まゆり「トゥットゥルー!」岡部「・・・え?」

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42 : :2018/06/04(月) 19:12:47.08 ID:oMtdo1oj0
岡部『それが、まゆりか』


鈴羽は黙って頷いた。

鈴羽『それだけじゃないよ。一般人より強力なリーディングシュタイナーを持ったオカリンおじさんが、常にそばにいたんだよ?ラボメン全員に言えることだけど、椎名まゆりは特にそうじゃないかな』


そうだ。α世界線でも、フェイリスとルカ子は記憶を取り戻しかけていたことがあった。

だが俺は二人に毎日会っていた訳ではない。


それに比べて、まゆりは――


43 : :2018/06/04(月) 19:13:19.34 ID:oMtdo1oj0
鈴羽『椎名まゆりが元々記憶を引き出しやすい体質であったこと。強いリーディングシュタイナーを持つおじさんが常にそばにいたこと。この二つが、おじさんの発表によってお互いに強く作用したんだ』


鈴羽『おじさんだけならラボメンのみんなも、別の世界線の記憶は《夢かな》くらいで済むんだけど、椎名まゆりのリーディングシュタイナーは強力すぎる』


鈴羽『まずは父さん、そしてフェイリスさん、るかさん、今は桐生さんにも発現しているかもしれないよ』


岡部『それは夢ではなく、経験として、か』


鈴羽『…………うん』
44 : :2018/06/04(月) 19:27:23.02 ID:oMtdo1oj0
俺にはわかる。

リーディングシュタイナーは、決して素晴らしい能力などではない。

仲間とどんなに楽しい、苦しい経験を共にしたとしても、世界線が変わってしまえば、それはもう分かち合えない。

厳密にいえば目の前にいるその人は、確かにその人だが、俺が愛した、俺を愛してくれた人ではないのだ。


そんな孤独。

それがリーディングシュタイナー。




このままいけば最悪の結末、ラボメン全員のリーディングシュタイナーの発現が現実になってしまうということだ。


未来の俺はそれを経験した。

狂うのも、頷ける。




止めなければならない。


あんな思いをするのは、俺だけで充分だ・・・!

45 : :2018/06/04(月) 19:36:00.62 ID:oMtdo1oj0
雷ネットの会場につくと、ちょうど鈴羽とその母、阿万音由季が車に乗ったところだった。

奴は奴で、何かを掴もうとしているのだろう。

木陰に隠れて見ていると、すぐに焦った過去の俺がタクシーを捕まえその後を追う。



まてよ。


鈴羽が俺が紅莉栖にした告白を阻止すれば、まゆりがリーディングシュタイナーを発現することは無いのではないか。


そうだ!


岡部「告白を・・・、阻止すれば」








紅莉栖に告白をするとまゆりが傷つき、ディストピアが形成されるということは、




俺は永遠に、紅莉栖に好きだと言えないではないか。
46 : :2018/06/04(月) 19:36:27.59 ID:oMtdo1oj0
紅莉栖に、厳密には誰かに好きだと伝えればまゆりが傷ついてリーディングシュタイナーを発現し、別世界線の記憶を持ったラボメンたちに俺はやりきれなくなり、ディストピアを形成する。


紅莉栖もまゆりも選ばなければ、まゆりが孤独を感じてリーディングシュタイナーを発現し、俺がディストピアを形成するだろう。


まゆりがリーディングシュタイナーを発現しても俺がラボにいなければ良いのだが、きっとラボメンでない俺はロクな末路を辿らない。

やりきれなくなっている点では同じなので、結局ディストピアを形成する結果になるかもしれない。



つまり俺は、まゆりのそばに居続けるしかないということになる。



岡部「なんだよ、それ……」
47 : :2018/06/04(月) 19:38:48.73 ID:oMtdo1oj0
二時間後――――



鈴羽「あ、オカリンおじさん!こっちだよ!」


岡部「…………」


鈴羽「どうだった!?何か、」


岡部「鈴羽」


鈴羽「え?何?」


岡部「…………」


鈴羽「おじさん、どうしたの?」



岡部「帰るぞ」


鈴羽「おじさん……?」


岡部「…………」
48 : :2018/06/04(月) 19:39:51.82 ID:oMtdo1oj0
タイムマシン内――――


鈴羽「…………」


岡部「…………」


鈴羽「…………っ」

岡部「俺は」


鈴羽「!」


岡部「何もしなかった。ただぼーっとして、二時間を浪費した」


口端から、胸糞悪い自嘲の笑みがこぼれる。



岡部「ここに来るときもゆっくりと、ダラダラと歩いてきた。バイクにひかれそうになったぞ。フフ」


鈴羽「…………」


岡部「分かったんだ。世界は、神様は俺のことが嫌いなんだ。だからこんなに苦しめるんだ。まゆりも、紅莉栖も、俺の大切な人なのに――――やっと助けられたのに――――愛そうとすると、ッ…………」


岡部「ディストピアを創った俺の気持ちも、今なら分かる。愛したい人を、愛すことすら許されない。愛せば世界が終わる。意味が分からない…………意味が分からないッ!!」
49 : :2018/06/04(月) 19:40:32.33 ID:oMtdo1oj0
岡部「何でだ!何でだよ!!紅莉栖を好きになっちゃいけないのかよ!!俺は絶対に、まゆりを愛し続けなければならないっていうのかよ!!まゆりが嫌いな訳じゃない……まゆりを嫌いな訳がない!!けど俺は、ずっと支えてくれた!……一緒に、……戦ってくれた……!牧瀬紅莉栖が、好きなんだよ!!何でそれがダメなんだよォ!!!」


岡部「何で俺なんだ……何でまゆりなんだ!何で紅莉栖なんだ!!他の誰かじゃダメだったのか!!何で俺たちなんだよ!!…………くそ。電話レンジなんか作らなければ良かった。牧瀬紅莉栖とも出会わなければ良かった!!」


鈴羽「!!!!」


岡部「ラボなんか、作らなければ――――!!」






狭い空間の中に、甲高い音が鳴り響いた。
50 : :2018/06/04(月) 19:41:09.13 ID:oMtdo1oj0
岡部「――――ッ」

鈴羽「岡部倫太郎ッ!!!!」


岡部「ぐ……」


鈴羽は泣いていた。
溢れる涙はぬぐわれることもなく、ただ頬を伝って床に落ちた。



鈴羽「キミはっ……キミは思ってるはずない!!そんなこと絶対思ってるはずないんだ!!牧瀬紅莉栖と出会わなければなんて……ラボを作らなければなんて!!」


岡部「……いや、こんなことになるくらいならば」


鈴羽「だって二人は!!あんなに幸せそうだったもん!!」

岡部「!?」


鈴羽「おじさんはいつも紅莉栖さんを変なあだ名で呼んで!紅莉栖さんが怒って!それでぷいって顔を背けたら……少し笑って優しく『紅莉栖』って声を、かけて……ッ」


岡部「あ……」
51 : :2018/06/04(月) 19:41:42.90 ID:oMtdo1oj0
鈴羽「あたしはその時凄く小さかったけど、その記憶だけにははっきり覚えてる……父さんと母さんが笑ってて、周りにも人がいたんだ。多分ラボメンの皆だと思う」


岡部「ラボ、メン……」


鈴羽「でもだんだん、おかしくなっていったんだ……、だんだん、おかしく、なっていった」


鈴羽「ちがうよおじさん……こんなの、おじさんが望んだ未来じゃない。おじさんはディストピアを作るためなんかに、世界線を行き来してきたんじゃない」


鈴羽「みんなが笑って…………」


岡部「鈴羽……」


それから沈黙の時間が、何分か流れた。

鈴羽が鼻をすする音を聞くたびに、俺の中の頑なになっていた何かが、熱く溶けていく気がした。
52 : :2018/06/04(月) 19:42:18.26 ID:oMtdo1oj0
鈴羽「きっとあるはずなんだ」


鈴羽は勇敢にも、沈黙を自ら破った。


鈴羽「SG世界線は絶対ある。…………運命は、受け入れるものじゃない。自分の手で変えていくもの。それはおじさんが、誰よりも分かってるはずだよ」


岡部「俺は、」


鈴羽「おじさんは、一人じゃない。あたしがいる。あたしも一緒に、運命に立ち向かう。だから一人じゃない」




岡部「そうだ鈴羽……!俺は、諦めない!!」



53 : :2018/06/04(月) 19:42:51.89 ID:oMtdo1oj0
岡部「必ずあるはずだ!紅莉栖を愛したまま、世界を継続させる方法が!」


岡部「諦めてはいけないのだ。何度も、やってきたはずだ!未来を変えるのに一番大切なことは諦めないことだというのに……俺は絶望に打ちのめされていた!」


岡部「しかぁーし!この鳳凰院凶真はその名のごとく何度でも蘇る、不死鳥のような心を持つ狂気のマッド・サイエンティストどぅあ!!機関に打ち勝つためにはこれしきのことなど……」



鈴羽「……へへっ」

鈴羽は涙を袖で拭って、悪戯っぽく微笑んだ。



鈴羽「そうだよおじさん、その意気だよ!絶対成功させるよ!オペレーション・スコンブ・リバース!」



岡部「スクルドだ!……ああ、俺に任せてお……いや」



岡部「共に運命に打ち勝つぞ!!鈴羽!!」



鈴羽「うん!!」
54 : :2018/06/04(月) 19:44:18.92 ID:oMtdo1oj0
鈴羽「でも具体的にはどうすればいいのかな……」


岡部「ふむ……鈴羽よ」


鈴羽「何?オカリンおじさん」


岡部「共に戦うとは言ったものの、やはり俺たち二人では限界があると思うのだが」


鈴羽「えー?ひどいなぁ……って言いたいところだけど確かにそうだね」


岡部「残念ながらお前と俺の脳味噌では打開策に限界がある。ならば……我がラボのブレインを使うしかあるまい?」



鈴羽「……父さんに全てを話すってこと?」



岡部「そうだ。こうなった以上なりふり構ってられんからな。おそらくダルも、リーディングシュタイナーの発動によって深刻な状態が続いているはずだ」


――――それでも未来の俺は、言わなかったのか。

仲間が記憶に侵され、苦しんでいることを知っていながら。


いや。


奴には奴なりの配慮があったのだろう。

記憶を真実として理解させたらもっと仲間を苦しめることになる、と。



だがそれでは――――、未来は変わらないんだ。
55 : :2018/06/04(月) 19:45:25.38 ID:oMtdo1oj0
現在――――


鈴羽「じゃあおじさん、あたしはもう一度確実に未来にいけるように、なんとかタイムマシンを弄くってみるよ。おじさんはラボで父さん、に……」


岡部「……不安か?」


鈴羽「うん、……ちょっとだけ」


岡部「鈴羽。お前はお前の、やるべきことをしろ。俺は俺のやるべきことをやる」


鈴羽「うん……」



岡部「……しっかりな!」


俺は景気づけにぽん、と鈴羽の肩を叩いてやった。


鈴羽「オーキードーキー!任せてよ!」

岡部「よし。では行ってくる。終わったらラボへ来るがいい。ドクペをたらふく飲ませてやろう」


鈴羽「あははっ、楽しみにしてるよ!」
56 : :2018/06/04(月) 19:46:16.89 ID:oMtdo1oj0
ラボ――――


ドアを開けると、キーボードのカタカタという音が聞こえた。



岡部「ダル」


ダル「お、オカリンじゃん」


岡部「なんだか随分久しぶりではないか?」


ダル「あ〜、実家に溜まったエロゲ消化してた。嫁が多すぎるのも困りものだお!」


岡部「それで大学も来てなかったのか。まったく……仕方のない奴だ」


ダル「フヒヒ、サーセン」



岡部「ダル」


ダル「ん?なんぞ?オカリン」




岡部「嘘だろ」


ダル「へ……?」
57 : :2018/06/04(月) 19:46:45.06 ID:oMtdo1oj0
ダル「う、嘘ってなんだお!?言いがかりにも程がある件について!謝罪と賠償を要求する!」


岡部「ダル……お前は俺に聞きたいことがあるはずだ。俺に話して、確かめたいことがあるはずだ」


ダル「この間のことなら、もういいお……」


岡部「本当にいいのか?」


ダル「う……」



岡部「SERNにハッキングしたこと……タイムマシンが出来たこと…………まゆりが死んだこと」


ダル「やめ、ろよ……」


岡部「お前の娘鈴羽!!そしてその、末路を……!!」


ダル「やめろよぉぉぉぉぉぉ!!!!」


ダルは俺の胸ぐらを掴んで勢い良く押し上げた。
58 : :2018/06/04(月) 19:49:27.92 ID:oMtdo1oj0
ダル「どうして思い出させるんだ!!オカリンが夢だって言ったから夢だ夢だって思おうとしてるのにっ!!そんなことあるはずがない!!全部悪い夢なんだって思おうとしてるのに」


ダル「な、なのに…………なのに…………」


ダル「……日に日に、鮮明になっていくんだ。そのせいで皆との関係が、ぎこちなくなって……」


岡部「ダル。すまなかった。全て俺の責任だ。この間お前を殴ったことも全て……本当にすまなかった」


ダル「…………」


ダルは俺の胸元から手を離した。



ダル「言ってやれなかったんだ……」


岡部「……?」

ダル「……鈴羽が娘だって分かって、びっくりして、気が動転してて……。親らしいことも言えなくて……抱きしめてやる手も不器用で」


ダル「それでやっと思い付いたのが、『がんばれ』って言葉だったんだ。でもそれが言えたのは…………タイムマシンが言ってしまった後で……」


岡部「ダル……」



ダル「いって、……やれなかったんだ……!『がんばれ』って……言葉すら……!!」


ダル「そのあと手紙がきて……鈴、羽は、失敗した、失敗した、って、うぐッ、うっ」
59 : :2018/06/04(月) 19:55:25.88 ID:oMtdo1oj0

岡部「ダル、大丈夫だ」


岡部「この世界線の鈴羽は、自殺などしていない」


岡部「細身でアクティブないい奴だぞ」



ダル「…………」



ダル「……細身は余計だろ、常考…………」





そのあと俺はゆっくりと、ダルに全てを話した。


リーディングシュタイナーのこと。まゆりのこと。紅莉栖のこと。未来のこと。


ダルは鼻をすすりながら、たまに頷いて話を促してくれた。

最後にお前の力が必要なんだ、と言うと、ダルは黙って頷き、明日は必ず来る、今日は帰ると言って立ち上がった。




ダル「ありがとな、オカリン。話してくれて」




うつむきがちで、顔は見えなかった。
60 : :2018/06/04(月) 19:56:22.34 ID:oMtdo1oj0
休憩
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/04(月) 21:43:44.85 ID:prtau7sPo
いいね
支援
62 : :2018/06/04(月) 22:08:16.50 ID:oMtdo1oj0
再開
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/04(月) 22:12:25.78 ID:o2NRFOXcO
面白いんだけど、メール欄にはちゃんとsagaと入力してほしい
64 : :2018/06/04(月) 22:15:03.10 ID:oMtdo1oj0
ダルがラボを出た数分後、鈴羽が息を切らせて飛び込んできた。



鈴羽「おっまたせーオカリンおじさん!!ごめんねー、充電用の携帯プラグつないでたら遅く……どうしたの?」


岡部「……ん?」


鈴羽「おじさん、なんだか凄く嬉しそうな顔してる」




岡部「……鈴羽よ」


鈴羽「なに?」








岡部「……なんでもない」







鈴羽「なんだよ気になるなぁー。教えてよ」


岡部「内緒だ。フフ……ではドクペでもごちそうしようか」


鈴羽「ほんと? 飲んだことないから楽しみだよ! おいしいの?」


岡部「もちろんだ」








夜は静かに更けていった。
65 : :2018/06/04(月) 22:15:42.12 ID:oMtdo1oj0
次の日――――


ダル「おっはー!ダルしぃだお☆」


岡部「やめろ気色悪い。そういえばダル、まゆりと最近会ったか?」


ダル「まったく。オカリンは?」


岡部「あの日から会ってない。一応携帯に連絡をいれたのだがな……。返事は、無しだ」


ダル「ま、しょうがないよな。むしろ、アメリカの一件の後でもラボに来るまゆ氏の健気さに驚き」

岡部「家にも行ってみたが友達の家に泊まりに行っているらしく、会うことはできなかった……」


ダル「避けられてるんですねわかります」


岡部「…………」


ダル「ちょ、マジでへこむなオカリン。悪かったお」
66 : :2018/06/04(月) 22:16:14.44 ID:oMtdo1oj0
岡部「リーディングシュタイナーの件は話したよな?」


ダル「それなんだけど……まゆ氏は今、誰よりも強力なリーディングシュタイナーを発現してるんよね?」


岡部「ああ、そうだ」


ダル「それって凄くキツいことなんじゃないかな。僕ですら夜はなかなか眠れなかったくらいだし」


岡部「だから心配なのだ……。まゆりはラボメンの中で誰よりも残酷な経験をしている。精神が崩壊しても、おかしくはない……」


ダル「そだね。早いとこ作戦たてて、まゆ氏を救ってあげないと」
67 : :2018/06/04(月) 22:25:10.72 ID:oMtdo1oj0
ダル「てか、僕たちだけなん?鈴羽は?」


岡部「鈴羽なら朝早くに怪訝な顔をして出ていったぞ?なにやら小さな機械を眺めていたな」


ダル「…………オカリン」


岡部「どうしたダル。いつになく顔が険しいぞ?」


ダル「昨夜は、ラボに泊まったん?」


岡部「?そうだが」


ダル「……鈴羽と一緒に、寝たのか…………?」



岡部「ッぐわっ我が混沌より誘われし虚無を封印した右腕がーああーーあッ早く逃げろダルッ奴が…奴がk」

ダル「YESととるぜッ……!」

岡部「おわったったった!!待て!待て!」

68 : :2018/06/04(月) 22:28:30.34 ID:oMtdo1oj0
岡部「お、お前、そんなことあるわけないだろうが!!俺には紅莉栖がいるんだぞ!?」


ダル「ならば勿論、二人の部屋は別々だったんだよな?」



岡部「…………うん」


ダル「…………貴様」


岡部「いやっ、待てダルッ!ほんと、ほんとだって!!」


ダル「で、本当は?」


岡部「部屋はーいっしょでしたハイ」


ダル「光り唸れ、僕の右腕……!!」


岡部「ちょっ…待て!!話を聞け!!」
69 : :2018/06/04(月) 22:29:18.32 ID:oMtdo1oj0
岡部「落ちつけダル!部屋が一緒だったのは理由があるのだ!」


ダル「聞く余地はない」


岡部「聞けよ!!ていうかお前誰だよ!!キャラ変わりすぎだろ!」


ダル「人の娘に手を出したなら、それ相応の覚悟はあるんだろうなぁ……?」


岡部「だから出しとらんって言ってるだろうが!カーム!カームダウゥーン!ダルゥー!」


ダル「……さっさと話せ」


岡部「よ、よし……落ち着いて聞け?」
70 : :2018/06/04(月) 22:31:38.67 ID:oMtdo1oj0
岡部「まず、最初は部屋が別々だった」

ダル「うん」


岡部「一時間くらいしてうとうとしてると、布団を持った鈴羽が入ってきた」


ダル「うん」


岡部「そして『あっはは、ごめんオカリンおじさん、なんか寂しくなっちゃって……横で寝てもいいkへぶぅっ!!」


ダル「オラァァァァァァァ!!!!」


岡部「ちょっ待てダルゥ!!布団くっつけて寝ただけだから!同じ布団ではないからセーhぐふぉゥっ!!」


ダル「ドラァァァァァァ!!!」
71 : :2018/06/04(月) 22:35:19.45 ID:oMtdo1oj0
ダル「オカリン……アンタってやつぁ……平気でやってのけるねぇ」


岡部「そこに痺れるか?憧れるkうぶぅッ」


ダル「ま、手を出してないならいいお。鈴羽もそんな未来じゃ寂しかったんだろうし」


岡部「いいなら殴るなよ……」


ダル「なんぞ?」


岡部「いえ……なんでもないです」




ダル「でもそっか、鈴羽はいないのか。会って話をしてみたかったんだけど」


岡部「作戦を練るまでまだ時間はある。期間内に会うことはできるだろう」


ダル「どれくらいで跳ぶん?タイムマシンで」
72 : :2018/06/04(月) 22:37:48.76 ID:oMtdo1oj0
岡部「こちらでいくら時間が経とうと、タイムマシンで跳ぶ日時は変わらない。よって少し時間がかかってでも、完璧な作戦を練っていくのが望ましいだろう」


ダル「要するに具体的な期限は無いってことでおk?」


岡部「そういうことだ。それに、跳ぶ前に一度、まゆりに会っておきたいしな」


ダル「そか。でもやっぱ牧瀬氏必要じゃね?あの子がいたらかなり違うと思われ」

岡部「紅莉栖ならばもう呼んである。昨日ラボに来る途中に電話した。明日には着くだろう」


ダル「そいえば、オカリンって牧瀬氏のどのへんを好きになったん?」


岡部「またその話か」
73 : :2018/06/04(月) 22:38:59.21 ID:oMtdo1oj0
ダル「今回は単純な好奇心だお」


岡部「そうだな……やはり俺が苦しんでいる時に共に戦ってくれたというのは大きい」


ダル「弱ってる時に優しくされたら好きになっちゃう!ってやつですね。オカリンマジ乙女」


岡部「やかましい」


ダル「じゃあ、もしその経験が無かったら好きになってなかったん?」


岡部「ん?むぅ……どうだろうな」


ダル「外見の話をしようじゃないか、オカリン……」


岡部「……お前なんだかんだでそういう話好きだよな」


ダル「おにゃのこが気になるお年頃だお☆」


岡部「キモい」
74 : :2018/06/04(月) 22:52:36.87 ID:oMtdo1oj0
岡部「逆に聞くが、お前は気になる人はいないのか?ダルよ」


ダル「嫁ならたくさんいるが何か?」


岡部「三次元の話だ」


ダル「ん〜……あんまりラボメンの女の子をそういう眼で見たことないからなぁ」


岡部「それも凄いな。あれだけHENTAI発言するくせに……あ、フェイリスはど」
ダル「フェイリスたんはフェイリスたんっすなわち神!!天使!!悪魔!!そういう対象として見ることがもうおこがましい件!! ああでももしひとつ望みがかなうのならあの美しいおみあしで顔を踏んでもらえたら……う、ううううヴゥぅぅあああああああああああ!!!!!!!高まって!!!!!!キタ!!!!!!!!!!!!!」



岡部(……鈴羽がいなくてよかった)
75 : :2018/06/04(月) 22:53:53.76 ID:oMtdo1oj0
秋葉原某所――――


鈴羽(タイムマシンは充電がもうすぐたまる……明日にはもう跳べる状態に戻ってるはず)


鈴羽(それはもういいとして。問題はこれ)ゴソ



鈴羽(過去で未来人の数を計測する、父さんが開発した未来ガジェット)


鈴羽(これに表示される赤く点滅するマークは、この世界線における未来人の数を指すんだけど)


鈴羽(点滅するマークは全部で5つ。1つはあたしとして、おそらく残りは全てラウンダー)


鈴羽(ラウンダーの反応が4つ……)



鈴羽「おかしいよね、これ……」
76 : :2018/06/04(月) 22:54:53.93 ID:oMtdo1oj0
鈴羽(昨日おじさんを連れ出したときの反応は6つ。バイクに乗った奴も含めてラウンダーは5人だった)

鈴羽(でも今日は、5つに減ってる。これって)


鈴羽「あっちゃ〜……バイクに乗ってた奴、死んじゃったのかな……」


鈴羽(い、いやいや!そんなわけないよ、加減はしたはず!)


鈴羽(でももしかして打ち所が悪かったりして……)


鈴羽(…………いやでも、死んでも反応は消えないって言ってたから違うか)




鈴羽「だとしたら…………」
77 : :2018/06/04(月) 22:55:32.53 ID:oMtdo1oj0
ラボ――――


ダル「電話誰だったん?」


岡部「鈴羽からだ。今日は戻れないと言っていた」


ダル「残念だお。まぁ明日会えるか」


岡部「というかダル、さっきからうるさいのはお前の腹の音か?」


ダル「僕のお腹もフェイリスたんに会いたくなったみたいだね」


岡部「つっこまんぞ。では久しぶりにメイクイーンにいくとするか」


岡部「フェイリスも俺に会いたくなってきた頃だろうしな!!フゥーハッハッハッハ!!!」


ダル「あるあ……ねーよ」
78 : :2018/06/04(月) 22:56:21.40 ID:oMtdo1oj0
メイクイーン――――



ダル「――フェイリスたんが休み!!?」


メイド「そうなんです。まゆりちゃんも休みで、もう困っちゃって」


岡部「ほう、珍しいな。あのフェイリスが休みとは」


ダル「オカリン。帰ろうぜ」


岡部「はぁぁ!?お前本当にフェイリス以外眼中にないな!!」


ダル「フェイリスたんの〈眼を見て混ぜ混ぜ〉がしてもらえないなら生きてる意味ねーお」


岡部「メイド喫茶の客の鑑だな。だが帰るのは許さん。俺は腹が減って仕方がないのだ」


ダル「わりとメイド喫茶が好きな件」


岡部「ち、違うわ!!」
79 : :2018/06/04(月) 22:56:57.63 ID:oMtdo1oj0
ダル「フェイリスたん、なんかあったんかなー」


岡部「潔く諦めろ」

ダル「いやいや良く考えてみ、オカリン?あのフェイリスたんがメイクイーンを欠勤してるのだぜ?」


ダル「フェイリスたんはメイドであると同時にこの店のオーナー。彼女がどれだけこの店を大切にしてるかはオカリンも知ってるっしょ?」

岡部「まぁな……」


ダル「そんなフェイリスたんが休み、おまけにまゆ氏も休み……何か気にならん?」
80 : :2018/06/04(月) 23:05:35.81 ID:oMtdo1oj0
確かに。


フェイリスは勿論、まゆりがバイトを休むことなど今まで無かったはずだ。


岡部「言われてみれば……」


ダル「だろ?まゆ氏は友達のところに泊まってるって言ってたけど、それもしかしてフェイリスたんのところじゃね?」


岡部「そうか……!ならば早く」


立ち上がって店を出ようとすると、ダルは後ろから俺の腕を引っ張った。



ダル「落ち着けってオカリン。まゆ氏が今ヤバい状態なら、ふとした言葉で僕たちみたいに喧嘩になるかもしれんだろ。取り返しつかなくなるかもだぜ」


岡部「……ではどうすればいいのだ」



俺はダルの促すままに、椅子に座り直した。



ダル「……今のまゆ氏の様子が分かれば、下手なこと言う可能性は下がると思われ。誰かいないかな?まゆ氏の今の様子わかる人」


岡部「今の……か」
81 : :2018/06/04(月) 23:08:49.92 ID:oMtdo1oj0
今の様子……普段のまゆりは……


学校に行っている!



岡部「よし。ダル」


ダルを見る。こいつもわかったみたいだ。


ダル「オッケー。柳林神社に行くんだね?」


岡部「ああ、まゆりの様子を知る必要がある。同じクラスのルカ子ならば完全とはいわずとも、少しは……いや、どうだろうな。分からんが」


ダル「でも行って損はないと思うお。まゆ氏にいきなり話をするのは危険と思われ」


岡部「そうだな。それはそうと会計の話だが」



ダルの右肩がぴくりと上がった。
82 : :2018/06/04(月) 23:09:31.33 ID:oMtdo1oj0
岡部「……」


ダル「…………オカリン」


岡部「…………ダルよ」


岡部・ダル「「ゴチ」」


岡部「むぁぁぁてぇぇこのピザオタがァァ!!この間の支払いは俺が持ったのだから次はお前の番だろうが!」


ダル「こまけぇこたぁいいんだよ!」


岡部「良くないわ!我が右腕よ……主に逆らうというのか!?」


ダル「母さんが病気で……莫大な治療費が必要なんです!!だからここは……」

岡部「本当は?」


ダル「エロゲ最高です」



岡部「またか!!」
83 : :2018/06/04(月) 23:10:28.85 ID:oMtdo1oj0
岡部「無理だ。今日は無ー理ーだ」


ダル「いやマジで財布に金が入ってない件」


岡部「本気かお前……なのにそんなにでかいハンバーグ食ったのか」


ダル「むしゃくしゃしてやった。反省はしている。後悔はしていない」


岡部「はぁー。……ドクペ2本。俺と、紅莉栖の分」

ダル「合点承知の助!」



俺はダルの手に、千円札を叩きつけた。
84 : :2018/06/04(月) 23:55:22.40 ID:oMtdo1oj0
柳森神社――――


るか「……あ、おか、ええと、……凶真さんっ。あ、橋田さんも」


ダル「そう。いつだって僕は二番目の男なんだお」


岡部「フゥーハッハッハッハ!!!ルゥカ子よ、修行ははかどっているか!!?五月雨は数日所有者が使用しない、ただそれのみで清心斬魔翌翌翌流の呪われし力を解放してしまう恐ろしき妖刀なのだ!!さぁぁー今すぐに持ってこいルカ子よ、今日の修行を始めるぞォォ!!」


るか「は、はい!」


ダル「いきなりとばすねーオカリン」


ダル(まぁでもいいか)


ダル(色々ストレス溜まってたみたいだし……僕は実際に体験したわけじゃないから分からないけど)


ダル(オカリンの性格からして絶対僕には見せない……。でもきっと、想像もつかないほど辛い目に合ってきたんだ)


ダル(そんなオカリンが僕の力が必要だと言った)


ダル(僕はもう逃げない。怯えない。オカリンの力になってみせる)


ダル(最高の未来のために。――――鈴羽のために。)





るか「いち、にぃ、さん……」


岡部「前のめりになっているぞルカ子!もっと腰を入れるのだ!!」


岡部「ダァルよーお前もルカ子を見習いたまには鍛錬にはげんだらどう、だ」




ダル「[ピザ]のケツの重さなめんじゃねーお。オカリンもたまには振ればいいじゃん」

岡部「おっ、俺は妖刀の力をすでに最大に引き出しているからだな」

るか「凶真さんが振っているところ、ぼく、見たいです」

岡部「なっ」

85 : :2018/06/05(火) 00:02:24.65 ID:pSJ8SQZq0
岡部「だはぁー! だはぁーっお、俺だっ我が弟子と右腕が結託して俺に苦難を強いてく…何ィ!?機関の催眠電波が町中にッ」

ダル「まだ十回も振ってない件」


るか「凶真さん、がんばってください!」


岡部「そういうわけで、俺は町を救わなければならない……ではさらばだ」

ダル「どこいくんだおオカリン。本題忘れてるっしょ」


岡部「……あ」
86 : :2018/06/05(火) 00:03:03.46 ID:pSJ8SQZq0
るか「まゆりちゃん……ですか?」


岡部「ああ。まゆりは今、学校でどんな様子なのか教えてくれ」


できる限り優しい口調でそう言うと、ルカ子は目線を反らし、口をつぐんだ。


岡部「頼む、ルカ子」


るか「……でも岡部さん、いつもまゆりちゃんといっしょに……」


岡部「俺は今、とある事情によりまゆりと接触することができん」


るか「…………」


岡部「頼む、ルカ子。現時点でまゆりの様子を聞くことが出来るのは、お前だけなんだ。まゆりの学校での様子を、教えてくれ……」


ダル「僕からも頼むお。ルカ氏」



るか「岡部さん……橋田さん……あ、あの」




るか「まゆりちゃん、どうしちゃったんですか……?」
87 : :2018/06/05(火) 00:03:40.07 ID:pSJ8SQZq0
岡部「…………」


俺は迷った。

今のまゆりについて話すということは、全ての事情をルカ子に話すということになる。


ルカ子は、ラボメン。記憶も取り戻しかかっている。


だがこれ以上、人を巻き込んで良いものか――――。


次の言葉を探していると、意外にもルカ子の方が先に口を開いた。



るか「まゆりちゃんは今、学校には来ていません」


岡部「やはり、そうか……」


ダル「やっぱまゆ氏はフェイリスたんのところに……」


るか「でも」


岡部「?」


るか「最後に学校に来た日は、その、……女の子にこんなこと言っちゃいけないんです……でも」






るか「ひどい、顔でした」
88 : :2018/06/05(火) 00:04:08.46 ID:pSJ8SQZq0
秋葉原某所――――


鈴羽(あたしの勘が当たってなければいいんだけど……)


鈴羽(でも、もし当たってるとしたらマズイ)


鈴羽(とりあえず今は様子を見ながら、ラボと距離を置く)


鈴羽(それでいてラボに何かが起こった時は迅速に駆けつけることができる場所……このへんかな)


鈴羽(人気もないし身を潜めるには最適…………ッ)


鈴羽(誰かくるっ!!)
89 : :2018/06/05(火) 00:05:37.58 ID:pSJ8SQZq0
鈴羽(一体こんなところ、誰が…………あっ)


鈴羽(るみ姉さんだ!)


鈴羽(若いなァ〜この頃からこんな恰好してたんだ。……ん?)


鈴羽(なんか、すごく浮かない顔してる……何かあったのかな)

鈴羽(それよりも!彼女なら椎名まゆりのこと、何か知ってるかもしれないよね!)

鈴羽(おじさんは椎名まゆりがどこにいるかも知らないだろうし、あたしが聞いてみよう)



鈴羽「るみ姉さーん!」
90 : :2018/06/05(火) 00:07:17.05 ID:pSJ8SQZq0
フェイリス「ニャッ!?何者ニャ?」


鈴羽(あちゃ、この時代では面識無くて当たり前か)


鈴羽「あたしははし……鈴羽。ラボメンだよ!」


フェイリス「キョーマのお友達かニャ?」


鈴羽「うん!」


フェイリス「じゃあ、はじめましてだニャ!メイクイーンニャンニャンのネコミミメイド、フェイリス・ニャンニャンだニャン!よろしくニャッ!」


鈴羽(ニャが多い……)


鈴羽「よろしく!ところでる…フェイリスさん、聞きたいことがあるんだけど……」

フェイリス「何かニャースズニャン?」
91 : :2018/06/05(火) 00:07:55.48 ID:pSJ8SQZq0
鈴羽「椎名まゆりって、知ってるよね?」

フェイリス「…………」


フェイリス「もちろんニャ!マユシィはフェイリスの前世からの親友兼戦友なのニャ〜」


鈴羽(今、ピクッて……)


フェイリス「マユシィがどうかしたのニャ?」


鈴羽「あ、うん、今どこにいるかとかって……分かったりするかな?」


フェイリス「…………分からないニャ」

鈴羽(また……)


フェイリス「マユシィとはすっごく仲がいいけど、まだ全てを知ってるわけでは無いのニャン。お家に行ってみれば何か分かるかもしれないニャン♪」
92 : :2018/06/05(火) 00:12:20.03 ID:pSJ8SQZq0

鈴羽こ(この人……何か知ってる)

鈴羽(でも追及しても、無駄か)


鈴羽「分かったよ!ありがとうフェイリスさん」


フェイリス「お役に立てなくてごめんなさいニャン!またラボに行った時は仲良くしてニャ♪」


鈴羽「もっちろん!じゃあまたね、フェイリスさん!」


フェイリス「さよならニャースズニャン!」


鈴羽「…………さて、と。」


鈴羽(もちろん、椎名まゆりの家になんて行っても意味はない)

鈴羽(フェイリスさんのあの眼……)


鈴羽(どうやら確かめる必要がありそうだね)








フェイリス「もしもし、黒木……?」
93 : :2018/06/05(火) 11:22:04.83 ID:pSJ8SQZq0
再開
94 : :2018/06/05(火) 11:28:40.59 ID:pSJ8SQZq0
フェイリスの家(高層マンション)――――


鈴羽「……バレてないよね、多分」


鈴羽(ここがフェイリスさん家……でっかいなー。たしか秋葉原の地主なんだっけ?セキュリティも頑丈そう)


鈴羽(どうしようかな。全部勘違いで、おじさんがもう椎名まゆりを見つけちゃってる、なんてことも……、いや!)


鈴羽「迷ったら攻める!それがあたしのモットーだよ!」


鈴羽(レッツ潜入!)





入口――――


鈴羽「と、と、と……ありゃりゃ」


黒木「…………」



鈴羽「フェイリスさんの友達なんだけど……」


黒木「申し訳ありませんが、あなたをお通しすることはできません。お帰りください」


鈴羽「なぜ?」


黒木「お嬢様の、ご命令ですので」



鈴羽「ふぅん……」


鈴羽「椎名まゆりが、ここにいるんだね?」


黒木「……お帰りください」




95 : :2018/06/05(火) 11:30:11.93 ID:pSJ8SQZq0
鈴羽(居場所が分かっただけでも、良しとするか……。これ以上はおじさんに迷惑かかっちゃうし)


鈴羽(とりあえず後はおじさんに任せるとして、あたしは一旦退こう)



「……!……ッ……!!…………!……」



鈴羽「ん?」


鈴羽(なんだろ、自動ドアの後ろの方で……)



鈴羽(フェイリスさんの声……?)



フェイリス「…………めだよ……ちゃん!……そんな…………!」


黒木「?お嬢様、どうされました」


フェイリス「黒木!まゆりちゃんを…………あぁッ!」
96 : :2018/06/05(火) 11:33:18.58 ID:pSJ8SQZq0
柳林神社――――


岡部「ひどい顔?まゆりがか」


るか「あっ、ち、ちがうんです!ぼ、ぼくそんなつもりじゃなくて!そういうのじゃなくて、まゆりちゃんはかわいいんですけど、あの、だからこそ余計っていうか……」


ダル「もちつけルカ氏」


岡部「ひどい顔……ひどい顔とは具体的にどういうことだ?」


るか「あ、あの…………だから、その」



―――ーーー―――ーーー―――――ーーー―――ーー――ーーーー――――――ーー―――ー‐‐―ーー―‐――‐‐ーーーー‐‐―

るか『まゆりちゃん……眼が、真っ赤で』


―――ーーー――――ーーーー――――――‐‐ーーーー‐‐―――‐ー‐―ーー――‐‐ーー‐‐―‐‐ーーー‐‐――――


鈴羽「…………!!?」


まゆり「あなた……誰?」


――――ーーーー―――ーーーー――――ーーー――――ーー‐――‐‐ーーー‐‐‐―――――ーーー――――‐‐―‐―‐ーー‐‐――


るか『何日も寝てないなんてほどじゃないくらいに…………くまもひどくて』



―――ーーーー―――――ーー―――ーーーーーー――――――‐‐ーーー‐‐‐――‐‐ーーー‐――‐ー‐――――ーーー―‐‐‐――ーー――‐‐ーーー‐‐―



鈴羽「あ、……」


まゆり「まゆしぃに、なにか用ですか?それとも」



――――ーーーー―――ーー――ー―――ーーー―――――――‐ーーー‐‐―――‐‐ーー‐‐―――‐‐ーーー‐‐‐――‐‐‐―――‐‐


るか『瞳が、瞳の中が……すごく…………すごく真っ暗だったんです』


―――ーーー――――ーーー――――ーー―――ーーー―――――ーー―――‐‐―――‐―‐‐‐ーーー‐――ーー―――‐‐


まゆり「女の子だね〜、じゃあオカリンのお友達かなぁぁぁ?ふふふふ、あはははははははは!!!!」
97 : :2018/06/05(火) 11:34:44.96 ID:pSJ8SQZq0
鈴羽「あ、……あ、」


フェイリス「ダメだよまゆりちゃん!!落ち着いて!!」


まゆり「離して!オカリンは、オカリンは!まゆしぃのなの!!誰にも渡さないの!!あなたなんかのところに、行くわけないんだよ紅莉栖ちゃん!!!」


フェイリス「黒木ィ!押さえて!まゆりちゃんを、止めてぇ!!」


黒木「はっ……まゆり様、どうか落ち着いて下さいっ」


まゆり「オカリンはいつもまゆしぃに優しかったの!オカリンだけがまゆしぃのことを大切に思ってくれたの!いつだって助けようとしてくれたし、ほんとの自分を見せてくれたの!!」


まゆり「ありえないよ!!認めないよ!!紅莉栖ちゃん、私は認めない!!オカリン、いかないで!いかないで!いかないで!いかないで!!」



まゆり「オカリンを返してぇぇぇぇ!!!!!」
98 : :2018/06/05(火) 11:36:23.04 ID:pSJ8SQZq0
気付いたら、あたしは駆け出していた。

後ろから椎名まゆりの叫び声が耳を突き刺したけど、決して振り返らなかった。


嫌、厭、いや。




怖い。恐い。こわい。




ようやく足を止めたのは、フェイリスさんと最初に会った元の場所に戻ってきてからだった。



鈴羽「はぁ、はぁ、はぁ」



大した距離じゃない。




鈴羽「……っ、ふう、はぁ、はぁ、」



この汗は、疲労のものじゃない。


この息切れも、疲労のものじゃ、ない。
99 : :2018/06/05(火) 11:37:45.09 ID:pSJ8SQZq0
鈴羽(…………椎名まゆりを前にした瞬間)


鈴羽(頭がギュッてなって……苦しくなった)


鈴羽(きっとどこかの世界線の記憶を引き出されかけたんだ。だって……だって、)


鈴羽(色んな寂しさとか、こわさとか……申し訳なさが、頭の中に流れこんできた)


鈴羽(失敗した、失敗した、失敗した、……)


鈴羽(あたしは失敗した、失敗した、失敗した、失敗した!!)


鈴羽「やめて!!」






鈴羽「……うぅ、…………おじ、さん……」
100 : :2018/06/05(火) 11:42:41.99 ID:pSJ8SQZq0
柳林神社――――


るか「ぼく、こわくって」


岡部「むぅぅ……」


ダル「予想以上に、ヤバそうだお……オカリン」


るか「それとまゆりちゃんと眼があった瞬間、急に頭が痛くなったんです……その日から変な夢…を」


岡部「……!」




眼が合った瞬間、他人の別の世界線の記憶を呼び起こそうとする。

まゆりに発現したリーディングシュタイナーの影響が、それほど強くなっているということなのだろうか……。


…………危険だ。危険すぎる。



るか「凶真さん、まゆりちゃんに何が起こってるんですか……?」



岡部「ふん。フゥーハハハハ!!!ルカ子よ、案ずる事はない。すぅぐに全てにケリを着けてみせよーう。まゆりの事も、お前の夢にもだ!」


るか「は、はい……」


岡部「んむぅ?この俺を信じられないのくぁ、我が弟子よ?」

るか「い、いえ、そんなことありません!ただちょっと心配、で……」



岡部「…………ふぅー」


俺はルカ子の頭に軽く手を置いた。




岡部「俺を信じろ。ルカ子」



るか「!……」


るか「……はい。凶真さんがおっしゃるなら……ぼく、信じます」
101 : :2018/06/05(火) 11:49:11.84 ID:pSJ8SQZq0
岡部「それでいい」

頭を撫でてやると、ルカ子は眼をぎゅっと瞑って身体を緊張させた。


岡部「さて。そろそろ行くとするか。ダル」


ダル「オーキードーキー」


岡部「迷惑をかけたな、ルカ子」


るか「いえ、そんなことありません……」


岡部「今度礼でもするとしよう。鍛錬を怠るなよ?」


るか「は、はい!」



岡部「ではさらばどぅあ!!」


るか「あの、きょ、岡部さん!」


岡部「俺は鳳凰院凶真だっ」


るか「ぁ…………」


岡部「…………」


るか「…………」


岡部「…………どうかしたの、か」


るか「……い、いえ、何でも、ありません」


岡部「?そうか。ではな」


るか「はい。お気をつけて……」











るか「ぼくは、女の子じゃないから……男の子だから……」
102 : :2018/06/05(火) 11:52:35.73 ID:pSJ8SQZq0
ダル「なんか危機感上がって……怖くなってきたお」

岡部「だが、必要なことだったのだ。まゆりの状態は芳しくない……それは確認できた」


岡部「これで俺たちはまゆりの前で不用意な発言をすることは無い」


ダル「オカリン……やっぱいくん?」


ルカ子の話を聞いたダルは、すっかり萎縮してしまっている。

俺はひとつため息をついた。


岡部「なぁーにを怯えているのだマイ・フェイバリット・ライト・アームよ!未来を変えるためにはこれしきの覚悟は些細なこと!どーんと構えておけ!」


ダル「……」


岡部「どうしたダァルよー、悩みすぎは体に禁物だぞ。痩せたいならばちょうどいいかもしれんがな!フゥーハハハァ!!」


ダル「…………すごいな、オカリンは」

岡部「っはっはっは、あぁ?」
103 : :2018/06/05(火) 11:56:39.95 ID:pSJ8SQZq0
岡部「ククク……ようやく俺の偉大さに気付いたか」


ダル「オカリンはまゆ氏を助けるためにいろんな世界線を渡り歩いて来たんだよな。その中にはもちろん、怖いこととかショック受けることもあったっしょ?」

岡部「…………」



脳裏に浮かんだのはまず、ラボへのラウンダーの襲来。

あのとき日常を突き破られた感覚は、今でも俺の胃を締めつける。


まゆりの死。

どれだけあがいてもアトラクタフィールドの収束によってバッドエンドを突きつけられる、あの絶望感。しかも一度や二度じゃない。


他にも萌郁とミスターブラウンの死、綯の殺意、……まゆりを助ければ紅莉栖が死ぬことに気付いたとき。

辛いなんてものではない。


だからこそ、SG世界線にたどり着いたときどれだけ嬉しかったか。


そして、既にここがSG世界線ではないと告げられたとき……どれだけ悲しかったか。
104 : :2018/06/05(火) 11:58:21.84 ID:pSJ8SQZq0
ダル「オカリンは凄いよ。僕は今正直、ショックで仕方がない」


ダル「今までラボで三人で楽しくやってきて、ラボメンが増えてもっと楽しくなって……。これからもずっとこんな風にやっていけるって思ってたのに」


ダル「突然、こんなことになっちゃって……」


そうか。

ダルは今初めて日常を壊されたあの感覚を体験しているのか。


俺はどうやら度重なる世界線の行き来によって感覚が麻痺してしまっていたらしい。


そうだよな。


いきなり友達だった人間がおかしくなって。

唐突にタイムリープだのリーディングシュタイナーだの訳のわからない言葉を詰めこまれて。


怯えて当たり前。


ダルにとっては今この状況が、俺よりももっともっと不安で仕方がないのだ。
105 : :2018/06/05(火) 12:00:54.31 ID:pSJ8SQZq0
ダル「……怖がらない。怯えないって決めてたんだけど」


ダル「やっぱり少し、それはある…」

岡部「ダル」


ダル「?」


岡部「話した通りこの世界線では、世界が終わる。自由なんてものは消えて無くなる」

岡部「現時点でそれを止めることのできるのは、俺と鈴羽、そしてお前だけだ」

ダル「分かってるけど、さ……」


岡部「そういえば世界が終わるとしか言ってなかったな……これだけはまだ話していなかったが」


岡部「このままいくと世界を終わらせるのは、俺だ」



ダル「……!」

ダル「冗談、だよなオカリン」


岡部「俺はラボメンを信じられなくなってラボを解散し、孤独の支配者になるんだそうだ。フフ」


ダル「そんな……」
岡部「ダル」





岡部「俺にそんな真似、させないでくれよ」


ダル「!…………」
106 : :2018/06/05(火) 12:09:45.15 ID:pSJ8SQZq0
岡部「俺も怖いよダル。初めてのこの世界線では何が起こるか分からない。お前と同じだ」


岡部「だが俺はラボにいたい。ずっとラボメンのNo.001でいたい」


岡部「孤独の支配者なんかになりたくは、ない」


ダル「……」


岡部「……狂気のマッドサイエンティストは、設定の中だけで充分だろう」



ダル「……オカリン」


岡部「…なんだ」


ダル「オカリンみたいなチキンが、世界の支配者になれるわけない件」



岡部「……お前な」

ダル「だから…だから」






ダル「心配しなくていいお」



岡部「……」



ダルは俺の前をずんずんと歩きだした。






岡部「……まったく」






俺の友達が



お前で良かった



ダル。
107 : :2018/06/05(火) 12:11:09.71 ID:pSJ8SQZq0
フェイリスの家に向かおうとする途中、不意に携帯が鳴った。


岡部「ダル。少し待ってくれ」


ダル「把握!」


岡部「もしもし?」

鈴羽『おじ、さん?うぅッ……』


岡部「鈴羽どうした大丈夫か!?何かあったのか!?」


電話の向こうの鈴羽は苦しんでいるのか、息づかいが激しく、声に呻きが混じっていた。


岡部「まさかラウンダーが――」


鈴羽『違うよおじさん、大丈夫……それより聞いて』


岡部「そ、そうか。良かった……何だ?」



鈴羽『……椎名まゆりに、会っては、ダメ』
108 : :2018/06/05(火) 12:14:33.73 ID:pSJ8SQZq0
岡部「え?」


鈴羽『今の椎名まゆりは、危険だよ……うっ……お、思った、以上に』


岡部「し、しかしそれでは――ここでまゆりに接触しておかないと、」


鈴羽『ダメ、だよ。確かに不安要素はなるべく消しておきたいけど……それでもダメ』


岡部「む……分かった。落ち着いたらでいい。後で説明してくれ」


鈴羽『おじさん』


岡部「何だ?」



鈴羽『椎名まゆりを……牧瀬紅莉栖に、絶対接触させないで』


岡部「?どういうことだ」




岡部「……切れてる」
109 : :2018/06/05(火) 12:30:37.41 ID:pSJ8SQZq0
空港――――


紅莉栖「……ふぅ、結構あっという間だったわね」


紅莉栖「んーーっ……」


紅莉栖(ずっとパソコン使ってたから、眼が疲れた)


紅莉栖(研究所にも無理いって出てきちゃったんだし、せめて飛行機の中でくらいは研究しなきゃね)


紅莉栖「目薬、目薬、っと……」


紅莉栖(それにしてもなんなのよ岡部のやつ)


紅莉栖(緊急事態だからすぐ帰ってきてくれだなんて……こっちはこっちで忙しいっていうのに)


紅莉栖(まぁ帰ってきちゃう私も私だけどね)
110 : :2018/06/05(火) 12:33:37.87 ID:pSJ8SQZq0
紅莉栖「これでもしくだらないことだったら、ホントに海馬に電極を……」


紅莉栖(……でも)



紅莉栖(岡部に、会える)


紅莉栖「………………はっ!?」


紅莉栖(別に、違うから!付き合います宣言してから初めて会うから、すごく緊張してるとか、嬉しかったりするとか、そんなんじゃないんだからな!)


紅莉栖(でも、あのときは恋人らしいことあんまりできなかったから)


紅莉栖(こ、今回はデートとか、しちゃったり……)


紅莉栖(手とかつないじゃったり……ってまた妄想に走ってるっ!)


紅莉栖(…………)



紅莉栖(もう一回、キ、ス……)





紅莉栖「ス、スイーツ乙! 私、スイーツ乙!」
111 : :2018/06/05(火) 12:36:15.23 ID:pSJ8SQZq0
紅莉栖(落ち着け私。落ち着け私。大事なことなので二回言いました)


紅莉栖(舞い上がってるのを気取られると、あいつを調子にのらせることになる)


紅莉栖(主導権を握るのは私!岡部じゃなくて私なの!)


紅莉栖(そこは譲らないようにしなくちゃ)


紅莉栖(でも)



紅莉栖(強引な岡部か……)



紅莉栖(…………)



紅莉栖(…………)


紅莉栖(わ、悪くないじゃない)




紅莉栖(こんなスイーツ(笑)みたいな感情、私にもあったんだ……)


紅莉栖(……ちょっと自分に素直になってみるのもいいかもしれない)





紅莉栖「岡部に、……会いたい」



紅莉栖「はやく、ラボにいきたいな」
112 : :2018/06/05(火) 12:37:24.84 ID:pSJ8SQZq0
ラボ――――


岡部「まぁなんやかんやで戻ってきた訳だが」

ダル「外での用事ももう済んだしね」


ダル「スーパーで牧瀬氏用のお菓子も買い終わったし……」

岡部「…………それはいいとして」


岡部「まぁーたダイエットコーラだ。まぁぁぁたダイエットコーラだあああ!!」

ダル「ちょ、うるさい」


岡部「我がラボにあるのはドクぺだけでいいと、何回言ったら分かるのだ貴様はぁぁぁぁ!!?」


ダル「いいじゃんわざわざ家に戻って、オカリンと牧瀬氏用のドクぺ買ってきたんだし……」
113 : :2018/06/05(火) 12:38:42.06 ID:pSJ8SQZq0
ダル「てか、着くの明日じゃなかったん?」


岡部「あちらの研究所が予想外に快くOKを出してくれたらしくてな。急遽今日到着ということになった。今何時だ?」

ダル「午後9時だね」


岡部「ふむ。ならばそろそろ空港に着いている頃だろう」


ダル「あ゛あぁあぁあ〜」


岡部「どうしたダル。餌が欲しいのか?」

ダル「豚じゃねーよ。いや、牧瀬氏とオカリンの濃厚な絡みをこれから見せつけられると思うと……あ゛あぁあぁああ〜」

岡部「人がいるところでいちゃつく程バカップルではないわ」


ダル「ぶぉっほっ!!」


岡部「餌が欲しいのか?」
114 : :2018/06/05(火) 12:40:31.70 ID:pSJ8SQZq0
ダル「冗談きついぜオカリン……」


岡部「冗談などではない!お前のいる前ではいちゃつかないと約束しよう!」


ダル「……オカリンはそうでもなぁ〜」


岡部「なんだよ」


ダル「牧瀬氏がなぁ〜」

岡部「なんだよ」


ダル「リア充爆発しろよッッッッ!!」


岡部「なんだよ急に!!?」


ダル「あーなんか無性にイラついてきた件。一発殴らせてくれよオカリン」


岡部「はぁぁ!?!?」


ダル「この気持ちは壁では治まらない……!!」


岡部「いや意味がわか……痛ッ!!!」
115 : :2018/06/05(火) 12:44:50.11 ID:pSJ8SQZq0
岡部「なぁ」


ダル「なんぞ?」


岡部「理不尽だろ」


ダル「そうでもないお?」


岡部「いや、いちゃつかないって約束したのに何で俺は殴られたのだ?」

ダル「僕の前で彼女の話をしたのが運の尽きだお」


岡部「この豚……」


ダル「ま、それは置いといて。牧瀬氏が来るまでに状況整理しとかん?」


岡部「ったく……だがそうだな。紅莉栖には色々と理解してもらわなければならないことがある」


ダル「現在の状況だけでも僕たちがまとめておいたら、多少スムーズに事が進むんでない?」


岡部「よし。では紙にまとめるとするか」
116 : :2018/06/05(火) 12:47:18.75 ID:pSJ8SQZq0
未来――――


地下、ドーム状になった広い広い空間。

その中央の床には、大きく五ヶ所に白線が引かれている。




無論、タイムマシンのためのものだ。



そして今まさに、右端の白線の中に衛星を象ったタイムマシンが出現しようとしていた。




ラウンダー1「戻ってきます」


???「……構えろ。出てきたら撃て」


ラウンダー1「しかし……」


???「撃て」


ラウンダー1「…………了解」



???「使えない道具はいらない。至極単純な道理だろうが……」





ドームの中に、乾いた銃声が鳴り響いた。
117 : :2018/06/05(火) 12:49:40.10 ID:pSJ8SQZq0
ラウンダー1「脈、ありません。死亡しました」


???「ご苦労。他はタイムマシンが無事か確認しろ」


ラウンダー234「了解」


三人の男達がタイムマシンの状況を確認しにきた。


誰もたった今殺された、傍らに倒れている男には目も向けない。

もちろん命令した張本人も。


ラウンダー1は同胞だったこの男に対して短く謝罪の言葉を口にし、その場を離れた。


ラウンダー2「タイムマシン五号機、異常なし!」


???「ならばいい。死体を処理し、持ち場へ戻れ」


ラウンダー234「了解!」



三人の男たちは無表情で死体を担ぎ、ドームをあとにした。



そのあとにはラウンダー1、命令した男、そして点々とした血痕だけが残された。
118 : :2018/06/05(火) 12:54:37.29 ID:pSJ8SQZq0
???「どうした」


男は全く顔の筋肉を動かさない。


ラウンダー1「…………いえ」


???「…………フン」


???「……奴は、『タイムマシン前で鈴羽を待て』という俺の命令を無視したあげく、バイクを使い怪我を負った」


???「そしてなにより、鈴羽を、鈴羽を殺そうとした……!」

男の顔が怒りで醜く歪む。


???「貴様に銃殺を命じた理由としては以上だ。改めて聞くが、何か不服があるのか」


ラウンダー1「……あるはずも、なし」



ラウンダー1「全ては鳳凰院様の御心の、ままに」









岡部(未来)「…………」
119 : :2018/06/05(火) 12:57:20.08 ID:pSJ8SQZq0
岡部(未来)「もはや世界は、我々の手中にある」


二人はドームを出て、エレベーターで最上階へ向かっていた。

緊急時に素早く対処できるように、側近であるラウンダー1の手には自動小銃が握られている。


岡部(未来)「経済大国――――アメリカやロシアやイギリス、そして日本」


岡部(未来)「みな表向きは我が組織を認めない、その存在を許さないと言っているが……」


エレベーターが止まった。

岡部は自室の扉を開けた。



その壁には、各国が友好の証として贈ってきた様々な品が、ごみのように床に転がっていた。





岡部(未来)「現実は、こんなものだ」
120 : :2018/06/05(火) 13:01:21.76 ID:pSJ8SQZq0
岡部(未来)「この世界線では、タイムマシンを持つのはこの俺唯一人……。あれだけ恐ろしかったSERNすらも、俺を恐れている」


ラウンダー1「それは当然でございます。時間を握った人間を、敵に回すことはできません」


岡部(未来)「ほう。貴様もそうなのか」


ラウンダー1「…………」


岡部(未来)「他の者が俺の最初の呼びかけを一笑に付す中――――貴様だけが応えた。誰よりも早く」


岡部(未来)「貴様のその嗅覚は賞賛に値する」


ラウンダー1「光栄に、ございます」




岡部(未来)「…………世界は俺のものになる。俺のユートピアはまもなく完成するのだ。――――ただ不安要素が、ひとつ」







岡部(未来)「鈴羽……」
121 : :2018/06/05(火) 13:02:32.79 ID:pSJ8SQZq0
岡部(未来)「何故だ?俺は通達したはずだ。全てが終わった暁には、橋田至、牧瀬紅莉栖、橋田鈴羽、橋田由季、漆原るか、秋葉留未穂の6名を悪いようにはしないと!」


岡部(未来)「だがその一週間後に、鈴羽が跳んだ……」


ラウンダー1「その時点で彼らのタイムマシンは完成していたものと思われます」


岡部(未来)「…………俺の通達に対する、返事……」



岡部はクシャクシャになった白い小さな紙を広げた。





『待ってて。必ずあたしたちがおじさんを』







『救ってあげる。』
122 : :2018/06/05(火) 15:43:19.24 ID:pSJ8SQZq0
岡部(未来)「救ってあげる……とは何だ?何から救おうとしてるんだ?」


岡部(未来)「ぅぐっ……」


ラウンダー1「鳳凰院様、お薬を」


岡部(未来)「いらん!!」


ラウンダー1「理想郷完成の前に亡くなられては困ります」


岡部(未来)「……チッ」



岡部(未来)「…………ん」


ラウンダー1「…………何故タイムマシンをこちらに戻したのですか」


岡部(未来)「…………」


ラウンダー1「私には粛正のためだけ、とは思えないのですが」


岡部(未来)「…………」


ラウンダー1「…………失礼しました。出過ぎた真似を」
123 : :2018/06/05(火) 15:44:29.25 ID:pSJ8SQZq0
岡部(未来)「…………鈴羽だけだ」


岡部(未来)「あと鈴羽だけなのだ……」


岡部(未来)「鈴羽の計画を阻止することで、全ては完成する」


岡部(未来)「お前たちでは無理なことは十分分かった」



岡部(未来)「ならば直々に……この俺が行ってやろう。鈴羽よ」


ラウンダー1「鳳凰院様自ら……!」


岡部(未来)「そうだ」


ラウンダー1「おやめください。もし貴方の身に何かあったなら、私たちはどうすればいいのですか」

ラウンダー1「貴方に拾われて救われた人間も大勢いるのですよ?どうか考え直されて下さい」


ラウンダー1「……橋田鈴羽は、生け捕りでなくてはダメなのですか?」




岡部(未来)「!!!」
124 : :2018/06/05(火) 15:45:13.26 ID:pSJ8SQZq0
ラウンダー1「過去で殺してしまえば、もう彼らに対抗策は……っ!」


岡部(未来)「…………」


ラウンダー1「……あ……いえ、申し訳ありません」


岡部(未来)「…………タイムマシン五号機の準備をしろ。この場で殺されたくなければな」


ラウンダー1「はっ!鳳凰院様は……」


岡部(未来)「俺は少ししてから行く。お前はついてくるな」

ラウンダー1「了解しました」




岡部(未来)「…………」
125 : :2018/06/05(火) 15:48:50.63 ID:pSJ8SQZq0
岡部は自室の壁のスイッチを押した。


すると壁がゆっくりと上がり、ちょうど扉くらいの大きさの隙間が出来あがった。


その扉に小さくしつらえられたドアノブに、彼は手をかける。




そこはファンシー、という言葉がぴったり当てはまる部屋だった。


壁も天井も薄いピンク色で統一されており、床にはどこかで見たことのあるようなキャラクターのカーペットが敷き詰められている。


部屋の中央には巨大なお姫様ベッド。



ベッドの中には、お姫様がいた。



もう、とうの昔に壊れてしまったお姫様が眠っていた。
126 : :2018/06/05(火) 15:49:33.50 ID:pSJ8SQZq0
岡部(未来)「まゆり……」

まゆり(未来)「…………」


虚ろな表情をしたお姫様は、岡部の声に応えない。


岡部(未来)「まゆり。俺は少し、出掛けてくるよ。大切な用事ができたから」

まゆり(未来)「…………」


春風のように優しい声。

岡部は呼びかけながら、お姫様の美しく手入れされた髪を撫でる。


お姫様は、応えない。


岡部(未来)「やっとだ、やっと……これまでの全てに終止符が打たれ、これからの全てが渦巻く波となってやってくる!!俺たちの理想郷が完成するのだ……まゆり!」


まゆり(未来)「…………」


岡部(未来)「お前も……お前も…………ッ」



お姫様は、応えない。
127 : :2018/06/05(火) 15:50:13.90 ID:pSJ8SQZq0
岡部(未来)「どんな医者もお前を治すことができなかった」

岡部(未来)「だがきっと!新しい景色が見えれば、そうすれば……お前はもう一度、心を開いてくれるはずだ」


岡部(未来)「お前の祖母のお墓に行こう。スーパーに行こう。コミケに行こう。コスプレ、も……少し嫌だがやってやる」


岡部(未来)「お前の望むところ、どこでも行こう!!お前のどんな望みでも、叶えよう!!だから、」


岡部(未来)「だからもう一度、笑ってくれ」


岡部(未来)「俺の腕に触れて、名前を呼んで、笑いかけてくれ――――」



岡部(未来)「まゆり!!!!」




まゆり(未来)「…………」
128 : :2018/06/05(火) 15:51:06.09 ID:pSJ8SQZq0
開かれた虚ろな瞳に


   岡部は映っていない。



岡部(未来)「…………」


岡部(未来)「全てが、終われば」

岡部(未来)「また昔みたいに戻れるはずさ」


岡部(未来)「また皆で、昔みたいに笑いあえるはずさ」


岡部(未来)「鈴羽さえ、捕まえれば……」


ラウンダー1『殺した方が、いいのでは?』




岡部(未来)「できるわけないだろうが」

岡部(未来)「鈴羽は俺の恩人だぞ?」


岡部(未来)「アイツだってラボメンなんだ……。絶対に殺しはしない」



岡部(未来)「もう何もかも無駄なんだよ鈴羽。なのにお前は、何をしようとしている――――?」
129 : :2018/06/05(火) 15:51:39.98 ID:pSJ8SQZq0
2010年――――


ダル「ああ゛〜」


岡部「ポテチがあるぞ。冷蔵庫にプリンもある」


ダル「うんあのさ、何でため息=餌よこせみたいになってるん?」

岡部「……違うのか?」


ダル「傷つくわーその本気で分かんないみたいな顔。……ってか牧瀬氏まだなん?あれから時間けっこう経ったけど」


岡部「確かに遅いな。助手め、どこで道草を食っているのやら」


ダル「彼氏に会う前に激カワコスメで愛されメイク♪」


岡部「スイーツ(笑)」


ダル「スイーツ(笑)」
130 : :2018/06/05(火) 15:52:14.74 ID:pSJ8SQZq0
ル「まとめてはみたけど、大体いいのかなこんな感じで」

岡部「ふむ……助手は俺たちほど強くリーディングシュタイナーが発現していないからな。もう少しわかりやすい方が良いかもしれん」


ダル「そーさね。ちっと手を加えようか」


岡部「まぁ、話しながら説明するのならそれほど問題は無いだろう」


ダル「そう?でも暇だからなー。やっとくお」


岡部「そうか。……少し、夜風をあびてくる」


ダル「んー」







岡部「……鈴羽から連絡、は……無いな。紅莉栖からも無い」



もちろん、まゆりからも。
131 : :2018/06/05(火) 15:52:52.16 ID:pSJ8SQZq0
鈴羽はまゆりに接触してはいけないと言っていた。

それは恐らくまゆりの精神状態が不安定なので、時期を見た方がいいということだろう。



だが最後の言葉は何だ?


『牧瀬紅莉栖に、椎名まゆりを接触させないで』

これはどういうことなのだろうか。


まゆりに紅莉栖を会わせると何かまずいことが起きる、とでも言うのか?




分からない。
132 : :2018/06/05(火) 15:58:34.99 ID:pSJ8SQZq0
未来から鈴羽が来た。

タイムマシンで過去へ跳んだ。

ダルに全てを話した。


……ダイバージェンスメータの数値は変動しているのか。


頭痛が来ない。

世界線変動の際に発動するあの痛みが来ない。


まだ足りない。

やはり過去へ跳んで、決定的に未来が変わる事象を引き起こすしかない。


しかし……どうすれば……


岡部「…………」






紅莉栖。


お前の力が必要だ。

俺たちだけじゃダメなんだ。



どこにいたって俺はお前を――――




――――だが、紅莉栖を選べばまゆりは……

133 : :2018/06/05(火) 15:59:21.13 ID:pSJ8SQZq0
店員「ありがとうございましたー」


紅莉栖「…………」

紅莉栖(ドクペ、買っちゃった。腐るほどあるんだろうけど)


紅莉栖(まぁ何にも買っていかないよりはマシよね。……と、もう11時だ。メールくれたからいるとは思うけど、寝ちゃってるかもしれないわね)



紅莉栖(……夜道怖い)


紅莉栖(走ってこっと)
134 : :2018/06/05(火) 15:59:54.46 ID:pSJ8SQZq0
その30分前・フェイリス家――――


フェイリス「本当に大丈夫?まゆりちゃん……うちにいくらでもいてくれていいんだよ?迷惑なんかじゃないんだよ?」

まゆり「ううん、ありがとう……でもごめんね。まゆしぃ、お家に帰るよ。こんなに泊めてくれてありがとう」

フェイリス「ほんと……?うちは全然……」


まゆり「あと話とか……聴いてくれてありがとう留未穂ちゃん。なんだか色々分かんなくなってたから……。すごく嬉しかった」


フェイリス「そんなこと……」


まゆり「まゆしぃはもう、大丈夫なのです!黒木さんもありがとうございました。お世話になりました……」


黒木「いえいえ。またいつでもいらっしゃってください」
135 : :2018/06/05(火) 16:00:44.72 ID:pSJ8SQZq0
まゆり「本当にありがとう。今度お菓子、作って持ってくるね」

フェイリス「……うん。じゃあまた、メイクイーンで会おうね」

まゆり「うん!さよならー!」


フェイリス「…………」



遠ざかっていくまゆりちゃんに手を振りながら。

彼女が前を向いたのを確認して、私は自分の涙を拭う。


どうしてかなぁ。

どうしてかなぁ。


まゆりちゃんの話、いっぱい聴いた。

まゆりちゃんの手を握って、慰めた。

泣いているまゆりちゃんに、タオルを渡した。


なのにどうしてまゆりちゃんの瞳はあんなに真っ黒なのかなぁ。

どうしてまゆりちゃんのくまは来たときより深くなってるのかなぁ。



フェイリス「黒木……」

黒木「……?」


フェイリス「私……何にもできなかった。友達なのに、何にもできなかったよ……!」


黒木「お嬢様……」


136 : :2018/06/05(火) 16:01:51.36 ID:pSJ8SQZq0
路地――――


紅莉栖「……ふぅ」

紅莉栖(疲れたから岡部の分のドクペちょっと飲んじゃった)


紅莉栖(まぁいっか……はっ)


紅莉栖(これを岡部が飲むってことは、か、か、)


紅莉栖(…………か)


紅莉栖(…………)ダダダダ
137 : :2018/06/05(火) 16:02:21.61 ID:pSJ8SQZq0
路地――――



まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ
138 : :2018/06/05(火) 16:04:20.11 ID:pSJ8SQZq0
路地――――



紅莉栖(もう!余計なことばっかり考える!)


紅莉栖(もうあそこを曲がればラボ!顔ちゃんと戻して……っ)



ドンッ
139 : :2018/06/05(火) 16:05:05.67 ID:pSJ8SQZq0
紅莉栖「いたたた……あっごめんなさい。大丈夫ですか?」

鈴羽「!!」


鈴羽(牧瀬紅莉栖っ……)


鈴羽(前方からは……ッ)


鈴羽(椎名……まゆり!!?)


鈴羽「くっ!」ガシッ

紅莉栖「きゃっ!?」


鈴羽(隠れなきゃっ裏路地へ……ッ)


鈴羽(急げ……急げッ!!)





まゆり「…………」ザッザッ
140 : :2018/06/05(火) 16:05:54.36 ID:pSJ8SQZq0
まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ





まゆり「…………」ピタ



まゆり「…………」


まゆり「…………」



まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ
141 : :2018/06/05(火) 16:07:23.39 ID:pSJ8SQZq0
鈴羽「はー……はーっ……!」


鈴羽(頭が……痛い!)


紅莉栖「あ、あの……大丈夫ですか?」

鈴羽「ラボ……」


紅莉栖「え?」


鈴羽「少ししたら、ラボへいって。岡部倫太郎がアナタを必要としてる」

紅莉栖「何で岡部のことを……」


鈴羽「いって!」


紅莉栖「!は、はい」



鈴羽「……ふ……ぅ」

鈴羽「椎名まゆり……」
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