高峯のあ「牛丼とか……言ってる場合じゃない」【番外編A】

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1 : ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 11:45:16.66 ID:qdKH3wt/0

●注意●
・短編形式
・日常系SS
・のあさんのキャラ、口調、クールなイメージが『著しく』崩壊します
・独自解釈している点が多々ありますので、ご了承下さい

●登場人物●
高峯のあ
http://i.imgur.com/eI0rjo6.jpg
ご近所
http://i.imgur.com/jE0lU93.jpg
その他
http://i.imgur.com/r4C6rPM.jpg

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1540781116
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/10/29(月) 19:26:46.34 ID:ytbWu3juO
超待ってたぞ
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/29(月) 21:58:37.74 ID:vcRH3DXQO
人がいない今がチャンスか
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/29(月) 22:51:38.43 ID:Y0xVHCoio
スレ立ってからもうすぐ12時間
5 : ◆AL0FHjcNlc [saga]:2018/10/29(月) 22:59:11.50 ID:qdKH3wt/0

●過去作
第1作:高峯のあ「牛丼並……あっ大盛りで」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447664976/
第2作:高峯のあ「和風牛丼並……あっあとから揚げ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1448875583/
第3作:高峯のあ「(プレミアム牛めし……あっあと焼のり)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1453369628
第4作(総集編):高峯のあ「牛丼大盛り……つぇ、つゆだケで……っ!」【番外編@】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1466684201/
第5作:高峯のあ「牛丼並……4つでいいかしら?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1479041217/
6 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2018/10/29(月) 23:00:01.27 ID:qdKH3wt/0

━━━━━━━━━━━━━━
【事務所・中庭】


周子「そうなの?」

のあ「………」

周子「週7で吉野家通って、体は牛肉で出来ていて、生粋の吉ラーである、のあさんが……」

周子「就職の面接で『あなたを物に例えると?』って質問で迷うことなく『吉野家の牛丼』と答える、高峯のあさんが……」

周子「自分の存在を否定するんだ?」

のあ「……その表現は、些か的確ではない」

周子「うん?」

のあ「…………………………週、8」

周子「そっかそっか」モグモグ

のあ「……そのどら焼き、ひとつ私も貰ってもいいかしら?」

周子「たーんと召し上がれ」

周子「で」

周子「どないしはったん? 一体」

のあ「………」パクッ

のあ「話は簡明。事実とは得てして、深淵にあるとは限らない」モグモグ

のあ「先日……」
7 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:00:49.77 ID:qdKH3wt/0

〜〜〜〜〜〜回想・昨日〜〜〜〜〜〜
【高峯宅】


のあ「………っ」

管理者『ですから……』

のあ「ス、すみ……、すみませんっ……!」

管理者『お送りした督促状に記載した通りです。家賃2か月滞納』

管理者『このまま滞納が続くと、強制退去等の手続きをさせて頂く場合もありますので』

のあ「きょ、強制退去……!?」

管理者『ご了承下さい』

管理者『それと一応、連帯保証人様にも既にご連絡させて頂きました』

のあ「お、お母さんに!? じじじ、じゃあ、支払いは……!」

管理者『貴女に、娘さまに全て任せる。もし未納が続けば仕事を辞めさせて実家で引き取るから、好きにしてくれ……と』

のあ「ォ………!?」

管理者『こちらが賃貸借契約解除の手続きを行えば、貴女はその部屋を所謂“不法占拠”しているわけですから、再三お送りしている催促が叶わない場合は、明渡請求、及び訴訟手続きを───』

のあ「チ、ちょ、ちょっ……!!」

管理者『?』

のあ「も………!」

のあ「もっと、分かる言葉で……、や、優しく言って………っ!」グスッ

管理者『………家賃を、その、払ってくれたら嬉しいですね』

のあ「は、払います払いますっ! すみません……」

管理者『お仕事をしていない訳ではないんでしょう?』

のあ「あ、ハイ。アイドルを」

管理者『えっ?』

のあ「は、ハイパードリームクリエイターを」

管理者『………………ハイ?』

のあ「アッ、ア、ヲ、その………」

のあ「………………………………営業職です」

管理者『極力お支払いを早めにお願いします、何かありましたらご連絡を……、失礼致します』

のあ「すみません……すみません………っ」


〜〜〜〜〜〜回想終わり〜〜〜〜〜〜








のあ「……ということ」

周子「ピンチだよ」


──────
────
──
8 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:01:19.16 ID:qdKH3wt/0
──
────
──────
【事務所・応接室】


周子「ふぅ」

周子「(のあさんも大変だなぁ。最悪の場合、あたしのアパートでルームシェアでもいいけど)」

周子「(でも本人にも危機感を持って貰わないと、彼女自身のためにならないよね)」

───ガチャ


美嘉「おつかれー♪」

奏「周子、お疲れ様」

周子「おっつー」

周子「美嘉ちゃん、ネットニュース観たよ」

周子「ツイッターに載せた服が翌日、全国のユニクロから売れて消えたって」

美嘉「ふふ。アタシも焦っちゃったなぁ」

奏「とか言って、内心は?」

美嘉「いやぁ、それは満更でもないよねー★」

周子「だよね」

美嘉「ねえねえ、そのお菓子一個いい? どら焼き……?」

周子「あいよー」

奏「城ヶ崎美嘉の発信力は、本当に市場経済を動かすレベルよね。末恐ろしいわよ」

美嘉「プチプラのコーデだったし、みんな手軽に真似できるからウケたんじゃないかな?」

美嘉「反響が大きいのはウレシイ限りだけどね」

奏「流石はSランク」

周子「そだね」

美嘉「これオイシーね♪ どこの? ねー写真撮っていい??」

奏「あ、話題逸らした。照れ隠しかしら、ふふっ」

周子「今度はそのどら焼きが売り切れちゃうね」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/29(月) 23:03:43.23 ID:Y0xVHCoio
Rで読んできた
10 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:11:11.49 ID:qdKH3wt/0

周子「奏ちゃんもどう? このどら焼き」

奏「結構な大きさね。申し訳ないけど私、この後レッスンだから………」

美嘉「そうなの?」

周子「そういやさっき、のあさんも美味しいって褒めてたな、コレ」

奏「食べる!」スッ

周子「えっ?」

奏「あぁ、もう美味しいって分かる。素敵……」

周子「さ、触っただけで?」

美嘉「のあさんって、ウワサの『寡黙の女王』?」

周子「ん?」

美嘉「銀髪で無表情で不思議なオーラがあるって話だけど、アタシ会ったことが無いし、よく分かんないなー」

奏「………」ピクッ

美嘉「Gランクだっけ。まあ、新人にしちゃよく頑張ってるほうじゃない?」

周子「まあ……、そんなもんだよね」

美嘉「ちょっとジュース買ってくるね」スタスタ

───グチャ!


周子「!?」

奏「………美嘉」

周子「あぁ………勿体無い。そんな潰さんでも」

奏「美嘉。貴女は、貴女と同じ高みにいる彼女の真価に、気付いていないだけ」

奏「近すぎて分からないだけ、見えていないだけ。あるいは、認めたくないのかしら」

周子「何言ってるか知らないけど、餡子でベッタベタだから早く手を拭こ?」

奏「いいえ、美味しかったわ。高峯さんと同じ感想よ、美味しかった。あの人と同じ……」

周子「え、何? 手から食べたの? ど、どゆこと??」








━━━━━━━その頃━━━━━━━
【ユニクロ】


のあ「ウ、売り切れ……!?」

店員「申し訳ありません。有名なアイドルがツイッターに上げたとかで、急に女性のお客様が一斉にお買い求めになりまして」

のあ「(め、迷惑な……!)」

のあ「(私はユニクロの上客なのに、にわかユニクラーアイドルのせいで………くっ!)」

のあ「(私の欲しかった服が……、ど、どうしよ……)」シュン


──────
────
──
11 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:11:56.42 ID:qdKH3wt/0
──
────
──────
【岡崎家】


泰葉「家賃滞納ですか……」

のあ「そうよ」

泰葉「危機感抱いてます?」

のあ「……然り」

泰葉「他のライフラインは大丈夫なんですか?」

のあ「ガスは………止まっている」

泰葉「あぁ……、とうとう止まったんですね。頑張って動画投稿してたのに」

のあ「問題ない。支払いも滞りなく終わり、明日開栓予定」

泰葉「(滞ってたから止まったんじゃ……)」

泰葉「というか、それまでどう生活していたんです?」

のあ「シャワーは事務所。料理は外食、あるいは……」

のあ「電気は生きているから、水を適量と、乾麺のうどんを半分に折って炊飯器に入れて10分少々で、良い塩梅に調理できる」

のあ「電気があれば何でもできる」

泰葉「(泣きたくなってきた)」

のあ「泰葉」

泰葉「はい?」

のあ「お風呂を貸して欲しい」

泰葉「今日はそのために来たんですものね。いいですよ、温まって帰って下さい」

泰葉「あっ、それと私明日から────……って、お風呂場行くの早っ!!」

泰葉「もう……」
12 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:12:39.49 ID:qdKH3wt/0

━━━━━━━翌日━━━━━━━
【泰葉宅前】


のあ「(ふふっ♪ 無事にガスが復活したわ♪)」

のあ「(泰葉ちゃんにはご飯とかお風呂とかお世話になりっぱなしだったし、お礼をしないと♪)」

のあ「(いいとこのケーキも買ってきたし、さっそく一緒に……♪♪)」

のあ「……♪」

ピンポーン♪


のあ「…………」

のあ「……」スッ


ピンポーン♪ ピンポーン♪



のあ「………………?」

のあ「……………………………」

───カチカチ


のあ「………………………………………………………………………………………」カチッ



〜〜〜〜〜〜〜LINE〜〜〜〜〜〜〜

泰葉【いないですよ。今日から仕事の撮影で長崎ですので】11:00

泰葉【一週間は家を空けます。昨日言いませんでしたっけ?】11:00

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



のあ「ッ!?」ドンッ!

のあ「(そ、そんな………き、聞いてない!)」ドンッ!

のあ「(わ、私の最大のライフラインが……!! あわよくば節約のためにお邪魔させて貰おうと計画してたのに……!!!)」ドンッ!

のあ「ぁ、あうぅ………!」ドンッ! ドンッ!

のあ「(泰葉ちゃんがいなくなったら、一体だれがマトモなご飯を作ってくれるの? だれが私の面倒を見てくれるの!?)」ドンッ!

のあ「(私、もう自分の部屋より泰葉ちゃんの部屋でくつろぐ方が遥かに居心地がいいのに……!!)」ドンッ! ドンッ!

のあ「(なんで……、せめて合鍵を残してくれなかったの……!?)」ドンッ! ドンッ!

のあ「(酷いよっ、こんなあんまりだよ………っ)」ドンッ! ドンッ!

のあ「(こんなの……、絶対おかしいよ………!)」ドンッ!






───ガチャ!!!!!





時子「うっっさい!!!! 打ち殺すわよこのクソニートがッ!!!!!!!」←お隣

のあ「アヒッ!! スス、スミマセン……!!!」


──────
────
──
13 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:13:24.53 ID:qdKH3wt/0
──
────
──────
【ファミレス】


時子「……」

楓「のあさん、大変でしたね」

のあ「社会で生きるという営為、それ即ち労働に辿り着く」

のあ「働かなければ普く、人として生きることは叶わない」

楓「つまりアイドルとして………お仕事を?」

のあ「…………」←Gランク

楓「…………」←Gランク

時子「……………」ズズッ…

楓「あっ! そうだ!」

のあ「?」

楓「ちひろさんに相談しましょう」

のあ&時子「…………」

のあ「オ、お金の?」

楓「いえいえ。お仕事のですっ!」

のあ「仕事を増やして欲しい、と?」

のあ「ランクは私達の実力。仕事の量はそれに見合うもの………彼女の負担が───」

楓「それも少し違います。えーっと、つまり」

楓「バイトですよ!」

のあ「……バイト?」
14 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:14:04.13 ID:qdKH3wt/0

時子「………私は先に帰る」ガタッ

楓「あっ、は、ハイ! 御馳走様でした!」

のあ「お疲れさま」

楓「えーっと、つまりですね? 自虐的で言うのも少しツライんですが」

楓「芸人でも、役者でも、アイドルでも。売れてなければ兼業するんですよ」

楓「売れてなければ、給料が少なく、生活できないですからね」

のあ「……当然ね」

のあ「“二足の草鞋”……かしら」

楓「“備えあれば憂いなし”……とも言いますね」

楓「労働形態は様々ですが、やはりアルバイトが基本ですね」

楓「大抵は自分で探すんですが、事務所で斡旋してくれる簡単なバイトもあるはずです」

のあ「……なるほど」

楓「ただ」

楓「“アイドルとしての仕事”というよりは、“一般的のアルバイト”になっちゃいますけど」

のあ「構わない」

楓「私もお付き合いします♪ 早速明日にでも、詳しい話を聞いてみましょう♪」

のあ「フフッ……」

楓「ふふふっ♪」








━━━━━━━━━━━━━━
【レジ】


のあ&楓「………」

店員「先ほどの方は既に、ご自身のお飲み物の代金を支払われていたので……」

店員「あとは、やわらかチキンのサラダ、ミラノ風ドリア、デミグラスソースのハンバーグ、グラスワイン、ですね」

店員「お会計、こちらになります」

楓「(時子ちゃん、てっきり全部払ってくれたと思ったのに……)」

のあ「(余計な出費が……)」


──────
────
──
15 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:14:39.01 ID:qdKH3wt/0
──
────
──────
【事務所】


ちひろ「モチロン、ありますとも♪」

のあ「(……!)」

楓「私達でも、出来ますか?」

ちひろ「ええ。そうですね、簡単に説明しますと」

ちひろ「貴女達はアイドルですので、アイドル活動は最優先です。その活動に支障が出ない範囲の……」

ちひろ「つまりシフトや人員という点でいつでも補充が利く、リスクが低いアルバイトの斡旋になります」

楓「矢継ぎ早にすみません。例えば、どのような?」

ちひろ「二種類あります」

ちひろ「一つは、アイドルとしてのスキルや容姿が活かせるアルバイト」

ちひろ「デッサンモデル、コスプレ撮影、フロアレディ、着ぐるみスタッフ、etc……」

のあ「(き、着ぐるみスタッフ……!!)」

ちひろ「もう一つ、無資格未経験でこなせる簡単な軽作業系主体のアルバイト」

ちひろ「グッズ袋詰め、ティッシュ・風船配り、警備・清掃・販売スタッフ、etc……」

ちひろ「どちらも期間は短く、お給料は日払い可です」

ちひろ「お二人だけでなく、多くのアイドルも同じような悩みを持たれています。不安も当然お持ちでしょうが……」

ちひろ「気軽に頼って下さいね。アシスタントとして全力でバックアップしますから♪」

のあ「(や、優しい……!)」

楓「(天使……!)」
16 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:15:23.84 ID:qdKH3wt/0

ちひろ「そうだ!」

ちひろ「今、漠然としたカンジでよろしいので、希望のお仕事職種や時間帯など、簡単にこのメモに書いていただけませんか?」スッ

ちひろ「こちらもバイト紹介の際、それを参考にさせていただきますので♪」カサッ

のあ「(……希望の仕事、時間)」カチッ

のあ「(この希望通りに、ちひろさんが厳選して紹介してくれるわけね。結構重要だわ!)」

のあ「(うーん………お金が欲しいから選り好みしている場合じゃないけど)」

のあ「(でも、これはある種の権利よね。こういうところで妥協しちゃダメ)」

のあ「(仕事の内容……、あまり大勢の前に立つ仕事はムリかな。緊張で吐いちゃうし、協調性とかのアレもあるし)」

のあ「(時間帯……、出来れば早めに帰れればいい。見たい番組いっぱいあるし、ここは譲れない)」

のあ「(アイドルのスキルを活かす……、いや、Gランクアイドルってそもそもアイドルなの? ランクとか正直に答えたら鼻で笑われそう)」

のあ「(じゃあ無資格未経験でこなせるバイト? でも……着ぐるみスタッフとかやりたい。やりたい)」

のあ「(あっ! 楓さんと相談を……)」

のあ「(いやでも、彼女も都合があるだろうし…………うーん…………………)」

のあ「………………」カリカリカリ

ちひろ「はい、じゃあお預かりします。メールで連絡しますので」

ちひろ「(どれどれ、二人とも何を書いたのかな?)」カサッ




【簡単で裏方寄りのアイドル的な可愛い仕事/時間帯は定時希望  @高峯のあ】




ちひろ「…………」







【楽で裏方でアイドルっぽい可愛らしいお仕事/時間帯は定時希望  @高垣楓】








ちひろ「(………!?)」


──────
────
──
17 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:15:52.01 ID:qdKH3wt/0
──
────
──────
【松屋】


のあ「(ちひろさんからメールが来たけれど、幅広い仕事でチャレンジすることになった)」

のあ「(人生何事も経験。確かにそうね、ちひろさんも本当にいい人、頑張ろ)」

楓「どんなお仕事がくるか、ワークワークしますね。ふふっ」

のあ「………そうね」

楓「のあさん、本当に食べなくていいんですか?」

のあ「ええ。私はドレッシングだけで満足」

楓「いくら節約だからって、お腹空いてるんでしょう? はんぶんこにしません?」

のあ「!!」

楓「松屋の牛めしを、二人で分け合う」

楓「自虐じゃないですけど、駆け出しアイドルっぽくてイイですね」

楓「これで言葉通り、私達は“同じ釜の飯を食った仲”」

のあ「(か、楓さん……っ)」

楓「ふふっ、ちょっと恥ずかしい」

のあ「楓……。友情の証として、有り難くいただくわ」

楓「明日から早速アルバイトです。精をつけましょう!」

のあ「ええ。そうね」
18 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:16:24.75 ID:qdKH3wt/0

隣の客A「じゃあそろそろ行く?」

隣の客B「うわ、お前めっちゃ残してるじゃん。もったいないわー」

隣の客A「いやこんなに無理だし。早く行こ、講義遅れるよ?」

隣の客B「ごちそうさまでーす」




のあ&楓「(……!!!)」




のあ「……………」

のあ「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

楓「(えっ?)」

楓「(のあさん、隣にいた女性の食べ残しをすっごい凝視してる。クールな視線で観察して……、いや、まさか………えっ?)」

のあ「………………」ジー

店員「ありがとうございましたー」カチャ

のあ「アッ」

のあ「あっ、あの」

店員「??」クルッ

のあ「あっ」

のあ「その残り物……、アノ、ど、どうせ廃棄するなら、その……」

のあ「よ、よければで構わないんですけど、その、もッ、貰えたりとか…………っ」

店員「アー……」

店員「コレ、あくまで他のお客様に提供したものッスので……」

のあ「デ、でででももう帰ったし、あ、貴方が、それ、を、ワタシに、て、提供する分には………」

店員「あーそうすね。ただ当店の規約とかで、衛生的にそういうのダメなんスよね」

店員「融通効かなくて、ホント申し訳ありません」スタスタ

楓「…」

のあ「…………」プルプル

楓「の、のあさん?」

のあ「松屋は…………、国民のニーズが、分からない……っ」プルプル

のあ「お、大手飲食チェーンとはおお、思えない……っ」プルプル

のあ「国辱……、松屋は国辱……っ!」プルプル

楓「そ、そうですか??」

のあ「ウゥ……」グスッ


──────
────
──
19 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:17:18.42 ID:qdKH3wt/0
──
────
──────
【某大学・美術作業室】


のあ「(………)」

生徒A「(………)」

生徒B「(………)」

生徒C「(………)」

楓「………」

のあ「(美大のデッサンモデル、のアルバイト)」

のあ「(………帰りたい)」

のあ「(ヌードじゃなくて安心した。いやでも流石に布きれだけって恥ずかしいけど)」

楓「………」

のあ「(……楓さん、すごいなぁ)」

のあ「(たったまま平静を保って、微動だにしない)」

のあ「(流石はモデル経験者。とても綺麗)」

楓「………」

のあ「(……そう言えば)」

のあ「(一応はモデル経験もあって、こんなに美人なのに……、どうして彼女はまだデビューもしないで、Gランクなんだろ)」

のあ「(………私なんかより、ずっと凄いのに)」

楓「………」
20 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:17:47.38 ID:qdKH3wt/0

楓「(………)」

楓「(のあさん?)」

のあ「(!!)」

のあ「(……何かしら)」

楓「(あの……)」

楓「(さ……、さっきから緊張して、もう気が気じゃないんです。吐きそう……)」

楓「(おおお、大勢の男子生徒に、舐めまわすような視線を向けられて……ッ!)」

楓「(な、何か、気の紛らわすことでもしませんか?)」

のあ「……!!」






生徒A「(………美人だ)」

生徒A「(自然の永続性とは真逆の、儚げで退廃的な芸術性すら感じる。素晴らしい……)」

生徒B「(片や……、パリのチュイルリー庭園の木洩れ日の下、小鳥と戯れる少女のようなあどけなさが残る、まさしくルノワールのイレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢を彷彿とさせる容貌……)」

生徒B「(そしてもう一人は、日本絵画のような静謐な空気を纏い、肌の色たるやモネの睡蓮の如く清らかで薄明な白。無駄なく洗練された細身の肉体と、憂いを帯びながらも罪を咎めるような厳しい瞳は、まるでギリシア芸術の彫刻が象る完璧な美!)」

生徒C「(こ、これほど非凡なモチーフをお目にかかれるとは、まさしく青天の霹靂!)」

生徒C「(しかし……)」

生徒C「(その表情に宿す感情は、一体何なんだ! 二人の女神が何に思いを馳せているのか、いち表現者としてそれを汲み取る事が出来ないのが歯痒くて堪らない……!)」

生徒B「(ああぁッ!! まさしくダヴィンチのモナ・リザの双眸に隠された文字を読み解き、その絵画の謎を究明するが如き難解さ! この苦悶と痛恨は、ゴッホの壮絶な人生を追体験しているようだ……!!)」

生徒A「(彼女達のこの、圧倒的なオーラは一体!?)」

生徒A「(何を経験し、何を考え、何を心に秘めれば、そのような非日常的な佇まいが出来るんだ……!!)」






楓「(……りんご)」

のあ「(……ごたんだ)」

楓「(……だいこんのおひたし)」

のあ「(……しまうま)」

楓「(ま……、ますから)」

のあ&楓「(………………………………………)」

のあ「(……フフフ♪)」

楓「(……ふふっ♪)」


──────
────
──
21 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:18:44.70 ID:qdKH3wt/0
──
────
──────
【学生食堂】


楓「すみません」

楓「このロコモコ風レタスメンチカツ丼と、あと冷奴下さい」

のあ「昔風醤油ラーメンと、海老シュウマイを」

学食スタッフ「はーい、お待たせしました」ゴトッ

のあ&楓「(早っ!!!!)」

楓「あっ、のあさん。窓側の席空いてますよ」

のあ「………ふぅ」

楓「デッサンモデル、結構疲れましたね。あとは午後から事務所でまた別のアルバイト……」

のあ「………いただきます」

楓「アルバイトはさておき、せっかく大学まで来たんですし、学食でも堪能して帰らないと損ですね♪ いただきまぁす♪」

のあ「こうして学生達に囲まれると、時を遡ったかと錯覚するわ」

のあ「(あ、意外に美味しい。思ったよりしっかりと味付いてる、量もそれなり)」

楓「そうですね。ちらほら、私達と同じくらいの歳に見える人もいますし」

楓「(あ、結構イケる。しかも冷奴にはおろしショウガと天かす……、通だわ)」

のあ&楓「(………♪)」
22 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:19:54.22 ID:qdKH3wt/0

のあ「……稀有な経験だけれども、不思議と悪くは無い」

フレデリカ「そうなの?」

のあ「今回のデッサンモデル、断らないで正解だった」

楓「私はむしろ慣れていた仕事だったので、ちひろさんから連絡来た時はすぐに返事を返しましたけどね」

楓「幅広い仕事って言われてたから、最初の仕事がこれでむしろ安心したというか嬉しかったというか」

フレデリカ「分かる分かるー☆」

フレデリカ「あたしもこの間、愛用してるコスメのメーカーさんからパッケージイラストをお願いできませんか、って持ちかけられてときは」

フレデリカ「二つ返事で『やりますやりますやります!』って飛びついたよ! 返事したのは三回だけど☆」

のあ「慣れているにもかかわらず、嘔気を?」

楓「そ、それは……………その、多少は……」

フレデリカ「大丈夫? 食欲は??」

楓「平気ですよ。食欲なくってショックよ、クッ………とはなりませんから。ふふっ……」

フレデリカ「おもしろーいっ☆」

フレデリカ「ちょっと何言ってるか分からないケド、そのシュウマイ一つ貰ってもいい?」

のあ「どうぞ」

フレデリカ「あはっ、メルシー セ ジャンティ♪」

楓「あっ、私も欲しいです♪ ここの大学、なかなか学食のクオリティは高そうですね!」

のあ「ええ。中々の一品」

フレデリカ「ン〜……♪」モグモグ

フレデリカ「これで午後からの講義も頑張れるっ! でも今日はあったけ?」

フレデリカ「まあオッケー! じゃあバイバーイ♪」

楓「あ、ハーイ」

のあ「午後からは事務所で……」

のあ「……どんな内容だったかしら?」

楓「んー、確か他の事務所のアイドルとコラボ予定の……」

楓「サンプル品? のチェック? だったような……???」

のあ「興味深いわ。………………ところで」

のあ「先程の学生は、貴女の知り合いかしら」

楓「……?」

楓「いいえ。のあさんのお友達じゃあないんですか?」

のあ「……えっ?」

楓「……えっ?」


──────
────
──
23 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:22:15.37 ID:qdKH3wt/0
──
────
──────
【事務所 応接室】


のあ&楓「(………)」

楓「(何でしょう。向こうのデスクにある、カップ麺の列は)」

のあ「(……分からない)」

ちひろ「お二人にはモニターをやって頂きます」

楓「モニター?」

ちひろ「他プロダクションのアイドルさんが、都内有名ラーメンチェーンとコラボをすることになりまして」

ちひろ「商品企画にあたりまして、店舗にて提供するものとは別の、コンビニ向け製品に関してのモニタリングです」

ちひろ「正面のデスクにある10種類の試作品がありますので、その味の感想を聞かせて下さい」

のあ&楓「(ウッ……!)」

ちひろ「ここに用紙があります。項目ごとにパッケージデザイン・味・麺とスープの種類、味の調査項目も細かく分かれていまして、下には自由な感想を───」

楓「(が、学食でガッツリ食べて来てしまいましたね………デザートもおかわりしましたし)」

のあ「(誤算)」

楓「(よく知りませんが、コラボ製品なんてそんなの相手企業にテキトーに任せるもんじゃないんですか?)」

楓「(既製品のラーメンに出来合いの顔写真を一枚貼ってコラボと言い張るだけで、充分にコラボ成立ですよ)」

のあ「(……こだわりが強いアイドルなのではないかしら。そこは素晴らしいけれど)」

のあ「(しかし、ラーメンに執心するアイドル……、全く珍妙ね)」

楓「(あはは! そうですね!)」
24 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:24:29.10 ID:qdKH3wt/0
━━━━━━━10分後━━━━━━━


楓「良かったですね。一口でも大丈夫なんて」

のあ「………」ズズー

楓「むむ………ニラに豆腐に……、最近の技術はすごいですね。食感もなかなかしっかりしていて、これがフリーズドライですか?」

のあ「………」ズズー

楓「こっちのは鶏塩。あっさり味の透明なスープ、麺も極細でつるんとしたのど越し………付属のコショウのアクセントも良いですね」

のあ「………」ズズー

楓「酸辣湯麺風! わっ、これ花椒がすごい効いてて、うわっ、舌がスースーしますよ! これが本当のスー辣タン……!!」

楓「ゴフッ! げほっ!! えッほ!!!」

のあ「………」ズズー

楓「ああぁっ、エホッ」

楓「……おなかいっぱい。持って帰って家で食べたいなぁ」

のあ「(………)」ズズー





━━━━━━━後日━━━━━━━
【某所】


*「あなた様?」

*「如何でしょう。件のらぁめんの感想は集まりましたか?」

「うん? 嬉しそうだな」

*「はい。らぁめんの商品企画に携わることは、アイドルとしての、私の悲願とする所ゆえ」

「そ、そうなのか。それは初耳だ」

「モニタリングの方は上々だよ。今回は他の事務所にも協力して貰ってるし」

「一部だけど、コレ、参考程度にな。匿名なのに名前を書いている感想は、まあ無視していいよ」

*「……有り難く拝見させていただきます」

【四条貴音さんのイメージ的に合致するのは、月の光のように透き通る白湯のスマートな細麺でした。脂っこいのはあまり想像できません】by匿名

*「ふむふむ。私は脂っこいのは大歓迎ですが……」ピラッ

【お酒の〆のラーメンはやはりストレート細麺の、鶏ガラと煮干しの風味が香る、まろやかな味わいの西銀座のお店が鉄板ですね。鰹節を入れるとさらに鶏ガラの味がガラッとほがらかに変わってすごい美味しいです!】by匿名

*「ふ、ふむ……! それは要ちぇっくですね……!」






【結論から述べると、賞味した全ての製品はアイドルという表現者として恥ずべき低次の完成度であると断ぜざるを得ない。重視する製品の質、即ち味。これらを吟味する際、個人的な嗜好や感情を排除しても、用意されたサンプルを噛むたび、啜るたび、所詮はサンプルだと落胆するばかりであった。味わったラーメンからは、貴女の色が何も感じられない。手前勝手ではあるが、こだわりを持つアイドルと尊敬の念を抱いた直後の試食でこれら粗雑な品々を振る舞われ、非常に残念極まりない。
食とは……、あらゆる責任を内包する。命を奪い、喰らう責任。健やかな身体を育む責任。他者に提供し、心ゆくまで満足させる責任。貴女がプロデュースをした製品を口にし、その理解へ到達しているか大いに疑問を感じた。吉野家の牛丼を参考にすると良い、あれは生命のリアルを一瞬で感じることが出来るだろう。
其れはともあれ、単なるインスタント。元来、この企画はアイドルとしての仕事の一端であり、突き詰めるとただの話題作り。そこまで予算を掛ける事も心を砕く必要もない。人並の完成度で庶民の舌をごまかし、それなりの売り上げと評価を受ければ世間のインプレッションは上々。企画的にもそれで万事成功の筈だ。
しかし貴女が真に食を……、ラーメンを愛する女だというのならば、私はその先が見てみたい。型に囚われず既存の味を凌駕し、事務所の既定方針を打破し、妥当な評価に甘んじることなく、限界に挑み貴女の情熱を注ぎこんだ一杯を。アイドルとしての貴女の色で染められたラーメンを食すことが出来る日を、私は楽しみにしている】



by高峯のあ





*「───ッッ!?」ガタッ

*「めっ、面妖なっ!! こここ、この御方は一体……!?」

「??」

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────
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25 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:27:38.40 ID:qdKH3wt/0
──
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【事務所 応接室】


奏「周子の家って、物が少ないわよね」

周子「まーね。埃被るのイヤだし」

周子「実家にお金入れて、あとは服とか買うくらいだしね」

奏「偉いわね。貴女、ミニマリストだったかしら」

周子「イヤそこまで極端じゃないよ。奏、うちの部屋来たことあるやん」

奏「伊吹ちゃんの部屋なんていっつもごちゃごちゃしてて。なんて言ったかしら、あのアングラで、アウトローで色々な雑貨が置いてある店……」

周子「アングラ? アウトロー?」

フレデリカ「ヴィレッジヴァンガードかな?」ヒョコッ

奏「ああ、そうそれヴィレバン。ああいう店ですぐ変な物ばっかり買って」

周子「フレちゃん、お疲れ」

フレデリカ「おつかれー♪」

周子「高校生とか大学生の御用達っていうイメージというか」

周子「伊吹ちゃんの家にお邪魔した時は、そんなに気にならなかったけどね?」

奏「貴女達はしょっちゅう隣同士出入りしてるからよ」

フレデリカ「ロックでポップな品物ばっかりだよね。アタシはあんまり馴染みが無いかな?」

周子「講義終わったん?」

フレデリカ「終わったー」

奏「志希は?」

フレデリカ「んーん。今日は一緒じゃないよ」

フレデリカ「そーいえばさー、今日大学で、あの人に会ったんだよ」

奏&周子「あの人?」

フレデリカ「んーっと。実際に今まで会ったことは一度も無かったんだけど」

フレデリカ「なんだっけ、あのセリエAのインテルで活躍してそうなサッカー選手みたいな名前の人」

周子「それセリエAのインテルで活躍してるサッカー選手なんじゃないですかね」

奏「大ニュースね」
26 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:28:41.15 ID:qdKH3wt/0

フレデリカ「あー、高垣………楓さん?」

奏「楓さん? お仕事かしら」

フレデリカ「学食でごはん食べてたよ。あと一緒にいたのが、あの、プロレス団体みたいな………たかみね、のあさん?」

奏「大ニュースね……。フレちゃん、詳しく聞かせてくれる?」ガシッ!!

フレデリカ「う、うんうん! なに、そんなに顔近付けて、キス態勢?」

フレデリカ「確か、どっかの学科のデッサンモデルとして来たんじゃないかなー? 割とそういう話聞くし」

周子「あー、楓さんが一緒なら納得。あの人ランクは低いけど、モデル方面の仕事は結構多いって言うし」

奏「で、デッサンモデル……!」

奏「ぬ、ヌード!?」

周子「視点がおっさんやな」

フレデリカ「ヌードじゃなーい?」

周子「っ!? ちょ、奏ちゃん鼻血鼻血!!」

フレデリカ「よく分からないけど、咄嗟に高峯さんのシュウマイ一つもらって、お別れしたよ」

奏「ッ……!!」

奏「い、今まで会ったことも無かったのに!? 名前もうろ覚えだったのに………それなのに!!」

フレデリカ「う、ウン……?」

奏「ほぼ赤の他人のシュウマイをなんの躊躇も無く奪ったの!? その人が仮に貧困に喘ぐホームレスだったらどうするの!?」

周子「のあさんは貧困に喘ぐホームレスじゃないから。落ち着いて奏ちゃん」

奏「貴女は……っ! 貴女の人懐っこいフレンドリーさは長所ではあるけど、時にそれは失礼にあたる場合もあるのよ!!」

奏「私、心配なんだからっ……!」グスッ

フレデリカ「う、ウン! ご、ごめんね……?」

周子「(泣いてる。なんで?)」

奏「私だって………私だって、高峯さんのシュウマイ食べたい……」グスッ

周子&フレデリカ「……」


───ガチャ



伊吹「お疲れさまー。奏いるー?」

周子「あっ」

伊吹「(………えっ!?)」ビクッ!

伊吹「か、奏……? ど、どうしたの? 泣いてるの?」

伊吹「周子? 何話してたの?」

周子「あー、えっと……」

周子「その……、伊吹ちゃんの部屋が物で溢れてごちゃごちゃしてるなーって話を」

伊吹「エッ!? あ、アタシのせいなの!?」

伊吹「ご、ごめん。今度整理します………ハイ」


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27 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:29:30.96 ID:qdKH3wt/0
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【駅前】


のあ「(フフッ……♪)」

スタッフA「それじゃあ、この辺りで始めましょう」

スタッフA「カゴの分がなくなったら、ここのダンボールにストックがあるので、各自判断で補給してください」

のあ「(今日のアルバイトは、ポケットティッシュ配り♪)」

のあ「(アイドルになる前も何度かお世話になったことがある、陰キャでもコミュ障でも出来る簡単なバイト♪)」

のあ「(あぁ、いいわ。早く全部渡して早上がりしたい)」

のあ「(懐かしいなぁ。思えば、アイドルになって自分のデビューCDをティッシュ配りの要領で間違って無料配布してしまったあたりから、私の金欠生活は幕を開けたんだわ)」

のあ「(……さて)」

のあ「(狙うのは人が足を止める信号前や入り口付近。ターゲットは主に女性、外国人。道行く人の手元を目掛けて……!)」

のあ「ドッ」

のあ「ドゥゾー」

通行人「……ぁ。どうも」ガシッ

のあ「(……!)」

のあ「(やっ、た! フフフッ、さすが私!)」

のあ「(この要領で、一気に……!)」








━━━━━━━1時間後━━━━━━━


のあ「……………」

スタッフB「ありがとうございまぁーす♪」

のあ「……………」

スタッフC「いかがですかー♪ あ、どうもぉー♪」

のあ「……………」

のあ「ど、…………」

通行人「…………」スタスタ

のあ「……………」

のあ「(あれっ、私だけ捌けてない?)」
28 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:30:29.70 ID:qdKH3wt/0

のあ「(私だけ? やっぱり声を出す陽気なパリピには勝てないの?)」

のあ「(いや、私はやりきる。声の小さい陰キャだって、出来るバイトだって証明してみせ───)」

通行人M「あっ。ティッシュください!」

のあ「ヘアッ!!?」

のあ「ア……、ハイ」スッ

通行人M「ありがとうございます♪」

のあ「(………)」

のあ「(よし、頑張ろ)」

のあ「(これ終わったら、久しぶりに吉野家でも行こうかなあ……)」








━━━━━━━1時間後━━━━━━━
【カフェ】


アーニャ「オーチン フクースナ♪」

アーニャ「美波、このパフェ、生クリームがたくさんで、美味しいです♪」

美波「こっちのミルクレープも美味しいよ、交換っこしよっか♪」

アーニャ「ダー♪ ダヴァイ ズドーラヴァ♪」

美波「あっ? アーニャちゃん?」

アーニャ「??」

美波「ほっぺに生クリームが付いてるよ。ちょっと待ってね、今ティッシュで……」

ドサドサドサッ!!!


美波「(あっ……)」

アーニャ「美波? アー……??」

アーニャ「ポケットティッシュが、カバンから床に落ちましたよ?」

アーニャ「20個ほど」

美波「これは………駅前で配ってたから、つい沢山貰っちゃって………」

アーニャ「一つ、ください♪ 私も欲しいです♪」

美波「うん、いいよ」

アーニャ「バリショーエ スパスィーバ♪」


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29 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:31:30.04 ID:qdKH3wt/0
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【吉野家の前】


のあ「……」

のあ「(あぁ、吉野家だ。なんて良い匂い………意識がトびそう)」

のあ「(でもダメ。節約)」

のあ「(この間の学食はあくまで交際費。自分の食費は抑えなきゃ)」

のあ「(もう一週間も吉野家の牛丼を食べてない……。心と体がおかしくなりそう、これがスーパーサイズミーってやつかな)」

のあ「(ハァ……)」






周子「……あ」

紗枝「あっ!」






のあ「(!!!!!!!!!)」

のあ「シ、周子ち……………、周子、紗枝」

周子「(みんなの前でもちゃん付けでいいのに)」

周子「やっほー」

紗枝「お疲れさんどす〜♪」

のあ「……奇遇ね」
30 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:33:09.41 ID:qdKH3wt/0

のあ「二人で遊んでいたのかしら」

周子「ウン、今女子寮に帰る所。そっちは?」

のあ「……仕事(アルバイト)を終えた所」

のあ「(………ん??)」

のあ「……『女子寮』? 周子、貴女は寮ではなく───」

紗枝「あっ! 周子はん!!」

紗枝「ほら、せっかく聞かはってんやし! さ、誘ってみよか??」ドキドキ

周子「ん? ンー……」

のあ「???」

周子「うん。のあさん、あのね?」







━━━━━━1時間後━━━━━━
【女子寮 ロビー】


のあ「(………)」

小梅「あっ……、た、高峯さん?」

涼「あ? ホントだ、珍しい」

のあ「(………)」

紗南「あ! こんばんはー♪」

美玲「うわッ! 真ん中に突っ立っててビックリしたぞ………どうしたんだ?」

のあ「(………)」

まゆ「こんばんはぁ♪ 今日は、楓さんとご一緒じゃないんですか?」

悠貴「こんばんはっ! あっ、今日はお一人なんですねっ!」

のあ「(………?)」

笑美「わっ!? なんや、くいだおれ太郎かと思ったら、高峯さんやないですか!」

鈴帆「こんばんは、高峯しゃん。 今ココごちゃごちゃしとるから、ちょこっと騒がしとよ。勘弁せんね」

のあ「(………)」

周子「のあさん。ロビーのど真ん中にオブジェみたいに立ってたら、流石に目に付くよ」

周子「移動しよっか」

のあ「………周子」

周子「なに?」

のあ「………私、こんな大勢のアイドルに囲まれて、女子寮に勝手に入って」

のあ「その………、捕まったりしないのかしら」

周子「のあさん、貴女もアイドルですやろ。お忘れかえ?」


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31 : ◆AL0FHjcNlc [sage saga]:2018/10/29(月) 23:39:48.21 ID:qdKH3wt/0
とりあえず今日はここまで、また次回。

今回のお話は、少し短めの番外編です。
前回の5作目と、現在執pixivにて執筆公開中である次作、【高峯のあ「牛丼並……玉子とみそ汁もつけて」】の間のお話になります。

不可抗力により途中までR板にて投下していたり、確認不足でスレを乱立してしまい、大変申し訳ありませんでした。
これからはここにて執筆・投下をする予定です。
久しぶりの投稿なので、温かい目で見守って頂けたら幸いです。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 00:02:34.00 ID:2oeTX4VRo
まだ堕ちてない姉ヶ崎
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 12:05:37.39 ID:fqvm5gvB0
牛丼のあさん来た!やったぜ!!
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/30(火) 20:42:05.04 ID:IW/X6i1Zo
2年ぶりくらいかと思ったらPixivで更新してたのか
探してこよっと
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/31(水) 21:18:12.05 ID:hywRpMeJ0
このシリーズはのあさんに興味を持ったきっかけのssです。続きが見れるのが嬉しいです。応援してます。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/01(木) 04:41:42.46 ID:quLcwzBhO
きたーーーー!!
待ってました!
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 16:06:52.31 ID:Jrb5A+Wko

こっちでは本編書かないのか
38 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [saga]:2018/11/07(水) 01:37:06.23 ID:+NpPfPpP0
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【続 女子寮・共同キッチン】


のあ「(あぁ……、すごいイイ香り。これが女子寮)」

のあ「(柔らかい色彩の壁、可愛い家具、みんなのふわふわのパジャマ。見続けていたら視力が回復しそう)」

のあ「(これ動画で上げたらすごい再生数稼げるだろうなぁ……、泰葉ちゃん許してくれないかなぁ)」

周子「で」

周子「お菓子作りを試みようと思ったけど、あたしの家には天板とかの器具や調味料がなかなかどうして足りなかったわけで」

周子「いっそ、女子寮の共同キッチンを借りちゃおうと思った次第です。ね、紗枝ちゃん?」

紗枝「よっ、と……」ゴトッ

周子「………」

周子「……紗枝ちゃん? そのゴツイ三脚とビデオカメラは何かな?」

紗枝「ふふふっ♪ これでな、周子はんの家庭的な様子をばっちり映したろ思おてな♪」

周子「カメラがあたしじゃなくて高峯さんの方にばっちり向いてるのは気のせい?」

のあ「(立派な対面キッチンだなぁ。オシャレな瓶とかケースがいっぱい)」

周子「のあさん。ご飯がまだなら、お菓子作りの前に、なんかテキトーに作ったげよっか?」

のあ「ぜ、是非!!」

周子「うんうん。いい食い付き」

周子「……ン!」

周子「おやおや」

のあ「……?」

紗枝「まあ、先客がおいやしたんどすなぁ」






みく「……エ? なに?」



のあ「(この声は、みくちゃん? キッチンの奥にいるのかな?)」
39 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:38:35.45 ID:+NpPfPpP0

紗枝「こら、じぶんどきにお邪魔してしもて堪忍どす、みくはん」

みく「あっ、ごめんね紗枝チャン? これからキッチン使う?」

周子「晩御飯かい、みくちゃんや?」

みく「うん。次のお仕事、調理系のやつでね?」

みく「みく、あんまり得意じゃないから、少しでも技術を磨けたらと思って……」

周子「(うわ。偉っ)」

のあ「(みくちゃん、陰で努力してるんだなぁ)」

周子「だってさ。のあさん?」

のあ「みくの手作りでも一向に構わない」

みく「うわッ!? の、のあにゃん!?」ビクッ

みく「す、座ってるから見えなかったにゃ。な……、なんで女子寮にいるの?」

のあ「星の巡り合わせ」

みく「そ、そう」

みく「……そっか! のあにゃんには借りがあるし!」

みく「よーし、ちょっと待ってて! みくがパパーッと美味しいご飯を作ってあげるにゃあ♪」

紗枝「……あじない出来やったら?」チリッ

みく「オ、美味しく出来なかったら謝りますっ。確かにその可能性は充分あるし」

周子「おきばりやす〜」

のあ「(………♪)」







━━━━━━━数十分後━━━━━━━


みく「ど、どうかにゃ??」

みく「お手製の、メキシカンミートパイのお味は???」

のあ「………」パクッ

のあ「……………」

のあ「………………………えふっ」

のあ「えふっ、……………えふッ!」

みく「の、のあにゃん!!!!」ガタッ!

みく「ごめんなさい! 無理して飲み込まなくていいから!! いいって!! それ以上箸付けなくて!!!」

のあ「オ、美味シ………エフッ!!」

みく「そんな壊滅的なフォローいらないから!? のあにゃんが咳き込むトコなんて初めて見たよ!!」

周子「ていうか……、みくちゃんも何故そんな小難しい料理をチョイスしたし」

みく「今朝MOCO’Sキッチンでやってたにゃ……」

周子「あの料理コーナーは初心者向けじゃないからなあ」


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40 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:40:55.71 ID:+NpPfPpP0
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【続々 女子寮・共同キッチン】


のあ「ス、少し席を外す」

周子「どちらへ?」

のあ「ト、イレッ」

のあ「メ、メイクを直しに……!!」ガタッ

紗枝「(あぁ、流石は高峯はんやわぁ♪ 女の子に気遣おて、耐えとったんやね)」

周子「(耐えてたというか、耐えられて無かったけどね)」

周子「どれっ?」パクッ

周子「オ、オォウ…………、ごくん。なんとも………前衛的な味ですね」

みく「芸術作っちゃった? みく」

周子「よし。じゃあシューコちゃんが口直しに何か作るよ」

みく「本当にごめんなさい。ハイ、口直しに何かお願いします………すみません」

周子「(ニチレイの冷凍チャーハンとかでいっかなぁ)」






━━━━━━━━━━━━
【女子寮・トイレ】


のあ「オ゙エ゙ェ゙ェ゙ェ゙ェ゙ェ゙!!!!」ビチャビチャ!!

のあ「オ、オッ……、ンン、ッハー、ハー、ハー、ハー……」

のあ「(さ、最近金欠で、あんまり、食べてないのに、すごい勢いで、たくさん、出てk────)」

のあ「オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ぉぉ!!!!!」ビチャビチャビチャ!!!

のあ「(コ、こんな……、こんなことって……!!)」

のあ「(で、でも、最低限の威厳は保てたっ……、み、皆の目の前で嘔吐するという最悪の展開は避けらr───)」

のあ「ゥヴッ、オ゙!! オ゙ロ゙ロ゙ロ゙ロ゙……!!!」ビチャビチャ!!

のあ「はぁー、はぁー、はぁー、はぁー、はぁー、はぁー………っ」

のあ「まずっ…………ゲホッ」

のあ「あー、まず。不味い、みくちゃん、あれは流石に無いわ」

のあ「すきっ腹にあれはキツイ。全人類の90パーは絶対不味いって言うわね」

のあ「見た目がもう完全にウ○コだもの、ウ○コ。あれはアイドルが作っていいものではないわ。メキシカンミートパイ? あれをメキシコの人に見せたら国交が断絶するんじゃないかしら」

のあ「築年数が古い家の押入れのすえた匂いがして、舌触りはさながら、いつまでも口に残り続けるザラザラとした歯磨き粉に近いものがあった。喉をソレが通る瞬間、脳裏には自分の過去の記憶が走馬灯のように浮かんだわ」

のあ「あれは調理じゃなくて、なにか、憎悪とか嫉妬とか、負の感情を形にしたある種のアートよね。見た目は完全にウ○コだけど」

のあ「あー………、なんか自己嫌悪。こんな酷いこと言うなんて」

のあ「不摂生でストレス溜まってるのかな……。戻ったらみくちゃんに謝───」

キィ……


のあ「(ッッ!?)」バッ!






蘭子「…………あっ…」ガクガク


のあ「」ピシィッ
41 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:43:53.63 ID:+NpPfPpP0

蘭子「カ、哀しき無窮の幽玄姫……!」(訳:た、高峯さん……!)

のあ「」

蘭子「溢れ出す言葉は呪いとなりて、妖精の郷を慟哭に染め上げ、そ、その、……!」(訳:さっきの悪口みたいなのは一体……!)

蘭子「ク、口調がッ、た、高峯さん、いつもと、やっぱり、ち、違うっ………、ト、というか、ななな、なんで、じょ、女子、寮に………!?」プルプル

のあ「ら、蘭子っ……! ちがっ……、そ、その…………!」

のあ「お、美味しかったの、ホント………、その、ウ○コというのは、その、私の事で……」

蘭子「あ、あぅ、ぅ……!」プルプル

蘭子「うっ、ぅうわあああァァーーーーーっっっ!!」ダッ!

ガチャ! バァン!

タタタタタタタタ!







━━━━━━━━━━━━
【女子寮・キッチン】


みく「あっ!」

蘭子「はぁ、はぁ、はぁ……!」

紗枝「蘭子はん? えらい顔色悪いけど、どないしはったん?」

蘭子「こほっ! えほっ! ぜえっ、ぜえっ……!」チラッ

蘭子「ッッ!? ヒッ!?」ビクゥッ!

紗枝「??」

みく「蘭子チャン、もしお腹が空いてたら───(これから周子チャンの料理が出来るからどう?)」

蘭子「あ───」

蘭子「暗黒物質!!」

蘭子「き、狂気の汚泥……、不浄なるマクスウェルの悪魔……!!」

蘭子「う、うわああぁぁっっーーーーーーーー!!!!!!」ダッ!








みく「」

紗枝「あっ♪ 高峯はん、具合の方はどないどすか?」

のあ「………」

のあ「………」カチャ

のあ「………」パクッ

みく「!?」

のあ「あむっ………ふむ。やはり筆舌に尽くし難い……」モグモグ

のあ「醜悪な見た目とは裏腹、その味は魂を揺るがす程に、とても…、エフッ!!!」

みく「のあにゃん!? お願い無理しないでいいからホント!!! ティッシュティッシュ!!!!」ガタガタ!

紗枝「(あぁ、素敵やわぁ……♪)」ポワポワ


──────
────
──
42 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:45:33.75 ID:+NpPfPpP0

──
────
──────
【事務所 応接室】


ちひろ「今回のアルバイトは、ツイッターを使用します♪」

ちひろ「お二人とも、アカウントは作成して頂けました?」

楓「はい。作っただけで特に何も弄っていませんけど……」

のあ「私は慣れるため適当に、トレンド上位の『城ヶ崎美嘉』を“ふぉろー”しておいた」

のあ「ただ、この“ついーと”や“りついーと”や“りぷらい”の仕様が不可解」

楓「“いいね”だけは、二人ともなんとなく分かりましたが」

ちひろ「簡単ですよ♪」

ちひろ「“フォロー”は自分からのお友達登録。そうすると自分はその人のフォロワーとなり、逆に相手が自分をフォローしたら相手がフォロワーです」

ちひろ「“ツイート”は個人の発言。“リツイート”は他人のツイートを周囲に広く紹介してあげる機能です」

ちひろ「“リプライ”はツイートに直接、意見や感想を投げかける機能です」

のあ&楓「(?????)」キョトン

ちひろ「(分かってなさそう)」

ちひろ「(楓さんはとにかく、高峯さんは機械と会話できそうなカンジの人なのに、こういうSNSとかは結構疎いのかな?)」

楓「あのっ、とりあえず……!」

ちひろ「はい?」

楓「こ、こういうツイッターはいわゆる『リア充』のツールだから、そこはかとなく使っておけば、私達もリア充の仲間入り出来ると聞いたんですけどっ……!」ドキドキ

のあ「これでついに私も『映え』が可能に。夢にまで見たあの『映え』が……!」ワクワク

ちひろ「(聞かなかったことにしましょう)」
43 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:47:11.50 ID:+NpPfPpP0

のあ&楓「………」ワクワク

ちひろ「アー…………えっと、試しに、高峯さん?」

ちひろ「美嘉ちゃんをフォローしたのなら、その機能を使ってみませんか?」

のあ「ええ」

ちひろ「ツイッターは全て相手に通知が届きます。ただ、彼女なら恐らく通知を切っているから問題ないかと」

のあ「…………」カチカチッ

のあ「【いいね】、【リツイート】………」

楓「これがウチの事務所のSランクアイドルですか。まわりの反応の数が桁違いですね」

ちひろ「あぁ、そのツイートですね」

ちひろ「この間それ、彼女がツイートしたコーデの服が、翌日一瞬で完売したって話題になってましたね?」

のあ「(あれ、美嘉ちゃんの事だったんだ。悪く言うのはやめとこう)」カチカチ

のあ「……【リプライ】。一体何を言えば」

ちひろ「後で彼女には説明しますので、何か当たり障りのない事をコメントしてあげてください」

のあ「(………………)」

楓「それで、今日のアルバイトって何をするんです?」

ちひろ「あ、ハイ。じゃあ説明しますね、本日は───」

のあ「…………………」カチカチ







━━━━━━━その頃━━━━━━━


ピロン♪
ピロン♪ ピロン♪

莉嘉「お姉ちゃん? なんか来てるよー!」

莉嘉「ていうか、通知切らないの?」

美嘉「イイじゃん。反応されるのはウレシいしね♪」

美嘉「誰だろう。来週のナイトプールの件かな?」

美嘉「………?」






【高峯のあさん: まずはお友達から始めませんか。あと映えを教えてください】






美嘉「」ヒクッ

莉嘉「お姉ちゃーん?」

美嘉「ハァ!? な、ななななにコレッ!?」

莉嘉「な、なになに?? そんなに慌ててどーしたのー??」


──────
────
──
44 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:47:53.29 ID:+NpPfPpP0
──
────
──────
【事務所 中庭】


美嘉「(居たッ!)」

莉嘉「お姉ちゃん……」

莉嘉「どうしたの。木の後ろに隠れて、コソコソして」

美嘉「(た、確かあの人よね……)」




のあ「………」




美嘉「(銀髪で無表情の女性。しかもあのコーデは、アタシがツイッターであげたコーデっぽい)」

美嘉「(アタシを意識してる? たまたまよね、でもさっきのリプは……)」

莉嘉「今日はいい天気だねー。雲一つないよー?」

美嘉「(事務所のメローな中庭のベンチで、ゆったり優雅に休憩中?)」

美嘉「(ハー……、寡黙の女王さながらの体裁ってワケね)」

莉嘉「あっ。カブトムシー!」

美嘉「(静かに。莉嘉)」




のあ「………」
45 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:48:57.75 ID:+NpPfPpP0

美嘉「(!! 何か取り出した)」

美嘉「(アレはお弁当箱? えっ……、ぼっち飯??)」

美嘉「(……いや、むしろ目に付きやすい中庭で女子力アピ? 女王は人気獲得にも余念がないってワケ?)」

美嘉「(ッ!? ハ!?)」

美嘉「(さっきから食べれど食べれど、モヤシのみ!? 金欠、いや、ダイエット!? しかもめっちゃ噛んでる……!!!)」

美嘉「(あるいはあの人、異星人ってウワサもあるし、主食がモヤシの生命体……!?)」

莉嘉「ねえお姉ちゃ〜ん、莉嘉お腹空いたんだけど〜??」



のあ「………」

ヤッホー



美嘉「(!!!)」

美嘉「(周子!? な、なにそのフランクコミュニケーション!!)」

美嘉「知り合い!? いや、すでにお友達から始めている関係……!?」

美嘉「あっ! あーんしてる!? 周子の『からあげクン』をあーんで要求した!! 食べた、めっちゃ嬉しそう!!」

美嘉「アッ拒否った!? 高峯さんからモヤシのあーんを拒否る周子!! ウワッ、めっちゃテンション下がってる…………いや、まあモヤシはいらないよねフツー……」

美嘉「な、なんか予想と違って庶民派なのかな、あの人」

美嘉「……でもアレは、以前アタシがツイッターに投稿してた番組のダイエット企画のモヤシ料理?」

美嘉「いや、それは流石に自惚れすぎ? でも万が一……」

莉嘉「お姉ちゃん、途中から声出てる。なに実況してるの???」


──────
────
──
46 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:49:57.28 ID:+NpPfPpP0
──
────
──────
【某所・事務室】


のあ「………」カチャカチャ

のあ「(この小包と、この箱を上に乗せて入れて……)」

のあ「(ラッピングテープで巻いて、切るっ…………、よし、終わり!)」

のあ「(……次)」カチャカチャ

主任「いやー助かるよー」

のあ「(!!!)」ビクッ!

のあ「ァ………」

主任「グッズ詰めのバイトなんて、同じ工程を延々と繰り返すから飽きるでしょ?」

のあ「………」

主任「気が狂う単純作業とかよく言われるし、堪え性のない女の子なんてすぐやめちゃうんだよねー」

のあ「……いいえ」

のあ「単純明快。私の性に、適している」

主任「たしかにキミ、我慢強そうだよね。図太そうで、何も考えてなさそうな顔して……」

のあ「……そうかしら(嬉しい)」

主任「なんかロボットみたいだよね。まさしく機械作業に向いてるカンジだなぁ」

のあ「」ピシィッ

主任「この調子であと700個、定時までに終わらせちゃおうか。頑張ってー」

のあ「(………………)」
47 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:50:59.67 ID:+NpPfPpP0

━━━━━━━後日━━━━━━━


のあ「(………♪)」

のあ「(ショッピングモールで、可愛いミニスカ穿いて、風船配り……♪)」

のあ「(キッチンウェア特売係の人が叩き売りしている傍で、子連れに声をかけて、主婦層の足を止めさせるのが私の役目)」

のあ「(フフッ。いくらコミュ障の私でも、小さい子供には負けないわ!)」

のあ「(〜〜〜……♪)」

子供「ねえ」

のあ「ッ!!!」ビクゥッ!!

のあ「ハ……!?」バッ!!

子供「ふうせん」

のあ「(ふ……、フウセン!? 風仙!?)」

のあ「(アッ!! 風船!!!)」

子供「………?」

子供「お母さん。これ、ペッパーくん」

のあ「(ぺ、ペッパーくん!?)」

母親「違うわよ、その女の人はペッパーくんじゃないわよ」

母親「ほら、こんにちわーしなさい。こんにちはー」

子供「ペッパーくん」

母親「すみません。風船いただけませんか?」

のあ「ァッ!!!」

のあ「ハ、ハイ! ふ、風せッ……!!」ガタガタ

母親「(あっ。一個飛んでった)」

子供「こんにちはー」

のあ「ヘッ!? あ、コ、こ───」

子供「………………」

のあ「コ、ン、ニ、チ、ワ……!!」

子供「………………」

子供「何だよ。故障かよ」

のあ「」ピシィッ

母親「あ、貰っておきますね。ありがとうございます」

のあ「………………………………………」










━━━━━━━夜━━━━━━━
【居酒屋】


のあ「ぅ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙〜〜〜ッ…………ン゙ン゙ン゙ッ゙」グジュリ

周子「(何だろ。デジャヴ?)」


──────
────
──
48 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:52:24.28 ID:+NpPfPpP0
──
────
──────
【続 居酒屋】


周子「チーズケーキひとつ」

店員「かしこまりました」

のあ「ウグゥ……、ぐすっ……!」

周子「前もこんなことあったよね、のあさん。落ち込んでるアナタが、居酒屋にあたしを呼び出して」

周子「で、今日はどうしたん?」

のあ「子供が、に゙、憎イッ……!!」

周子「恐ろしい事を言い出すなあ」

のあ「中年の無遠慮なおじさんもイヤだぁ……」グスッ

のあ「初対面なのに、揃いも揃って私の事をロボットロボット……!!」

周子「あぁ、また言われちゃったのね」

周子「………」

周子「……でも、それはひとつの個性として受け止めるって」

周子「変わることも強さだって……、のあさん言ってたんだよね?」

周子「泰葉ちゃんから聞いたよ。のあさん良い事言ってたって」

のあ「…………」グスッ

店員「失礼しまぁす。お待たせ致しましたー」

店員「こちらチーズケーキです。前から失礼します」スッ

周子「おっ。早い、そして美味しそう♪」

店員「こちら生ひとつと、……少々お待ちくださいね」

店員「串盛り合わせと、石焼ビビンバと、サーモンの手毬寿司、と……」ゴトッ

店員「たこわさ、あんきもポン酢、シーザーサラダ、桜ユッケになりまーす」ゴトゴトッ

周子「───ちょっ、ちょっと!?」

店員「えっ?」

周子「こ、これ全部ウチの席の注文?」

のあ「………そう」

周子「せ、節約は!?」

のあ「日払いだし………お、お金あるよ?」

周子「日給をその日使ったら貯まらないやないかーい……!!」

店員「ごゆっくりどうぞー♪」







━━━━━━━30分後━━━━━━━


のあ「……確かに、受け入れるとは言ったけど」

のあ「最近は吉野家にも行けないし、アルバイトばっかりで、色々ストレス溜まってるの。だからいいのっ!」モグモグ

周子「(お金は貯まらないねぇ)」

周子「……いや、むしろ良い傾向かな」

周子「のあさんは普段から寡黙な人だから、不安な時はこうやってストレスをぶちまけてくれた方が、むしろ安心するよ」

のあ「……っ!」グビッ
49 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:53:33.29 ID:+NpPfPpP0

周子「でもさ? 酔った時って、そんなに気が大きくなるというか……」

周子「喋る方だっけ? 前は『酔いが回ったら周囲に迷惑を掛けたくないからひっそりと死んでいくタイプ』って言ってたよね?」

のあ「………ぷふぅ」

のあ「ふ、フフ……、気持ちいい……♪」フラフラ

周子「(あかん。あかん傾向かもしれない)」

周子「ま、まぁ……、そのアクティブさを普段も出せたら、一歩前進だよ」

のあ「ああー、もうっ!」

のあ「人の気も知らず、私のことをロボットだペッパーくんだ、何だかんだって……!!」グビグビ!


ppppppppppp……♪



周子「のあさん。電話」

のあ「電話にでんわっ♪」

周子「(クソギャグ)」

のあ「あっ! 楓さん! 楓さんだっ♪」

のあ「ンンッ……! ………………高峯よ」

周子「(クールキャラへの切り替え早いな)」

楓『あっ、のあさん。お疲れ様です♪』

のあ「……ええ」

楓『今お時間大丈夫です? あの、お金稼ぎの件でですね!?』

のあ「お金稼ぎ?」

楓『はい! その、動画配信なんですが……』

のあ「動画投稿………、それは……」

のあ「愉悦という感情に流され、彼女の“家”を業火に焚べたあの時から………誓った筈。悔い改める、と」(第5作参照)

のあ「ヒトは過ちを犯す宿命……。そして学び、進歩出来るのもヒトの崇高な美点であるの」

楓『あっ。違うんです』

のあ「?」

楓『今度は生放送じゃなくて、収録・編集という形を活かして……!』







楓『バーチャルYoutuberに挑戦しませんか!!』

楓『のあさんの人間離れした無表情さを活かして、バーチャルな、その、ロボットみたいなアバターとして出演して頂いてですね……!?』










のあ「オ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙ッッ!!!!!!!!」ビチャビチャ!!

周子「店員さん!!! 店員さーーん!!!!!!」


──────
────
──
50 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:54:35.19 ID:+NpPfPpP0
──
────
──────
【事務所・休憩室】


志希「あたしは一ノ瀬志希。今日はよろしくねー」

楓「カ、楓です。よろしく」

のあ「……高峯のあ」

志希「握手握手っ♪ にゃはー♪」

楓「(のあさん。本当に大丈夫なんでしょうか?)」

楓「(今日のアルバイトは、この子の指示に従うってちひろさんが仰ってましたけど……)」

のあ「(……流れに身を任せるわ)」

志希「ちひろさんから聞いてると思うけど、今日はあたしのサンプル調査に付き合ってくれるんだって?」

楓「サンプル……。お、オオゴトなんですか?」

志希「んーんー。単なる私的研究論文の調査」

のあ「……無償でも協力を惜しまないのに」

志希「にゃはは♪ アリガト、謝礼は正当な対価だよ、等価交換ってゆー」

志希「ある程度拘束はするし、多少のストレスも覚悟して貰うよー。とりあえず年代ごとに十数人ぐらい抽出して、100人を目処にデータが欲しくてね?」

志希「幅広い年齢層が集まるこの事務所は、あたしにとっては割とスペシャルな実験教室ってワケ!」

楓「えっ。不躾な質問でごめんなさい、えっと………ポケットマネー??」

志希「モチロン♪」





のあ&楓「(………!?)」
51 :☆2/2 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:56:27.18 ID:+NpPfPpP0

のあ「貴女………年は?」

志希「うん? 18」

楓「(た、確か………1時間のアルバイトで、三千円!?)」

のあ「(都合100人で、さ、三十万!!)」

楓「(18歳にして、口にするには重すぎる額ですよ!?)」

のあ「(是非ともお近付きになりたい)」

楓「……も、もうひとつ質問が」

志希「ウンウン。志希先生、何でも答えちゃうよー、学問は全ての人に開かれている知識の門であるっ♪」

楓「アイドル以外に何かお仕事を?」

志希「お仕事と言う程に胸を張れるようなものではないけど、ンー、そうだね、前は………」

楓「(お金稼ぎの参考程度に……)」

志希「製薬企業や化粧品メーカーの開発部の特別顧問だったり、あと大学の客員教授とかかな? 株取引もしょーしょー」

楓「(……ならない)」

のあ「今の住居の家賃と間取りは?」

志希「都内には3つあって、気分でコロコロ変えるんだけどね? 今は3LDKで44万のお部屋かな」

のあ「………」クラッ

楓「(の、のあさんっ!! 気をしっかり持って下さい!!)」

楓「……ッ!」

楓「(か、彼女の横にある財布……、あれは紛れも無くLV(ルイ・ヴィトン)!!)」

楓「(私には分かる。以前にLB(ルイ・ビトン)というコピー品を掴まされたことがある私には……)」

のあ「(言われてみれば、彼女の全身のコーデからは見栄を張りたいお年頃独特の『とりまブランド物で固めとけばよきよき』感が…………り、リア充!!)」

楓「(あれですよ!!“映え”ってやつですよ、“映え”!!!)」

志希「質問は以上かにゃ?」

のあ「ちょ、貯蓄はいくらでしょうか?」

志希「おっと、それは刺激的なpK値の質問。 ノーコメントってことで♪」

楓「さ、財布には普段からいくら程入れていらっしゃるのでしょう?」

志希「カードしか持ってないよ今は」

楓「(パーフェクトナチュラルセレブリティ!!)」

のあ「し……、使用人とかの雇い入れは如何程に?」

志希「まさか! 束縛と監視は志希さんのストレッサーになりかねないよ、落ち着かないってゆーか」

楓「せ、僭越ながら申し上げますと、些末事は志希様のお手間を取らせる程にあらず、全て給仕に一任させお時間を有意義に過ごされた方が宜しいかと」

志希「そーかな? まー、考えようにもよるのかな?」

志希「ンン〜……! 喉が渇いたなー少し」

のあ&楓「!!!」

楓「わ、私めが直ぐにお茶をお持ち致します!」ガタッ!

のあ「 で、では私めは御御足のマッサージでも……!」ガタッ!

志希「にゃはは♪ アリガト♪」


──────
────
──
52 :☆1/2 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:57:22.04 ID:+NpPfPpP0

──
────
──────
【続 休憩室】


志希「共感覚現象って、知ってるー?」ズズッ

楓「共感覚現象?」

志希「そう。シナスタジアとも言うんだけど」

志希「一つの刺激に対して、本来起こる感覚以外にも他の感覚が引き起こされる知覚現状の事」

のあ&楓「………」

志希「一部の人にはね? 文字に色が浮かび上がったり、音に匂いを感じたりするんだ」

志希「バッハの平均律クラヴィーア曲集のプレリュードを弾いていると暖かな色調を感じたり、特定の数字に母親の柔肌やスチームの湿り気のような感触があると認識していたり、リバプールを訪れる観光客がビートルズを想起したり………最後のはちょっとメルヘンチックかな? にゃはは♪」

のあ&楓「………」

志希「知育で発達したとか、遺伝的性質を唱えたりとか、共感覚についてまだ分かっていないことが多いケド」

志希「志希さんはコレ、嗅覚が側頭葉の扁桃体に結線するシステムに近いと考えてるんだよね」

のあ&楓「………」

志希「そもそも匂いというのは概念的ではなく知覚的な物であって、過去の記憶というのは眼窩前頭皮質と左下前頭回で知覚されていて、視床を介する他感覚とは異なり、嗅覚として嗅細胞が───」

のあ&楓「………」

のあ&楓「………………????」

志希「───ふふふ♪ よく分かんないって顔してるね楓ちゃん。よきよき♪」

楓「(エッ!? 私だけ!?)」

のあ「(………)」
53 :☆2/3 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:59:03.42 ID:+NpPfPpP0

志希「夕飯時、空いた窓を通り抜け、隣の家からカレーの匂いが風に誘われやってきたとしよー」

志希「その匂いをくんくんしてカレーと認識する前に、自分の実家の食卓や過去の思い出が貴女の脳裏によぎったことは無いかな? あるいはそれに近い経験は?」

志希「芝の匂いを嗅ぐと、学生時代の校舎の校庭を。干したてのフトンを嗅ぐと、故郷の日向陽光の縁側を」

楓「それは、ハイ、ありますね! これは分かりやすいです!」

のあ「(確かに……)」

志希「ただ、これはプルースト効果ってゆー反応でね? 厳密に言うと共感覚現象とは違うモノ」

志希「でもこの反応のプロセスが、超人しか持ちえない共感覚の仕組みを解き明かすヒントになると考えてる。現代でも、学習力向上や認知症改善とかに着目して研究している人は大勢いるんだ」

楓「へえぇ。ニオイって、なんかその、色々と奥が深いんですねぇ」

志希「(………♪)」

志希「楓ちゃーんっっ♪♪」

───ガバッ!


楓「わっっ! え…………、なな、な、何かありました?」

志希「ンーン、なーんにも。ただご覧の通り、ハスハスしてるだけー」ハスハス

志希「ん〜。残り香のように微かなアルデヒド、オレンジやレモンの爽やかでフルーティなシトラスノート……」

志希「あたしとこの部屋で話し始めて、だいたい30分。ふんふん………じゃあお化粧直しに付けたばかりかな?」

楓「あっ! まさか……!」

志希「これはシトロネロール♪ 今のミドルノートとしては、ローズやイランイランの濃厚な香りっ♪」ハスハス

志希「上品で女性的、かつ大胆なパフューム……、これはかの有名なシャネルの5番の中の、新作フレグランス『ロー オードゥ トワレット』かにゃ???」

楓「すごいっ! 当たってますよ!」

志希「楓ちゃん、結構香水とかってこだわってるの? 物静かな性格だと思ったけど、結構グイグイ行くタイプかな?」

楓「これでも昔はモデル一本でやってた時もありましたからね。香水を付けない女性に未来は無い、というやつです!」

志希「うんうん♪ そんなカンジだよね、楓ちゃん、所々のアクセもファッショナブルでやっぱりオシャレだと思ったよー♪♪」

楓「(……デパコスに憧れて最近たまたま頑張って買ってきた、とは言えない)」

のあ「(………)」

楓「それにしてもすごい特技ですね、志希ちゃん! なんか、その、警察犬みたいです!」

志希「んん〜、個人的には猫の方が良かったけど、まあいっかー♪」

志希「得意というか、割と当たるんだ。その人が纏う匂いで人柄や個性を当てるの♪」

志希「………で!」

志希「隙ありっ! のあちゃんにも、イッツ・ハスハスタ〜イム♪♪」ガバッ!

のあ「っ!」

志希「貴女の個性は微香性? それとも刺激物??」

志希「ンンー♪ ん〜……? ……─────〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜






『い ら っ し ゃ い ま せ ー ッ !!!!!!』






志希『────ハッ!?』
54 :☆2/3 ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 01:59:34.82 ID:+NpPfPpP0
志希『こ……、ここは………飲食店?』キョロキョロ

志希『あたし、さっきまで事務所の休憩所にいたハズなのに───』

店員『ハイお客様お好きな席へドウゾ!!!!!!』

志希『ワッ!! は、はあ……』

店員『ご注文お決まりになりましたらお呼び下さい!!!!!!』

志希『………』

志希『のあちゃんをハスハスしてたんだっけ。んん……』

志希『……力強い中性脂質香気成分のコンポジション。頭をよぎるのは、ラクトン、ケトン、リモネン、それにペプチド』

志希『とっても食欲をそそる、お肉の豊かな香りだ。加熱調理によって揮散する玉ねぎ特有の甘いフレーバーも』

志希『甘み成分のプロピルメルカプタンやジプロピルジスルフィド等の含硫香気物質の矯臭・抑臭効果も相まって、ズバリお肉との相性は───』

店員『ご注文お伺い致します!!!!!!』

志希『ひにゃっ!? は、はいッ!!』ビクッ!

志希『ソ、そのっ、オススメは……』

のあ『大盛りよ』

志希『!!』

志希『のあちゃん、いつのまに隣に───』

店員『並!!!! いっちょう!!!!!!』

志希『の、のあちゃん? えっと、あの……、これは一体?』

志希『固有結界? それとも領域展開? のあちゃんに抱き着いてハスハスしたら、いつの間にかこの変なお店に、あたし───』

店員『ハイこちら牛丼特盛になります!!!!!! お待たせ致しました!!!!!!』

志希『ヒグッ!? え………』

志希『…………… え っ ???』

店員『ご ゆ っ く り ど う ぞ !!!!!!』

志希『……………………』ポカーン

のあ『……、一ノ瀬志希』

志希『!!』

のあ『貴女にはまだ早い。私という世界の謎を紐解くには』

のあ『この店を、この場所を、この条理を………認識出来ないうちには、真理に辿り着くことは叶わない』スッ

志希『あっ、ま、待って!! のあちゃ─────〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜





志希「───…………」パチクリ

楓「し、志希ちゃん? どうしたんですか、のあさんに抱き着いた瞬間、額を強く弾かれたみたいに仰け反ったまま、硬直して……」

志希「…………………」グウゥ

志希「……お腹すいた。なんか、とってもお腹すいちゃった」

志希「出前でも取ろっか。いいよ、あたしの奢りで」

楓「えっ! い、いいんですか!」

のあ「………」

──────
────
──
55 : ◆AL0FHjcNlc [saga sage]:2018/11/07(水) 02:01:39.65 ID:+NpPfPpP0
今日はここまで。また次回。
次の投下で番外編Aは最後ですー
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