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海未「『ひとりぼっち』の、君となら」
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149 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:10:45.43 ID:L0ciGIt40
海未「はぁ〜…疲れましたぁ〜…」ゴロン
海未は草の絨毯の上に寝転んでいる。
海未「…それにしても真姫はとんでもないところに住んでいたんですね。というか周りに何も無いではありませんか。食べ物などはどうしていたんでしょうか…」
花陽「ん〜っと…食べてなかったみたいだよ?飲み物は飲んでたみたいだけどね。私だったら、ずっと何も食べないなんて無理だよぅ」
木々の生い茂る森の中心部。
いや、中心部なのか分からなくなるほどに、ぐにゃぐにゃと複雑な進路の先にあった真姫の家に、海未たちは来ていた。
森の中に、急にこんな棒状の巨大な建物が現れたら、驚きを禁じ得ないだろう。隣には蔵のような建物もある。
海未「…それで、いつになったら中に入れるんですかね?」
花陽「真姫ちゃんが部屋を片付けるって言ってたから、しょうがないと思います…」
海未(…何故ここで友達の家に遊びに来た感が生きているのでしょうか…)
パタン
まき「遅くなってごめんね〜。もう入って大丈夫だよ!」
そんなことを考えていると、真姫がそう言って窓から手招きをしたので、海未と花陽は家に入る。
玄関を開けると、そこはまるで原寸大になったドールハウスのような空間だった。
部屋中を本棚が囲い、その中はびっしりと古書で埋め尽くされている。
まき「わたしはそっちの蔵の中を探してみるから、二人はこっちを探してね。疲れたら休んでてもいいよ!」
そう言うと真姫は、持っていた二つの鍵を鳴らしながら先程の玄関からトコトコと出て行った。
花陽「じゃあ、とりあえず座ろう?」
二人は部屋の中心にあるテーブルについた。
150 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:11:18.83 ID:L0ciGIt40
海未「ところで花陽」
花陽「はい?」
海未「そもそもあなたは…何故真姫と出会ったのですか?」
花陽「…は、はい」
花陽「ちょっと長くなるけど、話すね」
海未「…お願いします」
花陽「私の能力は他人の考えてることを読み取れる能力」
花陽「だから、どこに行っても虐げられたりしてきたんです」
花陽「ずっと一緒だったお兄ちゃんも、私が川で溺れたときに私を助けて、そのまま行方不明になっちゃったから、分かってくれる人がいなくなっちゃったんだ」
海未「…」
花陽「その後は孤児院をたらい回しにされちゃって…その時に希ちゃんや凛ちゃんと同じ部屋になって、追い出されないように三人で色々考えてみたんだけど、虐げられることに変わりはなかった」
花陽「そんな時に私たちを引き取ってくれたのが、ことりお姉ちゃんのお母さん。そこで、お姉ちゃんにも出会った」
花陽「そしたら、毎日がすごく楽しくなって。外で遊んでたら、いつの間にか森の中に迷いこんじゃってたんだ」エヘヘ
海未(遊んでいるだけで迷い込むものなのでしょうか?)
花陽「そんな時に、能力が暴発しちゃって。そしたら、声が聞こえてきたの」
花陽「『お願い。誰か、誰か助けてよ』」
花陽「『寂しいよ』って」
151 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:12:02.84 ID:L0ciGIt40
花陽「声のする方向に走っていくと、この家があって、ベランダに真姫ちゃんが居た」
花陽「それが、真姫ちゃんとの出会い」
花陽「そして、『今の』メカクシ団ができる時にアジトに真姫ちゃんを連れてきた。こんな感じだよ」
海未「…ん?」
海未「『今の』とはどういうことですか?前身があったという事に捉えられますが…」
花陽「あ、まだ誰も話してないんだ。もともとメカクシ団はことりお姉ちゃんが、私たちを楽しませるために『秘密組織ごっこ』として始めたものだったんだ」
花陽「その後、お姉ちゃんがいなくなっちゃって、私たちが家を出て行ったとき、今の団長の希ちゃんがその名前を気に入ってたから、そのまま使い始めたって感じかなぁ」
海未「…だから、ことりは赤いマフラーを夏でもつけていたんですね」
152 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:12:56.31 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 08:45]
まき「…怪しいよね?」
海未「…怪しいですね」
花陽「…怪しいね」
テーブルの上には、長方形の古びた木箱が置かれている。
海未(真姫が蔵の中から見つけて来たこれは、側面に鍵穴がついており、真姫が持っている鍵のもう一つと一致する形をしていました)
まき「…じゃあ、開けるよ」
海未「…はい」
真姫は鍵を鍵穴に差し込み、ゆっくりと回す。
カチャッ
すると、小気味のいい音が部屋中に響いた。
何が入っているかは全く解らないため、蓋を慎重に開けていく。
海未「…!」
中には、深い紺色の辞典のようなものが入っていた。
海未はそれを取り出し、テーブルの上に置く。
RPGなどに出てくる魔法書のような風体のそれは、ものすごい威圧感を放っていた。
153 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:13:54.02 ID:L0ciGIt40
海未「何年ほど前から使われているのでしょうか…」
まき「…少し曖昧だけど、百回くらい夏を数えたから、百年以上前からだと…」
海未「…ひゃ、百年!!?」
花陽「ピャア!」
海未「…すみません、驚いてしまって…」
海未「…それを信じるとすれば、百年以上の間、何をしていたんですか?だいたいご両親とかは…」
海未がそう言うと、真姫はビクッと肩を震わせ、膝の上で拳を握りしめた。
海未(何か聞いてはいけない事だったのでしょうか…)
海未「…も、もし尋ねてはいけないことだったのであれば…「いいの」
まき「海未ちゃんは初代団長さんを助けようと頑張ってるって、希ちゃんから聞いたの。だから何か役に立つと思うから、話すね」
花陽「…無理して話さなくてもいいんだよ?」
まき「大丈夫。わたしは海未ちゃんの助けになりたいの」
花陽「…うん」
154 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:14:23.59 ID:L0ciGIt40
まき「…ちっちゃい頃お父さんが死んじゃって、その後はお母さんと二人だった」
まき「でもわたしが言いつけを破って外に出ちゃったときに、そこに怖い人たちがいて、多分お母さんを連れて行っちゃったの」
海未「…そ、それってどういう…」
まき「えっと、お父さんは違うんだけど、わたしもお母さんも生まれたときから目が真っ赤で、お母さんは『私たちは絵本の中に出てくるメドゥーサなんだよ』って言ってた」
まき「『外の人は自分たちと違う私たちを怖がるから』って。だからお母さんは外に出ちゃダメって言ってたのに、わたし…」
海未「…」
花陽「…」
部屋がシンと静まり返る。
海未(ん…?)
海未(メドゥーサというのはギリシャ神話の蛇の怪物…。蛇と言えばあの伝承…)
海未(伝承の中身はニコと一緒にだいたい調べてあります)
海未(そして、真姫の母親が『いなくなった』と言う話)
海未(昨日の希の話を思い出します。もう少し詳しく聞きたいですね)
海未「…真姫のお母様がいなくなったのは何月頃でしたか?」
まき「う〜ん…。確か暑かった気がするなぁ…」
海未(やはり!)
155 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:15:01.02 ID:L0ciGIt40
――――――――――
『私の三人の義妹…東條希・小泉花陽・星空凛は、『8月15日に』それぞれ姉、兄、母と一緒に死亡し、得体の知れない世界に飲み込まれ、その後生き返って帰ってきた』
――――――――――
156 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:16:45.52 ID:L0ciGIt40
海未(真姫の母親も、夏に得体の知れない世界に飲み込まれている!)
海未(これなら真姫が『生き返って帰ってきた』ことになって、真姫が能力を持っている理由が証明できます)
海未(…しかし、それでは真姫の母親の目が赤いことが証明出来ません)
海未(…他にも聞いてみましょう)
海未「真姫とお母様は生まれた時から能力を持っていた、と考えていいんですか?」
まき「え?うん、そうだよ。ちっちゃい頃からお母さんに『使っちゃダメだよ』って言われてたけど」
海未(真姫と真姫の母親だけ、生まれた時から能力を持っている?希の話で能力の生まれ方には見当がついてきたというのに…)
海未「お母様がいるなら、お祖父様とお祖母様もいるはずです。何か知りませんか?」
まき「わたしは会ったことないよ。おじいちゃんは普通の人間だったから、おばあちゃんより早く死んじゃって、おばあちゃんは悲しんでどこかに行っちゃったんだって」
まき「その時のことは、お母さんも小さかったから、あんまり覚えてなかったみたい」
海未(祖母も何処かに行ってしまった…?自主的なものであるという事は、飲み込まれた訳ではない…?)
まき「それに、その本は日記みたいだよ。お母さんが毎日つけてたの。もともとおばあちゃんのものって言ってた」
海未「…!」
海未は目の前の深い紺色の『日記』を見た。
海未(…これを見れば、全てが解るという事ですか…?)
花陽「これって真姫ちゃんのみたいなものなんだし、先に真姫ちゃんが目を通した方がいいと思うんだけど…」
まき「別にいいよ。わたしは、皆の『辛いこと』がちょっとでも良くなるかも知れないなら、大丈夫」
海未「…解りました。では、拝見させて頂きます」
二人が海未の周りに集まる。
海未は、ゆっくりとその表紙を開いた。
157 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:17:29.19 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 9:23]
第十二話「シニガミレコード」
END
158 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:17:58.52 ID:L0ciGIt40
第十三話「エリの世界事情」
[054170 AD 2200 08/15 12:15]
159 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:19:08.05 ID:L0ciGIt40
〜東京:公園〜
まき「やっぱり、そうなっちゃうよね…」
海未、花陽、まきの三人は、天気がいい大都会、東京に戻ってきていた。
先程昼食を摂り、今は公園近くのベンチで『日記』の内容を論議している。
海未「真姫には悪いです。『自分のお祖母様が原因で皆に迷惑がかかっている』ということになってしまいますからね」
花陽「で、でもここまで正確に書かれてたら、信じるしかないよ」
海未「『日記』の内容は、大まかにまとめましょう」
海未「真姫の祖母は、世界が生まれる前から概念として存在していたが、ある日、自分が何者なのかを考えたことにより、身体と蛇の能力を手に入れることができました」
海未「彼女は自分のことを知るため旅に出た。しかし『化け物』として虐げられてしまう。彼女は、人間を嫌うようになります」
海未「そして、蛇の能力を使って『この世で一番人に注目されないような場所』を探し当て、そこに一人で居続けようとしたが、そこに真姫の祖父が現れます」
海未「彼女は、彼に『一人で家を作れ』という無理難題を課して追い払おうとしたが、彼は本当に家を作り始めました」
海未「家の建設の最中、なかなか帰ってこない彼を心配したりもし、彼女は彼に好意を抱き始めます」
海未「そして家の完成後、彼は彼女にプロポーズをし、二人はめでたく結ばれました」
海未「…ここまではいいんです」
海未「『能力』について書かれているここからが本題ですよね」
海未「ではもう一度、私たちが把握している能力のことについて話し合いましょう」
160 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:20:01.42 ID:L0ciGIt40
花陽「まず、『目を隠す』。対象への認識を薄くする、希ちゃんの能力だね」
まき「『目を盗む』は、相手の思考、記憶を読み取る花陽ちゃんの能力」
海未「『目を欺く』は、生物に見た目だけ変化する、『目を奪う』は対象の注目を集める能力。それぞれ凛、穂乃果のものです」
海未(能力については、伝承の説明と全く一致しましたね)
花陽「真姫ちゃんの『目を合わせる』を抜けば、今のところ分かってるのは四人だけど、海未ちゃんはまだいると思ってるんでしょ?」
海未「少なくともニコはそうです。詳細が語られなかった『目が覚める』か『目が醒める』のどちらかでしょう」
海未「そして、ニコの話を聞くには、穂乃果の担任であることりのお母様が、一連の事件の原因となっている能力者だと思われますね」
海未「あと、ニコはことりのお母様が『覚める』や『醒める』と言っていたところを聞いている…」
海未「ということはこの二つの能力はことりのお母様の実験に使われた能力だと推測できます」
海未「こういうことが出来る『目が冴える』は相当に手強いですね」
まき「『目が冴える』…その能力だけ明らかに他と違うもんね」
海未「他にも能力の定着には時間が必要だという趣旨の内容もありましたね。花陽はどうだったんですか?」
花陽「う、うん。私も能力を使えるようになったのが六歳くらいの時で、十五歳になったら急に操れるようになったよ」
海未「結果をまとめれば、『目が冴える蛇』が真姫のお祖母様を唆し、十の能力を使わせて『得体の知れない世界』を創らせた、ということになります」
海未(『得体の知れない世界』は、『目が冴える蛇』の言葉を信用すると、一生死なずにループし続ける、『終わらないセカイ』であると考えられますね)
海未(『終わらないセカイ』の手掛かりも、やっとありました)
海未(要するに、『「終わらないセカイ」を終わらせろ』ということは『ループを止めろ』という事ですか)
海未(このまま突き詰めれば、『夢』の外に帰れるかもしれません…)
花陽「ん〜…」
まき「どうしたの?」
花陽「なんか…『得体の知れない世界』だと呼びにくくないかな?」
海未「そうですね…」
うみぱなまき「う〜〜〜ん」
海未(8月15日に飲み込まれる、得体の知れない世界…)
海未(…!)
海未「……イズ」
161 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:20:57.49 ID:L0ciGIt40
まき「?」
花陽「何か思いついた?」
海未「…『カゲロウデイズ』というのはどうでしょうか」
花陽「…カゲロウ?」
まき「…デイズ?」
海未(あの世界の特性を鑑みれば、終わらない二日間を描いたあの曲にぴったりです)
海未「『カゲロウ』は現れてはすぐ消えるという意味でですね。『デイズ』には二つの意味があって、眩むという意味のdazeと、dayの複数形であるdaysをかけたものです」
まきぱな「お、おお〜」パチパチ
「あ、いたいた。海未ちゃ〜ん」
海未「?」
誰かに呼ばれ、後ろを振り向く海未。
後ろには希と穂乃果が立っていた。
海未「…希ですか。携帯は買えましたか?」
希「まぁちょっと混んでたけど買えたよ。な、穂乃果ちゃん」
穂乃果「う、うん。でも…」
まき「…どうして凛ちゃんがいないの?」
162 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:21:36.65 ID:L0ciGIt40
花陽「確かにそうだね…」
希「いや、レジの辺りまでは居たんだけど急にいなくなっちゃって、連絡もつかなかったから、とりあえず集合場所に来たんや」
海未「そうですか。後で探さなければいけませんね。しかし、相変わらずニコはいませんし…」
ピーポーピーポー
海未「ん?救急車ですか?」
希「大通りの方からやね」
穂乃果「見に行ってみる?」
海未「気になりますし、行ってみましょうよ」
163 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:22:28.97 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 12:32]
〜大通り〜
海未「何ですかね…」
見てみると、自分たちより少し下、中学生くらいの女の子が倒れている。
周りには人だかりができているため、誰なのかは判別できない。
人と人の間から、その中心にいる、自分より少し年上に見える少女の姿が見える。
海未「…!?」
その姿には見覚えがあった。
ブロンドの髪と、日本人離れした顔立ちは、着ている服こそ違えど、
まさしく絵里だった。
海未「…え?何で…絵里が?」
少女は駆け付けた救急隊員によって担架に乗せられ、そのまま救急車に運ばれる。
絵里らしき人物もそこに乗り込むと、救急車の後部扉が閉まり、絵里らしき人物の姿は見えなくなった。
海未「…くっ」
海未「あの救急車を追いかけます!ついてきてください!」
花陽「えぇっ!?急にどうしたんですかぁ!?」
海未「走りますよ!」ダッ
希「…まぁ、とにかくついていった方がええね!」
穂乃果「…あの人、どっかで見たことある気が…」ウーム
まき「えぇ〜っ!走るのぉ!?」
五人は、救急車を追って大通りを駆けていく。
164 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:23:28.81 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 13:21]
〜病院:診察室前〜
病院は大通りに面しており交通量が多いため、車のエンジン音が病院の中にまで聞こえてくる。
海未「本当に何も覚えていないのですか?」
海未「…絵里」
海未は、病院の診察室の前で待っていた絵里らしき人物と、会話を交わしている。
他のメカクシ団メンバーはロビーでダウン中だ。
エリ「…多分、いろいろ勘違いさせちゃってると思うチカ」
海未(…やっぱり変です)
海未(絵里はもっとこう…キリっとしているはずですが…)
海未(簡単に言えば、アホっぽいです)
海未(何故か語尾に『チカ』と付いていますし…)
エリ「どうしたチカ?」ズイッ
海未「!?」
海未(ちょ!顔が近いです!)
エリ「熱でもあるチカ?」
エリが自分の額を海未の額に当てようとする。
海未(えええええ!?)
165 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:24:34.60 ID:L0ciGIt40
その時。
ガシャン!
今にも額同士が触れそうな瞬間、エリが抱きかかえていた少女が運ばれた診察室から、大きな物音が聞こえた。
エリ「チカッ!?」
海未「!?」グイ
海未はエリを押しのけ、慌てて診察室の扉を開ける。
するとそこには、先程の少女が床に倒れ込んでいた。
海未「…!?」
海未「あなたは…ゆ、雪穂…!?」
倒れ込んでいる雪穂は四つん這いの姿勢から立ち上がろうとするも、立ち上がれないようだった。
海未「とにかく寝ておいた方がいいですよ!ほら!」
海未は雪穂に手を差し伸べるが、雪穂は怯えるように手を振り払う。
『夢』の中で初めて真っ向から見る雪穂の顔は、大量の涙で濡れていた。
海未(これは…)
海未(黒目が赤く染まりかけています…)
雪穂「誰…!?邪魔…しないでッ…!」
166 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:25:06.37 ID:L0ciGIt40
海未(まさか…『カゲロウデイズ』に…?)
雪穂は一度ふらつくも、その後しっかり自立し部屋の出口に向かって歩き出した。
海未「待って下さい!話だけでも…」
雪穂「亜里沙…亜里沙のところに行かなきゃ…」
海未「…亜里沙」
海未(この口ぶり、そして今の時刻…)
『8月15日の午後十二時半くらいのこと』
海未(亜里沙は『カゲロウデイズ』に飲み込まれた?)
そう考え込んでいるうちに、雪穂は部屋を出て少ししたところでエリと対面していた。
海未はそれに気付いて雪穂を追いかける。
雪穂「あんたのせいだ…あんたさえいなければ…」
エリ「…」
エリは言葉を返せずにいる。
雪穂「もういい。私が行く…行かなくちゃ…!」ダッ
そう言った瞬間、雪穂は休日で無人の病院の廊下内を駆け出した。
海未「あっ!待って下さい!」
エリ「雪穂、私のせいで怒ってるチカ…ついてきてくれない?」
海未「…は、はい。いいですよ。…でも追いつけるんですか?」
167 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:26:19.74 ID:L0ciGIt40
海未(雪穂はかなりの速度で走っている…あのまま走れば病院の敷地内を抜け出してしまうでしょう)
海未(…それに雪穂は『カゲロウデイズ』に接触したとみられます。そうなると能力を持っているはず。何の能力か分からない以上危険です。捕まえるしかない)
エリ「ごめんチカ。ちょっと痛いかもしれないけど…」グイ
海未「…う、うわああああ!」
エリは、海未を赤ん坊のように軽々と持ち上げ、肩に担ぐように乗せる。
エリ「いくチカ」
そうエリが呟いた瞬間、爆音と衝撃と共に、ものすごい勢いで廊下の風景が流れ出した。
海未「ぎゃあああああ!!!」
エリが足を踏み込み、その勢いで何十メートルもひとっ飛びしているのだと気づくのにおよそ二秒。
エリ「ご、ごめん。もうちょっと我慢するチカ」
エリは軽々と着地し、もう一度足を踏み込む。すると、今度は地面が一気に遠のいていく。
それは、上への大ジャンプだったのだ。
海未「……!!!」
海未は声も出せないまま、蝉の声が五月蝿く、蒸し暑い屋外へ飛び出した。
先程飛び出した窓が、既に小さくなり始めている。
エリ「あっ、みつけたチカ」
エリはそう呟くと、海未への衝撃に備えてくれたのか、担ぐような姿勢から脇の下に抱え込むような姿勢に切り替えた。
海未「…ッッッ!!!」
海未はギュッと目を瞑る。
ダンッ!!!
海未とエリは病院の前の横断歩道に降り立った。
しかし雪穂は全速力で、青信号が点滅する横断歩道を渡っていく。
エリ「あ、行っちゃったチカァ…」
すぐに信号は変わってしまい、信号無視して渡ろうにも、交通量の多さが邪魔をして渡れない。
168 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:27:00.96 ID:L0ciGIt40
エリ「ど、どうしよう…」アタフタ
海未「…ちょっと…降ろしてくださいぃぃ…」
エリの腕の中では、海未がグロッキー状態になっていた。
エリ「あ!ご、ごめんなさい!」バッ
海未「あ、はい…いいんですよ…」
海未はフラフラしながら立ち上がる。
ふとエリの目を見ると、その目は赤く染まっていた。
海未(やはりエリも能力者…名前からして『凝らす』の可能性は低いので、『覚める』か『醒める』のどちらかでしょうね)
「お〜い!」
すると、後ろから声が聞こえ、海未は振り返る。
希「海未ちゃ〜ん!」
海未「あぁ、希たちですね」
希たち四人が病院の入り口から、海未の元に歩いてきた。
海未(そうですね…希たちが居れば…)
希「…あれ?その人はどちらさま?」
海未「エリ、という名前らしいです。さっき倒れていた女の子の知人で、記憶がないんです」
エリ「よろしくお願いするチカ」
169 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:27:53.85 ID:L0ciGIt40
希「へぇ、記憶喪失…」
穂乃果「…やっぱりこの人、どっかで見たことある気がする…」
海未「どうやら、さっき倒れていた女の子は能力者のようです。先程見失ってしまったので、みんなで探そうと思いまして」
花陽「の、能力者…?だったら、捕まえないと大変だね」
まき「手分けして探すのがいいと思うよ?」
海未「そうですね。じゃあ、私、真姫、花陽と、穂乃果、希、エリの二チームに分けましょうか」
希「いい考えやね!」
海未「それでは、捜索を開始しましょう!」
170 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:28:35.31 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 13:27]
第十三話「エリの世界事情」
END
171 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:29:04.87 ID:L0ciGIt40
第十四話「夜咄ディセイブ」
[054170 AD 2200 08/15 16:49]
172 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:29:43.12 ID:L0ciGIt40
〜住宅街〜
海未「はぁ…とんだ失態です…」
海未(まさか探している最中に、真姫と花陽からはぐれてしまうとは…)
海未(スマホの充電は…)
『2%』
海未(…電話は無理ですね…。アジトで充電しておけば…)
すると、知人の後ろ姿が目に入った。
オレンジ色の髪と、小さな体躯。
海未「凛!」
凛「!?」ピクッ
海未「何故ここにいるんですか?」
凛「…海未ちゃん」ニコニコ
振り返った凛の顔は、『夢』の外での笑顔とそっくりだった。
しかし、何処か違和感がある。
海未(能力を使っているのでしょうか…)
凛「…知りたいなら付いてくるにゃ」
そう呟くと、凛は一人でどんどん進んで行く。
海未「あっ!待って下さい!」
173 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:30:50.02 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:06]
〜音ノ木坂学院〜
海未「こんな隠し階段があったんですね…」
海未と凛は、互いに一言も会話を交わさないまま住宅街を歩き、今は音ノ木坂学院内の隠し階段を降りている。
凛「…ここにゃ」
階段を降り終わると凛が照明を付けた。
すると目の前には、水槽の中で薬品漬けにされたにこの身体があった。
『やっと…戻れる…』
海未「…ニコ!?」
凛「ここにいるよ」
凛がスマホを見せると、ニコの姿が映し出されていた。
ニコはただ、呆然と自分の抜け殻を見つめている。
凛「戻るのには多少時間がかかる…その間に凛の昔話をするから」
海未「…はい」
174 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:31:47.30 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:06]
〜音ノ木坂学院〜
海未「こんな隠し階段があったんですね…」
海未と凛は、互いに一言も会話を交わさないまま住宅街を歩き、今は音ノ木坂学院内の隠し階段を降りている。
凛「…ここにゃ」
階段を降り終わると凛が照明を付けた。
すると目の前には、水槽の中で薬品漬けにされたにこの身体があった。
『やっと…戻れる…』
海未「…ニコ!?」
凛「ここにいるよ」
凛がスマホを見せると、ニコの姿が映し出されていた。
ニコはただ、呆然と自分の抜け殻を見つめている。
凛「戻るのには多少時間がかかる…その間に凛の昔話をするから」
海未「…はい」
175 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:32:33.31 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2199 05/15 17:21]
〜公園〜
凛はことりに『相談したいことがあるから公園にいて』と言われ、ブランコに座って考え事をしていた。
凛「一体何の話なのか…気になるにゃ」
凛「姉ちゃんは勉強のこととか、そういうことで相談してくるような人じゃない。まさか…」
凛「…恋愛、とか」
凛「いやいやそんなわけないよ!特撮ヒーローとか少年漫画しか見ないのにそんな少女漫画みたいな!」
凛「…そういえば」
凛「結構前に『いい友達ができた』って言ってたにゃ」
凛(去年はその『友達』と音ノ木坂学院の学園祭にも行ってたはず。尚且つ同じクラスになったらしい…)
凛「…そいつかにゃ?」
凛「もし姉ちゃんに手を出した日には…」
ことり「遅くなっちゃった!」
凛「!?」ビクッ
ことりは威勢のいい声と共に現れ、凛の座っていたブランコの右のもう一つに腰掛けた。
176 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:33:28.75 ID:L0ciGIt40
ことり「…?どうしたの?」
凛「いやいや、なんでもないにゃなんでも!」アタフタ
ことり「…?それより、いきなり呼び出しちゃってごめんね?」
凛「いいよいいよ。いきなりなんていつもの事だよ。で、話ってなんにゃ?」
ことり「あ、うん。えっと…」
凛「ど、どうしたの?」
ことり「いや、ちょっと言いにくいことでね。何から話そうかな〜って」アハハ
凛「…そんなに重い話?」
凛(凛がそわそわし出すと、姉ちゃんは決心がついたのか、口を開いた)
ことり「…いや、ね。お父さんの…死んじゃった理由、なんだけど」
凛「え?」
ことり「お父さんさ、土砂崩れに巻き込まれたって話だったでしょ?」
凛「うん。…その日、凛たちも行く予定だったよね」
ことり「私が熱を出したから…私たちは死ななくて済んだ」
凛「う、うん。…皮肉だけど、そうだよ。それと、何で凛たちもついていかなきゃいけなかったの?」
ことり「説明するためには、これを見た方が分かりやすいと思う」ガサゴソ
ことりはそう言って、学生鞄の中から大きな茶封筒を取り出した。
177 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:33:54.33 ID:L0ciGIt40
「伝承についての調査記録書」と書かれたそれは、随分色々な所に持ち歩かれたのか、よれよれになっている。
ことり「これ読んでもらう前に、ちょっとお話ししてもいい?」
ことりは、凛の目を覗き込みながら言う。
その目には覚悟を決めたような強い意志が感じられた。
凛「もちろん、何だって聞くにゃ!」
ことり「…ありがと。それじゃあ本題に入るね」
ことり「覚えてる?ちっちゃい頃皆で『秘密組織ごっこ』して遊んだこと」
凛「…『メカクシ団』のこと?」
ことり「そう。皆の『目の力』は私たち四人の秘密だったよね」
凛「なんでそんな昔の話するの?姉ちゃんの相談事と関係あるのかにゃ?」
ことり「…うん」
ことりは大きく深呼吸をし、再びゆっくりと語りだした。
ことり「お父さんね、『目の力』のこと、最初っから全部知ってたの。三人を『蛇の力』から助けるために、あの孤児院から引き取ったの」
凛「…う、嘘」
凛「必死で隠したのに…この家からは追い出されないようにって…!」
ことり「とにかく、この封筒の中身を読んで。花陽が言ってた『赤くて長い髪の女の子』らしきことも書いてあるの。ここ…」
178 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:34:35.40 ID:L0ciGIt40
――――――――――
[054170 AD 2199 07/09 17:28]
〜公園〜
ことり「…やっぱり、お母さんに取り憑いた『冴える蛇』、お母さんの願い事を叶えようとしてるみたい。『お父さんにもう一度会いたい』って願い事」
凛「そ、そんなことできるの?」
ことり「『こっちの世界』に『化け物』を創ればできるんだって。そしたら、『向こうの世界』の人に会える…!」
凛「そ、それ最高にゃ!凛たちも手伝お「ダメッ!!」
凛「…え?なんで…」
ことり「…『化け物』を創るためには、命の代わりになってる蛇を最低でも五匹、集めなくちゃいけない」
ことり「しかも五匹だけだと願いが暴走して、完全に制御できない。九匹でもダメ。だから…だから…お父さんを取り戻すには…必ず十匹分の蛇が必要なの…」
凛「…!」
凛「…じゃあお父さんを取り戻そうとすると…」
凛「凛たちが、死ぬってこと…?」
ことり「そう…!お父さんだったら、私たちの大好きなお父さんだったら、絶対にそんなことは望まない…!」
――――――――――
179 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:35:45.91 ID:L0ciGIt40
――――――――――
[054170 AD 2199 08/14 17:15]
〜公園〜
凛「姉ちゃんの先輩って…にこさんと絵里さん?」
ことり「そう、あの蛇、二人に向こうにいる残りの蛇を取り憑かせようとしてる。多分、あの世界に飲み込ませるんだと思う」
凛「それって人を殺すことになるにゃ!いくらなんでもそんなことしたら…」
ことり「…無理なの」
ことり「あの蛇はもう、お母さんの身体でたくさん悪いことをしてるの。病院も、警察も、学校も…他もみんな、あの蛇に協力してる」
凛「…そ、そんな…」
ことり「ねぇ、凛。私、あの蛇と話してみる。もう、それしかないから…」
凛「え…!?そんな…話なんて出来っこないよ!簡単に人を殺すような奴なんだから!」
ことり「そうかなぁ?逆に拍子抜けしておしゃべりしてくれるかも」
凛「ふざけないでよ!姉ちゃんまでいなくなったら凛たちは…凛たちはどうすればいいの!?」
ことり「大丈夫!平気だって!私は皆とず〜っと一緒に居るつもりだよ?」
ことり「だから、世界を嫌いにならないで?きっと、幸せになれるから」ニコッ
凛「…!」
――――――――――
180 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:36:31.64 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2199 08/15 18:24]
〜音ノ木坂学院:屋上〜
夕焼けの屋上には、親子が立っていた。
母の目は夕焼けのように、赤く染まっている。
娘の赤いマフラーは、屋上の強い風になびいていた。
ことり「…あなたは間違ってる!」
ことり母「…随分酷い言い様じゃない。私は願いを叶えようとしてるのよ?」
ことり「違う!」
ことり「お母さんは、皆が死ぬことなんて望まない!にこさんも、絵里さんも、家族の皆も、殺そうとしたりなんかしない!」
ことり母「確かにそうね。私の宿主はそんなこと望んではいないわ」
ことり母「しかし貴方たち人間にはつくづく呆れる。まぁ、それがいいところなんだけどね」
ことり母「…相応の願いには相応の犠牲が伴う。貴方たちだって口ではよく言うじゃない」
ことり母「私は願いを叶える能力よ?宿主の願いがあるから、能力である私は存在できる」
ことり母「私は自分が消えさえしなければ、他の事はどうでもいい」
181 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:37:48.02 ID:L0ciGIt40
「人の心も」
「命も」
「理想も」
ことり母「願いの前では等しく無価値なの。解る?」
ことり「…ッ!」ギリッ
ことり「…狂ってる…!」
ことり母「…!」
ことり母「それは光栄なことねぇ。そして貴方はどうするつもりなの?」
ことり母「まさか『誰も殺さないでください』でどうにかなるなんて思っていないわよね?」
ことり母「いくら貴方が馬鹿とは言っても、それじゃあまりにも、愚図ってものね」
ことり「…作戦ならあるよ?」
ことり母「…?」
ことり「…『こっちの世界』に全部の蛇が集まらなかったら、お母さんの願いは叶わないんでしょ?」
ことり母「…まぁそういうことになるわね」
ことり母「死んだ命を生き返らせるには、全ての蛇を司る『化け物』が必要不可欠よ」
ことり「…だったらさ」
ことり母「…?」
ことり「もしも私が蛇の能力の一つを手に入れて…」
「『向こうの世界』から戻ってこなかったらどうなるの?」
ことり母「…!」
ことりは後ろ歩きで屋上の柵の方まで移動していく。
心配になり、ずっと聞き耳を立てていた凛は、たまらず屋上のドアを開け放った。
バンッ!
凛「姉ちゃん!ダメにゃ!」
182 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:38:28.45 ID:L0ciGIt40
夕風が屋上の端に立つことりの髪とマフラーを棚引かせている。
辺り一面の橙に包まれたその姿は儚く、今にも消えてしまいそうに思えた。
ことり「凛…なんで…!」
凛「変な事言わないでよ!…ずっと一緒だって言ってくれたでしょ!」
ことり母「馬鹿なことはやめなさい?そんなことをしたらどうなるか…」
ことり「もう成功しないって分かった作戦なら、続ける意味は無い」
ことり「にこさんも、絵里さんも、家族の皆も、殺す意味なんて無くなるよね?」
ことりはフェンスの上に座り、空へ手を伸ばす。
すると、何も無い空間から沢山の蛇が現れた。
183 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:40:08.08 ID:L0ciGIt40
ことり「…死んだ人を引き込むんだよね、これ」
凛「やめてよ!姉ちゃん!」
ことり「ごめん、凛。やっぱりお姉ちゃん、カッコ悪いね。ちょっとだけ…」
怖いや。
(姉ちゃんは、そう言って、涙を零しながら、)
(落ちた)
(沢山の蛇が姉ちゃんの落ちて行った先に喰らいついていった)
凛「…あ、あぁ…」
凛「ああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!」
184 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:40:38.18 ID:L0ciGIt40
凛は、泣き叫びながら膝から崩れ落ちる。
ことり母「…はぁ、まさかこんなことになるとはね…。つくづく、貴方たちには呆れてものも言えないわ」
凛「…殺してやる…ッ!」
凛は立ち上がって、襟に掴みかかる。
凛「殺してやる殺してやる殺してやるッ!」グイッ
ことり母「貴方も分かってるでしょ?貴方の母親を生かしてあげてるのも私よ?だったら殺すも何も無いじゃない」
ことり母「…とはいえ、あの子のおかげで計画は失敗だわ。こっちに全ての蛇を集められなくなった以上、宿主の夫は連れ戻せないわね」
凛「だったらもう何もしないでよ!お母さんだけでも返してよ!」
ことり母「…やっぱり馬鹿ね」
ことり母「失敗したならやり直せばいいのよ、最初から」
185 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:41:20.44 ID:L0ciGIt40
凛「…え?」
ことり母「…そうねぇ」
ことり母「貴方、あの子の死体のフリでもしてたらどう?そういうの得意でしょ?」
凛「何言ってるの…」
ことり母「勘違いしないでね?貴方も、貴方の家族も、生かしてあげてるのは私なの」
ことり母「自分の家族が惨たらしく殺されるのが見たい?見たくないわよね?」
凛「う…あ…」
ことり母「貴方の能力はそこそこ使える。いう通りにしてれば悪いようにはしないわ」
ことり母「いい?貴方が何をしようと、運命は変わらないわ。家族そろって早死にしたくなければ、気を付けなさい」
凛「…あ、あぁ……」
ことり母「貴方たちは私の掌の上で生きてるのよ?忘れないで」
186 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:42:47.20 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:11]
〜音ノ木坂学院:地下〜
二人は薄暗い研究施設の廊下で座って話していた。
海未「…そんなことが…」
海未「…絶対に許せません。自分の利益のためだけに、誰かの大切な人を殺すなんて」
凛「…今、奴はこの建物内にいる。奴の下僕になってた時に聞いたよ」
海未「じゃあ、このまま奴を倒すことも出来るという事ですか…」
凛「そういうことにゃ」
凛「今は、協力してくれるみんながいる。知ってることは全部話すよ」ニコッ
凛は、『夢』の外と全く同じ、本当に晴れやかな笑顔でそう言った。
シューッ
すると、自動ドアが開く。
「先生も親切ね。制服がそのまま置いてあったわ」
海未「…!」
海未「にこ…!」
にこ「大銀河宇宙No.2剣士≪無双の歌姫・YAZAWA≫!ふっかーつ!」
にこ「…って訳だけど、何かあっちから穂乃果ちゃんの声聞こえない?」
『だって〜可能性感じたんだ』
『そうだ、ススメ〜』
海未(『ススメ→トゥモロウ』ですか。『夢』の中でも…)
海未「…とにかく奥に進んでみましょうか」
凛「そうにゃそうにゃ!行ってみた方がいいよ!」
にこ「そうね!」
三人は奥の方へと駆けていった。
187 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:43:56.75 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:12]
〜音ノ木坂学院:地下〜
海未「しかし…一体何処から聞こえているのか…」
すると。
ドガァン!
うみりんにこ「!?」
にこ「…何よ〜…あっちの方から?」
凛「あ!あれ!希ちゃんたちにゃ!」
廊下の奥の方に、少し明るくなっているところがあり、瓦礫が散乱している。
そこには希、穂乃果、エリ、雪穂、花陽、真姫の姿があった。
にこ「…え」
にこ「…嘘…絵里が…」
にこは目を丸くして突っ立っている。
海未「…にこ」
なるべくショックを与えないよう、語るように話す海未。
海未「あの絵里には記憶がありません。私との記憶も、あなたとの記憶も…」
188 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:44:31.72 ID:L0ciGIt40
にこ「そ、そうなの!?元には戻るの!?教えてよ!?」グッ!
海未に掴みかかるにこ。
海未「お、落ち着いてください!」
にこ「ご、ごめん…」パッ
海未「さっきの凛の話と照らし合わせれば、彼女の精神は『カゲロウデイズ』の中にあると考えられます」
にこ「じゃあ、『カゲロウデイズ』を壊せば…」
海未「彼女の記憶も戻るはず。今はどうやって壊すか、それを考えましょう」
希「海未ちゃん!良かった!」
希たち六人が駆け寄ってくる。
海未「色々なことが解りました。説明するので、皆さん聞いてください」
海未「今から、『カゲロウデイズ攻略作戦』を開始します!」
189 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:45:14.33 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:12]
第十四話「夜咄ディセイブ」
END
190 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:45:41.09 ID:L0ciGIt40
第十五話「チルドレンレコード」
[054170 AD 2200 08/15 17:16]
191 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:46:11.30 ID:L0ciGIt40
〜音ノ木坂学院:地下〜
学校の地下を駆けるメカクシ団。
にこ「つまりまとめると…」
穂乃果「私たちは雪穂ちゃんを捕まえたんだけど」
希「その後、白い服の人たちに捕まって、牢屋みたいな部屋の中に放り込まれたんや」
エリ「けど、ホノカの歌が聞こえたから私とハナヨとマキが助けに駆け付けて、私が部屋を壊して三人を助けたチカ」
雪穂「そういう事」
雪穂「あと、さっき能力で調べた通り、もう少しで『あいつ』がいる部屋に着くよ」
希「…あと、凛…」ジトー
凛「…!?」ビクッ
花陽「後でゆっくり、もう一回聞かせて。もうすぐ目的地なんでしょ?『全部終わってから』、ね?」
希「そうやね。今最優先なのは凛ちゃんのことじゃなくて、『カゲロウデイズ』の方や」
凛「みんな…」
凛「…うん!」
海未「とにかくもう少しで例の部屋です。気を引き締めましょう」
海未「エリは私の合図に合わせて扉を蹴破って下さい」
エリ「…解ったチカ」
192 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:46:56.43 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:21]
〜地下空間〜
そうして作戦を確認しているうちに、例の部屋の前に辿り着いた。
海未「凛。準備は大丈夫ですか?」
凛「全然オーケーにゃ〜」ニコニコ
凛の笑顔は少しだけ『夢』の外とは違っている。
海未「さて、私と凛とエリ以外は『隠れ』ましたね…」
海未「…それではエリ、頼みます」
エリ「…いくチカ!」グッ
ドガン!!
途端、ホルマリンの香りが立ち込める。
辺り一面には有色のケーブルが這い回り、研究機材が乱立していた。
他にも、夥しい数のモニターが光っている。
薄暗い研究室の最深部、海未たちに真向かうようにして「奴」は座っていた。
「…もう夕方よ?」
ことり母「学校で騒ぐなんて…教育がなってないんじゃないの?」
193 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:48:18.36 ID:L0ciGIt40
海未「気に食わないのなら説教でもしてみてください!」
海未は怯えた様子も見せずにことりの母に歩み寄っていく。
海未(この『作戦』なら…必ず成功します!)
海未「あなたの策略はもう解っています。『カゲロウデイズ』のことや、『化け物』のことも」
海未「どんなつもりかは知りませんが、もう終わりです。今すぐ降伏して、あなたの息がかかっている連中を全員止めてください」
海未「さもなくば、エリがあなたを酷い目に遭わせますよ?」
エリ「今の先生は先生じゃないチカ!絶対許さないチカ!」
すると、少しの間をおいて、ことりの母が立ち上がった。
ことり母「…ふふっ」
ことり母「…じゃあ、こういうのはどう?」
ことりの母は、おもむろに懐からハサミを取り出して両手で握り、自分の首に向けた。
凛「…な、何してるにゃ!」
ことり母「え?何って…」
「貴方の母親を殺そうとしてるのよ?」
凛「…!」
凛の顔はどんどん青ざめていく。
ことり母「さぁ、どうするの?貴方たちの命と宿主の命…どっちが大事?」
凛「…ッ!」
海未「…」
ことり母「…待たせないでくれる?さっさとしないと…」
海未「…だから、『もう終わりだ』と、さっき言いましたよね?」
194 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:49:14.36 ID:L0ciGIt40
ことり母「…え?」
「『メカクシ完了』…やね」
突如空間が揺らめいたかと思うと、眼前に紫色のフードが現れた。
続けざまに表れた赤髪の少女の瞳が、ことりの母の双眸を捉える。
一つの言葉も残さずに、ことりの母は動きを止め、握っていたハサミを取り落とした。
希「…ふぅ。どうやら上手くいったみたいやね」
凛「どう?凛の演技力!すごいでしょ〜」
希「能力使ってたやろ…」
海未「向こうが宿主の身体を人質にするのは予測がついていましたから。相手を慢心させるためにも、凛の存在は必要でした」
まき「じゃあ、この人を縛って、アジトに連れて行けばいいんだよね」
海未「はい。身体の自由さえ奪えば危機は避けられるでしょう。あとは煮るなり焼くなりして『カゲロウデイズ』の情報を吐かせますよ!」
凛「…言っておくけど、身体は凛たちのお母さんのものだからね?」
海未「はい?解ってますよ。さてエリ。そのワイヤーで縛っちゃってください」
エリ「チカッ」
エリは海未の指示を受けて取り出した鉄ワイヤーで、ことりの母の身体をグルグルと巻き始める。
雪穂「これで亜里沙を…」
にこ「やっと、これで終わり…!」
195 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:49:56.48 ID:L0ciGIt40
その場にいる全員が安心しきっていた。
しかし。
それは一瞬だった。
ことりの母の身体から黒くて長い『何か』が出現し、エリの身体に巻き付く。
エリ「え?」
海未「…!?」
エリ「ぐ…!に、逃げて…ッ!!」グルグルグル
エリが叫んだ次の瞬間、エリの身体からどす黒い影のようなものが飛び出し、その身体を縛り上げていく。
海未「…エリッ!聞こえますか!…くっ!一体どうなって…!」
今や黒い塊のようになったエリの身体は、ドクンドクンという音を立てながら変貌していく。
196 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:50:37.51 ID:L0ciGIt40
海未が近付こうとすると、塊の中から酷く歪んだ声が漏れ出してきた。
エリ「ダ…ダめ…チカ付かナイで…!」
海未「待っててください!今助けます!」
そう言って海未が塊に手を伸ばした瞬間、弾けるようにそれが霧散する。
塊のあった場所には、見た目こそエリと瓜二つだが、下卑た笑みを浮かべる少女が立っていた。
海未「え…?」
少女はゆっくりと口を開き、エリの声でこう言った。
「ゲームオーバーよ、園田海未」
海未「…な!?」
少女は落ちていたハサミを目にもとまらぬ速さで拾い上げ、握りしめる。
そしてそのスピードのまま、
…ハサミを海未の喉元に突き刺した。
197 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:51:32.41 ID:L0ciGIt40
海未「……?!」
海未「…あっ…がっ……はっ…はあっ…!」
目の前がだんだん暗くなっていく。
首元が熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。仲間たちの叫び声が聞こえる。
薄れゆく意識の中で、最期に見たのは、
大きな口のようなものだった。
198 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:53:03.68 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:35]
――――――――――――――――――――
[054170 ×× ×××× ××/×× ××:××]
199 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:54:17.62 ID:L0ciGIt40
目が覚めると、どこまでも真っ白で、自分の影さえ見つからない。
そんな世界にいた。
目の前では、古びたアナログテレビがエンドロールらしきものを垂れ流している。
遠くには何故か、ハサミが落ちていた。
海未「…ここは」
海未(確かに私は…)
――――――――――
「…あっ…がっ……はっ…はあっ…!」
――――――――――
海未「…刺された」
でも、そこまでの記憶が無い。
首元を触っても何の異常もなく、何故か着ていた制服に血がついているわけでもない。
何故か、『ハサミで首を刺された』という事実だけを知っている。
200 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:54:54.14 ID:L0ciGIt40
海未「…しかし、何処なんですか?ここは」
海未(辺りを見回しても、白、白、白…)
海未「…とにかく、このテレビを見てみるしかないです。何かここがどこなのかの情報が…」
海未「…?」
テレビには、多種多様な国の言語を混ぜ込んだような文字列が流れている。
海未「流石に読めませんねぇ…」ハァ…
海未はその場にどっかり腰を落とし、大きくため息をつく。
海未「…どうすれば…」
海未「…ん?」
すると、海未は奇怪な文字列の中に読み取ることのできる一文を見つけた。
海未「なになに……『主演…園田……海未』?」
海未(生まれてこの方、同姓同名の人なんて見たことはありません。つまり、主演の項目に書かれているのは、間違いなく…)
海未「私の名前」
脳がそう認識した瞬間。
ズキンッ!!!
海未「…!?」
201 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:55:58.94 ID:L0ciGIt40
目が、滲んだように不完全に赤く染まり、脳味噌が焼けるように痛む。こんな痛みは体験したことが無い。とにかく痛い。痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
202 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:56:40.93 ID:L0ciGIt40
大量の記憶が雪崩れ込んでくる。
海未「…かッ…!はッ…!…何なん…ッ!ですか…これは…!!」
203 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:57:23.74 ID:L0ciGIt40
母親の胎内での記憶。
自分が生まれた時の記憶。
穂乃果が生まれた時の記憶。
穂乃果が溺れた時の記憶。
ことりと始めて話した時の記憶。
ことりの両親が死んだ時の記憶。
ことりと観覧車に乗った時の記憶。
絵里、にこと出会った時の記憶。
絵里とゲーム大会で優勝した時の記憶。
あの『8月15日』の記憶。
死んだように学校に通った時の記憶。
ニコと再会した時の記憶。
立てこもりに巻き込まれた時の記憶。
『メカクシ団』に出会った時の記憶。
自分が殺される記憶。
メカクシ団がエリに似た『あの少女』に嬲り殺されていく記憶。
暴走した真姫が能力を使い、全てを『巻き戻す』記憶。
そして自分が、この場所で狂って自殺する記憶。
これら全ての記憶が、過去、未来含め、幾重にも重なって雪崩れ込んでくる。
それを見ているだけで容易に想像がついた。
「『夢』の中の園田海未とメカクシ団は、何万回ものループを繰り返している」ということを。
204 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:58:30.57 ID:L0ciGIt40
海未「…あっああ…はぁああはっ…!」
特に、嬲り殺されていくメカクシ団を見るのは堪えた。
視点は動かず、ただ見ているだけ。動けないのだ。助けられないのだ。
せっかく『終わらないセカイ』を壊せるところまで来たのに。
発狂しながら辺りを見回すと、あるものが目に入った。
ハサミだ。
海未は、ハサミの方へ、這いずりながら移動していく。
海未「…はぁあ…!もう…!もういいですッ!」ズルズル
海未はそれを掴み取る。
「もう……疲れました」
海未はハサミを握り、自分の首元に突き刺
205 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 17:59:26.31 ID:L0ciGIt40
…せない。何故か手が動かなくなる。
海未「…何で…また…また……死ねないッ…!!」ググッ…
そうだ。
フラッシュバックする、『μ'sの皆』との思い出。
海未「…!!!」
206 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:00:24.55 ID:L0ciGIt40
海未「…嫌だッ…!絶た…いッ…」フラフラ
海未「嫌ですッ!」ブンッ
海未は全力を振り絞って立ち上がり、ハサミをできるだけ遠くに、力一杯投げた。
海未「私は…!ことりと…ッ!『メカクシ団』でなく…!『μ'sの皆』と…!一緒に居たいんですッ!」
…助けたい。戻りたい。
海未「…はぁ…はぁ…はぁ…」
そう強く願った瞬間、頭痛がスッと引いていく。
俯いて息を整える海未。
その目はしっかりと、赤く染まっていた。
海未「…はぁ…はぁ…」
『…海未ちゃん、って呼べばいいのかな』
海未「…?」
207 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:01:51.68 ID:L0ciGIt40
直接脳味噌に語りかけてくるようなその声は、大好きな『あの子』の声によく似ていたが、何処かが違った。
???『随分と時間がかかったけど、やっと思い出せたみたいだね』
海未「…あなたは…誰ですか?」
???『君の能力さ。この世界から君が生まれるずっと前から、君の中に在った力』
???『ずっと昔、君と「女王」は誓ったんだ。この「悲劇」を絶対に忘れないって』
???『いつもの君は、この直前に絶望し、自ら命を絶っていた。どうして踏みとどまることができたのかは分からないけど、この能力を持つ君が居れば、「カゲロウデイズ」を壊すことができる』
海未(…μ'sの皆のおかげですね)
海未「…不思議に思ってたんです」
海未「『この世界』では物覚えだけは良かった」
???『「目に焼き付ける能力」を持っていたんだ、不思議なことはないよ』
すると。
「海未」
海未「…?」
どこからか、懐かしい声が聞こえた。
???『…おっと、もうお出ましか。じゃあ言っておくべきことがあるね』
海未「…な、なんですか?」
???『君はこの能力を持っていれば、何時でも「この場所」を出入りできる』
???『この能力は「新しい女王」の能力だからね。「前時代の女王」の能力で創られたここの干渉は受けないんだ』
海未「そんな力が…」
???『あと、この中にいる人間と空間、そして意識は密接に関連している』
???『その証拠に、ほら。君の服も高校の制服に変わっているだろう?』
海未「先程気付きました。そういう理由があったんですね」
???『まぁ、今すぐここを出てもいいけど、「あの少女」に勝つためには「あの人」と「あの子」の協力が必要不可欠だ。だから、行く必要がある』
???『ほら、黙っててあげるから行ってきなよ』
海未「…はい」
海未の目の赤色はスッと引いた。
海未(と言っても何処に行けばいいのやら…)
208 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:02:35.33 ID:L0ciGIt40
すると。
ピッ…ピッ…
海未は声に続いて、短く鋭い電子音が等間隔で鳴り始めていたのに気付いた。
無機質に、何かを示すように響き続ける電子音。
これは、『心臓の鼓動』を表すときに使う音だ。
今までに何度か聞いたことがある。
俯いていた海未が顔を上げると、少し離れた空間に、何処からともなく鉄製の扉が現れていた。
周りには壁などは無く、ただドアだけが立っている。
扉の上には『手術中』と書かれた赤い電光板が光っていた。
海未「…行けばいいんですね」
電子音に導かれ、海未はドアの前まで辿り着いた。
海未(皮肉な話ですが…この先に居るのが『あの人』ならば、これが『手術室』の扉であることも納得がいきますね…)
海未「……開けてください」
パチン
ドアの前に立った海未がそう呟くと、電光板の光が消え、鉄製の扉が開いた。
すると、強い消毒液の匂いが拡がる。
扉の奥にあったのは、縦横無尽に乱立した、夥しい数の点滴台がある空間だった。
209 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:03:33.57 ID:L0ciGIt40
点滴台には無色の液体が入ったパックがぶら下がっており、そこから延びた細い管は全て一つの終着点に向かっている。
どうやら、電子音もその方向から響いているようだ。
海未「…終着点はここからでは見えませんね…行ってみますか」
海未は点滴台を掻き分けるように退かして進む。
消毒液の匂いはどんどん濃くなっていき、それに伴って電子音も大きくなっていった。
ガシャッ…ガシャッ…
派手な音を鳴らしながらしばらく行くと、無数の管が集まる終着点に到着する。
そこには医者の姿も、点滴台以外の医療機器もなく、白いシーツにくるまれた一台のベッドが鎮座していた。
ベッドの上、目が合った『あの人』の変わらぬ姿に、海未は息を呑む。
ブロンドの髪と、日本人離れした顔立ち。
それから、一呼吸おいて、こう話した。
海未「…久しぶりですね、絵里」
絵里「うん、本当に久しぶりね、海未」
絵里は見慣れた優しい笑顔で、そう返す。
海未「…外で何が起こっているか解っているなら、教えてください」
海未「『あの日』…何があったのかを」
絵里「…もちろん。外の事は全部解ってる」
絵里「いいわよ…教えてあげるわ」
そう言ってから絵里は、『自分一人しか体験し得なかったこと』を、語るように話し始めた。
210 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:04:15.77 ID:L0ciGIt40
[054170 ×× ×××× ××/×× ××:××]
第十五話「チルドレンレコード」
END
211 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:05:51.63 ID:L0ciGIt40
第十六話「サマータイムレコード」
[054170 AD 2199 08/15 18:00]
212 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:07:03.47 ID:L0ciGIt40
〜絢瀬家〜
夕方だというのに、まだ蝉が鳴いている。
絵里「…チョコレート、ありがとう。『美味しかったわ』」ニコッ
にこ「そう!喜んでくれて嬉しいわ!」
にこ「なんたって『大銀河宇宙No.2剣士≪無双の歌姫・YAZAWA≫』が作ったチョコレートなんですもの!不味いわけないわ!」ドヤァ
…胸が痛い。
食べ物の味も分からない程、おかしくなっているなんて言えない。
さっき作った布団の染みに気付き、それを隠す。
何の話をしに来たのだろうか。何だろう。病気の話だろうか、ゲーム大会の話だろうか、学校の話だろうか。
どのみちあと数日しか生きられない身体、それを聞いてもただ悲しくなるだけだ。
どうしたら…どうしたら…この悲しさを…。
にこ「…り?絵里?」
絵里「…はっ」
にこ「大丈夫?」
最近、こんなことがよくある。
考え込んでしまって、話しかけられても気付かないのだ。
絵里「いや、なんで今日、うちに来てくれたのかなって」
にこ「…!」
にこは、途端に表情を暗くした。
絵里「…え?どうしたの?」
にこ「…いや、あの…言いたいことがあって」
絵里「…え?何?何か重大なことなの?」
にこ「…実は…」
瞬間。
絵里「あ………」ドサッ
一瞬で意識が飛んだ。
213 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:08:49.02 ID:L0ciGIt40
にこ「…!?」
にこ「…え、絵里!?大丈夫!?今誰か呼んでくるから!」
そう言って、にこは慌てて部屋を出て行く。
絵里「…」
私は、夕焼けに染まった部屋の中、呻き声すら出せずに、ベッドの上に一人仰向けになったまま、残された。
白い天井がオレンジ色に変わっていくのを見つめながらゆっくりと目を閉じる。
多分、この人生で見る『色』はこれが最後だろう。
最期に見る色が夕焼けのオレンジ色なんて、なんだかロマンティックね。
そう思うと、何か熱い液体が、目からこめかみの方にかけて流れていく感触がする、
ような気がした。
214 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:09:42.59 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2199 08/15 18:32]
あの日、8月15日は、平凡でいい一日だったと思う。
救急車のサイレンの音と、微かな振動。途切れ途切れになる意識の中で、にこの声を聞いていた。
もう、目の前は真っ白になっていて、何も見えない。
「大丈夫」とか「しっかりして」とか、多分そんなことを言っていたと思う。
さっきまでは苦しくて苦しくてどうしようもなかったけど、今はもう、そういう風にも感じなかった。
でも、もう苦しくもなくなった。多分もう、私の中の「苦しい」っていうのを感じる部分が、死んでしまったんだと思う。
ガシャ…
担架が救急車から降ろされるような音。病院に着いたみたい。
音が耳の周りでボワンボワンと反響する感じになって、いよいよにこの言葉もニュアンスだけでしか聞き取れなくなってきた。
長い電子音も聞こえる。心臓も止まってしまったのだろう。
でも、『多分病院のベッドの上である場所』で聞いた、にこの言葉だけは聞き取れた。
215 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:10:38.35 ID:L0ciGIt40
…いや、『脳味噌が、そう聞き取ったように無理矢理判断した』という表現の方が正しいだろう。
こう言ったの。
『…何でいなくなっちゃうの…ただ一緒に居たかっただけなのに…』
『…ただ…ただ…』
『絵里に大好きって言いたかっただけなのに…!!』
…そんなこと言わないでよ。
一言も返せないのに。
私もにこに「大好き」って言いたかったのに。
216 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:11:21.56 ID:L0ciGIt40
にこ、海未、ことりちゃん、南先生…。
もっともっとみんなと一緒に居たかった。もっとたくさん遊びたかった。
こんな弱い身体に生まれたくなかった。
もっと強い…それこそ『ゲームの主人公みたいに強い身体だったら』、いつまでも、ずっとみんなと一緒にいられたのに…。
いつまでも……みんなと……。
『願うか。愚かな人間よ』
突如暗闇を満たしたそんな言葉は、何処から届いたのだろうか。
そんなことを考えようとした矢先、まるで電源コードが千切れたみたいに、私の意識は途絶えた。
217 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:12:39.39 ID:L0ciGIt40
[054170 ×× ×××× ××/×× ××:××]
絵里「……そして、この場所にいた」
絵里「その後私は…いや、『私の身体』は能力を得てここを出た」
絵里「私の身体は、水槽の中で揺蕩っていた」
絵里「私の身体の感覚とここにいる私の感覚はリンクしているようだから、水槽に入った私を嘲笑う南先生…いや、『冴える蛇』が言っていたことは覚えてる」
絵里「『一年かけて準備をして、私とにこを「カゲロウデイズ」に接触させた』…という旨のことを言っていたわ」
海未「…という事は、『全ては仕組まれていた』と言って間違いない訳ですね?」
絵里「そうよ。その言葉が一番適してる」
海未「やはりそうですか…」
海未「…ん?」
絵里「どうしたの?何か気付いた?」
海未「…そういえば、『あの人』と『あの子』の協力が必要、って言われたんです。『あの人』が絵里だということは解りましたが…」
絵里「へぇ…誰かは知らないけど、こっちの事情はよく分かってるみたいね」
海未「それより、『あの子』とは…まぁ、薄々勘付いてるんですけどね」ヤレヤレ
218 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:13:26.50 ID:L0ciGIt40
海未は少し迷惑気に笑う。
絵里「強く…強く、願ってみて」
「『会いたい』、って」
海未「はい」
海未(会いたい…会いたいです!)
そう願いながらゆっくりと目を閉じ、もう一度見開く。
海未が目を閉じた一瞬の隙に、真っ白なセカイは、
いつか見た夕焼けの教室に、挿げ替えられていた。
219 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:14:07.24 ID:L0ciGIt40
様々な色が交じり合う、マジックアワー。
何処からともなく響く、聞き覚えのある音。
懐かしい、ローファーが床とぶつかる音だ。
「えっと…久しぶり、だよね?」
海未「…そうですね。本当に、お久しぶりです」
「ことり」
ことり「さぁ、行こう?海未ちゃん」
「みんなを、助けに」
220 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:14:48.50 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:35]
〜通学路〜
目を開けると、少し久しぶりの通学路に立っていた。
海未(服がジャージに戻っていますね…ということはここは『カゲロウデイズ』の中ではない…)
海未(外に出られたのですね)
「…あの『作戦』で本当に大丈夫なの?」
声の聞こえた後ろを振り向くと、いつもの赤いマフラーをしたことりが立っている。
夏めくことりの笑顔は、全く変わっていなかった。
海未「…大丈夫ですよ」
海未は清々しい笑みを浮かべていた。
海未「行きましょう。全てを終わらせに」
海未「あと、久しぶりに…」
海未「学校まで競争、しましょうか」
ことり「…!」
ことり「そうだね!」ニコッ
二人は、夕焼けの街並みの中を走り出した。
221 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:15:39.84 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:37]
第十六話「サマータイムレコード」
END
222 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:16:08.58 ID:L0ciGIt40
第十七話「ロスタイムメモリー」
[054170 AD 2200 08/15 17:49]
223 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:16:53.04 ID:L0ciGIt40
学校の地下に到着する頃には、もうすでに世界は巻き戻されてしまう直前だろう。
でも、勝てる。助けられる。この『悲劇』を止められる。
園田海未にはその確信があった。
『終わらないセカイ』…『カゲロウデイズ』を壊せば、『夢』から覚めることができる。それはそれで寂しい気もするが、あのゲーム大会の日に決めた。
『絶対にこのゲームをクリアしてみせます』、と。
絶対に帰る。絶対に帰る。
待っていてくれる人たちが、この夢の向こう側に居る。
だから絶対、助けてみせる。
そんなことを考えながら走っていると、既に例の部屋に着いていた。
案の定、部屋中の実験器具は赤く光り出している。
真姫は十の能力のうち八を手に入れて、世界を巻き戻そうとしている最中だ。
224 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:18:10.26 ID:L0ciGIt40
真姫の背後では空間に大穴が空き、拡大を始めている。
周りには『冴える』に蹂躙されたメカクシ団メンバーが無残に倒れていた。
花陽「真姫ちゃん…ずっと一緒って…言ってたのに…」
海未(この光景を見るのはこれで54170回目…)
海未(見飽きました)
海未(だから、絶対に終わらせます。54171回目は、絶対に見たくない)
海未「…ことり、お願いします」
ことり「うんっ」キンッ
ことりの目が赤く染まる。
まき「…っ!」
真姫が一瞬何かに気付くと、大穴の拡大が止まった。
海未(まず、ことりの能力による真姫の能力の一時停止。メカクシ団メンバーの真姫への思いを伝える…)
ことり「私の能力は人に記憶と心を伝える力…『目をかける』」
エリ?「な…!」
エリ?「最後の蛇!何故此処に!?それに貴方が何故そんなことを知っているの!?」
225 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:19:17.47 ID:L0ciGIt40
海未「こちらには!」
海未「あなたに奪われた全ての世界の記憶がある!」
海未「あなたは知らないでしょう?ずっと前の世界の私たちが隠した、真姫に生まれた力を!」
エリ?「何…?」
エリ?「邪魔を…しないでッ!」バッ
こちらに飛び掛かってくる少女。しかし。
『それはこっちのセリフよ』
エリ?「…なッ!?」ガクンッ
エリ?「ぐ…!」ドサッ
『冴える』の動きは空中で止まり、派手な音と共に地面に落下した。
海未(…絵里が自分の身体に干渉し、『冴える』を止める)
226 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:20:21.95 ID:L0ciGIt40
――――――――――
[054170 ×× ×××× ××/×× ××:××]
海未「絵里の精神…つまりここにいる絵里は、自分の身体とリンクしているんですか?」
絵里「まぁそうね。でも、私の意識より蛇の意識のほうが優先されているみたいなの」
絵里「だから、外の情報は『身体』の目を通して入ってくるけど、動かすことは出来ない」
絵里「もっとも、動かせたら今こんな状況にはなってないわ」
海未「う〜ん…」
海未(ここから出れば、絵里の意識と成り代わっている『醒める蛇』は既に真姫のもとにいる。前までのループと流れが一緒ならそうなっているはず…)
海未「…ん?」
――――――――――
『「あと、能力の定着には時間が必要だという趣旨の内容もありました。花陽はどうだったんですか?』
『う、うん。私も能力を得たのが六歳くらいの時で、十六歳になったら急に発動を制御できるようになったよ」』
――――――――――
海未「…そうだ!」
絵里「え!?なに!?」ビクッ
海未「…いけますよ!」
――――――――――
227 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:21:04.25 ID:L0ciGIt40
[054170 AD 2200 08/15 17:53]
海未は少女に歩み寄る。
海未「『冴える蛇』…あなたはまだ絵里の身体に定着しきれていない状態で、『醒める蛇』を真姫のもとへと弾き出した」
海未「それが迂闊でしたね」
海未「まだ絵里の精神は身体と繋がっている」
海未「即ち!」ビシッ
海未「あなたより高い優先度で身体を動かせるんです!」
エリ?「くっ…『日記』からの情報か…」
エリ?「それに…十匹の蛇が集まってしまったら…『みんなと一緒に居たい』という女王の願いは暴走しない!」
そして海未は瞬きをし、目を赤く染めてみせた。
海未「私の全ての記憶…全てはこのためにあったんです!」
海未(あとは真姫に全ての記憶を伝えるだけ!)
228 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:22:04.94 ID:L0ciGIt40
海未「ことり!」
ことり「大丈夫…」
ことり「全部伝える!」
ことりの目が再び、赤く染まる。
海未(絶対に、助けます)
エリ?「あぁ…あぁ…」
エリ?「やめろおおおおおおおおおお!!!!!」
――――――――――――――――――――
229 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:22:42.45 ID:L0ciGIt40
――――――――――
[000001 AD 2200 08/15 18:14]
230 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:23:26.88 ID:L0ciGIt40
あの後。
真姫は『カゲロウデイズ』を完全に操り、全てを飲み込んだ。
『冴える蛇』は、ことりの母がことりの父に会えたことにより願いを失い、エリの『亜里沙を助ける』という願いを叶えるため、亜里沙の能力となってループは阻止された。
飲み込まれた人間たちは生き返り、メカクシ団の能力はそのまま。『カゲロウデイズ』は最終的に消滅させられた。
皮肉だが、全てが都合良く収まったのだった。
そんな突飛なことをした後、海未とことりは、あの夕暮れの通学路を平日の学校帰りのように歩きながら、話をしていた。
もう日没は近い。
海未「あはは。そうなんですか?では、また」
海未は電話を終え、ことりから借りていたスマホの電源を切る。
231 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:24:13.56 ID:L0ciGIt40
海未「終わりました。どうぞ」
ことり「うん、ありがとう。みんなはどう?何してるの?」
海未「まだ学校で話をしているようです。絵里は泣きじゃくっていて、何を言ってるか解ったものではありませんでしたよ」ヤレヤレ
ことり「そうなんだ〜」
ことり「…絵里ちゃんも、やっとにこちゃんと会えたんだもんねぇ」
海未「そうですよね…」
海未(私もやっとことりに会えた)
海未が西の方を見やると、もう夕陽の半分がビル群に埋もれてしまっていた。
海未(でも、多分私はこのまま…タイムリミットでしょうね)
ことり「…ことりね」
海未「…?」
ことり「久しぶりに海未ちゃんに会えて、すっごーーーーーい、嬉しかったんだ」
ことり「いっぱい話したいこともある」
ことり「…でもね」
ことり「今は、まとまらなくて話せない」
ことり「だから、後でゆっくり話したいの」
海未「…『後で』ですか」
ことり「…?」
232 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:25:05.64 ID:L0ciGIt40
海未「いや…なんでもないですなんでも!こっちの事情です!」
ことり「え〜教えてくれないの〜」ジトー
海未「え…いや…その…」
海未(何か…かっこいいことを言わなければ…もう時間もありませんし…)
ことり「あ、そうだ!そういえば!聞きたいことがあるの」
ことり「海未ちゃんの…」
「一番好きなものって…なに?」
海未(…はっ)
――――――――――
『海未ちゃんの一番好きなものって…なに?』
――――――――――
海未「…私は」
海未「ことりとこんな風に話す、この日常が大好きですよ」
233 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:26:44.69 ID:L0ciGIt40
海未「…それと」ギュッ
ことりを、そっと抱き寄せた。ことりの身体の温もりが伝わる。
ことり「…え?///」
「あなたのことも、大好きです」
「ことりも…海未ちゃんのこと…」
その瞬間。
突如目の前が日が沈んだかのように暗転し、落ちていくような感覚に襲われた。
234 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:27:32.71 ID:L0ciGIt40
返事を聞けなかったことが残念だ。
『あの時』も、こうやって言えば良かったのかもしれない。
でも、この夢から覚めたらまた出会える。言える。
大好きな『あの子』に。
――――――――――――――――――――
235 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:28:16.61 ID:L0ciGIt40
[000001 AD 2200 08/15 18:18]
――――――――――――――――――――
[AD 2013 08/15 18:18]
第十七話「ロスタイムメモリー」
END
236 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:29:16.00 ID:L0ciGIt40
――――――――――――――――――――
第十八話「daze」
――――――――――――――――――――
237 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:30:16.91 ID:L0ciGIt40
海未「…はっ」
目を覚ますと、自分の部屋のベッドに寝ていた。
服はジャージではなく、制服の夏服に戻っていた。
海未「…と、時計は…」
布団から這い出て、デジタル時計を見やる。
[AD 2013 08/15 18:18]
海未「…!」
海未「…はぁぁ…」
海未「戻ってこれたんですね…」
部屋も狭くなって窓の大きなディスプレイも無くなり、机の上にあったデスクトップやハサミ、折り鶴もきれいさっぱり無くなっていた。
海未(少し寂しい気もしますが…戻って来れて良かった)
海未「…ん?」
海未「そうだ!ことりは…」
『今日の六時過ぎくらいに海未ちゃんの家に行くから!』
ピンポーン
海未「…!」
海未「…行きましょうか」
238 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:32:53.66 ID:L0ciGIt40
[AD 2013 08/15 18:19]
ガチャ
ことり「…今はこんにちは、かなぁ?」
海未「ことり、どうしたのですか?」
海未「…それより!」
海未「今まで何処にいましたか?」
ことり「え?ん〜と、何故か公園のベンチで寝てたの。起きたらもう夕方近くて、『海未ちゃんの家に行くんだった』って思って連絡したんだけど、返事が来なくて」
ことり「だから心配になって、来たの」
海未(そうですか…他の事についても聞きたいですが、今はことりの要件を聞くべきですね)
海未「そういえば、どうしたんです?」
ことり「…あのね……」
ことり「あの…う…えぐ…」
ことり「海未ちゃん…海未ちゃん…うぇえ…えぐ…」ポロポロ
239 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:35:07.17 ID:L0ciGIt40
海未「…」
海未(泣いている好きな人を見たら…抱きしめてあげるしかないでしょう)
ギュッ
ことり「ふぇ!?///」
海未「…私が夢で見たことりも、一人で背負い込んでしまう人でした」
海未「そして一人で、セカイに閉じ籠ってしまう」
海未「私はそんなことりが、嫌いです」
ことり「…!」
海未「だから話してください」
海未「一人で考え込ませたりなんてさせません」ニコッ
ことり「海未ちゃん…」
ことり「分かった。話すね」
240 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:35:41.87 ID:L0ciGIt40
ことり「…ことりね、海外留学しようと思ってるの。服飾関係の学校に」
ことり「留学はしたい」
ことり「でも、せっかく皆がラブライブに向けて頑張ってるのに、いいのかなって思って…」
海未「…」
海未「私個人の意見をお聞かせします」
海未「聞き流してくれてもいいです」
海未「まず、私はことりに留学してほしくありません」
ことり「…!」
海未「いつでも、何十年でも、何百年でも一人でいることは出来ます」
海未「でも、『誰かと一緒に居られる時間』は有限です」
海未「それに、一人で居たら、必ず誰かと一緒に居た時のことを思い出して悲しくなる」
海未「だから私は、少ししかない『μ'sの皆で一緒に居られる時間』をことりと一緒に楽しみたい」
海未「私が『寂しさも、涙も、分け合います』」
海未「もう、『一人で泣かないで』ください。私が『一緒に』います」
241 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:36:27.46 ID:L0ciGIt40
――――――――――――――――――――
ふと思い出した、夕焼けの観覧車。
「赤いマフラーの」、ことり。
『海未ちゃん、ありがとう』
『ことりも、海未ちゃんとずっと一緒に居たいな』
――――――――――――――――――――
242 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:37:50.93 ID:L0ciGIt40
海未「私は…ことりと離れたくありません…!」ギュッ
涙を流して、ことりを抱きしめる海未。
ことり「…分かった」
ことり「私も、今は皆と、海未ちゃんと一緒にいる!」
ことり「それに…」ス…
ことりが海未のもとを離れる。
海未「?」
ことり「いつも優しい海未ちゃんもヒーローみたいで素敵だなって思うけど…」
ことり「ちょっと強引な海未ちゃんも…好きだよ?///」
ダッ
海未「…え?」ポカーン
海未「…まさか!!///」カッ
海未「…ちょ!ちょっと待って下さいよことりいいい〜!」
243 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:42:43.99 ID:L0ciGIt40
――――――――――――――――――――
少し遠くには赤いマフラーを付け、黒髪をボブカットに整えた、紺色のセーラー服の少女がいた。
その目は赤く染まっている。
???「いやぁ〜『カゲロウデイズ』の暴走って聞いたときはヒヤッとしたけど、『蛇』とあの子のがんばりのおかげで大丈夫だったみたいだね」
???「まぁ、あの子も、誰かにとっての『ヒーロー』になれたからいいよね」
???「…それに」
ダダッ
ことり「///」
海未「待って下さいよ〜!」
???「とっても楽しそう」
「だからこそ、絶対忘れないで欲しいことがある」
マフラーの少女の目が赤く染まる。
海未「待って下さあああああい!」
『…ねぇ』
『ねぇ、君。そこの君だよ』
海未「…?」
どこからか声が聞こえ、海未は立ち止まった。
244 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:43:55.86 ID:L0ciGIt40
『「孤独」は塗り替えることが出来る』
『「ひとりぼっち」を変えようとした、君の力なら』
海未「…誰でしょうか?」
海未「…でも、そうですね」
海未「私たちはもう、『ひとりぼっち』ではないのですから」
夕暮れの街中が揺らめき出す。
海未は、小さくなっていく『あの子』の背中を見ながら、こう呟いた。
海未「挫けそうになってしまっても、大丈夫な気がします」
海未「『ひとりぼっち』の、君となら」
――――――――――――――――――――
[AD 2013 08/15 18:32]
第十八話「daze」
END
245 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:44:34.49 ID:L0ciGIt40
――――――――――――――――――――
海未「…ん?」
海未「絵里が言っていたことりの一人称のこと…結局解りませんでしたねぇ…」
海未「もう一度思い出してみましょうか…」
――――――――――――――――――――
246 :
◆tHYtfyUBW.
[sage saga]:2018/08/15(水) 18:45:51.91 ID:L0ciGIt40
数T数Aの点を犠牲にした「カゲロウプロジェクト」のパロ、これにて終了です。
あくまで「ことうみ」を中心として書きましたので、他キャラクターの描写が疎かになったり、展開が速すぎたりしてしまっていると思います。
申し訳ないです。
ちなみにループ回数の54171回はμ's全員の誕生日を足して9をかけたものです。
(例:穂乃果:8月3日→803)
現在は絶賛休載中のジャンプ漫画(新しい方)のパロを執筆中です。
冬〜来夏公開(予定)なのでお楽しみに。
ありがとうございました。
247 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/08/17(金) 11:04:16.34 ID:Qf7922wOO
元ネタ半分知らないけど楽しめた乙
一人称は本心じゃないときは『ことり』で本音の時は『わたし』とかかな
現実から夢の世界に入ったのはあくまで海未だけで、エリと雪穂が助けようとしてたのは夢の世界の亜里沙?
唐突に名前出て来たけど出番がなかったからその辺りがよくわからなかった
248 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/08/22(水) 14:21:07.41 ID:HHWBWGgO0
楽しませてもらいました! 新作パロも期待してる……!
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