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【ミリマス】彼女はその手を繋ぎたい
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1 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/06/09(土) 09:08:45.99 ID:92nMLp/t0
===
新参者のこの私が、765プロライブ劇場に
『お昼寝部』なる活動の存在があることを知ったのは、
歌を教え教わる先生と生徒の立場でありながらも、
同時に、アイドル仲間でもある環ちゃんとお話してた時。
「みんなで色んなトコ行って、遊んでから、眠るんだぞ!」
いつでも元気一杯の環ちゃんは、
その時も説明をしている間ずっと忙しなく体のどこかをぴょこぴょこさせて。
身振り手振りのその度に、彼女がたてがみのように括っている長い髪の束が、わさわさ。
三時のおやつにと用意されたケーキを食べるのと、
お話をすることの二つを同時にこなそうと無茶するから、
テーブルの上には口の中に入れ損なったスポンジなんかが、ぽろぽろ。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1528502925
2 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/06/09(土) 09:10:58.52 ID:92nMLp/t0
「ふふっ。環ちゃんのお話を聞いてるだけでも楽しいってことよく分かるわ」
「ホントに? かおり、ラジオで話しても大丈夫かなぁ」
「ええ、きっと」
傍にあったティッシュでその口元を拭ってあげる中、
「今度のトーフ番組? で話すんだ〜」なんてニコニコ笑顔の環ちゃんへ、
「ならこれは私からの応援代わりね」と、彼女の食べかけケーキのその上に、
私は苺の形をした太鼓判を押してあげるのでした。
「……いいの、かおり?」
「うん! それを食べて、お仕事しっかり頑張って」
「ん〜、ありがとっ! かおりは優しいな〜♪」
……でも、ラジオじゃ環ちゃんの可愛い動きを伝えられないことが残念。
こんなに見ている人の気持ちをポカポカさせる笑顔を届けられないのも。
「勿体ないと、思いません?」
だから私、おやつを食べ終わる頃にタイミング良く
様子を覗きに来たプロデューサーさんへ思ったことを伝えたんです。
すると彼は、「だぁーいじょうぶです!」と自分の胸を一叩き。
3 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/06/09(土) 09:12:24.63 ID:92nMLp/t0
「まーかせてください。バッチリ抜かりはありませんよ」
「というと?」
「ラジオと言ってもウェブラジオ。
動いてる環の魅力なら、俺だって重々承知のうえですとも!」
自信満々、鼻高々、まるで娘を自慢する父親のようなその姿が、
良く知っている男の人と重なって見えたものですから。
「……ふふ、プロデューサーさんって、良いお父さんになれそうな人ですよね」
つい口走ってしまった言葉を受けて、彼の目は大きく見開かれたのでした。
……傍で聞いていた環ちゃんが首を傾げて尋ねます。
「おやぶんは良いおとーさんになるの?」
「いやぁ、そういう予定は――」
ですが彼女は、歯切れの悪いプロデューサーさんの言葉も終わらないうちにくるりと私の方を振り返って。
4 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/06/09(土) 09:14:43.93 ID:92nMLp/t0
「だったらかおりもめちゃんこ優しいから、きっといいおかーさんになれるよね!」
くふふと無邪気なその笑顔は、時に、人を真っ赤な苺のように変えるみたい。
――お母さん、母親に、私が――
そ、それはその、私だって一人の女ではありますから、
いつかはそういう役目も回って来ると考えたことが無いと言ったら嘘になります。
だけど、その前には色々やらなくちゃいけないし、まず結婚しなくちゃならないし、
結婚するにはそもそもお付き合いしている相手が必要で――第一父が何と言うか。
だって私が学生の時分から、男女の交友には強く目を光らせ続けてる人ですもの!
……なので私は、正直父以外の男性の手をしっかり握ったことすら無く。
思わず空いてる自分の手をチラリ。
その、視線を動かす仕草が答えをはぐらかすように映ったのか。
「まっ、まさかそんな予定があるんですか!?」
息を飲み、身を乗り出して、突然思考に割り込んで来る慌てた声、いいえ、彼。
5 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/06/09(土) 09:16:51.66 ID:92nMLp/t0
「あ、ありません! 無いですそんな!
――私、男の人と付き合ったことさえ一度だって……」
その勢いに大変驚かされてしまって、
不自然なぐらい、みっともなく取り乱したりもしてしまって。
恥ずかしさと自分自身への呆れで増々頬が、熱くなる。
でも、プロデューサーさんは私の反応に何だか胸を撫でおろすと。
「な、なんだ、そうですか……良かった」
「良かったって、何がです?」一拍置くことすら忘れてあわてんぼう。
怪訝そうに訊き返してしまう、私。
すると彼は、どう説明したものかと悩むように頭を掻きながら。
「いえね、他意は無いんですよ。ただほら、今の歌織さんは――アイドルですから」
――彼の口にしたその言葉は、私を頷かせるのに十分過ぎる程の力を持っていました。
確かに、アイドルを生業としてる人間が異性とお付き合いしてるだなんて……良くないことだと分かります。
でもそれは、世間に向けた暗黙の了解。
実際裏でどうかなんて、わざわざ触れない周知の事実。
現に目の前にいるこの人ですら、自分より遥かに年下のアイドル達から少なくない好意を寄せられていて
――私より年上のこのみさん曰く、「あれはお気に入りの玩具扱いよね」なんだそうですが――
事情を知らずに傍から見れば、いたいけな少女たちをはべらせている典型的な悪い大人(ひと)。
だけどそこまで好かれてしまうのは、彼が誰にでも公平だからかもしれません。
裏表も、隠してるつもりでお尻が見えてる人ですし。
6 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/06/09(土) 09:18:24.03 ID:92nMLp/t0
「……それでももし、誰かとお付き合いしてるって事実があったなら、
言い出し辛いかもしれませんけど俺に一言言ってください。
……勿論、そのせいで歌織さんに事務所を辞めてもらうとか言う話では無いですけど」
そうして時々はこんな風に、人をドキッとさせる言葉を下さるんです。
私は、まるで隠し事を悟られた少女のように肩を震わせると。
「疑っていらっしゃるのですか? ……私が、嘘をついてると」
「まさか! そうじゃなくて、支障が出ない方向へ活動をシフトさせますって話がしたいんです。
アイドルの肩書きを外したって、女優業だとか、モデル業だとか。
ウチはアイドル事務所である前に、芸能事務所でもありますから!」
「……プロデューサーさん」
彼の強い口調に押される形で、私は小さく口ごもると。
「お言葉ですけど私、演技は上手じゃありませんし、見た目に自信があるワケでも――」
でも彼は、そんな私の発言を黙って良しとはしませんでした。
立ったままで力み過ぎたのか、二人の間にいた環ちゃんの肩へ
押さえつけるように両手を乗せて、さらに大きくその身を乗り出して。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/09(土) 09:18:58.02 ID:CPDm4cixO
愛梨「さあ行こう、空の果 てへ!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1519427437/
久美子「永遠のレイ」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1520033314/
伊織「誰が魔王サーの姫 よ!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1520637298/
エミリー「修正…悪しき文 化ですね」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1521241832/
奈緒「何で関西弁=恐竜やねん!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1521850482/
常務「新制限を全て撤回。 白紙に戻す」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1522451692/
千夏「このTGはテックジーナスじゃないの?」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1523058431/
礼子「大人の魅力で破滅さ せてあげる」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1523661962/
フレデリカ「恋人は校庭のパラディオンだよー」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1524265978/
海美「竜騎士の結束を見せちゃうよ!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1524871125/
志保「茶運びといえばカラクリだよね!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1525475657/
茜「みんなで勝鬨を上げちゃおう!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1526133608/
桃子「この金の城いい踏み台だね!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1526686132/
美紗希「化学反応式も女子力よ!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1527292985/
小鳥「アリガトウワタシノデッキ」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1527896333/
柚「狩らせてもらうよ。キサマのぴにゃンバーズ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1528498815/
8 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/06/09(土) 09:19:47.47 ID:92nMLp/t0
「自信が無いだなんてとんでもない! アナタはとても素敵な方だ。
歌織さんが伸びやかに歌う姿は春風のように心地よく人の視線を惹きつけるし、
ひとたび衣装を纏ってステージに立てば、ライトアップされたダイヤモンドにも負けない輝きを放ちます。
雅やかな雰囲気を感じさせるトークは耳障り良く渇いた心に染み渡り、さらには時折見せるはにかんだ笑顔!」
言って、今や熱狂的な講演者さながらに両の拳を振り回す彼が私のことを指さします。
そうしてそんなことをされてしまえば誰だって、
自分の意志とは関係なしにうっかり微笑み返してしまう物でしょう?
「その笑顔がとても美しい!! 少女のような愛らしさと、確かに感じる大人の色香……。
その二つが混ざり合った様は、まるで稀代の芸術品のように洗練された美の極致です! ――なぁ環!?」
「えっ!?」
「環だって、歌織さんの笑顔は好きだよな! なっ?」
9 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/06/09(土) 09:21:13.27 ID:92nMLp/t0
プロデューサーさんは(怖いぐらいに)興奮気味に捲し立てると、
環ちゃんと目線を合わせるため膝を折ってその場に素早く屈みこみました。
思わず半歩身を引く環ちゃん。
でも彼女は、「う、うん」と小さく頷くと。
「おやぶんの言ってることはよくわかんないけど――でも、かおりの笑顔ならたまきも好き!」
彼女が期待通りの答えを返したからか、満面の笑顔でわしゃわしゃと、
プロデューサーさんは目の前の"こぶん"をいい子いい子してあげます。
するとみるみる蕩けてしまうように、顔をほころばせていく環ちゃん――可愛い……じゃなくてズルい! で、でもなくてっ!
私はある少女をお手本に両手を自分の腰に当て、少し恥ずかしいけど偉そうに小さく胸も張って。
大人同士の話し合いに、こんな子供を介入させるなんて卑怯な人、この恥知らず!
……そういう気持ちを視線に込めたなら、丁度都合よく跪いている彼のことを見下すように一瞥する。
10 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/06/09(土) 09:22:37.76 ID:92nMLp/t0
「……まぁ! お上手ですこと」
さらには少し強めの皮肉も投げつけちゃう。
ふふっ、このぐらいの大人の駆け引きは私にだってできますもの!
あんな見え透いたお世辞で言い包められてしまうほど私はちっとも子供でなく――。
「くふふ、かおりも嬉しいんだ!」
「ふぇっ?」……なんて、環ちゃんに言われて変な声が。
「だって褒められたーって顔してる!」
「分かって貰えたみたいですね! 俺から見た歌織さんがどれほど素敵な方なのかを!」
「えぇっ!? そんな、私、そんなつもりじゃ……」
途端、思わず両手を頬に当てて、虚勢もたちまち消え失せて。
私は今、自分がどんな顔をしているのか無性に確認したくなって――
ああ、でもでもそれを知るのはとっても怖い。
あれほど悪い人だからと自分に言い聞かせておいたのに、
それでも褒められたから嬉しいだなんて歌織ったら……もう! 一体どこまで単純な女なんでしょう!!
11 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/06/09(土) 09:23:05.57 ID:92nMLp/t0
ここまで。
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/09(土) 14:32:26.90 ID:p9/iV7FsO
読み応えあってアイドルが自然に動いててすき
13 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/06/10(日) 10:05:45.99 ID:xrfaXa2T0
===
そんな今思い出してみたって恥ずかしい、
自分の丸め込まれやすさというものを嫌と言うほど味わった一件からしばらく。
もっと大人にならなくちゃ。そう心に誓って劇場での日々を過ごす私のもとに、
プロデューサーさんがあるお仕事のお話を取って来て下さいました。
「歌織さん、恋人になりましょう!」だなんて、心底こちらを驚かせるような言葉と共に。
「こっ、恋人にですかっ!?」
応える声が裏返っているのが分かります。
おまけにそれが、どれほどリラクゼーションルームの中で響いたのかも。
すぐさま目の前の彼が慌てながら、先ほどの発言を打ち消すように手を動かし。
「ああ、いえ、誤解しないでください! 今のは別に、告白とかそういうワケじゃ」
「も、勿論――勿論ですとも?」
「雑誌の企画なんですよ。テーマが『恋人とのデート』っていう」
説明されて少し安心。
……ところが、彼の大きな大きな言い訳で、
部屋のあちこちからはホッと安堵のため息が聞こえて来る。
その空気を感じ取るだけでも、目の前の男性が常日頃から
どれだけ無作為な優しさを辺りにばら撒いてるかが分かります。
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