他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
川島瑞樹「ミュージック・アワー」
Check
Tweet
1 :
◆u2ReYOnfZaUs
[sage]:2018/08/01(水) 00:44:42.54 ID:Ai+XpKnp0
・地の分
・アイドルの家族がちょっとでる
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1533051882
2 :
◆u2ReYOnfZaUs
[sage]:2018/08/01(水) 00:45:48.74 ID:Ai+XpKnp0
冬風がコートをたなびかせる。
28回目の冬、と川島瑞樹は思った。
アナウンサーになってからは、6回目の冬だ。
仕事には十二分に慣れた。
他者の幸福をさえずり、他者の悲劇を詠い上げる仕事には。
女子アナウンサーは瑞樹に合っていた。
華やかな面立ちと、聞く者の耳に沁みわたる、澄んだ声。
彼女は瞬く間にトップアナウンサーの座に登りつめた。
だが、仕事のスケールと瑞樹の心は釣り合っていなかった。
彼女は仕事に対する情熱に満ち溢れている。
一方仕事の方は、彼女がしてきた努力ほどには、彼女に報いない。
たしかに稼いだ。老後はそれなりに過ごせるだろう。たが、老後はまだ先。
仕事は続く、いや、瑞樹としては続けたいのだか、周囲がそれを許さない。
上司も同僚も部下も、友人も家族も、「そろそろ良いひと見つかった?」と、そればかり言う。
“女の”幸せを掴みに行け、と。
私の幸せは、仕事を続けることなのに。
周囲はアナウンサーとしての私を消し去ろうとする。
瑞樹としても結婚生活に憧れないわけではないが、家庭をつくるほどには、まだ自己犠牲精神が豊かではない。
もっと華やかな世界で、バリバリ働きたい。上を目指したい。
瑞樹はそう願っている。
3 :
◆u2ReYOnfZaUs
[sage]:2018/08/01(水) 00:46:42.29 ID:Ai+XpKnp0
今の仕事ではもう上がない。
忙しいだけ忙しく、成果がない。
夏に季節外れのコートを買って、それを着るのを楽しみに冬まで生きて、冬には水着を買っている。
道を歩くひとたちは瑞樹を見ると、パッと顔を輝かせた。
川島瑞樹だ。テレビで見るより綺麗だ。
いいなあ。あたしもあんな風になりたいなあ。
だが彼ら、彼女らも、心中でこう思う。
どんなひとと結婚するんだろう。
悪意はない。想像力に乏しいだけだ。
自分達の幸福観を、瑞樹の幸福に結びつけて、それで満足している。
瑞樹は顔を上げて、ファッションビルの大型モニターに映るアイドルを見た。
片桐早苗。
瑞樹と同い年だが、顔立ちは童顔で若々しく、いや、幼げにすら見える。
その顔立ちに反して、身体は背徳的なほど官能的。
まだしばらくは、第一線で活躍するだろう。
だが瑞樹は、無邪気に憧れることはできない。
芸能界の厳しさ、醜さは嫌というほど知っている。その中でも、アイドルが最も苛烈な仕事であることも。
ひとは飽きっぽい生き物だ。
どんなに悲しいこと、どんなに嬉しいことに対しても。
他人のことならば尚更だ。
瑞樹はまだ、今の立場を捨てるのが惜しい。
不満があるとはいえ、それなりに苦労して辿り着いた場所だ。
それに、周囲の負担になりたくない。
“もう28だけど、今からアイドル目指します!”
そんなことをすんなり周りに打ち明けられるほど、今の瑞樹の人生は軽くはない。
瑞樹はしばらく、モニターの奥の煌びやかな世界を見つめた。
4 :
◆u2ReYOnfZaUs
[sage]:2018/08/01(水) 00:47:14.96 ID:Ai+XpKnp0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ただいま」
家に戻る。当然、返事はない。
市内の一等地に構えられた高級マンション。
クローゼットと入浴、睡眠のためだけにしては、あまりに広すぎる部屋。
瑞樹は、アナウンサーになりたての頃を思い返した。
とにかくお金に困っていた。
美しくなくては、テレビに映る資格がないと思っていた。
美しくいるためには、金がかかった。
安い古アパートの一室で徹底的に自分を磨いた。
苦しかったが充実していた。
自分が次第によいものになっていくという実感があった。
今も、稼いだお金の大半は美容とファッションに費やされている。
化粧品、エステ、アンチエイジング、スポーツジム。
誰もが羨む高級ブランドの服、下着、バッグ、靴、アクセサリィ。
だが、それらは瑞樹の内面の充実になんら寄与していない。
女子アナとしてはもう先がない。現状を維持するか、寿退社の二択になっている。
もうすぐ30代。
あと2年を過ごすだけだが、20代ほど愉快に過ごせないことは目に見えている。
10代の大半は思い通りにならない荒野だった。
20代からは、なんでも自分でやらねばならない戦場だ。
瑞樹はその戦場を生き抜いてきた。少なくとも8年は。
だがこれからはどうだろう。
新しく入ってくる若々しい女子アナと、いつも比較される。
奪われる仕事もあるだろう。
さらに歳をとれば、「まだアナウンサーやってるんだ」、と笑われるかもしれない。
その時がやってくるまで、大人しくしているしかないのだろうか。
この空っぽな2LDKのマンションの一室で。
嫌、いやよ。
呟いただろうか、心の中で思っただろうか。
それを確かめてくれるひともない。
76.55 KB
Speed:0
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
続きを読む
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)