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男「歩こう……どこまでも、どこまでも」
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2 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:03:09.70 ID:gNZChRei0
男が歩いていると、ある夫婦が喧嘩をしていた。
「ふざけるな! なんて身勝手な女だ!」
「あなたこそ! 男として見損なったわ!」
散々罵り合い息切れする二人のもとに、男が歩いてきた。
そして――
3 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:06:04.91 ID:gNZChRei0
「お二人ともすごい汗ですね。もしかして、よほど歩いたんですか?」
それだけいうと、とっとと歩いていってしまった。
取り残された夫婦はというと、
「なんか、バカらしくなっちゃったな」
「私たちも散歩でもする?」
「そうだな……」
仲直りするしかなかった。
4 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:09:12.90 ID:gNZChRei0
男はある村にたどり着いた。
そこでは村民同士が村の行く末について論じていた。
「この村をもっと栄えさせるため、開発を進めるべきだ!」
「いや、歴史のあるこの村は、ありのままの姿で残すべきだ!」
どちらの言い分も一理ある。
男はかまわず歩を進めた。
5 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:12:05.59 ID:gNZChRei0
ある村人が男に聞いた。
「あんたはどう思う? この村を開発すべきか、このままにしておくべきか」
男は歩きながら、こう答えた。
「これまで色んな道を歩きましたが、こんなに歩きやすい道はなかなかありません」
村を去っていく男の背中を見つめる村民たち。
誰かがいった。
「とりあえず、このままということで……」
6 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:15:05.24 ID:gNZChRei0
歩き続ける男は、ある大きな町に到着した。
町は町長選挙の真っ最中。
どちらの陣営も、相手の弱みの握り合いに必死になっていた。
「対立候補者は立ち小便をしたことがあります! ぜひ、私に清き一票を!」
「そちらこそ、桜の木の枝を折ったことがあるじゃないか! ぜひ私に一票を!」
あまりにもバカバカしいやり取りに、町の人たちも半ば呆れている。
男はただただ歩き続けた。
7 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:18:04.25 ID:gNZChRei0
二人の候補者は、男の歩く姿をじっと見つめた。
「なんと美しいフォームだ……!」
「あんなに堂々と歩く人間を見たことがない……!」
男を見て、二人はお互いのやり方を恥じた。
「これからはもっと堂々と勝負しましょう」
「ええ、町や町民をどうするのかの政策で、論じ合いましょう!」
8 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:21:07.57 ID:gNZChRei0
ある民族同士が、にらみ合い、殺気立っている。
二つの民族は長年いさかいを続けており、それがいよいよ爆発寸前となったのである。
「今日こそお前らと決着をつけてやる!」
「望むところだ!」
一触即発。
そんな雰囲気にもかかわらず、男は平然と歩を進めた。
9 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:24:05.77 ID:gNZChRei0
突然の乱入者に、困惑する二つの民族に対し、男は歩きながらつぶやいた。
「なぜ争ってるんですか? みんな、歩けば汗をかくのは変わらないのに……」
男からしてみれば、思ったことをただ口にしただけだった。
しかし、どうやら両民族の心にこの言葉はやたら響いてしまったらしく、
あれだけ高まっていた戦意はいつしか収まってしまった。
二つの民族の未来はこれからだ。
10 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:27:05.76 ID:gNZChRei0
男は地雷原に着いた。
当然、地雷原を管理している兵士が止めに入る。
「ここから先は、あちこちに地雷が埋まっていて危険だ! 入ったらいかん!」
「しかし、どうしてもここを通りたいのでね」
男は迷わず地雷原に足を踏み入れた。
恐れもなにもない。
男は地雷を踏んだ時のことなど考えてはいなかった。
歩きたいから、歩いているのだ。
11 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:30:13.82 ID:gNZChRei0
男をおそるおそる見守る兵士たち。
やがて――
「あの人を死なせたらいかん! みんなで地雷を撤去するんだ!」
地雷原を管理する兵士たちは、地雷の位置を知っている。
瞬く間に大勢の兵士が集められ、地雷の撤去作業が始まった。
そのおかげなのか、運がよかったのか、男は地雷原を徒歩で抜けることができた。
その後、地雷原から全ての地雷が撤去されたのはいうまでもない。
12 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:33:15.65 ID:gNZChRei0
血と煙と銃弾と悲鳴が飛び交う戦場。
むろん、男はペースを落とさず歩き続ける。
「何者だ!? あそこを歩いているのは!?」
「我が軍にあんな兵士はいませんし、敵軍でもありません!」
両軍でこんなやり取りがなされ、いつしか戦う兵士たちは男の歩く姿に見とれていた。
13 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:36:05.92 ID:gNZChRei0
男が通れば、戦闘が止み、戦場が静かになる。
歩く男の姿には、戦いをやめさせてしまう何かがあった。
男がいなくなった後、この戦場からは一つの発砲音も聞こえなくなっていた。
男はそれが自分のおかげだと、気づいているのかいないのか、定かではない。
14 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:38:22.42 ID:gNZChRei0
男が歩いていると、複数の人間が男の前に立ちはだかった。
彼らはみな、国の指導者である。
「なんでしょう?」
「君が歩き続けるせいで、我々の国の兵士から戦意が消えてしまって、大変迷惑している。
もう歩くのをやめてもらいたい」
「お断りします。私は歩きたいのです」
男がこう答えると、指導者のうちの一人が銃を向けた。
「これでもかね?」
15 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:41:04.36 ID:gNZChRei0
しかし、銃を向けられても、男の態度は変わらない。
「私は歩きます。撃ちたければどうぞ」
「歩かなければ助かるというのに! 下らん意地を張って地獄に落ちてもいいのか!」
「そうしたら、地獄で歩くまでです」
指導者たちは、男を止めるのを諦めた。
いかなる武力も、権力も、男を止めることはかなわなかった。
16 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:44:04.56 ID:gNZChRei0
しばらくして、この地から争いらしい争いはすっかり消えてしまった。
まもなく皆は、この地を平和にした男を捜したが、もはや行方は分からない。
しかし、今もきっとどこかで歩き続けているにちがいない。
それだけは分かった。
17 :
◆xGZ8epJNzU
[saga]:2018/05/20(日) 16:47:28.70 ID:gNZChRei0
いつしか人々は男のことをこう呼ぶようになった。
この地から戦争をなくしたことから転じて、戦争をもひれ伏させた偉大なる王、
戦争王(ウォー・キング)と――
― 終 ―
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/05/20(日) 17:46:27.20 ID:VxEA05Bfo
珍しく静かな落ちだな
おつおつ
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