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とある魔術の聖杯戦争
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101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/07(土) 22:43:59.43 ID:L/hQC0lbO
ーーー新都
ケイネス「一体何だ!あのザマは!」
広大な部屋にある男の声が響き渡る。
そこは新都内にある高級ホテルの一室であった。
声の主は、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。此度の聖杯戦争のマスターの一人である。
ケイネスが座る椅子の前には、その激怒の矛先を向けられているランサーが臥していた。
ケイネス「よりによって素手のサーヴァント相手に宝具を破壊され、撤退するだと!?私のサーヴァントがこんなにも無能だったとはな!」
話の内容は先程行われた戦闘についてのものだった。
おそらくあのサーヴァントはアインツベルンが召喚したものであろう。横に居た白髪の女がそれを証明していた。
ランサー「…お言葉ですが、我が主よ。あの男、上条当麻の右手には特殊な力があるようです。俺の槍を破壊したのも、偶然ではありません。あのような特異な右手を相手に無策で戦えば、最悪残りの槍も破壊されると判断し、撤退した次第であります」
自分の意見を淡々と語るランサー。
相手の力量を把握するのが難しい聖杯戦争において、ランサーの選択が間違っておらず、勝利の為に必要な事だとケイネスは理解している。しかし、ランサーの考える「勝利」とは、ケイネスの目指す「勝利」とは少しズレたものなのである。
ケイネス「いいか、ランサー。ただ勝利するだけなら誰にでも出来る。しかし、このケイネス・エルメロイ・アーチボルトによって召喚されたサーヴァントである以上、『完璧な勝利』が求められるのは必然だ!」
つまりケイネスの怒りの元は焦りだ。
自ら課した勝利条件がケイネスを縛り付けているのである。
ランサー「………」
そんなケイネスにランサーは何も言い返さない。
そこへ。
?「そこまでにしたら?」
と、声が一つ増える。
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/07(土) 22:44:49.47 ID:L/hQC0lbO
声の主は、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ。
ケイネスの婚約者であり、ランサーへと魔力供給を行う、魔術師の一人である。
ソラウ「みっともないわよ、ケイネス。敵のサーヴァントの力量は知らないけれど、ランサーの槍は破壊され、撤退した。これが事実でしょう?起きてしまったことに固執しては、成すべきことも成せないんじゃないのかしら?」
ケイネス「そ、それはそうだが…」
口淀むケイネスにそう言い放つソラウ。
一見冷たく見える発言だが、なにもソラウはケイネスに対して侮蔑の意を含めたわけではない。彼女自身、事実を述べただけだと考えている。
そして、
ソラウ「けれどあなたを擁護するつもりもないわ、ランサー。敵サーヴァントの能力が分からないことは初めから承知していたはずよ。にもかかわらず、素手の相手に正面から戦うなんて、油断にも程があるんじゃなくて?」
ランサーに対してもその姿勢は変わらない。彼女は正面切っての戦闘に出ることはないが、その分冷静に状況を見極めていた。
ランサー「…返す言葉もありません、ソラウ殿」
ランサーは主の許嫁であるソラウにも従順に頷く。
その傍、ランサーは自らの黒子の呪いについて考えていた。
ランサー(ソラウ殿の様子が変わっている)
上条当麻との戦闘の前後でソラウのランサーに対する態度が明らかに変化しているのだ。それはランサーだけでなく、ケイネスの目から見ても明らかであった。
そしてランサーが抱いてた疑問は、確信へと変わる。
ランサー(どうやら、あの右手で俺の呪いが解呪されたのは事実らしい)
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/07(土) 22:46:31.97 ID:L/hQC0lbO
このことはランサーにとっては喜ばしい事でしかない。生前でさえ振り回された呪いに、二度と振り回される訳にはいかないのだ。
ソラウが黒子の呪いの影響を受けている危険性を感じていたランサーだが、どうやらその心配はないらしい。
ランサー(その点においては感謝するぞ、上条当麻)
今はいない宿敵に礼を述べるランサー。
ケイネス「君の言う通りだ、ソラウよ。だが、これ以上無様な姿は見せたりはしないさ」
ソラウに対して反論するケイネス。
ケイネス「このホテルには多くの魔術的な仕掛けを施してある。私の工房に攻撃を仕掛けることなど、サーヴァントでも手こずるだろう。つまり、これ以上遅れをとることなどない」
その言葉には自信が満ちていた。
ケイネスの言った通り、自らの工房とはまさに自分の土俵。ケイネス・エルメロイが本気で仕込んだ魔術工房に侵入できるものなど僅かしかいない。
ソラウ「そう。期待してるわよ、ケイネス」
その言葉には言葉以上の意味は含まれていない。
ソラウ自身、自らの変化に驚いていた。
この冬木に来る前まで、ランサーに対して不思議な感情を抱いていたのは自覚していた。しかし、ランサーとケイネスが帰還した時には、それは消えていたのだ。
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/07(土) 22:47:20.33 ID:L/hQC0lbO
ソラウ(あれは…何だったのかしら)
自身に疑問を抱くソラウ。
彼女に生じていた感情は、彼女にとって初めてのものだった。
しかし、それは既に消えている。
彼女が再びソレを抱く時があるのかどうかは、彼女自身にとっても分からないものであった。
ソラウの心情を知らないケイネスは、そんな風に答える自らの婚約者に満足そうに頷いていた。
ケイネスにとってソラウの目を惹くことは、何よりも重要なことなのである。
少し前までは、ランサーに甘い部分を見せていたソラウだが、今はそんな気配は無い。
とうとう頼りにするべき男を理解したか、と考えるケイネス。
次は完膚なき勝利を手に入れる、そう考えながらグラスを傾けた。
だが。
この会話の数十分後。
とあるホテルが爆発し、崩落したとのニュースが新都に走った。
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/07(土) 22:48:35.95 ID:L/hQC0lbO
ーーーアインツベルン城
上条「テメェ………ッ!!」
上条の鋭い声が響く。
その声は切嗣に向けて放たれたものだった。
ーーー
数時間前、上条とアイリは拠点とするアインツベルン城に帰還した。
アイリの運転する車は上条には少し恐ろしいものだったが、敵に遭遇することもなく無事に辿り着いた。
かなり大きい城に気圧された上条であったが、アイリと一緒に切嗣を待っていた。
そしてしばらくして帰ってきた切嗣の第一声が、
切嗣「マスターの一人を仕留めた」
というものだったのである。
普通のサーヴァントとマスターの関係であったら、この報告は喜ばしい事なのかもしれない。
しかし、この二人にとっては違った。
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/07(土) 22:49:39.20 ID:L/hQC0lbO
確かにこの聖杯戦争はマスターとサーヴァント同士が戦う儀式だということを上条は理解している、しかし。
上条「何で俺を呼ばなかったんだ!?マスターを脱落させたいなら、サーヴァントを倒せば良いんだろう!生身のマスターを狙う必要なんかねぇじゃねぇか!!!」
切嗣はビルを爆破させ、ビルごとマスターを始末した、そう告げたのである。
この世界の魔術師というものがどれくらいの強さなのかは知らない。しかし、無事では済まない筈だ。
それだけではない。一歩間違えれば関係のない人々も巻き込まれていたかもしれない。
切嗣「これが最善だ。たとえサーヴァントが消滅しようと、マスターの権利というものは残り続ける。マスターを失ったサーヴァントとの再契約されでもしたら厄介だ。殺すのが一番確実で、手っ取り早い」
激昂する上条に対して切嗣は動揺することなく反論する。確かに理屈の上では切嗣の言っていることは正しいのかもしれない。
だが、淡々と語る切嗣に上条は気持ちを抑えられなかった。
上条「うるせぇ!!マスターを失ったサーヴァントなんてまだいねぇだろうが!!!理屈捏ねたところで俺が納得するとでも思ってんのかよ!!!」
そう言って上条は切嗣へと一歩近づく。
気づけば、その胸倉を掴んでいた。
上条「大体、お前は世界の救済ってのを目指してるんじゃないのか!?こんなやり方で聖杯を手に入れたって、そんな犠牲の上に成り立ってる世界を『幸せ』なんて呼べる訳ねぇだろうが!!!」
切嗣の胸倉を掴みながら叫ぶ上条。
しかし、それでも切嗣の表情は変わらない。
むしろ、その表情はさらに冷酷なものになっているかのようだった。
切嗣「………黙れ」
切嗣は低くそう呟くと、乱暴に上条の手を引き剥がした。
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/07(土) 22:50:08.17 ID:0WtiF6qm0
いろいろ違ってるからランサーが死なない可能性が出てきたぞ…
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/07(土) 22:52:00.33 ID:L/hQC0lbO
切嗣「随分大層な事を抜かすもんだな。なら、早くサーヴァントを倒してきたらどうだ?ランサー相手に苦戦し、アイリを危険に晒した人間にそれが出来るとは思えないが」
上条「……!」
どうやら切嗣は、ランサーと戦っていた所を見ていたらしい。
しかし、その事実は余計に上条の怒りに油を注いだ。
上条「オマエ…ッ!見てたのかよ、俺達の事見ておいて何も手出ししなかったっていうのか!?アイリさんが攻撃されて知らん顔してたのも、戦略の為だ、って抜かすつもりかよ!!」
数秒の沈黙。
上条の視線を正面から受けて、切嗣は、
切嗣「……ああ、よく分かってるじゃないか」
ハッキリと、そう述べた。
上条「この野郎……ッ!!!」
もう我慢出来ない。
そう考えながら拳を握りしめ、切嗣へと飛び出す上条。
アイリ「やめてっ!上条君……!」
しかし、それはアイリの言葉によって止められた。
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/07(土) 22:54:43.31 ID:L/hQC0lbO
上条「アイリさん!でもコイツは……っ!」
アイリ「良いの、結果的に私は怪我なんかしてないわ!」
そう言ってアイリは、
アイリ「切嗣が倒したマスターのことは、正直私も受け入れられるものとは思ってないわ……でも、相手は私達を殺す気で動いてる。やり方は確かに強引かもしれない。でも、結果的には切嗣も私達を守る為にやった事なの」
アイリ「だから、二人で争ったりしないで……」
悲しそうに、そう告げた。
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/07(土) 22:55:49.05 ID:L/hQC0lbO
上条「………っ」
確かに自分が甘かったのかもしれない。
実際、アイリを危険に晒したのは力の足りない上条のせいではないか?
方法がなんであれ、味方が襲われる可能性を下げた切嗣の方が正しいのではないか?
守りたい人を守る為には、手段を問う暇なんてないのではないか?
弱気になったのか、そんな事を考え始める上条。
しかし、
上条(そんな、訳が……ッ!)
上条当麻は、そんな言葉には屈しない。
上条(そんな訳ねぇだろうが!上条当麻!!!)
そうだ。
相手が殺す気で向かってくる以上、殺したって構わない?
方法がなんであれ、守りたい人達を守れればそれで良い?
そんな訳がない。
もし、そんなやり方で大事な人を守ったとしよう?
なら、その人になんて告げるのだ?
「君の命を狙う人達がいたから、皆殺しにして君を助けた。ああ、そいつらの事は君が気にする事じゃない」と、そんな風に言えばいいのか?
見知らぬ人々の命を背負って生きる事を、大事な人に強制しているんじゃないのか?
それは正しい事なのか?
もしそれが正しい事ならば。
なぜ、
なぜアイリは、こんなに悲しい顔をしている?
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/07(土) 22:57:00.65 ID:L/hQC0lbO
上条(諦めねぇ、諦めてたまるもんか!!!)
上条のやる事は変わらない。
サーヴァントと戦い、その者たちを英霊の座へと還す。
敵のマスターを殺したりはしない。
そして、アイリ達を守り抜く。
だが。
上条(……切嗣は、本当にこんな真似を続けるつもりなのか)
そんな不安を、上条は抱いていた。
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/07(土) 23:08:16.60 ID:L/hQC0lbO
今日はこんな感じで終わりにします。
あまり進んでませんが、明日も書き込むのでその時もよろしくお願いします。
コメントありがとうございます、すごく嬉しいです。
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/08(日) 01:09:17.06 ID:btkZUKy2o
乙
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/08(日) 05:23:32.12 ID:K4dHDt3fo
おつかーレ
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/08(日) 13:58:50.94 ID:cFUw8Orc0
乙ゥ!
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/08(日) 23:34:44.87 ID:8zf91nqw0
再開します。
切嗣「気は済んだか?なら、今後の方針を決めさせてもらう」
そう言って話を再開する切嗣。
彼の目はもう上条など見ておらず、机の上にあるパソコンに向けられていた。
切嗣「ついさっき入った情報なんだが、今回の監督役からのお達しでね。どうやら追加のルールが出来たらしい」
アイリ「追加のルール?」
不思議そうに首を傾げるアイリ。
切嗣「ああ、どうやらキャスターのサーヴァントとそのマスターがかなりの問題を起こしているらしくてね」
そう言いながら切嗣は一枚の新聞紙を投げて来た。
なぜ新聞?と、疑問に思う上条とアイリであったが、素直に読み進めてみる、すると、
『冬木市で誘拐事件。被害者の大半は子供である模様』
上条「問題って……まさか」
自分の思い違いであってくれ、そう思いながら呟く上条。
しかし、そんな期待は、
切嗣「ああ。どうやらキャスターのサーヴァントとそのマスターは、冬木市に住む子供を誘拐しーーー」
切嗣「殺害して、回っているらしい」
切嗣の言葉によって、砕かれた。
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/08(日) 23:35:36.97 ID:8zf91nqw0
上条「嘘、だろ…」
呆然と呟く上条。
傍らに居るアイリも口に手を当て、黙っていた。
上条「なんで、何でそんな事をする必要があるんだ!?こいつらも聖杯戦争に参加してんなら、狙うのは敵のサーヴァントだけで良い筈だろう!!?」
今まで考えさえもしなかった敵の行動に、動揺を隠せない上条。
そんな上条の言葉を受けても、切嗣は一切動じず、
切嗣「世界には二種類の人間しかいない、意味のある事をする奴と意味の無い事をする奴だ。もしキャスター達が前者なら、それは魔力補給の為だろう」
上条「魔力補給……?」
切嗣「そうだ。魔力というのは人間の生命力と同義だ。つまり、一般人の命を犠牲にしてサーヴァントの魔力補給を行なっていると考えられる。……何にせよ、許されるものじゃあないが」
しかし、と切嗣は一旦区切ってから話を続ける。
切嗣「子供が内包する魔力など未熟で、僅かだ。もしキャスター達が魔力補給を目的としているなら、成熟した人間を狙うのが最も効率が良い。しかし、こいつらはそれを度外視している」
上条「待てよ、それじゃあつまり……」
その通り、と上条の言葉を肯定しながら切嗣は告げる。
切嗣「コイツらは後者の人間。もはやサーヴァントでもマスターでもない、ただの快楽殺人者という訳だ」
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/08(日) 23:36:28.22 ID:8zf91nqw0
上条「そんな奴ら、ほっとく訳にはいかねぇだろ!!」
思わず声を上げる上条。
切嗣「どうやら教会の方もそう考えているらしくてね。まぁ、奴らが重視しているのは神秘の秘匿なのかもしれないが」
ここからが本題だ、と切嗣は続ける。
切嗣「今言った暴挙を止める為、キャスターを仕留めたサーヴァントのマスターには令呪を一画与える、そんなルールが追加された」
上条「令呪って、アレのことか」
ランサーとの戦いを思い返す上条。
あの時ランサーは、自分の意思ではない行動を強制されたと言っていた。
どうやら令呪というのは魔力の塊であり、マスターがサーヴァントへの命令を可能にするものらしい。そして使い方によってはサーヴァントを強化することも出来ると切嗣から聞いていた。
切嗣「三画しかない令呪が報酬というのは、中々に破格の条件。キャスター討伐に動き出すマスター達も増えるだろう」
上条「当然だ。令呪なんて関係ねぇ、そんな奴ら放置しておく訳にはいかねぇだろ!」
切嗣の言葉を肯定する上条。
しかし、
切嗣「今回の件、僕達は干渉しない」
切嗣の放った言葉は、上条にとって予想外のものだった。
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/08(日) 23:44:21.59 ID:8zf91nqw0
上条「おい、切嗣………ッ!」
再び上条からの視線を受けても、切嗣の態度は変わらない。
アイリ「…切嗣、何故そのような方針にするの?説明してちょうだい」
切嗣を見つめたままでいる上条の代わりに、アイリが切嗣へと話しかける。
切嗣「この聖杯戦争において最も危険なことは、『動きを読まれること』だからね。キャスターを追う、そんな行動を取ったら他のマスターから叩かれる隙を作るだけだ。それに、残っている令呪は三画。消費しているならまだしも、これ以上無茶をする必要はないさ」
だから、と切嗣は続ける。
切嗣「僕らが狙うのはキャスターじゃない、キャスターを狙う他のマスター達だ。確かにキャスターの居場所を探るのは重要だが、僕達が直接出向くことはない」
アイリ「……そう」
上条「…………」
そんな切嗣の言葉を、上条は黙って聞いていた。
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/08(日) 23:45:01.36 ID:8zf91nqw0
上条「……お前の言いたい事は分かった。もう話す事はねぇ、寝させてもらう」
そう言って上条は部屋を出た。
残されたアイリと切嗣の間に沈黙が流れる。
アイリ「……切嗣、今更あなたのやり方に文句を言うつもりはないわ。でも………」
切嗣「………」
アイリ「…………いえ、何でもないわ。私もそろそろ休みます。おやすみなさい」
切嗣「……ああ」
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/08(日) 23:48:05.37 ID:8zf91nqw0
ーーーそして、夜が深まった頃
用意された寝室で、上条は眠ろうとしても眠れない頭でベッドに転がっていた。
その原因は無論、先程の会話についてである。
上条(……切嗣が言ってることも、理解できない訳じゃない)
おそらく、自分が言っている事は我儘なんだろう。
この聖杯戦争に参加している人物の中で、自分の様な考え方をしている者など殆どいないのだろう。
確かに、傲慢なのかもしれない。
上条だって、全ての人を救える訳じゃない。
今この瞬間にも苦しんでる人はいるだろう。
上条が知らない所で涙を流している人もいるだろう。
そんな人達を救えないのに、誰かを助けたいと、そう思うのは思い上がりなのかも知れない。
けど。
それでも。
それは、苦しんでいる人達を見過ごす理由にはならない筈だ。
それだけじゃない。
もし、罪の無い人々を苦しめるキャスターを無視して聖杯戦争を勝ち抜けたとしよう。
その時、どんな顔をしてイリヤに会えば良いのだ?
多くの人を見捨てた人間が、イリヤに胸を張って会えるのか?
結局のところ、
上条当麻は、一体何がしたいのだ?
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/08(日) 23:50:40.90 ID:8zf91nqw0
ーーー郊外の森
アインツベルン城は、郊外の森の中にある。
そこから新都まではかなりの距離があるのだが、そこを拠点として切嗣が選んだのは、部外者が滅多に立ち入らないこともあるだろう。
夜が深まり、生物が寝静まる頃。
普段なら人っ子一人いない時間帯だ。
しかし、
そんな月明かりに照らされる森の中、一つの動く影があった。
それは、人の影だった。
それは、ある方向に走っていた。
それは、ツンツン頭の少年だった。
その男は、上条当麻だった。
上条(………悪い、アイリさん。少しだけ約束、破らせてもらう……!)
上条の周りには誰もいない。
そう、上条は単独で城を抜け出したのだ。
切嗣に話したところで、状況は変わらない。
目的は、ただ一つ。
上条(キャスターを倒す……!!)
もうキャスターの暴挙は見過ごせない。
戦略だの、他のサーヴァントなど知った事ではない。
この戦いにおいて、これ以上の『敵』など、上条当麻には存在しない。
魔境と化した冬木の地。
その中心部へと駆ける上条を遮る者は、いない。
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/09(月) 00:29:32.08 ID:cbmAoPbv0
今回はこんな感じで終わりにします。
次回からはもう原作とは変わった展開になると思うので、正直自信がないですし、時間もかかるんじゃないかな、と考えています。
また一週間後くらいに書き込みたいと思います、もはや恒例ですが、筆が遅いもので申し訳ないです。
コメント書き込んでくれる方々には本当に感謝です。凄い励みになってます、また次回も見にきてください。
ありがとうございました、おやすみなさい。
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/09(月) 00:49:40.77 ID:ER8YI4Fzo
乙。楽しみにしてます
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/09(月) 18:56:47.04 ID:Qyvl5YZr0
いいぞ上条さん
切嗣を完全否定してないところがいいな
セイバーは完全否定してるせいで不協和音なってたから
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/10(火) 01:24:27.28 ID:+2vAHbSlo
おつおつ
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/14(土) 21:23:00.28 ID:RamlKBW+0
楽しみだ
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/17(火) 00:02:18.29 ID:CdGY756b0
明日で一週間
ロムるんじゃねえぞ…
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/17(火) 00:29:51.17 ID:9rAnFXEN0
エたると間違えてる?
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/17(火) 06:35:59.22 ID:MeIzscBTO
すいません、今学校がテスト期間やなんやらで忙しいのと、話の展開に迷ってるのとで書き込めませんでした……ごめんなさい。
なんか聞かれてもいないこと話し出すのは自意識過剰で気持ち悪いかな、と思って何も言わなかったんですが、失踪したとかそういう類のことじゃないです笑
テストが一段落つくまでは書き込めないかなー…って思ってるんで、もうしばらくかかると思います。
懲りずに待ってくれたら嬉しいです。
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/17(火) 18:18:17.27 ID:zByOgepQ0
上条さんはテストどころか学校サボりまくっても大事には至ってないしテストそっちのけで書き込んでも余裕でなんとかなるさ
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/17(火) 18:18:31.20 ID:CdGY756b0
分かった
テストはきついよなぁ
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/17(火) 18:20:07.02 ID:CdGY756b0
分かった
テストはきついよなぁ
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/17(火) 19:35:27.64 ID:auerepl8O
>>131
上条さん留年目前なんですがそれは
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/25(水) 02:59:55.49 ID:n02oEgObO
テストひと段落ついたので、明日書き込みます。
よろしくです。
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/25(水) 07:07:04.15 ID:3YK5TgI2o
ほい
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/25(水) 21:18:43.63 ID:1b8OoDSC0
続きです。随分空きましたが、よろしくお願いします。
ーーー
凛「………コトネ、どこに行ったの?」
とある少女の小さな言葉。
事情を知らない人からすれば、迷子を探しているように感じるかもしれない。
けれど、少女の問いはそんな簡単なものではない。
少なくとも、この問いに答えられる者が、この街にはまだいない程には。
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/25(水) 21:20:29.86 ID:1b8OoDSC0
この少女は、とある選択を委ねられていた。
彼女の名前は遠坂凛。
魔術家である遠坂家の長女であり、正統の後継者だ。
しかし後継者といっても彼女はまだ幼く、小学校に通う年齢である。
魔術師というと曲がった考えの者が多い、と思うかもしれないが凛は誰にも明るく接し、友達も多くいた。
彼女はとても誠実で、自身の友人をとても大切に思っていた。
それはとても微笑ましく、喜ばしいことだ。
しかしそれが、今回の選択を生み出した。
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/25(水) 21:21:45.70 ID:1b8OoDSC0
冬木で児童の誘拐事件が起きている事は凛も知っていた。
父である時臣が聖杯戦争に参加していることも含めて、身辺には細心の注意を払っていた。
しかし、自分の友人の身辺となると話は別である。
その知らせを聞いたのは凛が学校に着いてからである。
朝は苦手な凛だが、学校に遅刻などはしない。いつもの様に学校に間に合い、いつもの様に友人と談笑していた。
しかし、一つだけ普段と違うものがあった。
いくら待っても、大切な友人であるコトネは現れなかった。
風邪でも引いたのだろうか、そんな風に考えていた凛だったが、担任の教師が放った言葉でそんな予想がいかに甘かったのかを、思い知らされた。
「コトネちゃんは昨日からお家に帰っていないそうです。今警察の方に連絡して捜索をしていますが、みなさんも気をつけてーーー」
途中から教師の声は入って来なかった。
冬木に住んでいるものなら、世間を騒がす誘拐事件と、この失踪を結びつける事など、子供にもできる。
そして、コトネが無事でいる可能性が、限りなく低いことも。
しかし、凛は普通の子供では無かった。
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/25(水) 21:22:56.21 ID:1b8OoDSC0
今回の誘拐事件、それが聖杯戦争と何かしらの関連があることに凛は勘づいていたのである。
つまりコトネは魔術に携わる者に攫われたのだと、ほとんど凛は確信していた。
それだけではない。
魔術師というのは、自分の痕跡を隠匿するもの。
つまり。
警察などでは、コトネの発見することは難しいということを。
そこで、二つの選択肢が生まれた。
警察に任せる、そう言ってコトネを見捨てるか。
自分の手で、コトネを助け出すか。
しかし、遠坂凛をよく知っている人間ならこう言うだろう。
「そんなこと、聞くまでもない」。
そして凛は冬木の地へと舞い戻った。
父から授かった、魔力計を胸に。
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/25(水) 21:25:31.57 ID:1b8OoDSC0
ーーー数時間前。
凛が冬木に戻ると決意する少し前。
同じように冬木の中心部へと足を踏み入れた者がいた。
その者がいたのは住宅街の外れ。
近隣の者でもあまり近寄らない、ましてや誘拐事件などが噂されている現在では、なおさら人気のない場所だった。
そんな場所で一人、荒い息を抑えながら辺りを見回している。
何かを探すように動く仕草は、遠くから見てもその必死さを醸し出している。
しかし、はたから見るとそれは不審者の動作にも見える。
まるで、巷に噂される誘拐事件の犯人のように。
?「……くそ……こんな……!」
今度は悪態をつきながら走りだす。
しかし目的地が分からないその足取りは、徐々に弱まっていき、やがて止まる。
疲労しているのか、その者は膝をつきながら呼吸を整える。
そしてしばらくして、その者は顔を上げ空を見上げる。
怒りと困惑、それらの表情が絶妙に混ざったような顔で、
上条「み、道が分からねぇーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!」
大声で、そんな風に叫んだ。
つまるところ、迷子の上条さんだった。
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/25(水) 21:34:29.59 ID:1b8OoDSC0
アインツベルン城を単独で抜け出した上条。
キャスターを倒そうと、飛び出したのはまだ良い。
だが、アインツベルン城から森を行けるまでの道のりは笑えるほど遠かった。
時間にして三時間、迷いながら深夜の森を走り続けた上条。
住宅街が見えた時は、思わず泣きそうだったりしたのだが、それは上条にしか分からない感情だったろう。
取り敢えず公園のベンチで休み、満身創痍の体を少しでも回復させることにした。
まぁ、そこまでもまだ良い。
問題は、上条にキャスターを探す手段が全く無かったということだった。
上条がそれに気づいたのは、休憩を終え、そろそろ動きだすか、と考え始めた時だった。
そこで初めて「俺はどこに行けばいいんだ……?」と、あまりにも間の抜けた自問自答を行い、自分の無計画さに頭を抱えていたのだ。
そこで「誘拐ってことは……路地裏…とか………?」という何とも短絡な思考で人のいない方へいない方へ、がむしゃらに進んでいったのだ。
しかし、土地勘のない上条が道に迷うのに大した時間はかからず、現状に至った訳である。
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/25(水) 21:36:17.43 ID:1b8OoDSC0
上条(まずいまずいまずいぞこれは。キャスターを倒すとかそれ以前の問題だろ………ッ!?)
人通りのある場所に出たとしてもキャスターを見つける事が出来なければ、上条の目的を果たすことは出来ない。
しかしこうしている内にも、キャスターは動いているのかと思うと焦りはひどくなる一方だった。
上条(いや、とりあえず人が集まる場所!特に子供が集まりそうな場所に行くしかねぇ!!!)
現在の状況がいかに悪いものなのか再認識したことで、上条の足にも力が戻る。
よし!、と力を込めて走り出す上条。
しかし曲がり角まで行った辺りで、
ドン!、と何者かに上条はぶつかった。
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/25(水) 21:37:50.58 ID:1b8OoDSC0
上条「うぉっ………!」
いきなり現れた人影に思わず声が出る。
どうやら走る事に夢中になっていたようだ、ぶつかる瞬間までその人影に気づくことが出来なかった。
体を地面に打ちつけることは無かったが、体が前の方へと倒れ、地面に手をついてしまう。
?「…………っ」
どうやら、ぶつかったその人物も上条には気づかなかったらしい。
衝撃に負けて、地面に尻餅をついていた。
しかし、困ったことが一つ起きる。
そのぶつかった人物は女の子だった。
おそらく小学生なのだろう、背中にランドセルを背負っている。
そこまでは問題無い。
先程ぶつかって上条が前のめりに倒れ込んだ際にどんな原理か、上条はその少女に覆いかぶさるように倒れてしまったのだ。
もしこんな真似を常盤台中のとあるお嬢様にでもしてしまったら、怒声の後に電撃の槍やら砂鉄の剣やらで追い回されかねない展開だ。
しかし幸か不幸か、その少女はどうやらそういった行動をするタイプではなかったらしい。
上条の体の下で、無言で倒れたままでいる。
一応上条の威厳の為に言っておくと、彼はその少女には指一本も触れてはいない。
まだ通報するには早いだろう。
だから一応これも問題は無い。
だが、最後に一つ。
上条の下で、少女のスカートが全開でめくれていた。
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/25(水) 21:38:43.96 ID:1b8OoDSC0
人間はここぞという時に驚異的な身体能力であったり、判断力だったりを発揮するとよく聞くが、この時の上条の頭は今までに無いほどに働いた。
小学生女子、それに覆いかぶさる自分、おそらくパンツが大変なことになっているだろうスカートの状態、人気のない通り、近頃話題の誘拐事件。
それらを結びつけて、少しの間考えてみる。
………………完全にアウト。
逮捕案件だ。
上条は怖いくらい冷静にそう結論づけた。
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/25(水) 21:39:57.43 ID:1b8OoDSC0
しかし、冷静な時間というのは長くは続かない。
我に返った上条は、バビュン!!、と素早く立ち上がり少女へと話しかけ始めた。
上条「わ、悪い!前見てなかった!怪我とかしてねぇか!?これは偶然であってやましい気持ちだとかはこれっぽっちもなくてだな最近は誘拐やなんやらで物騒だと思うけれど俺はそういった類の人物じゃないということだけは伝えておきたくてだな!!!!」
もはや聞かれてもいないことを話し出すほどに動揺している上条。
そんな上条の様子などお構いなしに少女はスカートを直し、立ち上がった。
そこでようやく少女の顔を見た上条。
そして、ある事に気付いた。
桜「………大丈夫です。………気にしないで下さい」
淡々と語る少女。
羞恥、動揺、不安。
そういった類の感情を、その少女から微塵も感じることが出来ない事に。
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/25(水) 21:48:38.83 ID:1b8OoDSC0
上条「え…………?」
想定外のリアクションに拍子抜けしてしまう上条。
頭に噛み付いてきたり、電撃を操る少女を普段から相手にしている上条としては、そのような反応に慣れていない。
上条(た、確かに悪気はないけれど、こういうリアクションはそれはそれで申し訳なさを感じるぞ………)
五和とかも暴力を振るったりはしないけど、それとはまた違うような……、そんなことを考えながら体が固まってしまう上条。
そんな上条を気にも留めず、少女は上条に背を向けて歩き出そうとしていた。
少し違和感を感じる対応だったが、今の状況なら普通なのかもしれない。
少女の立場からしたら当然だろう。
上条には本当に悪気はないが、最近の誘拐事件の事からも、見知らぬ人物といるのは抵抗感があるだろうし、両親にも早く帰宅するように言われているかもしれない。
そんなことを考えている間にも、少女の背中は徐々に小さくなっていく。
少女とその両親の為を考えるなら、この少女にこれ以上関わるのは控えておくべきだろう。
しかし、
上条「ち、ちょっと待ってくれ!」
少女を引き留めた明確な理由は特になかった。
しかし、もし理由をつけるなら、
上条「今道に迷っててよ、少しだけでいいから道を教えてくれねぇかな?」
その子の瞳が、自分が御坂妹と呼ぶ少女のソレと似ていたからだろうか。
148 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/07/25(水) 22:02:49.47 ID:1b8OoDSC0
今回はここまでです。
時間が空いてしまってごめんなさい、自分でも予想外に忙しくて驚きました。展開に迷いまくってたというのもありますが…。
このssは要所要所の展開は決めているのですが、どうやってそこまで持っていくかというのは決めてないんですよね…笑。書き込んだら変更は出来ないしな、という緊張もあって筆が遅くなってしまいがちなんです……。
まぁ、全部書き込みが遅れた言い訳なんですが笑
何が言いたいかというと、書き込みが遅くなりがちですがまた見に来てくれたらなと、切に願っている限りなので、次の更新の時も来てくれたら嬉しいです。
ありがとうございました。
149 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/26(木) 00:33:37.63 ID:DVx1em7No
おつおつー
ゆるりとまつさー
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/07/26(木) 21:21:19.95 ID:uddTRmrq0
ファイトだぜ
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/08/23(木) 21:38:16.60 ID:UWm8Id910
ずっと待ってる
152 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/15(月) 09:11:34.19 ID:J/hKFWCw0
おーっ!復旧しましたね!!!
少し空きましたが、完結まで頑張りたいと思いますので、またよろしくお願いします!
ちなみに酉ってのをつけてみました!
153 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/10/15(月) 20:22:06.54 ID:T9sUoYez0
まあ頑張って
ついでにアニメ化するからみさきちそろそろ出して
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/10/15(月) 20:46:14.86 ID:Gh9A9U3LO
>>153
やだ
155 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/10/16(火) 09:33:59.99 ID:uK/SQjklo
っていうか生きてたのか作者
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/10/17(水) 12:49:45.10 ID:fVsrhfBjO
生存報告ありがてえ…
157 :
◆qYcHZpJYdQ
:2018/10/22(月) 23:20:34.60 ID:E2pMa639O
今日中に一回投稿しようと思ってます。
長く空きましたが、よろしくお願いします。
158 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/22(月) 23:53:21.67 ID:5lxeebDzO
桜「……道、ですか?」
その声はあくまで淡々としていた。
事実、間桐桜にとってはその他の事象など無関心なものであり、今回もそれは変わらないからである。
上条「ああ。ちょっと事情があってよ、人が集まりやすいっていうか、子供が集まりやすいような場所を探してるんだけど……見ての通り迷っちまってな」
しかし上条はそんな桜の様子を大きく気にすることなく話を続けた。
普段の桜を知る者なら、こんな誘いに乗るはずないと考えるのが普通だろう。
しかし、上条の「子供が集まる場所」という言葉がそんな桜の反応を少し変えた。
ーーーまた一緒に、あの公園へ行こう。
数日前にかけられた言葉。
そんな言葉が、桜の脳裏によぎった。
桜「…………………公園」
上条「ん?」
もう一度あの場所へ行きたい、そんな願いが現れたのかどうかは分からない。
だが、
桜「……公園でいいなら、知ってます」
桜は、上条へとハッキリそう言った。
159 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/22(月) 23:54:13.83 ID:5lxeebDzO
そうして二人は件の公園に行く事となる。
時刻は夕暮れ。
結構遅い時間まで付き合わせちまったな、上条はそんな風に考えながら前方の少女についていく。
上条(それにしても、静かな子だよな)
二人は今、無言で歩いている。
少女は間桐桜という名前らしい。
間桐という名前は聞いたことあるような気がしなくもないが、どうにも思い出せずにいた。
歩き始めた時は上条から何度か話しかけてみたのだが、その返答は「はい」か「いいえ」しかなく、長い会話が続くことはなかった。
別にそれに腹をたてる訳でもなく、そういうタイプの子なんだろう、とそれ以上大きな干渉はしなかった。
向こうからしたらこっちは完全な不審者だと思われても文句は言えない。
そんな自分の道案内してくれるというのだから、悪い子ではないのだろう、と上条は結論付けた。
そんなことを考えながら歩いて行くと、前方に大きな公園が見えてくる。
随分と広い公園だ、もし誘拐事件なんて騒動がなければ今の時間でも随分賑やかだったに違いない、そんな事を考える。
おそらくあれが目的地の公園なのだろう、そう考えて上条は、
上条「ん、アレが言ってた公園か。ありがとう、助かった。場所は覚えたし、暗くなってきたから一回家まで送るよ。家はどこにあるんだ?」
そんな風に桜に話しかけた。
隣にいる少女を見てみると、顔を俯いたままじっと佇んでいる。
調子でも悪いのだろうか、そう思い言葉をかけようとした上条。
すると桜は、
桜「…………あの……」
上条「ん?」
家がかなり遠いから言い出しにくいのだろうか、そう思いながら桜の言葉に耳を傾ける上条。
しかし、桜が発した言葉はそういった類のものではなく、
桜「あの……私も行ってもいいですか?」
遠慮がちに、そんな予想外のことを桜は上条に言った。
160 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/22(月) 23:55:02.70 ID:5lxeebDzO
上条「え?」
思わず聞き返す上条。
この公園まで歩いてきて、なるべく沈黙を続けようとしているように思えた少女にしては随分意外な質問だと思ったからだ。
上条(急に遊びたくなった…とか言い出す子には見えねぇけど…)
そう思いながら桜の様子を見つめる上条。
俯きがちな顔からは詳細な表情は見えなかったが、どうにも事情があるらしい。
なら、悩む理由もない。
上条「分かった、一緒に行こうぜ。別に俺もまだ急いでる訳じゃないし。でも暗くなったら危ないからな、ある程度の時間になったら桜、お前を家まで送り返す。それでいいか?」
その言葉を聞いて桜小さく頭を上下させた。分かったらしい。
キャスターの討伐は急がなくてはならないが、足取りはまだ掴めていない。
一緒に公園についていきたいと頼む桜を断る理由も正直なかった上条は、桜と共に公園へと入っていった。
161 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/22(月) 23:56:12.30 ID:5lxeebDzO
ーーー
間桐桜は、静かにその公園を眺めていた。
普段の彼女を知る者からすれば、このように能動的な言動を彼女がしたことに驚くかもしれない。
実際のところ、学校が終わればすぐに帰宅するように言い付けられている桜がこのように寄り道することなど珍しい事であった。
ましてや公園に入りたい、など。
桜自身、何故このような行動をしたのかよく分かってはいない。
そんな自身の不可解な行動に内心首を傾げつつ、桜は公園を見つめていた。
その公園は人がいない為か静寂に満ちており、少し不気味さすら醸し出している。
小さな子供が今の公園を見て、ここで遊びたい、とは言いださないだろう。
しかし、そんな公園であっても、
桜の目には、違うものが写っていた。
それは。
多くの子供、優しい陽だまり、笑い声。
いつか桜が体験した公園の風景が、桜の目の前には流れていた。
新しい祖父には、元の家族のことなど忘れろと言いつけられている。
だが、これくらいのことは覚えていても良いだろう。そんな風に考えながら目の前の公園が呼び起こす記憶に浸る桜。
この公園は確かに色々な思い出を蘇らせる。
蘇る思い出の中には、「元の家族」のことも含まれている。ということはつまり、この公園に来たことで、桜に何らかの変化が起きるかもしれない、そんな風に考える者もいただろう。
しかし、そんなことは起きない。
何故なら。
桜は、祖父の言いつけを守るために隣にいた筈の『誰か』を、記憶から消していたから。
ほら、今だってそう。
手を繋ぎながら公園に通った記憶。
ーーーでも、手を繋いだ相手を覚えていない。
シーソーを楽しんだ記憶。
ーーーでも、相手の顔は覚えていない。
ブランコでどちらが高く漕げるか競った記憶。
ーーーでも、競った相手を覚えていない。
陽だまりの中で昼食を楽しんだ記憶。
ーーーでも、誰と食べたのかは覚えていない。
つい数年前に間桐の家に帰ってきた、雁夜という人物。
彼は、「またあの公園に行こう」と桜に言った。
少なからずその言葉に感化されてこの場所に訪れた桜だったが、
依然としてその目は、心は、人の気配の無い眼前の公園よりも静寂を保っていた。
162 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/22(月) 23:58:14.27 ID:5lxeebDzO
ーーー
上条「本当に、誰もいないな……」
隣にいる桜の心情など知り得ない上条は、公園に入ってすぐ、そんなことを口にする。
普段は自分と同年齢、及び年下の学生達が多く暮らす学園都市に住んでいる上条にとって、公園という学生達の遊び場に人がいないというのは少し新鮮でもあった。
現在冬木市を騒がせる誘拐事件などなければ、多くの子供達が遊具の奪い合いなどしていたのかもしれない。
上条(流石にキャスターはいない、か……)
忘れそうになるが、上条が公園に来たのは子供を襲うというキャスターの足取りを掴むためだった。
しかし、ここまで子供がいないとなるとキャスターがこの公園に現れることはないだろう、上条はそう結論付ける。
まさか最初に訪れた場所で手がかりが掴めるとは思ってはいなかったが、ここまでないとなると心情的には辛いものがあるのは否定出来ない。
上条(一周回ってこの公園は安全ってことなのかもしれないな)
標的がいないのならキャスターもわざわざこんな所を襲わないだろう、そんな風に上条は考える。
正直な所、上条は今現在、キャスターと遭遇したいとは思っていない。
163 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/22(月) 23:59:06.02 ID:5lxeebDzO
理由は、桜の存在だ。
子供を狙うと聞かされている以上、もしこの場でキャスターと遭遇した場合、桜が集中的に狙われることになるかもしれない。
そうなった場合、上条が桜を守り切れるかどうかは分からない。
今まで数人のサーヴァントと出会った上条だが、そのどれもが手強い者達だった。
その例として、ランサーがいる。
彼は令呪による命令があったものの、積極的にマスターを狙うようなサーヴァントではなかった。
そんな相手だったからこそ自分に放たれる攻撃だけに集中し、なんとか自分の身を守る事が出来たのだ。
しかし、もし相手が上条だけでなく、桜も標的にして攻撃して来た場合、桜の身まで守らなければならないのである。
自分の身一つ守るのに精一杯だった上条にとって、それは避けたい事態だった。
164 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 00:00:49.44 ID:Ir21ZRMJO
ひとまずこの公園は安全だろう、そう考えて桜の方へと向き直る上条。
そんな上条に気づいた桜は思考を止め、顔を上げて上条と目を合わせた。
上条「よし、じゃあ………」
口を開く上条。
桜にはもうこの公園に思い残すことなどなかった。
少しだけ、彼女の記憶の奥底にある大切な「何か」が顔を見せたが、それが開花されることはなかった。
もう二度と、自発的にこの公園に来ることはないだろう。
つまり、もう彼女が「何か」を思い出す機会を持つことはないということだ。
しかしそれに気づくことも、それを憂うこともない彼女に、未練などなかった。
だから、上条に「もう帰ろう」と言われても何の文句を言うつもりもなかったし、素直に従うつもりだった。
だから、上条が放った言葉は。
上条「桜、何して遊ぼうか?」
桜にとって、全く予想していないものだった。
165 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 00:04:18.89 ID:Ir21ZRMJO
桜「…………え」
思わず声を溢す桜。
桜「あ、あの……今、なんて」
当然の疑問である。
桜は「公園に入りたい」とは言ったが、「遊びたい」とは一言も言っていないのだから。
しかし、
上条「ん?公園に入りたいってことは、遊びたいってことだろ?ほら、こう言っちゃなんだけど、今は俺達しかいないし、貸切状態だぜ!」
桜の疑問はどうやら上条にはうまく伝わっていないらしい、困惑する桜をよそに公園を見渡している。
確かに上条の発言は突飛なものに聞こえる。しかし、上条本人はそうは思っていない。
その理由は、アインツベルンの白いちびっ子にあった。
イリヤは上条がアインツベルンの城にいる間、嫌という程「遊んで欲しい!」と頼んでいた。
さらにその殆どでイリヤと上条による競争が行われていた。
その度にイリヤに付き合って来た上条だったが、その習慣のせいで「このくらいの年齢の子はみんな遊びたがりなんだな……」と上条の頭に刷り込まれてしまったのである。
一見すると、上条にはイリヤも桜もそう大きく年齢が違うようには見えていなかった。
そのため、「公園に行きたい」=「遊びたい」といったように上条の中で桜の言葉が自動的に解釈されてしまったのである。
166 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 00:39:52.33 ID:sZhLP9NxO
勘違いが重なり、上条は桜の手を引きながら公園の遊具へと歩いて行く。
上条「桜は普段どんなので遊んでんだ?」
そんなことを聞く上条。
それに対し桜は思わず、
桜「ブランコ……で遊んだ事は、ありますけど……」
そんな風に答えた。
それは普段、というより以前は、と言った方が正しいのだが、自然とそう答える桜。
それを聞いた上条は、よし、と言いつつブランコの方へと向かう。
近づいて見てみると少し小さいブランコだった。
それは上条がブランコという乗り物に乗らなくなり、身長が伸びたからなのか、単に対象年齢が低いのかは上条には分からない。
だが乗れなくはないだろうと上条は判断した。
167 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 00:40:26.06 ID:sZhLP9NxO
上条「さて、それじゃあ…」
ブランコを掴みながら喋る上条。
その声のトーンは無意識に下がっていた。
しかし、その眼光は鋭いまま、
上条「かかってこい、桜。格の違いを見せてやる」
そう、宣言した。
168 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 00:41:07.71 ID:sZhLP9NxO
唐突な勝負宣言。
高校生である上条が、小学生程の桜にする行為とは到底思えないが、これも先ほど述べた白いちびっ子が原因だと思ってくれていい。
普通の人間なら唐突な上条の言動に戸惑い、頭を混乱させるかもしれない。
しかし、
桜「…………」
桜は沈黙を貫いていた。
これは混乱から来るものではなく、全てを受け入れた上での沈黙である。
桜を知る者なら思い当たるかもしれないが、間桐桜という少女の基本的な姿勢とは、『抗わないこと』だ。
「今の桜」にとって、それはどんな状況でも変わらない。
よって、このような妙な事態になっても桜はそれを受け入れていた。
169 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 00:41:51.61 ID:sZhLP9NxO
そんな桜の心情など知らない上条は、
上条(こいつ、全く動じていない……だと!?)
と、勝手な勘違いをしていた。
かなり大見得を切ったつもりだったが、目の前の少女は、一挙一足乱すことなくブランコに手を掛けていた。
イリヤにこのような挑発をすると大抵「ふふーん、トウマになんか負けないよーだ!」、などと言って挑発に乗って来ることが多い。
しかし、桜はどうか。
挑発されたことすら無かったかのように振舞っている。その姿に、上条は歴戦の戦士の影を重ねていた。
上条(桜の野郎……ッ!コイツ、出来る…ッ!!?)
思わず、わなわなと抑えきれない武者震いが起きてしまう。
客観的に見れば、ブランコを片手に握り、女子小学生を見つめながら震える男子高校生、といったような大変不気味な光景だが、そこに口を出す者、もといツッコミを入れる者はいない。
そのため、誰に邪魔される訳でもなく静かに戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
170 :
◆qYcHZpJYdQ
:2018/10/23(火) 00:42:26.84 ID:sZhLP9NxO
とりあえず、ここまでで。
明日また書き込みますので、よろしくお願いします。
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/10/23(火) 01:31:04.25 ID:GgZK9x190
乙
172 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/10/23(火) 04:04:54.08 ID:sddRXNsno
次も待ってる
173 :
◆qYcHZpJYdQ
:2018/10/23(火) 23:16:24.58 ID:wBugTRVD0
書き込みます、よろしくお願いします。
174 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 23:16:59.77 ID:wBugTRVD0
上条「勝負は簡単、ブランコを5往復まで漕いでどちらが遠くまで跳べるかで決める」
要するに、少し変則的な立ち幅跳びのようなものである。
そしてその勝負内容を告げる上条に一切の遊びの気持ちなどない。
はたから見たらふざけてようとも、彼にとっては真剣勝負と変わらないのだから。
しかし、高校生と小学生だ、肉体的な差が大きすぎる。
そう考えた上条は、
上条「俺は3往復までしか漕がねぇ。それで対等だ、桜」
そう言いながら桜を見つめる。
桜「…………」
桜は何も言わない。
代わりに自身の乗るブランコをすこし下げて、力を加える為の体勢を作っていた。
要するに、準備万端である。
それを見た上条もブランコの上に座る。
そして、勝負が始まった。
175 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 23:18:17.72 ID:wBugTRVD0
言わずもがな、この勝負に大きく影響するのはどれだけブランコによる遠心力を生み出せるかどうかだ。
その点、自らハンデを課した上条が少し不利なのは明白である。
しかし。
上条「甘く見んなよぉぉぉぉっ!」
そう吠えると上条は、ブランコの上で立ち上がった。
そう、立ち漕ぎである。
確かに上条のハンデは大きい。
だが、脚力を全力で使うことの出来るこの漕ぎ方ならば、そのハンデを覆せるッ!
上条(ハッ!これならハンデがあっても十分に勝算はある!今すぐそのクールな面を暴いてやるぜぇぇぇぇぇ!!!)
そして脚力を全開にしてブランコを漕ぎ出す上条。
その過程で膝が真っ直ぐになり、限界まで足が伸びる。
上条(ふはははははーっ!!!こっから上条さんの脚力を見せてやるぜぇぇえーーーっ!!!)
意気揚々とブランコに力を加えていく上条。
そして。
ゴンッッッッッ!!!、という音が人のいない公園に響いた。
上条「あ、が……っ!?」
そして驚愕の声が上がる。
理由は単純明快。
上条が立ち漕ぎ出来るほど、この子供用のブランコは大きくなかった、ということである。
さらに率直に言うなら、骨組みに頭ぶつけた。
176 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 23:20:48.69 ID:wBugTRVD0
上条「〜〜〜っっっ!!!?」
声にならない叫びを上げながら後ろに倒れる上条。
皆も経験はあるかもしれないが、不意の一撃だったからこそ、痛みを強く感じていた。
どうすることも出来ずのたうち回る上条などお構いなしに、桜はギーコギーコ、とブランコを漕いでいた。
そして、ブランコから跳ぶ。
スタッ、と危なげなく着地する桜。
その距離、目算で約2メートル。
上条「あ」
桜が地面に着地した音で我に帰る上条。
対する上条は、目算で−1メートル。
上条の、完敗であった。
177 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 23:22:10.79 ID:wBugTRVD0
ブランコ勝負が終わり、「負けたままじゃいられねぇーーーっ!」と意気込む上条であったが、その後の勝負も転んだり、滑ったりと、多くの不幸っぷりを桜に見せつけ次々と敗北した。
そうしている内に今更になって虚しさを感じて来た上条は、勝負などせずに純粋に桜と遊ぶ方針へとシフトした。
「別に勝算がねぇ訳じゃねぇからな」などと悪役でも今時言わないであろう台詞を吐きつつ桜との時間を過ごして行く。
しばらくすると、
上条(うーん、遊具を使うとどうしても2人で遊んでる、ってよりは一人で遊具と遊んでるって感覚が拭えないんだよな)
そんなことを考えながらどうしたものかと公園を見渡していく上条。
シーソーは体重差がありすぎるし、アスレチックも前述した通りの理由で好ましくない。
すると、ある物が目に留まった。
上条「ん、これって」
それはベンチの上に置いてあった。
つい先日も目にした物だった。
上条(野球のグローブ、か。誰かが忘れていったのか?)
グローブは二つ置いてあり、ボールを掴む部分にはボールが収められている。
少し借りて、使い終わったら元の場所に戻しておこう。そう考えてグローブを二つ手に取り、その片方を桜に渡した。
そしてもう片方を手に嵌めながら、
上条「よし、桜。キャッチボールってやったことあるか?」
178 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 23:30:28.36 ID:ppy8TkC1O
そんなこんなで、キャッチボールが始まった。
上条「おー、結構良い球投げるな」
桜「………」
相変わらず桜の口数は少なかったが、返ってくるボールの感触からして、割と楽しんでいる……と感じている上条。
上条(でも、そろそろ暗くなり始めるだろうし、コレが終わったら桜を家に送るか)
そんなことも考えつつ、キャッチボールを続ける。
黙っているだけというのも気まずい、そう考えて上条は、
上条「中々上手いなー。誰かとやったことあんのか?」
桜「………はい、何回か…」
そう答える桜の表情が少し陰る。
近くにいれば上条もその変化に気づいたかもしれないが、キャッチボールの性質上、桜との距離は離れていた。
そのため、
上条「へぇー、っていうと、お父さんとかか?」
そんな質問を、桜に投げかけていた。
179 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 23:34:48.59 ID:ppy8TkC1O
その質問が桜にどんな心情を引き起こしたのかは分からない。
しかし、少なからず桜は動揺していた。
桜「…………あ」
小さな声と共に放たれたボールは、上条を大きく超えて公園の茂みへと転がっていった。
上条「おっとと、気にすんな桜。取ってくるよ」
呑気にそんな事を言いながら茂みの方へと歩いて行く上条。
桜は、じっとその背中を見つめていた。
いつかの記憶と、その背中を重ねるように。
しかし、その思考は途中で中断される。
なぜならーーー
180 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 23:38:55.57 ID:ppy8TkC1O
上条「あれ、どこにいったんだ」
茂みの中をしばらく探しても、中々ボールが見つからないでいた上条。
上条(そんな遠くまでは行ってないと思うんだけどな、っと)
そんな事を考えていると、視界に白い球体を見つける。
思ったよりは遠くにあったそれに手を伸ばそうとする上条。
上条(あったあった)
暗くなって来たのも、ボールを見つけづらかった理由かもしれない。そろそろ桜を帰す時間だろう、上条はそう考え、ボールへと手を伸ばしていく。
上条「………?」
しかし、その手は途中で止まった。
理由は特にない。
ただ、なんとなくという理由で上条は手を止めたのだ。
代わりに、それを見つめた。
すると、いくつかの疑問が湧いて来る。
あのボールは、あんなに土で汚れていただろうか。
あのボールは、こんなに遠くまで転がるほど勢いがあったのだろうか。
あのボールは。
こんなにも、球体の原型を崩した形をしていただろうか?
181 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 23:41:26.69 ID:ppy8TkC1O
上条(なん、だ?何か、ヤバい………ッ!?)
思わずその場から飛び退くように離れる上条。
すると、数瞬前まで上条が立っていた場所に、
べチャリ、と。
粘質な音と共に、『何か』が飛来した。
いきなり現れたソレに驚きながら視線を向ける。すると、
海魔「ギギギィィイイイイイイイイ!!!」
ソレは。
地面に着地してすぐに奇声を上げ、上条の方へと向き直った。
複数の脚、毒々しい容姿、そして軟体生物を思わせるその動き。
見る者達に生理的嫌悪を与える『何か』が、そこには居た。
上条「なんだ、こいつ…!?」
思わず呟く上条。
相対する存在の正体も分からず、急な事態に動揺を隠せない。
だが、突如現れたソレはそんな上条を気にも留めず。
海魔「ギィィィィィイイイイイ!!!」
不快な奇声を上げ、上条へと飛びかかった。
182 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 23:44:49.55 ID:ppy8TkC1O
距離を詰めて来るソレに、恐怖心を煽られる上条。
だが、
上条「うおおおおおッ!!!?」
大きな声を上げ、自らを奮い立たせる。そして、その右拳を突き出した。
得体の知れない存在に対して行う行動には到底思えないが、もはや反射的に繰り出されたその右手を今更止めることは出来ない。
しかし、その判断は吉と出た。
上条の右手がその海魔に触れた途端、
海魔「ギ………ッ!?」
海魔は奇声を上げたまま、ボッ!!!と音を立てて、その体を爆散させたのだ。
散り散りになった海魔は、そのまま宙に溶けるように消えていく。
そんな様子を見て上条に浮かぶ感情は、安堵でも、安心でもない。
上条「魔術……ッ!?」
それは、驚愕だった。
そう、上条の幻想殺しが効果を発揮したということは、今の得体の知れない海魔は魔術によって生み出されたモノだということである。
上条「何でこんな場所に……?」
混乱が止むことはなく、思考を続ける。今の海魔に異能の力が加わっているとして、その動きは随分と生物的なものだった気がする。
となるとさっきの海魔は魔術で出来た使い魔といった存在、ということになるのだろうか。なら、操っている術者というのが存在するのだろう。
上条(……ってことは操ってるソイツには何か目的があったはず。そうでなきゃこんな所に使い魔を送る意味がねぇ)
なら、その目的とは一体何だ?
この公園に、それだけの理由があるというのだろうか?
183 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 23:49:43.30 ID:ppy8TkC1O
使い魔という言葉を聞くと、アイリとの会話が頭によぎる。
アイリ『使い魔っていうのは、生物を模したモノが多いの。でも、それほど大きな力を保有する存在ではないから多くの魔術師はそれを使って実験対象の観察、監視をすることが多いのよ』
アインツベルンの城、そこで切嗣がカメラ以外の機材でどこか遠くの景色を観察しているのを見てアイリに質問した時に帰ってきた台詞だ。
そのせいか使い魔、と聞くと「監視」というイメージが強く引き出される。
上条(監視って、一体何を?ここは普通の公園で、何かあるにしてもどこにでもある遊具と子供くらいしか……)
そこまで考えて、思考が止まった。
何か、違和感を感じる。
小さいけれど、見方を変えるだけで大きくその意味を変えるような。
絶対に見逃してはいけないような、僅かな違和感を。
それの正体はまだ分からない。
だから、今述べた自分の言葉を一つ一つ振り返る。
ここに、監視する様なモノは何もない。
あるとしても、どこにでもあるような遊具、そして。
どこにでもいるような、子供達が来るだけだ。
184 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 23:53:33.63 ID:ppy8TkC1O
上条「…………まさ、か」
呆然と呟く上条。
体は強張っていて、少しも動くことはない。
だが、思考は止まらない。
もし先程の海魔を放った術者の目的がこの公園の、「この公園に訪れる子供達の監視」だとしたら?
そもそも、上条は何故単独でアインツベルンの城を抜け出した?
無関係の子供達を襲うキャスターを倒す為だった筈だ。
つまり、この海魔の術者とは。
上条「キャスター……ッ!!!」
その声は驚愕よりも、怒りに包まれていた。
この公園に最初に訪れた時、上条はキャスターが居ない事からまず確認した。しかし、考えてみればキャスター本人が子供達を攫う必要など、何処にもないのだ。
自らの使い魔を放っておいて、標的が来たら勝手に襲わせてしまえば良いだけのこと。
そんな簡単な事にも気づけなかった自分に腹が立つ。
185 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/23(火) 23:57:49.83 ID:ppy8TkC1O
怒りで歯を噛みしめる上条の視線が、ある物を捉える。
それは、自分の左手に嵌めたままのグローブ。
誰かが忘れたのだろうと先ほど借りたモノだ。
しかし、本来の持ち主は今何処に行ったのだろうか?
本当に忘れただけなのだろうか?
もしかしたら、この持ち主達も。
などと良くない想像ばかりしてしまう。
上条(こんな所に長居する訳にはいかねぇ…ッ!)
焦りが上条の胸中に広がる。
今上条は一人ではない、桜の身を危険にさらす訳にはいかないのだ。
素早く茂みから抜け出し、公園の中心へと向かう。
他にも海魔が居ないか、茂みを見つめ、後ろ向きに歩きながら声を掛ける。
上条「桜!もう帰るぞ、ここに長居してると危ない!」
そんなことを言いながら茂みから目を外し、桜が居た場所へと振り返る上条。
するとそこには、
誰も、居なかった。
186 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/24(水) 00:01:53.81 ID:uWcEG3GtO
上条「さく、ら………?」
もう一度声を出す。
しかし、少女は現れない。
上条「おい…桜!!!何処にいるんだ!?」
声を荒げる。
それでも、結果は変わらない。
視線を巡らすが、依然として人っ子一人いない公園があるだけだった。
何処か別の場所で遊んでいるかもしれない、もう一人で家に帰ったのかもしれない。
そんな楽観的な考えも一瞬浮かぶ。
しかし、そんな訳がない。
あれほど大人しい少女が上条に何も言わずに何処かへ消えてしまうなど、考えにくい。
さらに言うならば。
キャスターの海魔が一匹しかいないと、誰が言った?
つまり。
上条「ち、くしょう……ッッッ!!!」
間桐桜は、キャスターの海魔によって攫われた。
そして上条当麻は、それを止める事が出来なかった。
ただ、そんな事実だけが残っていた。
上条「桜ァああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」
その声に応える者は、もう居ない。
そんな上条を嘲笑うかのように、風に揺れたブランコがギィイ、と錆びた音を立てた。
187 :
◆qYcHZpJYdQ
:2018/10/24(水) 00:06:09.26 ID:uWcEG3GtO
今日はここまでです。
サーバーが落ちたのもあり、本当に更新に時間がかかってしまいましたが、引き続き見ていただいてくれてる方には本当に感謝しかないです。
今回の分は本当に展開で迷いましたが、こんな形になりました。楽しんで頂ければ幸いです。
また更新していきたいと思うので、その時も是非見に来てください。
ありがとうございました。
188 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/10/24(水) 00:58:19.44 ID:adcWnv8Lo
おつなーの
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/10/24(水) 01:21:28.11 ID:o2ux5iAB0
乙
190 :
◆qYcHZpJYdQ
:2018/10/29(月) 17:57:24.64 ID:xccUK9H4O
今夜少し書き込みます。よろしくお願いします。
191 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/29(月) 23:54:55.41 ID:3pZglRt60
ーーーアインツベルン城
上条が城を離れてから数時間後。
招かれざる客が、この城には居た。
ケイネス「………」
その男、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは瓦礫の上に一人佇んでいた。
そこはアインツベルン城の大広間だった場所。今では見る影もなく、無残な破壊跡が残っているだけの空間と化している。
ランサー「マスター」
そこに、音も無く一人の男が現れる。
ケイネスに仕えるサーヴァント、ランサーが霊体化を解き、主人の前へと参上したのだ。
ランサー「城の内部、周辺の捜索を行いましたが、上条当麻及びそのマスターの姿はありませんでした」
192 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/30(火) 00:01:21.63 ID:0C3RUet00
ケイネス「………鼠風情が。逃げ足だけは速いようだな」
そんなランサーの報告に怒りを含めながらそう返答するケイネス。
数時間前、ケイネス達の工房はホテルごと破壊された。自らの礼装で身を守ったケイネスだったが、そのような行為をされて黙っている男ではない。
襲撃者を使い魔によって追跡し、報復としてこの郊外の城ごと逃げ込んだであろう敵を叩き潰そうと目論んで訪れたケイネスだったが、そこに標的となる者達は既にいなかった。
最初はどこかに忍んでいるのかと考え、城の中を破壊しながら捜索を行ったが、ランサーの報告からある事実が浮かび上がる。
ケイネス「城を捨てて逃げた、ということか」
ランサー「十中八九そうでしょう。しかし、気になることが一つあります」
そう言ってランサーは続ける。
ランサー「自らの拠点を放棄してまで逃走に徹した点ではありません。逃走を始めたタイミング、それが速すぎるということです」
ケイネス「…続けろ」
ランサーの発言に思う所があったのか、ケイネスは話を促した。
ランサー「はい。もし敵が探知の魔術などを使っていたとしてもその範囲は精々この森一帯が限界。しかし、我々がこの森に踏み込んでから城を出た者は誰一人いません。それはマスターの使い魔の監視からも明らかです」
ケイネスは敵を確実に逃さぬよう森の外周には予め使い魔を放っていた。それに反応がなかったからこそ、敵は城内にいると考え、城に踏み込んだのである。
193 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/30(火) 00:11:36.77 ID:0C3RUet00
ランサー「ここから考えられるのは二つ。元々この城は敵の拠点ではないダミーの隠れ蓑だった。もしくは」
ケイネス「何らかの理由で本命の拠点であった城を放棄した後だった、ということか」
ランサー「その通りです、マスター」
ふむ、と顎に手を当てしばらくの間思考に耽るケイネス。
この二つの違いは大きい。
前者であればケイネス達は敵の策略に嵌められた、ということになり今の状況はケイネス達にとって不利、ということになる。
つまり、この二つの見極めは現時点での状況を把握するために、必須なことなのだ。
傍にいるランサーは、己が主人が結論を出すのを見守っていた。
そして足元に視線を向けたまま、
ケイネス「前者…つまりこの城がダミーだった、という可能性は考えにくいな」
と、結論づけた。
194 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/30(火) 00:13:11.33 ID:0C3RUet00
ランサー「と、いいますと?」
そんな風に尋ねる自分のサーヴァントに思考を整理しながらケイネスは続ける。
ケイネス「理由はいくつかある」
そう言いながらケイネスは無残な姿となった大広間に目を向ける。
その破壊は何もケイネスが全て行った訳ではない。敵が予め仕掛けていったのであろう罠が行ったものも含まれている。そのどれもが不意打ちを狙い、ある程度の脅威を持ったものではあった。が、
ケイネス「迎撃を目的とした罠だろう。しかし、あまりにもお粗末過ぎる。もしこの城がダミーだとするなら一体どのような罠が最も効果的か?私ならこの周囲一帯を吹き飛ばす魔術礼装を仕掛けるくらいはするだろうな」
そして、ケイネスは違和感の正体を浮き彫りにしていく。
一つ一つ、絡まった糸を解いていくように。
ケイネス「奴はそれをしなかった。何故か?それはこの城こそが奴らの本命とする拠点だったからだろう。拠点を巻き添えにするような破壊をもたらす罠など仕掛けては本末転倒だ。奴らの基盤が一気に揺らぐことになるからな。もし、私が現れるような事があれば最低限の罠を活かしつつ、生意気にも直接私との決着を着ける腹だったのかもしれん」
195 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/30(火) 00:15:30.98 ID:0C3RUet00
つまり、とケイネスは続ける。
ケイネス「この城が私達を貶めるダミーの拠点だったとして、余りにも手ぬるい。敵の前にさえ現れず、ビルごと吹き飛ばすような人間だ。こんな手の抜いた罠など仕掛けまい。つまり、ここはそういった目的を持つ場所ではないということだ」
ランサー「…なるほど、理に適っています」
ケイネス「それだけではない」
感心するランサーをよそにケイネスは話を続ける。
推測を、確信へと変えるために。
ケイネス「探知の魔術がこの森一帯に仕掛けてあるが、もしこの城が現れた敵対者に向けた罠だった場合、そこまで広い範囲を探知する必要はない。せいぜい城の内部に踏み込んだものを感知する程度で十分だ、その方が精度も上がり、敵対者に余計な警戒を抱かせずに済むからな」
そして、ケイネス一つの仮説から一つの考えを導き出す。
ケイネス「この一帯の森に探知の魔術があるということは、この森を出入りする者を逐一警戒する必要があった、ということだ。つまり、ここが本命の拠点だということに他ならん。臆病者である程安心を求め、過剰な警戒を行うものだからな」
196 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/30(火) 01:56:19.59 ID:0C3RUet00
ふん、と鼻で笑いながらケイネスはそう言った。
しかし、話はここで終わらない。
ここが敵対者を貶めるダミーの拠点でない場合、もう一つの可能性について考える必要がある。
ランサー「ならばこの城は私達が来る前に放棄された、ということになるのでしょうか?」
ケイネス「そう考える他ない、が……」
真剣な面持ちで問いかけるランサーにケイネスは複雑な表情を浮かべながら、
ケイネス「本命の拠点を放棄するほどの事態とは、一体何だ……?」
答える者などいない問いを、一人呟いていた。
197 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/30(火) 02:04:02.04 ID:0C3RUet00
ーーー新都某所
そこは、暗いビルの一室だった。
電灯は付いていない、しかしその部屋はある光によってぼんやりと照らされている。
その光源は、部屋の壁に取り付けられている大量のモニターであった。
とはいっても、正常な映像を写しているのはそのモニターの内半分もない。
大半のモニターはノイズ音を撒き散らしているだけだった。
その部屋に無表情で佇む男、衛宮切嗣は大量にあるモニターの内の一つに目を向けていた。
切嗣「…………」
そのモニターに映るのは、とある場所での映像。
つい数刻程前のアインツベルン城を映し出していた。
その映像に映っているのは、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。
切嗣が工房ごと仕留めた筈の魔術師だった。
切嗣(……なるほど。半自動的に発動する水銀を媒介とした魔術礼装、か。攻撃だけでなく防御、索敵まで行えるとはな)
ビルの崩落から逃れる事は難しいと考えていたが、これ程の礼装があれば納得だ。
並みの魔術師では、あの礼装を突破することさえ難しいだろう。
198 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/30(火) 02:04:41.07 ID:0C3RUet00
切嗣(だが、僕にとっては好都合だ)
そして切嗣はモニターの電源を切り、懐に忍ばせていた通信機器に手を伸ばす。
切嗣「舞弥、そちらはどうだ?」
そう言うと、しばらくして返答が返ってくる。
舞弥「問題ありません。他のマスターに気づかれている様子もありません」
切嗣「了解した。もう伝えているが、ここから先は下手な行動は一層禁物だ。お前には援護を任せていたが、ここから先はそうもいかない。アイリの事は任せた」
舞弥「はい、あなたも気をつけて。切嗣」
その言葉を最後に、通信は途切れる。
今現在、切嗣、舞弥とアイリは別行動を取っていた。理由は一つ。
上条当麻の離反だ。
昨晩の会合のあと、アインツベルン城に上条当麻の姿はなかった。理由はいくつか考えられたが、サーヴァントが消えたと言う事態に対する対処をする方が優先された。
そして切嗣達はアインツベルン城を即座に離れる事とした。
索敵としての魔術などを仕掛けていたが、上条当麻が消えた以上、侵入するサーヴァントに対抗する策はない。ならばここから先の戦いは切嗣一人で戦わなければならない。
そう考えての行動だ。
199 :
◆qYcHZpJYdQ
[saga]:2018/10/30(火) 02:05:23.37 ID:0C3RUet00
それが決まってからアイリは舞弥に任せた。だが、先程の会話にもあったが彼女ではサーヴァントを倒せない。そのために隠密行動を義務付けている。
上条当麻を呼び戻すには、令呪を使う手もあった。
しかし、奴がアインツベルン城を離れた理由は何となく目星がついている。
おそらく、昨晩話したキャスターについてだろう。
その問題が解決しない限り、何度令呪を使おうと逃れられる可能性が高い。
そうなっては令呪の無駄になる。
ならばキャスターを追う上条を狙った他の陣営を狙う他ない、そう考えた切嗣の手の甲にはまだ三画の令呪が残っていた。
切嗣(全く…厄介なサーヴァントを引いたものだ)
上条との繋がりは随分と希薄なのか、どこに居るのか把握することが出来ない。ぼんやりと方向くらいは分かるが、その距離などはさっぱりだ。
ダメ元で自らの令呪に少し、意識を向ける。
すると三時の方角、丁度冬木の街を見渡すことの出来る窓枠がある方から自らのサーヴァントの気配を感じていた。
その先にいる男が何をしているのか。
それを問うかのように、切嗣は窓の外にある風景を睨んでいた。
200 :
◆qYcHZpJYdQ
:2018/10/30(火) 02:36:20.67 ID:0C3RUet00
今日はここまでです。ありがとうございました。
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