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【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」

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682 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/07(日) 17:24:29.31 ID:KyRJ6wZ/o

 * 墓場島鎮守府 艦娘寮の外 *

山雲を背負った黒潮「ふぅ、ふぅ……」ヨタヨタ

黒潮「なんなんやここ……人が住んでるっぽいのに、人の気配がないとか、なんなん」

黒潮「人を探しに行った島風たちも戻ってきいへんし。不知火が入ってった、って言ってたのも見間違いちゃうんかな……」

黒潮「……工廠、どこやろ。ちゅーか、使えんのかいな」キョロキョロ

 < ウワァァァァン!

黒潮「!? な、なんや、泣き声!?」ビクッ

黒潮「あっちのほうからやな……」コソコソ

黒潮「この部屋かな?」マドノゾキコミ


部屋の中でギャン泣きする大和「うわああああああんん!!」ナミダジョバー


黒潮「!?」

大和「提督……あんまりです! あんまりですうううう!」ウワーーン!

黒潮「どういうことなん……あの大和があんな泣き方するなんて」

黒潮「もしかしてここの提督、ド外道なんやないやろな!?」

黒潮「となると、島風たちもやばいんちゃうか!? 急いで探さんと!!」

黒潮「……それにしても、さすがにお腹がすいたわ……」ヨロヨロ


大和「提督に対するあんまりな仕打ち! 提督が可哀想ですうううう!!」ウワーーーン!


683 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/07(日) 17:26:08.93 ID:KyRJ6wZ/o

 * 食堂 *

敷波「羅針盤って、あたしたちが海域を攻略するときに、進んだほうがいいルートを示してくれるんだ」

敷波「誰も試したことがないんだけど、この針が指し示す方向と別のほうに行くと、必ずひどい目に合うって言われてるの」

提督「本当なのか?」

敷波「本当かどうかはわかんない。けど、逆に羅針盤に逆らって生きて帰ってきたっていう艦娘には、会ったことないんだよね」

提督「……なるほど」

敷波「それに、この羅針盤の通りに進んでひどい目に合うこともあるけど、帰れないほどじゃないし」

敷波「帰るときはちゃんと鎮守府のほうを向いて安全なルートを示してくれるから、羅針盤は大事なんだよ」

敷波「だから、これがぐるんぐるん回りだしたときはすっごく焦ったんだから」

提督「帰り道を誘導してくれるのか。それじゃ一大事だな」

敷波「で、ここに流れ着いてしばらくして、あたし轟沈扱いにされたってわかったじゃない?」

敷波「それで、ああ、あの鎮守府から切り離されたんだ、ってわかっちゃったんだよね」
684 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/07(日) 17:27:06.28 ID:KyRJ6wZ/o

電「……」シュン

由良「……」ウツムキ

敷波「ああ、二人が気に病むことないって。どうせあたしもあいつが気に入らなかったんだし、いい機会だったんだってばさ」

白露「……」

島風「……私たち、どうなっちゃうのかな」

白露「……大丈夫だよ!」ガシッ

島風「え?」

白露「あたしたち、まだ沈んだわけじゃないし! こうやって生きてるんだもの!」

白露「それに、今の敷波の話だと、あたしたちは帰る場所がなくなっちゃっただけで、新しく帰る場所ができれば問題ないんだよね!?」

敷波「え? ま、まー、そうかも……」

龍驤「いやいや、ちょっち待ちぃや。うちが言うのもアレやけど、何したら除名処分されるんよ?」

白露「わかんない」

龍驤「は?」
685 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/07(日) 17:28:18.75 ID:KyRJ6wZ/o

白露「だって、私たちなにもしてないよ? 自主訓練してただけなんだけど」

利根「……」

島風「私たち全然出番がなくって。私たちの提督からお呼びがかからないから、自主的に訓練してたんだよ?」

由良「それ……本当?」

白露「本当だよー!?」

提督「こいつらの言ってること、おかしいのか?」

初春「うむ。白露はともかく、島風は駆逐艦の中でも破格の性能を誇っておる。それを放ったらかしというのは理解できん」

不知火「島風は重雷装駆逐艦と呼ばれることもあるほどですが、特筆すべきはやはりその速度かと」

五月雨「そうですね。普通なら、島風さんがいたら重用しない司令官はいないと思います」

提督「じゃあなんで艦隊に編成されてないんだ」

白露「簡単だよ、私たちの司令官の仁提督は、戦艦や空母の人たちしか興味ないんだもの」

島風「そうそう! 私がいくら速くっても、艦隊に入るのは長距離砲を撃てる戦艦の人たちばっかり!」

白露「駆逐艦の子は遠征に行くだけの最低限の人数しかいなくってさ。島風は珍しいから解体されなかっただけみたいなんだよね」

山城「また偏った思想の司令官ね……」ハァ
686 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/07(日) 17:29:20.33 ID:KyRJ6wZ/o

島風「私以外はみんな睦月型でさ。姉妹艦がいなくて、ぼっちだったところを、新造艦の白露に声をかけられて……」


 白露「私が島風のお姉ちゃんになってあげる!!」


島風「とか言い出したの。遅いのに」

白露「遅くなーい! 明石さんに頼んで思いっきり速くしてもらったもん! 今は私のが速いよー!」

島風「そんなことないもん! 島風のほうが速いもん!」

白露「私のほうが一番だよ! 一番艦だもん!」

 ギャーギャー

暁「……お姉ちゃん、かぁ」ウーン

吹雪「……」

提督「なんだかな……こいつら、単純にやかましいから切られたんじゃねーのか?」

扶桑「それより、自主訓練だと言っていましたが、ちゃんと許可を取って海に出てきたんでしょうか?」

提督「命令違反の度が過ぎた、ってか?」

扶桑「定かではありませんが」
687 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/07(日) 17:30:04.78 ID:KyRJ6wZ/o

大淀「とにかく、これだけ元気だと自殺志願者ではなさそうですね」

朧「お決まりの台詞はお預けですね」

提督「まあ、そうっぽいな……ただなあ」

神通「この鎮守府の所属にするかどうかは、考え物ですね」

提督「だな」

潮「そ、それはどうしてですか?」

提督「この二人が仁提督の鎮守府から切られた理由が、本当にそれだけかがわからねえ」

提督「本当の問題がどこにあるのか、探ってみたほうがいいな」

初春「!」キラーン

提督「そういうわけで初春。お前、不知火と一緒に本営回って仁提督の鎮守府に探り入れてこい」ハァ

初春「うむ! 任せよ!!」ムネポーン!

提督「それから白露と島風は……」

白露「一番艦がどれくらい速いか、見せつけてあげるんだから!」

島風「そっくりそのままお返しするよ! 島風が一番速いもん!」

提督「……」ピキ

吹雪「あっ」
688 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/07(日) 17:32:03.09 ID:KyRJ6wZ/o

提督「おい」ヌゥッ

白露「え!?」アタマガシッ

島風「おうっ!?」アタマガシッ

提督「お前らは少し静かにしろ。こっちの話を聞きやがれ」

白露「あぎゃあああ!?」メキメキメキ

島風「うおおおおう!?」メキメキメキ

提督「お前ら今の自分の立場、わかってんのか? ああ?」ピキピキ

五月雨「……何やってるんですか白露姉さんは……」ガックリ

朧「まあ、いい薬なんじゃないかな」

「そこまでや!」

神通「!」バッ

那珂「提督!」バッ

窓の外から入ってくる黒潮「動くんやないで!!」ジャキッ!

島風「!」

白露「黒潮!?」
689 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/07(日) 17:34:44.35 ID:KyRJ6wZ/o

 * 一方 艦娘寮から食堂に通じる廊下 *

長門「……」

如月「大和さん……」ウルッ

陸奥「彼女、本当に提督のことが好きなのね」

長門「ああ……一人にしてほしいと言うのもそういうことだったんだな」

如月「あんな風に泣いてるところ、誰にも知られたくなんかないですものね……」

陸奥「ええ、泣き止むまでそっとしておいたほうが良さそうね」

長門「とりあえず食堂に戻ろう。大和が泣いていたことは秘密だぞ」

如月「はい……? 食堂が騒がしいわ」

長門「何だ……っ!?」


黒潮「放しぃ! なんでこいつの肩を持つんや!」ジタバタ

神通「おとなしくしててくださいね」ギリッ

黒潮「あだだだだ!?」

金剛「私たちが気絶してる間に、何事デスカーー!」

榛名「勝手は榛名が許しません!」

伊8「いや、もう遅いんだけど……」
690 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/07(日) 17:36:51.37 ID:KyRJ6wZ/o

島風「黒潮!」

白露「ああもう! この手! いい加減放し」

提督「ああ?」ギリッ

白露「痛い痛い痛ーい!!」メキメキ

如月「ちょっと、何の騒ぎなの?」

不知火「余所の鎮守府の艦娘の乱入騒ぎです」

陸奥「えええ!?」

長門「どういうことだ! 殴り込みか!?」

黒潮「うるっさいわ! なんでみんな、こんな外道にへこへこしとるんや!」

金剛「外道!? そんなこと絶対ありまセーン!」Boo!

霞「そうよ、外道じゃないわよ。ただのクズよ」

朝潮「霞!?」ガビーン

暁「ちょっと待ってよ、司令官の何を見て外道なんて言うの!?」

黒潮「うちは見たんやで! そいつのせいで、大和が泣いてるところを!」

陸奥「え」
691 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/07(日) 17:39:21.42 ID:KyRJ6wZ/o

黒潮「あんな風に大和をギャン泣きさせといて、しれーっとしとるそいつの神経がわからん言うとんねん!!」

長門「……」ハァ

如月「……仕方ないわ、長門さん」

榛名「そ、それは榛名も、無理もないと思います……」

黒潮「はぁ?」

那珂「黒潮ちゃん、それ、大和さんの名誉のためにも、言わないほうが良かったと思うんだけどなー」

黒潮「どういう意味やねん、それ!」


 * かくかくしかじか *


黒潮「……ほんまかいな」ムスッ

那珂「本当だってば。ここの提督さんはセクハラどころかエッチなこと自体に抵抗を持ってる人だもん」

黒潮「ふんっ、どうやろな!」

不知火「随分と跳ねっ返りますね」

電「とにかく、司令官さんは私たちの嫌がることはしないのです」
692 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/07(日) 17:40:07.36 ID:KyRJ6wZ/o

島風「だったら私たちも早く放してよーー!」

提督「話を聞こうとせずにどっか行こうとするから捕まえてるだけじゃねえか」

利根「うむ。おぬしたちはまず静かにせよ」

黒潮「……まあええ。百歩譲ってそういうことにしといたる。うちは信じられへんけどな……!」

神通「ところで、外にもう一人、いるのではないですか?」チラッ

黒潮「!! せや、山雲や!」

朝雲「山雲!?」

黒潮「海上で拾たんやけど、気絶したまま動かんのや! うちとは関係あらへんから、助けたって!!」

提督「関係ない?」

黒潮「うちとは所属が違うっちゅう意味や! なんも後ろめたいことはない! やから……」

提督「朝雲、明石、すぐ見てやってくれ」

朝雲「ええ!」ダッ

明石「わかりました!」

提督「とりあえず、なんでこの島に来たのか、ゆっくり話を聞こうじゃねえか」

提督「込み入った事情もあるみたいだし、なあ?」ギロッ

黒潮「……っ!」ジロッ
693 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/07(日) 17:42:06.63 ID:KyRJ6wZ/o
というわけでここまで。

黒潮、山雲も遅れて登場です。
694 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/07(日) 22:12:29.49 ID:SWHBfoFMO
>>681
そんなに殺していませんよ?(墓場提督側以外)
695 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/09(火) 07:32:05.96 ID:6RncqbpXO
乙でした。
696 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:32:20.63 ID:uHfOFbsco
続きです。
697 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:32:51.04 ID:uHfOFbsco

 * 仁提督鎮守府 *

仁提督「よしよし! 戦艦はやはり強いな! 空母が制空権を抑えれば、何も怖いものはない!」

仁提督「よぉし、このまま北方海域も突き進むぞ!」

大淀(仁提督鎮守府所属)「あの、提督……」

仁提督「なんだ大淀、駆逐艦の育成の話か? それだったら日頃から遠征で育てている睦月型で事足りているだろう」

仁提督「我が艦隊の主力はあくまで戦艦だ。駆逐艦はあくまでスポット的な運用としか考えていないというのに……」

仁提督「これ以上駆逐艦に手をかけてはおれん。さっさと除名処分して、新しい戦艦のために枠を開けるべきだ」

大淀「だからと言って、そのように強制的に除名してしまっては……」

仁提督「島風も、自主訓練したいというから第4艦隊を任せていたが、闇雲に出撃するだけで戦果が上がっとらん」

仁提督「だいたい、たまたま建造でできた白露が焚き付けたせいで、白露にも余計な改装を施すことになった!」

仁提督「戦艦の恒常的な運用のために必要な資材を無駄にする気はないぞ!」

大淀「ですから、それでは……」
698 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:33:33.05 ID:uHfOFbsco

仁提督「この艦隊の司令官は私だ。命令違反したからこそ除名した、それに何か問題があるのか」

大淀「そうではありません、問題なのは……」

仁提督「我々が戦線を維持していくためには、主力である戦艦の維持が必要不可欠なのだ」

仁提督「駆逐艦だけではなく、軽巡洋艦も不要な艦は資源に変える。一番良いのは、潜水艦による資源調達チームの編成だな」

大淀「……提督」

仁提督「よし、知り合いに頼んで潜水艦娘を融通してもらえないか、交渉してみるか。大淀は引き続き第一艦隊に出撃の連絡を出せ」

大淀「提督! お話を……!」

仁提督「くどい! 俺に指示に対する返事は!」

大淀「……了解、致しました」

仁提督「それでいい!」

 バタン

大淀「……はぁ……仁提督では、北方海域を攻略できなさそうですね」ハァ
699 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:34:21.29 ID:uHfOFbsco

 * 墓場島鎮守府 執務室 *

不知火「なるほど。そのようなことが」

初春「ふむ……北方海域か。あまり良い思い出はないのう」

提督「昔の話か?」

初春「それもある。が、今は今で厄介な仕掛けがあると五月雨から聞いておる」

初春「北方海域には、駆逐艦だけの編成にしないと、決して最奥まで辿り着けない海域があるそうじゃ」

提督「なに?」

陸奥「聞いたことがあるわ。キス島のあたりでしょ?」

初春「うむ。入れたとしても軽巡を一隻まで、じゃな。でなくば、羅針盤と潮流に阻まれ、それ以上の進軍は成らぬのじゃ」

大淀「仁提督の方針では、北方海域の突破は難しいと思います」

提督「北方海域への進軍が近かったら、その辺の情報も仕入れてるよな? なのに、島風と白露を切ったってか」

大淀「どうしてなんでしょう……」ウーン

提督「単純に、仁提督が調べてないか、その手の情報を無視してるか、どっちかだな」

白露「島風、何か心当たりない?」

島風「うーん……正直に言うと、私、あんまり歓迎されてなかったし……」

初春「なんじゃと……?」
700 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:35:02.92 ID:uHfOFbsco

黒潮「それ、ほんまなん?」

島風「本当だよ、『ふーん、そうか』程度のリアクションしかされなかったもん」

黒潮「ありえへんて。島風が欲しい言うてる提督、大勢おるのに」

提督「そいつが島風の能力を重要視してねえんだろ。なんか、話聞く限り射程や火力の高い艦を優先してるっぽいしな」

白露「そんなあ! 島風のいいところを無視するつもり!?」

提督「というより、戦艦しか見えてねえんだろ。艦種でばっさり見切っちまってんじゃねーの」

提督「仮に除名されずに仁鎮守府に戻ったとしても、早かれ遅かれ除名か解体か、そこらへんになってたんじゃねえか?」

白露「そんな!?」

提督「戦艦を出撃させるために、無駄を削って遠征を増やすのが常になってるなら、出撃予定のない駆逐艦の強化をよしとするか?」

提督「多分、そいつは全部戦艦と空母で事足りると思ってんだろ。初春、その辺の裏付け、とってこれるか?」

初春「うむうむ、わらわに任せよ」ムネハリ

島風「……やっぱり、必要とされてなかったんだ」シュン

白露「……島風、気を落とさないで」

陸奥「ねえ、初春ってこういうの得意なの?」ヒソッ

大淀「出たがりなんです。好奇心旺盛というか、推理小説好きだからというか」ヒソヒソ

陸奥「ああ……」
701 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:35:47.86 ID:uHfOFbsco

提督「でだ、次は黒潮の番だが」

黒潮「……」ジロッ

提督「俺を睨んだってなにも出ねーぞ。話す気がないならとっとと家に帰んな」

黒潮「……うちに帰る場所なんか、あらへんわ」

不知火「黒潮……?」

黒潮「うちはなあ……人を……人間を、海に連れ出して捨ててやったんや……!」ギリッ

白露「!?」

島風「え……ええええ!?」

黒潮「せやから今のうちは犯罪者も同然や。帰りたくても帰れへんねん」

黒潮「けど、別に帰りたいとも思わん。あいつがあんな奴だとは、思わんかったからなあ……!」ギリギリッ

初春「……提督よ、この殺気は危険じゃぞ!」

提督「別にいいだろ。怒りたいんだろ? どうせ俺には関係ねえ」

大淀「提督!?」

提督「いいから何があったか喋ってみな。お前のその怒りの理由……俺たちに聞かせられないようなことか?」

黒潮「……」
702 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:36:32.77 ID:uHfOFbsco

白露「私は話を聞くよ!」

島風「し、白露!?」

白露「だって、海上で声をかけられたとき、黒潮は中破した山雲を背負ってたじゃない!」

白露「気を失ってたところを、放っておけなくて連れてきたって言ってたじゃない!」

白露「見ず知らずの誰かを心配できる人が、悪い人なわけないよ!」

黒潮「……白露……」

提督「人の話を聞かない奴がよく言うぜ……」ハァ

陸奥「とにかく、そこまでするに至る理由があるわけでしょう? その理由はちゃんと聞くべきよ」

不知火「黒潮。話してもらえませんか」

黒潮「……ええわ、話したる。胸糞悪いけどな」


 *


黒潮「うちは、保提督の鎮守府の艦娘や。規模はまあ、中の下くらいの、ほどほどの鎮守府やな」

黒潮「その鎮守府には陽炎型が4人おってな。うちと、雪風、嵐、萩風が着任してる」

黒潮「その中ではうちが一番上……陽炎型の三番目やから、雪風たちは妹みたいなもんなんや」
703 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:37:18.25 ID:uHfOFbsco

提督「不知火も陽炎型だったか?」

不知火「はい。不知火は陽炎型の二番艦に当たります」

黒潮「……あの3人にしてみればうちは一応お姉ちゃんやから、まあ、それなりに姉らしいことはしとったんよ」

黒潮「けど、あの日、どうしても許せない事件が起きたんや……!」

白露「何があったの?」

黒潮「保提督が、学生時代のいじめっ子に、ゆすられとったんや」

島風「え……!?」

黒潮「子供のころの弱みっちゅうか恥ずかしい写真をばらまかれたくなかったら、言うこと聞けって言われとったらしいんよ」

黒潮「金やら何やら巻き上げられて……ほんとアホらしいわ。警察なりなんなりに突き出せば良かったんや」

提督「……」イライラ

初春「提督よ。あからさまに不機嫌な顔をしておるな」

提督「当然だ。ほいほい言うこと聞いてたら、そいつらが調子に乗るのが目に見えてる」イライラ

黒潮「……ようわかるな。その通りや」
704 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:38:03.44 ID:uHfOFbsco

黒潮「それで、そいつらが次に何を要求したか……わかる?」

島風「……?」

白露「……何て、言ってきたの?」

黒潮「雪風たちと会わせろ言うてきたんや……!」

大淀「!」

提督「……それで、会わせたのか?」

黒潮「ああ、会わせたったよ。可愛い服を着せて、艤装を外してなあ?」

初春「馬鹿な!?」

提督「……おい、オチが読めたぞ。そいつは保提督の差し金か? だとしたらとんでもねえ下衆野郎だな」

黒潮「まあ、そういうことや……!」ギリッ

島風「え? ど、どういうこと!?」

大淀「艦娘は艤装を外すと、力が普通の人間と同じくらいにまで制限されます。安全装置のようなものです」

大淀「その安全装置がかかった非力な状態で、提督を脅かすような相手と会うことが、安全だと言えますか?」

白露「え……」
705 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:39:07.15 ID:uHfOFbsco

大淀「そういうことなんですね、黒潮さん?」

黒潮「そう……あいつは、雪風たちを襲わせたんや。自分の保身のためになあ……!」

全員「「……」」

提督「よくやるぜ、くそが……!」

陸奥「最低ね……」

提督「今の話が本当なら、黒潮の怒りは至極当然だ。黒潮のやった行為は非難されるようなことじゃねえぞ」

黒潮「……」

提督「お前らはどう思う?」

島風「……信じられない、よ……」フルフル

白露「うん……まさか、そんなことをする人がいるなんて」アタマオサエ

初春「とんだ愚物がいたものじゃのう……!」

不知火「はい……頭に来ました」

大淀「提督、どうなさるおつもりですか」

提督「……どうすっかねえ。その雪風たちを助けに行くか? それとも保提督をぶちのめすか?」
706 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:39:48.11 ID:uHfOFbsco

初春「ふむ……もう少し黒潮から仔細を訊かねばなるまい。黒潮よ、雪風たちは今どうしておるか、わかるか?」

黒潮「……」フルフル

島風「それじゃ、雪風たちは……」アオザメ

黒潮「あー……その、襲われたって言ったけど、実際にはぎりぎり現場を押さえて阻止できたんよ」

白露「本当!?」パァッ

島風「良かった……!」ホッ

黒潮「あの日、うちは遠征に行くように指示されてたんやけど、そのときに変な話を聞いたんよ。雪風たちがおめかししてる、って」

白露「おめかし?」

黒潮「うん。お洒落な服を着て、艤装を外してた、て」

黒潮「雪風たちは比較的最近着任したんよ。だから同型艦のうちが、あの三人のお世話係みたいなもんやったん」

黒潮「実際、陽炎型としてもうちの妹分やから、可愛がらなあかんなあ、って。ちょっとはお姉ちゃんらしいとこ、見せたろ思とったん」

黒潮「そこに艤装外すだの、可愛いおべべ着せてるだの、胡散臭いことしてたら気になるやん……」

初春「……それで、雪風たちを尾行したと?」
707 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:40:33.10 ID:uHfOFbsco

黒潮「……ほかの子に遠征の任務の代わりをお願いして、保提督と一緒に出掛けてった3人のあとをこっそりついて行ったんや」

黒潮「人通りの少ない港の倉庫街を歩いてるのも、お忍びやからかなー、って考えてた」

黒潮「ついたら古臭い雑居ビルのカラオケボックスで、チャラそうな男たちがおって……おとなしい保提督の連れとは思えんかった」

黒潮「それがどうにも嫌な感じがして、もう気が気でなくて、中に入ろうか入るまいか、ビルの周りをうろうろしてたんよ……」

白露「……そ、それから?」

黒潮「しばらくしたら……保提督だけが一人でビルから出てきたんや……!」

黒潮「見た瞬間、血の気が引いたっていうか、さあっ、と、体温が抜けてったっていうか……」

黒潮「そんで、保提督の襟首掴んで、問い詰めたんや。雪風たちをどこへやった、て」

黒潮「保提督は、答えてくれんかった。なんのことだ、って、とぼけよった」

黒潮「それでぷっつん来て、力づくで居場所を吐かせて……その部屋に入ったら、雪風たちは部屋の隅に追いやられてた」

島風「無事だった……ん、だよね?」

黒潮「……うん」コク

黒潮「けど、3人ともあちこち引っ掻き傷やら擦り傷やらつくってて、服も破けてて……悔しいやら悲しいやら、泣けてきてなあ」

黒潮「3人を襲った奴らも、保提督も許せなくて……馬鹿男4人担いで港に行って、そのまま海に出たんや」

白露「……」
708 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:41:19.47 ID:uHfOFbsco

黒潮「ほどほどに沖に出たところで、そのゴミどもを海に投げ捨てて……あとはもう、そのまま当てもなく……」ウナダレ

初春「……」

島風「……」

大淀「……その、保提督たちは、死んだんですか?」

黒潮「……どうなんやろ」ハァ…

黒潮「怒りに任せて海に出たはええけど、そのあと妙に冷静になって……」

黒潮「このまま保提督が死んだら、雪風たちやみんなに迷惑かかるかなあって……」

黒潮「沖から50か、60メートルくらいやったかなあ……このくらいなら泳いで戻れるかな、ってあたりで投げ捨てたんよ」

黒潮「せやから、あいつらがどうなったかは確認してないねん……」

陸奥「そういうことなら確かめようがないわね……」

白露「黒潮はそのあとどうするつもりだったの?」

黒潮「……少なくとも鎮守府には戻れへんと思ったし、自分の司令はんを沖に投げ捨てるような艦娘なんか、即解体されるやん」

黒潮「帰るのも馬鹿馬鹿しいし、だったらこのまま行方知れずになろかな、って。保提督の不始末になればええねんて、思ったん」

白露「で、でも、それじゃ雪風たちが心配するよ!」

黒潮「……そうなんよ……そうなんやけど」ガックリ
709 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:42:17.98 ID:uHfOFbsco

提督「やっちまったもんはしょうがねえ。大淀。この場合、黒潮は脱走扱いになるのか?」

大淀「それもありますが……司令官である保提督への暴行と、民間人に対する暴行というのも、看過できないかと」

提督「そっちも面倒だな。黒潮が死ぬ気じゃないなら、戻ってもいいことはねえか」

不知火「……黒潮」

黒潮「……?」

不知火「今のあなたの、望みはなんです」

黒潮「望み……望みなあ」

黒潮「雪風や、嵐や萩風が無事なら……それが一番やな」

黒潮「……できたら、みんなと……また、一緒に出撃したかったけど、さすがにそれは無理やろなあ」ウルッ

白露「……」

島風「……」

提督「なあ、不知火」

不知火「はい」

提督「黒潮のいた鎮守府……保提督だったか? そいつと、そこにいる陽炎型の艦娘が今どうしてるか、初春と一緒に調べられるか?」

不知火「はい」コク
710 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:43:02.72 ID:uHfOFbsco

提督「それから、保提督が艦娘と外部の民間人を引き合わせた件、大事件にできねえかな?」

島風「え!? な、なんでそんなことするの!?」

提督「黒潮のやったことが、しょうがねえな、って思われるくらい保提督が悪かったことにする。黒潮が戻って罪に問われない方法はそれくらいだろ」

黒潮「……!」

提督「話をでかくするとしたら、駆逐艦娘を使った売春の斡旋を企んだことにするか。艦娘の機密情報の流出あたりも使えるか?」

大淀「ええっと、そうですね、ほかには……」バインダートリダシ


黒潮「……」

陸奥「ねえ」

黒潮「!」

陸奥「あの人、そんなに悪い人じゃないわ。本当にいい人かは、私も着任して日が浅いからそうとは言い切れないけど」

陸奥「でもね。提督は、私たちの望みを、可能な限り聞いてくれる人で、私たちの憂いを、可能な限り排除しようとしてくれる人よ」

陸奥「とっても不器用だけど、あなたが生きることを諦めない限り、味方になってくれる人だから」

黒潮「……せやろか」プイ
711 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:43:48.09 ID:uHfOFbsco

提督「というわけでだ、不知火」

不知火「はい」

提督「刑罰が重たくなりそうな罪状、全部重ねて訴えろ。保提督が生きてたら社会的にぶっ潰してやれ」

提督「死んでたら死んでたで、死んでも当たり前って思われるくらい罪状盛っとけ。死人に口なしだ」

大淀「て、提督! あまり虚偽の報告はしないようにお願いします!」

提督「いいだろ少しくらい」

大淀「ちょっとした勘違い程度にしてください!」

黒潮「……」

不知火「黒潮?」

黒潮「ん? あ、ああ、なんや?」

不知火「少し安心しました。なんとなく、目に光が戻ったような気がしたので」

黒潮「! も、もう、何言っとんねん! 恥ずかしいやんか!」

初春「うむうむ、元気が出たようなら何よりじゃな」

提督「おい、まだ話は終わってねえぞ。山雲の話が残ってんだ」

全員「「!」」
712 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:44:33.34 ID:uHfOFbsco

提督「黒潮が、港から外海に出て、その途中で見つけたって話だったな?」

黒潮「あー、うん。そうや」

提督「黒潮と山雲に面識はない。白露と島風は同じ仁提督鎮守府の出で、黒潮、山雲ともに面識がない」

白露「うん、そうだねー」

提督「山雲は誰に中破させられたんだ? そして、山雲はどこの鎮守府の艦娘なんだ?」

全員「「……」」

提督「わかんねえよなあ……こりゃ本人が目を覚まさねえとわからなさそうだな」

初春「……しかし、随分な偶然じゃな。所属の違う3艦隊が、揃ってこの鎮守府に辿り着くとはのう?」

提督「事実は小説より奇なり、ってな。ま、こっちに都合のいい偶然なら、いくらでも起こってもらいたいもんだ」

 コンコン

山城「都合のいい偶然ね……私たちには縁のない話だわ」ガチャ

全員「「!」」

扶桑「失礼します、お茶をお持ちしました」ニコニコ

提督「おう、ありがとな」
713 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:45:18.47 ID:uHfOFbsco

山城「提督、この部屋は防音してないの? 扉の前から話が筒抜けなんですけど」

提督「妖精がそこかしこで聞き耳立ててるからな。防音なんてあってないに等しいぜ?」

山城「それこそ少し考えたらどうなの? それでもあなた、この鎮守府の司令官?」

提督「俺は妖精と艦娘のおかげで提督できてるようなもんだ。下手に隠そうとしたほうが良くねえと思うが?」

山城「まったく、ああ言えばこう言う……」

扶桑「それはそうと、山城? あなたは本当に、その都合のいい偶然には無縁だと思ってるの?」ニコニコー

山城「それはまあ私たちにとっては……って、何を仰りたいんですか扶桑お姉様」

扶桑「いいえ? 少なくとも、私が助かったのは偶然にしては都合が良すぎると思って。提督、お茶をどうぞ」コト

提督「ん」

山城「……姉様……」

扶桑「それだけじゃないわ。那珂が救われたのもあなたがいたからでしょう? 本当に、それらはただの偶然なのかしら」

初春「話が出来過ぎておる、と?」

扶桑「……どう、なのかしら。誰かが仕組むなんてこともできないし、本当に出来過ぎた話なら、時雨も助かっていたと思うのだけれど」

提督「そうだな、流れ着く艦娘の全員が助かってるわけじゃねえからな」
714 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:46:02.81 ID:uHfOFbsco

黒潮「なんか……もしかしてこの島、えらい物騒なとこなんか」

提督「墓場島、って聞いたことあるか? 本営とか、巷じゃあそう呼ばれてるってよ」

黒潮「うわ……うち、聞いたことあるわ」

島風「えっ!? なになに!?」

白露「どういうこと!?」

提督「この島には、大破轟沈した艦娘がしょっちゅう流れ着いてくるんだ。俺がそいつらを埋葬してたら、そんな別名が付いた」

提督「ま、最近はだいぶ轟沈艦が減ったみたいで、流れ着いてくる奴も減ったけどな」

提督「扶桑には前も言ったが、遺言が聞ければ上等、生きてりゃ奇跡。お前らみたいに生きて流れ着いてくる奴はあんまりいねえな」

黒潮「……うちが聞いた話はちょっと違うなあ?」

提督「違う?」

黒潮「使い物にならなくなった艦娘が送られる島、て聞いたで。言うことを聞かない子や、何かしら問題がある艦娘を放り込む場所、て」

提督「……誰だそんなこと言ってた奴は」ピキ

黒潮「そんなん噂や噂。誰が言ってたか、正確な出所なんてうちわからんもん」

大淀「……」ブゼン

陸奥「……」フクザツ

初春「まあ、ある意味間違ってはおらんかの。わらわも捨て艦にされて沈んだ身、使い物にならんからこそ、この扱いをされたわけじゃ」
715 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/15(月) 11:48:23.57 ID:uHfOFbsco

提督「そういう噂があること自体、問題だがな。噂を放置しておくと、どっかの馬鹿が艦娘をこの島に押し付けてくる」

提督「ここは介護施設じゃねーんだぞ。不知火、中将と本営に釘刺してこい」

不知火「く、釘……ど、どのようにすべきかわかりませんが……しょ、承知しました」

黒潮「中将!? そんなとこと繋がりあんのかいな」

山城「提督の階級は准尉だけれどね」

黒潮「いや、それやったら中将に釘刺すとか何言うてんねん!? 大丈夫なんか!」

大淀「大丈夫もなにも、この島にはもういろいろな特例が出てますから。轟沈経験艦をそのまま運用して良いとか……」

黒潮「……」

扶桑「まあまあ、お話はこれくらいにして。羊羹もあるからどうぞ?」

陸奥「あら、おいしい。これ、比叡が作ったの?」

黒潮「ひえ……っ!?」

山城「まあ、そういう反応になるわよね」

陸奥「利根が嘆いてたわよ。新しく入った艦娘が比叡の料理を食べるたびに驚く姿を見ると、比叡が気の毒だって」

島風「……不思議な場所だね、ここ」

白露「……うん」
716 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2019/07/15(月) 11:50:01.50 ID:uHfOFbsco
今回はここまで。
717 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 13:32:39.30 ID:mjJrXz6AO
乙でした。
718 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/15(月) 23:02:38.76 ID:tPMcHYoao
乙乙。
…この鎮守府の地下にはグランゾンが埋められている!(ババーン
719 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/28(日) 21:56:32.94 ID:mnCcr+a9o
続きです。
720 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/28(日) 21:57:33.20 ID:mnCcr+a9o

 * 工廠 入渠ドック *

黒潮「わけわからへん。この島、いったいなんなんや……うち、夢でも見てるんか」

陸奥「そう思うのも仕方ないわね。みんな訳ありなのよ、この島の艦娘たちは」

明石「まともな着任した艦娘がほぼいませんからねえ!」アハハー

黒潮「いや、それ笑うところちゃうんちゃうか」

朝雲「笑わないとやってられないところもあるわよ?」

黒潮「なんか、もうやけくそやな……」

龍驤「まあまあ、笑う門には福来るて言うし、ぶすっとしてても事態は好転せえへんよ。ストレスためないほうがええで」

雲龍「心配事があるんだろうけれど、今は自分を気遣ったほうがいいわ」

黒潮「ん……」ウツムキ

朝雲「元気ないとこ悪いんだけど、黒潮!」

黒潮「……なんや」

朝雲「山雲を助けてくれてありがとう!」ペコッ

黒潮「……っ」
721 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/28(日) 21:58:24.31 ID:mnCcr+a9o

雲龍「どうしたの?」

黒潮「……いや、助けたのは、たまたまや。たまたま、見つけただけやし……」

朝雲「だとしても、お礼を言うのは当然よ」

雲龍「私もたまたま、龍驤に助けられたわ。お世話になったなら、その気持ちを伝えたいと思うもの」

白露「初春も捨て艦にされたって言ってたけど、もしかしてそんな艦娘ばっかりなの?」

龍驤「その辺の事情はそれぞれやな。うちと陸奥は……厄介払いされたって感じかなぁ?」

陸奥「まあ、そういうことにしておこうかしら」

明石「私もそんな感じかなあ……私たちの場合はご丁寧に雷撃処分までされましたけど」

島風「えええ!?」

朝雲「明石さんにしても、龍驤さんたちにしても、共通してるのは、その当時の司令官がクズすぎるところよね」

陸奥「朝雲のところはどうだったの?」

朝雲「前は本当におバカだったんです。今はもう別人みたいにちゃんと働いてるみたいだけど」

白露「ってことは、改心したんだ?」

朝雲「練習巡洋艦の香取さんが再教育したの。前は古鷹さんが馬鹿みたいに甘やかすから、本当にもう勘違いしまくってて……」ハァ
722 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/28(日) 21:59:06.70 ID:mnCcr+a9o

古鷹「朝雲さん呼びました?」ヒョコ

朝雲「うひゃあ!? よ、呼んでないですよ!?」

龍驤「古鷹、山雲はどないやった?」

古鷹「修復材を入れたプールに入ってもらっていますが、顔色がだいぶ良くなりました。そろそろ目を覚ますと思います」ニコッ

雲龍「そう。じゃあ、次は私の番ね、見てくるわ」

龍驤「よろしく頼むでー」

朝雲「目を覚ましそうなら呼んでくださいねー!」

黒潮「……うん。助かりそうならええことや……うん」

島風「……黒潮は、雪風たちが心配なの?」

黒潮「まあ、せやな……雪風たちから一刻も早くあいつら遠ざけたくて、ろくに話もせんで後にしたから……」

白露「それじゃ、提督准尉から保提督の鎮守府に連絡が取れないか、聞いてみようよ?」
723 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/28(日) 21:59:48.26 ID:mnCcr+a9o

島風「うん、そうしよう!」

黒潮「ちょっ、余計なことせんでも」

不知火「そういうことでしたら、不知火からも進言してみます。中将にも事態の確認を促してみますので」スッ

黒潮「不知火……!」

不知火「黒潮。不知火も陽炎型ですから、遠慮は不要ですよ」クルッ

黒潮「……そか……そやな……」

明石「さ、お話はこのくらいにしておいて、3人とも体に異常がないか検査するから、中に入って!」

白露「はーい! 白露が一番でいい?」

黒潮「うん、うちはええよ」

島風「私、最後でいい? ちょっとここの提督さんとお話ししてくるから!」ビュンッ

明石「わかりま……って、速っ!?」

724 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/28(日) 22:00:38.02 ID:mnCcr+a9o

 * 入渠ドック内 *

龍驤「……なあ朝雲?」

朝雲「はい?」

龍驤「ちょっち訊くけどな……きみ、ほんまに朝潮型?」

朝雲「それ、どういう意味ですか?」ムス

龍驤「ああ、気を悪くせんといて。一か所、気になることがあってなあ……」ジッ

龍驤「朝雲は、朝潮型にしてはちゃんと胸があるなあ思て……」

朝雲「ど、どこを見てるんですか!?」バッ

古鷹「本当ですか? 良かった、効果あったんですね!」

朝雲「古鷹さん!?」

龍驤「ちょっ、朝雲、きみ何かやっとったん!?」

朝雲「いやっ、そのっ……!」ワタワタ

古鷹「私がしてあげたんです!」

龍驤「え?」グリッ
725 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/28(日) 22:01:33.24 ID:mnCcr+a9o

古鷹「見様見真似ですけど、マッサージを……」

龍驤「マジで!?」ズズイッ

古鷹「龍驤さんも御希望でしたら、お風呂の後に伺いますよ?」

龍驤「是非! 是非によろしゅう!!」ガッシ

古鷹「では、夜にお邪魔しますね!」ニコ

朝雲「……龍驤さん、龍驤さん」チョイチョイ

龍驤「うん? なんや?」

朝雲「一応断っておくけど、結構どころじゃなく痛いですからね?」ヒソヒソ

龍驤「ほーん。まあ、その程度の代償で済むならうちは構へんで! ちなみに、どんなマッサージなん?」

朝雲「マッサージっていうか……その……おなかや背中の贅肉を集めて胸に寄せるんです」カァァ

朝雲「東南アジアだかでニューハーフの人たちが自前で胸を作るためにやってたっていうのをテレビで見て……」

朝雲「それを見様見真似で、ほぼ独学で習得したんです」

龍驤「独学!?」

朝雲「私、それで実験台にされたんですよ」ハァ

龍驤「ははぁ……」
726 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/28(日) 22:02:18.28 ID:mnCcr+a9o

朝雲「ひどいんですよ、体中の肉を痛いくらい揉み解したうえで無理矢理寄せて引っ張って作るから、体中突っ張るし……」

朝雲「それを最低でも1か月くらい続けないと胸に脂肪が固着しないから、すっごい苦行で」

龍驤「ま、まあ、それでもうちは大丈夫や!」

朝雲「それから、無駄な肉を移動させるわけですから、失礼なこと言いますけど、痩せてる人には効果ありません」

龍驤「それやったら、前の鎮守府で食わされすぎたから、ダイエットせななーって思っとったし、かえって好都合やで」

朝雲「そうですか……」

龍驤「朝雲? どうかしたん?」

朝雲「古鷹さんのマッサージ、身体的にも痛いんです。でも、それ以上に……」ドヨーン

朝雲「自分の体にこんなに余分な肉がついてたっていう、精神的なダメージがすごくて……」ハイライトオフ

龍驤「……」

朝雲「あれだけ痛い思いとみじめな思いをして、成果がこれだけっていうのもショックではあるんですけど」ズーン

龍驤「う、うん、その、ご、ごめんな?」
727 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/28(日) 22:03:03.23 ID:mnCcr+a9o

朝雲「いえ……せっかく古鷹さんにお世話になって、こういう言い草もよくありませんよね」ハァ…

龍驤「うん、難しい問題なのはうちもよーくわかってるから」ヨシヨシ

龍驤「それから……も一つええか? 朝雲も気になったかどうかなんやけど」

朝雲「……なんですか?」

龍驤「白露て、あんなに胸小さかったかな?」

朝雲「そういえば……」

龍驤「白露型は改装すると胸が大きなる子が多いんや。中でも、白露や村雨は改装前でもまあまああったって記憶してる」

龍驤「けど、あの白露は全然そんな感じせえへん。ちゅうか、むしろうちと同じくらいやった」

朝雲「……体のどこかがおかしいとか?」

龍驤「明石も気にしてたから、検査言うたんやないか? 何かあったんやろか……」
728 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/28(日) 22:03:48.22 ID:mnCcr+a9o

 * 執務室 *

提督「違法改造?」

島風「違法っていうか、無茶な改装、って言ったほうがいいのかなぁ」ウーン

島風「白露の艤装はね、明石さんに無理を言って魔改造してもらったの」

提督「マカイゾウ?」

大淀「普通じゃない改造のことを俗にそういいます。魔法のような改造、だから魔改造ですね」

提督「言葉の響きがやべえな。大丈夫なのかよ、それ」

島風「……あんまり大丈夫じゃないと思うんです」

提督「!」

島風「私、島風は、唯一無二のスピードを誇る、疾きこと島風の如し! な、特別な駆逐艦なんです」

島風「そのおかげもあって……ううん、そのせいで、島風型は私一人なんです」シュン

大淀「島風さんは駆逐艦の中でも珍しい、姉妹艦が建造されなかった艦なんですよ」

提督「……一代限り、ってやつか」
729 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/28(日) 22:04:33.14 ID:mnCcr+a9o

島風「そんな私に声をかけてくれたのが白露で……」

提督「島風の姉になるとか言ってた話か?」

島風「そうなんです。でも、島風は速いんですよ! 白露が追いつけるわけなくって……」

島風「それで白露は、明石さんに無茶なお願いをしたんです」

島風「艤装をばらしてすっごい速いタービンに替えたり、とにかくいろいろ、原型がないくらい改造して!」

島風「改白露型どころか、準島風型みたいな艤装で、島風を追いかけてきたんです」

島風「……島風は、それがすごく、嬉しくて」

島風「今まで、島風を追いかけてくれる人はいなかったんです。いつも遠征に出てる睦月型のみんなは疲れてるし」

島風「戦艦や重巡のお姉さんたちは最初から諦めてて追ってこないし」

島風「だから、白露に構ってもらえるのは、嬉しかったんです」

島風「……でも、白露はかなり無理をしてるみたいで」シュン

提督「無理? 体のほうが追いつかないってことか?」

島風「すっごい負担がかかってるはずなんです。その証拠に、白露の体は痩せて筋肉質になったし……」

島風「だから、さっき白露がドックに入って検査を受けてるけど、本当に大丈夫なのか心配だし……結果を聞くのが怖いんです」
730 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/28(日) 22:05:18.26 ID:mnCcr+a9o

提督「……」

大淀「……」

提督「……羨ましいもんだな」

島風「!?」

提督「俺にも弟がいたが、今は関わりたいとも思わねえ。あれは俺を完全に見下してるからな」

提督「だが、島風は、お互いを気遣える姉妹を手に入れた。いいことじゃねえか」

島風「……」

大淀「提督……」

提督「白露が心配なら、検査の結果はちゃんと聞いてきな。そのうえで、何をしてやれるか、一緒に悩んでやればいい」

島風「……准尉さん!」スクッ

島風「島風、白露の検査の結果聞きに行ってきます!」ダッシュ!

 ドドドド…

提督「……騒々しい奴だな」

大淀「提督……」

提督「とりあえず、変なもんくっつけられたりしてねえといいな」

大淀「はい!」
731 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/28(日) 22:06:03.40 ID:mnCcr+a9o

 * ドック内 入渠用プール *

山雲「……」

雲龍「だいぶ顔色が良くなってるわね。これならすぐに目を覚ましそう」ニコ

雲龍「それにしても、後頭部に打撃痕だなんて」

雲龍「後ろから誰かに襲われたのかしら」ウーン

山雲「……ん……」

雲龍「!」

山雲「う……」

雲龍「山雲? 山雲!」

山雲「う、うう……っ」

雲龍「そうだ……彩雲、みんなを呼んできてくれる?」シャランッ

 彩雲<バルーン!

雲龍「……」

山雲「う……こ、こは……」パチッ
732 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/28(日) 22:06:50.25 ID:mnCcr+a9o

雲龍「目が覚めた?」ヌッ

山雲「!?」

雲龍(の胸部装甲:山雲視点)「山雲? 大丈夫?」ズドーン

山雲「」

雲龍(の胸部装甲:山雲視点)「どうしたの? 山雲?」ユッサユッサ

山雲「」

山雲「」

山雲「」アワブクブク

雲龍「!?」

龍驤「雲龍! 山雲が目を覚ましそうやって!?」

朝雲「山雲ー!!」

山雲「」チーン

雲龍「えっ? えっ?」オロオロ

朝雲「や、山雲!? なんで泡を吹いてるの!? 山雲ーー!」
733 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/07/28(日) 22:07:33.12 ID:mnCcr+a9o

龍驤「……なんや、目を覚ましておらんやん。どういうこっちゃ」

雲龍「いえ、あの、目を覚ましたんだけど……また、気絶したっていうか……」オロオロ

龍驤「ええ……?」

 タタタタ…

朧「泡を吹いたって!?」ガラッ

雲龍「!?」ビクッ

龍驤「朧は何しに来たん!?」
734 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2019/07/28(日) 22:08:17.99 ID:mnCcr+a9o
というわけで今回はここまでー。
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/29(月) 12:34:25.62 ID:uGTQqUeq0
カニ要素に敏感すぎるww
736 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/13(火) 13:12:00.96 ID:XdK4/e9z0
保守
737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/13(火) 14:42:34.15 ID:VCB1d7a6O
夏休み中かな
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/29(木) 04:47:14.13 ID:n8AsQSj30
保守
739 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/09/11(水) 08:18:51.33 ID:EqUTYrM00
保守ぬるぽ
740 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/15(日) 17:11:00.84 ID:S0IxyqgSo
保守ありがとうございますガッ
書けない病に罹患して苦しんでおりました


少しだけですが続きです。
741 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/15(日) 17:12:18.82 ID:S0IxyqgSo

 * 数日後 執務室 *

 扉<コンコン

五月雨「失礼します、黒潮さんをお連れしました!」チャッ

黒潮「……」ス…

提督「ん、ご苦労さん」

五月雨「提督……そのお顔の様子からすると……」

大淀「ええ、あまり良い結果が得られなかったみたいです」

提督「しょうがねえさ。何でもかんでも、こっちが思ってるように都合よく話が進んでくれたりはしねえ」

提督「さて、何から黒潮に話してやったらいいもんかね……まずは座んな。どうせ今の俺たちにできることはねえ」

黒潮「……」ストン

五月雨「あ、あの、私も、ですか?」

提督「ああ。お前の意見も聞かせてくれ」

五月雨「はぁ……」ストン

黒潮「……うちだけ呼んで聞かせればええやんか」

提督「いいから第三者の意見も聞いとけ。大淀も同席頼む」

大淀「はい」ストン
742 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/15(日) 17:13:03.34 ID:S0IxyqgSo

提督「じゃあ、不知火と初春の調査結果について報告する」

提督「まず保提督。一応、怪我自体は大したことねえが、ひどく落ち込んでるって話だ」

提督「今更ながら、自分のやったことを悔いているらしい。何もかも遅いがな」

黒潮「……」

大淀「保提督の処罰はどうなったのでしょうか?」

提督「減俸と謹慎1か月、一階級降格と、思ってたより軽いな。罪を全面的に認めちまってるせいで、同情でも買ったか」

提督「保提督を唆したチンピラどもには、それなりに重い処罰が下ったみたいだが……それでも執行猶予がついてやがる」

提督「残念ながら、そいつらはそれほど悪びれてねえみたいだ。ったく、面白くねえ」

黒潮「……」

提督「次。雪風が行方不明だ」

黒潮「!!」ガタッ

五月雨「提督……!」

提督「鎮守府に戻ったあと、艤装を身に着けてすぐ黒潮の後を追いかけたらしい」

黒潮「……っ!」ガタッ
743 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/15(日) 17:15:11.82 ID:S0IxyqgSo

提督「どこに行くつもりだよ。黒潮、座ってな」

黒潮「座ってなんかいられるかい!!」

五月雨「ちょっと待ってください! 提督、ほかの人たちはどうなったんですか?」

提督「嵐と萩風は保提督の鎮守府に戻ってるが、出撃はしてねえ。姉妹艦を一度に二人失ったもんで、塞ぎこんでるって話だ」

黒潮「……!」ギリギリッ

提督「それから黒潮。お前の処遇についてだが、解体することに決まったそうだ」

黒潮「はぁあ!?」

五月雨「そんな!!」ガタッ

提督「お前が海に放り込んだチンピラのうちの一人が、政治家の息子なんだとよ」

大淀「!」

提督「そいつの親がお前の処遇に口を出してきたんだ。お前が保提督の鎮守府に戻ったら、解体処分しろってな……!」

提督「ったく、どうしてこう『えらいやつ』ってのはこう我が儘なんだろうな。頭おかしいんじゃねえか、くそが!」

五月雨「……提督、黒潮ちゃんは元の鎮守府に戻れないんですか!?」

提督「今は無理だな。保提督の鎮守府の周囲で厳戒態勢が敷かれてる」
744 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/15(日) 17:17:42.78 ID:S0IxyqgSo

提督「人間を守るはずの艦娘が、民間人に手を出したのが奴らは余っ程気に入らなかったようでな」

提督「そのせいで、萩風たちへの接触は中将麾下の不知火でも難しいとさ。国家権力なのはこっちも同じはずなんだがな?」

五月雨「……」

提督「それから、雪風は雪風で足取りが掴めねえ」

大淀「どうしてですか?」

提督「雪風捜索中、その周辺海域で見たことのない深海棲艦が目撃されてる」

提督「不知火たちにも同じように本営から警告が出されてるし、事実そういう連中を目撃してるそうだ」

大淀「提督……それじゃ、さっき遠征部隊を呼び戻せと仰ったのは……!」

提督「下手に動けば被害が出そうだと思ってな」

黒潮「……」

五月雨「どういうことなんでしょう……」

提督「ともかくだ、海は海で物騒だし、保提督の鎮守府に近づいたとしても、どうにもならねえって話だ」

黒潮「せやったら、どうすんねんな……」

提督「だから俺は待つことにする」

黒潮「何もせん、っちゅうんかい!」

提督「ああ、何もしねえよ。果報は寝て待てって言うしな」
745 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/15(日) 17:19:51.69 ID:S0IxyqgSo

提督「雪風ってのは幸運艦なんだろ? もしかしたら、お前みたいに運よくこの島に流れてくるかもしれねえし」

五月雨「……そ、それはだめですよ!」

提督「じゃあ、迎えに行くか? 行って見つけて無事に戻ってこられるか?」

五月雨「……」

提督「無理だろ? 待つしかねえんだよ」

黒潮「そんな都合よくいくかいな」

提督「さあな。それともお前、自殺しに行くか?」

黒潮「……」ギリッ

大淀「提督!」

提督「それよりもだ、黒潮にいくつか聞きたいことがあるんだが」

黒潮「……なんや?」ジロッ

提督「お前は海に出た後、羅針盤を見てたか?」

黒潮「? まあ、見てたけど……習慣付けみたいなもんやったし」

提督「……ということは、その針の向きに、逆らって進んだりはしてないんだな?」

黒潮「……」

提督「別にそれが悪いとかいいとか、そういう意図はねえよ。深く考えなくていい」

提督「この前、敷波が言ってたんだ。羅針盤に逆らって戻ってきた艦娘に会ったことがない、ってな」

提督「白露と島風は羅針盤の針がぐるぐる回っててびっくりしたとも言ってたし、お前はどうだったのか気になったんだ」
746 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/15(日) 17:20:59.78 ID:S0IxyqgSo

黒潮「……そういうことなら、うちは特に何も面白いことはないで」

提督「そうか」

黒潮「……あ、でも」

提督「?」

黒潮「山雲を助けるちょっと前やったかな……羅針盤の針が異常なほどぶるぶる震えてて」

黒潮「針の方と逆を見たら、黒い雲がぶわーーって通ってったんよ」

黒潮「なんていうか、見てて背筋が寒くなるような、おどろおどろしい雲やったん。あれは正直やばかったんちゃうかな……」

大淀「その後で山雲さんを助けたんですか?」

黒潮「うん。あの黒い雲がわーっと通り過ぎた後、その通り道を羅針盤が指してて」

黒潮「何かと思って進んでみたら、気絶した山雲がぷかぷか浮いとったんよ」

提督「その、雲を見たのがいつごろだったかは覚えているか?」

黒潮「……あんまりよく覚えてないけど、うちが出港してから2、3日ってあたりちゃうかな」

提督「……」

五月雨「提督……?」
747 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/15(日) 17:22:40.68 ID:S0IxyqgSo

提督「どうもな、その黒い雲、雪風が海に出てすぐくらいから発生してるみたいなんだ」

黒潮「……黒い雲が雪風やっちゅうんか?」

提督「いや、そうじゃねえ。黒い雲の正体は無数の深海棲艦だって言われてる」

提督「俺は、もしかしたらそいつらが雪風を追いかけてるんじゃねえか、って思ってんだよ」

五月雨「ど、どうしてですか!」

提督「雪風が、羅針盤を無視したから……ってのはどうだ」

黒潮「……!」

提督「雪風が黒潮を探すために、羅針盤を無視して無茶苦茶に海を駆けずり回ってるとしたら……」

大淀「……それが、深海棲艦を呼び寄せたと?」

提督「羅針盤を見れば危険を察知することができる。しかし、見なかったり無視した時はその限りじゃない……」

五月雨「それじゃ、雪風ちゃんは……!」

提督「さあて、な。今の俺たちに確かめる術はねえぞ」

黒潮「……」ヘタッ

提督「今は祈っとくしかねえな。雪風が幸運であることに」

748 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/15(日) 17:23:46.64 ID:S0IxyqgSo

 * 一方そのころ V提督鎮守府(もとN提督鎮守府) *

妙高「通してください! 急患です!」

寝かされて運ばれる鳳翔(大破)「……」ガラガラガラ

加賀「鳳翔さん!?」ギョッ

赤城「何があったんですか……っ!」

望月(大破)「うう……痛ってえ……」フラフラ

卯月(大破)「弥生、しっかりするぴょん……!」ヨロヨロ

弥生(大破)「……卯月、こそ」ヨロヨロ

赤城「皆さん、鎮守府正面の対潜哨戒に行ってたはずでは!?」

加賀「いくらなんでも、そこまで攻撃は激しくないはずよ。一体、何があってこうなったの……!?」

卯月「よ、よくわかんない、ぴょん……!」

弥生「……鳳翔さんが、危ないって、叫んで、それ、から……」フラ

加賀「! 危な……!」ガシ

望月「ほんと、マジ、わけわかんないって……とんでもない数の艦載機だったし……」

赤城「……艦載機……!?」
749 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/15(日) 17:24:33.30 ID:S0IxyqgSo

弥生「そうだ……あの子は、無事……?」

加賀「あの子?」

卯月「うーちゃんたちが襲われてから、大怪我してた艦娘を助けたんだぴょん」

 ガラガラガラ…

赤城「あれは……」

寝かされて運ばれる雪風(大破)「……」ガラガラガラ…

加賀「あの子は……雪風?」

望月「……あー、来たってことは、無事、だったのかな……?」

卯月「一安心だぴょん……」ヨロ

加賀「!!」ガシ

赤城「加賀さん、この3人も私たちがドックへ運んであげましょう」ヒョイ

望月「お、おお……?」カカエラレ
750 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/15(日) 17:26:21.66 ID:S0IxyqgSo

加賀「そうね。こっちの2人は任せて」ヒョイヒョイ

望月「……」

赤城「どうかしたの?」クビカシゲ

望月「あー、いや、あの……赤城さんや加賀さんと、今まであんまり喋ったことなかったし、ぶっちゃけ怖いイメージあったんだけど」

望月「全然、そんなことなかったんだなーって……」ポリポリ

赤城「ふふふ、怖いだなんて、そんなことはありませんよ。ね、加賀さん?」

加賀「……そうね」

赤城「加賀さんはとても優しいんですから。話していればわかりますよ。ね? 加賀さん?」ニコニコ

加賀「……早く行きますよ」スッ

望月「……耳まで赤くなってる」ボソ

赤城「ね? かわいいでしょう?」クスッ

赤城「……それにしても、鳳翔さんたちを含めた4人……いえ、5人ね……それをここまで追い込むなんて」

赤城「深海棲艦とはいえ、一体何者なのかしら……!」
751 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2019/09/15(日) 17:26:56.54 ID:S0IxyqgSo
今回はここまで。
752 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/15(日) 18:57:32.66 ID:uNehhQMx0
待ってました!

加賀さん可愛い
753 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:07:43.70 ID:g5rkcZrko
続きです。
754 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:08:47.19 ID:g5rkcZrko

 * それからしばらくして 工廠 *

黒潮「」ズーン

五月雨「そういうわけで提督からは、出撃も遠征も控える、という話になりました」

山城「黒潮が落ち込んでるのはそういうことなのね」

龍驤「なるほどなあ……そらかける言葉が見つからんわ」

金剛「黒潮も可哀想デース」ナデナデ

黒潮「……」パシッ

金剛「Oh, これは相当にnervousになってマスネ」

龍驤「黒潮なあ、いくら何でも手を叩き落とすことはないやろ」

金剛「Hey 龍驤 Stop デス。今の黒潮を責めるのは酷デスヨー」

龍驤「ええんか……?」

金剛「今はそっとしておいて欲しいんでショウ。手を出した私が悪いだけデス」ニコ

金剛「人生にはどうにもならないときがありマス。時間をかけて、ゆっくり傷を癒すのも必要なことデース」

龍驤「えらい大人の意見やな」
755 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:09:31.63 ID:g5rkcZrko

金剛「私も榛名が砂浜に倒れていたのを見たときは、胸が張り裂けそうになりマシタ」

金剛「同じ姉妹艦の身を案じている黒潮の気持ちがどれほどのものか、いくらかは理解しているつもりデス」

山城「そのあとは違う意味で胸が張り裂けそうだったのはどこの誰だったかしら」ボソッ

金剛「」ピシッ

龍驤「……なにがあったんよ」

山城「榛名がその後目を覚ましたんだけど、そのまま提督に抱き着いてキスしたのよね」

龍驤「は?」

五月雨「き、キス、ですか……!?」カオマッカ

山城「あの時は扶桑お姉様も大破してて大変だったっていうのに、金剛は妹にヤキモチ焼いてそれどころじゃなかったんだから」

五月雨「そ、それで金剛さんはあんなに取り乱してたんですか」

金剛「と、取り乱して当然デース! テートクの唇は、簡単に奪われていいものではありまセーーン!」グワッ

龍驤「金剛うるさいで。びー・くわいえっと、や」

金剛「ぐぬぬ……」
756 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:10:16.66 ID:g5rkcZrko

山城「そういう金剛も、この鎮守府に着任してすぐ提督とキスしたって聞いたわよ?」

龍驤「はぁあ!?」

五月雨「本当ですか!?」

金剛「あれはただの挨拶デース!」

龍驤「認めるんかい……」

五月雨「あわわ……」カオマッカ

金剛「だってだって、ずーっと我慢していた My burning love を、完全燃焼させる相手が見つかったんデスヨー!」

金剛「思い立ったが Lucky day !! 遠慮なんかしてられないデース!」

山城「我慢? なんで我慢なんかしてたのよ」

金剛「前の鎮守府にいたQ中将は既婚者デス! 既婚者に手を出すのは My Policy に反しマース!」Boo!

金剛「それに、Q中将の奥様は素晴らしい大和撫子デシタ。Q中将のお体が心配で、お忍びで鎮守府に通ってたくらいデス!」

金剛「あそこまで奥ゆかしくていじらしい女性ならば、同性でも応援したくなるというのが人情というものデスヨ」

山城「ふーん……つまり、負けを認めたの?」

金剛「愛情に勝ち負けを求めてはいけまセン。私は、Q中将の最期を看取るのは奥様が相応しいと思っただけデス」
757 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:11:16.65 ID:g5rkcZrko

山城「看取る? ちょっと、なに勝手に殺してるのよ」

金剛「いえ、Q中将は先日亡くなられまシタ」

五月雨「ええっ!?」

龍驤「病気かなにかなん?」

金剛「Yes. 癌を患ってマシタ。意地っ張りで見栄っ張りで、自分の弱いところを絶対に部下に見せようとしない、頑固な人で……」

金剛「だけど、思い遣りがあって、こちらを向かずにそっと手を差し伸べてくれる、昭和のお父さんみたいな人デシタ」ウルッ

山城(今で言うツンデレってやつかしら)

五月雨「……良い提督さんだったんですね」ウルッ

金剛「Yes」ニコ

龍驤「さよか……羨ましいもんやな」

金剛「ンー……でも、Q中将の訃報を聞いたときは、どうしようもない喪失感に苛まれマシタ」

金剛「生あるものには必ず死が訪れるのが自然の摂理とはいえ、好きな人を失う悲しみは誰にとっても耐え難いものデス」

五月雨「……はい……」ウツムキ

山城「……っ」プイ

龍驤(あー、扶桑が言うとった時雨の話か……)
758 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:12:01.53 ID:g5rkcZrko

金剛「黒潮には、そういうつらい思いをさせたくありマセン。Isn't it ?」

山城「それはその通りよ……」スクッ

五月雨「ど、どこへ行くんですか!?」

山城「どこだっていいじゃない。良いニュースが聞きたいなら、私なんかいないほうがいいわ」スタスタ…

五月雨「そ、そんなことないですよ!」ガタッ

龍驤「ああ、ええからええから。気にせんと座っとき」

五月雨「でも!」

龍驤「ひどい話や思うけど、山城は自他共に認める不幸体質や。せやから、自分がここにいたら良い報せが回ってこないて思うてるん」

龍驤「山城も山城なりに黒潮に気を使こてくれてるってことや。難儀な奴っちゃで、ほんま!」クス

金剛「少々口下手で言葉足らずなところもネー」フフッ

 パタパタパタ…

吹雪「黒潮ちゃん、いる!?」

五月雨「!」

吹雪「雪風ちゃんが見つかったって!!」

黒潮「!!」ガバッ

金剛「Oh... What a right timely...」

五月雨「……」

龍驤「ほんま、山城は損な役回りやなぁ」
759 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:13:01.98 ID:g5rkcZrko

 * 執務室 *

提督「前にN中佐……今は大尉だが、そいつがいた鎮守府。あそこで保護されたそうだ」

黒潮「無事……やったんや」ホロリ

提督「ただ、俺が危惧した通り、雪風は羅針盤を無視して海を渡ってたせいで厄介な奴に目をつけられたらしい」

提督「空母ヲ級3隻に軽空母ヌ級2隻を随伴艦とした、空母棲姫率いる航空戦隊。雪風を襲ったのはそいつらだと」

提督「N大尉の鎮守府は大湊にあるんだが、その大湊から雪風を連れて出航すると、どこからともなく艦載機が襲ってくるそうだ」

五月雨「どういうことですか!?」

提督「わかんねーよ。とにかく数が多いうえに練度も高くてな、向こうの赤城や加賀の艦載機でも歯が立たないときてる」

提督「だから、雪風をここまで連れてくるのは不可能に近い。つうか、まともに海に出られねえだろう」

黒潮「……!」

提督「かといって俺たちも黒潮を連れて向こうに行くわけにはいかねえ。行けばお前は捕まって解体処分だ」

提督「お前と雪風を会わせたいとと思ってはいるが、向こうは海に出られず、こっちは雪風に近づけねえとなると、どうしようもねえな」

提督「多分、黒潮が見たのは空母棲姫の放った艦載機だと思うんだが……どうだ黒潮。どのくらいの航空戦力、あるいは対空砲を準備すればいい?」
760 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:13:46.60 ID:g5rkcZrko

提督「ちなみにこっちは空母が龍驤と雲龍。対空要員は……」

黒潮「いや、もうその時点で厳しいと思うで」

龍驤「ちゅうか、余所の鎮守府の一航戦が無理やったんやろ? うちらの手数じゃ、烈風ガン積みでも厳しいかなあ……」

提督「そうか……どうしたもんかね」ハァ

金剛「テートク? 空母棲姫を倒すつもりデスカ?」

提督「……お前が雪風である限り、私はお前を逃がさない」

提督「加賀が空母棲姫と交戦中に聞いたらしい、雪風に向けられた言葉だ」

黒潮「……」

提督「一説によれば、深海棲艦てのは人間に対する恨みから生まれたんだってな」

提督「で、加賀が言うには、空母棲姫の口振りから、雪風が航行中に何かしら空母棲姫の恨みを買うような真似をしたっぽいんだ」

提督「残念ながらそれが何なのかはわからねえが、奴が雪風を赦す気は毛頭ないようだ」

提督「雪風を連れて海に出ると、しばらくの間はその海域の奴らが出てくる。だが、少し遠出するとあの黒い雲のような艦隊が見えてくるらしい」

五月雨「……察知されてるってことですか」

提督「雪風が艦娘として活動を続ける気なら、空母棲姫を倒さない限りはこの先ずっと雪風の障害になる」

提督「早かれ遅かれ、空母棲姫の撃破が避けては通れねえ道になるだろうよ。そうなると、雪風が地道に練度を上げるしかねえ」

龍驤「なんだか、気が遠くなりそうな話やな」
761 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:14:32.00 ID:g5rkcZrko

提督「雪風はまだいい。面倒な敵に目をつけられただけだからな」

金剛「まだ?」

提督「ああ、問題はお前だ、黒潮」

黒潮「……!」

提督「どうやって黒潮を保提督の鎮守府に戻してやるか……そっちのが難題なんだよ」

五月雨「提督、何かいい方法はないんですか?」

提督「なくはねえよ。手段としちゃあ最悪の極み、すっげえやりたくねえってだけの話だ」

金剛「Oh...」

黒潮「……どんな方法や」

提督「この前も言ったが、雪風を襲ったバカの父親を失脚させる。黒潮が海に放り込んだあのバカを、完全に悪役に仕立て上げてやるんだ」

提督「バカの父親は与党議員。議員の息子が未遂とはいえ婦女暴行なんてしてたら、野党連中にとっちゃ願ってもねえスキャンダルだ」

提督「それに、資料だけ見ると雪風ってのは随分幼い容姿をしてる。そいつを襲ったとなりゃあ世間だって黙っちゃいないはず」

提督「悪いのは議員の息子ってのを前面に押し出して、黒潮の行為を正当防衛として世間的に認めさせる、ってシナリオに持っていきたい」

提督「この手の話はマスコミも大好物だろうからな。トップニュースで報道してくれんじゃねえの」ケッ
762 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:15:16.78 ID:g5rkcZrko

五月雨「……でも、それって……」

提督「そうさ。一番の問題は、それをやるためには雪風を世間の晒し者にしなきゃいけねえってとこだ」

提督「この一件で傷付いてるであろう雪風を、マスコミ連中は面白可笑しく話を盛り上げ囃し立ててくれるんだぜ? やってられっかよ」

龍驤「そら確かになぁ……」

提督「それに、晒し者になるのは雪風だけじゃねえよ。黒潮も、萩風たちも最悪そうなる。下手すりゃ保提督鎮守府の艦娘全員かもな」

金剛「……確かに、とてもおすすめできるような手段ではありまセンネー」ウーン

提督「黒潮の行為を正当化するためには、雪風たちの協力がねえと難しい」

提督「だが、雪風にそんなことをさせられるかと言えば、させたくねえんじゃねえか、と俺は勝手に思ってる」

黒潮「……まあ、させたかないわ、うん……」

五月雨「……」

提督「それからもう一つ。この事件を表沙汰にした場合、艦娘の扱いがどうなるかが誰にも保証できねえ」

提督「海軍の上層部ですら意見が割れて躊躇している艦娘の存在の公表を、この一件でやっていいのかどうかが、俺にも判断つかねえんだよ」

金剛「何か問題があるんデスカ?」

提督「問題山積みだろうが。今まで艦娘の存在は、一応機密情報だったんだ。艦娘が世間に公表されたらどうなると思う?」

提督「何の責任も背負おうとしねえ外野が、無責任に煽って騒いで文句を言いに来まくるに決まってるじゃねえか」
763 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:16:01.53 ID:g5rkcZrko

提督「古鷹も言ってたろ、変なデモ隊が鎮守府周りに現れたって。五月雨も体験済みだろ」

五月雨「……あの、言葉の通じない人たちがいっぱい現れるってことですか」ゾク

提督「楽観的に見れば艦娘に好意的な人間も多いと思うが、そうじゃねえ奴らだって一定数いるだろう」

提督「一見好意的でも、艦娘を利用しようとするクズも出てくるはずだ。視聴率欲しさに見世物にしたがってる奴らも多そうだ」

黒潮「……」

提督「俺の忌み嫌ってる中佐みたいに、艦娘が今のシーレーンにおいて必要不可欠な存在であることをアピールしたがってるのもいる」

提督「海軍である自分が力を持っていることを世に知らしめて、個人的に強力なコネを作ろうとしてやがるからな」

金剛「ンー、少し悲観しすぎな気がしマース」

提督「お前の周囲はまともな人間が多かったかもしれねえが、俺は人間なんか信用してねえ。それが海軍であってもな」

提督「深海棲艦と戦えるのが艦娘しかいないから、海軍を編成して艦娘の支援をしている、ってのが建前だが……」

提督「だったらどうして、黒潮の行為を正当だと弁護する奴が現れねえんだよ。くそが……!」ダンッ!

黒潮「……」

金剛「テートク……」

龍驤「……」

五月雨「……」
764 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:17:01.75 ID:g5rkcZrko

提督「……話を戻すが、雪風を世間に公表すれば、そこからなし崩し的に、すべての……世界中の艦娘が世間に晒されることになる」

提督「影響範囲がでかすぎて、どんな問題が出てくるか……いや、どれだけ問題になるか、俺には見当も付かねえ」

提督「それを避けようと思うと、黒潮を向こうに合流させる方法ってのが、思い付かねーんだよ……」

黒潮「……」

五月雨「……」

金剛「……難しいデスネー」ウーン

龍驤「確かに、こりゃ二の足を踏むわなぁ……」

提督「とりあえず、雪風には海に出ないように指示しているそうだ」

提督「その黒い雲……空母棲姫か。そいつらがどうやって潜んでいるのか、それも調べて対策を考えねーと……」

 コンコン

大淀「失礼いたします。提督、海軍と思しき見慣れない船が、島に近づいてきています」

提督「あぁ? ……どこの船だかわかるか?」

大淀「いえ。ただ、長門型と金剛型の戦艦6隻を従えて進軍してきたみたいです」

提督「艦娘連れてきてんのか……黒潮、悪いが姿を隠しててくれ。もしかしたらお前を探しに来たのかもしれねえ」

黒潮「!」ビクッ

提督「大淀はどこの船か確認を頼む。五月雨と龍驤は黒潮を連れて匿っててくれ」
765 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:19:01.49 ID:g5rkcZrko

 * 埠頭 *

仁提督「こんな辺鄙な島に鎮守府があるとは……墓場島とかいう名前の割には小綺麗な島じゃないか」キョロキョロ

仁霧島「提督、丘の上に無数の艤装やら単装砲やらが並んでいますが……」

仁長門「もしかして、あれが墓場ということなんだろうか?」

仁陸奥「それだと、聞いていた話と違うわね」

仁提督「そうだとしても、くだらんな。あんなものを後生大事に飾っておくより、さっさと溶かして資材に変えてしまえば良かろうに」

仁提督「弾薬にしても燃料にしても、いくらあっても足りんのだ。こんな戦争、とっとと終わらせなければならん」

仁霧島「……本当に誰もいませんね」

仁比叡「さっき人影が見えたんだけど……あっ」


如月「……あれ、誰かしら」

潮「提督……じゃない、ですね?」

初春「金剛姉妹か? 長門と陸奥もおるようじゃが……」

霞「霧島さんがいるわ。余所の鎮守府の人たちかしら」

敷波「司令官、呼んでくる? あたし行ってこようか?」

電「それが良さそうなのです」
766 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:19:46.61 ID:g5rkcZrko

仁陸奥「駆逐艦の子たちね。この鎮守府の子たちかしら」

仁提督「丁度いい、練度が高い順に連れて帰るか。長門!」

仁長門「!!」

仁提督「何人か捕まえてこい。練度の高いやつを優先して見繕ってくるんだ!」

仁長門「捕まえ……いいのか!?」キラーン

仁長門「ふ、ふふふ……胸が熱いな!」


霞「っ!?」ゾク

潮「な、なんかこっち見てるけど……!?」

如月「あの長門さん、ちょっと目つきがやばくない?」

初春「……いかん! あの長門はまずい!!」

敷波「ま、まずいって何が!?」

初春「皆、逃げるんじゃ! 襲われても知らんぞ!」

電「えええええ!?」

767 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:21:02.09 ID:g5rkcZrko

 キャアアーー

仁陸奥「ちょっと、長門が変な顔してるから逃げちゃったじゃない」

仁長門「よーし、追いかけっこだな! 待てぇぇぇえ!!」ダッ

仁陸奥「……」

仁提督「おい長門! 遊びじゃないぞ! さっさと捕まえてくるんだ!」

仁長門「ふははははははぁぁぁぁあああ!!」

仁陸奥「聞いてるのかしら……」

 ズドドドド…

電「お、追いかけてきたのです!」

初春「くせ者じゃああ! 出会え、出会ええええ!」

敷波「し、しれいかーーーーん!!」

潮「長門さぁぁぁん!!」

仁長門「私ならここだぞぉぉぉ!!」

霞「あ、あんたじゃないわよっ!!」

768 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:22:22.22 ID:g5rkcZrko

 * 鎮守府正面ロビー *

 キャァァァァ

金剛「なんだか叫び声が聞こえマスヨ?」

提督「ったく、なんだってんだよ……面倒臭え」

敷波「し、司令官っ!!」ダッ

提督「!」

潮「たす、助けてくださいっ!」ヒシッ

電「追いかけられているのです!」ヒシッ

如月「も、もうやだっ……!」ヒシッ

提督「なんだなんだ、どうしたって……」

仁長門「うおおおおおおおおおお!!!」ドドドド

提督「……長門?」

仁長門「むっ、誰だ貴様は! そこをどけ!」キキーッ

提督「……あぁ?」ギロ

金剛「テートクに向かって『どけ』とは良い度胸デース」ユビヲバキボキ

敷波(金剛さんって意外と武闘派……?)
769 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:23:01.97 ID:g5rkcZrko

提督「長門みたいだが……誰だこいつ。俺の知ってる長門じゃねえな」

如月「そ、それが、余所の鎮守府から来た長門さんみたいなの」

提督「ふーん……」

仁長門「貴様! そこをどけと言っているのがわからないのか!」

金剛「Hey you, テートクに向かって二度目の暴言、そろそろ許してはおけまセンヨー?」ニジリ

仁長門「提督だと? この男がか」ピク

提督「俺はこの島の鎮守府の管理者、提督准尉だ。お前こそうちの艦娘を怯えさせて、何しようってんだ」

仁長門「知れたこと! 我が仁提督鎮守府へ編入させ、活躍の場を与えようというのだ!」

提督「あぁ?」ピク

如月「編入……って、私たちを移籍させるつもり!?」

仁長門「そうだとも! 我が艦隊には駆逐艦が致命的に不足しているんだ……!」
770 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:23:52.55 ID:g5rkcZrko

仁長門「こんなにも愛くるしい駆逐艦たちを、こんな辺鄙な鎮守府で遊ばせておいていいものか! いや、ない!」

仁長門「だから私が連れて行く!」キリッ

金剛「連れて行く、じゃありまセン。勝手過ぎる言い草デスネー」イラッ

提督「つまり人攫いか。憲兵の出番だな」

仁長門「なんでそうなる!!」

提督「なんでもなにもそうじゃねえか。本人と保護者の同意もなしに連れて行けば捕まるのが法治国家ってもんだろうが」

提督「ん、待てよ? 艦娘には適用されねえのか?」クビカシゲ

金剛「テートク、今はそこは重要じゃないデース」

提督「まあいい、どっちにしたって連れて行くのは無理だ。諦めて帰んな」

仁長門「フ……何を愚かなことを! このビッグセブンとともに征きたくない駆逐艦娘がいないわけがないだろう!」

如月「私は嫌よ!」

仁長門「!?」
771 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:24:32.09 ID:g5rkcZrko

潮「私も嫌です!」

電「電も嫌なのです!」

敷波「あたしも絶対やだ!」

霞「私だって断固断るわ!!」

初春「当然じゃのう。去ぬが良い」シッシッ

仁長門「なぜだぁぁぁ!?」ブワッ

金剛「当然デス」Huh!

提督「あんだけ怯えさせておいて、一緒に来てくれると思ってんのかこの馬鹿」

仁長門「私は遊んでやろうとしていただけだぞ!!」

霞「遊ぶ!? 冗談でしょ、何をされるか分かったもんじゃないわ!」フシャー!

金剛「テートク? さっき大淀からあった連絡……」

提督「そいつか……仁提督鎮守府とか言ってたな。おい、そこの誘拐犯、仁提督とやらが来てんだろ? 案内しろ」
772 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/09/29(日) 23:25:47.31 ID:g5rkcZrko
とりあえず今回はここまで。
773 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/30(月) 00:36:57.48 ID:MfPzgTtg0
風評被害甚だしいけどながもんが出てくるとそれはそれで妙な安心感が
774 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/30(月) 04:45:01.20 ID:eClGeb3ho
なんか面白いのが出てきたがそれはそれとして駆逐艦いない鎮守府とかヤベえ
775 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/30(月) 11:00:28.06 ID:b/P+Bs6NO
( T )「俺も流れ着いて良いだろうか筋肉を布教するために」
776 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/30(月) 12:14:05.20 ID:bBGP0zRD0
3−2で一旦詰む系提督ww

仁霧島が出て思ったが伊提督のトコに霧島いたら伊霧島(イキり島)になってたんだな……
777 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/02(水) 03:35:19.87 ID:g5oPoscMo
長門のせいで逃げられてるんじゃ?
軽巡の球磨型とかまで守備範囲広げてればいいものを
778 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/10/03(木) 00:29:59.13 ID:OT7OSUtjo
マッ鎮とのコラボはおもしろそうだと思うけど筋肉はノーサンキュー

あっちは加入した艦娘を徹底的に鍛えてるけど
こっちは加入した艦娘を徹底的に甘やかしてるから
練度フィジカル差がガバガバで対抗できる艦娘が皆無よ?
あとル級が泣く。絶対泣かされる
潮と初雪あたりもいろんな意味で怖くて泣き出すと思う
魔神様覚醒後ならワンチャンあるかもしれないけどマッスルさんはイビルシュートすら耐えそうなんだよなあ

長々書いたけどいち読者としてあちらの話も期待してます
以上独り言終わり


続きです。
779 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/10/03(木) 00:30:45.60 ID:OT7OSUtjo

 * 埠頭 *

仁提督「なに、そう難しい話ではない。練度の高い駆逐艦を6隻、こちらに差し出せば良いのだ」

提督「断る」

仁提督「おい!?」

提督「話は済んだな。帰れ」クルリ

仁提督「」ピキキッ

霞「10秒で済んだわね」

初春「にべもないのう」

提督「話すだけ時間の無駄だ」

霞「まあ、同意するけど」

仁提督「待たんかあああ!」

提督「だから嫌だっつってんだろうが、面倒臭え」
780 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/10/03(木) 00:31:30.70 ID:OT7OSUtjo

仁提督「貴様、准尉のくせに上官に対していその口の利き方はなんだ!」

提督「ふん、てめえこそ、それが人に恵んでもらう態度か? 物乞いの分際で」

仁提督「物乞い……っ!」

提督「物乞いじゃなきゃ人攫いだ。うちの駆逐艦、無断で連れて行くとか言ってたのはどこのどいつだ? 憲兵に言うぞ?」

仁提督「だ、誰もそんなことは言っていない!」

提督「そうか。だったら帰れ、俺はお前なんかに身内を差し出すような真似はしねえ」

仁提督「ぐぬぬ……下士官のくせに口の減らない男だ!」

「テートクー!」

提督「!」

金剛「テートクのために、応援を呼んできまシタヨー!」

榛名「榛名もお手伝いいたします!」

扶桑「私たちも、提督のお役に立てることがありましたらお手伝いさせていただきます」

山城「……まあ、どのくらいお手伝いできるかわかりませんけど」
781 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2019/10/03(木) 00:32:18.70 ID:OT7OSUtjo

提督「戦艦勢揃いか……大袈裟だな」

比叡「お相手さんが戦艦6隻揃えてきたということでしたから!」

陸奥「それに出撃も制限中だったでしょう? 暇だから必然的にみんな来ちゃったの」

提督「そういやそうだったな……」


仁金剛「オーゥ、あちらには私たちもいるみたいデース」

仁比叡「あ、でも霧島はいないみたいですよ、金剛お姉様」

仁提督「ぐぬぬ……辺境とはいえ、戦力は揃えておるのか」


長門「ふむ……あちらには私や陸奥もいるのか」スタスタ

潮「! 長門さん!」ダッ

電「長門さんなのです!」ヒシッ

初春「おお、長門が来たか!」

長門「? どうしたんだ?」
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