【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第二章【天華百剣】

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1 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 09:44:05.20 ID:dM7WlOBF0
提督「触ってねえよテキサスクローバーホールド極めるぞ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425908876/

【艦これ】武蔵がチャリで来た
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428585375/

加賀「乳首相撲です」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1429706128/

【艦これ】ウンコマン あるいは(提督がもたらす予期せぬ奇跡)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431856590/

時雨「流れ星に願い事」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464825792/

【艦これ】居酒屋たくちゃん〜提督のクソ長い夜〜
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1468896662/

磯風「蒸発した……?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1477871266/

【艦これ】加古ちゃん空を飛ぶ、めっちゃ長く飛ぶ、すごい
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1479816994/

鈴谷「うわ不思議の国こわい、キモい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484788439/

【艦これ】ヒトミとイヨの恰好がスケベなので
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1493211800/

【艦これ】ウキウキ!!首相の鎮守府訪問!!のようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1511697940/

時雨「静岡グレーゾーン連盟」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1518501606/


エンド・オブ・オオアライのようです ※連載中のコラボ作品(◆vVnRDWXUNzh3作)
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1514470893/


時系列順

川д川 ウホウホ!!鎮守府に颯爽と登場した貞子ゴリラ、トランスフォームウホ!! ←発端
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1494169295/

【艦これ】艦天って略すとカロリー低い食材みたい 第一章【天華百剣】←前作
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1520554882/


関連作品

【天華百剣】御華見衆の参羽鴉【ブーン系】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1517198071/


祝 天 華 百 剣 一 周 年(四月二十日)
菊一文字則宗初登場がリリース日の三週間足らずだったとこの前気づきました
イカれてんなと思いました


・提督の表記は『( T)』になっています。マスク超人です
・提督はドウェイン・ジョンソン並みのマッスルです
・ブーン系(AA)要素あります
・四部構成第二章になります
・デッドプール2大ヒット上映中(ノルマ達成)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1528764244
2 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 09:51:57.65 ID:dM7WlOBF0
前回までのあらすじ


筋肉がメイド服を纏った


登場人物


( T) 筋肉(マッスル)

そうさ100%乳首、もう感じるしかないさ


時雨

銘治に来て若干肥えた


夕立

そっと置かれたきゅうりにビビって泣いた(四回)


天龍

前の提督の机に深海棲艦の目玉詰めた袋ドンって置いたらマッ鎮送りにされた


秋雲

偽絵画の販売で億単位の荒稼ぎをしたのがバレてマッ鎮送りにされた


菊一文字則宗(巫剣)

何かの間違いでキチガイの巣窟に送り込まれた可哀想な人。抜き身の刀持ってた


銘治時代の人ら

なんかすごい恰好したヤバめの人ら
3 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 09:53:18.54 ID:dM7WlOBF0




「時雨ちゃんから聞いたんだけど乳首の感度を三千倍にする機械を常用してるってホント!!!!!????」デェエエエエエエエエエエエエエエン!!!!!!!!!!




( T)「……」


( T)「ッフー……」


三十路手前の男にする質問じゃねえって、目の前にいる夕張と明石足して二で割ったような性格の女の子にツッコむのが先か


時雨「グフッwwwwグッwwwww」


このアホをシバキ回すのが先か
4 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 09:54:36.98 ID:dM7WlOBF0




艦これ × 天華百剣


『艦天って略すとカロリー低い食材みたい』 第二章


『コカインと比べ八倍の中毒性と二倍の死亡率があるスーパーやコンビニでも手軽に買える白い粉ってなーんだ?』



5 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 09:55:57.83 ID:dM7WlOBF0
( T)「そんなもん常用してたら発作でいずれ死ぬぞ」ゴリゴリゴリゴリ

時雨「あだだだだだだだだだ!!」


よう、俺だ。引き続き銘治時代からお送りする。銘治時代って何だって人は前話参照だ。前話って何だ?
そしてこれは別に気に留めなくてもいい事だが、口を開く度にいらんことを言う白露型二番艦の米神を両こぶしで挟み込みゴリゴリすると気分が晴れる。試してみて欲しい


「性感帯にどう作用するの!?使ってる素材は!?作り方は!?使ってみた感想は!?」

七香「八宵!!いい加減にしなさいよ!!」

( T)「知らん、知らん、知らん、もう二度と使いたくない」ゴリゴリゴリゴリ

時雨「頭悪くなる!!頭悪くなるからああああああああ!!!!」


俺たちが居るのは超常の力を持つ巫剣と呼ばれる連中の拠点、めいじ館
その地下にある工房にお邪魔している。時雨の艤装はここに保管されているそうだ


八宵「ぶーぶー、つまんないのー」

七香「八宵!!」


唇をつまらなそうに尖らせたのが、この工房の主である『八宵』ちゃん。豚じゃないぞ
そして先ほどから不躾な態度にご立腹なのが、姉の『七香』ちゃんだ
この二人は主に巫剣の活動をサポートする裏方として働く、御華見衆の組員だ


七香「ごめんなさい提督さん。後でよく言って聞かせますんで……」

( T)「慣れてるから気にしないでいいよ」

八宵「じゃあ実験台になってくれる?ちょうど頑丈な生に……人材を探してたんだよねー」

( T)「生贄は慣れてないんだよなぁ……」


まさか異世界に来てまでクレイジーサイコエンジニアとエンカウントするとは思わなかった


時雨「いだい……いだいよぉ……」

( T)「生きてる証拠だ。嬉しいな?」

時雨「嬉しかないやい……」
6 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 09:57:37.93 ID:dM7WlOBF0
時雨の艤装及び装備は工房と隣接する倉庫に保管されていると聞き、確認に来たのだ
魔改造とかされてないだろうな?砲弾の代わりにビームとか撃ったりしないだろうな?


( T)「それで、艤装は?」

八宵「はいはーい。此方ですよっと」


慣れた手つきで倉庫の鍵を解除し、物々しい音を立てながらドアを開く
真っ先に目に飛び込んで来たのは、埃避けの布を被せた一メートル足らずの小山だ


八宵「この一か月間、生殺しだったんだよ〜?未来の装備を弄らせてもらえないなんてさぁ」

時雨「下手したらめいじ館吹っ飛ぶよ」

八宵「え〜?吹っ飛ばないよぉ。ねぇ提督さん?」

( T)「いや吹っ飛ぶ」

八宵「嘘だぁ」

七香「これからも絶対触らないでね」


布をとっぱらい、中を改める
機関部と二連主砲がメインの艤装に、五連装酸素魚雷が二門、補強増設として25mm連装機銃
そして近接戦闘用にウチの開発部(明石、夕張)が製造した特殊カーボン製のクナイ用ホルダーポーチ二つ


( T)「何度も聞くが本当に一発もぶっ放してねえよな?」

時雨「してないってば」


各ポーチ内にはクナイが六本。計十二本を持ち運ぶことが出来る
接近戦に置いては斬る、突く、そして投げるが可能の万能武器だ。急所に当たれば例え戦艦クラスでもぶっ殺せる
その内の一本を取り、倉庫内を照らすランタンに翳して刀身を確認する。血脂の付着は見当たらなかった
7 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 09:59:09.38 ID:dM7WlOBF0
( T)「……一本足りねえけど?」


二つ目のポーチ開けると、そこには五本しか入っていなかった


時雨「お探し物はこれかな?」


右腕を振るうと、洋風茶房『めいじ館』制服の袖口からクナイが一本飛び出し手の中に納まる
柄の後部にある穴に人差し指を突っ込むと、クルクルと回した


時雨「禍憑は神出鬼没だからね。備えあればって奴だよ」

( T)「殴ったら死ぬだろ……」

時雨「提督みたいな野蛮人と僕を一緒にしないで貰えるかな?」

八宵「……ん?今、禍憑に対して『殴ったら死ぬ』って言った?」

( T)「うん」

八宵「……」

七香「ダメ」

八宵「何も言ってないじゃん!!ちょーっと解剖させてもらえないかなーなんて思ってないし!!」

( T)「筋肉しか出て来ねえぞ」


禍憑。俺達の世界で言う『深海棲艦』に該当する敵対生物だ
そのクソの塊みてーなバケモノから人々の身を守るために、特殊機関『御華見衆』は日夜活動を続けている


八宵「気になるなぁ……禍憑は『巫魂』を宿した巫剣か、稜威能力でその力を分け与えられた巫剣使いにしか倒せないのに……」

( T)「筋肉に不可能はねえんだよ。勉強になったな?」

八宵「いや、何の勉強にもならないし、参考にもならない」

( T)「……?」キョトン

八宵「きょとんとしてもわかんないから。筋肉あっても出来ないものは出来ないから」


彼女は何を言っているのだろうか。筋肉に出来ない事はないってのは、生命誕生から定められた唯一無二の絶対だと言うのに
8 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 10:01:45.88 ID:dM7WlOBF0
( T)「燃料、弾薬共に満タンだな。特に異常も欠損もない」


確認を済ませ、再び布を掛ける。使わないに越したことは無い。ここ陸だし


八宵「折角だし、発明品見る?」

七香「コラ、提督さんもお忙しいんだから」

( T)「いや、ソボロ先生とやらが来るのは昼前だから結構時間はある」

七香「……絶対、長くなりますよ?」

( T)「そん時はそん時さ」


八宵の主な仕事は、巫剣の戦闘を補助する道具の開発や装備品の点検、修理だと聞いた
その仕事がどんなものかは気になるし、何より青葉に土産話を持って帰らないと後が色々と恐い。殺されてまう……


八宵「じゃあじゃあ、先ずはこれ!!巫剣を飛ばす用の大砲なんだけど」

( T)「『先ず』で既にヤバ……時雨何処行った?」

七香「真っ先に上に戻られましたよ。私も事務作業があるのでこれで失礼します」


七香は一礼をして、そして何か可哀想な物を見る目で一瞥し、上の階へと戻っていった


八宵「提督さん、聞いてる?で、これが巫魂を燃料にして走る自動馬車で、そしてこっちが……」

( T)「あ、うん」


俺は判断を間違ったのかもしれない。その想いが確信に変わったのは、八宵の話が終わった昼過ぎ頃であった
9 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 10:04:19.84 ID:dM7WlOBF0
―――――
―――



「お……おっちゃん、なんでメイド服着てんのや……?」


( T)「おっちゃんにもわからん」


工房から解放された俺が次に向かったのはめいじ館二階にある『サロン』だ
そこで御華見衆や巫剣、禍憑についての講座を行うと抜丸から聞いた
で、到着目前の廊下でバッタリ会った勾玉の髪飾りが可愛らしいちんちくりんのお嬢ちゃんに、俺自身が一番知りたい事を聞かれたのだ
https://tenkahyakken.jp/character/?page=66


「んー……あ、わかったで!!おかーちゃんと一緒で趣味なんやろ!!」

( T)「違う」

「じゃあなんでそんな格好してんねん!!常識無いんちゃうんか!!」

( T)「俺もそう思う」


だって仕方ないじゃん朝飯食ってすぐ工房向かって着替える時間無かったし
そもそも俺が着れる男性服が見つからなかったって話だし
そりゃそうだよな若旦那の普段着なんて俺からしてみれば子供服みたいなもんだしな
だからってなんで俺のサイズに合うメイド服はあるんだよ呪われてんのかこの時代はいや呪われてんのは人か?


( T)「キミのおかーちゃんもメイド服着てんのか……?」

「そーやないけど、いつもボロボロの羽織着とるで」

( T)「趣味で?」

「せやで」

( T)「さよけ……ああ、もしかしてあの人か?」
10 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:17:34.26 ID:dM7WlOBF0
階段を上がって来たのは、お嬢ちゃんと同じく勾玉の髪飾りを付けたコケティッシュなメガネ美女だ
確かにズタボロボンボンな羽織を着用しているが、それより先に突っ込むべきは体のラインがモロに浮き出たチャイナドレスみてーな服装だろう
https://tenkahyakken.jp/character/?page=65


「……?」


近づいてきたメガネ美女は俺の恰好をまじまじと見つめると、アンダーフレームのメガネを布で拭き


「……?」


そして改めてもう一度、上から下まで確認し


「……その格好は、ご趣味で?」


娘と似たような質問をした


( T)「……オーケー、よし、説明は面倒だが違うとだけ言っておこう。ソボロ先生で間違いないか?」

「はい、ソボロ助廣と申します」

「ウチは津田越前守助廣やで。長いからつーちゃんでええよおっちゃん」

( T)「マッスりゅ……マッスルだ。噛んでないぞ」

津田越前守助廣「噛んだやろ」

ソボロ助廣「噛みましたね」

( T)「噛んでない」
11 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:18:43.10 ID:dM7WlOBF0
―――――
―――



秋雲「エロい」

天龍「エロいな」


ソボロ先生の恰好を見た連中の第一声がこれだった。こいつら香取と鹿島の時も同じこと言ったぞ


夕立「て、てーとくさん……」ボソッ

( T)「なんだ何が怖いんだ?」

夕立「恥ずかしげもなくあの恰好する事実……」ボソリヤン

( T)「お前が一番失礼だし、それ俺に対してもダメージあるからな?」

夕立「ンッ、ンフフ」

( T)「なにわろてんねん」

時雨「お茶だよ」ドバァン!!

( T)「ドアを蹴り開けんな」

津田越前守助廣「時雨ねーちゃんは相変わらずやな」


ソファーと丸テーブルが並ぶサロンに時雨が運んできた珈琲の匂いが漂う
窓の外からは銘治の街並みが一望出来る。文明開化を迎えたとは言え、どことなく江戸の情緒が残されているように思えた
そして服はサッと着替えてきました。サービスシーン終了だ涙拭いてパンツ穿け


時雨「あと客」

(*゚ー゚)「どうも」

城和泉正宗「客はアンタ達でしょ全く……」


若旦那こと、巫剣使いの『椎名 美琴』とその愛刀『城和泉正宗』
一見すると美少女が二人並び立っているように見えるが、若旦那はれっきとした男だ
12 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:20:58.09 ID:dM7WlOBF0
ソボロ助廣「巫剣と巫剣使いとの関係を説明するにはうってつけですので。菊一文字さんからある程度のご説明は?」

( T)「なんか巫剣の力を引き出すい……い……筋力がどうのこうの……」

ソボロ助廣「筋……力ではありませんが、大方説明は受けているようですね」

津田越前守助廣「先っちょまで出ててなんでそうなるねん。稜威(いつ)能力やろ」

天龍「スマンこういう奴なんだ。大方は理解してるからその体で話してくれて良い」

ソボロ助廣「では始めましょうか。それでは先ず―――――」



【授業内容】


https://tenkahyakken.jp/about/?page=word


【小難しいのは公式に任せよう】



ソボロ助廣「……おわかりいただけましたか?」

( T)「うん……?」

夕立「うん……?」

時雨「スヤァ……」

天龍「大体は」

秋雲「この世界の設定面白いわぁ……」

ソボロ助廣「天龍さんと秋雲さんがご理解頂けたなら大丈夫でしょう」
13 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:23:34.41 ID:dM7WlOBF0
( T)「なんか難しい話だったんだけど、まぁざっくり言えば『凶禍』とかいう悪の根源みたいなのが禍憑の元になる『禍魂』を生んで」

( T)「その禍魂ってのを祓えるのが『巫魂』を持つ『巫剣』。で、その力を全開まで引き出す為に『稜威能力』を持つ『巫剣使い』と『鞘入れ』っつー契約を交わす」

( T)「そんでなんか巫魂ってのは火ぃ吹かせたりビーム撃ったりできるなんか恐いやつ」

城和泉正宗「ちゃんと理解してるじゃない。これの主とは思えないわね」パシッ

時雨「スヤァ……」

( T)「教え方が良い。流石は先生だ」

ソボロ助廣「フフ、恐縮です。巫魂や稜威能力については後程訓練場にて椎名さんと城和泉さんに実践してもらうとして……」


先生は懐から桃色の巾着を取り出し、中身をテーブルに開けた


ソボロ助廣「ここからが本題です」

秋雲「なにこの汚いの?」


パッと見、大きめの瓶の破片に見える。ゴミと言われても疑いはしない物だ


ソボロ助廣「時雨さんをこの世界に呼び込んだとされる『禍要柱特異種』の破片です」

( T)「京都支部に調査依頼出してたって代物か」

ソボロ助廣「はい。京都支部には数多くの文献を抱える図書館がありますので、過去に似たような事件が無いか調べておりました」

( T)「それで?」

ソボロ助廣「めいじ館……御華見衆上野支部が設けられる前、富士見支部周辺にて似たような禍要柱の発見報告が一つ」

(*;゚ー゚)「結構近いですね……」

天龍「そん時は誰が送られてきたんだ?」

ソボロ助廣「ええと確か……剛強無双の肉体を持つ、『マッスルの神』を名乗る人物だったとか」

( T)「……」
14 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:24:28.98 ID:dM7WlOBF0



             彡⌒ ミ
            (´・_ゝ<`)  デミッ☆    
            / `ニニ´彳 `` ー 、
        _,ノ´、,  ,..>、リ,. -- 、. ヽ--、
        /     ̄´   {-_,.  -、 、,'  ヽ
      /   〃,..     'r  _,.. 、}>、.. r-{.
     /、  _,..イ´      ト. ´   i  ´   }
     /  ゙ー'´ }ヘ     _,..ノヘ`ー- ...ィ! ',  ハ {
    ,' ,'     リヾニ=ニ´ ,. ‐'' h ー 、 ハ リ  ノ}
   ,'八  ,  / \ミヽ、ヽ.   |!  } 彡N  ', ハ
   }  (.,/    ∨ ヽ('' ´`` /´`'!,∨ ! ,.'  i
   ,ハ',  ii      {   入__ _ノ.__,ノ |  ∨  ,{
   i : v リ     /、  {   ゚ ´,| |   |,   }
   { Y, ,'    ィ‐‐-ミ、_`',      リ }   ,'   ヽ
    iヽ !   ,' :   ハ`ヽ、..__,/-',〉-‐‐y    ,}
    }. ∨   ./ ノ  /  ∨' ,.  _,./ !  `''"i ', {ノ'′
    ',  `ヽ_,..{,'  ノ   i   /´ 、  ヽ、.__ ,〉 ト,)
    ',  r‐ヤ  '     人ノ    >‐‐イ / ` }
    ヽ、∨       /`ヽ、 /   ハ , /
      y' ,'     ; /     `{   ,/-‐ /
      i      i'    /' ,/  ,.. ´
        i       ,リ   /-'" ,. '´



( T)「……」


津田越前守助廣「どないしたん急に頭抱えて」

( T)「いや、なんか俺も最近見たことがある気がして……」

天龍「頭大丈夫か」

( T)「ダメかもしんない」
15 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:26:00.54 ID:dM7WlOBF0
ソボロ助廣「禍要柱は通常、霊脈から力を吸い出し禍憑や禍魂へと還元する機能を有しています」

城和泉正宗「私達にとっては最優先で破壊すべき対象ね。特異種はどう違うの?」

ソボロ助廣「特異種には禍憑を出現させる機能はありません。その代わりに異空間と繋がっていた痕跡が残されていました」

ソボロ助廣「研究班によると、禍憑を転送する回路のようなものが何かの拍子に異空間に接続された不良品のようなものであると」

( T)「それがウチの鎮守府……クソ貞子の呪いパワー的な何かと合致したってか」

秋雲「その不良の原因とやらまではわかんないの?」

ソボロ助廣「そこまでは掴めませんでしたが……この不良は禍憑側の脅威となる可能性もある為、彼方にとっても破壊対象になるそうですね」

天龍「それで俺らが現れた瞬間に禍憑が湧いたって事か……お気の毒にな」

(*゚ー゚)「では、艦娘の皆さんやまっするさんが禍憑を倒せた理由は?」

( T)「そりゃお前、筋力だよ」

城和泉正宗「話を聞かないのは貴方譲りなのね……」ペシッ

時雨「スヤァ……!!」


さっきからちょくちょく私怨を発散してる気がしてならない


ソボロ助廣「そこも不明ですね……時雨さんを始めをした艦娘は元々『深海棲艦』という禍憑に似た外敵を倒せるという事で一応の説明は出来ますが……」

( T)「筋肉だって」

ソボロ助廣「単純な力だけでは禍憑は打ち破れません。もっと別の理由があると思うのですが……」


こいつら頑なに筋肉の可能性を信じようとしないな


(*゚ー゚)「『提督』さんは艦娘を指揮する立場にあるのですよね?でしたら、僕らと同じように『稜威』に似たような力があるのでは?」

( T)「条件さえ満たせばクソ野郎ですらその地位に立てる。散々見てきたぜ?権力に胡坐かいて本人の能力はカスだったっつー事例は」
16 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:27:20.71 ID:dM7WlOBF0
秋雲「でもまぁ、それを差し引いてもウチのアレは常人離れしてるから、あながち筋力ってのもちゃんとした理由にはなってるかもねぇ」

( T)「ほらやっぱり筋肉じゃん。秋雲良い事言ったよ」

秋雲「てかそれを理由にしなきゃ話が進まないし」

ソボロ助廣「では筋力と言う事にしておきましょうか」

( T)「ちゃんとした理由があるもん……鍛えた肉体は概念すら捻り潰すんだもん……」

津田越前守助廣「おっちゃん、向こうでもこんな感じなんか……?」

( T)「概ね……」

津田越前守助廣「見た目とは違って尻に敷かれるタイプなんやな……」

( T)「外来語ガバガバかよ」

夕立「スヤァ……」

城和泉正宗「ちょっと、この子も寝始めたわよ!!」

天龍「ほっとけ。そもそも、そこの二人に難しい話は無理だ」

秋雲「ウチの白露型は戦闘全振りだから」

( T)「そんで……肝心の『元の世界に戻る方法』もわかってないのか?」

ソボロ助廣「その件に関しては単純に、特異種を見つけ出せば良いと」

天龍「つまり、異空間に繋がった不良品の禍要柱を、だろ?それが俺らの世界と繋がってる保証はねーじゃん」

( T)「おいおい天龍忘れたのか?この大人数で来た理由を」

天龍「あ、そっか。神隠しさえ起こせば向こうで貞子がサーチして引っ張ってくれんのか死ね」

( T)「何で死ねって言った?」

天龍「なんとなくムカついたから」

( T)「喧嘩か?お?やるか?」
17 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:28:48.96 ID:dM7WlOBF0
ソボロ助廣「この破片もお渡ししておきます。これを持った状態で転送されることで異空間に干渉し、元の世界に接続されるのだとか」

秋雲「食べないでよオッサン」

( T)「オッサンってな、なんでも口に入れる幼児に付けられる総称じゃないんだぜ?」


破片を巾着に仕舞い、ズボンのポケットに突っ込む
元の世界に帰る方法は一応わかったものの、必要な『特異種』とやらが今まで見つかっていないのが歯がゆい


ソボロ助廣「以上が、京都支部での調査結果です。お役に立ちましたでしょうか?」

( T)「勿論。ご協力感謝する」

ソボロ助廣「こう言うのも少々不謹慎かもしれませんが、銘治の世界を楽しんで頂ければ幸いです」

( T)「ああ、勿論そうさせて貰うよ」

(*゚ー゚)「では、訓練場へ……」


若の言葉は、ノックの音にかき消された


長曾根虎徹「邪魔して悪いな、禍憑の目撃情報が入った。ちゃっちゃと撃退するぞ」

(*゚ー゚)「はいっ!!」

城和泉正宗「了解!!」

長曾根虎徹「あー、それとアンタらにも現場に出て貰う」

( T)「俺らもか?」

長曾根虎徹「母上殿からのお達しでな。終わったら街を案内しろってよ」

天龍「よっしゃあ!!こういうのを待ってたんだよ!!」

秋雲「頑張って天龍ちゃん!!」

天龍「おめーも頑張んだよ!!」
18 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:29:48.79 ID:dM7WlOBF0
( T)「ほれ起きろ。街行くってよ」ペシペシ

時雨「うーん……Wi-Fi設置してよ……」

夕立「ひ、轢かれた猫ちゃん……」

( T)「どんな夢見てたらそんな寝ぼけ方すんだよ」


若と城和泉は既に足早に部屋を出て、天龍と秋雲もそれに続く
俺らの世界で言う所の深海棲艦の発生と同義なのだろう。迅速は徹底せねばなるまい
にも拘わらず居眠りぶっこいた白露型はこの体たらくだ。お前ら一応軍属だろ


( T)「もういいや運んでいこう」

時雨「禍憑とか知らないよ……もう……」

夕立「夕立、お外行きたくない……」

長曾根虎徹「まるで犬猫だな」


しゃっきり目を覚まさないので両脇に抱え上げることにした


( T)「じゃあ行ってくる」

津田越前守助廣「なんやねんこの絵面」

( T)「割といつもの光景」

ソボロ助廣「実戦に勝る経験はありませんが、十分にお気を付けくださいね」

( T)「おう、勉強させて貰ってくる」

長曾根虎徹「よし、そんじゃあ急ぐぞ。いずみーにどやされる前にな」


そいつは恐ろしい


時雨「スヤ……」

夕立「スヤァ……」


いやもういっそどやされた方が良いかもしれない
19 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:37:11.71 ID:dM7WlOBF0
―――――
―――



今で言う所の新宿歌舞伎町、歓楽街の外れ。スラム街を彷彿とさせる寂びれた長屋横丁があった


天龍「愉快な場所じゃあねえな……」


天龍の言う通り、衛生的にも治安的にもあまりよろしいとは言いづらい場所だ
ゲロと生ごみの臭いがうっすらと鼻につき、往来では浮浪者と思わしきオッサンがブツブツ言いながら地面を弄ってる
そしてこの通りに入ってから三回くらいチンピラの集団に絡まれた(半殺しにした)


(*;゚ー゚)「まっするさん、あの、助けてくれるのはありがたいのですが……出来れば穏便に済ませて貰えませんか?」

( T)「殺してないだけ穏便に済ませてやってる」

時雨「今日は優しいね提督」

城和泉正宗「ひ、人のお尻に木の棒を突っ込んどいて優しい……?」

( T)「つい」

城和泉正宗「つい!?」

長曾根虎徹「一応確認しとくが、こいつら犯罪者集団じゃないよな菊?」

菊一文字則宗「返答に困りますね。この場合どう返すのが正解ですか、提督さん?」

( T)「おうお前ら、前科言ってやれ」

天龍「傷害と恫喝」

時雨「殺人未遂」

夕立「て、敵前逃亡……?」

秋雲「窃盗と詐欺」

( T)「な?」

長曾根虎徹「な?じゃねえよとんだ無法者集団だなオイ」
20 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:38:31.02 ID:dM7WlOBF0
( T)「こういう連中がいっぱい集まってる場所だから……」

長曽祢虎徹「いや、まぁ、巫剣も脛に傷持ってる奴結構いるからな……」

城和泉正宗「今更だけど本当にめいじ館で面倒見て大丈夫なの……?」

時雨「城和泉はこの一か月僕の何を見てきたのさ」

城和泉正宗「怠けて減らず口を叩く変な子の姿」

( T)「マジごめん」

菊一文字則宗「お喋りはここまでのようですよ」


ひと際怪しい番屋の前、加州が刀を抜いて待機していた


加州清光「皆さ……げ、菊一さん。まーた美味しい所だけ持って行くつもりなんですか?」

菊一文字則宗「人聞きが悪いなぁ。それに、今回ばかりはそうとも限らないかもしれませんよ?」

長曾根虎徹「状況は?」

加州清光「往来にいた数体の禍憑は退治しました。後はこの中に数人の男性と共に立てこもっています」

(*゚ー゚)「和泉守さんは裏手ですか?」

加州清光「はい、合図があればすぐに突入できます」

( T)「男性って、普通の人間か?」

加州清光「普通……とは少し違いますね。協力的な人質……みたいなものでしょうか?」

( T)「連中は人質まで取るのかよ」


最初にぶち殺した禍憑にはそれほどの知能があるとは思えなかったが
しかしいずみーはこうも言った。『禍憑は人に化けるモノもいる』と
『化ける』とは『騙す』と同義だ。その行為には知性が必要となる
21 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:40:22.82 ID:dM7WlOBF0
菊一文字則宗「先ほどソボロ先生の授業で『禍魂』について教わりましたよね?」

( T)「うん。なんか、禍憑の元になる……なんか黒い……」

城和泉正宗「本当に理解してるの?」

( T)「握ったら潰せる……なんか……怖いやつ……」

城和泉正宗「この人と行動するの不安だわ……」

菊一文字則宗「これの厄介な所は、憑りつきさえしてしまえば人、物を問わず禍憑に変えてしまう事です。無論、僕らも例外ではありません」

天龍「っつーことは……人質が『人質ではない』可能性もあるのか」

菊一文字則宗「その通りです。説明不足ですよかしゅーさん」

加州清光「ぐぬぬぬぬ……」


俺らが戦った禍憑はいかにもなバケモノだった。見れば恐ろしく、戦えば殺しやすい風貌だ
しかしこれが人間の姿だとすれば、見た目で判断できず、戦い辛く殺し難い
深海棲艦ですら上位種になれば人の風貌に近づき、殺すのを躊躇う艦娘が出てくるほどだ

見た目は戦いにおいて大きなアドバンテージとなる。兵士に良識が備わっていれば尚更に


時雨「つまり全員ぶっ殺せば大丈夫って事だよ」

( T)「やったぜ、明日はホームランだ」

長曾根虎徹「お前ら絶対前に出るなよ」


所で良識ってなんだっけ?鍛えたら筋肉つく所だっけ?
22 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:41:34.40 ID:dM7WlOBF0
長曾根虎徹「若、城和泉。お前らは先行しろ。行けるだろ?」

城和泉正宗「もちろん!!」

(*;゚ー゚)「はっ、はい!!」

長曾根虎徹「かしゅーと菊は裏手に回っていずみーの援護だ。旦那、アンタらは下がっててくれ」

加州清光「了解!!」

菊一文字則宗「わかりました」

天龍「オイオイ出番なしかよ?」

長曾根虎徹「実力は知ってるが一応客人だからな。怪我させたら俺が母上殿に怒られちまう」

( T)「昨日の事をもーう忘れたみたいだな?」

長曾根虎徹「藪蛇だった」


若と城和泉は刀を抜き、構える。虎徹は戸に手を掛けた
普段の気弱な態度とは打って変わり、なかなか様になっている


長曾根虎徹「行くぜ……」

(*゚ー゚)「いつでも」

城和泉正宗「ええ」

天龍「……」

( T)「秋雲、天龍抑えとけ。邪魔になりかねん」

秋雲「はいよー」

天龍「なっ、こら放せ!!俺にもぶっ殺させろ!!」
23 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:42:52.55 ID:dM7WlOBF0
長曾根虎徹「そらっ!!」ガラッ!!


戸の開放と同時に、両名が踏み込む
番屋の窓は全て板で目張りされてあり、真っ昼間とは思えないほど薄暗い
その闇の中に、『鬼』が三体佇んでいた


(*゚ー゚)「人質はっ……」

城和泉正宗「主ッ!!」


若は咄嗟に頭を下げ、その上を城和泉の太刀筋が奔る


「グギャア!!」


戸の裏側から奇襲を仕掛けてきた、蝙蝠と猿を組み合わせたような小さな禍憑が腹部から両断された


時雨「それっ」


間髪入れず断ち切れた上半身に向けて時雨がクナイを放つ
斬られて尚、若に噛みつこうとした禍憑の米神にに突き刺さり、天井に『釘付け』となった


時雨「詰めが甘いよ城和泉」

城和泉正宗「わ、わかってたわよ!!余計な事しないで!!」

(*゚ー゚)「時雨さん、助かりました。城和泉もありがとう」

時雨「提督あれ早く取って。これで僕丸腰だから」

( T)「まだ両の拳があるだろ。使え」

長曾根虎徹「旦那は厳しいねぇ……」
24 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:50:20.99 ID:dM7WlOBF0
「ゴルル……」


奇襲に失敗した小禍憑を責めるかのように唸った鬼は、構えを取りジワリと距離を詰めてくる


夕立「提督さん早く豆投げて!!」

( T)「豆で倒せるなら刀いらねーだろ」


「ゴアアッ!!」


一体を残し、二体が若達に向かって突進する


城和泉正宗「行くわよ主ッ!!」


城和泉の左手から『炎』が巻き起こる。さっきの授業で聞いた『巫魂』による超常現象とやらだ
つーか木造建築の中で火ぃぶっ放すつもりかよ俺らに焼け死ねってか


(*゚ー゚)「『鋭く』ッ!!」

( T)「お?」


若の声に合わせ、炎が穂先の様に鋭く尖り


「ゴガッ!?」


片方の鬼の胸を貫き、すぐさま鎮火。風穴から煙を噴かせながらあっけなく膝を着いた


城和泉正宗「せやっ!!」

「ギャッ!!」


すぐさまもう片方の喉元に刀を突き刺すと


(*゚ー゚)「『竃』!!」


「ガアアアアアア!!!!」


剣先から放たれた炎が、禍憑の体内を燃え上がらせた。意外とやることがエグい
あっと言う間に黒焦げになった鬼は、消し炭のようにボロリと崩れた
25 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:51:42.43 ID:dM7WlOBF0
長曾根虎徹「今の若の一声が稜威能力だ。『言霊権威』っつってな、巫剣が放つ技を細かく指定して従わせられるんだ」

( T)「巫剣使い特有の能力って奴か。すげえな」


ほぼスタンドみたいなもんじゃん、異世界来た感あるわ


「グルル……」


さて、一瞬にして二体のお仲間がぶっ殺された禍憑は、ジリジリと後ずさる


時雨「あ、もう一本持ってた」ビュンッ

「グガッ!?」


それも時雨が放ったクナイに貫かれ、特に面白い見せ場も無く戦闘は終了した


城和泉正宗「もう!!」

時雨「サッサとぶっ殺さないからだよ」

( T)「ほんとごめん」

城和泉正宗「あ、貴方が謝らなくてもいいのよ……」

夕立「こてっちゃんこてっちゃん」

長曾根虎徹「何だ?」

夕立「お部屋の隅っこになんかいるっぽいよ?」


夕立が指さす先には、四人の男性が背を向け小さく蹲っていた


長曾根虎徹「若、保護しろ。ただし、注意は十分にな」

(*゚ー゚)「はい。御華見衆です!!お怪我はありませんか!?」


「……」


( T)「……」

夕立「う、うんこしてるっぽい……?」

( T)「大の男が四人固まって大してる所なんて見たくねえなぁ……」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/06/12(火) 12:52:32.35 ID:dM7WlOBF0
若の呼びかけには応じない
そもそも、今の戦闘で彼らは『悲鳴一つ』上げなかった。誰一人としてだ


秋雲「ね、あれ何してんの?」

天龍「なんか……食ってんな。恐らく」


此方に振り返りもせず、グチャグチャと汚らしい咀嚼音を立てながら何かを貪っている
その姿はまるで、人肉を食い荒らすゾンビを連想させた


(*;゚ー゚)「和泉守さん突入してください!!」


若旦那はそれを認識するとすぐさま声を張り上げ、四人に向かい突進する
ここで初めて、彼らは反応を示した。右側の二人が反射的に振り返ったのだ


夕立「ヒッ!!」


目は爛々と赤く染まり、口元には『泥』のようなものがビッシリとこびり付いている
野獣のように唸り声を上げると、若と城和泉に不格好なタックルを放った


城和泉正宗「くっ……!!」


城和泉は寸での所で躱せたが


(*;゚ー゚)「ッ!!」


僅かな迷いを見せた若は押し倒されてしまう
27 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:54:03.00 ID:dM7WlOBF0
長曾根虎徹「チッ……城和泉、若に構わずそいつの相手しとけ!!」


虎徹は刀を抜かず、若に圧し掛かる男の襟首を掴み強引に引き剥がし


長曾根虎徹「ウラァッ!!」


倒れた男の顎に強烈な拳を見舞う。ちょっと可哀想に思えるくらい一瞬で静かになった


城和泉正宗「このっ……やり辛い!!」


城和泉もすぐさま斬り捨てようとはせず、これまた不細工に腕を振り回す男をやり過ごしている
つまり現段階では『グレー』なのだろう。攻撃こそしてくるものの、完全に禍憑へとなっていない


和泉守兼定「フッ!!」


それをすぐさま見極めたであろう裏口突入組のいずみーと菊さんは、残りの二人の腹に柄頭を叩き込み手早く無力化した
出遅れたかしゅーは悔しがりながら血を吐いてた。お前こんな時に持ちネタを披露するな


城和泉正宗「やぁッ!!」


残った一人も、大きく体勢を崩した隙を突き、城和泉の放った当身により沈黙した


(*;゚ー゚)「ハッ、ハァ……」

長曾根虎徹「躱すか受けるかで一瞬迷ったな、若。後ろで控えてる俺がそんなに信用ならねえか?」

(*;゚ー゚)「っ、いえ、違います!!」

長曾根虎徹「なら信じて受け流せば、こんな雑魚に遅れを取らなかった。お前、いつになったら使い物になんだよ?」

(*; ― )「……」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/06/12(火) 12:56:11.87 ID:dM7WlOBF0
普段の陽気な性格からは考えられないほど冷徹で厳しい声が若に掛けられるが
俺には関係ないし口を出すのもアレなので別の事に集中することにした。気絶した四人の男だ
白目剥いてぶっ倒れてるそいつらは、身体の穴という穴から黒いもやが噴き出していた
ジェットシュウマイみたいだった。新幹線の中でやると車内にシュウマイの臭いが充満してしまうやつ


( T)「なんか黒いの出てる」

秋雲「よくこの険悪な雰囲気の中喋りだせるね!?」

( T)「いやだって間違ったこと……あっ、掴めるこれ!!セイ[ピーーー]!!!!!!!」グワッシャ!!!!!!!!

菊一文字則宗「当然のように禍魂を握りつぶさないでくださいよ」


そう言う菊さん達も別の男から噴き出したもやを斬り祓っている
これが男に憑りついていた『禍魂』らしい。握りつぶせましたけど


和泉守兼定「腹立たしいくらい我々の常識を破壊してくれるな貴様……」

( T)「今の自宅が悪霊の住処だから手慣れたもんよ」


悪霊を握りつぶすコツは消滅した方がマシだと思えるほどの苦痛を与える事だぞ!!おさらいだ!!
禍魂にも同じ理屈が通用するらしい。筋肉ってなんでも出来るんだな


城和泉正宗「主だって日々進歩してるわ!!少しは認めてくれても良いじゃない!!」

(*; ― )「城和泉、やめて……」

長曽祢虎徹「ほぉー?その結果が背中についた砂埃か?禍憑はここまで優しくねえぞ?」


( T)「で、結局こいつら何食ってたの?」

時雨「オハギだよ」

( T)「アアーーーーーー、あまーーーーーい……効く……イイ……遥かにイイ……」

加州清光「ちょ、ちょっと出ましょ?ね?外でお話しますから」

天龍「こいつらほっといていいのか?」

和泉守兼定「後で御華見衆の使いの者が病院と警察に突き渡す。我々の仕事は禍魂を祓えば終了だ」


いずみーはハンカチを取り出すと、男共の口元を乱暴に拭い
貪っていた『オハギ』の食べ残しを丁寧に拾い取った
29 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:58:12.81 ID:dM7WlOBF0
そのまま地面に転がしておくのもアレなので、一応隅っこの方に四人並べて置いておく
禍魂が抜けた彼らは、先ほどとは打って変わって穏やかな寝息を立てている
よく見ると、全員がそこそこ良い身なりをしている。このスラム街の住人とは思えなかった


( T)「ふーん……」


時雨が投げた二本のクナイを回収し、言い争いを繰り返す虎徹と城和泉の間をスッと通り抜け番屋の外に出る
うるせーので戸もスッと閉めておいた。夕立が『こいつマジか』みたいな目で見てきた


( T)「そんで?オハギの詳細は?」

秋雲「もっと先に聞く事なくない?虎徹さんの豹変ぶりとかさぁ」

( T)「別に何も間違ったこと言ってねえだろ」

加州清光「えーと、出来れば追及して頂けなければ……」

和泉守兼定「聞きたければ局長から直接聞きだせ。先に拳が飛んでくるだろうがな」

秋雲「わお」

時雨「顎砕けるね」

和泉守兼定「触らぬ神とやらだ。さて、これの詳細だったな」


ハンカチに包まれた、一見何の変哲もないオハギ
ここがネオサイタマなら深刻な中毒者を生み出す憎くて愛おしい、黒い甘味ではあるが


和泉守兼定「このオハギに使用されている砂糖は『桜禍糖』(おうまがとう)と言い、数年前に東京近辺で流通した代物だ」

和泉守兼定「一見普通の砂糖に変わりないが、摂取すると一時的な精神高揚と強い依存性をもたらす。言わば『麻薬』だ」

天龍「食いモンに混ぜてあのキマり具合じゃ、相当やべえヤクみてーだな」
30 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 12:59:47.18 ID:dM7WlOBF0
和泉守兼定「貴様らも今し方目にしたように、桜禍糖の危険性は使用者から禍魂を生成する点にある」

( T)「生成?」

和泉守兼定「一次的な快感からの中毒症状。この落差が暗い負の感情を生み、それを糧に禍魂が活性化する。それが嵩めば……」

秋雲「さっきみたく人を襲うゾンビになって、行き過ぎれば禍憑になっちゃうって事ね」

加州清光「禍魂を抜いても依存性はしばらく残ります。幻覚や幻聴などの副作用なんかも見られますし……完治した前例は少数ですね」

和泉守兼定「先ほどの四人も、これから苦しい治療生活が待っているだろうな」


透析なんて医療技術が登場するのは遥か先の未来の話だろう。さっきの四人組の命運は既に決まっちまったようなもんだ
しかもこの桜禍糖、これだけで済む話じゃない。ポイントは『オハギ』だ


( T)「禍憑は、わざわざその薬を人に食わせるために『オハギ』を作ってんの?」

和泉守兼定「半分正解だ。製造は概ね人の手で行われる」

天龍「人を襲うバケモノ増やすためにわざわざヤク入りのオハギ流してんのか?」

菊一文字則宗「知らぬがなんとやらですよ天龍さん」

天龍「あー……禍魂の詳細は伏せられてるってことか」


麻薬が流通する理由は十中八九『金』だ。欲望で動く連中なんざ山ほどいるだろう
そいつらからしてみれば、禍魂が有ろうが無かろうが儲けられるなら関係がない


( T)「大元が上手い事身を隠しつつ、下請け使って流してるって所か」

秋雲「わかるよ……秋雲もそんな感じで贋作売りさばいてたから……」

和泉守兼定「やはり貴様は斬った方が世の為になりそうだな……」

秋雲「今はカタギだから!!」
31 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:01:15.62 ID:dM7WlOBF0
加州清光「過去に御華見衆の巫剣が流通元を絶ったんですが、最近になってまた流通しているのがわかりました。それが……」

和泉守兼定「菊失踪及び時雨出現の凡そ一週間前だ」

( T)「関連が?」

和泉守兼定「母君も若もそう睨んでいる。そしてもう一つ関係が……」


番屋の戸が乱暴に開け放たれた音に、いずみーの言葉が遮られた
開けた本人は、眩しい金髪を逆立たせ何も言わずに勇み足で歩き去っていく


城和泉正宗「待って、虎徹!!」

長曾根虎徹「……」


血の気が引いた顔を覗かせた城和泉の声に一度立ち止まるが


長曾根虎徹「一人にしろ。着いて来たら殴る」


ぶっきらぼうに吐き捨て、また早足で歩き出した


菊一文字則宗「……何を言ったんです?」

城和泉正宗「売り言葉に買い言葉で、言っちゃいけない事を……!!」

菊一文字則宗「やってくれましたね……しばらく響きますよこれは……」

夕立「お、おこ?」

菊一文字則宗「激おこです」

加州清光「絶対ベロベロになって帰って来ますね。どうします副ちょ……」


和泉守兼定「ふ、ふええ……」


( T)「!?」

天龍「!?」

秋雲「!?」

夕立「!?」


誰だこいつ
32 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:02:32.99 ID:dM7WlOBF0
和泉守兼定「わ、わ、私の所為です……横着せず仲裁をしていれば……」グスグス

(;T)「えっえっ、泣いてんの?どうしたの?切れたナイフみたいないずみーは何処?」

時雨「飴が切れたね。提督、何かない?」

(;T)「タバコしか持ってね……いや説明しろよ」

時雨「定期的に飴を舐めないとこんなんなる」

(;T)「全ッ然わかんねえ。怒涛の展開に脳が追いついて行かない。天龍、ちょっと一発きつめに張り飛ばしてくれ」

天龍「死ねオラァ!!」ドゴォ!!

(;T)・'.。゜「腹パン゙ン゙ン゙ン゙!!!!!!!!」


ボディにクソ響くブローは夢じゃ味わえない威力だった。現実かよ……


(;T)「ゲホッ……あー、クソ、マジで面白いなこの世界……」

菊一文字則宗「其方の世界とどっこいどっこいだと思いますがね……どちらへ?」

( T)「虎徹に顔を斬られた埋め合わせをして貰ってくる」

加州清光「え、ええ!?今ですかゲホォ!!」


俺はもうツッコまないぞかしゅー


( T)「時と場所は指定されてないからな。菊さん、悪いがこいつら連れて街の案内に行ってくれるか?」

菊一文字則宗「飴も買わないといけないので構いませんが……」

和泉守兼定「あっ、あの、不機嫌な局長は手を出すことを躊躇わないお方なので、止めた方が賢明ですよ……?」

( T)「上機嫌でも手ぇ出してくるバカの面倒見てるから慣れてるよ」

時雨「ふてぇ野郎もいたもんだね」

( T)「うるせえバカ」

城和泉正宗「あの、私もっ」

時雨「面白そうだし僕も着いて行きたいんだけど」

( T)「どっちも火に油注ぎそうだから却下だ。所で……」


( T)「どこへ向かえばいい?」


虎徹の姿は既に見えなくなっていた
33 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:05:20.03 ID:dM7WlOBF0
菊さんから貰った手書きの地図を参考に迷う事一時間


( T)「着いた……」


その間、チンピラや酔っ払いに絡まれた数五回。内めんどくなって逃げたの二回
腰を激しく前後させ「イヤホォォォーーーーーーーーウ!!!!!!抱きしめてやるぞーーーーーーーー!!!!!」と半ギレで叫びながらにじり寄って追い払ったのが一回(その後ちょっと泣いた)
なんでこんな因縁付けられんのかなって思ってガラス窓を見ると、イケてるマスクと着古したジャケット姿のナイスマッチョが映ってた


( T)「ふむ、納得だな」


『悪目立ちする』か。金持ってるようにでも見えるんだろうな
それでも、喧嘩を売る相手くらい見定めるお脳が欲しいものだが

さて、楽し気な談笑が響く此方のお店は、『飯処 ますだや』。菊さんが言うに恐らくヤケ酒を呷りに行ったとの事だ


( T)「喫煙席はあるかな……」


暖簾を潜り抜けると、目ざとい女給がいち早く駆け寄ろうとして、ピタリと立ち止まった
なにを躊躇しているんだろうとガラス窓を見ると、イケてるマスクと着古したジャケット姿のナイスマッチョが映ってた
せめてこの顔面が丸焦げのアレじゃなけりゃもうちょい生きやすいのに


( T)「失礼、友達が先に来てる筈なんだがね。目立つ金髪の美女だ」

「えと、その、覆面を着けてのご入店はお断りしてまして……」

( T)「これがないと何分不自由でね。見逃しては貰えないか?」

「そういうワケには……」
34 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:07:08.56 ID:dM7WlOBF0


「悪い、俺のツレだ。ここに通してくれ」


おっと、噂をすれば


長曾根虎徹「……」


真昼間から一献開けてる不機嫌な女の影
女給も『それなら』とすんなり席へ案内してくれた


( T)「助かったよ。探す手間が省けた」

長曾根虎徹「誰の差し金だ?来たら殴ると言っただろ」

( T)「そうだったか?ああ、お姉さん。ラムネ一つ、あと適当につまみを頼む」

「かしこまりました」

長曾根虎徹「金は?」

( T)「とある誰かさんが『埋め合わせをする』と仰ったんでね」

長曾根虎徹「ハァ……わかったよ。好きなだけ頼め」

( T)「遠慮なく。タバコいいか?」

長曾根虎徹「ご自由に」

( T)「昨日と比べて随分お優しい事で」シュボッ


虎徹は頬杖を着き明後日の方角を見ながら盃を傾ける
先ほどからこの席に向けられる目線は奇異な覆面男だけに向けられたものじゃないだろう。中には熱っぽいものも混ざっていた


「どうぞ」

( T)「ありがとう」


間も無くして、清涼感のあるビー玉の音を立てながらラムネが運ばれてくる
下戸の俺でも楽しめるソフトドリンクがあって助かった


長曾根虎徹「呑まねえのか?」

( T)「ゲロぶちまけながら店を破壊する厄介な下戸の面倒見る気あんなら、付き合ってやってもいいが?」

長曾根虎徹「冗談じゃねえ」
35 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:08:32.44 ID:dM7WlOBF0
長曾根虎徹「で、何しに来た?悪いが今は楽しくお喋りする気分じゃねえ」

( T)「殴られに来たんじゃねえってのは確かだな」

長曾根虎徹「説教ならお断りだぜ」

( T)「説教されるようなことしたのか?そりゃ驚きだ」

長曾根虎徹「……さっきの、見てなかったのか?」


ここでようやく、虎徹は俺の方を向いた。目には若干だがイラつきが込められている
どう捉えようとようと結構だが、俺の言葉に偽りはない。好きに頼めと許しが出たので、お品書きを手に取った


( T)「御華見衆の教育方針に口を出す権利も気もねえし、若の判断ミスも叱咤の理由に値する。俺から言う事は特にねえよ」

長曾根虎徹「そんっ……ああ、クソ、これじゃまるで……」

( T)「『説教されることを望んでるみたい』ってか?」


この天ぷら盛り合わせってのいい感じだな。頼もう


長曾根虎徹「ッ〜〜〜〜〜〜……!!」


酔いが回ったのだろうか。虎徹は耳まで真っ赤になって机に突っ伏した


( T)「すいませーん、天ぷら盛り合わせ一つ。あと水くださーい」

「はい、ただいまー!!」

( T)「フゥー……俺も説教はお断りだ。聞くのも、垂れるのもな」
36 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:09:24.64 ID:dM7WlOBF0
長曾根虎徹「じゃあ何しに来たんだよ……」


一本目を吸い終わり、二本目に火を着けた頃、ようやく虎徹はそのままの状態で口を開いた


( T)「別に。飲みに行くって聞いたからな」

長曾根虎徹「間ってもんがあるだろ……」

( T)「絶妙だと思うぜ?酒の味はよく知らねえが……」


「おまちどうさまです。こちら『芋の揚げたやつ』と『鳥を串刺しにしたやつ』、それとお冷になります」


語彙力が貧相なツマミが到着した所で一度切る
芋の揚げたやつはどうみてもフライドポテトお芋さんやねんだった
鳥を串刺しにしたやつはもう普通に焼き鳥でいいだろ。文字数三倍じゃねーか


( T)「一人飯の味気なさってのは、身をもって知ってるからな」


僅かに顔を上げ、上目遣いで見返してくる虎徹の前にお冷を置く
暫くそのまま黙っていたが、やがてクツクツと笑い始めた


長曾根虎徹「クク、タラシだな旦那。今までその手口で何人落としてきたんだい?」

( T)「俺は力自慢だが不器用でね、すぐに掌から溢れ落としちまうのさ」

長曾根虎徹「ハハッ!!その上、女泣かせときたか!!」


パッと起き上がった虎徹の顔には、先ほどまで張り付いていた不機嫌がすっかり消え失せていた
喉を鳴らしながら三口ほどでお冷を飲み干し、グイと豪快に口元を拭う


長曾根虎徹「気に入ったぜ。今日はとことん付き合ってもらうからな」

( T)「お手柔らかに」


掲げた盃に、ラムネの瓶をチンと合わせる
時刻は夕方に差し掛かり、客足も賑やかになりつつあった―――――
37 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:10:30.07 ID:dM7WlOBF0
―――――
―――



そして、夜である


長曾根虎徹「おぇえええええええええええええええ!!!!!!!」ビチャビチャビチャビチャ!!!!!!!


ご覧の有様だよ


(;T)「だからもうその辺にしとけっつっただろ……」

長曾根虎徹「おえ……ら、らいじょうぶ、まだ飲めおええええええええええええ!!!!!」ビチャビチャビチャア!!!!!!

(;T)「あーあーあーあー……」


酒飲みの終着点はいつもこれだ。下戸からしてみりゃ毒としか思えないモンをパカパカ飲むから
商船改装空母やら独特なシルエットやらイタリアの完璧無量大数軍やら姉がクソ映画四天王潜水艦やらのゲロを何回掃除したと思ってんだクソ


( T)「ほらシャンと歩け。もうちょいでめいじ館だ」

長曽祢虎徹「うう……もう一軒……」

( T)「魅力的な提案だが、俺もいい加減ゲロまみれのブーツを履き替えてえんだよ」

長曽祢虎徹「帰りたくなぁい……絶対嫌われた……」

( T)「お前も若もそんな女々しいタマかよ……」

長曽祢虎徹「あ〜〜〜?俺だってうら若き乙女だぞ〜〜〜?俺が乙女なとこ見t……オウェッ」

( T)「出来れば直ぐにでも見せてもらいたいね。少なくとも、ゲロ眺めるよかマシだ」

長曽祢虎徹「旦那が優しくなぁい……グゥ……」

(;T)「寝んなって!!クソ、しょうがねえな……」
38 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:11:27.61 ID:dM7WlOBF0
寝に入った虎徹を背負い、めいじ館までの帰路を急ぐ
目立つ建物なんで、へべれけの案内でもなんとか目視できる場所までたどり着くことができた

は?何?役得だって?頭からゲロ浴びるかもしれないってプレッシャーがどれだけしんどいかわかってる?


長曽祢虎徹「ウッp……」

( T)「やめて」


もう全部出したと思いたい


( T)「ただい……鍵開いてんのかよ」


時刻はウシミツ・アワーに差し掛かる頃だが、めいじ館の扉はあっさり開いた
随分不用心だなと思いながら入ると、暗闇からスッと赤い双眸が光る


( T)そ「うおっ」

小夜左文字「……」


最強のセコムしてた。多分これ超えるのアルソック体操の人だけだわ


小夜左文字「遅い」

( T)「文句なら背中のお姉さんに言ってくれ。こいつの部屋に案内してくれるか?」

小夜左文字「……着いてきて」

( T)「どうも」


長曽祢虎徹「オロロロロロ」デロォ……


( T)「……」

小夜左文字「……」


もうやだ。アタイ実家(和歌山)帰る
39 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:14:20.81 ID:dM7WlOBF0
ゲロまみれになった虎徹を風呂場まで持って行き、後の面倒を(嫌な顔した)小夜に任せ
同じく上から下までドロンドロンな俺は中庭にある井戸で体と服を洗っていた


( T)「冷たぁい……」


そして服を洗ってから気づいた。替えの下着を部屋から持ってこなかったことに


( T)「鎮守府なら気にせず取りに行けたのに……」

「これをですか?」

( T)「ん?おっと」


ランタンの明かりから投げ渡されたのは、大きめの麻袋
中には俺の下着やらタオルやら、そして着物が数着入っている
服を持ってきてくれた張本人は、寝間着であろう浴衣姿でため息を吐いた


菊一文字則宗「もう少し女性に対する『でりかしー』とやらを弁えて欲しいものですね」

( T)「難しい言葉を知ってるんだな。誰に習った?」

菊一文字則宗「叢雲さん」

( T)「なるほど、じゃあこれも覚えとけ。男の着替えを堂々と見るのもデリカシーに欠けるとな」

菊一文字則宗「物は言いようですね。これで構いませんか?」


ランタンを置いてクルリと背を向けた菊さんに礼を言い、手早く着替えを済ませる
着物はもうなんか着付けとか出来なかったんで感覚で着たらすごい傾いてる感じになった。花の慶次いざ傾き舞う感あった


( T)「この服はどこで?」

菊一文字則宗「案内がてら購入したんです。丈は時雨さんが覚えていたのですが、どうでしょうか?」

( T)「ぴったりだ……いや待てなんであいつ俺の服のサイズ……まぁなんでもいいやワッショイ」
40 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:15:46.48 ID:dM7WlOBF0
( T)「お待たせ。悪いな、夜分遅くに」

菊一文字則宗「構いませんよ。こちらこそ、局長がお世話に」

( T)「奢られた手前、文句も言えねえよ」

菊一文字則宗「フフ。ですが、やっぱり流石ですね提督さんは」

( T)「何が?」

菊一文字則宗「女性の扱いがお上手です」

( T)「……」


ビチョビチョの服を搾り、物干し竿に吊るす。天気が良ければ明日の昼前には乾いているだろう
残りは異臭を放つこのマスクだ。あんまり長い事外したままだと耐え切れないほどの痒みに襲われるから最後に回した
二日連続でマスクをダメにしやがってあの女。今日の方がダメージデカいぞクソ


「よっと……女に対してデリカシーすら弁えない、くだらない野郎の何処を見出しての発言だ?」

菊一文字則宗「機嫌の悪い局長とサシで飲んで、深夜に帰って来た所でしょうか。それも、会って二日目ですよ?」

「さr……時雨とでも仲良く飲みそうだがな……」

菊一文字則宗「とんでもない。あれでも、気に入った人としか飲みに行かない方なんです」

「貸しに付け込んだだけだ。互いに大した思慮はねえよ」

菊一文字則宗「僕にはそう見えませんでしたけどね。少なくとも、局長は他人に体を預けるほど安心して飲めていた」

菊一文字則宗「手慣れているとしか思えませんよ。女所帯で主を務めるだけはあります」

「半ば置物提督みてーなもんだけどな……」

菊一文字則宗「客観的に見てもそう感じませんでしたよ?女性に対する配慮の無さも、ある意味では……」

「結局、何が言いたいんだ?」


ヨイショや世辞は言われ慣れていない。サッサと会話を切り上げたかった


菊一文字則宗「提督さんの事ですから、恍けるのは目に見えているのですが……お礼を」

「は?」

菊一文字則宗「局長に気を掛けてくださって、ありがとうございます」
41 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:16:35.59 ID:dM7WlOBF0
「……」

菊一文字則宗「それだけです。ランタン、置いておきますね。おやすみなさい」


最後に欠伸を一つかますと、菊さんは母屋へと戻っていった
律儀な刀だ。それに比べ、自分の捻くれ具合が嫌になる。だって男の子だもん


「ハァー……俺もとっとと寝る太郎」


痒くなり始めた顔を濡れタオルで包み、洗ったマスクを物干し竿の縁に引っ掛ける
明日も恐らく早いのだろう。睡眠不足を覚悟して、ランタンを手に部屋へと戻ろうとした矢先


小夜左文字「……」スッ

「うおっ……小夜、頼むから音もなく現れんのやめろビックリしちゃうだろうが」

小夜左文字「洗い終わったから、運んで」

「……わーったよ。これ持ってろ」

小夜左文字「じー……」

「うわ、凝視の擬音口に出す奴初めて見た。俺の顔になんか付いてるか?」

小夜左文字「覆面より、そっちの方がマシね……」

「さよけ……」


寝る前の一仕事が増えたのであった――――
42 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:19:54.39 ID:dM7WlOBF0
―――――
―――



( T)「スヤスヤ!!!!!!!!」


「……」

「……」


( T)「スヤスヤ!!!!!!!えっ!?ゴールデンカムイが手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞!!!!!?????」


「これ起きてない?」

「ううん、提督はこれがガチ寝」


(;T)そ「うおお!!っぶねえ!!」ガバッ!!


城和泉正宗「きゃあっ!?」

時雨「おはよう提督。僕はまだ何もしてないよ」


時雨の声で半ば反射的に跳び起きてしまう。部屋に侵入した時点で起きられなかったのは不覚だった
隣には城和泉の姿。寝起きドッキリなんてしなさそうな奴なのになんでバカ(時雨)と一緒にこの場所にいるんだ


(;T)「油断してた……一週間も襲撃が無かったから気を抜いて寝てた……」

城和泉正宗「アンタいつも彼に何してんのよ……?」

時雨「優しく起こしてあげてるだけだよ」

(;T)「は???????????????????」

時雨「毎朝美少女に起こされてるだけで提督は果報者なんだよ?お礼は?出来れば物がいいな。現金でもいいよ?」

( T)「あ り が と う」ギチギチギチギチ

時雨「いだだだだだだだいたいたいいたーーーーーーーーーい!!!!!!!!」

( T)「で、朝からどうしたよ城和泉」ギチギチギチ

城和泉正宗「その状態で話進める気?」
43 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:20:50.78 ID:dM7WlOBF0
時雨「つぅ〜〜〜……折り入って提督に相談があるんだって。トチ狂ったのかな?」

城和泉正宗「提案したのはあなた達でしょうが……!!」

( T)「なになになに?効果的な筋トレの方法?食生活の改善?クソ詰まりの解消?」

城和泉正宗「主の事よ」

( T)「おお……」


時雨に目を向けると、奴は軽く肩を竦めた


時雨「僕じゃなくて、天龍が」

城和泉正宗「『伸び悩んでるならあいつに聞いてみろ』って」

( T)「俺はカウンセラーじゃねーんだけどなぁ……」

時雨「どうせ虎徹と一緒で面倒見る気だったんでしょ」

( T)「は??????????????????????????」

時雨「ムカつくからそれやめて。しぃは中庭で鍛錬してるよ」


そう言って時雨はヒラヒラと手を振って部屋を出て行ったので


( T)「小夜、おちょくってきていいぞ」

小夜左文字「……」スッ

城和泉正宗「ヒッ!?お、脅かさないで!!」

小夜左文字「フフフ……」


四六時中監視してるらしい小夜をけしかけてやった。あいついつ寝てんだ?


<ぎゃーーーーーーーー!!いきなり何するのさこの地獄少女!!!!!!

<フフフ……良い二つ名ね……


清々しい朝はバカの悲鳴に限るな
44 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:21:26.05 ID:dM7WlOBF0




やや冷える早朝。朝露も乾かぬそんな時間に


(*゚ー゚)「ハァッ!!!!たぁ!!!!」


若は素振りに精を出していた


( T)「早いな」

(*゚ー゚)「っ、まっするさん。おはようございます」


乱れた道着を整え、礼儀正しく一礼をする
汗の滴るその姿はどう見ても部活動に励む女学生にしか見えなかった。なんでいい匂いするんだこいつ怖い
俺があんくらいの歳の時は汗まみれになったらなんか異臭とかしてた気がするんだが。シーブリーズ必須案件だったんだが


(*゚ー゚)「それは?」

( T)「ん?ああ、城和泉に借りた」


若が握っている物と同じく、訓練用の木刀を拝借したのだ


( T)「やろうぜ」

(*゚ー゚)「何をです?」

( T)「五番勝負、一本目だ」

(*;゚ー゚)「え……ええ!?」


先日、城和泉が提案し秋雲がいい感じにまとめた五番勝負
内容に関しては特に決めていなかったが、まぁ武道対決は組み込まれてたっぽいのでええやろ


( T)「何、ここには俺とお前だけだ。こっぴどくやられても恥かくこたぁねえよ」

(*;゚ー゚)「で、ですが急ですし……」

( T)「禍憑はいつも事前に襲撃をお知らせしてくれんのか?」

(*;゚ー゚)「ッ……」

( T)「構えろ」
45 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:22:43.13 ID:dM7WlOBF0
(*;゚ー゚)「……」


覚悟を決めたのか、木刀を中段で構えた
同じく、見よう見まねで俺も構える。若の表情が僅かに揺らいだ


(*゚ー゚)「剣の心得は?」

( T)「あんまりない」

(*゚ー゚)「……そうですか」


『信じない』って顔だ。思わず吹き出してしまいそうになる
それでいて凛々しい表情だ。成長途中でも場数を踏んだ剣士ではあるのだろう


(*゚ー゚)「……」

( T)「……」


池に備え付けられた鹿威しが、カコンと鳴ると同時に


( T)「ッラァ!!」


その綺麗な顔面を吹き飛ばしてやるという気概と共に突きを放った。イケメンは全員死ね


(*゚ー゚)「フッ!!」

( T)「!!」


木刀にコツンと軽い当たりが響くと、その切っ先から若の姿が消え
すれ違いざま、腋の下を素早くなぞられる


( T)「……」


腋には太い動脈が通っている、人体の急所の一つだ


( T)「お見事」

(*゚ー゚)「……」


若は木刀を納めると、一礼をする
その顔には達成感など微塵もなく、やや不満げであった
46 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:23:42.90 ID:dM7WlOBF0
( T)「一本取ったな。城和泉が喜ぶぞ」

(*゚ー゚)「その城和泉に唆されたのではないですか?」

( T)「と言うと?」

(*゚ー゚)「……僕だって男だ。譲られた勝ちを受け入れられはしない」


若は再び木刀を構える


(*゚ー゚)「全力で、お相手願います」

( T)「……」


参ったな、こいつはどうしようもなく『剣士』らしい
全力と言われたな。いいだろう、相手をしてやる。ただし俺のやり方で、だ


( T)「やだよ……」

(*゚ー゚)「っ……取るに足らないとでも?」

( T)「なんでヤク中ごときに遅れを取るクソザコナメクジ相手に全力出さなきゃいけないんだよ」


木刀を地面に突き刺し、タバコを取り出して火を着ける
鹿威しがまた小気味良い音を立てると、若はすり足で若干の距離を詰めた


(*゚ー゚)「……」

( T)「ガキならガキらしく貰った勝ちを素直に受け取ってバカみてーに喜んどきゃいいのにめんどくせー……」

(* ー )「……」

( T)「巫剣使いだかなんだか知らねーけど、お荷物になるなら戦場に出るんじゃねえよ自覚はあんだろうが」

(* ー )「……そうですね」

( T)「フッー……虎徹の気苦労も納得だな。お守りしながら戦わなきゃならねーなんて、イラつきもするだろうよ」

(* ー )「仰る通りです……」

( T)「当の主がこれじゃ、城和泉も報われ……」


(* Д )「っ……アァッ!!!!!!」


よし、『乗った』
47 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:24:37.02 ID:dM7WlOBF0
( T)「ほれ」


大振りで迫って来た若に向けてタバコを弾く


(*゚ー゚)「シッ!!」


意外にも、若はこれを難なく斬り払う。ではこれはどうだ?


( T)「そら!!」


木刀を手に取り、砂利と共に斬り上げる


(*;゚ー<)そ「く……!!」


目潰しと、空を斬る木刀の太刀筋に若の足が止まった


(#T)「ドラァアアアアアアア!!!!!!」

(*;゚O )・'.。゜「ガホッ……!!」


すかさず隙だらけの若の腹部に前蹴りを食らわせた
手加減はしたつもりだったが、年相応に軽い若の身体はゴム鞠のように跳ね、離れの傍まで吹き飛んだ


(*; ー )「ゲホッ、ゲホッ!!」

( T)「はい、終わり」

(*; ー )「っ……」


蹲り、激しく咳き込む若の首筋に軽く木刀を当て、二本目の軍配は俺に下った
介抱する為にしゃがむと、ふと視界の端に鮮やかな桃色の姿を捉える


城和泉正宗「……」


甲斐甲斐しいねぇ。だが、ここは男のプライドを守らせてやれ
軽く手を振って追い払うと、今にも唇を噛み切らんばかりの悔し気な表情を見せ去っていった。後で殺されてまうんとちゃうか
48 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:25:37.80 ID:dM7WlOBF0
( T)「大丈夫か?」

(*; ー )「うっ、くぅ……ぼ、僕は、僕には、何が足りないんですか……?」

(;T)「あー……」


ああ、ダメだこりゃ。ポッキリやり過ぎた。俺みたいに心も筋肉で出来てる奴ならここでもう一発飛んで来そうもんだが
アフターフォローしっかりしないとこのまま潰れちまうな。スパルタ実装してない奴はこれだから困る


( T)「筋n……いや、もっと根本的な……いや筋肉も大事なんだけど……」

( T)「お前には激しい『敵意』ってのが欠けてんな」

(*; ー )「敵意……?」

( T)「まぁー、これはお前より長い事バケモンと戦ってるオッサンの自論だから、参考にしなくてもいいんだがよ」


暫く顔を上げれそうにも無かったので、その場にケツを下ろした


( T)「禍憑にしろ何にしろ……此方を全力で殺しに来る『外敵』に対しての、敵意……『殺意』とも言い換えられる」

( T)「『戦い』と名の付く行為の、大前提条件だ。これが足りてなかったから、あの時虚を突かれた」

(* ー )「ですが、彼はまだ……」

( T)「だとしても、だ。人命も大切だろうが、何より優先すべきは自己だ。例え誤って殺してしまおうが、叩きのめすべきだった」


納得は出来ないだろう。御華見衆がどんな組織かは今だ知る由も無いが、少なくとも『正義』の名の下に活動をしている筈だ
それは若を始め、巫剣達にも浸透している。彼とコンビを組む城和泉なんかは特に分かりやすい


( T)「心ある生き物の……特に、弱肉強食の理から外れている俺達人間には、慈悲っつー隙があるんだ。それは艦娘にも、巫剣にも言える」

( T)「連中はその隙を見逃さない所か、利用すらしてくる。俺らの世界には深海棲艦ってのがいてな、ヒトに近い姿を持つ個体もいる」

( T)「そいつらにトドメを刺す間際……哀れな被害者ヅラをして命乞いのような素振りを見せてくるんだ。お前ならその時、刃を振り下ろせるか?」

(* ー )「それは……」

( T)「即答出来なかったな今ので死んだぞ。禍憑はどうかしらんが、バケモンとの戦いってそんなもんだぜ実際」
49 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:26:35.89 ID:dM7WlOBF0
(* ー )「……」

( T)「……ふぅ、いや、お前の腕は悪かねえよ。城和泉との連携もしっかり取れていたし、稜威……能力?のなんかこう凄いのも、ヤバかった」

(* ー )「語彙力……」

( T)「やめろ自覚はある。とにかく、後は気構えの問題だ。虎徹も……まぁ多分そういう事に気づいて欲しくてあんな態度取ってるんだろうよ」

(* ー )「そうでしょうか……もう、僕なんて愛想尽かされてるんじゃ……」

(;T)「……」


どいつもこいつも煮え切れねえ野郎ばっかだなオイ
仕方ない。多少反則ではあるが、ゲロぶちまけられた恨みもあるしな


( T)「少なくとも、虎徹は感情的になったことを後悔してたみてーだがな」

(* ー )「えっ……?」

( T)「安心しろ、嫌われてはねえよ。刀と同じだ、『叩いて作る』方針なんだろうよ」

(* ー )「……」

( T)「甘えろたぁ言わねえが、面倒見て貰えるうちは存分に失敗して叱られろ。で、いつかデカく見返してやれ。ぐうの音も出ねーくらいにな」


( T)<グゥ


(*゚ー )「……」

( T)「……」


今のは腹の音だ。神がかったタイミングで鳴りやがってこの野郎
照れ隠しにサッと立ち上がり、ケツを払って手を差し伸べた


( T)「さ、今日も仕事があるんだろ?サッと汗流して、飯にしようぜ」

(*゚ー゚)「……はい!!」


行き詰まりの解消、とまでは行かなかったが、多少は吹っ切れただろうか
元気よく返事をした若は、俺の手を取り立ち上がった。握ったその掌は、女々しい見た目とは裏腹に

豆を作っては潰した、ごわついた感触だった―――――
50 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:28:10.43 ID:dM7WlOBF0
―――――
―――



それから三日ほど経ったが、特に大きな騒動も無く過ごせていた
虎徹も翌日には(二日酔いのダメージはあったが)ケロリとした様子で若とも接していたし、若も若で気合いを入れ直し鍛錬や日々の業務に打ち込んでいた
一部始終を見ていた城和泉は文句を吐きたそうではあったが、この結果があっては飲み込むほか無かったようだ。殺されんでよかった

連れてきたウチの連中もめいじ館のメンバーとの親睦を深めているようで、天龍は嬉々として剣の相手をして貰っているし
秋雲は持ち前の絵の腕前を存分に披露し、つーちゃんを始めとした巫剣に描き方を教えている(詐欺の講習は全力で止めた)
夕立は菊さんにベッタリだが、意外にも小夜とも仲が良い。聞けば、夕立がこしあん派だったからだそうだ。チョロくね?
バカ(時雨)は呆れかえるほどいつもの調子だ。しかし、城和泉の相談に付き添ったあたり、なんだかんだで悪い関係では無さそうだ


菊一文字則宗「……」


そんな最中、事件は起こった。街中で菊さんが、軍人に向かって刀を抜いたのだ


(;T)「マジか……!!」


買い物を済ませ店を出た瞬間、目に入ったのは修羅と見間違えんばかりの怒気を放つ彼女の姿に
怒号を放つものの、明らかに気圧されている三人の軍人、地べたに座り込みオロオロと狼狽える夕立だ


(;T)「オイオイオイ何やってんだよアンタらこんな往来で!!」

菊一文字則宗「提督さん……」

(;T)「どうしたってんだよ菊さん、らしくねえぞ。夕立、どうした?転んだのか?」

夕立「ゆ、夕立……夕立普通に……夕立……」


「貴様が保護者か?」


( T)「……」


高圧的な声と態度、それにこの夕立の怯えぶり、そして菊さんの怒りよう
加えて、先日から聞いていた『陸軍』の存在と関係から察するに、どうも因縁を吹っかけられたらしい
51 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:30:00.21 ID:dM7WlOBF0
「フン、その小娘達は教育が為っていないようだな。其方からぶつかったにも関わらず、我々に謝ろうともせず去ろうとしたぞ」

菊一文字則宗「よくもそんなでまかせを……!!」

( T)「菊さん、刀を納めろ」

菊一文字則宗「でも!!」

( T)「安売りをすんなっつってんだよ。テメーの刀はそんな下らねえことに使うためのもんか?あ?」

菊一文字則宗「……っ、局長みたいな口を……」

( T)「えっ、今の虎徹っぽかった?」

菊一文字則宗「……わかりました。刀『は』納めましょう」キンッ


納刀こそしたものの、依然として修羅の如き威圧感は消えぬままだ
これを前にして高圧的な態度を取れるこの軍人さん方はよっぽどの強者か……


「何を今更、もう遅いわ!!小娘とそのデカブツ諸共連行する!!来い!!」


よっぽどのカス野郎かだ


( T)「まーまーまーまー、落ち着きましょうや軍人さん」


菊さんを無理やり掴む前に、両者の間に割って入る。あぶねえこの子また抜く所だったぞ
あくまで態度は穏やかに刺激せず、ヒスを起こしたクソアマをあやすように、だ


( T)「俺ァ一部始終を見てないので何とも言えませんがね、とりあえずウチの子の言い分を聞いてからでも構いませんか?」

「言い分も何も、貴様とて目にしただろう!!奴は事もあろうに我々に刃を向けたのだぞ!!」

( T)「……」


あくまで穏やかに刺激せず……買い物袋から大根を一本抜き取って


( T)「ふん!!!!!」グワッシャ!!!!!


握り潰して


( T)「構いませんね?」


脅しかける
52 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:31:21.09 ID:dM7WlOBF0
「あ……ん、ンンッ!!い、いいだろう!!見苦しい言い訳を聞かせて貰おうか!!」


喘いだのではなく驚きによる呆けを咳払いで誤魔化しただけだ。乳首を突いたわけじゃない落ち着け、座れ


( T)「どうも」ガリッ


大根うまい。生でもイケる


( T)「ほれ夕立、立て。ゆっくりでいいから何があったか話してみな」

夕立「う、うん……」


夕立の手を取って立ち上がらせ、服に付いた砂埃を軽く払ってやる
いつも腰に付けてる熊さんのお面も壊れた様子はない。トチ狂って装着しなくて良かった。死体四つ並ぶとこだった


夕立「あの、夕立、提督さんのお買い物終わるまで菊ちゃんと待ってたっぽい。でも、向こうからいい匂いがして……」

( T)「うん」

夕立「菊ちゃん引っ張って行こうとして、それで、夕立、前、ちゃんと見てなくて……ううう……」

( T)「泣かんでいい。ちゃんと謝ったか?」

夕立「あ、あ、謝った、ぽい……」

( T)「よし、信じよう。それで菊さん、どうして刀を抜いた?」

菊一文字則宗「大事な友人を侮辱し、事もあろうに無理やり連れ去ろうとした彼らを許せるほど、僕は度量の広い巫剣じゃありません」

( T)「……と、言っていますが」


「口では何とでも言えよう!!それに、近頃素性の知れぬ輩がうろついていると聞く!!特に覆面の貴様は数日前に複数の傷害事件を起こしたと報告を受けたぞ!?」


うわっやべえ多分チンピラの事だ反論できないわ


( T)「ほう、それでこんな幼気な少女に目星を付けて連れて行こうとしたと?いやぁ、見る目がありますね軍人さん?」

「何を……?」

( T)「確かに連中の中じゃ夕立が一番連れ去りやすい。天龍なら今頃あなた方は半殺しになってるだろうし、秋雲なら口先八丁で財布の中身をスッカラカンにされた事でしょう」

( T)「時雨は……まぁ、身を以て体験したはずです。聞きましたよ、肥溜めの樽に頭から突っ込んだって話」
53 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:32:31.17 ID:dM7WlOBF0
菊一文字則宗「フフッ、それはそれは痛快でしょうね。お目に掛けられなかったのが残念でなりません」


意外と煽るな菊さん。軍人連中は煽り耐性が無いのか分かりやすく顔を怒りで真っ赤に染めた


「我らを愚弄するか……!!」

( T)「女の子がちゃんと『謝った』っつってんのに、快く許すどころか連れ去ろうとした連中が『愚か』で無いのなら一体何なのでしょう?ご教授戴けませんでしょうか?」

「貴様……」


おっと、刀抜いたことを咎めたくせに拳銃に手を伸ばすか
穏便に済ませようと思ったが仕方ない、俺も多少イラっとしたし顔面陥没するくらいぶん殴って――――


「何をしている!!」


厳格な声に、軍人連中がビクリと肩を竦ませた


( T)「……」


足早に歩いてくるのは二人の軍人


(#゚д゚ )「面倒は起こすなと言った筈だぞ!!」


凄まじい剣幕で近づいて、それぞれ一発ずつ頬をぶん殴る『中尉』の階級章を付けた、俺と同い年くらいの男と


(;´∀`)「いやいや、申し訳ございません。お怪我はございませんでしょうか?」


ペコペコと頭を下げながら近づく、中肉中背の中年。こちらは『大尉』だ


( T)「いえ、我々より彼らの心配をした方が良いかと」

(;´∀`)「常日頃から言い聞かせてはおりますが、何分世間を知らぬ若者故ご無礼を……」

( T)「いや、あの……」


(#゚д゚ )「ケツの青いガキ共が!!栄えある帝国陸軍の威光を我物と勘違いしてこの始末か!?ああ!?」

「もっ……申し訳、ございません……」


多分俺がぶん殴るよりかはマシな部類なんだろうが、それぞれ歯が一本ずつ吹っ飛んでたぞ。体罰こええ、そら現代で社会問題なるわ
54 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:33:49.89 ID:dM7WlOBF0
菊一文字則宗「仕置きなら見えない場所でして貰えませんか三浦さん。僕の友人が怖がりますので」

夕立「……」


夕立は顔を真っ青にして、俺の影に隠れる
彼女が前にいた鎮守府はあのように度の過ぎた体罰を過剰に繰り返す場所だったのだ


(#゚д゚ )「……来い!!」


『三浦』と呼ばれた中尉は、クソザコ軍人共の首根っこを掴み無理やり引き摺って行く
その足取りは来た時と同じスピードで、文字通りの『お荷物』を抱えてるとは思えないほどの力強さだ


菊一文字則宗「茂名さん、形だけの謝罪は見飽きました。先日も御華見衆の活動を妨害しようとする輩がいたんです」

菊一文字則宗「日の本の平和を守る志を持つ者同士、仲良くとは言いませんがもう少し分別を弁えて貰いたいものですね」

(;´∀`)「はい、はい、重々承知しております」


日本のサラリーマンかく在るべきと言わんばかり腰の低さだ。ホントに大尉かこのオッサン


( T)「まぁまぁ菊さんその辺で。折檻はこれからたっぷりされるだろうし……」



( T)「許してやったらどうや!!」(上がり調子)



菊一文字則宗「何です?」

( T)「いやごめん近畿圏内の人なら大抵通用するんだけど。夕立もそれでいいな?」

夕立「う、うん……」

(;´∀`)「大変失礼を致しました。今後部下の指導教育には一層努めてまいります。それでは、失礼を……」


茂名大尉は去り際もペコペコと此方に頭を下げつつ、そそくさと立ち去った
55 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:35:03.83 ID:dM7WlOBF0
( T)「……あいつが桜禍糖の流通に関わってる疑惑のある軍人か?」

菊一文字則宗「みたいですね。僕がいない間に、色々と怪しい動きをしていたみたいです」


二か月ほど前に御華見衆と連携する禍憑対策部隊の指揮官として着任したらしいあのうさん臭い大尉
若と城和泉の調査によると、不自然なほどに『金回り』が良いらしい。それも、桜禍糖が出回り始めてからは特に
それに加え、軍による依存者の保護も強引に行われている。先日も御華見衆の使いといざこざを起こしたそうだ


( T)「だとしても、あからさま過ぎるだろ……」

菊一文字則宗「ですね……それに、僕らと軍の連携は御華見衆司令部及び政府の通達ですので、独断で強硬捜査を行えない状況にあります」

菊一文字則宗「万が一の場合、禍憑への対応の主導権を向こう側に渡しかねませんしね」


異形の怪物と戦う巫剣とは言え、廃刀令が発足された今の時代に無許可で刀を振り回すのはご法度だ
彼女達が活動出来るのも、御華見衆が政府の管轄下あってこそだと聞く
当然、軍部もその枠内に収まっている。互いが似たような『組織』である以上、大なり小なりの主導権争いが勃発するのは明白だ
間違いを犯せば、パワーバランスは向こうに傾く。それを狙った罠の可能性も否定できないのだろう

今の菊さんと軍人のいざこざを見るに、連携こそしているものの関係は良好とは言い難い
きっと面白くないのだろう。『男を差し置いて、可笑しな恰好をした小娘共が怪物を薙ぎ払う様』が
古くから根付いた『男尊女卑』という文化は、バケモンを前にしてもそう簡単に拭えないらしい


( T)「踏み込むにしろ確固たる証拠が必要ってことか……」

菊一文字則宗「申し訳ないです。提督さん達は早く元の世界に戻らなくちゃいけないのに、僕らの都合で……」

( T)「なーに、俺らがちょっといないくらいで傾くような鎮守府じゃねえよ。夕立、さっきいい匂いしたって言ったな?」

夕立「うん……」

( T)「元気出せってお前なんも悪くないんだから。何かあるのか菊さん?」

菊一文字則宗「恐らく、ゆきさんがお手伝いしている和菓子屋さんでしょう。あそこのきんつばは絶品ですよ」

( T)「よっし、そんじゃあ気分転換に寄ってこうぜ」

夕立「提督さん」

( T)「なんだ?金ならちゃんと働いて貰ったのが……」

夕立「大根、どうするっぽい?」

( T)「あっ」


この後、数軒前の八百屋に戻って『大根が爆発したんで新しいのください』と買いに戻った。怪訝な顔された
56 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:36:04.59 ID:dM7WlOBF0
―――――
―――



@#_、_@
 (  ノ`)「ふぅん、陸軍にねぇ……」

菊一文字則宗「どうにかならないんですかお母さん?」

@#_、_@
 (  ノ`)「ふーむ……」


めいじ館に戻り、真っ先に支部長である女将へ先ほどの出来事を報告する
慣れた手つきで包丁を研ぐ姿は紛れもなく山姥のそれだった


時雨「ババアどうしたの?子供捌いて喰うの?」

@#_、_@
 (  ノ`)「大将、あんたんとこのガキは美味いかい?」

( T)「腹下しますよ」

時雨「野蛮人はどうしてこう冗談が通じないのかなぁ?」


いらんこと言うからやろ


菊一文字則宗「先刻も夕立さんが無理やり連れ去られようとしたんですよ?司令部に掛け合って行動規制を敷いてもらうべきでは無いですか?」

@#_、_@
 (  ノ`)「そうしたいのは山々だがね、司令部にも保守派の連中がいる。実行には時間が掛かるだろうね」

菊一文字則宗「ハァ……」

時雨「夕立ならほっといたら全殺しにしてくれたのに、なんで仲裁に入ったのさ?」

( T)「そら俺だって往来に人が居なくて証拠隠滅しやすい場所だったらそうしたけど」

夕立「夕立、そこまで危ない子じゃないっぽい!!」
57 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:37:42.33 ID:dM7WlOBF0
( T)「しかし女将。陸軍とは共同で任務にあたる事もあると聞きましたが、ここまで険悪になるもんですか?」

@#_、_@
 (  ノ`)「三浦のボウズが仕切ってた頃はそうでも無かったんだがね。茂名のボンクラが就いてからは酷いもんさ」

菊一文字則宗「憲兵隊もほぼ総入れ替えでしたから、巫剣を知る人もいません。アレと共同作戦は絶望的でしょうね」

( T)「三浦って奴はどうだったんだ?」

菊一文字則宗「彼も御華見衆に対して好意的とは言えませんが、仕事と役割はしっかりとこなす方です。信頼出来ますよ」

( T)「ふぅん……以前、共闘を?」

菊一文字則宗「一年前に緋墨という超大型禍憑を討伐する際に応援要請を」

@#_、_@
 (  ノ`)「あれは、若が来る前の話だったね……所で」


女将は包丁を布巾で拭き取り、刃を壁に向けてそっと置くと
俺にも負けずとも劣らない大きな掌で菊さんの頭を鷲掴みにした


@#_、_@
 (  ノ`)「人に向けて刀を抜いたそうだね、菊」

菊一文字則宗「あ、あの、その、ついカッとなって……」


いつも涼し気な顔でクールな菊さんが、キョロキョロと目線を泳がせ狼狽えている
さながら、悪戯がバレた狩猟犬のような反応だ。見てて面白かった


@#_、_@
 (  ノ`)「頭に血が上りやすいのはアンタの悪い癖だ。ちょうどいい、仕置きついでに手入れといこうか」

菊一文字則宗「あっ、いや、手入れならしぃさんに……た、助けて夕立さん……」

夕立「えっ、うう……き、菊ちゃんを放すっぽい!!」

@#_、_@
 (  ノ`)「アンタもして欲しいかい?」

夕立「は、放すっぽぃぃ……ううう……ヤマンバこわいぃぃ……」グスグス

(;T)「お前は……」
58 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:39:05.80 ID:dM7WlOBF0
@#_、_@
 (  ノ`)「ああ、そういや、虎徹が探してたよ大将」

( T)「虎徹が?」

@#_、_@
 (  ノ`)「返すもんがあるんだとよ。そんじゃ、おつかいご苦労さん」

菊一文字則宗「あああああああー……」


女将はそのまま菊さんをズルズルと引き摺って行った。聞いた話だと女将の『手入れ』……マッサージは滅茶苦茶効くがクッソ痛いらしい
巫剣は巫剣使いによるマッサージを定期的に受けなければ体に瘴気が溜り……なんだっけ……錆……なんとか……ああそう、錆憑だ
とにかく悪堕ちするので、手入れは重要な作業なのだ。ちなみに、若の手入れは女将ほど効きはしないが最高に気持ちが良く自然と声が出てしまうそうだ


時雨「虎徹……提督に金を無心するほど酒浸りなんだね……」

( T)「いや貸してないしそこまで酒クズじゃない……と思う……」

夕立「行かないの?」

( T)「あーん……ちょっと休憩してから。お茶飲む人?」

時雨「はい」

夕立「ぽい!!」

天龍「俺にも淹れてくれ」

秋雲「ねーえ、さっき菊ちゃんが引きずられていったけど何かあったの?」


ちょうどタイミング良く茶房の皿を下げに来た天龍と秋雲
接客態度はともかくツラだけは良いのでめいじ館側としてもありがたい助っ人らしい。鹿島とか連れてきたらどうなってたんやろか


( T)「きつーいお仕置きだとよ。俺も女将を見習わないとな」

時雨「これ以上は虐待だよ虐待」

( T)「俺はお前らに虐待以上のことされてんだよ。そこにおみやげのきんつばあるぞ。小夜も食うか?」

小夜左文字「食べる」ガタンッ!!

天龍「うおっ……お前今どっから出てきた?」

小夜左文字「床下」

夕立「」

秋雲「夕立ちゃんが立ったまま失神した!!」
59 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:41:17.77 ID:dM7WlOBF0
( T)「ふぅーい……」ズズズ


ここのお茶は美味い。お茶にこだわりがある七香ちゃんと抜丸が厳選した茶葉だ


( T)「あっ、そうだ。茂名とかいう陸軍大尉と内通しようと思ってんだが」

時雨「ブボッ!!」SPLASH!!!!!!!!

夕立「ぎゃあああああああああああああづいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!」OHHHHHHHHNOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!


虎徹といいバカといい口からなんか吹き出しすぎだろ


時雨「ば……バカなの?あ、ごめんバカだったね」

紅葉狩兼光「おいしいねこのきんつば!!」バクバク!!!!!!!!

( T)「俺がバカならお前はミラクルバカだな」

天龍「どっちもどっちだろ……おい小夜、こいつは大体こうなんだ。刺すのは話を最後まで聞いてからにしろ」

小夜左文字「……」


早とちりな小夜は既に刀を抜いている。わざわざ茶に誘った意味を理解していないようだ


秋雲「姦通???????」

( T)「テメーは耳までバカだな。小夜、わざわざ表に引っ張り出してまで喋ったのはお前を見込んでだ。協力を頼みたい」

小夜左文字「裏切りの協力など引き受けるとでも……?」

( T)「わかんねーやつだな。陸軍の企みを暴こうっつってんだよ」

時雨「今のツンデレキャラ風に言って?」

( T)「い、一緒に戦ってあげるって言ってんの!!鈍感なんだから!!で、でもそんなところが……」ゴニョゴニョ……

時雨「ん?なんか言った?(難聴)」

( T)「な、なんでもないわよバカ!!誰か俺を殺してくれ!!勢いでノったら大ダメージだチクショウ!!」

秋雲「しらんわ」

小夜左文字「面白集団に何が出来ると言うの……?」

天龍「おい一緒にすんな」

時雨「つれない事言わないでさぁ」

秋雲「仲良くしようぜぇ面白水雷戦隊旗艦様よぉ?」

天龍「俺はおめーらみてーに面白集団を受け入れてねーんだよ!!」

夕立「うう……ほったらかしっぽいぃ……」シットリ

紅葉狩兼光「手ぬぐい使う?」バクバク!!!!!!!!!!

夕立「ありがと紅葉ちゃん……」
60 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:43:02.05 ID:dM7WlOBF0
( T)「そんじゃ、一つずつ順序立てて説明するか。その前に紅葉、お前食い過ぎだ」

紅葉狩兼光「モグ?」

( T)「モグ?じゃねえ」


めっちゃ自然な流れでお茶会に紛れ込んで来たこいつは『紅葉狩兼光』。通称紅葉だ
紅葉のように鮮やかな髪色、獣の名残を残した両手にネコ科動物のような耳と尻尾
さながらちょっとヤバいジャパリパークのフレンズのような風貌をしている
他にもツッコミどころが多数あるが割愛させてほしい。俺は巫剣の服装についてアレコレツッコむのは疲れた
https://tenkahyakken.jp/character/?page=37


小夜左文字「フン!!赤髪猫野郎!!」ドスゥ!!

紅葉狩兼光「ニ゙ャン゙パズ!!」ドサァ!!


紅葉の丸出しの腹にボディブローが深くぶっ刺さり、そのまま静かになった
いやごめん口だけは動いてる。こいつ気ぃ失ってもずっと食ってる


小夜左文字「続けて」

(;T)「アッハイ」


動揺と若干の恐怖心を薄めるためにタバコを取り出しそうになったが、一応、飲食店の厨房だと言う事を思い出し止めた
代わりに、さっきパクったいずみーの生命線である棒付き飴を咥える。何か最後の一本云々かんぬん言ってたけど、俺はゴリラなんで言葉わかんなかったウホウホ


( T)「先ず、時雨の存在は陸軍に知られているよな?」

時雨「詳細に説明したじゃないか。肥溜めの樽に頭からぶち込んだって」

( T)「その時の状況を、簡単で良いからもう一度説明しろ」

時雨「偉そうだからヤダ」

( T)「しーてーくーだーさーいー」

時雨「しょうがないな……えーと、ぶつかっただの怪しいから事情聴取だの、何だかんだと理由つけて無理やり連れて行こうとしたから……」

( T)「ハハッ、ほんとバカみてーな説明だな」

時雨「バカのレベルに合わせてあげたんだよ。一々解説しないとわからないかな?」

秋雲「あの、仲良しアピールの最中ほんっと申し訳ないんだけど、話進まないから乳繰り合いは後にしてくんない?」
61 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:44:11.50 ID:dM7WlOBF0
( T)「夕立、時雨の説明を聞いてどう思った?」

夕立「さ……さっき夕立もそんな感じで連れ去られそうになったっぽい!!」

秋雲「えっ、夕立ちゃんが狙われたの?」

天龍「連中も命知らずだな……」

夕立「危ない子じゃないっぽい!!」

( T)「夕立が危ないかどうかはさて置き、頭悪い陸軍の連中は同じような手口で『艦娘』を連れ去ろうとした。その理由は?」

時雨「僕が可愛いから」

天龍「艦娘に利用価値を見出している可能性があるから……か?」

( T)「天龍に10ポイント!!」

天龍「何のポイントだよ……」

時雨「僕のも正解でしょ?ポイントは?」

( T)「ボッシュートになります」テレッテレッテー♪

時雨「クソ提督!!」ゴッ!!

( T)「痛い腰骨を殴るな。もし、銘治側の神隠しを陸軍が『意図的に起こした』とすれば、召喚した艦娘及び『艤装』に何かしらの興味を示している可能性がある」

秋雲「刀を擬人化した『巫剣』の存在を知っているなら、説得力も増すねー」

小夜左文字「私達に代わる禍憑対抗戦力を欲しがっている……と言うの?」

( T)「そう捉えるか……」

小夜左文字「違うの?」


小夜は眉間に皴を寄せ、小首を傾げる。この視野の狭さは禍憑という人外を相手にする御華見衆故か


( T)「当然、地域の治安維持も軍の役割として挙げられる。だが軍の……特にこの時代に置いて最も重要な役割は二つ」

( T)「自国の『防衛』、並びに諸外国への『侵略』だ」

小夜左文字「っ!!」
62 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:45:41.00 ID:dM7WlOBF0
日本史の授業を受けた者なら、一般常識として身についているであろう明治時代に起こった二つの戦争
『日清戦争』と『日露戦争』。文明開化を迎えた日本は、この時代から昭和に到るまで世界を相手に戦いを繰り広げた


小夜左文字「対禍憑ではなく、対人間用の戦争兵器を求めている……?」

( T)「少なくとも、倒した所で金にも利権にもならないバケモン相手にさせるよりかは有益性があると思うがな」

天龍「的は小さく、火力も機動力も申し分ない『知能』を持った兵器のご登場とありゃ、連中に取っちゃ是が非でも手に入れたい代物だろうな」

時雨「世界水準超え(爆笑)さんでも大活躍できるだろうね」


天龍は顔色一つ変えず時雨の顎を、俺じゃなきゃ見逃しちゃう速度で鷲掴みにすると
空いた手で醤油差しを取り、その中身を口の中へと一切の躊躇なく注ぎ入れた


天龍「でもよ、艦娘用の補給線も無いのに俺らを数人召喚した所で戦術的に大したメリットはねーんじゃねーの?」

時雨「ガッ、ガボ……やめ、死……ボボゥ!!!!」

(;T)「そ、そこまでにしてやって?な?そんなんだから『お前んとこの天龍は本気で怖い』とか言われんだよ……」

秋雲「言ってもウチら百年以上先のオーバーテクノロジーの結晶みたいなもんだし、解析されたらそれなりの技術革新はあるんじゃないの〜?」

天龍「ハッ……全く、面白ぇ事になってきやがったぜ。次ナマイキ抜かしたら瓶で行くからな」


醤油の拷問から解放された時雨は、涙目で口の中身の行く先を求めてきた
いくら俺でもここまで酷い事しねえぞ。流石にちょっとかわいs……いや自業自得じゃねーか危ねぇ騙されるとこだった


時雨「ンンン〜〜〜〜!!!!」

(;T)「あーもー……流しに吐け。飲むなよ絶対」

時雨「うあー」ダパパパパ

夕立「時雨……しょうゆ臭い……」

小夜左文字「……戦争、なら、勿論、もう一つ……」


一つ視野を広げりゃ、悪と戦う美少女剣士の頭もブン回るらしい
そりゃ、元はと言えば『刀』だもんな。俺らより遥かに歳は上だし、経験もある筈だ


小夜左文字「情報も?」

( T)「その通り。未来から、それも流暢に日本語を話す奴が来たとなれば当然、オツムの中身も欲しがる筈だ」

小夜左文字「……こんなのでも?」

( T)「……」

小夜左文字「……」


時雨<ガラガラガラガラ ペッ!!!!


( T)「まぁ……向こうは中に何が詰まってるかまでは知らんわけやし……」

小夜左文字「……そう、そうね」

時雨「酷い目に遭っ……何その目」
63 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:46:39.85 ID:dM7WlOBF0
天龍「だが、俺らが伝えた情報通りに状況が丸っきり同じに動くとは限らねえぞ?」

秋雲「負け戦に勝ってしまえば、彼方さんも臨機応変に対応するだろうしねぇ」

( T)「それは向こうもおのずと気づくだろうよ。だが、俺らが差し出す『情報』は、結果を知った上でそれを更に有益な方向に変えられる、どんな武器よりも強力なブツだ」

時雨「歴史を覆す……って奴だね。敗因と失敗例を手に入れただけでも、戦況は変わってくるだろうし」


俺達は異世界に来たと同時に、タイムトラベルをも経験している真っ最中だ
本来であるならばSF空想物語でしかお目に掛かれないような出来事。周りもそりゃ放っておくワケがない
相手は違えど戦場に身を置く者として、なんとしてでも手に入れたいという気持ちは分からなくも無かった


夕立「でもでもっ、それって陸軍さんが『全部知ってる』ってのが前提の話っぽい?」

( T)「夕立」

夕立「ぽい?」

( T)「20ポイント」

夕立「わ、わぁい……?」

天龍「そうなるよな。貰っても何になるかわかんねえもんな」


と、長々と語ったがここまで全て『推測』の話でしかない
時雨と夕立に関する陸軍の頭悪い行動は、ひょっとすればただ『怪しい』から起こした物かもしれないし
そもそも、神隠しについても今だ『怪しい』の粋に収まったままなのだ。桜禍糖についても、関連しているとは限らない


( T)「だから接触によって選択肢を一つ潰す。御華見衆に所属していない俺達の手でな」


そしてこれは、この世界にとってはイレギュラーである俺達にしか出来ない方法でもある


小夜左文字「気を遣ってくれている……と?」


小夜は目元をスゥと細める。初めて会った時の様な冷たい笑みから出たものではなく、呆れによるものだ
そしてやはり彼女は相当頭が回るようだ。理解が早いと此方としてもありがたい
64 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:47:38.03 ID:dM7WlOBF0
夕立「どういうこと?なんで菊ちゃん達に言わないっぽい?」

( T)「そりゃお前、もし陸軍が無関係なら正義の天秤は向こうに傾いちゃうだろうが」

夕立「あ、そっか……違ったら菊ちゃん達に迷惑かけちゃうんだ……」


陸軍だってやろうと思えば小娘の一人二人、拉致やら誘拐やら出来るだろう。それは、巫剣という手練れで構成されためいじ館側にも言える
『協力』と『競合』という枷が、良くも悪くも双方を縛り付けている。どちらかが迂闊に深く踏み込めば容易く足を掬われるリスクがある
だからこそ、陸軍も『小競り合い』程度の方法しか取れないのだ。もし責任を問われたとしても、最悪『尻尾切り』だけで済むように
だがそこに第三者が、俺達が加われば話は別だ。『目的』が彼らとは全く違うものなのだから、条件によって与する組織が変わるという見方も出来る


小夜左文字「御華見衆主導ではなく、面白集団が無断かつ個人的に働きかけることによって、失敗した場合にめいじ館が被るであろう危険を引き受ける」

小夜左文字「もし問い詰められたとしても、お母さん達は『知らぬ存ぜぬ』を正当な方法で使える……監督責任は問われるだろうけど、罪は全て貴方持ち」

( T)「更に、俺達の目的は『元の世界への帰還』だ。そこに嘘は無い。武器と情報を材料に、手がかりないしは帰還方法を要求する」

( T)「裏さえ掴めば後はもうこっちのもんだ。全員ぶっ殺してめでたしめでたし」

秋雲「どんなパターンでも最終的にそこに行きつきそうでアタシャ怖いよ」

天龍「提督のナリなら、『この世界もめいじ館の連中もどうなろうが知った事か』なーんて、悪党丸出しのセリフも違和感ないだろうしな」

( T)「やだ……中二病のライバルキャラみたいなセリフ……かっこいい……」トゥンク……

小夜左文字「……とりあえず、言い分はわかったわ。でも、どうして私にだけ伝えたの?」

( T)「んー。信用と、保険……かなぁ」


飴でベトついた唇を、渋い茶で洗い流す。何かにつけて復讐復讐と物騒な、女学生の姿をしたこの巫剣は
めいじ館の長である女将が俺に取り付けた『鎖』なのだ。行動を起こすには、その長さを伸ばしてもらわねばならない


( T)「俺らが無断で怪しい動きをすりゃ、お前はその短刀で容赦なく首を掻っ切るだろう。まずはそれを避けたかった」

小夜左文字「ふぅん……?」

( T)「そして万が一、御華見衆と俺らが『衝突』なんて事故が起こった場合、行動に対する弁明をしてくれる人物が必要だ。聡明なお前なら、上手く取りまとめてくれるだろうよ」


誤解による擦れ違いが発展して、俺らとめいじ館が潰し合うなんて不毛な展開は此方としても避けたい
そりゃ、いきなり背後からグサリなんて無いと思うが、予防線は張っておいて損は無い
65 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:48:17.82 ID:dM7WlOBF0
小夜左文字「……」


マスク越しの真意を読み取って来るかのように、ジィと俺の顔を見据えた彼女は
やがて観念したのか、溜息を一つ吐いて口元を覆い隠す桃色のマフラーを下ろした
毛糸の壁に隠されていた右頬の艶黒子が、ひと際妖しげな美貌を醸し出していた


小夜左文字「……危ない橋よ。それは承知?」

( T)「わざわざ異世界まで来て、今更危険の一つ二つでたじろぐ俺らじゃねえよ」

小夜左文字「責任は一切負いかねるわ」

( T)「当たり前だ。むしろ、堂々と被害者ヅラして同情を誘え」

小夜左文字「……めいじ館を、追い出されるかも」

( T)「そん時は……寂しいが、少し早いお別れだな」


夕立は着物の裾を両手でギュウと握り、時雨は唇を結んだ
そうなると決まったワケじゃない。むしろ、より厳重に監視されるかもしれない
こいつらは改めて自覚したのだろう。『別れは来る』と。これはその為の作戦なのだと


小夜左文字「……」


二人を一瞥した小夜は刀を納め、代わりにきんつばを手に取り小さく齧る
一かけら程度のそれを、深く味わうように咀嚼し、お茶で流し込んだ


小夜左文字「お母さんの悩みの種が一つ消えるなら、それもまた復讐……」


何言ってんだこいつ


小夜左文字「見せてもらうわ。貴方の復讐を」

(;T)「え、いや、復讐とはまた別……」

小夜左文字「何?」

(;T)「な、なんでもありません……」

秋雲「弱い」


こうして、戦k……不知火……叢雲並みの眼光を持つ心強い共犯者を得たのであった
66 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:49:07.80 ID:dM7WlOBF0







「……」


「……ッ」







67 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:49:59.75 ID:dM7WlOBF0
―――――
―――



作戦を実行に移すに当たって、小夜からいくつか捜査情報を提供して貰えることになったが
各々、茶房の仕事や約束があった為、夜に改めて俺の部屋で作戦会議する流れとなり、一旦解散となった


( T)「……」

長曾根虎徹「おっ、おかえりぃ」


そして部屋に戻ると、椅子に座って新聞を広げていた虎徹が気さくな挨拶をしてきた
どうやら部屋を間違えたらしかった。アラサーになると認識能力が、この、アレになるんだろうか。ダメだ語彙力もクソだ


( T)「お邪魔しました」ガタッガガタンガチャガチャガチャ!!!

長曾根虎徹「待て待て部屋間違ってねえよどんだけ動揺してんだよ。勝手に押しかけてすまねえな」

( T)「なんだ、てっきり暗殺でもされんのかと」

長曾根虎徹「俺一人じゃ役不足だっての」

( T)「買いかぶり過ぎだ。なんなら試すか?」

長曾根虎徹「やめとくよ。アンタの愛犬を怒らせたくはねえからな」


なんでどいつもこいつも時雨を愛犬扱いするんだろうか


( T)「俺を探してたんだってな。なんでも、返すもんがあるとか……食うか?」

長曾根虎徹「っと……ちょいと、借りをな」


虎徹にきんつばを投げ渡し、換気の為に窓を開ける
街の喧騒と潮の臭いが無い初夏の風が、鎮守府では感じられない内地の空気を届けてきた


(;T)「やっぱり暗殺……」

長曾根虎徹「違ぇってば。その、ほら……言いにくいんだが……あの夜、な?」

( T)「ゲロか」

長曾根虎徹「ちょっとは気ぃ使えよ!!俺が悪ぃんだけど!!」
68 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:51:35.82 ID:dM7WlOBF0
( T)「で、何をお返ししてくれるんだ?」

長曾根虎徹「あー、それなんだがよ……また呑みに連れて行こうかとも考えたんだが……」

(;T)「あのな、他人がゲロ吐く姿って見る方も結構キツ……」

長曾根虎徹「あの覆面、まだ捨ててないよな?」

(;T)「えっ、アレ?洗濯して置いてあるけど……」

長曾根虎徹「貸せ。縫ってやる」

( T)「えっ?」

長曾根虎徹「えっ?」

( T)「……あっ、あー!!切られた方か!!いやゴメンゴメン、ゲロの方かと思った」

長曾根虎徹「あんまりしつこいと俺も怒るぞ?」


銘治に来て直ぐ、偶然居合わせた虎徹といずみーに刀を突き付けられたのも、結構前の気がしてならない
警告とは言え、マスクごと右頬を軽く斬りつけられたのは、今となっては割と恐ろしい出来事だったんじゃないかって思う


( T)「えーと、どこしまったっけか……」


適当に鞄の中に放り込んでしまったので、探すのに手間取る始末だ


( T)「ん?」


('(゚∀゚∩ <ナオルヨ!!


( T)「……」

長曾根虎徹「なんだいその人形?」

( T)「ナオルy名前は伏せるが素人には危険が危ない奴だ」


こんなもん入れたっけ?誰かが異世界で爆発させて俺の事殺そうとしてんのかな?嫌われてんのかな俺?


('(゚∀゚∩('(゚∀゚∩ <ナオルヨ!!


もう一個あった。隙を生じぬ二段構えで確実に殺す気だ。名探偵雇わな
69 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:52:30.30 ID:dM7WlOBF0
( T)「あ、あったぞ。ほれ」

長曾根虎徹「ほいよ……俺、こんなに深く斬り込んだか?」

( T)「いや、めいいっぱい力入れて手洗いしたら、ビリビリいった」

長曾根虎徹「思ってたより手間取りそうだな……」


洗濯機や洗浄力高めの洗剤がない時代だ。三種の神器と呼ばれた家電のありがたみが身に染みてわかる
虎徹は持ち込んだであろう裁縫箱を開くと、針と糸を取り出す
そして糸先をペロリと舐めた後、ハッと気づきバツの悪そうな顔で俺を見上げた


長曾根虎徹「い、嫌だったら言ってくれ」

( T)「気にしねえし気にすんな。ゲロ吐きかけられた仲だろ?」

長曾根虎徹「根に持つな旦那は……」


今度は膨れたような表情をして、針穴に糸を通す
ジッと裁縫の姿を見続けるのもなんかキモい奴に思われそうなので、自前の携帯灰皿缶を窓辺に置き一服を始めた


( T)「どういう風の吹き回しだ?まさか、この時になるまで決心が着かなかったなんて言わないよな?」

長曾根虎徹「ぐ……察しろよ。そんで口に出すなよ……」

( T)「口の減らねえ小心者なんでな、大目に見てくれ」

長曾根虎徹「親から『一言多い』と言われたことは?」

( T)「ガキの頃はゲンコと一緒にありがたく頂戴してたよ。今も副官からしょっちゅう言われる」

長曾根虎徹「ハハ、親も部下も気苦労が絶えなさそうだ」

( T)「憎まれっ子、世に憚るっつーだろ?」

長曾根虎徹「口は災いの元とも言うぜ?」

( T)「おっと、一本取られちまった」
70 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:53:49.07 ID:dM7WlOBF0
クスクスと笑い合いながらも、手元の縫物はスイスイと進んでいく。ワイルドな見た目と違って随分器用だ
これはスゴイシツレイにあたるので口には出さない。今し方指摘されたばかりだ


長曾根虎徹「……俺が裁縫出来るのが、物珍しいかい?」

( T)そ「べっ、べべべっべつに、べつべつべつべつべっべべべ」


何こいつこわい


長曾根虎徹「やっ……めろ笑わせんな……手元が狂う……wwww」

( T)「巫剣はエスp……神通力でも使えんのか?」

長曾根虎徹「探せば人の心を読める奴もいるんだろうが、少なくとも俺はちげえよ……見事にカマに引っかかったな」

( T)「試すような真似は感心しねえな……気にしてんのか?」

長曾根虎徹「乙女は意地悪で繊細なんだぜ?なんなら、納得するまで見てみるかい?俺の乙女なところを」

( T)「そういうのはテメーで探し当てるもんだ。野郎から楽しみを奪うな」

長曾根虎徹「ハハハ!!本当に可愛げの欠片も無い男だ!!」

( T)「そりゃどーも……」


三十路手前の野郎に可愛げもクソもねえと思うが、よくよく考えりゃずっと年上なんだよな。三十年という範疇は『可愛い』に相当するんだろうか
そしてもっと視野を広げりゃ、艦娘もその部類に入るんだよな……どうも提督になってその辺の感覚が麻痺してるらしい


長曾根虎徹「全く、飽きねえな旦那は……それに、俺も若も世話になりっぱなしだ」

( T)「お互い様だろ。なんせこっちは居候の身だ……何か、相談したい事でもあるのか?」

長曾根虎徹「っ!!」


裁縫の手がピタリと止まる。図星だったらしい
わざわざ俺の部屋に留まってマスクの修繕なんてする必要は無い。引き取って、時間の空いた時にでもすればいい話だ
提督になって麻痺した感覚もあるが、逆に敏感になった感覚もある。乳首の事を言ってるんじゃないぞ
だが、こうして聞き出す言葉を知らないのが悪い所だとよく指摘されたりもする。俺はそんな器用な男じゃなかった
71 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:55:03.06 ID:dM7WlOBF0
長曾根虎徹「……今から言うのは独り言だ。聞き流してくれて良い」

( T)「回りくどい真似はやめろ。そんな前口上されて聞き流せるワケねえだろ。相談相手への侮辱に他ならねえぞ」

長曾根虎徹「……ハハ、旦那は厳しいねぇ」

( T)「口外はしねえし、役立つかわかんねえが助言もしてやる。ちゃんと向き合って話せ」


短くなったタバコを吸殻缶に入れ、窓を閉める。喧騒はガラスに遮られ小さくなった
いつも俺を監視している小夜も今はいない。出来れば、邪魔が入らぬ内に話してもらいたいものだ


長曾根虎徹「……若がな、どうしても被るんだ。俺の前の主に」


俺の心をまた読み取ったのか、気を紛らわせるように裁縫を再開し、ぽつりと話し始めた


( T)「かの有名な近藤勇にか?」

長曾根虎徹「いんや。銘治が始まって御華見衆に入ってから最初に組んだ相方さ」

( T)「ほう」

長曾根虎徹「厳つい見た目の割に初心でな……ちょっとからかうとすぐ真っ赤になる可愛い奴さ」

長曾根虎徹「だけど戦いになると誰よりも勇敢で……ああ、俺には勿体ないくらいの良い主だった」


昔を懐かしむように、口元が綻んでいる。ある種の『愛おしさ』も籠っているようだ
だがその目は、洞穴のように暗く深い。手元の針を見ているかすら、怪しいものだった


( T)「……そいつはどうしてる?」

長曾根虎徹「死んだよ。一年前にな」


何となく予想はしてたが、やっぱりそうか
一年前。さっき厨房で菊さんが言っていた超大型禍憑との戦闘
あの時の女将は、俺達が詳しく聞き出す前に無理やり会話を切り上げた様に見えたからだ


( T)「死因を当ててやろうか?『不覚を取ったお前を庇って禍憑の攻撃を受けた』」

長曾根虎徹「……その通りだ。不甲斐ねぇよな」

( T)「それで必要以上にキツく当たるのか。巫剣を庇うか迷った若に」
72 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:56:17.72 ID:dM7WlOBF0
長曾根虎徹「あいつと城和泉の事は認めてんだぜ?だけど時折、物凄く恐ろしくなるんだ」

長曾根虎徹「もしも禍憑との戦いで、若が巫剣を庇って死んじまった時……城和泉は、俺は、他の連中は耐えられるのかってな」

( T)「……だがお前は」

長曾根虎徹「ああ、耐えたさ、耐えてきた。主が変わる度に何度も何度も。だけどな旦那……」

長曾根虎徹「どんな業物でも、いつかは折れる。そりゃもう、呆気無くな」


こんな言い方あんまり好きじゃねえが、彼女達は『刀』。人に振られて初めて威力を発揮する武器だ
根底には『人ありき』の精神が根付いているのだろう。使い手への想いは、三十そこらのロクに刀も振っちゃいねえ俺には計り知れない
使い手が死ぬ。この事実は、きっと自らが折れるよりも辛く、激しい痛みを伴うんだと思う


長曾根虎徹「優しい若のことだ。普通に伝えても納得はしねえ……いや、違う、半ば八つ当たりもあるかもしれない」

長曾根虎徹「俺を置いて逝った主に、怒鳴りつけてやんなきゃならなかった事を……若に差し替えて発散してるんだと思う」

( T)「……」

長曾根虎徹「なぁ旦那、俺はどう師事すりゃいいんだろうなぁ……?ただ『生きろ』って、伝えたいだけなのになぁ」


いつの間にか、裁縫の手は止まっていた。いつも豪気な虎徹の姿が、この時ばかりは雨に濡れた子猫のように弱く、不安げだ
ここで慰めの言葉をかけてやるのは簡単だ。洋画ならキスの一つでもして肌を合わせるシーンだろう

だがそれが何になると言うのか。全部解決して万々歳か?違う、『他者からの慰め』が依存になるだけだ


( T)「……」


だから、例え間違っていても、怒りを買うとしても、俺は俺の言葉で返答せねばならない
生憎、泣きそうな女に優しい言葉を投げかけられるほど器用な男ではなかった


( T)「それが、若に、何の関係があるんだよ」


長曾根虎徹「ッ!?」


そして胸中に抱いたちょっとしたイラつきを隠せるほど、器の大きな人間でもなかった
73 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 13:58:08.90 ID:dM7WlOBF0
( T)「辛いことがあったのはわかったよ。でもそれを若に押し付けるのはお門違いだろ」

( T)「お前の要求はただの自己愛に基づくもんだ。生きろ?バカじゃねーのか。だったらあいつをめいじ館から追い出して、禍憑のいない場所で畑でも耕してもらえよ」

長曾根虎徹「違っ……!!」

( T)「違う?だったら若の生き方を、死に様を決め付けるような真似すんじゃねえよ。ガキでも、女みてーなナリでも、あいつはあいつなりに『男』になろうと足掻いてんだ」

長曾根虎徹「違う……俺、そんなつもりじゃ……」

( T)「それとも何か?『もう人が死ぬところは見たくない』とでも?よし、それじゃあこうしよう。お前は今すぐ御華見衆やめて、どっかの御曹司に娶って貰え」

( T)「禍憑も、攘夷志士もいない場所でヌクヌクと愛されながら生涯を終えろ。簡単さ、お前は乙女なんだろ?」


矢継ぎ早に繰り出そうとした次の言葉は、顔にぶち当たった『きんつば』によって遮られた
投げた本人は文字通り『虎』のような真っ赤で獰猛な怒りを露わに、俺を睨みつけ、そして


長曾根虎徹「あ……」


すぐさま、後悔の引き潮によって収まっていった


長曾根虎徹「ご、ごめ……ごめん……ッ!!」


縫いかけのマスクを放り投げ、部屋を飛び出す
廊下からは、偶然通りかかったであろう巫剣の驚いた声が響く。開け放しのドアから顔を覗かせたのは――――


和泉守兼定「……」

( T)「……よう」


腰の得物を、何時でも引き抜けるように手に掛けたいずみーだった
74 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:00:27.27 ID:dM7WlOBF0
和泉守兼定「……痴情の縺れか?」

( T)「そう見えるか?」


いずみーは険しい目つきで俺の服装や皴の無いベッドを確認し、首を振った


和泉守兼定「聞いたのだな?」

( T)「ああ。ご丁寧に重い話をしてくれたよクソッタレ」

和泉守兼定「……」


怒りっぽい彼女の事だ。頬の一発でも張り飛ばされる気でいたが、代わりに飛び出したのは


和泉守兼定「すまない」


謝罪だった


( T)「何が?」

和泉守兼定「本来ならば私達だけで話し合って解決すべき問題だ。だが、皆が皆、傷に触れるのを恐れ、今まで『なぁなぁ』にしてきたのだ」

和泉守兼定「不老の存在である私たちにとって、主の喪失は死よりも辛い。局長の痛みも理解できる」

( T)「……」

和泉守兼定「だが、愛刀である巫剣を、身を挺して守ろうとする主の気持ちも……同じく理解できる」

和泉守兼定「どちらが正しいという判断など、我々には下せない……だから、局長は貴様を頼ったのだろう」

( T)「……んなもん」

和泉守兼定「わかっている。外部の人間が下せる判断ではない事も。それでも局長は、『艦娘』を率いる『提督』という人物ならと、一縷の光に縋った」

和泉守兼定「どうか許して欲しい。局長の無礼と、我々の不甲斐なさを。士道不覚悟と仰るなら、ここで私が腹を切ろう」

( T)「アホか。お前が今すべきことは俺への謝罪じゃねーだろ」

和泉守兼定「……痛み入る」


いずみーは姿勢を正し、深く一礼をして虎徹の後を追った
75 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:01:12.26 ID:dM7WlOBF0
( T)「……」


後悔、先に立たず。もっと別の言い方もあったんじゃねーかと、自責の念が湧き上がる
ここに叢雲か青葉がいたなら、『デリカシー欠如クソカス野郎』と罵られながらボコボコにされ、謝罪に向かわされてたのだろう
だが今は、俺の言葉を窘めてくれる奴らはいない。わざわざ天龍達にこの事を伝える度胸も無い

結局、俺の尽くせる最善が『アレ』だったのだろう。結果はご覧の通り


( T)「フゥ……」


潰れて床に落ちたきんつばを拾い上げ、勿体無いが屑籠に捨てる
ふと、虎徹が放り投げた縫いかけのマスクが目に留まった


( T)「……キツいぜ、全く」


白地に映える、黄色。虎徹の髪色の糸が、マスクのクレバスを縫い留めていた


( T)「……」


なんだよ、やっぱり最善だったじゃねーか。なぁ虎徹






別れの時に、お互い『未練』は遺したくないもんな





76 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:02:52.98 ID:dM7WlOBF0
―――――
―――



時雨「で、何があったの?」

( T)「だからムカデ人間の話を小一時間語ったら喋りかけてこなくなったっつってんだろ」

時雨「うわオタクキモ。普通のオタクの数倍キモい」

( T)「お前それ不知火の前で言うなよ?」


二日後。小夜から得た情報を元に俺は茂名大尉とコンタクトを図るために夜の街に繰り出していた
連れは真っ先にこの時代へ『艤装ごと』現れた時雨だ。念のため、クナイを二本仕込んでいる
陸軍の他にも、厄介な『要注意人物』がいるらしい。備えあれば憂いなしだ。なぁ霧島ァ!!!!!!!

あれから虎徹とは、最低限の会話しかしなくなった。周りにも異常は伝わっているようで、何度か心配の言葉を掛けられた
女将はいずみーから詳細を聞いたのだろうか。特に触れずにいてくれている
そして若も何故か余所余所しく接してくるようになった。自分に関する事だと、なんとなく察したのだろうか


時雨「なんでもいいけどさ、これから敵陣に突っ込むって時に湿気た顔しないでよ」

( T)「透視能力でも持ってんのかよお前」

時雨「湿気てる自覚はあるんだね」

( T)「持病のヤンジャン欠乏症だ」

時雨「安い人間だね提督は」

( T)「死ね」

時雨「お前が死ね」


歓楽街、その中でも所謂『オトナの店』がポツポツと増え始める
高級風俗と料亭が立ち並ぶこの場所に、茂名は二週間に一度のペースで訪れるそうだ
ちょうど今日がその周期。気分良く歩ける場所じゃないが、背に腹は代えられない


「おい兄ちゃん!!その娘幾らだ!!」


時雨「は?」


ああ、失敗した。そりゃ、器量だけは良い少女を連れ歩く怪しい覆面男がいたらそうなるよな
顔を隠せるフードか何かを被ってもらった方が良かったかもしれん。それにしても絡まれ過ぎだろここは学園都市かよ
77 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:05:13.79 ID:dM7WlOBF0
( T)「失せろチンカス野郎。粗末なイチモツ引っこ抜いてケツにブッ刺すぞ」


腹にたっぷりの脂肪と無精ひげを蓄えた粗暴そうな男は、俺の胸倉を掴みあげて黄色い歯を剥き出しにする
臭い息に鼻を詰まらせていると、脇腹にヒヤリと冷たい『筒』が押し付けられた


「最初から金を払う気は無かったんだがよ……へへへ、気に障っちまったんで粗末な『イチモツ』を見せちまったじゃねえか」

時雨「殺す?」

「おーおー、勝気なお嬢ちゃんだ。お前みてーなガキを組み伏せて泣かせるのが好きでよぉ」

( T)「……」


こっちはここ数日、機嫌が悪いってのに。よりによってこんな下衆野郎に捕まるとは
それに一人だけじゃない。『ツレ』が何人か此方を伺っている。横目で確認すると、右手が『懐』に収まっていた
二階建ての料亭の窓際からも、ガス灯の明かりを反射する『金属』が覗いている。それも、一軒だけではなかった


( T)「……何が望みだ?」

時雨「嘘でしょ提督」


『最初から待ち構えていた』かのような布陣。いくらチンピラを十数人ボコボコにしたと言っても
連中がこれだけの為に何日も罠を張っていたとは到底思えなかった。まるで、この日を予知していたかのようだ


「へへっ、図体の割に気は小せぇようだな」

( T)「勘違いすんなよクソザコナメクジ」

「なんだと……?」


鍛え上げられた腹斜筋に、筒がグイイと捻じ込められる
この男は気づいてないのだろうか。俺に突き付けている『拳銃』が、大よその答えを教えていると


( T)「用があんのはテメーらの頭だ。余計な小芝居挟んでねえでサッサと案内しろ」

「……」

( T)「聴こえなかったか?耳まで脂肪が詰まってんのか?それとも、ようやく気付いたのか?」

「……ヒッ」


時雨「反応遅いね」


男の股座からジワリと血が滲む。拳銃を突き付けられる直前、時雨がクナイで鋭く『急所』を斬りつけたのだ
アドレナリンかエンドルフィンか何かは知らないが、指摘されて初めて痛みと喪失を感じたらしい
78 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:06:27.45 ID:dM7WlOBF0
「て、てめ……」


引き金も引けないほど痛いのだろう。俺も想像しただけでタマが縮み上がる。あの、宦官の話とか、無理、超辛い


( T)「恨むならテメーの軽い口を恨め。俺だってこのバカにそんな口、怖くて利けねえよ」

時雨「ほら、早く案内して……よっと!!」


人によっては『邪神の申し子』とも称される時雨の爪先が、男の痛い所を穿つ
血に交じって粘液性の液体が股間と靴に糸を引き、時雨は苦虫を噛み潰したかのような顔をした


「アッ、ガ……!!!!」

時雨「あー、あーあー、モクバを人質にしてたチンピラにブルーアイズのカード投げつけた海馬の気分……」

( T)「分かりやすい例えだが、お前の追撃で案内人が泡吹いて起き上がらないんだけど」

時雨「こらてられ……こてられ……なんとかダメージだよ。僕の精神衛生上必要な……そう、言わば慰謝料ってとこかな」

( T)「コラテラルダメージな」


再度、辺りを見回す。取り巻きは撃ってこない
それどころか、通行人すら今の騒動に目を向けていない


時雨「……一暴れするなら付き合うけど?」


気絶した男の着物で執拗に靴を拭きながら、俺にだけ聞こえるように呟く
返事はせず、手を軽く返し『その必要は無い』と伝えた


「失礼を致しました。どうぞこちらへ」


取り巻きの一人が懐から手を出し、並び立つ店の中でもひと際目立つ、それこそ、悪趣味なほどに絢爛な『洋食屋』へと案内をしてきた


時雨「えっ、これ入るの……?」

( T)「この外観じゃ、味は良くてもミシュランの食器マークは貰えねえな……」


例えるなら、びっくりドンキーとドン・キホーテの外装を組み合わせ、カラーリングがトイザらスのロゴみたいな……ごめん説明できないわ。この建物キッモ
どうしたものかと時雨と顔を見合わせるが、どちらにせよ目的は達成しなければならない。むしろ、渡りに船と喜ぶべきだ


( T)「行くぞ」

時雨「りょーかい」


時雨は最後に、犬のクソの後始末のように気絶する男に向かって足で砂を掛けた。そういうとこやぞ
79 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:06:58.96 ID:dM7WlOBF0





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80 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:08:43.87 ID:dM7WlOBF0
「二階です」


店内は思いの外繁盛していた。身なりを見るに、客の殆どは富裕層だろう
確か明治に入って牛肉が流行りになったんだっけ。すき焼きを食ってる風刺画を教科書で見た覚えがあるが、ステーキはどうだったろうか?


時雨「……提督、見た?」

( T)「ああ……」


ある一席に、食後の珈琲が運ばれる。それと同じく、『シュガーポット』も
丸テーブルに着く偉そうな燕尾服と口髭の中年男性と、ケバケバしい装飾品で着飾った一回り若く見える妻と思わしき女性は
中に入った『角砂糖』を奪い合うかのように、カップへと投げ入れていく。何度も、何個も


( T)「『仮面ライダーアマゾンズ』を思い出すね……バケモノ共の秘密の食堂か」

時雨「小夜は?」

( T)「ここに入ってから気配がしない。逸れたか……もしくは禍憑が現れたか、だ」


時雨は小さく舌打ちを漏らす。そもそも、これだけ目立つ建物が何故今まで見つからなかったのだろう……か?


(;T)「時雨」

時雨「て、提督も……?」


この場所に踏み込んで、中に深く入り込んで俺達はようやく異常に気が付いた
俺はこの建物をなんと認識した?あの奇妙奇天烈な外装を見てなんと?『洋食屋』だと!?
百歩譲ってもあり得ない。そもそも、あれだけ近くにあって言われるまで『目に入ってないワケが無い』!!
確かに不快感はあった。それでも俺達はすんなりと『洋食屋』と認識し、まんまと建物内に入ったのだ

誰の仕業か?決まっている。『禍憑』以外ありえない


(;T)「……クソが」


敵の用意周到さか、それともテメー自身の迂闊さか。口からは自然と悪態が漏れた
いくら禍憑をぶっ殺せると言っても、俺達は暴力以外の対処法を知らない。超常の力を秘めた巫魂を持ち合わせてはいない
どこかの航空母艦が言ってたっけか、『慢心は禁物』と。『地獄』と名の付く鎮守府の提督がこのザマか!!
81 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:09:55.21 ID:dM7WlOBF0
「どうしました?」


案内人の声色こそ無味無臭であったが、表情は口裂け女と見間違えんばかりの凶悪な笑顔
全く俺はバカ野郎だ。いずみーが言ってただろ、『禍憑には人間に化けるモノもいる』ってな!!


( T)「……すぐ行く」


だが、『危険な橋』は重々承知。俺達が禍憑を詳しく知らないのなら、逆もまた然り
こちとら鉄火場も修羅場も、乳首相撲もオマール海老も生きた本も巨大タコも貞子も筋肉でねじ伏せてきたのだ

奴らは負の感情を糧に増え、強化するバケモノ。ビビるな、逆にビビらせろ


( T)「ん」

時雨「……」


時雨と拳を突き合わせる。幸いにも、俺には心強過ぎるバカが一人付いていた
止まっていた足で一歩、大きく力強く踏み出す。『ダン』と大きく響く足音に、客の目線が集中したが


( T)「……」

時雨「……」


構うか。そこでずっと砂糖舐めてろヤク中共
82 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:11:31.40 ID:dM7WlOBF0
二階は個室席になっており、左右に二部屋奥に一部屋の計五席
オープン席とは違い、人の目が気にならないからだろうか。どこかの部屋からうっすらと『嬌声』が聴こえてくる
また、ある一室からは『赤い水たまり』が漏れ、廊下を汚していた


( T)「まるでソドムの市だな……ただ欲望を満たすだけの、薄汚い権力者の宴だ」

時雨「これなら空気悪いめいじ館の方がマシだよ……」


「どうぞ。ごゆるりとお寛ぎを」


一番奥の部屋に通された俺達に、うやうやしく一礼した『ウェイター』は扉を閉めて行く
案内人はチンピラだった筈だが……まぁ、いつ入れ替わったなど考えても仕方がない。アハ体験とか苦手やし


時雨「冗談みたいな外装の割に、中は結構豪華だね」


亜麻のテーブルクロスがピシッと敷かれたテーブルを中心に、壁際には暖炉と鹿の頭の剥製
部屋の隅にはピアノや、ヴァイオリンが立てかけられた小ぶりなステージ
またその反対側には、ちょっとしたミニバーカウンターと各種洋酒の瓶が、天井のシャンデリアの灯りによって琥珀の色を反射させる
床には一面にビロードの絨毯が敷き詰められている。歩けば足音の代わりに、柔らかな反力を伝えてきた


時雨「だけど、居心地が悪いったらないよ。まるで巨大怪獣の胃の中みたいだ」


そんな一等室も、窓が一つも無いだけで圧迫感と息苦しさで胸が詰まる拷問部屋と化すのだ


( T)「注文の多い料理店の過程全部すっ飛ばしたみてーな感覚だな……」

時雨「センセイの最後、泣けたね」

( T)「お前最近月光条例読んだだろ?」


「ほう、それはどんなお話なのですか?」


突如、耳に飛び込んで来た声に反射的に構えを取った
同じく時雨もクナイを抜き、投擲の姿勢を取る


( ´∀`)「あいや失礼。驚かせてしまいましたか?」


誰も居なかったはずのテーブルの上座に、穏やかな笑みを浮かべる『茂名大尉』が座っていた
83 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:13:39.71 ID:dM7WlOBF0
( ´∀`)「そう殺気立たないでください。どうぞ、お座りになって」


二日前の日中に見た腰の低すぎる情けない男とはまるで別人だ。柔らかな物腰にこの余裕
優位に立っている野郎だけが見せられる態度は実に癪に障る


( T)「……お招きありがとうございます。とでも言うべきでしょうか?」

( ´∀`)「いえいえ、これは先日のお詫びとして開いた晩餐です。気を遣う必要はございません」


時雨は構えを解かず、目線で指示を待った。『やれ』と命ずれば、奴の頭は剥製の横に飾り立てられるだろう
だがそう上手く行くとは、俺も時雨も思ってはいない。ここは未知のゾーンだ。神出鬼没に強力だが単純な物理が効くとは考え難い


( T)「……それでは」


どこに座るか多少迷ったが、先ずは時雨を下座に座らせ、俺は向かって右手の席に座った
出来る限りこの気持ち悪い男に時雨を近づけたくは無かった。真正面も安全とは言い難いが、彼女ならどうにか対処出来ると信じての判断だ


( ´∀`)「一つお聞きしたいのですが……見た所、私の招待を予め分かっておられるようでしたね?」

( T)「突き付けられた拳銃に見覚えがあったので、もしやと思っただけです。確証は得ていませんでした」


男が持っていたのは『二十六年式拳銃』。先日、菊さんと軍人の仲裁をした際に目にした『陸軍制式採用拳銃』だ
一般に流通していたか定かでは無いが、直近で二度も同じ拳銃を目撃すれば、嫌でも答えは見えてくる


( ´∀`)「いやいや、御見それしました。誰とて拳銃を向けられれば、周りを観察する余裕など無くなるものですが」

( T)「恐縮です。お恥ずかしい話ですが、生来から恨み辛みと誤解を招きやすい体質のようでして」

( ´∀`)「潜った修羅場の数が違う、と。素晴らしい!!我が配下にも見習って欲しいものです」


時雨「あのさぁ、僕を差し置いてオッサン同士で盛り上がるのやめてくれない?」


痺れを切らした時雨が、頬杖を着いて人差し指でテーブルを断続的に叩く
一見、余裕があるように見えるが俺は知っている。こいつは夕立ほどではないが案外臆病だと言う事を
84 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:15:41.56 ID:dM7WlOBF0
´∀`)「すみません盛り上がってしまいまして。食前酒を持ってこさせましょう」

時雨「いらないよそんなの。僕も提督も飲めないんだ。大層なご馳走も結構だよ。そもそもご飯食べてきたからね」

( ´∀`)「これは手厳しい」

( T)「不出来な娘で申し訳ございません。しかし、私もお料理は遠慮致します」

( ´∀`)「おや、ふむ、急なお誘いでしたからね。珈琲だけでもお付き合い頂けないでしょうか?」

( T)「……それなら」


茂名はキザったらしく指を高らかに鳴らすと、すぐさま扉が開きウェイターが入室
『珈琲を人数分。砂糖とミルクも』と、注文を受けると、機械人形のように固い笑みを浮かべて静かに扉を閉めた


( ´∀`)「では……前置きはこれくらいにして、本題に移りましょうか。楽にしてください」

( T)「……フゥ、じゃ、遠慮なく」


椅子を引いて姿勢を崩し、懐からタバコを取り出し咥える
灰皿が見当たらないが、まぁいいだろう。どうせゴミみてーなクソ屋敷だ


( T)「今までコソコソしてたクソ首謀者が、大胆にもご登場とはどういう了見だ?」シュボッ

( ´∀`)「謝罪をしたいと思いまして」

( T)「あ?何の?」

( ´∀`)「こちらの手違いで貴方がたを此処へ迎え入れてしまったことに、です」

時雨「っ、やっぱりこいつ……!!」

( T)「時雨、黙ってろ。手違いだと?」


頭の中で素早く整理をする。銘治側の神隠しの発端は陸軍。これは正解だった
だが今、野郎は『手違い』と言った。俺は当初、艦娘という戦争兵器及び未来の情報の入手が目的だと推理していた
この二つなら、不完全ながら奴の目と鼻の先にある。それが、『違う』?なら奴らは――――
85 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:17:33.25 ID:dM7WlOBF0



(;T)そ「ッッッッ!!!!????」




待て、待てよ。周りをよく見渡せ。階下の客が夢中になっていたものは何だ?
『桜禍糖』。摂取した人間に一時の快楽と永い渇望を与え、禍魂を増やす薬物
つまり陸軍は『禍憑』の支配下、もしくは協力関係にあると言える。そんな連中が……


(;T)「禍憑を倒す能力を持つ、艦娘を求める筈がねえ……!!」

時雨「えっ……あっ、ま、まさか……!!」


ソボロ先生の言葉が、今になって鮮明に、強烈に思い浮かんでいく


『時雨を始めをした艦娘は元々『深海棲艦』という禍憑に似た外敵を倒せる』


それはつまり『深海棲艦と禍憑は互換性がある』と言っているようなもんじゃねえか!!


(;T)「てめえらの目的は……深海棲艦……!!」

( ´∀`)「おや、アレはそういう名前なのですか。勉強になります」


繋がる、『繋がってしまう』。陸軍が桜禍糖を流していたワケも、中毒患者を集めていたワケも
人の負の感情により禍魂は発生し、禍憑は禍魂によって顕現する。なら、深海棲艦に禍魂を与えればどうなるか?
発生場所が深海、あるいはどこか遠い海に限られていた深海棲艦が、禍憑のように所構わず現れればどうなるか?


(;T)「……」

時雨「……」


そんな最悪の想像に、時雨も行きついちまったらしい。いつもの生意気で不敵な表情は無い


(;T)「それで、アンタは……」


俺も、そんな時雨に構ってる余裕は無かった。何故ならこの話は終わっていない
せめて、少しでも多くの情報をめいじ館に持ち帰らねばならなかった
状況がどこまで進んでいるのか、そして対処が出来るのか、見極めねばならなかった
86 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:19:17.51 ID:dM7WlOBF0
(;T)「何を……してくれるんだ?手違いで、巻き込んだ、俺達に」


茂名は両手の指を組み合わせ、さも面白そうに背もたれに体重を預ける


( ´∀`)「特異型禍要柱の提供です。此方からの要求はただ一つ、『何もせず去る』」

( ´∀`)「要求を飲むとこの場で誓って戴ければ、我々からは一切の手出しを致しません。悪くないお話でしょう?」


こうもアッサリと俺達の最終目的が提供されるとは。それもコスト無しと来たか
この男が巫剣と禍憑の関係を把握しているとすれば、自ずと艦娘と深海棲艦の関係も理解するはず
その上で、『無抵抗』を条件に無料で譲渡するような提案をしてきたとなれば……

もしかすると、銘治に呼び込まれた深海棲艦の数は少ないのかもしれない


( T)「……一応聞いておくが、断ればどうなる?」

( ´∀`)「ふむ、手荒な真似をせざる得ないでしょうね」

( T)「そりゃ恐ろしい。だが、此方としても『はい飲みます』と二つ返事するわけにはいかねえ。謀られている可能性だってある」

( ´∀`)「確かに」

( T)「それに一応、元の世界じゃ『彼女達』を狩ってオマンマ食っている立場なんでね……見過ごすのも後味が悪い」

( ´∀`)「ほう……?」


茂名の垂れ気味の眉が僅かに歪むのを見逃さなかった。深海棲艦を『彼女達』と呼んだ事に対する疑問だろう
恐らくだが、『ヒト型』はいない。連中の性別が『雌』に当たることなど一目瞭然だからだ
それを知らなかった、またはわからなかったとなると、艦種はバケモノの姿をした『駆逐』『軽巡』『軽空母』に絞られる


( T)「義理はねえが忠告はしてやるよ。アレはアンタらの手に負えるもんじゃねえ。火傷する前にサッサと処理しておけ」

( ´∀`)「ご心配なく。既に手は打ってありますので」


ハッタリの可能性もあるが、奴らを支配下に置ける方法はあると見た
時雨と同じタイミングでここに来たとすれば、一か月間あの深海クソ棲艦を手元に置いていることになる
人を見れば襲い殺す獰猛なあいつらを大人しくさせておく方法……九分九厘禍憑が関わっているに違いない
87 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:21:06.50 ID:dM7WlOBF0
( ´∀`)「さて、そろそろ答えをお聞きしたい所ですね。好機を逃すほど、愚かな人では無いと信じたいものですが」

( T)「……」


ここまでか。叢雲ならもっと上手く聞き出せたのだろうが、俺はアホなのでこの程度だった。俺は本当にウンコ野郎だ


( T)「折角の提案だが、辞退させて戴く。不確定要素が多すぎて信用ならん」

時雨「もう一声」

( T)「くたばれクソ軍人。では」

( ´∀`)「……残念です。珈琲は?」

( T)「いるかよそんな泥水」


時雨と共に席を立ち、わき目も振らず出口へ向かう
このまますんなりと返してくれるワケがないが、手荒な真似をするというなら相応の覚悟をして貰おう


( T)「お邪魔しました」ガチャッ

時雨「こんな時に礼儀なんて披露しなくていいんだよ」

( T)「んっ?」


踏み出した足はピタリと止まる。蹲る『女の子』が廊下を塞いでいたのだ


( T)「おい退け。お腹痛いのか?悪いがトイレはここじゃねえぞ。歩けないなら運んでやってもいいが」

時雨「甘さが滲み出てるよ提督」


「……ニィ、マ……」


( T)「なんて?」


聞き取り辛い声を拾おうと、顔を近づけた瞬間






「オニイサマ」





女の子は『眼球が無い』顔を向け、胸元に隠し持っていた小刀を俺の顎向けて突き上げた
88 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:23:02.33 ID:dM7WlOBF0
(;T)「ほらきた!!」


それを仰け反って躱し、申し訳程度の膝蹴りで反撃
あっさりと下がって回避した女の子は、クスクスと笑いながら暗い穴が覗く眼孔を片手で隠した

くすんだ金髪に薄褐色の肌。割烹着とエプロンを組み合わせたような服装に、反りのない短刀
小夜から聞いた『要注意人物』の特徴と一致する。確か、名前は……


(;T)「『北谷菜切』……」


北谷菜切「……」


琉球三宝刀とやらの一振り。御華見衆に属しない『巫剣』
とにかく若にご執心で、独占しようと暗躍するイカレと聞いた
https://tenkahyakken.jp/character/?page=97


北谷菜切「初めまして。自己紹介……の、必要は無さそうですね」


手を退けると、何も無かった眼孔にエメラルドグリーンの瞳がはめ込まれていた
巫剣固有の能力では無いだろう。いや、だってキモいじゃん。目玉無くしてびっくりさせる能力って。ブラクラかよ


時雨「お前の名前や正体なんてどうでもいいからね。ああ、逃げなくてもいいよ?巫剣を折ったらどんな死に方するか、気になってたんだ」


クナイを逆手に持ち、俺の一歩前に出る。今めっちゃ怖いこと気にしてなかったかこいつ


北谷菜切「逃げる?フフ、逆ですよ。『逃がさない』為にいるのですから」

時雨「小娘一人に何が出来るって言うのさ。僕はこう見えて結構凶暴だよ?」

北谷菜切「子犬がキャンキャン吠えても滑稽なだけですよ?」

時雨「フッ!!」


下手で投げられた予備のクナイは北谷菜切の整った顔に向かって真っすぐ飛ぶ
彼女は眼前まで迫ったそれを短刀で弾き、火花と衝撃に顔を顰めた
89 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:24:12.98 ID:dM7WlOBF0
時雨「叩いた大口に見合うだけの実力を見せてみなよ!!」

北谷菜切「まぁ怖い。子犬の皮を被った羆でしたか」


時雨は素早く間合いを詰め、クナイを振るう。北谷の短刀とぶつかり、甲高い音を響かせた
音と火花は連続し、時雨が二歩前に進めば、北谷がまた二歩押し返す一進一退の攻防


( T)「……」


振り返って部屋の中を確認する。残念ながら茂名大尉は既に消えていた
時雨は実に楽しそうにじゃれ合っているが、遊んでる場合では無いのだ。急いでめいじ館に戻らねばならない


( T)「……」


('(゚∀゚∩


持ってきてよかった名前は伏せるが爆発物くん
スイッチを入れ、部屋の中に放り込み扉を閉めて伏せる


( T)「時雨ェ!!」

時雨「なn」


数秒もしない間に、爆風により扉が吹き飛ぶ。熱風と共に俺の背中を掠め


時雨「っとぉ!?」


寸での所で躱した時雨を通過し


北谷菜切「なっ……きゃあッ!?」


反応が遅れた北谷菜切と衝突し、階下へと消えていった
90 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:25:10.81 ID:dM7WlOBF0
時雨「ひっ……とこと言ってよ!!死ぬとこだ!!」

( T)「礼はいい。とっとと逃げ太郎」

時雨「ハァ!?」

( T)「なんでもない」


一階からは悲鳴と、出口へ向かうであろう大勢の足音が建物を揺らす


( T)「やっぱりナオルヨ君なんだよなぁ」


名前は伏せるが爆発物は、目論見通り贅を尽くした部屋を見晴らしの良いテラス席へと変貌させてくれた
匠の技が光っている。これはブランチマイニングも捗りダイヤツルハシのエンチャントも幸運が付く


時雨「あのキモいオッサンもぶっ殺した?」

( T)「さぁな。降りるぞ」


軽く助走をつけて飛び、五点着地で落下の衝撃を殺す
大通りは逃げ惑う客と集まり始めた野次馬によって既にパニック状態だ


時雨「提督、建物が」


気持ち悪い外装をしていたはずの『洋食屋』は、普通の洋風建築へと姿を変えていた
と言っても、俺達が飛び出した二階部分はほぼ全損。直に崩れ落ちるだろう
逃げ遅れた客?知るか。ヤク中にはお似合いの末路だろ


時雨「追ってくるかな?」

( T)「わからん」


足早にその場を去る。何度か後ろを確認したが、追手の姿は見当たらない
逃がすか?黒幕を掴んだ俺達を、陸軍が。茂名より階級が高い上層部が命じたとしても、御華見衆に報告すればほぼ詰みに陥ると言うのに
91 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:26:57.79 ID:dM7WlOBF0
時雨「提督は信じるの?陸軍が特異型を握ってるって話」

( T)「なんで?」

時雨「だって特異型は禍憑にとっても脅威となるから破壊対象なんでしょ?」

( T)「話を聞いてないようで聞いていて、やっぱ聞いてなかったんだなお前」

時雨「食べラーかな?」

( T)「先生は脅威となる『可能性』と言ったんだ。現れたモノが脅威確定とは言っちゃいない」

時雨「都合の良いモノも呼び込めるって事!?」

( T)「そこは運だろうな……茂名が俺達を『手違い』と言ったのは、その辺に理由があるんだろうぜ」

時雨「もう!!はた迷惑な話だよ!!」

( T)「全くだ……だが、やっぱり引っかかる」

時雨「何が?」

( T)「何故、今になって陸軍が俺達を取り込み、懐柔しようとしたのか……?」


俺は情報と武器を提供し、陸軍の内情を暴こうとした。当然、めいじ館の監視下にある俺達にそうすんなり話すわけがない
等価交換。リスクに見合ったリターンがあって、取引は初めて成立する。だが茂名はリスクに見合ったリターンを要求しなかった
『無抵抗』、それだけだ。どう考えたって割に合わない。俺達が打算だけで動くような連中なら、とんとん拍子で済んだのだろうが……


( T)「断られる可能性だって考慮したはずだ。なのに、何故……?」

時雨「今そんなこと考えたってしょうがないじゃないか!!サイは投げられたんだよ!!」

( T)「重要な事だ。俺は一体、何を見落として……」

時雨「それより、小夜と早く合流しないと……どこ行ったんだよあの地獄少女!!」


その時、夜の薄暗闇が一瞬、花火が散ったようにパァっと明るくなった


時雨「っ……!!」

(;T)「あれは……」


続けて二度、三度と。熱風と共に光を放つ柱が立ち上る
その正体は、最も原始的な灯り。『火』によって構成された火柱だった
こんな芸当が出来る人物を、俺達は一人……いや、二人しか知らない
92 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:28:56.55 ID:dM7WlOBF0
(;T)「若と城和泉だ!!行くぞ!!」

時雨「うん!!」


火を放つ巫魂を持つ『城和泉正宗』。そして彼女が放った火を自在に操る稜威能力を持つ巫剣使い
俺は一度見たきりだが、繊細で卓越した技術には目を奪われた。そんな彼らが

全てを焼き尽くさんばかりの火柱など、立ち上げるだろうか?


(;T)「クソが!!もう帰って寝てぇよチクショウ!!」


炎から少しでも遠ざかろうと逃げる人の波に逆らって走る。嫌な汗と胃の不快感が抑えきれない
ただでさえ普段は頭使わずに済むクソ事件ばっかだってのに、なんだよこの怒涛のシリアスは!!


時雨「いた!!城和泉!!」


家屋がチリチリと燃え始める中で、城和泉と思わしき少女が刀を振り上げている
その傍らには、横たわる黒いセーラー服、見覚えのあるマフラーを巻いた女の子―――


(;T)「小夜ォ!!!!!」

時雨「そのまま行って、提督!!」


駆けだした俺の脇を、クナイが通り過ぎる。少女は小夜に振り下ろさんとしていた刀を防御に使わざるを得なくなった


(;T)「ドラァッ!!」


トラースキックを放つが、これも肘で受けられる。だが勢いまでは殺せず後退した隙に小夜を抱え上げた


(;T)「小夜ッ!!」

小夜左文字「う……に、逃げ……」


服が所々破け、覗く肌には幾つかの火傷。握る短刀の刀身はボロボロだった
これが『刃こぼれ』か。巫剣が戦闘によって著しく傷つくと陥る瀕死の状態。艦娘で言う所の『大破』
93 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:30:14.41 ID:dM7WlOBF0
(;T)「なんでお前が城和泉と戦ってんだ!?何があった!?」


「お、あ、あ、あああああああああ……」


『城和泉』は吐き気を抑えるかのように苦しみ始める。傍らに、彼女の主は居ない
目元は『鴉』を模した面で隠されている。『禍要柱』の、装飾によく似ていた


小夜左文字「錆……憑……」

(;T)「は……?」

小夜左文字「錆憑に……なりかけている……巫剣じゃ、ないと……祓えない……!!」


「あ、あ……」


時雨「城、和泉……?」








「ああああああああああああああああああああるううじいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!」







燃え広がり始めた街で、『城和泉』は吼えた
流した涙すら蒸発しそうなほどの熱を放ち、身を引き裂かれるような悲痛を込めながら―――――
94 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:30:55.50 ID:dM7WlOBF0











第三章へ続く
95 : ◆L6OaR8HKlk [sage saga]:2018/06/12(火) 14:36:41.77 ID:dM7WlOBF0
終わりです。お疲れさまでした

ウンコして寝ます
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 15:40:10.58 ID:1F8MyWKjO
蘭子「混沌電波第172幕!(ちゃおラジ第172回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1528712430/
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 16:09:13.28 ID:GWXN+28E0
乙。
マッ鎮読みに来たらクトゥルフ神話が始まった………
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 20:04:18.29 ID:/5PEKKo20


>鹿島とか連れてきたら
誰彼かまわず男梅布教してたんじゃね?
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 20:28:13.50 ID:zzWhOoTWo
おっつ
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/13(水) 02:31:04.94 ID:C4x7T9sA0
おつおつ
やっぱり面白い…と言うより転移のきっかけがそうなるとはw
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/10(火) 00:45:35.86 ID:+2vAHbSlo
おつおつやっと追いついた
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