【ミリマス】彼女は最後まで駆除したい

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1 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga sage]:2018/06/17(日) 11:34:26.72 ID:7ZeMEN950
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十三歳の箱崎星梨花は、765プロのアイドルとして活動をしている一方で、
アジリティのハンドラーを特技にしている少女だった。

アジリティとは、簡単に説明すると犬の障害物競争で、
ハンドラーとは、競技を行うワンちゃんに的確な指示を出す役目を持つ人間のことだ。

当然、良い成績を出すためには一人と一匹の信頼関係が重要で。
それは普段の接し方、愛情の掛け方でも顕著な違いが表れる。

まるで機械のように正確に、飼い主の指示に寸分違わず従うよう徹底的な調教を行う者もいれば、
星梨花のように愛犬とお友達感覚で付き合う者もいるだろう。

ハンドラーは特技であってプロではない。

彼女にとってこの"遊び"は、愛犬ジュニオールとの一種のコミュニケーションツールなのだ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1529202866
2 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/06/17(日) 11:36:33.93 ID:7ZeMEN950

「ステイ、ジュニオール!」

箱崎家の広い浴室に指示を出す星梨花の声が響く。

シャワーノズルから噴き出るお湯がタイルをうち、室内にもうもうと湯気を立ち込める中、
ジュニオールはその場にお尻を置いたいわゆるお座りの格好のまま動きを止めた。

桜色の両膝で体を支えるようにして屈みこんだ星梨花は、
シャワーの水温を確認しながら、自分を見上げる瞳に偉いねと応えるように微笑み返す。


ジュニオールは生まれてこのかたボーダーコリー。

その黒と白に分けられる全身の体毛は、星梨花が行う日頃のブラッシングによって
いつでもほわほわとした触り心地を保っていた。

トレードマークである真っ赤なスカーフを首に巻き、
颯爽と庭を走れば風になびいて揺れる毛並みは見事な物。
3 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/06/17(日) 11:39:29.63 ID:7ZeMEN950

が、しかし。

最近どうも様子がおかしい。

星梨花が見ているその前で、しきりに耳元や首の周りを引っかいたり、
前足をペロペロガジガジしたり、落ち着きなくソワソワウロウロしてみたり。

……その不思議な踊りを披露され、星梨花はまさか! と目を疑う。

そうして半信半疑のまま愛犬の体を調べると――いたのである。

何が? ノミが。

犬の血を吸うにっくきぴょんぴょこあん畜生が一つの集落を築いていた。

キチンときれいにしてたのに!

にわかには信じられないことだったが、見つけてしまってはしょうがない。

「ノミ取り用のシャンプーを一つ下さい」そう星梨花がお小遣いを手に握って、
ペットショップに駆け込んだのは言うまでもない。


ついでに人の良い彼女は、店員に勧められるまま
ノミ駆除に効果があるという首輪だの何だのも買わされたが。

店側は商品の在庫がはけてニッコリ。
星梨花もこれだけあればと期待してニッコリ。

両者共々に万々歳、少しの間ジュニオールのおやつのランクが下がっても、
そんなものは些細な幸せのしわ寄せである。
4 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/06/17(日) 11:41:34.77 ID:7ZeMEN950

とにかく戦いの準備は整った。
後は飼い主の自分が頑張るだけだ。

星梨花はとろみのついた犬用シャンプーを手の平の上に広げたなら、それをくちゅくちゅさせて泡立てると、
シャワーを浴びせたジュニオールの体に両手でしっかり擦りつける。

だが、欲張り過ぎては効果も薄い。

手っ取り早く済ませるなら全身を一度に洗ってしまいたいが、なるべく体の先端から
(つまり、顔や手足と尻尾である)背中や首に向かって獲物を追い込む形で泡の面積を広げていく。

その途中で掻き分ける毛の茂みに、見つけたノミさんこんにちわ。

シャンプーの力で動きを止めた小さなこの不法住人を、
星梨花は用意していた櫛を使って掬い取ると。

「よいしょ」

次いで、熱湯で満たした洗面器のお風呂にご招待。

湯船に浮かぶ様を目の端に、箱崎トレイントラベルツアーは続々とお客をお風呂に運び込む。

いえいえお代は結構です。

アナタも是非、この機会に、天にも昇る夢心地になれる極楽温泉に浸かってみては?
5 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/06/17(日) 11:43:11.06 ID:7ZeMEN950

「荷物はーちょっとでいい、選ぶのーもっ楽しい♪」

歌を口ずさみながら小一時間を掛けて作業完了。

泡ぶくまみれの毛並みをしっかりとシャワーで洗い流し、ぶるるるるっと身を震わせ、
その場に水滴を撒き散らした愛犬を「もう!」と可愛らしく叱ったなら。

「おしまいだよ。ジュニオール」

頑張ったねと褒めてあげる。
ワン! と応えるジュニオール。

そうして星梨花は、自分の仕事の成果ともいえるノミだらけの洗面器を見下ろすと。

「そうだ!」

良い考えが閃いた。
そんな調子で手を合わせると浴室から一度外に出る。

突然姿を消したご主人にくぅーんとジュニオールが鳴いてしばらく、
戻って来た星梨花の手には一台のスマホが握られていた。
6 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/06/17(日) 11:45:11.09 ID:7ZeMEN950
===

「それでこれが、その時に撮った写真です! こんなに沢山いたんですよ?」と、
スマホの画面いっぱいに映し出されたノミ達の行水を誇らしげに掲げて星梨花は言った。

ショッキングと言えば余りにショッキングな写真を見せられて、

サンドイッチを食べていた双海亜美は思わずハムを喉に詰まらし、
隣に座る双海真美も紙パックの牛乳を取り落とす。


ここは、ご存知765プロライブ劇場内にある一室。

アイドル達からは「和室」と呼ばれて使われているこの広々としたリラクゼーションルームでは、
現在星梨花たち三人がお昼ご飯の真っ最中。

畳の上に置かれたこたつ台にお行儀悪く片肘をつき、
髪型以外は瓜二つな双子姉妹は天を仰ぐ。
7 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/06/17(日) 11:47:06.31 ID:7ZeMEN950

「うあうあ〜!? ご飯食べてるのにぃ!!」

「せりかっちは不意打ちにも程があるよ〜!?」

そうして嘆き悲しむ双子に対し、星梨花はちょこんと小首を傾げると。

「お二人とも、ノミはお嫌いなんですか? ……ヘビやカエルは平気なのに」

意外です! といった眼差しを向けてくる世間知らずなお嬢様に、
亜美がスマホをしまうよう手振りでパタパタお願いする。

その隣では、真美が落としたパック牛乳を拾い上げながら。

「好き嫌いの問題じゃ無いっしょ〜。急にウジャウジャしてるの見せられたらん――」

「流石の亜美たちもビビらされますぜ? お嬢」

「ホントホント。それにぃ、真美たちからすればせりかっちが平気なことのがびっくらぽん」

彼女がずぞぞぞぞっとストローを鳴らす。
亜美が二つ入りサンドイッチの二つ目へとその手を伸ばす。

星梨花はスマホを片付けると、代わりに食べかけのお弁当箱を持ち上げて。

「そうでしょうか?」さくり、とフォークでプチトマトを摘まみ上げた。
8 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/06/17(日) 11:48:44.07 ID:7ZeMEN950

「わたしみたいに犬を飼ってる人だったら、
見慣れてるまでは言わなくても、ある程度平気だと思いますよ」

そのある程度が洗面器に浮いたノミを写真に収めるレベルなのか……。

姉妹は無言で戦慄すると、ふと、どちらともなくこんな言葉を口にする。

「そう言えばさぁ」

「何々?」

「ノミって人にも移るのかな? この前の『ノミノミ・アタック!!』みたいに」

「お二人とも、それって一体何ですか?」

トマトをもごもごさせながら、星梨花が興味に目を光らせ訊いた。

ノミノミ・アタック!! それは姉妹が最近観たB級映画のタイトルだ。

休日、夜更かしをしていた二人が深夜の映画枠でたまたま視聴したもので、
内容は凶暴化したノミが人類を襲うパニックホラー。

だがしかし、映画の中にノミの姿は一切現れない。

ノミ軍団の侵攻状況は人類側の台詞によってのみ語られて、
襲われた俳優たちが突然「痒い痒い!」と悲鳴を上げながら体中を掻きむしり始める様はシュール。

それが登場する人間全てにドンドン広がっていくのである。

眠気でハイになっていた姉妹はお菓子を片手にゲラゲラ笑って楽しんだが、
後日見返した時にはその下らなさに渇いた笑いも漏れなかった。
9 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/06/17(日) 11:51:11.79 ID:7ZeMEN950

だが、今になって二人の記憶のゴミ箱からサルベージされたこの映画が、
一人の少女の知的好奇心を刺激して、日常におけるある疑問と答えを関連づける役目を果たしたのだ。

「つまり、ノミは人に移るんですね?」

そう言って星梨花は、納得しましたとでも言うように力強く頷いた。

この純真無垢な箱入りお嬢さんは時々双子の玩具になる。
映画の内容を説明した亜美が両手で自分の頭を抱え、

「せりかっちも見たことあるっしょ? よくひびきんが『うぎゃー』って!」
といった具合に大げさな同僚のモノマネを披露すれば。

「あれはね、ひびきんの髪にノミがいるからだよ」
と真美の方もその悪乗りに乗る形で衝撃の事実を星梨花へと突きつける。

すると人を疑うことを知らない彼女はハッと小さく息を呑み。

「してます! わたし見たことあります!!」

「ひびきんは、よくいぬ美を枕にしてるかんね」

「事あるごとに頭が痒くなるんですな〜」

「だから響さんは、あんなに頻繁に髪をかき上げて……」

「そうだそうだよせりかっち!」

「そうなのだ! いやはや全く気の毒に」

「知らなかった……。お二人ともノミに困っていただなんて」

そうして何か大きな決心をしたように、両手を胸の前で構えて見せる星梨花。
その反応に妙な違和感を覚えた姉妹は「ん?」と間抜けな声を上げると。
10 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/06/17(日) 11:52:33.91 ID:7ZeMEN950

「二人?」

「ひびきんと……誰さ?」

不思議そうに顔を見合わせた二人に星梨花が笑ってこう言った。

「誰って、プロデューサーさんですよ?」

彼女の言うプロデューサーさんとは、
すなわちアイドル事務所765プロのプロデューサーをしている男のことだった。

彼は日頃から多くのアイドルの世話をしつつ、双海姉妹の可愛い悪戯の餌食になってくれるような
気の良い普通のあんちゃんであり、星梨花よりもよほど玩具役が似合う男でもある。

そんな彼がなぜ、唐突に三人の会話の中に現れたのか?

それには少し込み入った事情の説明が要るだろう。
ついでに先ほどから頻出している、ひびきんなる人物の紹介も兼ねる話だ。
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