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【艦これ】龍驤「たりないもの」外伝
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264 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/04(木) 05:18:03.21 ID:NvpBgk+DO
廊下で俯いたまま突っ立っている初期艦さんが居た
「大丈夫でしょうか…何か様子が…」
『…え?これは…お姉ちゃん?』
「富士さんがどうかしたんですか?」
と、映像の初期艦さんが顔を上げ、そして泣き崩れたと思ったらすぐに泣き止んだりしている。もうかなり錯乱しているのかもしれない
ふと違和感があった
それまでの初期艦さんとは明らかに表情が違う。先程までの壊れる寸前とは思えない強い意志を宿した目をしている
まさか立ち直ったのだとすればあまりに急すぎる
私が困惑していると背後で扉の開く音が聞こえ私が振り向くと富士さんが部屋に入って来る所だった。そして―
「は…?え…?」
私はモニターと富士さんの方を交互に何度も見返す
私達の前に富士さんに抱えられた初期艦さんが居たのだった
265 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/04(木) 05:19:48.21 ID:NvpBgk+DO
ひとまずここまで
266 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/04(木) 08:41:10.16 ID:NEGBFoe2O
漣はほんとにな…
男女両方の面で恋人を奪われてるからな…
267 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/05(金) 01:03:02.68 ID:gTejhF1Mo
おつおつ
新姫ちゃんは来ないよねぇやっぱり
268 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/08(月) 06:07:07.28 ID:YeTediuDO
>>264
から
「は…?え…?何でここに初期艦さんが?だってあそこに…」
私はテレビに映る初期艦さんを見る。確かに居る…じゃあこっちは…
【落ち着きなさい、説明はちゃんとするからまずはこの子を奥の部屋に】
そう言って富士さんが初期艦さんを抱えて…と言っても背丈は富士さんの方が僅かに低いのでまるで抱き付いて引きずるようになっている
「あ…はい!じゃあこっちに」
おかしい…初期艦さんの目は開いてはいるのにまるで私を見ていない。というか目に光が無い
私は富士さんと二人で奥の部屋に初期艦さんを連れていき布団を敷く。その間も周りの状況に反応を示さない
布団を敷き終わりそこに初期艦さんを横たえると富士さんはスッと彼女の額に触れる。すると目を閉じて寝息を立て始めた
【ひとまずはこれで安心ね…】
そのまま軽く額を指先で撫でながら話し出した
駆逐艦漣は一度死んだのだと
1◇
「精神の自殺…そんな事が可能なんですか…?」
【普通の人はそんな事は簡単には出来ないわ。だけどこの子はちょっと違う。どうやら何度も精神世界で活動した経験があるから出来たのでしょうね…】
「…自殺なんて彼女のイメージからかけ離れすぎです。何て馬鹿な事を…人の事は言えませんけど」
【…それがそうでも無さそうなのよね】
「どういう事ですか?」
【一体何があったのかは見ていたわね?…それによってこの子の心はバラバラに砕け散る寸前だった】
富士さんが言うには初期艦さんは無意識に自己防衛した結果自らの精神を殺した、つまり活動を停止させたのだと
あのまま外部の刺激に晒され続ければひび割れた彼女の心はそれに耐えられずに砕け散って最終的に発狂、周りの全てを傷付けていたでしょうと
【…この子には覚悟する時間さえ与えられなかった…むしろ希望を見せられていた…あんまりだとは思わない?】
富士さんは悲しげにまた初期艦さんの額を撫でる
【だから私がこの子の魂を預かり、ここに連れてきた。世界から隔絶されたここなら余計な刺激も無いから】
「これから彼女はどうなるんでしょうか…」
【…解らないわ…この子次第としか言えない。再び立ち上がれるのか、ずっとここでこのままなのか…】
269 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/08(月) 06:12:01.59 ID:YeTediuDO
「あのテレビを見せたりは…」
【今は止めておきなさい、今のこの子には毒にしかならないわ】
「そうですよね…あ、じゃああの…潜水新棲姫の魂をここに連れてくれば…」
【…確かにあの深海棲艦も陸の上で亡くなった。もしかしたら来ているかもしれないけれど…】
と、富士さんが窓の外を見る。その先の三途の川のある辺りに夥しい数の死者の群
【あの中から探してみる?居るかどうかも解らない小さな女の子を】
「…富士さんが呼んだりは出来ないんですか?」
【私は深海棲艦に直接の干渉は出来ない、それにあの深海棲艦が未練を持って留まっている保証も無いわ。既にもう渡ってしまった可能性すらある】
「未練になるものなら居るじゃないですか、ここに」
【自ら死地に赴いたというのなら未練を残さない覚悟を決めていた筈よ。自分がいつまでも留まっていたら残された者は前に進めない、そう考えていてもおかしくは無いわね…】
「それじゃあ…救われないじゃないですか…!」
【落ち着きなさい…私も貴女と同じ気持ちよ…】
人差し指を立て静かにと言いながら富士さんは私を促し居間に戻る。振り返って見た初期艦さんは死んだように…眠り続けていた
270 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/08(月) 06:13:51.96 ID:YeTediuDO
『おかえり』
言葉少なく迎えるY子さん。何処と無く空気が重い
「…お茶でも淹れますね」
【お願いするわ】
そうして準備をしながら私は富士さんに聞いてみる
「こう言っては何ですけどこれで二回目ですね。富士さんが艦娘を助けるの。一度目は初期艦さんを見逃した時」
そう言った私の言葉を聞いたY子さんがにんまりとした顔になる
『二回じゃ済まないんだなぁこれが』
【な…何よ】
富士さんがこれはまずいという顔になる。私は聞いてはいけない事を聞いたのだろうか
『あの鎮守府だけじゃなくて色んな所で結構お姉ちゃんは艦娘を助けてるんだよ〜』
【べ…別にいいじゃない、単なる気まぐれよ】
『お姉ちゃんの計画が進まない理由解った?朝ちゃん』
「何となく…解ります」
『魂連れて行く時も対話して相手の同意を得てからだし、そうでない場合もなるべく死にそうな子を選んでだし』
問答無用な時はその相手が救いようの無いクズの場合だけだしとY子さんぺらぺら
『良さそうな魂見付けたら問答無用で即刈り取るとかしてたらとっくに達成されてたと思うけどね〜。選り好みしすぎなんだよお姉ちゃんは』
【そんな事したら可哀想じゃない!】
『…ね?』
ハッとして俯く富士さん。耳が赤い。ちょっと待って何…かわいいこの人
まあそう言うY子さんも私をここに連れて来たり何だかんだ助けてくれているので似た者姉妹なのかもしれないとお茶を注ぎながら思う私
しかし怒ると富士さんよりも怖いので口には出さない私
271 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/08(月) 06:15:45.46 ID:YeTediuDO
そうして少しばかり空気が軽くなったのを感じ私はまたテレビを観る
だかこちらとはまるで違い鎮守府の空気はかつて無い程重い
「何だかんだでムードメーカーでしたからね…しかも鎮守府の支柱を担う一人でしたし…」
というよりも彼女が居なかったら今のあの鎮守府は無かったのかもしれないのだ。つまりは私にとっても恩人という事なるのかもしれない
怒る人、体調を崩す人、そしてそんな中皆を元気付けようと鎮守府中を回る司令官…この中で一番つらいのは司令官の筈なのにあくまで優先するのは自分以外な司令官が心配になる
そして司令官は今は初期艦さんの身体であるらしい重巡棲姫と共に主不在の部屋の掃除を始めた
普段から自分の部屋にはあまり帰っていなかったらしく散らかり放題で掃除もろくにしていないようだ
考えてみれば彼女は大抵執務室に居て秘書艦の仕事をしているか龍驤さんのサポートや鎮守府中を駆け回っていたように思う
その上和平派深海棲艦集めでいつも忙しそうにしていたのも何度も見ている
潜水新棲姫と正式に付き合うようになってからは司令官も気を使ってか二人の時間を取らせたりはしていたようだけれど
272 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/08(月) 06:17:34.19 ID:YeTediuDO
≪提督が朝潮の部屋で泣いているのは知っている≫
初期艦さんの声で彼女とは違うイントネーションでそう話す重巡棲姫さん
ここからいつも司令官達を見ている私ももちろんそれを何度も見ていた。その度に私は申し訳なくて…
「…ごめんなさい…司令官…ごめんなさい…」
司令官は悪くないとここで叫んでもその声は決して届く事は無い。だけど目を反らす訳にはいかない
どれだけここで謝っても、後悔してももう遅い、これが私のした事の結果だ
残された人達に傷を残し今も苦しめている。いっそ私の事など忘れてくれたらならどんなにいいか
おそらくは仮に私の声が届いたとしても彼は自分を責め続けるのだろう
そしてそれは司令官だけでは無く鎮守府の皆にも言える事で…
たまに彼女達の会話の中に未だに私の名前が出る事がある。そして大抵は私を救えなかった事への悔恨の言葉に繋がる
本当に…ここの人達は…私は届かないと知りつつも同じように謝る事しか出来なかった
273 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/08(月) 06:18:57.92 ID:YeTediuDO
司令官達が部屋の掃除を再開し始めて少ししてから二人は何かを見付けた
それは初期艦さんが密かに用意していた二つの指輪。これは単なるペアリングではなく婚約指輪か。彼女はそこまで本気で…
それを見て涙を流す重巡棲姫さん。司令官も気を使って一声掛けて部屋を出て行くが何処かその声が詰まっているように聞こえた。
何となく私は振り返り少しだけ開けた襖から眠る初期艦さんを見る
「あ…」
確かに眠っているしこちらの声や音も聞こえているかは解らない。だけど眠る彼女の目からは映像と同じように涙が流れていた
いつか彼女が目覚めた時、私は何と声を掛ければいいのだろう。生きる希望を再び見出だしてくれたら…私と同じ後悔を出来ればしてほしくは無いと思う
「ああして貴女の為に泣いてくれている人がまだ居ますよ…」
私はそう彼女に声を掛けてみる。果たしてその耳に、心に届いたか、涙を流しながらただ静かに眠り続けるのだった
274 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/08(月) 06:20:22.27 ID:YeTediuDO
それからも誰かが不調を訴えてダウンしたり早霜が朝霜さんにちょっかいを掛けてダウンさせたり叢雲さんが暴れて弥生さんをボコボコにしたり悪い流れが止まらない
その都度対処してはその場は収めているようだけれど根本的には解決していない。こんな調子ではいつか追い付かなくなる…
その上霞が違法薬物所持で捕まったり、鎮守府の隠し部屋から大量のドラッグが発見されたりともうあそこは呪われてでもいるのだろうか
「例え執務室の壁に前提督の遺体が埋まってたり、そもそも鎮守府の土地は昔は墓地だったりしてたとしてももう私は驚きませんよ…」
『誰かがテレビから霊界に拐われたり最後には鎮守府ごと謎の穴に吸い込まれたりしちゃうねぇ』
【何の話よそれは…】
富士さんが呆れたように声を上げる。最近は彼女は割と頻繁に初期艦さんの様子を見にここに来ている。助けた手前預けて放置なんて無責任だものとは富士さんの談
『昔観た映画の話、続編では家族の絆の力で乗り越えるんだよー』
「…家族の絆ですか…司令官も言ってましたね、皆は家族だと…」
【どうなのかしらね…】
富士さんがぽつりとそんな事を言う
275 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/08(月) 06:21:48.18 ID:YeTediuDO
「どういう意味ですか?」
私が聞くと富士さんは少し言いにくそうにして、それでも誤魔化さずに話し出す
【その提督からして自分の基準でしか物事を考えていない節があるわ】
「そんな事無いです!司令官はいつも皆の為に悩んだり泣いたりしているじゃないですか!」
【気に障ったのなら謝るわ。あくまでそういう部分もあるという事。確かに彼の優しさは嘘ではないでしょう】
「そうですよ!」
『いいの?お姉ちゃん。そんな話して』
【まぁ、ここだけの話という事にして頂戴。で、だけれど、その提督はいつも言っていたわね、もしも龍驤に何かあれば自分はどうするかを】
「そうですね…龍驤さんが居なければ司令官は生きては行けない、きっと後を…」
【他の艦娘達を見捨てて?】
「あ…」
そうか…富士さんの言いたい事がやっと解った
【実際にそうなった場合、彼がどうするかは解らない。だけど残される気持ちを誰よりも理解しながら自分も同じ事をするようなら…】
「…結局は司令官も自分の事しか考えていなかった、そういう事ですか…」
【最愛の者を喪った精神状態ですもの…無理も無いとは思うわ。だからこそそんな時に誰かが支え、繋ぎ止めなければならないわ】
そうでなければ…と富士さんは視線を奥の部屋に移す。支え、繋ぎ止めるのに失敗した場合…ああなるのだと言外にそう言っていた
276 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/08(月) 06:23:35.91 ID:YeTediuDO
「和平…調停…?」
その報せを受ける司令官達もそしてそれを覗き見る私達も胡散臭げな表情になっていた
「講和の話が出てから随分流れが早いですね…」
司令官達の話では大本営はもうガタガタで受け入れるしか無いという事らしい
だけどほとんどの深海棲艦は今まで通り活動していて深海提督が従えるのはほんの一部。こんな和平に意味があるとはどうしても思えなかった
「まさか大本営は深海提督が全ての深海棲艦を支配していると本気で信じているのでしょうか…」
『半信半疑、だけどすがるしかない。そんな所じゃないかなぁ。金塊の件で騙されていたと気付いただろうにねぇ』
そして世界各地に放映される和平調停。今にも死にそうな元帥が深海提督との調印式に現れる
【長くは無いと自分自身悟っているわね、最後の役目だとでも思っているのでしょうね】
『元はと言えば欲をかいた結果で自業自得なのにねぇ』
【死を前にして目が覚める。よくある話よ。少なくとも今の元帥の目は濁ってはいない。屑のままなら自分自身の延命に走るでしょう】
しかし調印式が終わった直後力尽きたのか元帥は倒れてしまった。会場は騒然として医療班が処置をしている。この後に予定されていた深海提督の会見はうやむやになってしまう
277 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/08(月) 06:25:31.33 ID:YeTediuDO
すると深海提督は一言二言傍らに立つ深海海月姫に何かを言うと立ち去ってしまった
「和平調停がこんなのでいいのでしょうか」
【何もかも急だったのだからアクシデントは仕方無いわね】
と、一人残った深海海月姫がテレビカメラの前に立つ。彼女が代わりに会見をするのだろうか。こんな騒然とした中で?
『ん?あいつ…何かする気みたいだね』
【何かって?】
『ふむ…まあ、私がする事じゃないか』
Y子さんは意味深な事を言うだけで何も答える気は無いようだった。仕方無いわね…と再び画面を見る私達
深海棲艦は何かを呟いている、会場の騒ぎでよく聞き取れない。彼女は両手を上げて合いの手のようなポーズを取る
≪これは…プレゼントよ≫
辛うじてそんな言葉が聞こえた
パン!
そして手を勢いよく打ち鳴らした
【…ぐ!?】
突然私の隣に居る富士さんが呻き声を上げ突っ伏してしまう
「富士さん!?」
『なるほどねぇ…そういう事、変な力の流れだったから何か仕掛けるとは思ったけど』
「何呑気に言ってるんですか!いきなり倒れたんですよ!」
慌てて富士さんに駆け寄る私。彼女は意識を失っていた
278 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/08(月) 06:27:13.99 ID:YeTediuDO
それから…
呼ぼうと揺すろうと意識を取り戻さない富士さんを奥の部屋、初期艦さんの隣に敷いた布団に寝かせ私達はモニターを見る
既にあの深海棲艦の姿は無く、程なく会場の場面もスタジオに切り替わった
「一体富士さんはどうしたんでしょう…」
『…間違い無くあの深海棲艦の仕業。電波に乗せて自分の力を飛ばした。随分器用な事が出来る深海棲艦だなぁ』
Y子さんはいつもと同じ調子でそう言った。だけどそれなりに彼女と一緒に過ごしてきた私には何となく解った。彼女は怒っていると
『何をするのか興味があったから放っておいたけどまさかお姉ちゃんに手を出すとはねぇ…ふーん』
私は下手な事は言わないようにして映像を鎮守府に切り替える。そして富士さんだけでは無かった事を知った
「ほとんどの艦娘が昏倒した…?」
『お姉ちゃんを昏倒させ、引いては国中の艦娘を昏倒させる。それが狙いかなぁ。やる事が大胆だよねぇ…もちろんこれは手段であって目的は他にあるだろうねぇ』
妙に饒舌になっているY子さん。つまり感情が昂っている。やっぱり怒っているらしい
『艦娘の動きは封じられた。そうしたらどうなるか…ちょっと考えれば解るよ。防衛線が機能停止してる。艦娘の哨戒も無い、今なら攻めたい放題』
「まずいじゃないですかそれ!」
画面の向こうでも司令官達が同じ結論に至っていた。そして少しして朝霜さんが初期艦さんの身体の重巡棲姫さんの所に行く。同じく彼女も昏倒していた
『…どうやらお客さんみたいだねぇ、お姉ちゃんは今動けないからあたしが行ってくるねぇ』
そう言い残しY子さんは姿を消した。…大丈夫だろうか、朝霜さんは人当たりが割ときつい、今の機嫌が悪いY子さんと会ったらどうなるんだろう
279 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/08(月) 06:28:47.51 ID:YeTediuDO
≪その名を呼ぶな!≫
バリバリバリバリ!
≪ぎゃあああぁぁぁ!≫
案の定だった。迂闊に名前を呼ぼうとした朝霜さんが何故か雷に打たれている。私が以前間違えて名前を呼びそうになった時はデコピンくらいで済んだけどそれでもかなり痛かった
『あー、ちょっとすっとしたー』
Y子さんが何処かすっきりした顔になって帰って来る
「あの…朝霜さん完全に気絶していたんですが…」
『あれでもかなり手加減したんだよー。…ふぅ』
すっきりした顔と何故かはっきりと解る疲労感
「大丈夫ですか?この上Y子さんまで倒れたら私…」
『あー、大丈夫大丈夫。手加減って結構大変なんだよ。だからちょっと疲れただけだから』
そう言って炬燵に入り込み冷めたお茶を啜る彼女
手加減は大変…私でも彼女の力が並外れているのは解る。以前力を貸してもらったのはその一端に過ぎないと何となく理解していた
彼女が伸び伸びとその力を振るえる相手など多分この世界には居ないのだろう。ストレスが溜まって爆発したりしたら…私は改めてY子さんを怒らせないようにしようと誓うのだった
…ところでその2って何だろう
280 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/08(月) 06:30:45.13 ID:YeTediuDO
ここまで
また同じミスを…
281 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/08(月) 09:42:11.03 ID:kuMFb+a0o
乙
捌きウマす
割と……?>朝霜の人当たり
282 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:04:28.07 ID:OcSTB+ZDO
>>279
から
「ああ…またここも…」
私は海辺の町が深海棲艦に蹂躙されている光景をただ見ている事しか出来ない
ほとんどの艦娘が意識を失ってから丸一日、機能しなくなった防衛線を越えて深海棲艦が攻撃を仕掛けている
大本営は今や艦娘に頼りきりで通常兵器はほとんど無いか、あっても深海棲艦にはあまり効果的では無く使われず埃を被っていると聞いた事がある
つまり守る艦娘が居ない今、完全に無防備、その犠牲者の数も日に日に膨れ上がっていく
「…結局深海提督の狙いはこれだったという事ですか…まんまと騙されて、最初から和平は口実に過ぎなかった」
あれから富士さんも目覚める気配が無い、もしかしたらもう人類は終わってしまう…?
『…中には起きている艦娘も居るようだしそんな簡単にはいかないと思うよ。もう少ししたら他の艦娘達も目を覚ます。それまでの辛抱だね』
一部の眠らなかった艦娘が何とか防衛線を支えたり救出に向かっている地域もあるにはあるがとても追い付いてはいない。犠牲者の数は千に届こうとしていた
そんな中どういう訳か深海提督が龍驤さんと会い話し合いをしたいと言い出したらしい
283 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:06:06.84 ID:OcSTB+ZDO
「どう考えても罠に決まってるじゃないですか!」
『まあ私達視点ならそう思うのも当然だけどあちらからすればまだ和平を結んだ相手だからね。限り無く黒に近いと思っていても断る訳にはいかないよね』
しかも二人だけとの指定付きだ。わざわざ龍驤さんを名指しする理由が解らない。深海棲艦の対処の話し合いというのに大本営では無く一介の提督に障害のある艦娘を呼ぶ…怪しすぎて私でも何か裏があると解る
しかし大本営、引いては人類の危機。Y子さんの言う通り断る事は出来ないだろう
そして私の、そしておそらく司令官達も感じていたであろう不安は的中してしまう事になる
≪よくも私達の子供を殺したわね≫
284 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:08:45.10 ID:OcSTB+ZDO
龍驤さんが過去に見殺しにする事になってしまった子供の親はなんと人間と深海棲艦との間に生まれた子なのだという
それから先の龍驤さんの錯乱は無理も無かった。龍驤さんは自分の不調を何故か私には見せようとはしなかったけれどまさにあんな感じだったのだろうか
そして再び自殺防止の為、隔離室で拘束されてしまう龍驤さん。その間も深海棲艦による犠牲者の数は増え、二千人に達した所で計っていたかのように眠っていた艦娘達が目覚めていった
「龍驤さん一人を苦しめる為だけにこれだけの事を…?二千人の人の中にだって子供は居た…それが親だった人のする事か!」
私は立ち上がってやり場の無い怒りを…そうだった…こんな風に誰かを憎んだ結果が今の私だ
『落ち着…止めるまでも無かったかぁ、成長したね朝ちゃん』
「怒りは感じます、だけどそれだけで頭を一杯にしたらろくな事になりませんから」
『経験者は語るってやつだね』
「それに私がここでどれだけ怒った所で何にもなりません…それこそ誰一人に対しても」
私達がそんな話をしていると奥の部屋から富士さんが現れた
285 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:10:04.72 ID:OcSTB+ZDO
「富士さん!もう大丈夫なんですか?急に起きたりして…」
【…大丈夫よ】
『コアを強制停止なんてされたんだから何かしらダメージがあっても不思議じゃないよ、無理しない方がいいんじゃない?』
【…】
自覚はあるのか富士さんは座り込む。あまり顔色が良くない
「私からもお願いします。あまり無理しないでください」
【…ありがとう】
「富士さん!?」
『お姉ちゃん…』
なんと富士さんは静かに涙を流していた
【…目覚めてからすぐ状況は確認したわ…。私が不甲斐ないせいでこんな事に…人間なんて好きじゃないけれど、それでも…それでも死ねばいいなんて思わない…】
それから富士さんは静かに泣き続けていた。それは哀悼の涙。私達二人はただ黙ってそれを見ているしか出来なかった
286 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:11:30.17 ID:OcSTB+ZDO
【ごめんなさい…もう落ち着いたわ】
しばらくしていつもの調子に戻った富士さんが私達に頭を下げる
『それにしても結構動けていた艦娘も多かったみたいだね。何とか乗り切った鎮守府や防衛に成功した町もあったよ』
【傀儡の艦娘ね…結果的にはそれに救われていた…】
富士さんは釈然としない表情で言う。自分の計画の邪魔になるそれが最後の砦となっていた。富士さんにはつらい所なのだろう
『あ、お姉ちゃん、お客さんみたいだよ。また朝霜だね』
【そう…この前は私の替わりに悪かったわね】
『いいよいいよ〜』
そう言い残し姿を消す富士さん。私達とよく話す富士さんは初期艦さんの中に居る富士さんなのだという。今は身体の主である初期艦さんがあの状態なのでよくこちらに様子を見に来ている
287 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:13:08.34 ID:OcSTB+ZDO
『うふ、うふふふふ〜』
富士さんと朝霜さんが話始めてからY子さんが怖いです
相変わらず誰に対してもボロクソに言う朝霜さんに富士さんは何も言い返せない
しかも富士さんのせいで大勢が亡くなったとも取れる発言までしているのはさすがに私もムッとしてしまう
『…あいつ、今度会ったら…』
ぼそりと呟く声は聞かなかった事にする。いや本当プレッシャー凄いんですけど
≪お前…アホか?≫
ばきぐしゃ!
ああ今のはY子さんが湯呑みを握り潰した音です。えぇもう一度言います。ガラスのコップなどでは無く湯呑みをです
私はもう彼女の方は見る事が出来ない、怖くて
そして朝霜さんは富士さんの言う理想郷を完全に否定するだけして帰って行く
…確かに問答無用で連れて行かれたら嫌がる艦娘も居るだろう。だけどそれを求める艦娘だって中には居るとも思う
私ならどちらを選ぶだろうか。せめて体験してから決めるとか出来たらいいのに
やがて富士さんが部屋に戻って来た。ああ…やはりかなり消沈してしまっている
288 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:15:00.09 ID:OcSTB+ZDO
「富士さん…あまり気にしない方が…」
と、慰めようとした私の言葉を遮って富士さんが聞いてくる
【…朝潮、私は貴女にも干渉出来なかった…。貴女も幸せを感じていたの…?あんな目にあっていながら…】
「そうですね…司令官と出会う前ならそんな事は無かったと思いますけど、あの鎮守府での日々は確かに幸せでした。楽しかったです」
【そう…そうなのね…】
富士さんは座り込んで項垂れてしまう。朝霜さん…彼女のこんな姿を見てもバカだのアホだの言うのなら私は貴女を張り倒す
「富士さん…司令官と出会う前の私ならきっと理想郷に行きたがったと思います。同じようにこの世界に絶望している艦娘は必ず居るとも思います」
『そうだねぇ。要は本人の意志確認をすればいいだけの話だよ。全て全員なんて端から無理だったんだよ』
【…私はやっぱり行き当たりばったりなんて言われるのも仕方無いのね…。今まで考えもしなかった…】
『ニュース番組と一緒なんだよ。お姉ちゃんが目覚めるのは不幸真っ只中の艦娘だもの。幸せに暮らしている艦娘の中では目覚めない。それが全てだって勘違いしちゃってたんだよお姉ちゃんは』
なるほど…確かにそうなのかもしれない。不幸ばかりを見てきた富士さんはそれを確かめようとはせずに全ての艦娘を救おうと決意した…でも結局それがかえって不幸にしてしまう可能性には気付かずに
289 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:16:30.69 ID:OcSTB+ZDO
【…ところで、その破片が散らばっているのは何】
『何でも無いよ〜』
Y子さんは自分が握り潰した湯呑みの破片を片付けている。富士さんが馬鹿にされて怒っていたのは本人に言ってあげたら喜んでくれるだろうか、私がそんな事を考えていると
『ね…?朝ちゃん?』
「はい、何でもありません」
よし、これはお墓まで持っていこう。この場合私は私のお墓に王様の耳はロバの耳をすればいいのだろうか
――と
がたん
「朝…潮…?」
襖に何かがぶつかる音と私の名前を呼ぶ声が聞こえた。それは私にとって懐かしい声のひとつであり直に聞くのは本当に久しぶりなものだった
私は振り返る
いつ目覚めるとも知れなかった初期艦さん…漣が私の姿に目を見開いていた
290 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:17:36.34 ID:OcSTB+ZDO
『思ったより早かったね』
漣「朝潮…本当に朝潮なんですか…?じゃあ私は…」
「ストップ!説明はしますからまずは座ってください。お茶淹れますから」
私は初期艦さんを…いえ、漣さんを無理矢理炬燵に座らせてお茶の準備をする
漣「あ…え…?」
状況が飲み込めず目を白黒させるばかりの漣さん。思考停止している今の内にと手早くお茶とお菓子を差し出す
『朝ちゃーん私にも〜』
「はいはい…」
私はY子さんの分もお茶の準備をする。今度の湯呑みは握り潰さないでほしいものだ
【あ、じゃあ私も】
「一度に言ってくれませんかね…今淹れます」
おそらく富士さんのはわざとだ、空気を弛緩させようとでも思ったのかもしれない。でもこの場合は…
バン!
まあ焦れている人には逆効果で
漣「お茶なんてどうでもいいから早く説明してください!ここは何処ですか!何で朝潮がここに居るんですか!朝潮がここに居るという事は…」
そこで言葉は途切れた
291 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:18:53.21 ID:OcSTB+ZDO
私がここに居る、つまり自分は死んだ、死、そこまで連想して思い出したのだろう。彼女の顔が青ざめていく
漣「私…は確か…消えようと…」
【私が連れて来たのよ。そしてここは彼岸と此岸の境目の世界。分かりやすく言えば三途の川よ】
漣「貴女は…富士…。…どうして?どうしてそんな余計な事をしたんですか!私はもう何もかも嫌になった!だから終わりにしようとしたのに!」
「…余計な事ですか」
私は思わず口を挟んでしまう。どうも最近の私は富士さんの肩を持つ傾向にあるらしい
漣「朝潮…貴女は私達の知ってる朝潮なんですよね?」
「はい、自らの憎しみに負け自殺したあの朝潮です。負け犬です。貴女もそうなるんですか?」
漣「な…!」
カアッという音が聞こえそうな程、彼女の頭に血が登ったのが判った
292 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:20:26.94 ID:OcSTB+ZDO
漣「アンタが…アンタが自殺したせいで漣達がどれだけ…ご主人様がどれだけ…」
再び彼女の言葉が途切れる。赤くなっていた顔がまた青ざめる
彼女は頭の回転が早い。私が言うよりも早く、言うまでもなく、自分も同じ事をしようとしたとすぐに思い至ったようで
漣「ごめんなさい…漣に朝潮を責める資格は無いですね…。つまり漣はもう…」
【貴女はまだ死んではいないわ】
漣「え…?」
【一時的に貴女の魂を私がここに連れて来た。言わば幽体離脱をしている状態よ】
漣「どうして…」
漣さんは完全に勢いを無くし項垂れる。そしてポロポロと水滴が落ちるのが見えた
漣「やっぱり余計な事だ…私はもう疲れた…大好きな人ももう居ない…私は龍驤さんを手にかけようとまでしてしまった…また裏切った…」
やっぱりまだ心の傷は塞がってはいないようで。当然だ、まだつい最近の出来事だったのだから
【ごめんなさい漣…。貴女を助けたのは私のエゴよ…。だけどね…自ら可能性を捨てて欲しくは無かったの…】
293 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:22:12.43 ID:OcSTB+ZDO
漣「私に可能性なんてもうありません…全部終わったんです」
…今の彼女はネガティブの塊だ、かつての私がそうだったから解る。何を言っても届きはしないだろう。自分自身で気付くしか方法は無いのだ
「仮にそうだとしてもまずはここでゆっくり…」
ふと思い付き私は言い直す
『「ゆっくりしていってね!」』
何故か便乗してきたY子さんの声が重なった
漣「…」
しまった…今彼女はネガティブの塊だと思ったばかりなのに。富士さんの事行き当たりばったりとか言えないかも
漣「…どこでそんな知識を仕入れたのか知らないけど…ずいぶん気楽そうですね…」
すると漣さんはあのテレビを見て
漣「どういう仕組みかは知らないけどあれで私達を見ていたんですね…。苦しんでいる私やあの子を見て楽しかったですか?」
なるほど…そう来たか。しかし私は動じる事無く答える
「楽しんでいるように見えたなら謝ります。貴方達が幸せになっていてくれたなら素直に楽しんで見る事が出来ていたんですがね」
漣「そんなの漣のせいじゃない!」
「知っています、ずっと見ていたんですから」
294 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:24:19.15 ID:OcSTB+ZDO
「だけど貴女が居なくなった事で皆の幸せが遠のいたのは確かですよ」
漣「そんな訳無い…むしろ私は…」
「貴女が居なくなってからの司令官達の様子を今から教えます。貴女にはそれを聞く義務がある」
漣「嫌だ!聞きたくない!何も聞きたくない!」
ちょっと性急に過ぎたかもしれない…今の彼女にはいつか富士さんが言った通り司令官達の話は毒にしかならないのか
漣さんは耳を塞ぎ逃げ出そうと―――
ズン…!
「う…!」
【ちょっと…】
漣「うぁ…あ…!?」
部屋の重力が何倍にもなったかのような圧力。Y子さんが漣さんに向けてプレッシャーをかけている
『ちょっと…落ち着こうか…。ね…?』
漣「あ…ぁ…」
漣さんには初めての彼女の力。先程までのとは違う意味で顔面蒼白になっている
『落ち着いてそこに座ってね。…座れ』
漣「は…はぃ…」
【あんまりやり過ぎると気絶してしまうわよ】
『解ってるって』
怯えきって元居た位置に座る漣さん。葛藤やら悲哀やらが恐怖一色に塗り替えられてしまっている。それが狙いだったのだろうか、彼女の恐怖を刺激して自らを守ろうとさせていた
『話の前にまぁとりあえずはこっち』
Y子さんがリモコンを操作して鎮守府の映像が切り替わる
漣「え…?」
そこには隔離室で拘束されている龍驤さんの姿があった
295 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:26:27.33 ID:OcSTB+ZDO
漣「どうして龍驤さんが…もしかしてまた調子が…」
「…これまでで一番最悪の状態に今なってしまっているんです」
漣「そんな…」
「それでも…それでも聞きたくないですか?」
漣「そ…れは…」
迷いを見せる漣さん。しかし何となく解った。このまま聞かない選択を彼女はきっとしないだろうと
漣「…もう漣には関係無いけど一応…。一応聞かせてください」
そうして漣さんが居ない間の出来事を私は可能な限り事細かに話して聞かせる
話が終わる頃には彼女の顔にはこれまでとは違うものが浮かんでいた。自責の念と、怒り。しかしそれもとても弱い、発奮には程遠いものだった
漣「私の…せいで…」
『それはさすがに驕りが過ぎるよ、龍驤が真実を知るのはきっと止められないし。その結果起こる事も変えられはしなかった。ただ…何かは出来ていたかもしれないけどね』
漣「何が出来ていたんでしょうね…恋人も守れなかった私に…」
自嘲するように言う漣さん。だけど少しだけ…これまでとは違うように見えたのは私の気のせいか
296 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:28:34.38 ID:OcSTB+ZDO
漣「それで…私を助けてどうさせたいんですか…?鎮守府に帰れとでも…?」
やはり疲れたように言う彼女。あの明るかった姿からは想像も出来ない程に陰を背負ってしまっている
「それはいずれは…」
【いいえ、誰も帰れなんて言わない。好きなだけここに居てもらって構わないわ】
私の言葉を遮って富士さんが言う。あの…?
【だけどね…いつか…貴女がまた希望を見出だす事が出来たら…私も嬉しい。やっぱりこれは私のエゴね…】
漣「…」
その富士さんの言葉に何かを考えている漣さんはやがて
漣「…じゃあしばらくはここに居ます。結局何も見付からなかったらその時は…」
そこで言葉を切り彼女は
漣「私の魂を富士…さんにあげます。いつかの時は見逃してもらいましたけど今度はその必要はありませんから」
【…そう】
富士さんは複雑そうな顔をしてそれだけを言って黙り込んでしまった
297 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:29:59.15 ID:OcSTB+ZDO
そうしてこれまでの私達と同じように鎮守府や世界の様子を見る漣さん
漣「犠牲者二千…虐殺…」
『老若男女問わずね。もちろん子供だって居た』
漣「貴女達はそれを黙って見ていただけだったんですか…」
責めるような視線を一瞬向けるもすぐに俯いて
漣「なるほど…少しだけ深海提督達の思考が解りました。龍驤さんはもちろんの事、何もしなかった人間そのものも同じくらい憎んでいる…」
「だからこそ龍驤さんを苦しめる為の道具くらいにしか思っていない、そういう事なんでしょうね」
ひたすらに考える漣さん。多分違う事を考えて一番思い出したく無い事柄を遠ざけているのだろう。私はそれに付き合い一緒に考察してみる
だけど同じ鎮守府での話なら自然とそこに行き着いてしまう。彼女はまた苦しそうな顔を浮かべる
漣「あいつらが…あいつらのせいであの子が…」
これは…まずいのかも知れないと私は話を反らす
「そういえばあの、重巡棲姫さんでしたっけ?あの人もすごい頑張っていましたよ!」
それを聞いた彼女は少し嫌そうな顔をする
漣「私にはあいつが解らない…いつも嫌な事ばっかり言って私を責める…きっと私の事が嫌いなんだ…」
298 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:31:10.53 ID:OcSTB+ZDO
『本当にそう思う?』
Y子さんが口を挟んできた。それに漣さんはまだ若干怯えつつも
漣「だってそうじゃないですか…結局あの子が…」
そこで言葉に詰まる漣さん。思い出してしまったのか目に涙を浮かべ
漣「あの子が死んだのは結局漣のせいだってあいつが言ったんだ!わ…私が…」
『…それは違うよ漣』
漣「何が違うんですか!」
『その子が死んだのは漣とは関係が無い。あの子自身のせいだよ。きっかけを遡れば不知火か更に言えば大本営の異動命令、もっと言えばそんな鎮守府を作った提督。さあどれにする?』
漣「そんなの言い出したらキリが無いじゃないですか…」
『解ってるじゃん。こじつけようと思えばいくらでも、誰でも悪く出来てしまう。まさにキリが無いよね』
それ以上言い返せず黙り混む漣さん。そこに私も言う
「少なくともあの重巡棲姫さんはその自分の過ちに気付いて貴女に謝りたいと言っていました」
漣「…」
『それに嫌いだからっていうのも逆だよ』
299 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:32:41.18 ID:OcSTB+ZDO
「そうですね。大切に思うからこそ厳しい事を言う。例え本人に嫌われても。なかなか出来る事ではありません」
漣「それを漣に言ってどうしろって言うんですか…」
「私達から漣さんにああしろこうしろとは言いませんよ。ただ、誤解したままではいてほしく無いだけで」
漣さんはテレビモニターに映る自分を見る。睨み付けるような複雑な表情で
漣「…角なんて生えて身体の色も白くなって」
『漣の魂が抜けてる影響で重巡棲姫が強く出てるんだよねぇ』
漣「関係…ありません…。もうあの身体は彼女にあげたんですから」
そう言って漣さんは奥の部屋に引っ込んでしまった
【…これからどうなるのかしらね】
ぽつりと富士さんが呟く声が聞こえた。それは漣さんだけの事では無く世界全ての事を指しているように私には聞こえた
300 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/12(金) 07:34:23.87 ID:OcSTB+ZDO
ひとまずここまで
本編次第で…
301 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/12(金) 10:27:04.87 ID:ty9mx+PIo
乙
すぐにアンダーラインでの話を上げてくれるのは感心する
本編でも思ったけど富士にも成長フラグきてるよな
302 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:13:59.12 ID:t/ppvMKDO
>>299
から
それからというもの鎮守府皆は龍驤さんを元気付けようとあの手この手と全力を尽くしていた
だけど霞の案ははっきり言って良くない。まさかドラッグで苦しみを取り除こうなんて
『使ったら間違い無く霞だけでは済まない事になるだろうねぇ』
「そうですね…副作用も酷いと言っていた辺り隠し通すのも難しいと思います」
そしてそうなったら間違い無く龍驤さんは施設行き。司令官も何らかの責任を取らされ提督を首になる可能性が高い
霞は逮捕され、証拠品として必要な薬や材料さえ押収、鎮守府は崩壊。よほど上手く隠しでもしない限り全て持っていかれるだろう
霞はその辺り大雑把で金庫も設置していなかった。聞いた話では最初は部屋に鍵すら無かったらしい
そして警察に鎮守府の皆に必要な物だと説明した所であまり期待は出来ないだろうと私は思う
当然ながら霞は他の皆に止められていたが、これも追い詰められた人間の視野狭窄なのだろう
「それにしてもまさか無理矢理注射しようとするなんて…もし間に合わなかったらと思うと…」
ダメ、ぜったい
303 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:15:24.62 ID:t/ppvMKDO
鎮守府の皆が集まって龍驤さんを励まし、説得する。しかし龍驤さんも頑固なものであくまで自分が悪いのだと言い張る
それでもそうして吐き出す事で少しは楽になれたのか僅かに元気を取り戻していた
「この調子なら…」
この調子なら龍驤さんもいずれ元気になるだろう。そう私も思っていた
しかしある日鎮守府に侵入者があったらしいと騒ぎになっていた
それはよりにもよって深海提督その人で、龍驤さんをまたもや追い詰めようとわざわざ鎮守府にまで来るなんて徹底している
そして龍驤さんは持ち直した分を全て失い今は薬によって眠らされている
「こうなってしまうともう戦うしか無いのかもしれませんね…」
『そうだねぇ。あくまで敵視してくる相手なら説得は難しいよねぇ』
「それにしても…」
と、私は奥の部屋の方を振り向いてみる
304 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:16:46.11 ID:t/ppvMKDO
ピシャ
慌てて襖を閉める音
「気になる事は気になるんですね…岩戸か何かでしょうか」
『また呼ぼうか?あたしが』
「いえ、そっとしておきましょう。無理強いしても仕方ありません」
今や奥の部屋は漣さんのテリトリーのようになっていた
私達も敢えて踏み込んだりはしないようにしている。彼女が自分の意志で来ない事には始まらないのだ
たまに泣き声が聞こえたりうなされる声がしたり、暴れる音がしたりとまだまだ彼女は不安定なようで
考えてみたらあの頃の私によく似ているような気がする。司令官達もこんな気持ちだったのだろうか…
司令官のように上手く慰める自信の無い私は下手に声もかけられずにいた。そもそも慰めの言葉が果たして彼女に有効なのかも判らない
無力感。どうしてあげる事も出来ない。せめてこの先何かしら上手く転んでくれる偶然に期待するしかないのだろうか
305 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:18:14.19 ID:t/ppvMKDO
龍驤さんを精神の病院に入れるという話が出ていた
深海提督が鎮守府に侵入し揺さぶりをかけてくる事も含めての対策らしい
「どうなんでしょうね…仮にも軍施設と病院でセキュリティにそれほど差は無い気もしますが」
『身分を偽って入ってくるか、それも飛ばして誘拐されちゃうかも』
仮に強引に拐おうとされたらむしろ対抗出来ない病院の方が危険な気がする
『かといってこのままだと違法薬物に頼らざるを得ないかなぁ』
「今すぐ施設に入れるか発覚して施設に入れられるか…もうこれは詰んでいるのでしょうか…」
そんな中例の富士さんを停止させる胞子の対抗策が見付かったと秋津洲さんが執務室に飛び込んでくる
そんな方法をまさか科学者という訳でもない秋津洲さんが?
しかし内容を聞いた所研究を重ねた結果発見したというよりは偶然見付かっただけだったらしい
306 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:19:51.96 ID:t/ppvMKDO
『ぷっ…ふふ…まさか激辛焼きそばとか…想像付かないよ普通。多分あの海月姫ですらそんなの知らなかったんじゃないかなぁ…ふっ』
「でもその…対抗策が見付かったのは良いのですが…使った後の絵面がちょっと…」
『お食事中の方は閲覧注意だねぇ』
胞子は強い刺激物に弱いらしく、激辛の食べ物でなんと体外に排出されるという話だった
…口から
半泣きになりながら超激辛焼きそばを食べ、そして胞子ごと食べた物吐き出す事になる
出た物体も含めモザイク必須である
「うっ…ちょっと気分が…」
しかし私達が見ているのは、見てしまったのは当然ながらモロである
『いったんテレビ消して…朝ちゃん…うぇ…』
その後改良され、成分だけを抽出したカプセルになり少しだけ楽になっていくのだが上からが下からになり全国の艦娘が排出の苦しみに阿鼻叫喚するのはまた別の話である
307 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:21:39.82 ID:t/ppvMKDO
「龍驤さんが拐われた!?」
どうやらあの女幹部さんが深海提督を誘き出す餌として連れていったという話らしい
いくら何でもあんな状態の龍驤さんを連れ出すなんて…いやそれよりも龍驤さんを恨んでいる人物の前に連れていくなんて危険過ぎる
『殺しはしないとは言ってもいつ気が変わるか判らないしねぇ…』
あの女幹部さんにとって深海提督は何よりも大切な存在だったらしい。司令官に涙ながらに訴えていたあの姿に偽りは無かった
前の世界がどうとか私にはさっぱり理解出来なかったが要点は深海提督と女幹部さんはかつて恋人同士で今は記憶を失い深海海月姫と夫婦のようになっていて子供まで作ったという所か
女幹部さんの立場からすれば平静ではいられないのは解らないでも無いけれど
「形振り構わないにしても協力をお願いした司令官まで裏切るような事をするなんて…」
しかし最悪の結果は免れていたようだった。誰にとっての最悪か、女幹部さんにとってはむしろこれが最悪だったのかもしれない
記憶を取り戻した深海提督は女幹部さんを拒絶。あろう事か銃弾を撃ち込まれ倒れていた所を発見された
308 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:23:24.46 ID:t/ppvMKDO
銃弾は急所を意図的に外されていたようで命に別状は無いらしい。それでも女幹部さんの仲間の一人が不思議な力で治療していた
「すごいですね…撃たれた傷がもう跡形も無く…」
傷は治ったがショックで泣いているばかりの女幹部さんを彼女の仲間が連れていく
それからその中の一人、アケボノさん?が龍驤さんを危険に曝した事を司令官に謝罪していた
償いに彼女達の持つ不思議な力で龍驤さんの精神状態を改善させる事に挑戦するという
そんな事が可能ならもっと早くと思わなくも無いが色々事情があるらしい
実際それは効果があったようで龍驤さんは少し元気を取り戻したようで私も少し安心する
「これで施設送りもドラッグ使用も無くなりそうで良かったですね…」
『また何かしらで精神状態が悪くならなければいいけどねぇ』
「さすがにもう何も出て来たりはしないと思いますが…しないですよね?」
過去から無くともこれから起きる事次第ではまだどうなるか判らない。果たしてそれは内部からか外部からか
309 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:24:42.46 ID:t/ppvMKDO
驚くべき事が発覚した
先日の深海提督の鎮守府侵入を手引きしたのはあの川内さんだったらしい
『力が欲しいか』
「秘伝書とかいうのに釣られてよりにもよって深海提督に情報を渡していた…これ、かなりまずいですね…」
『ならば、くれてやる』
「今や深海提督と深海海月姫は完全に敵という認識をされています。これがバレたら下手をしたらこの鎮守府全体が裏切り者と見なされてしまう可能性が…」
『…欲しいか』
私はよく解らない事を言うY子さんをスルーしてモニターを見ている。そこには由良さんにボコボコにされている川内さんの姿
結局その秘伝書の技を持ってしても由良さんには勝てなかったらしい。私には完全に裏切り損としか思えなかった
そして司令官は川内さんの事を由良さんに丸投げして処分保留。それを雲龍さん達に詰め寄られやむ無く川内さんを鎮守府から追放という形を取る事にしたようだ
『…多分彼女達も解ってるみたいだね。発覚した場合に形だけでも処分したという事実が無いのはかなりまずいって』
何事も無かったように話に加わるY子さん。スルーされて若干落ち込んでいる。いや…どう絡めと
『裏切り者は処分しました、だからうちは裏切ってはいない、この鎮守府は関係が無いと、少なくともそう言える状態にしておかないと後が怖いねぇ』
それが何処まで通用するのかは判らないがこのまま川内さんをここに置いておくのは危険だと皆は考えたのかもしれない
結局川内さんは忍者提督の鎮守府に異動という事になったようだ
司令官は間違い無くそこまで考えはいない。解っていたとしたら他人の鎮守府に迷惑をかけるかもしれない川内さんを預けたりしないだろう
310 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:26:00.30 ID:t/ppvMKDO
アケボノさん達の治療が効いているのか龍驤さんの調子が少しずつ戻っていっている
何より大きいのは少しだけ考え方が変わった事だ
あくまで自分に原因があるとはしつつそれでも深海提督と深海海月姫がした事は許されない事だとようやく認めたのだ
当然と言えば当然だ。恨みがあれば何をしてもいいなど誰一人認めはしない
彼らは越えてはいけない一線を越えてしまった。今後は彼ら自身が憎まれる番になるだろう
そうして憎しみは連鎖していくのだろうか。私は結局殺さずに済んで本当に良かったと思う。自らの命と引き換えに憎しみを断ち切れたのだとすれば少しは意味があったのだと。そんな事は結局慰めにもならないのだけど
「少しだけ鎮守府の雰囲気も明るくなりましたかね。まだまだ以前には程遠いですが…」
『鎮守府が暗くなった発端は朝ちゃんだけどねぇ』
「ぐっ…それを言われると…」
『それでも繰り返すんだから人ってやつは…』
Y子さんがぼそりと呟く。おそらくは似たような場面をそれこそ飽きる程見てきたのかもしれない
そしてそれは富士さんも同じで彼女は行動に移した。Y子さんはただ見続ける事を選んだ。その違いは何なのだろう
311 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:27:44.52 ID:t/ppvMKDO
珍しく司令官が一人で執務をしていると何故か机の下から白露さんが這い出して来て司令官を襲おうとしている
「何なんですかあの女!というかいつからそこに!?」
『おーさーえーてー』
「寝取り趣味ってここにとっては致命的じゃないですか!本当の敵はそこに居たんだ!」
『あーさーちゃーんー』
「そう思いませんか漣さん!」
ピシャ
「…チッ。おや?朝霜さんが止めましたね。ちょっと意外です。てっきり一緒になって襲うのかと思いましたが」
『それをしたらどうなるか解っててやるならバカとしか思えないよーお姉ちゃんよりアホだよー』
「根に持っていますね…」
他の白露型の皆さんに連行されそれはもうお仕置きに次ぐお仕置きが行われていた
私は生きている間に彼女達に会わなくて良かったと心の底から思う。きっとあの中の誰か…主にピンクの誰かの毒牙にかかっていたかもしれないと思うと震えが走る
312 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:29:26.25 ID:t/ppvMKDO
私がいつものように鎮守府の様子を見ていると蒼白な顔をした天城さんが走って行くのを見付けた
どうやら天城さんの旦那さんである天提督の癌が再発したらしい
今度はリンパに転移していて余命一月と宣告されたと話していた
「せっかく手術したのにこれでは…」
『癌ってそういうものだからね…一度出来てしまえば常に再発の危険性がある』
天城さんは天提督の側に居る為に向こうの鎮守府に戻る事になったらしい
それから一月が経ち、病院の屋上で大分やつれてしまった天提督に寄り添う天城さんの姿があった
実際天城さんが側に居たおかげか医師の宣告よりも長く天提督は生きていた。しかしそれももう限界が近いのだと素人の私でも判る程に痩せ細ってしまっていた
313 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:30:54.62 ID:t/ppvMKDO
本当はこんな場面、部外者の私達が見るべきでは無いと解ってはいた。だけど私は目が離せなかった
こんな…こんな穏やかな顔を死を前にして出来る人間が居るのだと私は知らなかった
「私とは違うんですねきっと…私が彼の立場ならどうせ死ぬからと自暴自棄になって何をするか…」
そうして二人は屋上から海を眺めながら最後の時間を過ごしている。穏やかに思い出話をしながらそれはそれは幸せそうに、これから死が二人を別つとは思えない程に
そして彼は天城さんにこの綺麗な海を守ってほしいと言い、眠るように静かに息を引き取った。苦しみなど欠片も感じていないかのように微笑みを浮かべたままで
残された天城さんは叫ぶでもなくただ静かに泣いていた。眠っている彼を起こさないように。私にはそう見えた
そして彼女はポケットから2つの錠剤を取り出し握り潰し捨てる
「あれは…もしかして…」
『うん…』
やはり用意していたのだ。後を追う為の薬を。しかし彼女はそれを捨てた。生きていく為に、約束を果たす為に
314 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:33:14.51 ID:t/ppvMKDO
「どうして…」
ふと背後から声がした
私が振り向くといつの間にか漣さんがすぐ後ろに立っていた
漣「どうして…」
ただそれだけを繰り返す。つまり何より大切な存在を失ってどうして生きていこうと思えるのだと。そう彼女は言っているのだ
「約束…したから…?でもそれだけではありませんね…。きっとあの彼の顔があまりにも幸せそうだったからでしょうか…」
漣「幸せ…?だって好きな人と居られなくなって…死んでしまうのに何が幸せだと…」
「短い間でも精一杯に後悔しないようにすごせた証だと思います。全く無いのかはさすがに判りませんが、少なくとも彼は幸せを感じながら逝ったのだと私は思います」
漣「…」
「何よりも彼は後を追う事を望んでいない。大切だからこそ生きてほしいと、そう願っての約束なのだと思います」
漣「………あの子も」
「ええ…きっと同じように願っている筈です」
大切だからこそ
自分の後を追ってほしいなどと願うようなら本当の意味で相手を思いやってなどいない。そんな事は私でも解る
315 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:35:27.14 ID:t/ppvMKDO
「…ねぇ漣さん、貴女には私と同じ過ちを繰り返してほしくはないんです。貴女はまだ戻る事が出来ます、私とは違って」
彼女は俯いたまま何も言わない。聞いているのかも解らない。だけど私はこれだけは伝えなければならない
「私は…今更ですが、後悔しています。一時の苦しみから逃れる為にああした事を、未来の可能性を信じる事が出来なかった…」
「実際楽にはなりました、自分の過去について苦しまなくてよくなったのは確かです。でもそれだけです。たったのそれだけ」
漣「それだけ?あれだけ苦しんでいたのにそれだけですか…?」
「そうする事で私が失ったものに比べたらたったのそれだけです。全く釣り合いが取れないくらいに私は全て無くした」
漣「…それは…どういう…」
「漣さん、私はね…もう何も出来ないしもう何処へも行く事が出来ないんです。どれだけ大切な人や仲間が苦しんでいようが声のひとつもかけられないし側に行って元気付ける事も出来ない」
後悔してもしきれない。もし私が生きていたとして刑務所で数年。真面目にしていればいずれは出られた筈。そうしたらまた司令官達に会えたのにと今更ながらそう思う
そしてもしかしたら司令官以外に私が幸せになれる誰か、何かに巡り会えていたのかもしれない
「…私はそうして一時の憎悪や苦しみから逃れる為に全てを自ら棄ててしまった!そしてその事で司令官や皆に傷を負わせてしまった!」
316 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:38:49.67 ID:t/ppvMKDO
「解りますか!?そんな自分と同じ過ちを繰り返そうとしている貴女を私がとんな気持ちで見ていたか!」
漣「だって…漣にはもう何も…」
「何も無い?私の前でそれを言いますか?」
漣「なら大切な人を失う気持ちがあんたに解るのか!」
「そうやって自分の事ばかりだから彼女が被曝している事にも、死を覚悟していた事にも気付けなかった!因果なんて大層なものは関係無い!単に貴女の気配りが足りなかっただけです!」
漣「お前…!」
言い過ぎたかもしれないと口に出してから気付くが後の祭。彼女は激昂し私に掴みかかろうとする
ズズン!
『二人共…少しうるさいよ』
Y子さんの圧力が私達を襲う。漣さんは顔面蒼白になり反射的に土下座していた。そして私は
「すみません…少しヒートアップしてしまいました。ごめんなさい漣さん、言い過ぎました…」
漣「…」
漣さんは何も言わずに奥の部屋に戻ろうとする。私はその背中に向かって言う
「貴女はまだ戻れる、そして貴女を待っている人達が居る。このままだとまた後を追って来る人が出るかもしれませんよ。貴女はそれを望みますか?」
317 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:41:08.27 ID:t/ppvMKDO
漣「そんなの居る訳…」
「例えば黒潮さん、彼女は漣さんを半ばライバルのように見ています。それこそ死んでも決着を付けに来るかも」
漣「決着ならもう…」
「それに重巡棲姫さん、彼女は貴女が戻って来るかもしれないと希望を持ちその先の事を見据えて頑張っています。貴女が戻らないと知ればどうなるかは判りません」
漣「…」
「そして司令官もそれを知って希望を持てた事で落ち込む事が少なくなりました。結局無理なのだと知ればどれだけの負担になるか」
漣「…ご主人様には龍驤さんがいます。私が居なくとも」
「逆ですよ。司令官が龍驤さんを支える助けが必要なんです。それがかつては貴女だった」
漣「霞とか…」
「私から見れば霞も危ういですけどね。大抵薬に頼ろうとするし…」
漣「だって…もう私には生き甲斐が…」
「私の話聞いてましたか?生きていれば新しい生き甲斐くらいまた見付かります。それを信じるのが希望というものです」
漣「そんなもの…いらない…私にはあの子さえ居ればよかった!」
そう吐き捨てて彼女はまた部屋に閉じ籠もってしまう
318 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:42:51.33 ID:t/ppvMKDO
「はあ…本当に頑固で意地っ張りでわからず屋…」
『お疲れ朝ちゃん』
「とりあえずは今伝えたい事は伝えたつもりですが…」
『まだまだ判らないね、どうなるかは』
彼女には私のように後悔してほしくは無い。だけど受けた傷が深すぎてその痛みが彼女の目も心も曇らせてしまっている
「私に言われて怒れるくらいの元気はあるみたいなので少しは望みがありそうな気はしますが…」
『さっきのわざとだったんだ』
「いえ、思った事をそのまま」
『まだ治らないんだねその癖…』
呆れたように言うY子さん。そしてまた私は鎮守府の様子を見守る
自らを棄てて、皆に傷を残してしまった私自身への罰はこの無力感をひたすらに呑み込む事しか無いのだと私は知っている
そしてこれ以上ここに来てしまう懐かしい顔が増えない事を私は願うばかりだった
319 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/16(火) 05:43:55.09 ID:t/ppvMKDO
ここまで
表現がマンネリ
320 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/16(火) 12:26:59.42 ID:dvhLqQLyo
乙乙
こう見ると似てたね朝潮と漣
よし漣大神のために裸踊りしようやしm
321 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/16(火) 19:21:42.91 ID:cQ8jtxAJo
死んでもなお責められる漣が哀れすぎる…
322 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/17(水) 23:48:11.31 ID:pl6VmzD+O
ーー幼女塾とは
「提督さんに秘書艦さん、調子はどうですか?」
阿武提督「ここの装備と施設に恥じない結果を出していくつもりです」
「そうですか。何回も説明させて頂きましたが、決してあの子達に無理だけはさせないで下さい」
阿武隈「各艦娘のノルマもその子達に合ったものを採用していますぅ!」
「ええ、そのようですね。あの子達の活躍は塾長を始め先生方も喜んでいます」
阿武提督「それは良かったです」
阿武隈「……」
阿武提督「どうしたの阿武隈?」
阿武隈「いえ…やっぱりスカートの長さが気になるなぁって…」
「そこは譲れない所です。少しでも動けば下着がチラ見…いやぁ神風型は元の服も良かったですが、我が塾のユニフォームもよく似合ってますよ」
阿武隈「海防艦の子なんておヘソまで見えてるじゃないですかぁ!」
「ええそうですけど…?」キョトン
阿武隈「なんであたしがおかしいみたいな言い方されるんですかぁ!」
323 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/17(水) 23:51:05.19 ID:pl6VmzD+O
「提督さん、ひょっとして彼女は我が塾出身では無いんですか?」
阿武提督「そうなんです。阿武隈はまだこの塾のことがわかって無いんです」
「成る程…合点が行きました」
「阿武隈さん、我々は幼女が大好きです。所属している人は全員ロリコンです」
阿武隈「それくらいわかりますぅ!」
「残念なことにこの世界では幼女が毎日のように酷い目に合っています。心無い大人に売られたり、謂れのない暴力を振るわれたりと被害は様々です」
「そんな幼女を救いたい。そういった理念で我々は動いているんですよ」
阿武隈「それは知ってますけどぉ!こんな短いスカートを履かせて…!」
「幼女の下着を見る以上の幸福がこの世に存在するのでしょうか?」
阿武隈「ひぃぃぃ…!」ゾクッ
「安心して下さい。我々は幼女に手を出しすことは絶対にしません」
阿武隈「そんなの信用できません!!」
「これはこれは…この様子だと御殿の事も知りませんね?」
阿武提督「ここの準備でバタバタして…一度くらい連れて行こうとはしてたんです」
阿武隈「なんなんですか御殿ってぇ…?」
324 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/17(水) 23:53:10.59 ID:pl6VmzD+O
「では簡単に説明させていただきます。幼女塾の本部である幼女御殿。ここには我が塾に所属している幼女の服が祀られているんです」
阿武隈「ひ……!!」
「阿武隈さん始めここの艦娘さんにはユニフォームから下着まで配布しましたね?それを回収して御殿に祀ります」
阿武隈「半年ごとに回収っていうのはそういう目的が!!」
「はい。そこで回収した神聖な神衣は洗わずに御殿へ祀られます」
阿武隈「この団体……思ってた以上にヤバい……!」ガタガタ
「勘違いしていただきたくないのは艦娘だからということではないのです。全ての塾生の服を祀ってあるのです」
「塾に来て一か月記念、半年、一年…幼女から少女になった日の記念など……それはもう様々ですよ」
阿武隈「ひぃぃぃぃぃぃぃ〜〜!」
325 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/17(水) 23:56:06.93 ID:pl6VmzD+O
「我々はボランティアではありません、塾の運営費は必要になります。そこで我が塾に入塾して体力のある塾生はスポーツをやってもらっているんです」
阿武提督「この間テニスで世界一になったハーフの日本人選手いるでしょ?あの子ってこの塾所属なのよ」
阿武隈「ええええぇぇ〜〜!!」
「我が塾では国籍も人種も思想も宗教も関係ありません。幼女であれば全て良しなのです」
阿武隈「でも…女の子でお金を稼ぐなんて……」
「そこも大丈夫です。我が塾では所属している塾生が稼いだお金は99パーセントが本人の物になります」
阿武隈「女の子はそれで大丈夫だとしてもぉ…塾はそんなのでやっていけるんですかぁ…?」
「そこで寄付です。日本…いえ、世界の方々からの寄付金で我が塾は成り立っています」
阿武提督「幼女塾は凄いの。寄付金の100パーセントが塾の為に使われてるのよ」
326 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/18(木) 00:02:16.65 ID:cI+AjelcO
「我々はお金を稼ぐのが目的ではありません。よく名前を聞く団体が駅前で寄付を募っていますが、それが実際使われているかは分かりませんよね?」
「我が塾ではそんなことはありません。1円も余す所なく塾生の為に使われているんです」
阿武隈「でも…証拠が無いじゃないですかぁ」
「あるんですよ。例えば阿武隈さんが100円寄付していただいたとしますね?すると貴女のお金がどう使われたか冊子が届くんです」
「希望されるなら冊子では無くデータでお配りしております。そうだ、実際に見た方が早いですよね。提督さん、見せてくれませんか?」
阿武隈「提督……?」
阿武提督「……」プイッ
阿武隈「あの…なんで目を逸らすんですかぁ……」
「提督さんは我が塾に熱心に何度も寄付していただいているんですよ」
阿武隈「提督…………?」
阿武提督「……」
「それがある日突然寄付が途絶えてしまったんです。我々や塾生が心配しましてね、提督さんの所を訪ねた所、提督を辞めていたと知ったんです」
阿武隈「……ロリコン提督」
阿武提督「だって…小さい女の子って可愛いんだもの…」
「…これも言ってなかったんですか?」
阿武提督「……はい」
327 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/18(木) 00:05:26.70 ID:cI+AjelcO
「まあそれは今度にしましょう。それより冊子を出していただけますか?」
阿武提督「……」スッ
阿武隈「うわぁ…ボロボロになるまで読んでるんだぁ……」
「ほら…見て下さい。このような内容なんです」
阿武隈「提督のお金はコートの一部として使われました…新しいユニフォームの一部になりました…」
「基本的に寄付金の使い道はこちらが決めています。特定の子だけを贔屓することは許されません」
「我が塾は全ての幼女を平等に愛しています。アスリートになれなかったからと言って見捨てるなんてことはいたしません」
阿武隈「でもぉ…」
阿武提督「一度幼女御殿に行ってみれば考えも変わると思うわ」
「それは私もおススメします。御殿に入った瞬間に感じる幼女スメル…あれは最高です」
阿武隈「……」ゾゾゾ
328 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/18(木) 00:07:46.36 ID:cI+AjelcO
阿武提督「私が寄付したお金がこの子の為に使われたんだって確認できるだけでも気持ち良いのよ」
「御殿では全ての神衣を着ていた時そのままの形で祀らせてもらっています」
阿武提督「当然下着もよ」
阿武隈「それこそ問題ありですぅ!」
「何も問題ありません。我々は祀られた神衣の匂いを嗅ぐだけです。例え神衣でも触ったりはしません」
「神衣の新作が来た時の匂い…いいですよねぇ…」
阿武提督「ええ、凄くいいわ…」
阿武隈「……あたし…とんでもない所に入っちゃったかも…」
329 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/18(木) 00:08:22.67 ID:cI+AjelcO
酷い内容
それではまた…
330 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/18(木) 00:47:14.31 ID:57ERTwW5o
変態かな?
変態かな
でもこれでも世に蔓延るカルトよりマシだよなああー俺も寄付してーなー本当になー
乙乙
331 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/18(木) 07:40:17.20 ID:08loZBQDO
おつです
御殿は何処かのモスクみたいなのをイメージした
巡礼しなきゃ
332 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2019/04/21(日) 15:31:23.00 ID:H5a88qZDO
>>317
から
「こんどは龍田さん」
私は朝潮です。自分の事は棚どころか屋根の上にまで上げて言います
「復讐なんて良くないと思います!不幸になる人が増えるだけです!」
龍田さんに昔酷い事をしてトラウマまで植え付けた元提督が出所してくるのを知った龍田さんは鎮守府を無断で抜け出し復讐に向かったらしい
もう私みたいにはさせないと言う司令官…素敵です。そして嬉しくもあり、申し訳無くもある。何かにつけて私の名前が出るのはやはり引きずっているのもあるだろうと思えてしまう
『この鎮守府は過去に酷い目にあった子が多いから、心に余裕が生まれれば次は自分をそんな目に合わせた奴をどうにかしたい、そんな考えが出るのかな』
「自分の未来の為にここに居るのに結局まだ過去に縛られているんですね」
普段は忘れていてもふとしたきっかけで思い出し、負の感情を募らせていったのだろう。私と同じように
そして龍田さんを止める為に司令官達、そして天龍さんが向かい、警部のまるゆさんが元提督の出所時間を送らせてくれる
「何だか最近よく見かけますね、この人」
『それだけ警察沙汰になる案件が増えてきたって事かな』
でもとてもいい人なのは見ていて判った。常に皆を気にかけて今回もすぐに動いてくれた
333 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/21(日) 15:32:58.73 ID:H5a88qZDO
しかし今回は天龍さんの説得により龍田さんは自らの手を汚す事無く皆の元に帰って行った
「本当に良かったです、きっとそれだけ龍田さんにとって天龍さんや皆の存在は大きかったんですね」
自身の行動で失うものと復讐が釣り合わなかった。だから止まれた
私の場合は司令官達に出会った時には既に手は汚れていて一人も二人も同じという思いがあった
決して大切で無かった訳では無かったが既に一線を越えてしまっていた違いは大きかったのかもしれない
その後元提督が恨みを買っていた他の誰かに刺されてしまったらしい。これこそ正しい因果応報というものだと思う
過去に過ちを犯しても変われた人や悔い改めた人には因果も少しはお目こぼしをしてくれたっていいのにと私は思う
「刺した人もやっぱり艦娘なんでしょうか」
『その可能性は高いかもねぇ。提督という立場上何かしらするのには一番手近な相手だし』
「私達の知らない人か…もしかしたら会った事がある人だったり」
『そうしたら世間は狭すぎるねー』
334 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/21(日) 15:36:15.93 ID:H5a88qZDO
天城さんから始まり次に自らの道へ踏み出す番になったのはこの鎮守府ではあまり目立たなかった阿武隈さんだった
話で聞く限りは阿武隈という艦種はかなり強いらしかったけれどやはり個人差というものはあるようで
そうでなければ課せられていたノルマというのが想像以上にきついものだった可能性もあるけれど
「幼女塾って名前からして怖いんですけど…。よくそんな所に行く気になりましたね…」
『ロリコンを公言してはいるけど欲望から集めているというより何だか崇拝の対象にしてるみたいだね…』
「やっぱり怖いんですけど」
言ってみれば女の子だけの児童擁護施設なんだろうか。そして阿武隈さんが行くのは新たに作られる民間の鎮守府のような所らしい
「大本営はよくそれを了承しましたね、軍に対しての引き抜きなんて」
『そりゃあこれでしょー』
と、Y子さんは指でお金のサインをして見せる。…大本営の欲深い重役達は軒並み消えたはずだけどある程度まともだとしても人間はやはりそれには弱いのだろう
もうひとつの可能性として大本営の上層部もロリコン揃いで支援しているとか…もしそうだとしたらこの国は…
考えてみれば軍の貴重な戦力である私を売り飛ばしたのはあの島風提督の独断だったけれど、大本営に対してもお金さえ積めば売ってしまったりしていたのかもしれない
今でこそ大分マシになったけれどかつての艦娘の扱いは兵器…つまりはモノだったのだから
335 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/21(日) 15:39:58.01 ID:H5a88qZDO
「阿武隈さんを引き抜くのもあの阿武提督さんだけの力では無さそうですね」
『そもそも首になってたんだしねぇ』
「推薦はしたんだと思いますが、動いた幼女塾はおそらく相当な影響力を持っていそうです」
そしてノルマを達成出来ずに心を病んでしまったという経歴を持つ阿武隈さんを引き抜くのを了承して動いてくれた?
「何かしら裏があるんでしょうか…」
『さぁねぇ…変態の考える事は解らないなぁ』
阿武隈さんと話す文月さんを見る限り確かに幸せになってはいるようだ。私の考えすぎか、どうもそういう特殊な方々を私は懐疑的な目で見てしまう
おそるおそる話を切り出す阿武隈さんに司令官達は暖かく背中を押した
進みたい道があるのならこの場所に縛り付けたりはしない。何より自由意志を重んじるこの鎮守府らしいと思う
「にしても民間の鎮守府っていうのはもしかしたらこれから増えていったりするんでしょうか」
『戦争が終わったら行き場が無くなる艦娘の受け皿として作るのはいいんじゃないかな、もしくは退役した子とか。それで何をするかはまた問題だけど』
私もそうだけど戦う以外にどうやって生活していくのか想像がつかない。イメージ出来るのは傭兵のような仕事くらいだ。訓練でも戦闘以外の事は教えられなかった
もしかするとこの一見怪しさ大爆発なこの団体が艦娘の未来の光明になるのかもしれない…
336 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/21(日) 15:42:24.35 ID:H5a88qZDO
『朝ちゃんは痛いの好き?』
「何ですかいきなり…好きな訳無いじゃないですか」
『痛いのが気持ちいいとか愛情表現に感じるとか』
「あり得ませんね。私が殺した彼も私に殴る蹴るしましたけどあれに一片でも愛情のようなものがあればあの結果にはならなかったはずです」
そして私は不器用だった。自分を守る為に苦痛を快楽に変換するという事も出来ずに真正面から受け続けるしか無かった
むしろあの男は私に快楽を教えるというつもりも無くただ私を捌け口にするだけだった。もう少しだけでも思いやりがあったなら例え監禁されていてもさすがに頭は狙わなかったと今では思う
『中にはそういうのも歪んだ愛情として受け入れる人も居るみたいだから』
「そこに気持ちが入っているならまだ多少は…マシと言えるかもしれませんけど…歪んでますよ本当に」
痛みを痛みとしてちゃんと感じるにも関わらずそれを受け入れる…もしも司令官がそういう性癖の持ち主だったら…?
私を殴って喜ぶ司令官…上手くイメージ出来ない…。でもそうなったら多分私は受け入れる事は出来ないと思う。裏切られたと感じるかもしれない
337 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/21(日) 15:46:27.96 ID:H5a88qZDO
そんな話になったきっかけの叢雲さんと弥生さんの一件は複雑だった
かつて沈んだ卯月さんの替わりに卯月さんを演じていた弥生さん。そのストレスの捌け口として暴行を受け子供を産めない身体にされた叢雲さん
普通なら加害者として捕まるかされていたはずだが何故か叢雲さんはそれを愛情として受け入れてしまった
しかし実はそれをしたのが愛する卯月さんではなく弥生さんだったと叢雲さんは知る
その上卯月さんは弥生さんの中で生きていて同じ身体を共有している
ならもう三人で幸せになろうと提案する卯月さんだったが叢雲さんと弥生さんの関係は今や暴力ありきになってしまっていた
叢雲さんは今は弥生さんも好きらしいがやはり騙されていたという気持ちはあったようだ、だけど好き、でも許せない、とかなりの葛藤があったのか不安定になってしまっていた
そこに来て叢雲さんは弥生さんがもう暴力は振るわないとの言葉に怒り狂って逆に殴りかかっていく
自らの身体の傷も全て愛情の証だと思っていた叢雲さんにとってはそれが単なるストレス解消だとは認められなかったのだろう
338 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/21(日) 15:49:51.40 ID:H5a88qZDO
「そもそもの間違いは叢雲さんがそれを受け入れてしまった事ですね。そこで矯正出来ていればこうはならなかった」
私の叢雲さんへのイメージでは一番最初の暴力の時点でやり返したりしていそうだと思っていたけど、そういう所で包み込む優しさなんかが発揮されてしまったのだろうか
『そういえば遊び程度の叩いたりは卯月の時からあったみたいだからその流れで受け入れてしまったんだろうねぇ』
「そこから間違いです。限度を超えたらちゃんと叱らないと。だからここまで拗れたんですよ」
『なかなか辛辣だねぇ朝ちゃん』
「好きな相手を傷付ける…そんな関係は間違っているに決まっています。エスカレートするのを止めもしないなら最後に待つのは破滅ですよ」
『相手がSかMだったら?』
「専門外です。痛いのも痛め付けるのも御免です」
…私はそんなの知らないはずだけど、この世のものとは思えない激痛を味わった事があるような気がしてそれを愛情表現などとはとても思えなかった
339 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/21(日) 15:52:07.52 ID:H5a88qZDO
そして弥生さんをボコボコにしようとする叢雲さんは止めに入った神通さんに取り押さえられそのまま病院送りになった
片や弥生さんも自分を責めるあまりとんでもない事をしようとする
「ちょっと…また…自殺…?」
後ろでガタンと何か音が聞こえた気がしたが敢えてそちらは見ないようにする
「はっきり言って安易過ぎますね。まだ二人共生きていてやり直しが出来るのにすぐに諦めて逃げようとしている」
確かに叢雲さんの身体については取り返しは効かないだろう。だからと言って自殺するにはまだまだ軽いと私には見える。まあ自殺しても許される理由など無い方がいいに決まっているけど
そして弥生さんはおそらく漣さんの真似をして精神の自殺を図るが失敗していた
『まぁそれも当然だよねぇ。毎日死にたい死にたい思ってても死ねないのと一緒で本来勝手に生きようとするのが生き物というやつだからね』
「私から言わせれば絶望が足りませんね。失敗するのも当然です」
彼女に比べたら…
そしていつも通り目覚めた弥生さんに重巡さんが怒っていた。心がそう簡単壊せてたまるかと、何故立ち向かわないのかと、そして
≪もうあんな思いはしたくないんだ…≫
怒りながらも哀しげそう言っている重巡棲姫さん
…貴女にも聞こえた筈ですよね
私は背後の部屋に意識を向ける。すると微かに啜り泣く声が聞こえた。何かは伝わったのだろうか…
340 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/21(日) 15:55:01.10 ID:H5a88qZDO
叢雲さんの病室で卯月さんのビデオレターを観ている叢雲さん弥生さん、そして司令官と龍驤さん
それはもう必死なものだった。一人ぼっちにされるのは嫌だと泣きそうになりながら、最後には我慢出来ずに涙ながらに訴えていた
それを見た弥生さんは泣き始め、叢雲さんも反省したかのように項垂れる。結局この二人には卯月さんが必要なのだと解った
『実際大した子だよね卯月って』
「そうですね…彼女は何が起きても最後まで絶望はしないような気がします」
それから叢雲さんと弥生さんは返信のビデオレターを撮り始めている。そしてお返しにと卯月さんの大好きなイタズラを仕込んでいる
これも愛情表現なのだろう
痛みを与えなくとも、痛みを受け入れなくとも愛情を伝える事は出来る。二人は気付いているだろうか
暴力によって繋がっていた時よりも楽しそうな笑顔を自分達が浮かべている事に
きっと卯月さんが居る限り二人は大丈夫なのかもしれない。私は楽観的だとは思いつつもそう信じるのだった
341 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/21(日) 15:57:27.44 ID:H5a88qZDO
ここまで
342 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/21(日) 16:26:49.16 ID:bz1VCgNro
おつ毎回楽しみ
>大本営の上層部もロリコン
一見ディストピアだがある意味一番平和に見える悪夢
343 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/25(木) 05:34:04.30 ID:ewPdNPWDO
>>340
から
こんちには、朝潮霊です。今日も司令官達の様子を見ていきます
最近の司令官と龍驤さんは少しずつ以前の状態に戻りつつあるようだ。ようやく乗り越えたのだと思えるようになってきている
これこそ許し合える関係というのだろうか
「龍驤さんの過去にこれ以上のものはさすがに無いだろうけど、そういえば司令官の過去ってどんなのだろう」
『昔は悪党だったとかだったらどうする?』
「それは無いんじゃないでしょうか。昔って提督になる前になるだろうし」
『学生時代は金髪ヤンキーと組んで髪の毛を思いっきり立てて喧嘩三昧だったとか』
「それこの前読んでた漫画の話ですよね、明日から本気出すとかなんとか」
『まあ多少悪かったとしても血の気の多い艦娘に比べたらかわいいね!』
確かに私達艦娘から見たら不良程度は文字通り子供の喧嘩にしか見えないだろう
むしろ極道とかマフィアの方が近い。切った張ったに違法薬物、警察沙汰は日常茶飯事。場所によっては人身売買と考えれば考える程やばい世界だ
深海棲艦との縄張り争いにケジメをつけられる日はいつになるだろうか
344 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/25(木) 05:36:23.54 ID:ewPdNPWDO
今この鎮守府に居る中でも血の気の多い筆頭の一人である夕立さんが再会した最上さんに食ってかかっている
時雨さんが身体を失う羽目になったのはあくまで最上さんのせいだと聞く耳を持たない
「何だか解っていて意固地になっている印象を受けますね」
『前に自分で言っていたね。まともになったら耐えられないって、常に誰かを責めていないと駄目な状態なんだろうね』
「それでも他の姉妹と居る時は少し柔らかな顔になっているみたいですけどね」
『夕立っていうのは元々そんなに思い詰める性格じゃない艦種だし。人格に合わない事がいつまで持つかな…』
「夕立さんがあの性格になったのは一度壊れたからかもしれません…。再統合した結果ああなったというか」
どんな負荷でも歪まずに元のままという強靭な精神が持てるのなら…しかしそれはもう人ではないのかもしれない
その後最上さんは悪くないのだと朝霜さんに言い負かされてしまう夕立さん
この辺りはやはり夕立という艦娘の本質なのだろう。難しい事はあまり考えず、感情と直感で動いている
そして子供の仕返しのように朝霜さんにとっての禁句を連呼する。すると朝霜さんは途端に怯え始め普段の強気な彼女とはかけ離れた状態になって龍驤さんに介抱されていた
やっぱり子供だ
そして噂をすれば影とも言うようにその禁句の張本人、早霜が唐突に現れる
345 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/25(木) 05:37:45.09 ID:ewPdNPWDO
「ちょっとしたホラーですね彼女は…」
ずっと見ていた私ですら早霜が笑い声を上げるまでそこに居るのに気付かなかった
これまでも前触れ無く突然現れたりする事があったがそれも能力なのだろうか
そして早霜は夕立さんを始めとした特務艦や元特務艦に囲まれているにも関わらず余裕の笑みを浮かべている
何かが光ったように見えた、糸のような…
そして夕立さんの身体から血が噴き出す
「え…一体何が…?」
『どうやら鋼線みたいなもので切り刻んだようだね。とてつもなく細く鋭い』
それでも夕立さんはかなりの重傷にも構わす早霜に襲い掛かろうとする。それを必死に止める時雨さんと春雨さん。そして三人を庇うように白露さんが前に立ちはだかっている
その時、一喝するような声と共に何処からともなく飛来した魚雷により早霜の上半身が吹き飛び、程なく残った下半身も消えていく
「あれがりすぽんですか…」
『リスポーンね。何だか朝ちゃんのは栗鼠のキャラクターか何かみたい』
「…いいじゃないですか別に」
若干赤面しつつそんな事を言っていると突然夕立さんが最上さんに噛み付き血を吸い始める
346 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/25(木) 05:42:03.50 ID:ewPdNPWDO
「ちょ…彼女は一体何を…」
『へぇ…そんな能力?持ってたんだねぇ…』
Y子さんが指し示すと夕立さんの出血が止まり始めていた。あまりの光景にそれには気付かず龍驤さんや白露さん達は二人を地下隔離室に担ぎ込んでいく
隔離室の一角には新たに設置された医療器具やベッドがあるが以前より手狭になってしまっている
重傷だった夕立さんは血を吸った事によるのか手術の必要が無い程に回復していた。そして最上さんは血の吸われ過ぎで貧血気味にはなっていたが大事には至らなかったようだ
「夕立さんは吸血鬼だった…?そういえば目も赤いし…」
『相手を喰らったり血を吸ったりして自らの一部に変換し回復かな』
「そういえば以前にも夕立さんと早霜がやり合った時も夕立さんは重傷だったのに生きてました」
『早霜の身体を食べて回復したおかげで…いや、もしかするとその時からかな?』
「仮に食べれば特殊能力を得られるのだとすれば早霜ってなんなんでしょう…」
『確かあの早霜はドロップ艦だったね。見た目こそ艦娘早霜だけどもしかしたら』
「深海棲艦?」
『さぁねぇ、だけど深海棲艦は海から生まれる。ならドロップ艦娘は元々は何なのか…。そしてあの海にはイレギュラーな存在まである。何があっても不思議じゃないよ』
そしてベッドで悔し泣きをする夕立さん。負けず嫌いなのも彼女の本質なのだろう、いつかは嬉し泣きの顔を見られたらいいのにと私は思う
347 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/25(木) 05:43:51.64 ID:ewPdNPWDO
例の白露型淫乱集団が改めて鎮守府に着任するという話が出ていた
「現役特務艦に元特務艦…戦力的には申し分無いんですけど…どうなるんでしょうね…」
この鎮守府は割と性にオープンという側面もあったのだが上には上が居るという事か
そして特にやばいのが淫乱ピンクこと元特務艦の春雨さん。本当に誰彼構わず涎を垂らしている
「本当に…会わなくて良かったとこれほど…」
『朝ちゃんの場合手錠付けてたし間違い無くロックオンされるね…』
「やめてくださいやめてください」
耳を塞ぐポーズでいやいやをする私。仮に春雨さんに襲われたら手錠が有ろうと無かろうと抵抗は出来ないだろう
そして仕返ししようにもあっさり返り討ちに遭いまた…という事になりかねない
いつだったかもう一人のピンクさんも文句を言ったり蒸し返したりしなかったのはそれを恐れての事だったのかもしれない
そして何故か同じ顔をしている駆逐棲姫さんとにらめっこをしている春雨さん。はっきりした理由は不明だが春雨さんは彼女には欲情しないらしい
元々は同一の魂の可能性があるようだがそれも定かでは無いようだ
そして春雨さんの話からどうやら彼女の脳内ピンクは一度沈みかけた事がきっかけになっていたのではと駆逐棲姫さんは司令官に話していた
348 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/25(木) 05:45:44.08 ID:ewPdNPWDO
「生命の危機に瀕した生き物は種の保存に走るという話ですね」
『それがずっと続いていたとはねぇ…。脳内麻薬垂れ流しで廃人になっていてもおかしく無かったとは思うけど』
「そこはさすが元特務艦という所なのでしょうか」
簡単には壊れたりはしないというか、上手く馴染んでいた状態だったのかは判らないが
「それに春雨さんはこれまでも結構艦娘を襲っていたようですけど、変わらず自由にしているのは…」
『多分白露や村雨がどうにかしていたんじゃないかな。示談にしたのか特務艦権限で泣き寝入りさせたのかは知らないけどね』
「後者なら最悪ですね…。あ、また警察沙汰ですかねこれ」
そして春雨さんは薬での治療に入り、正気を取り戻していった
あれが素の春雨さん…どことなく儚げで駆逐棲姫さんと完全に被る。これまでは常に発情したような顔をしていて今とはまるで違っていた
『正気になったらなったでまた大変そうだねぇ…』
「そうですね…」
これまでの被害者というのがどれだけ居てどう思っているのか、今現在訴えられても逮捕されてもいないからといってこれからもそうだとは限らないのだ
349 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/25(木) 05:46:53.45 ID:ewPdNPWDO
今日は私の月命日らしい
日進さんが定期的に鎮守府に来るようになってしばらく経つ
私自身は自分の死んだ日などはあまり意識はしないがやはりそれは今生きている者にこそ必要な事なのだろう
「そういえば彼岸に居ないと降ろせないらしいですけど私の時は確か…」
『朝ちゃんがこの狭間に来る前だからねー。あの頃の朝ちゃんの業の重さは相当で、あのままだと地獄に落ちてたから無理矢理引っ張ってきちゃった。重かったよー』
「今は…そうか…もうひとりの私が…」
『うん…だいぶ軽くはなったよ。全部じゃないけど本当に肩代わりして持って行った』
「どうしているんでしょうか…もうひとりの私は…」
『…聞く必要は無いよ。朝ちゃんがしなければいけないのは忘れない事と感謝する事だけ』
Y子さんはきっぱりと言い切った。おそらくは良くない状況なのだろう。だとしても私に出来る事は他には無いと彼女は断じたのだ
『そうそう、悔やんで自分を責めて謝り続けるよりありがとうって言う方が言われた方も気持ちがいいでしょ。それを未だにあの男はねぇ…』
呆れたようにY子さんはモニターに映る司令官の姿を見ている
350 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/25(木) 05:48:15.47 ID:ewPdNPWDO
司令官は未だに私の事で自分を責め続けていた
挙げ句の果てに居もしない私の亡霊が夢に出て責めるのだという
「…何だか腹が立ってきました」
『あはは…』
「さっきの言葉がよく解りました。確かに延々謝られ続けると逆にムカつきますね」
私がいつ私に詫び続けろ司令官!とでも言ったのか、冗談じゃない
「司令官…私が死んだのは司令官のせいだと私がいつ言いましたか…私が死んだのは私が弱かったから…!」
「自ら幸せを掴もうとはせずに誰かに幸せにしてもらおうとして、それなのに差し伸べられた手を取る事すらしなかったのは私!」
「自分自身の未来を信じきれなかった私の弱さのせいだった!」
「こんな事になるなら…私は…司令官には出会わず…独りのままで…」
≪バチィン!≫
何かを強く叩く音がモニターからこの部屋にも響き渡る
いつの間にか顔を伏せていた私がそちらを見れば日進さんが司令官に思い切り平手打ちをしていた
それはもう凄い剣幕だった。そして悲しそうだった。まるで私の言葉を代弁するかのように彼女はまくし立てている
そして呆然とする司令官を残し部屋を出ていってしまった。そんな司令官を気遣う龍驤さんと朝霜さん
これも私の罪…その形だ。だけど前を向く為にはそれを悔やんでばかりでは駄目なのだ。いつか司令官にもそれに気付いてほしいと思う
351 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/25(木) 05:50:07.95 ID:ewPdNPWDO
『大丈夫?朝ちゃん』
「ええ、私もまだまだですね…すぐに揺らぎそうになってしまう…」
何とかは死んでもと言うけれど、少なくとも悔やむのは止めたつもりでいた筈なのに
「もう後悔しても仕方が無いですからね…。当事者である内には間違いにも気付けない。ようやく解るのは全てが終わった後」
だからこそ後悔しないように生きなければならない、なんて言うのは簡単だけれど
部屋を出た日進さんが漣さんの姿の重巡棲姫さんと話している
「漣さんと直接は話させてあげられないんですかね…」
『向こうからしたら何処に居るかなんて知りようが無いしねぇ…。また降ろすのに挑戦でもしたなら手を加えてみたりは出来なくも無いけど』
Y子さんが言うには口寄せというのはあくまで彼岸の向こうに念を飛ばし、該当の人物が近くに居て尚且つそれに応じればやっと話せるくらいのものらしい
『その念のポインタをここに引っ張って来て繋げる事は可能ではあるけどね。何処から繋いでるかはあっちからは確かめようが無いし』
どちらにせよ術者の負担は大きい。ちょっと話したいなどと乱用すればあっという間に力尽きてしまうのだと言う
352 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/25(木) 05:51:52.97 ID:ewPdNPWDO
日進さんのアドバイスを受け重巡棲姫さんは富士さんを通して伝言を伝えるらしい
『また見てみる?』
「いえ…ただでさえこんな覗き見をしているのにしかも精神世界までというのはちょっと…」
『今更だと思うけど?まあどんな内容かはお姉ちゃんに聞けばわかるか』
「ほどほどにしましょうよ…」
精神世界に潜っている重巡棲姫さんは傍目からは今どんな状態なのかは判らない。だけど…
「泣いていますね…」
『前向きなように見えてもやっぱり苦しいものは苦しいんだろうね』
どんな会話が為されているのかまるでうなされているような、そんな顔をしていた
それからしばらくして富士さんがやってくると
【漣の様子はどう?】
と聞いてきた
『今は眠ってるよ。正直まだ起きるには早かったんじゃないかなと思ってる』
【そう…丁度良いわ、直接伝えてくる、その情景も含めあの子の心に】
そう言って富士さんは漣さんが眠る部屋へと入って行った
私は二人の邪魔をしないよう静かにして考える
漣さんには帰りを待つ人が居る。そして彼女を何より大切に思っている。おそらく想いの強さはあの小さな深海棲艦にも負けてはいないように思える
353 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/25(木) 05:54:01.67 ID:ewPdNPWDO
あまりにも近すぎて、それこそ同じ身体を共有しているくらいに近すぎて、その想いはこれまで上手く伝わってはいなかったのかもしれない
いつか重巡棲姫さんの想いが正しく伝わった時、彼女は…漣さんはどうするのだろうか
あくまで拒絶するなら最悪の結果になるだろうか
もしも…それすら乗り越えられたならきっと彼女は私には想像も付かない本当の強さというものを得られるのかもしれない
どれだけ傷付こうと、何を失おうとも、前に進む事を止めない、本当の強さを
それはきっとあの鎮守府にとって大きな力となるだろう。失い尽した存在がそれでも進もうと言うのならきっともう誰も崩れたりはしないのだと
354 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/25(木) 05:56:23.66 ID:ewPdNPWDO
ここまで
こじつけ
355 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/25(木) 12:08:59.54 ID:2VTBjWEjo
乙乙
開幕朝潮霊挨拶は卑怯、笑うわ
けどストレイボウ朝潮はNG
356 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/25(木) 12:30:21.56 ID:snM0wZHTO
ぽいぬの能力は早霜の前からあったと思う。元ネタ通りだと一回目食らったのは内臓系にダメージ入る技だし
覚醒すると生命力激増して死亡率低減、吸血とか捕食で回復がセットのビーストモードだと思われる
357 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/30(火) 06:17:05.04 ID:X5txiLSDO
>>353
から
「姉妹っていいですよねー」
『あーうん、そーだねー』
伊19さんや伊26さんのやり取りを見ながらY子さんにそう振ってみた
彼女はお姉さんの事をどう思っているのだろうか。姉である富士さんはY子さんにおっかなびっくり接している印象を受けた
それでも心配してか富士さんは時々顔を出してはY子さんに冷たくあしらわれて寂しそうに帰って行く
反抗期というやつだろうか
『今反抗期とか思ったでしょ』
「思っていませんよ」
やばい、読まれている
『別にいいけどさー。言っとくけど嫌いとかじゃないから、下手に甘やかすと調子に乗っちゃうからお姉ちゃんは』
「はあ」
何だか愚痴り始めたY子さん。やれ考え無しだの、余裕綽々な割に予想外の事態になると真っ白になるとか、結構流されやすいとか、いつか騙されて酷い目に遭いそうだとかだんだんその内容がどれだけ心配かにシフトしていく
『あと口下手で言い負かされやすい。朝霜なんかに好き放題言われて何も言い返せないとか不甲斐ない姉だよまったく…』
「好きなんですね、富士さんの事」
『…嫌いじゃない』
私が端的に感想を言うと何だか素直じゃない返答が帰って来た
私から見たら二人は結構似ている。顔立ちだけでは無く性格も。立ち居振舞いは逆だけれど
358 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/30(火) 06:18:39.53 ID:X5txiLSDO
『…お姉ちゃんもあの伊19みたいに心配性な部分あるから。むしろ心配なのはこっちだっての』
「うふふ」
『なにさー。朝ちゃん、最近ちょっと生意気!』
「ちょっと羨ましいなって思っただけです。艦種的には私にも妹は沢山居ますが…それを実感する暇はありませんでしたから」
これでも私も朝潮型の長女だ。だけど妹達に出会う前にああなった。感覚的には一人っ子みたいなものだ
『…ずるいなあ、もう。そんな風に言われたら怒れないじゃん』
「ごめんなさい、でも正直な気持ちです」
Y子さんは拗ねたようにそっぽを向いて呟く
『…ほんとは、理想郷なんて…』
その先の言葉は私の耳には届かない。だけど何を言おうとしたのか何となく解ってしまう
本当は理想郷なんてどうでもいいから富士さんには一緒に居てほしい
そんな風に言いたかったのかもしれない
私がここに来るまで彼女はここでずっと一人で、富士さんは艦娘を救おうと世界中を駆け回っていて、彼女はそんなお姉さんをどんな気持ちで見ていたのだろう
もちろん富士さんが救おうとしている中に妹である彼女が一番に含まれているのは確実なのだろうが…
救うとは何なのだろう。その為に今寂しい思いをさせている。気付いた時には距離が開いてしまっていて昔のように話せない。想いは届かない
私に出来る事は何か無いだろうか…ここに来てまた新たな悩みが生まれてしまったようだった
359 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/30(火) 06:20:07.22 ID:X5txiLSDO
村雨さんが朝霜さんと朧さんに責められていた
私だってエリートを鼻にかけたようなのは好きではないし皮肉のひとつも出るかもしれない。けれど少なくとも歩み寄ろうとしている人間にあの言い方は無いと思う
『あの鎮守府に居るための資格とか必要なのは初めて知ったけどねー』
「目に入らなかった。そういう意識を持っていないのが問題なんじゃないですかね。一般人の意識というか」
例えば介護経験がある人と、それまでそういう経験の無い人とはまったく視点が違うのだ
だけどそれは別に悪い事では無い。ただ村雨さんにはまだその視点が無いだけなのだ
「普通の鎮守府ならそれでもよかったんでしょうけど。敢えてそこに居たいというのなら今までのやり方では駄目なんです」
実際村雨さんは悪い人では無いと思う。春雨さんを押し付けようとしたのも悩んだ末の苦渋の選択なのだろう
そうで無かったらさっさと出て行ってあとは知らんぷりでも不思議では無い
『それと朝霜は何でか上から目線でお前要らないとか言ってるのかな』
「逆なんじゃないですかね…牙を剥いて威嚇して、それでも怖れずに手を差し伸べられる人間か測っている…そんな感じに見えます」
司令官や龍驤さんはどちらかと言えば来るもの拒まずだ。だけどそうやって誰彼構わず受け入れて、その相手に何か裏があったら…
ましてや鎮守府の誰かを傷付ける事態になるかもしれないと考えているのだろうか
360 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/30(火) 06:21:27.93 ID:X5txiLSDO
『気持ちは解らないでも無いけどねぇ…。あれはあれで敵を作る結果になりかねないような』
「そうですね…あそこでもし村雨さんの怒りを買って権限でどうとかという話になったら…」
『村雨を殺す?』
「それは危険過ぎますね。白露型全員の怒りを買ってそれこそ鎮守府が血の海になります」
守るというのなら時には頭を下げる事も覚えるべきだとは私も思う。牙を剥いてばかりではいずれ危険と判断され駆除対象になってしまうかもしれない
朝霜さんがプライドを捨て頭を下げる姿は私には想像が出来なかったけれど
それから村雨さんは鎮守府を出て行くと言い出し白露さんに止められていた。何でも知らせてくれたのはあの朝霜さんらしい
『フォローを入れるくらいならあんな言い方しなければいいのに』
「不器用なんですよきっと」
不器用なりに鎮守府を守ろうと自ら嫌われ役を演じているのだろうか。素の部分もありそうではあるが
気配りを諭しておきながら自分はそれが出来ないなどという事は無かったのだ。私も彼女の事を少し誤解していたのかもしれない
361 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/30(火) 06:23:12.48 ID:X5txiLSDO
「命の価値とは何なんでしょうね…」
飛鷹さんはかつて大切な友達を亡くしている。そして最近それは他者の、手術を受け持った病院に責任があるらしい
当時手術を受けていたのは二人、飛鷹さんの友人ともう一人、その際深海棲艦の攻撃により電力がストップ、非常電源で手術を続けられるのは一人だけだったらしい
病院側はそれを隠していた。それは何故か
「大物の政治家が娘を助ける為にお金を積んで優先させた…」
『口止め料も入ってるんだろうねぇ』
他人の命をお金で左右させたなどと知られたらとんでもないスキャンダルだ。そしてそれを承諾した病院側にとっても明るみには出せない
飛鷹さんと清霜さんがその友人の家を訪ねるとその政治家がご両親に土下座して謝罪していた。それを聞いて激昂する飛鷹さんを必死に押し止める清霜さん
「この場合誰が悪いんでしょうね…。誰だって赤の他人より身近な誰かを優先するのは当たり前です…けど…」
『まあ病院側だろうね、悪いのは。お金に目が眩んだのか知らないけど。比較的持ちそうな方を後回しにするくらいがまあ正しい判断だったんじゃないかな』
「後回しにされた方が間に合わなかったら…?」
『その時はそれまでだね。結果助からなかった方の親がどちらにせよ助かった方を恨んでいたよ』
そうなるのだろう。今回はお金で傾いたに過ぎず、他の要因なら許せていたという話でも無いのかもしれない
362 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/30(火) 06:24:50.14 ID:X5txiLSDO
政治家さんはその一連を公表し改めて謝罪すると約束して帰って行った
飛鷹さんは一時危うい状態になっていたがさすが清霜さんというか見事に引き戻して見せていた
それから少ししてその事がニュースになりあの人は約束を守っていたと解る
「結局はあの政治家の娘さんも亡くなってしまって誰も救われなかった…。どちらかが生きていればその子の分までなんて言えていたんでしょうけど…」
『そんなものだよ…悲劇の後にまた悲劇なんてよくある話だよ』
「やりきれないですね…」
もしも飛鷹さんの友人の両親が更にお金を積んでいたら、相手が政治家ではなかったら、そんな無意味なもしもは単に立場が逆になるだけ
何故自分の子供が。何故そっちだけが助かったのだと、何故。と
363 :
◆B54oURI0sg
[sage saga]:2019/04/30(火) 06:26:30.24 ID:X5txiLSDO
「それにしても…」
私はモニターを見る。鎮守府の食堂でご飯を食べている龍驤さんの姿があった。しかし手足がしっかりと生えていた
「また食べに来ていたんですね。しかもタッパーまで持参して」
リュウジョウさん。例の謎の集団、アケボノさん達の仲間
私は詳しい事はほとんど知らない。だけど味方ではあるようで司令官も信頼していた
龍驤さんとリュウジョウさん。こうして見ると手足以外にも雰囲気や表情、微妙な話し方、何もかも別人だというのが私でも判る
何だか自爆して口を滑らせているのもまた龍驤さんではあり得ない事だ
彼女達は何やら不思議な能力を備えていてリュウジョウさんは変身能力があるらしい。なんと那智さんに変身して愛宕さんと会話をしていた
愛宕さんは若干の違和感を感じてはいたようだが偽物だとはさすがに思わなかったようで、そこは演技力もあるのだろう。相手が同じ龍驤さんでなければその違いは判らない
そして今度は龍驤さんに変身してなんと司令官を相手に試そうとしていた。しかも手足までそっくりになっている
『元々ある部分まで消して変われるんだねー。普通なら気付かないよこれは』
「ですね…私も多分判らないかも」
しかし司令官は一目で見抜いてしまう。さすがは司令官。誰よりも身近な相手を間違える筈は無かったのだ。匂いとまで言ったのはちょっと変態っぽいけれど
誰かの恋人とか家族とか身近過ぎる相手では騙し通すのはやはり難しいらしい
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