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【艦これ】龍驤「たりないもの」外伝
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448 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/02(日) 00:15:36.61 ID:+VdBHynDO
「ぷ…」
漣「…素直に笑ったらいいんじゃないですか」
会合が始まり真面目な話の後はどういう訳かお料理会が始まった。それぞれの初期艦が腕を振るう中、料理など出来ない重巡さんに代わり司令官が手作りのお菓子を振る舞っている
そういえば司令官の作ったお菓子は美味しかったなあ…もう食べられないのは今更に惜しい気持ちになってしまう
それはともかく私達の鎮守府の司令官は顔が怖い、その為誤解されやすく、常に風評被害が付いて回っている
そんな司令官が手作りのお菓子をどんな用途に使っているかここでまた新しい風評被害が生まれてしまったようだった
「絶倫誘拐犯…くっ…ふ」
漣「…どこまでこの二つ名が伸びていくのか見ものではありますね」
落ち込む司令官が哀愁を誘っているがまたそれが何だか…ごめんなさい司令官、朝潮は悪い子です
ぷるぷるしながら笑いを堪える私なのだった
そしてその後、どうして漣さんがこの会合の事を司令官に伝えてこなかったのか私は知った。結局はこれも権力者の道楽のようなものなのだと
449 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/02(日) 00:16:51.24 ID:+VdBHynDO
「すわっ…ぴんぐ?」
聞き慣れない単語が出てきた。どうやらクジを引いて何かゲームでもするのだろうか
漣「…大本営に居た頃、そういう集まりがあるらしいと聞いてから警戒はしてた…」
「はあ…」
漣「私があの鎮守府に帰ってしばらくは招待なんて来なかった…。だけどご主人様がそれなりに実績を積んでいくといつの間にか来るようになった」
「…すわっぴんぐって何ですか?」
漣「…簡単に言えば自分の彼女を誰かの彼女と入れ替えてエッチする事です」
「え…ええええええ!?」
漣「噂で知っていた私にはすぐ判った。だからこれまでとある主催者の名前が入った招待状はいの一番にすぐ処分してきたんだけど…」
「…勝手に処分して大丈夫だったんですか?」
漣「非参加なら通知は必要無い形でしたから」
その主催者は司令官に敢えて何も言ってはいなかったがそういえば少し驚いたような顔をしていたような気がする
450 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/02(日) 00:18:17.92 ID:+VdBHynDO
「どうするんですかね…」
漣「…知らなかったと説明するか、腹を括るか」
「司令官が今更他の艦娘とそういう事をするとは思えませんが…」
漣「参加した以上強制という線もありますが…やっぱり知らなかったと説明して帰してもらうしか無いですかね」
しかしそう訴える暇も無く司令官がクジを引く番になってしまう
漣「駄目だあれ…ご主人様完全にテンパってる…早く説明すればいいのに。あ、引いた…」
不測の事態に司令官は弱い、そして周りに流されるままクジを引いてしまった
しかしここで奇跡が起こったのか、その番号は司令官の初期艦のものだった
「こういう事もあるんですね」
漣「…これで安心ですかね…。次はちゃんと非参加を貫くでしょうし」
そして司令官達はすぐに帰るのも怪しまれるとかで隣の部屋からの営みの声に挟まれたまま時間を潰している
そんな時、天井から会合の始めに会った艦娘の一人、吹雪が現れた。どうやらあのクジを操作して二人になるように仕向けたらしい、それはそうか、こんな偶然そうそう起きたりはしない
そして話は予想外の方向へ行く事になる
451 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/02(日) 00:19:50.77 ID:+VdBHynDO
「漣さんって組織の一員だったんですか…!?」
忍者の格好をした吹雪、忍者吹雪さんが言うには漣さんはかつて老幹部の下に居た、そしてその老幹部は例の組織の首魁…何か繋がりがあるのだと思っていたらしい
漣「…私自身その辺の記憶は無いんですが…記憶を消される前に送った書類にそういうような事が書いてあったようです」
「しかも暗殺依頼の対象にまでなってるなんて…何をしたんですか…」
漣「…あの頃の記憶は穴だらけで正直私にもよく解らない事が多いです…でも…」
「でも…?」
それ以上は漣さんは何も言わなかった。まるで心当たりがあるかのような…
そして鎮守府へと帰還した司令官達は話し合いを始める
そもそも暗殺依頼なんて普通の人は出来ない。権力者か裏の人間か…それに通じる何かを知っている事が必要になる
結局その相手も普通の一般人ではないという結論しか出なかった
手詰まりになった重巡棲姫さん達は漣さんの部屋で手紙や書類を調べ始める
そうして手紙を調べる由良さんが何かに気付いた
452 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/02(日) 00:21:35.16 ID:+VdBHynDO
手紙には暗号で漣さんへの依頼?指令で組織の技術を奪えと書いてあったらしい
「漣さん…貴女いったい何者なんですか…」
漣「そう言われても…」
そして更に別の手紙には今度は漣さん本人の字でなんと暗殺依頼が書かれていたのだという
そこからの話し合いは聞くに耐えないものだった
「…何ですかこれ、まだ疑惑の段階でよくもまあこれだけ好き勝手言えますね…」
かつて漣さんは司令官を取られた腹いせに鎮守府を組織に狙わせ、なおかつ龍驤さんの浮気相手までも暗殺依頼の標的にしていた…ちょっと飛躍しすぎではないだろうか
漣「…」
「漣さん…なんで否定しないんですか…?あの話は本当に…?」
漣「…解りません、今の私にはその記憶が無いみたいです。だけど…ふふっ…」
俯き加減の彼女が笑う
漣「あの頃の私ならもしかしたらそんな考えを持っていたとしてもおかしくないかもしれませんね…いえ、おかしくなっていたと言った方が正しいかな…?」
失念していた、愚かな事に
状況から考えれば今の彼女の精神状態はその頃より尚酷い状態になっているのだ。一連のやり取りを見せたのは失敗だったと激しく後悔した
453 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/02(日) 00:23:30.97 ID:+VdBHynDO
とはいえ漣さんは特に暴れだすという事も無く表面上は冷静なように見える
むしろそんな状態の方が遥かに恐ろしいのだが…
そして一人部屋に帰った重巡さんが漣さんを呼んでいる、直接話を聞こうというのだろう
「もう観るのは止めましょうか…」
漣「構いませんよ、まあ重巡に何を聞かれても答えられる事などありませんが…」
漣さんは映像を切り替える。正直人の精神世界の映像まで映し出せるこのテレビがいまだに理解出来ない
漣さんの精神世界には誰も居なかった。まあ当然だ、本人はここに居るのだから。漣さんも会うつもりは無いようだ
そうしていると富士さんが代わりに応対しているのが見えた。そして漣さんを必死に庇っている
その反応はつまりは…あの話が事実だと裏付けている事になるのか…
漣「…富士は…どうして」
「え?」
富士さんが必死に擁護するその姿を漣さんはじっと見つめている
漣「一度は私を見逃して…二度目は私の自殺を止めてこんな所に連れてきた…そして私なんかをあんなに必死になって庇ってる…意味が解らない」
454 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/02(日) 00:25:41.12 ID:+VdBHynDO
ああ…漣さんはまだ富士さんを誤解しているんだ。始まりの艦娘は歪んだ魂を集めている。その結果艦娘は死に至る。その部分だけを聞けば悪人のような印象を抱いてしまうだろう
「富士さんは…すごく優しい人なんです」
漣「え…?」
私はここに来てからの富士さんとのこれまでを話して聞かせる。私が自らの命を断ったのを自分のせいだと謝ったり、頭を撫でてくれたり、膝枕してくれたり、他にも色々
それに漣さんが眠っている間にもちょくちょく様子を見に来てずっと側に付いていたりもしたと話す
「富士さんはとにかく艦娘を救いたいと思っているだけなんです。それはもうがむしゃらに…考え無しに」
そのせいか計画はあまり進んでいないようで、Y子さんにも呆れられたりもしていた
富士さんがもっと非情で冷酷なら魂集めももっと早く終わっただろう。しかしそもそもそんなに冷たかったなら全ての艦娘を救おうなどとは考えずに自分の為だけに扉を開こうとするだろう
「救いたいからこそ切り捨てる事も出来ずに今も苦しんでいるんです。…ねぇ、誰かに似ている気がしません?」
漣「それは…」
漣さんも思い至ったようでいつの間にか一人になっていた富士さんを見つめる
その視線に気付いた富士さんはまたあの申し訳無さそうな目をこちらに向けた後姿を消してしまった
「いつも富士さんの言葉は誰にも届かず否定されてばかり…あんなにも頑張っているのに…」
漣「…」
漣さんは富士さんの居た場所をしばらく何も言わずにただ見つめ続けていた
455 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/02(日) 00:28:32.81 ID:+VdBHynDO
短いですがひとまずここまで
間を空けすぎるとかえってどんどん書けなくなりますね…何処まで追いかけ続けられるか…
456 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/02(日) 01:19:50.67 ID:vldveJuqo
おつでした
朝潮ちゃんそういう知識はないよね…
まず書けるのがすごいのだ
これからもこっちも楽しみにしてます
457 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/06/06(木) 18:39:27.06 ID:uq4PX6yDO
>>454
から
はいどうも朝潮です、現在鎮守府にはママ旋風が吹き荒れています
雲龍さんが本格的にママ活を始めて癒しを提供、何故か母乳まで出るようになって更に何故かキラ付け効果まで発揮されています。訳が解りません
そんな中霞ママにとうとう司令官が陥落しました
「…正直…こんな司令官は見たくなかったかも」
漣「すっかり骨抜きになっていますな…見てくださいあの表情」
割と厳つい顔の司令官の表情は今や弛みきっていて完全に無防備な子供のようになっていた
「大の男がこんな事になるなんて…」
漣「かなり溜め込んでいましたからね、ご主人様は…。でも聞いた話では珍しい事ではないようですよ。何でしたっけ…バブみでオギャるとか何とか」
公にはなっていないが他鎮守府や大本営でも似たような事はあるらしい、ストレス社会の歪みなのだろうか
「まあ…いつ沈むか解らない生活ですし…癒しは必要ですよね…」
ガチャ
そうしていると扉の開く音と共に富士さんがやって来た、このところ割と頻繁に来ているがもう目的というのは諦めたのだろうか
458 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/06(木) 18:41:02.68 ID:uq4PX6yDO
【…あら?あの子は居ないのね】
「Y子さんなら何だか野暮用があるとかで出てますよ」
【…珍しい事もあるものね、面倒臭がりのあの子が】
Y子さんはしばらく前に何やら荷物を持って出掛けて行った、その直後川の方でものすごい轟音が聞こえたが見に行った時には何も無かった
【またいつものように見ているのね…これは…】
霞に甘えている成人男性の姿を見て富士さんはちょっと引き気味なようだ
「…富士さん」
【なに?】
ちょっと考えて私は富士さんに向かって近付き
「ママー」
と言って飛び付いた
【うっえぇ!?】
富士さんは普段は絶対出さないすっとんきょうな声を上げて狼狽えている、ちょっと面白い
漣「ママー」
そんな私を見て漣さんまで同じように富士さんに飛び付く、病み気味とはいえそういうノリの良さは変わらないようだ
【あの?え?…貴女達?】
狼狽えつつも私達の頭を撫でてくれているのは無意識なのだろうか、若干顔が赤くなっている
459 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/06(木) 18:42:36.55 ID:uq4PX6yDO
「…」
漣「…なんだか」
「ええ…そうですね」
【?】
漣「富士さんのはママみとは違いますね」
「どちらかと言えばお母様、母上、そんな感じですかね」
【どう違うのよそれは…】
呆れた様子で富士さん。上手く説明は出来ないが霞とかとはまた違うように思う
漣「おっぱいを吸ったり母乳を飲ませてもらったり、赤ちゃんになった気分で甘えるのがママみです」
【説明しなくていいわよ…】
「富士さんの場合はそういう原始的なものよりは何というか…精神面の包容力というか」
【訳が解らないわよ…】
富士さんは疲れたように弱々しく突っ込みを入れてくれる、割と律儀だ。しかしその間も私達の頭を撫で続けてくれている
私としては霞や雲龍さんにああやって甘えるよりこちらの方が好きだ。気持ちが安らいで思わず成仏してしまいそう
460 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/06(木) 18:44:32.37 ID:uq4PX6yDO
そんな霞と司令官を見た榛名さんが余計な気を回したのか鎮守府から出て行ったりしたが霞の執念が勝ったのか割と早くに見付けられ連れ戻されたりしていた
「何だか独り言で怖い事言っていましたが…もし榛名さんが見付からなかったら危なかった…?」
漣「霞ならやりかねないというね…鎮守府の平和は榛名さんに掛かっているのかもしれません」
「また榛名さんが何かやらかしてもしも霞自身が病んだりしたら…」
話に聞く鎮守府の悲劇の数段恐ろしい事態が訪れ全滅…そんな情景が浮かびそうになり慌てて振り払う私
◇
それから司令官と霞がお風呂で話している。龍驤さんや榛名さんは湯船でダウンしている
「司令官と龍驤さんと朝霜さんでずいぶん激しくしていたようですね…親子という認識がありながら」
漣「まあ本当に血が繋がっていたとしたらさすがにそこまではしないと思いますが…たぶん」
自信無さげに漣さんが言う。実際その辺りの倫理観からは少しばかりずれている鎮守府なので仕方無いのか
そうして話していると霞の口から私の名前が出てドキリとした。肉体なんてもう無いのでこれは心の心臓だ
≪朝潮の事も吹っ切れて良かったわね≫
そうか…
「ようやく…司令官は…やっと…」
漣「朝潮…」
泣きはしない、むしろ嬉しく思う。ほんのちょっとだけ…僅かな寂しさも感じるけれど
もう司令官が私の使っていた部屋で独り、泣きながら私に謝る事は無くなるのだ
【…故人の事を話す時は哀しみだけでは駄目なのよ、むしろ思い出と共に笑って話せるようになって始めて前に進める】
「そう…ですね、私もそっちの方が嬉しいです」
漣「…」
漣さんが黙ってまた何かを考えている。彼女にとってはまだ笑って話せるような段階ではないのだろう…漣さんの時間はあの時点からまだ止まったままなのだ
461 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/06(木) 18:47:14.14 ID:uq4PX6yDO
ふと、外から何かが聞こえてきた、だんだん近付いて来ている
―ピッピッピッ
ピッピッピッ
ピッピッピッピッピッピッピッ―
漣「笛の音?…何で三三七拍子…」
ピリリリリ〜
ガチャ
『たっだいま〜。皆お揃いだねぇ〜』
Y子さんがホイッスルをくわえたまま妙にご機嫌で帰って来た
「おかえりなさい、ずいぶん遅かったですね」
【…何をしてたのかしらこの子は】
『んー?まあボランティア?』
【嘘でしょ…あんなに無関係を貫いていたくせに】
『お姉ちゃんはあたしを何だと思っているのかなぁ〜』
【ひぃっ…!】
Y子さんが手をデコピンの形にして富士さんに向けるとトラウマを刺激されたのか怯え出す。Y子さんのデコピンは痛いなんてものじゃないのだ。その手の形を見た私までちょっと震えてしまう
『まあ…たまにはね〜。気まぐれだよ気まぐれ。疲れたからちょっと寝るね〜』
ピッピッピー
Y子さんは笛を吹きながら部屋へと引っ込んでしまった。その彼女が立っていた場所に何かが落ちている
「何でしょうこれ…二つに割れたカード?」
【相変わらずあの子は解らないわね…】
困惑する私達。しかしY子さんの様子はまるで一仕事終えたかのような達成感に溢れていたように私には思えたのだった
462 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/06(木) 18:50:02.34 ID:uq4PX6yDO
◇
とある日、鎮守府にお客が訪ねて来ていた
「あれ、誰でしたっけ?駆逐艦綾波というと特務艦の?でもあの槍は…」
漣「そっちの綾波は再起不能で解体されたらしいですが…あいつはまた別の綾波ですな…そして」
くっくっく…と不気味な笑い声を上げる漣さん
漣「あいつのおかげで私にはアレが生えたんですよ…そのせいでどれだけ酷い目に遭ったか…」
「ああ…」
そういえばそれを見付かり深海棲艦に弄ばれたり白露型痴女集団に弄ばれたり、とにかく弄ばれたりしていたんだった
漣「まあ…それがあったからあの子に出会えたのは感謝しますが…他はだいたい恨みですねぇ…」
そしてまた不気味に笑う、今あの場に漣さん居なくて良かったですね綾波さん
「それにしてもあの槍は確か信濃さんの…何処かで拾ったんでしょうか」
そうしている間に応対していた由良さんが槍を奪おうとすると槍が勝手に動き由良さんを撃退してしまった
「あの由良さんが一撃で…やっぱりあの槍はただの槍じゃないんですね…」
漣「いきなり奪おうとする由良さんもどうかと思いますけどね」
駆け付けてきた黒潮さんに由良さんを押し付けて綾波は鎮守府から逃げ出して行った。あれ、絶対誤解されたと思う
その後レ級さんに捕捉された綾波さんは重力砲で脅されあっさり気絶、槍はまるで何かを見付けたかのように何処かへ飛んで行ってしまった
「飛べるなら最初から綾波さんに持たれる必要は無かったのでは…」
漣「意志がある武器らしいですから何かしら考えがあったんじゃないですか?」
463 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/06(木) 18:52:50.84 ID:uq4PX6yDO
その後レ級さんは気絶した綾波さんを放置して大本営に潜入していた
「…ああして見るとまんま雷さんですね」
レ級さんは今は駆逐艦の制服を着ている。おそらく雷さんから借りたものだろう。肌の色も白くないし尻尾も無いので誰も深海棲艦だとは思わないだろう
そこに現れたのは大和に洗脳され、連れ去られたはずの信濃さんだった。手にはあの槍が収まっている
「そうか、主を迎えに行っていたんですね」
漣「ちょっと待ってください、あれ…」
忽然とその洗脳を施した大和本人までが現れる。そこからは怒涛の展開だった
大和にあっさり変装を見破られたレ級さんは早々に退散し、再び信濃さんを洗脳しようと隙を見せた大和は目を貫かれる
「信濃さんの髪が…あれがあの槍の真の力…」
漣「ずっこい伸びてますね…あれだと目を合わせるのも大変そう」
傷を付けられた大和は逆上し、その様子が変わっていく。あの姿はもう艦娘どころか深海棲艦ですらない…まるで悪魔の姿だ
「あの刀の力に呑まれてしまった?」
あの大和が持つ刀もただの刀ではないらしい。いわゆる魔剣とか妖刀とかそういう類の物のようだ
騒ぎを聞き付けた大本営特務艦達を巻き込まない為に信濃さんは大和ごと外へ飛び出して行く
そこからはまさに人外の戦いだった
464 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/06(木) 19:07:19.16 ID:uq4PX6yDO
大和の頭を鷲掴みにし、外まで一気に跳躍、そのまま地面に投げ捨てる
獣のように四つん這いになり着地する大和にはもはや理性は無いように見える
持っていた刀は半ば腕と融合してしまっていた
魔と化した大和が咆哮を上げ信濃さんに襲い掛かる、その速さはいつか見た時とは比べ物にならない、私ではもう目で追う事すら不可能だ
しかし信濃さんはそれに反応し大和の攻撃を避けている、ように見えた。あんなに伸びた髪は邪魔にならないのだろうか
「もう何をやってるのかさえ判りませんね…」
漣「何とか茶視点というやつですな」
【信濃は最小の動きで攻撃を流しているわね、反撃はしていない。おそらく一撃で決めるつもりね】
それまで黙って映像を見ていた富士さんが口を開いた。今日もまた部屋でくつろいでいる。目的はどうしたのかと聞いてみると他の私が居るからいいのよとの事
「見えてるんですか…?あれが…?」
【まあ一応ね…見えはしても今の私では反応出来るかはまた別だけれど】
そういえばY子さんが前に言っていた、富士さんは決して弱くはないと、誰からも何だかぞんざいに扱われているが本気で怒らせたいとは思わないのだと
富士さんは傀儡以外の全ての艦娘の中に眠っている。つまりその数だけ自分を分割しているのだという
もし全ての自分をひとつに統合すれば富士さんは自分にも劣らない程の力を取り戻すのだとY子さんは言っていた
しかし同時に艦娘を見守り、救う事を目的としている富士さんはそれをしないだろうとも
465 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/06(木) 19:08:50.62 ID:uq4PX6yDO
大和の攻撃で巨大なクレーターがいくつも出来る中、信濃さんは下ろしていた槍をついに構える
【どうやら大和の動きを見切ったようね、次で決まるわ】
理性の無い怪物となった大和がこれまでとは比較にならない力を溜めている。こちらも決めるつもりなのだろう
そして――
二人の姿が画面から消えた…と思った次の瞬間
ヒュ――ズドン!!!
「う…わっ…」
凄まじい衝撃で映像が乱れる、爆発のような余波が周囲を完膚無きまでに破壊していく
それが収まった後、二人は抱き合うかのように静止していた
大和の刀は信濃さんの顔を掠めるように突き出されていてその頬からは血が流れている
そして信濃さんの槍は大和の胸を貫き背中側に突き出ていた
漣「決着…ですかね」
「あの大和をかすり傷ひとつで倒すなんて…とんでもない強さですね…」
【いいえ、実際はかなりの紙一重だったわ。あの大和が冷静なままだったら立場は逆だったでしょう】
その槍の力なのか魔となった大和の身体が塵となって土に溶けていくのを信濃さんはじっと見続けている
後に残されたのは主を失い哀しげにも見える一振りの刀だけだった
466 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/06(木) 19:13:29.00 ID:uq4PX6yDO
ここまで
何となく拾ってしまいましたが作者さんの想定しているものと違っていたら申し訳ありません
富士さんはきっと常時影分身状態
467 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/06(木) 19:40:34.90 ID:2YRjuMYYo
ママー
ゴホン、乙です
富士さんの出自も本編で言及あるかな、ふと気になった
468 :
◆B54oURI0sg
[sage]:2019/06/22(土) 17:01:33.56 ID:rEPY++zDO
>>465
から
「島風が…死んだ…」
大和を欠き、建て直しを図る組織が時間稼ぎの為に複数の鎮守府を傀儡に襲わせて数日、司令官の鎮守府も襲撃され、激戦が繰り広げられた
由良さんを始め、高翌練度艦の必死の防衛戦の最中、整備士さんの吹雪が救援に駆け付け奇跡的に死者はゼロ、胸を撫で下ろしていた私は大きな衝撃を受けた
周辺を哨戒していた皐月や吹雪さんが見付けた時、島風は既に息絶えていたらしい、さみだれを庇って背中から攻撃を受けたのか、腹部には大きな穴が空いていた
致命傷を受けて尚、島風はさみだれを洞窟に隠し、そこで力尽きたらしい、さみだれは必死に傷口…冷たくなった島風の身体に空いた穴を押さえて助けを求めていた
「島風…っ!」
私は何とも言えない強い憤りを抑える事で精一杯だった、島風がどれだけ純粋で思いやりが深いかこれまで見てきて知っている
好きな人を取られても、恋敵の子供だとしても守ろうと、自分を犠牲にした
私があんな目にあったそもそもの元凶である島風…だけど…
「島風はいい子だった…いい子すぎて憎みたくても憎めなかった…島風は…」
【朝潮…】
富士さんが私を気遣うような視線を向けてくる
「島風が居なくなってしまったら…私や、私達は、何だったんでしょうか…何の為に…」
結局、その答えが返ってくる事は無かった
469 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/22(土) 17:03:37.58 ID:rEPY++zDO
それから一時的にさみだれを鎮守府で預かる事になり弥生ささんや叢雲さんが遊んであげている
島風は疲れて眠っているのだと思っているらしい、やはり死というものはよく解ってはいないようだ
「…島風の遺体はあの吹雪さんが運んでいきましたね、となると希望があるかも」
整備士さんというのは人を救う事を目的としているらしい、それこそ善人悪人関係無く、救える状態なら快楽殺人者だろうが殺し屋だろうが助けてきた
しかしそこに何らかの手を加えている事は確実で、端から見れば自分達の都合が良いように作り替えているとも取れる
ともかく、一度は救った島風をこのまま見捨てるとは考え難い
「そういえば五月雨達は無事でしょうか…」
そうだ…複数の鎮守府が傀儡の襲撃を受けた。島風鎮守府もその中に入っていて、おそらくその際に島風にさみだれを託して脱出させたのだろう
【散り散りにはなったようだけどどうやら全員無事なようよ】
中にはかなりの被害が出てしまった鎮守府もあるけれど…と富士さんは憂鬱そうに付け加えた
富士さんが言うには島風鎮守府の面々は全員整備士さんに保護されているのだという
【怪我人は居るけれど全員命に別状は無いわ】
「良かった…」
生前はあんなだったけど今となっては知った人間が死ぬなんていう報せは出来れば聞きたくない、後は島風が生き返れば…
最後の部分は口に出てしまっていたのか、それを聞いた富士さんが複雑な表情を浮かべていたのに私は気付かなかった
470 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/22(土) 17:06:36.42 ID:rEPY++zDO
それから少しして吹雪さんから連絡が入り、さみだれを送り届ける事になった
海を行くのに艦娘では戦闘の可能性があるという事で深海棲艦組で守りながら行くらしい
メンバーはレ級さん、見た目は駆逐水鬼の時雨さん、そして深海化している中身が重巡棲姫さんの漣さん
「…大丈夫でしょうか」
【そうね…】
言葉少なくやり取りをする私達。こちらの漣さんは今は奥の部屋に引っ込んで眠っている。ここに来てから漣さんは割と寝ている事が多い
今心配なのは重巡棲姫さんの方だった
何せ彼女達の関係を崩壊させた元凶が今向かっている先に居るのだ。何が起きても不思議ではない
しかし私は重巡棲姫さんをよく知らない。どんな性格でどんな思いを抱いているのか。だけど少なくとも彼女が漣さんを大切に思っている事だけは確かなのだろうと思う
そうして一行が整備士さんの隠れ家に辿り着き、親子の再会が果たされた
「何だか…ネチネチと責めてますねまた」
レ級さんや時雨さんが五月雨を責めている光景に私は思わずムッとする
「こういう悪い一体感みたいなの私、嫌いです。そもそも悪口言う権利があるのは当事者の私や他の被害者だけだと思います」
【まあ…貴女を失わせたという意味では被害者なのでしょうね…】
むう…そう言われては怒るに怒れない。私を想うが故にああして根に持っているのか…正直複雑だ
471 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/22(土) 17:08:41.14 ID:rEPY++zDO
そして――
「ああ…早速対面してしまいましたね…」
重巡棲姫さんがあのタシュケントと鉢合わせしていた
いきなり襲いかかるか…罵倒するか…私はハラハラしながら見守っていると
「まさかの気付かない…」
【あの子達が知るタシュケントとはまるで違っているものね…無理も無いと言えばそうね】
確かに以前見たタシュケントからは殺気を纏ったオーラみたいなものが感じられた
しかし今のタシュケントは…そう、言ってみれば小動物のようで、別人だと言われれば信じてしまいそうになる
「このまま気付かなければ何事も無く済みそうですね…」
と、胸を撫で下ろしかけた私の耳にその言葉が届いた
――この時を、待ってた――
472 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/22(土) 17:10:36.38 ID:rEPY++zDO
「――っ!?」
慌てて振り向くと奥の襖が開いていた。開いた音も聞こえなかった。そしてそこに漣さんが立っていた
「漣さん…!待ってたって、まさか…」
ゆらり、と漣さんが部屋へ入ってくる
漣「気付いてましたよ、あいつが生きている事には。以前見ていましたよね、その場面を」
見られていた…?あの一瞬を!?
漣「ほんの僅かな時間であろうと憎い仇の姿や声を逃したりはしませんよ」
「知っていて今まで黙っていたんですか…?」
漣「そうですね。チャンスを伺っていました。すぐにでもあいつを殺しに行きたかった。だけどいきなり戻った所で整備士さんの居場所を知らないし、聞いた所で簡単には教えてくれません」
だから待つ事にしたんですと、漣さんは無表情のまま言う
漣「重巡は私が戻る事を望んでいた。その方法を探していずれは整備士さんに接触する可能性は高いと思いました、だから精神世界に来た時もあえて無視をした」
「…」
漣「あの場に私が戻ればあいつを探す手間も省ける…ようやく…ようやく…!」
それまで無表情だった漣さんの顔が狂喜に歪んでいく、そこに――
【漣…】
ギクリと、はっきり判るくらいに漣さんの肩が揺れた。そして苦し気にその声の主、富士さんの方を見る
473 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/22(土) 17:12:37.52 ID:rEPY++zDO
【行ってしまうの…?私は…私達は貴女の役には立てなかったの…?】
漣「富士…さん…」
富士さんはまるで捨てられる子供のように…いや、我が子に置いていかれる母親のように漣さんに語りかける
ぎり…と漣さんの口から歯を食い縛る音が聞こえた。そして申し訳なさそうに
漣「ごめんなさい…私は…これからどうなるにしても、どうするにしても、あの子の仇を討てなければ前に一歩も進めない…!」
「漣さん…」
漣「朝潮にも感謝してる…私達を許してくれてありがとう…助けてあげられなくてごめんなさい…」
「そんなの…そんなの私は気にしてません!」
漣さんは苦しそうな笑顔を浮かべ、再び富士さんに向き直り
漣「ありがとう…富士さん…不孝な娘でごめんなさい…私は行きます」
【漣っ!】
思わず手を伸ばした富士さんの目の前で漣さんの姿は消えた
そして程なく、映像の中の漣さんがタシュケントに襲い掛かっていた。戻ったのだ、とうとう。憎しみを癒す事は出来ないままで
「…行ってしまいましたね…結局…私にはやっぱり何も出来ない…」
【私もよ…私も大概…何が始まりの艦娘なのかしらね…】
映像の中、漣さんが取り押さえられ絶叫するのを私達はへたり込みながら、ただ見ている事しか出来なかった
474 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/22(土) 17:15:03.45 ID:rEPY++zDO
戻るまでの計画を立てていた割にはあっさりと復讐を阻止されてしまった漣さんはただ絶叫する事しか出来ない
【…それは仕方ないのかもね…身体はあちらにあり、何かを用意する事は不可能…出来るのは可能な限り接近したタイミングで戻る事くらい…】
「もう…見てられません…整備士さんはどうして…タシュケントを助けたりなんて…」
【他意は無いのでしょう。ただ救う為に救う。多少の損得勘定はあるにしても。それがよりにもよって殺し屋だったのは彼等自身も予想外だったとは思うけれど】
タシュケントが死んだままなら、時間はかかるが漣さんが別の道を見出だすまで私達で支えていければと思っていた
しかし仇は生きていた、それを知ってしまった。もはや彼女の心はそれ一色に染まり、新しい何かなど入る余地は無くなってしまっていた
あの時、あの場面さえ見ていなければ…おそらくはそれは無意味だろう。いずれは知ってしまう事は避けられなかったように思う
そんな時、映像の中で整備士さんが驚くべき事を話し出した
生前の潜水新棲姫が自らの記憶をデータ化しておくように整備士さんに頼んでいたらしい。その上で死地へと向かい、そして殺された
「こうなる事は折り込み済みという事ですか…ほんとに頭良かったんですね潜水新棲姫は…」
しかし潜水新棲姫は自らを再現するに当たって条件を出していたらしい。それまでの自分とは無関係として扱うようにと
「どういう事なんでしょうか…」
475 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/22(土) 17:18:24.18 ID:rEPY++zDO
話を聞く限り、かつて彼女が犯した罪により、その為の罰だという
何にせよ潜水新棲姫が復活するなら漣さんにはそれを断る理由は無いようで――
数日後、潜水新棲姫は新たな身体を得て甦った
漣さんは約束を守りあくまで初対面として振る舞っている、潜水新棲姫も同様だ
しかし二人共に傍目から見ても苦しそうなのは一目瞭然だった
そんな時、私はまた飛び上がる程に驚く事になる
「ようやく戻ったか…やれやれ」
「え…?え…!?」
背後から聞こえた声に私が振り向くとそこに先程復活したはずの潜水新棲姫その人が居た、窓の外からこちらを見ている
【そう…やっぱりそうなのね…】
それを見た富士さんは特に驚く事も無く何やら納得したような雰囲気だった
「え…?だって貴女は…?え?」
潜水新棲姫「まあ落ち着け、簡単な話だ、つまり…」
そうして話を聞いた私は言い様の無い不安を感じずにはいられなくなるのだった
476 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/06/22(土) 17:22:48.46 ID:rEPY++zDO
ひとまず
また短くてすみません
キャラ紹介…
477 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/22(土) 17:45:58.13 ID:Lbch4/6Wo
おつ
魂は別の解釈か
478 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/04(木) 13:55:22.65 ID:jvxuqKino
魂っていうのは肉体と精神の両方が揃っている「状態」を言うのではと考えてみる
479 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/04(木) 18:33:33.76 ID:YTsWt7UeO
肉体と魂を結びつけるのが精神だとどこかで聞いた気がする
480 :
◆6yAIjHWMyQ
[saga]:2019/07/07(日) 03:35:25.26 ID:ByD7gWb6O
>>193
より
481 :
◆6yAIjHWMyQ
[saga]:2019/07/07(日) 03:41:07.20 ID:ByD7gWb6O
墨に浸かったかのようなK紫色を呈することで、己を実存よりも矮小に演じている木材は、闇に沈む継ぎ目の空間と曖昧な明るさを見せる白太を淡く包み込んで、不規則かつ複雑な模様を描いている。
その模様に足先から沈み溶け込んでしまいそうになる幻想を、スリッパ越しに足裏へ伝わるフローリングの硬い感触がかき消す。
この波状に起こる感覚の変化は、毎日の生活に刺激を与えることになって、居住者を飽きさせないのでしょうね。
私の感覚と知識から判断すると、使われているのはその色味の美しさと耐衝撃性の大きさから料亭や旅館の床板、高級家具材にも用いられるウォルナットかしら。それともウッドデッキに採用される耐水性が大きいウリン?
窓に面していないために微かな反射陽光しか取り込まれず、初春の午前十時にしては暗い。そんな幽々たる廊下を縦一列で歩く私と二人の提督。
廊下の端へ等間隔に設置され消火器と文字の入った方錐形の行燈によって、歩行には支障のない程度の光量は確保されているけれど、夜になれば黒暗に迷うことになりそ、あっ、シーリングライト。心配して損しちゃったじゃない。
でも、そうだったわ。私が心配する事なんて、大抵すでにあなたが手を回していたものね。
第一艦隊の旗艦を任命された作戦の時にも感じ、秘書艦業務の時にはより肌身に感じたあなたの才幹。
蝶を箸でつかむほど正確な立案及び判断の速度、そして交渉術。特に兵站維持を目的とした交渉の場では、相手やそれを取り巻く環境を考慮する多面的視点を駆使していたように思う。
もし私があなたと同等のそれらを備えていたら、いらないと言わずに、艤装の不調の原因が分かるまでは秘書艦としてずっとおいてくれたのかしら。
ふぅっ、と思わずため息をついてしまう。駄目ね、私。捨てられたこと、いまだに引きずっているみたい。
かつて臍部に刻まれ、彫り師さんに消してもらった番号と記号のタトゥーが死腔になって壊疽が始まり、子宮を圧迫されるような生理痛とは違う鈍痛を生みだしている気さえする。
生理痛といえば、理想郷への扉を開けに向かった時に念のためにと多く持っていった1相性のLEP(低用量エストロゲン―プロゲスチン)製剤が少なくなってきているから、後で処方してもらわないといけないわね。私の場合、連続服用が上手くいけば月経が3〜4ヶ月に1回になるもの。
戦場では油断、慢心が己の命を喰らう。最前線なら尚更。体調不良を理由に出撃を代わってもらうことはできるが、緊要な作戦時にはそうはいかないこともある。
敵はこちらの事情を汲んで攻撃の手を緩めてはくれない。むしろ好機だと狙い、襲ってくる。だからこういう自己管理は大切なことよ。
……持ってきたLEP製剤、ある意味密輸品よね。
そうだ、受診を兼ねて先生の様子も見にいこうかしら。
この世界だと初診になって既往歴が分からないからスクリーニングが必要になり、半年に1回は凝固検査を受けなければいけないから、その時に先生と偶々会っても仕方ないこと。
なんて。牽強附会よね。あまりに脆く酷い理屈は笑えもせず、ただ己の知識の未熟さを表すだけだわ。
「ため息なんて、どうかしたの荒潮さん。何か悩み事でもあるのかい?」
そんなことを考えていると、右足を軸に反時計回りで鋭く振り返りながら、彼女は烏山提督越しに尋ねてきた。
左腕を伸ばした回転で袖が舞い、赤褐色の枯蔓模様がKの中で揺らめく。そのまま烏山提督に当たると思ったが、しかしその反転を分かっていたかのように、彼はすでに歩みを止めていた。
「雲林院、危ない。前みたいに足を滑らすぞ。」
「そうしたらまた抱きとめてくれるでしょ。これは信頼しているってことだから喜ぶべきだよ、烏山。それで?」
半ば諦め、半ば心配といった感じの小言を、女は揺らめいた枯蔓みたいに適当に流しつつ、黒曜石の瞳を私に向けてくる。次いで烏山提督が反転する。ため息が聞かれちゃってたみたいね。
482 :
◆6yAIjHWMyQ
[saga]:2019/07/07(日) 03:43:49.47 ID:ByD7gWb6O
さて、一体どのようにかわそうかしら。
実は、私は前の世界であなたに捨てられた艦娘で、この世界であなたにまた出会ってしまったせいで当時のことを思い出して気が滅入っちゃったから無意識にため息が出ちゃったのよ〜、なんておめでたい事は言えないものねぇ。
体から寒さが消えていったのは、屋内に入って冷たい風に肌を触れられなくなったが故に。
けれどこれだけでは暑熱の気に当てられたかのように段々と体が熱くなっていく理由として弱いわ。
知恵を絞るために脳血流量を増やそうとして脳循環が加速しているからかしら。
それとも彼女の何かを期待しているような、黒い太陽めいた眼差しが、私を焼き焦がそうとしているから……。
訳もはっきりせず、耐えきれなくて逃げるように視線を下方へ逸らす。蜘蛛の巣柄の帯が目に入った。
如月なら黒体輻射のせいよねと冗談を言うだろうか。
そうしたらきっと私は、彼女の眼球が私の体を温かくする程の熱を獲得するまでに熱変性を起こして機能を失うわねぇと答えるだろう。
そして如月は分子シャペロンを投入すれば良いんじゃないかしらと応じて、私は分子シャペロンの話から派生して蛋白質という日本語はオランダ語のeiwitから訳されて誕生したという説もあるのよねぇと返しながら、今日は何か卵料理を作ろうかしら〜と鼻歌交じりにステップを踏んで、この場を去れるのに。
思考を幾分か横道に逸らしたおかげで、リストが作曲した内の一つ、『孤独の中の神の祝福』――私が精神の調整に使う一曲――を聴いているときのように、心が落ち着いてきた。
すると熱気を感じることはなくなっていた。錯覚って厄介ね。
視線を上げ、私を見込む瞳と対峙する。
右。左。右。三歩前進しつつ、下から腕を組む姿勢を一瞬だけ取る。
その勢いで右腕だけ肘から先を回して、手首を内側に曲げたまま肩の高さまでもってくる。人差し指をピンッと立て一拍置く。
指先に二人の視線が集まったのを確認してから、一指を顎の横に添える。
「そんなに大層な事じゃないわぁ。ただすこ〜し気になることがあるのよねぇ。こ・れ。消火器なの?」
視線の集う指を闇照らす行燈に向ける。彼女は行燈へ近づき持ち上げる。すると中には消火器があった。
「これはね、格納箱だよ。消防法で設置義務はどこの鎮守府や警備府等にもあるんだけれど、消火器のあの鮮烈な赤色を剥き出しにされるのは、この鎮守府には似つかわしくないからさ。苦心したよ。」
「そんな風になっているのねぇ。行燈にしか見えなかったから消火器って文字に疑問が出ちゃって。答えが浮かばなかったわぁ。」
満足そうな笑みを浮かべながら女はうんうんと頷く。
「そっかそっか。うん。今日の会合は半プライベートなものだからね。気になることは臆することなくボクらに問いたまえ。ね、烏山。」
「では小生から一つ。今回の話し合いの場に曙君を引っ張ってくるのに何を使った?」
烏山提督は鳶色の瞳を彼女に向けた。あなたが質問するの?
「図書券を使ったよ。烏山との会合で護衛をしてくれたら図書券とお食事券のどちらか好きな方をあげるって。そしたら即座に図書券欲しいって乗ってきた。何か欲しい本でもあったのかな?」
ねぇ、もうひとつ聞いてもいいかしらと私は言う。女はひとつと言わずいくつでもと答えた。
「烏山提督から二人とも上層部の人間と聞いたのだけれど、具体的にはどこの地位にいるの?」
女はゆっくりと首を傾げた。1秒経過。ふっと息を吹いたかと思うと袖で鼻から下を隠し、体を小刻みに震わせた。
笑っているような泣いているような声が漏れて聞こえる。おかしい質問だったかと自分の言動を振り返るが、何も思い当たらない。
「はぁあっ、ははっ。いや、ごめんごめん。ちょっと面白くて。さて、希望通りに答えようか。烏山は人事のトップだよ。要望を取り入れながらこの人間はここ、この艦娘はここという感じに配置の計画を立てたり、提督採用試験の面接とかが仕事だね。」
女神のような微笑が彼女の口角に浮かんだ。
「そしてボクはね。大本営のトップ、いわゆる元帥だよ。」
483 :
◆6yAIjHWMyQ
[saga]:2019/07/07(日) 03:49:18.54 ID:ByD7gWb6O
一旦ここまで
間ではなくIF ずっと仕事が立て込んでて中々書けない
484 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/07(日) 15:23:52.49 ID:RXOibRwDO
おつです
元帥というと本編の元帥と同一人物なんだろか
あっちは普通に老人のイメージで読んでたけど
485 :
◆6yAIjHWMyQ
[sage]:2019/07/07(日) 16:15:03.97 ID:5gdd/6kiO
>>484
本編の元帥は幹部さんから「彼」と呼ばれていますから、同一人物ではないですね
また、これはIF物語なので設定は本編の最初の方を準拠しています(個人的な好みの問題ですので悪く捉えないでください)
例えば退役はなく、解体は瑞鶴の最初の話通りに艦娘が人間になることのみを指します
486 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/07(日) 16:49:36.26 ID:RXOibRwDO
>>485
なるほど…
ありがとうございます
設定を自分の中で固定して書くというのもアリだったかあ…
487 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 01:28:29.73 ID:qkqheJjDO
>>475
から
「つまり貴女が最初に亡くなったあの…」
潜水新棲姫「そうだ。だからと言って、あのワタシが偽物という訳ではないがな」
「そうなんですか?」
潜水新棲姫「記憶を保存した以降の事以外は同じだ。出来る限りその差異を小さくする為にギリギリまで粘ったが」
「粘った?」
潜水新棲姫「ああ、ワタシが整備士の元に向かったのは殺される一週間程前か。往復する体力を残しておかなければ意味が無いからな」
淡々と話す小さな深海棲艦に私は更に疑問をぶつける
「…いったいいつから見ていたんですか」
潜水新棲姫「ん?結構前からだな。最初は色々見て回っていた。まさか死後の世界が実在しているとは驚きだ」
持ち前の好奇心で辺りを散策していた彼女がこの場所を見付けるまで時間はそれほどかからなかったようだ
「だったら入ってくればよかったのに…」
潜水新棲姫「…漣が居たからな」
私がそう言うと潜水新棲姫は落ち込んだ様子でボソリと呟いた
488 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 01:30:14.22 ID:qkqheJjDO
潜水新棲姫「ワタシの最大の誤算だったよ、まさか漣までこちらに…あんなにも早く来ていたなんて…」
「…予想出来なかったんですか?」
潜水新棲姫「…ショックを受けて落ち込みはするだろうがテイトクや仲間が支えてくれるだろうと思っていた」
「実際は支える暇もありませんでしたが…」
漣さんは良くも悪くも思い立ったら即行動の傾向がある。これまで見ていて誰かが気付いても既に結果が出た後な場面はいくつもあった。それよりも…
「貴女は自分自身と漣さんの想いを過小評価していた。自分が居なくなっても大丈夫だろうと」
潜水新棲姫「…そうだな」
見るからにしょんぼりしてしまう潜水新棲姫。むう…これでは私がいじめているみたいだ
「と、とにかく漣さんを見て貴女は隠れていたという事なんですね」
潜水新棲姫「…ああ、ここでワタシに会ってしまえばあいつは帰る意志を完全に捨て去るだろう。あくまで漣には生きて幸せになってほしいんだ」
そして漣を幸せにする役目はあのワタシに譲る。今ここに居るワタシが罪を担うと曇りの無い目をして言う
深海棲艦とは何なのだろう。これほどまでに純粋で強い。どうして彼女達と戦争なんてする羽目になったのだろう
489 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 01:31:36.23 ID:qkqheJjDO
「あちらの貴女も貴女なのは解りましたが…もし誰かがオリジナルがここに居るのに気付いたら…」
潜水新棲姫「あのワタシだって自分を偽物などとは思っていない…はずだ。どちらにせよ確かめようは無い」
可能性があるとしたらあの日進さんが教えるくらいだが、彼女がそんな事をするとは思えない
潜水新棲姫「何か不都合が起きでもしない限りはな…」
「どういう事ですか?」
潜水新棲姫「他に頼れる相手が居なかったから仕方無いが、ワタシは根本的にはあの整備士という男を信用してはいない」
「何度も助けてもらっているんですよ?悪い人には思えませんが…」
潜水新棲姫「ああ、善人なのは間違いないだろう、善人すぎて疑う余地は無い」
「だったら…」
潜水新棲姫「あの男に会った時、何とも言えない気持ち悪さを感じた、上手く言えないが…周りに居る艦娘達からも妙な雰囲気を感じたんだ」
これまで見てきて…という程には整備士さんの事には大して興味も無かったが、そんな変な感じはしなかったように思う
490 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 01:33:18.49 ID:qkqheJjDO
潜水新棲姫「はっきり何処がとは言えないが直感的にあまり関わりたくないと思っただけだ。その勘が外れていれば問題は無いが…もしも自分達に都合の良いように何かを仕込まれている可能性もゼロではない」
「それは…」
整備士さんは正常に戻したとは言っていたがタシュケントの人格を弄り、早霜を無力化した。それも結局は人手が欲しいという理由で
それが全てではないだろうが彼らは自分達が正しいと信じて他者の人格すら変えているのだ。それは今回が初めてとは限らないのかもしれない
【こほん】
と、それまで無言で私達のやり取りを見ていた富士さんが咳払いで自らの存在をアピールしている。別に忘れてはいませんよ、ちょっとくらいしか
潜水新棲姫「富士か…オマエにも言いたい事があったんだった」
【なにかしら】
潜水新棲姫「漣を救ってくれてありがとう。一度ならず二度までも」
そう言ってぺこり、と頭を下げる潜水新棲姫に富士さんは驚いた顔をする。何だか居心地が悪そうに
【…一度目は救ったというより単に見逃しただけよ。二度目はせっかく見逃したのに死なれたら寝覚めが悪いと思っただけ。深海棲艦にお礼を言われる筋合いは無いわ】
491 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 01:35:02.30 ID:qkqheJjDO
潜水新棲姫「それでもだ。大切な人がああして生きているのを見られたのは富士のおかげなんだ、ありがとう」
【…そう】
富士さんそう言ってそっぽを向く。ああ、耳が赤い…やっぱり慣れてないんだこういうの
「それはそうと…」
私は再び映像に目を移す。漣さんと甦ったもう一人の潜水新棲姫の姿。しかし二人はあくまで他人行儀なやり取りを繰り返している
「別人として扱えとか割りと無理がある条件ですね」
潜水新棲姫「ワタシは人を殺している。幸せになる資格は無い」
「だけどあの貴女とこちらの貴女は違う」
潜水新棲姫「そうだな…もしかしたらという期待も少しはあったが…」
「それはどういう…」
潜水新棲姫「記憶のインストールは死者蘇生などではないという事だ。言ってみればクローン、コピー体、そんなようなものなのだろう」
「そんな…じゃあ一度死んだら…」
潜水新棲姫「当たり前といえば当たり前だな。死んだものは甦らない。甦ったように見えてもそれは…」
別人だ。とはさすがに口に出しては言えなかったようだ。それを認めてしまったらつまり自分のやった事は無意味という事になる
潜水新棲姫「…さっきも言ったがだからといって偽物ではない、それは確かだ。同じ記憶、同じ人格、限りなく近い魂…ならばもうそれは本物だろう」
492 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 01:37:15.20 ID:qkqheJjDO
「貴女は…」
それでいいんですか?と問いかけようとした言葉を飲み込む。…いい訳がないのだ。それでも彼女はそれを選んだ
潜水新棲姫「とにかくだ、今となってはこちらから出来る事はもう何も無い。あとはあちらのワタシに任せるしかない」
「でもあんな状態では…」
潜水新棲姫「そうだな…正直失敗だった気もする。あれでは復活させた意味が無い」
大切な人と触れ合えない寂しさは二人にかなりの負担になっていた。泣きながら独り眠る。そんな日々が数日続いた
周囲からの説得にも聞く耳を持たないあちらの潜水新棲姫。あくまで自分は別人として振る舞っている
潜水新棲姫「まったく…頑固な奴だな」
「自分の事じゃないですか…」
潜水新棲姫「まあそうなんだが…こう客観的に見せられると良くない部分も見えてくるものだな」
「…後悔していますか?」
潜水新棲姫「ワタシの償いの犠牲にするつもりなどはもちろん無かったが…結果的にそうなってしまったな…」
そんな時見かねた重巡棲姫さんが説得に乗り出した。漣さんも同じ罪を犯していたのだと、そしてその後既に報いを受けたと
そして一度は殺された潜水新棲姫も同様に罪の清算は済んでいるのだと
493 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 01:40:03.07 ID:qkqheJjDO
潜水新棲姫「やはりそうなのか…漣も人を死に追いやった事が…」
「今の彼女にはその記憶は無いみたいですけどね」
潜水新棲姫「その後薬漬けにされ手足を継ぎ接ぎされ…そしてワタシのせいで一度は死んだ…」
「命の重さなんて私には語れませんが…おつりが来てもいいくらい酷い目にあっていると私には思えます。そして貴女ももうこれ以上償う必要は無い」
潜水新棲姫「そうなのか…そうか…そう…」
そもそも私達は戦う者。奪った命は少なくない。敵対する艦娘や深海棲艦は殺しても罪ではないなんて都合が良すぎる
それのひとつひとつに償いにと死んでいたら命が幾つあっても足りない
だけどそれを今更彼女に言っても意味は無い。むしろ更なる苦悩を与えてしまうだろう
潜水新棲姫「これでようやく…終わったんだよな…?」
「ええ、あとは幸せになるだけです」
潜水新棲姫「そうか…そうか…」
「!…身体が…」
潜水新棲姫の身体が僅かながら薄れている。これはつまり…
【成仏する手前ね】
それまで黙って見ていた富士さんが口を開いた
494 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 01:43:29.91 ID:qkqheJjDO
【そのまま受け入れれば貴女は輪廻の輪に入れるわ】
潜水新棲姫「ワタシは生まれ変われるのか…?しかしワタシは人を…」
【殺したから地獄行き、そんな単純なものじゃないのよ。少なくとも貴女の心根は純粋で充分にその資格がある。…それにやっぱり直接手にかけたかそうでないかは大きいのよ】
潜水新棲姫「そうなのか…だがワタシはまだ成仏するつもりは…」
そう言って彼女は映像を見る。そこには漣さんがあちらの潜水新棲姫に指輪を渡している姿
その漣さんのとても嬉しそうな顔を見て
潜水新棲姫「よかったな…漣…遠回りをさせてしまってすまなかった…」
そうして涙を流す。嬉しさなのか寂しさなのか、その涙の意味は私には判らなかった
495 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 01:46:55.51 ID:qkqheJjDO
潜水新棲姫「おい、読み終わったぞ。続きはどこだ?」
「…どうぞ」
潜水新棲姫「しかしここには漫画ばかりだな、まあ嫌いではないが、専門書なんかも用意してほしいな」
【…今度持ってくるわ】
潜水新棲姫「ああ、そのついでに甘味も頼みたい、死んでも食べられるのかは知らんが。テイトクの作ってくれたすいーつがもう食べられないのは残念だな」
「あの…」
潜水新棲姫「ん?どうした二人共、そんな微妙な顔をして」
「流れ的になんかもう成仏する感じになってませんでした?」
潜水新棲姫「流れ?よくわからんがワタシはまだ成仏するつもりは無いと言わなかったか?」
「言いましたけど」
潜水新棲姫「漣と鎮守府の事はあのワタシに任せたし、罪の清算も済んだ。ならあとはワタシのやりたいようにする。まだまだこの世界も隅々まで回ってはいないしな」
「はあ」
【この切り替えの早さも深海棲艦特有なのかしらね…】
色々と吹っ切れた様子で再び漫画を読み始める潜水新棲姫。薄れていた身体もいつの間にか元に戻っていた
私だってある程度吹っ切るまで結構時間が掛かったというのに…
496 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 01:50:30.46 ID:qkqheJjDO
ようやく立ち直った漣さんが次にした事は確認だった
それは自分が殺したかもしれないかつての龍驤さんの浮気相手が今どうなっているのか。しかし龍驤さんも分からないという
忍への暗殺依頼という事から専門家である由良さんに協力を頼むとあれよあれよと事実が明らかになっていく。さすがは本職だ
潜水新棲姫「その野良の忍という奴は勝手に龍驤に手を出したからか何かをやらかして消されたという事なのか?」
「漣さんの依頼が無くとも殺されていた可能性は高いみたいですね…」
潜水新棲姫「となるとだ…漣が殺したというには少し微妙にならないか?」
「う〜ん…利用されたというか…たまたまそこに居た人に擦り付けたとも見えなくもないですが」
この場合、漣さん次第なのかもしれない。依頼にかこつけて利用されただけ、いやむしろきっかけにはなったのだからやはり殺したのは自分…記憶の無い彼女がどう思うのか私には判らないが
潜水新棲姫「やはり成仏しないでいて正解だな。まだまだ危なっかしくて安心してられない」
「そうですね…私も気がかりが多すぎて目が離せません」
例え見守るしか出来なくとも、それでもあとは知らないなどと放っておいて成仏なんて出来やしないのだ
497 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 01:52:05.72 ID:qkqheJjDO
『おー?新しいお客様だねー』
「あ、おはようございますY子さん」
寝ていたY子さんがようやく起きてきたようだ。前に出掛けて帰ってきてから妙に疲れていたようでそれはもう爆睡だった
潜水新棲姫「…」
「あれ?新棲姫さん?」
何故か潜水新棲姫…いい加減長いので新棲姫さんと呼ぼう。彼女は私の後ろに隠れている
潜水新棲姫「見ていたから知ってる、あいつのデコピンはものすごく痛い」
『あっはっは。別に何もしないよ〜こっちおいで〜』
そう言いつつ手の形をデコピンにしているY子さん。まったく…彼女はこういう悪ノリが大好きなのだ
「Y子さん…子供に対してあんまり怯えさせるのは…」
潜水新棲姫「ワタシは子供じゃない。それを言うなら朝潮だってあんまり変わらないじゃないか」
『あたしからすればどっちも変わらないけどね〜』
まあY子さんや富士さんは私より遥かに年上なんだろう。つまりおば
ビシィ!
「あああああああああ」
潜水新棲姫「ひっ」
額を押さえて悶絶する私。口には出してないのに…
498 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 01:53:35.49 ID:qkqheJjDO
『なーんか失礼な事考えてる気がしたんだよね〜』
【まったく…そんな事してるとますます怯えさせるわよ…】
呆れたように溜め息を吐く富士さんが私のおでこを擦ってくれるとみるみる痛みが引いていく
『まあ変な事しなければ別にあたしは何もしないからそんな怯えなくていいよ実際』
潜水新棲姫「あ…ああ、解った」
まだおっかなびっくりの様子でY子さんの前に出ていく新棲姫さん
バッ
潜水新棲姫「ひっ」
サッ
潜水新棲姫「はぅっ」
「…何やってるんですか」
手を振り上げたりして反応を見て遊んでいるY子さん。やってる事は子供だと彼女から距離を取って思う私
しまいに新棲姫さんは再び私の後ろに隠れてしまう
潜水新棲姫「こいつきらいだ…」
【ほら…言わない事じゃないわね…】
『あっはっは。ごめんごめん、悪気はちょっとしか無いからさ〜』
何だか起きてから絶好調なY子さんだった
499 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 01:55:01.71 ID:qkqheJjDO
【さて…私はそろそろ戻るわ。長居しすぎたわ】
「戻るというと漣さんの中に?」
【ええ、本人がもう戻ったのに私がいつまでもここに居ても仕方無いしね】
『ふふふ…休憩だとか色々理由を付けてたけどここに留まってたのは漣の様子を見る為だもんね〜?』
「ああ…やっぱり」
【やっぱりって何よ!別に私はそんなつもりは無いわ!休みすぎたと思っただけよ!じゃあね!】
そう捨て台詞を残し姿を消す富士さん。ばっちり見た、顔が赤かった
『ツンデレだねぇ』
潜水新棲姫「ほう、あれが本に書いてあったやつか、初めて見たぞ」
相変わらず私の後ろに隠れたままの新棲姫さんが感心したように言う
Y子さんに対して何やら苦手意識があるようだけど、まあいずれ慣れるだろう
そんな時、点けっぱなしにしていたモニターから哄笑が響き渡った
500 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 01:56:43.11 ID:qkqheJjDO
「あれは…朝霜さん…?どうして刃物なんか…」
刃物を片手に笑う朝霜さん。その正面には腹部を押さえて苦し気に後ずさる霞
潜水新棲姫「刺した…のか?朝霜が霞を?いったい何故だ…」
喧嘩というにはあまりにも異質な雰囲気だ。というか朝霜さんなら喧嘩になった時に刃物なんて使わないはず
『中身が違うねぇ、あの朝霜乗っ取られてるよ』
それはいったい…と聞くまでも無く朝霜さんが普段とは違う口調で喋り出した。この話し方は…
「早霜…?でもどうして…死んだはずなのに…まさか怨霊?」
『そういうのではないみたいだねぇ』
追い詰められた霞が艤装を展開、砲を向ける。痛みのせいか狙いが定まっていない。あれでは避けられる可能性が高いが…そもそも正面から撃ったところで大人しく食らってくれる相手でもない
『二分の一かぁ、ギャンブルだねぇ』
「え?」
『いつだったか相手を完全無力化する弾頭を明石に作ってもらってたんだけど二発ある内の一発は不発弾なんだよねぇ…』
「ええええ!?」
なんでそんな…と聞く暇も無く霞が砲を発射、それをいとも簡単に弾く早霜、しかしその瞬間弾頭から霧のようなものが噴出してそれを吸い込んだ早霜が倒れ込む
501 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 01:58:57.31 ID:qkqheJjDO
『どうやら当たりを引いたね。運が良いみたいで良かったねぇ』
「早霜は動けなくなったようですね…外れがあるなんて霞は…」
『知らないだろうねぇ。知ってたらこんな土壇場で使わないんじゃないかな』
霞は気合いと根性で自らの止血と応急処置を終らせそして動けなくなった早霜までも自分で縛り上げた
「割と重傷のように見えますけど凄まじい執念ですね…」
『霞は自分が居なくなったら鎮守府がどうなるか誰よりも理解してる、何があっても死ぬ訳にはいかない立場だって』
「霞レベルの薬剤師でしかも理解がある艦娘なんて他に居るとは思えませんしね…」
早霜もそれが解っていて真っ先に霞を狙ったのだろう。つまり今回は本気だった、撃退出来たのは本当に運が良かったのだ
そうして早霜は磔にされた状態で司令官達と対面する。しかし朝霜さんを人質に取られているも同然のこの状況では迂闊に手出しは出来なかった
そこで漣さんとレ級さんが直接朝霜さんの精神世界に乗り込み早霜を消そうとしたがそれも失敗に終わった
「身体だけでなく朝霜さんの精神まで人質に取られている…これではどうしようも…」
潜水新棲姫「そもそも早霜は何故今更出てきたんだ、死んでから大分立っているというのに」
『自分の死後一定期間後に朝霜の中で目覚めるよう仕込んでいたんだよ、自分の脳の一部を食べさせる事で強力な…呪いのようなものをね』
502 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 02:01:06.30 ID:qkqheJjDO
「のっ…!?」
潜水新棲姫「自分の頭を開いてか、よく生きていたな」
『何かそういう特殊な技術でも使ったんじゃない?あたしは見てないけど』
「なんでそんな話題で普通に進めているんですかね…」
そうして攻めあぐねている最中に漣さんが整備士さんに相談の電話をしていた。何やら要領を得ないようで漣さんがぶちギレて電話を切ってしまっていたけど
早霜は朝霜さんを道連れに自殺を仄めかしていたからあまり猶予は無い
そんな中、整備士さんの指示で深海吹雪さんがひとつの注射器を携えてやって来た。そこには改心した早霜の人格がデータとして入っているらしい
「それを注入してあの早霜にぶつける…それって上手く行くんでしょうか…」
『能力的には互角、精神世界でならより意志の強い方が勝つ。改心したっていう想いの強さが本物かどうか』
朝霜さんの精神世界で対峙する二人の早霜、姿形は同じ、しかしその表情はまったく違っていた
片や狂気と殺意に溢れた以前の早霜、片や何かを決意したような、快楽の為に殺人を繰り返していたとは思えない雰囲気の早霜
その勝負はあまりにもあっさりとしたものだった
503 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 02:03:45.45 ID:qkqheJjDO
『あの早霜は本当にずいぶん前に仕込まれたものだったようだね、だから今の早霜の技も知らないで簡単に決まった。始めから勝負は見えてた』
梟挫…初めて見たのは川内さんが由良さん相手に使った時だったか、相手の攻撃をそっくりそのまま返すカウンター技らしい。それを早霜も使えたのか…
始めから殺すつもりだった以前の早霜はそれをまともに返され一撃で倒された。そして――
「二人が同化した…?いったい何を…」
『昔の自分もろとも死ぬつもりだね。漣がやったような精神の自殺からの無理心中』
そうか…あの決意した表情はつまりそういう事だった。生前も一貫して自らのけじめを付けようとしていた。再び意識を持てたとしても生きるつもりなど無かったのだ
「最初から死ぬ為に…」
『…早霜は自分の性質に悩んでいた、だけどどうにもならないといつしか諦めて考える事を止めてしまっていた。整備士に捕まってもう一度省みるきっかけを得てようやく本来の早霜を取り戻した』
「出会い方がもし違っていたらあの早霜も仲間になっていたんでしょうかね…」
『そういう世界もあったかもしれないね…』
そうして―――
早霜という存在はこの世界から完全に消えた
504 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 02:06:35.99 ID:qkqheJjDO
自らの中で早霜が消えた事を悟った朝霜さんが涙を流しているのを司令官達は慰めている
『まああの早霜が自殺を図らなくとも自然に消えていたんだけどね…』
「え…」
潜水新棲姫「それはあるな。あの男の事だ。上手く行ったとしても朝霜の中に早霜が残り続けるようにはしないだろう」
「…あくまで使い捨てだと?」
潜水新棲姫「元々インストール用に作った訳でもない身体に他者の精神がいつまでも残留する、しかも朝霜にとってはトラウマを植え付けた張本人だ」
『まあねぇ…いくら味方になってるとは言え悪影響を考えれば当然かもねぇ』
「でもあの朝霜さんは早霜が消えた事を哀しんでいます…」
潜水新棲姫「酷い目に遭わせた相手でも憎み切れなかった…そういう事か…人の心は複雑だな…」
新棲姫さんはまだ自分には解らない事だらけだと腕を組んで考え込む
『ところで話は変わるけどさー、あたしの部屋にあった漫画がいくつか無いんだけどー?』
潜水新棲姫「む?それならワタシが借りている」
『お?新ちゃんは漫画好き?』
潜水新棲姫「新ちゃん…」
『朝ちゃんは鎮守府の事ばっかりであんまり漫画読まないからさぁー、話が通じないんだよー』
「はい、朝ちゃんです」
505 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 02:09:12.05 ID:qkqheJjDO
潜水新棲姫「まあ気持ちは解らないでもない。ワタシも読んだ本の話が出来るのはガンビアベイくらいしか居なかったからな。漣も漫画オンリーだった」
『じゃあちょっと読みながらお話しよー』
潜水新棲姫「まあ構わないぞ」
最初あれだけ怯えていたのにもう普通に対応している…あの順応性の高さはさすがだと思う
漣さんが帰ってしまって少し寂しくなるかと思っていたけどまだしばらくはそうはならないのだろう
「朝ちゃんでした」
潜水新棲姫「なんだ急に」
506 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/08(月) 02:11:40.00 ID:qkqheJjDO
ここまで
終盤の盛り上がりに出来たら追い付きたい
507 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/08(月) 09:10:58.82 ID:8RHBQaq4o
おつです!
こっちも本当に楽しみになってる
これからの展開富士さんやY子さんがつらいかもしれないがそんな時は朝潮が支えてあげるなんて事もあるのかな
508 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/18(木) 05:00:42.27 ID:bgBXNCBDO
>>505
から
「お酒ですか」
『へー新しいお酒かあ…でもあたしはワイン派なんだよねぇ』
潜水新棲姫「露の雫か、まあ悪くないセンスだな」
ある日の事、ガングートさんの旦那さんである孫さんが新作の日本酒の名付け親になってほしいと司令官に頼んでいた
お酒に弱い人でも美味しく飲めるものを目指して作られたらしい。どんな味なんだろう、私はお酒は飲んだ事は無いがちょっと気になる
孫さんの作るお酒は鎮守府周辺の街では割と有名で雑誌の取材にも何度か取り上げられていた
「しかも美人のロシア人艦娘の奥さんまでいますから。凄く写真映えしていましたね」
夫婦揃って取材を受けていたガングートさんはガチガチに緊張していて端から見たら怒っているようにも見える
だけどそれが逆にクールな印象を与えて雑誌を見た女性読者がファンになってお店に集まったりした事もあったようだ
「接客モードのガングートさんはなかなか面白…素敵でしたね」
潜水新棲姫「もうすっかりあの街の顔のようになっているな。所属している鎮守府の風評被害もあの街の住人はデマ…でもない部分もあるが…」
「ええ、ガングートさんが結構訂正したりしてくれていたようで、理解してくれていますよね」
ガングートさんはあの鎮守府の言ってみれば公報担当みたいな役割をいつの間にか担っていた
そのおかげで周辺住人との関係は結構良好なようだった。普通の一般人は軍施設を嫌う傾向が強い、他の鎮守府でもそれはもう頭を悩ませているらしい
509 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/18(木) 05:02:13.06 ID:bgBXNCBDO
そして孫さん渾身の新作の日本酒の発売日。お店の前には長蛇の列、ざっと百人以上は居るだろうか
「すごい列ですね、中には艦娘も居ますね、あれは村雨さんかな?」
『あ、お姉ちゃん』
「…は?」
潜水新棲姫「何処だ?見当たらないが…」
富士さんは黒髪に黒着物とある意味とても目立つ。というか実体は無いはずでは…
『あそこ、あの黒髪の艦娘、確か三日月だったかな?』
「ああ、よく見たら表情とか富士さんですね。そういえば富士さんってお酒飲むんですか?」
『飲むよー。あれでお姉ちゃんお酒大好きだからね』
「今までそんな素振りは見た事ありませんでしたから知りませんでしたが」
『以前はよく飲んでたかな、丁度あの鎮守府と関わり始めるまでだったかなぁ』
「どうしてでしょう…」
『さぁねぇ…さしずめお酒で酔っ払う姿を見せたくないとかじゃないかな。本格的に我慢するようになったのは朝ちゃんがここに来てからだし』
510 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/18(木) 05:03:55.80 ID:bgBXNCBDO
『でもよっぽど我慢出来なかったんだろうねぇ。お姉ちゃんあそこのお酒の大ファンだから。新作と聞いて居ても立ってもいられなくなったと見た』
「それであの艦娘の身体を借りてまで列に並んだと…」
『この世界で唯一お姉ちゃんが割と自由に身体を借りられる相手だからね、あの三日月は。かと言ってあくまで利害の一致で協力してるらしいけど』
「唯一なんですか…?」
『…これだけ時間があって協力者はたったの一人、お姉ちゃんのコミュ障っぷりと言ったら…。今はまあ二人くらいにはなってるのかな』
富士さんとの出会いはまず誤解される所から始まる。そして割と高圧的にものを言うのでそれはまあ反発を受ける。そして交渉は決裂
どうして上手くいかないのかしら…と頭を捻る姿を前に見た記憶がある
そんな話をしていると並んでいる列が解散していくのが見えた。どうやら完売したらしい
その人の中で壁に手を付いて項垂れている艦娘、三日月の姿。今の中身は富士さんなのだろう…何だかものすごく落ち込んでいるようだ
『買えなかったんだね…』
流れてもいない涙を拭う仕草をするY子さんだった
511 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/18(木) 05:05:54.67 ID:bgBXNCBDO
お酒の話からかの国が動き出した。まあそれは単なるきっかけだったのだろうが
「未だにガングートさん達を諦めていなかったんですね…しかも人質まで取って」
大きい方のヴェールヌイさんの大切な人やその家族を人質に取り、使者として利用していたらしい
司令官達が説得するも失敗、自殺を図ろうとしている所を白露さん達に止められていた
そこに夕立さんも現れ、最悪の結果を迎えていた事をヴェールヌイさんに語る
「…彼女の旦那さんは既に殺されていた…それが人間のやる事なの…」
潜水新棲姫「仮に任務に成功してもその後利用価値が無くなったアイツは報復を防ぐ為に結局処分される。端からそういうシナリオだったのだろう」
「そんなの…おかしいです…」
潜水新棲姫「そうだな…ワタシもそう思うよ…。国という単位においては個人の情など入る余地は無いのだろうな、やり方は甚だ前時代的だが」
「そういえばこの国でも似たようなものでしたね…」
人質を取って弱味を握り、好き勝手に利用して最後には…大本営や組織の得意技だ
そしてその後夕立さんが動いてそんな命令をしたかの国の人間達も粛清されたらしい。これが正しく因果応報というやつだろう
だけど人質として殺されてしまった人は帰ってこない。唯一の救いはその人の家族は無事だったという事だろうか
ヴェールヌイさんの旦那さんはそれは勇敢な人だったのだろう。自らを犠牲に家族を救ったのだ
512 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/18(木) 05:08:50.39 ID:bgBXNCBDO
「…ところであの人は一体何者なんでしょうかね…あの国の上の方と知り合いなんて」
潜水新棲姫「夕立の事か?特務艦だからな。色々あったんじゃないか?」
「今まで見てきた限りでは外国にまで影響力がある特務艦は夕立さんくらいですけどね」
特務艦以前に夕立さん個人のパイプという可能性もあるが、そうだとしたらますます彼女の謎は深まるばかりだ
という訳なのでロシアに渡る夕立さんを追い掛けてみようという話になった
ヴェールヌイさんの手紙を無事だった旦那さんの家族に届けるという。彼女は響さん達に元気付けられ少しだけ立ち直っているようだった
「彼女の場合後を追う心配はそれほど無いみたいですね…」
潜水新棲姫「考えてみればアイツと響は近い人格なのだろう。響が自殺しない選択をしたようにアイツもそれを選んだ」
あの鎮守府に居る限り、例え魔が差すような事があってもそう簡単には自殺なんて出来はしないだろうとも思う
そして夕立さんはその手紙を携えて海を渡った
513 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/18(木) 05:11:51.24 ID:bgBXNCBDO
「すみませんロシア語はさっぱりなんです…」
夕立さんは顔見知りらしいロシア人の軍人さんと何やら話をしている。しかも流暢なロシア語で…会話の内容は解らないけれど何だか妙に…距離感が近いようにも見えなくもない
『んじゃ字幕でも出してみようか、ポチっと』
Y子さんがリモコンを操作するとテレビ画面に字幕が現れる
「わああ…何だか完全に映画のワンシーンになりましたね…。夕立さんも金髪で日本人離れした顔立ちですし」
長身の軍人さんと夕立さんの二人は凄まじく絵になっている
しかし会話の内容は特に浮わついたものでもなく単なる情報交換のようなもので少しだけがっかりした
「ヴェールヌイさんの家族の人達に手紙を渡してからわざわざ会いに行くくらいですから夕立さんの恋人かとも思ったんですが…」
潜水新棲姫「ふむ…だが夕立は妙に楽しそうだな」
「そういえば…あんなに和やかに話す彼女は珍しいかもしれません。これはもしや…ですね」
そしてどういう訳か夕立さんはなんとドレスを着て何やら物凄いパーティーに出席していた
政界、財界の大物が集まる中でこれまた夕立さんは目立っている
514 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/18(木) 05:13:48.23 ID:bgBXNCBDO
「なんですかこのせかいは」
潜水新棲姫「しっかりしろ朝潮」
国防長官だという人と話している夕立さん。それからもいかにもという貫禄を持った人達が夕立さんに挨拶している
「かのじょはいったいなにものなんでしょう」
潜水新棲姫「帰ってこい朝潮」
「はっ…!?…初めて見る世界にちょっと放心してました…」
パーティーには政治家だけでなく何だかテレビで見た事があるような俳優女優も居たような気がする。あれがせれぶというやつだろうか
そして夕立さんもまたそんな中でまったく見劣りしていない。仮にあそこに居たのが私だったらあんなに堂々としていられる自信は無い、というか逃げ出す
何人かの男性、そして女性にまで誘いを受けている夕立さんだったが終始不機嫌そうにそれを袖にしていた
515 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/18(木) 05:17:42.86 ID:bgBXNCBDO
そしてヴェールヌイさんの家族から返信の手紙と思い出の品だという指輪を預かった夕立さんは早々に帰国の途に就こうとしていた
「何だか落ち込んでいますね彼女」
潜水新棲姫「手紙は口実であの軍人とやらを連れて帰るのが目的だったようだな」
パーティーの席でそれとなく話を振られた軍人さんは自らの職務と使命を理由にそれを断っていた
「そこからですね夕立さんがずっと不機嫌なのは」
潜水新棲姫「珍しいものを見れたものだ。他人など必要無いとばかりに突き放していたアイツと同一人物とは思えないくらいだった」
「あ…あの人」
帰ろうとしている夕立さんを呼び止める人物が居た、あの軍人さんだ。かなり走って来たのか汗だくで息を切らしている
その彼は夕立さんに向かって何かを投げ渡した。どうやらそれはロケットペンダントのようだった。それを受け取った夕立さんの表情は今まで見た事が無い程に輝いていた
「素敵な笑顔ですね…本当に映画を観ているようです…」
夕日に照らされた海で彼女はそれを首に掛けて日本に向けて水面を疾走する
その時の夕立さんは特務艦でも、復讐に縛られた艦娘でもなくただの恋する女の子にしか見えなかった
516 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/18(木) 05:20:07.81 ID:bgBXNCBDO
とある朝、霞と明石さんが鬼ごっこをしていた。鬼は霞、顔も鬼
『あちゃーとうとうバレちゃったかぁ』
早霜に乗っ取られた朝霜さんを撃退する際に使った艦娘無力化ガス弾頭。二発の内一発は不発弾というギャンブル
「まあ当然怒りますよそれは、自分の知らない所で生か死かなんて仕込まれていたら」
『よかれと思って』
「なんですかその顔怖い」
その後明石さんは若干目が危ない榛名さんに捕まって逆に霞がそれをフォローするという事態になっていた
「霞の事となると榛名さんも突っ走りますよね…あのまま放っておいたら殺さないにしても…」
潜水新棲姫「まあ半殺しにはなるかもな」
「無理も無いとは思いますがさすがにそれはやり過ぎですね…」
そして今回、危ないのは当の明石さんも同様だった
明石さんは改めて浜波さんに謝罪したいと、そして自分の作った義足を受け取ってほしいと手紙を送った
それを受けてわざわざ鎮守府を訪ねて来る浜波さんは多分とてもいい人なのだろう。関わりたくないと思うなら無視すればいいし、既にもう謝罪は貰っているはずなのに律儀な人だと思う
そこからがまた大変だった
517 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/18(木) 05:23:32.78 ID:bgBXNCBDO
あまりにしつこく義足を受け取ってほしいと懇願する明石さん。浜波さんはそれに辟易しつつも口を滑らせてしまう
貴女も脚を切れと言ったら…どうするのかと。それは普通なら本気で言っているとは誰も思わない口振りだった
しかし明石さんはそれを真に受けてしまった
「何なんですかねこれは…謝罪病とでも言うんでしょうか…」
潜水新棲姫「責任感が並外れて強い者が過ちを犯してしまったらどうなるかと言った感じだな」
明石さんが走り去って行った後の浜波さんの狼狽え様は気の毒になるくらいだった
あくまで冷静に龍驤さんは浜波さんを連れてその後を追う
工厰に着くと北上さん夕張さん秋津洲さんに羽交い締めにされた明石さんが居た
「まあそうなりますよね、目の前で脚を切り落とそうなんてされたら」
本気ではないと止める浜波さんにじゃあ義足を受け取ってくれと頼む明石さん。それを断るとまた脚を切ろうとする。それをまた止める工厰組の三人
「これはもう脅迫ですね」
潜水新棲姫「許されたい、ただそれしか頭に無いのだろうな。相手の都合など考えられない状態だ」
そんな明石さんに浜波さんはどうして自分だけにそんなに構うのかと当然の疑問をぶつける
そこでようやく私は明石さんが浜波さんに拘る理由が解った気がした
518 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/18(木) 05:25:15.52 ID:bgBXNCBDO
「昔の明石さんの実験で浜波さん以外は皆死んでしまっていた…」
潜水新棲姫「つまり今の明石にとってあの浜波はすがる藁、地獄の蜘蛛の糸と言った所か」
「じゃあもし仮に浜波さんが死んでしまったら…」
潜水新棲姫「明石は償う相手を求めてあの世まで…この場合この世か?…まあいいか、追いかけていたかもな」
「確かに…それはありそうな話ですね…というかまず間違い無くそうなる気がします」
そうして自らの過去に苦しむ明石さんに浜波さんは改めて、たどたどしくもはっきりと自分はこのままでいいのだと目を見て訴えた
許すにしても義足はあった方が何かと助かるのではないかとも思ったがその理由は龍驤さんが既に見抜いていたようだった
「なるほど…脚を失った事で彼女の司令官と急接近するきっかけになったと…」
潜水新棲姫「大人しそうな顔をしてなかなかやり手のようだな」
「意識して利用したのかは判りませんが…」
潜水新棲姫「あの口振りは自らのハンデを利用してアイツの提督を手に入れたように聞こえるがな」
争奪戦に勝った、彼女はそう言った。おそらくは新棲姫さんの言う通りなのだろう
「なんだか…あちらの鎮守府も結構大変そうですね…色々と」
男性が絡むと女は変わる。良くも悪くも。浜波さんが刺されたりしなければいいけどと私は思った
519 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/07/18(木) 05:27:10.65 ID:bgBXNCBDO
それを聞いた明石さんが口を滑らせてしまったのに浜波さんが食い付いて恋バナに雪崩れ込んでいく
判らないが、もしかするとそれも浜波さんは空気を変えようとしてそうしたのかもしれない
「なかなかの…ですね。勘違いでなければ」
しどろもどろになりながら明石さんは自分の恋愛事情を話していく。浜波さんがお願いした事を明石さんは断れないようだった
「惚れたではなくこれは切った弱みというやつですかね」
潜水新棲姫「なんとも物騒な関係だな」
「足で…そういうのもあるんですね」
潜水新棲姫「朝潮はした事無いのか?」
「どうでしたっけ…手とか口とかばかりだった気がします」
足でなんていうのは多分信頼関係が無いと無理なのではないだろうか。私の場合は搾取される側で、足なんて使ったら殴られていたと思う
「それはともかく…Y子さんは…寝てますね…」
『いずれわかるさ。いずれな』
「わかりませんよ…何ですかその寝言は」
暇そうにしていたY子さんはこたつ(!?)に突っ伏していつの間にか居眠りをしていた
顔はそのままだった
520 :
◆B54oURI0sg
[saga]:2019/07/18(木) 05:28:56.31 ID:bgBXNCBDO
ここまで
結局ペースを上げられず申し訳ありません
521 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/18(木) 13:03:59.34 ID:yupo3afNO
おつ
書けるだけ凄いと思うから頑張って欲しい
522 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/07/18(木) 20:21:38.55 ID:ogBB2rHmO
質問です。
ここに足りないものSSの支援絵を貼っても良いでしょうか。
もし問題があるようでしたら、別の方法で発表したいと思いますので、ご意見を何卒よろしくお願いいたします。
(いつもはROM専で、書き込むのが始めてで勝手がわからず、申し訳ありません。)
523 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/18(木) 20:22:44.92 ID:ujYhQgnGO
いいんじゃないかな?
524 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/21(日) 09:02:05.52 ID:DBn79+KFO
ありがとうございます。
描けたら書き込みさせて頂きます。
龍驤の支援絵を描いた時、みなさま沢山のご感想をありがとうございました。お礼が遅くなって申し訳ありません。
525 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/22(月) 02:57:17.82 ID:tGkzPo/BO
作者さんが更新できない今こそ外伝で繋ぐべきなんだけど自分ではなにもできない
字や絵が書ける人を尊敬します、頑張って下さい
526 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/08/18(日) 23:46:02.19 ID:FZimaR7A0
ふと思い付いたので少し
漣「さてこれをどうしますかね〜」
漣達の前にはショートケーキが一つ。提督への客人が手土産としてケーキをを持ってきたので、それを秘書艦や偶然近くに居た艦娘で分け合った。その結果ケーキが一つだけ余ってしまったのだ
響「司令官にとっておくのはどうなんだい?」
龍驤「あの人やったら食べたかったら自分で作るって言うで」
そうですよねえと漣は頷く。提督の分を残さないでいいのならやはり最後の一つは誰かのものになるのだ
潜水新棲姫「この人数なら分け合っても一人分は少ない」
龍驤「ショートケーキを四等分しても美味しくないわなあ」
ここは公平にじゃんけんで決めましょうと漣が提案するが響がそれに待ったをかける
527 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/18(日) 23:48:18.82 ID:FZimaR7A0
響「どうせなら勝負で決めないかい?」
潜水新棲姫「こんなことで演習をするつもりか」
そうじゃないよと響は否定する。じゃあどうやって、と漣が質問するとルールは後で説明するからまずは順番を決めようと言う
漣「じゃあこれは順番決めのじゃんけんです。最初はグー」
じゃんけんの結果一番は響で二番は漣となった。龍驤と潜水新棲姫の三番手決めをしている所に提督が執務室に帰ってくる
提督「何をしていたんだ?」
響「ちょうどいい所に帰ってきてくれたね。それじゃあ私からいくよ」
どういうことです?という漣の質問に答える前に響は行動に移す
528 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/18(日) 23:49:23.96 ID:FZimaR7A0
響「にゃあん」
どこからか取り出した猫耳を装着し猫ポーズをとる響。それを見た提督は前屈みになりながら部屋の隅に移動する
響「司令官を勃◯させたら勝ちゲームは私の勝利だね」
そう言いながら響は残った一つのケーキにフォークを刺し口に運ぶ
龍驤は呆れた様子で提督を眺め、潜水新棲姫はやはり猫耳かと呟く
漣「じゃんけんで勝った人が勝つ糞ゲーじゃないですか!」
漣の叫びは虚しく執務室に響いた
また何か思い付いたら書きます
529 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/19(月) 00:49:06.21 ID:jHiuQrV6o
おつです
響くん響くん、君じゃんけんで負けたら別ゲーにするつもりだったでしょ正直に言いなさい
530 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/12(木) 08:48:44.87 ID:Gn1vPz2DO
多少涼しくなってきたのでリハビリ
>>519
から
「あの…Y子さん?」
『なぁにー?』
「こたつ…いつになったら片付けるんですか?もう夏も終わりますよ…」
『終わるならこのままでいいじゃーん。次は秋ですぐ冬だよーこたつの季節だよー』
「はあぁ…」
深く溜め息を吐く私
結局は片付ける事は出来ないのか…いくらここが暑さも寒さも無い世界とはいえ季節感完全無視の彼女はどうにかならないものか
こんなやり取りは何度目か判らないがこたつ信者のY子さんはあれこれと理由を付けて片付けを阻止してくる
結局最後は私が折れる結果になるのだ
『みかんもそろそろ準備しないとねぇー』
「はああぁぁ…」
更に深く溜め息を吐く私なのだった
531 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/12(木) 08:50:37.99 ID:Gn1vPz2DO
『ところで今日の迷える子羊は誰かなー』
「あぁ…山雲ですね。何だか危ない感じです」
もはやライフワーク…ノーライフワーク?どちらでもいいか
いつものように鎮守府の様子を見ている私達。新棲姫さんはY子さんの反対側でこたつに入って寝ている。ずいぶん馴染んだものだと思う
「彼女は朝雲を人質に取られ命令されてやむ無く艦娘を実験台にして死なせてしまった過去があります」
『今はその罪に押し潰されかけていると…』
「そんな自分が幸せになるのは許されない、自分も死ぬべきだと…そんな感じでしょうか」
新棲姫さんもそうだったが…私からすれば彼女達は善良に過ぎると思える
「元々私達は戦う為に生まれた存在です。敵であろうと味方であろうと誰かが死ぬ事は当たり前の事です」
その点では司令官ですら割り切っている部分はあるのだ
「山雲は死なせた相手にも仲間や大切な人が居てその人達の事を考えているようですが…ならこれまで沈めてきた深海棲艦なんかはどうなるんでしょうね…」
敵だから、だけど例えばレ級さんやクキさんのような関係性を持つ相手が居たら?
「彼女の感覚はむしろ一般人に近いものなのかもしれません…」
山雲や朝雲は確か薬剤師として働いていたらしいから戦いから離れて久しいのかもしれない。そんな中で普通の感覚を取り戻していったのだろう
532 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/12(木) 08:52:01.14 ID:Gn1vPz2DO
あちらの新棲姫さんや霞、そして朝雲の説得もあり山雲は思い直したようだった
しかしようやくひとつの問題が収まるとまた次の問題が表れる
霞が倒れたのだ
「とうとう…という感じですね…いつかはこうなると思っていました」
『まぁねぇ…』
「これまで見てきて霞が休息を取っている姿をあまり見た記憶がありません」
霞がまともに眠る時は大抵榛名さんと…その…なにやらして疲れて眠る時と僅かな仮眠
それ以外は出撃や薬草畑のお世話、そして夜遅くまで自室での調合、そのまま朝になり結局眠らずというのもザラだった
そしてそんな疲労を自ら作った栄養剤などで誤魔化す日々
普段化粧などしない霞が目の下の隈を隠す為だけにメイクをしているのを見た事があった
「だけどそんな無理がいつまでも持つ訳はありませんよね…」
『そしてとうとう表面化してしまった訳だねぇ』
当然ながら霞にはしばらく絶対安静の命令が下ったがいかにも不服そうだった
「この鎮守府は基本的にはホワイトですが霞にとってはブラックですね…」
『一人が居ないと回らないどころか崩壊する会社とかやばいね』
「それが解っているから霞は無理してきた…でもこのままでは…」
霞は早くに死んでしまうのではと心配になる。戦いではなく過労かそれ以外の病気か…
533 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/12(木) 08:53:44.13 ID:Gn1vPz2DO
新棲姫「ふぁぁ…」
こたつで寝ていた新棲姫さんが目を醒ましたようだ。猫のように伸びをしている姿はとても可愛らしい
「こたつで寝ると風邪…引くんですかね」
『おばけは風邪を引かないんだよー』
そう言いながらゴロゴロしているY子さん。会ったばかりの何処か怖い雰囲気は見る影も無かった
「おばけって…まあ確かにその通りですが」
ふとモニターを見ると真夜中の鎮守府の庭で北上さんが全裸首輪で憲兵さんにリードを引かれながら四つん這いで散歩をしていた
「あの人は何をやっているんでしょうかね…」
新棲姫「ふぁ…。回を追う毎にレベルアップしているな。正直何が楽しいのか理解不能だが」
新棲姫さんが欠伸をしながら答える
以前ならせいぜい一日下着無しで過ごすとかだったがどんどんエスカレートしている気がする
それも全て北上さんから言い出して憲兵さんは断り切れずに受け入れているようだった
「それだけストレスが溜まっているという事なんですかね。このところのトラブル続きで」
いつか鎮守府の外に出るのではないかという想像をしてしまうが、まあそれは憲兵さんも首を縦には振らないだろう。さすがに趣味では済まない事態になりかねない
534 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/12(木) 08:55:27.62 ID:Gn1vPz2DO
ある日の事、鎮守府にあのまるゆ警部さんが深刻な顔をして訪ねてきた
過去に夕張さんが関わっていたらしい艦娘の事故死。それに動きがあったのだと
「カメラの映像に夕張さんが映っていたからその場に居て見殺しにした…むしろ殺したみたいにしたいんですかね向こうは」
新棲姫「正直少々強引だな。事故の原因もよく判ってはいないようだがどうもキナ臭い」
『名探偵新ちゃんはこの事件は事故ではないと?』
新棲姫「…なんだそれは」
『これは事故ではない、他殺の可能性がある。そうして洗濯紐に…』
新棲姫「やめろ」
『ばっちゃんの名はいつもひとつ!』
新棲姫「当たり前だ!」
Y子さんが新棲姫さんをからかっている。…しかし私もやはり何か裏があるような気がしてならない
「そもそも訓練を受けた艦娘が階段から落ちて受け身も取れずに死んでしまうというのもちょっと疑問ではありますね」
『酔ってたとか訓練サボってたとかまあ色々あるかもだけど確かにねぇ』
新棲姫「…コンビニの防犯カメラらしいが鎮守府内の映像が無いのも怪しいな」
「そもそも事故に鉢合わせして助けられなかったからといって普通なら責められる謂われはありませんよね…」
535 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/12(木) 08:57:15.45 ID:Gn1vPz2DO
新棲姫「おそらくは艦娘だからなのだろうな…」
一般人なら事故で済まされるだろう事でも艦娘は常に衆目を気にしなければならない、汚点は一切無く完璧でなければならない
もしかすると本来は鎮守府内で内々に処理する予定だったのかもしれない
「だけど何か不都合があって表沙汰になって事故の原因を究明しなければならなくなった…」
そこにたまたま居合わせてしまった夕張さんはそれに巻き込まれ…一見無理矢理にも思える汚名を着せられ目眩ましに使われた…
「なんていうのは…」
新棲姫「まあそういう可能性はあるかもしれないな…だがもう」
「ええ…」
夕張さんは事故の記憶を消されていた。それをアケボノさんに相談したらよりにもよって向こうの関係者の夕張さんが関わる記憶を消してしまったらしいのだ
新棲姫「裏があったとしてもその記憶が穴だらけになってしまっては真相は判らないままだろう」
本当に単なる事故なのか、そもそも何故件の同僚は階段から落ちたのか
それから少しして警察の事情聴取で夕張さんの潔白は証明された
その代わりに彼女は記憶を取り戻し
そして壊れてしまった
536 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/12(木) 08:59:27.97 ID:Gn1vPz2DO
彼女はその鎮守府でいじめに遭っていた
その相手が目の前で落ちていく姿に喜びを感じた
そんな自分に彼女は絶望してしまった
「夕張さんも山雲とかと同じく善良だったんでしょうね…少なくとも自分はそうだと信じていた」
私はどうだったか、憎い相手を事故ではなく自ら手にかけた当時はざまあみろと笑っていたような気がする
そうだとしてあまりダメージを感じない私は夕張さんから見たら輪をかけてクズだろうか
全ては今となってはと達観しているだけかもしれない
そうして自らに絶望して夕張さんは当ても無くさ迷い廃屋に隠れていた
そこに見慣れない艦娘が居た
「見たところ駆逐艦ですね…脱走というやつでしょうか」
『どうやら違うみたいだねぇ』
新棲姫「聞いてもいないのに勝手に喋っているな。どうやらスパイ活動の最中らしい」
夕張さんに銃を突き付けるが夕張さんの様子がおかしいのを見て取るとそれを下ろした
「どうやらそこまで悪い艦娘ではないようですね…危なかった…」
新棲姫「…頭を撃ち抜かれて死ぬのはあまりオススメしないな」
「それはそうですよ…」
頭を撃ち抜いた私が言える事ではないが。そもそも死に方に推奨されるものなど無いだろうけれど
537 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/12(木) 09:01:35.44 ID:Gn1vPz2DO
そんな話をしていると謎の駆逐艦のすぐ側にアケボノさんや菊月さんが突然現れた
驚き威嚇しようとする駆逐艦に菊月さんが腕を振り―――
ゴンッ!
ものすごい音がした
『うわぁ…痛そう』
「あの武器は確か…早霜が使っていた錘ですかね」
錘を後頭部に受けた艦娘は気絶。探しに来た司令官達に夕張さんは怪我も無く保護された
再び記憶を消そうかと言うアケボノさんの申し出を断り司令官が夕張さんを連れ帰る
謎の駆逐艦は菊月さんが何処かに連れて行ってしまった。果たして無事に済むのだろうか、拷問でも平気でしそうなイメージが彼女にはあるが…
そして鎮守府に帰って来た夕張さんはそれからも壊れたまま、真夜中に悲鳴を上げ泣き叫んだりしている
「記憶…消した方が良かったんじゃないでしょうか…」
新棲姫「再び思い出した時のリスクもある。この場合どちらが正しいとは一概に言えないだろうが」
『自ら乗り越えさせる…か…なかなか厳しい選択だね』
それからもしばらく夕張さんの悲鳴が鎮守府に響き渡る日が続く事になる
果たして彼女の足りない、欠けた部分を司令官達は補えるのだろうか…
538 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/12(木) 09:04:24.68 ID:Gn1vPz2DO
ここまで
亀なりのペースでどうにか
一番悩むのは書き出し部分
539 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/12(木) 12:29:57.80 ID:+WMj6k1Zo
おつです
貴方もおかえりなさいです
オールシーズン営業可こたつとかいうレギュレーション違反の兵器
540 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/15(日) 04:03:50.32 ID:cTfw2jzDO
>>537
から
ずずー
静かな部屋にお茶を啜る音
「んー」
ぽりぽり
これはお菓子を食べる音
ずずー
そしてまたお茶を啜る音
「なんだか…」
新棲姫「どうした?」
【暇そうね】
「最近ずいぶんのんびりしてますね富士さん」
【実際あんまりやる事が無いのだもの】
「魂集めは止めたんですか?」
【まあ…そんなに頻繁に条件を満たした魂なんて現れないもの】
新棲姫「あの夕張なんてどうだ?」
【仮にも仲間でしょう…薦めてどうするのよ…それに…】
「それに?」
【可哀想じゃない…】
新棲姫「これだものな」
【うるさいわね…現状でもギリギリ条件は満たしているから無理に集める必要が無いだけよ】
「じゃあもう扉を開くんですか?」
541 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/15(日) 04:06:04.89 ID:cTfw2jzDO
【それは…】
富士さんは何かを迷っているように言葉を濁す
艦娘達を理想郷に連れていく、その為に富士さんは魂を集めていた
だけど最近の富士さんはその気があまり無いように思える
いつか朝霜さんに言われた事を考えているのだろうか
【…艦娘達を不幸にせずに…その意志を尊重した上で救う…】
「そんな方法があるんでしょうか」
【解らないわ…今の私には…ずっと考えているのだけれど】
新棲姫「難しいな、単純に戦いを無くせば済むという話ではないしな」
戦いの無い世界で私達艦娘はどうやって生きていくのか
訓練所ではそんな事は教えてはくれなかった。教わったのは武器の扱いと深海棲艦の殺し方や戦いの技術、そして大本営への忠誠だった
【ここに居る中で唯一現世に関わる者として私はもう間違える訳にはいかない…】
「富士さん…」
そう言った富士さんは決意というよりは間違える事を恐れて萎縮しているように見えた
そんな時―――
ドオオオォォォン!!!
突然部屋に爆発音が響き渡った
542 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/15(日) 04:07:41.04 ID:cTfw2jzDO
「なっなんですか!敵襲ですか!」
新棲姫「落ち着け朝潮ここに敵は来ない」
慌てて臨戦体制を取り何故か座布団を頭に被る私に新棲姫さんが指を指す先には点けっぱなしにしていたテレビ
くう…もう戦いから離れてずいぶん経つとはいえ無様な姿を晒してしまった
【あの鎮守府で爆発があったようね…これは…】
富士さんが遠くを視るような目をする
Y子さんもそうだが二人には私達には無い視点があるようだった。このテレビはあくまで私の為に用意した物だとそういえば言っていた
【駆逐艦…雪風…力を使ったのね…】
富士さんの顔色が少し悪い。どうしたのだろう
【…順を追って説明するわ】
そうして富士さんがあの爆発について説明する
それを聞くにつれて私達の顔色も同じようになっていくのを感じた
543 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/15(日) 04:11:44.54 ID:cTfw2jzDO
「組織の雪風が漣さんを狙って…」
新棲姫「運を味方にしているとはとんだチートだな」
【そうね…不幸中の幸いと言えるのか本人も含めてその力を使いこなせてはいないけれど】
「それはいったい…」
【運を操り自らの都合の良い事象を呼び寄せる…それは全体の一部に過ぎないわ】
新棲姫「なんだと?」
【彼女自身も気付いてはいないけれど…あれは…運命を操る力】
運命を…操る…それはまるで…
【…運が良いとか悪いとか、突き詰めればそれは運命そのもの】
【どうしてあの雪風がそんな力を持っているのか私にも解らない…だけどそんな力に頼り続ければどうなるか…】
きっと最後には破滅してしまう…そう富士さんは言った。そして呟く
【これも…もしかしたら私が扉を開いたせい…そうだとしたらあの扉は…】
その先の台詞は続かなかったが私にはなんとなく解った
願いをなんでも叶える都合のいい扉なんて無いのだと
扉とはいったい何なのか…誰が作ったものなのか…これはむしろ破壊するべきものなのかもしれない
544 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/15(日) 04:13:29.64 ID:cTfw2jzDO
爆発があった鎮守府は厳戒体制になっていた
雪風と最初に接触したという憲兵さんが怪我を負い、北上さんが付きっきりで看病している。少し不安定になっているのか片時も離れようとはしない
たまたま表に出ていた重巡棲姫さんのおかげで漣さんは認識されずに無事だった
「これは運を味方にしているにしては…」
【使いこなせていないという事。本来ならおそらくその場に行く必要すら無いはずよ】
新棲姫「それは恐ろしいな…」
爆発により保管してあった艦載機がかなりの数失われてしまった。あの鎮守府にとって航空戦力は生命線だ。司令官達も頭を悩ませているようだった
支援もすぐには期待出来ない、悩みぬいた司令官はせめて周辺の深海棲艦と停戦出来ないかとレ級さん達に相談していた
しかしレ級さんが言うには交渉するべき姫や鬼は周辺の海域には既に居ないという
「レ級さんが暁さんの為に追い払ったんですね。つまりしばらくは艦載機が無くとも凌げそう」
新棲姫「…半端な事をしたものだな」
「え?」
モニターの中のレ級さんが司令官に懺悔する
それはつまり追い払った姫や鬼が何処に行ったか、それにより周辺の鎮守府に被害が出てしまっていたらしい
545 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/15(日) 04:15:17.76 ID:cTfw2jzDO
新棲姫「暁の為に周辺の深海棲艦を排除したい。そこまではいい、だがやはり同胞だからと殺せなかった。結果被害は拡がった」
「それは…」
新棲姫「…自分達の益の為に同胞を手にかける、ワタシだってそんな真似は…だがもし漣の為になるなら…」
【…やめておきなさい、それ以上は袋小路に入ってしまうわ】
そう言って富士さんが新棲姫さんの頭に手を置いた。ぐわんぐわんと若干乱暴に撫でる
新棲姫「む…オマエに気遣われるとはな」
【深海棲艦に気遣いなどしないわ。ただここで発狂でもされたら鬱陶しいだけよ】
ぐわんぐわん
新棲姫「あう」
「うふふ…」
笑う私に富士さんが無言で視線を送る。解ってるから余計な事は言うな、そう言っているようだった
そしてあちらの新棲姫さんが司令官に問いかけをしている。それは司令官にとっては厳しい問いだった
546 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/15(日) 04:18:05.60 ID:cTfw2jzDO
つまりは自分の大切なものの為なら他者を傷付けてもいいのかと
それに答える司令官はそれはもう辛そうで
「…どうしてあんな質問をしたんですか?」
若干責めるような口調になってしまう。だが新棲姫さんは大して気にした風も無く
新棲姫「そうだな…あのワタシが今考えてる事は解らないが…提督のスタンスをはっきり知りたかった…という所だろう」
「スタンス…」
新棲姫「提督は誰にも言われているように甘い、いざという時にその甘さから一番大切なものを取りこぼしてしまう恐れがある」
だから自分の口からはっきりと言わせて確認したかったのではないかと、それが解れば自分達も行動の指針を立てやすい…そう考えたのだろうという
新棲姫「まあ自分があの島風提督と同じだというのはさすがにどうかと思うがな」
「私は司令官はあんな事はしないと思います」
新棲姫「それはワタシも同感だ。例え同じ状況になったとして一線を越えはしないだろう。それが二人の違いだ」
間違いだと解っていても行動を起こした者、踏み止まれる者、どちらも大切な人の為に
私はその被害者の一人だけど…その気持ちだけは理解出来る
あの人は今も私の怨念を幻視して魘されているのだろうか
私本人はまあ許した…と言っても差し支え無い程度には向き合えるようになっているけれど
547 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/09/15(日) 04:20:26.36 ID:cTfw2jzDO
『あー…』
私達が話しているとY子さんが自室からのそりと出て来た。顔色があまり良くない
「あの…大丈夫ですか?調子が悪そうですが…」
『…大丈夫だよーちょっと寝不足なだけだからー』
【…】
今まで部屋に居て寝不足…?なら彼女はいったい何をしていたのか
新棲姫「朝潮…あまり聞いてやるな、プライベートな事だ」
「プライベート…?」
新棲姫「一人で部屋に居て寝不足…つまり自分で寂しい身体をなぐさめ…」
『ちがう!!!』
ビシィッ!
強烈なデコピンが新棲姫さんの額にヒットした。とても良い音が部屋に響いた
新棲姫「おおお…!」
【今のは貴女が悪いわね】
若干頬を赤らめて富士さんが言う。どうも富士さんはそういう話には耐性があまり無いらしい。そしてY子さんも顔が赤い。むしろこの姉妹二人共だろうか
『はー…朝ちゃん…お茶頂戴』
そう言ってこたつに座りテーブルに突っ伏す。顔色は先程よりは良くなっているようだがやはり怠そうだ
「はい、少し待ってくださいね」
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