勇者「休暇?」女神「異世界転生しすぎです、勇者さま」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 01:29:50.85 ID:tw4cR42z0
勇者「ふんっ!」

魔王「ぐぉ……、がぁ……っ」

勇者「…………」

勇者「終わった……」

勇者「…………」

勇者「……はぁ」

――――

勇者「…………」

勇者「…………」グッグッ

勇者「…………」ボー

勇者「…………」



ガタンッ


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1530116990
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 01:30:46.02 ID:tw4cR42z0
女神「97回目の魔王討伐、お疲れさまでした。勇者様」

勇者「97……。もうそんなになるのか」

女神「ええ、もうそんなになりました」

勇者「あと、どれくらいだ?」

女神「全部で108ですから、あと11個です。あなたが救わなければならない世界は」

勇者(そう、俺は世界を救わなければならない勇者だ)

勇者(108の世界を、魔の手から救う。歴戦の勇者)

勇者(魔王を倒すために仲間を集めたり、修行をする。そして一つが終わる度に、俺はまた次の世界に肉体を異世界へと転移し、また一から積み上げ始める)

勇者(肉体に限界が来たら今度は転生し、赤ん坊からやり直す)

勇者(幾度となく繰り返された、天性の勇者の才を持ってしまった俺の義務だ)
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 01:31:12.48 ID:tw4cR42z0
勇者「そうか、じゃあ次に――」

女神「いえ」

勇者「?」

女神「その前に、勇者様にはやっていただかなければならない、重要なお仕事があります」

勇者「何だ」

女神「それは……」

女神「休暇です」

勇者「キュウカ?」

女神「休暇です」

勇者「新種の植物の名前か?」

女神「いいえ」

勇者「それとも古より伝えられる呪文の名前か何かか?」

女神「いいえ、休暇です。お休みとも言います」

勇者「休暇」

女神「はい。勇者様はこれまでほとんど休みなしで世界を救い続けてきましたので、休養をとるべきと私が判断しました」

勇者「休みなら毎回ここでとってる」

勇者(世界を救って戻ってくる度に、一週間くらいは女神のいるこの場所でゆっくりしている)

勇者「ここはどこの避暑地よりもずっとゆっくりと休めるし、十分さ。十二分と言ってもいい」

女神「なら、次に行っても大丈夫だと?」

勇者「ああ」

女神「あんな死に方をしたのに、ですか?」

女神「自ら首を吊ったあなたが、大丈夫だと言えますか?」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 01:31:40.70 ID:tw4cR42z0
勇者「…………」

勇者(無機質な縄に絞めつけられた感覚が脳裏をよぎる)

女神「勇者さまは転生を繰り返す日々に疲弊し、魔王を倒した次の日に自殺したんです。覚えているでしょう?」

勇者「でも死んだところで、どうせここに戻ってくるんだからいいだろ?」

女神「いいわけありません!」

勇者「!」

女神「今まで、勇者さまの身にどんな不幸があろうと、私が転移するまでその生を全うしていました。そのあなたが、自ら命を断つなんてこと、見過ごせる訳ありません」

勇者「たまたま、ちょっと魔が差しただけだ」

女神「魔が差して自殺する、そんな勇者が世界を救えると思いますか?」

勇者(できる、と思った)

勇者(何回も何回も、同じようなことを繰り返してきたのだ。もう機械のようにやるべきルートをたどって、俺は魔王を倒せる)

女神「できる、と?」

勇者「……!」

女神「では、勇者様。これを」スッ

勇者「この光は……! くっ!」

女神「あなたがさっき魔王を倒した世界の光景です」

女神「見えるでしょう?」

勇者「……なんで」

勇者「魔王が死んだって、みんな喜んでいたのに……」

女神「みな、悲しんでいるのです」

女神「あなたの、死を」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 01:32:16.79 ID:tw4cR42z0
勇者(世界が平和になってから起きることは、基本的に二種類のいずれかだ)

勇者(平和になってからの経過を見る中で、それ以上の驚異が訪れないと確信したところで、また別の世界に飛ばされるか)

勇者(あるいは、それを待たずして勇者としての力を恐れる人々によって糾弾され、吊し上げられて殺されるか)

勇者(どちらにしてもそれ以降で人間が魔族によって滅ぼされることはないのだから、俺にとっては五十歩百歩だ)

勇者「……ああ、思い出したよ。だから、俺は死んだんだんだな」

勇者「魔王がいなくなった世界で、これ以上生きていても意味がないとわかったから」

女神「正確にはわかったではなく、そう思い込んだんです。こんなことになるとは思ってもみなかったでしょうから」

勇者「けど、もう魔王によって人間が滅びることはない。そうだろ?」

女神「それは、そうですが……」

女神「しかし、積み重なった悲しみ、苦しみ、怒り、それらが、勇者様の精神を蝕んでいきました。肉体が死んでも再生できますが、心は、魂はそうもいきません」

勇者「俺にはまだ救わなきゃいけない世界が、人たちがいる」

女神「まだ気づいていないようですね」

勇者「えっ?」

女神「もう勇者さまは何年も、いえ、何十年も笑っていません」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 01:32:58.79 ID:tw4cR42z0
勇者「そんなことはないよ。旅の途中も、魔王を倒した後も、何回も笑ってた」

女神「それは表面だけを取り繕うための作り笑いでしょう? 一体どれだけ長い間、勇者さまのことを見てきたと思っているのですか」

勇者「……ぐうの音も出ないな」

女神「……いえ、勇者様に怒りをぶつけるのは間違っていますね。あなたの心の磨耗に気づけなかった私の責任です」

勇者「いや、俺は――」

女神「だから、あなたには休養をとっていただきます。とある場所で数ヶ月ほど」

勇者「数ヶ月!?」

女神「ええ。でも安心してください。きっと一瞬のように過ぎ去りますから」

勇者「冗談じゃない! そんなことをしているよりも先に、やらなければならないことがあるのに」

勇者(数ヶ月あれば、うまくいけば一つの世界が救えるかもしれない。最短だったら、一ヶ月で救ったこともある)

女神「どんな時でも休養は必要ですよ。ほら、このチラシをご覧になって」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 01:33:25.53 ID:tw4cR42z0
『この世の楽園! 最高のバカンスがあなたを待っています!』

『温泉、遊戯施設などのあらゆるリラクゼーション施設の完備! 一生分の贅沢をあなたに』

勇者「…………」

女神「どうですか? ここならじっくりお休みできると思いますが」

勇者「こんなの、どこにあるんだ?」

女神「そういうものが存在する世界があるのです。そこにあなたを転移させます」

勇者「くだらない。それこそ転生の無駄遣いだ」

女神「必要投資ですよ、勇者さま。それと生まれ直すわけではありませんから、転生ではなく転移です」

勇者「…………」

女神「それでは、勇者さま。良いバカンスを」

勇者「ちょ、ちょっと待て。あまりにも急すぎる」

女神「別にここにいたって、何もありませんから」

勇者「いや、あるだろう。準備とか」

女神「ご心配無用。必要なものは全てあちらにございますから」

勇者「そういうことじゃ――」

女神「転移魔法(フィラー)!」

勇者「女神様っ!?」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 01:34:12.71 ID:tw4cR42z0
女神「大丈夫です。ゆっくり、休んできてください♪」

勇者「こんなことをしている場合じゃないだろ……」

勇者(俺の義務は世界を救うことで、どこかで休むことでも遊ぶことではない)

女神「では……、…………あれ?」

勇者「女神様?」

女神「あれ? 何かおかしいですね?」キョトン

勇者「おかしいって、女神様?」

女神「……あ」

勇者「『あ』って何ですか。まさか……」

女神「え、えへへー」

女神「あっ、でも大丈夫ですよ、勇者様。……たぶん」

勇者「たぶん!?」

ピュウウウゥゥゥゥン…
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 01:34:41.91 ID:tw4cR42z0
――

――――

ザァァン…

勇者「ここ、は……」

勇者「……青い」
 
勇者(雲ひとつない紺碧の空だ)
 
勇者(その中にひとつ浮かんでいる太陽が、ひどく眩しい)

勇者「この音は……海?」

少女「あなたは、何をしているの?」

勇者「えっ?」

少女「こんなところで寝てて、風邪はひかないけど変だよ」

勇者「そんなやつに話しかけてくるなんて、君も人のこと言えないんじゃないか?」

少女「言われてみたら……、うん、そうだね。あははっ」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 01:35:12.25 ID:tw4cR42z0
少女「それで、結局質問に答えてもらってないんだけど」

勇者「質問って?」

少女「さっきも聞いたでしょ? 何をしているのかって」

勇者「ああ……、そう言えばそうだったな」

勇者「この世界には、魔力の気とかないんだな」

少女「マリョク?」

勇者「いや、こっちの話」

勇者(魔物から自然と発せられる瘴気のようなもの。それらがここでは一切感じられない)

勇者(この世界には、魔王はいないのだ)

勇者「そうだな……」

勇者(だから、こう言うのが正しいのだろう)

勇者「休暇、かな」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 01:35:52.82 ID:tw4cR42z0
とりあえずここまで。

こんな感じのを書いていきます。よろしくお願いします。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/06/28(木) 01:59:08.10 ID:ImXcFT5SO
転生し過ぎなのはなろうなんだよなぁ…
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/06/28(木) 04:44:33.36 ID:UlRu7lNbo
おつおつ
期待しかないな
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:00:51.82 ID:tw4cR42z0
――

――――

祈る。

ただ、祈り続ける。

あの人の悲しみが、どうか終わりへ向かうことを。

あの人の苦しみが、どうか報われることを。

祈る。

ただ、祈り続ける。

すべての悲しみが、どうか終わりへ向かうことを。

すべての苦しみが、どうか報われることを。

祈る。祈る。私は祈る。

この行為に意味はないのかもしれない。

それでも、自分にはそうすることしかできない。

どうか、どうか。

この世界に、救いを。

――――

――
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:01:18.24 ID:tw4cR42z0
少女「休暇?」

勇者「ああ」

少女「何それ、あなた働いてるの?」

勇者「働いてる、か。そんな風に考えたことはなかったな」

勇者「でも、そういうのではないな。たぶん」

少女「そうよね。あなた、どう見ても大人ではないもの」

勇者「はっ?」

少女「『はっ?』って、私と同い年くらいでしょ?」

勇者「この手の大きさ……、なるほど。確かにそうなのかもしれない」

少女「でも、なら私と同じね」

勇者「同じ?」

少女「ええ。私も今ちょうど夏休みなの。あなたもそうなんでしょ?」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:01:51.31 ID:tw4cR42z0
勇者「夏休み……」
 
勇者(記憶の彼方にそんな単語があったような気がする)

勇者(今まで救ってきた世界の中に、ここに似たようなのあっただろうか)

勇者「……あ」

勇者(ふいに脳裏にある光景がよみがえる)

勇者(高い建物がいくつも建ち並び、数えきれないほどの人が歩いている)

勇者(空気はどこか濁っていて、ただ呼吸することすらもままならない、あの世界)

勇者(ああ、覚えている)

勇者「……東京って、知っているか?」

少女「東京? あなた、東京から来たの?」

勇者「知ってるのか?」

少女「いや、知らない訳ないでしょ。日本に住んでて東京って単語聞いたことない人いないと思うよ」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:02:22.48 ID:tw4cR42z0
少女「へぇ……。なら、なんでわざわざこんなところに?」

勇者「なんでって?」

少女「だって、ここには何もないのに。ただ、海と山があるだけで、遊園地も動物園も、そういう楽しいものは何もない、退屈な場所なのに」

勇者「動物園、遊園地……。あったような、なかったような……」

勇者(この世界の言葉を口する度に、かつての記憶がよみがえってくる)

勇者(どうしてだろう)

勇者(どこか、懐かしさすら覚えてしまう)

勇者「旅を、しているんだ」

少女「…………はい?」

勇者「旅だよ。いろんなものを見て回るんだ」

少女「その歳で? しかも一人で?」

勇者「普通じゃないのか?」

少女「いやいや、普通じゃないよ」

勇者(この年齢で一人でいるうってつけの理由だと思ったが、ここでは一般的ではないらしい)
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:03:04.16 ID:tw4cR42z0
少女「へぇ……。その歳で一人旅かぁ。羨ましいな」

勇者「そうか?」

少女「うん、私もできるならしてみたいな」

勇者「してみればいいじゃないか」

少女「そうしたいのは山々なんだけどね……。ほら、世の中物騒だしね。親とかが許してくれないよ。お金もないし」

勇者「おかね……、あっ!?」

少女「わ! び、びっくりした」

勇者「……これは、マズいな」

勇者(そうだ。ここには魔物は存在しないのだった)

勇者(全くと言っていいほどに、魔力を感じないとついさっき思ったばかりじゃないか)

勇者「……となると宿も借りれないし野宿か」

勇者「これじゃバカンスじゃなくて、サバイバルだ」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:03:33.07 ID:tw4cR42z0
少女「もしかして、お金ないの?」

勇者「…………」

少女「あなた、バカなの?」

勇者「ぐぅ……」

勇者(ぐうの音も出ないとはこのことだ。いや、ぐぅって言っているが)

勇者「はぁ……」スッ

少女「突然立ち上がって、何をする気?」

勇者「まぁ、いろいろ」

少女「いろいろって?」

勇者「ちょっと、仕事探してくる」

少女「えっ?」

勇者「まぁ、選ばなければ何かしらあるだろ。小遣い稼ぎ程度でも一晩宿をとれるくらいの仕事は」

少女「ちょ、ちょっと、あなた、何言ってるの?」

勇者「短い間だけど世話になったな。じゃあ」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:04:00.57 ID:tw4cR42z0
ソレカラドシタ

勇者「ああ、夕日だ……」

勇者「あはは、綺麗だな……」

勇者「海もオレンジ色……、綺麗綺麗……」

勇者「…………」

勇者「野宿かぁ……」

少女「だと思った」

勇者「!」バッ

少女「そんな驚く、普通?」クスクス

勇者「なんだ、笑いに来たのか」

少女「ただ単に気になっただけだよ」

勇者「暇なんだな」

少女「うん、暇だね」

少女「特にすることも、したいこともないから」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:04:33.55 ID:tw4cR42z0
少女「で、仕事は見つかったの? プー太郎くん」

勇者「もうわかってるんじゃないか。戦利品はこれだけだ」

少女「何それ? ……アメ?」

勇者「そうだ。見た目が子どもだから、真面目に取り合ってもらえなかったんだ」

少女「それで……アメ」

勇者「『えらいねー』なんて言われて、頭を撫でられたな」

少女「ぷっ……! それは……そうなるでしょっ」

勇者「……パクッ」

少女「なに味?」

勇者「ぶどう。なかなか美味いぞ」

グゥー

勇者「……腹は満たせないが」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:05:01.75 ID:tw4cR42z0
少女「ふふっ。……ふふふ、あははっ!」

勇者「そんなに笑うか」

少女「あーおかしい……。だってなんかおじさんみたいなんだもん。話し方とか」

勇者「!」

少女「いや、冗談だけどね。ちょっとそう見えたってだけ」

勇者(この子、結構鋭いな……)

少女「ねぇ」

勇者「ん?」

少女「あなた、私の家に来ない?」

勇者「君の家?」

少女「ええ」

勇者「いいのか?」

少女「大丈夫よ。たぶん、だけど」

勇者「たぶんって……」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:05:29.03 ID:tw4cR42z0
勇者「どうして、俺なんかを?」

少女「どうしてって?」

勇者「今さっき会ったばかりの奴に、どうしてここまでしてくれるんだ?」

少女「だって、あなた悪い人ではなさそうだから」

少女「あ、頭は悪そうだけど」

勇者「今のは余計だな」

少女「お金も持たずに旅をしてる人を、頭悪いと言わないでなんて言うのかな?」

勇者「……それを言われると痛いな。って、それだけ?」

少女「それだけだけど?」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:06:13.10 ID:tw4cR42z0
――

――――

少女「着いたよ。ここが私が住んでる家」

勇者「……本当に大丈夫か? なんか今になって不安になってきたんだが」

少女「じゃ、ここでちょっと待ってて」

勇者「? わかった」

少女「ただいまー!」

??「あら、おかえりなさい」

勇者「…………」

勇者「…………」

一分後

勇者「…………」

五分後

勇者「…………」

勇者「俺はいつまでここにいればいいんだ?」

少女「ほら、こっち来て」

勇者「?」

少女「上だって。こっち!」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:06:48.19 ID:tw4cR42z0
勇者「なんで二階にいるんだ?」

少女「そこの倉庫のところからこっち上がってこれるから。見つからないうちに早く!」

勇者「え、許可とか――」

少女「そんなのとれるわけないでしょ」

勇者「不法侵入だ」

少女「泊まれる場所が必要なんじゃないの?」

勇者(それを言われると弱い)

勇者「……なんてやつだ」

少女「早くこっち! 理由はあとで話すから」

勇者「あ、ああ」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:07:17.87 ID:tw4cR42z0
勇者「ここが君の部屋か?」

勇者(随分とサッパリしてるというか、物が少ない)

少女「ええ、毎年来るからもう私専用の部屋ね」

勇者「毎年?」

少女「言ってなかったかな。ここ、私のおばあちゃんの家なの」

勇者「おばあちゃん?」

勇者(話がさっぱり見えない。ここでどうして彼女の祖母の話が出てくるんだ?)

少女「夏休みになるといつも、おばあちゃんの家に遊びに来るの」

勇者「…………」

勇者「……つまり、普段からここに住んでるわけじゃないということか?」

少女「そうだよ?」

勇者「普段は?」

少女「あなたと同じ東京在住の中学生だよ」

勇者「自己紹介で在住なんて、なかなか使うものじゃないぞ」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:07:52.13 ID:tw4cR42z0
少女「まぁ、私の話なんてどうでもいいよ。それよりも」

勇者「どうでもいいわけがない。これは完全に不法侵入だ」

少女「住んでる私が入れたんだから、捕まったりしないでしょ」

勇者「そういう問題じゃない。家の中で君の家族に出くわしたらどうするんだ」

少女「来ないよ」

勇者「えっ?」

少女「親は仕事で東京。ここにいるのは私とおばあちゃんだけだし、おばあちゃんも滅多にここには来ないし」

少女「……ともかく! ここにいれば宿には困らないし、おばあちゃんだけには見つからないように! いい?」

勇者「いいって言われても……」

勇者(でも、外はもう日が暮れかけていて、辺りが暗闇に包まれるのも時間の問題だ)

勇者(ただ、それでもわからない。なぜここまで今日会ったばかりの俺に……)

少女「その代わり……」

勇者(だろうな。何か裏があると思っていた)
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:08:18.51 ID:tw4cR42z0
少女「……ううん、やっぱり内緒!」

勇者「はい?」

少女「内緒って言ったら内緒なの!」

勇者「内緒って、それは……」

少女「女の子の秘密を知りたがる男なんて、嫌われるよ?」

勇者「そこまで言われて知りたがらない人間の方が、よっぽど信用ならないと思うが」

少女「それも……そうだね! あはは!」

勇者「それなら……」

少女「だからって教えるとは限らないけどね」

ゴハンダヨー

少女「あ、おばあちゃんだ。はーい!」

少女「他の人に見られないようにね! わかった?」

勇者「お、おい……」

バタン

勇者「…………」

勇者「…………」グゥー

勇者「……腹、減ったな」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:08:52.40 ID:tw4cR42z0
――

――――

魔王の虚ろな目が、俺の顔を睨んだまま止まっていた。

ピチャリ、と音。

それ以外は無音のまま。

勝利のファンファーレなんて流れない。

仲間の歓喜の声も聞こえない。

振り返ったって、魔王の獄炎に焼かれて炭となったモノがあるだけだ。

静寂が包んだ城の広間に、外から微かに歓声が聞こえてくる。きっと魔王が死んだことを知ったのだ。

終わった。

幾年にも及ぶ人間と魔族の戦いが、ようやく終わりを告げた。

平和が訪れたのだ。

もう魔族の者と戦う必要も、いつ殺されるかもわからない夜を過ごすことも、闇を恐れて生きる義務も、今となっては不要の長物だ。

なのに、どうしてだろう。

こんなにも、得たものよりも失ったもののことが頭の中に浮かぶのは。

――――

――
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/28(木) 20:09:19.61 ID:tw4cR42z0
今日はここまでです。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 20:29:37.92 ID:Pg7tyh8e0
乙期待
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/28(木) 21:48:44.49 ID:sVcED6JmO
自殺するまで休ませず、自殺したから休みをやる女神が気になります。
自殺した精神状態の人間を何の処置もせずに異世界へ送ったのは何でですか?

九十数回も世界を救った勇者。それが今になって自殺したのは何でですか?
そんな人物が何で今まで耐えられていたのが不思議でならないです。

一度世界を救ったら勇者の記憶を消す、それから違う世界へ行かせる。
このようにすれば、そもそも自殺なんてしなかったのではないでしょうか?
幾らでも方法はあるはずなので休暇をやるという導入にひっかかりました。

冒頭から気になることがあったので書きました。長くてごめんなさい。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 22:30:37.69 ID:Yf3RyOsHO
うわぁ
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 00:17:48.60 ID:dRNq5yEko
外野がごちゃごちゃ言うことではない細かいことなんざいいんだよ
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 00:29:11.49 ID:PGMoKcneo
勇者は転生するたびに見た目かわるんか?
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 00:38:31.51 ID:rnj3zLnyo
なんだこいつ
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/06/29(金) 01:44:25.06 ID:26juY4ZJo
おつおつ期待
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 13:31:53.27 ID:v9YtF5csO
ヒエッ...
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 21:55:47.96 ID:nEjYyBBl0
勇者「……はっ!」

勇者「夢、か」

勇者「もう夜……」

少女「すぅ……すぅ……」

勇者「おっと」

勇者(もう結構遅いのだろうか。グッスリ眠ってる)

勇者(薄いタオルケットのようなものをかけているものの、寝返りを打ったのかズレてしまっていた)

勇者「お腹出してると、風邪引くぞ」サッ

少女「うーん……、むにゃむにゃ……」

勇者「……はぁ」

勇者(成り行きでここにいることになってしまったが、一体どうなっているのだろう)
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 21:56:20.83 ID:nEjYyBBl0
勇者(女神様の反応から考えるに、恐らくは俺を転移させる世界を間違えたのだ)

勇者(そしてこっちに来てから女神様とコンタクトする術もない。いつもなら魔法で異空間にいる女神様と話すことができたのに、ここには魔力が満ち足りていないせいで、それも不可能だ)

勇者(つまりは、俺を異世界転移させる張本人に、何かを伝えることすらできないのだ)

勇者「どうしたものか……」

勇者(参った。本当に、どうしようもない)

勇者(このままこの世界で老いて死ぬのを待つだけなのか)

勇者「……あ」

勇者(待てよ、わざわざそんなの待つ必要はない)

勇者(異世界転移する方法は他にもある。魔王と戦い始めた頃は、しょっちゅうやられて女神様の元へと飛ばされたものだ)

勇者(つまり、死ねばいい)

勇者(それが、この世界から即時的に脱出するための唯一の手段)

勇者「……いや、待てよ?」

勇者(現状、女神様とのリンクが切れていることを考えると、死んでも女神様の元へ戻れないかもしれない)

勇者(そのまま本当に死んでしまっては、本末転倒もいいところだ)

グゥー

勇者「……腹減ったな。……あれ?」

勇者(少女の傍らに白い皿があった。その上には――)

勇者「……とうもろこし?」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 21:56:50.20 ID:nEjYyBBl0
勇者「紙が落ちてる。ふむ……」

『眠ってたから、置いておくね。これしか用意できなくてごめん』

勇者(……なんで謝るんだ。こっちはお礼を言いたいくらいなのに)

勇者「…………」ムシャムシャ

勇者「うまい……っ!」

勇者(ただでさえ甘いのに、さらにかかっている塩がとうもろこしの甘みを絶妙に引き立てている!)

勇者(犯罪的だ……、甘すぎる……! 美味すぎる……!)

勇者「……ごちそうさま」

勇者(ついさっきまで死のうと思ってたくせに、目の前に食べるものが現れると途端に忘れるなんて)

勇者(我ながら単純というか、何と言うか……)

少女「むにゃむにゃ……、あっ、寝ちゃってた」

勇者「起こしてしまったな。すまん」

少女「ううん。ちょうどよかったし」

勇者「ちょうどいい?」

少女「外、天気いいでしょ?」

勇者「まぁ、確かにいいが……」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 21:57:17.09 ID:nEjYyBBl0
少女「じゃあ」

勇者「ちょっと待て。そこは窓だぞ。まさか飛び降りるつもりか?」

少女「そうだよ?」

勇者「えっ」

少女「あなたもついてきてね」ピョン

勇者「はぁ!? ……って、そこ倉庫だったか」

少女「焦った?」

勇者「……焦ってない」

少女「じゃあそういうことにしておいてあげるよ」クスクス

勇者「む……」ピョン

勇者(おいおい、相手は中学生だぞ。ムキになってどうする。落ち着け……)

勇者「で、今からどこに行くつもりなんだ?」

少女「ちょっと行ってみたい場所があってね」

勇者「こんな真夜中に?」

少女「こんな真夜中だからだよ」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 21:58:50.14 ID:nEjYyBBl0
――

――――

少女「ふんふんふーん♪」テクテク

勇者「……あのさ」テクテク

少女「うん?」

勇者「とうもろこし、ありがとう」

少女「えっ? あー、あれね。ううん、あれしか持ってこれなかったし」

勇者「いや、空腹だったから、本当に助かった」

少女「助かったのはこっちの方だよ」

勇者「?」

少女「だって、あなたのおかげで、今こうやって外を歩けてるんだもの」

勇者「俺は護衛代わりか」

少女「そう! いくらこの辺が田舎だからって、油断してたら、がおっ! ……ってやられちゃうかもしれないからね」

勇者「危ないって自覚はあったんだな」

少女「当然でしょ。こんな時間に中学生が一人で出歩くなんて……」

勇者「それが、俺に良くしてくれる理由か?」

少女「うーん……。まぁ、それもあるのかな」

勇者「なんだか煮え切らないな」

少女「……今日、晴れててよかった。昨日は曇ってたから……」

勇者「…………」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 22:00:11.11 ID:nEjYyBBl0
勇者(辺りから他の人間の気配はしない。街灯すらないから、そもそも暗闇の中を出歩こうする輩も少ないのだ)

勇者(彼女はああ言っていたけど、この世界はかなり安全な方だ。もしも魔王がいる世界だったら、とっくに魔物に襲われている)

少女「着いたよ」

勇者「着いた?」

少女「うん」

勇者「ただの道にしか見えないが」

少女「うしろ、見てみて」

勇者「うしろって……。わぁ……っ!」

勇者(思わず声が漏れた)

勇者(目の前に広がる、至る所に光が散らばる星の海)

勇者(視界の全てが、星に覆われていた)

少女「綺麗でしょ?」

勇者「ああ……」

勇者(上半分は夜空で、下半分はそれを反射する海面なのだろう。しかし不規則に並ぶ星々の群れのせいで対象性を感じず、夜空を描いた大きな一枚の絵画のように見えるのだ)

勇者(この辺りの人はもう就寝しているのか、近隣の民家の明かりもなく、その暗さがさらに空の弱い光を際立たせる)

少女「よかった、気に入ってもらえたみたいで」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 22:00:44.03 ID:nEjYyBBl0
少女「ここね、明るいうちも綺麗なんだ」

勇者「へぇ……」

少女「ずっと前から、暗くなって、もしも星が出てたら、すごく綺麗なんだろうなって思ってたの」

少女「でも、暗くなったら危ないからって、家から出してもらえないし。一人で歩くのも怖いし」

勇者「そうだろうな」

少女「だから、あなたがいてくれて、本当によかった」ニコッ

勇者「!」

勇者(待て待て待て待て。なぜ今ドキッとしたんだ?)

勇者(相手は中学生だ。一方の俺はもう何百歳なんだ? これじゃロリコンじゃないか)

少女「ほんと、綺麗……」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 22:01:44.01 ID:nEjYyBBl0
勇者(脳内の混乱は彼女の声によってすぐに解けて、頭上に広がる光景に再び心を奪われた)

勇者(ただ俺たちは星空を見つめ続ける)

勇者(二人から漏れ出す音は呼吸だけで、他にある音は夏の虫の声と、遠くから微かに潮風に乗って流れてくる波の音だけ)

勇者(この世界にはもしかして俺と彼女しかいないんじゃないだろうか)

勇者(こんなことを考えるなんて、本当に俺自身も子どもみたいだ)

勇者(……もしかしたら、俺の精神はこの身体に侵食され始めているのかもしれない。だからこんなにも心が揺らいでいるのかもしれない)

少女「ふふっ」

勇者「なんだ?」

少女「ううん、なんでもなーい」

勇者「…………」

勇者「……しだけ」

少女「えっ? 何て言ったの?」

勇者「……いや、何でもない」

少女「えー。そこで止められると気になるよ!」

勇者「さっきのお返しだ」

少女「えー。大人げないなー」

勇者(もう少しだけ)

勇者(もう少しだけなら、いてもいいかもな)

勇者(声に出してしまいそうになった言葉は、心の中だけに留めておくことにした)
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 22:02:10.59 ID:nEjYyBBl0
少女「さっきの話だけど」

勇者「さっき?」

少女「あなたを泊める代わりに何をしてもらうかって話」

勇者「ああ、何をすれば良いんだ? 俺にできることなら何でもやるけど」

少女「……今ってさ、夏休みでしょ?」

勇者「そう、だな」

少女「きっとね、楽しいことがいっぱいあると思うの」

勇者「そうか?」

少女「そうだよ! だって中学二年生の夏だよ? 一度しかない夏だよ?」

勇者「わ、わかった、わかったから」

少女「だから……、その……っ!」

勇者「うん」

少女「……私を」

勇者「ん?」

少女「私を、楽しませてくれる……?」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/29(金) 22:02:53.24 ID:nEjYyBBl0
勇者「君を、楽しませる?」

少女「あ……っ!」カァァッ

少女「べ、別に変な意味じゃなくてね!? そ、その……、そうだ!

少女「面白いこと! 何か面白いものを、ことを、たくさん見せて欲しいの!」

勇者「面白いこと……」

少女「……だってここは、つまらないから」

少女「…………」

勇者「……わかった」

勇者(ひとりでに口がそう動いた)

少女「えっ?」

勇者「君をとびきり楽しませる。死ぬほど面白い目にあわせてやる」

勇者「その見返りとして、夏休みの間は君の家に厄介になる。そういうことだな?」

少女「ほ、本当にいいの?」

勇者「ああ」

勇者「夏休みが終わるとき、最高の夏だったって、君に言わせてみせる」
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