【ミリマスSS】「桂馬が跳ねたら」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2018/06/26(火) 13:12:46.27 ID:qjjR6slIO
長考。
といってもまだ5分ほど。
だけど長考。
プロでもアマの強豪でもない二人の暇潰しだから、それはもう十分に長考だろう。

事務所休憩室のテーブル上の将棋盤。
対面には先手の宮尾美也。
本日2連敗中。

「なんか駒を落とそうか?」

の問いかけに、眉間に軽くシワを寄せながら

「次はきっと勝ちますから〜」

と答えた彼女。
そして始まった3戦目。
現在、相矢倉から中盤に差し掛かったところで、旗色はよろしくない。
もちろん、彼女にとっての。

時刻は14時すぎ。
冷房は、止めてある。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1529986366
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2018/06/26(火) 13:26:43.11 ID:qjjR6slIO
まだ梅雨の真っ只中だというのに、本日の東京都の気温は34℃。
どう考えてもエアコンをフル回転させねばならないハズだ。

だけど、可愛い可愛い我が後輩プロデューサーであるところの可愛い可愛いA月R子女史による、

「まだ6月なのにいまからそんなにエアコンを使っていたら夏本番になったとき身体が暑さについていけませんよ」

から始まる可愛い可愛い講義により、

『窓全開』

という暑さ対策が採用されることとなった。
あれは間違いなく講義であり、断じてお説教ではない。
断じて。

ときおり吹き込んでくる風は梅雨らしい湿り気と遠くで走る電車の音を運んでくる。
あぁ、もう夏だな、と感じる。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2018/06/26(火) 13:51:00.23 ID:qjjR6slIO
そろそろ長考10分目を迎えそうな美也は盤面を見つめながうんうん唸っている。
いや、うん、ではなく、

「ん〜」

かな。
「うん」と「ふぬ〜」のちょうど真ん中あたりの、

「ん〜」

たまに小首をかしげたり腕を組んだりしながらの、

「ん〜」

まだ時間がかかりそうだな、と思いながら視線をフラフラさせていると、小鳥さんと目があった。

小鳥さんは微笑みながら、右手でグラスを口に運ぶジェスチャー。

あれはきっと、

「暑いですね。仕事帰りに一杯どうですか?今日は焼き鳥の気分なんです。冷えたビールをキュっとやりながら、砂肝をコリコリしましょうよ」

ではなく、

「何か冷たいもの飲みますか?」

という意味だろう。
もしくは両方。

現時点で喉か乾いているのは確かなので、こちらも微笑みながら頷いた。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/27(水) 02:41:17.98 ID:cTz1t/r6o
矢倉は終わった
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/27(水) 04:31:02.25 ID:ZsfHtLX4o
待ったはアリなんですか
なら気長に待ちます
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/27(水) 08:33:01.43 ID:+tikQ1xIo
気長に待つぜ
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/16(木) 05:05:51.54 ID:L1yWX6ECO
「はい、麦茶どうぞ。美也ちゃんも」

「すいません、いただきます」

「ありがとうございます~」

運ばれてきたグラスを二人で同時に傾けた

俺は右手で。
美也は両手で。

「たくさん作ってありますから、おかわりのときは言って下さいね」

そう言って自分のデスクに戻る小鳥さんに

「焼き鳥のあとは?」

と声をかけると、よく分かりましたね、と言いたげな微笑みとともに

「ラーメン…じゃなくて冷たいおソバ。今日は」

と返ってきた。
三手先を読むのは将棋の基本である。
きっと人生においても。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/16(木) 05:38:05.86 ID:L1yWX6ECO
そんな深遠ぶったことを考えながら、対面のアイドル、つまり宮尾美也のオーディションのときの様子を思い出した。

応募したきっかけについて聞かれて、

「歴史の教科書に載りたいと思ったからです~」

なんということを、三手どころか一億と二手先まで読みきったような顔で言われたもんだから、そこにいた全員の顔に!と?が大量に浮かんでいた。
まぁ、原因は社長がプロジェクトに付けたキャッチコピーのせいだったんだけども。

「将棋と囲碁、好きなの?」

履歴書に書いてあった渋い趣味について尋ねると、

「はい~。おじいちゃんに教わりました~。角の頭は槍で突け~、って。あれ?」

「どうしたの?」

「槍って駒、ありましたっけ?」

「たぶん香車のことじゃないかな…」

「あ~!ほほ~!なるほど~!」

まぁなんというか、オーディションの現場で大人たちを前にしても自分のペースを崩さない彼女に、大きな可能性を感じたわけだ。
少なくとも俺は。

だから宮尾美也は、アイドルとしてここにいる。
蒸し暑い事務所で、将棋を指しながら。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/16(木) 05:53:20.93 ID:L1yWX6ECO
「プロデューサーさん、打ちましたよ~」

その声で我に返り盤面に目をやると、どうやら銀を上げたようだ。

「おっ、その銀で俺をイジメる気だな?」

「むふふ~」

悪戯っぽさと純真さと華やかさがミックスされたその笑顔を、担当プロデューサーながら可愛いと思った。
やっぱりアイドルだな、と。
いつか教科書に載せてやりたいな、と。

「じゃあ俺も銀でイジメてやろうかな」

そう言って同じく銀を上げると、

「プロデューサーさん、マネっこですか~?いけませんね~」

と叱られた。
気分は悪くない。
これもプロデューサー特権である、ということにしておこう。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/16(木) 06:07:37.01 ID:L1yWX6ECO
別に将棋を過大評価するつもりはないけれど、二人の人間同士の意思や感情やその他アレコレのやり取りの場として、将棋以上のものを俺は知らない。

だからこそ何百年もの昔から、名のある城の一間で、宿場町の茶屋で、夕暮れどきの縁側で、将棋は存在し続けてきたんだろう。

たとえばすべての局面が出尽くして先手必勝になったとしても。
たとえばAI相手に百戦百敗する時代が訪れたとしても。

きっとそれは変わらないように思う。
競技としての将棋が命日を迎えてしまったとしても、きっと。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/16(木) 06:26:40.96 ID:L1yWX6ECO
二人の人間が盤面を挟んで向かいあい、脳の右か左かをフル回転させる。
一夜漬けの試験勉強でもなく悪徳商人の悪巧みでもない。
相手の玉を詰ますというその一点に向かって、思考力のすべてを注ぐ。
余分なものは何も無い。

だからこそ、その隙間から指し手の「本質」のようなものが顔を出す。
それがたまらなく面白い。

天才たちの集まるプロ棋士の中の、さらにトップ同士が対局するタイトル戦。
いわば、ピラミッドの頂点だ。
そこで二時間を越える長考の末に放たれた一手が、素人目にも分かるほどの悪手だったりする。
そしてそれに気付き、苦悶の表情を浮かべる。
「人間」が出る。

そうだ。
将棋とは、「人間を見せてくれる競技」なんだ、と強く思う。
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