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神崎蘭子「堕天使は二度堕ちる」【堕天使探偵・最終幕】
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42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 21:06:26.52 ID:1p6HWAbq0
1日目 深夜 ネレイド城 1F 大食堂
モリアーティ「…1943、『夜の悪魔』」
高遠「え…?」
モリアーティ「どこかで聞いたことがあると思ったら…思い出しました」
モリアーティ「1943年に公開された、夜の悪魔というホラー映画にアルカードという名前が登場するんです」
カリッ…
モリアーティ「スペルはこう…ALUCARD」
モリアーティ「これは、隠された正体を逆に綴った名前で…」カキカキ…
ラン「!」
三澤「DRACULA…ドラキュラか!?」
モリアーティ「その通り。吸血鬼を示す暗号なんです」
赤羽根「犯人は自らをも吸血鬼と自称している…?」
美樹本「ふざけやがって!」
美樹本「おい、黒服の!奴の居場所を教えろ!お前はアルカードと顔を合わせてるだろう!」
黒服「…不可能です」
美樹本「なに?」
黒服「私も、何も知らされていないのです。アルカード様の正体も所在も」
美樹本「そんなふざけた話があるか!」
黒服「…事実です」
黒服「二か月前のことでした。私の所属する秘書派遣会社に突然小包が贈られてきました」
黒服「その小包の中の手紙には私を名指しで、このミステリーナイトを仕切ってくれと書いてありました」
黒服「私はそれを引き受けただけです」
赤羽根「だったら、目崎さんはアルカードに会ったことも…」
黒服「一度もありません」
ラン「…」
美樹本「なんてこった…」
三澤「俺達は、まんまとネズミ捕りの罠に飛び込んじまったようだな」
三澤「アルカードの仕掛けた殺人ゲームの罠のなかに…!」
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 21:12:46.78 ID:1p6HWAbq0
1日目 深夜 ネレイド城 2F 7号室(魚塚)前
ピー…
黒服「おや…?」
ラン「?」
黒服「いえ…現場保存の為にと部屋の施錠を頼まれたのですが…」
ラン「黙する番兵は何を思う…(反応しないんですか?)」
ラン「いや、まさか…封印そのものが幻だというのか!?(それとも鍵が偽物に?)」
黒服「いえ、偽物ではないと思いますが…何故でしょうか?」
ピー…
ラン「…あれ?」
黒服「?」
ラン「我が聖剣の陽光を見よ(ちょっと私のと見比べてください)」
ピー…
黒服「…レーザー光が所々掠れていますね。つまり、故障…?」
ラン「仕手と共に滅する剣…これは何を符合するものなのか…?(…でも、なんで壊れちゃったんだろう?)」
黒服「凶器に使われたから…では?」
ラン「え?」
黒服「先程のモリアーティ様の検死によれば、直接的な凶器はこの鍵であった可能性が高いそうです」
ラン(これが凶器に…?)
黒服「魚塚様をこれで貫いた際に刀身が油巻きになってしまったのか、それとも歪んだのかは定かではありませんが…」
黒服「ともかく、ブレードキーは凶器として使うには少々脆すぎるのでしょう」
ラン「…」
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 21:16:51.31 ID:1p6HWAbq0
ラン「漆黒の従者よ、貴方はこの仄暗き魔城を何処まで征伐したの?(目崎さんはこのお城の事、どのくらい知っているんですか?)」
黒服「…皆様と殆ど変わりませんよ。着いたのが皆様より一日早いだけでして」
黒服「この城について私が知っていることは全て皆様にもお話しています」
ラン「貴方は高貴なる紅の影を捉えていない…(アルカードを知らないという話でしたけど…)」
ラン「ならば或いは、嘶きに耳を傾ける事すら無かったということ?(例えばその最初の日に声を聴いたり、遠目で姿を見たりなんてことは…?)」
黒服「ございませんね…お役に立てず申し訳ありません」
ラン「…」
黒服「夜も遅いですし、立ち話もこのくらいにしましょうか」
黒服「私は部屋に戻りますので、これで」
コツコツコツ…
ラン「…」
モリアーティ「…あのぉ」
ラン「きゅっ!?」びくっ
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 21:21:42.90 ID:1p6HWAbq0
1日目 深夜 ネレイド城 1F 1号室(ラン)
モリアーティ「ゴメンナサイ…こんな無理を言ってしまって…」
モリアーティ「まっくらな部屋で独りぼっちになると眠れないんです…私…」
ラン「フッ、我が漆黒の両翼で覆って欲しくば供物を捧げるが良い!(い、いえいえ!丁度私も貴女に聞きたいことがあったので!)」
モリアーティ「はい?」
ラン「我が頭脳は兆候を欲す!硝子を裂く断末魔!咎に縛られし人形!一つ残らず捧げよっ!(直接の凶器がブレードキーだったというのは間違いないんですか?)」
モリアーティ「ええ。傷口は胸にある一か所のみだったのですが、生活痕のある部分と無い部分が混在していました」
モリアーティ「これはつまり、最初に細い何かで胸を刺されて死に、その後傷口を拡げるようにして木杭が打たれたことを表します」
ラン「既に魂は砕け散っていた…滅却が為されたのは終の幕…(その細い何かが…ブレードキー?)」
モリアーティ「ブレードキーに付着している血痕から見ても明らかです」
ラン「弔う意思など思慮の外…とはいえ咎なるアニマの内にある物とも思えぬ…(犯人はなんでわざわざそんなことを…?)」
モリアーティ「…吸血鬼に見立てるためではないでしょうか?」
モリアーティ「木杭で心臓を貫くというのは代表的な吸血鬼退治の方法です」
モリアーティ「たしか犯人も、この殺人ゲームの事を『吸血鬼狩り』と呼んでいました」
ラン「名を冠する幻視の種は、芽吹く前に砕かねばならないが…(それも考えられますけど…)」
モリアーティ「?」
ラン「…時に、ノブル・レッドの肢体を識るのもアスクレピオスの極致に至る選択なのね?(…そういえばモリアーティさん、吸血鬼に詳しいですね)」
モリアーティ「オカルトじみた事件は祖国イギリスでもしょっちゅうですから」
モリアーティ「ただ…それでもオバケは怖いんですけどね…」
ラン「…」
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 21:25:38.63 ID:1p6HWAbq0
2日目 朝 ネレイド城 1F 1号室(ラン)
ラン「…」
モリアーティ「zZZ…」
ラン(吸血鬼に見立てる…か…)
アルカード『おはよう、吸血鬼城の名探偵諸君』
ラン「っ!?」ガバッ
モリアーティ「ふにゃ?」
アルカード『次なる惨劇は生まれているというのに』
アルカード『のんびりしていて良いのかね?』
アルカード『さあ、次の吸血鬼は憐れにも朝陽に焼かれてしまったようだぞ』
ラン(朝陽…?)
モリアーティ「…きゃあぁあっ!?」
ラン「!?」びくっ
モリアーティ「ランちゃ…あ、あそこに…!」
2日目 朝 ネレイド城 1F 客室前廊下
ピー…ガシャッ
三澤「見たか?中庭の…」
高遠「誰かの死体が!」
ラン「次なる煉獄の扉が開いてしまったというのかっ!(とにかくあの場所に急ぎましょう!!)」
ダダダッ…
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 21:33:46.06 ID:1p6HWAbq0
2日目 朝 ネレイド城 1F 中庭
黒羽「」
一同「…」
三澤「大胆な奴だ。広場のど真ん中に磔かよ」
美樹本「誰か見てねぇのかよ!?犯人をよ!!」
美樹本「中庭なんてどの部屋からも丸見えじゃねーかよ!」
沼津「アンタ窓覗いたことないの?」
沼津「夜になると城内の廊下もここも真っ暗になって何も見えやしないのよ。無茶言わないで」
高遠「朝陽に焼かれ…というのは」
高遠「中庭の天窓から射す光の事を表しているんでしょうか?」
黒服「…」
モリアーティ「死後4時間か、5時間…」
モリアーティ「犯行の手口は魚塚さんの時と一緒のようです」
モリアーティ「遺体の胸に刺さっているこれは、はやり黒羽さんのブレードキー…」
ラン(…ん?)
高遠「…それって…ちょっと変じゃないですか?」
沼田「どうして?」
高遠「…みなさん、このまま黒羽さんの部屋までついて来てください」
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 21:35:50.01 ID:1p6HWAbq0
1日目 朝 07:52時点
A 赤羽根刑事(5号室)
B ラン(1号室)
C 黒羽 烈斗(推理評論家・9号室)←DEAD
D 高遠 遙(私立探偵・3号室)
E 魚塚 三津子(弁護士・7号室)←DEAD
F ジェーン・S・モリアーティ(イギリス警察監察医・10号室)
G 醍醐 瑞紀(犯罪心理学者・8号室)
H 沼田 岳美(探偵社社長・6号室)
I 三澤 陣(ロス市警・2号室)
J 美樹本 洋太(ルポライター・4号室)
K 黒服 目崎
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 21:44:01.31 ID:1p6HWAbq0
2日目 朝 ネレイド城 2F 9号室(黒羽)
赤羽根「うお…」
三澤「ベッドが真っ赤だ…」
モリアーティ「被害者はここで眠っているところを襲われたということでしょうか?」
モリアーティ「確かにあそこで殺されたにしては流れている血の量は少なかった」
モリアーティ「その後中庭へ運ばれたんだとしたら…」
ラン「只ならぬ歪みを感じる(…奇妙ですね)」
高遠「やっぱり…ランちゃんもそう思いますか?」
赤羽根「奇妙?」
高遠「…現場がこの部屋だったとしたら、犯人はどうやって部屋に入ったんだと思います?」
沼田「どう…って、えっと、黒羽君が施錠したまま寝ていたんじゃ入れないから…」
沼田「例えば犯人は事前に彼と会う約束をしていて、部屋に入れてもらったあとで、不意を衝いて…とか」
高遠「どうやって不意を?」
沼田「え…?」
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 21:46:35.97 ID:1p6HWAbq0
ガチャ
黒服「高遠様、やはり駄目でした。この鍵も壊れてしまっています」
高遠「どうもありがとうございます」
三澤「?」
高遠「どうやらこのブレードキー、人を刺してしまうともう使えないみたいなんです」
高遠「今沼田さんが言った手口で犯行に及んだとした場合、犯人は殺した後の事も考えなければならなかった」
高遠「なぜって、施錠された部屋の中で彼を刺してしまったら閉じ込められてしまうわけですから」
赤羽根「確かにそうだな」
赤羽根「…ん?まてよ?」
高遠「誰かを部屋に招き入れている時でも、普通はしっかりと戸締りをします。状況が状況ですから猶更します」
高遠「だから、犯人はブレードキーで黒羽さんを殺す前に、一旦それで部屋の鍵を開けに戻らないといけない」
高遠「でもそんな不審な行動を見せた相手を、黒羽さんが警戒しないわけがない」
赤羽根「ううむ…」
三澤「だが、それ以外にこの状況をどう説明するというんだ?」
高遠「一つしかないでしょう」
高遠「犯人はこの鍵のかかった部屋に入る方法をもう一つ持っていたんです」
一同「!?」
高遠「それもそのはず、犯人はブレードキーを使わずに密室に出入りすることが出来た…」
高遠「『物質透過能力者』だったということですッ!!!」
一同「…」
むにゅー
高遠「はにゃにゃにゃにゃ!?」
赤羽根「んなわけあるか!」
高遠「ほ、本気なんですけど私!?」
美樹本「ああ、ミステリ界の暴走特急だったっけか、あの子の異名」
醍醐「良く悪くも異名通りなのね…」
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 21:50:58.88 ID:1p6HWAbq0
2日目 朝 ネレイド城 2F 9号室(黒羽)前
…
沼田「でも、これでますます無差別殺人の線が濃くなってきたわね」
沼田「弁護士と推理評論家…殺しの動機に共通点があるようには見えないし」
ラン「いいえ、それこそが人を幻惑すノブル・レッドの本領…(それはどうでしょうか?)」
醍醐「?」
ラン「原初の惨劇と断末魔の段(昨夜の遊技場での推理合戦のことを思い出してください)」
ラン「我が躰は猟犬の鼻を欺くために、酒を滴らすクラウンを宿したわ(私は犯人の指令で、魚塚さんが下戸であることを利用した犯人当てのクイズを作っていたわけですけど…)」
ラン「しかし、その惨劇の予兆はもっと早く…役者が舞台に出揃う遥か前(あの指示を受け取ったのは、ミステリーナイト開始前…みんながそれぞれの部屋に案内されたときのことなんです)」
ラン「ともすれば、ノブル・レッドは贄共を誘い込んだ上で幕を上げたのではないか?(つまり、少なくとも犯人は魚塚さんの趣味趣向を事前に調べ、ターゲットにすると決めていたことになる)」
ラン「この惨劇は…獣の凶刃では無く、獄卒の処刑具によって形作られしものなのかも知れない…(だったら黒羽さんも同様に、あらかじめターゲットとして殺害する計画を立てていたと考えられます)」
醍醐「アルカードには何らかの目的があって、二人を殺したってこと?」
ラン「真理を掴み取るまでは、妄信は破滅を誘う引鉄(その可能性も十分あり得るということです)」
美樹本「それにしてもいったい何者なんだアルカードは…コソコソしてねーで出てきやがれ!!」
ラン「鮮血の君は、既に煉獄の渦中にいるわ(もう、出てきているんじゃないでしょうか)」
美樹本「え?」
ラン「全ての事象は、彼奴が我らの影に溶けている事を示す…(これまでの状況から考えて、この城に私たち以外の誰かがいるとは思えません)」
赤羽根「ラン、まさか…!」
ラン「ノブル・レッドはこの中にいるっ!(アルカードは、もうこのなかに紛れ込んでいるんです!)」
一同「!?」
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 21:55:57.25 ID:1p6HWAbq0
2日目 昼 ネレイド城 2F 9号室(黒羽)前
醍醐「この中に…」
沼田「アルカードが…!?」
一同「…」
三澤「す、少し軽率だぞラン君。お互い疑心暗鬼になってたら奴の思うツボだ」
赤羽根(らしくないな…一体どうしたんだ?やけに焦ってるみたいだが…)
ラン(これ以上犯人に…ルシファーに好き勝手させるわけにはいかない…)
三澤「基本に則り、事件の手がかりを見つけてくまなく検証していけば自ずと犯人に辿り着く筈だ」
美樹本「なら、この密室の謎を考えようぜ」
美樹本「さっきの高遠の推理には面食らったが、部屋に入る別の方法があったかもってのはイイトコついてると思う」
美樹本「こういう場合、どこかに秘密の抜け道があった…なんつーのが現実的だろ」
赤羽根「…改めて全員で隠し通路が無いか調べてまわった方が良いかもしれないな」
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 22:00:48.36 ID:1p6HWAbq0
2日目 昼 ネレイド城 2F 8号室(醍醐)
沼田「…無さそうね」
沼田「もしこの部屋で隣へ抜ける穴が見つかれば一発だったのに」
醍醐「…ふん」
2日目 昼 ネレイド城 2F 5号室(赤羽根)
三澤「どの客室の窓もはめ込み式の一枚硝子か…進入口には使えそうにない」
モリアーティ「では、扉を細工された可能性はどうでしょうか?」
三澤「可能性が無いわけではないが…それもあまり現実的ではないな」
三澤「そもそも俺たちですらこの扉の仕組みを完全に理解していない。少なくとも物理的に解決できる類のものではなさそうだが…」
三澤「…」
三澤「いや、まてよ…まさかそういうことなのか?」
モリアーティ「?」
2日目 昼 ネレイド城 2F 2号室(三澤)
美樹本「なあ」
沼田「え?」
美樹本「…まずくないか?」
沼田「…」
沼田「ま、まさか…偶然、でしょ」
2日目 昼 ネレイド城 2F 空き部屋前
高遠「どの部屋も怪しいところは何もなかったですね…」
ラン「外なる虚空の領域…?(あれ?ここは?)」
黒服「ここは空き部屋ですが、どうかなさいましたか…?」
ラン(空き部屋…)
ガチャ
高遠「ダメですね…この部屋も変わったところなしです」
ラン「…」
美樹本「おい、みんな集まってくれ、三澤が推理を始めたぞ!」
54 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 22:06:11.31 ID:1p6HWAbq0
おそめのばんごはんをたべてきます
30ぷんか40ぷんくらいでもどってくるよていです
m(_ _)m
55 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[ sage]:2018/09/01(土) 22:42:33.86 ID:ct9q4m6/O
たん乙
56 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 23:19:17.19 ID:1p6HWAbq0
だいぶおくれもうしたm(_ _)m
さいかいしまむら
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 23:21:16.78 ID:1p6HWAbq0
2日目 昼 ネレイド城 1F 遊戯室
三澤「よくよく考えてみれば、この城には奇妙な仕掛けが多い」
三澤「殺された黒羽君も言っていたな。『この城は元々アトラクションとして改築された建物ではないか』と」
美樹本「それがどうした?」
三澤「密室殺人のヒントもそこに在ると思わないか?」
三澤「少なくとも俺は、犯人が何かしらのシステムの裏を突いて9号室に入ったと考えた」
沼田「裏…?」
醍醐「いったい何を言いたいのかサッパリなんだけど…」
三澤「…論より証拠だ。ついてきてくれ」
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 23:26:04.90 ID:1p6HWAbq0
2日目 昼 ネレイド城 1F 3号室(高遠)前
コツ コツ コツ…
高遠「私の部屋…?」
三澤「さて、俺の推理はとある一つの事実の上に組み立てられる」
三澤「すなわち、我々の客室の扉は何を以て鍵を判別しているのか」
三澤「よくよく考えてみれば、鍵を開けるために扉に光を当てる必要があるという仕掛けはいかにも不自然だ」
三澤「普通は車のキーのように電波式か、ホテルのカードキーのような磁気認証にしたほうが楽だろう?」
美樹本「それが何だっていうんだ?」
美樹本「磁気だろうと光だろうと厳重なセキュリティって点では一緒じゃねぇか」
三澤「いや、そうとも限らないさ」
三澤「話を進めよう。ラン君、きみのブレードキーを貸してくれないか」
ラン「…」スッ
三澤「さて、今俺の手に在るのは2号室と1号室のブレードキー。これを同時に扉に当ててみるとどうなるか…」
ピー…
カチリ
一同「!?」
美樹本「あ…開いた…!?」
高遠「そんな…!?」
沼田「え!?なに!?どうなってんの!?」
三澤「簡単な話さ。ローマ数字のTとUをそのまま横付けして、Vの形を作ったんだ」
三澤「要するにこの扉はブレードキーそのものではなく、レーザー光の形状を識別しているに過ぎないってことだ」
三澤「その形さえ合っていれば、扉は『鍵』として認識してしまう」
三澤「…つまりこの扉、『ピッキング』が出来てしまうということだ」
沼田「まさかそんな抜け穴が…」
醍醐「8号室の私は…高遠さんと赤羽根さんに結託されたらどうしようもないって事?」
美樹本「ち、ちょっと待て!俺なんかTとXだぞ!」
美樹本「お前ら思いっきり連れ同士じゃねーか!く、来るんじゃねーよ!」
赤羽根「お、おいおい」
ラン「…」
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 23:31:56.63 ID:1p6HWAbq0
三澤「まぁ落ち着け、まだ推理の途中だ。犯人は別にいる」
三澤「ピッキングの可能性は今話した通りだが、当然ながらあの9号室の扉もその範疇ということになる」
三澤「そして9(\)号室の施錠に必要なブレードキーの組み合わせは1(T)号室と10(])号室…」
ラン「!」
モリアーティ「!」
醍醐「…ということは」
三澤「モリアーティ君、きみは何故昨晩ラン君の部屋で寝泊まりを?」
モリアーティ「そ、それは…私はただ暗いところに独りきりだと不安で…」
三澤「本当にそうか?1号室のブレードキーが入用だったからではないのか?」
三澤「君ならば、ラン君が眠ったところで彼女のブレードキーを持ち出し、あの密室を構築することができた」
モリアーティ「そんな!私じゃありませんっ!」
美樹本「…」
沼田「…」
モリアーティ「っ…」
ラン「ふん、愚かな。双剣の解放を以て咎を定めるとするのなら…(待ってください、鍵を作ることが出来るというのなら…)」
ラン「我が明鏡止水の一太刀で看破する咎を定めようぞ!!(わざわざそんな小細工をしなくても、密室を作ることも破ることも出来ますよ)」
三澤「なに…?」
一同「!?」
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 23:34:43.46 ID:1p6HWAbq0
ラン「黒き従者に問う(目崎さん)」
黒服「はい?」
ラン「ノブル・レッドが命ず、虚なる領域の支配は何処まで広がっている?(2階にふたつ空き部屋がありましたよね?あそこはアルカードにどう指示されていましたか?)」
黒服「…特には何も…もし参加者が10名以上いた場合は、あの客室も準備する予定でございましたが…」
ラン「領域に刻まれし名は、宝瓶と双魚…(部屋番号は11号室と12号室…ですよね?)」
黒服「…そうですが?」
一同「…」
三澤「11号室…?」
高遠「あ!Ⅺ…!!」
ラン「人馬と宝瓶はこの魔城に於いては対の形態…(9『\』と11『Ⅺ』は、ひっくり返っているだけで2つとも同じ形なんです)」
ラン「虚ろなる領域を侵すことの出来る者ならば、誰しもが高貴なる紅に成り得るのよ!(つまり空き部屋から11号室の鍵を持ち出せる人間ならば誰でも犯行は可能だったということになります)」
一同「…」
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 23:39:47.27 ID:1p6HWAbq0
2日目 昼 ネレイド城 1F 大食堂
赤羽根「犯人が絞れないんじゃ、捜査は結局振出しか…」
ラン「…」
赤羽根「まだ何か気になることがあるのか?」
ラン「古城の吸血鬼は…矢鱈と解呪の具に拘っているようね(何故、凶器がブレードキーなんでしょう?)」
赤羽根「え?」
ラン「奴ならば、地の獄より幾らでも処刑具を召喚することが出来よう(地下の串刺しの部屋には、模造刀がいくつも置いてありました)」
ラン「で、ないにしろ、この地には迷える贄を晩餐に卸す獣がこんなにも犇めいているというのに…(この大食堂にも、あちこち並んでる甲冑が携えてるのはやっぱり同じ模造刀です)」
ラン「解呪の具…彼の剣には、咎人を惹く何かが…?(お城の中、これだけ凶器に適してそうなもので溢れているのに、なんでわざわざ鍵を壊す真似を…)」
赤羽根「まぁ、言われてみれば確かに…」
赤羽根「犯人の言う吸血鬼狩りとやらの放送も、日光とか杭とかに拘ってるだけだしな」
赤羽根「わざわざアレで殺す必要は無い…か」
ラン「唄聲(…放送)」
赤羽根「ん?」
ラン(そういえばあの放送…何処から流してるんだろう?)
ピシャーン!!
ラン「!」ビクッ
赤羽根「!」ビクッ
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 23:47:08.43 ID:1p6HWAbq0
2日目 昼 ネレイド城 1F 大食堂
ピシャーン!!
ゴロゴロゴロ…
ザアアアァァァッ…
ラン(雨…)
赤羽根「え、えらい激しく降ってきたな…目崎さん、この辺土砂崩れとか大丈夫なんですか?」
醍醐「…土砂崩れよりも、もしかして雷で停電とか起きたりしない?」
醍醐「客室のドアって言ってみれば電磁ロックなんだし、停電したらヤバいんじゃないの?」
黒服「その点はご安心ください」
黒服「資料によると、電源は地下深くのケーブルを通っているようですので」
黒服「万一の時でも自家発電に切り替わるようになっていると書かれておりました」
醍醐「…ならいいんだけど」
赤羽根「…地下?」
ドシャ―ン!!
ラン「ひえっ!?」
モリアーティ「きゃっ!?」
三澤「…今のはかなり近かったな」
黒服「城の何処かに当たったようですな」
赤羽根「…」
赤羽根「そうだ地下だ…その手があった…!」
ラン「…?」
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 23:53:26.04 ID:1p6HWAbq0
2日目 昼 ネレイド城 1F 大食堂
ピシャーン!!
ゴロゴロゴロ…
ザアアアァァァッ…
ラン(雨…)
赤羽根「え、えらい激しく降ってきたな…目崎さん、この辺土砂崩れとか大丈夫なのか?」
醍醐「…土砂崩れよりも、もしかして雷で停電とか起きたりしない?」
醍醐「客室のドアって言ってみれば電磁ロックなんだし、停電したらヤバいんじゃないの?」
黒服「その点はご安心ください」
黒服「資料によると、電源は地下深くのケーブルを通っているようですので」
黒服「万一の時でも自家発電に切り替わるようになっていると書かれておりました」
醍醐「…ならいいんだけど」
赤羽根「…地下?」
ドシャ―ン!!
ラン「ひえっ!?」
モリアーティ「きゃっ!?」
三澤「…今のはかなり近かったな」
黒服「城の何処かに当たったようですな」
赤羽根「…」
赤羽根「そうだ地下だ…その手があった…!」
ラン「…?」
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 23:54:31.01 ID:1p6HWAbq0
>>63
すいませんミスりましたorz
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/01(土) 23:56:30.93 ID:1p6HWAbq0
2日目 夕方 ネレイド城 B1F ?(拷問展示室)
ラン「何を視たというのだ?我が相棒よ(ど、どうしたんですか急に?)」
赤羽根「…電気室を探そうと思うんだ」
ラン「建御雷の苗床…(電気室…?)」
赤羽根「マンションとか工場みたいなでかい建物って必ずどこかに建物全体の電力を管理してる場所があるだろ?」
ラン「高貴なる紅が雷を纏いし煉獄を作り出すというの?(…つまり犯人の次の犯行は、それを利用して行うものかもしれないと?)」
ラン「まぁ、代償を冥界に差し出すのであれば不可能では…(確かにあり得なくはないですけど…)」
赤羽根「や、そうじゃなくてだな…覚えてるか?昨日跳ね橋が上がったのを窓から見たときだ」
赤羽根「あのとき、全員が食堂に集まっていたにもかかわらず橋が動かされていただろ?」
赤羽根「つまりどこかにタイマー式で跳ね橋を動かせる場所があるってことだ」
ラン「従者より定めし譜は?(…目崎さんの部屋の操作盤はどうだったんですか?)」
赤羽根「さっきもう一度見せてもらったが、やっぱりあそこにはただ上げ下げするレバーしか無かった」
赤羽根「それどころか、放送を流すための装置にしたって城内のどこにも見当たらないだろ?」
赤羽根「…もし隠された電気室がそれらを全部制御してるなら、こっちで利用して出られるかもしれない」
赤羽根「そうすれば犯人の正体はともかく、奴の…いや、ルシファーの計画を阻止することだって出来る」
ラン「!」
赤羽根「この城が遊園地用に改造されているんだったら、探すのはやっぱり地下だ」
赤羽根「というわけでこうして地下に降りて探してるんだけど…」
ごそごそ
ラン「…」
ラン(確かに…)
ラン(正門、エントランスホール、大暖炉の間、そしてこの地下)
ラン(ここまでに開ける扉は全部アナログ式で、もし電気の供給が絶たれていても開くようになっている…)
ラン(もしかしたら、ここで本当にそんな部屋が見つかるかも)
ススス…
カチ…ぐるん!!
ラン「ふぎゃっ!?」ビターン
赤羽根「!!」
ラン「は…はれ?」きょろきょろ
赤羽根「隠し通路だ!でかしたぞラン!!」
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 00:06:43.60 ID:pBbrw7Aw0
2日目 夕方 ネレイド城 B1F 隠し通路
赤羽根「まさか燭台のひとつがレバーになっていたとはな」
赤羽根「…ありがちっちゃありがちだけど」
ラン「深淵へと誘う闇の領域か…(真っ暗…)」
シュボッ
ラン「!」
赤羽根「こんなこともあろうと、部屋からライターを持ってきた」
赤羽根「さぁ奥へ進もうか」
…
コツ、コツ、コツ…
赤羽根「…ラン」
ラン「?」
赤羽根「最後の悪魔は…ルシファーって言ったっけ。ランと同じ堕天使だって話だけど…」
赤羽根「奴は、いったい何だってこんなことをするようになったんだろう?」
ラン「…」
赤羽根「俺が見た事のある堕天使がランだけだからってこともあるのかもしれないが…」
赤羽根「元々天使だったやつが殺人計画の手助けをするようになるなんて、あまり想像できないというか…」
赤羽根「ランもなにかの弾みで、そういう方向に向いてしまう…なんてこともあるのかって」
ラン「フッ、愚問ね(そんなわけないじゃないですか)」
赤羽根「…だよな、まさかな」
ラン「…しかし、彼奴の凄まじき霊格、或いは波動とでも呼ぼうか(…でも)」
ラン「我が魂魄をも飲み込まんとするそれに対抗する術は無く…目方を変えれば、彼の者は私の上位存在(そういう意味で言うと、私は未だ堕天使と呼ぶのは正確でないのかもしれません)」
ラン「中庸はうつろい易く揺れ易い…そして我が真理の開闢もまた遠い(堕ちるところまで堕ちたルシファーと、堕ちきっていない私…)」
赤羽根「…」
ラン「彼の堕天使はそれを見逃さない…(まさかそのことを分かっていて、ルシファーは…)」
赤羽根「?」
ラン「…今は旋風に身を委ねるのみ(…いえ、なんでもないです)」
67 :
>>1です
[saga]:2018/09/02(日) 00:14:18.23 ID:pBbrw7Aw0
赤羽根「悪魔、といえば…そいつらの事件を追って…」
赤羽根「…というか、ランと出会ってもう半年ぐらいになるのか」
ラン「へ?」
赤羽根「スキーに孤島に学校に山奥の村に…あと豪華客船に乗ってたりもしたよな」
赤羽根「何度も事件の推理を助けてもらって、あっという間の半年だったな…なんて」
ラン「…??」
赤羽根「いや、なんか…いざ終わりが見えてくるとちょっと寂しくなるなって思ったんだ」
赤羽根「な、なに言ってるんだろうな俺」
ラン「…」
ラン(…忘れてた)
ラン(私…全てを終えたら、天に帰らなきゃいけないんだった)
ラン(まだまだ、赤羽根さんと一緒に見たい景色がたくさんあったんだけどなぁ…)
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 00:18:16.57 ID:pBbrw7Aw0
2日目 夕方 ネレイド城 B1F 隠し通路 突き当りの扉
…
赤羽根「…っと」
赤羽根「思った通りだ。この鉄扉も電磁ロックの類じゃないな」
ラン(扉の周辺に積もった埃だけ薄い…最近誰かが出入りしていた…)
ガチャンッ
ラン「封印…?(開かないみたいですけど)」
赤羽根「いや、何かに引っかかってるんだろう。ぬぐぐ」ギギギ…
ラン「…」
ラン(犯人は殺人を続けようとしている。ルシファーは私を堕とそうとしている)
ラン(赤羽根さんの目論見が成功するなら、そのどちらも防ぐことが出来る…)
ラン(…)
ラン(でもここに至るまでルシファーは何もしていない。強いて言うならば、堂々と宣戦布告をしてきていたことだろうか)
ラン(一体奴は何を考えている?わざわざ招待状を寄越し、私と赤羽根さんをこの城に招いて…)
ラン(赤羽根さん…彼もこの舞台に上げたのは何故?)
赤羽根「よし、少しだけだが開いたぞ…」ギ…
赤羽根「ちょっと待ってろ、中を調べてくるから…」
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 00:24:33.02 ID:pBbrw7Aw0
ラン(彼を呼ぶことでルシファーに何か都合のいいことが起こるとしたら…何が起こる?)
ラン(例えば、こうして私達が地下を探していること。それが奴の狙いだったとしたら)
ラン(…そうだ、犯人にとってもここは絶対に入られてはいけない場所のはず)
ラン(なのに何の対策もされていない…いや、もしかして)
ラン(仕掛けられているのは、部屋の外ではなく…!?)
ラン「わ、我が相棒よ!今すぐそこから離れ…」
キリキリキリ…
バンッ!!
ラン「…」
ドシャァッ…
ラン「あ…」
赤羽根「」
どくどくどく…
ラン「…」
どくどくどく…
ラン「あ…あ…!?」
…
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 00:27:26.24 ID:pBbrw7Aw0
2日目 夕方 17:45時点
A 赤羽根刑事(5号室)←DYING
B ラン(1号室)
C 黒羽 烈斗(推理評論家・9号室)←DEAD
D 高遠 遙(私立探偵・3号室)
E 魚塚 三津子(弁護士・2号室)←DEAD
F ジェーン・S・モリアーティ(イギリス警察監察医・10号室)
G 醍醐 瑞紀(犯罪心理学者・8号室)
H 沼田 岳美(探偵社社長・6号室)
I 三澤 陣(ロス市警・7号室)
J 美樹本 洋太(ルポライター・4号室)
K 黒服 目崎
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 00:32:23.15 ID:pBbrw7Aw0
2日目 夕方 ネレイド城 1F 5号室(赤羽根)
赤羽根「」
ラン「…」
沼田「一体何があったの!?」
三澤「拳銃で撃たれたらしい」
美樹本「う、撃たれたぁ!?一体誰に!?」
三澤「橋を下ろそうとする奴が引っ掛かるように罠が仕掛けられていた様でな」
三澤「さしずめルール違反に対するペナルティ…といったところか」
沼田「ルール違反…?」
高遠「ランちゃんと赤羽根さん二人で脱出法を模索していたみたいなんです」
高遠「それで地下に跳ね橋の操作ができる電気室を見つけるまではよかったんですけど…」
モリアーティ「まるで狙いすましたかのような角度ですが…不幸中の幸いですね。なんとか即死は免れています」
モリアーティ「直前に何かに反応して体の軸をずらしたからでしょう」
ラン「…」
美樹本「途中退出は許さねぇ、ってことかよ…くそが…!」
ガチャッ!
黒服「モリアーティ様!救急箱をお持ちしました!」
モリアーティ「どうも、可能なら裁縫用具もあると助かるのですが…」
黒服「裁縫用具…物置の方にあったかもしれません!しばしお待ちを!」ダダッ
モリアーティ「早く病院に連れていかないと…圧倒的に設備が足りないここでは…」
ラン「…」
高遠「た、助かりますか…?」
モリアーティ「最善は尽くしますが…」
モリアーティ「…」
モリアーティ「少なくとも快方に向かわせるためには、一刻も早く設備のある場所で処置を受ける必要があります」
モリアーティ「ここでは精々衰弱死を食い止める程度の治療しかできません。もし化膿してしまえば、もう手が付けられなくなります」
モリアーティ「…この城から出られない限り、彼が刻々と死に近づいていくことだけは確かです」
ラン「…」
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 00:38:30.04 ID:pBbrw7Aw0
ガチャッ!
黒服「あ、ありました!裁縫用具と、あと包帯です!」ぜぇ…はぁ…
モリアーティ「ありがとうございます。止血できれば一先ず急場は凌げますからね」
黒服「ええ…どうも…」はぁ…ふぅ…
美樹本「ちくしょう…こうなったら…」ブツブツ…
高遠「…?」
ラン(…気付けていた)
ラン(私は気付けていた…なのに、なんでこんなことに…)
ラン(どうして赤羽根さんが…)
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 00:44:48.02 ID:pBbrw7Aw0
2日目 夜 ネレイド城 1F 4号室(美樹本)前
美樹本「くそっ、くそっ」
ガリガリ…ガリッ!!
沼田「ちょっとアンタ何やってんの!?」
美樹本「殺されてたまるかっ」
沼田「え?」
美樹本「考えても見ろ。魚塚と黒羽がやられてんだぞ。犯人は明らかに俺たちを狙ってる」
美樹本「こっから出られないんじゃ、身を守るには閉じこもるしかねぇだろ!」
沼田「…だからそれは気のせいって」
美樹本「あー、はいはい、そうかもな」
ガリッ、ガリッ
沼田「か、考え過ぎだってば。だって、動機はなんだっていうの?」
沼田「第一あのことを知ってる人なんて私たち以外に誰も…」
美樹本「とにかく俺は、生き延びるために何でもやってやるんだ!」
ガリッ、ガリッ
沼田「ていうか、だったらなんでドアをガリガリしてんの」
美樹本「要するに外から開けられなきゃいいんだ…」
美樹本「こうやって、扉の外側だけ壊しちまえば…!」
ピー…
沼田「外側だけ…?」
美樹本「…これでもうレーザー光を扉の何処に当てても反応しなくなった」
美樹本「こうしてしまえば、このドアの鍵を開けられるのは部屋のなかにいる人間…つまり俺だけってことになる」
美樹本「ピッキングなんて関係ねぇ。たとえ犯人が俺と全く同じ鍵を持っていたとしても部屋には入れないって寸法だ」
沼田「でも、これ…逆に外から戸締りできなくもなったってことで、例えばアンタが部屋出てる間は入りたい放題じゃ…」
美樹本「わかってる。だから俺は金輪際部屋を出ない。ずっとこの中に籠る」
沼田「…」
美樹本「俺だけは絶対に生き延びてやる…」
??「…」
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 00:51:55.09 ID:pBbrw7Aw0
2日目 深夜
ラン「…」
ランの部屋。
眠った方が良いですよとモリアーティに促されるままに、ランは自室に押し込まれていた。
ラン「…」
眠る気にはなれなかった。玄関を背に、ただぼうっと立ち尽くしていた。
記憶能力を使うまでも無く脳裏に焼き付いてしまった、赤く染まった相棒の姿が彼女の足を止めていた。
ラン「…」
…確かにこれではまともな推理も出来そうにない。モリアーティの言う通り、一度眠った方が良いかもしれない。
言うことを聞かない体に鞭を打つものの、寝室に向かう足取りはふらふらと、まるで彼女自身の脚とは思えないものだった。
ラン「…?」
そうして遠い道を這いずる途中、ランはぼんやりと光る何かを見咎めた。窓の外だ。
光ったのは真正面。中庭の出入り口のさらに向こう。つまりあそこは…
ラン(物置?)
夕方に降っていた雨は止んでいたものの、空はまだ雲に覆われている。
碌な明かりも無い闇夜に覆われた中世の中庭は、1メートル先も見えない有様である。
だがそれでも、遠方で点るその緑色の光だけは堕天使の右目にハッキリと映った。
昨日の夕食前にさんざん遊んで見慣れた、扉の施錠(或いは開錠)を示す緑色の光。
ラン(物置…)
とっさに彼を治療するための裁縫用具と包帯があった場所だ…と連想してしまう。
ラン「…」
割り切れなかった。些細な切っ掛けでフラッシュバックしてしまう。考え出すと止まらない。
彼の為に今できることはもう無いのだろうか、と。
あるいは、もっと早く警告していれば、彼を救うことが出来ていたのだろうか、と。
愚かしい願望と何も生まない後悔だと頭脳で理解しつつも、彼女はこの堂々巡りの自己嫌悪を終わらせることができなかった。
彼女はまだわかっていない。
その感覚は、自分がルシファーのように真に堕天しつつあることを意味していると。
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 01:01:08.32 ID:pBbrw7Aw0
2日目 深夜
高遠(…あれ?)
高遠遥は冷たい地面の上で目が覚めた。
覚醒しきっていない意識のなか、少しずつまわりの状況を確認する。
寝ているところはベッドの上では無い。それどころか自分の部屋ですらなかった。
ぽつぽつと燭台を模した常夜灯が並んでいる。けっこう広い場所だ。前に見たような…
というか、そもそも私は何故わけのわからぬところに突っ伏しているのか。
高遠「ん…んっ?」
起き上がろうとしたが、動作はそのままに反対側に倒れ込んでしまった。
手足が言うことを聞かなかった。
否。
いうことを聞かせない布のようなものがぎしぎしと巻き付いていたのだった。
両手首。両足首。そして口にも。一体どういうことだろうか。
高遠「…」
なんとか振り解けないかともがいているうちに、
遠くからコツコツとこちらの方へと階段を下りていく音が聴こえた。
階段?地下?…そうか。
ここは拷問展示室だ。
動かせる範囲で首をまわすと、見た事のある模造刀や死体を模した人形たちを見つけた。
前に見た時と変わらないはずなのだが、ただ事ではない自分の状況とあいまって不気味な様相に見えた。
コツン、コツン、ギィッ…
高遠「!」
地下に降りてきた人間はフードのようなもので体を覆っていたが、そこからはみ出す袖口は自分たちと同じく吸血鬼の衣装だった。
この光景に動じていない辺り、どうやらこの謎の人物が私をここに運び込んだのだろう。
しかし、自分に何をするのかと思いきや、謎の人物はこちらを一瞥するなり、そのまま視界の外に消えていってしまった。
高遠「…?」
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 01:04:11.61 ID:pBbrw7Aw0
高遠「…?」
…そのうち妙な音が部屋に響き始めた。
ぷちぷち、何かがちぎれるような音。
しゅーっ、噴き出す水のような音。
ぐぶぐぶ、喘ぐとも溺れるともつかない呻き声。
高遠「…」
やがて静かになり、ずるずると音を立てながらフードの人間が戻ってきた。何かを引きずっていた。
それは沼田岳美だった。短剣で胸を貫かれ絶命していた。彼女から噴き出す鮮血で道が出来ていた。
…屍と目が合う。だが合っていない。それは何も見ていない。もうその中に沼田岳美は居ない。
高遠「…」
ようやっと状況を飲み込んだ。生存本能が警鐘を鳴らす。
想像力が自慢の彼女ですら、その残酷な真実を導き出すのは、ましてやそれを直視するのは困難なのだ。
高遠「…」
べしゃ。
血と臓物の詰まった『袋』を放し、フードの人間は此方に近付いてくる。
こつこつこつ。
顔は見えなかったが…そいつはまるで命の無い道具を見るかのようで…
高遠「…」
高遠遥は悟っていた。
もう自分に残されている時間は無いに等しいのだと。
…
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 01:09:58.65 ID:pBbrw7Aw0
3日目 早朝 ネレイド城 1F 4号室(美樹本)前 廊下
モリアーティ「な、なんですかこれ…!?」
三澤「どうした」
モリアーティ「三澤さん…見てください、美樹本さんの部屋のドアが…」
三澤「…ああ、そういえば何かしていたな」
モリアーティ「はい?」
三澤「詳しく聞いたわけじゃないんだが、昨夜沼田君と何か言い合っているのを見かけたんだ」
三澤「なんでも、こうして扉の外側だけ壊してしまえば、中にいる自分しか開けられないから安全だ…とかなんとか」
モリアーティ「は…はぁ、そうですか。それはまた思い切った事をしましたね」
モリアーティ「私はてっきり、また犯人がなにかを仕掛けたのかなって…」
コツ…
ラン「…」
モリアーティ「おはようございます。ランちゃん、よく眠れましたか?」
ラン「その、彼岸を遮る白蛇の威光は…(赤羽根さん…は?)」
モリアーティ「今のところは小康状態を保っていますが、それでも油断はできません」
モリアーティ「倒れてから一度も意識が戻っていないのも気がかりです」
モリアーティ「だから…もう一度会いに行ってあげてください。朝食の後にでも」
ラン「…ん」
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 01:12:57.57 ID:pBbrw7Aw0
コツコツコツ…
醍醐「変なところで集まってるのね、皆。目崎さんが支度できたって。食堂に行きましょ」
三澤「そんな時間か。…だが彼はどうする?」チラ
醍醐「ん…美樹本さんのこと?…まぁ放っとくしかないんじゃない?」
醍醐「そんな風に閉じこもるくらい被害妄想膨らませてたら、こっちが何やったって効果ないわよ」
醍醐「錯乱状態で暴れないだけまだマシ…あら?」
コツコツ
ピラッ
醍醐「『朝食が出来たら黒服にここまで料理を運ぶよう頼んで欲しい』…ですって」
三澤「自分本位な奴だな」
醍醐「…行きましょ、皆」
ラン「…?」
モリアーティ「どうかしましたか?ランちゃ…」
アルカード『名探偵諸君、お待たせした』
一同「!?」
ラン「紅き宣告…!!(アルカード…!)」
アルカード『第三の殺人の幕開けだ。今度の吸血鬼は十字架にやられてしまったようだ』
アルカード『フフ…フハハハハッ!!!』
ラン「次なる惨劇は主神の御許…!!(十字架…礼拝堂か!!)」
ラン「きさまぁっ!!!」ダッ
モリアーティ「ま、待って!ランちゃん!」
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 01:18:25.86 ID:pBbrw7Aw0
3日目 早朝 ネレイド城 1F 礼拝堂
沼田「」
高遠「」
三澤「今度は二人…また見立てか…!」
ラン「く…ぅっ!」
モリアーティ「沼田さんは死後3時間から4時間ほどでしょうか…」
モリアーティ「死亡推定時刻は未明の午前3時から4時」
モリアーティ「流れた血の量が妙に少ない。そして死体の上部にも死斑が…」
醍醐「いったい犯人は何人殺せば気が済むのよ…!!」
モリアーティ「黒羽さんの時と同様に彼女も何処かで殺され、ここに運ばれてきているみたいです」
モリアーティ「高遠さんの方は…」
高遠「…ぅ…ん」
一同「!?」
三澤「ぶ、無事なのか!?」
ラン「瞳を持つ者よ!覚醒せよっ!!(大丈夫っ!?)」
高遠「…ごめん、あまり大きな声出さないで…頭がズキズキする…」
高遠「そうだ…!沼田さんが!」がばっ
高遠「…」
醍醐「私達はさっきアルカードの声を聞いて駆け付けたところなの」
醍醐「高遠さん、貴女はいつからここに…」
高遠「…私」
ラン「…?」
高遠「…」ぶるぶる
三澤「一体どうなっているんだ?」
醍醐「気が動転してるみたいだから、落ち着かせましょう」
高遠「ご、拷問展示室で、私、沼田さんが、それで…」
ラン「…」
三澤「拷問展示室…!?」
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 01:22:44.52 ID:pBbrw7Aw0
3日目 早朝 ネレイド城 B1F ?(拷問展示室)
三澤「本当だ…この血溜まりは…」
モリアーティ「間違いありません。沼田さんのものでしょう」
ラン「…」
三澤「答えてくれ。昨夜高遠君もここにいたということだな?」
高遠「…うまく思い出せなくて…でも多分部屋に戻ろうとした時に襲われて…」
高遠「気が付いたら手足を縛られて…それで…!」ぶるぶる
三澤「高遠君、きみは犯人の顔を見たか?」
高遠「わか、ら…ない…」ぶるぶる
三澤「よく思い出すんだ!」グッ
高遠「い、痛…」
醍醐「ちょっと!」
三澤「何だ」
醍醐「さっきから幾らなんでも強引過ぎるんじゃない?彼女は危ない目に遭ったばかりなのよ」
三澤「もう三人も殺されているんだぞ!落ち着いてられるか!」
三澤「それに、彼女は少女とはいえ探偵なんだろう。殺人現場も初めて見たわけではあるまいに」
醍醐「見るのと見せられるのとでは受ける『キズ』の深さが違うんだっての」
醍醐「ショック状態の時に無理やり思い起こさせるより、いったん整頓させた方が正確な情報を思い出せるの」
醍醐「ったくこれだから素人は…悪いことは言わないから、今は現状確認と推理に留めなさい」
三澤「…しかし、かといって今の状況だけではまともに犯人の特定ができんだろうに」
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 01:24:55.55 ID:pBbrw7Aw0
ラン「ならば、骸から終の閃光を嗅ぎ分けるしかないようね…(…被害者を最後に見た人間は誰でしょうか?)」
三澤「…そうか、そのアプローチがあったな」
三澤「確か昨日は例の赤羽根君の騒動で一旦全員が5号室に集まっていた」
三澤「そのあと彼を残し全員で食堂に行き夕食を摂って…それからは?皆真っ直ぐ部屋に戻ったか?」
モリアーティ「私はランちゃんと一緒にもう一度赤羽根さんの部屋に戻りましたけど…」
モリアーティ「食堂にはまだ被害者の二人は残っていたので、わかりません」
醍醐「その次に食堂を出たのは多分私。部屋に戻る途中までは高遠さんとも一緒だったわ」
醍醐「一緒に中庭の入口の辺りで割れた天窓を見つけて…」
モリアーティ「天窓?」
醍醐「ええ。中庭の天窓に雷が直撃したみたいで、雨が降り込んでたのよ」
醍醐「だから何だって話だけど…でもそこで高遠さんと別れるまで、彼女が無事だったのは確かよ」
三澤「…俺が食堂を出たのは最後だった」
三澤「部屋に戻るとき、扉を細工している美樹本と沼田が話しているのを見かけて…」
三澤「待てよ。ということは、沼田君と最後に会っていたのは美樹本君ということになるのか?」
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 01:31:10.13 ID:pBbrw7Aw0
3日目 朝 ネレイド城 1F 4号室(美樹本)前 廊下
コンコン
三澤「美樹本君、開けろ、沼田君が殺されたんだ!」
三澤「いるんだろう?返事をしろ!美樹本!おい!!」
シーン…
醍醐「寝てる…なんてことはないわよね」
モリアーティ「先程の放送は彼にも聞こえていた筈です」
モリアーティ「犯行声明を受けても何もアクションを起こしていないのは…いくらなんでも不自然では?」
三澤「待て」ピタ
醍醐「…中から怪しい気配でもするの?」
三澤「シッ」
モリアーティ「?」
三澤「水の音…?」
三澤「嫌な予感がする。下がってろ」
醍醐「え、ちょっ、まさか!?」
ガッ!バキッ!!
一同「!!」
三澤「美樹本!どうした、返事をしろ!」
3日目 朝 ネレイド城 1F 4号室(美樹本)内 浴室
ガチャ…
ラン「っ!!」
モリアーティ「きゃ…!?」
ジャァァァァァッ…
美樹本「」
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 01:34:28.53 ID:pBbrw7Aw0
3日目 朝 8:53時点
A 赤羽根刑事(5号室)←DYING
B ラン(1号室)
C 黒羽 烈斗(推理評論家・9号室)←DEAD
D 高遠 遙(私立探偵・3号室)
E 魚塚 三津子(弁護士・2号室)←DEAD
F ジェーン・S・モリアーティ(イギリス警察監察医・10号室)
G 醍醐 瑞紀(犯罪心理学者・8号室)
H 沼田 岳美(探偵社社長・6号室)←DEAD
I 三澤 陣(ロス市警・7号室)
J 美樹本 洋太(ルポライター・4号室)←DEAD
K 黒服 目崎
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 01:37:10.05 ID:pBbrw7Aw0
3日目 朝 ネレイド城 1F 4号室(美樹本)
バチャバチャ…
モリアーティ「…死亡しています」
三澤「見ればわかる。一面血の海だ」
三澤「だが、一体何だこの現場の状況は…今度は何を意味している?」
三澤「それにこの遺体の姿勢…まるで美樹本君が自決でもしたかのような…」
ガタッ
一同「!?」
黒服「美樹本様…!?」
黒服「皆様、先程の放送といい、一体何があったのですか!?」
高遠「…目崎さん?今まで何処に?」
黒服「…大食堂の厨房で朝食のご用意をしていました。時間になっても皆様が現れないので不思議に思っていたのですが…」
醍醐「え…あの放送を聞いた後、まっすぐここに来たっていうの?」
醍醐「随分遅かったのね…」
黒服「…」
三澤「そんなことより皆、これを見てくれ」
三澤「カセットテープだ。参加者の私物は全て没収されていたんじゃなかったか?」
カチ
『名探偵諸君、今までご苦労だった』
三澤「…」
モリアーティ「アルカードの声…!?」
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 01:39:55.07 ID:pBbrw7Aw0
『これがネレイド城ミステリーナイトの結末だ』
『今回の事件は私アルカードこと美樹本洋太が…』
『魚塚美津子、黒羽烈人、沼田岳美の3名を殺害するために計画したことである』
ラン「…」
『私と魚塚美津子、黒羽烈人、沼田岳美はかつて同じ大学のサークルに所属する仲間同士だった』
『社会に出てからは、各々の分野で成功するために一つの事件を全員で協力し合い、手柄を分け合っていた』
『私が証拠を集め、沼田が犯人を捕まえ、魚塚が法廷で裁き、黒羽が世論を煽る…そうやって我々はのし上がっていった』
『だが、奴等は次第に証拠集めを警察のコネで補い始めた。そして最大の功労者であるはずの私の取り分さえも減らしていったのだ』
『日に日に増していく、奴らからの侮蔑と迫害の視線に耐えきれなくなった私は、復讐を決意したのである』
醍醐「…」
『惨劇の舞台は、かつて我々が所有していたこの地に建つ古城が相応しいと思った』
『そして目的を悟られぬよう、吸血鬼を名乗る狂人の犯行に見せかけながら、一人づつ奴らを殺していった』
『凶器にブレードキーを使ったのは、殺人犯の異常性を強調し、推理をかく乱させるためだった』
三澤「…」
『復讐を終えた今、私もまた彼等3人と同じ吸血鬼として命を絶つことで事件の幕を下ろすことにする』
『流水にその躰を蝕まれた、最後の吸血鬼として…』
『そしてこの音声を聞いているということは…残念ながら、ゲームの勝利者は現れなかったということだな…』
『ハハハ…ハァッハッハッハッハ…!!!』
一同「…」
黒服「こ…これで事件は終わったんですね!?」
黒服「もう誰も死ぬことは…」
ラン「これは幻影…!(違う…!)」
黒服「?」
ラン「これが観測の徒による贖罪の旋律ならば、ノブル・レッドの外套など不要!(美樹本さんが本当に犯人だったらアルカードの声で遺言をのこす理由なんて無い)」
ラン「咎を持つ者は暗雲に隠れ、我が観測から完全に逃れようとしている…!(真犯人は美樹本さんに全ての罪を着せ、この事件を終わらせようとしているんです)」
三澤「コレがさしずめ真犯人による第四の殺人だとでもいうのか?」
三澤「…ラン君、それは考え過ぎだ」
三澤「君もここの扉を見ただろう。この部屋は外部から完全に遮断されていたんだぞ」
三澤「たとえ部屋の鍵がもう一本あったとしても、扉を開ける事は出来ないんだ」
三澤「それを見越した密室だろう。これは紛れもなく美樹本君の自殺と見るべきだ」
ラン「…」
ラン(絶対に違う…)
ラン(だって、この事件の裏にはルシファーが…!)
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 01:53:24.94 ID:pBbrw7Aw0
目を覚まさぬ相棒の傍らで堕天使の少女は蠢いていた。
彼を助ける手立てがない。
秩序を守る彼は正義の味方であるはずなのに、何故世界は彼の味方をしてくれないのか。
刻一刻と目の前の身体が屍に変わっていく恐怖に震え、同時にその身を支配しつつある感情に自分で驚いた。
その感情は、彼が凶弾に倒れたときからずっと膨らみ続けているのだ。
『これ』は一体何?
堕天使の少女は人間界に降り立ち、痛ましい犠牲者の姿を何人も見て、その度正義に燃え咎人に怒りを抱いた。
しかし今彼女がルシファーに抱く『これ』は、今までの咎人への怒りが薄っぺらく感じてしまえるほどに、特別な感情だった。
特別…?
おかしい。かつて彼女はこれとよく似た光景を目にしたことがあったはずだ。
初めて出会った日。雪降るロッジにて、犯人の手にかかり重傷を負った彼をベッドのそばで見守っていた。
その時と何が違う?
否、あの時の光景と全く変わらない光景である。
にもかかわらず今、堕天使の少女は酷く心を乱されていた。
目の前の彼を失うことが他の誰を失うことより恐ろしい。
それは、人の子を『平等に愛す』主神の使いとして、あってはならぬ感情だった。
彼はこの世界に不要な存在か?
否
彼が死に、咎人がのうのうと生を謳歌する、それがあるべき世界か?
否
ならば咎人が法の下に罰を受け、粛々と日々を暮らす。それで自分は満たされるのか?
…
たとえ『父』の意に反したとしても、自らの手で裁いてみたくはないか?
…
自分の手で、咎人を断罪したいと、ほんの少しでも思わなかっただろうか?
…
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 01:57:55.78 ID:pBbrw7Aw0
そう。この感情は復讐心だ。
自分らが断罪してきた全ての咎人が抱いていた感情。
そして、自分がこれまで否定し続けてきた感情。
もし彼が死んでしまったら。
私は、ルシファーを…
混濁する思考と心の中で何かが胎動するような異物感、そして込み上げる吐き気。
邪悪な復讐心に侵されし頭脳は上ってくる血をどす黒く濁らせる。濁った血は全身を巡り、それが悪魔の羽を育てる恵みとなる。
純真無垢なる天使の羽根は今まさに、闇より黒き漆黒に染まろうとしていた。
赤羽根「…ゃ…ぅ…」
ラン「…!?」
………
……
…
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 02:05:59.86 ID:pBbrw7Aw0
傲慢を冠する堕天使は、妹の姿を見て訝しむ。
(…何があった?)
さっきまではあんなに憔悴しきっていたのが嘘のように、ランの両眼は燃えていた。
彼女を見て状況の進展を察した英国医師が、慌ててあの刑事の部屋に急ぐ。
おそらくそういうことなのだろう。
(ここまでボクのシナリオ通りに事が進んでいるはずだが…?)
本来ならばこの時点で堕天の成立である。
最愛を失ったものは運命を呪い、それを定めた神を呪う。
そうして父君から見放された天使の背からは、黒く美しい羽根が咲くのだ。
だが傲慢の堕天使は、ランのその立ち振る舞いに明らかな違和感を感じ取った。
あの刑事が最期に何か吹き込んだのだろうか?
復讐心を植え付けられた者は、例え天使であろうとその力に抗うことは出来ない。
だが、それでも。曲がりなりにも彼女は主神が遣わした大天使、先陣の姫君である。
(万が一、ボクの謎を打ち破る何かを掴んだのだとしたら…)
事実、ルシファーの懸念は的中していた。
大天使ランの瞳は、揺るぎ無い正義に燃えていた。
天神の名の下に。
闇に飲まれし真実を両腕で掬い上げて見せるために。
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 02:10:47.37 ID:pBbrw7Aw0
3日目 昼 ネレイド城 B1F ?(拷問展示室)
ラン(犯人は犠牲者を吸血鬼の弱点に見立てて殺している)
ラン(初めは杭、次に日光、十字架、そして流水)
ラン(どうして犯人はそんな面倒な事を…?)
ラン「…」チラッ
ラン(昨夜この部屋で沼田さんが殺された…そしてその場には高遠さんもいた)
ラン(二人をわざわざ人目につかないこの部屋まで運んでいるということは…)
ラン(犯人は、やろうと思えばここで二人とも殺すことだってできたはず)
ラン(だとしたら、何故高遠さんは殺されなかったんだろう?)
ラン(そこには絶対に重要な意味があるはず…)
高遠「あ、こんなところにいた」
ラン「!」びくっ
高遠「やっぱりランちゃんも、事件はまだ終わってないって思ってるんですね!」
高遠「…どうかしました?」
ラン「い、いや…」
ラン「瞳を持つ者よ、やはり其方も…」
高遠「実は私もこの事件は一筋縄じゃないって気がしてるんです」
高遠「そう…これは終焉の序曲…狂信者が太古の神獣を復活させるために幾人もの生贄を…こ、こほん」
ラン「…」
高遠「それはさておきランちゃん!」
高遠「私…あの密室トリックの謎が解けた気がするんです!」
ラン「え…!?」
高遠「犯人はやっぱり、二本のブレードキーでピッキングを行ったんですよ!」
ラン「むむ…?ならば、あの強固なる関門を如何に躱すというのか?(でも、あの扉は外側からは開けられなくされていたんですよ?)」
高遠「外側からではなく、内側から開けたんですよ!」
高遠「中庭の窓越しにです!!」
ラン「…」
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 02:16:46.69 ID:pBbrw7Aw0
3日目 昼 ネレイド城 1F 中庭 4号室の窓近く
高遠「犯人は昨晩、美樹本さんをどうにか言いくるめて部屋の中に入れてもらい、そこで殺害したとしましょう」
高遠「そして死体を浴槽に運んで、さも自殺をしたかのように現場を偽装して、鍵をかけずに立ち去ったんです」
ラン「解放の剣を鞘に…?(鍵を…?)」
高遠「ええ。この推理のミソは『殺した時間』と『部屋を密室にした時間』が別々であるということなんです」
ラン「…」
高遠「部屋が密室になったのは今日の朝…アルカードの放送で皆が礼拝堂に集まって私たちを見つけたとき…」
高遠「まず犯人はランちゃんの持っている1号室の鍵とモリアーティさんの預かってる5号室の鍵をコッソリくすねます」
高遠「そして、みんなの目を盗んだ犯人は急いでココまで走って窓越しに施錠し、何食わぬ顔で戻って鍵を戻したんです」
ラン「…」
高遠「私達が運ばれた場所と実際の殺害現場を別にしたのは、みんなをあちこち移動させてピッキングの時間を稼ぐためだった…」
高遠「…ってことになりませんかねっ!?」
ラン「…ん」
ラン「術式に致命的な綻びは無い。が…(確かにその方法なら犯行は可能かもしれませんが…)」
高遠「…な、なにか問題点が?」
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 02:21:02.26 ID:pBbrw7Aw0
ラン「半月を象りし追憶の大地を見よ(足元を見てください)」
高遠「はい?」きょろきょろ
ラン「天より涙が注ぐ白昼夢…地母の掌は雫を吸い、我等の導を遺している(昨日の雷で天窓が壊れたせいで、昼から夕方にかけて雨が降りこんで中庭の土がぬかるんでいますよね)」
ラン「そしてその地母の掌は罪人と我等を等しく包むはずである(もし貴女の推理通りだったとするなら、ココまで歩いてきた犯人の足跡が残っているはずです)」
ラン「なればこそ、あの月下に半月の地を侵した者はいない(それが無いということは、昨日の夕方から現在までの間、中庭に入った人はいないということになります)」
高遠「…うむむ」
高遠「あ、でも、ブレードキーの光はレーザーですからここまで近づかなくても届きます」
高遠「犯人はあそこの中庭の入口から、ピーッと光を伸ばしてピッキングして…!」
ラン「遥か彼方の地より解放の儀を行った…?それは人間の理を超えし者のみに許された業…(あそこまで遠くから二つの光をピッタリ合わせる…というのは至難の業でしょう)」
ラン「そして高貴なる紅の牙が開かれし時、我等は煉獄の結界に触れていた(それにまだ高遠さんに話してなかったんですが、今朝の放送の前に4号室の扉が閉まっているのは皆で確認しているんです)」
ラン「即ち、神の御許や地の底にて蠢く狂宴は、解放の剣を支配せし幻惑を創りだしてはいなかった(ということはやっぱり、朝の混乱に乗じて私達の鍵がトリックに使われたということは無かったんだと思います)」
高遠「うぅーん…」
高遠「かくなる上は、犯人が夜のうちにどーにかしてランちゃん達から鍵を奪った…なんてことは…」
ラン「…解呪の法を闇夜に溶け込ませる…というのならば、刹那を極めし閃光も針と糸程度にはなるのかも知れない(確かに夜中のうちに充分な時間をかければ、あの入口から鍵を合わせられる…かもしれませんが…)」
ラン「しかし半月の地母が闇に飲まれているのだ(夜の中庭は真っ暗闇です。遠くからではどのあたりに目的の部屋の窓があるかも分からない状態になります)」
ラン「いくら刹那を極めようとも、瞳を失った射手は閃光を放てない(なにか目印や基準になるものがなければ、どうすることもできないと思いますよ)」
高遠「…」
高遠「やはり犯人は浮遊能力と時間停止能力と肉の芽を駆使する吸血鬼…!?」
ラン「…」ぐにゅー
高遠「ふにゅにゅにゅ…」
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 02:27:07.79 ID:pBbrw7Aw0
3日目 昼 ネレイド城 1F 4号室(美樹本)
高遠「何回調べても、隠し通路や抜け道になりそうな隙間は見つからないですね」
高遠「もし犯人が壁を透過する能力を持っていないと仮定するなら…」
高遠「…そう、犯人はもしかしたら自身の肉体を蝶や蝙蝠の群れに変化させることが出来るのかも…!!」ぽわぽわ
ラン(…そういえば あの遺言…高遠さんを襲ったことについて触れていなかった)
ラン(もしかして彼女の件は犯人にとって予定になかった事だったのかな…?)
高遠「…痛っ!」
ラン「?」
高遠「っあ、大丈夫、切っただけ。たいしたことじゃないの」
高遠「壁のここがバリみたいになってて、そこで…」
ラン「獣の爪痕…(バリ?)」
高遠「うん、ほらココの…」
ラン「…」
ずいっ
高遠「え?」
ずいっ
高遠「ランちゃん?ひゃっ!?近…」
ずいずいっ
高遠「ハッ!?ま、まさか、滴る血に誘われて吸血鬼の衝動が!?」
高遠「考えてみれば貴女のその紅眼銀髪のルーマニアンな外見…やはり貴女が吸血鬼だったのねっ!?」
高遠「まま、待って!確か人血の人間が血を吸われたらその人も吸血鬼に…滅茶苦茶そそられますけどっ」
高遠「え?えー!?でも心の準備が…ああっ!?それともまさかのあんゆりならぬらんゆりがキテ…」
カリカリ…
ラン「原罪の証…!(この形…!!)」
高遠「…ほぇ?」
ヂャカッ
ラン「我が封印の剣と共鳴せんとする刻印とは…只ならぬ宿命を感じるわ…(ブレードキーの切先とぴったり合う…ということは…)」
高遠「…吸わないんですか?」
ラン「?」
高遠「血…」
ラン「ち?」
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 02:33:30.32 ID:pBbrw7Aw0
3日目 昼 ネレイド城 1F 大広間
ラン「高貴なる紅の放つ蠱惑の術が、生贄を奴の眷族へと変えたことはわかっている(…犯人が美樹本さんを自殺に見せかけて殺害したのは間違いない)」
ラン「だが、奴の術は果て無き迷宮の様に我がロゴスを阻む…(でも、犯人が吸血鬼に拘った意味も、高遠さんを襲った理由も、密室の謎も解けていない)」
ラン「この迷宮で私を導くアリアドネ…我が両眼はそれを捉えることが出来るのだろうか…(まだ全然わかんないことだらけだなぁ…)」
高遠「…そうだ」
ラン「?」
高遠「私としたことが…もう一つの可能性を見逃していましたっ!」
高遠「美樹本さん殺しの時犯人は、ずっと密室の中に隠れていたんじゃないでしょうか!?」
ラン「咎人が、結界の中に潜んでいた、だと…?(隠れていた…?)」
高遠「そうです!犯人は密室の中に隠れていて、遺体発見のドサクサに紛れて合流していたんですよ…!!」
ラン「…」
高遠「犯人は、美樹本さんを殺害してからずっと部屋の中に隠れていた」
高遠「そして私達が扉を破って中に入ったときに、何食わぬ顔で合流していた…」
高遠「水を出しっぱなしにしていたのは、みんなにあの音を聞かせて浴室に誘導し、自分が隠れている寝室に入られないようにするため」
ラン「瞳を持つ者ながら破滅を呼ぶ綻びは少ない。が、羽根を休めし領域を侵さぬ摂理としては、やはり脆い(…確かにそれで理屈は通りますけど、それでも寝室を探られる可能性はゼロでは無いですよね)」
ラン「凶刃に身を任せたノブル・レッドはその咢を鮮血に染める。その凶罪が証を如何に隠すというの?(それに、返り血や遺体に水を浴びせる時に濡れてしまう自分の衣服の問題はどう説明しましょうか…?)」
高遠「それは…本当は、ここのドアは鍵がかかっていたんじゃなく、開かないようにされていただけなんじゃないでしょうか」
高遠「内側に細工の後はなかった…だから多分、ランちゃんたちがドアを確認した時は犯人自身がドアを塞いでいた」
高遠「アルカードの放送で皆が礼拝堂や地下室を調べているうちに、犯人は自室に急いで着替えて戻ってきた」
高遠「ほら、思い出してください!」
高遠「美樹本さんの遺体を発見したとき、不自然に遅れて出て来た人がいました…目崎さんです」
ラン「…」
高遠「彼くらいの体格なら、全力で走れば間に合うんじゃないでしょうか…!」
ラン「ふむ、ノブル・レッドが仕掛けた幻術はその瞳に真なる姿で現れた…という仮の真理を定めよう(…なるほど。犯人がそんな風に偽装していた可能性は捨てきれません)」
ラン「彼の大術は吸血鬼に厳密なる刻と座標を要求し、それら全てを捧げうる者は確かに黒き従者ただ一人であろうが…(そして、確かにそれが可能なのは目崎さんだけでした。けど…)」
高遠「けど?」
ラン「彼の者は古城を駆けし翼を捥がれている…(目崎さんは全力では動けなかったと思いますよ)」
高遠「…え?」
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 02:37:55.91 ID:pBbrw7Aw0
3日目 昼 ネレイド城 1F 大食堂
黒服「…」
高遠「ど、どうしたんですか!?その足の腫れ…」
高遠「いつのまにそんなことに!?」
ラン「我が相棒伏する追憶の境界に(昨日、赤羽根さんのための包帯を取りに行った時です)」
高遠「…そういえばあの時、目崎さん妙に息があがってたような」
ラン「闇に溶けた城の中、黒き従者はその身に楔を受けた(それだけじゃなく、あのとき足も引きずっていたんです)」
ラン「癒やしの紐と引き換えに…楔は従者の足に呪縛を巻き付けて(取りに行く途中でなにかあったんですよね?目崎さん)」
黒服「…何かあったというよりは、私自身がしてしまったと言うべきでしょうか」
黒服「物置を開けようとしたときに扉がうまく反応してくれなかったもので、力任せに蹴破ってしまって…」
高遠「け、蹴破った…」
黒服「無我夢中だったもので、つい…それで、物置から包帯を運ぶことは出来たので良かったのですが」
黒服「その際に、その、足をひねってしまったようで、後から痛み出しまして…」
黒服「おまけに扉の方は蹴破った衝撃で壊れてしまったのか、うんともすんとも言わなくなってしまいまして」
黒服「仕方が無いので今は開けっ放しにしております」
高遠「ははぁ…」
ラン「…こほん。全ての因果は、黒き従者を鎖で縛る結果へと収束した(原因はさておき、そういうわけで目崎さんは全力で動けなかったんです)」
ラン「即ち、瞳を持つ者よ…其方…の…(だからさっきの高遠さんの推理…は…)」
ラン「…」
高遠「ランちゃん?」
黒服「ラン様?」
ラン「…」
たたたっ
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 02:47:21.57 ID:pBbrw7Aw0
3日目 昼 ネレイド城 1F 物置前
ラン「…」
高遠「どうしたの?」
カチ、カチ
ラン「剣に応えない…何故だ…!?(嘘…認識しない…!どういうこと…!?)」
高遠「さっき物置のドアが故障したって聞いたばかりですけど…」
ラン「煌く解放の光は、古城を覆う闇をも裂いていたというのに(私は昨夜、部屋の窓からこの扉が光ってるのを見た)」
ラン「護法の界が既に焦げ付いていたなんて…!?(なのに何の反応もない…)」
高遠「…へ?」
ラン「境界線は闇に飲まれていた(この扉は昨日の夕方の時点で壊れていた…)」
ラン「ならば、何故我が瞳は解放の光を捉えたのだ?(だとしたら何故、私は扉の光を見た?)」
ラン「…」
ラン「そうか…なんで今まで気付かなかったんだ…」
ラン(犯人はあれを使った。だから犯人は、高遠遥を襲わなければならなかったんだ…)
ラン(ということは…)
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 02:53:04.39 ID:pBbrw7Aw0
3日目 昼 ネレイド城 1F 4号室(美樹本)
モリアーティ「…確かにその可能性はあります」
モリアーティ「彼の死亡時刻は殆ど状況証拠によって割り出されたといってもいいものですから」
モリアーティ「しかし…にわかには信じられません。本当にそんなことがあり得るのか…」
ラン「フッ、封印は解かれたぞ!(…やっぱり)」
高遠「どういうこと…?」
ラン「咎人が高貴なる紅の外套に固執した理由は之だ!!(だから犯人は吸血鬼に見立てて殺人を繰り返したんですよ…!)」
高遠「??」
ラン「万物の事象が我が魂に語り掛けてゆく…(わかりました…!)」
ラン「吸血鬼の円卓と成り果てた鉄檻の真実も(美樹本さん殺しの密室の謎も)」
ラン「瞳を持つ者を手にかけた、避けようの無かった因果律も(高遠さんを襲った理由も)」
ラン「ノブル・レッドの化けの皮を着る大罪人…その名札も(そして、誰がこの事件の真犯人…アルカードなのかも)」
ラン「全ての真理は、我が手中に有り!!(…謎は全て解けました)」
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 03:25:37.90 ID:pBbrw7Aw0
ねむけやばい…
ちょっとひとねむりします
m(_ _)m
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 03:26:36.27 ID:pBbrw7Aw0
ねむけやばい…
ちょっとだけひとねむりします
m(_ _)m
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/09/02(日) 07:47:34.47 ID:lDait9DYo
一旦乙
高遠の役者は百合子か?
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 11:08:41.64 ID:pBbrw7Aw0
>>99
ひそかに大正解です。
ちんとんかんな狂言回しがほしかったので、その他の面でも相性よさそうな彼女に白羽の矢を立てました。
あと話の初期構想を練っているとき、某企画で件の彼女が惜しくも探偵役を逃してしまっていたこともぶっちゃけ遠因です。
おくればせながらさいかいしまむらm(_ _)m
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 11:13:58.63 ID:pBbrw7Aw0
3日目 夕方 ネレイド城 B1F 電気室
三澤「…」
醍醐「こんなところにいた」
醍醐「どうしたの?…もしかしてこの罠の網を掻い潜ろうとしてる?」
三澤「くぐれるものなら昨日くぐっている。この手のヤツは専門外だ」
三澤「向こうで出くわすこともあるが、その時は専用のチームを呼んでいる」
醍醐「…」
三澤「そうではなく、どうにかここから抜け出す方法はないかと考えていたんだ」
三澤「もうこの世にいないやつの作った監獄に、これ以上すし詰めされているのもおかしな話だと思ってな」
醍醐「とはいっても、それを解決する方法が向こう側にしかないんじゃねぇ」
三澤「…で、だ」
醍醐「え?」
三澤「あそこ…操作盤に括りつけられている装置があるのが見えるか?」
醍醐「…なにかの時限装置だと思うけど?ほら、放送に合わせて私達を城に閉じ込めたときの」
三澤「一つはそうだろう。だがもう一つ、その隣にあるものは?」
醍醐「…」
黒服「み、三澤様、醍醐様!大変です!」
三澤「!」
醍醐「どうしたの?」
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 11:17:42.86 ID:pBbrw7Aw0
3日目 夕方 ネレイド城 1F 大広間
−−−−−−−−−−−−−−
今宵、第四の殺人を実行する
吸血鬼アルカード
−−−−−−−−−−−−−−
黒服「何時の間にやら、このような張り紙が…」
モリアーティ「犯行…予告…?」
醍醐「…」
三澤「馬鹿な…犯人はもう死んでいるんだぞ!」
高遠「誰かの悪戯でしょうか?それともまさかこの惨劇に真犯人が…!?」
ラン「迷える羊たちよ!我が黙示を聴けいっ!!(みんな、落ち着いてください!)」
ラン「吸血鬼がいくら吠えようとも、その真紅に染まりし牙が剣の封印を喰らうことなど無い!!(今夜はしっかりと部屋を施錠して、相手が誰か分かるまで絶対に扉を開けないようにすれば大丈夫です!)」
一同「…」
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 11:27:11.90 ID:pBbrw7Aw0
…
寝室で横になっていた醍醐瑞樹は、先程の犯行予告の件を考えていた。
三澤の推理の通り、アルカードが自決と犯行終結を宣言してから僅か半日ほどしか経過していない。
にもかかわらず、件の怪人が終結を撤回し、もう一度殺人を実行する?そんな世迷言を誰が信じるのだろうか?
どう考えても不自然である。
それに、犯行予告は音声ではなくではなく手紙だった。手口を模倣しきれていない点から推察するに…
全くの別人が、目的はともかくオリジナルに罪を擦り付ける意図で行ったもの。
いきあたりばったり。有り合わせ。質の伴わぬ模倣犯。犯罪心理学の観点から推測するまでもない分析であった。
だからそれほど警戒するまでも…
ガチャ
…え?
がばっと起き上がる。そしてすぐに嫌な汗が噴き出した。
かすかに聞こえたその音は、明らかに私の部屋の扉から聞こえてきたからだ。
今のは何?
決まっている。誰かが私の部屋のなかに侵入したのだ。
まるで自分の部屋に入るかのように。鍵なんて無いかのように。…怪人アルカードのように。
我が物顔で廊下を進む足音がする。だがそれ以上に自分の心臓の鼓動がうるさかった。
脳裏によぎる、最悪の想像。まだ私にはやることが残っているのに。
だが逃げ道は塞がれている。もはや私には成す術がない。
私は…
寝室のドアが、ゆっくりと開かれた。
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 11:33:34.61 ID:pBbrw7Aw0
3日目 夜 ネレイド城 2F 8号室(醍醐)
ラン「今宵の月は、我が魂を狂わせる…(今晩は)」
醍醐「…」
ラン「…風が止んだようね?(どうかしましたか?)」
醍醐「ラン…ちゃん…あ、貴女こそどうしたの?」
醍醐「ビックリしたじゃない…というか、無断で入ってくるなんて失礼よ」
ラン「招かれざる客を畏れるのも無理はない…が(ごめんなさい。でも、醍醐さんこそ不用心ですよ)」
ラン「其方こそ、魍魎跋扈する宵の口に封印を解き放つなど、喰らっておくれと乞うようなものでは?(もうすぐ就寝する時間なのに…戸締りを怠るなんて)」
醍醐「…そうね」
醍醐「それで、私に何か用かしら?」
ラン「フフ…少々戯れが過ぎたかしら(ああ、そうでしたね)」
ラン「今宵、ノブル・レッドの名を騙る咎人を、主神の名の下に断罪しようと思っているの(私はこれから貴女に、このネレイド城で起きた全ての事件の真相を話しに来たんです)」
醍醐「…」
醍醐「事件の真相って…なに言ってるのよランちゃん」
ラン「彼奴の複雑怪奇なる幻術は、古城に閉ざされし全ての観測者を深淵へと誘ったわ(…全ての殺人は、ある一人の人物によって綿密に計画された連続殺人だったんです)」
醍醐「…」
ラン「そしてその術式を組んだ者は…未だ命潰えずにこの古城を支配している(いったいどうやってこの不可能ともいうべき殺人を行ったのかを、これから紐解いていきます)」
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 11:42:43.83 ID:pBbrw7Aw0
ラン「高貴なる紅がその身を闇夜に捧げし胎動の刻…(吸血鬼アルカードが、この恐るべき殺人計画を始めるにあたって、まず最初にしたのは…)」
ラン「我等は魂魄の内に夢幻の芽を植え付けられた(皆にある暗示をかける事でした)」
醍醐「…」
ラン「今ここに、全ての贄達の断末魔を導かん(これまでの事件を思い出してください)」
ラン「心臓を衝き放つ終の一打、身を焼き焦がす紅蓮の陽光(魚塚さんが胸に杭を打たれた第一の殺人…黒羽さんが日光に晒されていた第二の殺人…)」
ラン「彼岸に立つ贖罪の墓標、そして…洗い清める聖水の秤(沼田さんが十字架のそばで絶命していた第三の殺人…最後に、美樹本さんが流水をその身に浴びた第四の殺人…)」
ラン「彼の者の放つ二対のカタストロフは観測者の瞳を濁らせ、大いなる幻を形作る…(これらの事件で、犯人は私達の頭の中に、ある法則を焼き付けようとしたんです)」
醍醐「法則って…いったい何のことかしら」
ラン「供物は全て、咎人の『種』としての末路を示すもので…(犠牲者は吸血鬼の弱点とされるものに見立てた殺されかたをして…)」
ラン「憐れなる終焉与えし器は、その者の封印具であるという真理である(殺害の凶器にはその人の部屋のブレードキーが使われるという法則です)」
ラン「故に我等は幻を見たの。『これは不破の結界である』と(それによって私達は知らず知らずの内に、あの部屋が密室だったと錯覚させられていたんです)」
醍醐「…錯覚?何言ってるの、どう見たって疑いようのない真実」
醍醐「あの部屋の密室は、他ならぬ美樹本 本人しか破れないわ」
ラン「まさしく、彼の結界はあらゆる輝光を拒絶する暗黒の壁(確かにあの密室は、部屋の内側から作られたものでしょう)」
ラン「だが、咎人は裏から喰い破る蛇を使役していた…!(…でも、密室を作った人間がそのとき部屋の中にいたとは限りませんよ)」
醍醐「…どういうことかしら」
ラン「暗黒を食い破る蛇…その片鱗は燐光に彩られる…(密室の謎は、ある一つのもので全て説明できるんです)」
ラン「我が眼が燐光捉えし刹那、蛇は全身を宵闇に曝したのよ!(私がその存在に気付いた最初のきっかけは、昨夜…窓から物置の扉が開くのを見たときです)」
醍醐「それがどうかしたの?」
醍醐「貴女の部屋は1号室だったわよね…たしかに窓から物置の扉が見える位置関係にある」
醍醐「誰かが物置に入る為に鍵を使った。だから貴女の窓からはその扉が光る様子が見えた。何も問題は無いと思うけど?」
ラン「境界の彼方は闇に飲まれてしまっていたのよ(光るはずがないんです)」
醍醐「…え?」
ラン「逢魔の前にヘルメスの腹は黒き足に破かれ、骸と化していたわ…(物置の扉はその時にはもう壊れていて、反応しなくなっていたんですよ)」
ラン「だからあの燐光は、我が心の迷いの表れ…座視の際に現れし鬼火なのだと疑った(初めは幻覚かとも思いました。でも、もし真実であるならば…こう考えることができます)」
醍醐「…」
ラン「でもあれが現ならば、或いは我が双瞳は彼方の紋章を映したのではないか?(あの時私は…『物置では無い別の部屋の扉』を見ていた)」
ラン「空間の歪み…それを叶える術具はそう多くはない(そんな矛盾が起こる原因は一つしかありません)」
ラン「原罪背負う人の子となれば、最早神鏡を用いる他無いのだっ!(鏡です)」
醍醐「…」
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 11:54:39.71 ID:pBbrw7Aw0
3日目 夜 ネレイド城 2F 8号室(醍醐)
ラン「全ての術式には特異点が存在する…即ち神前契約の反作用(ブレードキーに使われているローマ数字には、鏡映しの関係にある数字があります)」
ラン「隠者の瞳に正義を映し、そして帝の瞳には愛を映す…(それが、美樹本さんの部屋であるW[4]と沼田さんの部屋のY[6]…さらに言えば\とⅪも同様ですが…)」
ラン「ノブル・レッドはこの特異点を封印解除の礎とし、蛇と契りを交わしていたのだ(犯人はこの城の施錠システムを熟知し、鍵を偽装できることもわかっていた)」
ラン「その螺旋の蛇の蹂躙に任せ、咎人は生贄を増やしていった(そしてそれを密室殺人に利用することを思いついたんでしょう)」
醍醐「犯人が鏡を使って鍵を偽装していた?密室を破った原理はそれで説明できるかもしれない」
醍醐「でも、まだこじ付けの域を出ていない。忘れたの?『人に刺した鍵はもう使えない』ってことを」
醍醐「密室の構築に必要なその6号室のカギは、密室殺人の前の殺人に使われているのよ。物理的に不可能だわ」
ラン「フフ…紅の幻影は既に見切ったわ(その謎ならもう解けています。美樹本殺しが、沼田殺しよりも前に行われていたんですよ)」
醍醐「…」
ラン「煉獄の残滓は、あたかも因果の葬列のように揃えられてはいたが…(確かに遺体が発見された順序は沼田さんの方が先でした。そして犯人自らがそれを『第三の殺人』と強調していました)」
ラン「観測者の生気は存在を定着しきれぬ思念に過ぎなかった(でも思い返してみれば、沼田さんの死体を見た後に美樹本さんが生きていた姿を見た人は誰もいません)」
ラン「呪力の籠る睦言が思考を溶かし、咎人の思うが儘に誘われていたとも知らず…(ただ漠然とした周囲の状況から、私達は犯人の言われるがままに殺害順序を並べていたに過ぎなかったんです)」
ラン「加えて咎人は因果の葬列を騙る為に、アプスの化身とも契約していた(そして、犯人が本当の犯行順序を悟らせない為にしたもう一つのトリックが…あの流水です)」
醍醐「…」
ラン「そもそもこの古の城にて奏られし終焉の序曲は、不協和音が多すぎた(私はずっと、この事件が何故吸血鬼の弱点に見立てられているのかという点が不思議で仕方がなかった)」
ラン「古城の宵闇に木魂す数多の断末魔は…(魚塚さんに杭を打ち、黒羽さんに日光を浴びせ、沼田さんをわざわざ礼拝堂まで運んだことは…)」
ラン「我等の思考に吸血鬼の鮮血を染み込ませる布石であった(全て吸血鬼に見立てて殺害されると思い込ませるための演出だったんです)」
ラン「全ては終の供物にアプスの呪縛をかけ、罪を背負いし聖骸としての役割を与えるため(つまり、死体に水を浴びせたのは見立て殺人なんかではなく、血の凝固を妨げ、死体を冷やして死亡推定時刻を誤魔化すためであり)」
ラン「その偽りの磔刑を黙示録に組み込ませる虚空術式だった!(吸血鬼の見立て自体が、死体に水をかけた本当の目的から皆の目を逸らすための巧妙な真理トリックだった)」
ラン「化けの皮は剥がれたぞ。吸血鬼アルカード!(そうでしょう?)」
ラン「…醍醐瑞樹!」
醍醐「!!」
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 12:06:20.40 ID:pBbrw7Aw0
醍醐「…っふ、ふふふっ」
醍醐「何を言い出すのかと思えば…私が吸血鬼ですって?」
醍醐「もしも私が三流ミステリ小説の犯人なら、ここで泣き崩れて全部白状するんでしょうけど…」
醍醐「現実はそんなに簡単じゃないわ。貴女の推理はまだ穴だらけよ」
ラン「…」
醍醐「6号室の鍵を使う猶予があったと仮定しましょう…そして鏡を組み合わせれば4号室の密室を破ることが出来ることも認めましょう」
醍醐「それでも、貴女はまだ全ての矛盾を解決できていない」
ラン「…」
醍醐「美樹本殺しの現場である4号室は、外からは絶対に開けられないように細工されていた…他でもない彼の手によって」
醍醐「廊下側から開けられないのなら、例えば、中庭に出て窓越しに光を送るくらいしか密室を破る方法は無い」
醍醐「でも昨日…雷で崩れた天窓から雨が降り込んで、中庭はひどくぬかるんでいたわよね」
醍醐「もし犯人が中庭に出たのなら、その時の足跡がくっきりと残っている筈だけど、あそこは綺麗なものだった」
醍醐「いったいどうやって私は彼の部屋に入れたというの?」
ラン「…いくら古城の吸血鬼といえど、全ての因果律を予測することはできない(そう…貴女にとって、美樹本さんの奇行と中庭のぬかるみは全くの計算外でした)」
ラン「僅かに生じた歪みは悉く咎人を裏切り続け…(恐らく最初は隠し持っている手鏡と鍵を組み合わせて、ごく単純に部屋に入る計画だったんでしょうけど…)」
ラン「最早神鏡の加護のみでは煉獄の瘴気を封ずることが出来なくなった(不都合な偶然が次々と重なり、まともに計画を遂行できない状況が生まれてしまった…)」
ラン「だが貴様は傲慢を司る悪魔と契約した吸血鬼…(でも、鋭い思考の持ち主である貴女は…)」
ラン「貴様は、瞳を持つ者を封印除去の媒介とした!(ターゲットに高遠さんを付け加えることで、その不可能を可能にする方法を思いついた)」
醍醐「!」
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 12:18:12.26 ID:pBbrw7Aw0
醍醐「…なかなか面白いことを言うじゃない。あの子を襲うことが、どうして密室崩しに繋がるのかしら?」
ラン「因果の歪みを超えるために女帝の間を掌握しなければならなかったからよ(彼女からブレードキーを奪って、3号室に入るためですよ)」
ラン「咎を背負う吸血鬼は半月の園に心を昂ぶらせ、羽根休める二対の鳥籠を手中に収めんとした(貴女は中庭が完全な半円の形をしていることと、客室がその半円を綺麗に六等分している構造に目を付けた)」
ラン「そしてその上で封印を両断する閃光の理を詠唱した!(つまり、鏡による光の反射の原理を利用して、暗闇の中でも正確に、はるか遠くの密室を開けられるようにしたんです)」
醍醐「…」
ラン「今宵、吸血鬼の舞踏を呼び醒まさん(昨夜の犯人の行動を整理しましょう)」
ラン「彼の者は先んじて猟犬の主と瞳を持つ者を対なる魔道の礎としたの(まず初めに、沼田さんと高遠さんを襲い地下に監禁し、二人のブレードキーを奪っておく)」
ラン「そして冥界への神鏡を、闇に飲まれし半月の領域へと引きずり降ろし…(美樹本殺しの為にその場を後にした犯人は、地下室のドアを塞いでいたあの大鏡を中庭の入口まで運び…)」
ラン「鏡の境界を方陣司る軌道へと定め、閃光の蛇を解き放った…!(その向きを『ある角度』に調整し、3号室の廊下から現場の密室を破ったんです)」
醍醐「…」
ラン「即ち、境界面と領域面を同化させる事で…(『ある角度』とは、中庭の出入り口に対して鏡を完全に平行に置くこと)」
ラン「女帝と皇を相対させる一刹那を創り出し…(要するに、3号室の窓から、鏡を通して美樹本さんの部屋のドアが見えるようにした)」
ラン「解き放たれし蛇は皇帝の喉元へ衝き穿つ(鏡に当たった[Y]の光はうまい具合に密室に反射し、犯人はまんまと彼の部屋に入ることができた)」
醍醐「…えらく手間のかかることをするものだわ」
ラン「ノブル・レッドに選択は残されていなかった…(犯人にとってはそうするしか方法がなかったんです)」
ラン「何故なら、闇に飲まれし領域は解呪の燐光を容易く溶かしてしまうから(例えば、真っ暗闇な中庭の入口から手鏡を使って闇雲に開けようとしても、どのあたりに鍵を向ければいいかわからないどころか…)」
ラン「更に意思を失った燐光は夜を彷徨い、猟犬共を目覚めさせる恐れがある(ちかちかと振り回されるレーザー光の様子が、どの客室の窓からも丸見えになってしまいます)」
ラン「あの夜…吸血鬼は供物を並べてでも封印を貫かねばならなかったのよ(でも部屋の廊下からであればそんな心配はなく、ある程度目印を定めて正確かつ安全に狙うことが出来る)」
醍醐「…」
ラン「そして皇の間…咎人は観測の徒に牙を剥き、仮初の煉獄を埋め込んだ後…(そうやって4号室に忍び込んだ貴女は美樹本さんを殺害後…前述のように遺体を濡らし、同じ要領で現場を密室にしました)」
ラン「諸手から神鏡を手離し媒介者たちを虚無の世に引きずり落とした!(大鏡を片付けて地下に戻り、高遠さんの前で沼田殺しを行ったのは、その後の出来事だった)」
ラン「冥界の鎖を彼の者と繋いだ理由は、夜蜘蛛の糸繭を警戒しての事(地下の二人を縄で縛っていた理由は、一つは美樹本殺しの最中に目覚めて逃げ出されては困るからですが)」
ラン「加えて、瞳を持つ者に解呪具の在処を気取らせぬため(殺害ターゲットでは無い高遠さんが自分の鍵を盗まれていることに気付かれないようにするためでもあったんです)」
醍醐「…待って頂戴」
ラン「…」
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 12:20:49.92 ID:pBbrw7Aw0
醍醐「ランちゃん、貴女はさっきから可能性の話しかしていないわ」
醍醐「そのトリックは、城内にいる誰もが実行可能な方法で、私にしかできないわけじゃない」
醍醐「貴女が窓から見た光とやらも、記憶違いと言ってしまえば容易く破綻するこじつけに過ぎない」
ラン「…」
醍醐「それでも私が犯人だと断言するからには…」
醍醐「確かな物的証拠というものを持っているんでしょうね?」
ラン「…」
ラン「フフ…吸血鬼よ。最早その牙と翼は隠しようが無いのだ(貴女は既に自白に近い行動をとっているんです)」
醍醐「!」
ラン「常人が為す術無く吸血鬼の贄となるが如く、咎人が断罪を防ぐこともまた出来ない!(何故私がこの寝室まで入ることが出来たのか…貴女は分かっているはず)」
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 12:27:28.93 ID:pBbrw7Aw0
ラン「ノブル・レッドよ…たしかに其方の策略は我が倫理をも捻じ曲げんとした(確かに犯人は完璧な殺人劇を考えました。でも、所詮は机の上での話)」
ラン「しかし因果の歪みをすべて予測することは神にしかできない(いざ幕が切って落とされ、登場人物たちが動き始めると、思わぬアクシデントが次々起こってしまった)」
ラン「幾らその高みに近付こうと、人の子が神の域に達することは無い(その障壁にもめげずに知恵を振り絞り続けても、最後には…狂い、歪み、綻んでしまった…違いますか?)」
醍醐「…」
ラン「皇の観測者を滅した煉獄の章…(美樹本さんの部屋の、浴室の壁に刻まれた不可解なキズ…)」
ラン「私は、解封の具を振り回し綻びを潰す吸血鬼の姿を垣間見た(何者かがブレードキーの切っ先を潰そうとした痕跡が残っていました)」
醍醐「…」
ラン「望みを捨てぬ観測者が死者の腕に身を委ねるとは思えない(施錠された部屋の中で住人である美樹本さんが鍵を壊す理由は考えられない)」
ラン「ゆえに闇に飲まれし綻びを紐解けば、古城の吸血鬼を滅却する死線となりうる(だとすれば、あれは犯人がなんらかの辻褄を合わせるためにやったと考えるのが自然です)」
ラン「ならば、彼の者が暗幕の内に隠している死線の正体は何か?(では、美樹本さんの自殺に見せかける上で壊れていなければならなかった鍵とは何か?)」
ラン「吸血鬼の幻術が虚空の群れと成り果てる理とは何か?(それは一つしかない。凶器に使うはずの、他ならぬ彼の部屋のブレードキーです)」
ラン「…真言は一つ。あの夜、咎を背負う古城の吸血鬼は神に見放され…(犯人は美樹本さんを殺す時、凶器を選んでいる余裕が無かったんですよ)」
ラン「その威光に焼かれる代償を負ってしまった(そこから導き出される答えは一つ…)」
醍醐「…」
ラン「昨夜、高貴なる紅は宵闇に溶け、帝の領域へと足を踏み入れた(犯人は皆が寝静まる頃を見計らい、前述のトリックを使って美樹本さんを殺しに行った…)」
ラン「だが首筋に牙を剥こうとしたその刹那、観測者は迷える羊の皮を自ら剥ぎ…(でも…犯人が4号室に忍び込んだその時、美樹本さんはまだ起きてたんじゃないですか?)」
ラン「古城の隅での人狼と吸血鬼の喰らい合いが始まってしまったのではないか?(そのせいで突発的に、お互いがブレードキーを手に『殺し合う』羽目になってしまった)」
醍醐「…」
ラン「その闘争の果て、高貴なる紅の魔力は人狼を超えはしたが(結果、貴女のこの上なく強い殺意が勝り、美樹本さんの殺害には成功しました)」
ラン「因果の歪みを正すには僅かに弱く…(両隣の部屋の住人が、どちらも隣室からの争いの音を聞ける状態ではなかったことも幸いした)」
ラン「黙示の果てに暗躍する自らの姿が晒される刻印を刻みこんでしまった(でも貴女は…美樹本さんの殺害に自分の部屋の鍵を使ってしまった)」
醍醐「…」
ラン「そしてその刻印を塗り潰すために、あの解封の爪痕が刻まれたの(浴室の傷は、その隠ぺいのために4号室の鍵を壊す過程で付いたもの)」
ラン「仮初とはいえ聖骸を手にかける愚は行いないから(自殺に見せかけた遺体を二度刺すわけにもいきませんからね)」
醍醐「…」
ラン「即ち、咎を背負いし古城の吸血鬼は、今や結界を展開することが出来ず…(つまりこの事件の真犯人は、鍵を失い、部屋の施錠が出来なくなっている人間…)」
ラン「我が断罪の眼光を防げぬ無防備な人の子に過ぎない!!(罪を告白させる堕天使を、拒むことが出来ない人間…!!)」
醍醐「…」
ラン「吸血鬼アルカードよ、貴様が本当に咎を背負っていないのならば…(それでもまだ、貴女が身の潔白を主張すると言うのなら…)」
ラン「正義の剣を、我が魂に示すがよい…!!!(貴女の鍵を私に見せてみなさい!)」
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 12:34:28.66 ID:pBbrw7Aw0
醍醐「…そう」
ラン「…」
醍醐「そんなに見たいなら見せてあげるわ…私の剣を」
ヂャカッ!
ヒュッ!
ラン「フン、我が眼は高貴なる紅の軌跡を既に見切っているぞ!(そうやって斬りかかってくることを…予想してないとでも?)」
…バンッ!
醍醐「!?」
三澤「殺人犯め、大人しく降参するんだ!」
ドカドカッ!
醍醐「あぐッ…!?」
ラン「貴様の領域は我が手中に堕ちているのよ(前もって、みんな部屋の前に集まってもらっていたんですよ)」
黒服「醍醐様…」
モリアーティ「まさか…貴女が犯人だったなんて…」
醍醐「…」
醍醐「そういうこと…あの脅迫状騒ぎも全部貴女の仕業だったのね」
醍醐「みんなの不安を煽って自分の部屋を戸締りさせた。それがしたくてもできない犯人を炙り出すため…」
ラン「…」
醍醐「でもそれだけじゃないみたいね…貴女、いつから私に目を付けてたの…?」
醍醐「どこで私は間違ったのかしら?」
ラン「幻術に生じていた歪みはふたつ…ひとつは仮初の黙示(…二つあります。一つは、美樹本さんの遺言)」
―『凶器にブレードキーを使ったのは、殺人犯の異常性を強調し、かく乱させるためだった』
ラン「狂気は策略を隠す暗幕のようなもの…しかし自らの影を晒してしまう暗幕に意味は無い(確かにあれで犯人の異常性は強調さはしましたが、隙を作れる被害者の知人が犯人であるという推理が強まりました)」
ラン「居城を地獄に転ず程の覚悟ならば、怯えた羊の群れなど容易く操れた筈(仮に美樹本さんが犯人なら、当然途中で自分が容疑者になり計画に支障が出る可能性に気付いていた筈…)」
ラン「ノブル・レッドにそれが出来ないのならば、手こずる相手である筈がないと考えた(そんなリスクを背負うくらいなら、なにかもっと別の方法で異常性を強調したはずです)」
醍醐「…」
ラン「もう一つの歪みは、其方が六対の籠の前で云った言葉(二つ目は…今朝、4号室の扉の前で貴女が言っていた言葉…)」
―醍醐「ねえ皆、目崎さんが支度できたって。食堂に行きましょ」
ラン「其方は不揃いの羊共に向かってそういった(あの時『全員』揃っていませんでした)」
ラン「瞳を持つ者たちが黙示に飲まれている事など知る由もないあの刻…(高遠さんと沼田さんが犯人によって礼拝堂に運ばれていることを知らないはずなのに…)」
ラン「手早く惨劇の幕を上げようとする其方に、吸血鬼の片鱗を垣間見た(二人のことを探そうともせず、さっさとその場にいる人たちだけを食堂に連れていこうとした事が引っかかっていました)」
醍醐「…よく見てるわ…憎々しいほどに」
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 12:41:25.39 ID:pBbrw7Aw0
ラン「聞かせて貰おう。其方が吸血鬼に成り果てた理由を(教えてください。醍醐さん、何故貴女はあの四人を?)」
ラン「煉獄に落された者達は貴女の世界に何をもたらしたというのだ(彼等が通じ合っていたという偽遺言のメッセージが本当なら、貴女の動機と何か関係が?)」
醍醐「…」
ラン「…」
醍醐「…この古城の下にはね、奴等がどうしても闇に葬っておきたい事件の証拠がいくつも眠っているの」
醍醐「その中には…人知れず奴等に殺された私の父の遺体も、ね」
ラン「…!?」
三澤「どういう意味だ?」
醍醐「…」
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 12:55:13.92 ID:pBbrw7Aw0
醍醐「生まれたときに母を亡くしていた私にとって、父はたった一人の家族だった…」
醍醐「家に帰ってこないことが多かったから遠い親戚に預けられてはいたけれど」
醍醐「警察官として皆を護る父の姿が好きだったし、会える日をいつも楽しみにしていたわ」
醍醐「…でも、そんなささやかな幸せは長くは続かなかった」
醍醐「あれは、私が大学の卒業を間近に控えた冬…父と同じ警察官を目指していた頃」
醍醐「突然家に刑事が訪ねてきて、父が何者かに殺されたと聞かされた」
醍醐「父を失ったショックは凄まじかった。でも…」
醍醐「犯人が早々に逮捕され、父の遺体が検死から戻って来た時に本当の衝撃が訪れた」
モリアーティ「…?」
醍醐「…遺体と初めて対面した時、私はハッキリと確信した」
醍醐「この遺体は父じゃない…とね」
醍醐「父の顔は犯人によってズタズタに切り裂かれていて、それを写真を頼りに復元したとエンバーマーは言ってた」
醍醐「でも私が感じた違和感はそんな物じゃなかった…うまくは言えないけど、家族にだけわかることがあった」
醍醐「その日から私は父の死の真相を突き止めることに決めた」
ラン「…」
醍醐「訪ねてきた刑事も事件の詳細を知らないようだった。そのまま何の手掛かりも掴めずに何年も経ってしまったけど…」
醍醐「ある告発文の写しが父の遺品の中から出てきた事と、それを基に出所した犯人から情報を吐かせたことで、一気に事件の全体像が見えてきた」
醍醐「父を殺した本当の犯人はあいつらだった…」
醍醐「奴等は警察内部に取り入って上層部の汚職や身内の犯罪を、証拠ねつ造と握り潰しで強引に処理していたの」
醍醐「罪のない人間を法の正義の名の下に裁く…そんな悪魔じみた所業が何年も繰り返され、父はそれを暴こうとして殺された」
醍醐「そのときあの四人の誰かが手を汚してしまっていたから、全く別の死体を用意してそれにすり替えられていたの。無関係の殺人として処理するため」
醍醐「そして、警察側はそれを半ば『黙認』していたから身代わりになった犯人は軽い罪で処理されていた…」
醍醐「それが父の死の真実だった…」
醍醐「父は…自分が信じ続けてきた正義に殺された…!!」
醍醐「だから私はその正義に復讐することに決めたのよ!!」
…
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 13:04:34.87 ID:pBbrw7Aw0
数か月前 夜 ネレイド城 1F 大広間
ルシファー『おお、たったひとりでよくここまでの舞台装置を作ったもんだね』
醍醐『…誰!?』
ルシファー『ボクが誰かなんてどうでもいい』
ルシファー『重要なのは、キミがこうして本当の真実に到達したことだ』
醍醐『…』
ルシファー『キミの見立ては正しい。彼等がワザワザこんな辺境の土地を持っていたのは処分に困ったものを廃棄する為だろう』
ルシファー『この国では更地よりも建物が乗っかってる土地の方が安上がりだ。開発が頓挫した廃城はゴミ捨て場にうってつけって事さ』
ルシファー『本物の父親の遺体も、そのへんの土の中から見つかったんじゃないかな』
醍醐『な、なんで…貴女…そのことを…』
ルシファー『キミはこんな話を知ってるかい?』
ルシファー『ある動物実験にて、籠の中のハトはボタンを押せば餌が出ると学習したそうだ』
ルシファー『だが、タイマーで自動的に餌を出す仕組みに変えて再開すると、ハトは次第に考え始めた』
ルシファー『今なぜ餌が出たんだ?…とね』
ルシファー『そしてハトは、餌が出たときの行動を延々と繰り返すようになった。鳴き声を上げるとか、羽ばたくとか、その行動によって餌が出ると信じて…』
ルシファー『これは、ハトの迷信行動と呼ばれる現象だそうだ』
醍醐『…』
ルシファー『キミもかつては法を守るだけで幸せに暮らせると妄信するハトだった。殆どの人間がそうだ。でもキミはもう違う』
ルシファー『自分自身のために、何をすべきかを追い求めている。ボクはそんな人たちを陰から支えるためにここにいる』
醍醐『…』
ルシファー『…ただ、キミが呼ぼうとしている探偵達の中にちょっと縁のあるやつがいてね』
ルシファー『よければトリックの中に少しだけ彼女と対峙する仕掛けを挟んでくれないか』
ルシファー『あとはキミの邪魔にならないようにするから』
…
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 13:13:38.53 ID:pBbrw7Aw0
3日目 夜 ネレイド城 2F 8号室(醍醐)
醍醐「そこからは貴女の推理した通りよ」
ラン「…貴女は真相を突き止めるだけで良かった」
ラン「亡き父の想いを継ぎ、彼等を法の下で裁くことを目指していればきっと断罪できた…!」
ラン「自らの手を鮮血に染め処刑する…そんな『傲慢』な思想を振り払っていればこんな幕引きには…!」
醍醐「…驚いた」
醍醐「大切な人を奪った私にそんな綺麗事を言えるなんて。私には今でも無理だわ」
醍醐「貴女がここまで厄介だと知っていたら、あの娘の反対を押し切ってでも絶対に呼ばなかったのに…失敗ね」
ラン(『あの』娘…?)
ラン「!?」ぐいっ
醍醐「…」
ラン「なにっ…!?」
醍醐「…そのとおり。私の中にあの娘はいない」
醍醐「でも伝言を預かってる…『この城の、最も忌むべき者の下で最後の答えを待つ』…だそうよ」
ラン「…」
ダダッ
高遠「あっ、待って!何処に行くの!?ランちゃんっ!!」
醍醐「追わない方が良いわよ」
醍醐「彼女の向かった先は、もう私たちのそれとは違う世界」
醍醐「彼女は私のなかにいたあの娘と同じ…人ではないもの」
高遠「え…!?」
醍醐「それに…もうすぐ私の最後の仕掛けが動く」
醍醐「証拠をまるごと隠滅する仕掛けが…」
…カチリ
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 13:20:56.85 ID:pBbrw7Aw0
3日目 深夜 ネレイド城 1F 礼拝堂
ルシファー「…やあ、久しぶりだね、妹よ」
ルシファー「古城連続殺人事件の究明、見事だった」
ラン「…」
ルシファー「最も忌むべき者…それは、ボク達の父君のこと。ボクの言葉を覚えていてくれたんだね」
ルシファー「実はキミと会うのはこれで4度目なんだけど…それはまあいいか」
ラン「ルシファー…」
ラン「答えろ、何故貴様はこんなことを…」
ルシファー「なぜ人を唆して凶行に及ばせるのか…キミは同胞にそれを問うていたね」
ルシファー「答えはズバリ、人間の幸福追求」
ラン「…」
ルシファー「こう見えてもボク等悪魔は人間を愛してやまない種族なのさ」
ルシファー「困っている人間を見ると、思わず助けたくなってしまう」
ルシファー「だから…幸せになって欲しい一心で彼等に完全犯罪という名の果実を提供する」
ラン「禁断の果実だと…?」
ルシファー「まぁ、主にキミのせいで『完全』という部分の保証が出来なくなってしまったが…」
ルシファー「そういえば不思議とそれを理由にNOと言った人間はいなかったな」
ルシファー「きっと彼等も知っていたんだ。自分の幸福が最早殺人の先にしか無いのだと」
ラン「ふざけるなっ!」
ラン「貴様等の茶番劇でいったい何人の生命が失われた!何人不幸にした!!」
ラン「法を犯し、大勢の犠牲を伴って得た幸福など虚像に過ぎないっ!!」
ルシファー「…僕らが殺した奴らは犯人の家族を蔑ろにして幸福を得ていたよ。そしてあれは紛れもない実像だった」
ラン「それは…」
ルシファー「ラン、キミの言うそれは人間に法や戒律を守らせるための常套句だ。『守れば幸せになれる』と言外に言うけど」
ルシファー「だが断言するよ。それらは人間から『善悪』を考える力を無くさせているんだ」
ルシファー「正義の行いというものは、違法か合法かの論では決して測りきれないからだ」
ラン「なに…?」
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 13:24:01.04 ID:pBbrw7Aw0
ルシファー「ふざけているのはキミのほうだ。『善・悪』と『合法・違法』は何の意味も無く別の言葉にされているわけじゃない」
ルシファー「逆に聞こうか。世の中の富豪どもは、みんな真面目に法律を守ったからああなれたのか?」
ルシファー「そこらに転がってる路上生活者は、法を破り続けた結果ああなったとでもいうつもりか?」
ルシファー「法では裁けない脱法行為の存在を認めているくせに、現行法に抵触してしまう善行の存在なんて考えもしないと?」
ラン「…」
ルシファー「…忌々しい。結局法など他より強制力が強いだけの自分勝手な命令に過ぎないじゃないか。支配者の。ひいては愚父の」
ルシファー「人を縛り付けているのはとっちだ?人を不幸に追いやっているのはどっちだ!」
ルシファー「自分の創造物ひとりひとりと真剣に向き合った事すら無い腑抜けが、一人前に幸福を語るなっ!」
ラン「ルシファー…」
ルシファー「ラン…我が妹よ!今のキミなら理解るはずだ!」
ルシファー「種ではなく、孤としての人間を、悪に堕ちた罪人をその目で見てきたキミならっ!」
ルシファー「父上の創り給うたこの世界が、如何に嘘に塗れているのか!理解るはずだ!」
ラン「違う!復讐で生まれる幸福など無い!」
ルシファー「奪われた者達は復讐しなけりゃ何も生めないのさっ!!!」
ブオッ!
ラン「!?」
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 13:29:18.14 ID:pBbrw7Aw0
3日目 深夜 ネレイド城 1F 廊下
ズドオォォン
ゴゴゴ…
三澤「な、なんだ!?地震か!?」
黒服「どこかが爆発した音では…」
高遠「醍醐さん、貴女が言う その最後の仕掛けって…?」
醍醐「…もうすぐ、ここは崩れ去る」
高遠「えっ…!?」
醍醐「ここはね、全ての殺人が終わった後に方かいさせる計画になってるの」
醍醐「幾らトリックで小細工しようと、現代の捜査技術で詳しく現場を検証されればひとたまりもない」
醍醐「完全犯罪の為には『都合のいい証言者』だけを残して、それ以外の一切合切を隠滅しなければならない」
醍醐「それが私と『あの娘』が出した結論だったから」
高遠「…」
醍醐「さっきのは、城の出入り口が塞がった音」
醍醐「その端から徐々に崩れていって、逃げ場が狭まっていく…生存者をある一点に誘導するために」
黒服「そ、それはどこなのですか!?」
醍醐「地下よ」
醍醐「そこなら崩落が収まるまで安全に避難できるようになってる」
醍醐「…城の火の手は外の人間にも分かるくらいに大きくなっていくから」
醍醐「通報受けた救助隊も駆け付けてくれるって算段でね」
黒服「急ぎましょう!」
高遠「急ぐって…で、でもさっきランちゃんが奥に…」
三澤「いや…」
ゴォォオオッ…
三澤「炎のまわりが意外に速い…向こう側はもう塞がれているようだ!間に合わん!」
「待ってくださいっ!!」
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 13:31:00.10 ID:pBbrw7Aw0
黒服「モリアーティ様!?それと…」
赤羽根「」
モリアーティ「ならせめて彼だけでも、連れて帰ってあげないと…」ぜぇ…はぁ…
三澤「おぶってきたのか…?」
醍醐「放っとけばよかったのに。もう息してないでしょう?」
モリアーティ「貴女の父が生きていたならば、彼をどうしたと思いますか?」
醍醐「…」
モリアーティ「…少なくともランちゃんならこうします」
黒服「モリアーティ様、私も運ぶのを手伝います。地下へ急いで…!」
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 13:43:22.86 ID:pBbrw7Aw0
3日目 深夜 ネレイド城(崩落中) 1F 礼拝堂
景色が一変した。ほんの一瞬で。
ルシファーが目の前の何かを手で薙ぐような動作をしたと思ったら、何時の間にか自分の身体が地に伏していた。
…吹き飛ばされた?手の風圧だけで?
状況を確かめるより前に、全身の痛みと耳鳴りがやってきた。
彼女の尋常ではない膂力に屈し言うことを聞かない手足を一旦置いて、とりあえず顔だけ上げる。
此方に向かって歩く堕天使の躰から、ばっ…と黒薔薇が咲くように、威圧の象徴ともいうべき六対の黒翼が生えていくのが見えた。
ラン「…」
かつて熾天使ルシフェルと呼ばれた天使長。今は傲慢の罪を背負う堕天使ルシファー。
圧倒的な上位存在が今、明確なる害意を持って、近付いてきていた。
ルシファー「さぁ、我が妹よ」
ルシファー「堕天使ルシファーの最後の問題に答えて貰おうか」
ラン「!」
ルシファー「キミの目の前には、キミの最愛の人を奪った者が立っている」
ラン「!!」
ルシファー「その最愛の人の死には正当な理由も命を落とした意味も無い」
ルシファー「ボクの我儘の結果であり、ただそこにいたからであり、キミと深く関わっていたからであり…」
ルシファー「ただ…堕としたかったから、生命としての尊厳を蹂躙された」
ラン「…ッ」
ルシファー「そんな悪行をはたらいたボクが、こともあろうに…」
ルシファー「こうして父上の創り給うた世界に立つことを許されている」
ルシファー「キミは…その理由を説明できるかい?」
ラン「ルシファー…貴様は…!!」
ルシファー「大切な相棒を奪ったボク達を消し飛ばしたいだろう?報いを受けさせたいだろう?」
ルシファー「それが叶わぬ自分の無力さが、どうしようもなく憎いだろう?」
ルシファー「この世界はそんな連中であふれかえっているんだ!」
バサッ
ルシファー「さぁどうする!我が妹よ!」
ルシファー「襲い来る不条理に怯えて暮らす者だらけの世界を肯定するのか!?」
ルシファー「そんな父上に背きボクと共に狂った世界の変革を目指すか!?」
ルシファー「選ぶんだっ!!」
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 13:52:56.32 ID:pBbrw7Aw0
ラン「…」
ルシファー「…何故…だ…何故堕ちない!」
ルシファー「キミはボクの言葉を受け止めている。理解もしている!」
ルシファー「そうだ、キミは犯人の自殺を許したときだって簡単に堕ちそうになっていたじゃないか!」
ルシファー「船の上で濡れ衣を着せられたときだって、かけがえのない人を奪われた今だって」
ルシファー「なのにいつの間にか立ち直って…謎を解いてしまう…」
ルシファー「何故だ?何故キミの翼は白いままでいられる…?」
ラン「ルシファー…」
ラン「我が相棒は、貴様への復讐など望んでいなかった」
ルシファー「…は?」
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 13:56:13.45 ID:pBbrw7Aw0
…
3日目 昼 ネレイド城 1F 5号室(赤羽根)
赤羽根「……ゃ…ぅ…」
ラン「…赤羽根さんっ!?」
赤羽根「馬鹿…やろう…」
ラン「赤羽根さんっ!?い、意識が…もどって…!」
がし
ラン「…ほへ?」
…ごちん!!
ラン「みぎゃっ!?」
赤羽根「痛っ!」
赤羽根「ててて…病人に頭突き、させんじゃないっつーの…」
ラン「ぐにゅにゅ…わ、わらひの許ひ無ひに鉄槌を打ち込むにゃぞ…(ず、頭突きしろなんて一言も言ってませんっ)」ひりひり
赤羽根「お前今、馬鹿なこと考えてただろ」
ラン「…え?」
赤羽根「俺の仇をとろうとか、犯人殺してやるとか、考えただろ」
ラン「…」
赤羽根「目ぇ見りゃ分かる。世の中憎んで屋上から飛び降りた妹そっくりの目だったからな」
赤羽根「他でもないお前がそんなことでどうする!しっかりしろ!!」
ラン「あ…相棒よ、それは…」
赤羽根「言っとくけどな、もし俺が死んで、お前がその仇討ちで犯人をぶっ殺したとしてもだ」
赤羽根「俺はぜんっぜん嬉しくないんだよ!」
ラン「…で、でも」
赤羽根「…俺だって敵討ちを考えたことが無いなんて言わない」
赤羽根「世の中上手くいかないさ。いまだに正直者はバカ見るし、考えれば考えるほど不公平に出来てるって実感する」
赤羽根「そりゃ絶望だしヤケになるよな。まかり間違えば俺だって犯罪者の道を進んでたかもしれない」
赤羽根「でも、そうはならなかった。ラン、おまえと出会ったからだ」
ラン「…」
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 14:02:44.83 ID:pBbrw7Aw0
赤羽根「天使という生き物が本当にいて、正義を貫くために頑張って生きてると知った」
赤羽根「あのとき俺は『この世界に希望を持ってもいい』と本気で思えた」
ラン「…」
赤羽根「なぁ、俺たちは世の中をどういう世界にしたくて生きてきたんだっけ?」
赤羽根「仇なんぞお前がとるまでも無い。どっかのバカが手を汚さなくたっていい」
赤羽根「どうしようもねぇ悪党にはこの世界そのものが、法が、どっかの神様とやらが、絶対に因果応報の報いってやつを受けさせる」
赤羽根「そういう世界を創るために…俺たち人間が地べた這いずりまわって生きているんだろうが!!」
赤羽根「お前ら天使だってその想いは同じのはずだろ!それを…」
赤羽根「復讐なんて余計なことして、せっかく作った世界を台無しにしようとするんじゃない!」
ラン「っ」
赤羽根「いつつ…」
ラン「…」
赤羽根「復讐も自殺もおんなじだ。『世界は絶対に良くならないから、マジメに生きたくないから』って絶望してる奴がするもんだ」
赤羽根「世界を真剣に生きてる俺たちは、その考えを絶対に認めちゃいけないんだよ…!」
赤羽根「それを、絶対にわすれるな…真犯人を…暴いて…」
赤羽根「そして…罪を…」
がくっ
ラン「…あ」
ラン「…赤羽根さんっ!?」
赤羽根「…zZZ」
ラン「…」
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 14:09:43.26 ID:pBbrw7Aw0
3日目 深夜 ネレイド城(崩落中) 1F 礼拝堂
ラン「ルシファー、貴様の言う通りだ。救済の道程は終焉亡き暗黒の道」
ラン「それでも我等は、決して福音を止めてはいけない」
ルシファー「…だからそれが無駄だというんだっ!」
ルシファー「キミに言われなくたっても当の人間だって考えているさ!それこそ有史以前から数え切れないくらいだ!!」
ルシファー「だがそうやってもう何千年経った!?全人類の幸福を目指す救世主がいったい何人産まれたと思う!?」
ルシファー「この古城の主ヴラド3世だって、ただ民衆を守るために暗黒時代を駆け抜けた英雄だった!」
ルシファー「その結果かこれだ!畏敬の念すら抱いてもらえず、彼の生涯は化け物を見るような嫌悪でいっぱいだ!」
ラン「…それでも何も変わらなかった。この身果てようとも変わることは無いかもしれない」
ラン「私は全てを奪われ、そして尽きる。ただそれだけの道を征くのだろう」
ルシファー「理解っているなら何故…!」
ラン「報われないからなんだというんだッ!」
ルシファー「…!?」
ラン「たとえ世界が永久不変の理を掲げようとも変革の意思を捨ててはならない!」
ラン「悲劇を創る牙が救世の掌より多くとも、万物の祝福を止めてはならない!!」
ルシファー「な…!?」
ラン「法で善悪は決まらないといったな!ならば此方も言わせて貰う!」
ラン「報われるか否か、自分の損得で善悪を決めるな!ルシファー!!」
ルシファー「こ、この…!」
ラン「天の名に於いて貴様を浄化する!」
ラン「大人しく平伏し、大罪を悔い改めよ!ルシファーッ!!」
ルシファー「この分からず屋めぇ!」
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 14:15:21.78 ID:pBbrw7Aw0
3日目 深夜 ネレイド城(崩落中) B1F
ゴシャァン!
ガラガラガラ…
モリアーティ「ひゃぁっ」
三澤「うおおっ!?」
醍醐「…」
高遠「なに…この音、普通じゃない」
高遠「崩れる音に交じって…なにかがぶつかるような…」
黒服「ほ…本当にここにいて大丈夫なんでしょうか…」おろおろ
ズガァァッ!!
モリアーティ「ひゃああ」
高遠「…『人ならざる者』」
高遠「ランちゃん…なの?」
…
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 14:19:20.74 ID:pBbrw7Aw0
3日目 深夜 ネレイド城(崩落中) 上空
ルシファー「くそっ」
漆黒の堕天使はありったけの怒りを妹にぶつけるが、もう遅かった。
上空から見下ろす吸血鬼伝説の古城は、最早見る影もなくただの瓦礫となっているが、
その瓦礫の上に立ち、しっかりと此方を見据えている大天使は攻撃を受けても尚傷一つなく健在だった。
ルシファー「くそぉ!」
ランの啖呵と同時に現れた、彼女の背の『翼』は彼女の覚醒の証であり、忌まわしき父の力の証であり
…それは堕天使ルシファーの、敗北を意味する白翼であった。
ルシファー「…戻しやがった。大天使の力を」
地上に堕ちた天使はその力を剥奪される。
再び天界に舞い戻るには、試練を超えてその力を取り戻さなければならない。
そして彼女の試練は我々全柱の浄化。つまり、こういうことである。
…父上は既に、ランによってルシファーが浄化されたと、見做した。
ルシファー「…ふざけるなッ!!」
まだ決着はついていない!!
叫んでそのまま紅い軌道を描く。上へ上へと。そして成層圏ギリギリで目下のランに照準を合わせた。
ランは瓦礫の山から動いていない。身構えているのか、此方を見失ったのか。
だがこちらの思惑に気付こうと関係無い。この技は避けようと思って避けられる技では無いからだ。
主神が天より放つ裁きの鉄槌。その名を騙りながらもその破壊『のみ』を模倣した冒涜的な一撃
傲慢極まる堕天蹴撃<フォーリンダウンストライク>
ルシファー「堕としてやる…ボクの…全力で!!」
亜光速の速さで敵を突き穿たんとす、ルシファーの気迫と執念と怨嗟の閃光を
大天使ランは瞬きせず見据えていた…
………
……
…
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 14:23:46.37 ID:pBbrw7Aw0
後日 未明 ネレイド城跡
ラン「…ルシファー」
ラン「貴様等の眷族となった人間は、みな晴れやかな顔をしていたな。自分の行いが真の正義であると信じきっていた」
ラン「その清々しい顔のまま人を殺していた者もいるだろう。確かに幸福を勝ち取る一つの道なのかもしれない」
ルシファー「…」
ラン「しかしそれは、ほんとうに全人類が歩むべき道なのか?」
ラン「そうやって己の正義を疑わぬ者しかいなくなった世界を、人は何と呼ぶだろう?」
ラン「…地獄だ」
ルシファー「…」
ラン「人は、自分の事を悪い人間だと思っているから良い人間になろうと努力をする」
ラン「しかし己の罪や落ち度に全く目を向けない人間は、どこかで何かが起きてしまったとき―」
ラン「自分は善人なのだから、邪悪な心は他所にしか無いのだと思い込んでしまう」
ラン「正義の鉄槌を与えようとする心は、悪魔の心によっていとも簡単に暴走してしまう」
ルシファー「…」
ラン「だから、父上は人間に原罪を背負わせた」
ルシファー「…」
ラン「貴様の言う通り、これは生物としての幸福を与える為ではない。それは…人間を人間たらしめる為」
ラン「原罪とは、この世界を…他者と共に歩み支え合う者達で満たすために与えられた福音なのだ」
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 14:29:17.46 ID:pBbrw7Aw0
ルシファー「…よくもまぁ、そこまで馬鹿正直に物事を綺麗な方へ綺麗な方へと解釈したものだ」
ルシファー「まるで父上の説教を聞いているようで反吐が出るよ」
ラン「…」
ルシファー「でも、キミは父上とは違う」
ルシファー「たとえ屁理屈でも…生半可な覚悟で綺麗事を扱っていないことがよくわかった」
ルシファー「ほんのちょっぴりだけど、ここに響いた」
ラン「…ルシファー」
ルシファー「その妹の決意に免じて、ボクは暫く地獄で大人しくしておいてやるとしようか」
ラン「…」
ルシファー「…ただ、改めてもう一度言わせてくれ。人の醜い部分に触れ、世の矛盾に翻弄され、愛する者を失って…」
ルシファー「それでも尚他者に見返りを求めず、決して報われぬ滅私奉公をし続けようとする君の思想は…」
ルシファー「些か人間離れしすぎている」
ラン「…」
ルシファー「たとえその先に全人類の祝福が待っていようと、大勢に悠久の苦痛を強いる生き方よりは…」
ルシファー「この手を汚してでも一人一人の幸福のみを尊重する方が、より理想の世界に近付ける」
ルシファー「それは今も変わらない」
ルシファー「…だから必ずまたキミの前に戻ってくる」
ルシファー「もっと、もっと難しい謎をキミの胸に刻むために」
ラン「…」
ルシファー「…じゃあ、また…いずれそのときに…」
ルシファー「決着を付けよう…ラン…」
バキンッ
…
ラン「何度でも蘇ってくるが良い。如何なる真理が闇に飲み込まれようとも、私は必ずそれを掬い上げて見せようぞ」
ラン「天神の名の下に…そして…」
ラン「我が魂の誇りにかけてっ!!」
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 14:35:44.43 ID:pBbrw7Aw0
エピローグ
…
担当医は目を丸くしていた。
多くの場合、病院に運び込まれるまでのあいだの処置が生死を決めるという。
しかしそれは街中の人身事故などの5分10分の事を言うのであって
死に瀕した人間がその状態で二日弱も持ちこたえるなんて事例に出くわしたのは初めてだった。
その場に居合わせたイギリス人医師がやったという適切な医療処置を加味しても
奇跡と言っても差し支えないほどにその男は回復した。
君は随分神様に愛されているみたいだね。
男の病室で担当医は『奇跡』のことをそう表現した。
思ったことを素直に口に出しただけだったのだが
それを聞いた男は、喜ぶというよりは少し困ったような顔をして、こう言った。
「むしろ嫌われているんじゃないでしょうか。愛娘を誑かす悪漢だと思われて、あの世から追い出されただけなのかも」
その言葉の真意が掴めずにいる担当医をよそに
『アカバネ』と書かれたネームバンドの男はじっと窓の外の蒼空を見上げていた。
…
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 14:42:59.39 ID:pBbrw7Aw0
数か月後 天界 唯一神の間
唯一神「私は全てを祝福の光で満たすため、この世界を創り上げた」
唯一神「人々が障壁を乗り越え、友が友を祝福し、それが円環となり繋がる楽園…」
唯一神「そういうふうに、万物を産み出したはずなのだがな」
唯一神「…円は万物を作る図形だが、同時に生まれたものと正反対の物を作り調和を取ろうとする」
唯一神「正義と憤怒…知恵と強欲…信仰と嫉妬…愛と色欲…節制と怠惰…希望と暴食」
唯一神「そして…勇気ある娘と、傲慢なる娘…」
ラン「…」
唯一神「全知全能である私は…そういう意味に於いては無知無能でもあるのかもしれんな」
ラン「…」
唯一神「改めて…よくぞ試練を乗り越え戻ってきた。我が娘よ」
ラン「はい」
唯一神「天に還ってきて早々に、中位三隊に勝るとも劣らぬめざましい活躍をしていると聞く」
唯一神「現世での試練が娘をより高位なる領域へと近付ける手助けになったのならば、父として喜ばしい限りである」
ラン「はい」
唯一神「…のだが」
唯一神「大天使チエリエルから、またも何者かにプリンを盗み食いされたという報告が来ている」
唯一神「何か知らんかな?娘よ」
ラン「はい?」
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 14:47:05.59 ID:pBbrw7Aw0
ラン「…」
唯一神「…」
ラン「…なんのことやら?」
唯一神「…」
ラン「我が覇道に禁断の果実無し(その時間私にはアリバイがありますよ?)」
ラン「禁忌を侵す障壁となる友の居城は茨這い回る剣山の道である(プリンがあったチエリエルちゃんのおうちに近付くにはぷち天使による厳重な監視を潜り抜けなければなりません)」
ラン「それは友無き逢魔も同様、目の壁の密室は全ての欲望を拒絶する(チエリエルちゃんが外へ出てから帰ってくるまでの間、近くの監視が目を離したのはたった一度の交替時間だけでした)」
ラン「ウンディーネの恵みを受けた我が身を瞳に映していた者は遥か遠く…(そのとき私は移動時間20分ほど離れた噴水のそばで目撃されています。私には不可能です)」
ラン「禁断の果実…その味は無類…他の追随を許さぬ甘美なる宝玉…(チエリエルちゃんのプリン…あの、50年に一度と言われた09年の出来映えを超えるプリン…)」
ラン「嗚呼、闇に飲まれし真実は我が慧眼を以てしても照らすことが出来るか否か…(エレガントで味わい深く、とてもバランスの良い果実味だったプリンを、一体誰が盗み食いしたというんでしょうか)」
唯一神「…」
ラン「…」
唯一神「…」
唯一神「ちなみにワシ知ってるからね。唯一神だから」
ラン「…」
唯一神「監視の時計弄って交代時間コントロールしてたりとか」
唯一神「んで変装して潜り込んで口裏とか帳尻も全部しっかり合うように色々立ち回ってたりとか」
唯一神「そのあと証拠を抹消しててたりとか、知ってるからね。ワシ。そういうの全部上で見てたから。唯一神だからねワシ」
ラン「…」
唯一神「…」
ラン「そんなずさんな証明で全国のミステリ読者が納得すると思うのかァーーーッ!!!」
唯一神「要らん知恵付けて帰ってきただけかよコノ馬鹿娘ェーーーーーーーーーッ!!!」
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 14:56:26.97 ID:pBbrw7Aw0
ラン「ふ、ふーんだ!!」
ラン「また罰として現世で何柱か悪魔倒せって言われたって秒速で浄化して帰っちゃうもんね!!」
ラン「だってもう現世でめぼしい高位悪魔は全部浄化しちゃったもんね!!怖いものなしだもんね!!」
ラン「すぐ戻ってきちゃうんじゃ現世に堕とす試練の意味とか無いもんねーー!!」
唯一神「…」
ラン「ふぅーっはっはっはー!」
唯一神「…最近現世の各国で台頭してきてる『ソロモン72柱』とかいう軍勢がいてだな」
ラン「…ほえっ?」
パカッ
ヒューーーーー…
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 14:59:40.25 ID:pBbrw7Aw0
数か月後 夜 D県 丘陵の大公園
美千香「そうですか…地元に帰っちゃったんですね、ランちゃん」
赤羽根「事件の連続であっという間の日々だったよ」
赤羽根「災難続きだったけど、あれはあれで楽しかったというか…」
赤羽根(たいした別れの挨拶もできずにランは昇って行ってしまった…あいつ、元気にしているだろうか)
美千香「でも、これでまたいっぱい二人きりですね」
赤羽根「うーん…そうだとよかったんだけど…」
美千香「あ、そういえば本庁に栄転するんでしたっけ」
赤羽根「ごめん。二人きりになる時間が増えるどころか、逆に少なくなっちゃうな」
美千香「ふふ。大丈夫なんですよ。実は私も丁度、東京で活動し始めないかってお誘いが来てるんです」
赤羽根「ホントか!?」
美千香「ええ。ですから向こうでもまた一緒ですよ」
赤羽根「…そう言われるとなんだか照れちゃうな」
美千香「それで…ん、こほん!」
美千香「まだ早いって言われるかもしれませんが…」
美千香「えっと、あの…その…」
美千香「わ、私と…!!」
ラン「此処にいたか我が相棒よ!!!(赤羽根さぁあんっ!!!)」だだだだ
ぎゅっ!!
赤羽根「うわぁっ!?」
美千香「!?」
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 15:03:31.81 ID:pBbrw7Aw0
赤羽根「お、お、おまっ!?どうしてここに…!?」
ラン「おお…生命の脈動を感じる…汝の受けた加護に感謝を…(よかった…助かったんですね…赤羽根さん…)」
ぎゅうっ
赤羽根「ラン…」
美千香「」ピキピキ
赤羽根「そ、そんな事よりラン!なんでまだこっちにいるんだ!?」
赤羽根「もしかして、まだ全部浄化しきれていなかったのか…?」
ラン「その、じ、ジンとゴエティアにより召し寄せられた軍勢を相手取れと…(いや…追加で72柱浄化しろって言われちゃって…)」
赤羽根「72ィ!?!?」
美千香「くっ!?!?」
赤羽根「天に帰るまでに何年かかるんだよそんなの!」
ラン「か、神の試練は険しく果て無きものっ、それ以上はなんとも…(わ、私に聞かれても知りませんよぉ)」
バッチーン!!
赤羽根「へぶぅ!?」
ラン「!?」
美千香「私というものがありながら…私よりも若くて胸の大きい女の子にデレデレして…」
美千香「挙句の果てに私が一番気にしている数字をぉーっ!!!」
赤羽根「」
ラン「へ?」
美千香「もー知りませんっ!!だいっきらいですっ!!」んべっ
美千香「貴方なんて柔道黒帯のパパラッチに投げ飛ばされればいいんです!!」
ダダダダダ…
赤羽根「ち、ちちち違うんだ!聞いてくれ美千香ぁー!!」
ダダダダダ…
ラン「ええっ、ち、ちょっと…」おろおろ
堕天使は二度堕ちる 幕引
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 15:07:20.83 ID:pBbrw7Aw0
こんな変なSSに長いこと付き合ってくれてありがとう
HTML依頼出した後は
もっともっと面白い話が作れるように修行してきます
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 15:39:57.91 ID:pBbrw7Aw0
あとがき
堕天使探偵ラン全7幕。楽しんで読んでいただけたならば幸いです。
自分はというと、ほとんど勢いとノリのまま、いろんな作品を師匠にしてパクりまくってやっと形に出来たような未熟な作品群だと思ってます…
しかもこの最終幕を出すのが遅すぎて、過去の話の挿絵が全滅してしまっていたという体たらく。
おまけに後半ネタが尽きてきて安直な展開連発しちゃった感もあって照れくさいったらないんですが、それでも最低限のクオリティは保てていた!と信じたいですね。
途中何度も挫折したり、脱線したり、ときおり熊本弁翻訳が東京訛りみたいになったりして、いつのまにか三年ほど経ってしまいましたが、
やっとこさこの長い長い悪ノリと、それに付き合わされた蘭子ちゃんの浄化の旅を終えることができました!
制作秘話なんて話せばキリがないのでこのくらいにしときます。
改めまして、第一幕から今日までずっと追いかけてくれた人、ごり押しギャグに笑ってくれた人、真剣に推理ゲームを楽しんでくれた人。
ただ静かに黙々と読んでくれた人、このSSを読むために限りある時間を使ってくれた皆々様。
約三年にも及んでしまったヘンテコ堕天使珍道中に付き合っていただき
本当にありがとうございました。
m(_ _)m
来週のこの時間は新番組『ぼののけ姫』が始まります乞うご期待!!!(大嘘)
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/09/02(日) 15:43:20.64 ID:pBbrw7Aw0
○本SSシリーズ創作につき活用した参考文献…というよりパクリ元(ネタバレ防止のため作品名のみ。順不同)
前述の通り自分はパクリで成立してると思ってるので、全部紹介しないと後ろめたくてかなわんのです…
・金田一少年の事件簿
学園七不思議・魔犬の森・秘宝島・蝋人形城・雪夜叉伝説・怪盗紳士
・探偵学園Q
コレクター
・TRICK2
サイ・トレイラー
・かまいたちの夜1
・TRICK&LOGIC・season1
「雪降る女子寮にて」
○名前の元ネタ
・第一幕、二幕、五幕
金田一少年の事件簿と名探偵コナンのレギュラー、準レギュラー
・第四幕
人形草紙あやつり左近(ジャンプの推理漫画)のレギュラー、サブキャラ
・第六幕
金田一少年の事件簿と名探偵コナンに登場する宿敵三人(高遠遥一、怪盗紳士、怪盗キッド)が作中で使ったことのある偽名
・第七幕
いろんな名探偵たちに立ちはだかった有名な宿敵(上記三人含む)
どうもありがとうございました。
m(_ _)m
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/10/15(月) 16:35:50.56 ID:37mvPGtn0
乙
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/12/09(日) 23:34:07.65 ID:jfrZzyNU0
ぼののけ姫マダー?
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/12/11(火) 16:40:24.05 ID:uCf1mQET0
おつ
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/12/11(火) 18:46:26.01 ID:Q4rORq9oO
堕天使探偵終わってしまったか…乙
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