このスレッドは950レスを超えています。そろそろ次スレを建てないと書き込みができなくなりますよ。

【艦これ】提督「墓場島鎮守府?」如月「その2よ!」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

284 : ◆EyREdFoqVQ :2018/11/17(土) 19:25:17.57 ID:XxL/IGBoo
続きです。
285 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 19:27:26.81 ID:XxL/IGBoo

大和「提督。その艦娘養成所、なんとかしてその悪事を暴きましょう! 許しては置けません!」

提督「……いや、無理だな」

大和「提督!?」

提督「まず、相手に関する情報がなさすぎる」

提督「海軍でもないのに艦娘を建造する方法を知っていて、かつ、見せしめに艦娘を殺せるほど余裕のある相手」

提督「どんなもん持ち出してくるか予想ができねえし、向こうが俺たちのこととか、どの程度の情報を持ってるかもわからねえ」

提督「何も知らない俺たちがそいつらを探しに動いたところで、捕捉されて逆に目を付けられたら、こっちが圧倒的に不利だ」

大和「……っ」

提督「俺もここまで胸糞悪い気分になったのは久々だ。関係者全員ぶっ潰してやりたいところだが……」

提督「榛名の望みは、匿え、って話だ。那珂もまた暴れだすかもしれねえし、落ち着くまで療養させたほうがいいだろう」

神通「様子見、ですか」

提督「ああ、ここは知らぬ存ぜぬを通す。できればこのまま関わらずに済ませたいとこだ」

提督「こういうのは本営に丸投げが一番いいんだが、その本営が絡んでないとも言い切れないしな。藪をつついて蛇を出したくもない」

提督「それから……念のためだ、榛名と那珂の体と艤装、持ち物のチェックを頼む。変な発信機ついてたら終わりだからな」

榛名「それは大丈夫だと思います」

提督「ん?」
286 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 19:29:30.33 ID:XxL/IGBoo

榛名「出撃するときに、腕時計のようなものを着けるよう命じられました。大破した時に壊れて海に落ちてしまったんですが……」

榛名「それ以外に後付けの装備はありません。もしかしたら、それがそうだったのかも……」

提督「だといいがな。ひとまずお前も後遺症がないかを含めて、明石に精密検査受けとけ。変なもん埋め込まれてたら嫌だろ?」

榛名「はい……わかりました」

大和「……ですが、このままでいいのでしょうか」

提督「大和。今回はN中佐のときとは状況が違う」

提督「あの時は首謀者自ら乗り込んできたし、事前にイヤホンを見つけていたから簡単に返り討ちにできたんだ」

大和「……」

提督「今回は情報が少なすぎてなあ……あっちから出向いてくるのを待ってた方がいい気がするぜ」

神通「……」チラッ

提督「……!」

伊8「!」

提督「……それから」スタスタスタ

提督「そこで盗み聞きしてんのはどいつだ!」バッ

由良「!! ……ゆ、由良は、遠征の帰りで、ちょっと気になって……」メソラシ

五月雨「す、すみません、私も……」
287 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 19:32:11.06 ID:XxL/IGBoo

初春「ふむ、ばれてしまったか」

吹雪「す、すみません司令官!!」ペコッ

提督「お前らなあ……」ハァァ

初春「わらわは今日の秘書艦を任されておるぞ。事態の把握はしておっても良かろう?」

提督「ったく、開き直ってんじゃねえよ。まあいい、聞いちまったもんはしょうがねえ」ハァ

提督「聞いたからには全員執務室に来い。伝言ゲームになって嘘が混ざるのだけは御免だ」

提督「とりあえず、問題がないなら榛名と那珂の身柄はうちで預かる」

提督「二人の轟沈の記録が流れてきていないから、折を見て、洋上で見つけたドロップ艦の扱いで申請しておく」

榛名「……! あ、ありがとうございます……ありがとうございますっ!!」

提督「事情が事情だ、しばらくは追手の警戒のため島の哨戒を優先する。遠征時も電探を積んで速力優先で行くか」

提督「他に轟沈した艦もいるし、そいつらがどうなったか気になるしな。そういう意味でも哨戒任務は増やしておくか」

大和「承知しました、大淀さんにもそう伝えます」

提督「ああ、頼むぜ」

榛名「提督……本当に、ありがとうございます……!」

提督「断っておくが、お前らばかりに構っちゃいられねえぞ。まだ話を聞いてない奴らが2人残ってんだからな」
288 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/17(土) 19:32:41.74 ID:XxL/IGBoo
以上、今回はここまで。
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 11:01:56.10 ID:PZuSfgPlO
乙!
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 16:21:25.56 ID:tEY17+Ht0
今更ながら意外とこの鎮守府の由良さんて逞しいというか
サバサバしてるなぁ。基本癒しオーラ全開娘なイメージというか。
おのれブラ鎮
291 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:29:56.73 ID:2T7InI+Ho
続きです。
292 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:31:01.98 ID:2T7InI+Ho

 * 鎮守府 執務室 *

由良「確かに、艦娘養成所なんて聞いたことないわ」

提督「五月雨もそうか?」

五月雨「はい。前の鎮守府では、それこそいろんな鎮守府と演習を行いましたが、養成所というのは聞いたことがないです」

提督「榛名や那珂が嘘をついているとも思えねえが、五月雨が知らないとなるとなあ……」

由良「とにかく、その養成所がどこにあるかとか、存在そのものを証明できないと何もできないわね」

吹雪「探しに行くのは駄目なんですか?」

提督「神隠しに遭っても知らねえぞ」

吹雪「……そ、それってどういう……」

提督「ミイラ取りがミイラになっても知らねえぞ、って言ってんだよ。養成所なんて名乗ってやがるが、まるっきり謎の組織じゃねえか」

提督「名前が養成所だから、捕まっても大丈夫なんて浅い考え起こしてんじゃねーだろうな? 見せしめで艦娘殺せる連中だぞ?」

吹雪「……!」ブルッ

由良「こちらから動くのは得策じゃない、ってことね?」

五月雨「なにかあっても、相手の拠点がわからないうちに連れ去られたりしてたら、助けに行けないですからね……」ウーン

提督「そういうこった。普段通り過ごして、気になることがあったら報告してくれ。俺からは以上だ」

五月雨「わかりました!」

 ゾロゾロ
293 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:32:56.78 ID:2T7InI+Ho

大淀「那珂さんは、危ないところだったんですね……」

提督「神通には借りばかり作っちまって、足向けて寝られねえよ。早いとこ神通の仇を討ってやりたいところだ」

提督「しかし未だに信じられねーな。神通と那珂じゃ、性格が違いすぎるだろ……」カリカリ

初春「それで? 此度の那珂と榛名の実情の調査はせぬのか?」

提督「しない。君子危うきに近寄らずだ」

初春「なんじゃ、つまらんのう。てっきり、敵を欺くには味方から、と、おぬしが隠れて調べるものとばかり思っておったんじゃが」

提督「初春、やたらと首を突っ込もうとするな。そんなに外に出たいのか?」カリカリ

初春「うむ。なんというかの、暁の鎮守府の調査が謎解きのようじゃったのでなぁ」

提督「悪趣味だな。好奇心は猫を殺すって言葉知らねーのか」

初春「ふん、建造されてすぐ捨て艦にされたわらわじゃぞ。外の世界に対する知識欲に飢えていることくらい察してほしいものじゃな」

提督「朧からミステリ借りて読んでろ」カリカリ

初春「原文じゃぞ。わらわは英文は読めぬ」

提督「金剛に訳してもらえ」

初春「先日はそれであやつに結末をバラされたのじゃ。あやつには頼みとうない」

提督「いいから朧みたいに英和辞書使えよ、この頭でっかち」

初春「……いけずめが。斯様にわらわをこの件に関わらせたくないか」プイ
294 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:34:16.80 ID:2T7InI+Ho

提督「俺が関わりたくねえんだよ。倒れる寸前の那珂に最後までついていくくらいの根性を見せた榛名が、あれだけ怯えてたんだ」

提督「やばいからこそ榛名が必死になったとも言えるな。どういう風にとらえても、危険な案件だってことは変わんねえぞ」

初春「……まあ良い。貴様がそこまで嫌がるなら、従っておこうかの」

提督「そうしてくれ。面倒は増やしてほしくねえ」カリカリ

大淀「ところで、提督は先程から何を書いているんですか?」

提督「中将への信書」カリカリ

初春「なぬ?」

提督「養成所のことを俺が直接調べる気はねえ。代わりに本営をけしかける」

初春「なにをしておるか、貴様の手柄になるのじゃぞ?」

提督「手柄なんざいらねえよ。この話に決着がついて、那珂や榛名の心配事を潰せればいいだけだ」

提督「下手に目立って注目されればそれなりの戦果も期待される。この前みたく、大和狙いの馬鹿がまた出ないとも限らない」

提督「俺は今のだらだらした暮らしが気に入ってんだ、人間なんぞのためにあくせく働く気はねえよ」フー

初春「……」

大淀「……」

提督「そうでなくても艦娘管理ツールの一件で俺の評価が上がっちまったらしいからな。これ以上目立ちたくねえ」

提督「とはいえ、いつまでも中将の陰に隠れてるわけにもいかねえし……」

提督「何よりもあの中佐をなんとかしねえとな。くそ、やっぱ始末しときゃ良かったか……」
295 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:36:04.45 ID:2T7InI+Ho

初春「安寧を得るためには力も必要じゃぞ。それが武力であれ権力であれ、力の伴わぬ正義なんぞ……」

提督「おい、勘違いすんなよ初春。俺は俺が正しいなんて思っちゃいねえぞ」

初春「ならば貴様は何故、何のために戦うのじゃ」

提督「そんなもん、俺自身の自己満足のためだろうが。この前も言ったろ」

初春「は?」ポカン

大淀「……」

提督「俺は誰かのために、なんて大層な志は持ち合わせちゃいねえよ」

提督「泣いてる艦娘がいて、手を差し伸べたいと思ったからそうしてきたまでだ。ちゃんと本人に同意を確認してるだろ?」

初春「そ、それを自己満足と言うか!?」

提督「どんな物事だって、自分が納得して選択肢を選んでいれば、後悔はしても理不尽とは思わねえだろ?」

提督「誰かのために損をしても、それでいいって思ってやってるならそれも自己満足だ。人生の最重要項目じゃねえの?」

初春「……」

提督「好き勝手やって、それが艦娘に喜ばれて……そう考えりゃあ、俺も昔より今のほうが遥かに幸せだな」フフッ

提督「お前が養成所の調査をしたいのも、気に入らないからだろ? 調べて満足したい、叩き潰して満たされたいってな」

初春「むう……」

提督「でもな、今回は駄目だ。我慢してくれ」
296 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:37:08.89 ID:2T7InI+Ho

初春「二度も言わんで良い。あいわかった、これ以上の口出しはせぬ」

提督「ああ、そうしてくれ」ニコ

初春「……貴様もだいぶ険の取れた顔をするようになったのう」

提督「あ?」

大淀「今、とても穏やかな顔をなさってましたよ」

提督「……」

初春(まさかこやつに毒気を抜かれるとは思わなんだ)

大淀(いい顔してましたよね……もう元に戻っちゃったけど)

提督「……はぁ。なんか前にもあったな、こんなこと。なんだったっけか……」アタマガリガリ

 通信機 < RRRR...

提督「!」

大淀「ドックからですね……もしもし、執務室です」チャッ

大淀「……そうですか、わかりました。提督にもお伝えします」

提督「扶桑か?」

大淀「はい。目を覚ましたそうです」

提督「わかった。大淀、中将宛の文書の校正頼む。あとで清書しとく」バサ

提督「初春は大和と伊8呼んで来い。お前にも話を聞いてもらうぞ」

初春「うむ、わらわに任せておくが良い」ムネポーン

初春「このわらわの灰色の脳細胞が、いかなる難事件も容易く解決してみせようぞ!」ビシィ!

提督(クリスティに毒されてやがんのか)ハァ
297 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:38:29.94 ID:2T7InI+Ho

 * 入渠ドックわきのテーブル *

山城「まさか戦艦大和がいるなんて……生き残っても私たちの出番はないのかしら。不幸だわ……」ズーン

提督「のっけから何を落ち込んでやがるんだこいつは」

伊8「山城さんはもとからこういう感じだから」

提督「ま、いいけどよ。で、こっちが扶桑か、見た目の傷は癒えたようだな」

扶桑「……」ペコリ

大和「なんだか、雰囲気が重苦しいですね」

提督「しょうがねえんじゃねえの? とりあえず座ってくれ、俺は提督准尉。この××国××島の鎮守府の管理者だ」

山城「改めて言うべきかしら。扶桑型超弩級戦艦姉妹、妹の山城です、そしてこちらが……」

扶桑「……」

山城「ふ、扶桑お姉様……?」

扶桑「……扶桑型、超弩級戦艦……姉の、扶桑です」

提督「……」

初春(口調まで重苦しいのう……)

大和(なにかしら、この異様な迫力……)

伊8(負のオーラがすごい……)
298 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:39:31.37 ID:2T7InI+Ho

提督「まずは状況を整理するか」

提督「お前たち二人はD提督配下の艦娘。数日前の戦闘で大破轟沈し、この島の海岸に流れ着いた。間違いないか?」

山城「ええ、それでいいわ。でも、どうせすぐ解体するんでしょう?」

初春「? 別に解体などとは……」

提督「ああ待て初春。その話の前にだ、お前ら、どうして解体されるって思ったんだ?」

山城「確か……轟沈した艦娘は、いずれ深海棲艦になってしまうから、じゃなかったかしら?」

提督「それは誰から聞いた?」

山城「誰ともなく……よ。食堂で駆逐艦たちが話していたのを聞いたりとか、あくまで噂話としてだけど」

山城「それが事実なら、私たちは解体されるって話も、噂のついでで聞いてるわ……」ズーン

大和「……提督、榛名さんたちとは微妙に反応が違いますね」

提督「艦娘が深海棲艦になるっつう話は、艦娘にはあまり浸透してないのか?」

山城「それで、深海棲艦の候補生になった私たちの処分はいつなの?」

提督「早まんな。この島の鎮守府にはある特例があるんだが、それは知ってるか?」

山城「……特例? も、もしかして、扶桑お姉様を助けられるの!?」ガタッ

初春「なんじゃ、話が食い違っておると思ったら。話しておらんかったのか?」

提督「ああ、ちょっと明石に話さないように言っておいたんだ」
299 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:40:17.14 ID:2T7InI+Ho

山城「もったいぶらないで!! 特例って何よ!?」ズイッ

提督「落ち着けよ。端的に言えば、この島に流れ着いて助かった轟沈艦娘を、うちで登用できる特例を作ってもらったんだよ」

山城「そ、それって、この鎮守府の艦娘になれば、助かるってこと!?」

提督「ああ。大和は違うけど、なあ?」チラッ

伊8「はい。はっちゃんも、そうです」

初春「わらわもそうじゃ。今は所属する艦娘の半分くらいがそうじゃったかのう?」

山城「本当!?」パァァ

山城「扶桑お姉様! 私たち、解体されずに済みそうですよ!」

扶桑「……」

大和「提督? なんだか、扶桑さんは嬉しくなさそうですよ?」ヒソヒソ

初春「なにやら思うところがありそうじゃのう?」ヒソヒソ

提督「そうだな……お前たちがどうして沈む羽目になったのか、その辺の説明はできるか?」

山城「え、ええ、それは全く構わないけれど……」
300 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:41:13.53 ID:2T7InI+Ho

 * *

山城「私たちが受けた任務は、敵艦隊の邀撃。敵艦隊旗戦艦タ級の撃滅が目的よ」

山城「駆逐艦4、戦艦2の艦隊を組んで、敵艦隊を挟撃する、というのが私たちの受けた作戦命令だったわ」

提督「挟撃?」

山城「ええ、その時の作戦海域を……ちょっと書くもの貸して。こう……簡単に、九つの区画に分けるわね」カリカリ

 789
 456
 123

山城「電卓と同じ並びと思ってちょうだい」

山城「敵艦隊は東側、6の位置。私たちは北西……1の位置から海域に突入。中央、5の位置には岩礁があるの」

山城「戦艦の私たちは、7−8−9のルートを通って北側から接敵」

山城「駆逐艦隊4隻は、7−4−2−3のルートを通って南側から接敵」

山城「私たちが先制攻撃を仕掛け、敵の注意を引いたところで、背後から駆逐艦隊が敵艦隊を攻撃する手筈だったのよ」

山城「でも……駆逐艦隊が敵を攻撃する前に、私たちは敵の猛攻を受け、轟沈したのよ」

提督「駆逐艦隊が攻撃していないと判断したのはなぜだ?」

山城「私たちの攻撃の後、敵艦への砲撃が見受けられなかったからよ」

山城「敵艦隊を視認しながら攻撃していたけれど、私たちの放った砲撃以外で、敵艦隊から煙が上がったり水柱が立ったりはしていなかった」
301 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:42:16.05 ID:2T7InI+Ho

提督「連携は? お前らと駆逐艦たちで通信はしていなかったのか」

山城「D提督からは、駆逐艦隊と私たちの間の通信は、挟撃すると傍受される可能性があると言われたわ」

山城「それを回避するために、通信用の小型船を4の位置で待機させて……」

山城「私たちと駆逐艦隊の所定の位置への到着を確認してから、D提督の指示で攻撃をすることになっていたの」

山城「実際に、私たちへは指示が来たわ。それを受けて、私たちは砲戦を開始したのよ」

大和「作戦内容だけ聞けば悪くないと思いますが……通信の傍受の可能性は、この小型船を挟んだとしても防げませんよね?」

提督「挟撃じゃなくて十字砲火なら理解できるんだがな。挟撃が効果的だというのもわからなくはないが、この場面で必要か……?」

提督「まあ、戦術の良し悪しはさておいて、とにかく駆逐艦隊から敵艦への攻撃はなかったのはどうしてだ、って話だな」

山城「ええ。なんらかのトラブルがあったと思っているけれど……」

初春「トラブル、のう……」

大和「確かにトラブルではありますね。駆逐艦隊が攻撃できない状態で、山城さんたちに攻撃せよと指示が飛んだということですよね?」

山城「結果的にはそうね……」

初春「駆逐艦隊が何らかの理由で行動できなかった……或いは、駆逐艦隊に指示を飛ばせなかった、というのもあり得るわけじゃな」

山城「そうね……なんにしても不幸でしかないわ。時雨たちは無事なのかしら……」ハァ

大和「時雨……というと、駆逐艦の?」

山城「ええ、そうよ。白露型駆逐艦二番艦、時雨。あの子は、今回の作戦の旗艦を務めていたの」
302 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:44:00.69 ID:2T7InI+Ho

山城「時雨はいい子だったわ。私が建造されてすぐ顔を見せに来てくれて……今回の作戦も、時雨が旗艦だからこそ成功させたかったの」

山城「船だったころも同じ艦隊に所属していたし、その時の無念を晴らす意味でも、任務を成功させたかったんだけど……」ウツムキ

大和「無念……西村艦隊のことですね。あのレイテ沖の」

山城「そう……!」コクリ

山城「私も、扶桑お姉様も、時雨を残してみんな沈んでしまったわ。それなのに、時雨に同じ悲しみを味わわせて……」

山城「そうだわ、時雨はあのときどうしていたのかしら。まさか、時間差で敵艦隊に突撃して、あの子まで沈んだりしてないでしょうね!?」

山城「あああ、不安だわ! 時雨にもしものことがあったら……!」

扶桑「山城、大丈夫よ」

提督「!」

大和「!」

山城「扶桑お姉様……!?」

扶桑「D提督は、時雨を大事にしているわ。絶対に無事よ」

山城「……だ、だと良いのですけれど……」

扶桑「……」
303 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:45:23.20 ID:2T7InI+Ho

提督「……」

伊8「提督? どうかした?」

提督「ん……いや、なんでもねえ」

伊8「……」ジーッ

提督「……そうだな、初春。お前は大和と一緒に、休養室あたりで山城と雑談してきてくれ」

初春「雑談とな?」

提督「ああ。山城にしても扶桑にしても、もう少し聞きたいことがある。扶桑にも話を聞きたいから、先に行っててくれ」

大和「わかりました」

山城「……扶桑お姉様になにかしたら許さないわよ……!」

提督「はっちゃんは丘の上を見てきてくれるか? 神通は那珂に付き添っているから、誰もいないはずなんだが」

伊8「人払い、ですね?」

提督「理解が早くて助かる」

伊8「……それと、提督」

提督「ん?」

伊8「扶桑さん、死にたがってますよね?」ヒソッ

提督「……理解が早くて助かる」

伊8「経験者でしょ? お互いに」

提督「……ふん」アタマガリガリ
304 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/11/24(土) 22:46:05.79 ID:2T7InI+Ho
今回はここまで。
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 16:29:42.69 ID:flolipmro
おつー
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/02(日) 16:16:18.13 ID:TlRk9Bow0
個人的にレイテや西村艦隊はシリアスに凝ってて嫌いじゃなかったけど
その直後にあてつけの如く白露いじめ始めるから大本営って
本当時雨と夕立以外どうでも良いんだなぁって思わされた瞬間だったな
307 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:39:38.86 ID:x+sj4X5Zo
五月雨と涼風はどうなるんでしょうねえ……高雄とか青葉もですが。

続きです。
308 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:40:27.36 ID:x+sj4X5Zo

 * 島の南東、丘の上 *

 ザザァ…

扶桑「……」

提督「さて。ここなら誰も来ねえ」

扶桑「……ここは、なんですか」

提督「その質問にゃあ後で答えてやる。その前にお前にいろいろ聞いておきたくてな」

扶桑「……」

提督「お前、助かったのにちっとも嬉しくなさそうだな。なんでだ?」

扶桑「……」

提督「……」

扶桑「……なぜ、私を助けたのですか」

提督「山城に頼まれたからだ」

扶桑「……私のことは、見なかったふりをして捨て置けば良かったのです」

提督「生きるのは本意じゃなかった、ってか? それこそ、そう思うのはなぜだ」

扶桑「私は……」

提督「……」
309 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:41:44.90 ID:x+sj4X5Zo

扶桑「私が、望まれて造られた艦娘ではないからです」

提督「……そいつはどういう意味だ」

扶桑「私がD提督のもとに建造され、初めてお目見えした時……彼に、こう言われました」

扶桑「最初の戦艦が不幸型かよ、ついてねえ……と」

提督「不幸型?」

扶桑「私たち扶桑型は、敵艦隊の待ち伏せによって沈められた史実などから、不運な艦であるという認識をされています」

扶桑「だからこそD提督は、私を不幸型と揶揄し、私が建造されたことに露骨に顔をしかめたのでしょう……」

提督「……」

扶桑「D提督は、異常なほど運や願掛けを気にする人でした」

扶桑「かつての武勲艦や幸運艦に執着する彼だからこそ、あのような指示を出した意図を理解しています」

扶桑「彼は最初から、厄落としのつもりで、私たちを沈めるつもりだったのです」

提督「厄落とし……!?」

扶桑「私が来たから作戦に失敗する。近寄れば不幸が伝染る。そんな言いがかりも受けました」

扶桑「私が笑えば不幸が寄ってくるとまで言われ、微笑むことすら禁じられました」

提督「……」
310 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:43:35.17 ID:x+sj4X5Zo

扶桑「時雨が来た時も、彼女を笑って迎えることができませんでした」

扶桑「山城が来た時も、疫病神が増えた、と言われ……」

提督「……」

扶桑「あの鎮守府に、戦艦は私たちだけです。私たちはD提督に渋い顔をされながらも使われ続けてきましたが……」

扶桑「空母機動部隊を要する余所の提督と提携を組めたことで、私たちを切れると踏んだのでしょう」

扶桑「私たちに縁のある時雨を旗艦に掲げ、わざと艦隊を分断する作戦を立て、私たちを戦没に見せかけて処理したのです」

提督「処理……だったらおとなしく解体すりゃあいいじゃねえか。なんでそんな回りくどいことをする」

扶桑「……言ったでしょう? 厄落としだと」

提督「時雨はどうなる。艦隊の旗艦だぞ、何らかの処分は受けるだろう」

扶桑「時雨は、のちに幸運艦とも呼ばれた艦の艦娘です。先程も申し上げた通り、D提督なら時雨は寛大な処分を与えることでしょう……」

扶桑「だから、時雨の身の心配はいりません。心まではどうかは、わかりませんが……」

提督「だからか。だからお前は笑えないってか……!」

扶桑「……はい」

提督「それ以上に、なんなんだ!? そのくそみたいな命令は!! くだらねえ……馬鹿じゃねえのか!!」

提督「お前もそんなもん、律儀に従ってんじゃねえよ……!!」

扶桑「……」
311 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:44:53.82 ID:x+sj4X5Zo

提督「はー……ったく、イライラすんぜ。くそばっかりだな、人間ってのは」

扶桑「……」

提督「さっき遮ったお前の質問にも答えとく。ここは、墓地みたいなもんだ」

扶桑「墓地……?」

提督「そうだ。この島の周辺は潮の流れが強くて、艦娘の遺体が海中に沈むこともできず、しょっちゅう砂浜に打ち上げられてる」

提督「ここにある艤装は、その轟沈した艦を土葬した証。墓標代わりだ」

扶桑「……!」

提督「俺が来たころは地獄絵図だった。砂浜に、夥しい数の艦娘が、無残な姿を晒してた」

提督「それ以来、俺は砂浜に足を運んで見回ることにした。遺言が聞ければ上等だ、ってな」

提督「運良く一命を取り留めて、生きると言えた艦娘は、ここで暮らせるように手配してる」

提督「お前にとっちゃあ、運悪く、かもしれねえがな……」ジロリ

扶桑「……」

提督「そういうわけでだ、生きたいんならそれなりに面倒は見てやる」

提督「だが、死にたいんなら俺もお前に関わる気はない。島を出るなり好きにしろ、見なかったことにしてやる」

扶桑「……」
312 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:46:48.10 ID:x+sj4X5Zo

提督「それから、山城には必ず話をしていけよ。山城は、お前の幸せが自分の幸せだって言ってたんだからな」

提督「何も言わずに消えるようなら、山城がどうなるかは知らねえぞ」

扶桑「! ……あなたは、山城を人質にしようというの……!?」

提督「人質ぃ? 馬鹿言え、俺たちは何もしねえよ」ニヤァ

提督「山城が、お前に捨てられ嘆き悲しんで自害しようが、お前を追いかけて海の藻屑に消えようが、俺たちは一切関与しないってだけだ」

扶桑「……っ!」

提督「お前がいなくなれば、山城はきっとお前を追いかけるだろうな。そのオチがどうなるかなんか、俺の知ったこっちゃねえ」

扶桑「……」

提督「折角助かった山城を見殺しにしたくないなら、もう少し身の振り方を考えてみるんだな」

 クルッ スタスタ…

扶桑「……」ウツムキ

 ザザァ…


313 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:50:49.16 ID:x+sj4X5Zo

 * 鎮守府内 執務室への廊下 *

提督「立ち聞きとは感心しねえな」

如月「そんなこと言ったって、那珂さんのときだって神通さんがいなかったら危なかったって話でしょう?」

如月「司令官の身に何かあってからじゃ遅いのよ?」

不知火「不知火も異論ありません。当然の対応だと思います」

伊8「はっちゃんは聞こえないあたりまで離れてたけどね」

提督「……まあいいや。話の内容はとにかくとして、お前らも見てて少しは気付いたろ、扶桑の顔」

如月「そうね、嬉しいも悲しいもない、なんていうか、諦めきった顔、って言えばいいのかしら」

提督「いい線いってんな。話を聞く限り、多分扶桑は自分の未来に希望を持ってねえんだ」

提督「建造直後に自分の存在を否定されて、その評価が覆る未来を想像できなかった……境遇の好転に期待できなかったんだろうな」

提督「笑うなとまで言われちゃあ、心が折れるのもしょうがねえ、って感じか」

如月「暴君ね……!」

不知火「頭に来ました」

伊8(加賀さん……?)
314 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:52:50.98 ID:x+sj4X5Zo

提督「それでだ。仮面被った扶桑の顔が、やっと感情らしい感情を見せたのが、山城の話になった時だ」

提督「世を儚んで諦観してるあの姉も、妹までは巻き込みたくないらしい」

不知火「なるほど……」

提督「つうわけで、徹底的に山城を巻き込んで、扶桑が自重せざるを得ない状況を作る方法を考える」ニタァ

伊8「……うん、やりたいことは正しいと思うけど」

如月「もう少し、言い方があると思うわ……」

不知火「あなたという人は……」ハァ

伊8「そういえば提督、さっきもすっごい悪い顔してたけど」

如月「この人ったら、山城さんをだしに扶桑さんの危機感を煽りたくて、わざと悪役みたいな立ち回りをしてるのよ」

伊8「あー……」ナットク

如月「それで、わざとああいう顔をしてみせたってことでしょうね」

不知火「まあ、いつものことです」シレッ

伊8「いつも……そうかも」

如月「本当、気が気でないわ……」フゥ

伊8「……っていうか、提督を『この人』呼びって」ジトメ

不知火「いつものことです」シレッ

伊8(まるで内縁の妻……)
315 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:53:41.90 ID:x+sj4X5Zo

不知火「実質、如月がこの鎮守府の初期艦でもありますし……」

伊8「え」

不知火「不知火ともども命を司令に助けていただきましたので、如月が司令にぞっこんというか、贔屓目なのは当然かと」

提督「別にお前らに恩を着せたつもりはないんだがな」

提督「とにかく、とりあえず扶桑と山城のことをもう少し調べないとな。過去の因縁とか……」

 執務室のドア<コンコン

提督「入るぞ」チャッ

大淀「あら。噂をすれば、ですね」

朝雲「来た来た、待ってたわ」

提督「? 朝雲が何の用だ」

朝雲「扶桑さんと山城さんが来たんでしょう? 同じ西村艦隊にいた私が、あの二人のことを少し話そうと思って、来てみたの」

提督「……お前は、ほんっとーに気が利くな……」

朝雲「お褒めに与り光栄です」ニコッ
316 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:56:34.14 ID:x+sj4X5Zo

 * 一方その頃 鎮守府埠頭 *

 パシュッ

 零式水上偵察機<バユーン

由良「……うーん、やっぱり、私のカタパルト、邪魔かなあ」

吹雪「……珍しい」

五月雨「? 何が珍しいんですか?」

吹雪「由良さんが艦載機を載せてるのが珍しいの。普段からカタパルトが使いづらいから、って、主砲とか副砲を多めに積んでるんだもの」

五月雨「そうなんですか?」

由良「そうよ。でも、さっきの養成所の話を聞いたら……ね」

五月雨「? それとこれと、どういう関係があるんでしょうか……?」

由良「養成所の目的がわからないのよ。なんのためにあの二人をぼろぼろになるまで戦わせたのか、どうしてもわからなくて」

由良「仮に、戦闘データを取るためとか、轟沈したときのデータを取るためだったら、あの二人を回収しにくる可能性もあるわよね?」

由良「もしそうだったら、普段から見張っておく必要があるでしょ?」

吹雪「この鎮守府に攻めてくる、ってことですか!?」

由良「うん。可能性としては、無しじゃないわよね」

五月雨「そ、それじゃみんなに知らせないと!」
317 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:57:39.34 ID:x+sj4X5Zo

由良「でも、本当に来ると思う? こんな辺鄙な島に」

吹雪「え、で、でも……」

五月雨「由良さんはそれを心配してたんじゃないんですか?」

由良「あの二人がどの辺の海域で沈んだのかわからないけど、でもそれでこの島に流れ着いたって、誰がわかるのかな?」

由良「二人とも腕時計を渡されたっていうけど、それも沈んだ時に落としたらしいし」

由良「それに、回収なんか考えてないかもしれない。もっと別の目的があったかもしれない」

由良「そうしたら、この島に誰かが来るなんて、絶対にないかもしれない」

五月雨「……」

由良「どっちの可能性もあるわけじゃない? 考えても結論が出なくて、どうしたらいいのかな、って。何をすべきか、まだ悩んでるの」

由良「それで、何ができるか、って考えて……何かあった時に気付けたほうがいいよね、って」

吹雪「それで偵察機を飛ばしてたんですか」

由良「監視は多いほうがいいわ。最近は利根さんがいつも飛ばしてるし、この前は金剛さんも調整してたし」

由良「由良はしばらくカタパルトを使ってなかったから、いざという時には飛ばせるようにしないと……あれ?」

五月雨「? どうしたんですか?」

由良「あれ、扶桑さんだわ……みんな、隠れて」ススッ

吹雪「えええ!? か、隠れるんですか!?」ササッ

五月雨「ど、どうして!?」ササッ

由良「いいから!」
318 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:58:50.34 ID:x+sj4X5Zo

扶桑「……」ヒタ…ヒタ…


吹雪「!?」ビクッ

五月雨「!?」ゾクッ

由良「だから言ったでしょ……!」

吹雪「め、滅茶苦茶怖い……っ!」ガタガタ

由良「無表情なのにあの迫力で、瞳に光がないんだもの。近寄れるわけないじゃない……!」

五月雨「ふ、扶桑さんって、この前榛名さんたちと一緒に流れ着いてきたんですよね?」

吹雪「で、でも、理由はあの二人とは違うはず! 事情を聴いて、そのあと……埠頭にきたのかな……?」

由良「どっちでもいいけど、どんな話をしたら扶桑さんがああなるの!? もうっ、提督さんったら……!」

五月雨「……あの目……」

吹雪「五月雨ちゃん?」

五月雨「私、なんだか、見覚えあります。あの目の感じ、どこかで……!」

  『五月雨……! よく、戻ってきてくれた……!』

  『みんなは……お前、以外は……!』

五月雨「あ……!」
319 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 20:59:40.45 ID:x+sj4X5Zo

  『お前一人が行ってどうなる! お前が、あれを沈められると思うか!』

  『許せないのは私も同じだ! よくも、よくも私の娘たちを……!!』

五月雨「……!!」ポロッ

由良「五月雨ちゃん!?」ギョッ

吹雪「な、なんで泣いてるの!?」

五月雨「……扶桑さんの目、P提督と似てます……!」

五月雨「私たちが、私以外のみんなが沈んだ時の、あの目……あの絶望した時の……!!」ポロポロ

由良「ど、どういうこと!?」

五月雨「事情はわかりません。でも、あの扶桑さんの目は危険です!」グシグシッ

五月雨「私、お話を聞いて、説得してみます! 放っておけません!」ダッ

吹雪「えええ、どういうこと!? ま、待っ……!」

由良「吹雪ちゃんは提督さんを呼んできて。私は五月雨ちゃんをフォローするから!」

吹雪「は、はいっ!」ダッ
320 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/02(日) 21:00:21.71 ID:x+sj4X5Zo
今回はここまで。
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/05(水) 11:25:53.83 ID:yR27CclqO
おつんつんランド
322 : ◆EyREdFoqVQ :2018/12/08(土) 21:29:53.70 ID:A9Vqo8/Wo
続きです。
323 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:31:03.91 ID:A9Vqo8/Wo

 * 執務室 *

朝雲「というわけで、私たち西村艦隊の艦は、時雨を除いて全滅したの」

提督「……なるほど。悪いな朝雲、お前にとっても嫌な過去だったろうに、喋ってくれて」

朝雲「いいのいいの。このくらい覚えてるってことは、きっと忘れちゃいけないことなのよ」

朝雲「確かに無念だったけど、この記憶が、同じ失敗を繰り返さないため、後世に伝えるためだって思えば……」

朝雲「今こうして提督に話せているのも、きっと無駄じゃないと思うわ」

提督「……立派過ぎる」

不知火「ええ。感銘を受けました」

如月「前向きな考え方よね。見習わなくちゃいけないわ」

提督「あの古鷹とあのL大尉の保護者だからな。気苦労は計り知れねえ」

如月「そうね、苦労したんでしょうね」ウルッ

不知火「お察しします」

朝雲「ちょっと待って、確かに苦労してなくはないけど!」

伊8「……古鷹さん、なにしたの?」

大淀「来た当初は大変だったんですよ、提督と一緒にベッドに入って子守歌歌ってあげようとしたり、お風呂で背中を流そうとしたり」

伊8「えええ……」
324 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:32:47.55 ID:A9Vqo8/Wo

朝雲「憲兵さんがいないからって好き勝手し過ぎたのよ」ハァ

大淀「古鷹さんの場合は、それが100パーセント善意から来てますからね」

提督「それにしたってなあ……大昔の、それも艦娘になる前の実績だけで選り好みしてんじゃねえよ、って言いたいがな」

朝雲「好きになられる分にはまだいいんだろうけどねー」

提督「……あー、そうでもねえぞ。潮みたいにストーカーになられても困る」

朝雲「え……なにそれ」

伊8「はっちゃんも知りません」

提督「潮が前いた鎮守府の司令官は筋金入りの変態でな。長門が見かねて連れ出して一緒に逃げてきたんだよ」

朝雲「うわあ……」

伊8「何をされたの?」

提督「知らないほうがいいぞ。そもそも訊いてどうする、セカンドレイプでもする気か。聞いたって俺たちには何もできねえよ」

伊8「う……ごめんなさい」

朝雲「アンタッチャブルな話なわけね」

提督「それにしてもだ、来て間もないはっちゃんはともかく、朝雲がその辺を知らないとは思わなかったな」

朝雲「え〜、この場合、知らない方が普通じゃない?」
325 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:34:16.50 ID:A9Vqo8/Wo

朝雲「榛名さんや那珂さんの話も聞いたけど、利根さんとか伊8さんとかも壮絶な過去過ごしてきてるでしょ?」

朝雲「人によっては思い出したくないだろうし、そんなに不幸な目にあってない私が慰めの言葉をかけるのもどうかなあ、って……」

提督「……ああ。すげーわかる」

如月「司令官?」

提督「当事者にしかわかんねえんだよ、こういうのは。同情したところで何がわかるってんだ」

提督「例えば如月が向こうで受けた屈辱や苦痛を、俺が全部理解するなんてできるわけねえ。男と女の差もあるし、境遇だって違う」

提督「それなのに、俺が『如月の気持ちはよくわかる』なんて言ったら、おこがましいにも程があると思わねえか?」

如月「それはそうね……」

不知火(少なくとも如月の好意に気付こうとしない司令の言うセリフではありませんね)トオイメ

伊8「っていうか、違う意味でも分かってないよね」

大淀「!? く、口に出ていますよ!?」

伊8「知ってる」

大淀「!?」

不知火(不知火も口に出して良かったのでしょうか)タラリ

朝雲「まあとにかく、お節介が過ぎるのが良くないっていうのは古鷹さんを見てよくわかってるから、大丈夫よ」
326 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:35:33.98 ID:A9Vqo8/Wo

提督「……俺が知ってる女連中ってのは、他人を貶めて嘲うドロドロした奴らばっかりだったんだが、やっぱ艦娘は違うな」

如月「一概にそうとも言えないけど……」

大淀「たまたまこの鎮守府にいる艦娘たちが、そういうのを好まないだけなんだと思います」

朝雲「そうそう。気遣いできるひとたちばっかりだから、平和よね」

伊8(夜、提督のベッドに忍び込む順番までみんなで決めるくらいだし、仲がいいなんでもんじゃないと思う)ウンウン

 バタバタバタ

吹雪「大変です司令官!!」バーン

提督「? どうした吹雪」

吹雪「扶桑さんが、すっごい顔して砂浜のほうに歩いて行ってます!」

提督「……なに?」

吹雪「五月雨ちゃんが、あの目は危ないって言って、扶桑さんを引き留めに行ったんですけど、どうなるかわかりません!」

吹雪「司令官、いったい扶桑さんに何を話したんですか!?」

提督「くそ、山城を少しでも大事だと思うんなら自重して身を引くタイプだと思ってたんだが……逆だってのか!?」

不知火「焚き付けたのが仇になりましたか……!」

吹雪「しれーーかーーーん!? もおお、何をしてるんですか!!」

提督「うるせえ、いいから案内しろ! 朝雲、休養室に行って山城連れてこい!」
327 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:37:05.79 ID:A9Vqo8/Wo

如月「待って、山城さんのところには私が行くわ! 朝雲ちゃんは、司令官と吹雪ちゃんと一緒に扶桑さんのところへ行って!」

提督「! わかった……吹雪! 案内頼む!」

朝雲「急ぎましょ!」ダッ

吹雪「なんで今回に限ってこんなことになるんですか!!」ダッ

提督「たまたま今までうまくいってただけだろうが!」ダッ

不知火「不知火も行きます」ダッ

伊8「はっちゃんも……」ダッ

 ドタドタドタ…

大淀「……大丈夫なんでしょうか……」

 通信機 < RRRR...

大淀「はい、執務室です」チャッ

通信『あ、もしもし大淀? 提督は?』

大淀「あら、明石? 提督はちょうど今、席を外しましたけど、どうかしました?」

通信『那珂ちゃんが目を覚ましたんだけど、ショックを受けたらしくて……って言う話をしようと思ってたんだけど』

大淀「そう……それより、今は扶桑さんが砂浜に行ったらしくて、みんな出て行ったの」

通信『なんだかよくない予感しかしないなあ……私もバケツ持って行ってみる』

大淀「ええ、お願い」
328 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:37:54.36 ID:A9Vqo8/Wo

 * 砂浜 *

五月雨「扶桑さん! いったいどこに行こうとしてるんですか!!」

扶桑「……」

五月雨「話を聞いてください!」

扶桑「……ねえ……」

五月雨「は、はい! なんでしょう!?」

扶桑「あなたは……私と一緒に……死んでくれる?」

五月雨「え……!?」

扶桑「不幸の連鎖は断ち切らなければならないわ。これ以上、不幸な艦娘を増やさないためにも」

五月雨「え? ええ? い、いったい何の話ですか!?」

扶桑「私は、D提督のもとで働いていたわ……あの人が同じ過ちを犯さぬよう、あの人を殺してあげるの……!」

五月雨「な、なぜそこまで……!?」

扶桑「それは、あの男が、不運を嫌うからよ……不運艦と呼ばれた私たちを、あの男は沈めようとしたの……!」

扶桑「私たちが生き残ったことがあの男に知れれば……改めて私たちを沈めようとしてくるはず……!」

五月雨「そ、そんな……いくらなんでもそこまでは!」

扶桑「故意に沈めた艦娘が戻ってきたら……厄を落とし切れなかったとしたら、当然、始末をするでしょう……?」

扶桑「そうなれば、山城の身が危ないもの。そんなことは、させないわ……!」
329 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:38:47.15 ID:A9Vqo8/Wo

五月雨「ま、待ってください! そ、そもそも、D提督は、お二人が生きてるかどうかだってわからないんでしょう!?」

五月雨「このまま、黙ってたら……ここで隠れていたら、何も起きないんじゃないですか!?」

扶桑「……そうね。でももし、向こうでまた別の山城が建造されでもしたら、また同じことが起こるかもしれないわ……」

五月雨「っ!!」

扶桑「わかるでしょう? 元を絶たないと……いけないの」

五月雨「で、でも! 扶桑さんがいなくなったら、山城さんはどうするんですか! 絶対悲しみます!」

扶桑「ここの山城のことは……そうだわ。あなたに、山城のことをお願いしてもいいかしら……?」

五月雨「え、えええ!?」

扶桑「私と一緒に行くのは嫌なんでしょう? 引き受けてくれるなら、私は心置きなく、あの男を殺しに行けるわ……!」

五月雨「待って! 待ってください、扶桑さん!!」


??「ま……って……」


扶桑「!?」

五月雨「!? だ、誰!?」キョロキョロ
330 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:39:37.88 ID:A9Vqo8/Wo

??「ふ、そう……待っ、て……」

扶桑「この声……」

五月雨「こっちから聞こえてきましたよ……あっ!」


半ば砂に埋もれて横たわっている時雨「……五月雨、かい……?」


五月雨「時雨姉さん!!」タッ

扶桑「時雨……時雨なの……!?」

五月雨「もしかして、扶桑さんと同じD提督鎮守府の!?」

時雨「そう……だよ……」コクン

扶桑「どうして……どうしてあなたがここに……!」シャガミ

時雨「扶桑を……探しに、きたんだ……良かった、生きててくれて……」ニコ…

扶桑「何を言ってるの……! 時雨こそ、砂に埋もれて……こんなぼろぼろになって……!」ダキカカエ

 ズッ

扶桑(軽い……!!?)


五月雨「ひっ……!?」

扶桑「し、ぐれ……あなた……っ!!」


下半身を失った時雨「……はは……少し、ドジっちゃった……」ダキカカエラレ
331 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:40:37.74 ID:A9Vqo8/Wo

五月雨「あ、ああああ……」

扶桑「時雨……どうして!? どうしてこんなことに!?」

時雨「……扶桑……ぼくは、聞いちゃったんだ……」

時雨「扶桑たちが……沈んだのは、あいつの……D提督の、仕組んだことだ、って……」

扶桑「……!!」

時雨「だから……逃げて、きたんだ……」

扶桑「もういいわ……もう喋らないで! 早くドックに連れて行かないと!!」

五月雨「っ! だ、誰か……明石さんを呼んできます!」

由良「二人とも! 提督さんたちがこっちに向かってるわ!」タタッ

五月雨「本当ですか!?」

由良「ええ……ほら、みんな来たわ!」

五月雨「!! 提督! 早く! 早く来てください!!」

 ダダダッ

提督「なんだ……何があった、五月雨!」

山城「扶桑お姉様……時雨!?」

扶桑「山城……! 時雨が、時雨がぁ……!!」ポロポロポロ
332 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:41:50.46 ID:A9Vqo8/Wo

提督「!! どういうことだ……!」

五月雨「時雨姉さんが逃げてきたんです! 扶桑さんたちがいた鎮守府から!」

提督「逃げてきた!? 単艦でか!」

山城「嘘でしょう……!? 幸運艦の時雨が、こんな目に遭うはずがないわ!?」ガクッ

時雨「幸運……なんかじゃ、ないよ……」

山城「時雨!」

時雨「あの男の、そばにいたら……幸せなんて、ありえない……!」

扶桑「喋らないで……お願い、お願いだからぁ……!」ポロポロポロ


伊8「これは……!」

五月雨「わ、私、明石さんを呼んできます!」

如月「駄目よ! あなたは同じ白露型でしょ!? そばにいてあげて!」

五月雨「あ……!」

不知火「工廠には不知火が行きます!」クルッ ダッ

吹雪「私も行きます! 修復剤を持ってこないと!」ダッ

朝雲「五月雨はこっちよ!」グイッ

五月雨「は、はいっ!」
333 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:42:54.82 ID:A9Vqo8/Wo

朝雲「時雨!」

五月雨「時雨姉さん!」

時雨「……朝雲も、いるんだ……良かった、扶桑たちを……任せられるね……」

扶桑「何を言ってるの!?」

朝雲「そうよ! 扶桑さん、時雨は安静にしないといけないわ、一度砂浜に寝かせてあげたほうが……」

時雨「このまま、が……いいよ……扶桑の、腕の中が、いい……」ギュ

扶桑「……!」

時雨「山城も……手を……握ってくれる……?」

山城「勿論よ!」ギュ

時雨「……ふふ……ずっと、こう、してみたかったん……だ……」ニコ…

山城「しぐ、れ……っ!」ボロボロボロ

扶桑「……お願い……! 誰でもいいから……私がどうなってもいいから! 時雨を……時雨を助けてあげて!!」ポロポロポロ

提督「……由良。偵察機は使えるか」

由良「は、はいっ!」

提督「よし。由良と如月、はっちゃんは、俺と一緒に時雨の下半身、探すのを手伝え」

如月「!」
334 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:43:52.18 ID:A9Vqo8/Wo

提督「明石は不知火と吹雪が呼びに行った。時雨の命が保つかどうかは扶桑たちに任せるしかねえ」

提督「俺たちにできることは、時雨の体の復元を手伝うことくらいだ。はっちゃんは海中を頼む!」

伊8「はいっ!」

提督「由良は偵察機を飛ばして上から探せ! 如月は俺と一緒に浅瀬を捜索だ! 急げ!!」ダッ

如月「了解!」

由良「わかったわ!」パシュッ ブィーン


扶桑「じゅん、い……」ポロポロ

時雨「……」ゼー、ゼー…

山城「時雨、大丈夫なの……?」

時雨「……あんまり……よく、ない……かな」

時雨「でも……気分は、いいよ……ふふ、っ」

山城「……時雨……」グスッ

時雨「……ねえ、扶桑……お願いが、あるんだ……」

扶桑「なあに……!?」

時雨「笑って、見せてよ……」

扶桑「え……?」
335 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:44:50.30 ID:A9Vqo8/Wo

時雨「ぼくは……扶桑が、笑ったところを……見たことが、ないんだ……」

時雨「扶桑は、ぼくが、嫌いなのかい……?」

扶桑「そんなわけないじゃない! あなたがきたときだって、山城が来たときだって……嬉しかったのよ……本当よ……!?」グスッ

時雨「それなら……笑ってよ……ぼくは、いま……扶桑にだっこされて……嬉しいんだから……」ニコ…

扶桑「……ふ、ふふふ……」

山城「!」

時雨「……」

扶桑「こんなとき、なのに……時雨は、面白いことを言うのね……」ニコ…

時雨「……良かった……ぼくも、山城も……嫌われてたわけじゃ、なかったん、だね……」

山城「時雨……っ!」ボロボロボロ

時雨「ぼくは……しあわせだ……姉妹艦の、五月雨もいて……同じ艦隊の、朝雲もいて……」

時雨「扶桑と山城に、看取って……もらえる……」

扶桑「時雨……?」

時雨「ぼくは……しあ……わ……」

時雨「…………」

扶桑「時雨……? 時雨?」ユサ
336 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:45:51.68 ID:A9Vqo8/Wo

五月雨「時雨姉さん……!」ポロポロ

朝雲「時雨……っ!!」ブワッ

山城「時雨……時雨っ! 嘘でしょ!? 返事しなさいよ! 時雨!! しぐれぇっ!!」ユサユサ

扶桑「時雨……ごめんなさい……!」

扶桑「あなたに……こんな、小さな体に……こんな、重いものを背負わせて……!!」

扶桑「私が悪いの……全部、私が悪いのよ……! 私が、全てを諦めて、沈もうとしたから……!!」

山城「扶桑お姉様……!?」

扶桑「D提督が、私と山城を沈めたがっていたのは知っていたわ……私がそれに乗ったから……!」

扶桑「あの男の下にいたって、何も良くならない……何もいいことなんか起きない……」

扶桑「私たちの扱いが変わらないのなら……私は、あの男の言うがままに……沈むために、海に出たのよ……!」

山城「扶桑お姉様! それは、本当なんですか……っ!?」

扶桑「……本当よ……!」

山城「っ!!」

扶桑「でも、山城には助かって欲しかった……」

扶桑「轟沈に見せかけ、余所の鎮守府に拾ってもらうことを期待していたわ……」

扶桑「でも、私が助かるつもりは、これっぽっちも、なかったの……!」フルフル
337 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:47:22.78 ID:A9Vqo8/Wo

扶桑「なにもかも……終わりたかったの。終わって……私は、この世から消えてしまいたかった……!」

山城「……だから、扶桑お姉様はあの時、私を必死に庇っていたんですか……!」

扶桑「でも……でも、それ以上に! 時雨に……私たちが沈んだ責任を……こんな気持ちを、背負わせるつもりはなかった!」

扶桑「時雨を……時雨を、海に連れ出して、沈めたのは、私……!」

扶桑「時雨を殺したのは私だわ……! ごめんなさい……ごめんなさい、時雨……!!」ボロボロボロボロ

山城「……姉様……」

五月雨「……扶桑さん。時雨姉さんは、最期は、そこまで悲しくなかったと思うんです」

朝雲「五月雨……?」

五月雨「私が、大好きだった人たちは、みんな、私の知らないところで、死んでしまいました」

五月雨「私を逃がすために、私を、危険な目に合わせないために……私だって、同じ思いだったのに」グスッ

山城「……」

五月雨「でも、時雨姉さんは、笑ってるんですよ」

五月雨「山城さんの手を握って、扶桑さんに抱きかかえられて……笑ったまま、眠ったみたい、に……」

五月雨「……私、少し、羨ましいです……」ポロポロ…

扶桑「……」
338 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:48:21.89 ID:A9Vqo8/Wo

 タタタタッ…

明石「はぁ、はぁ、こんなに、走ることになるなんて……」

吹雪「し、司令官……!」ゼェゼェ…

不知火「……!」ハァハァ…

提督「……」フルフル

不知火「……そう、ですか……」

提督「……」ハァ

如月「司令官、こっちも見つかったみたいよ……」

伊8「!」ザバッ

提督「……そうか。ありがとうな、残念だが、ちょっとだけ間に合わなかった」

由良「提督さん……」

提督「明石も走らせてすまなかったな」

明石「! ……いえ、気にしないでください」ゼェゼェ…

提督「扶桑」ザッ

扶桑「……はい」

提督「すまない。お前の望みは、叶えてやれなかった」ペコリ

扶桑「……准尉」

提督「……なんだ」

扶桑「遺言が聞ければ上等、なんでしょう?」ニコ…

提督「……」

扶桑「みなさんには、手を尽くしていただきました……お礼を言うのは、私のほうです」ペコリ

朝雲「扶桑さん……」

扶桑「もうひとつ、お願いがあります。時雨を、弔わせていただけますでしょうか……」

提督「……ああ。手伝わせて貰う」
339 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/08(土) 21:49:10.84 ID:A9Vqo8/Wo
……今回はここまで。
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/09(日) 22:26:17.01 ID:t+CZjXL+0
更新お疲れさまです
時雨ぇ……、泣ける……
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/10(月) 11:03:35.60 ID:8Nima0HP0
久々にキレちまった……D提督、その名前、覚えておこう……!
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/12(水) 11:30:22.86 ID:R28/tVarO
D提督は本編ですでにあれされてるからなあ
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/12(水) 11:34:42.47 ID:R28/tVarO
あげてしまった。ごめんなさい
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/25(火) 20:30:25.98 ID:omqwYlO70
夜提督のベッドに忍び込んでる子って誰々いるのかな。
如月、電、朝潮、吹雪、大和は確定っぽいけど。
345 : ◆EyREdFoqVQ :2018/12/28(金) 22:35:48.58 ID:4VeOdYd2o
やっと書けた……続きです。
346 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:36:30.70 ID:4VeOdYd2o

 * 島の南東、丘の上 *

 ザック ザック

山城「ふ、扶桑お姉様? お、おひとりで大丈夫なんですか!?」

扶桑「ええ、大丈夫よ」ザックザック

初雪「……すごい」アッケ

提督「さすが陸軍御用達のスコップだ、簡単に穴が掘れていくな」

初雪「……これ、戦艦のパワーだからこそだと思う」

吹雪「あれ? 初雪ちゃんどうしてここに?」

如月「初雪ちゃんが農具を管理してくれているから、スコップを持ってきてもらったの」

山城「……は? 農具を管理、って、どうしてこの子が?」

五月雨「初雪ちゃんが畑仕事をしてるんです、ここの鎮守府では」

山城「……嘘でしょう?」

吹雪「嘘じゃないですよ、ここの初雪ちゃんの引き籠り先はビニールハウスなんですから」

山城「あの初雪が畑仕事ですって……!? いったいどんな悪魔の契約を交わしたのよ」

初雪「契約? んっと……月に2回、提督に耳かきをしてもらう契約、なら」ポ

山城「み、耳かきぃ!? ちょっと待ちなさい、何の隠語よそれは!」カオマッカ
347 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:37:27.39 ID:4VeOdYd2o

初雪「耳かきは耳かきだけど……いんご?」クビカシゲ

伊8「隠語の『隠』は隠す、ね。『語』は語学の語」チョイチョイ

伊8「山城さんは、何か違う意味を隠してるんじゃないか、って言ったんだと思う」

初雪「……意味、わかんない」ムー

山城「そ、そうなの?」

伊8「顔も赤くしてたし、多分、えっちぃことを考えてたんだと思」

山城「そそそそそんなことないわよ!!?」

初雪「……」ポ

如月(必死過ぎて却って怪しく見えるわ)

伊8「もしかしたら隠語の『いん』は淫猥のいんかもしれ」

山城「いいいいいいい加減なこと言わないでっっ!!?」

初雪「……い、『いんわい』ってなに?」クビカシゲ

伊8「エロのこと」

初雪「……エロ」ポ

山城「ちょっとおおおおお!?」
348 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:38:28.87 ID:4VeOdYd2o

提督「おい、調子に乗るな、山城からかうのもそのくらいにしとけ。そういう席じゃねえだろ」

伊8「すみません」ペコリ

初雪「……はい」コク

提督「悪いな山城、無神経が過ぎた」

山城「……戦時中だもの。その辺の感覚が麻痺することくらいは大目に見るわよ」ハァ

山城「なんたって初雪が畑仕事するような島だもの、槍が降ったって驚かないわ……」ハァァ

提督「その割には随分と溜息が多いな」

山城「それは当然よ。なんで私が助かって、時雨が……」

提督「それこそ、ぐじぐじしたってしょうがねえよ。扶桑だってつらいはずだぜ、いろいろとな」

無心に穴を掘る扶桑「……」ザックザック

山城「……」

提督「扶桑、そろそろいいだろ。そのくらいで十分だ、外に出な」テヲノバシ

扶桑「! そうですか……わかりました」ヨイショ

山城「扶桑お姉様、大丈夫ですか?」ヒキアゲテツダイ

扶桑「ええ、大丈夫よ」ニコ

山城「扶桑お姉様……!」ウルッ
349 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:39:30.14 ID:4VeOdYd2o

 重機<ズゴゴゴゴ…

吹雪「扶桑さん山城さん、穴から離れてください! これから司令官が重機を使って、時雨さんの入った木箱を穴に入れますから!」

山城「!」

提督「……」ガチャガチャッ

 重機<キュラキュラキュラ…

朝雲「オーライ、オーラーイ! ストップ!!」ハンドサイン

吹雪「そのままゆっくり降ろしてくださーい!」

 重機<ズゴゴゴゴ…

山城「小型のパワーショベルの扱いも上手なのね……当然かしら、これだけ多くの艤装が並んでるのなら」

扶桑「そうね……これだけの艦娘が、ここに眠っているのよね……」

五月雨「……」

吹雪「司令官! オーケーです、ロープをショベルから外してください!」ハンドサイン

 重機<キュラキュラキュラ…

吹雪「よし、これで大丈夫……ロープ回収しました!」

朝雲「さ、二人とも行きましょ! 土をかけてあげないと!」

扶桑「ええ、山城?」

山城「はいっ!」
350 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:40:40.34 ID:4VeOdYd2o

 ザッ ザッ

提督「いつもなら土をかぶせるところまでユンボでやってるんだがな」

由良「いいんじゃない、大事な仲間だったんだもの。自分たちの手で弔いたいのよ」

提督「……まあ、別にそれに文句があるわけじゃあねえさ」

如月「司令官には司令官なりの埋葬の手順があるものね。いつもと違うから、手をつくし足りないって、感じてるんでしょう?」

提督「まあ、な」

 ザッ ザッ

朝雲「それじゃ、最後に艤装を上にのせて……」

山城「こう?」

吹雪「はい。少し周りに土を寄せて……これで大丈夫です」

不知火「こちらをどうぞ」

扶桑「お線香ね、ありがとう……これは?」

不知火「紙パックですが、お酒です。妖精さんにお祓いしてもらいました」

山城「お神酒ってわけね。このままおいておくといいの?」

不知火「はい。最後に回収して振る舞います」
351 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:41:39.44 ID:4VeOdYd2o

五月雨「お経とか読まないんですか?」

不知火「残念ながらそういったことをできる人がいませんので」

吹雪「司令官も神様や仏様を信じてないので『俺がそういうことをするのはおかしい』と言ってました!」

如月(吹雪ちゃん、司令官の物まね上手ね……)

由良「でも、月に二回、妖精さんたちがお祓いをしてくれているから大丈夫よ」

提督「そういや、明日か明後日だったか」

初雪「そんなことしてたんだ……」

提督「お前が作った野菜とかもお供えしたりしてるんだがな」

初雪「知らなかった……」

吹雪「司令官、神仏は信じてないのに、沈んだ艦娘の供養はするんですね?」

提督「あー、まあな。幽霊の類は信じてるっつうか、この前見ちまったから信じざるを得ねえって感じか」

如月「え」

吹雪「は?」

初雪「なにそれ」
352 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:42:42.27 ID:4VeOdYd2o

五月雨「ゆ、幽霊が出るんですか!?」

不知火「……それでいきなり祠を建てると言い出したんですか」

由良「提督さん……本当なの?」

提督「揃いも揃って変な顔すんな」

朝雲「無理もないわよ、司令ってば幽霊信じてなさそうだし、実際に信じてなかったでしょ?」

扶桑「たとえ信じていなくても、見えてしまうものはたくさんありますよ」

全員「「!」」

扶桑「信じているけど見えないものも、見えているのに信じてもらえないものも、世の中にはたくさんありますから」

提督「……そうだな」

全員「「……」」

提督「時雨のほうはもういいのか」

扶桑「ええ、略式の略式ですが、つつがなく」

提督「そうか。俺たちも手を合わせさせてもらうか」


神通「那珂!!」


提督「ん?」フリムキ
353 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:43:46.95 ID:4VeOdYd2o

榛名「那珂ちゃん、どこへ行くんですか!?」

那珂「……」フラフラ

提督「なにやってんだ、あいつらは」

明石「あ、提督、こちらにいましたか」

提督「明石? どうした」

明石「いえ、さっき伝えそびれちゃったんですけど、目を覚ましてからの那珂さんの様子がおかしいんですよ」

明石「なんていうか、心ここに非ずって感じで、ふらふらっとドックを出てきちゃったんです」

明石「ああやって榛名さんや神通さんが呼び止めてもお構いなしで……それで追いかけたらこっちに来ちゃったんですが」

那珂「……」ヨタヨタ

山城「……あれは駄目だわ。目から光が失せてるもの」

那珂「……」

提督「やれやれ、いきなり暴れたりしないだろうな」

扶桑「それはないと思います。あの顔は……絶望しかしていない顔です」スッ

提督「扶桑?」

山城「扶桑お姉様!?」

 スタスタ…
354 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:44:46.48 ID:4VeOdYd2o

扶桑「那珂さん?」

那珂「……」

扶桑「あなたの望みは、なんだったの?」

那珂「……」

扶桑「私には、なんとなくだけど、わかるわ。あなたのその目……全ての望みを失って、どこへ行ったらいいかわからない……」

扶桑「希望も行き場も失った人の目……そんな、目をしているわ」

那珂「……」

神通「那珂……!」

那珂「那珂ちゃんは……ううん、私は……」

那珂「みんなの前で、歌いたかった。ステージに立ちたかった」

榛名「……」

那珂「でも、もう、それもできなくなっちゃった」

那珂「轟沈した、艦娘は……元の場所に、戻れないって……」

那珂「私は……もう、『那珂ちゃん』に、戻れないって……」

那珂「私って……なんなのかな……」

神通「那珂……」
355 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:45:50.63 ID:4VeOdYd2o

山城「ちょっと、提督! あなた艦娘の責任者でしょ!? 那珂に何か言ってあげたらどうなの!?」

提督「ああ? 知らねえよ。そいつがどこへ行こうと、どこで沈もうと、俺の知ったこっちゃねえ」

山城「!?」

吹雪(また始まった……)

不知火(相変わらず言葉を選びませんね司令は……)

山城「ちょ、ちょっと!? 艦隊の司令官がそんな考えでやってていいの!? 部下の前よ!?」

提督「関係ねえよ。生きる意志のねえ奴を無理矢理生かしたって、どうせ行きつく先なんか決まってる」

提督「俺は扶桑にだって同じことを言ったし、ここにいる奴らにも言ってんだ。そいつだけ特別扱いして何になる」

山城「そんなのケースバイケースでしょ!?」

提督「違うね。ダブルスタンダードって言うんだよ、そういうのは」

山城「立ち上がるきっかけを作るくらいはできるでしょう!?」

提督「なんでそこまで世話焼いてやんなきゃなんねえんだよ、面倒臭え」

山城「めん……っ!?」

扶桑「……提督。あなたは、彼女を助ける気はないと?」

提督「そうだな。どっかで沈んでこの島に流れ着いたんなら、ここに埋葬するくらいの世話はしてやるさ」

扶桑「時雨のように、ですか」チラッ
356 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:47:03.69 ID:4VeOdYd2o

提督「ああ。時雨は無念だっただろうが、これでも幸せなほうさ。ここに埋まってるやつらは、みんな無縁仏だ」

提督「お前らみたいに、縁者が埋葬に参加することも、そいつを看取ってやることも、今までなかったからな」

五月雨「……」

神通「……」

那珂「……誰か……死んだの?」

提督「D提督鎮守府の時雨。扶桑と山城を追いかけてきて、轟沈して浜に流れ着いて、息を引き取った。今さっき埋葬を終えたばかりだ」

那珂「……」

提督「……」

那珂「そう、なんだ……」フラ…

榛名「那珂さん……?」

(時雨の艤装の前に立ち、艤装を見つめる那珂)

那珂「……」

明石「ど、どうしたんでしょう?」

提督「……好きにさせてやれ、思うところがあるんだろ」
357 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:47:47.66 ID:4VeOdYd2o

山城「だ、大丈夫なのかしら……」ハラハラ

扶桑「……」

那珂「……スゥ……」


那珂「♪ La …」


全員「「!?」」ドヨッ…


那珂「♪ Ah Ah …」


伊8「……いきなり歌いだすとか、なにがあったの?」ヒソヒソ

吹雪「さ、さあ……な、何か思うところがあったのかもしれないですけど……」ヒソヒソ

如月「ここは静かに聴きましょ?」ヒソッ

吹雪「……」コクコク

伊8「……」コクリ

榛名(那珂さん……!)ウルッ

358 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:48:39.14 ID:4VeOdYd2o

 * 執務室 *

潮「え、遠征から帰還しました」

大淀「はい、お疲れ様でした」

朧「提督はまた砂浜ですか?」


 ♪〜……♪〜♪〜……


暁「? ……ねえ、何か聞こえない?」

霞「……外からみたいね」


 * 厨房 *

 ♪〜♪〜……♪〜……

電「歌のように聞こえるのです」

比叡「……ほんとだ。誰かが歌ってる?」

朝潮「比叡さん、見に行ってみませんか? 朝潮、気になります!」

古鷹「行ってみましょう!」

359 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:49:52.31 ID:4VeOdYd2o

 * 沖合 *

 ♪〜……♪〜♪〜……

利根「丘の上で誰かが歌っておるな?」

金剛「ここから聴いていても、excellent な歌声デスネ……」

大和「はい……でも、涙を誘われる、とても悲しげな声です……」ウルッ

敷波「ねえ、ちょっと丘に寄り道して行こうよ。ちゃんと聴きたいし」

初春「うむ。わらわも賛成じゃ」

長門「そうだな。演習結果の報告の前に、行ってみるか」


 ♪〜……♪〜♪〜……


 * 丘の上 *

那珂「♪ La Lah... !」

 (歌い終えて大きく息をつく那珂)

 シ…ン

那珂「……」

360 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:50:47.97 ID:4VeOdYd2o


 パチパチ…

那珂「!」

 パチパチパチ…!

吹雪「那珂さん、すごかったです!」パチパチ

五月雨「私も感激しました!」

朝雲「アーとかラーだけなのに、すっごい綺麗だった!」

山城「すごすぎて涙が出てきたわ……」グスッ

扶桑「ええ、素敵だったわ」ウルッ

那珂「……」

如月「まさか司令官が涙するところを見られるなんて思わなかったわ」クスッ

提督「泣いてねえよ。むしろ泣いたのはお前らじゃねえか」プイ

明石「いや、でも本当すごかったですよ!」ウンウン

由良「うん、外なのにアカペラで、あれだけよく響く声、聞いたことないわ」

榛名「そんなの、当然です……! 榛名は知っています……那珂さんが、ずっと歌の練習をしてたこと……!」

那珂「…………」

榛名「やっと……やっと、みんなに聞いてもらえて……榛名は、感激しています……!」ブワッ
361 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:51:47.09 ID:4VeOdYd2o

那珂「……そっか……これで、良かったんだ……」

神通「那珂、あなたはどうして、ここで歌ったの?」

那珂「……誰かに聞いてもらいたかったんだと思うの……」

那珂「私も、轟沈して……ステージに立つ夢は見られなくなっちゃった……」グスッ

那珂「ここには、私とおんなじ、沈んだ人たちがいて……私と同じ人たちがいて……」

那珂「悲しいだろうな、悔しいだろうなって思ってたら、なにか、してあげたくなっちゃって……」

那珂「そう思ったら、歌いたくなったの。私には、歌しかないから……私の歌を聞かせてあげたい……聞いてほしい、って……」ポロポロ…

神通「那珂……」

那珂「神通ちゃん。那珂ちゃんは、幸せでした。最後にこんなに拍手をもらって……もう、思い残すことはないよ」ニコ

神通「な……」

山城「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!!」ガッシ

那珂「!?」ビクッ

山城「何が『思い残すことはない』のよ!?」

山城「あなたがそうでも、こっちはあんな歌聞いて感動してるところに、これでお別れですはいさようならとか、冗談じゃないわ!」

那珂「え……でも……」

吹雪「っていうか、山城さん、あんな歌って……」

山城「いいから黙ってなさい」ギンッ

吹雪「ハイ」ビクッ
362 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:52:48.35 ID:4VeOdYd2o

山城「こほん。あなたが死ななきゃいけない理由って何よ?」

那珂「え……だって、私、もうアイドルになれないし……」

山城「そんなの誰が決めたのよ」

那珂「轟沈したら……轟沈したらもうチャンスはないって言われてたんだよ!?」

山城「だったらもう一回チャンスを作ればいいじゃない」

那珂「そんな簡単に……」

山城「提督准尉。この島には特例があるのよね?」

提督「お、おう」

山城「轟沈した艦娘でも、この鎮守府に着任すれば艦娘として活動できる、っていう特例。私にも、この子にも適用できるんでしょう?」

提督「おう、できるぞ。ただ……」

山城「ただ、なによ」

提督「那珂と榛名は所属不明だ。こいつらが所属していたっていう艦娘養成所ってのが、海軍の施設にはない」

山城「なんですって!?」

那珂「……」

榛名「どういうこと……!? それじゃ、私たちは……!?」

提督「ドロップ艦と言っても通用するかもな」

那珂「……!!」
363 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:53:43.27 ID:4VeOdYd2o

山城「じゃあ、轟沈したことも隠せるってこと?」

提督「まあ、そうしようと思えば、できるだろうな」

神通「そ、それじゃ、那珂は問題なく戻ることができるんですか!?」

提督「ただなあ、その養成所ってのがどうもキナ臭くてな。榛名の話からも、怪しい匂いがぷんぷんしやがる」

提督「だからあまり外に出してやりたくないな。着任の時期も、実際の轟沈の時期と少しずらしたほうが良さそうだと思ってる」

提督「下手にこいつらが養成所と関わりがあることがばれると、面倒臭いことが起こりそうだからな……もちろん、杞憂ならなによりだが」

提督「あと、ほかにも心配なのは、那珂が工廠で見せたフラッシュバックみたいな症状だ」

提督「あれがなくなるまでは人前に出ないほうがいいんじゃねえか?」

那珂「……」

提督「それで、だ。一番肝心なことを聞くぞ」

提督「那珂。お前、生きていたいか、それとも死にたいか、どっちだ」

那珂「……!」

山城「そんなの決まってるでしょう!?」

提督「お前には聞いちゃいねえよ。那珂、お前の口から答えろ」ズイ

那珂「……あ……」

神通「那珂……!」

榛名「那珂さん……!」
364 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:54:36.71 ID:4VeOdYd2o

那珂「わたし、は……」


暁「あ、いたわ!」

那珂「!?」

提督「なんだ?」クルリ

 タタタタッ

電「さっき歌っていたのは那珂さんだったのですか!?」

大淀「執務室にもあの声が届いていたので、急いできてみたんですが……」

古鷹「私たち、ここに来る前に歌が終わってしまったから、まともに聞けなかったんです!」

朧「もう一回、歌ってもらえませんか?」

那珂「え……!?」

長門「おお、提督たちもここにいたのか。コンサートはもう終わってしまったのか?」

大和「切ないながらも、とても綺麗な歌声でした」

金剛「Encore をお願いするネー!」

那珂「……」ポロッ

敷波「ちょっ、な、なんで泣いてんの!? 大丈夫!?」
365 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:56:00.40 ID:4VeOdYd2o

榛名「那珂さんは嬉しいんですよ。人前で歌って感想を聞くのが初めてですから」ニコ

利根「なるほど、そうであったか。初舞台ではやむを得まいな」

山城「……どうするの? 歌うの?」

那珂「うん……私……ううん、那珂ちゃんは、アンコールに応えます!」ビシッ

那珂「准尉さん! ここで、レッスンを続けさせてくださいっ!!」

提督「……大淀がいるから丁度いいな。今の那珂の台詞、聞いたな?」

大淀「はい。那珂さんも着任ですね」

扶桑「……提督」

提督「ん?」

扶桑「扶桑型超弩級戦艦、姉の扶桑です。先の挨拶では、お見苦しいところをお見せしました……申し訳ありません」

扶桑「私も、改めまして、妹の山城ともども、よろしくお願いしたいと思います……!」ペコリ

山城「扶桑お姉様……!!」

扶桑「山城、ごめんなさい。私の勝手な思い込みで、あなたまで危険な目に遭わせて……」

扶桑「時雨は、私たちの無事を喜んでくれたわ」

扶桑「山城も、私を助けようとしてくれた……それだけじゃなく、那珂も助けようとした」

扶桑「勝手に世を儚んで、命を粗末にするのはあなたたちへの背信でしかない、って思ったわ……」

扶桑「私も生きてみようと思うの。あなたが、那珂を……彼女を一生懸命に励ましたように」
366 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:56:48.85 ID:4VeOdYd2o

扶桑「あなたの姉として、恥じない生き方を、選んでみようと思うの」

山城「扶桑お姉様……っ!!」ヒシッ

扶桑「時雨は、許してくれるかしら……」

 ポツ…

朝雲「!」

 ザァァ…

不知火「雨……ですか!?」

如月「嘘っ、雲一つないのに!?」

 サァ…ッ

暁「……すぐに止んじゃったわ」

古鷹「通り雨だったんでしょうか?」

山城「……時雨だわ。時雨が、扶桑お姉様を心配してくれているんですよ……」ウルッ

扶桑「そうね……優しい、雨だったものね」グスッ

提督「……」

扶桑「あの……提督?」

提督「ん」

扶桑「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします」

提督「おう。まあ、楽にしてくれ」
367 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:57:37.26 ID:4VeOdYd2o

榛名「あ、提督! 榛名も! 改めて、よろしくお願いいたします!」

提督「ああ、わかったわかった」

金剛「Umm, どういうことかよくわかりまセンガ、とりあえず happy end デショウカ?」

神通「いえ、これからがスタートなんだと思いますよ?」ニコッ


霞「それで、那珂さんの次の公演はいつなの?」

那珂「公演……っ!」ジーン

那珂「あ、那珂ちゃんのことは、那珂さんじゃなくて那珂ちゃん、って呼んで欲しいなー!」

朧「那珂ちゃんさんですね!」

那珂「さんはつけなくていいよ!?」ガビーン

霞「さんは外しちゃ駄目でしょ?」

朧「朧も良くないと思います!」

那珂「真面目なの!?」ガーン

由良「ま、まあ、本人が言ってるんだから、いいんじゃない?」

潮「い、いいんですか?」

那珂「うん! 駆逐艦のみんなも、気兼ねなく那珂ちゃん、って呼んでね!」
368 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 22:58:55.08 ID:4VeOdYd2o

朝潮「朝潮! 僭越ながら那珂ちゃんに質問があります」キョシュ

由良(言葉に違和感があり過ぎだわ……)

朝潮「先程那珂ちゃんが歌っていた歌は、なんという歌でしょうか!」

那珂「えっ? えーっと、実は……アドリブで歌ってたんだ〜」

電「えええ!?」

那珂「思い付きっていうか、その時に思い描いたメロディを、そのままコーラスにしただけで……」

那珂(本当にその場のノリで、切なさを思いっきり歌っただけなんだよね……)

那珂(私のキャラクターと方向性が全然違うし……こんなこと、みんなには言えないよ〜……)タラリ

古鷹「すごいです! シンガーソングライターみたいです!」

暁「恰好いいわ!」

那珂「で、でも、那珂ちゃんの本職はアイドルだから……」

長門「……ところで、アイドルというのはどういうものなんだ?」

大和「歌手とは違うのでしょうか」

比叡「別にアイドルじゃなくてもいいですよね?」

那珂「それは言っちゃダメェェェ!!」
369 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 23:00:37.20 ID:4VeOdYd2o

不知火「……」

提督「……不知火? どうかしたか」

不知火「些細なことなのですが」

不知火「那珂さんが歌っていたとき、風が止まっていました」

提督「それは珍しいな」

不知火「それどころか波の音も止まっていました」

提督「……」

不知火「何者かが、那珂さんの歌を聞きたくて、舞台を整えたのではないか、と……」

不知火「司令の仰った、幽霊の仕業ではないか、と、ふと思っただけです」

提督「……かも、な」
370 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/28(金) 23:01:22.14 ID:4VeOdYd2o
今回はここまで!
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/28(金) 23:21:29.64 ID:cobAN91L0
今回もお疲れ様!!
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 16:47:12.68 ID:m2Hb6Qn+O
凄い良い話だった
373 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/30(日) 20:36:05.45 ID:FyyjOElCo
実は、一番時間がかかったのが那珂ちゃんの再起の場面で、
ここから下の部分は先週中に書き終えてました。

というわけで、裏で蠢く人たちのお話。

続きです。
374 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/30(日) 20:37:04.24 ID:FyyjOElCo

 * 舞鶴 市街地某所 小さな居酒屋 *

 トクトクトク…

J少将「H大将殿にお誘いいただけるとは恐縮至極です」

H大将「ああ、そんなに畏まらんでくれ。君とは一度こういう席で話をしてみたかったんだ」

H大将「遅くまで職務に励んでいるし、深海棲艦の邀撃にも積極的だというのに、艦娘とあまりコミュニケーションもとっていない」

H大将「人付き合いが苦手なだけなのか、それとも何か事情があるのか、ざっくばらんに話してみたくてな」チビッ

J少将「や、私にはそこまで深い事情は……」

H大将「ふむ。そうは言うが、深海棲艦の跋扈を忌々しく思っているところは、俺と同じじゃないのか?」

J少将「……」チビッ

H大将「やつらのせいで、俺たちは多くの船と仲間を失った。海軍を再編せねばならんほどに」

H大将「漁船や貨物船の安全も損なわれ、シーレーンをずたずたにされ、俺たちの生活も、戦力と誇りもずたずたにされた」

H大将「君もそれが心底気に入らないからこそ、今の君の戦果があると思っているんだが、どうだ」

J少将「……それは、仰る通りです」

J少将「海を守るために結成された我々が手も足も出ない……これを悔しいと言わずして何と言いましょうか」

J少将「しかも、深海棲艦に対抗できるのが、艦娘などという年端もいかぬ小娘の姿をしたものたちです」
375 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/30(日) 20:38:25.33 ID:FyyjOElCo

J少将「情けない。常日頃から心身ともに鍛えていた我々が、あのようなものたちに、自分の命運を委ねなければならない」

J少将「我々は、何のためにここにいるのか。艦娘に生かされている状態に、忸怩たる思いしかありません」

H大将「なるほど。君の思いは尤もなことだ」

J少将「H大将殿。あなたは、艦娘の運用について、何の抵抗も、歯痒さもないと仰いますか」

H大将「いいや、君と同じだ。女子供を矢面に立たせ、俺たちは陸の上でただ彼女たちの帰りを待つ……本来ならば逆だろうさ」

H大将「だが、深海棲艦に我々の攻撃も知識も通用しない以上、戦いは艦娘たちに頼らざるを得ないのが現実だ」

H大将「そして、俺たちが第一に考えなければならないのは海の平和だ。この順番だけは覆しようがない」

H大将「だとすれば、深海棲艦を駆逐し、無力化できる艦娘に頭を下げることこそが、俺の仕事になるのは当然の流れだと思っている」

H大将「いくら男としてのプライドがそれを邪魔しても、今はそれを曲げるしかない」

J少将「……あなたは、それでよろしいのですか」

H大将「ああ、相手が人間ではないからな。言葉は悪いが、亡霊の相手は亡霊にしてもらうしかない」

J少将「亡霊……と、仰いますか」

H大将「旧海軍の艦の名前を名乗っているうえに、その艦の記憶まで持ってきているとなれば、そう呼んでも間違ってはいないだろう」
376 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/30(日) 20:39:22.65 ID:FyyjOElCo

H大将「だが彼女たちは、人間を守ると言ってくれている。彼女たちは亡霊ではなく、英霊なのだ」

H大将「英霊と呼ぶには、少々……いや、えらく垢抜けてはいるがな」

J少将「……」

H大将「しかしだ。艦娘と深海棲艦の何が違うかと言えば、うまく答えることはできん」

H大将「今もって彼女たちと轡を並べることが本当に正しいことなのか、今もわからん」

H大将「俺たちは、都合よく現れた彼女たちに舌先三寸で言いくるめられて利用されているだけではないか……?」

H大将「そんな得体の知れない者たちに、この国の未来を託している現状は、非健康的というか、望ましい姿とは言えんな」

J少将「は。私もそう思います」

H大将「多くの疑念はある。だが、今は戦争中だ」

H大将「勝たねば人間の存続すら危ぶまれるのなら、手段を選んではおれんのも事実」

J少将「……」

H大将「自画自賛するつもりじゃないが、俺も艦娘の信頼を得て、西方海域の一部を奪還した」

H大将「今なお膠着状態ではあるが、その戦線を維持できているのも、前線に立つ艦娘とそれを指揮する司令官の努力によるものだ」

H大将「そればかりは、評価されて然るべきだと俺は思っている。いかに艦娘の正体がわからないとしてもな」

J少将「……この戦争が、艦娘と深海棲艦との自作自演である可能性があったとしても、ですか」

J少将「奴らのやっていることは、人の家の庭に入り込んで戦争ごっこを始めた傍迷惑な子供と同じです」
377 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/30(日) 20:40:43.80 ID:FyyjOElCo

H大将「そうだな……民間にしてみれば、戦っている相手が化け物だろうと人間だろうと関係はないし、戦争行為に変わりはない」

H大将「だからこそ、戦争を終わらせるためにも、俺は艦娘を頼るしかないと思っている。艦娘がその後どうするのかはわからんが」

H大将「どこへ行くのだろうな。この戦争が終わったら、彼女たちは……考えたことはあるかね?」チビッ

J少将「H大将殿。まさか、この期に及んで戦争が終わって欲しくないなどとお考えではないでしょうな」

H大将「それはない。不謹慎ながら、良い夢を見させてもらっている、とは思うがね」

J少将「……女性に囲まれた職場が、ですか?」

H大将「それはそれで否定はしないな。君は嫌か」

J少将「いえ……まあ、確かに賑やかというか姦しいというか……非日常的と言いますか」

H大将「苦手かね」

J少将「……否定は致しません」グイッ

J少将「男の見栄に理解を得られずケチをつけられるのは、少々こたえますな」

J少将「それどころか、色気づいて浮き足立つ若い連中に、何度頭が痛くなったことか……」

J少将「スイーツが何やらコスメが何やら……一昔前では考えられません」

H大将「確かにな」フフ

J少将「それから……敢えて言わせていただきますが、H大将殿が秘書艦にしている大井。聊か言葉がきつくありませんか」

H大将「いや、いいんだ。あれこそ俺にとっては良い夢だからな」
378 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/30(日) 20:41:36.91 ID:FyyjOElCo

J少将「? ……と、仰いますと……」

H大将「大井は、俺の死んだ妻にそっくりなんだ」

J少将「こ、これは失礼を……!」カバッ

H大将「いや、いいんだ、気にするな。俺が勝手にそう思っているだけだ」

H大将「それに、大井は艦娘の大井であって妻じゃない、似ているだけの別人だ。一緒にするわけにはいかんよ」

H大将「だが、あのきつい言い方が懐かしくてな。ついつい傍に置きたいと思ってしまうんだ」

H大将「もし妻が生きていて、軍に配属されていたとしたら、あんな感じだったんだろうなと……思わずにおれん」グイ

J少将「……」

H大将「大井が俺の気持ちにどれほど気付いているかは知らんが、この話をあいつにする気はない」

H大将「もしこの戦争が終わって、大井が消えてしまうのなら、それこそ亡霊だ。入れ込むわけにはいかん」

H大将「そういう意味でも、戦いが長引くとつらい。俺があいつにのめりこまないうちに、カタをつけたい」

H大将「この戦争が終わった時に、良い夢を見せてもらったと……そう思って終わりたいと思っている」

J少将「……左様でしたか」

H大将「それから……J少将、お前の腹も少し見えてきた」

H大将「艦娘に良い思いはしていないにしても、お前自身は、お前の力で海を守りたいと強く望んでいる……」

J少将「……はっ」コクリ
379 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/30(日) 20:42:21.95 ID:FyyjOElCo

H大将「それがわかれば重畳。人間を守る気概があることを知って安心したよ。お前には俺の背中を任せても良さそうだ」

J少将「は……恐れ入ります」

H大将「まあ呑んでくれ、ここは俺が奢……」

 PPPP... PPPP...

H大将「うん? 俺か? ……すまんな、少し外で電話してくる」ゴソゴソ

H大将「もしもし? ああ、俺だ……」ガララッ

J少将「……」

J少将「……」トクトクトク

J少将「……」チビッ

J少将「……」

 パチンッ!

J少将「む……!?」フリムキ

隼鷹(私服)「あんた、何考えてんのさ!」

飛鷹(私服)「ちょっと、隼鷹! いきなりひっぱたくとか、何を考えてるの!」

隼鷹「いいから飛鷹は黙ってて。R提督、いくらなんでも、あんまりだと思わないのかい!」

R提督(私服)「……」ヒリヒリ
380 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/30(日) 20:43:18.00 ID:FyyjOElCo

隼鷹「あたしはいいさ、もともと酒好きだし、ここで言われても構わないよ。あたしはそういう女だからね!」

隼鷹「でもねえ! 飛鷹はそうじゃないんだよ! こんなところで、あたしと一緒くたにしていい女じゃない!」

飛鷹「隼鷹! やめてったら!」

隼鷹「わかってんの!? R提督! カッコカリとはいえ、こういう話ってのは一大事なんだよ!」

R提督「……すまない」

J少将「何を騒いでいるのかね」スッ

飛鷹「す、すみません、すぐ静かにしますから……!」

J少将「……R提督、と言っていたかな。私はJ少将だ」

隼鷹「げ……っ!」

R提督「! こ、これは大変失礼いたしました!」バッ

J少将「ん……軽空母、隼鷹だな。貴様、艦娘でありながら、酒の席とはいえ自身の司令官に手をあげるというのはどういうことかね」

隼鷹「う……」

J少将「R提督。我々が守るべき国民もいるような席上で痴話喧嘩など、見苦しいぞ。恥を知りたまえ」

R提督「も、申し訳ありません!」
381 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/30(日) 20:44:01.67 ID:FyyjOElCo

隼鷹「い、いや、J少将、ここはあたしが悪いんですよ。こういうお店に行ってみたいってR提督に……」

J少将「ふう……どうやら教育が行き渡っておらんようだな」

R提督「申し訳ありません!!」

飛鷹「と、とにかくお店を出ましょ!? J少将、申し訳ございませんでした」ペコリ

J少将「……」クルリ

飛鷹「ほら、R提督も、早く!」

R提督「……二人とも、ごめん」

隼鷹「……ま、まあ……出ようよ、な?」

 ガラララッ

H大将「うん? 今出て行った3人組……女のほう、なんかどっかで見たような……」

J少将「気のせいでしょう」

H大将「そうか?」

J少将「……」
382 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/30(日) 20:44:44.18 ID:FyyjOElCo

 * ???? *

白衣の男「……ええ、残念ながら、反応は確認できませんでした。轟沈後も1時間計測しましたが、変化なしです」

白衣の男「はい、計測器は轟沈後1時間で自動的に壊れる仕組みでして。はい、仕様です」

白衣の男「出撃させる前にも、同型艦を見せしめに殺して見せたんですが……はい」

白衣の男「ご期待に添えず申し訳ありません……いえ、本当に申し訳なく思っていますよ。我々としても残念な結果で……はい」

白衣の男「しかし……本当にどちらが早いでしょうかね。深海棲艦の鹵獲と、艦娘から深海棲艦を作るのと」

白衣の男「諦めるなど滅相もない。あれらは我々の貴重な研究材料です」

白衣の男「頭の先からつま先まで、髪の毛一本無駄にする気はありません。はい……はい……承知しております」

白衣の男「鹵獲する際のリスクを考えれば、深海化させることができたときのメリットは計り知れません……ええ」

白衣の男「はい、我々としては、いただけるならミンチでも構いませんよ。やつら、倒すと文字通り水の泡になりますからね」

白衣の男「かけらが残るだけでもありがたいというもの……はい」

白衣の男「はい。では、2日後に……はい、お待ちしております。失礼いたします」

 ピッ

白衣の男「……ふう」

スーツの男「いつも悪いな」
383 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2018/12/30(日) 20:45:35.86 ID:FyyjOElCo

白衣の男「いいさ、あの人はなんだかんだで気難しいからな。機嫌を損ねて研究が続けられなくなるのは俺も困る」

白衣の男「とはいえ、あそこまでやったなら、少しは深海化の兆候が現れてもいいと思うんだが……」

スーツの男「艦娘に絶望を与えてやれば深海化すると言われてはいるものの、そういった事実を直に確認したわけでもない」

スーツの男「奴らもなまじ思考が人間らしいから、どうショックを与えればいいか、個体差も考慮しないと駄目なんだが……」

白衣の男「艦娘は戦争中の船の記憶を引き継いでるやつもいる。少々残酷なシーンを見せた程度じゃ動じないだろう?」

スーツの男「一部のクライアントの意向だよ。若い娘の無残な姿に興奮するのか、なにかと理由をつけて派手な処刑を見たがるんだ」

白衣の男「やれやれ、平和だな。この前の、艦娘切り裂き事件の犯人のほうが余程可愛げがある」

スーツの男「ああ……あれか。重巡の艦娘をバラして飾ってたやつ」

白衣の男「そいつの精神構造には興味がわいたな。お前はどう思う」

スーツの男「好きな画家のいろんな作品を集めておきたいコレクター、ってところじゃねえか?」

白衣の男「なるほど。ともあれ、わざわざ防腐処理をして綺麗に飾っておいたというあたり、まともじゃない奴だってことは確かだ」

スーツの男「俺たちが言えたセリフか?」ククッ

白衣の男「それもそうだ」フフッ

 ゴポッ

白衣の男「ああ……そうだ、さっきの電話だが、軽巡ヘ級を鹵獲できたそうだ」

スーツの男「なに!?」ガタッ
767.00 KB Speed:0.4   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)