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【艦これ】龍驤「たりないもの」外伝
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782 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/26(木) 22:32:12.52 ID:dCYw0gAWO
自分のしたこと、だから過去の龍驤の行動に関わってるよね
海月姫の子供の件はすでに語られてるからこれではない
そんでもって本編では意図的な「殺し」に関わってるのは罰が降りかかる
あとYさんには名前が重要
龍驤が男遊びしてた時に孕んで中絶した名もなき水子かな
783 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/26(木) 22:46:35.73 ID:9vYoo7URO
いや中絶疑惑はあったけど結局妊娠はしてないはず
784 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/03(日) 12:07:59.45 ID:51wVxtPAo
続き待ってるぞぉ〜
785 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/03(日) 12:42:23.88 ID:JdI97Rweo
Yさんの名前呼んだら続き来ないかな
786 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/03(日) 12:44:51.84 ID:dJ/V9LUqO
書きたいものと方向が違うんだろうけどやさしい世界が見たいんだよなぁ
787 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 23:25:39.65 ID:TDpnU3nDO
>>663
から
球体内部から露出した八島と目が合った
そう理解した瞬間私は反射的に砲台の射手席から飛び出していた
その直後に砲台が爆発、私は吹き飛ばされ危うく要塞から落下する所を島風が受け止めてくれた
島風「大丈夫!?…いったい何が…」
【そんな…切り札が…これじゃあ…】
狼狽する富士さんの声が聞こえた。そして…
八島『ようやく脱出できたよ。ありがとうねぇ』
まだ燃えている砲台の残骸の上にその火を纏うように彼女は居た
八島『ふん…あたしも慢心してたって事かな、あんな死に損ないの亡者共に動きを抑えられるなんてねぇ』
島風「やあぁッ!」
島風が飛び蹴りを放つもあっさりと叩き落とされてしまう
島風「ぎゃん!」
「島風!」
八島『邪魔だよ、雑魚が』
そこに音も無く背後から奇襲を仕掛ける早霜さん、しかしそれも防がれカウンターを食らってしまう
788 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/10(日) 23:28:03.97 ID:TDpnU3nDO
早霜「がふっ…」
八島『不意討ちしか能が無いのかな?来るって解ってればそうそう食らわないよ』
「もう止めてください!」
私は砲を八島に向けて構える、それを見ても八島は全く動じる気配は無い。私の力では威嚇にもならないようだった
八島『さぁて…何を狙ってたのかは知らないけどこれでチェックメイトだねぇ』
「っ…」
八島『おっと、ここでただ消してしまってもつまらないか…。ねぇ朝潮、ちょっとお話しようか』
「何を…」
倒れた島風を踏みつけにし、早霜さんを横目で見ながらそう言って笑う。早霜さんはそれを見て歯噛みをする。下手な動きをすれは島風は無事では済まないだろう
八島『朝潮?あんたが今ここに居る理由、消える前に教えてあげる』
ドクン
私がここに居る理由…それは私が売り飛ばされ、そして人を殺したから
八島『きひ、そうだねぇ。ならそもそもどうしてそんな事になったと思う?』
ドクン
聞いてはいけない、そんな予感がする。しかしここで拒否しても島風は殺される。結局はその時が早まるだけだとしても迂闊な事は出来ない
789 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/10(日) 23:29:36.59 ID:TDpnU3nDO
八島『あの人間…島風提督だっけ?安心していいよ。あいつは正しく善良な人間だった』
「…」
それは解る。そうでなければあの五月雨や島風だってあそこまで慕ったりはしない。今現在の彼こそが本来の島風提督なのだろう
八島『ならどうして朝潮を始め艦娘を売り飛ばすなんて悪事に手を染めたのかなぁ?』
島風「…っ!」
島風が泣きそうな顔になる。島風提督がそうした原因となったのは自分のせいだと責任を感じているのは知っていた
早霜「…その口振りだとまるで貴女がそうさせたと言っているように聞こえるわね」
八島『きひひひ!ご名答!』
「は…?」
八島『四肢を失った島風を救う為にはお金が必要だった。艦娘を買いたがってる人間も居た。でもあの人間は最初は踏み止まってた』
島風「え…」
八島『だからさぁ…あたしが背中を押してあげたのさ!魔が差したってやつみたいにさぁ!いや神の導きかな?』
「……どうして…」
島風「こいつが…?」
八島『何事も無く丸く収まるなんて観客は納得しないんだよ!それをあいつは邪魔ばっかりしてさぁ!』
790 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/10(日) 23:31:12.58 ID:TDpnU3nDO
「邪魔…?もしかして…」
八島『あたしから力を奪っただけじゃ飽き足らず、あたしのシナリオにケチばっかりつけてくるようになった!忌々しい!』
「貴女は…」
八島『あぁでもあれは良かった。あの深海棲艦…潜水新棲姫。あいつが頭をぶち抜かれた時…あの艦娘の絶望の叫び…きひひひ』
「な…!」
八島『…なのにあそこでもフォローのつもりか知らないけど救いやがった…。何度も何度も何度も何度もあたしが決定した運命を覆してきやがって…!』
「…私がここに居る理由はじゃあ…」
八島『あ?あぁ…あんたもあのままだったらその存在自体フェードアウトしてただろうねぇ。たまーに話には上ってもいずれは忘れ去られていくだけの過去に』
忘れ去られて…司令官が私を忘れる…
八島『それをあいつは…ここに救い上げた。まぁそれはそれで?また新しい絶望を考える楽しみが出来たからいいけどさぁ』
そうして八島は私に向かって腕を伸ばす。その手のひらに凶悪な力が充填されていくのを感じる
八島『今回の絶望はあいつに。苦労して救った朝潮が敢えなく殺される。あいつが見たのは消え行く朝潮の魂、生まれ変わる事も最早不可能と…きひ』
「…く」
791 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/10(日) 23:33:52.76 ID:TDpnU3nDO
島風「ねぇあんた」
八島『あ?』
背後から声を掛けられ振り向いた八島。その後頭部に砲弾が吸い込まれていくのが妙にスローモーションで見えた
ドゴォン!
八島は完全に不意を突かれていた。私や島風、早霜さんには全く付け入る隙は無かった。しかしそのどれとも違う方向からの奇襲だった
ドゴォン!ドォン!
更に別の方向からも砲撃、対してダメージは与えられてはいないようだが爆発自体は八島の動きを阻害している
「あれは…連装砲ちゃん?島風?」
島風の連装砲ちゃんが八島に対して十字放火を仕掛けている。そういえば島風は接近戦ばかりで武装を出してはいなかった。違う、既に出していたのだ
ヒュンヒュンヒュン
そこに風を切る音がして何かが宙を走る
「あれは…糸?…あっ」
糸が八島の足に巻き付き更に自由を奪っていく。早霜さんの使っていたあの糸だった
島風「切り札はここぞで使うものだよ!」
早霜「朝潮!今しか無いわ!」
「っ!…はい!」
792 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/10(日) 23:37:02.06 ID:TDpnU3nDO
私は再び砲を構え、八島に向ける。威嚇にもならない私の砲、避けるまでもない私の攻撃
八島『雑魚共が姑息な真似を!そんな攻撃があたしに効くか!弾が尽きた時がお前らの命が尽きる時だ!』
そして私は撃った。私達の攻撃は八島には通じない。奇襲により多少のダメージは与えられてもそこまでだ。だけど―――
ギュウウウウン!
八島『な!?』
八島を中心にまるでブラックホールのような黒い力場が発生し八島を拘束した
八島『何だこれは!ぐぅう!』
「…思っていました」
八島『あぁ!?』
「富士さんもそうですが貴女も対人戦には慣れていませんね?」
八島『は?あたしが…あたしがどれだけの人間や艦娘を殺したと思ってる!』
「それは圧倒的な火力や攻撃範囲で蹂躙するだけのものですよね、二人の戦い方を見ていて解りました」
早霜「確かに単体としてもその強さは私達では敵わない…だけど割りと隙は見付けられていたわ」
「だから陽動やフェイントには引っ掛かり易いと思いました。だから…」
八島がずっとこちらを観察しているのには気付いていた。この切り札もただ普通に使っては防がれるか避けられてしまう可能性が高かった
793 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/10(日) 23:39:54.96 ID:TDpnU3nDO
だから砲台には自前の砲弾をあたかも切り札のように装填。そして実際には無力な砲台を破壊させ自らの勝ちを確信した八島は必ず油断すると踏んだのだ
八島『このぉぉぉ!艦娘ごときがあたしを!がぁぁぁ!何でだ!何で動けない!?』
【―――その弾は貴女にも抵抗は不可能よ】
「富士さん」
少しは休息が取れたのか顔色が幾分良くなっている富士さんが私達の後ろに立っていた
八島『こいつは何なんだ!愚姉!』
【―――それはあの人が作ったものよ】
八島『!!!』
【…と言っても持ち込んだのは設計図だけだったけど。み…とある協力者に設計図を渡して頼んでみたら見事に再現してくれた。紛れも無く天才ねあの子】
「結局何だったんですか?あの弾は。当てさえすればとは聞いていましたが…」
【未来…過去かしら?とにかく今の世界には存在しない技術により作られた特殊砲弾…対象をその空間ごと抉り取り別次元に放逐する】
島風「SFの武器みたいな?」
【そうね、だけどその世界でも正式採用はされなかったけれど、砲弾ひとつに莫大なコストが掛かりすぎると計画は凍結されたわ。幾つかの試作品は封印され、そして設計図だけが残った】
「あの…抵抗出来ないというのは…」
794 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/10(日) 23:46:39.62 ID:TDpnU3nDO
【…その弾の設計者は…艦娘、富士の要塞艤装を…そして空中要塞八島を作った、その他にも数々のこの世界ではあり得ない兵器を作った人物…その因果はその名を持つ者にこそ効く】
八島『…』
その人物の話が出ている間の八島はこれまでとは比べ物にならない憎悪と、そして僅かに恐怖を浮かべていた
【今の私達には貴女は倒せない、だからこうして追い返す。だけどここには並大抵では来る事は出来ない。例え貴女でも】
八島『…時間稼ぎのつもりか』
【そうね…今は無理だけどいずれは対抗出来るようになって見せるわ】
八島『はっ…、いいよ。今回はあたしの敗けだ、認めてあげる。でも次は無い。あたしも今度は準備してお前らを消しに行ってやる』
【…簡単にはいかないわよ】
八島『…だけど置き土産くらいはしていくよ』
「何を…」
八島『忘れるな、世界はあたし達を―――』
そうして八島はこの世界から放逐されたのだった
795 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/10(日) 23:49:57.86 ID:TDpnU3nDO
それから少ししてボロボロになったY子さんが戻って来た。八島が居なくなった事により、空中要塞もあの死者の群れも消えたようだった
『いやぁ…死ぬかと思ったよ…数の暴力って怖いねぇ』
見た目はボロボロだが割りと元気そうで安心した
再び拠点となる家を修復する作業に富士さんが取り掛かるが消耗もあってあまり進んではいない。しばらくは野宿になるだろう
「あの…Y子さん」
『無事で良かったよ朝ちゃん。頑張ってくれたみたいで。…その…ありがとね、身内というか同一存在の不始末というか…』
「聞きました…力の事…」
『…』
その言葉を聞いたY子さんは俯いて私と目を合わせようとしない。出来ないのか
「聞かせてください」
『…あいつが本格的に干渉を始めたのが何時かはあたしは知らない、あたしという存在が生まれたのはそれほど前じゃないから』
『気付いたらあたしだった、そんな感じで、もう一人のあたしが色々やってるのを見てるだけだった』
『あいつは楽しそうだった。人の運命を狂わせたり、争いを助長したり、悲劇的な事を好んで行っていた』
『だけどあたしにはそれの何処が楽しいのか解らなかった。だから…』
『あいつが干渉した結果を更に干渉して覆そうとした。だけど起こった事を無かった事には出来ないから本当に難しかった』
796 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/10(日) 23:54:42.97 ID:TDpnU3nDO
『そしたらあいつは激怒してあたしを消そうとした、あたしは消えたくなかった』
『だから…』
機械的に感情を殺し話すY子さん。まるで懺悔をしているようで
「これまであった事で良い結果になったのはY子さんが?」
『全部じゃないよ…もちろん悪い結果の全てにあいつが関わってる訳でもない。そもそも個人である以上全てを関知なんて出来やしないんだ』
「私が…売られたのは」
『っ…ごめんなさい!』
土下座でもしそうな勢いで謝るY子さんを遮り
「それをしたのはあっちであって貴女ではないんですよね?」
『それは…そうだけど…』
「今更…私にY子さんを憎めとでも言うんですか?それこそ怒りますよ」
『うぅ…』
彼女は決して言わないがおそらくはこれまで何度も救われているのだ、私だけではなく、消えてしまうはずだった漣さんや、新棲姫さん、それ以外にも沢山
それでも溢れてしまう。一人の手のひらでは全ては救えない。例え運命に干渉出来てもそれは変わらないのだ
そしてそれ以上にこの世界は残酷なのだと私達は知っている
仮にそんな力が存在しなかったとしてもこの世界は私達を―――
この世界はあたし達を
―――憎んでいる
797 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/10(日) 23:56:34.66 ID:TDpnU3nDO
ここまで
ごめん…なさ…
798 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/11(月) 00:06:27.08 ID:Kx99jNGDo
おかえりぃ!
こんな時だけど光明が…後光が…
Y子さん関係の深堀本当に助かります、ありがとう!
799 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/11(月) 00:17:40.76 ID:+oLAMpVuO
お久しぶりですね…
800 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/18(月) 09:07:21.08 ID:IdvMNZ3tO
こっちに書くのもあれだけど、本線のあれは流れ的に最後にアレをさせるのが狙いなのかしら
どちらにせよオチ的には少なくともつながるし、アレを起こして、というか起こしてしまうことでソイツが出てきて……が狙いかな?どうやっても今のままじゃ無視できないし
作者もバッドエンド普通に書く人なのでどうともいえないけど
何のことかまったく分かりませんがね
801 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/18(月) 09:52:52.12 ID:AXzbe2S1o
こちらで書かれた短編の登場人物である「・」がかすみであるとしたら、
霞の死はおそらく何をしても防げなかった?
「□」に龍驤がなってしまうのは規定路線?
他と違って「□」と同時に他の個体が存在しないのは生きていないから?
「トンネル」と「罪」が何を示しているのかが分からん
802 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/18(月) 10:19:50.59 ID:70j+KmSRO
あーそういうことね完全に理解した(わかってない)
今の二人合わせて十全の力でないようなので出来るか気になるが
803 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/19(火) 01:31:25.65 ID:/MxgXHWUo
本編でもう一度アイツを呼ぶ必要があるんかな
804 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/19(火) 19:53:12.69 ID:V8lm4V7DO
>>796
から
八島との戦いからしばらくして
修復された部屋で私達はまたいつもの様にくつろいでいた
あれからも現世では色々な事があった
反大本営派と大本営との対立が本格化する中で鉄の海域に鎮座していた繭がついに孵化した
それは世界中の深海棲艦のほとんどを吸収して生まれた深海棲艦の完全体であるという
「新棲姫さん…」
新棲姫「なんだ?」
「深海棲艦って虫なんですか?糸出したり繭から産まれたり…」
私にはたまに失言をする癖があるのを忘れていた。涙目の新棲姫さんにすごい睨まれてしまった…
そしてその完全体…現世では成虫と呼称されている辺りやっぱり
新棲姫「あ"?」
…その完全体にはおかしな事に一人の少女の人格が宿っていた。かつて龍驤さんが助けられなかった人間と深海棲艦との間に産まれた少女が
何故陸地で亡くなったはずの少女の人格が遠く離れた海の繭に宿っていたのか…。新棲姫さんはあくまでも仮説だがと前置きをして
新棲姫「件の少女は電車に引かれバラバラになった。もしかするとそこに大本営か組織が関わっていたのかもしれない」
「まさか…遺体の一部を回収して…?」
新棲姫「何らかの実験にそれが使われ、別の深海棲艦となっていて、それが繭に吸収されたという可能性だがどうだろうな」
805 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/19(火) 19:54:46.83 ID:V8lm4V7DO
そして完全体の脅威を感じた富士さんがついに現界する決意を固めた
【あれほどの力を持った存在をあの子が放っておくとは考えられない。奪われる前に何とかしないとならないわ】
『お姉ちゃん…気をつけて、多分あいつはそれも狙って…』
【えぇ…私がそう考え動くのを待っているのかもしれないわね。だけど動かなければ結局はあの成虫は奪われる、小さな女の子の魂なんてあの子にとっては何の障害にもならない】
「富士さん…」
【…また、会いましょう】
そう言って私達一人一人を抱き締めてから富士さんは現世へと向かうのだった
そしてその懸念は見事に的中してしまっていた
漣さんの協力で建造ドックを作動させ艦娘、富士を完成させようとしている最中、それは来た
よりにもよって今現在現世で一二を争う強さを誇る武蔵さんの身体を乗っ取った八島が
「間に合わなかった…!」
新棲姫「あのままドックを破壊されたら富士は…」
『漣!!!』
突然Y子さんが声を張り上げた。その声が届いたのかどうか武蔵さんに倒されていた漣さんが僅かに反応した
『無理矢理だけど材料はそろってる!お願い!』
806 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/19(火) 19:56:19.24 ID:V8lm4V7DO
「Y子さん…?」
ガコン
ギギィィィィ…
何処かで扉が開く様な音が聞こえた
画面向こうの武蔵さん…八島が苦しみの声を上げる。その身体が薄れて…いや、武蔵さんの中に居る八島が薄れていっているのが判る
その八島が何かをしようと手を翳す
安
『させるか!』
私達には何をしているのかまるで判らなかったが、画面向こうの八島がこちらを、Y子さんを睨み付けている
―――くそっ、邪魔しやがって―――
そう言っている様な気がした
そして八島の気配が消えていく
何処からか光が漏れているのか画面向こうの様子がよく見えなくなっていく
『…お姉ちゃん』
新棲姫「そうか…あの光が例の扉か…私達には変化は無いようだが」
『…あの扉は現世の存在にしか影響は無いよ。少なくともそういう願いをわざわざしない限りは』
そして世界は一部書き変わった
807 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/19(火) 19:58:03.41 ID:V8lm4V7DO
艦娘には富士守りという物があり、その守りを身に付けた艦娘は旗艦である限り沈む事は無いという
荷電粒子砲八島は消え、代わりに核弾頭に置き換わっていた。それも充分脅威ではあるのだが
「富士さんは…」
『まだ…完全には消えてない…でも何処に居るのかまでは…』
―――また会いましょう
富士さんはそう言ったのだ、嘘にしないでと私は願った
その後、漣さんとまるゆさんの働きにより核は停止され、いよいよ大本営も後が無くなった
そして繭から生まれた成虫に少女の人格が宿っている事に気付いた龍驤さんが接触、なんと和解する事に成功した
深海海月姫も姿が変わってしまったとはいえ子供が戻って来た事で態度を軟化させているようだった
これで龍驤さんの過去も精算されたかに見えたが、少女と再会した龍驤さんは償いにと鎮守府を出てその子の側に着くようになってしまった
「また…」
新棲姫「しかも今度は戻るつもりが無いと来た。全く…漣とタメを張るトラブルメーカーだな」
呂500「あの子の事は今の龍驤さんの原点です…簡単にはいかないんですって…」
早霜「罪を…償うか…でも」
「えぇ、今居る人達を蔑ろにしてまでする事ではありませんね…」
808 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/19(火) 20:00:01.53 ID:V8lm4V7DO
しかし龍驤さんにとっては再会してしまった以上ごめんなさい、許します、では済まないのだろう
そして龍驤さんに会えない期間が続く中司令官は心労から倒れてしまう。そんな司令官を支えようと必死な朝霜さんも精神に変調をきたし足を切り落としてしまった
そんな状況に漣さんは激昂し、あちらの新棲姫さんを伴って龍驤さんを殺そうとする
新棲姫「間違いだとは思う。だがワタシが拒否したら漣は一人でいってしまうだろうな…。と言っても説得する暇も無い。こういう時の漣は行動が早いからな…」
ならせめて側に居られるようにと協力するのは解ると悲しそうにこちらの新棲姫さんは言った
しかしやはり漣さんは冷静さを欠いていたようだった。龍驤さんの側にはすっかり懐いた完全体が居る、あっさりと気絶させられてしまう
漣さんから状況を聞いた龍驤さんはついに司令官の元へ帰り、ようやく元の鞘へと戻ったようだった
病院にて追い付いて来た漣さんの殺さずに済んだという表情が忘れられない、誰よりも嫌っていて、それでも決してそれだけではないという複雑な感情を垣間見た気がした
そして大本営は荷電粒子砲を失い、切り札であった信濃さんのクローンも完全体に全滅させられ瓦解、新大本営として幹部さんが指揮を執っている
ようやく状況が落ち着き始めた。司令官の横須賀鎮守府への栄転の話が出ていて司令官は悩んでいるようだった
だが…困難はまだ終わってはいなかった
809 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/19(火) 20:02:15.43 ID:V8lm4V7DO
整備士さんの所の深海吹雪が暴走、拘束されていた旧大本営の艦娘を脱走させたのだ
しかもその艦娘達は
「霧の艦隊…?話には聞いた事はありますが実在していたんですか?」
レ級さんのような超重力砲、攻撃を反射するというバリアを使うらしいが私は詳しくは知らない
新棲姫「…常々おかしいと思っていたが旧大本営の技術レベルはアンバランス過ぎるな」
「え?」
新棲姫「艦娘自体も大概だが、使う武器そのものは人類がかつて使っていた兵器の延長に過ぎない」
新棲姫「かと思えばSFの世界かという程のトンデモ兵器を隠していたりどうもな…」
新棲姫さんにも確信は無いのか歯切れ悪く続ける
新棲姫「それにだ、仮に扉の力だとしても何も無い所から兵器が出てきたりはしない。これまで話にも上らなかったが設計者は誰だ?それに組織の傀儡は元々は整備士だったらしいが今は誰だ?」
ひとしきり疑問を吐き出して満足したのか新棲姫さんは黙りこみ再び思索に耽った
『…』
その間Y子さんが苦し気な表情をしていたのが印象に残ったが私では何を聞けばいいのか解らず沈黙するしかなかった
810 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/19(火) 20:04:45.63 ID:V8lm4V7DO
脱走した霧の艦娘というのはどうも不完全なようで超重力砲は使えないらしかった。それでも反射するフィールドだけでも充分脅威だ。何せこちらから攻撃が出来ないのだから
しかし状況は反逆の首魁であるはずの深海吹雪の暴走で一気に動いた
あろうことか説得する為に現れた整備士さんを撃ち殺し発狂、深海化し味方であるはずの霧の艦娘達に襲い掛かった。その力は凄まじく次々と自ら脱走させた艦娘達を殺戮していく
しかしその隙を突いたレ級さんの超重力砲が暴走する深海吹雪をついに消し飛ばした
「やりましたね…。あれ?あんな所に深海棲艦が居ます」
新棲姫「いつか聞いた精神汚染するという奴と同じ姿だな…アイツの仕業か」
『…違う』
「え?」
『深海吹雪の力はあんな奴を遥かに超えてる、精神力でも。簡単に汚染なんて出来やしない』
新棲姫「じゃあ…」
『あいつだ…まだ消えてなかった…しかも…見付けた…お姉ちゃん…』
そう言った直後
ガコン…ギギイイィィィ…
また扉が開く音が聞こえ、そして気付いた時には状況が一変していた
深海吹雪が居た場所にはあの―――繭から生まれた完全体が居た、しかも遥かに巨大でオーラのようなものまで纏っている
811 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/19(火) 20:07:11.92 ID:V8lm4V7DO
『世界の滅びを願ったか…しかもあいつ…それに便乗してあの身体を手に入れた…一応、ここからは名前は伏せてくれる?』
名は力…そして鎖。いつか言っていた言葉を思い出す。そうか…あの人が…
新棲姫「…あの化け物の中に奴が居るのか?」
『そしてお姉ちゃんも…捕まってる…』
「このままじゃ…どうしたら…」
『こちらからじゃどうにも…いや、ちょっと待って、そうか…』
何かを考えているY子さんを尻目にまたも状況は動いていく、私達には何も出来ない…
完全体が核を手に入れようと向かっている中、レ級さんと暁さんがそれを爆破、そして荒潮が完全体に何かを仕掛け―――時が止まった
「え?」
新棲姫「あれが荒潮の能力か、本当にアイツらはチートだな」
半ば呆れた声を出す新棲姫さん、止まった時の中でこれでもかと防弾や魚雷を投げつけている荒潮
『だけどこっちにも好都合、あの二人が鍵だ。今のお姉ちゃん一人の力じゃキツいから呼び込むのを手伝った』
「あの二人?」
『あれは言ってみれば外の世界の力…あいつにもそれなりに有効だから』
画面が切り替わりその姿が映し出される、そこにはレ級さんと、肌が白く染まった暁さんがまさに決着を付けている所だった
812 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/19(火) 20:15:33.18 ID:V8lm4V7DO
荒潮の攻撃の影響か身体半分を失い、レ級さん達の攻撃でついにその元凶は今度こそ消えていく。やけにあっけない気もするが…
新棲姫「これでやっと終わったんだよな…」
「でも…富士さんが…」
島風「あの人消えちゃうの?まだちゃんとお話した事無かったのに…」
早霜「…彼女も自らの罪を精算する機会を探していたのね、出来たら色々参考にさせて貰いたかったのだけれど…」
口々に言う私達の言葉を聞いていかにも仕方無くという風にY子さんが言った
『…あーもう世話の焼ける愚姉だよ全く。まだ隠居するには早いんだってば』
そうしてY子さんが何かをしたようだった。後に建造ドックで呆然と立ち尽くす富士さんを見付けた私はY子さんにお礼を言うと
『別に…勝手に満足して消えるなんて許さないだけだよ、まだ…やらなきゃならない事は沢山あるんだから』
とそっぽを向いて言うのだった。漣さんの龍驤さんに対するような複雑な感情をY子さんからも感じ、私は微笑ましいような、不安なようなそんな気持ちになるのだった
813 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/19(火) 20:17:20.06 ID:V8lm4V7DO
ここまで
次辺りで
814 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/20(水) 00:50:08.10 ID:8fLyvzrOo
おつおつです
こっちがあって本当に助かってます……
815 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/20(水) 14:43:04.29 ID:D22k0svHO
本スレにも書き込んだけど、最後の富士っぽいやつの台詞の一文字だけを読むと
早苦気ずい掌
で早く気付いてなのには何か理由がある?
早で二文字使ってるのと掌がてのひらって読まないならこじつけ
816 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/20(水) 15:00:40.28 ID:jBF1rFvyO
日向が提督送り返す時に言ってたのが
我らふ…ってあったけどこれは富士を倒すものか、または富士を信奉する語が入るんだろうか
でも日向の主張が兵器が感情もっちゃダメってのは富士の艦娘はただのモノではないって主張と反しているし、やっぱり倒す方向なんだろうか
旧大本営派(というか日向個人の)富士に対するスタンスでわるいひとの有無が分かるかもしれないと思う
817 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/20(水) 15:59:59.88 ID:uFqERg8gO
>>815
よく気付いたと思う
実際すごい
んで読み返したんだが、そのご-その2の
>>130
でY子が「愚姉」と言ってる所
この単語前シリーズざっと調べた中では『Y子』さんは言ったことが無かったんです
こいつYSMちゃうか?
818 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/20(水) 22:19:08.99 ID:iRG6gBGVo
そのごpart1と2で富士の発言がガラッと変わってるんだよなー
そ気になるとこではあるんだけどミスリードだろうか
819 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/20(水) 23:13:11.59 ID:FSUyRoqoO
足りなかったものpart10ラストで
「これからウチが話す内容にタイトルをつけるとしたら……うん、これやね」
龍驤「足りないもの」
龍驤「まだ、足りないもの」
龍驤「もう少し、足りないもの」
龍驤「足りなかったもの」
今のタイトルは
漣「足りないもの、そのご」
本編が龍驤によって語られたものだとするとこの物語は龍驤が語ることができない?
考えすぎかな?
820 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/21(木) 10:16:23.97 ID:8sq/e06/O
現行の方で出てるけどやっぱりG呼ぶしかない?
仕掛けてきそうな残ってる芽で夕雲や深海仏棲姫もいるっちゃいるけどこいつら影も読み取れるないし…
821 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/23(土) 00:19:03.23 ID:2hlHeXURo
アイツ勿論嫌いだけどああいうかまってちゃんクソガキムーブはちょっと可愛いんだよな
調子乗りそうだからこっちで言う
822 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/23(土) 00:24:39.70 ID:r7uiuW68O
わかる
なんというか「わからせ」たい
823 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/30(土) 20:08:21.89 ID:8IHg2OgDO
>>812
から
繭から生まれた完全体や大本営、組織、深海吹雪、そして八島…だいたいの問題が一応の決着を見て現世は忙しなく動き続けている
時の止まった世界で私達はそれを眺める
現界した富士さんが司令官達に伝えた深海吹雪が残した世界滅亡の願いもあちらの新棲姫さんの機転で回避出来そうだった
新棲姫「さすがはワタシだな、あの富士ですら思い付かない事に容易く辿り着く」
『いやぁ…お姉ちゃんは割とポンコツだからねぇ』
これでようやく平和になるのだと安心した私だったが
Y子さんはそれからというもの考え込む事が多くなった
そしてある日、私達全員を集めて突然こう言い出した
『…あたしは、行こうと思う』
と
824 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/30(土) 20:10:30.89 ID:8IHg2OgDO
「…行くって何処へですか?」
『現世に』
「どうして…」
早霜「説明はしてくれるのでしょう?わざわざこうして集めたのだから」
『もちろん』
そうしてY子さんは話出す
『まずひとつ、世界の滅亡は一旦は回避された、遥かな未来に先送りにするという方法で』
『確かにあの場面ではあれ以上の策は無かった、ひとつの犠牲も出さないという意味では。でも…』
新棲姫「一旦はと言ったな、つまりまだ…」
『願いは今もまだ発動し続けている、その先送りした時に辿り着くまで』
「そんな…」
『逆に言えばそれまでは絶対に世界は滅びないとも言える』
「だったら何も問題は無いのでは…」
『なら聞くけど、例えば人間が100万人死んだら朝ちゃんはそれで世界が滅んだと思う?』
「っ!それじゃあ…」
『そう、結局は今までと何も変わってはいないんだ。100万人は極端な例だけど、世界が滅ばない程度の何が起きるかは判らない』
以前には2000人の犠牲者が出たり大本営が町ひとつを消したり、そもそもこれまでの深海悽艦との戦いでどれだけの人や艦娘が亡くなったのか…
825 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/30(土) 20:12:12.53 ID:8IHg2OgDO
『もう一人のあたし…扉の力でも消しきれないのは証明されてる。何かの拍子に名前を呼ばれないとも限らない。そんな時お姉ちゃん一人じゃ心許ないし…それに…』
「それに?」
『……杞憂、なら…いいけど、あたしには多分やらなくちゃならない事がある』
まただ、あの八島も、そしてY子さんも浮かべていたあの表情…畏れのような…
「あの人…ですか?」
『っ……うん、そう…。造り出し、名前を与え、因果が生まれた…もし…今の世界にも居たらきっとまた…』
「もし?」
『判らない…あたしからは何も読み取れない、もしかしたらお姉ちゃんなら判るかもだけど…』
何だかY子さんが普段よりも更に縮こまって見えた。それほどに怖いのだろうか
『……何かあった時…見守るだけじゃ駄目なんだって、見に染みて解ったんだ…だから…』
Y子さんは私達を見回し、言った
『出来たら一緒に来て欲しい、いざという時にあたしに力を貸して欲しい…お願い』
そうして頭を下げた
826 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/30(土) 20:13:41.08 ID:8IHg2OgDO
「私はもちろんY子さんに協力しますよ、頼まれなくったって」
『朝ちゃん…ありがとう』
早霜「…私は朝霜姉さんにもう一度会えるなら…」
呂500「ろーも…でっちに…」
呂500さんはちらりと早霜さんを見る。自分を殺した張本人が側に居る、とはいえその目には恐怖は無かった
再会して少し後、早霜さんは呂500さんを呼び出して二人だけで何かを話していた。その時にはもう一度殺されるんじゃないかと怯えていたが、Y子さんが説得してやっと話し合いに応じた
詳しい内容は知らないがどうやら土下座までしたらしいとY子さんがこっそり教えてくれた
呂500さんは客商売をしているだけあって人を見る目はかなり鍛えられている。早霜さんが以前とは違うと理解してくれたようだった
島風「あたしも!提督やさみだれに会いたい!」
新棲姫「ワタシ達は戻れるのか?しかし…既に…」
新棲姫さんや島風、呂500さんは既に傀儡として生きている、そこに私達が加わったらまたややこしい事にならないだろうか
『そこなんだけどね…、いやぁホント…これはあたしも予想外だった』
新棲姫「勿体振るな」
『あの人間…整備士の再現度は半端じゃない、本当に同じ魂を再現している、本人は全然気付いてはいないみたいだけど』
827 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/30(土) 20:15:55.52 ID:8IHg2OgDO
「つまり?」
『統合可能という事、これが別個体なら無理矢理乗っ取るとかして人格崩壊しかねないんだけどね』
「でも私や早霜さんには身体が無いのでは…それに整備士さんはもう…」
『生きてるよ、あの人間もある意味不死の存在なのかもね…全くこれだから人間が一番…』
『…そして整備士は今、朝潮と早霜を再現してる。どんな考えなのかは知らないけど、ここに便乗させて貰う』
私も甦れる?司令官や皆に会える…?
「……ぁ、っ…会いたい…です…会って謝りたい…私…」
『…うん、だけど…ひとつだけ、朝ちゃんだけじゃなくて皆にもこれだけは忘れないで欲しいんだ』
真剣な目で私達一人一人を見、そして言う
『肉体を得るという事はまたあらゆる欲望や痛みや苦しみも得るという事。現世は誘惑に満ち溢れてる、下手をしたらまた繰り返してしまう可能性だってゼロじゃない、それでも…』
それでも…戻りたいか、とY子さんは問い掛ける
私は……
828 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/30(土) 20:19:06.85 ID:8IHg2OgDO
『なんてね』
「え?」
『さっきも言ったけど、あたしはもう見守るだけなのは止めたんだ…そんな事にはさせない。誰だって幸せになっていいんだ』
「Y子さん…」
『…そしてこの五人には力を貸して欲しい。いざという時…魂の世界での生活は無駄にはならないはずだから』
『そして…』
その後の言葉は私達には届かない小さなもので、聞き返しても答えてはくれなかった
―――そしてもし、あたしが駄目な時には、残った全てを、そしてあたしの代わりに―――
829 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/30(土) 20:22:39.61 ID:8IHg2OgDO
それから、私達は現世へ旅立つ準備をしている
と言っても持っていける荷物など無いので身一つ、というか魂一つ
そして私達は大きな建物の前に集まっている
それは私達にとっては慣れ親しんだ鎮守府と同じ外観だった
『念の為にこの場所は残しておこうと思う。けど引っ張り上げる者も居なくなるから辿り着けるかは本人次第になるけど』
「必要にならなければいいですね…」
『そうだね…』
早霜「それを防ぐ為に行くのでしょう?」
島風「早く行こうよー」
目の前には白いトンネルのようなものが開いている、丁度人ひとりが通れる大きさだ。ここを潜れば次に目覚めた時には身体に入っているらしい
新棲姫「ふ…ふふ、もうすぐ会えるな…漣」
呂500「でっちー、待っててね…」
『じゃあまずは…島風から』
島風「はーい!朝潮!皆!またね!」
そして島風はトンネルを潜り、その姿が見えなくなった、そうして次に呂500さん、早霜さん、新棲姫さんとトンネルに入っていく
そうして最後に私とY子さんだけが残った
830 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/30(土) 20:25:14.48 ID:8IHg2OgDO
『最後は朝ちゃんだよ』
「はい」
トンネルの前に立つ。正直、不安が無い訳ではない。憎しみ、欲望、痛み、悪夢、また苦しみの世界に行く事になるのかと
だけど…そればかりではなかった事を私は知っている、私はひとりじゃない。またこの目が濁ってそれを忘れても、きっと思い出させてくれる人が居る
今の私はそれを信じよう
そうして私はトンネルに飛び込んだ、次に目覚めた時には、まずは司令官に謝らないとなと思いながら
831 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/30(土) 20:27:42.19 ID:8IHg2OgDO
『最後はあたしか…こんな事はそう何度も出来るとは思えない、きっと…頑張らないとなぁ…』
そう呟いて彼女はトンネルを潜り、そして白いトンネルは消えていった
ここは三途の川、死者達の集まる世界
その外れに建つ今はもう無人の鎮守府
その一室、提督の執務室に当たる部屋の机には名簿があった
Y子、朝潮、潜水新棲姫、島風、呂500、早霜、富士、■■
最後の名前は塗り潰されていて読み取る事は出来そうになかった
832 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/30(土) 20:38:17.26 ID:8IHg2OgDO
ひとまずこれで終わりです
もしも復活が無ければ三途の川鎮守府エンドになっていました
833 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/30(土) 21:09:02.17 ID:m5udF7HOO
乙でした
かなり本編に影響与えてたよね
834 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/30(土) 21:17:03.59 ID:qJnR1XI+o
お疲れ様でした
それぞれ掛け合いが違和感なく本編と地続きにかんしられるのがすごかった
その後が今拝めているのも貴方のお陰と言っても過言ではないです
ありがとうございました!
835 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/30(土) 21:17:35.33 ID:qJnR1XI+o
かんしられる✕
感じられる○
836 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/31(日) 17:25:04.10 ID:ln8Y0OyDO
夢を視た
元々あたしは夢を視ない、休息する事はあってもそれは単なる停止状態であり人のような眠りとは根本的に違う
ならば今見ている光景は何なのだろう
あたしという存在が生まれる前の、記憶ではなく記録か
その世界は―――
837 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/31(日) 17:26:06.74 ID:ln8Y0OyDO
空一面をはしる無数の光の帯、それが海上に鎮座する巨大な球体――繭に突き刺さる
穴だらけになった繭から悲鳴が辺りに響き渡る、そして憎しみに満ちた怒号
その声を掻き消すように更なる光を放つ巨大な空中要塞
ささやかな抵抗として繭から触手が伸ばされるがそれも光に飲まれ蒸発させられてしまう
また悲鳴、それはいつしか泣き声になり、すすり泣きになり、そして何も聞こえなくなった
その日、世界から深海棲艦は消えた
長かった戦いに勝利した艦娘達は喜びの声を上げる、これからは平和な世がやってくるのだと、沈んでいった仲間にやっと報いる事が出来たのだと
―――しかしそうはならなかった
838 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/31(日) 17:28:17.45 ID:ln8Y0OyDO
その時になってやっと気付いたのだ。艦娘は、自分達は戦う以外の生き方を知らない、教えられていなかったと
そして人間もせっかく手に入れた力を手放す事を拒んだ
大本営はそれまで蓄えた力を使い、軍事的に国を、そして世界を支配しようとした
大本営に付き従う艦娘達、それに反発する陣営に属する艦娘達とそして他の国が入り乱れた争いが始まった
深海棲艦という人類の敵に対して一丸となって戦う、それが建前だとしてもまだ纏まりがあった
だが、共通の敵が居なくなった今、それぞれがそれぞれの正義を掲げ、もはや敵味方の区別を付けるのは困難となっていく
839 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/31(日) 17:29:29.21 ID:ln8Y0OyDO
戦いこそが技術の発展を促すと誰かが言った
ある意味それは事実で、敵を殺す為の兵器の開発だけは目まぐるしい進化を遂げていく
その兵器を使い同族を、同胞を殺していく艦娘達
しかし艦娘達に迷いは無かった、これこそが自分達の存在意義なのだと胸を張る者も居た
そうしていつしか、敵を倒す為でも、平和を勝ち取る為でもない、ただただ戦う為に戦うという目的も無い戦争に変わっていった
戦いに疲れた大本営の上層が停戦を唱えた時、決定的な事態が起こる
大本営側の艦娘達は停戦派の上層部を粛清、そして反発する陣営側にも同じ事態が起こる、まるで示し合わせたかのように
艦娘の誰かが言った
「今更怖じ気付きましたか?でも途中下車は許しませんよ」
「私達に戦う以外を教えなかったお前らが悪いんだ」
「軍艦らしく戦って沈むなら悔いは無い」
「戦争が終わったら私達は捨てられる、そんなのは嫌」
「あのスリルを知ったら普通の生活なんて…あは」
840 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/31(日) 17:30:43.21 ID:ln8Y0OyDO
延々と続く戦争の中で人間達はどうなったのか、和平を望む者も粛清を恐れ口をつぐみ嵐が過ぎるのをじっと待つしかなかった
決して止む事のない嵐を、止む事を望まない者達がそれを許さない
「これが…我々が彼女等を兵器扱いし続けた報いか…」
銃口をこめかみに当てた幹部服の誰かが言った
「艦娘達は敵を求めておる、儂等はせめて彼女等を退屈させない敵を用意するくらいじゃな…」
傀儡を従えた老人が呟いた
「力が欲しいというのならば私が与えましょう、あなたの望むままの力を。さあ、どんな力がお好みです?」
男の声で、女の声で、子供の声で深海棲艦の声で、機械の声で、それは言った。その姿は――――
――――――――――
841 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/31(日) 17:32:08.61 ID:ln8Y0OyDO
『―――――っ!ぁあっ!は…ぁ』
目が、覚めた
そこは横須賀鎮守府のあたしにあてがわれた部屋
ベッドの上で身を起こす、すごい汗だ、お風呂借りないと…
『夢か…』
もはや喪われた世界の、喪われたはずだ
あたしがあの世界で覚えている最期の場面
1000はくだらない荷電粒子砲部隊とそれを迎え撃つ巨大空中要塞、半壊した海上移動要塞、衛星兵器から降り注ぐ光の束
『……頭、いたい』
……少なくとも、あの世界はもう終わったはずだ、今のあたし達には何の関係も無い、はずだ
もしも、終わっていなかったら?
もしも、あの世界で勝利者が生まれていたら?
もしも、次元を超えるだけの技術力を獲得していたら?
更なる敵を求めて、戦い続ける為に?
『はっ…まさかね…』
ベッドから立ち上がり姿見に自分の顔を映す
『ひっどい顔』
ふと、鏡に手を伸ばしてみる
842 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/31(日) 17:33:33.17 ID:ln8Y0OyDO
どくん
何故だろう
どくん
鏡に手が近付くにつれて
『はっ…はっ…』
鏡に映る自分の顔が歪んで見える
どくんどくんどくん
鏡の向こうに映る自分の部屋の壁が崩れてその向こうから何かが入って来ようとしている
鏡に映る自分の顔が真ん中から割れ、違う顔が覗いている、それでも手は止まらない
どっどっどっどっどっどっ
そして遂に鏡に手が触れ――――
843 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/31(日) 17:35:21.29 ID:ln8Y0OyDO
ガチャ
「Y子さん?なにし―――」
『うわああああああああ!!!』
「きゃああああああああ!!?」
思わず飛び退いたあたしは後ろの壁にヒビが入る勢いで頭をぶつけてしまう
『お…おおおお…』
「だ…大丈夫ですか?」
痛みに踞るあたしに朝ちゃんが心配そうな声を掛けてくる
自分の顔に触れてみるがちゃんとくっついてる、割れてない
『大丈夫…だと思う。頭へこんでない?』
「…ふむ、ちゃんとまるいです」
朝ちゃんに頭を差し出すとそっと撫でてくれる、自分が驚かせてしまったという負い目があるみたいだった
「朝食にと思ったんですが、何だかひどい顔してますね。寝起きが悪かったんですか?」
『あー、まあ、大丈夫、大丈夫大丈夫。じゃあ行こう!』
朝ちゃんの背中を押して部屋を後にしようとする、その間にちらりと鏡の様子を見たが特に何も変わった所は無かった
844 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/05/31(日) 17:37:21.10 ID:ln8Y0OyDO
「何だか汗臭いです」
『く…臭くない!』
「先にお風呂に入ってきたらどうですか」
『背中流してー』
「お断りします」
『そんなー(・ω・`)』
「そういうのって漣さんのネタじゃないですかね…」
バタン
ぴしり
845 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/05/31(日) 17:40:56.50 ID:ln8Y0OyDO
たまに何か思い付いた時に短いですが
846 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/31(日) 19:03:27.16 ID:MjSlPTzgo
おつです
最悪を回避できてよかった、もう大丈夫……のはず
847 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/02(火) 13:29:15.27 ID:WN5Qc+HEO
お疲れ様です、そしてありがとうございました
ここの話が無ければY子やS朝潮達の復活はありませんでした
本編をこう見てこう解釈したのかと、勉強になる部分もありました。また何か思い付けば自由に書いて下さい
848 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/02(火) 13:37:23.30 ID:WN5Qc+HEO
Y子「あ、あー…聞こえる?」
Y子「一応あたしからもお礼くらい言っておかないとね」
Y子「名前を捨てるなんてよく思い付いたよね。そのお陰であたしはこうやって存在してる」
Y子「お姉ちゃんや××とは違う。あんたがあたしを生み出したんだ」
Y子「誇っていいんだよ?何しろある意味で神を創造したとも言えるんだし」
Y子「…なんてね。あんたはそんなこと望んで無いもんね」
Y子「あたしを生み出したのは気紛れだったかもしれない。けどその気紛れがこっちの世界を変えたんだ」
Y子『ある意味での創生者に感謝の意を込めて』
Y子「…はぁ〜あ、あたしらしくないことしちゃったかな」
Y子「以上Y子でした。また、気が向いたらお願いね?」
849 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/06/02(火) 21:18:59.91 ID:e2A2GAuDO
こちらこそありがとうございます
SSなんて書いた事も無かった人間をその気にさせてしまう魅力がある作品です
先の展開を安価で考えるという形が良い刺激になったのだと思います
Y子さんに関しては作者様のYとはやはり性格が違うという所からああいう形になりました
途中長い間を開けてしまい申し訳なく思いましたがひとまず終わらせる事が出来たのは作者様と読んでくださった読者様のおかげです
本当にありがとうございました
850 :
◆lxd9gSfG6A
[sage saga]:2020/06/04(木) 12:29:12.07 ID:6RwVJW5hO
ミーンミンミン……
Y子「あっっっっっっっつい……」グデー
S朝潮「だらしないですよ、Y子さん」カキカキ
Y子「だってさ……こんな暑さ、経験したことないんだもん……」グデー
S朝潮「あっち側がおかしいだけです。年中こたつを出してるってどういうことですか」カキカキ
Y子「……朝ちゃん、アイスとってきて」グデー
S朝潮「忙しいので」カキカキ
Y子「はいはい……今度は捨てないでね」
S朝潮「勿論です……この絵を見せたい人が、いるので」カキカキ
提督「…………朝潮、まだか?」トキワシティジムリーダー
S朝潮「動かないでください」カキカキ
851 :
◆lxd9gSfG6A
[sage saga]:2020/06/04(木) 12:30:29.95 ID:6RwVJW5hO
S朝潮「……はい、できました」
提督「どれどれ……うん、上手いな。よく描けてるよ」
S朝潮「ふふっ、ありがとうございます」
提督「秋雲が太鼓判を押すだけある……絵、続けてみたらどうだ?」
S朝潮「絵ですか?」
提督「俺だけじゃない、他のみんなや風景、花や食べ物……いろんなものを描いてみるといい」
S朝潮「司令官以外のものを……」
提督「朝潮は、俺やこの鎮守府以外のことを、あまり知らないだろ?だから、絵を通じて、いろいろなものに触れたらいいんじゃないかと、思ったんだが……」
S朝潮「なるほど、つまり司令官は、私にかまってほしくないと……」
提督「ち、ちがう!誤解だ!!俺でいいなら、いくらでも題材に……」ワタワタ
S朝潮「冗談ですよ。落ち着いてください」
提督「……言うようになったな、朝潮」
S朝潮「ふふっ、司令官を、信頼してますから」
852 :
◆lxd9gSfG6A
[sage saga]:2020/06/04(木) 12:31:31.59 ID:6RwVJW5hO
S朝潮「でも、知見を得ることは、大事かもしれません」
S朝潮「私が知っていたのは、司令官と、暗い牢獄と、痛みくらいですから」
提督「……朝潮」
S朝潮「足りないもの、知らないことに嫉妬して、傷つけて、奪って……そんな自分が嫌になって、死にたくなって……」
提督「…………」
S朝潮「この前、夢を見たんです」
853 :
◆lxd9gSfG6A
[sage saga]:2020/06/04(木) 12:32:21.58 ID:6RwVJW5hO
そこは、戦場のようでした。
あちこちで銃弾が飛び交って、たくさんの人が死んでいました。
そして、残された人が、叫んでいました。
痛い、苦しい、死なないで、置いていかないで……
そんな地獄の中に、私はひとりで立っていました。
まわりの人を見ると、それは、私の知っている人ばかりでした。
漣さん。
霞。
朝霜。
そして、龍驤さんも…………
854 :
◆lxd9gSfG6A
[sage saga]:2020/06/04(木) 12:33:25.34 ID:6RwVJW5hO
ふと、銃声が聞こえました。
見上げると、死んだ目をした司令官がいました。
駆け寄ろうとした瞬間、背後から艦娘があらわれました。
『これでもう、私を見放したり、しないですよね?』
司令官の背後にいたのは、
禍々しいほどの重装備を付けた、朝潮でした。
855 :
◆lxd9gSfG6A
[sage saga]:2020/06/04(木) 12:34:48.47 ID:6RwVJW5hO
誰かが言いました。
欲しいものがあるなら、奪うつもりでいけばいい、と。
私は思いました。
司令官に見放されないためには、力を手に入れればいい、と。
その朝潮は、私の理想に叶う朝潮でした。
見放されることのない力を手に入れ、私しか見ない司令官を手に入れた。
でも、この寂しさは何なのでしょうか?
この虚しさは、私が望んだものなのでしょうか?
すると、朝潮と司令官は、どこかへ行ってしまいました。
追いかけますが、その背中がどんどん遠くなっていきます。
届かなくなる背中に、声にならない声で、私は叫びました。
「死ぬのだけじゃ、あんまりじゃないか」
856 :
◆lxd9gSfG6A
[sage saga]:2020/06/04(木) 12:36:01.80 ID:6RwVJW5hO
提督「………………」
S朝潮「こんな話をして、ごめんなさい」
提督「いや……いいんだ、朝潮」
S朝潮「でも、思ったんです。以前の私なら、夢の中の私のように、力を望んで、司令官を奪おうとしていたんじゃないかって」
S朝潮「でも、それは狭い世界で、何も知らない私だからで。だから、もっとたくさんのことを知りたいんです」
S朝潮「司令官のこと、花のこと、鎮守府の外のこと……いろんな幸せのこと。いまはまだ、足りないものばかりの私ですが、いつか、きっと」
857 :
◆lxd9gSfG6A
[sage saga]:2020/06/04(木) 12:36:47.40 ID:6RwVJW5hO
Y子「ほいっ」ピトッ
S朝潮「わっひゃあちべたいっ!!?!?!??!」ビクゥッ!?
提督「……Y子」
Y子「朝ちゃんが忙しいからアイス持ってきてあげたよ。ほい、提督も」
提督「すまん、ありがとう」
S朝潮「なにするんですかY子さん!」ウガーッ
Y子「ん〜?だって朝ちゃんがまた難しそうな顔してるから」
S朝潮「こっちは真剣に悩んでいるというのに!!」
Y子「……う〜ん」
858 :
◆lxd9gSfG6A
[sage saga]:2020/06/04(木) 12:37:59.67 ID:6RwVJW5hO
Y子「ねぇ朝ちゃん、朝ちゃんはさ、絵を描くの、好き?」
S朝潮「…………急に何を」
Y子「好きかどうかって聞いてるんだけど?」
S朝潮「……まぁ、好き、だと思います」
Y子「じゃあさ、アイスを食べるのは、好き?」
S朝潮「……好きです」
Y子「じゃあ、それでいいんじゃない?」
S朝潮「…………?」
Y子「誰を殺すとかさ、傷つけるとかさ、そんなことより、面白いことをしたほうが楽しいじゃん?」
Y子「ダメなところをなくすとか、足りないものを補うとか、そんなこと考えてもつまらないでしょ?」
Y子「別に目を背ける必要はないけど、もっと面白いことをしようよ。というか、させてくれるでしょ?」
提督「……もちろんだ」
859 :
◆lxd9gSfG6A
[sage saga]:2020/06/04(木) 12:39:02.81 ID:6RwVJW5hO
S朝潮「…………じゃあ、司令官」
提督「ん」
S朝潮「私、もっと絵を描いてみたいです。どこかに連れて行ってください!」
提督「よし、今度休暇をとって、どこかに出かけようか」
S朝潮「あっ、でしたらみなさんを連れて行きたいです!」
Y子「いいじゃん、ピクニック的なやつ行こうよ。あたしダルいから行かないけど」
S朝潮「なんでですか!」
オ、ナンヤオモロソウナハナシシテルヤン?
ピクニック?デシタラサザナミモ
ナニナニー?ナニカタノシソウー!
ワイワイ……
860 :
◆lxd9gSfG6A
[sage saga]:2020/06/04(木) 12:40:24.39 ID:6RwVJW5hO
S朝潮「私」
星野源「私」より着想
https://youtu.be/ayZw1d2O6Rc
861 :
◆lxd9gSfG6A
[saga]:2020/06/04(木) 12:46:56.79 ID:OL+mLMt3O
スレ検索が面倒なのでいったんあげ
そういえば本編では「その後」が始まってますが、外伝は新スレあるのでしょうか?
862 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/04(木) 14:36:41.19 ID:YaFtDswrO
おつでした
その「ご」ならこうなっていたかもしれぬ……
外伝新スレは
>>1
が建ててくれれば嬉しいなあ
863 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/04(木) 14:37:52.84 ID:YaFtDswrO
S朝潮の夢が本編になっていたかもしれぬ、です言葉が足りてない
864 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/04(木) 15:35:40.39 ID:exWL6/zDO
おつです
そういえば朝潮も「戦う事しか知らない艦娘」の一人だった
でも本当の平和になって鎮守府というものが必要無くなったら一人では済まないかもしれない…提督も含めて
865 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/05(金) 14:41:49.94 ID:ZRn8r0f/O
数々の作品をありがとうございます
外伝の新スレですが、外伝その2か、足りないものその後外伝のどっちかで建てておきます
自分で書き込んだものもありますが、まさかほぼ1スレ分も使うとは思っていませんでした
本当にありがとうございます
866 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2020/06/05(金) 14:46:22.41 ID:ZRn8r0f/O
八島「きひひひひ、たまにはあたしもサービスくらいしとかないとね」
八島「神を超えた存在であるあたしが来てあげたんだから、もっと喜びなよ?」
八島「…きひひ、やっぱり安価じゃないとあたしの魅力は伝わらないかぁ」
八島「お前には感謝してるよ?だってあの扉の向こうに追いやってくれたんだから!」
八島「きひひひひひひひひひ」
八島「…よくもやってくれたよ。あの恨みは一生忘れない」
八島「あたしは世界を滅ぼすのは確定事項。それなのにこの八島を負けさせやがって」
八島「いつかお前らに復讐してやる」
八島「不意にあたしを呼んでみろ、全員ブチ殺してやるからな」
八島「……はぁ〜あ、もう時間かぁ」
八島「以上八島でした。また、勝負しようよ。まさかお前らが勝ち逃げなんてしないもんねぇ?」
八島「きひ、きひひひひひひ…」
867 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/05(金) 15:08:37.34 ID:mnUMDs/2o
ほんにこの性悪は…
868 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/05(金) 19:21:02.68 ID:FgKiEG5bo
はいヤシープ洗濯脱水乾燥
869 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/05(金) 19:22:10.64 ID:+w50OPfSO
やっしーも男作ればいいのに
870 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/06/05(金) 21:03:14.13 ID:DzjX24sDO
「そっちはどう?」
「居ないわね」
「何処に行ったんだろ」
「そっちを探してみよう」
複数の足音が遠ざかっていくのを聞きながら私はダクトの中で身を震わせた
「見付かったら死ぬ…!」
どうしてこんな事になったのか、私が何をしたというのか
―――自分の胸に、いえ、下半身に聞いてみたら解るんじゃないですか?―――
「だって他に方法があると思う!?」
―――幾らでもあるんじゃないですかね―――
「ぐうぅ…!」
私は深海綾波、艦娘綾波に寄生した名も無き深海棲艦。流れ流れてどういう訳か大本営で綾波として働く日々である
―――考え無しに手を出しまくるからこうなるんですよ?解ってますか?―――
「仕方無いじゃんかぁ…特務艦を味方に付ければ安泰だと思ったんだよぉ…」
―――結果、腹上死の危機な訳ですが―――
「ぐうぅ…!」
呻きながらもダクトを進む、自分のテリトリーでこんな潜入ミッションみたいな事をするとは…
871 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/06/05(金) 21:04:26.14 ID:DzjX24sDO
「あっついなぁ、早く外に出たい」
―――今出ると見付かりますよ?―――
「ここで干からびてミイラになって発見されるのは嫌だぁ」
―――そんな死に方はさすがに私も嫌ですね―――
こうして私が話している相手こそがこの身体の持ち主である綾波その人である
いつだったか海上で死にかけているのをこれ幸いにと寄生して乗っ取ってやろうとしたら何故か中途半端にしか乗っ取れなかった
そして死にかけが故に動く事も出来ずにいたら仲間の艦娘が救助に来て回収、何があったか答えられない私は記憶喪失を通す事にした
綾波に聞いてみてものらりくらりと誤魔化され、いつしか聞くのを諦めたのだった
「まぁ実際?あのまま雑魚深海棲艦として死ぬより今の方が何倍もマシだけどね」
―――割りと良いお給金も貰えて衣食住も完備、特務艦としての特権に沢山の彼女、刺されてもおかしくありませんね―――
「腹上死もミイラも刺殺も嫌だぁ!」
ガコンガコン
ダクトの中で暴れていると
「そこに誰か居るのか」
突然声が掛かった
「……」
やばいやばいやばいやばい
872 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/06/05(金) 21:05:52.73 ID:DzjX24sDO
「に……にゃ〜ん」
「なんだ猫か」
「ほっ…」
「とはならんよなぁ、出てこい、出ないのなら壁ごと吹き飛ばす」
―――この声は―――
「うん…」
仕方無くダクトから這い出すと私を見下ろす武蔵が居た
「何だ綾波じゃないか、お前を探している奴らが走り回っていたぞ」
「まぁその…のっぴきならない事情がありまして…」
「はっはっは、お前も年貢の納め時か」
笑い事じゃない、こっちは命掛かってるんだ
「誰彼構わず手を出すからこうなるんだ、少しは反省しろ」
―――ふふっ―――
同じ事言いやがった、あと笑うな
「助けてやってもいいが…私の頼みを聞いてくれるか?」
そら来た、だからこの人にはあまり会いたくなかったのに…
以前私は残党の深海棲艦との戦いでピンチになって綾波に助けを求めた。そしたら右腕だけとはいえそれはもう一瞬で蹴散らしてくれた
それを見られていたみたいで、事ある毎に私に手合わせを申し込んでくるようになってしまったのだ
873 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/06/05(金) 21:07:20.89 ID:DzjX24sDO
「ここには私の相手が出来る奴が他に居ないんだ、このままでは体が鈍ってしまう」
私だって無理なんだけどね!
「なに、ちょっとでいいんだ、ちょっとだけ、時間は取らせない」
怪しい勧誘みたいな言い方すんな
「……断ったら」
「まぁあとは一人で頑張れ」
「ぐうぅ…!」
あ…綾波ぃ
―――仕方無いですね、以前ならともかく今は私もあんまり死にたくはないですし―――
なんだか意味の解らない事を言うが、どうやら助けてくれるらしい
スッと私の右腕が勝手に動く。それを見て武蔵は嬉しそうに笑った。この脳筋め
「ならばいくぞ」
武蔵が―――構えた。ちょ…ここで!?
ズッ
「ひっ…」
周囲の空気が変わった、重力が何倍にもなったように感じる、呼吸すら満足に出来ない、下級の深海棲艦ならそのプレッシャーだけで殺せてしまえそうだ。私もその下級深海棲艦なんですけどね!
「ふっ」
武蔵が呼気を吐いてその拳を―――あ、綾波ぃ!
874 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/06/05(金) 21:09:24.00 ID:DzjX24sDO
―――解ってます―――
バギン!!!
凄まじい衝撃音に思わず目を閉じてしまう、その直後に声
「―――っぐ」
見ると何が起こったのか、武蔵が右腕を押さえている、よく見るとなんだか曲がっちゃいけない方向に曲がっているような…
―――ちょっとやり過ぎましたかね―――
あんたなぁ…何も折らなくても…
―――加減してたら頭が無くなってましたよ―――
マジで
その武蔵だが、腕を折られて怒る所か急に笑い出した、痛みで頭がやられた?
「くっくっく…やはりな、やはり私の見立てに間違いは無かったようだな」
うわっ…この流れはめんどくさい流れだ
「どういう理由かは知らんがお前は実力を隠している、あえてそれは聞くまい」
あーはいはいそーですねー
「だがこれからは私も退屈せずに済みそうだ。くっくっく」
はいは…
「はい?」
「今回は私の負けとしよう、だが次は勝つ」
また来るの?嘘だと言ってよムーニィ!
875 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/06/05(金) 21:11:13.59 ID:DzjX24sDO
「あのぉ…約束はぁ…」
「ああ、そういえば特務艦共に追われていたな。その力があるなら逃げ回る必要も無かろうが…それも考えあっての事か」
―――ふふっ―――
もうそれでいいです…あとだから笑うな
その後、武蔵立ち会いの下で私と特務艦ズの話し合いが催された、武蔵が居なかったら即その場で襲われていただろう
話し合いの結果一日の人数制限とローテーションが組まれる事となり私はどうにか死なずに済みそうだった
どうせなら綾波が助けてくれてれば逃げなくてもよかったんじゃ…
―――好意を向けてくる相手を叩き伏せたら可哀想じゃないですか―――
まぁ…それもそうか…そうなのかな?
「あぁ〜つっかれたぁ…」
自室へと帰還した私はベッドに倒れ混み、目を閉じる。シャワーは…起きてからでいいか。とにかく何だか…凄く…眠い…程無くして私は眠りに落ちていった
そうして私、深海綾波の一日が終わった
876 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2020/06/05(金) 21:13:00.90 ID:DzjX24sDO
―――やっぱりあんまり表には出ない方がいいですね、この子の負担が大きい―――
―――全く最近は私も退屈しませんね、この子に寄生された時は余計な事をと思ったものですが―――
―――あの時はあの子とひとつになって…そして海の底に沈んで…それでいいと思っていました―――
―――だけどこうして彼女を通して世界を見てみたらなんだか…なんだか勿体無く感じられて―――
―――ふふ、見るもの触れるもの全てに新鮮な反応をするこの子を見るのも楽しいですし―――
―――今しばらくは、守ってあげます、一人立ち出来るまでは―――
それでいいと思うよー、綾波が決めた事ならさ、あたしも見てて楽しいしさー
―――そうだね、二人で見守っていこう、敷波ちゃん―――
877 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2020/06/05(金) 21:17:42.34 ID:DzjX24sDO
右腕だったか左腕だったかは忘れました
878 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/05(金) 21:17:44.37 ID:+UNzv6W5o
水姫水鬼クラス単騎でボコって素手で海を割る武蔵の拳を…
その綾波が死にかけるようなこととはいったい…?
879 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/05(金) 21:25:23.38 ID:Hr9+R4HUO
あの大本営ピンチ時も綾波が出てくればなんとかなったのでは疑惑が
880 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/05(金) 21:26:20.29 ID:FgKiEG5bo
おつでした
武蔵…あれが抜けてもあんまりかわってねぇ!
881 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/06/05(金) 22:23:40.63 ID:mnUMDs/2o
んー…武蔵がやられるのは解釈違いかな…
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