男「恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件」

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304 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:22:37.77 ID:akT/PIun0

男(俺は腹を括って女神の遣いであることなど全てを話す)



男「――それで世界を救うため、俺たちが元の世界に戻るため宝玉を譲ってもらえないかとお願いしたいわけです」

男「虫の良いことを言っていることは自覚しています」



商会長「なるほどな。一般的な意見を言ってもいいだろうか?」

男「はい」



商会長「今の君は壮大な作り話で騙して宝石を奪おうとする詐欺師だとしか見られないだろう」



男「……でしょうね」

男(覚悟していたので詐欺師呼ばわりも受け入れる)

305 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:23:20.28 ID:akT/PIun0

商会長「そこで反発しないだけの分別はあるか」

商会長「しかし信じられないだろうことを分かっていて、そのまま話す辺りは未熟であるな」

商会長「世の中正しいことだけでは動かない」

商会長「もし今の話が本当で、世界平和のために宝玉を欲するならば、嘘を吐いてでも私を納得させるべきだった」



男「……そうしたら嘘を見抜いて、俺を詐欺師扱いするんじゃないですか?」

商会長「もちろんだ。嘘は見破られる方が悪い」



男(そもそも八方塞がりだったか)

306 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:23:57.57 ID:akT/PIun0

商会長「まあ良い。荒唐無稽な話ではあるが、少年が嘘を吐いていないことは分かる」

男「それだけ俺が分かりやすいってことですか」

商会長「そう不貞腐れるな。何にしろ人に信じてもらえるのは才能だぞ」

男(相手に励まされる始末だ。ボッチは人と話さないため対人での駆け引きに疎い。それが浮き彫りになった形である)





商会長「だが、それでも今の君には宝玉を渡せない」

男「俺に何が足りないんですか?」

商会長「まずは『対価』だ。言ったとおり、宝玉は宝石として価値ある物だ」

商会長「私も商人でな、金を払えない者に商品を渡すことは出来ないのだが……そうだな、大体これくらいだが君は支払えるのか?」

男「……」

男(提示された金額は現在の俺たちの全財産より大きい)

307 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:24:40.78 ID:akT/PIun0

商会長「そして金があったとしても、もう一つ『価値』が無ければ売ることは出来ない。というのも――」

秘書「時間です、会長。そろそろ次の商談に向かわないと」

男(そのときずっと黙って見守っていた秘書が声をかけた)



商会長「分かっている。では行くぞ、秘書」

秘書「了解しました」



男(秘書を付き従えてその場を去ろうとする商会長)

男(いきなりのことに俺は慌てて引き留めようとした)



男「ちょ、ちょっと待っ……」

商会長「残念だが待てない」



男(が、その歩みを止めないまま商会長は返事する)

308 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:25:33.01 ID:akT/PIun0

秘書「会長は多忙なお方、今回のように普通に話せる機会の方が珍しいです」

秘書「これ以上の用があるなら……時間を割いてでも相手しないといけないという『価値』を見せてください」



商会長「あまり厳しいことを言ってやるな、秘書」

秘書「言っていることは間違っていないと思いますが」

商会長「……そういうことだ、少年。個人的にはその両手の花どちらが本命なのかも気になる……また話す機会があったら教えてくれ」

男(結局俺は二人の姿を見送ることしか出来なかった)



男「……だから両手に花じゃないって」

男(不満をぽつりとこぼす)

男(せっかくの宝玉を手に入れるチャンスを失ってしまった)

309 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:26:17.31 ID:akT/PIun0

男「まあいきなりすぎて準備も整ってなかったから、しょうがないか」

男(落ち込んでいてもしょうがないので気を取り直す)



男「それに収穫が無いわけでも無いしな」



男(宝玉の場所が分かりやるべきことが明確になったことは大きい)

男(商会長にもう一度宝玉を渡してもらうように交渉する)

男(そのためには……やつが言っていたように『対価』の用意と『価値』の証明が必要だ)



男「さて、具体的にはどうするか。二人と話し合って考えないとな……」

男「……って、そういえば二人は?」



男(商会長と秘書を相手に俺一人で立ち回っていたが……そうだ、俺には二人の仲間がいるはずなのだ)

男(なのに一切の援護も無かったが……二人はどうしているんだ?)

男(きょろきょろと辺りを見回すと二人はすぐに見つかった)

310 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:27:04.22 ID:akT/PIun0



女「zzz……」

男(顔を真っ赤にしてテーブルに頭を埋めている女と)



MC「おおっと、王者陥落!! 何と、まさか誰がこの結末を予想できただろうか!? この少女、見た目と裏腹に酒豪だぞーーっ!!」

女友「ふふっ、なんか勝っちゃいました」

男(飲み比べに参加して人だかりの中心にいる女友の姿があった)





男「二人とも……何してるんだ?」



311 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/19(月) 17:27:55.93 ID:akT/PIun0
続く。

導入も終わったので話を転がしていこうと思います。
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/19(月) 18:13:06.01 ID:+7U5Css40

男は冷静に装っているけど実際はそうじゃないのがネックだな
合理的なキャラなら「秘書を魅力スキルにかからせて協力的にしたり情報を得たりする」ことができるけど…
目的のために非情になりなさそうだよね。根はいいやつぽいし
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/19(月) 19:59:22.31 ID:dzJxKQ23O
乙ー
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 06:31:46.20 ID:0ZHd0hb9O
乙!
315 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/20(火) 17:52:17.42 ID:QAPqYL8a0
>>312
そうですね、男は未熟な部分がある主人公としてデザインしてます

あと一応今回魅了スキルを使わなかった理由として
光の柱が立つから人が多いところで使うと目立つ、横の商会長に気付かれるなどの要因があります
どこかで描写しとけばよかったですね

投下します。
316 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/20(火) 17:53:53.83 ID:QAPqYL8a0

女友「酔い潰れた元王者を運び終わるまで休憩ですか。さて、新王者として防衛戦も気を抜くことなくやっていきましょうか」

男「おいこら、何に気合いを入れてるんだ」

女友「あ、男さん。商会長と秘書さんとの話は終わったんですか?」

男(どうやら一休止に戻ってきたらしい女友を捕まえる)



男「ああ、どうにか宝玉の話を聞けて…………って、どうしてあの二人が商会長とその秘書だって知ってるんだ?」

男(話の途中で判明した事実のはずだ。そのとき女友は近くにいなかったはず)



女友「お二人ともどうやら『認識阻害(ジャミング)』のスキルを使っているのは『真実の眼(トゥルーアイ)』で分かっていたので」

女友「何やら訳ありなのだろうとでスキル『ステータス看破』を使ったんです」

女友「そしたらその名前が情報にあった商会長と秘書と一致していたので」



男(聞き慣れない単語はスキルや魔法なのだろう。使いこなしているようだ)

317 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/20(火) 17:54:26.93 ID:QAPqYL8a0

男「分かっていたなら最初から教えて欲しかったんだが……」

女友「ふふっ、すいません。ですが正体を隠している二人の前で告げるのも難しかったので」

男「まあ、それもそうか」

女友「二人から何か情報を得られましたか?」



男「ああ。30年前に女神教の教会を取り壊したのは二人も属する古参商会らしい」

男「当事者である商会長が宝玉をそのまま持ち続けている。だから譲ってもらえないか頼んだが当然のように拒否された」

男「交渉してもいいがそれには足りない物があると言われて、この場を去られたってところだ」



女友「なるほど。ではまた話を出来る機会を設けることが当分の目標というところでしょうか」

女友「今回の邂逅は偶然で、想定通り行政のトップである商会長ともなると話を付けるのも一苦労でしょうし」

女友「あと宝玉の対価も用意しないといけないですね」



男「そうだな」

男(打てば響くとはこのことで、特に説明することなく女友は状況や俺の危惧していることを理解してくれた)

318 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/20(火) 17:55:03.54 ID:QAPqYL8a0

男「それで俺が情報を聞き出している間に、おまえは飲み比べをしていたというわけか」

男「にしては酔っているようには見えないな、ちゃんと思考できているようだし。あれか、酔いさましの魔法使ったのか」

女友「そんな無粋なことはしてませんよ、私の実力です」

女友「初めて飲んでみて分かりましたが、どうやらアルコールに相当強いみたいです」

女友「先ほどの飲み比べも10杯飲んで競り勝ちましたし」



男「10杯って……無駄使いしすぎじゃねえか?」

女友「大丈夫ですよ。飲み比べの敗者が勝者の分まで料金を支払うシステムですので」

男「それはそれで容赦ねえな」



男(運び出された元王者とやらの姿は俺からも見えたがおっさんだった)

男(女友みたいな少女に負けてはプライドがズタズタで料金の支払いまでとなると踏んだり蹴ったりだろう)

319 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/20(火) 17:55:44.70 ID:QAPqYL8a0

男「飲み比べか……遊んでるわけじゃないんだよな? おまえのことだ、理由あっての行動なんだよな」

女友「はい。どうしても私たちは余所者ですから。こうして輪の中に入ることで得られる情報もあると判断してのことです」



客「おーい!! 可憐な王者さんよう、次の挑戦者が現れたぜー!!」

男(人だかりから女友を呼ぶ声がする。確かに女友の存在は酒場の客たちに受け入れられているようだ)

男(コミュ力の塊のような女友だからこそ為せたことだろう)



女友「はーい、今行きまーす!」

女友「……ということで後の情報収集は私に任せて、男さんは女を連れて先に部屋に戻っていてください」

女友「会計は私がまとめてしておきますので」

男(女友はテーブルに顔を埋めている親友の介抱を俺に頼む)



男「そういや女はどうしてこうなったんだ?」

女友「最初こそ威勢良く飲んでいましたが、二杯目早々に潰れたようです」

女友「状態異常耐性も加味してこれですから、元々とてもお酒に弱いんでしょうね」

320 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/20(火) 17:56:22.50 ID:QAPqYL8a0

男「そうだろうとは思っていたが……しかし、もう一回飲み比べに行く前に女を部屋に運ぶくらいは手伝ってくれないか?」

女友「私が手伝うまでもないでしょう。女は竜闘士という力を得ても一人の女の子です、男さんだけで部屋まで運べるはずです」

男「いや、だが……」



男(女がここまで酔っていて一人で歩けるとは思えず、おそらく肩を貸すなどの身体的接触を伴う介助が必要になるであろう)

男(その役割を務めるのはどうにか避けたかったので女友に押しつけようとしたのだが拒まれた)

男(俺の思考を分かった上で拒否しているのは口の端が上がっていることから読みとれる)



女友「ちなみに私はあと二時間は部屋に戻らないでしょうから、その間二人きりの部屋で何が起こっても気づきませんよ」



男(その上、このような煽る発言までしてきた)



男「何の心配しているんだよっ!?」

女友「送り狼になってもいいんですよ」

男「変な提案するなっ!!」

321 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/20(火) 17:57:52.28 ID:QAPqYL8a0

女友「ふふっ……念のために言っておきますが」

女友「この酒場に酔いつぶれた少女一人放って置いて、自分だけ部屋に戻るなんて真似したらどうなるかは分かってますよね?」

男「さすがにそんな不義理なことはしないが……」

男「あれ、おかしいな、魅了スキルで命令出せる立場にあるのは俺のはずだよな……?」

男(何か完全に主従が逆転している気がする)



MC「おーっと、王者の到着が遅れているぞー! 挑戦者に恐れをなして逃げ出したかー!?」

女友「どうやらタイムリミットですね」

女友「古参商会についての情報は集めておきますから、そちらはよろしくお願いしますよ、男さん」

男(MCの声が聞こえてくると、女友は後を俺に任せて人だかりに向かう)



男「……ったく、あんまり飲み過ぎるなよー!!」

女友「分かってます、ほどほどにしますね」

男(こちらを振り返らずに告げられた女友の言葉に全然そのつもりが無いことは俺でも分かった)

322 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/20(火) 17:58:37.24 ID:QAPqYL8a0

男(女友が去ったことでテーブルに残されたのは俺と)

女「zzz……」

男(先ほどから変わることなく寝息を立てている女だ)

男(この騒がしい酒場においてここまで寝ていられることは尊敬に値する)



男「どうするか……」

男(考えても出てくる選択肢は女を介抱して部屋に戻るというものしか思いつかなかった)

男(女友が飲み比べを終えて戻ってくるまで俺も情報収集しながらこの酒場で待つことも考えたが)

男(正直俺は飲めや騒げやの雰囲気に居心地の悪さを覚えていて部屋に戻りたかった)

男(後の情報収集は言ってたように女友に任せれば大丈夫だろうという算段もある)

男(となれば女を置いていくわけにもいかない)

323 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/20(火) 17:59:12.03 ID:QAPqYL8a0

男「はぁ……おーい。女ー。起きろー」

男(テーブルを軽く叩きながら声をかける。寝ている女子の身体に触れる勇気がないが故の行動だったが)



女「zzz……」

男(それでは足りないようで女はピクリとも動かない)



男(呑気に寝ているその姿に、このままテーブルを思いっきり引いて女の支えを無くしてやろうかとも考えたが、そんな邪険に扱っては女友に怒られる)



男「部屋に戻るぞー、女ー」

男(仕方なく女の肩を掴んで身体を揺すりながら声をかける)



女「…………ん、男君?」



男(すると今度はどうにか女の意識が戻った)

男(とはいえ腕は未だテーブルに乗せたまま顔だけを上げている状況だ)

男(そのまま顔をまた伏せればすぐに寝てしまうだろうことは想像に難くない)

324 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/20(火) 17:59:56.56 ID:QAPqYL8a0

男「ああ、俺だ。状況は分かるか?」

女「分かんない」

男(酔っているのか少々呂律が回っておらず、端的になる女の言葉)



男「おまえは酒を飲んで潰れてたんだ。こんなところで寝るわけにもいかないし、部屋に戻るぞ」

女「うーん……」

男「すぐにも寝そうだな……ほら、歩けるか?」

女「歩けない」

男「しょうがない……じゃあ立つだけでいい。俺が支えて移動してやるから」

女「やだ、動きたくない」

男「やだじゃなくてだな……それだと部屋に戻れないだろ?」

男(俺はどうにか女を説得しようとするが)





女「じゃあ男君、おぶってー」

男「…………は?」





男(次の女の言葉で思考停止に陥るのだった)

325 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/20(火) 18:04:36.97 ID:QAPqYL8a0
続く。

この作品なろうでも投稿していますが、あっちでは未だに感想0です。
こちらの反応はとても励みになっております。
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 18:16:32.05 ID:t12QU520O
乙!
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/20(火) 20:53:03.11 ID:lrhQPBPbO
乙ー
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 22:51:40.53 ID:i0YYnP13O
乙乙
完全に女友は女とくっつけようとしてるけど魅了って命令できるだけなのかな?
男を女と女友との取り合いの末に3P的なのは無いのかね??
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/21(水) 00:57:33.13 ID:OkgcyEdE0

個人的には魅力にかかったガチレズ女はどうなるか気になるけど、この男はそういうの興味なさそうだからなー
「実験」や「興味」とかで常識の枠を超えないタイプぽいし
330 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/21(水) 22:15:43.32 ID:yzZR/yra0
>>328 女友は魅了スキルにより男に好意持ってますが、それをコントロールして女の応援に徹している感じです
今後どうなるかは不明

>>329 考えてみれば現時点で魅了スキルにかかってるの女友だけですからねー
今後魅了スキル使っていきますが、特殊パターンは何個か思いついてます

投下します。
331 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/21(水) 22:17:12.82 ID:yzZR/yra0

男『俺は気づいたんだ。女、君の気持ちに』

女『男君……わ、私の気持ちって……』



男『そしてそれは俺も同じだ』

女『えっ……!』



男『愛しているよ、女』

女『男君……!』



女(男君の胸の内に私は飛び込むと、両腕を回されて抱きしめられる)



男『ありがとう、女』

女『いいよ、お礼なんて。私だって男君のこと……あ、愛しているんだから』

332 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/21(水) 22:18:08.03 ID:yzZR/yra0

女(抱き合いながら顔を上げると、至近距離に男君の顔があった)

女(目があってその奥の心もつながる)

女(お互いに思い合っていることが、私の理想が叶ったことが実感できた)



女(ようやく男君と恋人同士になれたんだ)

女(その事実を思うだけでとても温かい気持ちになる)

女(長い片思いの時期を振り返ると、今の状況がまるで『夢』みたいに思えて…………………………)



女「だ、駄目……っ!」



女(気づきから世界が崩落を始める)



女「私は男君と恋人になれたんだ……恋人になれたんだ……!」

女(言葉で補強しても崩壊は止まらない)



女(ならばせめて後少しだけでも男君の温もりをと伸ばした手には)

女(さっきまでの暖かさは消え失せてむなしさだけしか感じられない)



女(世界は無へと戻って行き――――そこで私は目が覚めた)

333 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/21(水) 22:18:53.54 ID:yzZR/yra0



女「………………」



女(そうだよね、夢だよね)

女(まぶたこそ未だに重く開けられないが、意識はすっかり覚醒していた)



女(思い返してみると何とも不自然な夢だった。まあ夢とはそういうものだけど)

女(男君とは一緒に冒険するようになって話す機会が増えたが、私に心を開ききっていない)

女(どこか壁を作って接している)

女(見ていれば分かることであったし、それ以外にスキンシップの取り方でも分かった)

女(男君の方から私に触れたのは、あのカイ君に襲われた夜にパーティーを組もうと手を差し出した一回だけだ)

女(今日の道中のチョップはちょっと違うし)



女(もちろん男君の性格的にスキンシップが苦手ってのは分かっている)

女(現代的価値観から恥ずかしいという気持ちも分かる)

女(でも……もうちょっと積極的になってくれてもいいのにと思う)



女(とにかくそういう状況なのに、いきなり告白されるわけがない)

女(夢とは自分の頭の中にない物を見ることが出来ないわけで、あの男君は私が都合良く生み出した妄想というわけだった)

334 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/21(水) 22:19:30.31 ID:yzZR/yra0

女(それにしてもどうして寝ていたんだっけ)

女(思い返してみると、最後の記憶は気分良くお酒を飲んでいたものだった)



女(そうだ、男君と一緒の席でお酒という事実に舞い上がって、早々に潰れたんだった)

女(頭がズキズキする。世界がグラグラと揺れているように錯覚する)

女(落ち着くまでもうちょっと安静にしていよう)



女(私はもう一度寝ようとするが……それなのに世界が揺れている感覚が収まらない)

女(そんなに飲み過ぎたのか、と今後お酒には気を付けるように自戒して……気づいた)





女(違う、これ本当に揺れているんだ)

女(どうして? ずっと地震が起きているわけないし)

女(気になって目を開けて状況を確認すると)

335 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/21(水) 22:20:11.52 ID:yzZR/yra0



男「はぁ……やっと酒場を出て、宿屋の方に戻ってこれたな」



女(とても近くから男君の愚痴る言葉が聞こえてきた)



女「……?」

女(なのに男君の顔が見当たらない。目の前に広がるのは私を支える大きな背中で…………)



女「え……」



女(ここで驚きのあまり大声を上げなかった自分を誉めたかった)

女(それだけ今の状況は衝撃的だった)

女(世界が揺れているように感じたのも当然だ)



女(だって今、私は――男君におんぶされて移動しているのだから)

336 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/21(水) 22:22:19.39 ID:yzZR/yra0

男「っと……ああもう、呑気に寝やがって。明日絶対文句言ってやる」

女(ぶつくさ言いながら男君はずり落ちそうになった私を背負い直すと階段を登っていく)

女(二階にある私たちの部屋が目的地なのだろう)



女(男君と密着状態である事実に私は酔いもすっかり収まって目も覚めていたが、どうやら男君は気づいてないようだ)



女(そ、それにしてもおんぶって……こんなに全身が密着するのも初めてだし)

女(それを男君からやってくれたことが嬉しい)

女(私を部屋に運ぶためであろう目的を考えるとスキンシップと言えるかどうかは微妙だが)

女(男君の方から私の身体に触れる行動をしたということが重要なのだ)

女(もしかしたら――)



男『お嬢さん、こんなところで寝ていたら風邪引くぞ』



女(みたいなこと言って、ひょいと私を背負ってくれたのかも知れない)

女(きゃーーっ!!)

337 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/21(水) 22:22:56.28 ID:yzZR/yra0



 ――現時点で女が知る由も無いのだが、もちろんそのような積極的な男は存在しない。

 色んな要因が重なった結果やむをえずという行動である。



 まずは女友に部屋まで連れて行くように脅されていたこと。



 次に女が動くそぶりを見せず「おぶってー」と言ったこと。

 このとき女は寝ぼけていて直後に再び眠ったため、発言した記憶は失われている。



 そして男が途方に暮れたタイミングで、酔っぱらった客が「その子、兄ちゃんの彼女か?」とウザ絡みをしてきたことで、逃げるために仕方なく女をおぶって酒場を抜け出したという経緯があった。



 しかしそんなことを知らない女は、男が自分に少しでも心を開いた結果だと勘違いしているわけだった。



男「重くはないが……階段は面倒だな」

 単純に普段よりも重量が増えた状態で登る階段は負担が増え、物を背負うことで重心がブレて後ろに引っ張られそうになる。



 それでも男は半分意地で頑張っていた。最初こそ女を部屋まで介抱するのをしぶっていたが、いざやると途中で放り出すのも嫌でヤケクソになり踏ん張っている。

338 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/21(水) 22:23:29.47 ID:yzZR/yra0

女(重くはない……って、嬉しい)

女(男君が何気なくつぶやいた言葉に胸をときめかせる私だけど、すぐに思考を切り替えた)



女(私を背負って運ぶの辛そう。もうすっかり目が覚めたし降りて自分の足で歩くべきだ)

女(男君に自分が起きていることを伝えようと口を開いて)




 ――あともう少しくらい大丈夫だよね。



女「………………」



女(悪魔のささやきが言葉を止めさせた)

339 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/21(水) 22:23:58.02 ID:yzZR/yra0

女(せっかくこうして男君と密着できている状態を手放すのは惜しかったのだ)



女(男君が大変そうで罪悪感も沸くけど……あっ、そうだ!)

女(階段で背負っていたものを下ろすのも足場の関係上難しいもんね!)

女(だからもうちょっとだけ……ごめん!)



女(ちょうどいい建前も思いついた私は寝たフリを続けたまま、男君に回す腕の力をほんのちょっとだけ強める)

女(バクバクと早鳴る心臓の鼓動が男君に気づかれませんようにと祈りながら、私は恋する人の温もりを堪能するのであった)

340 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/21(水) 22:24:35.75 ID:yzZR/yra0
続く。

女、暴走中。
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 01:02:56.72 ID:K0GQFrVe0
乙!(カイ君って誰だ…?)
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/22(木) 01:04:18.87 ID:jm4DuNSRo
乙ー
343 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/22(木) 01:09:18.08 ID:yWpaGhzGo
>>341
ぎゃあああ変換ミスです
カイ=イケメンです

なろうからss化するにあたって一般名詞に変換してるんですが、抜けてました
申し訳ありません
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 07:47:25.79 ID:dtcVyng8O
乙!
345 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/22(木) 19:41:09.57 ID:yWpaGhzG0
乙、ありがとうございます。

投下します。
346 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/22(木) 19:41:52.08 ID:yWpaGhzG0



男「やっと着いたか……」



女(寝たフリを続ける私を背負ったまま部屋の扉を開ける男君)

女(階段中に降りるのも難しいということで寝たフリを続け男君の背中の温もりを堪能していた私だが)

女(登り切ってから部屋に移動するまでの間も結局起きていると言い出せなかった)

女(建前を失ってもなお自分の欲望に従ってしまったことに罪悪感を覚える)



男「よし、っと」

女(私をベッドに下ろして、一仕事終了したと晴れ晴れしている男君)

女(私は男君から離れるのが名残惜しかったが、寝たフリを続けているため表情に出さないように努めた)

347 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/22(木) 19:43:05.09 ID:yWpaGhzG0

女(これからどうすればいいのか、私は目をつぶったまま全神経を集中して情報を収集する)

女(まず気配からして男君が私をベッドに下ろした後移動していないことが掴めた)

女(視線も感じるため私を見下ろしていると思う)

女(寝たままの私を見つめる男君……女友がいれば嬉々としていじりそうな局面だ)

女(なのに女友が口を開く様子はない)



女(……ん、いや、そもそも女友が部屋にいないような)

女(そういえば私の介抱を男君がしていることから疑問に思うべきだった)

女(男君の性格からして、女友に押しつけそうである)



女(なのに私を運んだのは女友が先に帰ってしまったか、女友より先に帰ることにしたからだろう)

女(そして部屋に女友の気配がないということは後者であるということで…………)

女(え、じゃあ今、私男君と部屋に二人きりなの?)

348 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/22(木) 19:44:08.05 ID:yWpaGhzG0

女「………………」

女(顔に出ないよう必死に自分の気持ちを落ち着けた)

女(寝たフリをしているのに顔を赤くしては、私を見ている男君にバレるからである)



女(と、というか、二人きりなのに寝ている私を見つめるって男君どういうつもりなの!?)

女(も、もしかしてあれなのかな!? 私の身体を品定めしているとか!?)

女(だとしたら今にも――)



男『すまん、女。もう我慢できないんだ!』



女(とか言って襲ってくるかもしれない……!)

女(そ、そんなことになったら……私は寝たフリをしているわけだし、抵抗できないよね!)

女(べ、別に襲われたいとか他意があるわけじゃないけど!!)



女(自分で自分が何を考えてるのか分からなくなってくる)

女(そのタイミングで男君が口を開いて)

349 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/22(木) 19:44:43.56 ID:yWpaGhzG0



男「ったく、幸せそうに寝やがって」

男「俺がここまで運ぶのにどれだけ苦労したのかも知らずに……やっぱり明日文句言ってやる」



女(二人きりの状況などまるで意識していない、いつも通りの口調で吐かれた悪態で私は冷静になれた)



女「………………」

女(それでこそ男君だ。こんなときでも誠実な彼に私は魅かれたのだから)

350 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/22(木) 19:45:26.50 ID:yWpaGhzG0



男「さて、明日から宝玉を手に入れるために動かないと行けないし、さっさと寝るか」



女(男君の視線が私から外れたことが感じられた)

女(つぶやいた言葉は私たちの使命に関すること)

女(今の口振りはどうも具体的な行動を思いついているようだ)



女(私が酔い潰れている間に状況が進展したのだろう)

女(というかそもそも情報収集のために酒場に行ったことを今の今まで私は忘れていた)



女「………………」

女(浮かれていた自分が嫌になる)

女(クラスメイトみんなの前で『元の世界に戻るために頑張ろう』と言ったのは誰だったか)

女(それなのにこうして自分のことでいっぱいいっぱいになって)

女(恥ずかしい。穴があったら入りたい)

351 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/22(木) 19:46:02.47 ID:yWpaGhzG0

女(……でも、仕方ないじゃん)

女(一年ほど前、男君に助けられたあのときから、ずっと片思いしていた)

女(けど男君は壁を作って誰も寄せ付けずに人間関係の全てを拒絶していた)

女(私はそれを割って入るほどの度胸を持てず、このまま高校を卒業したら男君に忘れ去られるんだろうなと悲観していた)



女(そんな状況がこの異世界に来てぶち壊された)

女(男君の魅了スキルが暴発したおかげで、私は近づく口実を得た)

女(戦う力を持たない男君を守れる力を授かることが出来た)

女(そしてパーティーを組んで目的のために一緒に行動している)



女(舞い上がるな、と言われても土台無理な話だ)

女(今日一日中ふわふわとした感覚が抜けなかった)

女(そんな状況がこれからも続くのだ)

女(何と幸せなことだろうか)

352 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/22(木) 19:46:36.93 ID:yWpaGhzG0

女(でも……それは私だけなんだよね)



女(二人きりの状況になっても変わらない男君の様子)

女(緊張しているのは私だけ)

女(いや、アプローチもしていないのに、私のことを意識している方がおかしいんだけど)



女(それでも私にドキドキして欲しかった)

女(理不尽なことを言っているのは分かっている)



女(だから私は自分の気持ちを抑えきれず)

女(寝たフリをしている今だからこそ取れる……卑怯な手をつい打ってしまった)

353 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/22(木) 19:47:03.65 ID:yWpaGhzG0





女「……男君…………好きだよ……」





男「っ……!?」

女(男君が息を呑む気配が感じられる)



女(寝言を装った告白)

女(好意を打ち明けながらも、失敗した場合は寝ていたからと言い訳できる卑怯な手)

354 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/22(木) 19:48:30.24 ID:yWpaGhzG0

男「……ね、寝言だよな?」



女(男君が私の顔をのぞき込んで確認する。その声は上擦っていた)

女(寝たフリを続けながら、私はとても嬉しかった)



女(男君が動揺している。男君が緊張している。男君が私を意識している)

女(再び私の気持ちが浮つくのが分かった)



女(どうしよう、ここは勝負に出るべきか)

女(目を開けて「寝言じゃないよ」と言って。そうしてお互いの気持ちを確かめて――)





男「そうか……でも、その気持ちは分かっているさ」





女(えっ……!?)

女(男君、今、何て言ったの!? 私の気持ちは分かっている……っていうことは……!)





女(私の感情はどこまでも高ぶっていき――)

女(――だから、男君の言葉がとても平坦に発せられていたことに気づけず)

355 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/22(木) 19:49:13.13 ID:yWpaGhzG0





男「だって魅了スキルがかかっているんだからな」



女(次の言葉で今度こそ私の気持ちは地の底まで叩き付けられた)





男「ったく、寝ているときまで効果があるのか、このスキルは」

女(私は現状について全く理解できていなかった)



男「まあ暴発させた俺が言えた立場じゃないが」

女(吐いた嘘のメリットばかりを見ていて、デメリットを全く見ていなかった)



男「俺なんかを好きになってしまってすまんな。しばらく辛抱してくれ」

女(男君が私に向ける一番の感情は罪悪感で)

356 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/22(木) 19:49:58.24 ID:yWpaGhzG0





男「いくら魅了スキルが解除不能でも、元の世界に戻れば効力は切れるだろうしな」



女(私は少しも男君の心に入り込めていなかった)





女「………………」

女(何がお互いがお互いを思い合うのが理想、なのか)



女(私は自分の気持ちを押しつけるばかりで、男君の気持ちをちっとも考えていなかったのに)

357 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/22(木) 19:50:27.89 ID:yWpaGhzG0
続く。

上げたら落とす、基本。
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 20:00:08.82 ID:W8JYxjMz0

男は自称・恋愛アンチになっているだけで、そこまでひねくれたり腐ったりしていないんだよね。拒絶しているけどそこまでじゃないし
そもそもそうだったら女さんが惚れていないかもしれないけど…

何が言いたいかというと本来はトラウマになって荒れたりしていたりするもんだけど、ここの男は結構平常心なんだよね
気質なのか荒れるのではなく、人を拒絶する方向を選んだ結果なのか……
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/23(金) 01:09:34.62 ID:djG0BgPIO
乙ー
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/23(金) 06:24:56.35 ID:1p1FELrfO
乙!
361 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/23(金) 20:57:42.71 ID:shycYZkm0
乙、ありがとうございます。

>>358 >>230で村長が指摘したように表面上は真面目なんですよね

投下します。
362 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/23(金) 20:59:03.17 ID:shycYZkm0

男(翌朝、商業都市滞在二日目)

男(俺たちは昨夜も訪れた酒場のスペースにいた)

男(夜は酒場として営業されているが、朝は宿屋に滞在する客の朝食会場となっているようだ)

男(俺と女と女友は同じテーブルで朝食を取る)

男(そして昨夜介抱を強要された女に文句を言ってやるつもりだったのだが)



女「………………」

男(その女が死んだ目で黙っているので、どうにも切り出すことが出来なかった)

男(この異世界でずっとリーダーシップを取り、みんなをまとめて元気だった女らしからぬ姿である)



男「……なあ、女友。どうして女は落ち込んでいるんだ? あれか、貧血で朝は元気が出ないとかなのか?」

女友「私が知る限りではそんなことは無いはずですが……」

363 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/23(金) 20:59:37.94 ID:shycYZkm0

男「だったら、どうして……」

女友「男さんが原因じゃないんですか? 昨夜、あの後介抱して二人で部屋に戻ったんですよね? そのときに何かあったとか」

男「俺が女を襲ったとでも言いたいのか? 言っておくが神に誓って何もしてねえぞ」

男(ベッドに寝かせた後は一切女の身体に触れていない)

男(それとは別に寝言の告白は聞いたが……寝言だし関係ないことだろう)



女友「いえ、その心配はしてません。どちらにもその度胸がないのは分かっているので」

男「どちらにも……?」

女友「ですからこの事態の原因は……男さんが何もしなかったことか、それとも女が墓穴を掘ったか、どちらかですかね」

男「…………?」

364 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/23(金) 21:00:38.44 ID:shycYZkm0

女友「女、少しいいですか?」

女「……何、女友?」

女友「話はまた今度聞きます。ですから今は私たちの使命に……宝玉を手に入れることに集中してもらえますか?」

女「……そうだね。せめてそっちの失敗だけでも挽回しなきゃ」

女「よしっ!!」



男「そっちの失敗……?」

女友「なるほど、墓穴の方でしたか」



女「昨日は早々に酔いつぶれてごめんね。情報収集の結果から教えてもらえる?」

男「……ああ、じゃあ俺から話すぞ」



男(何が理由で落ち込んでいたのか気にはなったが、女が前向きな姿勢になったところ水を差すわけにも行かず)

男(俺は昨夜、商会長とその秘書から聞いた宝玉関連の情報を伝えた)

365 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/23(金) 21:02:35.46 ID:shycYZkm0

女「大商人会にも属する古参商会が、30年前に女神教の教会を取り壊した」

女「そしてそのときに出た宝玉を古参商会のトップ、商会長が持ち続けている」

女「だからまずは商会長と話の場を設けないといけない……ってことね」

男「ああ。想定通り面倒なことになったな」

男(行政トップの人間に一市民が交渉を持ちかけることが大変だとは道中で共有している)



女「女友の方は何かあるの?」

男「飲み比べで馴染んだ客から、古参商会に関する情報をゲットできたか?」

男(昨夜、女友は結局俺が寝るまでの間に帰ってこなかった)

男(朝もここまで話す余裕はなかったため、情報収集の結果がどうなったのか俺にも分からない)





女友「そうですね……古参商会に私たちの価値を認めさせる方法と気になる情報と一つずつ仕入れました」

女友「ひとまず話しながら移動しませんか?」

366 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/23(金) 21:03:17.58 ID:shycYZkm0

男(俺たちは朝食を平らげると宿屋を出て、女友の先導の元に歩き出した)

男(足取りからしてどこかに向かっているようだが、どこなのかは説明されていない)



女友「まずは気になる情報から話しましょうか」

男(目的地が気になる俺たちを前に、マイペースで話し始める女友)



女友「ところで質問なのですが、男さんは秘書さんか商会長から、古参商会がその地位を脅かされそうになった出来事について聞きませんでしたか?」

男「えっと……あ、そうだ。最古参で一番力のある商会だったが、新参商会に抜かれそうになったって話は聞いたぞ」

男「改革が上手く行ったが、それでも何故か遅れを取っているって話も」

女「へえ、そうだったんだ」



女友「それなら話が早いですね。気になる情報とはその遅れを取っている理由について」

女友「どうやら古参商会には、新参商会のスパイが潜り込んでいるようです」



男「スパイ?」

367 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/23(金) 21:04:09.47 ID:shycYZkm0

女友「例えば古参商会が売り出す商品の値段より少しだけ安い値段で同じ商品を新参商会が売り出していたり」

女友「独自に開発していた商品に非常に類似した商品が売り出されたりと」

女友「本来機密であるはずの様々な情報が漏れているとしか言えない状況が何年か前から現在まで続いているため」

女友「巷ではスパイがいるのではないかと噂されている……という話を聞くことが出来ました」



女「興味深い情報だけど……宝玉を手に入れるために関係ある情報なの?」

男「何言ってるんだ、大有りだろ」



女「え、でも、どうやって……」

男「古参商会、宝玉の持ち主である組織がスパイに悩まされているんだろ」

男「ならそのスパイを見つけてやる『対価』に、宝玉を譲ってもらう……とかそういう交渉が可能じゃねえか」

368 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/23(金) 21:04:50.59 ID:shycYZkm0

女「なるほど……けど、商会だってそのスパイを見つけようと調査しているはずだよね?」

女「それなのに部外者の私たちがスパイを見つけることが出来るかな?」



男「そんなの簡単だ、簡単。流石に古参商会だってスパイの目星くらいは付けてるはずだろ」

男「だったら後は怪しいやつ全員に俺の魅了スキルを使って口を割るように命令すればいい」



女「あ、そっか……」

男「もちろん男がスパイの可能性はあるが、それでも魅了スキルを使ってその周囲の女から情報を聞き出したりも出来る」

男「とにかく人間関係における問題において、魅了スキルは無敵の力を発揮する」



男(実際に使うかはどうかとして重要な交渉カードを手に入れることが出来たな)

369 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/23(金) 21:05:17.37 ID:shycYZkm0

女友「とはいえ、今のままでは私たちの言葉に力はありません」

女友「スパイの調査に力を貸しますといっても、突っ返されるのがオチでしょう」

女友「ですから予定通り一手目は古参商会に私たちの『価値』をアピールしなければなりません」



男(女友の言うとおり交渉を切り出すためには対等な立場に立たなければならない)



男「そうだな……そこでもう一つの情報、古参商会に俺たちの価値を認める方法とやらが聞きたいんだが」

女友「それなら見た方が早いでしょう、ちょうど着きましたし」

男「着いた……って」



男(女友が足を止める。俺たちの目の前にある建物が目的地だったようだ)

男(それは周囲の建物より群を抜いて高く大きかった)

男(まだ朝だというのにひっきりなしに人が出入りしていることから活気のあることが分かる)

男(看板には『古参商会・本館』と書かれていた)

370 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/23(金) 21:05:48.92 ID:shycYZkm0

男(女友が人の流れに割って建物に入っていくのに合わせて、俺と女も付いていく)



男「どういうことだ、いきなり古参商会の本館って。何か物騒なことして正面突破とか考えてるんじゃないだろうな?」

女友「そんな野蛮なことは考えてませんよ。古参商会が新参商会に対抗するためにした改革の一つに、幅広い層から商品を仕入れることを始めたと聞きました」

男「仕入れ……?」

女友「ここがその部署のようですね」



男(そこは広い一階フロアの中でも、一番人が集まっている区画だった)

男(五つあるカウンターの前には行列が途切れず、順番が来た者が次々に農作物や畜産物、魔物を狩って手に入れた素材などを職員に渡す)

男(職員は受け取った物を鑑定スキルによってどれだけの価値があるかを判断し、応じたお金を渡して買い取っているようだ)

371 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/23(金) 21:07:23.07 ID:shycYZkm0

男「なるほどな……」

男(客にとっては商品を買い取ってくれる場所で、商会にとっては仕入れということか)



女友「特に煩わしい手続き無しに商品を個人からでも買い取ってくれるこのシステム」

女友「客にとっては売る相手を捜す手間が省けますし、商会にとっては珍しい商品も入ってくることもあって成功しているようです」



男「個人からも……つまり俺たちでも可能ってわけか」

女「でも、ここまで売る人が多いってことは私たちもその内の一人になって、特に価値を示せないんじゃないの?」



女友「ええ。ですが私たちにしか手に入れられないようなものを持ち込めば……価値を示せるとは思いませんか?」

男「俺たちにしか……?」

女友「あれを見てください」

372 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/23(金) 21:07:50.86 ID:shycYZkm0

男(女友が指さした壁は雑多に張り紙がされていた)

男(一番大きな張り紙は仕入れ価格目安表、つまりこの商品はだいたいこれくらいの価格で買い取っていますよー、という指標だ)

男(もちろんあくまで目安で、在庫が多いものは安くなるし、逆に在庫が少ないものは高くで買い取るようだ。商売の基本である)



男(その例外を示しているのが他の張り紙のようだ)

男(これは在庫が十分にあるため現在買い取れません、これは在庫が無いため現在高額で買い取っていますなどの内容で溢れている)

男(中でも一際強調して張られているのが)





『ドラゴンの素材、ここ一年仕入れがないため、高価買い取り中です!』

『※ただし強大な魔物のため討伐に向かう際はきちんとしたパーティーを組み、準備をしてください』

『※当商会は狩りの際に命を落とされても保証は出来ません』

『※気になる方は情報をまとめた資料があります』





373 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/23(金) 21:09:03.23 ID:shycYZkm0

男「へえ、やっぱファンタジー世界だな。ドラゴンとかもいるのか」

女「まあ私が『竜闘士』だし、そういう存在がいてもおかしくないかもね」

男「あ、そうか」



女友「二人とも良い目の付け所ですね。ちょうど良さそうですし、それにしましょうか」

男「…………は?」

女「え?」

男(それにする……どれにするんだ?)



女友「昨日飲み比べで馴染んだ客の一人が自慢話をしてくれました」

女友「曰く、とても珍しい商品を偶然手に入れて古参商会に売ったところ、商会長直々にお礼をされたとのこと」

女友「直接会って話をする『価値』があると認めたわけでしょう」



女友「ならば私たちも同じことをすればいいのです。一年仕入れが無いドラゴンの素材ならそれにピッタリです」

女友「というわけで私たちでドラゴン討伐をしましょう♪」



男「………………」

男(女友がピクニックに行きましょうくらいのテンションで言ったことに俺は耳を疑った)

男(ドラゴン討伐って……マジで? 命の保証は無いとか書いてるけど、大丈夫なのか?)

374 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/23(金) 21:09:53.09 ID:shycYZkm0
続く。

メイン軸進めていきます。
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/24(土) 01:19:13.81 ID:9zJazxUao
乙ー
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/24(土) 08:38:08.62 ID:lcGzFO1F0

そもそも女は男が女の子を避けている事情を知らないのに自分勝手なことばかり言っているからダメなんだよ
多分、詳しい事情を知っている女友のほうがまだ好感度がある
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/24(土) 11:16:29.82 ID:TQNamApH0
乙!
378 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/24(土) 17:35:40.72 ID:GGmEXmXW0
乙、ありがとうございます。

>>376 女もまた未熟なのです。前回の最後で反省しているので今後成長するはず。

投下します。
379 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/24(土) 17:36:37.13 ID:GGmEXmXW0

男(女友が提案したドラゴン討伐というワードに思考停止していた俺だが、すぐに首を振って否定する)



男「いやいやいや、無理だろそんなの。そもそもドラゴンって人間が倒せるのか?」

女友「一年は入荷が無いということは、一年前に誰か倒した人がいるってことでしょう」

女友「頑張れば人間でも倒せる存在ってことじゃないですか?」

男「100人くらいの大規模なドラゴン討伐隊を組んでようやく倒せたって可能性もあるじゃねえか」

男(少なくとも俺たち三人、いや魅了スキルだけの俺は戦力にならないので二人だけで倒せるとは思えない)



女「とりあえずドラゴンについて商会が掴んでいる情報をまとめた資料を借りられたから、それを見ながら話そうよ」

男「そうだな」

女友「このまま想像で話しても埒が開きませんものね」

男(俺たちは女が持ってきた資料に目を落とす)

380 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/24(土) 17:37:16.22 ID:GGmEXmXW0



『素材高価買い取り中:ドラゴン』

『生息地:洞穴』

『個体特徴:大きさ20m級。レッドドラゴン種。耐火装備推奨』

男(その下には生息地付近の情報やドラゴンの習性、注意事項やその他の情報と続いていた)

男(中には前回ドラゴンを討伐した際の記録もあり、100人規模の討伐隊を組んでなお死闘だったようで)

男(どうにか死者を出さずに帰還出来たのは奇跡だったと書いてある)



男「………………」

男(20mもある生物ってヤバいな)

男(とりあえず昔近所にいた大型犬にもビビっていた俺が対峙出来るとは思えない)

男(レッドドラゴン種とやらが何かは分からないが、耐火装備という注意があるくらいだからおそらく火を吹くのだろう)

男(つうかやっぱり100人規模の討伐隊でやっとなんじゃねえか)

男(やっぱり無理だ、ドラゴン討伐なんて諦めて――)

381 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/24(土) 17:38:15.60 ID:GGmEXmXW0



女「うーん、これならどうにかなりそうかな」

男「マジで!?」



女「男君は初期職で分からないかもだけど、職の力って元から自分が持っていたかのように使いこなせるのね」

女「だから自分がどれくらい戦えるかも感覚で分かって……」

女「うん、ここにある情報の感じドラゴン相手に私一人で互角、女友のサポートもあれば余裕を持って倒せると思うよ」



男「でも100人でやっとって書いているぞ!?」

女友「資料を見る限り、前回の討伐隊は私たち二人には遠く及ばないレベルの人たちの集まりだったみたいですし、参考になりませんよ」

男「………………」

男(二人の言葉に改めて思い知る。俺の仲間って規格外だったんだな、と)



女「じゃあドラゴン討伐に挑むってことで……男君もいい?」

男「……あ、ああ。二人で倒せる計算なら任せた。古参商会に俺たちの価値を認めさせる近道であることは確かだしな」

382 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/24(土) 17:39:07.47 ID:GGmEXmXW0

女「よし、そうと決まれば準備をしないとね」

女「ドラゴンの生息地、洞窟は地図を見た感じここから歩いて一日半はかかるみたいだし」

女友「道中は野宿でしょうか。その準備をして……女はドラゴン相手に装備は今のままで大丈夫ですか」

女「うん。『竜闘士』は素手でも十分に戦えるし、女友の方こそ『魔導士』だし杖とかいらないの?」

女友「杖は魔法発動の補助道具です。あったら便利ですが、無くても魔法は十分に使えますし」

女友「それに高位魔法まで補助出来る杖となると高級品なので、しばらくは無しで行こうと思っています」

女「そっか」



男(目の前で繰り広げられる二人の会話から現実味が感じられない)

男(……あ、そっか。ここ異世界か。二人とも馴染んでるなあ)

男(俺もやっぱり戦闘力のある職が欲しかったなあ)

383 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/24(土) 17:39:56.38 ID:GGmEXmXW0

女「じゃあ三人分の野宿の準備をして――」

男「…………ちょっと待った。俺もそれに付いていくのか?」



女「え、当然でしょ。一緒のパーティーなんだし」

男「いや、でも知っての通り俺は魅了スキルだけの戦闘力無しの雑魚でだな」

女「男君の強みが戦闘力以外のところにあるのは分かっているからそんな卑下しないでって」

男(自虐の言葉を女にたしなめられる)



男「でも付いて行っても役に立たないのは事実だぞ」

女「じゃあ逆に質問だけど、私たち二人でドラゴン討伐に行ってる間、男君はここで留守番してるの?」

男「そっちの方が安全だろ」

女「もしイケメン君が襲ってきたらどうしようもないよ?」

男「………………」

384 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/24(土) 17:40:46.29 ID:GGmEXmXW0

女友「そうですね。イケメンさんがこの短期間でまた襲ってくるとは思えませんが、そうでなくてもここは異世界です」

女友「この商業都市は治安が良い方とはいえ、日本ほどではないでしょう」

女友「何らかの犯罪まがいの出来事に巻き込まれる可能性も考えると、身を守ることも出来ない男さん一人置いていくのは反対ですね」



女「私たちがパーティーを組んだのは男君を守るため」

女「なのに男君と離れてたら守れないでしょ。だから一緒にいるべきだよ」

女「大丈夫、ドラゴンの指一本も男君には触れさせないんだから!」

男(やだ、何この男前……)





男(ここまで言われては「正直ドラゴンとか見たらチビりそうなんだよな」とか臆病なことも言えるわけが無く)

男「分かった、俺も付いていく方向で話を進めるぞ」

男(腹をくくるしかなかった)

385 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/24(土) 17:41:35.38 ID:GGmEXmXW0

男(話がまとまった俺たちは借りてきたドラゴンに関する資料を返すと、必要な準備をするためその場を離れる)

男(そして古参商会・本館の総合受付前で黒山のような人だかりと遭遇した)



男「何だ、この集まりは」

女友「受付ですから人が集まる場所ではあるんでしょうけど……それだけでは無さそうですね」

女「あの二人が原因じゃない?」

男(女が見ている方向には、昨夜会った商会長とその秘書がいた)



男(酒場で見たときと違って今朝はスーツを着ている古参会長)

男(その貫禄はこの都市を仕切る大商人会で一番の影響力を持つ人間にふさわしいものであった)



男(秘書は変わらず会長の傍らに付き添っている)

男(大物感露わとなった会長を変わらずに支えているところがその能力の高さを表していた)



女「二人とも何してるんだろう?」

女友「受付に来た人に挨拶か、外回りに出る前に通りかかっただけかと推測しますけど、近づけないので判断出来ませんね」

男「………………」

男(女友の言うとおりこの人の数では近づけそうにない)

386 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/24(土) 17:42:31.14 ID:GGmEXmXW0

女「にしてもあの酒場で見た二人が本当に商会長と秘書だったなんて」

女「話は聞いてたけど、実際に見てようやく信じられた感じ」

男(二人の正体を偽った状態しか知らない女の言葉)



女友「あのときと変わらずに秘書さんが商会長を支えているのは伝わりますね」

女「そうだよね、本当お互いを信じ合っているって感じ」

女友「昨夜聞いた話によると商会長はかなりの古株で、秘書さんが商会に入ったのが後みたいですね」

女友「まあ年齢からしてそうでしょうが」

女友「秘書さんはそこからメキメキと頭角を現していき、10年ほど前に古参商会長の右腕に収まったそうです」

女友「新参商会の台頭により改革を迫られたときも、二人で協力して頑張ったみたいですね」



女「10年も一緒に戦ってきた戦友……あの二人出来ていないのかな!? オフィスラブあるんじゃない!?」

女友「さあどうでしょう。ただ二人とも独身であるとは聞きましたが」

女「やっぱりどっちにも気があるんだよ!!」

387 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/24(土) 17:43:18.71 ID:GGmEXmXW0

男「………………」

男(恋愛話が好きな女子らしい会話を意識の片隅に聞きながらも、商会長を眺めていた)



男(話しかけてくる人に対応している彼の目に、俺の姿は移っていないだろう)

男(それだけ物理的にも立場的にも距離がある)



男(昨夜は少々不甲斐ないところを見せたが……俺にだって使命がある)

男(宝玉を集めて、元の世界に戻る)

男(そのために最初から躓いている場合じゃない)



男「二人とも行くぞ、準備をするんだろ」

女「……そうだね!」

女友「今度ここに来るときはドラゴンの素材と共にですね」



男(俺は決意を新たにして、古参商会本館を後にした)

388 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/24(土) 17:53:15.12 ID:GGmEXmXW0
続く。

一言コメントが思いつかない……。
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/24(土) 22:17:43.91 ID:+Cwac7G5O
乙ー
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 03:04:54.42 ID:khCE/AWs0
乙!
391 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/25(日) 15:51:39.68 ID:QYwNNmf40
乙、ありがとうございます。

投下します。
392 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/25(日) 15:52:26.91 ID:QYwNNmf40

男(俺たちは必要な準備を終わらせると、午前の内に商業都市を出た)

男(目的地はドラゴンが生息する洞窟である)

男(森の中の道を行くが……昨日村から商業都市に向かった道より荒れているため苦労していた)



女友「この道の先には洞窟しかなく人里はありません」

女友「その洞窟も昔は鉱石など求める人が訪れていたようですが」

女友「最近はドラゴンが住み着いたためすっかり誰も寄りつかなくなったようです」

男(ドラゴンに関する資料で得た情報を女友が披露する)



男「人の往来が少ないから荒れているのか」

男(日本にいるときは意識していなかったが、道というものを維持するには人の手がいる)

男(誰も通らないのに整備するのはコストがかかるし、この世界には魔物に襲われる危険性が常につきまとう)

男(そのため放置されているのだろう)

393 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/25(日) 15:53:00.24 ID:QYwNNmf40

男(昨日とは違って道中では散発的に魔物と遭遇した)

男(この辺りは魔物が多いらしい。女と女友が瞬殺するも、気が抜けないことには変わりない)

男(休憩を挟みながらでも、職による身体能力強化が無い俺が一番疲労が早かった)



男「なあ、昨日みたいに空を飛んで進むのは駄目なのか?」

女「空を飛ぶのには魔力を多く消費するからね」

女「もし魔力が少ない状態で魔物に囲まれたりしたら、さすがに私たちでも危ないし」

女「昨日は商業都市に着く直前だったから魔力を使い切っても大丈夫だったけど」

女「今日は森で野宿だから魔力は出来るだけ節約して進むよ」



男「……その通りだな」

男(守られているからって……気楽な思考になっていたな)

男(この世界において、魔物に襲われて死ぬことは少なくない)

男(俺だってあの夜、イノシシ型の魔物に襲われて死にかけたじゃねえか)

男(慎重になってなりすぎることはない)

394 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/25(日) 15:53:30.18 ID:QYwNNmf40

女友「そう自分を責めないでくださいね、男さん」

女友「言われてみれば職によって身体能力が強化された私たち二人のペースに付き合わせるのは酷でしたね」

男(俺の自己嫌悪を読んだのか、女友がフォローを入れてくる)

男(ドラゴンを二人で倒せると豪語するくらい、二人の身体能力はこの異世界に来て強化されている)



女「あ、そっか。ごめん、男君。進むの早すぎた?」

男「そんなことねえよ…………と言いたいところだが、ちょっとペースを落としてくれると助かる」

男(意地を張る元気もなくなった俺の言葉)



男(すると女友が少々考え込んで)

女友「そうですね……これなら魔力の消費も抑えられるでしょうか」

女友「男さん、強化魔法かけますね」

男「強化魔法……って何だ?」



女友「百聞は一見に如かずです。発動『妖精の羽根(フェアリーフェザー)』!」



男(女友は有無を言わさず魔法を発動した)

男(その対象は俺のようで、女友の手元から発せられた光が俺を包み込んだ後に消える)

395 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/25(日) 15:54:03.52 ID:QYwNNmf40

男「な、何だ今の……って、うわっ!?」

男(女友に向かって一歩踏みだそうとした足から伝わる感触に違和感を覚えて俺は声を上げる)



女友「男さんの身体を軽くしました。これで長時間歩いても疲労しにくくなるはずです」

男「身体を軽く……って、そんなことも出来るのかよ」

男(昔、小学校の遠足で行った科学館で補助具を使った月面歩行体験を思い出す)

男(月は地球の重力の6分の1で、それを再現した装置によって歩く度にふわふわ浮き上がっていた)

男(今の状態はそれに近い)



女友「昨日はその身体を軽くする魔法と『一陣の風(ストレートウィンド)』という風を起こす魔法を合わせることで空を飛んでいたんです」

男「あー、そういや女の飛翔に女友も空飛んで付いて来てたな。そんなことしてたのか」

女友「風まで起こすと魔力の消費が大きいので身体を軽くするだけですが、歩く分にはそれで十分楽になりませんか?」



男「そうだな。助かる、女友」

男(進むにつれて道にせり出す木の根っこなどを乗り越えながら進んでいるのだが、身体が軽いため障害物を一跳びで越えられる)

男(着地の衝撃も軽くなり足が疲れにくい)

396 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/25(日) 15:54:39.96 ID:QYwNNmf40

男「いや、これやべえわ。さっきまでとは大違いだ」

女友「そこまで効果があるなら最初から使っておけば良かったですね」

男(森の中を先ほどよりスピードを上げて駆け抜ける)

男(女友と女は何のスキルも使わず、素の状態で遅れずに付いてきた)

男(……俺にペース合わせてなくて謝られたけど、あれでも十分にセーブしていたんだな)



女「女友の『魔導士』いいなあ。私の『竜闘士』はどうしても攻撃や自己強化に特化しているから」

女「男君の手助け出来るようなスキル無いんだよね。あ、『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』!」



男(女は進みながらも『千里眼』で周囲の索敵を怠らず)

男(捉えた魔物が姿を現した瞬間『竜の咆哮(ドラゴンシャウト)』の衝撃波を飛ばして粉砕する)



男(……いやいや、十分に強いと思いますが)

男(まあ、竜の力を体現して戦うってくらいだから他者のサポートは苦手なのだろう)

397 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/25(日) 15:55:23.57 ID:QYwNNmf40

男「そういえば女友の『魔導士』って色んな魔法を極めているとは聞いたが、実際にはどんな魔法が使えるんだ」

男「さっきかけられるまでこんな身体を軽くする魔法を持っているなんて知らなかったし」

女友「男さんには説明していませんでしたか。失念してましたね」



女友「使える魔法というと、まずは攻撃魔法でしょうか」

女友「単純に雷を呼び出して敵に落としたり、火の玉をぶつけたり出来て、しかもあらゆる属性の魔法が使えます」

女友「また煙を出して敵を攪乱したり、イケメンさんに使ったように蔦を使って敵を拘束する魔法なども含まれますね」



女友「強化魔法はその名の通り自分や他者を強化する魔法です」

女友「男さんに現在かかっている身体を軽くする魔法や、筋力を上げる魔法などもありますね。これもあらゆる種類が使えます」



女友「回復魔法も傷を治す魔法や、状態異常を治す魔法が使えます」

女友「クラスの皆さんの二日酔いを治したのはこの系統ですね」



女友「他には結界魔法や……」

女友「そうそう、昨夜酒場で秘書さんの『認識阻害(ジャミング)』を破った『真実の眼(トゥルーアイ)』は判別魔法ですね」

女友「後まだ説明していないのは……」

398 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/25(日) 15:56:03.52 ID:QYwNNmf40

男「いや、そこらへんでいいわ。多すぎるだろ」

男(どこまでも説明が続きそうだったため、こちらから打ち切る)



女友「そんな! もっと私のこと知って欲しいのに!」

男「言い方。というかここまで使える魔法が多いと、使えない魔法を聞いた方が早そうだな」

女友「私が使えない魔法となると、もう単純にこの異世界に存在しない魔法と言い換えた方が早そうですね」

男「早いのかよ」

男(改めて規格外な存在だな)



女友「創作物などでよく目にする魔法で、私が使えないものといえば転移魔法でしょうか」

女友「物体を一瞬で移動させるような魔法はこの世界に存在しません」

男「まあだろうな。そんなのがあったら今ごろ俺たちは一瞬で洞窟に到着しているだろうし」

男(だからこそこうして足を動かしているのである)



女友「あとは蘇生魔法ですね。回復魔法で傷を治すことは出来ますが、死んでしまった場合生き返らせることは出来ません」

男「……この世界でも死は絶対なのか」

男(魔法なんてゲームみたいな存在があってもコンティニューは出来ない)

男(まあそれくらい現実に則していた方がいいだろう。死んでもいい世界なんて正直怖い)

399 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/25(日) 15:56:37.63 ID:QYwNNmf40

女友「他にも出来ないことは時間を止めたり、未来の出来事を予知したりなどですかね」 

男「総じて現実をぶっ壊すような魔法は使えないってことか」



男(超人的ではあるが神とまでは行かない。そんなイメージでいいだろう)

男(まあ個人で神のような力を振るえたら危ないし――)



女友「それと魅了スキルのように人に命令出来るなんて魔法もありませんね。その点では男さんの方が優れています」

男「……そうだな」



男(女友の言葉にハッとなった)

男(好意を抱かせ、命令出来る……やろうと思えば世界の半分を支配して、この世界を滅茶苦茶にすることも出来る)



男(このスキルの力はまるで神みたいなもので……実際神の持ち物だったのか?)



男(言われてみればあの石碑には召喚にあたって俺たちに力を分け与えたと書いてあった)

男(メッセージは女神が残したものだと思われるから、女神が力を分け与えたと考えていいだろう)

男(その中に俺が授かった力として魅了スキルがあったのだから……元々魅了スキルは女神の持ち物だったとなる)



男(災いを愛の力で納めた結果、神として祀られた女性)

男(女神は魅了スキルの持ち主だった)



男「………………」

男(この符号は何か意味があるのだろうか?)

400 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/25(日) 15:57:03.57 ID:QYwNNmf40



女(その夜)



女(私たちは、男君が『妖精の羽根(フェアリーフェザー)』を受けて以来、かなりのスピードで森を進むことが出来た)

女(結果、一日半かかる予定だった洞窟までの道を一日で踏破)

女(とはいえ消耗した状態でドラゴンと戦うのは無謀なため、洞窟の近くで野宿することにした)



男「zzz……」

女(疲れていたのか男君は夕食を取ってすぐにテントで眠っている)



女(私は男君を起こさないようにそっとテントから出た)



女友「これでよし……っと」

女(そこでは女友がテントの周りで作業をしている)

女(どうやら結界魔法『対魔結界』を張るために魔法陣を描いているらしい)

女(準備が必要な分その効果は強力で、結界の内に魔物を寄せ付けない)

女(これで魔物がいる森の中でも見張りを立てることなく全員寝ることが出来るとのこと)

401 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/25(日) 15:57:37.98 ID:QYwNNmf40

女「調子はどう、女友?」

女友「ええ、万全です。これで朝まで魔物にこのテントが襲われることは無いでしょう」

女「じゃあ今日はもうゆっくり寝て明日はドラゴン討伐だね」

女(私はテントに誘うが、女友はその場から動かず)



女友「その前にちょうど二人きりですし、聞いておきましょうか。昨夜女が犯した失敗について」



女「それは……」

女(親友の気遣いに日中ずっと押し込めていた感情が去来して)



女「……ありがと、女友。じゃあ聞いてくれる?」

女(私は礼を返して話し始めた)

402 : ◆YySYGxxFkU [saga]:2018/11/25(日) 15:58:24.56 ID:QYwNNmf40
続く。

そろそろ書き溜めが尽きそう。
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 17:14:37.22 ID:khCE/AWs0
乙!
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