橘ありす「人生の墓場へようこそ」

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15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/05(火) 20:05:29.65 ID:LtxUaTygo
心理描写だけで可愛い
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/06(水) 05:47:05.33 ID:tfnsu6Oi0
   《モバP「出来れば、気のいいお兄さんくらいには思われてたらいいな」》



 ◇

いやいや、とするように。
俺の視線を遮るように紅潮する頬を掌を広げる。

その仕草もまぁ、愛らしいというか、なんというか。
ふとした瞬間に、流石はアイドルだな、と思い知らされる。

――じゅるる。と。
一瞬だけそんな不思議な音が耳に届いた気がした。

うっかり引っ掛けて、デスクからなにか落っことしでもしたのかと、机の下を覗き込むが、特になにかがあるわけでもなく。

「……気のせいか」

まぁ、そんなこともあるだろう。

一つ嘆息。
それと同時になぜかありすのほうも「ふぅ」と溜息を吐いていた。
不思議と重なった些細な仕草に妙な親近感を覚える。
これが、気が合うというやつなのだろうか。

しかし、十以上歳の離れた女の子相手にこんな言葉を使うのも本人から嫌がられてしまうかもしれない。

まるで思春期の娘を抱える父親のような思考。
これまた、全国のお父さんがたになにを知った気になっているんだ若造が、と怒られそうで。

結局のところどっちつかずな微妙な自分の立ち位置に渋い気持ちになって。

なんとなく、俺は机の端に乗せていた紙パックの飲料から飛び出したストローに口を付けた。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/06(水) 05:49:25.20 ID:tfnsu6Oi0
   《橘ありす「法的に結婚出来る年齢と倫理的に結婚が許される年齢が違うのって納得いかなくないですか?
    その点、未成年でも問題なく結べる婚約って本当に優秀で流石、小説、漫画とか様々な媒体で長年……あっ、もうちょっと喋る枠」》



 ◇

「なんだか珍しいもの飲んでますね」

ふと、気づいてプロデューサーに声を掛ける。

「……そう?」

彼ははて?と言わんばかりに首を傾げる。
のんびりと紙パックの中身を啜る仕草は特別面白いものでもないはずなのに、妙に面白いものに見える。

一瞬、心の中の乙女が「私がさっき涎を啜った音より静かに飲んでるじゃないですか」と、一瞬声をあげたのを黙らせる。バレてない出来事は存在しなかったも同義なのです。

『低脂肪』。
我々のような栄養管理に重きを置かなければいけない人種にとっての恩赦の言葉の刻まれたハンドサイズの牛乳のパック。
それから口を離してから、プロデューサーは口を離した。

「いや、なんか子供の頃は当たり前に飲んでて、大人になって飲まなくなると身体が消化しなくなるって聞いてさ、なんかさ……勿体ない気がして」

「勿体ないってなにがですか」

少しだけ困ったような顔して、それから神妙な顔つきでプロデューサーは再び口を開いた。

「……こう、消化酵素的な……胃……腸……腸内細菌……?いや、まぁ、どこで牛乳消化吸収してるんだか知らないんだけどさ」

時々、プロデューサーがひどく可愛らしく見えることがある。

これはあれ。あれなのです。
多分、惚れた弱みってやつなのです。
18 : ◆yIMyWm13ls [sage]:2018/06/06(水) 05:51:58.93 ID:tfnsu6Oi0
夕方くらいにまた書けたら(希望)。
>>14
ほんのりとかがっつり残念要素のある子大好きなんですよね。
あと、これ書くかひじりん(好感度カンスト)書くかよしのん(好感度カンスト)書くか正直悩んだ。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 09:25:41.76 ID:Te955zV6O
でも一番はありすなんだろ?
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 12:46:46.93 ID:YAoAlmxgo
>>18
ひじりん期待してる
よしのんもね
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 13:04:06.28 ID:JIrbdJWFo
>>18
イッチの新作に恋焦がれてた俺のためにも両方書いてくれ
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/06(水) 20:55:34.09 ID:tfnsu6Oi0
   《モバP「めっちゃいい子だよねこの子」》



 ◇

お偉いさんの言う、「キミもいい歳なんだから、家庭を持ったらどうだい?」って類の言葉ほど胡散臭い言葉もないような気がする。

というか、持とうと思って持てるもんなのそういうの。
こう、そういう活動してるの万が一、うちの橘お嬢様に知られたら「うわっ、こいつめっちゃガツガツしてるんだけど、こっわ」とか思われない?

いや、むしろ全くそういう素振り見せないほうが不自然で怖い感じなのだろうか。

仲のよさ、という面でそう、悪くない感じなんじゃないかな、とひっそりとは思ってはいる。
と、いうのも仕事の都合上交流のある人たちを見ていると比較的に、といった感じではあるのだが。

結局のところ中高生の女の子といい歳したお兄さんなので、尋ねにくいこともある。

ありすへと視線を向ける。
昔と比べれば、すらっと背丈も伸びて、顔立ちから幼さが消えた。

―――勿体ない。
一瞬だけ、そんな感情が浮かんだのを、慌てて振り払う。

ここではないどこか、普段から都合よく威を借りまくっているでかいところでデビューして、沢山の仲間たちに囲まれて夢を追い続ける。
そんな未来もありえた、いや、これからだって出来得ることだ。

橘ありすは未だ枯れていないのだから。

思わず、口が開いた。

「一個だけ聞きたいんだけど、さ」

「なんですか?」

「俺でよかったのか?」

ありすは、唐突な質問に瞳を丸くする。
そして、少しの間だけ思案する素振りをして、柔らかく微笑んだ。

「あなたがよかったんです」

正直、少しだけ泣きそうになった。
めっちゃいい子だよねこの子。

「……飲めない癖に外の自販機でブラックのコーヒー買って来てたようなお子様が成長したんだな」

「なッ!? あっ、……そ、そういうことは忘れてくださいっ!」

「今だから打ち明けるけど俺は恰好付けるためと外向きの時だけ平然とコーヒー飲んでたけど本当はコーヒー苦くて大っ嫌いだから」

「はぁっ!? 当時そのことで、すっごい私のことバカにしてたじゃないですか!」

「俺も若かったよね」

「若さアピールは免罪符じゃないです!……というか、なんで今更そんなこと打ち明けるんですか」

やや、ぶすっとした表情で吐き捨てるようにありすは言う。

「知っておいてほしかったんだよ。なんとなく」

「……へ?」

「もう少しだからほら、俺の汚点っぽいことも晒しておこうかなって」

思わず言葉が零れ落ちた。
長い付き合いの終わり、その最後を静かに感じつつあるからこそだろうか。

「…………もう少し、そうですね。くふ、もう少しですもんね」

なぜか、俺を見上げるありすの視線に熱っぽいものが混じったように感じた。

俺一人で抱えている女々しい感傷なのでは。
と、そうも思ってもいたのだが、そうでもなさそうで、思わず俺も頬が緩んでしまった。
23 : ◆yIMyWm13ls [saga]:2018/06/06(水) 20:58:21.75 ID:tfnsu6Oi0
ここまで。一個しか出来なかったーん……
なんかもう、いろいろありがとうございます。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/07(木) 01:42:34.91 ID:qYiSHT2x0
おつおつ
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/07(木) 06:23:24.76 ID:1Lc9JLtVo
乙乙

このすれ違いっぷりよ
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/07(木) 10:12:58.46 ID:0cZ7+1PgO
あんたか!!ずっと待ってた!!!
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/07(木) 14:10:20.44 ID:PuiVtxAIO
相変わらず読ませやがる
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/07(木) 23:24:41.65 ID:d7kJslco0
   《橘ありす「今、こいつクールタチバナというより脳内ピンクタチバナだろって言ったの誰ですか。正直に名乗り出てください」》



 ◇

―――――そんな。

雷が堕ちてきたような衝撃でした。
まるで、脳から突き抜けて、踵のあたりまで駆け抜けていったような。

無意識に私は生唾を飲み込みます。

プロデューサーの言葉が鐘の音のように幾重にも重なって脳内に響くのがはっきりと分かります。


知っておいてほしかったんだよ。なんとなく           ※原文ママ

――俺のことをもっと知ってくれ                ※恣意的解釈

――― 一生を共にするキミには俺のすべてを知ってほしい    ※逆難聴系主人公

―――――俺はキミのすべてを知りたい!            ※幻聴


思わず、口を開こうとしてふと、それに気づく。

演技なんかじゃなく、かぁっ、と頭に血が昇ってくる。
顔全体が火傷したみたいな熱を感じる。

よもや、そこまで……なんて。
冗談めかした言葉で、誤魔化したくなるような
そこまでなりふり構わない愛情表現をされてしまうとは思いませんでした。

つ、釣った魚にこんなにたくさん餌あげちゃって、……ど、どうする……どうしたいんですかねっ!もうっ!

「…………もう少し、そうですね。くふ、もう少しですもんね」

ふと、緊張からなのかひどく喉が渇いていることに気づきます。
ふらふら、と夜の街頭に虫が引き寄せられるように、私はプロデューサーのデスクに迷いのない足取りで歩みだした。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/07(木) 23:29:37.16 ID:d7kJslco0
   《モバP「キミの往く先に幸あれと祈る」》



 ◇

人生には幾つもの区切りがある。
それはなにかとの、誰かとの出会いだったり、学業的な区切りだったり、就職だったり。

きっと、これは俺にとってもありすにとっても一つの大きな区切りになるのだろう。

終わりを言葉にしてしまったからだろうか。

顔を赤くして、熱を持った視線は、未だこちらに向けられている。
その胸の中で攪拌されているだろうたくさんの感情を表しているのか、薄っすらと涙すら湛えているようにすら見えるそれ。

ずん、ずん、と足元を慣らすようにして、ありすはこちらへと歩いてくる。

そして、俺のデスクの上、散らばる文具を払うようにしてスペースを空けて、そこにどっかりと座り込んだ。
そう、平然と机の上に腰かけやがりましたよ。この子。

一瞬、思考が止まる。
ありすは、続いて俺の飲んでいた牛乳のパックを掴み上げて、ぎゅうっっと吸い込む。
勢いよくひしゃげる紙パック。
恐ろしい勢いで吸い出されていく白濁液。

こつん、と机の上に投げ出されるように転がる紙パック。
当然、すでに中身など残っているはずもなく。

「喉、乾いてたんです」

「だったら好きなの冷蔵庫から取ってきなさい。あと、行儀が悪い」

「……放っておいたらぬるくなっちゃうじゃないですか。ぬるくなったら美味しくないから私が処理してあげたんです」

―――ここまで挑戦的な感情を露わにしてくるのも珍しい。

そう思ってみてみれば、ありすはなにかを期待するようにじっとこちらを見てくる。
なにかを求められていた。

―――はて? 一体なにを?

正直、なにも浮かびはしない。

俺のその無言の姿勢に少しだけ、眉をひそめてから、ありすは口を開こうとして――。

「……もっと―――」

――言い淀んで、言葉を止めた。
そして、少しの思い悩む仕草を見せてから、再び口を開いた。

「もっと、餌をくれてもいいです……よ?」

餌。えさ。エサ……?
エサってなんだ。なんなの?お腹すいたの……?

どうしよう、なんか作ったほうがいい……?いや、そんなのより、なんか出前でも取った方がいいのかな。

取っ散らかった思考を必死で束ねていると、ふと、彼女が子供の時も時々誰でも分かるようなミスをぽろりと零して、俺をわざと困らせて反応を伺っていたこと思い出した。

あの頃は態度も固くて、警戒心全開のハムスターのようだった。
その癖、構われないとヘソを曲げてスネるのだから、あの頃から可愛かったな、とも思うのだが。

あの頃はどうしたのだったか、――そう。
握りこぶしの先で……こう、こつんっ、って感じで優しく小突いたんだっけ。

「こらっ」

懐かしくなって同じように小突いてやる。
いつものように子供扱いするな、と怒られるかと思えば、ありすははっとした様子で目をぱちくりさせる。

「……そうでしたね。まだはやい。もうちょっとですもんね」

そして、深呼吸をひとつ。

「プロデューサーのせいですからねっ!」

なぜなのか。

俺は少しだけたそがれた気持ちでデスクの上でくしゃくしゃになって転がっている牛乳パックを見やり、指の先でそれを小突いた。

べこべこになっているせいで、無軌道に転がる牛乳パックのように、年頃のキミの心も無軌道なのだろうか。
30 : ◆yIMyWm13ls [saga]:2018/06/07(木) 23:31:40.43 ID:d7kJslco0
一旦ここまで。
肉食系なおんなのこすき。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/08(金) 07:22:12.44 ID:xJAnQ3SSO
>>28
わたしです
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/08(金) 23:44:51.57 ID:/7MMeXOv0
   《橘ありす「あれこれ考えるより先に迷わず私の手をとるべきです」》



 ◇

あなたが私を使うんじゃなくて、私があなたを使うんです。


……なんて。
こつん、と額に感じた衝撃で一瞬だけ過去の私が蘇る。

今の私よりずっと背丈の小さな女の子。
半眼で、不機嫌そうにむっつりとした顔をして。

思わず苦笑いが零れる。

少しだけ懐かしい気分です。
まぁ、普通に黒歴史なんですけどね!

当時の年齢を考えても、我ながらすんごいことを言っていたような。
……いや、本当に、よく嫌われませんでしたよねこれ。

時々、思い出したみたいに絡んできて"テスト”だなんだと難癖をつける。
そんな小生意気な子供によくもまぁ……、と。

口元を小さく笑みの形にして、目を細めているプロデューサーも恐らくは同じことを思い出しているのでしょう。

いえ、まぁ、言ってしまえば私の"テスト”とやらは、結局、途中からあれやこれやと、好きな人にちょっかいを出してかまって貰いたいが為の口実と化してしまった訳ですが。

自分のことなんですけど、なんで子供ってあつらえたみたいにみんなおんなじことするんでしょうね……。
33 : ◆yIMyWm13ls [saga]:2018/06/08(金) 23:47:30.44 ID:/7MMeXOv0
投下ひとつだけ。

>>31
橘ありす「へ? ピンクはヒロインの色だから似合うと思った、ですか?
      ……なんですか。最初からそういってください」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/09(土) 00:27:47.45 ID:9GJUrNa30
(ピンクって本来は純情とかそういう意味だから、タチバナさんには相応しく…いや、よそう。俺のk(イチゴパスタを突っ込まれる音))
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/09(土) 01:36:25.54 ID:nQ1lBJi/O
>>34が死んだ!
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/09(土) 14:23:26.36 ID:amLm+5oW0
このロクデナシ!
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/09(土) 21:41:13.23 ID:ZKbzZI8RO
たちばなさんはくーるだなぁ!!
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 22:22:35.18 ID:ZBeiBnMc0
   モバP「リザルト」



 ◇

つつがなく、といっていいのだろうか。
ちろちろ、と蝋の尽きかけた蝋燭に灯っていた炎が掻き消えるように静かに。

ありすは最後の現場を終えた。
かなり昔から、それこそ彼女が小学生の頃からあれこれ手掛けていた、規模こそ小さなラジオトークの番組ではあったが、それゆえに思い入れのある番組だった。

入念に準備を進めていただけあって、終わるときは静かで。

当然、波風が立たなかったわけではないけれど、波乱万丈というほどでもない。

例えるならば、『一時期すごく話題になったタレント』といったあたりか。
この結果が失敗だったのか、成功だったのか。

俺にはなんともいえない。

――まだ上にいけたはずだ。
そんな風に今更になってそんなことを思うこともある。

だけれど、それだけの時間をかけて、彼女は子供から大人に。
気づいた時には大学受験を終え、今となっては橘ありすは大学生になっていた。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 22:23:54.68 ID:ZBeiBnMc0
   橘ありす「リザルト」



 ◇

私は、少しだけ強欲だ。
こんなことを言うと軽蔑されてしまうかもしれないけど、自己顕示欲だって少なからずありますし。

歌うことも好き。
踊ることが好き。
喋ることも好き。

そして、プロデューサーが大好きだ。

それに学生生活だって私にとってはみんなが言うほど嫌いなものじゃない。
ユニットを組んだ同じアイドルの友人だっているし、どうでもいいことを話して盛り上がる学校の友人だっている。

ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、と掌を伸ばして。
私は抱えられるだけぜんぶ、大事なものぜんぶを抱え込んだ。

だから、最後の時にどんな顔をするか、決めていたんです。

普段あんまりしないような、にたりって感じで笑いながら、プロデューサーに言ってやるんです。



「どうですか。 私もなかなかやるものだったでしょう?」



なんて。
それがきっと、一番今の私らしいと思うから。
40 : ◆yIMyWm13ls [saga]:2018/06/09(土) 22:28:10.15 ID:ZBeiBnMc0
ここまで。
次回、タチバナさんのクールが弾ける(予定)。

それと、あとちょいで多分完結になります。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 01:48:43.10 ID:C8T+nm/10
おつー
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/10(日) 18:58:28.82 ID:UsdkgY1f0
   《モバP「記憶のタイムカプセルはたいてい地雷と表裏一体」》



 ◇

「なかなか面白いものだと思いませんか? 私ももう大学生ですし、あとちょっとでお酒だって飲めるようになるんですよ」

「……実はこっそり舐めるぐらいはしてたりするんじゃないか?」

「そういうつまんないことで最後にケチつけられたくないですから。私はそういうの徹底してるんです」

「流石、しっかりしてらっしゃる」

事務所の丸テーブルの上には大量の近所で買い集めてきた総菜やら菓子やらがぶちまけられている。

まるで学生同士のような二人だけのちょっとしたお疲れ様の労い。
……では、あるのだが。小規模なものでもこの物量はなかなかのもので、余った大量の食品は多分俺があれこれ手を尽くして悪くしながら保存しながら消費することになるだろう。

ちょくちょくこういったことをするようになってから思い知ったのだが、お菓子とかに入ってるシリカゲルの乾燥剤とかとっとくと本当に便利。

たった二人だけでこれなのだから、パーティーやら行事やらでの世界的な食糧廃棄も増える一方なのだろうな、なんて。
どうでもいいことに少しだけ思考を巡らせる。

「……というか、私のプロデューサーなんですからそんな面倒ごと引き寄せるようなことを言わないでください」

「ごめんごめん」

なげやりな言葉での謝罪をとばしながら。




いくら大人が俺だけといっても、昔から酒類は事務所には置かないように気を付けているのだが、今日くらいは、と買い込んできた缶ビールを一口、煽る。

実のところ、お酒は強くもないし、そもそもの話、あまり好きでもない。
味覚が子供、と昔からありすからは散々にからかわれているのだが、こればかりはどうにもならなかった。
わざわざ他人に言うことでもないし、恰好のいいことでもないので、そのことを知っているのは両親とありすくらいだろうか。

舌が痺れるような苦みと渋みが脳みそにじわじわと浸透してくるような不快感。

―――なんだかな。

アルコールのせいなのか、なんなのか。
胃の中からせりあがってくるような仄暗い感情。

結局、最後に俺はひとりぼっちになるのか、なんて。
ひどく女々しい感情に喉元を締め上げられているような気がする。
情けなくて、申し訳なくて、純粋にダサい。

分かっている。
慣れないアルコールに逃げて、今だけは、と忘れていたいだけなのだ。

それでも、求めている効果は発揮してくれているのか、いい具合に思考の枷は緩んでいるし、どうにか黒い胸のうちを明かすことなく喋れている気がする。

「ほら、昔はたまに大人になったら結婚してくれる、みたいなこと言ってたじゃん」

些細な思い出話に華を咲かせて、それでおしまい。それでいいじゃないか。

「ふぇっ!?」

ちびちびと、紙コップに注がれたオレンジジュースに口をつけて飲んでいたありすがひどく動揺した声をあげる。

最後くらいは、なんて内心思いながら。
とっておきの記憶を開帳してやる。

「『あぁ、これが小学校に赴任してきたちょっと人気のある若い信任教師の気分かぁ』……なんて。当時はいつかありすが大人になったときにこの話を話してイジってやろうかな、なんてさ」

「…………は?」

「子供相手とはいえ、なかなかどうして、俺も捨てたものでもないんじゃないか、って気になったもんだよ。はは」

「……………………へぇ」

『わ、笑わないでくださいっ!』って感じで、不機嫌そうに、少しだけ照れたような顔をみせてくれれば、きっとそれ以上はない。

そんな風に考えながら俺は改めて、ありすへと視線を向けた。

胸に渦巻く感情の泥をなんともないように振り払って、笑え。せめて、今だけは。



願わくば。最後くらいは。
キミの往く先に幸あれと祈る、俺でありたい。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/10(日) 19:04:18.52 ID:UsdkgY1f0
   《橘ありす「それは考えてみれば当然で、必然で。だけれど私の障害足りえません」》



 ◇

子供だからだ。
子供の言うことだ。
子供のすることだ。

そんな言葉が嫌い。嫌いだ。大嫌いでした。

「『あぁ、これが小学校に赴任してきたちょっと人気のある若い信任教師の気分かぁ』……なんて。当時はいつかありすが大人になったときにこの話を話してイジってやろうかな、なんてさ」

「…………は?」

だからこそ、私の頭が一瞬フリーズしたのは当然で、必然で。

だけれど、問題なのは、大人になった今の私にはプロデューサーの理屈も理解出来てしまうことでした。

もう少しだけ、私が幼ければ、喚き散らしたかもしれないですけど。
……今は、そうじゃない。

「子供相手とはいえ、なかなかどうして、俺も捨てたものでもないんじゃないか、って気になったもんだよ。はは」

ビールの缶を握って、プロデューサーがアルコールが回っているのか、ぎこちない笑みを浮かべている。

「……………………へぇ」

こちとら、子供のころからいつだって真剣なのです。

大事なもの、抱え込んだなかで、一番大切なもの。

それが零れ落ちたなら。
何度だって手を伸ばして拾い上げればいいだけの簡単な話でした。



そして―――なによりも。

“ただの橘ありす”を縛るものなんて、ただのひとつもありはしないのですから。

「プロデューサー」

私は持っていた紙コップをテーブルに置いて、テーブルの反対側に座るプロデューサーの元へと歩きだした。

「私は――」

ですから、おとなしくあきらめて――。

「私は昔も今もあなたのことが大好きです」

「へっ? あぁ、もちろん俺も―――」

「勿論、男性として好きって意味で言ってます」

「…………へ? ……えっ?」

――私のものになってください。

腰掛けたままのプロデューサーの肩に私は片手づづ乗せる。
動揺に彷徨うプロデューサーの瞳を私はまっすぐに見つめる。

そして、羞恥心を捻じ伏せるように。
私は勢いよく、彼の唇に口付けた。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/10(日) 19:05:27.82 ID:UsdkgY1f0
からん、からん、と。
そんな音がして、プロデューサーの持っていたビールの缶がその掌から零れ落ちて、小麦色の液体がテーブルに広がっていくのが視界の端に映った。

どくん、どくんと私の心臓が勢いよく跳ねるのが自然と分かりました。

もう、勢い任せの行動に頭の中はまっしろです。
理性がトンでいる間に唇と唇は離れていて、気づけば私はプロデューサーと見つめあってました。

なにを話そうとしたのか、ほぼ無意識に口を開いてから、ようやく気づきました。
刺激物質じみた苦みが舌を通して口一杯に広がる感覚。

テーブルの上からカーペットにぽたぽたと零れ落ちている小麦色の雫。
その残滓がプロデューサーを通して伝わってきたのは明確でした。

「…………うぇ。にがっ。まずぅっ…………わたし、はじめてだったのに……」

……はじめて。生まれてから覚えている限りはじめてのキスだったのに。
どうしてこんなことになってしまうんでしょうか。

「……ぷっ、……はははは」

「なっ……!? はぁっ!?」

一世一代。一世一代の私の告白ですよ。
だというのに……! この人ときたら笑っていました。

「わ、笑わないでくださいっ!」

――私だって、怒るときは怒るんですよ!

「……受け入れてくれるまで一生付き纏ってやりますから」

荒れ狂う感情の波を飲み込んで、精一杯の不機嫌を表情に乗せてから、プロデューサーを睨む。

「一生ですよっ、いっしょうっ!」

睨む私は見て、プロデューサーは先ほどとは少しだけ違う、見たことのない類の笑みを見せた。

困ったような、だけれど少しだけ嬉しそうにも見えるような。
今の私にはその表情がどんな感情を顕しているいるのかは、わかりませんでした。

だけど、私を涙すら浮かぶほど笑いものにしていたのか、私は気づきませんでしたけど、プロデューサーが目元に浮かんでいたらしい涙を拭っているのは分かりました。

“参ったなぁ”なんて小さく囁くプロデューサーを私はジトっとした目で睨み続けました。
……いや、女の子の告白を参った、参ったってなんですかっ!

とはいえ、拒絶の意思は感じません。
だったらそれは、私にとっての肯定とそう変わりませんでした。
それだけの自信が、私にはありました。





 ◇





「ちなみに、私が十二歳の時から立ててた計画だと今から半年以内に同棲生活に移行して、その一年後には式を挙げる予定です。なので、遅くても今から半年以内に同棲に移れるくらいに急いで私のことを愛してもらいます」

プロデューサーの表情が初めて引き攣った。





          橘ありす「人生の墓場へようこそ」 END
45 : ◆yIMyWm13ls [saga]:2018/06/10(日) 19:06:44.61 ID:UsdkgY1f0
これにて完結。
ここまで読んで頂いた皆さんに感謝感謝。
手をひいていたあの子にいまは手をひかれて、って感じのが書きたかった(書けたかは不明)
では、またどこかで。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 19:08:09.03 ID:Hd5uXm4Co
乙乙リアルタイムやったー

キレ攻勢、しかし締まらない感じもオチもほんと好き
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 19:12:02.23 ID:O90AFp6lo
いいねえ…いかにもありすらしい感じでとてもよかった
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 19:20:16.34 ID:cUy3bCyFo
幸せな結末だな
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/11(月) 01:57:30.80 ID:US97xEfLo
さすあり、六年越しの計画成就するとは

さあ、ひじりんとよしのんも書くんだよ
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/11(月) 03:10:57.11 ID:yaltlBEZO
おつおつ

この最後の最後に締まらない感じがほんとクール橘。
………ところで同棲編は?
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/13(水) 06:09:27.95 ID:f0Hw3DES0
おつー
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/14(木) 19:15:32.43 ID:TXSLe9Ujo
おつ
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