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【バンドリ】花咲川で花火が咲いた
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/05(木) 07:37:43.27 ID:7Gyag1b60
※強い独自設定があります
地の文があります
報われない話です
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1530743862
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/05(木) 07:38:26.06 ID:7Gyag1b60
『僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない』
冷房の効いた電車に揺られ、私は小説を読んでいた。その冒頭の一文だった。
確かこの作者は随分昔の人だった。晩年は廃屋に籠り、狂人のような生活をしていたらしい、という大学の友人からの聞きかじりの知識が頭の中に浮かぶ。
そうして文字を目で追っていると、電車はやがて私の実家の最寄り駅へと到着した。
駅名を告げる車掌のアナウンスと共に、空気を吐き出す音がして電車の扉が開く。私は読んでいた本を手持ちの小さな鞄にしまい、傍らに置いたキャリーバッグを転がして電車を降りた。
途端に粘つくような重たい湿気を含んだ熱気が身体にまとわりついてくる。
「……夏、ね」
呟いた言葉は発車のベルにかき消された。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/05(木) 07:39:32.58 ID:7Gyag1b60
私が一人暮らしを始めてから二年目の夏、お盆の時期だった。
花咲川女子学園から進学した国立大学は、私の実家から電車で二時間ほどの場所にある。通えない距離ではない、とは思うけれど、両親は私に一人暮らしを勧めてきた。私はそれに少し悩んでから頷いて、そうしたら妹の日菜が拗ねたように駄々をこねたのを思い出す。
「おねーちゃんと離れたくない! あたしも一人暮らしする!」という言葉はあまりにもあの子らしいと思いつつ「あなたももう十八歳になったんだから、いい加減姉離れしなさい」と私は返した。
その時の心情は呆れが半分、そして嬉しさが半分だった。
あの考えがないとも言える底抜けた明るさに、救われたことも苦しめられたこともあった。今は全部がそれなりに綺麗な思い出として私の中では片付けられている。
さておき、一人暮らしという響きに一抹の寂しさと不安を感じていた私は、その日菜のいつも通りの言葉に安堵したのをよく覚えている。いつでも私の帰る家はここにあるんだ、なんて、口にはしないけど思ったからだ。
そんなことを頭の中に浮かべつつ、駅から実家まで私は歩く。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/05(木) 07:40:19.24 ID:7Gyag1b60
セミの大合唱。キャリーバッグのタイヤが転がる音。去年もこうして帰省をしたな、と思う。
お盆と正月と春休み。年三回の実家への帰省するたびに、どこか私は大人になったような気分になった。
家事にしろ何にしろ、一人暮らしの中では生活の全てを自分でこなさなければいけない。絵空事のように感じていたそれらを実際にやってみて、母の有難みというものがよく分かった。
特にゴミ出しに洗濯なんかは迷うことが多くあった。でも、料理だけは別だった。
高校二年生の時のお菓子教室と、ロゼリアでのこと。あの時の経験があったから、料理には慣れていた。
ただ、色々と思うところがあって、もうセピア色に染まったかつての自分と彼女のことが頭にもたげては、フライパンを持ちながら思い耽ることもあった。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/05(木) 07:40:55.66 ID:7Gyag1b60
「あっ、おねーちゃん!」
と、日菜の声が聞こえた。声のした方に振り向くと、パッと表情を輝かせた日菜の姿があった。商店街の近くでまだ実家には遠いけど、珍しいところで会ったものだ。
「日菜……久しぶりね」
毎度のことだけど、こうして何か月かぶりに顔を合わせる妹になんと言葉をかけようか考えてはこんな言葉を投げていた。他人行儀とも取れない言葉であるが、それでも日菜はいつもの笑顔で私に向き合ってくれる。
「そうだね、三月ぶりだね!」
「どこかへ出かけていたの?」
「うん! おねーちゃんが帰ってくるから、お母さんがごちそう作るって言ってね!」言いつつ、日菜はニカッと笑い、両手に下げたスーパーのビニール袋を私に見せる。
「そう。偉いわね」
「もー、あたしも二十歳だよ? そんな子供扱いしないでよ〜っ」
とは言っているが、その顔は嬉しそうに綻んでいた。
「あ、そうだ」
「どうしたの?」
「言い忘れてたなって。おかえり、おねーちゃん!」
「……ええ。ただいま、日菜」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/05(木) 07:41:40.98 ID:7Gyag1b60
日菜と並んで実家までたどり着くと、お母さんが優しい笑顔で出迎えてくれた。それにも「ただいま」と少しの照れを含ませた言葉を返した。
それから私の部屋に荷物を運ぶ。大事なものはほぼ全て、一人暮らしのアパートへ持っていっていた。年に三回帰ってくる、十八年の思い出が詰まった部屋は、どこかがらんどうに見える。
それに寂しいという気持ちがないでもないが、そんな時には決まって日菜が明るい声で私に声をかけてきて、色々なことを聞いてくる。
大学でのこと、一人暮らしのこと、ギターのこと。目まぐるしく変わる話題に畳みかけるような質問の嵐。それに相対していると寂しいと思う暇もなかった。もしかしたらそれも日菜の優しさなのかもしれない。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/05(木) 07:42:12.41 ID:7Gyag1b60
「あ、そうだ! ねぇねぇおねーちゃん、明日お祭りがあるんだ!」
最近のパステルパレットの活動について話したと思ったら、またコロリと話題が変わる。
「お祭りって……花咲川の神社のところ?」
「うん、そこ! 一緒に行こーよ、花火も上がって綺麗だしさ!」
キラキラとした笑顔だった。それに対して私は少しだけ悩んでから、「別にいいわよ」と返した。
「やった! えへへ、おねーちゃんとのデートだ!」
「デートって……まったく、本当にあなたは変わらないわね」
漏れた呟きはまたも呆れ半分、嬉しさ半分だった。
日菜の話す話題のように目まぐるしく変わる日々の中で、この子はいつだって変わらない。それが私に居心地のいい安心感を与えてくれる。
「そういえばおねーちゃん、恋人とかって出来た?」
またも変わった話題に、私は曖昧な笑顔と言葉を返すのみに留めた。
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/05(木) 07:42:58.54 ID:7Gyag1b60
久しぶりの実家で一晩を過ごし、明くる日。
お母さんの気の抜けた朝食を摂り終わってから、私は自分の部屋でぼんやりと物思いに耽っていた。
日菜に誘われたお祭りは夜からで、あの子は昼間はパステルパレットの仕事があると言っていた。それまでは特にやることもない。
ほとんどがらんどうの部屋。大切なものは持って行ったけど、一つだけこの部屋に残したものがある。
手持無沙汰の私はそれに手を伸ばす。高校の三年間、ロゼリアでの二年間を共にしたエレキギターだ。日菜が「掃除した」と言っていた通り、紺色のボディには埃一つ乗っていなかった。
なんとはなしに弦を押さえ、はじく。流石にチューニングは狂っていた。苦笑しながらペグを回す。
音程を合わせたところで、適当なアルペジオを奏でる。アンプには繋いでいないから、頼りない音が室内に反響した。
それを聞きながら、脳裏にロゼリアのメンバーのことを思い浮かべる。
「……解散してからもう二年、ね」
時の早さは歳を重ねるごとに早くなっていくものだ。言葉に聞いていたが、実際に体感してみると本当に早い。
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