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【ガルパン】エリカ「私は、あなたに救われたから」

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613 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:48:59.65 ID:+ZhhncjE0






『なにニヤニヤしてるのよ』

『ん?……神様っているのかなーって』





614 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:49:37.13 ID:+ZhhncjE0




天罰なんてありはしなかった

あの人がいないのに、私が存在していることが、神様がいないという証明なのだから



615 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:51:27.88 ID:+ZhhncjE0


ただただあの時の私たちは笑っていた

大切なものの価値に気づいていながら、享受するばかりで何も与えていなかった

もしも私が強ければ、賢ければ、未来は違ったのかもしれない

けれども私は、愚かにもそれが当たり前の日々なのだと、変わらずに明日は、未来はあるのだと信じ続けてた

繋いだ手の温もりが永遠のものだと疑わなかった

そして当然の様に


616 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:52:03.78 ID:+ZhhncjE0











終わりは、すぐそこまで来ていた










617 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/17(土) 23:53:13.96 ID:+ZhhncjE0
えー、あー、はい。やっとこさ中3編が終了です。
来週からいよいよ高1編なんでよろしくおねがいします。
また来週
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 00:34:02.58 ID:e3SqNp/Oo
おつー
遂にきたかー
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 02:55:33.98 ID:n1KDoeQWO
乙です
ここから黒森峰黄金期ルートに入る分岐はないのか…
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 03:03:05.45 ID:6+HbvDK50

死別もだが、正直そこから西住殿が壊れて成り代わろうとする過程がより怖い
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 07:38:17.69 ID:0qvpjjCc0
ワンピースの回想かよ
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 03:35:33.42 ID:HlavTYr/0
これが終わったら、黄金期ルートも書いて欲しいなあ
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 06:27:34.43 ID:gpLWM6vOO
乙 ハッピーエンドの可能性もあるから‼︎‼︎
624 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:10:48.70 ID:1i+sRLwV0







高等部1年 〜5月〜



ざわめきに満ちている食堂。

中等部から高等部に移ってもそういうところは変わらないのだなと少し安心感を覚える。

新年度が始まって一月近くが経ち、ようやく学食に行くのに案内されずともよくなった。

「鶏のほうがもうちょっと物覚えが良いわね」なんて言われる日々とはおさらばなのだ。

私は日替わり定食ののったトレイを揺らさないよう気を付けながらテーブルへと向かう。



みほ「赤星さん、エリカさんおまたせー」

小梅「大丈夫ですよ」

エリカ「別に待ってないわよ」



高校生になるとどうなるのかなんて思っていたが、結果として大して変わっていないというのが本音だ。

制服はそのままだし、校舎こそ高等部のに移ったものの、別に目新しいものがあるわけでもない。

流石に戦車道の練習は中等部よりも厳しくなっているが、それにしたって進学前にはもう高等部の練習に加わっていたので新鮮味も薄れている。

でも、それが嫌なわけじゃない。

こうしてエリカさん、赤星さんと一緒にお昼を食べる時間はどれだけ数を重ねようとも私にとって大切な時間なのだから。

だから、今日も同じテーブルで、好きなものを食べながら、他愛もない話でお昼休みを楽しむのだ。




『文科省は以前より計画していた学園艦の統廃合対象校の選定を行うことを決定』




学食にあるテレビからそんなニュースが流れてくる。

聞くには国の財政状況が云々でお金のかかる学園艦を維持するのが大変だから、いくつか廃校にするといった事のようだ。



みほ「学園艦が統廃合って……うちは大丈夫なのかなぁ……」



独り言のように呟いた不安をエリカさんは耳ざとく拾う。



エリカ「統廃合の対象は公立、それも艦の老朽化や生徒数が減っているようなところが対象よ。うちには関係ないわ」

小梅「そもそも戦車道の優勝常連校の黒森峰を潰す理由なんてありませんよ」

みほ「それもそっか。……でも、選ばれた学校の人たちはなんだか可哀そうだね」


625 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:16:28.62 ID:1i+sRLwV0



学園艦は基本中高一貫だ。小学校を卒業して6年間を親元を離れて過ごしてきた場所なのだ。

これが陸での話ならまた違うのかもしれない。廃校になったとしてもすごした土地や、景色は残っているのかもしれないのだから。

でも学園艦は違う。廃校になれば解体され、そこにあった思い出や景色は跡形も残らず無くなってしまうのだろう。

……それは、きっと辛い事だ。

顔も知らない人たちの気持ちを勝手に想像して、勝手に落ち込んでしまう。

そんな私に赤星さんもつられたようで、箸の進みが遅くなる。



小梅「……そうですね。何年も暮らしてた場所が母校と一緒に無くなってしまうんですから」

エリカ「学園艦の維持費を考えれば仕方のないことよ、公立校は税金で運用しているのだから。」



感傷的な私たちの言葉に対してエリカさんはどこまでも理性的だ。



小梅「エリカさんはクールだなぁ……」

エリカ「……それに浮いた予算でより良い事が出来るのなら廃校になった所の生徒たちも少しは浮かばれるでしょ」

みほ「だといいけど……」

エリカ「よその事考えている暇があるなら今年の大会の事を考えなさい」



この話はこれで終わり!といった風に話題が変わる。

とはいえ、その話題はもう幾度となくされたものなのだが。



小梅「エリカさん最近そればっかですね」

エリカ「当たり前でしょ。今年優勝すれば黒森峰の10連覇、前人未到の大記録に私たちが名を連ねられるかもしれないんだから」

みほ「頑張らないとね」

エリカ「何人ごとみたいなこと言ってるのよ。あなたが一番頑張らないといけないのよふ・く・た・い・ちょ・う」

みほ「うぇぇ……」


呑気な私に唇を尖らせたエリカさんが、対面から額をぐりぐりと押してくる。

たまらずうめき声をあげる私を見て、エリカさんは満足げに微笑むとまた自分のランチに戻る。

今日のエリカさんのメニューは焼きサバ定食だ。

そして昨日はハンバーグだ。



小梅「相変わらず仲いいんですねぇ……」


私たちのやりとりを見て呆れたように笑う小梅さん。

私は「そうだよ」と微笑み返し、エリカさんは「節穴」と簡潔に突っぱねる。

そんな感じにいつも通りの時間を過ごしていると、横合いから声を掛けられる。

626 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:22:03.97 ID:1i+sRLwV0



「あれ?榴弾三姉妹揃い踏みじゃん」

みほ「先輩?どうしたんですか?」



声を掛けてきたのは活発そうなショートヘアーの2年生だった。

その隣にはお淑やかそうな長い黒髪の先輩が微笑んで立っている。

この二人は私とエリカさんの決闘をいつも最前席で見ている人たちだ。

この間のなんてわざわざ中等部まで見に来ていたのだから、よほど私たちに期待してくれているのか、はたまたヒマなのか。



「ごめんね?ご飯食べてる時に」



黒髪の先輩が手刀で謝意を示して、私がそれに返そうとするも、その声は別の声にさえぎられる。



小梅「待って、ちょっと待ってください。…今なんと?」

「ごめんね?ご飯食べてる時に」

小梅「そっちじゃなくて」

「榴弾三姉妹揃い踏みじゃん」

小梅「……なんで私が含まれてるんですか?」



いつもの穏やかな雰囲気が消し飛んだかのような真顔。



「いや、お前らいっつも一緒じゃん?仲間外れは可哀そうだなって私が広めておいたんだ『榴弾姉妹は新たな妹を取り込んで三姉妹となった』って」

小梅「余計なお世話甚だしい……」



赤星さんの苦々しさをふんだんに込めた表情に私は苦笑するしかない。

私、その片割れなんだけどな……


627 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:23:43.09 ID:1i+sRLwV0



「ごめんなさいね……この子、考えなしだから」

小梅「一応それ悪名なんですから私を巻き込まないでくださいよ……」

エリカ「そうですよ、榴弾姉妹はメンバー増員はしません」



赤星さんの不満をよそに黙々と食事を続けていたエリカさんが突然口を挟む。



みほ「エリカさん……」



悪名だと思っていたけれど、エリカさんがこんなにも私とのコンビ名に愛着を持っていてくれただなんて……

からかわれた日々は、めちゃくちゃ怒られた結末は私たちの絆を育むための過程に過ぎなかったのだと、思わず涙しそうになる。



エリカ「私の代わりに赤星さんが入って、今後はみほとの新体制で行ってくれるんですから」

「そうだったのか……代替わり早いな」

小梅「体よく押し付けないでください」



榴弾姉妹なんてやっぱり悪名だ。

さっさと風化してくれないだろうか。



「相変わらず仲いいなーお前ら」

「ちょっと、あんまり邪魔しちゃ悪いわよ。それよりも」

「おっと、そうだそうだ。なぁ隊長知らねー?」

エリカ「隊長ですか?なんでまた」

「一度隊長とお昼一緒に食べようって思ってたんだけどなかなか捕まらなくて……」

「あいつ付き合い悪いからなー。昔っから何考えてるかわかんない顔してるし」

みほ「あはは……」



628 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:25:05.87 ID:1i+sRLwV0


それはまぁ、妹である私も良く知っている。

でも、お姉ちゃんは決して何も考えていないわけではない。

むしろ沢山考えて、悩んでいるから表情を出せないのかもしれない。

私はそれこそ生まれたころから一緒だからお姉ちゃんが何を考えているのかわかるけれど、そうじゃない人には難しいのだと思う。



みほ「たぶん、昔のお姉ちゃんならともかく最近のお姉ちゃんなら先輩を邪険にしてるとかじゃなくて、本当にただ忙しいんだと思いますよ」

「そうかー?その割には新年度に入ってからやたらお前たちと仲が良いし、これはあれか。私たちが嫌われてるのか」

「私を含めないでよ」

みほ「そ、そんな事は無いと思いますよ?ほら、最近のお姉ちゃん結構人と交流しようと努力してるみたいですし」



姉の評判が下がるのは妹である私としても嬉しくないのでフォローを入れる。

とっつきにくいのは事実であるが、最近のお姉ちゃんが変わってきたのもまた事実なのだ。



「……そうだなー、それこそ去年ぐらいから急に雰囲気丸くなったっていうか、

 何考えてるかわかんないのはそのまんまだけど張り詰めたような空気は感じなくなったな」

「何かあったのかな?」






『お姉ちゃん、エリカさんと何かあったの?』

『……内緒だ』




629 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:28:29.45 ID:1i+sRLwV0


脳裏をよぎるあの時の会話。

私はエリカさんをじっと見つめる。

私の視線に気づいたエリカさんは不審げな目つきを返してくる。


エリカ「……何よ?」

みほ「……別に?」


お姉ちゃんとエリカさんの間に何があったかは知らないが、エリカさんが何も言わず、お姉ちゃんが語りたくないというのであれば余計な詮索はしないでおこうと思う。

少なくとも、お姉ちゃんにとっては大切な思い出なのだという事はわかるから。



「副隊長、あなたもなにか困った事とかあったらちゃんと相談してね?指揮系統はあなたの方が上だけど、それでも私たちは先輩なんだから」

みほ「……はい。その時は是非」

「うーん、やっぱ妹の方が愛嬌あるよな。あいつも見習ってほしいわ」

みほ「あはは……」



お姉ちゃんとエリカさんの間に何があったかは知らないが、それはそれとしてもうちょっと人当りを良くするべきだなと思う。

……なぜ妹の私がそこまで姉の社会性を気にかけねばならないのだろうか。

でも、このままだと将来お姉ちゃんが西住流の家元として多くの門下生を引っ張っていくんだし、それ以外にも偉い人と関わるんだろうからやっぱり人との接し方は大事なんじゃ……

いやまて、そもそもお母さんがお世辞にも人当りが良いとは言えない気が。

正直前回の一件もあって偏見が多分に含まれているのは否めないが、それにしたって鉄面皮という言葉が相応しい程度にはアレだし……

とはいえ私が知らないだけで仕事中は営業スマイルが出来る人なのかもしれない。

とにかく、私は私で大変なんだからお姉ちゃんはお姉ちゃんで頑張って。

私が姉の将来への悩みを全力でぶん投げると、活発そうな先輩がふと、思い出したように口を開く。



「そういえばあいつ最近職員室に良く行ってるけどなんか知ってるか?」

みほ「職員室で?なんだろう……もうすぐ大会だし、それの関係かな?」



隊長という役職は思った以上に教師とのかかわりも深い。

当然の事だがいくら隊長であっても生徒だし、その生徒が多くの生徒を纏めるという都合上先生の協力は不可欠なのだから。

私が中等部で隊長を務めていた時も何度か職員室に出向いて今後の練習計画について説明したりした。

たまに赤星さんを連れて行って代わりに説明してもらった。

エリカさんにバレて叱られた。

630 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:29:42.36 ID:1i+sRLwV0


エリカ「隊長勉強も頑張ってるし普通に授業内容の質問とかじゃない?」

「あー、真面目だなー。もうちょっと力抜けばいいのに」

「私たちと違って隊長なんだからしょうがないでしょ」

「そうだけどさ……まぁいいや。邪魔して悪かったな。隊長に会ったら『友達が一緒に飯食いたがってた』って伝えといてくれ」

みほ「あ、はい。わかりました」

「それじゃあまた練習でね?」

「10連覇はすぐそこだ!頑張ろうな!」

エリカ「はい!」



元気よく手を振る先輩と、小さくお淑やかに手を振る先輩。

二者二様の挨拶で去って行き、人波に消えていった。



エリカ「……言われなくても頑張るわよ」

小梅「もう、エリカさんってば……」



何を分かり切ったことをと、鼻を鳴らして囁くエリカさんを赤星さんが嗜める。

だけど私は、無表情でじっと黙り込んでいた。



エリカ「また難しい顔してる」

みほ「え、あっ……」



その言葉にハッとすると、心配そうに私をのぞき込む赤星さんと、呆れたように私を見つめるエリカさんに気づく。



エリカ「対面で辛気臭い顔されるとごはんがまずくなるんだけど」

みほ「ごめんなさい……うん、大丈夫だよ!」

エリカ「……」

みほ「あはは……」



無理やり作った笑顔はすでに一度見破られている。

緩まぬ視線に、私は誤魔化せない事を悟る。


631 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:31:37.16 ID:1i+sRLwV0

みほ「……やっぱりちょっと大丈夫じゃないかな」

小梅「みほさん……?」

エリカ「……どうしたの?」


エリカさんの問いかけは心配とかそんな感情ではなく、ただただ『質問』として聞いてきたように感じた。

私は赤星さんと、エリカさんを交互に見つめて、そっとため息のように言葉を紡ぐ。



みほ「不安、なんだ。1年生で副隊長を任されて、その上10連覇までかかってて。不安で、怖くてしょうがないんだ」



何度も何度も何度も、不安や恐怖を感じてきた。それこそ、ここに入学してからは当たり前のように。

今更過ぎる感情は、けれども吐露するにはまだ私は経験不足だった。



みほ「ごめんなさい、私また……隠そうとしちゃった」



不安を隠す必要はない。エリカさんはそれを何度も教えてくれたのに、まだ私は臆病だった。



エリカ「……みほ、私はね、自分の考えを誰かに察してもらいたいって人が嫌いよ。特に、悩みや不満をね。

    何も言わないくせに『私はこんなに苦しんでることを知ってください』なんて思ってるようなやつが昔から大嫌いよ」

小梅「エリカさん」



エリカさんは小梅さんの咎めるような語気に一旦口を閉じる。

しかし、すぐにまた先ほどの私のようにため息交じりの言葉を吐き出す。



エリカ「……だから昔のあなたが大嫌いだったわ」

みほ「……」



うん、私も大っ嫌いだったよ。

そして、そんな私を嫌いだと言ってくれる貴女が、私は――――




エリカ「でも、年月は人を変えるものね……だいぶマシになったじゃない」



632 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:35:03.51 ID:1i+sRLwV0


エリカさんの言葉にまるで日差しのような優しさが灯る。

こわばった表情が緩み、いつも私をからかうときのような笑顔を私に向けてくる。



エリカ「みほ、あなたの言葉、確かに伝わったわ。だから、私もあなたに、あなた達に言いたいことがある」

小梅「私にもですか?」

エリカ「ええ。……みほ、赤星さん」




エリカ「私も不安よ」




みほ「え……?」

小梅「……」



穏やかに、なんてことないように語られたその言葉は、だけどもエリカさんが言うにはあまりにも異質なように感じた。



みほ「不安……?エリカさんが?」



驚きと動揺のままに投げかけた疑問に、エリカさんは唇を尖らせる。



エリカ「10連覇。それがかかった大会。不安にならないわけないでしょ」

小梅「……ですよねぇ。私も不安でしょうがないですよ。ご飯も喉を通らなくなっちゃいます」

エリカ「その綺麗な皿見てもう一度言ってみなさい……」

みほ「で、でもエリカさんは……」



強い人なのに。私なんかよりもずっとずっと。

動揺を抑えきれない私は、しかし口に出そうとした思いをぐっと飲み込む。

エリカさんが私の瞳を貫きそうなほど鋭く見つめていたから。



エリカ「不安じゃない人なんていないわ。私も、赤星さんも……まほさんも。きっと先輩たちも。みんなそうなのよ、自分だけが特別だなんて思わないで」


633 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:36:49.97 ID:1i+sRLwV0


自分が特別だなんて思ったことが無い。そんな事、言えなかった。

生まれも育ちも、学校での立場も何一つ普通じゃないって思ってたから。

エリカさんたちと一緒にいる事で『自分だけが』なんて気持ち、なくなってたと思っていたのに。

たった今、年月による成長を褒められたばかりだというのに、傲慢だと改めて指摘されて、私はまた、自分が成長していないのだという事を自覚してしまう。

思い上がりを恥じていると、しかしエリカさんもまた私と同じように苦々しい顔をしていることに気づく。



エリカ「……ああ、もう。私はまたこんな……なんでもっと……」

みほ「エリカさん?」



心配になって声を掛けると、エリカさんはバツが悪そうに私を見る。



エリカ「えっと……つまり、だから……うん、もっとまわりを頼りなさい。頼りないあなたを支えてくれる人がいるんだから。誰かの不安を、あなたが解きほぐす事だってあるはずよ」

みほ「……そう、かな」

エリカ「そうよ」

小梅「ええ、そうですよ」


二人の言葉に私はようやく安堵する。

他でもない二人が、私の不安を解きほぐしてくれた。

だから、まずは感謝する。


634 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:38:06.39 ID:1i+sRLwV0


みほ「エリカさん、赤星さん。ありがとう」

エリカ「感謝してるなら行動で示しなさい」

みほ「うん。……エリカさん」

エリカ「何よ」

みほ「大丈夫だよ。私たちがいるから」

エリカ「?………………っ!?」



言葉の意味に気づいた途端、エリカさんが真っ赤になる。

エリカさんや赤星さんがそうしてくれたように私もエリカさんの不安を解きほぐしたい。

沢山の感謝とほんのちょっとの意趣返しを込めた言葉をエリカさんはちゃんと受け取ってくれたようだ。

エリカさんはあたふたしながら必死に口を動かそうとする。



エリカ「わ、わかってるわよっ!じゃなくて、余計なお世話!!」

小梅「わかってるですって。良かったですねみほさん」

みほ「うん!」

エリカ「そうじゃなくて!!」



不安を吐露してもらえること。それが、こんなにも嬉しいものだなんて思わなかった。

信頼してもらえていると実感できる。こんなにも簡単な事で、私たちは分かりあえるんだ。

必死で誤解(誤解じゃない)を解こうと手と口をせわしなく動かすエリカさんを見つめながら、私は胸に灯った暖かさを心地よく感じていた。

635 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:41:07.70 ID:1i+sRLwV0






みほ「あ、一つだけ聞いても良い?」

エリカ「……何よ?」



散々からかった結果、拗ねに拗ねたエリカさんをなんとか宥め倒し、

ようやく落ち着いたところで、私は何度目かの問いかけをする。



みほ「もう、機嫌直してよ。……私の事、まだ嫌い?」

エリカ「嫌い」

小梅「即答ですか……」



呆れたような赤星さんの言葉にエリカさんは「仕方ないじゃない」と小さく返す。

どうやらからかわれた事を根に持っているという訳ではないようだ。



エリカ「だってあなた未だに頼りないし」

みほ「頼りないから頼りなさいって今言ったばかりじゃ……」

エリカ「あのねぇ……頼りないやつが一人で抱え込んだって何も良い事無いけれど、だからってそのままで良いわけないでしょ」

みほ「うぅ……」



ぐうの音も出ない。



エリカ「あと同じこと何度も言わせるのがダメね。似たような事去年も言ったでしょ」

みほ「ぐぅ……」



出た。

まぁ、初めて喧嘩した時と誕生日の時の二回も言ったのにこのザマなんだからそのぐらい言いたくなるだろう、


636 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:43:38.68 ID:1i+sRLwV0


みほ「で、でも友達としてならどう……?いい加減私の事友達だと思ってくれない?」

小梅「凄い。めげない」

エリカ「変な根性つけたわね……ダメよ。友達だなんて無理ね。……あなたにはもう、赤星さんって友達がいるでしょ?」

みほ「エリカさんだって大切な友達だよ」

エリカ「……下らない事言って―――――」

みほ「下らなくなんかない。大切な事だよ」


言葉に、わずかな怒りが乗る。

その言葉はたとえエリカさんであっても許せない言葉だった。

私の大切な人の事を、下らないだなんて言わせない。

私の様子にエリカさんは驚いたように目を見開く。

そしてバツが悪そうに目線を下げると、



エリカ「……そう。悪かったわね、ちょっと考えなしだったわ」



呟くように謝った。

その様子に今度は私たちが驚かされる。

赤星さんなんて「嘘、エリカさんが謝った……」とまるで未知との遭遇をしたかのようだ。

両手を頬に当ててのリアクションはこの間テレビでやってた洋画の影響かもしれない。



エリカ「私を何だと思ってるのよ……みほ」



赤星さんの様子に若干眉をひくつかせるも、エリカさんは私に向き直ると目を閉じゆっくりと開く。



エリカ「……それでも、今は目の前の事に集中しなさい。あなたにとって大切な事なのかもしれないけれど、それは今すぐ成すべき事ではないでしょ?」

みほ「それは……」

エリカ「大会に懸ける思いは私と同じだって、そう思ってるわ。……違う?」



諭すような言葉に私は反論の糸口を見失い、ゆっくりと首を振る。



637 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:45:27.04 ID:1i+sRLwV0


みほ「……ううん、違わないよ」

エリカ「なら、今はそっちを第一に考えなさい。……私は、逃げたりしないわ」



ダメ押しのようにそう付け加える。

本当に……本当にこの人は……

そんな言い方をされてこれ以上食い下がれるわけがない。

計算でやってるのだとしたら極悪だし、素でやってるのならもはや邪悪だ。

私はエリカさんと、エリカさんの思い通りに引き下がってしまう自分の両方に苛立ちつつ、

それを厚めのオブラートに包んでエリカさんに伝える。



みほ「エリカさんはズルいよ」

エリカ「……ええ、よく知ってるわ」


私の精一杯の嫌味にエリカさんは聖母のような微笑みで返す。

それでもう、勝敗は決まった。

私はもう何も言わずただただエリカさんを見つめ返す事しかできなかった。

そうして数秒見つめ合っているのを見かねた赤星さんがパンパンと手を叩き、終了の合図を告げる。



小梅「……はいはい、真面目な会話はそこまでにしましょう?エリカさん、今何時ですか?」

エリカ「え?……あ」



エリカさんが銀色に輝く腕時計に目を落とすと、どうやら時計の針は思っていた以上に進んでいたようだ。

エリカさんが呟いた現在時刻はそう遠くないうちに授業の開始のチャイムがなる時間だった。



小梅「もうすぐ休み時間も終わりです。さっさと食べちゃいましょう」

みほ「わわ、急がないと……」

エリカ「ちょっと袖にお醤油つきそうよ、気を付けなさい」

みほ「うわ、ありがとうエリカさん」

エリカ「もう……出会った頃と変わらないわねあなたは」

みほ「エリカさんもね」

エリカ「……ええ、私は私だから」

小梅「遊んでないでさっさと食べてください!!」


638 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:48:43.11 ID:1i+sRLwV0






大会までの事は語ることが無い。

これまでと同じようにエリカさんたちと一緒にいて、お姉ちゃんもいて、先輩たちもいて、

困ったことがあったらみんなを頼って、

お姉ちゃんがそうであるように、そうであったように、私も副隊長として出来る事を模索しながらも精一杯やってきた。……やってこれたと思う。

もちろんみんなも全力で努力していた。

日々の練習は時間さえ忘れるほど大変で、それが毎日のように続いた結果、気が付くと全国大会が始まってて。

余裕なんて無かった。お姉ちゃんと違って私はそんなに要領がよくないから。

それでも、長くない人生で積み重ねてきたものを出し切ろうと全力を尽くした。

みんなも、それに全力で応えてくれたと思う。

元より黒森峰は優勝常連の強豪校。そこに集まった生徒たちからさらに選りすぐって選ばれた出場選手たちに油断なんてなかった。

当たり前のように努力してきた人たちなのだから。

その身に宿った全てが、勝利の為に積み重ねられたものなのだから。

故に私たちは、まわりの期待通りに勝ち進んで行った。





639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/24(土) 21:50:26.11 ID:TABS1xZz0
ついに来るのか……
640 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/11/24(土) 21:50:50.33 ID:1i+sRLwV0
ここまで。
流石に黒森峰の名無しが枯渇したのでちょこちょこ出してたオリキャラっぽいモブ先輩を出しましたが、別に深く関わるわけじゃないので忘れてくださって構いません。

また来週。
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/24(土) 21:53:44.47 ID:TABS1xZz0

今日はここまでか
しかしエリカさんのママ力(ちから)はとどまるところを知らないな
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/24(土) 22:25:25.47 ID:aC3WZrRzo

逸見鯖食ってるけど大丈夫?
体調悪い?
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/24(土) 23:28:49.29 ID:ZG0lRI6UO

ついに来てしまうのか、運命のあの日が・・・
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 02:13:31.44 ID:Gtt8nAI+0

鉄虎娘は10連覇の夢を見るか?
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/01(土) 15:50:42.61 ID:NGPdY6/h0
無能ワイ、続きがあったことを初めて知る。前スレで完結だと勝手に思ってたわ。
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/01(土) 19:22:11.05 ID:m00wTeBto
wwwwww
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/02(日) 00:24:35.69 ID:t6yCqDN2O
日付け変わったぞ!
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/02(日) 01:42:11.45 ID:aoUPWF4p0
休みかな?
盛り上がりそうな場面だけあって残念
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/02(日) 06:41:32.31 ID:o30ow71f0
更新まだ?
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/02(日) 09:13:12.53 ID:9Vkm8GX80
ageんなゴミクズ
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/02(日) 19:36:15.04 ID:Mvh346IT0
ついにエタったか。残念だ。
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 01:06:42.39 ID:01gqUuXFO
そりゃあーた、毎週コメント10か20かつかなきゃ、モチベーションもい維持できないよ。
それをいざ言葉にすると、「好きでやってんでしょ?見返りもとめんなカス」とか言われちゃうんだもの。
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 04:10:02.70 ID:bYCsTYI40
今週分上がってないやん!
先週リアルタイムで読めなかったから今週分と合わせて読もうと思ってたのに!
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 07:36:04.25 ID:GQi9HFp0O
別にエタった訳ではないと思うけどなぁ…
この先の内容は推敲するのに時間かかるだろうし大人しく更新されるのを待つのみ
655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2018/12/03(月) 10:11:13.68 ID:9LBVVGVho
好きでやってんだから、見返り求めんなカス!黙って待ってろ!
と思いますが、期待の裏返しだとも思えるから気持ちはわかる。
>>1も大変だと思うけど、待ってるから自分の思ってるように書いて欲しい。
656 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/03(月) 21:40:19.31 ID:FqHxLa4e0
うぎゃーめっちゃ心配されてる…
すみません、ちょっと私事で忙しくなってしまい土日に投稿できませんでした。
難産なのは事実ですが、とりあえず今の所は投稿を続ける予定なので、
申し訳ありませんが、今週の土曜は投稿出来ると思うので待っててくれたら幸いです。
657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 21:46:16.64 ID:leXUOfs+0
連絡ありがとうございます
ご無事で何よりです
658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 22:15:55.57 ID:f+/duSrqo
待つわに
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/03(月) 23:10:18.72 ID:L6AuW+6Q0
大変でしょうが、期待しています
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/04(火) 08:44:07.14 ID:tbLRR84R0
近況報告なんて要らないからとっとと書け
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/04(火) 11:17:33.01 ID:lNnHU4g70
sageられないゴミクズは黙ってろ
662 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/04(火) 12:21:13.35 ID:Koxblo/l0
(・∀・)
663 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/08(土) 19:50:12.34 ID:cnbhVROG0




高等部3年〜8月〜




ケイ「ナイスファイト!」


晴天甚だしい山地の空。

目にいたいほどの青空と、それに負けないほどの明るい声が響き渡る。

山岳フィールド。ここでは先ほどまで全国大会の準決勝が行われていた。

対戦相手は強豪、サンダース大付属高校。

私の目の前であっけらかんと笑っている彼女はそのサンダースで副隊長を務めているケイさんだ。


ケイ「さっすが黒森峰!!とっても楽しかったわ!!」

まほ「負けたというのに、随分元気だな」


ポンポンとお姉ちゃんの肩を叩くケイさんはお姉ちゃんの言葉通り負けたとは思えないほど爽やかだ。

準決勝は黒森峰が勝利し、決勝へと駒を進める運びとなった。

しかし、決してサンダースとの試合が楽だったわけではない。

戦車保有数、戦車道履修生共に全国一位の規模を誇るサンダースのチームは選び抜かれた精鋭だ。

特に戦車の保有数故に常にベストコンディションで挑んでくるM4の集団は、足回りで泣きを見る事もある私たちにとって油断できる相手ではなかった。

接戦。それ故に負けた時の悔しさもひとしお。実際サンダースの生徒の中には泣いてる人もいたが、目の前のケイさんはとにかく明るい。

お姉ちゃんとしてもそこが気になったのか怪訝な表情になる。


ケイ「もちろん負けた事は残念よ?今年こそ決勝に行きたかったもの」


その笑顔に僅かな無念さが浮かぶも、ケイさんは「でも、」と続ける。


ケイ「戦車道は戦争じゃないわ。お互い全力を尽くした。なら試合後はノーサイド!私たちは、あなた達を祝福するわ!!」


豪快なサムズアップとウィンク。嘘偽りのない激励に私は彼女の器の大きさを感じた。


664 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/08(土) 19:53:51.58 ID:cnbhVROG0


ケイ「ミホ、あなたも流石ね!『ボンバーシスターズ』の実力、見せてもらったわ!」

みほ「……はい?」


聞きなれないのに妙にしっくりくる単語に私は首を傾げる。


まほ「……ああ、榴弾姉妹はサンダースだとそう伝わってるのか」

みほ「えっと……そのボンバーシスターズって悪名なんでそんな大声で言わないでもらえると……」


悪名がまさかのローカライズされてることに恐怖しか感じないけれど、だからといって野放しにしておいてはますますまずいことになってしまう。

例の件がいつお母さんに伝わるか戦々恐々な私としてはここでなんとか禍根は潰しておきたい。

私は控えめに懇願する。なんなら肩をもむぐらいならするかもしれない。


ケイ「そうなの?カッコいいと思うわよ!!ダージリンもそう言ってたわ!!」


ここにきて聞きなれない名前が出てきた。

ダージリン、紅茶の名前でないとしたら、たしか聖グロにそう名乗っている人がいた記憶がある。

鋭い戦術眼で追い詰められたとはお姉ちゃんの談だ。


まほ「ダージリンが?」

ケイ「前うちの学園艦に来た時に教えてもらったの。『黒森峰に面白いのがいる』って」

みほ「面白いって……」


こっちからすれば爆発すれば私達だけ吹き飛ばされる爆弾でお手玉されてるようなものなのにずいぶんと気楽なものだ。

私が顔もろくに知らぬダージリンさんに不信を覚え始めた頃、ふとケイさんが疑問を呈する。


ケイ「でも、黒森峰でシスターズって言ったらあなた達の事なのに、ミホとシスターなのはマホじゃなくて、エリカなのね」


ケイさんはそう言って私達から離れた所で撤収の指揮をしてるエリカさんに目を向けた。

エリカさんの綺羅びやかな銀髪は遠目に見ていても彼女の存在を主張していて、私とお姉ちゃんもケイさんにつられて見つめてしまう。

その視線に気づいたのかエリカさんはふと、私達の方を見返してくる。

お姉ちゃんがそれに小さく手を振るとエリカさんは嬉しそうに、ケイさんが全身でブンブンと手を振ると戸惑いながら、そっと手を振り返す。

なので私も手を振ってみたところ、エリカさんはムッとしてそっぽを向いてしまった。

665 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/08(土) 20:02:31.37 ID:cnbhVROG0


ケイ「嫌われてるの?」

みほ「うぅ…」

まほ「そんな事ないさ。……ほら」


お姉ちゃんの言葉にもう一度エリカさんに向かって目を細めると、クスクスと悪戯っぽく笑っているのが見えた。

ようやく、からかわれたことに気づいた私は安堵と苛立ちの両方を込めて再度手を振る。今度はケイさんのように全身を使って。

そこまでしてようやくエリカさんはフリフリと、あしらうように手を振り返してくれた。

そんな私たちを見て、お姉ちゃんとケイさんはこらえきれずに笑い出す。


まほ「な?」

ケイ「ええ!確かに仲良しさんね!」

みほ「向こうもそう思ってくれてるといいんだけどね……」


苦笑交じりにそう呟くとケイさんはバンバンと私の背中を叩く。


ケイ「心配ないわ、ノープロブレム!あなた達は立派なシスターズよ!だって、試合、楽しかったでしょ?」


ケイさんは私の瞳をのぞき込むように見てくる。


みほ「そう見えました?」

ケイ「ええ。戦車の動きが生き生きしてる。楽しんでるってこっちにも伝わってきたわ。二人とも、ね?」

みほ「……そっか」


ぐっと、堪えるように拳を握る。

怒りや悔しさのせいじゃない。

ただ、嬉しかったから。

私は、戦車道を楽しめてるんだ。

エリカさんと、みんなと一緒に。

『みんなと一緒に楽しく』

口だけの願望だったものは、確かにそこにあったんだ。

全部が全部報われたわけじゃない。それでも、あの日の私を少しは見返せたのだと思う。

666 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/08(土) 20:09:07.26 ID:cnbhVROG0


まほ「……良かったなみほ」

みほ「……うん」

ケイ「ミホ、一つだけ聞かせて。あなたの戦車道って何?」

みほ「え?わ、私の戦車道……?」


投げかけられた問いに私は言葉が詰まってしまう。


ケイ「あなたにとって戦車道はどんなものなのか。どうありたいのか。教えて欲しいの」

みほ「……私にとっての戦車道は」


突然そんな事を言われたって答えなんて用意できていない。

だから、考える。

だから、ケイさんは問いかけたのだろう。

答えのない物の答えを求めて。

そして皮肉なことに、日本で一番大きい戦車道の流派の娘は、自分にとって戦車道がどういうものなのか考えた事も無かったのだ。

深く深く、自分に尋ねる。

あなたにとって戦車道は何?

あなたにとって戦車道はどういうもの?

667 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/08(土) 20:12:13.94 ID:cnbhVROG0


――辛いもの?


かつては、今も時々



――楽しいもの?


うん



――いらないもの?


ううん



――大切なもの?


……そのはず



――なら、どうありたいの?


……



熟考を終えた私は顔を上げる。

期待するような眼差しのケイさんから瞳を逸らさず、正々堂々と、


みほ「……ごめんなさい。わからないです」


白旗を上げることにした。


668 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/08(土) 20:14:59.81 ID:cnbhVROG0


ケイ「別にそんな難しく考えなくたっていいのよ?」

みほ「それは、できません。私にとっての戦車道はそんな簡単に定義できるほどまとまってなくて……まだ、探してる途中だから」


ただ、それでも確かな事がある。


みほ「……でも、私にとって戦車道は楽しいものです。それだけは、確かです」


息を吸って、胸を張って、答える。


みほ「私はたくさんの人に支えられてここにいます。戦車道を楽しいって思えているのもそんな人たちがいるからで……」

ケイ「……」

みほ「でも、エリカさんがいなかったら……きっとまた違った今になってたって思います」


ああそうだ。

きっとあの人と出会えなかったら私は未だにうずくまって、俯いて、一歩も動かず、なのに誰かに助けを求めていたのだろう。

そうだったのならきっと、幸せだったのだろう。

何も考えず、不満だけを抱えていればいいのだから。

自分を、不幸な人間だと思っていればいいのだから。

そうやって何も見ずにいれば、自分だけを見ていれば、誰も私を否定しなかったのだから。

そんな私を否定してくれた。助けてくれた。伸ばせなかった手を、伸ばせるようにしてくれた。

その手を、掴んでくれた。

私の戦車道はそこから始まったんだ。

だから、


みほ「だから、私の戦車道はエリカさんと、大切な友達と見つけられたらなって」


669 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/08(土) 20:18:10.53 ID:cnbhVROG0


なんとも酷い答えだと思う。

問題の先送り、それも大切な人たちまで勝手に巻き込んで。

だけど今の私にはこうとしか言えないのだ。

優柔不断な自分を呪ってしまうが、まぁお姉ちゃんと赤星さんは許してくれるだろう。

エリカさんは嫌味を言ってくれるだろうが。

流石のケイさんも呆れたのか、何かを考えるように腕を組んでじっと目を閉じて、

やがて、ゆっくりと開かれる。


ケイ「……ミホ」

みほ「はい」

ケイ「Goooood!!良いわ!最高よ!」


全力のウィンク&サムズアップ。

戸惑う私をよそに、ケイさんは隣のお姉ちゃんをにびしりと指さす。


ケイ「まほ!あなたの戦車道は何?」

まほ「私か?私は……規律と、勝利。……面白味は無いな」

ケイ「そんなこと無いわ!!誰だって自分だけの戦車道を持ってる。それはきっとその人だけのものよ。その人が持つ、その人だけの輝きが、戦車道にあらわれるのよ!」


まるで映画のワンシーンのように大仰な立ち振る舞い。

それが彼女の本心を全身で表しているのだと大して面識のない私でも理解できた。


ケイ「あなたの輝き、眩しいぐらい感じたわ!!」

まほ「ふふっ、そうか。ありがとう」


再びのサムズアップ。お姉ちゃんはそれに微笑みで返す。


ケイ「ミホ!私の戦車道は仲間と楽しく正々堂々と。どんな時だってフェアプレイ!それが、私の戦車道よ」


670 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/08(土) 20:20:25.65 ID:cnbhVROG0



力強く宣言されたその言葉の意味は、戦った私たちも感じている事だ。

真正面から、策はとっても小細工は弄さず、縛りではなく誇りを持って戦うその姿は、

彼女だけの『道』を私たちに見せてくれた。


ケイ「あなたの戦車道がこれからどうなるか私にはわからないけど、あなたの戦車道があなたにとって大切な、素敵なものになることを願ってるわ」

みほ「……はい。ありがとうございますっ」

ケイ「それじゃあ私はそろそろ戻るわね!アリサ……後輩が泣いちゃってるのを慰めないと」


そういえば試合後に泣いてる子がいたな……

それだけ本気で挑んでいたという事なのだろうから笑う気つもりは毛頭ない。

もちろん負けてあげるつもりも無かったが。


ケイ「それじゃあマホ!ミホ!またね!」

みほ「はい、また!」

ケイ「今のあなた達と戦えて良かった。次戦うときはもっと激しくエキサイティングしましょう!!」


ケイさんは私たちに手を振りながら仲間たちの元へと走っていく。

やがてその姿が見えなくなり、私は独り言のようにぽつりとつぶやく。


みほ「……なんだか凄い人だったね」

まほ「ああ。ああいう奴こそ『強い』のだろうな」

みほ「……うん」


隊長を務める人はみんなそうなのだろう。

自分だけの『戦車道』を持ってて、自分らしさを誇っている。

それは、その強さこそが、私が求め続けているものだ。

私の『戦車道』はまだ見つかっていない。『私らしさ』もまだ見つけられていない。

だから探すのだ。

友達と、仲間と共に。

そう思えるようになった事が私が少しは成長した証なのだと、そう信じて。


671 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/08(土) 20:23:53.20 ID:cnbhVROG0





小梅「……え?私、決勝出られるんですか?」


先日のサンダースとの準決勝を終え、決勝まで残り二週間を切ったある日の昼下がり。

少し早めに練習場へと向かおうとテクテク歩いてた私は「あ、みつけた。ちょっと来て」といきなり現れたエリカさんに空き教室へと引きずり込まれた。

何の用か尋ねようと私が口を開く前にエリカさんから一言。


『あなた、決勝出られるわよ』


そして先ほどのセリフに繋がる。

我ながら素っ頓狂な声が出たものだと思う。

しかしながらそれだけ目の前のエリカさんの言葉は衝撃というか、いきなり膝カックンをされたかのような脱力感を私に与えた。


小梅「え……え?出られるの決勝?」

エリカ「なんで体言止め?出られるわよ決勝。装填手としてね。良かったわね」

小梅「いや良かったわねってあなた……なんでいきなり……あの、決勝のオーダーってまだ発表されてないですよね?」

エリカ「たぶん今日の練習終わりに発表されると思うわよ?」


つまりはまだ秘匿情報のはず。

だというのに目の前のエリカさんは何の後ろめたさもなく、きょとんとした表情感じで可愛らしく小首をかしげている。


小梅「……まずなんでエリカさんがそれを知ってるんですか?」

エリカ「みほが言ってたのよ」

小梅「秘匿義務!」


全力の情報漏洩とか何をやってるんですかあの副隊長は。


小梅「あの!!みほさんがそういうちょっと緩いところがあるのは知ってるでしょ!?叱ってくださいよ!!」

エリカ「別に私はあの子のお母さんじゃないし……それに」



エリカ「早く教えてあげたかったのよ。みほも、私も」


672 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/08(土) 20:30:38.38 ID:cnbhVROG0

気恥ずかしそうにそっぽを向いてそんな事を言われた日にはこれ以上の追及なんてできるわけがない。

卑怯というかもはや悪辣なエリカさんの様子に私は悔しささえ覚えてしまう。


小梅「っ……もう」

エリカ「で、どう?一年生で決勝に出られる気分は」

小梅「……私でいいのかなって」


黒森峰の戦車道チームには多くの隊員がいる。

先輩はもちろん一年生だけでも大勢の人間が毎日しのぎを削っているのだ。

私と違って、中学に入学した時から一生懸命頑張ってきた人だっているのに。

一度は折れて、腐っていた自分が決勝の舞台に立てるのか。

そんな資格、あるのか。

なんとも後ろ向きで、自虐的なのだと自分でも思ってしまう。

そしてそんな私の様子にエリカさんも呆れたようにため息を吐く。


エリカ「何みほみたいなこと言ってるのよ」

小梅「というか、本当に私なんですか?」

エリカ「友達に吐く嘘としては下も下ね」


おどけ気味に肩をすくめるエリカさんの様子を私は笑う事ができない。


小梅「10連覇がかかった決勝の大舞台に一年生の私だなんて……」

エリカ「別にあなただけじゃないわよ。みほはもちろん他にも一年生で出る子はいるわ。もちろん私もね?」


あなたはまず一回戦から出ずっぱりでしょうよ。


673 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/08(土) 20:33:06.50 ID:cnbhVROG0


エリカ「そもそも、決勝が一番出せる車輛が多いんだから、あなたが選ばれたって不思議じゃないでしょ」

小梅「で、でも……」

エリカ「出たくないの?」

小梅「い、いえ。決してそんなことは」

エリカ「なら堂々としてなさい」

小梅「は、はい……」


私の自信なさげな様子をどう思ったのか、エリカさんは人差し指をあごに当てて思案するように視線を落とす。

その姿はまるで絵画のように美麗で、カメラをロッカールームにカメラを置いてきてしまった事を後悔してしまう。


エリカ「……何が決め手であなたになったかなんて私は知らないけど、隊長と副隊長が選んだのなら間違いないわよ。少なくとも私はそう思ってる」

小梅「……」

エリカ「……まぁ、私から言えることは一つしかないわね。……あなたの努力が認められたって事よ。喜びなさい」


どこか上から目線なのに真っ直ぐに、なんの嫌味もなく、それでいて確かな称賛を感じる言葉。

それなりに長い付き合いなのだから、その言葉が彼女にとっての本心だという事程度は理解できる。

なら、いつまでもうじうじしてるのは失礼だ。

ちゃんと喜んで、ちゃんと試合に集中しよう。


小梅「……はいっ!やったー!!」

エリカ「はぁ?何浮かれてんのよ。たかがメンバーに選ばれたぐらいで調子に乗られると困るんだけど」

小梅「えぇ……」


マジですかこの人梯子外すのが唐突すぎますよ……


674 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/08(土) 20:35:32.42 ID:cnbhVROG0


エリカ「……冗談よ。あなたの仕事ぶり、しっかり見させてもらうわよ?」

小梅「わかりづらいボケはやめてください……っていうか見させてもらうわよって」

エリカ「え?……ああ、まだ言ってなかったわね。あなたの乗るV号、私が車長だから」

小梅「そうなんですか!?やったー!!」


再び諸手を挙げて喜ぶと、今度は困惑した様子を見せるエリカさん。


エリカ「そんな喜ぶような事……?装填手として車長の指揮を見るならみほとか隊長の方がずっといいのに……」

小梅「エリカさんは天上人だからわからないんでしょうけどね!?私たちみたいな試合に出るだけでも一苦労な人間にとっては、貴女だって凄い人なんです!!」

エリカ「そ、そう……褒められて悪い気はしないわね」


エリカさんは私の攻勢に若干引きながらも恥ずかし気に頬をかく。

思えばエリカさんはどうも自分の事を過小評価するきらいがあるようだ。

同年代最強であるみほさんと渡り合ってる貴女の事を見くびる人なんていないのに。

貴女が積み重ねてきた努力を否定する人なんていないのに。

みほさんとはまた違った方向でエリカさんは卑屈なところがあるのだから、持ち上げすぎるぐらいしないと釣り合わないのだ。

そして何よりも、


小梅「それに、友達と一緒の戦車で戦えるだなんて楽しみじゃないですか」


「遊ぶわけじゃないんだから」とか言われそうだがこればっかりは仕方がない。

気心知れた仲の友人と大舞台に挑めることは私にとってこの上ない喜びで、どうしようもないぐらい楽しみな事なのだから。


エリカ「もう、遊ぶわけじゃないんだから……まぁ、良いわ。とにかくよろしくね」

小梅「はい!よろしくお願いします!」


初めて出る全国大会で、10連覇のかかった大舞台で、みほさんとエリカさん。尊敬する友達の指揮を間近で見ながら共に戦える。

私が夢見て入学したことも、その夢が折れて、腐ってた時期も、彼女たちと共に過ごしてきた日々も、

無駄なんかじゃなかった。諦めなくてよかった。信じてきて良かった。

そう思ってしまう程度には、嬉しくてたまらない事だった。

練習場に向かう足取りはリズムよくスキップを踏み、

前を行くエリカさんに見られていなかったのは幸いだった。

675 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/08(土) 20:36:51.30 ID:cnbhVROG0
ここまで。
先週さぼっちゃってすいません。
今後は休みそうなときは事前に言うと思うのでお願いします。
とりあえずまた来週。
676 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/08(土) 20:49:00.14 ID:ggDrKGtZo
おつー
遂にプラウダ戦か
677 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/08(土) 23:07:47.22 ID:FbGrqsvv0

ついに、運命の試合の時か・・・
678 : ◆eltIyP8eDQ [sage saga]:2018/12/08(土) 23:33:06.46 ID:cnbhVROG0
あんまり期待煽りすぎてもあれなんで言っちゃいますけど、もう1,2週はキャラ掘り下げ回です……
679 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/10(月) 11:15:21.01 ID:IbyqLq8x0
更新乙
そうか、エリカ車なのか…


680 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/10(月) 13:29:40.34 ID:kuzqGYiSo
こりゃ年内には終わらんな
681 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/10(月) 18:13:09.25 ID:V1ClgRwgO
むしろまだ続けて欲しい
682 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/15(土) 22:06:12.29 ID:f0IbpfH10





決勝まで残り一週間。

その日が近づくにつれ時の歩みも早くなるように感じてしまう。

別に決勝に出るのが初めてという訳でもないのに背筋が冷たくなるような瞬間が時折襲ってくる。

だからといって焦るほど私の足元は揺らいでいない。

たとえ時間が少なかろうと、少ないからこそ、勝利を盤石にするために練習を怠りはしない。

私だけではなく周りもそうだ。試合に出る面子はもちろん、そうでない人たちも

私は隊長として自身が見本となれるように誰よりも努力をしている。……そのつもりだ。

昔は、それだけで精いっぱいだった。

だが今は違う。

やるべきことをやり、努めるべき事を努め、その上で心に余裕がある。

それは、私が成長したからなのだと思う。

去年までのように弱さを一人だけで抱える事が無くなったのだから。



小梅「エリカさん、帰りましょ」

エリカ「ええ。ちょっと待ってて」

みほ「あ、エリカさん私の事も忘れないでね?」

エリカ「待たないからさっさと帰り支度しちゃいなさい」

みほ「うぇー……」


相も変わらず一緒にいる一年の3人組。

最近は『榴弾三姉妹』などと呼ぶ奴もいるらしいが、本人達は不服そうだ。

まぁ、今となって目立つあだ名程度で収まっているが、事情を知ってる人からすれば完全にただの悪名なのだから仕方ないか。

お母様に知られないように出来るだけ口外は防いでいるが、どうにも最近は他の学園艦にも話が伝わってしまっているようで、

私としてはそろそろ「何も知りませんでした」とお母様に弁明する用意をしないといけないな……だなんて思ってしまう。

そんな自己保身を考えながら私は目当ての人物に声を掛ける。
683 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/15(土) 22:07:16.60 ID:f0IbpfH10


まほ「エリカ、ちょっといいか?」

エリカ「何ですか隊長?」

まほ「少し、話したい事があるんだ」

エリカ「はぁ。わかりました」


呼ばれる理由に思い至る点が無いのか、エリカは少し首を傾げながらも了承してくれる。


まほ「すまない。みほ、赤星、ちょっとエリカを借りる」

みほ「良いけどちゃんと返してね?」


まるでエリカは自分のものだと言わんばかりな物言いに、私は微笑ましくなりふっと息を吐いてしまう。

反面、エリカはみほの言葉に不満を抱いたようで、眉をひそめて反論する。


エリカ「別にあなたのものじゃないわよ……先に帰ってなさい」

みほ「わかった。待ってるよ」


全くこたえた様子のないみほにエリカはもう反論する気も失せたようで、ため息とともに赤星に振り向く。


エリカ「……はぁ。赤星さん、お願い」

小梅「はい、ちゃんと待ってます」

エリカ「……行きましょうか」


諦めたようなエリカの言葉に、私はとうとうこらえることができなくなってくぐもったような笑い声を上げてしまった。


684 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/15(土) 22:14:23.44 ID:f0IbpfH10






夕日の差し込む隊長室。

その日差しを見ると私の心にも光が差すように思えてくる。


『何度だって言います。どれだけ情けなくたって、どれだけ怖くたって、弱さを認められるあなたは―――――強い人です』


探し求めていたものにようやく出会えた。歓喜に震えた記憶は今も実感を伴って私の胸に根付いている。

きっと忘れはしないのだろう。夕焼けを見るたびに思い出すのだろう。

それが嬉しくて、感慨深くて、私はじっと窓から入る夕焼けの日差しを見つめてしまう。


エリカ「あの、隊長……?」


そんな風に感慨深くなっていると、エリカに声を掛けられる。

しまった、何を一人で物思いにふけっているんだ。


まほ「コーヒーでもいれようか?」

エリカ「あ、いえそんなお構いなく……」


誤魔化し紛れに提案するも、断られてしまう。

……いやそれはそうだろ。みほたちを待たせてるのだから。

どうやら、私は緊張しているらしい。

エリカを呼び出した理由を思えば当然ではあるのだが。

私は咳ばらいをして、今一度エリカに向き直る。


まほ「……エリカ」


私には伝えたい事があるから、その前に伝えなくてはいけない事がある。

話を先延ばしにしたって後が辛くなるだけなのだから覚悟した今、率直にいこう。


まほ「私は、来年ドイツに留学する」

エリカ「え……?」

まほ「戦車道の進んでいるドイツでより深く学ぶことで西住流をより発展させるんだ」

685 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/15(土) 22:16:37.70 ID:f0IbpfH10


高等部に入った辺りから考えていた事ではあった。未だプロリーグが無い日本と、プロリーグのある海外。

選手人口も、技術も、海外の方が上だ。

だからこそ、日本の戦車道の顔ともいえる西住流はより強くなければならない。

いずれは後を継ぐ私も、現状維持で良いなんてことは考えていない。

私は、私のやるべき事をやり遂げたいのだ。


エリカ「……もしかして最近職員室によく出入りしてたのって」

まほ「ああ、その事で相談に乗ってもらってた。何分初めての事ばかりだからな」

エリカ「……その、いつになるんですか?」

まほ「早ければ秋には。向こうは秋入学だからな」


卒業も半年早くなるが、単位についてはなんとかなる。

ただ、卒業式に出られないのが、みんなと共に過ごす時間が半年も減ってしまうのが、どうしても胸に突き刺さる。


エリカ「……そう、ですか。でも、凄いじゃないですか!流石隊ちょ――――」

まほ「エリカ」


その声を遮る。

エリカは息が詰まったような顔で私を見る。

その瞳を見つめる。そこに宿るゆるぎない輝きが私の瞳にも飛び込んできて、胸の高鳴りが少し、早くなる。

伝える言葉を頭の中で反芻する。

噛まないように、伝わるように。

受け止めてもらえるように。

……まるで告白するみたいだな。

なんてのは流石に気持ち悪いと自分でも思う。

それでも、伝えたい思いがあるのだから。


まほ「私に、ついてきて欲しい」

エリカ「……え?」

まほ「私と一緒に留学してほしいという事だ」


留学の話が出てからずっと考えていた事だった。

エリカと一緒に行きたい。

二人で並んでドイツの空の下を歩きたい。

辛い事を、楽しい事を、一緒に感じたい。

みほのように、赤星のように。

私だけの思い出を作りたい。
686 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/15(土) 22:19:33.41 ID:f0IbpfH10


エリカ「……冗談だとしたらなかなか面白いですね」

まほ「そんな冗談言うと思うか?」


信じられないと言った風に笑うエリカに、私は真顔で返す。

私の様子に一瞬喉を詰まらせたかのように表情をこわばらせると、そっと、目線を外す。


エリカ「……来年って私はまだ2年なんですよ?大学だなんて……」

まほ「そんなの飛び級でどうとでもなるさ。現に島田流の娘は12歳なのに大学に在籍しているんだ」

エリカ「それは実力があるからであって私は……」

まほ「……確かに今のエリカでは難しいかもしれない」

エリカ「でしょう?なら……」


どれだけ私が信頼してようと、今のエリカを飛び級で留学させるだなんてのは無理な話だ。

学力はともかく、実力が伴っていないのにレベルの高い環境に置いたところで潰れるだけだ。

それこそ、あまりにも愚かな行為で救いようのない結果だ。

みほですら難しいであろうそれを、エリカに求めるのは酷な話だという事は理解している。


まほ「だが、まだ時間はある。私が、いや、西住流が全面的にサポートする。お前なら……貴女ならきっと、私に並び立てるはず」

エリカ「まほさん……」


ああそうだ、まだ一年ある。その一年で私が持っているものを全部与えてみせる。

お母様も説得して、最高の環境で、最高の指導を受けさせてみせる。

私もエリカに教える事で学べるものがあるはずだ。

努力を苦としないエリカならきっと今以上に厳しい訓練にだってついてこれるはず。

ましてやエリカは強くなるために黒森峰(ここ)に来たのだ。


まほ「だから、」


ならきっと、私の手を取ってくれる。

いつかの夕焼けの日の時とは逆に、私がエリカに手を差し出す。


まほ「だから……来て、くれないか」


687 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/15(土) 22:21:42.71 ID:f0IbpfH10


信じているのに、願っているのに、声は揺らいでしまった。

エリカの瞳が私の手と瞳を交互に見つめる。

流れる沈黙を、差し出してない方の手で裾を握りしめてぐっと堪える。

固唾を飲み込むのを必死で我慢する。

人生でこんなにも緊張したことがあるだろうか。

一瞬が永遠に感じる瞬間とはこういう事なのだと、どこか他人事のように感じたのは恐らくそれ故なのだろう。

やがてエリカの口が吐息をもらし、そっと目を伏せて、


エリカ「……すみません」


その言葉の意味を聞き返すほど私は察しが悪くなかった。


まほ「……貴女は、もっと向上心に溢れた人だと思ってたんだけど」


嫌味ったらしい言葉は無意識のもので、あまりにも情けない、無様な言葉だった。

なのにエリカは全くそれを気にしたそぶりを見せず、ただただ申し訳なさそうな表情をする。


エリカ「お誘いとても光栄です。強くなりたいって気持ちは本当です。あなたについていけるのなら、たとえ分不相応だとしてもついていきたい。そう、思ってます」

まほ「……ならなんで?」


明らかに声色の落ちた私の問いにエリカは決意を込めて答える。


エリカ「……強くなりたいから、留学とかの前にやらなきゃいけない事があるんです」

まほ「それは、何?」

エリカ「みほの、あの子の隣で、私は……あの子が率いる黒森峰を見たいんです。あの子の隣にいなきゃいけないんです」

まほ「……それだけのために、私の話を断るのか」


なんとなくわかっていた。エリカが断る理由はそれしかないと。

……『それだけ』じゃない『それほどの』理由なのだと。


エリカ「ええ。それだけのために。でも、私にとって大切な事です」

まほ「私と一緒に行った方がもっと進んだ戦車道を学べるぞ」

エリカ「違うんですよ。……そうじゃないんです」


エリカは指先をあごに当て思案するような表情をする。

そして納得したように頷くと、優しく私に微笑みかけた。


エリカ「技術とか、そういうのじゃなくてそう、これは―――――約束なんです」

まほ「約束……?」

エリカ「あの子に、『戦車道以外』を教える事」

まほ「……みほはもう、充分お前から教わっているさ」

688 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/15(土) 22:24:25.99 ID:f0IbpfH10


そうだ。みほはもうエリカからたくさんのものを教わっている。もらっている。

人との関わり方、勉強、友達と過ごす何気ない日々、自分の言葉の伝え方、そして……前の向き方。

今のあの子を形作ったのは間違いなくエリカで、本当は私がそうしなくてはいけない事で、

なのに私はいつだって自分の事で精いっぱいだった。

その上エリカは私にも手を伸ばしてくれた。

だから、もうエリカはもうそんな事を気にしなくていいのに。

けれどエリカは「わかってないなぁ」といったどこか得意げな顔をする。


エリカ「そうですね、確かに昔に比べればずっとマシになりました。……でもまだダメです」

まほ「エリカから見てみほには何が足りないんだ?」


純粋な疑問だった。頼りない部分は多少残っているものの、今のみほにエリカが心配するような部分があるのかと。


エリカ「……あの子結構不精な所あるんですよ。お醤油こぼしたときに袖で拭おうとするとか信じられません」

まほ「それは……うん」


私が言うのもなんだが一応名家の娘なんだからそのあたりはちゃんとして欲しい……


エリカ「あと未だに人前苦手ですし、威厳が無くて頼りないし親しくない人と会話するのも相変わらず苦手ですね。先生への報告を赤星さんに代弁させるとかほんとふざけてますよ。

    成績も文系はそれなりですけど、理系科目は全然ですし。あ、でも物理に関しては私が教えたからか少しはマシになってました。まぁでも黒森峰の副隊長としては落第レベルですよ。せめて私レベルにはなってもらわないと。

    あと普段の生活で困ったことがあるとすぐに誰かに助けを求めるのもダメですね。私や赤星さんがいつだっているわけじゃないんですから自分一人でもなんとかできるようにしないと。

    そのくせ戦車道の時はなんでも一人でやろうとするし、それで周りが見えなくなって人の話を聞かなくなるのは最悪です。頑固なのはいいけど、だからといって独りよがりになるんじゃダメです」


まほ「ずいぶんと、その、言うな」


いやほんとに。

以前も思ったが姉の前で妹の事をここまでこき下ろせるのはある種尊敬すらしてしまう。

矢継ぎ早にまくし立てられ、私が内心引き気味になっていると、エリカはふん、と鼻をならす。

689 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/15(土) 22:27:55.62 ID:f0IbpfH10


エリカ「これでも控えた方ですよ。挙げたらきりがありません」

まほ「えっと、私も一応姉として指導はしたりしてるんだけどな……」

エリカ「隊長は甘いですよ。あの子はもっと厳しく言ってあげたほうが良いんです。

    というか妹の評価があなたの評価に繋がる事もあるんですからそのあたりしっかりしてください」

まほ「あ、はい」


なんだか私まで流れ弾のような説教を受けてしまった。

確かにそういうところ無くは無いと思うけど、私にとってみほはかけがえのない可愛い可愛い妹なのだから、多少そういう部分が出てしまっても仕方が無いというか、

私だって人間だし、昔ならともかく今のみほにあんまり厳しい事を言って嫌われるのも本意ではないし……

先ほどまでの胸の高鳴りはどこかへ行ってしまって、なんというか友達の母親に叱られているかのような居心地の悪さすら感じてしまう。

そんな微妙な気分の私とは対照的にエリカは言いたいことを言いきったのかスッキリしたような表情をしている、

それは直ぐにいつもの凛とした表情に戻っていく。


エリカ「だから、一緒には行けません。私はまだ、あの子を見ていないといけないから。あの子の為じゃなく、私のために。私が、強くなるために」

まほ「……はぁ。そこまで言うのにみほと友達になるつもりは無いっていうのだからめんどくさいな」


エリカは痛いところを突かれたといった風に押し黙る。


まほ「才能や家柄であの子を肯定しない、否定すべき時に否定する。あの子にとってそれがどれだけ尊いものなのか、分からないお前じゃないだろ」

エリカ「散々馬鹿にされてるのに、未だに私と一緒にいようとするなんてあの子の気が知れませんけどね」


そんなの、みほは馬鹿にされただなんて思ってないからだろう。

友達との何気ない会話に混ざる軽口はあの子にとって心地よい音色の一つでしかないのだろうから。


まほ「お前だってみほの事を悪く思ってるわけじゃないだろう?」

エリカ「……」

690 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/15(土) 22:30:49.01 ID:f0IbpfH10


再びエリカは黙り込む。

嫌い嫌いなどといくら口で言われたところで、彼女がとる態度からその素振りを見出すのは無理というものだ。

どこの世界に嫌いな奴と食事を共にし、お互いの誕生日を祝い合うやつがいるというのだ。

誰でもわかる事だ。エリカがみほに悪感情を抱いていた事はあったのかもしれない、でもきっとそれは最初だけで今のエリカにとってみほは、決して嫌な存在じゃない。

そうだろう?だって、みほといる時のエリカはいつだって生き生きとしているのだから。


まほ「何でもかんでも全部言葉にすれば良いってものじゃない。言葉にしない事で、意味が生まれる事もある。……それにしたってお前とみほは伝わってなさすぎだ」


言葉にしていない思いはもう十二分に伝わっているはずだ。そこにたった一言あればみほの願いは叶うのに。

4年間求めていた関係に確かな形が生まれるのに。

だけど、エリカは不貞腐れたように唇を尖らせる。


エリカ「だって、友達じゃないですから」

まほ「お前なぁ……」


流石に呆れてしまう。

なんで普段はちゃんとしてるのにこういう時だけ子供みたいな駄々をこねるのか。

いい加減説教したほうが良いのかと考えていると、ふとあることに思い至る。

というよりずっと前から考えていた事だ。

いつだって堂々としていて、先輩だろうとなんだろうと自分の意志を貫くエリカがどういうわけかみほの前ではちぐはぐな言動と行動をしてしまう。

その理由、いや原因は……


まほ「……ああ、そうか」

エリカ「……?」


私は名探偵のようにエリカを指で指す。

行儀が悪いのは重々承知だが、この程度は許して欲しい。

私と私の妹を散々振り回したのだから。

そして私が導き出した答えを突きつける。


まほ「エリカ、あなた――――ただ恥ずかしいだけでしょ」

エリカ「っ!?」


途端に紅潮する肌、限界まで開かれる瞳。

真偽を問わずともそれが私の答えを証明してくれる。


まほ「嫌味っぽいのも、回りくどいのもそのくせみほの事を気に賭けるのも。素直に思いを伝えるのが恥ずかしいからなんでしょ?」

エリカ「ち、違います」


慌てて否定するももはや私の中の確定事項は揺るがない。

全く、本当にめんどくさい奴だ。

約束だ協定だ倒すべき目標だ。

だから友達じゃない。

そんなの理由にならないのに。

嫌いなところがあるのに一緒にいるのは、それ以上に想っているからだろうに。


691 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/15(土) 22:33:47.97 ID:f0IbpfH10


まほ「はぁ……私とみほはあなたの小心さのせいでこんなにも心乱されてたのね」


「友達になって」と事あるごとにエリカに言うみほの姿に、いい加減どうにかしてやりたいと思っていたが、

エリカ側の理由は本当にただただエリカの性格のせいだったのだと思うと脱力してしまう。


まほ「そのくせ勢い任せに人に説教するのだからタチが悪いわね」

エリカ「それは……否定しませんけど」


私に対して「言いたいことはちゃんと言え(要約)」なんて言っておきながら自分の事は感情任せに無視するなんてひどい奴だ。

私がどれだけ勇気を振り絞って貴女に弱さを見せたと思っているのか。

ああそうだ、エリカ。貴女は本当に、


まほ「ズルい人」

エリカ「……みほには、言わないでください」


エリカは私の言葉に観念したように肩を落とす。

どこか小動物じみたその様子がみほと重なる。


まほ「……別に、あの子もそれで貴女に失望したりしないわよ」

エリカ「そんな事思ってません。でも……伝えるなら私からじゃないとダメなんです」

まほ「……」

エリカ「私だってこのままでいいだなんて思ってませんよ……でも、お願いします待ってください」


深々と頭を下げて懇願する。


エリカ「あの子に偉そうに言っておいてどの口がってのは分かってます。でも、もう少しだけ。決勝が終わるまでは、何も言わないでください」


『決勝が終わるまで』期限を決めたのはきっとエリカも思っていたのかもしれない『このままじゃいけない』と。

どんな形であれ、曖昧なまま今日まで来た二人の関係はとうとう決断を迫られた。……迫ったのは私だが。

まぁ私が何も言わなくても今度は赤星あたりが何か言っていただろう。

とはいえ、伝えると決めたのなら私がせっつく必要はない。

私は不安げに上目遣いをするエリカを安心させようとその肩に手を置く。


まほ「……そう。なら、何も言わない。……約束よ」

エリカ「……ありがとうございます」


692 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/15(土) 22:34:48.94 ID:f0IbpfH10



喧嘩して、理解しあって、共に学んで共に成長する。

同じ時間を、同じ空の下で、共に過ごせる。

笑う事も怒る事も泣く事も楽しむ事も、全部全部それらを彩るために必要なもので、

それを誰よりも形にしているのがみほと、エリカと、赤星で、

私は、私も一緒に、いたかった。

隊長だとか副隊長だとか、憧れとか尊敬とか、先輩とか後輩とか関係ない、

本当にただの友達として。

そうすればなんの気兼ねもなく、あなた達と共にいられたのに。

留学なんてもっと未来の話で、共に過ごせる日々を全力で感じることが出来たのに。

そんな日々はきっと、私にかけがえのないものをたくさんくれたはずだ。


まほ「……私も、もう一年遅く生まれてくれば良かったな」

エリカ「……?そうですね、西住流の娘が双子だとしたらとても心強かったと思います」

まほ「……はぁ。エリカ、あなた変なところで鈍いのね」

エリカ「……?」


疑問符を浮かべ小首をかしげるエリカに私はもうため息しか出ない。

わかっている。たらればの話なんて何の意味もない。

それでも夢想してしまうのだからしょうがないんだ。

『あなた達と同級生だったら卒業まで毎日一緒にいられたのに』

そう言ってしまえば良いのに、言えないのは私がエリカに影響されたからだろうか。

素直になれない彼女のそんなところに。

なら、それもまた愛おしいところなのだ。

私がエリカのズルいところも好きなように。

なのでもう、この話は打ち切りだ。

決まった話に決まった答えしかないのだから。あれこれ論議するだけ時間の無駄だ。

693 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/15(土) 22:43:31.06 ID:f0IbpfH10



まほ「帰りましょう。みほたちが待ってる」

エリカ「……ええ。一緒に帰りましょう」


そう言って微笑みと共に扉を開けて私を促す。

それをみほにしてあげなさいよ……と思うものの、『一緒に帰ろう』と誘われたことに胸が弾んだのもまた事実なのでここはもう口をつぐむしかない。

私は黙って廊下に出る。


まほ「エリカ」


―――と思ったけどやっぱり一言だけ。


まほ「それでも、まだ一年ある。私は貴女たちとの思い出をたくさん作りたいわ」


たらればの話じゃない、ちゃんとした現実の話ならば未来を語っても鬼は笑わないだろう。

私はエリカと違ってズルい人じゃないから、言いたい事も伝えたい事も素直に伝えるんだ。

私の素直な言葉にエリカは一瞬驚くも、やがて夕日のように微笑む。


エリカ「……作れますよ。私も、そう思ってますから」


その言葉を聞けただけで満足してしまう。

笑いたければ笑えばいい。私はこの一年を高校生活最高の一年にして見せる。

全力で青春して、胸を張ってドイツに行こう。

戦車道だけじゃなく、それ以外も全力で楽しもう。

西住流の、家の未来のために生きてきた私はようやく10代らしい学生生活の仕方を理解できたのかもしれない。

お母様には怒られるかもしれないが、遅めの反抗期という事で納得してもらおう。

別に戦車道に手を抜くつもりは無いのだから。

むしろ今以上にやる気に満ちているのだから。

声が弾む。喜色が音色となって飛び出す。


まほ「……ふふっ、なら大会終わったら手始めに旅行でも行きましょうか」

エリカ「いきなりですね……」


夕日の差す廊下を並んで歩く。

時折笑い声が響く。

足取りはどこかゆっくりとしてて、一秒でも長くこの時間が続いてほしいという願いが込めらられて。

もう少しすればもう二人増えて笑い声はさらに大きくなるのだろう。

そうしたらきっと、また歩みは遅くなる。永遠にこの時間が続けばいいのにと。


まほ「みほがね、大洗ってとこに行ってみたいって」

エリカ「あ、それ私も聞きました。茨城ですよね?なんか、ボコ……ランド?パーク?ミュージアムだっけ?とにかくそんな感じの遊園地があって、行きたい行きたいって」

まほ「じゃあちょうどいいわね。でも、みほの趣味だけに付き合うのもあれだからほかにも何かないかしら」

エリカ「ああ、えっと確かあんこうが有名で――――――」


694 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/15(土) 22:44:13.41 ID:f0IbpfH10
ここまで。また来週。

年末までに終わらせる予定だったんだけどなぁ…
695 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/15(土) 23:33:25.79 ID:jqxADaG+o
おつー
696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/16(日) 00:00:54.46 ID:4R+mMyIn0
おつー

来週も楽しみです
697 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/16(日) 00:03:16.74 ID:B9/Qc2mE0

やっぱりエリカは面倒臭い性格だなぁ・・・
698 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/16(日) 16:24:46.55 ID:VVyJ6Wgl0
おつ
このまま危なげなく10連覇達成して大団円のハッピーエンド!
……ってのが100%ありえないというのが、こう、とても、つらい
でもそれゆえに先が気になる……引き続き楽しみです
699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/19(水) 17:20:58.25 ID:44k122Cm0
更新乙
とても惹かれる内容なだけに我がままをいうと、決勝戦のどこかで分岐点を出してセーブしたい
本編ルート(前スレ)と黒森峰大団円ルートをみてみたい
700 : ◆eltIyP8eDQ [sage saga]:2018/12/22(土) 08:38:55.14 ID:QThWuIgK0
すみません、今日はたぶん投稿できないと思うので、明日投稿でお願いします。
701 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2018/12/22(土) 12:49:58.60 ID:frQqLjFao
了解ですよ〜。乙です。
702 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/22(土) 14:02:23.85 ID:vCYnf8HA0
>>701
sageろks
703 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/22(土) 21:43:27.19 ID:mVUghoXzo
ほんまや!すんません!
704 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/23(日) 00:20:14.02 ID:l85/fpXs0
まほの説得(?)のかいあって素直になる決心をしたエリカ
決勝戦の後でみほとようやく友達になるんだなぁ

破滅が避けられない過去編ってどうしてこうも惹かれるのか
705 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/23(日) 17:57:30.63 ID:NMfow7nl0
wwktk
706 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/23(日) 18:42:17.53 ID:Lb7KU1rj0
>>705
フィルターもわからないageカス
707 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/23(日) 19:54:00.76 ID:Fp4ALVIr0
708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/23(日) 21:29:21.49 ID:YUDYnbo30
早く
709 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/23(日) 22:15:56.79 ID:8Wy7TEBX0








今私がいるのは学園艦の端にある広場。

楽器の練習をしたり、歌を歌ったり、あるいはただベンチに座って水平線に沈む夕日を眺めたりと、

学園艦に住んでいる人たちにとって憩いの場の一つだ。

だけど、焼け付くような太陽は夕日に変わり、その夕日も水平線に沈み切って、街灯と大きな満月が学園艦を照らしている。

そしてここにいるのは私と、私を呼び出したエリカさんだけ。


『今から会える?』


携帯から聞こえたのはあまりにも簡潔なお誘い。

お風呂に入り、今日は早めに寝よっかななんて思ってた矢先の事である。

私は二つ返事で了承すると、エリカさんに指定された場所へと向かうためてくてくと家から歩き始めた。

その道中で『まず用件を聞くべきだった』という事に気づくもすでに歩き出してしまった以上、今更電話をかけなおすのもあれなので会ってから聞けば良いという結論に至った。




私より先に着いていたエリカさんはフェンスに寄りかかってじっと水平線の先を見つめていた。

その姿に見とれてしまうのはもう毎度のことで、だからといって慣れるわけでもないのでやっぱり一瞬息をのんでしまう。


みほ「エリカさん、お待たせ」


とはいえお互いいつまでもぼーっとしてるわけにはいかないので、とりあえず声を掛けてみると、エリカさんはゆっくりと振り向き苦笑する。


エリカ「急に呼び出したのはこっちなんだから待たされただなんて思わないわよ」

みほ「それで、どうしたの急に?明日は決勝なのに」


そう、明日は待ちに待った決勝戦。練習は早めに切り上げられ、各々明日の大舞台に備えているはず。

そんな事エリカさんだってわかっているだろうに、人通りの無くなった夜の広場に私たちはいる。

お姉ちゃんにバレたら小言を言われそうだ。

当然の疑問をぶつけられたエリカさんはしかし、もじもじと落ち着きなく体を揺らす。


エリカ「あー……あれよ、その、ね?」

みほ「……?」


歯切れの悪いエリカさんの様子に私はただただ首を傾げる事しかできない。

 
710 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/23(日) 22:21:29.40 ID:8Wy7TEBX0


エリカ「んーと……ちょっと話したかったのよ」

みほ「何それ?電話でもいいじゃん」


なにも決勝前夜に呼び出さなくてもいいのに。

そんな内心を読み取ったのかエリカさんはふんと鼻をならして嗜めるような表情をする。


エリカ「何でもかんでも文明の利器で解決しようとするんじゃないの。現代っ子なんだから」

みほ「同い年に言われたくないよ……」

エリカ「とにかく!いつも私が付き合ってあげてるんだからちょっとぐらい付き合いなさい」

みほ「しょうがないなぁ」


しぶしぶといった風に返すものの、元よりそのつもりだ。

というか、いきなり呼び出されてノコノコ来てしまった時点でさっさと帰るつもりなんて毛頭ない。

決勝前夜の貴重な時間が、エリカさんとのおしゃべりという、また違った貴重な時間に変わるだけなのだから。

エリカさんは「立ち話もなんだから」と、親指でベンチをさす。

私がベンチに座ると続けてエリカさんも腰を下ろす。私との間に一人分の隙間をあけて。


みほ「……」

エリカ「……なによ」


その距離がもどかしくて座ったままずりずりとにじり寄る。


エリカ「暑苦しいからやめてよ……」


本気目の苦言が来てしまった。

だけど、エリカさんはまた距離をとりはしない。

その様子に私とエリカさんの距離を実感できて、胸をなでおろす。

並んで座る私たちに、海風がそっと吹きかかる。

そのくすぐられるような心地よさを目を閉じてゆっくりと感じてみる。

それはエリカさんも同じだったのか、無言の時間がしばし流れる。


エリカ「思えばあなたともそれなりの付き合いになったわね」


ポツリと、独り言のような声。


エリカ「色々あったわ。あなたにムカついて、あなたをぶっ叩いて、あなたを無理やり引き連れてタンカスロンに参加して、めっちゃくちゃ怒られて」

みほ「それ全部中一の頃の事じゃん……」


思わず突っ込むとエリカさんは悪戯っぽく笑う。


711 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/23(日) 22:30:30.33 ID:8Wy7TEBX0


エリカ「ああ、そうね。ほかには……教科書忘れたあなたに私の見せてあげたりしたわね」

みほ「それも……毎年の事だねそれ」


ちゃんと翌日の準備はしているのだが、半年に一回くらいは教科書なり宿題なりを忘れてしまう。

……せめて年一といえない辺り、我ながらうっかりが過ぎると思う。

先ほどまで冗談めかして笑ってたエリカさんも呆れた顔でため息を吐く。


エリカ「ほんっとしっかりしなさいよねあなた……」

みほ「あはは……」

エリカ「なんていうか、ろくな思い出が無いわね」

ベンチに寄りかかってため息を吐くその姿に、私は焦ってしまう。

まさかの中一の思い出で黒森峰生活の総決算をされては流石に困る。

は慌てて抗議をしようと彼女の肩をバンバン叩く。


みほ「え、ちょ。良い思い出だってあるでしょっ?ほら、中一の時以外にもさ!」

エリカ「どうだったかしら?」

みほ「もー……」


不満バリバリな私の表情にエリカさんは小さく笑う。


エリカ「……そうね、無くはなかったかも。例えば……赤星さんと友達になれた」


嬉しそうに、懐かしむようにエリカさんは語る。


エリカ「赤星さんがあなたのために立ち向かってこなければ一生交流なんて持たなかったでしょうね」


そんなことない。きっとエリカさんなら私抜きでも赤星さんと友達になれてたはず。

そう言おうと開いた口はそっと白くて長い指で止められる。

エリカさんは黙って聞きなさいと言いたげな表情をすると、言葉を続ける。


エリカ「別にあなただけが理由だなんていうつもりは無いわ。私が本気で向き合ったから赤星さんも私に向き合おうってしてくれたんだから」

みほ「……」

エリカ「あと、まほさんとも仲良くなれた。これも……まぁ、あなたのおかげっちゃおかげね」


712 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2018/12/23(日) 22:35:28.62 ID:8Wy7TEBX0


お姉ちゃんがエリカさんに関わろうとしたのは確かに私が理由なんだろう。

妹を心配していたから、その交友関係も心配したのかもしれない。

だけど、それでもお姉ちゃんがあんなにも笑ってる姿を見て、自分のおかげだなんて言えるわけがない。

私の気持ちはたぶんエリカさんも分かっているのだろう。だからだろうか、エリカさんは偉ぶって、おどけるように話す。


エリカ「まぁ?赤星さんともまほさんとも仲良くなれたのは私の人徳あってこそなんでしょうけどね?」


白い頬を紅潮させ笑う姿は照れ隠しにすらなってなく、、みているこっちまで照れ臭くなってしまう。


みほ「恥ずかしいなら言わなければいいのに……」

エリカ「……うるさい」


頬の赤みは暑さのせいだと言わんばかりにエリカさんはパタパタと手うちわで扇ぐ。

その微笑ましい様子にちょっと和んでしまう。

でも、やがて扇ぐのをやめて私を見ずに呟く。


エリカ「誕生日、みんなに祝ってもらえて嬉しかった」


頬の赤みはそのままで、小さな声でも確かに届くその言葉は、私たちのした事は確かに彼女にとって幸せな思い出となったのだという確信をもたらしてくれる。

だからそれ以上は聞かずに、一言。


みほ「……楽しい事いっぱいあったね」


きっと、言わなかった事以外にもたくさん。

それこそ語り切れないぐらい、楽しい事があったんだと思う。


エリカ「……そうねぇ、おかげさまで手紙の内容に困った事は無いわね」

みほ「エリカさんの家族もきっと喜んでるよ。『うちの娘にこんなに気立ての良い友達がいるなんて!』って」


以前聞いたことだがエリカさんは家族に手紙を送っているらしい。それも手書きで。

メールや電話じゃなくて、ちゃんと自分で筆をとることで、伝えたい思いを文章に出来るのだと。

そんなエリカさんの事なのだから、きっと手紙の内容なんてありすぎて困るぐらいなんだろう。

伝えたいことをたくさん書いて、家族はそれを読んで遠い海の上で娘が、妹が、楽しくやってることを知って喜ぶのだろう。

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