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ジュリア「我儘に奏でて」杏奈「自由に歌おう」【ミリマスSS】
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1 :
◆bncJ1ovdPY
[saga]:2018/05/31(木) 00:15:23.35 ID:rcTd5nKn0
『ジュリアさんとユニットを組むことになった』
それはあまりにも突然の出来事だった。
事務所でゲームをしていた杏奈の肩が揺さぶられ、連れて行かれたのは会議室。
疑問を浮かべる杏奈に告げられたのが、さっきの内容。
『……どうして、杏奈が……?』
当然、そんな疑問を抱いた。全く似ている要素も見当たらない二人。ユニットとして成り立っているかも分からない。
別に嫌ではなかったから直接言いはしなかったけれど、代わりにユニットのコンセプトを聞いたら『そのうち分かる』と流されてしまった。
その後はライブが一ヶ月後にあることと、そこでそれぞれの新曲を披露することを聞かされた。
「こうしてユニットとして一緒にやる事になったんだ。お互い頑張ろうぜ」
ジュリアさんは特に問題と感じていないのか、気さくに話し掛けてくる。
どう返せばいいのか分からなくて、小さく漏らすように「は、はい……」と返すのが精一杯だった。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1527693323
2 :
◆bncJ1ovdPY
[saga]:2018/05/31(木) 00:16:27.64 ID:rcTd5nKn0
会議室を出てすぐ、ジュリアさんに「レッスンルームに寄っていかないか」と誘われた。
その言葉だけで察していたのかレッスンルームの予約は取られているし、断る理由も特にないので行くことに。
レッスン着に着替えてレッスンルームに入ると、既に着替え終わったジュリアさんがギターを片手に窓際にもたれ掛かっていた。
「よ、来たな」
手を上げて迎え入れるジュリアさんとは対照的に、杏奈の中では未だに疑問が渦巻いていた。
「何をするのか分からないって顔だな」
「え……」
そんな杏奈の疑問を表情から読み取ったのか、ジュリアさんはギターを構えながらそう告げる。
3 :
◆bncJ1ovdPY
[saga]:2018/05/31(木) 00:17:29.98 ID:rcTd5nKn0
「ユニットって言ってもいきなりステージに立つなんて無理だろ?お互いの事を知るのが先さ」
それはそうだ。杏奈も色々なユニットで歌って来たけど、最初は歌もダンスも合っていなかった。
「あの、杏奈は……何をすれば……」
「ここで、歌ってくれよ。アンナの歌が聞きたい」
「ぇ……」
戸惑う杏奈を置いて、ジュリアさんがギターをかき鳴らす。
つられて、ギターの音に耳を傾けてみる。どこかで聞いたことがあるフレーズ。
4 :
◆bncJ1ovdPY
[saga]:2018/05/31(木) 00:17:57.59 ID:rcTd5nKn0
ーー杏奈の曲だ。初めてのライブで歌った、杏奈の”憧れ”が詰まった曲。
ジュリアさんに視線を向けると、こちらを見返してウィンク。
なんとなくその意味を理解して、目を瞑って深呼吸をする。
パッと目を開いたら、さっきまでの弱い杏奈はもういなくて。
「ビビッといっくよー!」
掛け声と共に、アイドル”望月杏奈”の小さなステージが始まった。
5 :
◆bncJ1ovdPY
[saga]:2018/05/31(木) 00:18:52.22 ID:rcTd5nKn0
「はぁ、はぁ……」
「……」
一通り歌い切ると、レッスンルームは再び静寂に包まれる。
杏奈の中に残るのは、さっきまで見えていたキラキラとした世界と達成感。それと疲れ。
歌うことに夢中で気にしていなかったけど、そう言えばジュリアさんが聞いてたんだっけ。
反応を伺うようにジュリアさんの方へと視線を向けると、目を瞑り何かを思案しているようだった。
ちょっと難しそうな顔。何を考えているのかな……ジュリアさんの考えてること、杏奈にはまだ分かりそうにない。
6 :
◆bncJ1ovdPY
[saga]:2018/05/31(木) 00:19:38.60 ID:rcTd5nKn0
「歌い始めた瞬間、周りの空気も変わってーー思わず引き込まれちまったよ。これが、キラキラしてるってヤツなのかもな」
ジュリアさんはそう呟いた後、『やっぱあたしの見込み通りだったな』と笑う。
キラキラ……抽象的ではあるけど、実際そんな感覚を杏奈も感じてた。
それならさっきの難しそうな顔は何だろう?『見込み通り』というのも気になる。
でも、それを聞くよりも先に。
7 :
◆bncJ1ovdPY
[saga]:2018/05/31(木) 00:20:08.46 ID:rcTd5nKn0
「杏奈が終わったら……次は、ジュリアさんの番……」
「あぁ……分かってる」
杏奈の音に染まった空気が、別のものに塗り替えられる。
ジュリアさんも笑顔は変わらないけど、その瞳の奥に火が付いたように見えた。
深呼吸して神経を研ぎ澄ませる。
曝け出されるジュリアさんの全てを聴いて、受け入れる準備は出来ている。
「聴いてくれ。『流星群』」
8 :
◆bncJ1ovdPY
[saga]:2018/05/31(木) 00:20:50.17 ID:rcTd5nKn0
レッスンルームを出て事務所へと戻る途中、ジュリアさんの”音”について思い返す。
素人目で見てもギターはとても上手で、歌にも情熱というものが感じ取れて。
ジュリアさんはこういう人なのかな、というのは何となく理解した……と思う。
でも杏奈は、歌に”杏奈の音”を込めることが出来ない。
きっとこの曲は”杏奈の憧れ”で、”アイドル望月杏奈の曲”だけど……”杏奈の曲”じゃないんだ。
9 :
◆bncJ1ovdPY
[saga]:2018/05/31(木) 00:21:43.00 ID:rcTd5nKn0
杏奈は“杏奈の曲”を歌ったわけじゃなくてーージュリアさんがそれに気付いていたとしたら?
聴いたあとの難しそうな表情に、そんな意味が込められていたとしたら?
その場でぶんぶんと頭を振って、頭の中に浮かんだ思考を振り払う。
思考を続けていたら、杏奈が杏奈でいられなくなるような気がしたから。
杏奈の考え過ぎだと、このままでいいんだと自分に言い聞かせて……考えることをやめた。
10 :
◆bncJ1ovdPY
[saga]:2018/05/31(木) 00:22:53.04 ID:rcTd5nKn0
次の日もスケジュールに二人でのレッスンは無くて、代わりにジュリアさんにレッスンルームに誘われた。
胸の内ではまだ少しモヤモヤとしていた。でもジュリアさんとーーそれから自分自身に隠すように、少し無理をして明るく振る舞った。
だって杏奈が気にしてちゃ、自主レッスンも出来ないから。
ステキな”自分の音”を持ってる、ジュリアさんの邪魔だけは絶対にしたくなかった。
また、昨日と同じように歌を歌った。
昨日と同じ曲を、昨日と同じ気持ちで歌った。
同じように歌ったはずなのにーー昨日よりもキラキラは薄れ、疲れが増えていた。
ジュリアさんは昨日と変わらず、難しそうな表情で唸っていた。
11 :
◆bncJ1ovdPY
[saga]:2018/05/31(木) 00:23:29.47 ID:rcTd5nKn0
意を決して、ジュリアさんに問い掛ける。
昨日と何が違うのか、どうすればキラキラを取り戻せるのか。知りたかったから。
「あ、あの……っ。何が、ダメでした……か……?」
「あ、いや。ダメって訳じゃ無いんだ。ただ……」
「……ただ……?」
ジュリアさんは少し狼狽えるも、覚悟を決めたように言葉を投げかけた。
「今日の歌……アンナが、見えなかったんだよ」
12 :
◆bncJ1ovdPY
[saga]:2018/05/31(木) 00:24:03.57 ID:rcTd5nKn0
「ぇ……?」
杏奈が見えない。
意味が分からず、思わずそんな声が漏れる。
いや、意味は分かっていた。きっと隠していただけ。
13 :
◆bncJ1ovdPY
[saga]:2018/05/31(木) 00:24:42.00 ID:rcTd5nKn0
「目の前で歌ってるはずなのに」
やめて。
「まるで、壁の向こうにいるみたいに」
暴かないで。そうしたらきっとーー
「ーー存在が、遠く感じたんだ」
「ぅ、あ……」
杏奈が考えないようにしていたことが、一つ一つ胸に突き刺さる。
次々と突き刺さって、その度に傷口が広がって。
14 :
◆bncJ1ovdPY
[saga]:2018/05/31(木) 00:25:10.48 ID:rcTd5nKn0
限界だった。
「ッ……」
「えっ……?お、おい!アンナ!どこにーー」
思わず、杏奈は背を向けて走り出した。
迫り来る恐怖から逃げるように。
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