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【モバマスSS】愛を知らない一ノ瀬志希と彼らの巡礼の旅
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1 :
◆TDtVvkz8pSL3
[sage saga]:2018/05/30(水) 01:21:57.09 ID:dFhLHRCO0
『……人はそれを、愛と呼ぶのだと思いますよ』
※このSSには一ノ瀬母死亡説、キャラの濃いプロデューサー、独自解釈、過去捏造が含まれます。ご留意ください。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1527610916
2 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:22:53.94 ID:dFhLHRCO0
これだから天才は。
そうぼやきながら俺がノックのひとつもしないでラボのドアを開けたのは、別にいつものことだった。
ズボラなアイツのことだ、呼びかけたってモーニングコールを鳴らしたって、絶対に返事は来ない。
ただ、いつもよりも部屋の奥へ向かう足取りが速かったのに理由があるとすれば、それはきっと心の何処かで、嫌な予感を感じていたからだろう。
「おい志希!もうとっくに仕事の時間、だぞ????」
怒鳴り声は竜頭蛇尾に詰まり、苛立ちはそのあまりに異様な光景の中に霧散していった。
そのラボは、不自然なまでに綺麗すぎた。
普段ならば乱雑に転がされた試験管やフラスコは机上に並べられており、足の踏み場もないほどに散らかされていた、謎の式の記されたノートの切れ端は影も形もない。
床は埃ひとつなく磨かれていて、窓からは流石にもう朝日とは呼べない陽光が差し込んでくる。
そして何よりも、その中心で毛布にくるまり無防備にも転がっているはずの彼女の姿は、何処にもなかった。
3 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:23:51.47 ID:dFhLHRCO0
志希の失踪は今に始まったことじゃない。
しかし志希が"失踪"をする時、こんな風にラボを整頓するようなことは今まで一度たりとも無かった。志希が趣味だと公言している"失踪"は本質的に失踪ではない筈だった。少なくとも俺が志希と出会ってから昨日までは。
だからこそ逆に、この部屋は今理路整然と、「一ノ瀬志希は失踪した」という事実を俺に証明しているのだ。
猫は自らの死を悟ると人前から姿を消すのだという。別に、アイツが猫のような気性をしているから、ということが言いたいわけじゃない。
ただきっと、虫の知らせというのはこういうものなんだろうと、去来する漠然とした不安に立ち竦んでしまう。
4 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:24:33.16 ID:dFhLHRCO0
しかしいつまでもそうしてはいられない。
何か手がかりは無いか、そう思い部屋を探索しようとした俺の目に、机の端にひっそりと置かれていた紙片が飛び込んだ。
何度も何度も消しては書き直した後の上に、最終的に記されていたのは、「Where am I?」という簡素な文字列だった。
『私は何処でしょう』、だと……?
「何処に行った、あのバカ娘……」
まずは社長とちひろさんに連絡、そして早急に先方へ連絡と謝罪。ああくそ、明日からの仕事もキャンセルしなければ……
ふと、ころころと人をからかうように笑う志希が思い浮かぶ。
俺はそれに脳内で手刀をかましてから、早足で部屋を出て奴を見つけ出す算段を立て始めた。
5 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:25:16.76 ID:dFhLHRCO0
んー、いい天気!風が吹くとまだちょっと肌寒いけど。
今頃プロデューサーはどうしてるかな?慌ててるかな。それとも泣いてる?
まさか。
彼のことだからきっと、「志希の奴は何処だ〜!」なんて顔真っ赤にして怒りながら、その癖最善手を取るために頭フル回転させてるんだろーね。
う〜ん……まだ捕まるのは困っちゃうかにゃー。じゃあ急がないとね。せっかく人生二度目の大失踪なんだから、すぐにおしまいじゃツマンナイし。
6 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:25:50.01 ID:dFhLHRCO0
人の匂いは少し控えめ。
代わりに動物と草と土の匂い。
何処にいるのかって?
うん、岩手。
何でって?さぁ?何でだろうねー。なんでだと思う?
でもなんとなく落ち着く気はするかな。これは懐旧?
正直そんなにフルサトって言葉に馴染みがないんだけど、不思議なもんだねぇ。
7 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:26:36.15 ID:dFhLHRCO0
アタシが"普通"でいられたのはきっと、この街にいた間だけだった。
いや、それも正確じゃないかな?
まぁ少なくとも、おぎゃあと生まれて病院ですやすやしてる間は他の赤ん坊たちと同じだったと思うよ。分かんないけどね。
ちっちゃな頃のアタシはそれはもうヤンチャわんぱく、まだ歩けないのにそこらじゅう這い回っては「あれは何かな?」「こっちはなんだろう」って見て回ってたんだよね。
ダッドは殆ど家に居なかったし、ママも大変だっただろうなー。
ありゃ、あの病院もう無くなっちゃったんだ。時間の流れって早いねぇ。
8 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:27:59.95 ID:dFhLHRCO0
事情が変わったのはもうちょっと後。
なにせ周りのみんながまだやっと言葉を話し始めた頃にもう自分の名前を平仮名で書いて、1+1の計算までしちゃうもんだから大騒ぎ。
あの時のママのあの顔の意味は……未だによく分かんない。
ともあれこうしてー志希ちゃんに贈られたプレゼントボックスは開封されたのでしたー。ぱちぱちぱち。
小学校に入学するころにはすっかり図書館のヌシだったね。
本はいいよー?分からないことがあれば探せばいい。読めない文字があればそれも調べればいい。
好奇心だけで生きてたアタシには絶好の遊び場だったよ。
あとはまぁ、最高の隠れ家でもあったけど。
「贈られた者/ギフテッド」。
んー、いい言葉だね。考えた人はセンスあると思うよ。本当だよ?
だってさ、勝手に贈っといて勝手に代金持ってっちゃうんだもん。詐欺だよねー詐欺。
消費者庁に訴えたら返してもらえないかな。今更返してもらっても困るけどさ。
9 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:29:04.39 ID:dFhLHRCO0
そう、図書館にいられたのは、時間があったから。お昼休みにグラウンドで鬼ごっこをする友達もいなかったし、放課後に遊びに行く相手も場所も知らなかった。
別にそれ自体に不満があるわけじゃないし、あの頃のアタシも寂しいなんて思ってなかった。だって興味が無かったから。
だってクラスメイトと遊んでる時間があればもっとたくさん本を読んだり実験したり観察に出かけたり、できることが増えたし。
授業が難しいとか、宿題が解けないとか、そうやって会話をする必要も無かった。だって全部解けちゃうから。
そして素直な子供志希ちゃんはこう思うのです、「なんでみんなできないんだろう?」と……そんでもってそれを聞いちゃうんだ。
だってそこに分からないことがあって、そこに知ってそうな人がいて、そこに聞くための機会が揃ってるんだもん。聞くよね、誰だって。
その結果は言うまでもないよね?晴れてアタシは四面楚歌、ひとりぼっちの孤立無援。先生たちも扱いに困って放置状態。
気持ちは分かるよ、誰だって見えてる地雷は踏みに行かないだろうし。
10 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:29:38.89 ID:dFhLHRCO0
そろそろだったかな。おっ、見えた見えた。
流石にここは変わってないにゃー。
あの頃との見え方の違いを比較すると成長したんだなって思うよねぇ。
うん、しっかり覚えてるよ?だって忘れられないし。願望じゃなくてジュンゼンたるフカノーセーだけどね。
こんなにちっちゃかったんだなー、ここも。
11 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:30:45.28 ID:dFhLHRCO0
低学年の頃はまだ良かったんだよね。
暗黙の了解として相互不干渉だったし、アタシにはママがいたから。ママはアタシのどんな疑問も謎も興味も、ぜんぶ受け止めてくれたんだー。
すごいよね、ママは別に天才でも何でもなかったのに。慣れてたのかな?ダッドはもっと大変だったのかもね。
でもね、死んじゃったんだ。アタシが5年生の時だったかな。
死因はね、癌。膵臓癌。見つかった時にはもう、末期だった。
この時初めてダッドが泣いてるのを見たんだー。
私が日本にいれば、側にいれば、もっと早くに見つけられたかもしれなかった、治ったかもしれなかったんだ、って。記憶の限り合理性の擬人化みたいな性格をしてるあの人がだよ。
アタシも悲しくていっぱいいっぱい泣いたんだけど、同時にこの人も人間だったんだなぁって思って何か変な感じだった。
その時はね。うん、その時までは。
12 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:31:35.42 ID:dFhLHRCO0
うちに帰ればママがいる。
たったそれだけのことが、幼い志希ちゃんにとっては心の支えだったみたいで、これからどうなるんだろうなーって珍しく不安になったんだ。
質問したくても答えてくれる人はいなくなっちゃったし、図書館の本も全部読み終わっちゃったし。あぁ、何もやることないなー、つまんないなーなんて思ってた時に、ダッドが一言、アメリカに来るか、って言ったんだ。
日本に留まるにも流石に保護者が要るし、かと言ってアタシみたいなのを引き受けてくれる親戚も見つからなかったらしくて、そのままじゃ施設行きか家なき子になるしかなかったんだってさ。
向こうならお前に合わせた教育をしてくれる。だが生温い世界では無いだろう。選ぶのはお前だ。志希がそれで良いのなら付いて来なさい。
即答だったよ。
躊躇うほど、この街とか学校とかに愛着があるわけでもなかったし。それになにより、そこにはまだアタシが知らないものがたくさんある。
行かない理由は無かった。だから行った。
もしかしたら、アメリカに行かずに、インドアでちょっと好奇心の強いだけの普通の女の子に育ったアタシがいたかもしれないね。文香ちゃんや頼子ちゃんみたいな子たちともっと話が合ったかな?
アイドルにならない可能性の方が相当高そうだけど。そもそもアタシはダッドの手を取ってしまったわけで、いくらアタシやダッドでも過去を変えることは出来ないから、考えても意味ないか。
13 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:32:06.90 ID:dFhLHRCO0
んー、もうここで見るものは無いかな。
難しいなぁ、見つかんないや。飛鳥ちゃんや蘭子ちゃんなら地図を持ってるのかな。
まぁいいや、次いこー次ー。どこ行くかって?内緒!
14 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:32:57.47 ID:dFhLHRCO0
「首尾はどうですか?」
「全然ダメですよ……っと、ありがとうございます、ちひろさん」
デスクで頭を抱える俺に、そっと微糖の缶コーヒーを差し出してくれたちひろさん。しかし、表情は明るくはない。
それもその筈だ。志希が失踪してからもう3日目。いつもなら長くても2日で帰ってきていたのだから、そのことを知っているちひろさんにとっても心配の種だろう。
「アイドルの子達からは何も?」
「ええ、宮本や二宮、他にも関わりの強そうな連中は聞いて回ったんですが……」
謝罪と謝罪と謝罪でてんてこ舞いだったものの、合間を縫って担当や目ぼしいアイドル達に聞き込みは行なっていた。
しかし帰ってきた返事は『いつものことじゃないのか』『何も聞いてない』というものばかり。異変に気付いているのか宮本は心配そうにしていたが。
かと言って手掛かりも無く、正直お手上げ状態と言うべきだろう。
15 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:33:40.31 ID:dFhLHRCO0
「そうですか……すいません、お力になれなくて」
「いえいえ、元はと言えば俺の監督不行き届きですから」
失礼します、と言って出て行くちひろさんを、恐らくはぎこちないであろう作り笑いで見送ってから、大きく息を吐く。
こうなったら足で稼ぐしかない。これでもアイツが失踪した時の話は暗唱できるほど聞かされている。そこからアイツの行きそうな場所を推測して、虱潰しにしていくか。
半ば言い聞かせるように決心して立ち上がろうとした瞬間、部屋のドアがノックされる。
「はーい?」
出鼻を挫かれたような気がしないでも無いが、急ぎの用だったりしたらまずい。そう思いドアを開けると、そこにいたのはウチの事務所のアイドルの一人だった。
16 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:34:21.39 ID:dFhLHRCO0
「おはよう、ございます……」
「鷺沢か。どうした?」
「いえ……志希さんのことで、折り入ってお話がありまして……」
「情報提供か。それはありがたいな。さ、入ってくれ」
鷺沢文香。別のプロデューサーが担当しているアイドルだ。志希とは何度か共演しているが、それほど仲が良かっただろうか?
一先ず連れ立って部屋の中へと戻り、鷺沢をソファーへ促す。こうして二人で話すことなど初めてなので、向こうとしても少し気まずさはあるようだ。
17 :
◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]:2018/05/30(水) 01:35:14.15 ID:dFhLHRCO0
「んで、話ってのは?」
「その……恐らく、彼女が失踪する前に、最後に会ったのは、私なのです……」
「……続けて?」
「普段は、現場で顔を合わせたら数度言葉を交わす程度の仲だったのですが……志希さんが失踪した丁度その前日、私に相談したいことがある、と……」
相談。少し珍しいな、と思う。志希は大抵の場合、問題点を自分で分析して、足りないものを自力で把握する。その上で必要な要素を質問することはある。
しかし今回は何が分かっていないのかも分かっていなかった、と言うことだろうか。あの志希が?
「それで、その相談の内容は?」
「……大変、申し訳ないのですが……『プロデューサーには絶対言わないでね!』とのことでして……私としても、本人の口から問われた方が良いかと思いますので……」
「言えない、と」
「はい……」
折角の手がかりだと思ったのだが、手に入ったのは「相談するような悩みがあった」ということだけか。情報はありがたいが、その先に繋がりそうなものではないな……
そう思案していると、テーブルの向かいで鷺沢が言葉を続けた。
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