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【シュタインズ・ゲート】岡部「このラボメンバッチを授ける!」真帆「え、いらない」
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388 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/21(土) 20:44:44.35 ID:DFC4dkD10
乙
面白かった
389 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:45:05.18 ID:kqRSVJTw0
>>385
ありがとう、早速明日にでも探してみましゃう
原作との矛盾はSS書きにとって宝の山なのです!
390 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/21(土) 20:47:24.34 ID:kqRSVJTwo
>>388
ありがとうございます! その一言で報われるというものです
391 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/21(土) 20:58:45.04 ID:kEvgO2Vjo
乙
バッジ受け取ってもらえない切ないオカリンの心境は分かるけど笑ってしまうww
HTML化は今板の管理人が仕事放置してるからずっと残ったままになりそうな予感
申請しておいて悪いことはないけれど
392 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/21(土) 21:08:22.45 ID:kqRSVJTwo
>>391
ありがとう しんみりな最後をひっくり返す返すのにオカリンほどの適役はおらんよってに笑ってやってくだせえ
HTML化の件、そげなことになっとっとですか 情報サンクス 一応明日にでも依頼をかけてみやす
393 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/21(土) 22:57:18.85 ID:YaoPpZfc0
アニメ『シュタインズ・ゲート』の歴代主題歌まとめ
http://youtubelib.com/steinsgate-songs
1.1 オープニングテーマ編
1.1.0.1 OP1. いとうかなこ『Hacking to the Gate』
1.2 エンディングテーマ編
1.2.0.1 EN1. ファンタズム『刻司ル十二ノ盟約』
1.2.0.2 EN2. いとうかなこ『スカイクラッドの観測者』
1.2.0.3 EN3. いとうかなこ『Another Heaven』
1.3 挿入曲(イメージソング)編
1.3.0.1 挿1. アフィリア・サーガ・イースト『ワタシ☆LOVEな☆オトメ!』
1.3.0.2 挿2. アフィリア・サーガ・イースト『My White Ribbon』
394 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/21(土) 22:58:46.56 ID:YaoPpZfc0
アニメ『シュタインズ・ゲート』の歴代主題歌まとめ
http://youtubelib.com/steinsgate-songs
1.1 オープニングテーマ編
1.1.0.1 OP1. いとうかなこ『Hacking to the Gate』
1.2 エンディングテーマ編
1.2.0.1 EN1. ファンタズム『刻司ル十二ノ盟約』
1.2.0.2 EN2. いとうかなこ『スカイクラッドの観測者』
1.2.0.3 EN3. いとうかなこ『Another Heaven』
1.3 挿入曲(イメージソング)編
1.3.0.1 挿1. アフィリア・サーガ・イースト『ワタシ☆LOVEな☆オトメ!』
1.3.0.2 挿2. アフィリア・サーガ・イースト『My White Ribbon』
395 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 14:17:54.00 ID:QSnDd+ySo
>>381
すまぬ、完全にみおとしていますた
回帰喪失というのがもしも[回帰喪失のスノーホワイト]なら、拙者の過去作にござる 違ったらゴメンしてください
396 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 15:18:07.91 ID:Sv+3hynbO
拡散希望
【SS掲載拒否推奨】あやめ速報、あやめ2ndは盗作をもみ消すクソサイト
SSを書かれる際は掲載を拒否することを推奨します
概略1
現トリップ◆Jzh9fG75HAは
混沌電波(ちゃおラジ)なるSSシリーズにより、長くの間多くの人々を不快にし
また、注意や助言問わず煽り返す等の荒らし行為を続けていたが
その過程でついに、ちゃおラジは盗作により作られたものと露呈した
概略2
盗作されたものであるためと、掲載されたシリーズの削除を推奨されたSSまとめサイト「あやめ2nd」はこれを拒否
独自の調査によりちゃおラジは盗作に当たらないと表明
疑問視するコメント、および盗作に当たらないとの表明すら削除し、
盗作のもみ消しを謀る
概略3
なおも続く追及に、ついにあやめ2ndは掲載されたちゃおラジシリーズをすべて削除
ただし、ちゃおラジは盗作ではないという表明は撤回しないまま
シリーズを削除した理由は「ブログ運営に支障が出ると判断したため」とのこと
SSまとめサイトは、SS作者が書いたSSを自身のサイトに掲載し、サイト内の広告により金を得ている
SSまとめサイトは、SSがあって、SS作者がいて、はじめて成り立つ
故に、SSまとめサイトによるSS作者に対する背信行為はあってはならず、
SSにとどまらず創作に携わる人全てを踏みにじる行為、盗作をもみ消し隠そうとし
ちゃおラジが盗作ではないことの証明を放棄し、
義理立てすべきSS作者より自身のサイトを優先させた
あやめ速報姉妹サイト、あやめ2ndを許してはならない
あやめ速報、あやめ2ndは盗作をもみ消すクソサイト
SSを書かれる際は掲載を拒否することを推奨します
397 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:16:10.40 ID:+mU1ijAH0
色々見てきて本当にHTML化されなさそうな感じがしたのです
もったいないので 他所で書いてた過去作をそっと添えてみようという試みなのです
気が向いたときにやるのです ふふ
398 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:21:01.64 ID:+mU1ijAH0
あ、一応HTML化依頼はすませてみましたよ
というわけで今日は2012年3月に投下していた奴で
紅莉栖一人称のホワイトデーネタの奴でし いくぞよ
タイトル 贈答過多のオールパートナー
399 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:23:52.47 ID:+mU1ijAH0
1
正直に言えばこの一ヶ月の間、抱え込んだややこしい心境に、私の心は揺れ続けていた。
「やっぱり、受け取っちゃうんだろうな、私は」
呼び出されて足を運んだ、ラボの屋上。鉄柵に肘を付き、そよぐ風に髪先をなびかせていると、何だか無性に顔をうつむけたくなってしまう。
「私だけが……もらえるんだ」
そんな事をつぶやくと、いまいちよく分からない罪悪感が幅をきかせてきて、ちょっと鬱陶しい。
考えすぎだと言う事は、分かってた。気にする必要なんてないって事も、ちゃんと分かっていた。だがそれでも、理性とは裏腹な感情の揺れは、中々どうして収まってくれそうもない。
一月前の2月14日。一人の男性に、生まれて初めて贈ったチョコレート。嫌と言うほど自覚している不器用な腕前で、湯煎だけにも手間取りながら形作った、褐色色の想いの形。
そんな不細工な代物を、はにかみながら受け取ってくれた男性の顔を思い出すと、気恥ずかしさと共に、ちょっとだけ憂鬱な何かが込み上げてくる。
「あげない方が、よかったのかな」
などと口にするも、しかしそれが本心でないことは、言うまでもなく──
「あんなの、気にすること無いのに……」
そして続ける言葉は、この一ヶ月の間、繰り返し唱え続けてきた呪文と、何も変わっていなかった。
迷いに迷って用意した、少しは大人っぽさを匂わせる包装紙。包んだ箱にフワリとしたリボンをかけた、思いを込めたはずの贈り物。
400 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:26:47.06 ID:+mU1ijAH0
渡すまでは、気にもしていなかった。なのに、照れ隠し全開でつっけんどんに突き出した私の手から、それを受け取った時の彼の言葉。
『ありがとう、紅莉栖』
それは、普段の彼からは想像できない程、真っ直ぐに届けられた、お礼の言葉だったのだと、今さらながらに思う。
「ああ、余計なこと言った……」
本当はとても嬉しかった、驚くほどに本音だった、素の返し。ちょっと素っ気無い言葉だったかもしれないけど、でも、静かに私を見つめる瞳と、いつもよりも少しだけ近く思えた距離感に、正直その時は舞い上がってしまった。
だからつい、そんな気持ちを見せてしまうのが気恥ずかしくて、照れ隠しを予定よりも延長してしまった。
真面目なフリとか気味が悪いだろと。真剣な顔なんて調子が狂うと。思ってもいない言葉を口にしながら、それでも強く胸を高鳴らせていた。
そんな私に、彼はこう言った。
『別にフリではない。俺はいつだって、お前に感謝してきた。ずっと、な』
普段のふざけた態度が、嘘のような振る舞い。とても深い色をした彼の眼差しに、私は舞い上がりながら、そして、ふと思ってしまった。
今、彼が見ているのは、誰なんだろう?
過去形で告げられた、彼の言葉。『ずっと』と添えられた、私にとっては奇妙な言い回し。そして感じてしまったのは──
『きっと、私だけじゃ……ない』
そんな、ふんわりとした取り止めのない想いだった。
あの夏を過ぎ、程なくした頃に聞かされた、不思議な話。終わりの見えない、延々と続いていたという、とても長い夏のお話。
401 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:32:42.53 ID:+mU1ijAH0
そのお話の中に、度々姿を現した女の子。
彼や大切な友達のために、頑張って、悩んで、苦しんでいたという、私と同じ形をした沢山の女の子たち。
「馬鹿か、私は……」
きっと大好きだったんだと思う。きっとどの子も、今の私と同じくらい、彼に惹かれていんだと思う。
だけどそれでも、その子達は彼の側にい続けることはなく──今、私だけが、こうして彼の傍らにいられる。
「何で、ずるい……とか思っちゃうんだ、馬鹿」
彼が見ている先にいた、沢山の私。その子達が、私と別人だなんてことは思ってない。でも、それでも──
ありがとう、紅莉栖
これまでの色々な出来事。私の知らない、沢山の想いへと向けられたはずの、彼の言葉。それはきっと、私の知らないお礼の気持ちで。
だから、困る。
「何て言えば……いいんだろう」
もうすぐ私は、彼にお礼を伝える事になるだろう。さっき、ラボの屋上で待っているように言われた時から、覚悟はしていた。
後少しすれば、後ろの扉から彼が来る。そして私は、彼から形を受け取って、想いを返さなければいけない。
ちゃんと伝えることが、できる?
402 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:34:20.80 ID:+mU1ijAH0
自信がなかった。一月前、ありがとうと言って、名前を呼んでくれた彼。
その中に込められた、余りにも膨大な感謝の理由に気が付いてしまうと、今、私が抱えている想いが、とても薄っぺらに感じてしまった。
「ちゃんと……言いたい」
つりあいたい。彼が向ける想いの重さに、出来る事なら吊り合ってあげたい。
今の私に上書きされて消えた、いっぱいの私。聞かされて知った、彼女たちのために。今でも少しだけ残されている、微かな夢物語の欠片のために。
ひと月前の彼の言葉に、つりあいたい。と、誰のためでもなくそう思ってしまうのは、ワガママなのだろうか。
「私って、こんな不器用だったっけ……」
それはきっと、義務ではないのだろう。吊り合ってほしいなどと、一度も言われたためしがない。
だからきっと彼は、そんな事を望んでなんて、いないだろう。だけどどうしても、そうできない事に歯がゆさを覚える。
「じゃなきゃ、私だけが受け取って、私だけが返すみたいで……何か嫌だ」
きっと、沢山の私が踏み台になって、今の私がいる。それが悪い事だとは思わないけど、でもなぜだかそれは、とても寂しいことのように感じてしまう。
「ちょっと……寒いな」
空を見上げれば、薄い空の色が瞳を覆う。三月も半ばに差し掛かったこの日。昨日、少しだけ舞った小さな雪景色の名残が、まだ屋上には残っていた。
「ほんと、寒いな」
鉄柵から身体を離し、小さく身体を縮こまらせる。と──
「待たせたな」
屋上の扉が開く音が聞こえ、そして彼の声が聞こえた。振り向き、そして私は目を丸くした。
403 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:41:25.14 ID:+mU1ijAH0
2
「ねぇオカリン。せっかくクリスちゃんを屋上に呼び出したのに、どうしてまゆしぃも一緒に来ないといけないのでしょうか?」
目を丸めている私の耳を、彼に問いかけているまゆりの声が小さく揺らした。
「さっき言っただろう、まゆり。お前もすでに、このイベントの大切な要素なのだとな。ふぅーはははっ」
一頻りのたまって高笑い。そんな、いつもと変わらぬ姿を眺めつつ、私はゆっくりと口を開く。
「岡部……一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
私は目をパチクリと瞬かせながら、伸ばした指先で彼の背後を指し示して見せる。
「それ……なに?」
「何? とは愚問だな。貴様、今日が何の日か、知らぬというワケでもあるまい?」
「いや、知ってるけど……でも、変だろそれ」
私の指先。その先に捕らえた、いやに大きな布袋を穴が空くほど凝視する。
「変だと? 失敬な奴め。一月前の借り。それを返すのだ。これくらいあって、然るべきではないか」
もう、意味がよく分からなかった。分かるのは精々、彼の言う一ヶ月前というのが、言わずもがな『あの日』に該当しているのだろうという程度の事。
「じゃあなに? その中はバレンタインのお返しが詰まってるとか……そう言いたいのか?」
404 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:42:14.45 ID:+mU1ijAH0
「無論である!」
胸を張られてしまった。どこから論破すれば、いいんだろう?
「ええとだな、岡部。朴念仁代表のアンタに、センスとかを求めるつもりはないけど、でもいくらなんでも大きすぎると思うわけだ」
ホワイトデーの定番といえば、軽めの菓子類や花などと、比較的かさばらない物が一般的だと思うわけで。
なのに、彼の後ろにたたずんでいる布袋の大きさといったら、まるで季節外れのサンタクロースのようなんだけど。ギャグ……なんだろうか?
「かさばる物とか、普通は避けるのが一般的だと思うわけで……」
どうしたものかと困り顔をぶら下げてしまうと、彼は顔を軽く緩めた。
「心配するな。一つ一つは、さほどかさばらん」
「一つ一つって、じゃあその中、色々詰め込んであるって……こと?」
恐る恐る問いかけると、彼ははっきりと頷いて見せた。
「その通り。買い揃えるのに苦労した事も、今となっては良い思い出だな」
もう、どこから突っ込んでいいのかすら、分からなくなってきた。
彼は、唖然とした表情の私から視線を外すと、傍らで立っていたまゆりに目を向け、さもしたり顔で口を開く。
「では、まゆり。別命あるまで、ここで待機をしていろ」
「ええぇ?」
唐突な指示に、当然の反応を示すまゆり。何をしたいんだ、こいつは?
405 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:43:17.09 ID:+mU1ijAH0
「いいから、呼ぶまで動くな。分かったな?」
強く念を押され、シブシブと頷いている。なんだかちょっと、可哀想にみえてしまった。そして──
「では、メインイベントを始めようではないか」
彼はそんな事を言いながら、布袋の先端を握り締めて、ゆっくりと私へ向けて、歩み始める。
「まさかと思うけど、質より量で勝負とか……そういう事?」
「何を言っている。うぬぼれているな、助手風情が。勘違いするな。こう見えても、俺は婦女子から大人気でな。毎年この時期は、大変なものだ」
そんな事を言いながら、遠い目をしてみせる彼。何だかとても、胡散臭い。
「胡散臭い」
思った事をそのまま口にする。と、彼の眉間にシワが寄った。
「失礼な奴め。まあいい。どの道、この中で、お前に渡す物は一個だ、安心しろ」
ニヤリと笑いながらの一言に、不思議と少しだけ落胆してしまいそうになり、慌てて気持ちを持ち直す。
「あ……そう」
おかしな事に、少しだけ声が上ずってしまった。別にいっぱい欲しいとか、そういう事ではない。
そして私の足元に、ドチャリと音を立てて置かれる布袋。彼は袋に腕を突っ込んで、中身をゴソゴソと漁り始める。
「ところでだ、紅莉栖」
406 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:44:18.85 ID:+mU1ijAH0
「ふぇ?」
出し抜けに、ちゃんとした名を呼ばれた。またしても、声を上ずらせてしまった。
「お前この前、まゆりの前で妙な事を口走ったらしいな? 自分だけ貰えるとか、何とか」
ドキリとした。
「そんな事、あったかしら?」
しらばっくれてみるも、しかし思い当る節はあった。一月の間、ずっと抱えていた何かを、ついポロリと口にして──何だかその時、まゆりの視線を感じた事があったような、なかったような。
「ふん、まあいい。それよりも……おっと、これか?」
彼の手が袋から抜き出される。私の視線は、その大きな手に握られた、綺麗なラッピングの長細い小箱に、釘付けになる。が──
「なんだ、違うな。これはお前のではなかった」
続けられた言葉に、小さく落胆し──
「仕方ない。お前から渡しておいてくれ」
とんでもない台詞とともに、小箱が宙を舞い、すごく慌てる。
「うっわわ!」
ギリギリで受け止める。危なくキャッチし損ねるところだった。何を考えてるんだ、こいつは?
「気をつけろ。想いの込めた一品だ。大切に扱え。渡す前に傷物にされたのでは、かなわんからな」
しれっとした物言い。私は分けが分からず頬を引きつらせる。
407 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:45:44.30 ID:+mU1ijAH0
「む、ムチャクチャ言うな! 想いを込めてるなら、自分で渡せばいいだろ!?」
思わず、口やかましくがなり立ててしまった。
「そう言うな。渡せるものなら……渡している」
その口調がとても寂しげに聞こえて、高ぶりかけた言葉の色を引っ込め、思わず小さく息を飲む。
「何よ、その意味ありげな言い方」
戸惑いがちに声をかけると、彼は私の問いかけた内容をスルーして、淡々と言葉を続ける。
「中身はフォークだ。ちゃんと渡しておけよ」
「何でフォークなんて……」
「前に、欲しいと言っていた女がいた。だからだ」
なぜだかちょっとだけ、胸の奥が揺らいだ気がした。
「お次は……ち、またハズレか。ホレ、これも渡しといてくれ」
再び、違う小箱が宙を舞う。
「え、ええ!?」
再び慌てて、もう一度奇跡的なキャッチを遂げる。
「ナイスだ。割れ物だからな。絶対に落とすなよ」
408 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:47:04.03 ID:+mU1ijAH0
「だったら投げるな! つーか、割れ物って何よ?」
「マグカップだ。いつだったか、奴らの襲撃を受けたとき、あいつのカップが割れてしまったからな。代わりを買った」
微かに引っ掛かる。
「襲撃って……なに」
しかし彼は答えない。
「こんなのもあったか。やはり包装してないと安っぽく見えるな。まあいい。それもだ、頼んだぞ」
そして宙を舞う、カップ入りのプリン。何とか片手で確保する。
「勝手に食べたら、やたらに怒っていたからな。ちゃんと名前も書いておいてやった。俺はいい奴だな、うむ」
上ブタの真ん中に「助手」と殴り書きされた、どこにでも在りそうなプリン。
「助手じゃなくて……牧瀬だろ」
知らないうちに、言葉が漏れ出していた。一瞬流れる沈黙。そして──
「そう、だったかもな」
彼は静かにそう言うと、袋漁りを続けていく。
それから、宙を舞っては私が受け取る、想いの形。何度も何度も繰り返され、その度に、どうしてか私の心には、小さな細波が立っていく。
そして、気付けば私の腕の中は、渡せといわれて受け取った贈り物で、溢れかえっていた。
409 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:48:01.93 ID:+mU1ijAH0
「これで……最後?」
すっかり萎れてしまった、大きかった布袋。そこから彼が手を抜き終えた様を、少しだけ霞んでいる視界でじっと見つめる。と、
「いや、まだ残っている」
零すような彼の声。とても静かにそう言うと、私の目の前で、大きく息を吸い込み──
「「「いでよぉ、まゆりぃ!!!」」」
ラボの屋上に、絶叫が木霊した。思わず、屋上の入り口へと目を向ける。
「まゆり……?」
どこか呆然としたままで問いかける。彼は答える。
「ああ。あいつの元気な姿を、見せなくてはいけない奴がいる。絶対にな」
何も言葉が、出てこなかった。ただ、こちらに向けて、テトテトと走ってくる大切な友達を、沸き上がる涙の隙間から、じっと見ていることしか出来なかった。
「そうだろ、紅莉栖?」
信じられないような瞳で、見つめられた。頷くしかなかった。紅潮した私の頬から、何かが流れ落ちていくのが分かった。
ただ、押し黙って立つ私と彼。そして、小走りに駆け寄ってくるまゆり。
「まゆり……」
410 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:49:17.70 ID:+mU1ijAH0
彼女の名前をこうして口に出来る。その事が、とても温かくて──
「クリスちゃん、どうしたの? 泣いてるの? ひょっとして、オカリンにいじめられたの?」
心配する声を、とても切なく感じてしまった。
「違うの。違うから、大丈夫だから。ね、まゆり」
私は途切れ途切れに言葉を紡ぎ、そして彼女を抱きしめる。意味など、きっとないはずなのに。
「クリスちゃん?」
不思議そうなまゆりの声。そして続けられた彼の声が、胸の奥に響く。
「いつか。もしもどこかで、お前があいつと出会える時がきたのなら、伝えておいてくれ。お前のおかげで、まゆりは今でも元気だと」
その言葉に、私はまゆりから身体を離して、ちゃんと頷いて返す。
ずっと不安だった。彼が私に向けた視線。2月14日に伝えられた言葉が重く思えて、嬉しさに釘を刺す寂しさが、どうしても拭えないでいた。
でも分かった。だから──
「ありがとう、岡部」
ちゃんと、言えた気がした。私の知らない沢山の私。その誰一人として取り残されることなく、何かを贈られ、お礼を告げられた。そんな気がした。
やっと、つりあえたような──そんな気がした。
そして、岡部の言葉が私に届く。お礼を告げた私の想い。岡部は少し気まずそうな顔をして、
「あ。お前へのお返しだけ……忘れていた」
そんな事をのたまった。アホだと思った。
END
411 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:53:37.61 ID:+mU1ijAH0
うへへ sageでこそこそ楽しい
たまたま見つけてしまった人はお茶菓子程度のものだと思って読み流すのが吉!
412 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 23:30:24.29 ID:VyYsZEfSO
マホー、日本にはバレンタインデーに想い人にチョコレートを渡す風習があるみたいだねー
413 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 00:08:20.57 ID:eCLY4xXro
よ……よくご存知でしたね教授。
(このキラキラした目。ろくでもない話題に持っていこうとしていることが、ありありと伺えるわ)チッ
(ならばここは、回避の一択ね)
どうしたんですか? 甘いものが食べたいならちょうどここに“ちんすこう”がありますけど…… ヒキダシ ガラガラ
(甘いというよりも甘じょっぱい系だけど、現状で使える盾としては悪くない)
どうです、食べますか?スィッ
(さあ、この沖縄銘菓の不思議な味覚で、余計な邪念を滅却されるがいいわ!)
って、調子に乗った スマナイ
414 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 09:15:35.93 ID:ckUhghTOO
乙
これがジャパニーズ青春なんですね紅莉栖さん
ところで真帆さんちんすこうを声に出して言ってもらえませんか出来れば少し恥じらいながらってダルくんが言ってた
415 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 11:02:16.62 ID:eCLY4xXro
ちんすこう? 別に食べ慣れているから名前を言うくらいどうということもないけど……
(でも恥じらいながらって部分が意味不明ね。ひょっとしてセクシャルなニュアンスを含ませられているのかしら……って)
おお?
(紅莉栖がすごい顔で走っていったけど? あんなゴツい本を振り回して、何かあったのかしら?)
って、いや、あの、ですからね調子に乗ってしまいますからね…orz
416 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:04:10.34 ID:eCLY4xXr0
せっせっせっせ
目標は1000までいって自動でHTML化させることでやんす
ということで 暇みてのんびり遊びやす 飽きたらやめる可能性もあり
2011年9月26日投下って7年も前かよ
追憶謝辞のオカリンティーナ
417 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:06:26.96 ID:eCLY4xXr0
1
ラボと外界を隔てる安造りの扉を押し開けると、柔らかで親しみのある雰囲気が鼻に届く。
「おかえりぃ、オカリン」
玄関先で無造作に靴を脱ぎ捨てる俺を見つけ、まゆりがゆったりとした声をだした。そんなまゆりの言葉に、いち早く反応を示したのは俺ではなく──
「やばっ」
ソファに腰掛けていた紅莉栖が、妙な奇声を上げた。
買出しから帰還した俺に視線を向けることなく、テーブルの上に広げていた何かの冊子を手早く閉じる。そして、慌てた様子でそれを自分の背後に隠そうとして──
「んが!?」
次の瞬間、悶絶の表情を浮かべながら、上半身をテーブルの上にベチャリと貼り付けた。
テーブルに広がった、線の細い華奢な背中。その真ん中辺りに、紅莉栖の手に握られた冊子の角が食い込んでいる。
目にした状況のままを解釈すれば、冊子をとり急いで背後に隠そうとした拍子に、勢い余って本の角を自分の背中に突き立ててしまった──という現状のようなのだが。
「大丈夫、クリスちゃん?」
紅莉栖の見せた唐突な奇行に、まゆりが心配そうに声を上げる。それとは対照的に俺は、
「帰ってくるなり、ドジっ子アピールか? 熱心だな、助手よ」
ふてぶてしくも、そんな言葉を投げかける。そして、やれやれといった表情をぶら下げて紅莉栖に歩み寄る。
「……いたい」
418 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:07:16.95 ID:eCLY4xXr0
テーブルに突っ伏したままの紅莉栖から、小さな呻き声が聞こえた。俺の発した言いがかりにも等しい言葉や、お約束の呼称誤差に対して突っ込んでこないところを見ると──
『どうやら、相当に痛かったらしい』
少しだけ哀れみにも似た気持ちを浮かべながら、何気に紅莉栖の背中に生えた冊子に目を向けた。
「って、おま……それ、どこで……」
少し驚いた。どうして紅莉栖の手に──いや背中に、そんな物があるのか戸惑い、そしてその答えを想像してまゆりに目を向ける。
「まゆりだな、これは?」
少しだけ問いただすようにそう言うと、「えへへ〜。ばれてしまったのです」などと、とぼけた様子でニッコリと微笑んだ。
「まったく……」
俺はしかめっ面を顔面に貼り付けて、紅莉栖の背中からその冊子を引っこ抜く。
「あ……」
紅莉栖は短く声を立ると、緩慢な動作でテーブルに張り付いた身体を引き起こす。そして、俺が取り上げた冊子に追いすがるように手を伸ばし──
「見たいのか、助手よ?」
俺の声にビクリと反応し、紅莉栖が手を引っ込めた。
「べ……別に岡部の過去に興味あるとか、そういう事じゃないからな。勘違いするなよ」
そんな言い訳じみた捨て台詞に耳を傾けながら、俺は取り上げた冊子を適当に開く。そこには、色合いや配置などにまで気を配って並べられた、たくさんの写真。
「また古いものを……」
419 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:08:14.48 ID:eCLY4xXr0
それは、俺の実家に保管されていたはずの、幼少の頃の記録。まだデジカメなどという近代兵器が浸透するよりも前に残されたのであろう、アナログでできた思い出の数々。
恐らくは、まゆりがお袋にでも頼んで借り出したのであろう、一冊のアルバム。
そんな物を手に取りながら、それが紅莉栖の手に握られていた事実に、微かな嬉しさと、少しばかりの気恥ずかしさを覚える。
「で、なんだ。助手よ……感想は?」
俺が、はにかんだように問いかけると、紅莉栖が表情の無い声で答えた。
「ハードカバーの角は硬かった」
「誰がそんな話をしている。まったく、そんなに痛かったのか? 見せてみろ」
俺が腰を落として手を伸ばすと、まゆりが「ああ〜オカリンがやさしい〜」などと煌びやかに騒ぎ立てる。
「ちょ岡部! バカ! まゆりがいる……じゃなくて、HENTAI! とりあえずHENTAI!」
どうやら、紅莉栖が真っ赤にした顔をゆがめている理由は、先刻受けた痛みのせいばかりでもなさそうであった。
仕方なく、俺は紅莉栖の背中に伸ばしかけた手を押しとどめ、身体を立て直す。と、まゆりが俺の動きにあわせるかのように立ち上がった。そして──
「ええとね〜。クリスちゃんがお気に入りしてたのはね〜」
まるで新しい発見を母親に報告する子供のように、無邪気な笑顔で俺の手にあるアルバムに顔を寄せる。
「ほう……」
俺はまゆりにアルバムの主導権を譲り、その手がページをめくっていく様を眺める。
そんな俺とまゆりの行動に、紅莉栖が泡を食ってソファから腰を跳ね上げる。
420 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:09:09.33 ID:eCLY4xXr0
「ちょっとまゆり!?」
しかし、そんな紅莉栖の悲鳴などどこ吹く風。まゆりは一つのページで指を止めると、
「クリスちゃん、このページでうっとりしてたんだよ〜」
うっとりしていた紅莉栖。いつだって冷静に周囲の状況に目を配る天才少女。鋭さこそ本質とでも言わんばかりの、あの牧瀬紅莉栖が──うっとり。
『よもや、そんな言葉を耳にする日がこようとは……』
そんな事を思いながら、まゆりの指し示したページの写真に視線を這わせる。そこには、義務教育に突入したてであろう幼少の俺が、家族と共に映った写真が数枚。中には、小学校の入学式と思しきシュチュエーションの物もあり──
『どこの小学生名探偵だ……』
蝶ネクタイに半ズボン。その、無理やりに着飾らされたいでたちに、何とも言えない恥ずかしさが湧き上がる。
「助手よ……お前、こういう趣味……」
「ちがうぞ! 誤解だ! 勘違いするな、私が気になってたのは……はう」
慌てた様子で俺の手にあるアルバムを覗き込んだ紅莉栖が、目にした何かに当てられたかのように、か弱い声を出してヒザを──
「ふんぬ!」
気合と共に、崩れそうになった身体を立て直して見せる。類まれなる、助手の根性であった。
「わ、わ、私が! 私が見てたのは、ええと! ああ、そうだ! ここ! ここよ!」
そして、一枚の写真の片隅に、びしりと指先を突き立てる。
421 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:10:27.32 ID:eCLY4xXr0
「ああ〜。オカリンパパだ〜」
まゆりの声が表すとおり、紅莉栖の指先には、俺の隣で突っ立って映る、一人の男の姿。
「お……親父じゃないか……」
「そうなのよ! もうシブ面すぎて、うっとりしても仕方ないじゃないの、これだったら!」
「人の親をこれってお前……。というか、なんだかもう色々と無理するな助手よ……」
何となく、必死な紅莉栖の弁解に、不思議な哀れみさえ感じてしまう。
「別に無理なんてしてないだろ! 私はシブ面でうっとりしてただけで、誰が好き好んで、隣におまけみたいに映ってるチビ岡部なんて……はうぅ」
紅莉栖が指先を、俺の父親から隣のチビ俺へとスライドした瞬間。今度こそ耐えかねたかのように、紅莉栖がヒザを折って、ガクリと床に腰を落とす。
もはや、弁解の余地さえないと思えた。論より証拠とはよく言ったものだが、紅莉栖の言葉が真意でないという事は、紅莉栖の言動を見ていれば、ありありとうかがい知れた。だが──
「そうなんだ〜。うん。オカリンパパって昔からカッコよかったから仕方ないね〜」
紅莉栖の無理目な物言いを真に受けたのか、まゆりが両手を顔の前で合わせて、嬉しそうに小さく跳ねる。
「あ〜、でも最近のオカリンは、少しオカリンパパに似てきたように思うのです! このままオカリンがシブシブになっていけば、きっとそっくりになるねぇ〜。あ〜、でもそうなると今度はクリスちゃん、オカリンにうっとり──」
そんなまゆりの発言に、床にへたり込んでいる紅莉栖の肩が、ピクリと動く。
「ストーップ! まゆり! それ以上の考察は、ノーサンキューよ!」
床の上からまゆりに向けて、開いた手のひらを突きつける紅莉栖。その必死な挙動を見ると、今にもその手のひらから、気の塊でも放出しかねないような──そんな勢いに思えた。
422 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:11:54.78 ID:eCLY4xXr0
仕方なく、俺自らが取り乱し続ける紅莉栖に、助け舟を手配する。
「分かった、もう分かったから助手よ。とにかく貴様は、シブ面好みのファザコンティーナという事で手を打つとうではないか」
「どこにティーナをつけている!?」
上目遣いで、眼下から睨みつけられる。その綺麗で鋭さを伴った眼光に、思わず見とれてしまい──
「ねえねえクリスちゃん。クリスちゃんのお父さんは、どんな人なのかな?」
何気なく響いたまゆりの一言が、ラボを満たしていた暖かな空気を、微かに凍りつかせた。
423 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:13:22.45 ID:eCLY4xXr0
2
まゆりがバイト先へと旅立ち、紅莉栖と二人で取り残されたラボの中。ソファの上でうーぱクッションを抱え込み、身体を丸めていた紅莉栖が口を開いた。
「どうしてあんな事を言った、岡部……」
「何の話だ」
どこか空々しい声色で問い返す俺に、紅莉栖がうつむけていた顔を微かに持ち上げる。
「とぼけるな。まゆりに変な事を言っただろ。……どうして?」
「どうして……と言われてもな」
俺は紅莉栖の問いかけに、小さく顔をゆがめて頭をかく。
──クリスちゃんのお父さんは、どんな人なのかな?──
あの時、まゆりが紅莉栖に投げかけた、他愛のない一言。そして、ラボメン仲間の何気ない質問を前に、返答を詰まらせた紅莉栖。
『無理もない……』
言葉を告げられない紅莉栖を前にして、そう思った。
牧瀬紅莉栖の父親。これまで何度も垣間見てきた、科学者崩れの一人の男。そんな男の人となりを思い起こし、俺は胸中で唸り声を立てる。
『答えようなど、ないではないか……』
自らの娘が見せた才能に嫉妬し、自らの娘の成長を、自分にとっての屈辱だと言った男。
424 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:14:21.28 ID:eCLY4xXr0
そんな父親をぶら下げて、紅莉栖がそれをまゆりに伝える。それは、彼女にとって余りにも酷な作業だと思えた。
だから──
「よかろう。助手ファザーの事ならば、この俺が説明してやろう」
そんな妄言を口ずさみ、俺は紅莉栖本人の言葉を待つことなく、まゆりに対して勝手に講釈を垂れた。
俺の話を聞いたまゆりは、俺が紅莉栖の父親と面識がある事に驚きつつも、紅莉栖の父親の人となりに対して、一応は満足をしたようで──
「やっぱりクリスちゃんのパパさんだねぇ〜」
などと、一人納得しきりであった。
だがしかし、とうの紅莉栖にしてみると、俺の取った勝手気ままな言動に釈然としないようであった。
「勝手にしゃしゃり出たのが気に食わないのなら、あやまろう。すまなかった」
俺は素直に、紅莉栖に謝罪の言葉を向けた。しかし──
「そういう事を言ってるんじゃないだろ。何であんな心にもない事を言ったのかと聞いてるんだ」
俺の謝罪がお気に召さなかったのか、紅莉栖の口調はどこか問い詰めるように聞こえた。
「あれじゃまるっきり、嘘──」
「別に嘘をついた覚えはないが」
紅莉栖が吐きかけた言葉を先読みして遮る。そして、
「どうして俺が、助手の父親に関して、まゆりに嘘をつかねばならん。俺にはそんな義理も人情もないぞ」
425 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:15:52.92 ID:eCLY4xXr0
きっぱりと言ってのける。
「どこがだ。変に気を使って……バカだろ」
「失礼な助手だな」
「うるさい嘘つき岡部。何が偉大な科学者だ。何が感謝しているだ。あんたがパパの事をそんな風に思ってるわけないだろ」
そんな紅莉栖の悪態を聞き流しながら、俺は小さくため息をつく。
「だからちゃんと、前に『色々な意味で』とつけただろ。色々な意味で偉大。色々な意味で感謝。俺はそう言ったはずだぞ」
「だとしても、嘘だって事にかわりないでしょ」
紅莉栖がうーぱクッションに顔を埋めこんだ。そんな紅莉栖の様子を視界におさめながら、俺は言う。
「そうでもないだろう。あんな男だとしても、科学者だという事に変わりはない。それに偉大かどうかなんて物は個人の主観によるものだ」
「じゃあ、あんたはパパを偉大だと思ってるわけ?」
「色々な意味では、そうとも言える。誰に見返られる事もなく、たった一人で狂気の道をひた走る。そんな男を前にして、狂気のマッドサイエンティストたる俺がそれを否定など出来るものか」
俺は鼻も高々に、そんな答えを紡ぎ上げる。
「なによ。物は言いようってだけじゃない、それ」
ウーパから顔を上げた紅莉栖の言葉に、『まあ、そうとも言うかもな』などと胸の内で呟きながら言う。
「それにだ。感謝しているというのも本当だ。というか、貴様は感謝していないのか?」
俺の言葉に、紅莉栖が目を点にする。
426 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:16:46.20 ID:eCLY4xXr0
「何がどうしてそうなるのよ……」
「どうしてもこうしてもあるか。俺と貴様を引き合わせたのは、他でもない貴様の父親ではないか」
「……え」
紅莉栖の口から、小さな吐息が漏れる。
「まったく、これだからスイーツ(笑)は……。いいか? 確かに中鉢という男は、人として尊敬できるような人物などではない。しかしだ。だからこそ、俺と貴様は出会う事が出来た」
俺は言う。
あの最低最悪な一人の男が、悪の道をまっしぐらに駆け抜けたからこそ、俺たちの今があるのだと。
「あいつが貴様を刺す……などという暴挙にでなければ、最初のDメールも最初の世界線移動も起こりえなかった。娘に辛く当たっていなければ、貴様が日本へ来る事もなかったかもしれない。仮に訪れる機会があったとしても、きっと俺達が出会う事などなかっただろう。違うか?」
「……それは」
「もしも貴様の父親が、聖人君子のような人間であったなら、俺とお前は今でも見ず知らずの他人同士。ならば、尊敬こそできないとしても、少しくらいは感謝してやってもいいのではないか?」
まくし立てるような俺の言葉に、紅莉栖は相変わらずキョトンとした表情を浮かべていた。
正直に言えば、俺はあの男の事が、大嫌いである。自分の娘を手にかけようとし、割って入った俺のどてっぱらに、風穴を開けた。そんな男を、どうして許す事ができよう?
だがしかし──
『それでも、紅莉栖の父親なのだ』
そんな男と和解がしたいと、涙を流していた紅莉栖を知っている。
そのために、一緒に青森へ来て欲しいと告げられた、紅莉栖の切ない願いを覚えている。
出来ることなら、彼女の抱いた小さな願いを、いつかかなえさせてやりたいと、そう思う。
427 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:17:39.96 ID:eCLY4xXr0
紅莉栖の思い描いている、幸せな家族。そんな些細な幸せを、その華奢な手に握らせてやれればと、身の程もわきまえずにそんな事を考える。
だからこそ──
「ともに青森へ、行くのだろう?」
俺は、いつかの約束を口にする。と、紅莉栖が微かに唇を震わせた。
「あんな事があったのに……一緒に来てくれる……の?」
「ふん、勘違いするなよ。というか、むしろ貴様が拒否しようとも、俺一人でも行かねばなるまい」
そう言葉にし、そして胸を張ってふんぞり返る。足を踏ん張り両手を開き、まとった白衣を盛大に羽ばたかせて声高に叫ぶ。
「この世に狂気のマッドサイエンティストは二人もいらぬ! 再びの直接対決を経て、どちらが真に狂気をつかさどる存在なのかを知らしめてやる!」
少し恥ずかしかったが、それでも声を弱めることなく想いを口にする。
「そして、いつかあの男に、自分がただの中年オヤジであるという事を認識させてやろう! ああ楽しみだ! 自らの非力さに打ちひしがれて、ガックリと肩を落とした奴が、すごすごと妻や娘の下へと逃げ帰る様を見る事が、今から楽しみでしょうがないぞ! フゥーハハハッ!!!」
声がかれんばかりに、高笑いを響かせる。そんな俺の姿に紅莉栖が小さく微笑んだ。
「それは……私も楽しみだ」
「ならば、貴様もついて来い。この鳳凰院凶真の実力を見せ付けてやろう。必ず……な」
「何がついて来いだ。立場が逆だろ……バカ」
紅莉栖の瞳から涙が零れたように見えたのは──きっと気のせいだろう。
牧瀬紅莉栖のたどり着く先に。この俺が導く彼女の未来に、涙など必要ない。だからきっと──
428 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:18:23.90 ID:eCLY4xXr0
「ほんとあんたって、たまにそういう事する……反則だろ」
紅莉栖の微かな呟きが聞こえた。
「何か言ったか?」
「何でもない!」
言い張って、そっぽを向く紅莉栖。どことなく複雑そうな表情を覗かせている。
「どうした? ひょっとして、まだ背中が痛むのか?」
そんな俺の言葉に、紅莉栖は少しだけ間を置いて──
「ちょっと……痛いかも……」
なぜだか、顔を赤く染めていた。
「おいおい……どれだけ強くぶつけたんだ?」
「だって、焦ってたから……」
「まあいい。見せてみろ」
「うん……」
彼女の横に腰を降ろし、彼女の背中に手を伸ばし、彼女の髪に触れ──
次の瞬間にラボに響いた、「バイトお休みでした〜」というまゆりの発言に、俺と紅莉栖が飛びのいた事は──言うまでもない事であったりするのである。
お〜しまい
429 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:20:20.21 ID:eCLY4xXr0
今日はこれだけ
えっと……まだ半分もいっていないわけだよな……まじか
430 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:36:18.03 ID:kVyODNzX0
自己満ぞっかーな私めがしょうもないことをしています 運悪く遭遇した人は生暖かい目でブラウザバックがいいでしょう というかバックしなさい、いいですね
431 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:37:04.32 ID:kVyODNzX0
自己満ぞっかーな私めがしょうもないことをしています 運悪く遭遇した人は生暖かい目でブラウザバックがいいでしょう というかバックしなさい、いいですね
432 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:38:51.33 ID:kVyODNzX0
2011年3月
ヴィクトル・コンドリア大学 脳科学研究室となり 資料室 深夜
真帆「うぅ〜」ソファ-ニゴロン
真帆(また帰りそびれてしまった……。もう何泊目よ……)
真帆(たまには帰ってゆっくりした方がいいのでしょうけど、どうにも帰宅するのが億劫なのよね)
真帆(一応これでも年頃の娘なわけだし、身だしなみくらいは気を配るべきなのでしょうけれど……)
真帆「…………」クンクン
真帆(まだ……大丈夫……よね? 白衣だけは昨日取り替えたわけだし……)
真帆「って。あーもう!」
真帆(きっと、こういうところがダメなんだろうなぁ、私って)
真帆(あの紅莉栖にすら、いい人……。むむ、まあちょっとアレな人ではあるけど、それでも紅莉栖にとっての『いい人』と表現しても別に差し支えないわよね……? いやほんと、どうしようもなくヘンな男の人だったけど)
真帆「岡部倫太郎……ねぇ」
真帆(まあ私からしたら、一ヶ月くらい前のファーストコンタクトからして印象は最悪だったわけで)
真帆(そりゃそうでしょう。怪我をしたのかと思えば大声で笑い出すわ、人のことを失礼なあだ名で呼び始めるわ、挙句の果てにはいきなり私を抱きしめ──)
真帆「…………」トクン
433 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:39:29.68 ID:kVyODNzX0
真帆(んなっ! ないないないないない! トキめいてなんていない! 何にもない!)
真帆「ふーーーふーーー! 今日は暑いわね!」パタパタ
真帆(だいたい、何がラボメンよ!)
真帆(聞けば大学生のお遊びサークルだって話じゃない! そんな場末のラボラトリーもどきにこの比屋定様を勧誘しようなんて、身の程知らずもいいところじゃない!)
真帆「というか、なんで紅莉栖はちゃっかり加入してるわけよ……」
真帆(実はここよりも、居心地とか……よかったりして?)シュン
真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」
真帆「な、なんてね!」ブンブンブンブン
真帆(あるわけないじゃない、そんなことが!)
真帆「あーあ、やだやだ」
真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」
真帆(そう言えば……あの時押し付けられたバッチ……どこへやったかしら?)
真帆(確か……)ムクリ
434 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:41:17.64 ID:kVyODNzX0
真帆(デスクの引き出しの中に放り込んでたと思うんだけど……)ヨッコイショ
隣の部屋へトコトコ
ガラガラガラ
真帆(えっと……見当たらないわね)ムムム
真帆(おかしいわね。私の記憶が確かなら、この引き出しの中にあるはずなのだけれど……?)
真帆「ん〜」
真帆「おお! ひょっとして封筒の中とか!」ポン
資料室(宿)へトコトコトコ
真帆「ええと……昨日の封筒はどこかしら……」キョロキョロ
真帆(昨日の夜、寝落ちするまで資料室で過去の記録を読み漁ってたのだけど)
真帆(確かその資料を入れておく封筒が欲しくて、それであの引き出しから使い古しの封筒を持ち出して……)
資料室 ゴチャァ
真帆「うわぁ……誰よ資料室をこんなに散らかしたのは……」
真帆(って、私か。私しかいないわよね、うん)
435 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:42:08.47 ID:kVyODNzX0
真帆「んん〜確か、A4が束ではいるサイズの奴だったはずだけど……」キョロキョロ
真帆「あ……この下のほうに埋もれた奴……っぽいわね」
真帆(でも……。一日でこんなに下に埋もれるものかしら?)
真帆「あーでも、私だしなぁ……。仕方ない」
真帆(気になったなら、確認あるのみね)ギュ
真帆「せーの……やー!」グイッ
スポーーーン!
真帆「うわっ!?」
真帆(意外と簡単に抜けた!? っていうか勢いあまって……)
ブワッサァ!
真帆「あひ!」
真帆(お……おー、派手に飛んでった。封筒だけ残して、中身が丸っと吹っ飛んでったわ……)
真帆「って、大変!」パタパタパタ
436 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:43:05.18 ID:kVyODNzX0
真帆「えっと……」オロオロ
真帆(ああ、中身の資料はちゃんとクリップで留めてあったみたいね。バラけなかっただけでも幸運だったわ)
真帆(ええと……この資料は……)
真帆「いや……。ずいぶんと分厚いけど、何これ?」
パラパラパラ
真帆「資料……じゃない。これって……小説? しかも日本語表記?」
表紙へモドリ
真帆「ええと、タイトルは……『助手迷子禄』……」
真帆「なんのこっちゃ?」
真帆(なんだ。目当ての封筒じゃなかったわね。っていうか、誰がこんなものを持ち込んだのかし……って、封筒に書いてある宛名、紅莉栖の名前じゃないのよ!)
真帆(ってことは、これは郵送物? 差出人は……鳳凰院凶真……?)
真帆「ほうおういんきょうま……どこかで聞き覚えが……」
真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」
真帆「あ。岡部さんが確かそんな別称を……」
437 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:44:09.74 ID:kVyODNzX0
真帆「ん? と、いうことは」ポクポクポク
真帆「なにこれって岡部さんが書いた小説!?」チーン
真帆「じゃあ、自分で書いた小説をアメリカにいる彼女に送りつけたわけ?」
真帆(ヤバイ……気色悪い……)
真帆「いやー、あれだ。そういうことするタイプの人には見えなかったんだけど、あれだなぁ春だなぁ、訴訟したほうがいいかしら?」
真帆「………」トコトコ
真帆「……」トコトコ
真帆「…」ポスン
真帆「さてと」フッ
ペラリ
真帆「ええと、なになに……」
438 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:45:22.91 ID:kVyODNzX0
##########################################################
439 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:46:26.68 ID:kVyODNzX0
1
あの長かった夏も、気付けば終わりに近づいていた。
9月も残すところ後わずか。暦上ではすでに秋と言っても差し支えない。であれば、そろそろ涼風の匂いなどと言う物が感じられてもよさそうな頃合ではあるが──
『暑い』
残念な事に、この狭苦しいラボの中は、未だ衰えを知らないヤル気満々の残暑によって、蹂躙されつくしていた。
俺は吹き上がる額の汗を、白衣の袖口に吸い込ませながら、紅莉栖に目を向ける。
熱気立ち込める、ラボの片隅。ソファーに腰掛けた紅莉栖は、先刻よりテーブルの上に視線を落とし続けていた。
ひざに抱えたウーパのクッションが、やたらと暑苦しそうに見えて仕方ない。
「で、どうだ助手よ。これで俺の説明は一通り終わったわけだが……」
確認の意味で、言葉の最後に「理解できたか?」と付け加える。と、紅莉栖が俺に顔を向けた。
「当然、理解できてる。理解はできてるけど……」
「できてるけど、何だ?」
「正直、にわかには信じがたい話だな……とか、思ってる」
紅莉栖は、どこか懐疑的に見える瞳を作って、そう言った。
そして、とうとう茹だる暑さに耐えかねたのか、ヒザに抱えていたウーパクッションを脇にどかし、代わりにテーブルの上に放り出されていた厚紙のような物を手に取った。
「それにしても、バカ暑いんですけど。岡部、はやく扇風機、直せ」
そんな事を口走りながら、少しでも涼を取ろうと、手にした厚紙を団扇のように動かし始める。
そんな紅莉栖に、俺は言う。
「残念だが、俺はマッドサイエンティストであって、家電修理工ではない。涼を取りたいなら、自分で何とかしたらどうだ?」
「それが出来たら、やっている」
まるで、つまらない問答でもしているように、紅莉栖は愛想のない声色でそう返した。
そんな紅莉栖を視界に納めながら、問いかける。
「で、俺の話のどこが信じがたいというのだ?」
唐突に戻された会話の内容に、紅莉栖の反応が微かに遅れる。が、それも一瞬の事。俺の問いかけた内容を把握し、すぐさま返事を返す。
440 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:47:30.70 ID:kVyODNzX0
「どこがといわれたら、全体的に。しいて上げろというなら……そうね。やっぱりこれかな……」
紅莉栖は、再び視線をテーブルの上へと戻した。
「なんだっけ。メタルウーパだっけ? こんなオモチャ一つが世界大戦の有無を左右するって話だったけど、いくらなんでもそれはどうかと思うわけだ。流石に突飛すぎて──」
「そんな事はなかろう」
まだまだ続きそうであった紅莉栖の反対意見。それをせき止めるようにして、俺は声を立てる。
「北京で蝶が羽ばたけば、ニューヨークで嵐が起こる。バタフライ効果とは、本来そういうものなのだろう?」
「それはまあ、そうなんだけど……」
俺の言いたい事を察したのか、紅莉栖の返した返答は、どこか歯切れが悪かった。しかしそれも仕方ないと言うもの。
──小さな出来事が、後に思いもかけない大きな事態へと発展する──
それがバタフライ効果だと、以前、俺に説明したのは、他でもない紅莉栖自身なのだ。
まるでその事を証明するかのように、俺の発言を受けた紅莉栖は、テーブルの上に鎮座する金属製の玩具を見つめて考え込む。
そして、しばらくの思考を経て、口を開いた。
「でも、岡部の言う通りなのかも」
一人、小さく頷きながら言葉を続ける。
「小さな事象を切欠に、後に思いがけない展開が生まれる。まさにバタフライ効果と言っても差し支えないような現象は、これまで何度も観測されてきたわけだし……」
観測。
恐らく紅莉栖が口にしたのは、自ら取り戻した記憶や、俺から聞いた話などにある、あの三週間の出来事を指しているのであろう。
確かに、あの過ぎ去った三週間で、俺は『バタフライ効果』を体感できるような状況を、幾度となく経験してきた。
たった一つのメールをきっかけに、一人の少年の性別を変え、秋葉原を消し飛ばし、未来から小さな暗殺者を招き寄せて、さらには一人の人間の命を左右する──そんな体験を、この身に嫌と言うほど刻み込んできた。
そして紅莉栖もまた、あの過ぎ去った永遠の三週間の記憶を、思い出しているのだ。
『もっとも、紅莉栖の記憶には、Dメールによる過去改変は、含まれていないみたいだが……』
紅莉栖が取り戻した記憶は、リーディングシュタイナーを備えた俺ほどに、完璧なものではなかった。
それは、あくまでも『α世界線で紅莉栖が持っていた、最終的な記憶』に留まっており、ともすれば、打ち消してきたDメールに関わる記憶は、その範疇外であった。つまり──
441 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:48:27.28 ID:kVyODNzX0
鈴羽がダルの娘で未来人だったり──
フェイリスパパが生きてたり──
ルカ子が女だったり──
等といった情報に関しては、α世界線で俺が話して聞かせた以上の事は、なにも知らないのだ。
だがそれでも、紅莉栖自身、あれだけ奇想天外な状況を経験してきたのだ。であれば、俺の話がまったくの荒唐無稽だと笑い飛ばす事など──
「う〜ん、でも、岡部の言う事だからな。やっぱ信憑性にかけるというか、何と言うか」
引っ掛かってるのは、情報ソースの信憑性だとでも言いたいのか?
「疑り深いやつめ! 俺は直接この目で、それに至る経過を確認してきた。それでもなお、疑おうと言うのか?」
声を大にして言い張る。そして、両手を勢いよく展開し、羽織った白衣を大きくはためかせながら叫ぶ。
「哀れなり! 信ずる心を忘れた科学者、クリスティーナよ!」
「妙な肩書きを付けるな! それからティーナじゃないと、なんど言えば!」
間髪入れない、紅莉栖の突っ込み。慣れ親しんだ、言葉のやり取り。
それは、一度は諦め、一度は拒絶したはずの、焦がれ続けた日常風景。俺の報われた、俺の望んだ世界。 悩み抜き、迷いきり、そして最後に選んだ、ラボメンとしての紅莉栖がいる、これから。
そんな世界をこの目に焼き付けながら──
『やはり、これでよかったのだ』
などと考える。
そして、前の紅莉栖の発言内容を無視して、声を荒げる。
「ふぅむ、素直ではないなクリスティーナよ! 信じたいのだろう? 本心では、この俺を信じたくて仕方がないのだろう? 口にせずとも分かっているぞ、さあ、盲目の羊がごとく信じきるがいい!」
そんな俺の姿を見る上目遣いの紅莉栖の視線は、どこか冷ややかであった。
「何がどうしてそうなった。あんたの言語解析が、私には理解できない……」
「ふん。最上の誉め言葉と受け取っておこう! フゥーハハハ!」
揶揄されながらも、しかし胸を張って高笑い。そんな俺の姿に、紅莉栖は呆れたような顔をして──
「ああもう、何言っても無駄か。分かりました、信じます。信じるから、その暑っ苦しいキャラ設定を封印してよ。それでなくても、ここは蒸し暑いんだから」
などとのたまい、ソファにふんぞり返って、厚紙を振る手を一層強める。
横柄な態度といえよう。まったくもって、失礼極まりない助手である。
442 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:49:16.15 ID:kVyODNzX0
『よもや、俺の中に息づく『鳳凰院凶真』を、暖房器具か何かと混同しているのではなかろうな?』
などと思いつつも、しかし、紅莉栖の言い分にも、一理ある。現状のラボ内では、鳳凰院凶真モードの体力消費は、あまりにも著しすぎた。
「ふ、仕方ない。今日はこれくらいにしておいてやろう」
俺はそう言うと、左右に広げていた両手を収め、額に噴出していた汗を、袖で拭う。と──
「ありがと」
思いがけない謝辞が、紅莉栖の口から零れ落ちた。
そんな言葉に、俺は少しだけ驚き、そして同時に傷ついてしまう。
「お、おい。止めただけで礼を言われる程に、マッドサイエンティストは嫌われているのか?」
どこかドギマギとした俺の問いかけに、紅莉栖は一瞬、きょとんとした顔を覗かせるも──
「なにを勘違いしてる。別に、その事について礼を言ったわけじゃない」
「……?」
「私は、これの事に対して、礼を言ったの」
そう言うと、紅莉栖は手にしていた擬似団扇をテーブルに置き、その代わりに小さな金属製の人形を、華奢な指先でつまみ上げた。
「あんたが、これを処理してくれたからこそ、私も、私の書いた論文も、そして、パパも──」
──開戦の主犯にならずにすんだ──
少し、伏せ目がちな瞳を作ってそう言うと、摘んだ人形を両手で包み込む。
ソファに腰を据えて、身体を縮こまらせる紅莉栖。その姿を見て、俺は問う。
「それはつまり、俺の話を全面的に信じて理解した……という事でいいのか?」
俺の問いかけに、紅莉栖は少しだけうつむいたまま、微かに頷いて見せた。
そんな行動を見て、俺は、紅莉栖が俺の話をよく理解しているのだと、そう感じた。
『急に教えてくれと言われたときは、流石に驚いたが……』
だがしかし、目の前に見える紅莉栖の姿に、俺は長々と話して聞かせた『鳳凰院凶真の武勇伝』に、ちゃんと意味があった事を知り──
『まあ、結果は上々か』
と、微かに胸を撫で下ろした。
443 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:50:17.30 ID:kVyODNzX0
事の発端は、本日正午過ぎであった。
ダルが行き付けのメイド喫茶へと旅立ち、まゆりがコス仲間の緊急要請に従って出動した昼下がり。
ラボの中で俺と二人きりになったとたん、紅莉栖は話題を切り出した。
──私を助けた時のこと。詳しく聞かせてほしい──
いつになく真剣で、それでいて、どこか思いつめたようにも見える瞳。そんな目を俺へと向けて、はっきりとした声でそう言った。
紅莉栖が再びラボメンへと返り咲いた、あの日。
秋葉原の街中で、紅莉栖と奇跡的な再開を果たし、紆余曲折を経て、結果的に紅莉栖が記憶を取り戻した、あの一連の出来事。
あれから既に、一週間が過ぎ去っていた。
そして、今日。
この数日間、そんな話題を一言も口にしなかった紅莉栖が、突然思い出したかのように、そんな質問を俺に投げかけてきたのだ。正直なところ、あまりに突然すぎて、少しばかり驚いた。
とはいえ、驚きこそしたものの、慌てることはなく──
『何度も脳内リハを行ってきた成果だな、うむ』
紅莉栖の前で展開して見せた、理路整然とした情報伝達。その出来栄えに、我ながらまずまずの手応えを感じていた。
──きっと紅莉栖には、あの時の出来事が正確に伝わっている──
それを今は、素直に喜ぼうと思う。
──この世界は、紅莉栖を排除しようとはしない──
その事実を、紅莉栖が理解できたのであれば、それはきっと、悪いことではないはずだから。
そんな思いで自己回想と感傷に浸っていると──
「ところで、岡部……」
紅莉栖の声が、俺を現実に引き戻した。
「ああと、何だ?」
ぼやけた返事を返すと、紅莉栖は視線をうつむけたまま、言う。
444 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:52:24.87 ID:kVyODNzX0
「私の見解としては……実際のところ、さっきの話……少し、説明不足な点があるように思えるんだが……」
なんだか、奥歯に物が挟まったような、どうにも明確さのない口調。紅莉栖にしては、珍しいと思った。俺は問い返す。
「どうした? まだ何か、不明な点があるのか?」
「……まあ、そうなんだけど」
やはり、どこかハッキリしない言葉。俺はそんな紅莉栖の態度をいぶかしむ。
「どこだ? β世界線からこの世界線に飛んだ過程についてか?」
「……それは理解した」
「では、第三次世界大戦に関わる──」
「……そこはもう、十分」
「では、お前の知らない、鈴羽がタイムトラベラーだった事とか、未来のダルがタイムマシンを作った事とか、その辺りの流れか?」
「それも違う。というか『知らない』わけじゃない。その辺は、『岡部に聞いた』という記憶だけはあるから……」
紅莉栖は、何を言いたいのだろうか? 俺にはその意図が見えない。せめて、顔をこちらに向けてくれれば、その心情だけでも読み取る事もできるのだが。
しかし紅莉栖は、ソファで身体を縮こまらせたまま、動こうとしない。だから、何も分からず、仕方なく問い続ける。
「では何だ? いったい何が──」
そんな問いただすかのような俺の言葉を──
「主観」
か細い声で紅莉栖が遮った。
小さく響いたその言葉に、俺は思わず首を捻る。
「しゅかん──主観?」
その俺の言葉に、紅莉栖は小さく頷いた。
が、未だにその視線は、小さな人形を包み込んだ両手にそそがれたまま。だから、俺には紅莉栖の心境を読み取る事が──
『耳まで、真っ赤ですが』
驚いた。
長い髪から微かに覗く、小さくて可愛い形をした紅莉栖の耳。それが、見た事もないほど真っ赤に染まりあがっている。
『こ……これはいったい?』
俺は状況を飲み込めず、黙って動揺する。と、 唐突に紅莉栖の顔がこちらを向いた。
445 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:53:53.23 ID:kVyODNzX0
『うお!?』
俺の動揺が、狼狽にクラスチェンジを果たす。
真っ赤であった。赤面などと、生易しいものではない。なんだかもう、今にも熱で顔面が融解してしまいそうなほどに、紅に染まりあがっていた。
そして、俺の見ている前で、紅莉栖は口を動かし始める。微かに唇を震わせながら、途切れそうなほどか細い声で、言葉を紡ぎ始める。
「あんたの話の中に、岡部倫太郎の主観が……なかった」
「す、すまない。いまいち何を言っているのか、分からない」
今にも爆発しそうなほどに染まりあがる紅莉栖。そんな彼女の言葉に対して、俺は正直な感想を告げる。
「分からないとか……言うな。汲み取れ……バカ」
「汲み取れと、言われましても」
「だから!」
紅莉栖の語気が、一瞬強まる。が、次の瞬間には、また小さなさえずりに逆戻りし──
「あんたの心情とか……なんと言うか、そんな類のとこ……聞いてない」
そう呟いた紅莉栖の瞳に、俺の心臓が高鳴る。
顔を赤く染め、気恥ずかしそうに身体をもぞもぞと動かす、その姿。それを見て、紅莉栖につられるように、俺の顔まで赤面していくのが分かる。
そんな俺の耳を、紅莉栖の声が小さく叩く。
「岡部……また世界線に挑んだんでしょ? ……何で?」
照れ隠しのつもりで、俺は咄嗟に答える。
「何でと言われても、さっき説明したように、世界大戦の回避を……」
「うそ。それだけじゃない……よね?」
「いや、嘘と言われてもだな……」
「じゃあ……本当に、それだけ? それだけだったの?」
紅莉栖の問いかけに、俺は言葉を詰まらせる。『それだけ』なわけなど、ない。だが──
「それは……」
一度詰まった言葉は、なかなか吐き出されず、俺の尻切れトンボのような言葉が、蒸し暑いラボの中に溶けて消える。
そして次の瞬間、真っ直ぐと俺に向けられた紅莉栖の瞳が、微かに潤み始める。そんな光景に、俺はたじろいでしまう。
「な、なにも泣く事は」
「まだ泣いてない!」
446 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:55:42.82 ID:kVyODNzX0
顔を左右に振りながら、俺の言葉を否定する紅莉栖を見つめながら、思い知る。
──俺という男は、またもや、やらかすところだったか──
先ほど紅莉栖が示した指摘。説明の中に、俺の主観がないという異議。それは正しかった。
なぜなら、俺はあえて、説明の中に俺の想い──紅莉栖の言う、俺の主観を乗せようとはしなかったからだ。
紅莉栖を生かしたいという想い。
世界大戦の回避など、ただのオマケだったという想い。
五十億人以上の命と紅莉栖一人の存在を天秤にかけ、紅莉栖の重さで五十億人が吹っ飛びそうな──そんな想い。
そんな想いの全てを省いて、俺は紅莉栖に説明した。
なぜ、そんなまどろっこしい事をしたのかだって? そんなの決まっている。
『そういうの、なんか恥ずかしいだろうが!』
とどのつまりは、下らないプライドからくる羞恥心が原因であった。
紅莉栖が問いかけてくるまでの、この数日間。
それは、俺に紅莉栖との距離感を思い出させ、そして、あの吹き上がるような想いを伝える事に羞恥心を覚えさせるには、十分な時間だったのだ。
『鉄は熱いうちに打てとは、よく言ったものだな』
俺はそんな事を想いながら、自らの愚策を反省する。
天才の異名をほしいままにする牧瀬紅莉栖。
そんな少女に対し、自らの主観抜きで、それでも論破されぬようにと、繰り返し脳内リハーサルを行ってきた自らの行動を、あざ笑う。一週間もの時間をそんなどうしようもない事に費やしてきた自分を、『アホか』と罵る。
俺は一度、紅莉栖を拒絶してしまっている。だからこそ、同じ轍を踏むわけには行かない。もう二度と、わけの分からない独善性で、紅莉栖の想いを踏みにじるのだけは、避けたかった。
だから──
『まだ、鉄は冷め切っていなはずだ』
目の前の紅莉栖が、まだ熱を帯びている事を信じ──
「紅莉栖」
名を呼び、紅莉栖の身体を、軽く抱き寄せた。
「!?」
突然の事に、紅莉栖が驚きの声を上げる。メタルウーパが紅莉栖の手をすり抜けて、床を叩いた。
俺は、ラボの隅へと転がっていく球状モニュメントを視線で追いながら、紅莉栖の耳元でささやく。
447 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:56:35.70 ID:kVyODNzX0
「悪かった。ちゃんと、言うべきだったな」
紅莉栖の息遣いが耳元で聞こえ、紅莉栖の鼓動が微かに伝わる。
そんな感覚を受け止めながら、俺はゆっくりと言う。一言一言を、はっきりと明確に、紅莉栖へ伝わるように、言葉にする。
「俺が、どんな想いで過去へ行き、どんな想いでお前を助けたのか、全て聞かせる。だから──
──聞いてくれるか?
俺の伝えたその言葉に、紅莉栖は細い肩を小さく跳ねさせる。
「わかった……聞く。だから……もう放せ、HENTAI」
小さな返事が、俺の耳に届いた。
俺はその言葉に従うように、紅莉栖を拘束していた両手を開き、戒めを解く。
開放された紅莉栖は、少しの間をおいて、俺の身体から離れ──
「あの、紅莉栖さん? 放せとの命令でしたので、お放しさせていただいたのですが……」
「わ、分かってる! 言われなくても、いま離れるから!」
しかし、そんな言葉とは裏腹に、紅莉栖は俺の身体にくっついたままの状態で、よじよじと身をくねらせているだけ。待てど暮らせど、一向に俺との距離が開く気配はない。
「あ……あの……」
「うるさい、何も言うな! 分かってると言っている!」
戸惑いを露にした俺の声を、紅莉栖はピシャリと跳ね返した。そして、密着した状態で、より一層に身体をモジモジと動かし続ける。
『こ……これはある意味、たまったものでは──』
などと、俺は自らの置かれている現状を、歓喜しながら嘆いた。そのとき──
「トゥットルー☆ たっだいま〜」
その瞬間、紅莉栖が目にも止まらぬ速さで俺から飛び退る。
そして俺は、『電光石火』という言葉の体現者を目の当たりにした感動に、とりあえず打ち震えてみた。
448 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:57:14.51 ID:kVyODNzX0
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449 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:58:11.08 ID:kVyODNzX0
真帆「にぎゃーーー!?」
真帆「何よこれ、何なのよこれは! 基本設定が分からないとかどうこう言う以前に、どうなっているのよこの話! ピンク脳にも程があるでしょうが!」ドッタンバッタン!
真帆「酷い! これは酷いわ! 『鉄は熱いうちに打て』キリリ とか、正気なの彼!?」
真帆「背中かゆい! 背中がかゆぅい!」ガッタンシッチン!
真帆「というか、紅莉栖は彼氏からこんな物を送りつけられていたわけ!? これってある種のセクハラじゃない!」
真帆「つーかあの男、私の紅莉栖をどんな目で見ているのよっ! こんなの訴訟案件に相違ないわっ! これはもう裁判よ!」
真帆「はーはー!」
真帆「…………」フーフー
真帆「とはいえ……一応もう少しだけ読んでおきましょうか。ひょっとしたら後学のためになるかもしれないしね……」
ペラペラペラ
450 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/25(水) 02:23:33.06 ID:SWgYHswko
じょしゅたんおめ!
451 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/27(金) 02:20:13.65 ID:AGdfprM60
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452 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/27(金) 02:20:58.91 ID:AGdfprM60
2
まゆりの動かすミシンの音が、ラボの空気にリズムを刻んでいく。
耳慣れた機械音は、壁に背中を預けて立つ俺の耳を、小気味よく揺らしていた。
そんな足早の拍子に意識を揺らしつつ、俺はまゆりの作業風景をぼんやりと眺める。
「何事も、タイミングが命だとは言うが……」
「ある意味、神がかってるわね、まゆりは……」
独り言のつもりだった俺の呟き。しかし、それが聞こえたのであろう、紅莉栖が俺の言葉に反応を示した。
すぐ隣でしゃがみ込んでいる紅莉栖に、俺は視線を向ける。
「助手よ。お前も、そう思うか?」
「助手じゃないけど、そう思う」
折りたたんだヒザの上に右手で頬杖を作り、そこに顔を乗せて、まゆりを見る紅莉栖。そこに携えられた両目の、なんとまあ虚ろな事か。
「はぁ……」
さらには、このため息。まあ、その気持ち、分からなくも無いのだが──
「ため息ばかりついていると、老けるぞ」
とりあえず、茶々を入れておく。
「何言ってる。ため息はストレス解消に高い効果がある。これ、脳科学の常識。ついでに、ストレス解消は若さの秘訣。ゆえに、あんたの理論は成立しない」
てっきり、口やかましく反論してくるかと思ったが、意外に冷静な反論をみせる紅莉栖。
『というか、どう転んでも反論されることには、変わりないのだな、俺は』
などと考え、なんとな〜く、自分の未来予想図に、そこはかとない不安を感じていると──
「ねえ、岡部」
まゆりから視線を外した紅莉栖が、隣に立つ俺を見上げた。
「なんだ?」
「あのさ……さっきの話なんだけど……」
その、どこか歯切れの悪い口調に、紅莉栖が何を言わんとしてるのか先読みし、答える。
「分かっている。いずれちゃんと聞かせる。心配するな」
そんな俺の言葉に、紅莉栖の眉間にシワが寄る。
453 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/27(金) 02:23:01.36 ID:AGdfprM60
「いずれ? いずれってどういう事? 今すぐじゃないの?」
「何を焦っている? と言うか、今、この状況でそんな話をしても、なんかもう、あれだろうが」
「私は構わない。だから聞かせろ、岡部」
「だが断る。言ったはずだぞ? 何事もタイミングが命だと」
「でも……」
「いいのか? 俺の主観のそこかしこに、『トゥットゥルー☆』が大量発生しても? 忘れるなよ。今そこでミシンを使っているのは、タイミングの申し子なのだ。ポイントポイントで、的確に放り込んでくるぞ? それでもいいのか?」
俺の淡々とした口調に、紅莉栖は「うう〜」と唸り、そして「じゃあ、場所を変えて」などという代案を提出する。
「だから、どうしてそれほど急ぐ? 時間ならいくらでも……」
「明日、帰る」
「だとしても、事を急ぐ理由には……」
──そこで、俺の思考が止まった──
『今、紅莉栖はなんと言った?』
はっきりと聞こえた紅莉栖の言葉に、壁に預けていた背中が微かに浮きあがる。
『帰るとは……どういう意味だ?』
意味など、その言葉を聞いた一瞬で、想像できた。だがしかし、そんな想像を理解し、飲み込む事はためらわれ──
「ほ……ほう。このラボを帰る場所などとは、見上げたラボメン精神だな、助手よ」
俺は紅莉栖の言葉を意図的に湾曲させ、口にした破綻だらけの解釈に、みっともなくすがり付く。
そんな俺に、紅莉栖は言う。
「違う。アメリカへ帰る」
淡々と告げる紅莉栖の声が、俺のすがり付いていた物を、あっさりと粉砕した。
『……アメリカへ帰る』
その言葉を、胸のうちで繰り返すと、頭の中が、大きく歪んでいくような錯覚を覚える。そんな自分に活を入れるかのように、独白する。
『バカか俺は。これしきの事で、なにを動揺している。初めから分かっていた事ではないか』
454 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/27(金) 02:23:51.73 ID:AGdfprM60
そう、分かっていたのだ。
いつか、この瞬間が訪れると言う事は、重々に承知していたのだ。そしてそれが、取るに足らない些細な問題だと言う事も、理解していたのだ。
エンターキーを押した時に比べれば──
病院のベットで、紅莉栖を諦めた時に比べれば──
ラボの扉越しに、紅莉栖を拒絶してしまった時に比べれば──
初めから予定されている紅莉栖の帰国など、大した問題ではないはずだったのだ。だと言うのに──
『あまりにも、いきなりすぎる……だろ』
予測していたはずの、予期せぬ出来事に、心の準備は追いつかなかった。
思わず、奥歯を噛みしめそうになる。思わず、拳を握り締めそうになる。
しかし、そんな湧き上がる衝動を無理やり飲み込み、浮かせた背中を、無理やり壁に押し付ける。
そして、言う。
「急な話だな」
「ごめん。もっと早く言うべきだった」
「謝る事はない。お前の帰国など、初めから想定内だ。気にするな」
心にもない台詞を吐く。そんな俺の言葉に、しゃがんだままの紅莉栖が、微かに肩を震わせた。
「私が帰ると言っても、意外と冷静なんだな」
「想定内だと言っただろう。それに、二度と会えないわけでもあるまい。それとも何か? 仰々しく騒いで引き止めて欲しいのか?」
できれば、そうしたい。声を振り絞って、『どこへも行くな』と、『俺の側にいろ』と叫びたい。だが、それはできない。
紅莉栖には紅莉栖の、事情と言うものがあるのだ。
だから、そんな本音を包み隠し、軽い口調でおどけてみせる事しか、出来なかった。
そんな俺の姿を瞳に映し、紅莉栖は──
「それは……困るな」
そう言って、微かな微笑みを作る。
「ママとの約束だから。今まで無理言って、滞在期間を引き延ばしてたから」
「そうだったのか?」
「そう。適当な理由を付けてね。最初は、あんたを探すための時間が欲しかったから。で、色々と思い出してからも、少しでも長くここにって……そう思って。でも、それももう終わり」
紅莉栖は俺から視線を外すと、自分の傍らに置いてあった団扇の代役を手に取って言う。
「だって、届いたから。だから、ママとの約束も、ここでの生活も、けじめをつけないと」
455 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/27(金) 02:24:47.47 ID:AGdfprM60
それは、紅莉栖が団扇代わりに使っていた、厚紙のようなもので──
『いや、厚紙というよりは……』
厚紙と思っていたそれは、ただの紙というには妙に膨らんでいる部分があった。そしてよく見ると、大きく張られたシールに、英語か何かの文字がしたためられている事に気付く。
『宛名……国際便の荷物? こんな物、ラボにはなかったはず』
そこで、厚紙というよりは、封筒に近いそれが、紅莉栖の個人的な所有物であると言う事に、今更ながらに気がついた。
「それはなんだ? 外国からの届け物かなにかか?」
俺は、それの正体を紅莉栖に問いかける。
「そ。この前、届いた。……でも、中身はただのゴミ。可燃物と不燃物が少々かな」
「ゴミ……か」
「そ、ゴミ。でもこれね。実はサイエンス誌に無理言って送ってもらったの。まさか本当に送られてくるとは思ってなかったけど……。少し、誤算かな」
紅莉栖は折りたたんだヒザに顔を埋め、そして『届かなければよかったのに』と、『届かなければ、まだここにいられたかもしれないのに』と、かすれる声で呟いた。
なぜだろう。紅莉栖のその言葉が、妙に居たたまれなく思えた。
「そう言うな。死に別れるわけでもない。記憶を失うわけでもない。ただ、アメリカへ帰るだけなのだろ?」
落ち込み始めた紅莉栖を、慰めようとでも言うのだろうか?
俺はそんな言葉を口にしながら、しかし同時に『アメリカか……』と、その遠さに途方にくれていた。
パイロットでもない、ビジネスマンでもない、スポーツ選手でもない、ついでに金もない。そんな俺にとって、海を越える場所が、いかに遠方なのか、想像に固くない。だが、俺は言う。
「寂しくなったら、いつでも言って来い。なにせ俺は、まゆりを救うために、地球の反対側までいった事だってあるのだ」
できない事は、言うべきではない。しかし、今だけは──
「アメリカなんて、ご近所づきあいと大差ない。いつでも行ってやる」
そんな思いで、ご近所づきあいなどした事もない俺が、身の程をわきまえぬ発言を呈する。
そんな俺の言葉を聞き終えると、紅莉栖がうつむけていた顔を、微かに上げた。
「嘘でも、うれしい。……少しだけな」
そして紅莉栖は立ち上がる。
「一度、ホテルに戻る。夜にもう一回来るから、その時に……」
「分かった。その時には約束どおり、全て話す。お前を助け出したときの、俺の主観を」
456 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/27(金) 02:25:38.78 ID:AGdfprM60
俺の言葉に、紅莉栖が微かに頷いてみせた。そして、ゆっくりとした、まるで後ろ髪でも引かれているかのような足取りで、ラボの出口へと向かう。
そんな紅莉栖の後姿に、俺は声をかけた。
「待て、紅莉栖」
その言葉に、紅莉栖の歩みが止まる。それを確認した俺は、壁から背を離し、ラボの隅へと向かった。
確か、そこに在るはずなのだ。紅莉栖に渡すべき物が、その場所に転がっているはずなのだ。
「まゆり、すまないが、少しどいてくれるか?」
一心不乱にミシンと格闘していたまゆりに声をかける。目測では、その辺りに在るはずなのだ。
しかし、俺の呼びかけに、まゆりは反応を示さず、ただ黙々とミシンを動かしつづけ──
「なぜ泣いている、まゆり?」
その光景に、俺は驚く。そして俺の言葉を切欠に、まゆりの肩が大きく震えだした。
「まゆしぃは……泣いてなど、いないのです……。寂しいけど、でもクリスちゃんが自分で決めた事だから……まゆしぃが泣くわけ、ないのです……」
俺はそんなまゆりの反論に、「そうか。ありがとな、まゆり」と返す。きっとまゆりは、泣けない誰かのために、代わりに涙を流していてくれていたのではないか──などと、取りとめもない事を考えてしまう。と──
「オカリンが探してるの、これ……かな?」
そう言って、まゆりは俺に握った手を差し伸べた。手を開くと、そこには金属製の小さな人形。まゆりの手に、メタルウーパが転がっていた。
「まゆしぃにはよくわからないけど、でもオカリン。メタルウーパはクリスちゃんが持っていた方が、いいんだよね?」
俺は、まゆりのその言葉に、黙って頷く。そして、そっとまゆりの手から、小さな丸い人形を掴み取ると──
「約束の証だ。持っていけ」
そう言って、まゆりから受け取ったメタルウーパを、紅莉栖に向けて、軽く放る。
銀色の想いが、ラボの空間に、一筋の軌跡を描いた。
「ナイスキャッチだ、助手よ」
親指を立てた拳を、紅莉栖に向けて突き出して見せる。
「いいの……?」
「ああ。お前に持っていて欲しい」
「……格好つけすぎだ。岡部のくせに」
紅莉栖の言葉に、思わず苦笑いが浮かぶ。
そして紅莉栖は、まゆりに「ありがとう」と、俺に「また後で……」と言い残すと、ラボの扉から姿を消した。
俺はそんな紅莉栖の後姿を想いながら、ミシンを前に大粒の涙を零し続けるまゆりの頭に、そっと手を乗せた。
457 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/27(金) 02:26:05.57 ID:AGdfprM60
##########################################################
458 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/27(金) 02:27:01.00 ID:AGdfprM60
真帆「…………」ソワソワ
真帆(なんだろう。なんだかものすごい勢いで、見てはいけないものを見てしまっている気がするわ……)ソワソワ
真帆(そもそも、これってどう考えても紅莉栖の私物なわけよね?)
真帆(そういった類の代物を勝手に読み漁るとか……)
真帆(いやでも、読まれて困るものなら、こんな場所に無造作に投げ出してなんていないでしょうし……)
真帆「…………」ムムム
真帆(何だか成り行きのままにページをめくってしまったけど、でも……)
真帆「ふう。これは見なかった事にして、今日はもう寝るべきかしらね」ノソリ
トコトコトコ
ソファにパタン
毛布をバサリ
真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」
真帆(紅莉栖って……岡部さんとお付き合いしているのよね?)
459 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/27(金) 02:27:41.39 ID:AGdfprM60
真帆(普段のやり取りを見る限り、互いにどこか捻くれているにしても、それでもやっぱり気心が知れている感じはヒシヒシと伝わってくる)
真帆(つまり……)
真帆(あの話における主要人物の立ち位置は、一応は現実に根ざして……いる?)
真帆(どうだろう? なんとも判別が付けられない)
真帆(登場人物が私にとって身近すぎるから、先入観が先にたってしまっているのかしら?)
真帆(まあ所詮は、岡部さんの創作には違いないのだろうけど……ううむ)
真帆「…………」
真帆(結局のところ、あの話って紅莉栖が日本に滞在している状態を基本コンセプトにして展開しているわけで)
真帆(それでもって今のシーンは、紅莉栖が帰国するために日本を発つことを岡部さんに告げるという場面)
真帆(でもあの岡部さんが、自分の心情なんてものをそう正直に書き記すという状況も想像しにくい)
真帆(彼って……あんな性格だしねぇ)
真帆(でもじゃあ、ちょっと繊細すぎるように見える岡部さんの心情を、あの岡部さん自身が書いたというのも何だかおかしな話に思えてくるし……)
真帆(うーーーーん、何だかスッキリしない)ノッソリ
ツカツカツカ
真帆(そもそもよ)ヒョイ
460 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/27(金) 02:28:20.80 ID:AGdfprM60
ペラペラペラ
真帆(第三次世界大戦……バタフライ効果……)
真帆(Dメールにリーディングシュタイナー? あとは……α世界線にβ世界線)
真帆(冒頭からして意味の分からない単語の目白押し。でも作中の紅莉栖は、そんな単語を当然のことのように受け入れている)
真帆「これって、どういう状況なの?」
真帆(実はこれは続編か何かで……これよりも前の話が存在する……とかかしら?)
真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」
真帆「よぉし」
真帆(紅莉栖のことだから、まだ起きているでしょうし、ここはいっそ……)
スマホ ピッピ
真帆(『αとβの違いって何かしら?』と。脈略のない質問をラインで送って、紅莉栖の反応を見てみましょうか)ウシシ
真帆「じゃあ……書き込み……っと」ピピ
真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」
真帆「ふぅ。好奇心にかられて、ちょっと人の悪い事をしているわね、私。まあでもあれよ。こんな謎物質を資料室に放り出していた紅莉栖だって悪いんだから)
461 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/27(金) 02:29:01.06 ID:AGdfprM60
真帆(ヘンに思われたら、その時はあて先を間違えたとでも言えば、誤魔化せるでしょうしね)
真帆「にしてもよ」
真帆(随分とオカルトというかSFというか、そっち方面よりの単語が踊っている割に、作中の岡部さんの心情はどこか繊細にも思える)
真帆(本当に、これは何なのかしら? 皆目検討もつけられない)
真帆(紅莉栖の帰国を知った岡部さん。彼がその衝撃の度合いを比較する対象として引き合いに出したのが……)
真帆(エンターキー……)
真帆(どうしてエンターキー? それを押したときに比べればと表記してあるという事は……つまり、紅莉栖の帰国はエンターキー以下の価値ということ?)
真帆(作中における価値基準が、まったくもって見えない)
真帆(とはいえ……)
真帆「サイエンス誌から届いた封筒……」
真帆(私の記憶が確かなら、サイエンス誌からうちの研究所に届いた封筒を日本にいる紅莉栖あてに転送したことがあった。あれって確か……去年の夏ごろのことだったと──)
ピリリリリリ……ピリリリリリ……
真帆「うわっ!?」
真帆(紅莉栖から……え、わざわざ電話してきたの?)
462 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/27(金) 02:29:46.22 ID:AGdfprM60
真帆「これは……」
ピッ
真帆「は、はろー」
紅莉栖『せ、先輩? あ、あの……大丈夫ですか?』
真帆(え? 何? どうして私、心配されているわけ?)
真帆「え、えっと……どういう意味かしら?」
紅莉栖『え、いやだって、αとβがと先輩からラインが……』
真帆(え? は? なに? どういうこと? たたあれだけの質問に対する反応としては、ちょっとおかしくない?)
紅莉栖『先輩……何かあったんですか? ひょっとしてまだ研究室ですか? もし何かあったなら、今からそちらへ向かいますけど……』
真帆「まってまってまって紅莉栖! な、なんの話をしているのあなた?」
紅莉栖『で、ですから……』
真帆「ついさっき、確かにラインを送ったけど、ごめんなさい。あれは間違えたの、あなた宛のものではなかったのよ」
紅莉栖『え?』
真帆「とにかくよ紅莉栖。あなたが何を気に掛けたのかは知らないけど、こっちは問題ないから。何も心配するようなことなんてないから!」
紅莉栖『そ……そうなんですか?』
463 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/27(金) 02:30:24.77 ID:AGdfprM60
真帆「そうよ。なんだかごめんなさいね、こんな夜更けにヘンな質問を送ってしまって」
紅莉栖『そうですか、それは……良かったです』
真帆(あれ? 何だか少しだけ、残念そうな声色に聞こえた……どうして?)
紅莉栖『それでは明日、研究室で』
真帆「え、ええそうね。また明日。お休みなさい、紅莉栖」
紅莉栖『はい、お休みなさいです、先輩』
ピッ ツーツーツー
真帆「…………」
真帆「何がどうなっているのよ?」ジッ
真帆「もう少しだけ……読み進めてみようかしら……」
464 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/27(金) 02:31:07.16 ID:AGdfprM60
##########################################################
465 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/27(金) 02:32:01.96 ID:AGdfprM60
気軽にはじめたがなにこれ難しすぎだろ 脳みそが追いつかん
もしも。もしも誰か読んでる人がいたらすまん 早々にちからつきるかも
んま、こんだけ下がれば誰もおらんはずだがな! わっはっは! にゃーーーん!
466 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/27(金) 05:41:17.31 ID:3zLAoFlK0
お前を見ているぞ
467 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/27(金) 09:27:35.39 ID:AGdfprM6o
なん……だと……
468 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/27(金) 09:57:31.49 ID:AGdfprM6o
と言うか、いつも明け方にレスくれてた方かのう?
何も見るもんなんて無いだろうに変わったお人じゃ
469 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/27(金) 10:14:08.36 ID:fiBL93bSO
その目 誰の目?
470 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/27(金) 11:40:40.54 ID:AGdfprM6o
ばか……な
まだ他にも人がいたというのか?
いや、こんな場末の落書き壁を複数人が見ているはずもないから466と469は同じお人に決まっておるじゃ
はい論破
471 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/27(金) 20:35:21.15 ID:Gb2jxcE7o
中二病、乙
472 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/27(金) 21:41:13.61 ID:AGdfprM6o
お褒めの言葉いただきやしたー!中二精神を忘れたら書き手なんぞ務まらぬのでの ありがたやありがたや
473 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/28(土) 01:58:40.25 ID:W8gvA/tC0
3
沈みかけた太陽を背に、黄金色に染まる秋葉原を歩く。
引き伸ばされた自分の影を目で追いながら、俺はラジカンを後にした。
別に、何か目的があって、この場所に来たわけではない。ただ──
『紅莉栖がラボを訪れるまでに、少しでも頭の中を整理しておきたい』
そんな事を思い、一人で街に出ただけの話し。
そして、どこか空虚な思考を空回りさせながら、目的地もなくフラフラと彷徨っていると、気付けばラジカンの屋上まで来ていた。ただ、それだけの事である。
周囲の景色を視界の隅に流しながら、どこか頼りない足取りで歩み、考える。
今日になって、突然、あの時の事を話せと言ってきた紅莉栖。
説明に主観がないと言って、顔を赤く染めた紅莉栖。
今すぐにでも聞きたいといった、紅莉栖。
最初は、どうしてそれほどまでに急いでいるのか不思議に思った。しかし、そんな紅莉栖の見せた焦りの理由も、今ならば分かる気がする。
帰国の前日になるまで、俺にその事を知らせなかった。そんな紅莉栖の心情を、自分勝手に思い描く。
『言い出したくても、言い出せなかった──と言ったところか』
自意識過剰だろうか? そうなのかもしれない。だが、だったらなんだ。
もっと早く言うべきだった──
そう呟いて謝る紅莉栖の姿は、少なくとも俺の目には、そう映った。
だからこそ、俺はラボへの帰途を進めながら、覚悟を決める。
『もう間も無く、紅莉栖もラボへとやってくるだろう。そこで俺は、紅莉栖に全てを話す』
何十億もの人々と、牧瀬紅莉栖という少女一人を天秤にかけた意思。
中鉢の凶刃から紅莉栖を救おうとして、誤って紅莉栖に危害を加えてしまった失敗。
そんな収束を見せる世界線を前に、一度は崩れ、それでも諦め切れずに、十四年もの長い時間を執念だけで生き抜いたという、今は無い未来の俺の生き様。
世界をだまし、過去の自分をだますために、全てを承知で紅莉栖の父親に刺された。そして不足を補うために犯した、命がけの無謀な行動。
そんな全ての一切合財を、包み隠さずありのまま、紅莉栖に伝えるつもりだった。
だから、自らの想いをより深く刻み込むために、もう一度強く、覚悟を決める。
──全てを話した後、俺は紅莉栖を引き止める──
俺の話を聞いた紅莉栖が、どんな反応を示すのかわからない。怒るだろうか? 呆れるだろうか? 悲しむだろうか? それとも、喜ぶだろうか? 分からない。
474 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/28(土) 01:59:49.86 ID:W8gvA/tC0
だが、例え紅莉栖がどんな反応を見せようとも、俺は引き止める。それは、『つもり』ではなく、『確実に』そうするという決意。
引き止められたら困ると言って微笑んだ紅莉栖。だが、そんな彼女の笑顔を、俺は全力で否定し、その帰国を妨害する。
紅莉栖の身を案じているであろう、彼女の家族。
紅莉栖の帰国を待っているかもしれない、彼女の知人たち。
紅莉栖の研究復帰を望む同僚に、紅莉栖に期待をかけている、科学つながりの有象無象。
そんな全ての望みを断ち切って、俺は俺だけのために、紅莉栖を引き止める。引き止めて見せる。
俺はラジカンの屋上で、その覚悟をしたのだ。
『それができるほどに、この俺は独善的なのだからな』
まゆりに叱咤されたではないか。ダルに教えられたではないか。一週間前のラジカンで、酸欠になりながらも紅莉栖に向けて叫んだではないか。ならばこそ、こんな場面たればこそ──
『俺は岡部倫太郎として、どこまでも独善的でなければならない』
俺は、そんな思いを胸に、『覚悟しろよ、紅莉栖』と、拳を握り締めた。
──その時だった。
「!?」
475 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/28(土) 02:00:42.47 ID:W8gvA/tC0
大地が揺れる。
視界が歪む。
意識が遠のいていく。
あまりに出し抜けで、何がおきているのか分からない。だが確かに、何かが起こり始めていた。
最初に頭に浮かんできたのは、『酸欠』だった。
似ているのだ。一週間前、ラジカンの屋上に飛び込んだ時に感じた、あの抗いようのない感覚に。そして、その感覚は『酸欠』と同時に、あの──
『おい……冗談だろ?』
混乱した俺の思考は、歯車を失った機械のように、空回りを始める。そして、そんな状態でも、これが『酸欠』でないことだけは、不思議と確証が持てた。
だからこそ、背筋が凍る。理解など、できるわけがなかった。
だが、そんな理解できない俺など置いてきぼりにして、視界の歪みは進んでいく。そして──
「ぐぅぅぅぅ!?」
有無を言わさない強烈な圧力に、大きな唸り声を上げて目を閉じ、地にヒザをつく。
次の瞬間、これまで押し寄せていた何かが、まるでそれ自体が嘘だったかのように、消えていた。
『同じ……だ……』
俺は目を開けることができず、恐怖に駆られて、鈍りきった思考を無理やり回す。
『ありえるわけがない。もう、この世界には、電話レンジ(仮)も、タイムリープマシンも存在していないのだ。だからこそ、ありえない。矛盾している。こんな事、理に適っていない』
だがしかし、先刻感じたあの感覚に、俺はどうしようもない程の身に覚えがあった。だから、その感覚が『あれ』以外の何かであった──と言う解答を渇望する。
ゆっくりと、閉じていたまぶたを、押し開く。視界にはいる景色を確認する。その光景に誤差を感じないか、識別する。
『特に、際立った変化は……』
秋葉原の街はある。夕暮れにそまる街を行きかう人々。その全てを記憶しているわけではないが、しかしそれでも、目立った違いは感じられない。
萌え文化を踏襲してきた歴史。それを感じさせる町並み。電気量販店やアニメ関連の書店にグッズ販売店、それ以外にも色々と、様々な文化が入り乱れる風景。そんな、ある種独特の町並みは、未だに健在だ。
だが、それでも安心感は得られない。
『何か、俺の知らないところで?』
どうしても、その恐怖心が拭えない。なにせ俺は、この感覚を切欠に、あまりにも多くの苦悩を、自分自身と大切な存在たちに──
476 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/28(土) 02:01:32.64 ID:W8gvA/tC0
「……!?」
不意に恐ろしい想像が頭をもたげる。一気に全身の血が落下した。
「く、紅莉栖は!?」
慌てて白衣のポケットから、愛用の携帯電話を乱暴に引き抜く。そして、手早く操作をこなし、電話を耳元へとあてがう。
静かに鼓膜を打つ、コール音。たった数回のその呼び出し時間が、無性に永く感じられた。
『でろ、でろ!』
早鐘のように打つ心臓に、全身から血液が噴き出しそうな感覚を覚える。そして数度の呼び出しを経て、電話がつながる。
「紅莉栖! 無事か!?」
一も二もなく、叫ぶ。
「お、岡部? 何? 無事かって、どういう事?」
受話器の向こうから、紅莉栖の戸惑った声が聞こえ、それに少しだけ安堵感を得る。手の内を離れていた冷静な思考が、やっと手元へ戻ってくる。
「無事……なんだな?」
「いや、別に無事だけど……」
「そうか。……紅莉栖、一つ聞きたい」
「……なに?」
「これからお前は、ラボへ来る。そして、俺の話を聞く。その予定でいいんだよな?」
「そうだけど……どうした? 何があった?」
受話器の向こうから、微かに不安げな紅莉栖の言葉が響いた。俺はその紅莉栖の問いかけに、曖昧な返事を返す。
「いや、それならいいんだ」
「よくないだろ。何かあったんだな?」
「いや、大した事ではない。気にするな」
俺は途轍もなく大きな嘘をつき、問い詰めようと口調を荒げる紅莉栖の追撃をかわした。
「ラボに……行ってもいいの?」
どこか、こちら側を探るような口調で、紅莉栖の声が聞こえた。俺は平静を保ったまま、言葉を返す。
「当たり前だ。待っているぞ」
477 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/28(土) 02:02:19.19 ID:W8gvA/tC0
そして、携帯を耳から離すと、電話を切った。
俺はそのまま携帯の操作パネルをいじり、再び耳元へとあてがう。
待つこと、しばし──
「もしもし、オカリン? どうしたの?」
その声に、『よかった。まゆりも、無事だ』と、また一つ安堵感を重ねる。そして、
「まゆり、すまない。操作ミスだ。間違えた」
また、嘘をつく。
「な〜に〜? 間違え? あ、そっか。オカリン、クリスちゃんにかけるはずだったんでしょ? 頭脳明晰のまゆしぃには、それくらいお見通しなのです」
最後にラボで見た、大粒の涙を零すまゆりの声は、そこには無かった。いつもの能天気なまゆりの声に、少なからず息をつく。
「オカリン? あのね、クリスちゃんに、ちゃんと言ってあげてね」
俺と紅莉栖の事を案じての事なのだろう。まゆりの言ったその言葉に、俺は『ああ、分かっている』と短く返すと、電話を切った。
そして、考える。
α世界線ではまゆりが、β世界線では紅莉栖が、時間の意志とも呼べるような何かに煽られ、その犠牲となった。だがしかし、今のところこの二人に、大きな変化があったようには見受けられない。
『世界線は、変わっていない?』
変化の見えない現状。
俺は、先刻感じた感覚が、本当にただの勘違いだったのではないかと感じ始めていた。
どうにも消えない不安感を、ひっそりと胸の内に抱きながら、俺はラボへ向かって歩き出す。
見慣れたはずの秋葉原の町並みが、どうしてか薄ら寒く感じられた。
478 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/28(土) 02:02:56.64 ID:W8gvA/tC0
##########################################################
479 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/28(土) 02:05:02.84 ID:W8gvA/tC0
真帆「これは……」
真帆(このお話の土台設定を知らないから詳細までは分からないけど、でも……)
真帆(何かが起こり始めた……というわけよね? それも、ただ事ではなさそうな何かが)
真帆「ふむ……」
真帆(それまではずっと、紅莉栖が帰国することに対する岡部さんの心情がつづられてきたのに──)
──その時だった。
真帆(そうね。この一文を境に、シーンのイメージががらりと変化している)
真帆(お話の中の岡部さんにとっては、紅莉栖の帰国は大きな案件に違いないはずなのに、それ以降は帰国の話題にまったく触れていない)
真帆「つまり」
真帆(この瞬間に起きた何かは、紅莉栖の帰国という事案の優先順位を遥かに引きずり降ろすような出来事だった、と?)
真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」
真帆(岡部さんは街中で突然酸欠のような症状に襲われ、その直後、彼は大きな不安に襲われている)
真帆(電話レンジとかタイムリープという単語が何を意味しているのかは分からないけど、この動揺の仕方は普通じゃない)
真帆(仲でも特に気になる記述といえば……そうね)
真帆(まずは、目を開けてすぐに辺りを確認し、それから紅莉栖やまゆりさんに対して安否確認をするかのような電話を入れていること)
480 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/28(土) 02:05:41.49 ID:W8gvA/tC0
真帆(そして、そんな岡部さんの行動を裏付けるかのような──
α世界線ではまゆりが、β世界線では紅莉栖が、時間の意志とも呼べるような何かに煽られ、その犠牲となった。
真帆(という部分。犠牲って……言葉のままの意味で捉えていいのよね?)
真帆(となると、よ。察するに岡部さんは、先の酸欠を境に『世界線』というものが『α』や『β』と呼ばれるものに変化してしまったことを恐れていて、でも実際は変わっていなかったのだ、と)
真帆(一応はそんな感じに読み解けはするのだけど……)
真帆「…………」ムムム
ペラペラペラ
481 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/28(土) 02:06:31.15 ID:W8gvA/tC0
##########################################################
482 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/28(土) 02:07:26.13 ID:W8gvA/tC0
4
──世界線は変わっていない。リーディングシュタイナーは発動していない──
自らにそう言い聞かせ、湧き上がる疑念を払拭できたのは、ラボに向かって歩きながら電話をかけまくり、各人の現状を確認した後のことだった。
ダルは自宅で、いつものようにエロゲーを楽しんでいる最中だった。
ルカ子は男のままで、その性別を含んだ状況に、いささかも目立つ特異点は見当たらない。
フェイリスは──まあ、秋葉原の街が消えていないので不安は無いが、それでも一応、今でも高層マンションで執事の黒木と二人暮しだという事を、確認した。
萌郁は、神のごとき速さで、返信メールが飛んできた。その文面にも、特に異常は見当たらない。
さすがに、未来の鈴羽だけはどうしようもなく保留にしたが、しかし、鈴羽以外の俺を含めた全員に、なんら変化はない。
そこまでする事で、やっと自分の中に噴き出そうとする不安感に、フタをする事ができた。
──だと言うのに──
「どういうことだ、これは……」
ラボへの道程で差し掛かった、家電量販店の前。そのショーウィンドー越しに見える光景が、掴んだはずの安堵感を、跡形も無く打ち砕いた。
「なぜ、こんなフザけた事に、なっている?」
大きな一枚ガラスの向こう側。そこに見える文字。
ショーウィンドーに並べられた、大型サイズの薄型テレビ。その画面の上端に流れる、ニュース速報を伝える一文。
その意味に、俺は戦慄していた。
『先日、ロシアへ亡命を果たした物理学者 中鉢氏に対し、ロシア政府が正式に国籍を授与』
そんな文面が、画面すみに踊っていた。
そして、その内容は俺の中にある記憶と、大きく食い違っている。
ドクター中鉢こと、牧瀬紅莉栖の父親。彼は、ロシアへの亡命をしくじり、日本へ強制送還された。
少なくとも、俺の記憶の中ではそうなっているし、そうでなければならない。そして何より、そうなるように仕向けたのは、他でもない俺自身なのだ。
483 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/28(土) 02:08:14.50 ID:W8gvA/tC0
「だったら、どうしてこんな馬鹿げた事態になっている?」
ガラスに手を突き、その奥を睨みつける。
『あれはやはり、リーディングシュタイナーだったと言うのか?』
そんな考えが、頭の中を渦巻き始めていた。巨大な疑念がとぐろを巻く。
そして、否定したい気持ちとは裏腹に、理性はこれが世界線の移動だと言う事を、受け入れようとしている。
いや、本当のところは、あの感覚を感じた瞬間、それがリーディングシュタイナーだと言う事を、俺は直感していた。
だからこその、押さえ切れない不安感だったのである。
「何がどうなっている?」
胸中で唸り、テレビ画面を食い入るように、見つめる。
『ひょっとしたら、テレビ局の手違いだという事はないか?』
であれば、速報に誤りがあった旨を謝罪する何かが、画面に映されるはずである。だが──
『続報は、なしか』
しばらくの間、食い入るように画面を見つめていたものの、しかし俺の不安を拭い去ってくれるような何かが、視界に飛び込んでくる事はなく──
「……くそ」
俺は再び、ポケットから携帯を取り出し、リダイヤル機能を利用して電話をかける。
「オカリン? 今度はなん?」
程なく、受話器越しにスーパーハカーの声が聞こえる。
「ダル。まだパソコンの前にいるか?」
「いるけど、一体何なん?」
俺は手短に、ダルに向けて指示を出す。
「そりゃいいけどさ。何でそんな事に興味あるん?」
「いいから、調べてくれ。たのむ」
俺のどこか張り詰めたような声色を感じ取ったのか、一瞬間を空けて、ダルが了解の返事を返してきた。そして──
「ああ、あったお。つーか、ヤフーのトップに載ってるじゃん。あのオッサン、意外と注目されてんね。まあ、日本からの亡命とかいって、一時期騒がれて──」
「ダル。どうなんだ? 俺の情報は誤りではないのか?」
俺は急き立てるようにして、ダルの言葉を遮った。
484 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/28(土) 02:09:42.73 ID:W8gvA/tC0
「たぶん、当たってるお。文面見ると、情報ソースはロシアの公式みたいだし、間違いないんとちゃう?」
「そうか、すまなかったな」
そう言って、電話を耳元から離す。携帯の受話部分から、ダルの事情説明を求める声が聞こえていたが、構わず終話ボタンを押した。
俺は携帯をポケットにねじ込みながら、無理やりに冷静な思考を保ちつつ、状況の把握に努める。
『やはり、世界線は移動している。だが、なぜだ? そんな事が、ありえると言うのか?』
無論のこと、俺は何もしていない。リーディングシュタイナーの発動条件である『Dメール』など、使っていない。
『誰かが、Dメールを無断で?』
しかし、その可能性がありえない事は、十分に承知している。
『電話レンジ(仮)は、確実に処分した』
それは間違い無いはずだった。バラバラに分解し、粗大ゴミとして、処分した。
『誰かが、それを拾い、組み立てた?』
アホ臭いと思った。
組み立てて再現できるような、そんなバラし方はしていない。むしろ、バラすというよりも、基盤から徹底的に破壊したといった方が、良いくらいである。
『では、どうして? この現状に、何が考えられる……?』
ふと、脳内に浮かび上がる、一つの可能性。
『ひょっとして、俺たちとは無関係の第三者が、偶然、電話レンジ(仮)と同じ機能を持つ何かを、発明したのか?』
確かにその可能性は捨てきれないと思った。
現に、世界線を移り変わるたびに、タイムマシンの開発元は大きく変化しているのだ。時には我がラボが、時にはSERNが、時にはロシアが──
タイムマシンの開発元。そこに、統一された必然性はなかった。
であれば、他の第三者がタイムマシン──もしくは『タイムマシンの原型』になりうる『何か』の開発に成功していたとしても、なんら不思議ではない。
考えて見れば、その可能性がもっとも高いような気がした。
もともと、Dメールを可能にした電話レンジ(仮)も、弱小この上ない我がラボが生み出した、偶然の産物なのだ。であれば、同じような偶然が別の場所で起きないと、誰が言えるだろう。
『つまりさっきの現象は、俺の知らない誰かが、過去改変を試みた結果で──』
などと考えるも、しかし俺は頭を軽く振りながら、その考えすらも否定する。
485 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/28(土) 02:10:29.48 ID:W8gvA/tC0
『いくらなんでも、出来すぎだ。確かに、第三者が過去改変を行ったという可能性は否定できない。だが、だからといって、その影響が俺の認識範囲内であるドクター中鉢に現れるなど、あまりにも出来すぎているだろ』
やはり、ひねり出した『第三者案』も、どうにも承服しかねた。
『だったら、何だというのだ?』
分からない。正答の片鱗すら、垣間見えない。苛立ちをかみ殺すように吐き捨てて、口をきつく結ぶ。
俺は、目まぐるしく動き回る思考に意識を煽られながら、再び、ラボへの帰途へたどり始める。
残暑厳しいはずの夏の終わり。むせ返るような空気に囲まれて、俺は一人、肌寒さに身を震わせていた。
486 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/28(土) 02:10:59.81 ID:W8gvA/tC0
##########################################################
487 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/28(土) 02:11:56.93 ID:W8gvA/tC0
真帆(とにもかくにも、気になる事の多いシーンね。世界線が変わっていたことは当然として、紅莉栖のお父様に関わる部分や、ロシア国籍がどうのこうのという一連の流れ。それになにより……)
真帆「……タイムマシン」
真帆「そういえば、一番最初のほうに……」
ペラペラペラペラ
『では、お前の知らない、鈴羽がタイムトラベラーだった事とか、未来のダルがタイムマシンを作った事とか、その辺りの流れか?』
真帆「あった、ここだ。最初は気にせず読み飛ばしていたけど、確かにここでもタイムマシンの存在が匂わされている……」
真帆「タイムマシン……タイムトラベラー……鈴羽って、阿万──」
ズキリ
真帆「んっ」
真帆「いたた……。偏頭痛かしら、いやねぇ。で、ええと何だったかしら?」
真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」
真帆(あれ? 私いま、何か言いかけたような気がしたんだけど……)
真帆「ふう、まあいいわ。それよりも、これは一度、適当に流し読みしてしまった最初の方から、気になるキーワードを洗い出してみるのもおもしろそうね」
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