【ミリマスSS】ゼンシツ

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1 : ◆EvdV0vSTSk [saga]:2018/07/06(金) 21:30:50.15 ID:dwPX/NyW0
MTGシリーズの重要なネタバレを含みます。CDを聴いてからご覧いただく事を強くお勧めします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1530880249
2 : ◆EvdV0vSTSk [sage saga]:2018/07/06(金) 21:33:20.37 ID:dwPX/NyW0
握った手を少し捻って前に押し出すと扉が開いた。
暗闇に慣れた瞳に容赦なく射し込む光に、眉をしかめながら中に入る。

扉を潜ると室内に出た。狭くはないが妙に窮屈な印象を受ける部屋だ。窓が無いのに室内は明るい。

私が入ってきた扉と向かい合うようにもう一つ扉がある。左右の壁際には金属で作られた簡素な造りの棚が天井近くまで伸びている。片方には本がびっしり並べられていて、逆側の棚には安っぽい茶器や装飾品等雑多な小物が置かれている。
部屋の中央には飾り気の無い長方形の机と椅子が四脚。

その一つに少女が顔だけこちらに向けて座っている。

年齢は十二〜三歳程だろう。頭の左右で結わえた髪が腰の下まで伸びている。上半身に密着する意匠の濃紺のドレスが印象的だ。

少女は部屋に入ってきた私から目を離さないまま言った。

「初めまして、私は普及型アンドロイド識別コード:22。通称セリカ型と言います。」

そこまで一息に言ってから、私の戸惑いを察してかさらに付け加えた。

「どうぞ、セリカとお呼びください。」
3 : ◆EvdV0vSTSk [sage saga]:2018/07/06(金) 21:39:16.11 ID:dwPX/NyW0
セリカと名乗った少女に、私は質問した。

「ここは?」

「ここは前室と呼ばれる場所のようです。」

「ゼンシツ?」

「はい。そこの張り紙に書いてあります。」

セリカが目を向けた方を見ると、壁に見たことが無い文字で書かれた張り紙があった。

「……読めないわ。」

「前室での野球は禁止。と書いてあります。」

「野球?」

「ボールとバットを使用して1チーム9人で行うスポーツです。ただし、この部屋の広さで行える競技ではありません。」

セリカの答えを聞いても、私にはそれがどんなものなのか想像出来なかった。

「このゼンシツは、なんの為の場所なの?」

「前室は、劇場や撮影現場で控え室とは別に用意される待機場所です。メイクや着替えなどを終えた出演者が主に利用していました。」

一つ質問をするとその答えによって疑問が増えてしまう。次に何を尋ねるべきか逡巡する私にセリカは立ち上がって近づいてきた。

「ひとまず、お掛けになってはいかがでしょう。」

そう言うと、自分が座っていた場所の対面にある椅子を動かした。

「……ありがとう。」

言われるまま座った私に、正面の椅子に戻ったセリカが訊いた。

「落ち着きましょう。まずはお名前を伺ってもいいですか?」

「私の名前?」

「はい、差し支えなければ教えてください。」

「私は……」
4 : ◆EvdV0vSTSk [sage saga]:2018/07/06(金) 21:43:08.29 ID:dwPX/NyW0

「私は辺境伯夫人、エレオノーラよ。」
5 : ◆EvdV0vSTSk [sage saga]:2018/07/06(金) 21:46:03.67 ID:dwPX/NyW0
「辺境伯夫人……ですか?」

表情はあまり変わらないが、声の調子からセリカの戸惑いが伝わってきた。

「聞き慣れない言葉かしら。外国の生まれとか?」

「聞き慣れないというか、全ての人類は平等になり身分制度も全ての国で既に廃止されたはずです。」

信じられない言葉だった。私が生まれるずっと前から世の中は身分制度によって厳密に階級分けされてきたはずだ。それが無くなっただなんて、本当なら文字通り世の中がひっくり返るような出来事だ。

「嘘よ、そんなはずないわ。」

「嘘ではありません。事実です。」

「……話が噛み合わないわね。まるで違う世界の人間と話してるみたいだわ。」

「私もそう思っていた所です。ただし、私は人間ではありませんが。」

「人間じゃない?」

「はい。」

「私をからかっているの?」

どう見ても人間にしか見えない。

「からかっていません、私はアンドロイドです。」
6 : ◆EvdV0vSTSk [sage saga]:2018/07/06(金) 21:47:26.53 ID:dwPX/NyW0
「アンドロイド?」

また知らない言葉だ。

「アンドロイドは、自律思考する人型機械の総称です。」

「あなたが、その人型機械だと?」

「はい。」

「……嘘よ。」

確かに、幼い容姿にそぐわない落ち着き払った雰囲気はあるが、目の前の少女はどう見ても人間だ。

「嘘ではありません。例えばこの目は人間の眼球に似せて作られていますが、人間の何十倍も良く見える高性能カメラです。」

カメラという言葉の意味は分からなかったが、要は物を見る為の器官なのだろう。

「近くで見てもいいかしら?」

「問題ありません、どうぞ。」

椅子から身を乗り出し、セリカの目を覗き込む。

薄いブラウンの瞳に、天井の光が虹色になり何重にも写り込んでいる。

「分からないわね。本当に作り物の瞳なの?」

「はい。目だけでなく、口も肌も髪も、全てラボで作られた人工物です。」

私は乗り出した姿勢のままセリカの?に手を伸ばした。

「触るわよ?」

「どうぞ。」

私が触れるとセリカの頬は指の形に少し沈み込んだ。その肌の温かさも柔らかさも、人間としか思えないものだった。

しかし、近くで観察して気づいた事もある。どうやらセリカは発声以外では呼吸をしないようだ。また、汗などに起因する人間に特有の体臭がしないという点にも気づいた。私の感覚器官は人間より敏感なのだ。

近くでまじまじと観察してみると、確かに普通の人間とは違うようだった。
もし本当に全てが人の手で作られたのなら、私の国など遥かに及ばない技術力だ。
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