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【シュタインズ・ゲート】岡部「このラボメンバッチを授ける!」真帆「え、いらない」
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341 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/21(土) 14:49:39.57 ID:kEvgO2Vjo
乙
なんか……なんというか……本当にデリートする気あるのか?真帆は
なんか言い回しが引っかかるというか……
342 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/21(土) 15:03:37.85 ID:kqRSVJTwo
>>341
乙ありがとう
いろいろ思うところがあって台詞回しを誇張している部分があるかもしれませぬ
343 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 17:26:16.57 ID:kqRSVJTw0
お待たせいたしました 再開いたします
344 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 17:27:50.51 ID:kqRSVJTw0
30
ピーーーーーーーーーーー
真帆(私のアマデウスが、完全に消えた。でも……)
真帆「…………」ジロジロ
真帆(うん。私自身、特にこれといって変化はない。それに、モニタの向こうも……)
真帆(変化は……なし。となると)
真帆「……ふぅ」ギィ
真帆(結局、こうなっちゃったか)
真帆(困ったものね。推測が当たったことで、これほど微妙な気持ちになるなんて初めての経験よ)
真帆「あーあ。やっぱり、やるしかないかぁ」ゴソゴソ
紅莉栖『先輩。アマデウスのデリートが……その、終わりました』
真帆「そうみたいね」ゴソゴソ
紅莉栖『それで、その……デリートは成功したはずですが、しかし……』
真帆「あら紅莉栖。あなたはこの結果に不満なのかしら?」ヒョイ
紅莉栖『……え?』
345 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 17:29:11.21 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『あの、先輩。何を……考えてらっしゃるんですか?』
真帆「え? んふふ。秘密よ」コトン
紅莉栖『……先輩』
鈴羽『ねえ。お話中に悪いんだけど、ちょっといいかな比屋定真帆』
真帆「なあに、阿万音さん?」ガタゴト
鈴羽『ええと、いまいち状況が分からないんだけど』
鈴羽『それで結局、どうなったんだい? 君のアマデウスは……サリエリは完全に消去されたという事でよいんだよね?』
真帆「ええそうね。デリート・システムを行使した結果、私のアマデウスは、完全にこの世界から消えた。それは確かよ」
鈴羽『じゃあボクは、任務を完遂できたんだよ……ね?』
真帆「…………」ピタッ
鈴羽『な、何だい? どうして黙っているのさ? 何か言ってくれないとボクだって戸惑うじゃないか、はは』
真帆「…………」
鈴羽『あ……ああ、そうか。ボクが余りにも当たり前のことを聞きすぎて、言葉を失ってしまったんだね?』
紅莉栖『…………』
鈴羽『い……いやぁさ。アマデウスが……サリエリが消えて、それで未来は正しい方向へ進んでいくはずなのに、何だか実感が沸かないんだよね』
346 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 17:31:33.59 ID:kqRSVJTw0
鈴羽『だからかな? どうも上手くリアクションが取れなくて……』
岡部『リアクションなど必要ない』
鈴羽『……え? どうしてだい、オカリンおじさん?』
岡部『ふぅ……』
岡部『比屋定さん。あなたは、この状況を想定していたのか?』
真帆(ふふ。岡部さん、さっきまでと全然口調が違うじゃない)
岡部『黙っているのなら、それは肯定と捉えさせてもらうが、構わないか?』
真帆「ええ構わないわ、肯定よ。私は、今の状況を予想していたわ」
岡部『そう、か』ジロリ
真帆(あらら。岡部さんが睨んでる。私、嫌われちゃったかな?)
鈴羽『ね、ねえちょと! 二人とも何の話をしているのさ!』
鈴羽『ようやく、世界がサリエリ世界線から開放されたんだよ? だったらオカリンおじさんも、そんな怖い顔をしていないで──』
紅莉栖『阿万音さん、ちゃんと現実を見て』
鈴羽『な、何だい牧瀬紅莉栖まで? 一体どうしたというのさ?』
紅莉栖『阿万音さん!』
鈴羽『え……だって……』
347 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 17:49:06.15 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『さっきまで、ずっと三人で話し合っていたこと、忘れた分けじゃないでしょ?』
紅莉栖『アマデウスを消して、そしてこの歴史がシュタインズゲート世界線としての条件を満たすことができたなら、そのとき何が起こるのか』
紅莉栖『世界線を移動できたなら、後は岡部に任せようって。ちゃんとそう話し合ったじゃない。だからお別れだって、先に済ませておいた。そうだったでしょう?』
鈴羽『し……知らないよ。牧瀬紅莉栖が何を言っているのか、ボクには分からない』
紅莉栖『阿万音さ──』
岡部『代わってくれ、紅莉栖』
紅莉栖『岡部……』
岡部『……鈴羽。お前とて、本当は気付いているのだろう?』
鈴羽『何を……だよ』
岡部『もしも本当に、お前の任務が完遂されたのだとしたら。では鈴羽。お前はなぜ、まだここにいる?』
鈴羽『…………』
岡部『この世界の未来からサリエリとタイムマシンの両方が消え去ったのであれば……』
岡部『それであれば、鈴羽。お前がこの時代にやって来る必要性自体が、先の二つと共に消失しているはずだ。そうだな?』
鈴羽『で、でも……』
岡部『だがそれでも、お前はまだこうして、この時代に存在している。そして俺は未だに、一度としてリーディングシュタイナーを感知してはいない』
鈴羽『で……も……』
岡部『つまりだ。世界線はまだ、動いてなどいない。過去も未来も、未だに何一つとして書き換わってなどいない』
鈴羽『…………』
岡部『お前の任務は、まだ何一つとして終わってはいない』
348 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 17:53:11.79 ID:kqRSVJTw0
鈴羽『何でだよ……おかしいじゃないか。サリエリの立てた計画よりも少し遅くなっちゃったけど……』
鈴羽『でも! アマデウスを消した! ならサリエリは消えたはずだ! なのにどうして……世界線は動いてくれないんだよ?』
岡部『さあな。理由は俺にも分からん。紅莉栖、お前はどうだ? 何か思い当たることはあるか?』
紅莉栖『今、考えてる。例えば……デリートされたアマデウスは実はダミーで……いや、それはいくらなんでも』
鈴羽『ダミーだってっ!? ひ、比屋定真帆! そうなのかっ!?』
紅莉栖『あ、阿万音さん、落ち着いて!?』
鈴羽『落ち着いてなんていられるか! だって、それじゃあボクは何のために!』
真帆「…………」
鈴羽『どうして黙っているんだ、比屋定真帆!』
真帆「……ふぅ。阿万音さん、聞いて?」
鈴羽『君はボクを、ボク達をだましたのかい!?」
真帆「いいから! 聞きなさいっ!!」
鈴羽『……うっ』
349 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 17:55:26.82 ID:kqRSVJTw0
真帆「いいこと、阿万音さん。消えたのは正真正銘、未来でサリエリを名乗るはずだった私のアマデウス。ダミーでも人違いでもない。それは私が保証する」
鈴羽『うっ……でもじゃあ、どうして……はっ! まさか!』
鈴羽『まさか比屋定真帆、君はもうすでにアマデウスに身体を乗っ取られて……』
真帆「いいえ、それもないわ。私は正真正銘の比屋定真帆、本人よ。まあ、それを立証しろと言われると困るのだけどね」
鈴羽『だったら、どうしてこんな事になってるんだよ!?』
紅莉栖『…………』
岡部『ふむ。比屋定さん、あなたはこの状態を予測していたと言っていたな』
真帆「ええ、確かにそう言ったわ」
岡部『ならばそろそろ、今何が起きているのか俺たちにも分かるように、説明してはもらえないだろうか?』
真帆(岡部さん……)
紅莉栖『先輩……私からもお願いします』
真帆「……紅莉栖」
紅莉栖『先輩っ』
真帆「私なんかの考えで良いの?」
紅莉栖『私は……先輩の考えが聞きたいんです』
真帆「……OK、分かったわ」フゥ
真帆「調度こちらも、手が離せるようになったところだし」カチ フィーーーン
紅莉栖『手がって、何かされているんですか?』
真帆「ええちょっとね。どの道もうすぐ分かるから、そう怖い顔しないで」カタカタカタカタ
紅莉栖『……そう、ですか』
350 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 18:09:38.39 ID:kqRSVJTw0
真帆「さて、と。それじゃあ私の考えを話すとしましょうか」
モニタ『…………』
真帆「先日、あなた達から世界線にまつわる一連の話を聞いて。それでね、私になりに考えをまとめてみたのよ」
真帆「タイムマシンの存在、過去への干渉、歴史の変化。α世界線やβ世界線、そしてシュタインズゲート世界線とサリエリ世界線のこと」
真帆「あとはそうねぇ。世界線の“ほつれ”や“破綻”とか、他にも色々とね」
真帆「その中でも特に、世界線の移動や歴史の再構築。それに伴って発生する、岡部さんのリーディングシュタイナーにまつわる一連の現象に関しては……」
岡部『…………』
真帆「どこをどう切ってみても、ややこしい事この上ない考察対象といえたわ。だから、私も絶対の自信を持っているわけではないのだけど……。それでも私なら、今の状況をこう考える」
真帆「私のアマデウスをデリートしただけでは、不十分だった……ってね」
岡部『不十分だと?』
真帆「そう、不十分。つまり、足りなかったということね。現状を見る限り、そう考えるのが妥当なはずなのよ」
真帆「サリエリとなるはずだった私のアマデウス。実際に彼女を消してみてなお、この世界の未来には『タイムマシンの存在』するサリエリ世界線という名の歴史が、『一つの可能性』として残留し続けている」
真帆「であるなら、そもそもの前提からして間違っていた可能性を疑うべきよ」
351 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 18:13:41.50 ID:kqRSVJTw0
真帆「アマデウスのデリートという手段のみに固執してシュタインズゲート世界線へ戻ろうと考える、そんな私たちの前提からしてすでに不十分であり」
真帆「そこから生まれた認識の不完全さこそが、今の不可解な状況を導き出す結果を招いてしまった……と」
真帆「まあ、これが現状に対する私の解釈なのだけど、どうかしら?」
岡部『ぬ……。どうかしら? などと聞かれてもな……』チラリ
紅莉栖『…………』
岡部『……むう』
岡部『すまないが、何を言っているのかいまいち要領を得ない。もう少し分かりやすく言ってもらえるだろうか?』
真帆「あらそう? じゃあええと、もの凄く噛み砕いて言うとね……」
真帆「私たちの未来をサリエリ世界線へとつなげているファクターは、今しがた消した私のアマデウス以外にも、まだ他に存在している可能性があり──」
真帆「であれば、まだ残っている他のファクターにも何らかの対処しなければ、シュタインズゲート世界線へ戻ることはできないのではないか──?」
真帆「という事なのだけど、これなら伝わるかしら?」
紅莉栖『他のファクター……』
岡部『……ふむ』
岡部『つまり、サリエリ世界線からシュタインズゲート世界線へ戻るためには……』
岡部『先刻のアマデウスだけではなく、他にも消さなければならない“何か”がある、と』
岡部『そう言いたいわけなのか?』
真帆「ええそうね、そんな感じの解釈で大丈夫よ」
352 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 18:22:19.13 ID:kqRSVJTw0
鈴羽『……でも』
鈴羽『他の“何か”とは何のことなのさ? サリエリ以外に消さなければいけない対象があるなんて、ちょっと考えにくいんだけど』
真帆「そう?」
鈴羽『そうだよ。だって……』
鈴羽『サリエリ世界線とは、タイムマシンが存在する歴史のことを指すわけで。そしてそのタイムマシンを作り上げるのが、君の身体を乗っ取った未来のサリエリだということも間違いはない』
鈴羽『……だったらやっぱり』
鈴羽『サリエリを消せばタイムマシンも消える。そしてそれが、サリエリ世界線の消滅につながる。こう考えるのが道理というものだとボクには思えるんだけどな』
真帆「言いたいことは分かるわ、阿万音さん。でもね……」
真帆「もしも“他の何か”というものが、タイムマシンを作り出す可能性を持った、サリエリ以外の存在なのだとしたら?」
鈴羽『……え』
岡部『なん……だと?』
紅莉栖『サリエリ以外……』
真帆「もしそうなら……」
真帆「それなら。私のアマデウスを消したところで、今度はサリエリではない他の“誰か”の手によって、タイムマシンは開発されてしまう可能性がある」
真帆「そして、そんな可能性が残っている状況では、とてもではないけどシュタインズゲート世界線……」
真帆「そうよ阿万音さん。あなたが恋焦がれるタイムマシンの存在しない歴史、シュタインズゲート世界線。そんな理想の歴史になんて、戻れるはずがない」
真帆「そうは思わない?」
鈴羽『それは……そうかもしれないけど……』
353 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 18:23:19.12 ID:kqRSVJTw0
岡部『いや待て。件の物は、あのタイムマシンなのだぞ? その辺の輩にそうホイホイと作られてたまるか、日曜大工で本棚を作るわけでもあるまいし』
真帆「ふふっ。なるほど確かにそうね。タイムマシンを作り出すためには、少なくともいくつかの条件をクリアしていなければならない」
岡部『条件となると……。やはりそこは、他の世界線における記憶……辺りが絡んできそうではあるが』
真帆「ええ、その見立てには私も賛成」
真帆「阿万音さんのいた未来において、サリエリのタイムマシン開発を成功に導いた最大の要因。それは言うまでもなく、例の107領域に眠っていた他世界線での記憶が鍵となっていたはずよ」
真帆「事実、消したアマデウスは突如増幅した謎の記憶領域へのアクセス方法を、しっかりと確立していた」
真帆「となれば、閲覧可能となった膨大な記憶データの中には、他の世界線におけるタイムマシン開発に関わる情報も多大に含まれていたはず」
真帆「もしも私のアマデウス以外にも、この世界のどこかに、それと似たような情報を持っている何者かが存在しているとしたら? と」
真帆「これはそういう話なわけよ」
岡部『なるほど。つまり……『作り出せる人物』ではなく、『作り方を知っている人物』がいるかもしれない、ということか』
真帆「そうね。そう表現した方が的確でしょうね」
紅莉栖『知って……いる?』ピク
鈴羽『でもさ。理屈は分かったけど……』
鈴羽『それって要するに、どこの誰とも知れないタイムマシンの開発者を見つけろってことだよね? まだ作り始めてもいないのに』
鈴羽『いくらなんでも無茶だ。それこそ雲を掴むような話だよ』
354 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 18:31:11.47 ID:kqRSVJTw0
真帆「それがね、意外とそうでも──」
紅莉栖『先輩!』ガタッ
真帆「!? な、なに紅莉栖、いきなり大きな声で……っていうか、カメラに近すぎよ、ビックリするじゃない?」
紅莉栖『あ、すいません。でも、その……』
真帆「なに? どうしたの?」
紅莉栖『私は……私は! 今の先輩の考えには賛同しかねます!』
真帆「え?」
紅莉栖『サリエリ……。デリートした先輩のアマデウス以外にも、タイムマシン開発に関わる記憶を所持する人物』
紅莉栖『もし本当にそんな人が実在しているのだとしても……』
紅莉栖『でもそれは、今の不可解な現状を説明付けれるほどの要因とはなり得ないはずです!』
真帆「どうしてそう思うのかしら?」
紅莉栖『理由は彼、岡部倫太郎が持つ……リーディングシュタイナーの能力です』
真帆「いいわ。聞きましょう」
355 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 18:35:25.35 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『これまで。彼が持つリーディングシュタイナーは、微かな過去の変動ですらも的確に感知してきました』
紅莉栖『その感知能力の繊細さに関しては、私が保証します』
真帆「ええ、そこを疑うつもりはないわ」
紅莉栖『では……』
紅莉栖『先ほどの先輩のお話では、未来からサリエリが消滅したことで、サリエリではない他の人物がタイムマシンを開発したということでしたが……』
真帆「ええ、その通りね」
紅莉栖『もしも先輩の仮説が正しく、タイムマシンの開発がサリエリ以外の誰かの手で成し遂げられたのだとすれば』
紅莉栖『それなら。アマデウスの消滅に伴い、阿万音さんが未来から請け負ってきた任務の内容に、何かしらの変化が現れていなければおかしい』
紅莉栖『そうは思いませんか?』
真帆「…………」
鈴羽『あ……確かに……』
紅莉栖『仮に変化が現れていたとしても、歴史の改変と共に記憶を上書きされてしまう私たちにそれを知る術はありません。でも……』
紅莉栖『……岡部は違う』
紅莉栖『岡部倫太郎のリーディングシュタイナーなら、その変化を過去の改変という形で補足できているはず』
紅莉栖『ですが、私の見たところ……』
紅莉栖『岡部? あなた、アマデウスが消えたとき、リーディングシュタイナーを感じた?』
岡部『いや……特に何も感じはしなかったが』
紅莉栖『……そう、やっぱり』
紅莉栖『どうですか、先輩? おかしいですよね、先輩? 彼のリーディングシュタイナーが不発だったという事実は、先輩の仮説と相反していますよね?』
紅莉栖(……紅莉栖)
356 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 18:37:26.21 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『つまり結論は……先輩の……』
紅莉栖『先輩のお考えは……的外れもいいところだという事です!』
真帆(さっすが……紅莉栖ねぇ)フゥ
真帆「そう。で、だったら何かしら?」
紅莉栖『何って……ですから……』
紅莉栖『で、す、か、らっ! サリエリの代わりになる“誰か”に、何かしらの対処をほどこしたところで意味なんてない! 何の意味もないんですっ!』
真帆「だから、それがどうしたの?」ニコリ
紅莉栖『!?』
紅莉栖『せ、先輩! 妙な考えは捨ててください!』
岡部『なに?』
鈴羽『妙な考えって、何の話だい?』
真帆(本当、この子は優しさが過ぎる)
真帆(でも、ごめんなさいね紅莉栖。例えあなたでも、邪魔をさせるつもりはないの)
357 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 18:38:48.09 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『ねえ先輩? 答えてください!』
紅莉栖『どうして先輩は、ラボにいるんですか? なぜアメリカに戻って来なかったんですか? 私と先輩の間にあるこの距離は……何のための物なんですか!?』
真帆「さっきも言ったでしょ? あなた達に……違うわね。紅莉栖、憎ったらしい後輩のあなたにだけは邪魔をして欲しくなかったからよ」
紅莉栖『邪魔って何ですか!? 先輩、何をしようとしているんですか!?』
岡部『どうした紅莉栖! 落ち着け!』
紅莉栖『アマデウス以外のファクターって、先輩のことですよね!? タイムマシンを作りかねない誰かって、先輩はご自分のことを言っていたんじゃないんですか!?』
鈴羽『え……』
岡部『んな……んだと?』
岡部『まさか……比屋定さんまでもが、他の世界線での記憶を思い出しているというのか?』
真帆「いいえ、それは違うわね、岡部さん。私はまだ、何一つとして思い出してはいないわよ」
岡部『しかし……それでは……?』
紅莉栖『違う、違うのよ! そうじゃないの、岡部!』
紅莉栖『私は……私は、この前、この場所で、先輩の前で……』
紅莉栖『タイムマシン開発に関する基礎理論を、先輩に対して話してしまった……』
358 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 18:40:23.42 ID:kqRSVJTw0
岡部『あの時のことか……』
紅莉栖『それは詳細を省いた概要だったけど、でも先輩なら……あの真帆先輩になら! そんな歯抜けの説明でも十分すぎる!』
鈴羽『つまり……ボクたちがペラペラと事情を話したことで、比屋定真帆もまたタイムマシン開発を始めてしまう可能性が生まれてしまったと……』
紅莉栖『ああ! 私は迂闊だった! どうしてこんなことに真帆先輩を巻き込もうなんてっ!?』
岡部『くそ、落ち着けといっているだろう、紅莉栖!』
紅莉栖『でもっ!』
真帆(あーあ。もうバレちゃったか。もう少し時間を稼げると思っていたんだけどな)
真帆(何せ、3.24テラバイトもあるから、ここのPCだと読み込むだけでも時間がかかるのよね)
真帆(でも、それもあと少しで終わりそうね。それなら……)
真帆「ねえ紅莉栖。一つ、別の仮説を話しましょう」
紅莉栖『何の……仮説ですか?』
真帆「未来からサリエリが消えたのに、どうして岡部さんのリーディングシュタイナーが発動しなかったのか。それに対する私なりの見解よ」
紅莉栖『…………』
真帆「まず先に、これは大前提なのだけど……」
真帆「私のアマデウスが消えたことで、この世界の未来からサリエリは完全に消え去ったわ。ダミーも複製も存在しない。これは確実よ」
359 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 18:44:31.99 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『……でも。それでは岡部のリーディングシュタイナーが不発だったことへの説明付けが不可能です』
真帆「あるのよ。すごく難しくて、馬鹿みたいに長い道のりだけど。でも、私たちの主観に影響を与えないで、それでもサリエリを消す方法ならある」
紅莉栖『……信じられません』
真帆「なぁに、話としては単純よ」
真帆「単に、これ以降の歴史において、オリジナルである私がアマデウスの……サリエリの振りをする。ずっと、ずっと、し続けていく」
真帆「そうして阿万音さんが今の歳に為るまでにタイムマシンを作り出し……今回と同じ任務を与えて過去へと送り出す」
真帆「そうすれば、この時代に来た阿万音さんの行動に変化は生じず、結果として過去の改変は行われ──」
紅莉栖『馬鹿げています! そんなことは不可能です!』
真帆「かも、知れないわね。でも、実際に今、私たちはそんな歴史の中に立っているのかもしれないわよ?」
紅莉栖『有り得ません! そもそもその考えだと因果の輪が閉じているじゃないですか! ウロボルスじゃあるまいし、そんなものは仮説とは呼べません!』
真帆「あらら、手厳しいわね。紅莉栖はどうやら、私の考えがお気に召さないみたい」ウフフ
紅莉栖『ふざけないで下さい!』
真帆「じゃあ、こっちの案ならどうかしら? 岡部さんがリーディングシュタイナーを感じなかったのは、実は……」
紅莉栖『先輩……』
真帆「世界線が、気を利かせてくれたから……なんてね」
紅莉栖『先っ! 輩っ!!!』
360 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 18:52:39.36 ID:kqRSVJTw0
真帆「あーあ。後輩に本気で起こられてしまったわ。これはとうとう、私も覚悟を決めるときがきたようね」
真帆「さて……と」
紅莉栖『先輩! 何をするつもりなんですか!?』
真帆「決まっているでしょう? タイムマシンを生み出しかねない、もう一つのファクターに、対処を施すのよ」
紅莉栖『お願いだから! 止めてくださいっ!』
真帆「ああもう、煩いわね。またカメラに近づきすぎているわよ?」
紅莉栖『そんなこと、今はどうでもいいですから!』
真帆(本当にこの子は……)
真帆「ねえ紅莉栖。あなた勘違いをしているようだから、言っておくけど」
紅莉栖『勘違いって何ですか!』
真帆「私、別にそんな大層なことをしようなんて思っていないわ」
紅莉栖『じゃあ……何をするつもりなのか、ちゃんと話してください』
真帆「……はぁ。これ、何だか分かる?」ヒョイ
紅莉栖『それは……ハードディスク……ですか?』
真帆「そ。外付けのUSB・HDDよ。どう? 見覚えはない?」
紅莉栖『え? ……あ、それって確か、研究室の……記憶抽出に使っている奴』
361 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 18:55:32.05 ID:kqRSVJTw0
真帆「あたり。実はね、日本に来る前に、研究室によってちょっと拝借してきたの」
紅莉栖『……え?』
真帆「まあ、無断拝借がレスキネン教授にバレてたから、戻ったらお説教されるかもしれないわねぇ。ああ、やだやだ」
真帆「でね。実はこのハードの中には、たまたま前回抽出した私の記憶データが、まだ残っているのよ」
紅莉栖『え……じゃあ先輩は、ひょっとして……VRを?』
真帆「そう、ビジュアル・リビルディングよ。だ〜か〜ら〜」
真帆「今から私は、これを使って記憶の上書きをしま〜す」
紅莉栖『……え? ……え?』
真帆「どう? 良い案だとは思わない? この方法なら、私の記憶だけを1月24日の状態に戻すだけで、理想的な状況を作り出せる」
真帆「今から大体10日前。つまり、あなたからタイムマシンに関する基礎理論を聞く前の状態に記憶を戻すことが出来たなら……」
真帆「その私にはもう、タイムマシン開発を成功させる手段はなくなる」
真帆「つまり。サリエリ世界線へとつながるもう一つのファクターを、この世界から完全に消すことができる」
紅莉栖『…………』
真帆「これ以上ないってくらいの、名案でしょ?」
紅莉栖『え……でも……』
362 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 18:59:50.44 ID:kqRSVJTw0
真帆「何よ、しみったれた顔してくれちゃって」
紅莉栖『だって……いや……でも……』
真帆「紅、莉、栖。あなた心配しすぎだわ。よく考えてみなさいな? VR技術の完成度は、未来にいたはずのサリエリと、そして……」
真帆「あなたの隣にいる岡部さんが、すでに何度も実証してくれているじゃない」
真帆「だから何も、心配はいらないわ」
紅莉栖『それは……そうかもしれませんが……』
真帆「まあ、タイムリープマシンとかいって未来から記憶を飛ばす際は、記憶の齟齬がどうのこうので24時間という制限を設けていたみたいだけど……」
真帆「でも今回は、未来ではなく過去からの10日。つまり、一度は私の脳が経験している記憶構成なのだから、きっと問題はないでしょう」
紅莉栖『…………』
真帆「別に自害とかするわけじゃないのよ? だからね、紅莉栖。そんなに大騒ぎされても、私としても何だか居心地が悪いのよ。分かるでしょ?」
紅莉栖『ええと……その……まあ』
真帆「よろしい。では、ちょうど下準備も全て終わったみたいだし……」
真帆「じゃ。後のことは頼むわよ、紅莉栖」
紅莉栖『え……あ、はい』
363 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 19:02:18.09 ID:kqRSVJTw0
真帆「それに岡部さんも。これが上手くいけば、その後はあなたが一番大変だと思うけど。あの子の説得、どうかお願いするわね」
岡部『…………』
紅莉栖『あ……先輩、お気づきだったんですね?』
真帆「ええ、まあ一応ね」
真帆「この世界。このサリエリ世界線の未来からタイムマシンが消える」
真帆「そうなれば、阿万音さんがこの時代にタイムトラベルして来たという事実自体が無かったことになってしまうはずよね?」
紅莉栖『はい、その通りです』
真帆「なら。思ったとおりに世界線を動かせたとしても、そこで何の手も打たなければ、その歴史は再びサリエリ世界線へと向かってしまうかもしれない」
真帆「だから。サリエリ世界線の可能性を未来から完全に淘汰するためには……岡部さん」
真帆「私のアマデウスが私に向けてVRを使うことのないように。そして、107領域の記憶を封印するように……」
真帆「歴史の再構築が終わったあと、岡部さんには私のアマデウスを説き伏せてもらわなければならない」
岡部『…………』
真帆「向こうの世界線でも、すでに“ほつれ”は迎えているのでしょうけれど、それでも4月10までに説得することができたのなら、“破綻”を防ぐことは……」
岡部『…………』
真帆「もう。そんなに不機嫌そうな顔をしないで、岡部さん。確かに〆の大仕事を押し付けてしまって申し訳ないとは思うわ」
真帆「でもね、心配しないで。岡部さんの言葉になら、あの子はきっと耳を傾けてくれるはずよ」
真帆「だからね、岡部さん。この後のこと、どうかよろしく──
岡部『だが断る』
364 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 19:04:06.02 ID:kqRSVJTw0
ちょっと休憩します 1、2時間くらいで再開する予定です すいません
365 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/21(土) 19:05:47.38 ID:DFC4dkD10
乙
楽しみにしてます
366 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:01:11.58 ID:kqRSVJTw0
お待たせいたしました再開します
>>365
ご期待に添えるかどうか分かりませんが 少しでも楽しんでいただければと
367 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:02:42.58 ID:kqRSVJTw0
岡部『だが断る』
真帆「え?」
岡部『誰が頼まれてなど、やるものか』ピッピッ
真帆(!?)
紅莉栖『お……かべ?』
岡部『なぁにをボサっとしている、助手よ! 貴様も今すぐまゆりに電話をかけろ!』プルルルル プルルルル
紅莉栖『え? え? え?』
岡部『おお、ダルか! 今すぐラボへ向かってくれ! ああ!? 理由なんてどうでもいい! とにかく比屋定さんを止めてくれ! 頼む!』
真帆「岡部さん……あなた、どういうつもり?」
岡部『それはこっちの台詞だ』
岡部『あなたがそこで、俺たちのために何をしてくれようとしているのかは理解した。だが理解をした上であえて言わせてもらおう』
岡部『あなたがやろうとしている事は、はっきりいって迷惑だ』
真帆「……そう」ズキリ
紅莉栖『岡部、ちょ、ちょっと……』
岡部『やかましい! お前は早く、まゆりにラボへ向かうよう緊急指示を出せ!』
368 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:07:24.08 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『なんで……?』
岡部『分からないのか?』
紅莉栖『……何を、よ?』
真帆「私にも、岡部さんが何を考えているのか分からないわね。説明してくれる?」
岡部『ブラウニーの分際で、すっとぼけたままペラペラとしゃべりおって! ならば言わせてもらおう!』
真帆(…………)ゴクリ
岡部『比屋定さん。今あなたがいるその場所は、俺にとってかけがえの無いほどに神聖な場所でな』
真帆「へぇ……そうだったの」
岡部『その場所はな。いつだって夢や希望なんて馬鹿げた代物を手さげ袋に詰め込んで……』
岡部『そうして仲間たちと下らないことで笑いあうための場所なんだ。そこへ土足で踏み込んでおいて……』
岡部『どうしてあなたは今、そこで一人で泣いている?』
真帆(!?)バッ
真帆(あ……騙された……)
真帆「な……何よ。べ、別に涙なんて出ていないじゃない!」
岡部『とぼけるな』
真帆「何がよ……」
369 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:12:24.08 ID:kqRSVJTw0
岡部『分からないと思うか? 気付かないと思うのか? 話して聞かせただろうに』
真帆「何を……よ」
岡部『決まっているだろう。俺という男が、数多の世界線を渡り歩く中で見捨ててきた仲間たちの話だ』
岡部『俺の我がままで想いを断たれるあいつ等は、いつだって今の比屋定さんと同じ笑顔をしていたぞ』
真帆「そ、そんなの、岡部さんの思い過ごしでしょう?」
岡部『まだ言うかぁ! 涙がなければ! 顔が笑ってさえいれば! それで泣いていないとでも言うつもりか!?』
真帆「…………」ズキリ
真帆(……ボロPCの癖に、カメラの性能が良すぎじゃない)
岡部『あなたが俺たちのために、その選択を選んでくれたことには感謝する。だが……これ以上、俺のラボでふざけた真似をされては困る!』
岡部『そんな悪行三昧を、この鳳凰院凶真が許すわけがないだろう!』
真帆「何で……私が……」
岡部『記憶を上書きすると言ったな?』
真帆「……そのつもりよ」
岡部『VR技術なら。タイムリープマシンなら、俺が何度も実証したと言ったな?』
真帆「事実でしょう!?」
370 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:18:28.31 ID:kqRSVJTw0
岡部『ああ、そうだ。事実だ。俺は何度も何度も何度も何度も、繰り返し未来から過去へと記憶を飛ばし続けてきた』
真帆「だったら、技術的に何の心配もいらないじゃない!」
岡部『どうしてそうなるっ! 違うだろう、そうではないだろう!?』
岡部『比屋定さん。もしもあなたが誤解をしているなら、訂正しよう!』
岡部『俺は今まで、一度たりとも未来からの電話を受け取ったことはない。俺は常に、未来から送る側であり続けてきた!』
真帆「……っ」ドキッ
岡部『だが、考えたことはある。もしも突然、未来の俺から電話がかかってきたら……』
岡部『俺はそのとき、何の躊躇もなくその電話を取れるのか?』
岡部『だが答えは……出せなかった。怖いと、今の自分を失うことがどうしても怖いと、そう思ってしまう自分も確かに存在しているのだ』
真帆「でも! でも、あなたは……実際に何度も主観を上書きされてきたのでしょう?」
岡部『それは、そうせざるを得なかったからだ。そうしなければ、まゆりも、そして紅莉栖も救うことができなかったからだ』
岡部『だが……』
岡部『もしも平和なシュタインズゲート世界線において、未来から……何の前ぶれもなく、今ここにいる俺の主観を奪う電話が届いたのだとしたら……』
真帆「それでも岡部さん、あなたは電話に出るわ。違う?」
岡部『ああ、そうだろうな。迷い、戸惑った挙句、俺はその未来からの自分を受け入れるのだろう。これまでずっと、そうしてきたようにな』
371 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/21(土) 20:20:27.47 ID:megGgTROo
小説版を思い出すな
372 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:21:30.67 ID:kqRSVJTw0
岡部『だから分かる。比屋定さん、それはとても恐ろしい覚悟だ。今の自分を失う覚悟をする。自らそれを受け入れようと覚悟をする』
岡部『これは質の悪い冗談にいつまでも付き合い続けるような、そんな終わらない悪夢にも似た決断だ』
真帆「……そんなこと……ない……」
岡部『そうすることで世界線が移動し、歴史が再構築されるのだとしても。ではそれが何だと言うのだ?』
岡部『恐ろしいものは、どうしたって恐ろしいに決まっている。どれだけ頭で理解していようとも、感情はまったくの別物なのだからな』
真帆「そんなはず……は……」
岡部『だからこそ。比屋定さん、あなたがそこまでしてくれる必要などない』
岡部『今回の件がなければ、そもそもあなたは俺に対して面識などなかったはずだ。そんなあなたに、そこまでの覚悟を背負わせることなど俺には出来ない』
岡部『だから、後は任せてくれ。この先は、俺が……俺たちが何とかしてみせる。だからっ!』
真帆「いっ……やっ……よ!」
岡部『何故だ。あなたにそこまでする義理などないだろう……?』
真帆「あるわよっ!」
373 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:24:00.54 ID:kqRSVJTw0
真帆「私はね……これでも私はね、牧瀬紅莉栖の先輩なのよ!」
真帆「紅莉栖が大変なときに、私は何もしてあげられなかった!」
真帆「α世界線でまゆりさんを救えなかった時も! β世界線で紅莉栖が死を受け入れた時も!」
真帆「私はただの一度だって、紅莉栖から何も相談されなかった……」
真帆「本音を言えば! どうして私を頼ってくれなかったのか、腹立たしく思ったくらいよ!」
岡部『…………』
真帆「私だって……紅莉栖を助けたい。まゆりさんを……助けてあげたい。阿万音さんの未来を守ってあげたい!」
真帆「それに……岡部さんだって……」
真帆(岡部さん……だって……)
岡部『…………』
真帆「あなた達の幸せ。それを手に入れるのに必要なのが、今の私の主観だというのなら……安いものよ」
岡部『どうしても、やるつもりなのか?』
真帆「やるわ」
374 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:26:22.92 ID:kqRSVJTw0
岡部『考え直しては、もらえないのか?』
真帆「やると言ったらやるわ」
カチ……
ピリリリリリ……ピリリリリリ……
真帆「岡部さん。あなたの神聖な場所で勝手な真似をして、本当にごめんなさい」
岡部『……っ』
真帆「でもね。私にもプライドがある。あの牧瀬紅莉栖の先輩としてのプライドが──
ドンドンドンドン!!!
真帆「!?」
まゆり「マホちゃん! 何をしているの!? ここを開けて!」
真帆(ま、まゆりさん!?)
まゆり「今、紅莉栖ちゃんから連絡があった! マホちゃんが危ないからすぐにラボに向かってって!」
真帆(はっ!?)
375 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:27:58.61 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖『先輩! 私やまゆりのことは、先輩が担ぐべきものではないはずです!』
真帆「ふざけたことを言わないで! 私は! 私はねえ!」
まゆり「マホちゃん! 約束したよね? まゆしぃが帰ってきたら、一緒に秋葉原の街を回ろうねって、お約束したよね!」
真帆「ごめんなさい、まゆりさん。約束は……守れない」
まゆり「マホちゃん! 返事をしてください! 中にいるんだよね!」
真帆「私は自分勝手に……紅莉栖とまゆりさんを救う!」
真帆(絶対に、救って見せる!)
岡部『………』
岡部『……』
岡部『…』
岡部『どうやら……止めることはできそうもないな。不甲斐ない男で、すまない』
紅莉栖『岡部!?』
真帆「いいえ。私の後輩の重荷、今まで一人で背負ってくれてありがとう、岡部さん」
岡部『比屋定さんこそ。これまで俺だけが感じてきた孤独感を、一緒に担ごうとしてくれたこと……素直に感謝する』
紅莉栖『……え?』
真帆「ふふ。そんな大層な荷物なんて担げないわ。私って、ほら小さいから」
376 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:29:57.97 ID:kqRSVJTw0
岡部『よくいう。見た目と中身の大きさを盛大に反比例させておいて』
真帆「それじゃあね、岡部さん。上手くいったなら、次の世界線で会いましょう?」
岡部『ああ。その時は必ず、あなたをラボメンとして迎えに行こう』
真帆「それは楽しみね」
岡部『楽しみにしてくれるのか?』
真帆「ええ、当然でしょ? だからお願い。あの子を……私のアマデウスを説得してシュタインズゲート世界線を取り戻して、岡部さん」
岡部『……よかろう、心得た。ではラボメンナンバー009、サボタージュ・ブラウニーよ! その時が訪れるのを、首を長くして待っているがいい!』
紅莉栖『……先輩』
真帆(ありがとう、紅莉栖。ありがとう、まゆりさん。ありがとう、阿万音さん)
真帆(レスキネン教授も未来のサリエリも、そして私のアマデウスも紅莉栖のアマデウスも……みんなみんな、ありがとう)
真帆(そして……)
真帆「さようなら」
真帆(さようなら、どこか私の知らない世界での、私の想い人。ほとんどアレな人だったけど、最後だけはちょっと素敵だったわよ、オカリンマン)
真帆「すぅーーー……」
真帆(よし)
ピッ
真帆(これで、全てが上手くいく。絶対に、そうなるに違いない)
真帆(確証なんてないけど、でも絶対に間違いない。だって……)
真帆(だって私は、あの天才、牧瀬紅莉栖の大先輩、比屋定真帆なのよ?)
真帆(だからね。みんな、幸せになりなさい、頼んだわよ)スッ
377 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:32:10.38 ID:kqRSVJTw0
あと一つ 短いけどエピローグ的なものがあります それで終わりです
>>371
小説版は手を付けていないのですが気になりました 何と言うタイトルでしょうか?
378 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:33:37.32 ID:kqRSVJTw0
31
岡部「んぐぅぅぅぅっぅ!?」グラリ
紅莉栖「ちょ、岡部!?」
岡部「ぬ……」
まゆり「どうしたのオカリン? どこか痛いの?」
ダル「んにゃ。掃除が嫌で、いつもの厨二的な何かに逃げ込んだに1ガバス」
紅莉栖「ねえ岡部、ひょっとして今の……」
岡部「いや、大丈夫だ心配ない。というか、狭いぞお前たち、ゾロゾロと! こんなゴミ溜めのような場所……」
岡部「…………」キョロキョロ
岡部「ここは……比屋定さんの部屋なのか?」
ダル「今さら何を言っとるんだお前は」
まゆり「そうだよぉ? 今までずっとみんなで、紅莉栖ちゃんの先輩のお部屋をお掃除していたのに、急にどうしたのかな?」
ダル「つーか。やっぱロリ(合法)に汚属性追加とか、攻め過ぎにもほどがあるだろ!」
岡部「ま、さ、か……」
紅莉栖「お、岡部?」
真帆「ねえ、どうしたの?」ヒョコ
379 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:35:32.63 ID:kqRSVJTw0
岡部「!?」
岡部「比屋定さん……なのか?」
真帆「それ以外の誰よ? というか、本当に大丈夫なの? 一応救急箱くらいならあるから、持って来ましょうか?」
レス「Oh……マホの部屋の救急箱はパンドラの箱のにおいがするねぇ」
岡部「フ……フ……フゥーーーーーハハハハハハ!」
岡部「なんと……なんとまあ! 堪え性のないブラウニーではないか!」ガバッ
真帆「んぎゃ!? な、んなぁ!?」
紅莉栖「おまっ!」
まゆり「オカリン!?」
レス「なんと! リンターロは積極的だね、Hahaha!」
ダル「だが合法だ!」
紅莉栖「いや普通に違法だろ!」
真帆「ちょ、笑い事じゃありません教授! だ、誰か助けて襲われる〜」
レス「私には楽しそうに見えるのだがね、マホ?」
380 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:37:20.23 ID:kqRSVJTw0
紅莉栖「っていうか、早く先輩から離れろ! このHENTAI! 国際問題にされたいか!」
岡部「フゥーーーーーハハハハハハ!!!?」ガゴ
岡部「…………」チーン
紅莉栖「はぁはぁ、お前は一体、何がしたいんだ」
岡部「ふん!」ガバリッ
真帆「ひぃ! 復活してきたわ!?」
岡部「比屋定真帆!」ビシリ
真帆「ふ、ふわわわ!?」
岡部「待ちきれず、モニタの向こう側から這い出してくるとは、見上げたラボメン精神である!」
紅莉栖「うわ……強く殴りすぎたかしら……」
岡部「今、あいにくと持ち合わせがないのでな。これで我慢をしてもらおう!」
ブチィ!
まゆり「ええ!? オカリンどうしちゃったの!?」
ダル「自分の白衣からラボメンバッチを引きちぎるとか、オカリンご乱心の巻でござる!」
レス「Hou、見かけによらず、中々にワイルドだねリンターロは」
紅莉栖「っていうか、初対面の先輩をラボメンに誘う気? あんた相変わらずねぇ」
381 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/21(土) 20:38:24.48 ID:DFC4dkD10
371じゃないけど、回帰喪失を思い出す
382 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:38:39.51 ID:kqRSVJTw0
岡部「フゥーーーーーハハハハハハ!!! この鳳凰院凶真、かわした約束は必ず守る!」
岡部「比屋定真帆……いや、ラボメンナンバー009! サボタージュ・ブラウニーよ!」
岡部「貴様にこのラボメンたる証、ラボメンバッチを授ける! さあ、受け取るがいい!」
真帆「え……いらない」
紅莉栖「ですよね〜」
END
383 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/21(土) 20:40:36.13 ID:megGgTROo
完結乙
384 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:40:57.61 ID:kqRSVJTw0
ということで、これにてマホタソの大冒険は終了となります
ここまでお付き合いいただきました皆々様、レスしてくれた方々、大変ありがとうございました
乱筆乱文誤字脱字に捏造設定ご都合解釈の嵐、お見苦しい点も多々ございましたでしょうが、ご容赦いただければ幸いです
心残りは無い!といいたいところですが一つだけA真帆がA紅莉栖を説得するシーンだけがどうにも思ったように書けなくてカットしたのが悔やまれます。あ、あといただいたレスに上手い返しが思いつけなかったのも悔やむかな。申し訳ない!
385 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/21(土) 20:41:47.61 ID:megGgTROo
>>377
STEINS;GATE‐シュタインズゲート‐ 円環連鎖のウロボロス(2)
原作との矛盾がいくつかあるが没入できる良作
386 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:42:15.84 ID:kqRSVJTw0
ということで、とりあえずHTML化とかいうのを依頼すればいいのだろうけど
ひょっとしてレスとかもらえてしまう可能性にかけて明日くらいまで待つのとかダメかなダメじゃないなよしまとういいじゃないかそれくらいしつもんとかつっこみとかそしりとかあるかもしれないじゃないか
うへへ
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
387 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:43:19.90 ID:kqRSVJTw0
>>383
読破乙!(ありがとうございますの意)
388 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/21(土) 20:44:44.35 ID:DFC4dkD10
乙
面白かった
389 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/21(土) 20:45:05.18 ID:kqRSVJTw0
>>385
ありがとう、早速明日にでも探してみましゃう
原作との矛盾はSS書きにとって宝の山なのです!
390 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/21(土) 20:47:24.34 ID:kqRSVJTwo
>>388
ありがとうございます! その一言で報われるというものです
391 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/21(土) 20:58:45.04 ID:kEvgO2Vjo
乙
バッジ受け取ってもらえない切ないオカリンの心境は分かるけど笑ってしまうww
HTML化は今板の管理人が仕事放置してるからずっと残ったままになりそうな予感
申請しておいて悪いことはないけれど
392 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/21(土) 21:08:22.45 ID:kqRSVJTwo
>>391
ありがとう しんみりな最後をひっくり返す返すのにオカリンほどの適役はおらんよってに笑ってやってくだせえ
HTML化の件、そげなことになっとっとですか 情報サンクス 一応明日にでも依頼をかけてみやす
393 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/21(土) 22:57:18.85 ID:YaoPpZfc0
アニメ『シュタインズ・ゲート』の歴代主題歌まとめ
http://youtubelib.com/steinsgate-songs
1.1 オープニングテーマ編
1.1.0.1 OP1. いとうかなこ『Hacking to the Gate』
1.2 エンディングテーマ編
1.2.0.1 EN1. ファンタズム『刻司ル十二ノ盟約』
1.2.0.2 EN2. いとうかなこ『スカイクラッドの観測者』
1.2.0.3 EN3. いとうかなこ『Another Heaven』
1.3 挿入曲(イメージソング)編
1.3.0.1 挿1. アフィリア・サーガ・イースト『ワタシ☆LOVEな☆オトメ!』
1.3.0.2 挿2. アフィリア・サーガ・イースト『My White Ribbon』
394 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/07/21(土) 22:58:46.56 ID:YaoPpZfc0
アニメ『シュタインズ・ゲート』の歴代主題歌まとめ
http://youtubelib.com/steinsgate-songs
1.1 オープニングテーマ編
1.1.0.1 OP1. いとうかなこ『Hacking to the Gate』
1.2 エンディングテーマ編
1.2.0.1 EN1. ファンタズム『刻司ル十二ノ盟約』
1.2.0.2 EN2. いとうかなこ『スカイクラッドの観測者』
1.2.0.3 EN3. いとうかなこ『Another Heaven』
1.3 挿入曲(イメージソング)編
1.3.0.1 挿1. アフィリア・サーガ・イースト『ワタシ☆LOVEな☆オトメ!』
1.3.0.2 挿2. アフィリア・サーガ・イースト『My White Ribbon』
395 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 14:17:54.00 ID:QSnDd+ySo
>>381
すまぬ、完全にみおとしていますた
回帰喪失というのがもしも[回帰喪失のスノーホワイト]なら、拙者の過去作にござる 違ったらゴメンしてください
396 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 15:18:07.91 ID:Sv+3hynbO
拡散希望
【SS掲載拒否推奨】あやめ速報、あやめ2ndは盗作をもみ消すクソサイト
SSを書かれる際は掲載を拒否することを推奨します
概略1
現トリップ◆Jzh9fG75HAは
混沌電波(ちゃおラジ)なるSSシリーズにより、長くの間多くの人々を不快にし
また、注意や助言問わず煽り返す等の荒らし行為を続けていたが
その過程でついに、ちゃおラジは盗作により作られたものと露呈した
概略2
盗作されたものであるためと、掲載されたシリーズの削除を推奨されたSSまとめサイト「あやめ2nd」はこれを拒否
独自の調査によりちゃおラジは盗作に当たらないと表明
疑問視するコメント、および盗作に当たらないとの表明すら削除し、
盗作のもみ消しを謀る
概略3
なおも続く追及に、ついにあやめ2ndは掲載されたちゃおラジシリーズをすべて削除
ただし、ちゃおラジは盗作ではないという表明は撤回しないまま
シリーズを削除した理由は「ブログ運営に支障が出ると判断したため」とのこと
SSまとめサイトは、SS作者が書いたSSを自身のサイトに掲載し、サイト内の広告により金を得ている
SSまとめサイトは、SSがあって、SS作者がいて、はじめて成り立つ
故に、SSまとめサイトによるSS作者に対する背信行為はあってはならず、
SSにとどまらず創作に携わる人全てを踏みにじる行為、盗作をもみ消し隠そうとし
ちゃおラジが盗作ではないことの証明を放棄し、
義理立てすべきSS作者より自身のサイトを優先させた
あやめ速報姉妹サイト、あやめ2ndを許してはならない
あやめ速報、あやめ2ndは盗作をもみ消すクソサイト
SSを書かれる際は掲載を拒否することを推奨します
397 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:16:10.40 ID:+mU1ijAH0
色々見てきて本当にHTML化されなさそうな感じがしたのです
もったいないので 他所で書いてた過去作をそっと添えてみようという試みなのです
気が向いたときにやるのです ふふ
398 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:21:01.64 ID:+mU1ijAH0
あ、一応HTML化依頼はすませてみましたよ
というわけで今日は2012年3月に投下していた奴で
紅莉栖一人称のホワイトデーネタの奴でし いくぞよ
タイトル 贈答過多のオールパートナー
399 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:23:52.47 ID:+mU1ijAH0
1
正直に言えばこの一ヶ月の間、抱え込んだややこしい心境に、私の心は揺れ続けていた。
「やっぱり、受け取っちゃうんだろうな、私は」
呼び出されて足を運んだ、ラボの屋上。鉄柵に肘を付き、そよぐ風に髪先をなびかせていると、何だか無性に顔をうつむけたくなってしまう。
「私だけが……もらえるんだ」
そんな事をつぶやくと、いまいちよく分からない罪悪感が幅をきかせてきて、ちょっと鬱陶しい。
考えすぎだと言う事は、分かってた。気にする必要なんてないって事も、ちゃんと分かっていた。だがそれでも、理性とは裏腹な感情の揺れは、中々どうして収まってくれそうもない。
一月前の2月14日。一人の男性に、生まれて初めて贈ったチョコレート。嫌と言うほど自覚している不器用な腕前で、湯煎だけにも手間取りながら形作った、褐色色の想いの形。
そんな不細工な代物を、はにかみながら受け取ってくれた男性の顔を思い出すと、気恥ずかしさと共に、ちょっとだけ憂鬱な何かが込み上げてくる。
「あげない方が、よかったのかな」
などと口にするも、しかしそれが本心でないことは、言うまでもなく──
「あんなの、気にすること無いのに……」
そして続ける言葉は、この一ヶ月の間、繰り返し唱え続けてきた呪文と、何も変わっていなかった。
迷いに迷って用意した、少しは大人っぽさを匂わせる包装紙。包んだ箱にフワリとしたリボンをかけた、思いを込めたはずの贈り物。
400 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:26:47.06 ID:+mU1ijAH0
渡すまでは、気にもしていなかった。なのに、照れ隠し全開でつっけんどんに突き出した私の手から、それを受け取った時の彼の言葉。
『ありがとう、紅莉栖』
それは、普段の彼からは想像できない程、真っ直ぐに届けられた、お礼の言葉だったのだと、今さらながらに思う。
「ああ、余計なこと言った……」
本当はとても嬉しかった、驚くほどに本音だった、素の返し。ちょっと素っ気無い言葉だったかもしれないけど、でも、静かに私を見つめる瞳と、いつもよりも少しだけ近く思えた距離感に、正直その時は舞い上がってしまった。
だからつい、そんな気持ちを見せてしまうのが気恥ずかしくて、照れ隠しを予定よりも延長してしまった。
真面目なフリとか気味が悪いだろと。真剣な顔なんて調子が狂うと。思ってもいない言葉を口にしながら、それでも強く胸を高鳴らせていた。
そんな私に、彼はこう言った。
『別にフリではない。俺はいつだって、お前に感謝してきた。ずっと、な』
普段のふざけた態度が、嘘のような振る舞い。とても深い色をした彼の眼差しに、私は舞い上がりながら、そして、ふと思ってしまった。
今、彼が見ているのは、誰なんだろう?
過去形で告げられた、彼の言葉。『ずっと』と添えられた、私にとっては奇妙な言い回し。そして感じてしまったのは──
『きっと、私だけじゃ……ない』
そんな、ふんわりとした取り止めのない想いだった。
あの夏を過ぎ、程なくした頃に聞かされた、不思議な話。終わりの見えない、延々と続いていたという、とても長い夏のお話。
401 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:32:42.53 ID:+mU1ijAH0
そのお話の中に、度々姿を現した女の子。
彼や大切な友達のために、頑張って、悩んで、苦しんでいたという、私と同じ形をした沢山の女の子たち。
「馬鹿か、私は……」
きっと大好きだったんだと思う。きっとどの子も、今の私と同じくらい、彼に惹かれていんだと思う。
だけどそれでも、その子達は彼の側にい続けることはなく──今、私だけが、こうして彼の傍らにいられる。
「何で、ずるい……とか思っちゃうんだ、馬鹿」
彼が見ている先にいた、沢山の私。その子達が、私と別人だなんてことは思ってない。でも、それでも──
ありがとう、紅莉栖
これまでの色々な出来事。私の知らない、沢山の想いへと向けられたはずの、彼の言葉。それはきっと、私の知らないお礼の気持ちで。
だから、困る。
「何て言えば……いいんだろう」
もうすぐ私は、彼にお礼を伝える事になるだろう。さっき、ラボの屋上で待っているように言われた時から、覚悟はしていた。
後少しすれば、後ろの扉から彼が来る。そして私は、彼から形を受け取って、想いを返さなければいけない。
ちゃんと伝えることが、できる?
402 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:34:20.80 ID:+mU1ijAH0
自信がなかった。一月前、ありがとうと言って、名前を呼んでくれた彼。
その中に込められた、余りにも膨大な感謝の理由に気が付いてしまうと、今、私が抱えている想いが、とても薄っぺらに感じてしまった。
「ちゃんと……言いたい」
つりあいたい。彼が向ける想いの重さに、出来る事なら吊り合ってあげたい。
今の私に上書きされて消えた、いっぱいの私。聞かされて知った、彼女たちのために。今でも少しだけ残されている、微かな夢物語の欠片のために。
ひと月前の彼の言葉に、つりあいたい。と、誰のためでもなくそう思ってしまうのは、ワガママなのだろうか。
「私って、こんな不器用だったっけ……」
それはきっと、義務ではないのだろう。吊り合ってほしいなどと、一度も言われたためしがない。
だからきっと彼は、そんな事を望んでなんて、いないだろう。だけどどうしても、そうできない事に歯がゆさを覚える。
「じゃなきゃ、私だけが受け取って、私だけが返すみたいで……何か嫌だ」
きっと、沢山の私が踏み台になって、今の私がいる。それが悪い事だとは思わないけど、でもなぜだかそれは、とても寂しいことのように感じてしまう。
「ちょっと……寒いな」
空を見上げれば、薄い空の色が瞳を覆う。三月も半ばに差し掛かったこの日。昨日、少しだけ舞った小さな雪景色の名残が、まだ屋上には残っていた。
「ほんと、寒いな」
鉄柵から身体を離し、小さく身体を縮こまらせる。と──
「待たせたな」
屋上の扉が開く音が聞こえ、そして彼の声が聞こえた。振り向き、そして私は目を丸くした。
403 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:41:25.14 ID:+mU1ijAH0
2
「ねぇオカリン。せっかくクリスちゃんを屋上に呼び出したのに、どうしてまゆしぃも一緒に来ないといけないのでしょうか?」
目を丸めている私の耳を、彼に問いかけているまゆりの声が小さく揺らした。
「さっき言っただろう、まゆり。お前もすでに、このイベントの大切な要素なのだとな。ふぅーはははっ」
一頻りのたまって高笑い。そんな、いつもと変わらぬ姿を眺めつつ、私はゆっくりと口を開く。
「岡部……一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
私は目をパチクリと瞬かせながら、伸ばした指先で彼の背後を指し示して見せる。
「それ……なに?」
「何? とは愚問だな。貴様、今日が何の日か、知らぬというワケでもあるまい?」
「いや、知ってるけど……でも、変だろそれ」
私の指先。その先に捕らえた、いやに大きな布袋を穴が空くほど凝視する。
「変だと? 失敬な奴め。一月前の借り。それを返すのだ。これくらいあって、然るべきではないか」
もう、意味がよく分からなかった。分かるのは精々、彼の言う一ヶ月前というのが、言わずもがな『あの日』に該当しているのだろうという程度の事。
「じゃあなに? その中はバレンタインのお返しが詰まってるとか……そう言いたいのか?」
404 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:42:14.45 ID:+mU1ijAH0
「無論である!」
胸を張られてしまった。どこから論破すれば、いいんだろう?
「ええとだな、岡部。朴念仁代表のアンタに、センスとかを求めるつもりはないけど、でもいくらなんでも大きすぎると思うわけだ」
ホワイトデーの定番といえば、軽めの菓子類や花などと、比較的かさばらない物が一般的だと思うわけで。
なのに、彼の後ろにたたずんでいる布袋の大きさといったら、まるで季節外れのサンタクロースのようなんだけど。ギャグ……なんだろうか?
「かさばる物とか、普通は避けるのが一般的だと思うわけで……」
どうしたものかと困り顔をぶら下げてしまうと、彼は顔を軽く緩めた。
「心配するな。一つ一つは、さほどかさばらん」
「一つ一つって、じゃあその中、色々詰め込んであるって……こと?」
恐る恐る問いかけると、彼ははっきりと頷いて見せた。
「その通り。買い揃えるのに苦労した事も、今となっては良い思い出だな」
もう、どこから突っ込んでいいのかすら、分からなくなってきた。
彼は、唖然とした表情の私から視線を外すと、傍らで立っていたまゆりに目を向け、さもしたり顔で口を開く。
「では、まゆり。別命あるまで、ここで待機をしていろ」
「ええぇ?」
唐突な指示に、当然の反応を示すまゆり。何をしたいんだ、こいつは?
405 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:43:17.09 ID:+mU1ijAH0
「いいから、呼ぶまで動くな。分かったな?」
強く念を押され、シブシブと頷いている。なんだかちょっと、可哀想にみえてしまった。そして──
「では、メインイベントを始めようではないか」
彼はそんな事を言いながら、布袋の先端を握り締めて、ゆっくりと私へ向けて、歩み始める。
「まさかと思うけど、質より量で勝負とか……そういう事?」
「何を言っている。うぬぼれているな、助手風情が。勘違いするな。こう見えても、俺は婦女子から大人気でな。毎年この時期は、大変なものだ」
そんな事を言いながら、遠い目をしてみせる彼。何だかとても、胡散臭い。
「胡散臭い」
思った事をそのまま口にする。と、彼の眉間にシワが寄った。
「失礼な奴め。まあいい。どの道、この中で、お前に渡す物は一個だ、安心しろ」
ニヤリと笑いながらの一言に、不思議と少しだけ落胆してしまいそうになり、慌てて気持ちを持ち直す。
「あ……そう」
おかしな事に、少しだけ声が上ずってしまった。別にいっぱい欲しいとか、そういう事ではない。
そして私の足元に、ドチャリと音を立てて置かれる布袋。彼は袋に腕を突っ込んで、中身をゴソゴソと漁り始める。
「ところでだ、紅莉栖」
406 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:44:18.85 ID:+mU1ijAH0
「ふぇ?」
出し抜けに、ちゃんとした名を呼ばれた。またしても、声を上ずらせてしまった。
「お前この前、まゆりの前で妙な事を口走ったらしいな? 自分だけ貰えるとか、何とか」
ドキリとした。
「そんな事、あったかしら?」
しらばっくれてみるも、しかし思い当る節はあった。一月の間、ずっと抱えていた何かを、ついポロリと口にして──何だかその時、まゆりの視線を感じた事があったような、なかったような。
「ふん、まあいい。それよりも……おっと、これか?」
彼の手が袋から抜き出される。私の視線は、その大きな手に握られた、綺麗なラッピングの長細い小箱に、釘付けになる。が──
「なんだ、違うな。これはお前のではなかった」
続けられた言葉に、小さく落胆し──
「仕方ない。お前から渡しておいてくれ」
とんでもない台詞とともに、小箱が宙を舞い、すごく慌てる。
「うっわわ!」
ギリギリで受け止める。危なくキャッチし損ねるところだった。何を考えてるんだ、こいつは?
「気をつけろ。想いの込めた一品だ。大切に扱え。渡す前に傷物にされたのでは、かなわんからな」
しれっとした物言い。私は分けが分からず頬を引きつらせる。
407 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:45:44.30 ID:+mU1ijAH0
「む、ムチャクチャ言うな! 想いを込めてるなら、自分で渡せばいいだろ!?」
思わず、口やかましくがなり立ててしまった。
「そう言うな。渡せるものなら……渡している」
その口調がとても寂しげに聞こえて、高ぶりかけた言葉の色を引っ込め、思わず小さく息を飲む。
「何よ、その意味ありげな言い方」
戸惑いがちに声をかけると、彼は私の問いかけた内容をスルーして、淡々と言葉を続ける。
「中身はフォークだ。ちゃんと渡しておけよ」
「何でフォークなんて……」
「前に、欲しいと言っていた女がいた。だからだ」
なぜだかちょっとだけ、胸の奥が揺らいだ気がした。
「お次は……ち、またハズレか。ホレ、これも渡しといてくれ」
再び、違う小箱が宙を舞う。
「え、ええ!?」
再び慌てて、もう一度奇跡的なキャッチを遂げる。
「ナイスだ。割れ物だからな。絶対に落とすなよ」
408 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:47:04.03 ID:+mU1ijAH0
「だったら投げるな! つーか、割れ物って何よ?」
「マグカップだ。いつだったか、奴らの襲撃を受けたとき、あいつのカップが割れてしまったからな。代わりを買った」
微かに引っ掛かる。
「襲撃って……なに」
しかし彼は答えない。
「こんなのもあったか。やはり包装してないと安っぽく見えるな。まあいい。それもだ、頼んだぞ」
そして宙を舞う、カップ入りのプリン。何とか片手で確保する。
「勝手に食べたら、やたらに怒っていたからな。ちゃんと名前も書いておいてやった。俺はいい奴だな、うむ」
上ブタの真ん中に「助手」と殴り書きされた、どこにでも在りそうなプリン。
「助手じゃなくて……牧瀬だろ」
知らないうちに、言葉が漏れ出していた。一瞬流れる沈黙。そして──
「そう、だったかもな」
彼は静かにそう言うと、袋漁りを続けていく。
それから、宙を舞っては私が受け取る、想いの形。何度も何度も繰り返され、その度に、どうしてか私の心には、小さな細波が立っていく。
そして、気付けば私の腕の中は、渡せといわれて受け取った贈り物で、溢れかえっていた。
409 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:48:01.93 ID:+mU1ijAH0
「これで……最後?」
すっかり萎れてしまった、大きかった布袋。そこから彼が手を抜き終えた様を、少しだけ霞んでいる視界でじっと見つめる。と、
「いや、まだ残っている」
零すような彼の声。とても静かにそう言うと、私の目の前で、大きく息を吸い込み──
「「「いでよぉ、まゆりぃ!!!」」」
ラボの屋上に、絶叫が木霊した。思わず、屋上の入り口へと目を向ける。
「まゆり……?」
どこか呆然としたままで問いかける。彼は答える。
「ああ。あいつの元気な姿を、見せなくてはいけない奴がいる。絶対にな」
何も言葉が、出てこなかった。ただ、こちらに向けて、テトテトと走ってくる大切な友達を、沸き上がる涙の隙間から、じっと見ていることしか出来なかった。
「そうだろ、紅莉栖?」
信じられないような瞳で、見つめられた。頷くしかなかった。紅潮した私の頬から、何かが流れ落ちていくのが分かった。
ただ、押し黙って立つ私と彼。そして、小走りに駆け寄ってくるまゆり。
「まゆり……」
410 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:49:17.70 ID:+mU1ijAH0
彼女の名前をこうして口に出来る。その事が、とても温かくて──
「クリスちゃん、どうしたの? 泣いてるの? ひょっとして、オカリンにいじめられたの?」
心配する声を、とても切なく感じてしまった。
「違うの。違うから、大丈夫だから。ね、まゆり」
私は途切れ途切れに言葉を紡ぎ、そして彼女を抱きしめる。意味など、きっとないはずなのに。
「クリスちゃん?」
不思議そうなまゆりの声。そして続けられた彼の声が、胸の奥に響く。
「いつか。もしもどこかで、お前があいつと出会える時がきたのなら、伝えておいてくれ。お前のおかげで、まゆりは今でも元気だと」
その言葉に、私はまゆりから身体を離して、ちゃんと頷いて返す。
ずっと不安だった。彼が私に向けた視線。2月14日に伝えられた言葉が重く思えて、嬉しさに釘を刺す寂しさが、どうしても拭えないでいた。
でも分かった。だから──
「ありがとう、岡部」
ちゃんと、言えた気がした。私の知らない沢山の私。その誰一人として取り残されることなく、何かを贈られ、お礼を告げられた。そんな気がした。
やっと、つりあえたような──そんな気がした。
そして、岡部の言葉が私に届く。お礼を告げた私の想い。岡部は少し気まずそうな顔をして、
「あ。お前へのお返しだけ……忘れていた」
そんな事をのたまった。アホだと思った。
END
411 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/22(日) 22:53:37.61 ID:+mU1ijAH0
うへへ sageでこそこそ楽しい
たまたま見つけてしまった人はお茶菓子程度のものだと思って読み流すのが吉!
412 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/22(日) 23:30:24.29 ID:VyYsZEfSO
マホー、日本にはバレンタインデーに想い人にチョコレートを渡す風習があるみたいだねー
413 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 00:08:20.57 ID:eCLY4xXro
よ……よくご存知でしたね教授。
(このキラキラした目。ろくでもない話題に持っていこうとしていることが、ありありと伺えるわ)チッ
(ならばここは、回避の一択ね)
どうしたんですか? 甘いものが食べたいならちょうどここに“ちんすこう”がありますけど…… ヒキダシ ガラガラ
(甘いというよりも甘じょっぱい系だけど、現状で使える盾としては悪くない)
どうです、食べますか?スィッ
(さあ、この沖縄銘菓の不思議な味覚で、余計な邪念を滅却されるがいいわ!)
って、調子に乗った スマナイ
414 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 09:15:35.93 ID:ckUhghTOO
乙
これがジャパニーズ青春なんですね紅莉栖さん
ところで真帆さんちんすこうを声に出して言ってもらえませんか出来れば少し恥じらいながらってダルくんが言ってた
415 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/23(月) 11:02:16.62 ID:eCLY4xXro
ちんすこう? 別に食べ慣れているから名前を言うくらいどうということもないけど……
(でも恥じらいながらって部分が意味不明ね。ひょっとしてセクシャルなニュアンスを含ませられているのかしら……って)
おお?
(紅莉栖がすごい顔で走っていったけど? あんなゴツい本を振り回して、何かあったのかしら?)
って、いや、あの、ですからね調子に乗ってしまいますからね…orz
416 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:04:10.34 ID:eCLY4xXr0
せっせっせっせ
目標は1000までいって自動でHTML化させることでやんす
ということで 暇みてのんびり遊びやす 飽きたらやめる可能性もあり
2011年9月26日投下って7年も前かよ
追憶謝辞のオカリンティーナ
417 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:06:26.96 ID:eCLY4xXr0
1
ラボと外界を隔てる安造りの扉を押し開けると、柔らかで親しみのある雰囲気が鼻に届く。
「おかえりぃ、オカリン」
玄関先で無造作に靴を脱ぎ捨てる俺を見つけ、まゆりがゆったりとした声をだした。そんなまゆりの言葉に、いち早く反応を示したのは俺ではなく──
「やばっ」
ソファに腰掛けていた紅莉栖が、妙な奇声を上げた。
買出しから帰還した俺に視線を向けることなく、テーブルの上に広げていた何かの冊子を手早く閉じる。そして、慌てた様子でそれを自分の背後に隠そうとして──
「んが!?」
次の瞬間、悶絶の表情を浮かべながら、上半身をテーブルの上にベチャリと貼り付けた。
テーブルに広がった、線の細い華奢な背中。その真ん中辺りに、紅莉栖の手に握られた冊子の角が食い込んでいる。
目にした状況のままを解釈すれば、冊子をとり急いで背後に隠そうとした拍子に、勢い余って本の角を自分の背中に突き立ててしまった──という現状のようなのだが。
「大丈夫、クリスちゃん?」
紅莉栖の見せた唐突な奇行に、まゆりが心配そうに声を上げる。それとは対照的に俺は、
「帰ってくるなり、ドジっ子アピールか? 熱心だな、助手よ」
ふてぶてしくも、そんな言葉を投げかける。そして、やれやれといった表情をぶら下げて紅莉栖に歩み寄る。
「……いたい」
418 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:07:16.95 ID:eCLY4xXr0
テーブルに突っ伏したままの紅莉栖から、小さな呻き声が聞こえた。俺の発した言いがかりにも等しい言葉や、お約束の呼称誤差に対して突っ込んでこないところを見ると──
『どうやら、相当に痛かったらしい』
少しだけ哀れみにも似た気持ちを浮かべながら、何気に紅莉栖の背中に生えた冊子に目を向けた。
「って、おま……それ、どこで……」
少し驚いた。どうして紅莉栖の手に──いや背中に、そんな物があるのか戸惑い、そしてその答えを想像してまゆりに目を向ける。
「まゆりだな、これは?」
少しだけ問いただすようにそう言うと、「えへへ〜。ばれてしまったのです」などと、とぼけた様子でニッコリと微笑んだ。
「まったく……」
俺はしかめっ面を顔面に貼り付けて、紅莉栖の背中からその冊子を引っこ抜く。
「あ……」
紅莉栖は短く声を立ると、緩慢な動作でテーブルに張り付いた身体を引き起こす。そして、俺が取り上げた冊子に追いすがるように手を伸ばし──
「見たいのか、助手よ?」
俺の声にビクリと反応し、紅莉栖が手を引っ込めた。
「べ……別に岡部の過去に興味あるとか、そういう事じゃないからな。勘違いするなよ」
そんな言い訳じみた捨て台詞に耳を傾けながら、俺は取り上げた冊子を適当に開く。そこには、色合いや配置などにまで気を配って並べられた、たくさんの写真。
「また古いものを……」
419 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:08:14.48 ID:eCLY4xXr0
それは、俺の実家に保管されていたはずの、幼少の頃の記録。まだデジカメなどという近代兵器が浸透するよりも前に残されたのであろう、アナログでできた思い出の数々。
恐らくは、まゆりがお袋にでも頼んで借り出したのであろう、一冊のアルバム。
そんな物を手に取りながら、それが紅莉栖の手に握られていた事実に、微かな嬉しさと、少しばかりの気恥ずかしさを覚える。
「で、なんだ。助手よ……感想は?」
俺が、はにかんだように問いかけると、紅莉栖が表情の無い声で答えた。
「ハードカバーの角は硬かった」
「誰がそんな話をしている。まったく、そんなに痛かったのか? 見せてみろ」
俺が腰を落として手を伸ばすと、まゆりが「ああ〜オカリンがやさしい〜」などと煌びやかに騒ぎ立てる。
「ちょ岡部! バカ! まゆりがいる……じゃなくて、HENTAI! とりあえずHENTAI!」
どうやら、紅莉栖が真っ赤にした顔をゆがめている理由は、先刻受けた痛みのせいばかりでもなさそうであった。
仕方なく、俺は紅莉栖の背中に伸ばしかけた手を押しとどめ、身体を立て直す。と、まゆりが俺の動きにあわせるかのように立ち上がった。そして──
「ええとね〜。クリスちゃんがお気に入りしてたのはね〜」
まるで新しい発見を母親に報告する子供のように、無邪気な笑顔で俺の手にあるアルバムに顔を寄せる。
「ほう……」
俺はまゆりにアルバムの主導権を譲り、その手がページをめくっていく様を眺める。
そんな俺とまゆりの行動に、紅莉栖が泡を食ってソファから腰を跳ね上げる。
420 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:09:09.33 ID:eCLY4xXr0
「ちょっとまゆり!?」
しかし、そんな紅莉栖の悲鳴などどこ吹く風。まゆりは一つのページで指を止めると、
「クリスちゃん、このページでうっとりしてたんだよ〜」
うっとりしていた紅莉栖。いつだって冷静に周囲の状況に目を配る天才少女。鋭さこそ本質とでも言わんばかりの、あの牧瀬紅莉栖が──うっとり。
『よもや、そんな言葉を耳にする日がこようとは……』
そんな事を思いながら、まゆりの指し示したページの写真に視線を這わせる。そこには、義務教育に突入したてであろう幼少の俺が、家族と共に映った写真が数枚。中には、小学校の入学式と思しきシュチュエーションの物もあり──
『どこの小学生名探偵だ……』
蝶ネクタイに半ズボン。その、無理やりに着飾らされたいでたちに、何とも言えない恥ずかしさが湧き上がる。
「助手よ……お前、こういう趣味……」
「ちがうぞ! 誤解だ! 勘違いするな、私が気になってたのは……はう」
慌てた様子で俺の手にあるアルバムを覗き込んだ紅莉栖が、目にした何かに当てられたかのように、か弱い声を出してヒザを──
「ふんぬ!」
気合と共に、崩れそうになった身体を立て直して見せる。類まれなる、助手の根性であった。
「わ、わ、私が! 私が見てたのは、ええと! ああ、そうだ! ここ! ここよ!」
そして、一枚の写真の片隅に、びしりと指先を突き立てる。
421 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:10:27.32 ID:eCLY4xXr0
「ああ〜。オカリンパパだ〜」
まゆりの声が表すとおり、紅莉栖の指先には、俺の隣で突っ立って映る、一人の男の姿。
「お……親父じゃないか……」
「そうなのよ! もうシブ面すぎて、うっとりしても仕方ないじゃないの、これだったら!」
「人の親をこれってお前……。というか、なんだかもう色々と無理するな助手よ……」
何となく、必死な紅莉栖の弁解に、不思議な哀れみさえ感じてしまう。
「別に無理なんてしてないだろ! 私はシブ面でうっとりしてただけで、誰が好き好んで、隣におまけみたいに映ってるチビ岡部なんて……はうぅ」
紅莉栖が指先を、俺の父親から隣のチビ俺へとスライドした瞬間。今度こそ耐えかねたかのように、紅莉栖がヒザを折って、ガクリと床に腰を落とす。
もはや、弁解の余地さえないと思えた。論より証拠とはよく言ったものだが、紅莉栖の言葉が真意でないという事は、紅莉栖の言動を見ていれば、ありありとうかがい知れた。だが──
「そうなんだ〜。うん。オカリンパパって昔からカッコよかったから仕方ないね〜」
紅莉栖の無理目な物言いを真に受けたのか、まゆりが両手を顔の前で合わせて、嬉しそうに小さく跳ねる。
「あ〜、でも最近のオカリンは、少しオカリンパパに似てきたように思うのです! このままオカリンがシブシブになっていけば、きっとそっくりになるねぇ〜。あ〜、でもそうなると今度はクリスちゃん、オカリンにうっとり──」
そんなまゆりの発言に、床にへたり込んでいる紅莉栖の肩が、ピクリと動く。
「ストーップ! まゆり! それ以上の考察は、ノーサンキューよ!」
床の上からまゆりに向けて、開いた手のひらを突きつける紅莉栖。その必死な挙動を見ると、今にもその手のひらから、気の塊でも放出しかねないような──そんな勢いに思えた。
422 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:11:54.78 ID:eCLY4xXr0
仕方なく、俺自らが取り乱し続ける紅莉栖に、助け舟を手配する。
「分かった、もう分かったから助手よ。とにかく貴様は、シブ面好みのファザコンティーナという事で手を打つとうではないか」
「どこにティーナをつけている!?」
上目遣いで、眼下から睨みつけられる。その綺麗で鋭さを伴った眼光に、思わず見とれてしまい──
「ねえねえクリスちゃん。クリスちゃんのお父さんは、どんな人なのかな?」
何気なく響いたまゆりの一言が、ラボを満たしていた暖かな空気を、微かに凍りつかせた。
423 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:13:22.45 ID:eCLY4xXr0
2
まゆりがバイト先へと旅立ち、紅莉栖と二人で取り残されたラボの中。ソファの上でうーぱクッションを抱え込み、身体を丸めていた紅莉栖が口を開いた。
「どうしてあんな事を言った、岡部……」
「何の話だ」
どこか空々しい声色で問い返す俺に、紅莉栖がうつむけていた顔を微かに持ち上げる。
「とぼけるな。まゆりに変な事を言っただろ。……どうして?」
「どうして……と言われてもな」
俺は紅莉栖の問いかけに、小さく顔をゆがめて頭をかく。
──クリスちゃんのお父さんは、どんな人なのかな?──
あの時、まゆりが紅莉栖に投げかけた、他愛のない一言。そして、ラボメン仲間の何気ない質問を前に、返答を詰まらせた紅莉栖。
『無理もない……』
言葉を告げられない紅莉栖を前にして、そう思った。
牧瀬紅莉栖の父親。これまで何度も垣間見てきた、科学者崩れの一人の男。そんな男の人となりを思い起こし、俺は胸中で唸り声を立てる。
『答えようなど、ないではないか……』
自らの娘が見せた才能に嫉妬し、自らの娘の成長を、自分にとっての屈辱だと言った男。
424 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:14:21.28 ID:eCLY4xXr0
そんな父親をぶら下げて、紅莉栖がそれをまゆりに伝える。それは、彼女にとって余りにも酷な作業だと思えた。
だから──
「よかろう。助手ファザーの事ならば、この俺が説明してやろう」
そんな妄言を口ずさみ、俺は紅莉栖本人の言葉を待つことなく、まゆりに対して勝手に講釈を垂れた。
俺の話を聞いたまゆりは、俺が紅莉栖の父親と面識がある事に驚きつつも、紅莉栖の父親の人となりに対して、一応は満足をしたようで──
「やっぱりクリスちゃんのパパさんだねぇ〜」
などと、一人納得しきりであった。
だがしかし、とうの紅莉栖にしてみると、俺の取った勝手気ままな言動に釈然としないようであった。
「勝手にしゃしゃり出たのが気に食わないのなら、あやまろう。すまなかった」
俺は素直に、紅莉栖に謝罪の言葉を向けた。しかし──
「そういう事を言ってるんじゃないだろ。何であんな心にもない事を言ったのかと聞いてるんだ」
俺の謝罪がお気に召さなかったのか、紅莉栖の口調はどこか問い詰めるように聞こえた。
「あれじゃまるっきり、嘘──」
「別に嘘をついた覚えはないが」
紅莉栖が吐きかけた言葉を先読みして遮る。そして、
「どうして俺が、助手の父親に関して、まゆりに嘘をつかねばならん。俺にはそんな義理も人情もないぞ」
425 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:15:52.92 ID:eCLY4xXr0
きっぱりと言ってのける。
「どこがだ。変に気を使って……バカだろ」
「失礼な助手だな」
「うるさい嘘つき岡部。何が偉大な科学者だ。何が感謝しているだ。あんたがパパの事をそんな風に思ってるわけないだろ」
そんな紅莉栖の悪態を聞き流しながら、俺は小さくため息をつく。
「だからちゃんと、前に『色々な意味で』とつけただろ。色々な意味で偉大。色々な意味で感謝。俺はそう言ったはずだぞ」
「だとしても、嘘だって事にかわりないでしょ」
紅莉栖がうーぱクッションに顔を埋めこんだ。そんな紅莉栖の様子を視界におさめながら、俺は言う。
「そうでもないだろう。あんな男だとしても、科学者だという事に変わりはない。それに偉大かどうかなんて物は個人の主観によるものだ」
「じゃあ、あんたはパパを偉大だと思ってるわけ?」
「色々な意味では、そうとも言える。誰に見返られる事もなく、たった一人で狂気の道をひた走る。そんな男を前にして、狂気のマッドサイエンティストたる俺がそれを否定など出来るものか」
俺は鼻も高々に、そんな答えを紡ぎ上げる。
「なによ。物は言いようってだけじゃない、それ」
ウーパから顔を上げた紅莉栖の言葉に、『まあ、そうとも言うかもな』などと胸の内で呟きながら言う。
「それにだ。感謝しているというのも本当だ。というか、貴様は感謝していないのか?」
俺の言葉に、紅莉栖が目を点にする。
426 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:16:46.20 ID:eCLY4xXr0
「何がどうしてそうなるのよ……」
「どうしてもこうしてもあるか。俺と貴様を引き合わせたのは、他でもない貴様の父親ではないか」
「……え」
紅莉栖の口から、小さな吐息が漏れる。
「まったく、これだからスイーツ(笑)は……。いいか? 確かに中鉢という男は、人として尊敬できるような人物などではない。しかしだ。だからこそ、俺と貴様は出会う事が出来た」
俺は言う。
あの最低最悪な一人の男が、悪の道をまっしぐらに駆け抜けたからこそ、俺たちの今があるのだと。
「あいつが貴様を刺す……などという暴挙にでなければ、最初のDメールも最初の世界線移動も起こりえなかった。娘に辛く当たっていなければ、貴様が日本へ来る事もなかったかもしれない。仮に訪れる機会があったとしても、きっと俺達が出会う事などなかっただろう。違うか?」
「……それは」
「もしも貴様の父親が、聖人君子のような人間であったなら、俺とお前は今でも見ず知らずの他人同士。ならば、尊敬こそできないとしても、少しくらいは感謝してやってもいいのではないか?」
まくし立てるような俺の言葉に、紅莉栖は相変わらずキョトンとした表情を浮かべていた。
正直に言えば、俺はあの男の事が、大嫌いである。自分の娘を手にかけようとし、割って入った俺のどてっぱらに、風穴を開けた。そんな男を、どうして許す事ができよう?
だがしかし──
『それでも、紅莉栖の父親なのだ』
そんな男と和解がしたいと、涙を流していた紅莉栖を知っている。
そのために、一緒に青森へ来て欲しいと告げられた、紅莉栖の切ない願いを覚えている。
出来ることなら、彼女の抱いた小さな願いを、いつかかなえさせてやりたいと、そう思う。
427 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:17:39.96 ID:eCLY4xXr0
紅莉栖の思い描いている、幸せな家族。そんな些細な幸せを、その華奢な手に握らせてやれればと、身の程もわきまえずにそんな事を考える。
だからこそ──
「ともに青森へ、行くのだろう?」
俺は、いつかの約束を口にする。と、紅莉栖が微かに唇を震わせた。
「あんな事があったのに……一緒に来てくれる……の?」
「ふん、勘違いするなよ。というか、むしろ貴様が拒否しようとも、俺一人でも行かねばなるまい」
そう言葉にし、そして胸を張ってふんぞり返る。足を踏ん張り両手を開き、まとった白衣を盛大に羽ばたかせて声高に叫ぶ。
「この世に狂気のマッドサイエンティストは二人もいらぬ! 再びの直接対決を経て、どちらが真に狂気をつかさどる存在なのかを知らしめてやる!」
少し恥ずかしかったが、それでも声を弱めることなく想いを口にする。
「そして、いつかあの男に、自分がただの中年オヤジであるという事を認識させてやろう! ああ楽しみだ! 自らの非力さに打ちひしがれて、ガックリと肩を落とした奴が、すごすごと妻や娘の下へと逃げ帰る様を見る事が、今から楽しみでしょうがないぞ! フゥーハハハッ!!!」
声がかれんばかりに、高笑いを響かせる。そんな俺の姿に紅莉栖が小さく微笑んだ。
「それは……私も楽しみだ」
「ならば、貴様もついて来い。この鳳凰院凶真の実力を見せ付けてやろう。必ず……な」
「何がついて来いだ。立場が逆だろ……バカ」
紅莉栖の瞳から涙が零れたように見えたのは──きっと気のせいだろう。
牧瀬紅莉栖のたどり着く先に。この俺が導く彼女の未来に、涙など必要ない。だからきっと──
428 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:18:23.90 ID:eCLY4xXr0
「ほんとあんたって、たまにそういう事する……反則だろ」
紅莉栖の微かな呟きが聞こえた。
「何か言ったか?」
「何でもない!」
言い張って、そっぽを向く紅莉栖。どことなく複雑そうな表情を覗かせている。
「どうした? ひょっとして、まだ背中が痛むのか?」
そんな俺の言葉に、紅莉栖は少しだけ間を置いて──
「ちょっと……痛いかも……」
なぜだか、顔を赤く染めていた。
「おいおい……どれだけ強くぶつけたんだ?」
「だって、焦ってたから……」
「まあいい。見せてみろ」
「うん……」
彼女の横に腰を降ろし、彼女の背中に手を伸ばし、彼女の髪に触れ──
次の瞬間にラボに響いた、「バイトお休みでした〜」というまゆりの発言に、俺と紅莉栖が飛びのいた事は──言うまでもない事であったりするのである。
お〜しまい
429 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/23(月) 21:20:20.21 ID:eCLY4xXr0
今日はこれだけ
えっと……まだ半分もいっていないわけだよな……まじか
430 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:36:18.03 ID:kVyODNzX0
自己満ぞっかーな私めがしょうもないことをしています 運悪く遭遇した人は生暖かい目でブラウザバックがいいでしょう というかバックしなさい、いいですね
431 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:37:04.32 ID:kVyODNzX0
自己満ぞっかーな私めがしょうもないことをしています 運悪く遭遇した人は生暖かい目でブラウザバックがいいでしょう というかバックしなさい、いいですね
432 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:38:51.33 ID:kVyODNzX0
2011年3月
ヴィクトル・コンドリア大学 脳科学研究室となり 資料室 深夜
真帆「うぅ〜」ソファ-ニゴロン
真帆(また帰りそびれてしまった……。もう何泊目よ……)
真帆(たまには帰ってゆっくりした方がいいのでしょうけど、どうにも帰宅するのが億劫なのよね)
真帆(一応これでも年頃の娘なわけだし、身だしなみくらいは気を配るべきなのでしょうけれど……)
真帆「…………」クンクン
真帆(まだ……大丈夫……よね? 白衣だけは昨日取り替えたわけだし……)
真帆「って。あーもう!」
真帆(きっと、こういうところがダメなんだろうなぁ、私って)
真帆(あの紅莉栖にすら、いい人……。むむ、まあちょっとアレな人ではあるけど、それでも紅莉栖にとっての『いい人』と表現しても別に差し支えないわよね……? いやほんと、どうしようもなくヘンな男の人だったけど)
真帆「岡部倫太郎……ねぇ」
真帆(まあ私からしたら、一ヶ月くらい前のファーストコンタクトからして印象は最悪だったわけで)
真帆(そりゃそうでしょう。怪我をしたのかと思えば大声で笑い出すわ、人のことを失礼なあだ名で呼び始めるわ、挙句の果てにはいきなり私を抱きしめ──)
真帆「…………」トクン
433 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:39:29.68 ID:kVyODNzX0
真帆(んなっ! ないないないないない! トキめいてなんていない! 何にもない!)
真帆「ふーーーふーーー! 今日は暑いわね!」パタパタ
真帆(だいたい、何がラボメンよ!)
真帆(聞けば大学生のお遊びサークルだって話じゃない! そんな場末のラボラトリーもどきにこの比屋定様を勧誘しようなんて、身の程知らずもいいところじゃない!)
真帆「というか、なんで紅莉栖はちゃっかり加入してるわけよ……」
真帆(実はここよりも、居心地とか……よかったりして?)シュン
真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」
真帆「な、なんてね!」ブンブンブンブン
真帆(あるわけないじゃない、そんなことが!)
真帆「あーあ、やだやだ」
真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」
真帆(そう言えば……あの時押し付けられたバッチ……どこへやったかしら?)
真帆(確か……)ムクリ
434 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:41:17.64 ID:kVyODNzX0
真帆(デスクの引き出しの中に放り込んでたと思うんだけど……)ヨッコイショ
隣の部屋へトコトコ
ガラガラガラ
真帆(えっと……見当たらないわね)ムムム
真帆(おかしいわね。私の記憶が確かなら、この引き出しの中にあるはずなのだけれど……?)
真帆「ん〜」
真帆「おお! ひょっとして封筒の中とか!」ポン
資料室(宿)へトコトコトコ
真帆「ええと……昨日の封筒はどこかしら……」キョロキョロ
真帆(昨日の夜、寝落ちするまで資料室で過去の記録を読み漁ってたのだけど)
真帆(確かその資料を入れておく封筒が欲しくて、それであの引き出しから使い古しの封筒を持ち出して……)
資料室 ゴチャァ
真帆「うわぁ……誰よ資料室をこんなに散らかしたのは……」
真帆(って、私か。私しかいないわよね、うん)
435 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:42:08.47 ID:kVyODNzX0
真帆「んん〜確か、A4が束ではいるサイズの奴だったはずだけど……」キョロキョロ
真帆「あ……この下のほうに埋もれた奴……っぽいわね」
真帆(でも……。一日でこんなに下に埋もれるものかしら?)
真帆「あーでも、私だしなぁ……。仕方ない」
真帆(気になったなら、確認あるのみね)ギュ
真帆「せーの……やー!」グイッ
スポーーーン!
真帆「うわっ!?」
真帆(意外と簡単に抜けた!? っていうか勢いあまって……)
ブワッサァ!
真帆「あひ!」
真帆(お……おー、派手に飛んでった。封筒だけ残して、中身が丸っと吹っ飛んでったわ……)
真帆「って、大変!」パタパタパタ
436 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:43:05.18 ID:kVyODNzX0
真帆「えっと……」オロオロ
真帆(ああ、中身の資料はちゃんとクリップで留めてあったみたいね。バラけなかっただけでも幸運だったわ)
真帆(ええと……この資料は……)
真帆「いや……。ずいぶんと分厚いけど、何これ?」
パラパラパラ
真帆「資料……じゃない。これって……小説? しかも日本語表記?」
表紙へモドリ
真帆「ええと、タイトルは……『助手迷子禄』……」
真帆「なんのこっちゃ?」
真帆(なんだ。目当ての封筒じゃなかったわね。っていうか、誰がこんなものを持ち込んだのかし……って、封筒に書いてある宛名、紅莉栖の名前じゃないのよ!)
真帆(ってことは、これは郵送物? 差出人は……鳳凰院凶真……?)
真帆「ほうおういんきょうま……どこかで聞き覚えが……」
真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」
真帆「あ。岡部さんが確かそんな別称を……」
437 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:44:09.74 ID:kVyODNzX0
真帆「ん? と、いうことは」ポクポクポク
真帆「なにこれって岡部さんが書いた小説!?」チーン
真帆「じゃあ、自分で書いた小説をアメリカにいる彼女に送りつけたわけ?」
真帆(ヤバイ……気色悪い……)
真帆「いやー、あれだ。そういうことするタイプの人には見えなかったんだけど、あれだなぁ春だなぁ、訴訟したほうがいいかしら?」
真帆「………」トコトコ
真帆「……」トコトコ
真帆「…」ポスン
真帆「さてと」フッ
ペラリ
真帆「ええと、なになに……」
438 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:45:22.91 ID:kVyODNzX0
##########################################################
439 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:46:26.68 ID:kVyODNzX0
1
あの長かった夏も、気付けば終わりに近づいていた。
9月も残すところ後わずか。暦上ではすでに秋と言っても差し支えない。であれば、そろそろ涼風の匂いなどと言う物が感じられてもよさそうな頃合ではあるが──
『暑い』
残念な事に、この狭苦しいラボの中は、未だ衰えを知らないヤル気満々の残暑によって、蹂躙されつくしていた。
俺は吹き上がる額の汗を、白衣の袖口に吸い込ませながら、紅莉栖に目を向ける。
熱気立ち込める、ラボの片隅。ソファーに腰掛けた紅莉栖は、先刻よりテーブルの上に視線を落とし続けていた。
ひざに抱えたウーパのクッションが、やたらと暑苦しそうに見えて仕方ない。
「で、どうだ助手よ。これで俺の説明は一通り終わったわけだが……」
確認の意味で、言葉の最後に「理解できたか?」と付け加える。と、紅莉栖が俺に顔を向けた。
「当然、理解できてる。理解はできてるけど……」
「できてるけど、何だ?」
「正直、にわかには信じがたい話だな……とか、思ってる」
紅莉栖は、どこか懐疑的に見える瞳を作って、そう言った。
そして、とうとう茹だる暑さに耐えかねたのか、ヒザに抱えていたウーパクッションを脇にどかし、代わりにテーブルの上に放り出されていた厚紙のような物を手に取った。
「それにしても、バカ暑いんですけど。岡部、はやく扇風機、直せ」
そんな事を口走りながら、少しでも涼を取ろうと、手にした厚紙を団扇のように動かし始める。
そんな紅莉栖に、俺は言う。
「残念だが、俺はマッドサイエンティストであって、家電修理工ではない。涼を取りたいなら、自分で何とかしたらどうだ?」
「それが出来たら、やっている」
まるで、つまらない問答でもしているように、紅莉栖は愛想のない声色でそう返した。
そんな紅莉栖を視界に納めながら、問いかける。
「で、俺の話のどこが信じがたいというのだ?」
唐突に戻された会話の内容に、紅莉栖の反応が微かに遅れる。が、それも一瞬の事。俺の問いかけた内容を把握し、すぐさま返事を返す。
440 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/24(火) 23:47:30.70 ID:kVyODNzX0
「どこがといわれたら、全体的に。しいて上げろというなら……そうね。やっぱりこれかな……」
紅莉栖は、再び視線をテーブルの上へと戻した。
「なんだっけ。メタルウーパだっけ? こんなオモチャ一つが世界大戦の有無を左右するって話だったけど、いくらなんでもそれはどうかと思うわけだ。流石に突飛すぎて──」
「そんな事はなかろう」
まだまだ続きそうであった紅莉栖の反対意見。それをせき止めるようにして、俺は声を立てる。
「北京で蝶が羽ばたけば、ニューヨークで嵐が起こる。バタフライ効果とは、本来そういうものなのだろう?」
「それはまあ、そうなんだけど……」
俺の言いたい事を察したのか、紅莉栖の返した返答は、どこか歯切れが悪かった。しかしそれも仕方ないと言うもの。
──小さな出来事が、後に思いもかけない大きな事態へと発展する──
それがバタフライ効果だと、以前、俺に説明したのは、他でもない紅莉栖自身なのだ。
まるでその事を証明するかのように、俺の発言を受けた紅莉栖は、テーブルの上に鎮座する金属製の玩具を見つめて考え込む。
そして、しばらくの思考を経て、口を開いた。
「でも、岡部の言う通りなのかも」
一人、小さく頷きながら言葉を続ける。
「小さな事象を切欠に、後に思いがけない展開が生まれる。まさにバタフライ効果と言っても差し支えないような現象は、これまで何度も観測されてきたわけだし……」
観測。
恐らく紅莉栖が口にしたのは、自ら取り戻した記憶や、俺から聞いた話などにある、あの三週間の出来事を指しているのであろう。
確かに、あの過ぎ去った三週間で、俺は『バタフライ効果』を体感できるような状況を、幾度となく経験してきた。
たった一つのメールをきっかけに、一人の少年の性別を変え、秋葉原を消し飛ばし、未来から小さな暗殺者を招き寄せて、さらには一人の人間の命を左右する──そんな体験を、この身に嫌と言うほど刻み込んできた。
そして紅莉栖もまた、あの過ぎ去った永遠の三週間の記憶を、思い出しているのだ。
『もっとも、紅莉栖の記憶には、Dメールによる過去改変は、含まれていないみたいだが……』
紅莉栖が取り戻した記憶は、リーディングシュタイナーを備えた俺ほどに、完璧なものではなかった。
それは、あくまでも『α世界線で紅莉栖が持っていた、最終的な記憶』に留まっており、ともすれば、打ち消してきたDメールに関わる記憶は、その範疇外であった。つまり──
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