橘ありす「人生の墓場へようこそ」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/04(月) 23:29:03.43 ID:YLTvfUA9o
モバマスSSです。
地の分を含むのでご注意ください。
更新不定期。
(たぶん)長くならない。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1528122543
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/04(月) 23:30:57.91 ID:YLTvfUA90
   《モバP「長年の相棒って言葉、絆で固く結ばれてるみたいでいいよな」》



 ◇

暖かな、というよりはもはや攻撃的にまで見えるような。

燦燦と降り注ぐ太陽光。
季節は六月頭にして、すでに冷房フル稼働なくして我が身の明日はないような状態。

「儂も、もはやここまでか」

外を出歩く気すら起きない。
この現代の乾いた砂漠は俺の身体には余りにも厳しい環境だ。

「若いのになに言ってんですか。というか、儂とかとってつけたような老人アピールは安易だと思います」

一人、黄昏ながら忌まわしき太陽に焼かれる地上を眺めていると不機嫌そうな声が投げつけられた。

「……ありすか」

声の主へと視線を向ける。

タブレットを抱えるようにして持っていた綺麗な黒髪を背中で纏めた小さな女の子。
と、そんな姿が一瞬瞼に浮かんで、まばたきと同時に掻き消えた。

掻き消えた幻の先。
そこに居るのは、握っているシャープペンシルのペン先を人差し指と中指で弄ぶ、これまた少女。

事務所の中央にある丸机の上に広げられたテキストに向き合っていた彼女は胡乱げな視線をこちらに寄越してくる。

「……現役女子高生に若さを諭されるの納得いかないんだけど」

「事実ですし」

一瞬垣間見えた、かつての幻影よりもすらっと背丈を伸ばし、表情を柔らかくした少女。
高校生になった、橘ありすの姿がそこに在る。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/04(月) 23:33:01.77 ID:YLTvfUA90
   《橘ありす「男女間で純粋な友情は成立しないので長年の相棒って言葉は実質嫁といっても問題ないですよね」》



 ◇

憎々し気に窓ガラス越しに目下のコンクリートジャングルを見下ろす姿に思わず苦笑いが零れた。
今も昔も、ころころと感情の賽の目を指先で転がすように変化させる姿は見ていて飽きません。

「……現役女子高生に若さを諭されるの納得いかないんだが」
「事実ですし」

なるべく素っ気なく。
私は意識して言葉を返す。

たった二人きりのちいさな、ちいさな事務所。
ちいさいにもほどがあるこの場所が、この場所こそがいまもむかしも、私のほとんどを占めていた。

ふと、向けられている視線に気づきます。
穏やかな、静かな瞳でした。

最近になって向けられることの多いこの視線。
理由は実は分かっていました。



そう遠くない先、最盛期を超した"橘ありす”という偶像の樹木はその歴史に静かにその幕を下す。

そう決めた時から、少しずつ二人で準備はしてきました。
プロデューサーと相談して少しずつ仕事を減らし、継続で頂いていたお仕事に打ち込み、そしていずれそれを最後に私はこの姿から姿を消す。

―――そして、私は、なるのだ。なって、しまうのだ。





―――――プロデューサーのお嫁さんに……!



思わず、拳をシャープペンごと強く握っていたこと気づいた私は慌てて力を緩めた。

しかし、思い返せば、長く険しい道のりでした。
小さな頃から抱えていたこの胸を焦がす思慕の情。

幼いころに待てるか、と聞いてあの穏やかな瞳で頷いてくれたあの表情は未だに脳に焼き付いています。

もうすぐ、もう間もなく、私は約束を果たせる。
心臓がとくんとくんと脈打っているのが自分でも分かる。

脈打つ心臓に突き動かされるように唇が声を紡いだ。

「もうすぐですね」

彼にも、長いこと待たせてしまいました。
それでも浮名一つ流さず、私を想っていてくれたのでしょう。
……誇らしいです。

プロデューサーは少しだけきょとんとした表情を浮かべてから、「あぁ」と、ようやく思い至ったのか表情を変えた。

真剣な表情が私を見据える。
少しでも誠意が真っすぐに伝わるように、そんな彼の気持ちが伝わってきます。

……でも、ちょ、ちょっとそんなふうに見られると、やっ、そのっ。

「しっかり準備はしてるから」
「そっ、そうですか」

準備、なんて……そ、そんな……。
ど、どれだけ……。





どれだけ私のことだ、大好きなんですかねっ……!かねっ……!
しょうがない人ですねっ!うぇっ、へへへ……!
4 : ◆yIMyWm13ls [saga]:2018/06/04(月) 23:33:49.30 ID:YLTvfUA90
一旦ここまで。
おやすみ。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/05(火) 00:03:58.01 ID:XeCy8yeL0
おつー
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/05(火) 00:58:30.39 ID:dv+pBCUVo
駄サンタか
久しぶりだな
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/05(火) 01:59:35.15 ID:KCQBQ9X9O
蘭 子「混 沌 電 波第171幕!(ちゃ おラ ジ第171回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1528045516/
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/05(火) 02:22:31.08 ID:z4qsFh5bo
お前さんの新作を待ち望んでたよ
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/05(火) 06:53:37.29 ID:wzl/0LKeO
乙乙
いいぞ
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/05(火) 11:42:49.93 ID:/gP2E/wR0
このP推定10以上年下手出したのかね

このロリコン
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/05(火) 14:21:12.46 ID:7FWENaXv0
   《モバP「二人きりの事務所」》



 ◇

図体だけ大人になったような。
そんな言葉を仲のいい同業者や親類にたまに掛けられることがある。
無論、咎める意味でだ。

言外に「大人になれよ」と言われていることは分かっているのだが、残念ながら未だ割り切ることが出来ていない気がする。
多分、要領が悪いのだ。
やるべきことは分かっているのに、気が進まないとか、やりたくないというか、そんな感じ。

そう、まるきり夏休みの宿題を投げ出す子供の理論だ。

だけれど、変わらなければいけない時は、きっとすぐそこに来ていた。



それは、枯れ葉が散るようにゆっくりと灯を小さくしていた。
かつてつむじ風のように世間を駆け抜けていった女の子は、世間から姿を消そうとしている。



幾つかの幸運と沢山の必然の元、くるくると。
廻り続けて、少なくない人々の目を惹き続けた女の子は至極あっさりと引退を決めた。



ピクリとも手ごたえを感じない時期もあり、目が回る忙しさにコネを使って信用出来るヘルプ要因を希《こいねが》うハメになった時もある。

この事務所には二人しかいない。
まぁ、自分に出来ない手続きとか外の人に任せてることもあるけど……。

つまりはなにがあっても、唯一の大人である、俺の責任。
そして、俺は結局、最後まで彼女一人で手一杯であった。

本当ならば、この頃には新たなアイドルを抱えて、育成に専念していなければいけないのだろう。

だけれど、まぁ。
結局のところ、どこまでいっても「大人になれよ」ということなのだろう。

どうにも俺は、情が移りすぎるというか、向いていないようで。
そういう気にもなれなかった。
資質のなさが、致命的にもほどがある。

なまじ滅茶苦茶スケールダウンしたスネオくんみたいな恵まれた環境と少しばかりの良縁に恵まれたばかりに半端に上手くいってしまった。
というか、本当の意味で上手くやったのはありすの方なのだろうが。

忙しいながらにも。

学生としての橘ありすの時間も。
アイドルとしての橘ありすとしての時間も。

どちらも損なうことなくまっとうしつつある。

だからこそだろう。

「しっかり準備はしてるから」

どうせ切り替えられないのならば、最後の最後まで全力で力を尽くそう。
そう俺に思わせるのは彼女の人徳なのだろう。

「そっ、そうですか」

ありすは、少しだけ照れたように俺から視線を逸らした。
そして、手持ち無沙汰なのかこつ、こつ、とシャープペンシルの尻でテキストを優しく叩いた。

「期待、しちゃいますね?」

再びこちらに光を浴びた硝子玉のような綺麗な瞳が向けられる。
頬にうっすらと紅色を湛えて、久しく見ていないような子供の笑みを浮かべた女の子。

俺は静かに頷いた。
その表情にどこか懐かしいものを感じながら。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/05(火) 15:31:52.57 ID:7FWENaXv0
   《橘ありす『二人きりの事務所ってもう実質これ同棲生活と言っても差支えないですよね』》



 ◇

正直に言えば驚いていました。
まさか、あそこまでプロデューサーが真剣に考えてくれていたなんて。

いえ、まぁ、……当然なのかもしれません。

これが、大人ってことなのかもしれません。
というか、私だってちょっと前まで小さなお子様だったわけです。

ちょっと下手をロリコン扱いされるこのご時世です。
もしかすると、その誹りすら受けることを覚悟してまで、紳士的に私を見守っていてくれたプロデューサー。

これが、真実の愛ってやつなのでしょうか。
すごい、なんか少女マンガみたいな響きですっ、真実の愛。
本当の愛はここにあったんですよっ!

ほ、ほんとにっ、ど、どれだけわたしのこと大好きなんですかねっ!ほんとにもうっ、困っちゃうじゃないですかぁっ!

「期待、しちゃいますね?」

あーっ、あぁ゛ーっ!

しょうがない、しょうがないですよね。
もう、私が面倒見ちゃうしかないですよね。うひ、ふへへ。

無意識に口元が緩んでいたのか、口の端から涎が零れ落ちそうになる。
慌てて、私は口元に掌をやってそれを乱暴に拭いかけて、気づく。

そう、気づいてしまう。
流石に想い人の前で涎を拭うというのは――ナシだ。乙女的にというか、それ以前に人間的にです。



瞬間的に、呼吸を止める。――集中。
―――意識して血を昇らせる。

一瞬だけ眩暈のような、くらくらする感覚。
顔全体に火照りを感じる。
きっと視覚的に見ても頬や耳のあたりまで赤みを見て取れるようになっているでしょう。

「そ、そんなにじっと顔見ないでくださいっ!」

私は、籠った熱と一緒に一つ言葉を吐き出す。
その言葉を聞いて、微笑ましいものを見るような、そんな微かな笑みを浮かべてプロデューサーは口を開いた。

「顔見られたくらいで照れるって子供かよ」

「放っておいてください」

そして、恥ずかしさから、プロデューサーの視線を遮るように私は顔を隠すかのように掌をやる――ふりをして、しれっと口元の涎を拭った。



―――よし。私の乙女は救われました。
13 : ◆yIMyWm13ls [saga]:2018/06/05(火) 15:33:30.67 ID:7FWENaXv0
あっつい。とける。
一旦ここまで。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/05(火) 18:44:43.55 ID:z4qsFh5bo
橘さんなのに、拭い切れぬ駄サンタ感
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/05(火) 20:05:29.65 ID:LtxUaTygo
心理描写だけで可愛い
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/06(水) 05:47:05.33 ID:tfnsu6Oi0
   《モバP「出来れば、気のいいお兄さんくらいには思われてたらいいな」》



 ◇

いやいや、とするように。
俺の視線を遮るように紅潮する頬を掌を広げる。

その仕草もまぁ、愛らしいというか、なんというか。
ふとした瞬間に、流石はアイドルだな、と思い知らされる。

――じゅるる。と。
一瞬だけそんな不思議な音が耳に届いた気がした。

うっかり引っ掛けて、デスクからなにか落っことしでもしたのかと、机の下を覗き込むが、特になにかがあるわけでもなく。

「……気のせいか」

まぁ、そんなこともあるだろう。

一つ嘆息。
それと同時になぜかありすのほうも「ふぅ」と溜息を吐いていた。
不思議と重なった些細な仕草に妙な親近感を覚える。
これが、気が合うというやつなのだろうか。

しかし、十以上歳の離れた女の子相手にこんな言葉を使うのも本人から嫌がられてしまうかもしれない。

まるで思春期の娘を抱える父親のような思考。
これまた、全国のお父さんがたになにを知った気になっているんだ若造が、と怒られそうで。

結局のところどっちつかずな微妙な自分の立ち位置に渋い気持ちになって。

なんとなく、俺は机の端に乗せていた紙パックの飲料から飛び出したストローに口を付けた。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/06(水) 05:49:25.20 ID:tfnsu6Oi0
   《橘ありす「法的に結婚出来る年齢と倫理的に結婚が許される年齢が違うのって納得いかなくないですか?
    その点、未成年でも問題なく結べる婚約って本当に優秀で流石、小説、漫画とか様々な媒体で長年……あっ、もうちょっと喋る枠」》



 ◇

「なんだか珍しいもの飲んでますね」

ふと、気づいてプロデューサーに声を掛ける。

「……そう?」

彼ははて?と言わんばかりに首を傾げる。
のんびりと紙パックの中身を啜る仕草は特別面白いものでもないはずなのに、妙に面白いものに見える。

一瞬、心の中の乙女が「私がさっき涎を啜った音より静かに飲んでるじゃないですか」と、一瞬声をあげたのを黙らせる。バレてない出来事は存在しなかったも同義なのです。

『低脂肪』。
我々のような栄養管理に重きを置かなければいけない人種にとっての恩赦の言葉の刻まれたハンドサイズの牛乳のパック。
それから口を離してから、プロデューサーは口を離した。

「いや、なんか子供の頃は当たり前に飲んでて、大人になって飲まなくなると身体が消化しなくなるって聞いてさ、なんかさ……勿体ない気がして」

「勿体ないってなにがですか」

少しだけ困ったような顔して、それから神妙な顔つきでプロデューサーは再び口を開いた。

「……こう、消化酵素的な……胃……腸……腸内細菌……?いや、まぁ、どこで牛乳消化吸収してるんだか知らないんだけどさ」

時々、プロデューサーがひどく可愛らしく見えることがある。

これはあれ。あれなのです。
多分、惚れた弱みってやつなのです。
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