcgQfe0
女友「今のは威嚇でしょうか?」
女「こっちに気づいているみたいだね」
男(そんなビビっている俺とは対照的に、女友と女は臨戦モードに入っている)
女友「不意打ちから始めたかったのですが仕方ありませんね」
女「距離を詰められる前にこっちからいこうか。女友はサポートお願い」
女「男君は女友の側を離れないでね、そっちに近づけさせることは絶対にさせないつもりだけど」
男「わ、分かった」
男(俺は意地でも女友の側を離れないことに決める)
男(こういうときに足手まといが勝手に行動してピンチに陥ったりするようなお約束はごめんだったし)
男(そもそも俺は自分から動けないくらいに萎縮していた)
女「じゃあ、行くよ!!」
男(女がドラゴン目掛けて駆け出す。ドラゴン討伐の開始のようだ)
427 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:45:27.63 ID:ZofcgQfe0
男(女の本気ダッシュは見る見る内にドラゴンとの距離を詰めていく)
男(それが20mほどになったときにドラゴンが前足をあげた。おそらく女を踏み潰すつもりだろうか)
男「だが、早くないか……?」
男(女から接近しているとはいえ、まだ十分な距離がある)
男(これでは踏み付けも空を切るのではないかと見えたそのときだった)
男(女のいる一帯が影となったのは)
男「っ……!?」
男(ドラゴンのサイズを甘く見ていた)
男(その巨躯は当然一歩の幅が大きく、足も巨大な柱のようだ)
男(それが正確に女へと迫る)
男(避けようにも範囲が広すぎる)
男(早速絶体絶命だ、と俺は血の気が引くが)
428 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:46:10.57 ID:ZofcgQfe0
女「『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!!」
男(女は冷静でその足に衝撃波をぶつけた)
男(パワーも十分で相殺した結果、ドラゴンはたたらを踏む)
女「『竜の翼(ドラゴンウィング)』!!」
女「『竜の爪(ドラゴンクロー)』!!」
男(その隙に女はエネルギー体の翼と爪を生やし、飛び上がってドラゴンの顔面を斬りつける)
ドラゴン「グガァァァァァッ……!!」
男(本日二度目となる竜の声。しかし、一回目のように俺が畏怖することはなかった)
男(何故ならドラゴンが痛がっていることが分かったからだ)
429 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:46:40.16 ID:ZofcgQfe0
男「効いている……」
男(飛んで近付いた女がまるで小鳥のように見えることから、ドラゴンの大きさを相対的に俺は掴んだ)
男(圧倒的なサイズ比だが、正面から相手の攻撃を打ち落とし一撃を入れたのは女の方だ)
男(さらに女の攻撃の手は止まらない)
女「『竜の震脚(ドラゴンスタンプ)』!!」
男(天空から落とす衝撃波を竜の背中に打ち込むとその体が揺れる。またも良い攻撃が入った)
男(とはいえドラゴンもやられっぱなしでいるつもりはないようだ)
男(首を回し顔の正面に女を捉える。そして少しのタメがあって)
ドラゴン「ゴォォォォッ!!」
男(口から火を噴いた)
430 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:47:12.44 ID:ZofcgQfe0
男「っ……!」
男(商会の資料で対火装備を推奨していた。それはこれを恐れて書かれていたのだろう)
男(ファイアーブレス)
男(高速・広範囲に撒かれた火に女は逃げられず)
女「『竜の鱗(ドラゴンスケイル)』!!」
男(俺が初めて見るスキルを発動すると、女の周囲がエネルギー体の球状で覆われる。防御スキルか)
男(それによって火をやりすごすが、どうやらその間動けないようだ)
男(ドラゴンが追撃のために尻尾を鋭く振って、上空の女を撃ち落とさんとするが)
女友「『吹雪の一撃(ブリザードアタック)』!!」
男(野球ボールほどのある氷塊が雨のように降って、ドラゴンの体を打ち付ける)
男(その痛みでたまらず攻撃を中断)
男(女もその隙に動けるようになり危機を脱する)
431 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:47:44.24 ID:ZofcgQfe0
男「ふぅ……。今のは女友の魔法だよな?」
女友「はい。サポートが私の役目ですので」
男「女を上手く救ったな」
女友「まあ、必要なかったかもしれませんですが。女ならあの尻尾攻撃も防御しきれたでしょうし」
男「そうなのか?」
男(ブレスで削れたところに攻撃されたらヤバいと思ったがそうでもなかったようだ)
女友「男さんもそろそろ落ち着きましたか?」
男「え?」
女友「ドラゴンに威嚇されてからずっと恐怖していたでしょう?」
女友「ですがこの通り……私たちにかかれば敵ではありません」
男「……みたいだな」
男(もう少し苦戦するものかと思ったが、ここまでの攻防で終始ドラゴンを圧倒している)
432 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:48:13.65 ID:ZofcgQfe0
女友「もう少し苦戦する……と思っていたんじゃないですか?」
男「心を読んだかのようにピッタリ当てるな」
女友「男さんが分かりやすいんですよ。それに苦戦なんてするはず無いじゃないですか」
女友「私たちだって死ぬのは怖いですから」
女友「絶対にドラゴンに勝てる、勝率100%だと確信しているからこそ、こうしてドラゴン討伐に挑んでいるんです」
男「……そうだな。失敗したら死だと考えると、例え80%だとしても絶対挑戦したくねえ」
男(ゲームならとりあえずで挑むだろうがここは現実だ)
男(道中で再確認したつもりだったが、まだ分かっていなかったようだ)
433 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:48:55.54 ID:ZofcgQfe0
女友「ということで後は大船に乗ったつもりで見ていてください。『雷の槍(サンダーランス)』!!」
男(女友が魔法を発動すると、雷の槍がドラゴンの足を刺して動きを一時的に止める)
女「ナイス、女友!! 『竜の拳(ドラゴンナックル)』!!」
男(女はドラゴンの懐に潜り込むと、竜の力を込めた拳で思いっきり殴りつける)
ドラゴン「グガァァァァッ……!!」
男(ドラゴンはたまらず声をあげる。痛みに喚いている)
男「大船か……そうさせてもらうか」
男(ドラゴンからは先ほどまでの威圧感が全く感じられなかった)
434 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:49:36.61 ID:ZofcgQfe0
男(それからドラゴンと戦闘を続けること数分)
男(特に想定外は起きず、順調に追いつめていく)
男(女友曰く、想定外とは実力が伯仲している場合に起きること)
男(私たちとドラゴン相手では差がありすぎます、ということらしい)
男(ダメージを負ったドラゴンの動きは見る見る精細を欠いていき、決着はもう間近と思われた)
男(が、そこで女友が戸惑いを露わにする)
女友「おかしいですね……」
男「何か気になることがあるのか!?」
男(やはり最後まで順調には行かないのかと、俺は警戒するが)
435 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:50:26.43 ID:ZofcgQfe0
女友「いえ、ドラゴンが予想以上に粘っているというだけです」
女友「詰みまでの手順が延びるだけで、大勢に影響は無いのですが……」
女友「この粘りは何から来ているのでしょうか?」
男「あー気迫が凄いとは思っていたが……死にたくないってだけじゃないのか?」
女友「んー……それだけでしょうか?」
男(俺の答えでは納得できないようで、女友が疑問をつぶやいたそのとき)
男(広場に新たなドラゴンが現れた)
436 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:50:59.24 ID:ZofcgQfe0
男「っ……!?」
男(現在ドラゴンと戦っている広場には、俺たちが通ってきた通路以外にも横穴があるようだった)
男(その一つからドラゴンが出てきたのだ)
男(といっても絶望するような状況ではない)
男(何故ならそのドラゴンは現在戦っているものと比べて、とても小さかったからだ)
男(距離があるから正確には分からないが、体長2〜3mほどだろうか)
男(サイズの差からして俺は自然と思いつくものがあった)
男「あれは……ドラゴンの子供なのか?」
437 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/27(火) 22:51:27.66 ID:ZofcgQfe0
続く。
戦闘描写久しぶりに書きました。
438 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/11/27(火) 23:42:04.75 ID:4wFlMyAno
乙ー
439 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/28(水) 06:37:26.30 ID:6oAeISqMO
乙!
440 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/28(水) 23:21:35.31 ID:UXkdiw4H0
乙、ありがとうございます。
投下します。
441 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/28(水) 23:22:40.92 ID:UXkdiw4H0
男(討伐完了しようとした目前、広場に新たな小さいドラゴンが現れたことで戦局はさらに傾いた)
男(今まで戦っていた大きい方のドラゴンが、小さなドラゴンを庇うような立ち回りに変化したからだった)
男(それでは動きが制限され、女の攻撃を避けることも出来ない)
男(元々俺たちが優勢だったのが、盤石となっていく)
男(とはいえやりづらいところがあった)
男「親が子を守ろうとしている……みたいだな」
男(見たまま率直な感想をつぶやく)
男(子を守る親を攻撃する絵面がリンチのようだ)
男(女も同じことを感じたのか、一度引いて俺たちのところに戻ってくる)
442 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/28(水) 23:23:21.50 ID:UXkdiw4H0
女「えっと……どうしようか?」
男「目的としてはドラゴン討伐だったんだが……このまま倒しちまっていいのか?」
女「あの小さいのたぶん子供だよね。で、親が守ろうとしている……って思うとやりづらいよね」
男(ドラゴンの気迫の源はこの子供ドラゴンだったのだろう)
男(自分が倒れたら次は子供が、と思って踏ん張っていたのだ)
男(ドラゴンは攻撃が止んで、俺たちに接近する絶好のチャンスだというのに動く様子がない)
男(それだけダメージを食らったということだろう)
男(休息に務めているところに、子供ドラゴンが寄り添っていた)
443 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/28(水) 23:23:56.44 ID:UXkdiw4H0
男「………………」
男(さっきまで魔物だからって倒すことに躊躇っても無かったのに、こうして迷っているのは勝手過ぎる)
男(だが、思ってしまったことは取り消せない)
男(どうするかと悩んでいると)
女友「何言ってるんですか、二人とも。絶好のチャンスですし、このまま二体とも倒しましょう」
男(女友が事も無げに告げた)
男「いや、だからな……」
女友「親が子供を庇おうとしてるから倒しづらいですか。そんなことありえませんよ」
男「え?」
男(何か女友の様子が……)
444 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/28(水) 23:24:28.64 ID:UXkdiw4H0
女友「子供っていうのは親の奴隷です。道具です」
女友「親の言うことを聞いて完璧こなさなければなりません」
女友「子にとって親は変えようがありませんが、親にとって子供は変わりを用意できます」
女友「なのに命をかけて庇うなんてありえません」
女友「ですからあれは演技です。私たちの情に訴えかけるための」
女友「実際こうして攻撃の手を緩めてドラゴンの回復させています」
女友「それを許してはいけません」
女友「ですから今すぐに攻撃して二体まとめて――」
男「女友、深呼吸しろ。命令だ」
女友「えっ? すう……はあ……。すう……はあ……」
男(女友が戸惑いながら深呼吸する。魅了スキルの命令によって強制的に落ち着かせる)
445 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/28(水) 23:25:04.56 ID:UXkdiw4H0
男「よし、止めていいぞ」
女友「………………すいません、男さん」
男「もう大丈夫か?」
女友「はい♪ もういつも通りの私ですよ♪」
男(流石と言える切り替えの早さだ)
男「……ならいい」
男(子供は親の奴隷で道具……か)
男(いつもの様子が超然としているため考えもしなかったが)
男(当然俺の恋愛アンチのように女友にだって何か抱えているものがあっておかしくない)
男(今のはそれが表に出てきたというわけだろう)
男(しかし女友はすぐに取り繕った。触れて欲しくないということだ)
男(俺も恋愛アンチについて触れて欲しくないから気持ちは分かる)
男(だから何も言わなかった)
446 :
◆YySYGxxFkU
[saga]:2018/11/28(水) 23:26:06.24 ID:UXkdiw4H0
女友「さて落ち着きましたけど、それでも私の意見は変わりませんよ。あのドラゴンを討伐するべきです」
男「……まあ、そうだな。元々の目的がドラゴン討伐だしな。ここまで来たのが無駄になっちまう」
女友「ええ。それにドラゴンは強力な魔物です」
女友「生きているだけで周辺の土地を汚染し、魔物を発生させますので討伐すべきです」
男「あー、害獣みたいな扱いされてるんだったか」
男(日本でも山を下りてきた獣が畑を荒らしたり、人を襲ったりする被害はあった)
男(それを食い止めるために殺処分すると「かわいそうじゃないか!」という声があがったものだった)
男(気持ちは分かるが、だったら被害を受けてもいいのか)
男(殺処分だってしたくてしているわけじゃない。麻酔で眠らせて返せばいいだろ)
男(そもそも住処を奪った人間が悪いんだ……というように紛糾した議論を思い出す)
男(つまりは難しい問題ということだ。どっちが正しいと断言することは、俺には出来ない)
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