【艦これ】漣「ギャルゲー的展開ktkr!」2周目

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1 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:35:37.79 ID:tODhHfXt0

前スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1518277055/

まさかまさかの2スレ目突入。最終決戦をお楽しみいただければ幸いです。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1527957337
2 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:36:28.40 ID:tODhHfXt0

 あぁ、なんてよい日和でしょう。
 肌寒かった空気は沖合に出るにつれて暖かみを帯び、凪いだ水面は陽光を乱反射して輝いている。見渡す限り広がる海の青、そして空の蒼。水平線はひたすらにまっすぐ。鳴いているのはカモメか、それともウミネコか。
 ざざん、ざざんと足元に波。それは私の足元を濡らしはせずに、どこか遠くの岸まで運ばれていく。砕けた波濤の飛沫が少し踝にかかるかどうか、という程度で、火照ったいまの体にはそれくらいがちょうど心地よくもあった、

 なにより一面に深海棲艦の死体。

 掃海で、気分爽快。

 なんちゃって。

3 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:37:00.50 ID:tODhHfXt0

「……あぁ、加賀」

 視界の端に、青い、背の高い、すらりとした立ち姿。
 瞬きする間に消えたその影は、まぎれもなく私の嘗ての相棒。顔には翳が落ち切っていたので、どんな恨みがましい顔でこちらを見ているのか、これまで一度も見たことはなかった。

 ちょっと待っていてね。口の中で呟く。

「ちゃんと深海棲艦を殲滅してみせるから」

 過去は変えられない。
 ゆえに、悩みも悔やみも意味がない。

 勿論私だって人間なのだから、ふとした拍子に弱気の虫が顔を出してくることはあった。あのときああしていれば。こうしていれば。涙を流し枕を濡らした夜が一体何回あっただろう。
 黄昏がセンチメンタリズムを増幅させるのならば、独りの夜は化け物を生み出す。自らの心に救う暗鬼が好機と見て這い出ようと内側から扉を叩く。

 そんな生き方は、私はしたくなかった。

 過去に囚われて未来を捨てるのはごめんだった。

4 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:37:28.05 ID:tODhHfXt0

 加賀も本当に意地が悪い。それとも、まだコミュ障を引きずっているの? そんなに私が心配なら、今すぐにでも化けてでてきてもいいのに。
 それとも、やはり、骨の髄まで恨んでいる? それなら今すぐ化けて出てきてもいいのよ?
 どちらにしたって願うことは同じなのだから。

 これが常に私に付きまとってくれるのであれば、きっと日常の中に埋没していたに違いない。だけど加賀は、私の意識から彼女が消えたときにだけ、ちらりとその姿を見せる。ほんの一瞬だけ。日の出が水面を真っ白に染めるように。
 忘れてほしくないのか、忘れさせてやらない、なのか。

 ならば私は墓前に花を供えなければならない。深海棲艦の殲滅という名の花を。世界平和という名の花を。

 そうすれば、加賀も満足に――他のみんなも、安らかに眠れるはずだった。
 私も前を向いて生きていけるはずだった。

 深海棲艦は全員殺す。やつらがいなければみんなが死ぬことはなかった。諸悪の根源。全ての原因。

 海軍の人間も残らず敵だ。だけど殺しはしない。なぜあのとき助けに来てくれなかったのかを問い質す必要がある。真実如何では、防衛省を地図から消そう。

 私が道半ばで死ぬことだって正しい。

5 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:38:06.96 ID:tODhHfXt0

 私の立てた作戦で沢山のひとが死んだのならば、責任の所在は私にある。しかし私は、自分が悪いとはちいとも思っていなかった。否、考えるのをやめた。誰が悪いとか悪くないとか、反省したところで誰も帰ってこないのだから。
 トラックの艦娘はみんな死んで、生き残ったみんなも、在りし日の輝きに目を細めるだけの亡霊だ。

 だけど、それでも。
 たとえ亡霊になり果てたとしても。

 もし全てを成し得て、それでも私が生きているのであれば、それはきっと生きていてもいいということなのだ。

 全ての価値はあとからやってくる。帰納的に。演繹的にではなく。
 だから、生きているのならば、それは生きるべきであって、生きていくべき。誰かが承認の判子を人生に捺印してくれたと喜んで、わぁいと大きく万歳をして、胸を張って自慢げに、肩で風を切って歩けばいい。
 生きていてもいいのか、だなんて。自分に価値があるのか、だなんて。いちいち振り返ることではない。

 そんなのは自立から一番遠い生き方だ。

6 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:38:38.96 ID:tODhHfXt0

「さて、どうなるんでしょうね。私は」

 ぐずぐずに溶けていく死体の向こうに、ヲ級の姿が見えた。

 水面を蹴った。矢筒から五本抜く。赤赤青青緑。赤青緑を射掛けて射出、術式展開に伴って多種多様な文字が解け、数十機へ変換。
 砲弾が私のすぐそばを抜けていく。恐怖はない。どこかへ捨ててきてしまった。後悔とともに、この世から消失した。だってどちらも抱えたままでは生きていられやしないから。

 回遊魚は止まると死ぬのだという。泳ぐことによって鰓から酸素を取り込んでいるから、泳ぎ続けなければ息もできない。生きていけない。きっと彼らには恐怖も後悔もない。恐れを抱けば前に進めず、過去に囚われては立ち止まることに繋がる。
 それほど達観できればどれだけ楽になるだろう。

 ヲ級の艦載機とこちらの艦載機が空中でぶつかる。制空権の奪い合い。機体性能自体はあちらに分があるものの、練度、及び数ではこちらが勝っている。
 遠くから咆哮。リ級とル級、タ級。中々に重たい部隊。

 世界が溶けていく。

 矢を射る私こそが一矢だった。真っ直ぐに、どこまでも真っ直ぐに、深海棲艦を屠るためだけの純なる存在だった。

7 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:39:19.14 ID:tODhHfXt0

 敵艦載機の爆弾投下。爆炎、轟音、水柱。掻い潜って接敵。焦げ臭いにおいが鼻孔を衝く。艤装か、髪の毛か、可燃性の部分が燃えている――無視。無視だ、無視!
 走って走って走る。敵艦載機とこちらの艦載機がかち合う。火の粉。背後で、前で、数多の墜落。ぼちゃんぼちゃんと落ちる何かの隙間を縫う。私はとにかく走った。
 残りの二本を射る。指の腹が少し痛んだ。この動作を今日一日でどれだけ繰り返したろうか。百? 千?

 深海棲艦を殲滅まで、どれだけ繰り返せばいい?

 知るか!

 くだらない自問自答。右手の指が失われても左手がある。口がある。なんだったら足だろうが脇だろうがあるじゃないか。
 高速修復剤は万能でこそないけれど、多少なりともの欠損くらいなら効果があるというし、それこそ義手やら義足やら、選択肢はいくらでもある。

 そう、選択肢なんていくらでもある!
 だって私は生きているから! ちゃんと自分の脚で歩んでいるから!

 だから深海棲艦を殲滅するのだ、と矛盾した言葉を私は叫んだ。

8 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:40:12.48 ID:tODhHfXt0

 ヲ級が撃沈。耳元が熱い。触れてみれば髪の毛が燃えていた。海水を掬って鎮火。そのまま止まらない。ヲ級の体を盾にしながら三体へと突っ込む。
 二発の砲弾を受け止めて、ヲ級の体は千切れて弾けた。こうなっては最早用済み。投げ捨て、矢を番える。そうはさせじと敵が散開、私を取り囲む様に位置取りをずらしながら狭叉射撃。

 眼前にはリ級がいた。重巡洋艦の名に恥じぬ巨大な艤装を身に着け、黒々とした外観と、コントラストを強調する剥き出しの歯が、こちらをいつでも殺傷せしめんと目を光らせている。
 青。艦攻。放った魚雷はリ級に的中するも、装甲の問題なのか、大破には追い込み切れなかった。

 お返しとばかりに一際巨大な魚雷が顕現、禍々しさを発揮させながら私へと向かってくる。
 ぎりぎりまでひきつけ、回転するように避ける。


「術式展開ッ!」

 梵字が光の帯となって弾ける。弦から放たれた矢が一息で艦攻に、そのまま追撃。巨大な爆炎と閃光、時折立ち上る水柱に埋もれ、攻撃状況が見て取れない。
 背後で咆哮。ぞわりと怖気が走る。私は咄嗟に煙の中へと手を伸ばし、殆ど瀕死のリ級の首根っこを掴んだ。そして先ほどのヲ級と同様に、砲弾に対しての盾とする。
 なんとか防御は間に合う。あまりの破壊力に、堅牢な装甲を誇ったリ級は、既に胸から上だけになってしまっていた。

9 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:41:24.88 ID:tODhHfXt0

 タ級もル級も種別は戦艦クラス。装甲の硬さは折り紙つき。艦攻や艦爆を重ねれば、傷つけ撃沈させることはそう難しくはないだろうが、私の目的はこいつらではない。余計な時間をとられるのは煩わしかった。
 だが、捨てるという軟弱な道は選ばない。選べるはずがない。

「深海棲艦は殲滅します」

 一匹残らず逃がしておけぬ。

 攻撃機を展開。敵も学習をしているのか、頭上を簡単に許してはくれない。

 それでよかった。僅かにでも足止めできれば十分だった。

 距離を詰める。攻撃機が更なる展開を見せる。応射。巨大な砲弾が二つ――いや、三つ。回避しきれないと瞬時に判断、左腕を捨てた。
 肩口に衝突。瞬間、謹製の護法印が自動展開、なんとか被害の軽減に努めてはくれるものの、完全とは言い難い。ごぎり。いやな音が響くのは体の内側から。けれども痛みは不思議とない。痺れはあるが、まだ、指先も動く。直撃していれば半身をもっていかれていたと思えば恩の字。
 戦場では体の欠損など日常茶飯事だ。イベントで死んだ仲間のうち、五体満足だった者など数えるほどしかいない。誰もが皆、艦載機や攻撃機、砲弾に手足を捥がれ、あるいは頭を潰され……でなければ化け物に喰われる。

 恐れはない。

 まだ私は生きている。

 運命が、まだ生きていてもいいと教えてくれている。

10 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:41:55.97 ID:tODhHfXt0

 タ級もル級も種別は戦艦クラス。装甲の硬さは折り紙つき。艦攻や艦爆を重ねれば、傷つけ撃沈させることはそう難しくはないだろうが、私の目的はこいつらではない。余計な時間をとられるのは煩わしかった。
 だが、捨てるという軟弱な道は選ばない。選べるはずがない。

「深海棲艦は殲滅します」

 一匹残らず逃がしておけぬ。

 攻撃機を展開。敵も学習をしているのか、頭上を簡単に許してはくれない。

 それでよかった。僅かにでも足止めできれば十分だった。

 距離を詰める。攻撃機が更なる展開を見せる。応射。巨大な砲弾が二つ――いや、三つ。回避しきれないと瞬時に判断、左腕を捨てた。
 肩口に衝突。瞬間、謹製の護法印が自動展開、なんとか被害の軽減に努めてはくれるものの、完全とは言い難い。ごぎり。いやな音が響くのは体の内側から。けれども痛みは不思議とない。痺れはあるが、まだ、指先も動く。直撃していれば半身をもっていかれていたと思えば恩の字。
 戦場では体の欠損など日常茶飯事だ。イベントで死んだ仲間のうち、五体満足だった者など数えるほどしかいない。誰もが皆、艦載機や攻撃機、砲弾に手足を捥がれ、あるいは頭を潰され……でなければ化け物に喰われる。

 恐れはない。

 まだ私は生きている。

 運命が、まだ生きていてもいいと教えてくれている。

11 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:42:52.32 ID:tODhHfXt0

 飛び込む様にル級との距離を縮める。両手に備え付けられた、盾か、いっそ壁にも似た巨大な鉄塊。片方五門、両手合わせて十門の砲火。しかし既に十分距離を縮めている。効果的な円のさらに内側。
 敵の損傷は間近で見ればなおさらに軽微であるように思えた。嫉妬したくなるほどの性能差。いや、そもそも物理法則が違うかのような。

「でも」

 顔面を掴む。親指を眼窩へと突っ込んだ。
 ずぶりずぶりと飲み込まれ、黒い液体が指にまとわりつく。溢れ出す。

 眼と口腔内が柔らかくない生物はいまだ見たことがなかった。

 耳を劈くル級の雄叫び。こいつらにも痛みはあるのだろうか。ふとそんなことを思う。鉄塊ごと両腕を大きく振って、その反応はまるで激痛を堪えきれないかのようだが、良心が痛まないのは不思議なことだった。
 まぁ、良心なんてものがとっくのとうになくなっている可能性は高いけれど。

 私は一気に離脱して、艦爆を三本。空を覆い尽くすほどの飛行機の群れに、無防備なル級は今更気が付いたようだったが、どうしようもないことは世の中には沢山ある。
 過剰なほどの爆薬で一気に屠った。

12 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:44:06.37 ID:tODhHfXt0

 三体目、タ級が砲塔を向けるのと、私が矢を向けるのは、タイミング的にほぼ同時。
 不思議と体が重い。意識よりも一拍ずれて体が動く。なんとか初撃は回避して、カウンターで敵を魚雷の筵にしてやるけれど、本調子でないのは明らかだった。

 艤装からアラートが鳴る。あぁ、なるほどね。
 燃料の不足か。

 最低限の浮力は海からの力で賄える。ただ、動くとなると、途端に体がついていかない。意識ばかりが先行してしまい、危うく自らの脚に脚を引っ掛けそうになるのだ。
 嫌な予感がして矢筒に手を伸ばす。矢を摘まもうとした指先は二回空振り、三回目でようやく一本、その手にとった。艦載機も予備が少なくなっている。随分と用意したつもりでも、少し派手に戦いすぎたようだった。

 遠吠えが鼓膜を震わせる。

 影が五つ。いや、三つ、か。

 ヲ級改フラッグシップ。
 戦艦レ級。

 そして……。

「雷巡棲鬼、か」

13 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:45:01.50 ID:tODhHfXt0

 びりびりと来る重圧が刺激として脳を突き刺す。録画で見ていたときにも禍々しさは桁外れだったが、実際にこうして相対すると、振りまく黒い粒子がブラックホールのようにも思えてしょうがない。
 ここでの邂逅は地獄だった。そして同時に天国でもあった。状況は圧倒的な不利であるのに、けれど確かに私は最後の最後まで辿り着いたのだという見当違いの喜びが込み上げてきているのだ。

 海は静かに水を湛え、風を運ぶ。どくん、どくん、心臓が大きく打っている。象徴的な対比が私の内外にあって、今すぐに駆け出したくなる気持ちを抑えながら、さきほどとった一本を弦に番える。
 私はこいつらを殺すためにやってきている。この状況に何ら不備はない。

 死ねば運命。生き残ってもまた然り。

 どちらにせよ重畳。

「ふふっ」

 命が燃えていく音が聞こえる。

14 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:45:46.87 ID:tODhHfXt0

 こちらが飛び出すよりも先に、巨大な尾を持つ人型、レ級が突っ込んできた。話に聞いていたのと違わぬ狂った嬌声。殺意の塊。破壊の権化。理性などとうに無く、いや、そんなものは生まれたときから持っていなかったに違いない。
 ごぽり。あぶくの立つ音がして、レ級の羽織ったレインコートが奇妙に盛り上がる。そしてそこから生まれる悪鬼。空を飛び、一直線に私へ。

 火の雨が降る。私の肌を焼き、髪を燃やし、艤装を焦がす。

 大きく波を立てて急展開。尾の一撃をなんとか回避し、射た。数機の艦爆は、けれどヲ級の戦闘機によって阻まれる。
 足元から死が湧いて出た。太陽のような眩しさが足元から突き抜け、全身を飲み込む。それが敵の、雷巡棲鬼の雷撃であると理解した時には、既に私は空へと浮かんでいた。

 血の飛沫が見える。波濤の飛沫と交じり合って。

15 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:46:14.91 ID:tODhHfXt0

 吹き飛ばされながらも体は動く。矢筒に指を突っ込んで――激痛。見れば右手の人差し指と中指が、有り得ない方向にねじ曲がっていた。骨が露出していないのは不幸中の幸いだった。
 まだ大丈夫だと言い聞かせる。腕は二本ある。手も二本ある。指に至っては十本もあるのだから、代えが利かないわけがない。
 まだ戦えないわけがない。

 こんなところで死ぬわけにはいかない!

 景色が流れていく。意識が真っ白に染まっていく。
 矢を放ち、敵の砲撃を、魚雷を、艦載機を叩き落としながら、それでも確実に体積を減らしていく私の体。物理的な欠損。肉が、血液が、海の魚の餌となる。

 戦わずにはいられなかった。逃げた先に安寧などありはしないと、魂が知っていたのだ。それで過去から眼を背けて生きて、一体なにになるというのだろう。ならば未来を見据えて死ぬほうがいくらかマシだと思った。

 58は言っていた。今回の作戦は、電撃作戦でなくてはならないと。なるほど確かにそうだ。こちらに猶予はあまりなく、敵が待ってくれる保証はどこにもない。

 以上二つの理由から、いくら勝ち目のない戦いであったとしても、ここで敵を逃がす――敵から逃げる選択肢はあり得ないのだ。

16 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:49:23.96 ID:tODhHfXt0

「うぉおおあああああっ!」

 矢を射るには精神の統一が必要である。集中が何よりも大事だと、訓練所での師は口を酸っぱくして語っていた。射形が悪ければ当たらないなどとは、当時は妄言にしか思えなかったが、今更になってそんなことを思い出すなんて。
 今の私の咆哮は、理想からは全く遠い概念だった。指は折れ、弓はひしゃげ、矢の残りは少なく、満足に肉体はおっつかない。叫ばなければ矢一つ放てないなど「赤城」の名折れに他ならなかった。

 そうして、ついに弓すらも砕ける。弦すらも切れる。

 殆ど「終わり」という概念と同じ。雷巡棲鬼の放った魚雷、その盾となって、私の代わりに吹き飛んだそれ。心の半分がなくなってしまったかのような喪失感。

 踏み込んできたレ級が見境なく尾を振り回す。ヲ級の艦載機が巻き添えを喰って十数機爆炎を挙げるが、そんなことはお構いなし。私を殺すために一心不乱。
 回避は効かなかった。後ろへ跳びながら手を交差させ、来るべき衝撃に備えるが、質量の差は歴然としている。骨の軋む音とともに私は海面へと叩きつけられた。

 肺から空気が絞り出される。横隔膜が痙攣する。体が悲鳴を挙げている。

 私は矢をとった。
 口から流れる血を親指で拭い、手首に九字を書いた。

「こんなところで諦めていられないの」

17 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:50:13.20 ID:tODhHfXt0



「その気概は立派やけどな」

「このクソバカ女! 早く撤退するでちっ!」



18 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:51:45.64 ID:tODhHfXt0

 小柄な二つの影が私と敵の間に割って入った。

 空を埋め尽くさんほどの艦載機が飛ぶ。ぐるんぐるんと臙脂色の周囲を旋回しながら、最初はただの白い紙きれであったものが、次第に遠心力によって速度を上げ、空中に浮かんだ魔方陣の中へと突入、艦載機へと姿を変えている。
 概算でその数は五十。それら全てが爆撃機。

 指が鳴らされる。と同時に、全機爆弾投下。ヲ級の艦載機による妨害などものともせずに、巨大な火の玉が三体へと襲いかかった。

「……早いのね」

 口内の出血が酷く、きちんと言葉にできたかは自信がなかった。

 龍驤は私に冷たい視線を向け、無言で前を向いた。いまだ黒煙の立ち上る爆心地を。

 おかしかった。私はここまで辿り着くのに三十分以上、ともすれば一時間近くを費やしている。龍驤たちが私に追いつき、ここへ到着するまでには、あと十五分以上かかると踏んでいたのに。
 ここにいるのは龍驤と58の二人だけではない。視認できる範囲で、そう遠くない位置に、残りの十人ほどがこちらへ向かっているのが見えた。

「赤城が戦いすぎなだけ。ぺんぺん草も、生えてなかった」

「……海には生えないでしょう?」

「そうだよ。そういうこと」

 そういうことね。
19 : ◆yufVJNsZ3s [saga]:2018/06/03(日) 01:52:51.28 ID:tODhHfXt0

 戦い続けてここまでやっとこさやってきた私と、深海棲艦の亡骸を眺めながらの龍驤たちでは、そりゃあ要する時間が違うわけで。
 そんなことにも気が付かないくらいに頭がおかしくなっていたのだ、私は。

「……来るわ」

 黒煙を巻き上げながらレ級が吶喊。狙いは最も近い位置にいた龍驤。
 しかし龍驤は巧みに爆撃を加えながら、尾が、砲火が、自身のすぐそばを通るように、それでいて決して被弾しないように、一定の距離を保っている。

「赤城さん!」

「うわ、ひどいっ……!」

 霧島、最上。そのさらに後ろには鳳翔や扶桑、雪風もいる。なんとあの大井まで!
 だがしかし、逆になぜか漣と響の姿が見当たらなかった。

「私のことよりも、今は」

 海風が黒煙を薙ぎ払う。ヲ級も雷巡棲鬼も、決して無傷ではなかったが、かといって行動不能に陥っているようには見えない。

「第一艦隊、全体を俯瞰しつつ援護! レ級はウチがひきつけとくから、ヲ級を中心に! 第二艦隊は適宜距離をとりつつ、雷巡棲鬼と戦闘開始! 魚雷だけには気を付けて!」

「わかりました!」

「うん!」

「はいっ!」

 各々が頷き艤装を構えた。

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