橘ありす「人生の墓場へようこそ」

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35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/09(土) 01:36:25.54 ID:nQ1lBJi/O
>>34が死んだ!
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/09(土) 14:23:26.36 ID:amLm+5oW0
このロクデナシ!
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/09(土) 21:41:13.23 ID:ZKbzZI8RO
たちばなさんはくーるだなぁ!!
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 22:22:35.18 ID:ZBeiBnMc0
   モバP「リザルト」



 ◇

つつがなく、といっていいのだろうか。
ちろちろ、と蝋の尽きかけた蝋燭に灯っていた炎が掻き消えるように静かに。

ありすは最後の現場を終えた。
かなり昔から、それこそ彼女が小学生の頃からあれこれ手掛けていた、規模こそ小さなラジオトークの番組ではあったが、それゆえに思い入れのある番組だった。

入念に準備を進めていただけあって、終わるときは静かで。

当然、波風が立たなかったわけではないけれど、波乱万丈というほどでもない。

例えるならば、『一時期すごく話題になったタレント』といったあたりか。
この結果が失敗だったのか、成功だったのか。

俺にはなんともいえない。

――まだ上にいけたはずだ。
そんな風に今更になってそんなことを思うこともある。

だけれど、それだけの時間をかけて、彼女は子供から大人に。
気づいた時には大学受験を終え、今となっては橘ありすは大学生になっていた。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 22:23:54.68 ID:ZBeiBnMc0
   橘ありす「リザルト」



 ◇

私は、少しだけ強欲だ。
こんなことを言うと軽蔑されてしまうかもしれないけど、自己顕示欲だって少なからずありますし。

歌うことも好き。
踊ることが好き。
喋ることも好き。

そして、プロデューサーが大好きだ。

それに学生生活だって私にとってはみんなが言うほど嫌いなものじゃない。
ユニットを組んだ同じアイドルの友人だっているし、どうでもいいことを話して盛り上がる学校の友人だっている。

ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、と掌を伸ばして。
私は抱えられるだけぜんぶ、大事なものぜんぶを抱え込んだ。

だから、最後の時にどんな顔をするか、決めていたんです。

普段あんまりしないような、にたりって感じで笑いながら、プロデューサーに言ってやるんです。



「どうですか。 私もなかなかやるものだったでしょう?」



なんて。
それがきっと、一番今の私らしいと思うから。
40 : ◆yIMyWm13ls [saga]:2018/06/09(土) 22:28:10.15 ID:ZBeiBnMc0
ここまで。
次回、タチバナさんのクールが弾ける(予定)。

それと、あとちょいで多分完結になります。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 01:48:43.10 ID:C8T+nm/10
おつー
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/10(日) 18:58:28.82 ID:UsdkgY1f0
   《モバP「記憶のタイムカプセルはたいてい地雷と表裏一体」》



 ◇

「なかなか面白いものだと思いませんか? 私ももう大学生ですし、あとちょっとでお酒だって飲めるようになるんですよ」

「……実はこっそり舐めるぐらいはしてたりするんじゃないか?」

「そういうつまんないことで最後にケチつけられたくないですから。私はそういうの徹底してるんです」

「流石、しっかりしてらっしゃる」

事務所の丸テーブルの上には大量の近所で買い集めてきた総菜やら菓子やらがぶちまけられている。

まるで学生同士のような二人だけのちょっとしたお疲れ様の労い。
……では、あるのだが。小規模なものでもこの物量はなかなかのもので、余った大量の食品は多分俺があれこれ手を尽くして悪くしながら保存しながら消費することになるだろう。

ちょくちょくこういったことをするようになってから思い知ったのだが、お菓子とかに入ってるシリカゲルの乾燥剤とかとっとくと本当に便利。

たった二人だけでこれなのだから、パーティーやら行事やらでの世界的な食糧廃棄も増える一方なのだろうな、なんて。
どうでもいいことに少しだけ思考を巡らせる。

「……というか、私のプロデューサーなんですからそんな面倒ごと引き寄せるようなことを言わないでください」

「ごめんごめん」

なげやりな言葉での謝罪をとばしながら。




いくら大人が俺だけといっても、昔から酒類は事務所には置かないように気を付けているのだが、今日くらいは、と買い込んできた缶ビールを一口、煽る。

実のところ、お酒は強くもないし、そもそもの話、あまり好きでもない。
味覚が子供、と昔からありすからは散々にからかわれているのだが、こればかりはどうにもならなかった。
わざわざ他人に言うことでもないし、恰好のいいことでもないので、そのことを知っているのは両親とありすくらいだろうか。

舌が痺れるような苦みと渋みが脳みそにじわじわと浸透してくるような不快感。

―――なんだかな。

アルコールのせいなのか、なんなのか。
胃の中からせりあがってくるような仄暗い感情。

結局、最後に俺はひとりぼっちになるのか、なんて。
ひどく女々しい感情に喉元を締め上げられているような気がする。
情けなくて、申し訳なくて、純粋にダサい。

分かっている。
慣れないアルコールに逃げて、今だけは、と忘れていたいだけなのだ。

それでも、求めている効果は発揮してくれているのか、いい具合に思考の枷は緩んでいるし、どうにか黒い胸のうちを明かすことなく喋れている気がする。

「ほら、昔はたまに大人になったら結婚してくれる、みたいなこと言ってたじゃん」

些細な思い出話に華を咲かせて、それでおしまい。それでいいじゃないか。

「ふぇっ!?」

ちびちびと、紙コップに注がれたオレンジジュースに口をつけて飲んでいたありすがひどく動揺した声をあげる。

最後くらいは、なんて内心思いながら。
とっておきの記憶を開帳してやる。

「『あぁ、これが小学校に赴任してきたちょっと人気のある若い信任教師の気分かぁ』……なんて。当時はいつかありすが大人になったときにこの話を話してイジってやろうかな、なんてさ」

「…………は?」

「子供相手とはいえ、なかなかどうして、俺も捨てたものでもないんじゃないか、って気になったもんだよ。はは」

「……………………へぇ」

『わ、笑わないでくださいっ!』って感じで、不機嫌そうに、少しだけ照れたような顔をみせてくれれば、きっとそれ以上はない。

そんな風に考えながら俺は改めて、ありすへと視線を向けた。

胸に渦巻く感情の泥をなんともないように振り払って、笑え。せめて、今だけは。



願わくば。最後くらいは。
キミの往く先に幸あれと祈る、俺でありたい。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/10(日) 19:04:18.52 ID:UsdkgY1f0
   《橘ありす「それは考えてみれば当然で、必然で。だけれど私の障害足りえません」》



 ◇

子供だからだ。
子供の言うことだ。
子供のすることだ。

そんな言葉が嫌い。嫌いだ。大嫌いでした。

「『あぁ、これが小学校に赴任してきたちょっと人気のある若い信任教師の気分かぁ』……なんて。当時はいつかありすが大人になったときにこの話を話してイジってやろうかな、なんてさ」

「…………は?」

だからこそ、私の頭が一瞬フリーズしたのは当然で、必然で。

だけれど、問題なのは、大人になった今の私にはプロデューサーの理屈も理解出来てしまうことでした。

もう少しだけ、私が幼ければ、喚き散らしたかもしれないですけど。
……今は、そうじゃない。

「子供相手とはいえ、なかなかどうして、俺も捨てたものでもないんじゃないか、って気になったもんだよ。はは」

ビールの缶を握って、プロデューサーがアルコールが回っているのか、ぎこちない笑みを浮かべている。

「……………………へぇ」

こちとら、子供のころからいつだって真剣なのです。

大事なもの、抱え込んだなかで、一番大切なもの。

それが零れ落ちたなら。
何度だって手を伸ばして拾い上げればいいだけの簡単な話でした。



そして―――なによりも。

“ただの橘ありす”を縛るものなんて、ただのひとつもありはしないのですから。

「プロデューサー」

私は持っていた紙コップをテーブルに置いて、テーブルの反対側に座るプロデューサーの元へと歩きだした。

「私は――」

ですから、おとなしくあきらめて――。

「私は昔も今もあなたのことが大好きです」

「へっ? あぁ、もちろん俺も―――」

「勿論、男性として好きって意味で言ってます」

「…………へ? ……えっ?」

――私のものになってください。

腰掛けたままのプロデューサーの肩に私は片手づづ乗せる。
動揺に彷徨うプロデューサーの瞳を私はまっすぐに見つめる。

そして、羞恥心を捻じ伏せるように。
私は勢いよく、彼の唇に口付けた。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/10(日) 19:05:27.82 ID:UsdkgY1f0
からん、からん、と。
そんな音がして、プロデューサーの持っていたビールの缶がその掌から零れ落ちて、小麦色の液体がテーブルに広がっていくのが視界の端に映った。

どくん、どくんと私の心臓が勢いよく跳ねるのが自然と分かりました。

もう、勢い任せの行動に頭の中はまっしろです。
理性がトンでいる間に唇と唇は離れていて、気づけば私はプロデューサーと見つめあってました。

なにを話そうとしたのか、ほぼ無意識に口を開いてから、ようやく気づきました。
刺激物質じみた苦みが舌を通して口一杯に広がる感覚。

テーブルの上からカーペットにぽたぽたと零れ落ちている小麦色の雫。
その残滓がプロデューサーを通して伝わってきたのは明確でした。

「…………うぇ。にがっ。まずぅっ…………わたし、はじめてだったのに……」

……はじめて。生まれてから覚えている限りはじめてのキスだったのに。
どうしてこんなことになってしまうんでしょうか。

「……ぷっ、……はははは」

「なっ……!? はぁっ!?」

一世一代。一世一代の私の告白ですよ。
だというのに……! この人ときたら笑っていました。

「わ、笑わないでくださいっ!」

――私だって、怒るときは怒るんですよ!

「……受け入れてくれるまで一生付き纏ってやりますから」

荒れ狂う感情の波を飲み込んで、精一杯の不機嫌を表情に乗せてから、プロデューサーを睨む。

「一生ですよっ、いっしょうっ!」

睨む私は見て、プロデューサーは先ほどとは少しだけ違う、見たことのない類の笑みを見せた。

困ったような、だけれど少しだけ嬉しそうにも見えるような。
今の私にはその表情がどんな感情を顕しているいるのかは、わかりませんでした。

だけど、私を涙すら浮かぶほど笑いものにしていたのか、私は気づきませんでしたけど、プロデューサーが目元に浮かんでいたらしい涙を拭っているのは分かりました。

“参ったなぁ”なんて小さく囁くプロデューサーを私はジトっとした目で睨み続けました。
……いや、女の子の告白を参った、参ったってなんですかっ!

とはいえ、拒絶の意思は感じません。
だったらそれは、私にとっての肯定とそう変わりませんでした。
それだけの自信が、私にはありました。





 ◇





「ちなみに、私が十二歳の時から立ててた計画だと今から半年以内に同棲生活に移行して、その一年後には式を挙げる予定です。なので、遅くても今から半年以内に同棲に移れるくらいに急いで私のことを愛してもらいます」

プロデューサーの表情が初めて引き攣った。





          橘ありす「人生の墓場へようこそ」 END
45 : ◆yIMyWm13ls [saga]:2018/06/10(日) 19:06:44.61 ID:UsdkgY1f0
これにて完結。
ここまで読んで頂いた皆さんに感謝感謝。
手をひいていたあの子にいまは手をひかれて、って感じのが書きたかった(書けたかは不明)
では、またどこかで。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 19:08:09.03 ID:Hd5uXm4Co
乙乙リアルタイムやったー

キレ攻勢、しかし締まらない感じもオチもほんと好き
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 19:12:02.23 ID:O90AFp6lo
いいねえ…いかにもありすらしい感じでとてもよかった
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 19:20:16.34 ID:cUy3bCyFo
幸せな結末だな
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/11(月) 01:57:30.80 ID:US97xEfLo
さすあり、六年越しの計画成就するとは

さあ、ひじりんとよしのんも書くんだよ
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/11(月) 03:10:57.11 ID:yaltlBEZO
おつおつ

この最後の最後に締まらない感じがほんとクール橘。
………ところで同棲編は?
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/13(水) 06:09:27.95 ID:f0Hw3DES0
おつー
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/14(木) 19:15:32.43 ID:TXSLe9Ujo
おつ
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