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【ミリ×デレ】桜守歌織「わたしのうた」
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2 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:36:26.77 ID:O0+7TRfs0
「……ありがとうございました」
赤くともるカメラのサイン。私は、深くお辞儀をしました。
パチパチと、まばらな拍手の音。
スタッフさんや共演の方々の視線に見守られ、私はひな壇へと戻るのです。
ふう。
テレビの歌番組でこうして歌を届けること。私は、未だ慣れずにいました。
カメラの前、その先にたくさんのファンの方が待っている。それは理解しています。でも。
熱気、視線、息遣い。
それを想像し、自分に落とし込んで、ここで歌い上げることに難しさを感じているのです。
それでも、多くの歌手の方や同じアイドルが共演している中、私は私の歌を、その先の見えない方々へ届けようとして。
そして。
3 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:37:26.49 ID:O0+7TRfs0
今日もまた、届けられたでしょうか。
次の方のインタビューが、続いています。私の身体は、浮いた感覚を残したまま。
ひな壇で、時が過ぎます。
「それでは、お聴きください」
司会の方が曲紹介をします。そしてイントロ。歌が始まりました。
私は、ぼんやりした視界が急に戻ってくる、そんな錯覚に襲われました。
それは。
ああ。
もし、一目惚れならぬ、「ひと耳惚れ」という言葉があるのなら……
私はたぶん、その声色に囚われたのでしょう。
圧倒的ななにかに、私は息をすることも忘れてしまうようでした。
彼女の名は、高垣楓。
346プロダクションのアイドルであり、そして。
シンデレラガール。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
4 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:39:27.42 ID:O0+7TRfs0
「みなさん、お疲れさまでしたー!!」
ADの方のお疲れさまでしたの声が、スタジオ内に広がります。
生放送の本番が終わり、私は楽屋へと戻ります。
「歌織さん」
「あ」
楽屋に向かう廊下で、私は声をかけられました。
「お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
それは、いつも傍にいてくださる声。プロデューサーさんが私を出迎えてくれました。
楽屋までの短い時間、私たちふたりは今日の感想を語らいます。
「今日の私の歌、どうでした?」
「ええ、しっかり伝わってました」
5 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:40:27.95 ID:O0+7TRfs0
プロデューサーさんは「よかった」ではなく「伝わった」と、そうおっしゃいます。その言葉に、私は安堵を覚えるのです。
私の歌は、画面の向こう側の皆さんのために。それを分かっているからこその「伝わった」
この上ない賛辞です。
楽屋に着くと、あるものが目に留まりました。
ドレッサーの前に、水分補給の飲み物。それも、小さな紙コップに半分ほど。
一気に水分と取りすぎないようにとの、プロデューサーさんの心遣い。その気持ちがすうっと、私の中に染みとおっていくようです。
「いつも、ありがとうございます」
心遣いに、感謝を込めて。私は笑顔を贈ります。
衣装がしわにならないようゆっくりと腰を掛け、まずは飲み物をひと口。そして、もうひと口。
鏡の中には、安堵の表情の私。
頑張ったねと心でつぶやき、私はメイクを落とす準備を始めました。
「じゃあ歌織さん、ちょっとスタッフさんに挨拶してきます」
「はい、いってらっしゃい」
6 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:42:24.55 ID:O0+7TRfs0
プロデューサーさんは私の様子をうかがうと、挨拶まわりに中座するのでした。
私はコットンにクレンジングを含ませ、肌にあてます。ひやりとした感触。
先ほどまでの照明の熱さと、スタジオの熱気。
中てられた熱が洗い落とされるような、そんな気がします。
ふう。
ため息を、またひとつ。
鳴り響く歌を、思い出します。
その歌が、私の心を締め付けます。上手いとか素晴らしいとか、そんな、簡単に表現できることではなくて。
なんと言えば、いいのでしょう。意図することなくただ、心を締め付けるのです。
それは、表現力? 存在感? あるいは?
いえ。そのどれでもなくて、でも、どれも当てはまって。
考えるほどに、頭の中がかき混ぜられていくようです。
7 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:43:57.30 ID:O0+7TRfs0
照明の熱さでひりつく肌に、化粧水を与えて。
鏡の中の私が、少しずつ変化していきます。
ええ、そうですね、と。気持ちをリセット。
そう、私は私のできることを。歌を皆さんに届けることを。それを嬉しく思えばよいのです。
果たして、それは成功したのですから。
今日のお仕事はこれで終わり。
事務所にはまだ、小鳥さんがお仕事をこなしながら、私たちの帰りを待ってくれていることでしょう。
保湿クリームをつけ、眉を整えれば、いつもの私に。
これで、よし。
そろそろ、着替えることにしましょう。
「おつかれさまです」
ふと。
背中越しに、声をかけられました。
それは先ほど、スタジオで聞いた、声。そして心を締め付ける、声。
「あっ」
8 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:45:01.61 ID:O0+7TRfs0
私は慌てて振り向き、挨拶を返します。
「……高垣さん、おつかれさまです!」
振り向いた先には、優しげな微笑み。高垣楓さんご本人。
立ち姿は、高貴なお姫さまのようでした。
「ふふっ、どうぞ。お座りください」
「は、はい……」
高垣さんは、あわてて立ち上がった私を、席へと促してくださいます。
かああ、と。恥ずかしさに顔がほてります。
「……桜守、歌織さん、ですよね?」
「……はい」
「素敵な歌でした」
「あ……ありがとう、ございます」
「本当に、素敵でした……私、大好きです」
9 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:45:49.55 ID:O0+7TRfs0
そうおっしゃる高垣さん。その言葉に私は顔を上げました。
目の前には先ほどと変わらぬ、柔らかい笑み。
「歌織さん?」
「……はい」
「今日は私この後もお仕事なので、ご挨拶だけですけど」
私の目に映るは、吸い込まれそうな瞳。
高垣さんは私に、こう、言葉を残したのです。
「また、お会いしましょう」
と。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
10 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:47:12.98 ID:O0+7TRfs0
ぽーん……
ピアノの音が、レッスンスタジオに響きます。
いつものように、星梨花ちゃん達と歌のレッスンを行って。そして。
私はひとり、スタジオに残ったのです。
あの歌が。
高垣さんのあの歌が、今も耳に残ります。
幼い頃から歌に親しんでいて、もちろん、私などよりはるかに上手な方の歌も、多く耳にしています。
でも。彼女の歌は。
言葉では表現し難い、なにか。そう……なにか。
理由を探す心の澱が、私の中を駆け巡るのです。
ぽーん……
指先に感じる鍵盤の重み。
ぽーん……
ぽーん……
11 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:48:27.11 ID:O0+7TRfs0
C(ツェー)の音に促され、私はピアノを弾き始めました。
『ローレライ』 ジルヒャーの曲です。
小さいころから弾き慣れた曲を、紡いでいきます。
一音、一音。私は、漂う音に身をゆだねるのでした。
そして弾き終わると。
ふう。
私は、ため息を吐いていました。
本当に、このところの私はため息ばかり。レッスンもお仕事も、楽しいと思う気持ちは間違いない、のに。
鍵盤をさまよう、指先。定まらない視線。
「あら? 歌織ちゃん?」
「……あ」
ふと、顔を上げると。
「……このみさん」
このみさんがレッスンスタジオへ入ってきたのでした。
12 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:49:23.59 ID:O0+7TRfs0
「どうしたの? そんな浮かない顔して」
「……え」
ふいにこのみさんから出た言葉に、私は戸惑います。
「……あの、私。そんな顔、してました?」
「ええ、そりゃあもう。ね」
このみさんはそばにあった椅子を持つと、にこりと微笑んで私のとなりへやってきました。
「なにか、悩みごと?」
「いえ……そんなんじゃなくて」
「ふーん……」
椅子にまたがるように座り、このみさんは私の顔を伺います。
「ひょっとして」
「……」
「楓ちゃん……かな?」
13 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:50:21.64 ID:O0+7TRfs0
え?
驚く私に、このみさんはくすりと笑います。
「んふふ、そっか……図星ね」
「……あ、あの」
「ん?」
「このみさん、高垣さんのことご存じなんですか?」
そう私が尋ねると、このみさんはからからと笑いました。
「まあそりゃあ、ね。彼女、私のお友達だし」
「……」
「楓ちゃん、すごいわよねえ」
14 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:51:10.21 ID:O0+7TRfs0
このみさんは、語り始めます――
楓ちゃん、あのとおり美人だし歌もうまいし、そんでもって気さくだし飾らないし。
人気になるのもわかるわね。
なるほど、シンデレラガールに、なるべくしてなったなあって、感じ。でも。
「セクシーなら私に敵わないけどね!」 このみさんはそう言って笑いました。
15 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:52:12.87 ID:O0+7TRfs0
楓さんの話は、続きます――
楓ちゃんと初めて会ったのは、歌織ちゃんと一緒。歌番組だったなあ。
なーんか浮世離れした雰囲気でね。つかみどころなくて、ちょっと違うアイドルだなって、思ったの。
そこでお話もできなかったしね。彼女忙しそうだったし。
ところが。
そのあと、ばったり出会ってね。
どこだと思う? 居酒屋よ、チェーンのとこの。
ちょうど莉緒ちゃんと一緒に飲んでてね、そしたら。
いたのよ。楓ちゃん。
早苗さんと瑞樹さんと一緒に来てて、あ、瑞樹って言っても、うちの真壁の瑞希ちゃんじゃないわよ?
川島瑞樹さん、あちらの事務所のね。
ほら、私、早苗さんと同じセクシーが売りだから。なんか意気投合しちゃって。
で、莉緒ちゃんと一緒に混ざったの。
「それが今じゃ、一緒に飲んで歩く仲って、わけ」
このみさんはにこにこと、今までのいきさつを話してくれました。
16 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:52:53.14 ID:O0+7TRfs0
わあ……
このみさんのコミュニケーション力はすごいなあ、と。
私は感心せずにいられません。
「実は昨日ね。たまたま楓ちゃんと飲んでたのよ。そのとき、楓ちゃんが言ってたの」
このみさんは私に「なんて言ったと思う?」と訊ねます。
「いえ……さすがに」
「このみさんのとこの、桜守歌織さん、でしたっけ……すごいですね。って」
「……」
「まったくもう。楓ちゃんにそう言わせるなんて。ほーんと歌織ちゃん」
このみさんは、私の肩をぽん、と叩き。
「すっごいじゃない!」
17 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:54:09.17 ID:O0+7TRfs0
その言葉を聞いて、私はしばし呆けてしまいました。
すごいのは高垣さん、貴女のほうです。
私は貴女の歌に、惹かれているのです。何とは言えない、なにかに。
好意を持った評価を受けたこと、大変喜ばしいことです。
ただ、それ以上に、高垣さんの歌が耳に残って。いえ。
記憶に、残って。
「……歌織ちゃん?」
むにゅ……
「ひゃっ!」
18 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:55:04.20 ID:O0+7TRfs0
私の頬を、このみさんがつまみます。
「ほーら……変な顔しないの!」
「……あの……変な顔、してましたか?」
私は頬をさすりながら、このみさんに尋ねました。
「うん、さっきみたいな……思案顔しちゃって、さ」
このみさんはくすりと笑い、そう言います。
「歌織ちゃんがなにを思ったのか、私には判らないけど……」
このみさんは椅子から立ち上がると伸びをして、「でも」と続けます。
「楓ちゃんは楓ちゃん。そして」
私を指さして。
「歌織ちゃんは、歌織ちゃん。でしょ?」
そう言ってウインクをひとつ、私に投げてくれました。
19 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:55:53.46 ID:O0+7TRfs0
私は、私。
そう、ですね。はい。
ひどく当たり前のことが、私の心に染みてきます。
「だいぶ遅くなったし、一緒に帰ろっか? 歌織ちゃん」
外はもう、すっかり夜の帳。
「そうですね。よければご一緒に」
ふたりでレッスンスタジオの後片付けをして、消灯。
ぱちん。
スタジオに静寂が訪れます。
「このみさん」
「ん?」
「……ありがとう、ございます」
20 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:56:27.80 ID:O0+7TRfs0
私の言葉に、このみさんはふわりと笑い。
「なーに水臭いこと言ってんだか」
と、返してくれました。
街の明かりに照らされて、床に伸びる影が、ふたつ。
私は、温かい気持ちを、もらったのです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
21 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/18(金) 22:57:44.88 ID:O0+7TRfs0
※ とりあえずここまで ※
ゆっくり書いていきます。よろしければゆっくりお付き合いください
次は来週あたりで
では ノシ
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/18(金) 23:48:01.69 ID:h1OuFY/Ao
楽しみに待ってます
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/19(土) 04:32:56.53 ID:5YpsbSV1o
とりあえず乙
楓さんの方が年上なんだよな…
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/19(土) 08:04:27.29 ID:SFg6dPHco
ミリのアイドルはみんな若いからな
デレは普通に三十路くらいのいるし
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/19(土) 08:18:36.89 ID:EQ/+VFnE0
容姿や雰囲気だけなら楓さんも年相応に落ち着いて見えるから
26 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/26(土) 22:11:49.77 ID:ru/9Q1MX0
お待たせしました。投下します。
↓ ↓ ↓
27 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/26(土) 22:12:53.69 ID:ru/9Q1MX0
休日。
久々のオフに、私は楽器屋へやってきました。
「……んーと」
今日の目的はいくつかのピアノピース。劇場のみんなとレッスンするための教材です。
みんなアイドルなのだから、と。私はできるだけ最新ヒット曲を選んでいました。
ここ最近のヒット曲も、今やすぐにピアノアレンジされ、こうして手元に届けられるのです。本当に、すごいです。
あれと、それからこれも、いいかな。
みんな、喜んでくれるかしら。
レッスン中のみんなの表情を想像してつい、私の顔もほころんでしまいます。
私とみんなのいつもの練習風景に、ちょっとしたアレンジを。
そんなことを考えながら、私は譜面を吟味していきます。
中には。
「あっ」
28 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/26(土) 22:13:49.33 ID:ru/9Q1MX0
私の歌もあったりして。
思わず、赤面してしまいます。でも。
こうして、ファンの皆さんに届いている。そのことがとても、うれしく思うのです。
決して安くない買い物。でも、私はずっと笑顔。
そうして選んだ譜面を手に、楽器屋を後にしました。
目的は果たしたけれど、せっかくのオフ。ちょっとウィンドウショッピングも、いいものです。
表通りのショーウィンドウを眺めながら、ゆっくりと。
天気もよくてほんと、気持ちいいなあ。
「……あら? 歌織、さん?」
ふと。
私は声をかけられました。
29 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/26(土) 22:14:20.40 ID:ru/9Q1MX0
「え? あ、は、はい」
私が振り向くと、そこには。
「お久しぶりです」
高垣さんが、立っていたのでした。
30 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/26(土) 22:15:14.80 ID:ru/9Q1MX0
「あ……あ! こ、こんにちは、高垣さん!」
「ああ、よかった。人違いだったらって、結構心配だったんです」
高垣さんは、ロングブラウスにクロップドパンツと、だいぶラフな格好をされていました。
その立ち姿は、ほんとうに綺麗で。
見惚れてしまいます。
「歌織さんは、オフか何かで?」
「は、はい。そうです……ひょっとして、高垣さんも、ですか?」
私がそんなふうに答えると、高垣さんは小首をかしげ。
「……楓、で」
「え?」
「名前で、呼んでください」
「……えっと」
「……ね?」
そうおっしゃったのでした。
31 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/26(土) 22:15:54.82 ID:ru/9Q1MX0
「あ、あの……じゃあ」
「……」
「……楓、さん……」
「……はい」
私は頑張って楓さんの名前を呼び、そして。
楓さんは、それはもう素敵な笑顔で返事を下さったのです。
「ところで、歌織さんは」
「あ、はい」
「ご用事、済んだのかしら」
楓さんは私の手元を見て、そう言います。
「ええ、まあ」
「ひょっとして、譜面?」
「え?」
32 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/26(土) 22:16:33.23 ID:ru/9Q1MX0
なぜ、私の買い物が分かってしまったのでしょう?
私が驚いていると。
「ほら。袋に楽器屋さんの名前が」
「……あ」
すごい。本当に。
楓さんは頭の回転が速い方なのだと、思いました。楓さんはまたもにこりと笑い、私に問いかけました。
「もしお時間があるのだったら」
「……」
「私にお付き合い、いただけません?」
33 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/26(土) 22:17:05.49 ID:ru/9Q1MX0
えっと……
正直、緊張しています。でも。
とても、気になるのです。
今、こうしているときも、そして。あの時も。
スタジオでの、一言が。
『また、お会いしましょう』
ひょっとして、今この時が。それは私の直感。ですから、私は答えるのです。
「はい、ぜひ」
と。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
34 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/05/26(土) 22:19:55.57 ID:ru/9Q1MX0
※ とりあえずここまで ※
誤字がありました。
>>15
1行目
×「楓さんの」 → 〇「高垣さんの」
では ノシ
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/27(日) 10:22:26.17 ID:TYQiuwK3o
おつ
36 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/03(日) 22:20:23.24 ID:WrstqN030
本当に少しですが。投下します。
↓ ↓ ↓
37 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/03(日) 22:22:25.11 ID:WrstqN030
女ふたり。ウィンドウショッピング。
楓さんはメガネをかけているくらいで、あまり変装らしい格好をしていませんでした。
かなり目立つのだろうなあと思っていました、けど。
意外と。
声をかけられることは少なくて、私たちはこうして、散策を楽しんでいたりします。
それにしても。
楓さんは、私が想像してたよりさらに、ユニークに思える方でした。
例えば。
38 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/03(日) 22:23:17.20 ID:WrstqN030
「うーん……」
「……どうしました?」
楓さんは輸入食材のお店で、真剣に悩んでいます。
「ええ、実は」
「……」
「パッタイなら、シンハーが王道かと思うんですけど」
「……」
「青島(チンタオ)も捨てがたいなあ、と」
「……はい?」
どうやら楓さんは、食材に合うビールで悩んでいたようでした。
39 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/03(日) 22:24:41.57 ID:WrstqN030
ユニークという言葉は決して、悪い言葉ではない、と。
高校の時の先生に教わりました。
一意的というか、唯一というか。ですから、楓さんのユニークさは私にとって、とても好ましかったのです。
なんだか、素敵だなあ。
スタジオでお会いした時の、少し近寄りがたい雰囲気も彼女なら。
今こうしてウィンドウショッピングに興ずる彼女もまた、高垣楓本人。
私はたちまち、楓さんのファンになった、気がしました。
40 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/03(日) 22:25:34.59 ID:WrstqN030
「歌織さん?」
「……はい」
和装小物の店で、楓さんは私に話しかけてきます。
「私、実は綺麗なものが好きなんです」
気になったタオルハンカチを手に、彼女はそう言います。
ああ。はい。
それは、分かるような気がします。
決して華美ではないけれど、ポイントをひとつ押さえた、シンプルな愛らしさ。
私の気持ちにすとんと、落ちるものがありました。
知り合えてよかった、と。実感するのです。
「楓さんのお選びになったもの、私も、好きです」
「ふふっ。それならよかった」
そうしてショッピングを続けることしばし、夜の帳が、降りてきました。
41 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/03(日) 22:26:22.20 ID:WrstqN030
「ところで、歌織さん」
「なんでしょう?」
「この後、もう少しお時間、頂戴できます?」
「え、ええ。特に用事はありませんけど、なにか?」
私がそう答えると、楓さんはやさしく微笑み。
「ちょっとだけお酒、お付き合いください。ね?」
と。
私を誘ってくださったのでした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
42 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/03(日) 22:27:30.35 ID:WrstqN030
※ とりあえずここまで ※
もう少し書き溜められるように頑張ります。
では ノシ
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/04(月) 14:26:39.70 ID:n4eBhv0JO
乙乙
良いね
じっくり待つぜ
44 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/24(日) 08:13:47.22 ID:u2t+T4dv0
お待たせしました。投下します。
↓ ↓ ↓
45 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/24(日) 08:15:07.68 ID:u2t+T4dv0
「いらっしゃいませ」
「こんばんは」
そこは、通りから少し入った、小さなワインバルでした。
46 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/24(日) 08:15:47.12 ID:u2t+T4dv0
お店に着くと、楓さんが店員さんに一言二言。
私たちは、個室風にパーティションで区切られたボックスへ、案内されました。
時間がまだ早いせいか、お客は私たちだけ。
お酒と、料理を少々注文。
しばらく店内を眺めていると、お酒が私たちのテーブルへ。
楓さんは赤ワイン。私はスプリッツァー。
「では今日の良き日に……乾杯」
「乾杯」
ちん。
静かなお店に、グラスの音が響きます。
47 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/24(日) 08:17:05.14 ID:u2t+T4dv0
「落ち着いたお店、ですね」
「ええ。ここには時々、お邪魔するんです」
楓さんはそう答えました。
料理が、運ばれてきます。
鯛のカルパッチョと、キッシュ。
キッシュにナイフを入れて。さくりとパイ生地を切れば、湯気がほのかに立ち上ります。
卵がふわり。中のチーズがとろりと。
おいしい。
口福を噛みしめる私を、楓さんはにこやかに見つめていました。
48 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/24(日) 08:17:57.06 ID:u2t+T4dv0
「気に入ってくれました?」
「あ……はい。とても」
「ふふっ、よかった」
穏やかに静かに、時間が流れます。
アルコールの心地よさを、感じつつ。
「実は私」
「はい」
「楓ちゃん、なんです」
「……はい?」
突然。楓さんはそう言いました。
49 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/24(日) 08:18:51.73 ID:u2t+T4dv0
「か、楓ちゃん……ですか?」
「はい。楓ちゃん、です」
楓さんはマイペースに、語り始めました――
50 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/24(日) 08:20:30.35 ID:u2t+T4dv0
ちょうど、私と瑞樹さんと早苗さん、三人で飲んでた時だったと思います。
このみさんと莉緒さんと、初めて飲むことになったのは。
最初に気づいたのは早苗さんで。「ちょっと! そこのセクシーコンビ!」って、声をかけて。
おふたりとも驚いてたようでしたけど。でも、嬉しそうでした。
後から伺ったら、「いきなりセクシーって言われて、ちょっと舞い上がっちゃったかな」なんて。
このみさん、おっしゃってました。
うちの事務所のセクシー担当ですから、早苗さんは。
早苗さんと、このみさんと莉緒さん、打ち解けるのはすぐでした。
瑞樹さんも「ふたりともピチピチでいいわー。うらやましい」って、ニコニコしてて。
私もそんな姿を見てると、すごく幸せになれるんです。
このみさんから声をかけてくれたんです。「楓さんは……」って。
そうしたら、早苗さんが「あー、楓ちゃんにそんな気を遣うことないの! 彼女はね、うちのオヤジ担当だから!」って。
このみさんも莉緒さんもきょとんとして。でも。
これはもう、間違いなく早苗さんからのパスでしょう?
ご挨拶、したんです。
「おふたりとも初めまして。ガンマGTP高垣、です」って。
おふたりとも、呆気にとられて。そして――
「なにそれなにそれ! 信じらんない! こっちなんかめちゃくちゃ緊張してたのに!」って。おふたりとも笑ってくださって。
「そうね! 早苗さんの言うとおり! あなたは『楓ちゃん』だあ!」って――
51 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/24(日) 08:21:23.88 ID:u2t+T4dv0
「ですから、私。『楓ちゃん』なんですよ」
「……」
驚きに、言葉が出てきません。
楓さんの、超マイペースと。
このみさん、莉緒さんの、コミュ力の高さと。
「そういう訳なので、歌織さんも」
「……あっ」
私は、あまりの驚きから戻ってきました。
「ぜひ『楓ちゃん』と」
「……い……いえいえ! それはさすがに! 無理ですから!」
「……残念」
必要にして十分。
私と楓さんとの距離が、一足飛びに縮まるのを感じました。
52 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/24(日) 08:22:14.68 ID:u2t+T4dv0
楓さんの話す声が、耳に心地いいです。
飲み会のこと。シンデレラガールのこと。
「あまり自分は、なにが変わったということも、ないんですけど」
「はい」
「お仕事を沢山いただけるようになって、皆さんに広く知ってもらえて、嬉しいです」
お互いに、お酒も程よく廻り。
私も、楓さんと同じ赤ワインをいただきながら、卵黄のみそ漬けを少しずつ口に。
コクのある塩気が、ワインと馴染みます。
「ところで、歌織さん?」
「なんでしょう」
「歌は、お好きですか?」
「ええ。それはもう」
楓さんは私の返答を聞くと、「よかった」と微笑み。
「私も、大好きです」
「幸せですよね。皆さんに聴いていただけること。本当に」
「ほんと、そうですよね……ですから、私は」
楓さんの瞳が、私の瞳を捉えます。そして。
「歌織さん。あなたがとても、うらやましいです」
53 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/06/24(日) 08:23:46.28 ID:u2t+T4dv0
※ とりあえずここまで ※
相変わらずの遅筆ですが。ゆっくりお付き合いください
では ノシ
54 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/24(日) 10:51:38.80 ID:YLPJOU66o
ええんやで
55 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/07/15(日) 00:33:51.90 ID:IdCKPh0u0
お待たせしました。投下します。
↓ ↓ ↓
56 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/07/15(日) 00:34:46.35 ID:IdCKPh0u0
えっ?
歌が、好き。それは、とてもよく分かります。
そして。
私が、うらやましい。
ふたつが結びつかず、ただ惑いの色を見せる、私。
「なぜ、ですか?」
私は楓さんに問いかけるのでした。
「……そうですね」
楓さんは困ったように、答えます。
「私がそう感じているから……では、ダメですか?」
「いえ、ダメとかそういうのではないですけど……なぜ、私なのだろう、って」
「……」
「……私も、楓さんがうらやましいと……思っているので」
「……歌織さんが?」
「はい」
私の耳に、先日の歌が、甦ります。
57 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/07/15(日) 00:35:26.29 ID:IdCKPh0u0
「先日、スタジオで共演させていただいて」
「はい」
「楓さんの歌を拝聴して」
「……はい」
私の言葉が、止まりません。
「あの……魅せられてしまったんです」
「……」
「聞き惚れたんです! 楓さんの、歌に……」
「……まあ」
楓さんは、驚いた表情を映し。私は……
あの日のスタジオで感じた、込み上げるなにかを、覚えるのです。
「本当に……ひと耳惚れ、なんです」
58 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/07/15(日) 00:36:13.56 ID:IdCKPh0u0
私は、打ち明けました。
楓さんは目を細め、にこりと微笑みます。
「……ありがとう、ございます。実は」
「……」
お酒と恥ずかしさと。頬を赤くしうつむく私。そして、楓さんは。
「私も、ひと耳惚れ、だったんですよ?」
そう、おっしゃったのでした。
楓さんが?
私の、歌を?
望外の喜びです。
それが妙に照れくさくて、嬉しくて。
「……あ、ありがとうございます」
としか。
私は、言えなかったのでした。
59 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/07/15(日) 00:36:55.95 ID:IdCKPh0u0
そして私たちは、互いの事務所のこと、同僚のアイドルのこと、いろいろと。
いろいろと。
ゆっくり語らいながら、お酒を嗜みます。
「私も赤、頼んでみたいですね」
「ええ、ぜひ。よかったら」
楓さんに勧められ、私もバローロを頼みました。
とても力強く、がつんとくる赤。
仔羊のローストと、とても合います。
ああ、おいしい。そして。
楽しいな……
なにかふわふわと。夢のようです。
憧れの楓さんと、こうして美味しくお酒をいただき、いろいろと語らい。
ただゆったりと、時間を過ごす。
贅沢。
60 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/07/15(日) 00:37:29.54 ID:IdCKPh0u0
デザートのソルベをいただきながら、私は思います。
ああ、終わってしまう。
あと少し、もう少し。と。
「歌織さん」
「はい」
楓さんが私に、語りかけます。
「まだお時間があるようでしたら、ちょっと」
「……」
「酔い覚まし、しません?」
私に否は、ありませんでした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
61 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/07/15(日) 00:38:18.02 ID:IdCKPh0u0
※ とりあえずここまで ※
ゆっくりですが。余韻を楽しんでいただければ
では ノシ
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/20(金) 10:53:01.94 ID:u6rbAJpnO
いいね
ゆっくり楽しむのも乙
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/27(金) 23:22:25.94 ID:dtJ/lAubo
こういう雰囲気のss好き
64 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/08/17(金) 00:16:50.89 ID:ip5iqoCH0
お待たせしております。来週前半にはアップしたいと頑張っております。
今しばらくお待ちください ノシ
65 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/11/17(土) 12:26:55.65 ID:hYXGsH5LO
待たせたな!!!(コント赤信号)
投下します。
↓ ↓ ↓
66 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/11/17(土) 12:29:06.66 ID:hYXGsH5LO
「ふう……気持ちいい……」
夜の海浜公園。辺りに人はまばらで。
楓さんは夜風にあたりながら、そうつぶやきました。
「歌織さん?」
「はい」
「今日は本当に」
楓さんが私へと振り向き、にこりと微笑むと。
「ありがとうございました」
お辞儀をひとつ、私へ向けたのでした。
67 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/11/17(土) 12:30:34.91 ID:hYXGsH5LO
「い、いえ! 私のほうこそ、とても楽しくて」
私はあわてて、返事をするのです。
「楓さんとこんなにお話ができて、お酒もご一緒できるなんて……なんだか、夢のようです」
偶然。ふいに。たまたま。
私が今、この時間を過ごしているのは、本当に偶然で。でも、かけがえのないもので。
「私こそ、ありがとうございました」
私は、お礼を返しました。
「私、思うんです」
「なにを、ですか?」
「私、まだ歌織さんに、ご縁のお礼、返せていないなあ、って」
幾分かほろ酔いの楓さんが、ゆったりと言います。
ご縁のお礼だなんて……私のほうこそ、お返ししたいのに。
「ですから、せめて」
楓さんの瞳が、私を捉えます。
「歌で、お返ししますね」
目を伏せて。すう、と。
息の音。
68 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/11/17(土) 12:31:15.64 ID:hYXGsH5LO
――高鳴りに少し 戸惑いながら
――見上げてた 空の輝きを
69 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/11/17(土) 12:32:05.50 ID:hYXGsH5LO
「え?」
私の耳を打つ、その曲は。
『ハミングバード』 私の歌、でした。
70 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/11/17(土) 12:32:50.91 ID:hYXGsH5LO
――ああ どこまでも高く 雲をはらって
――風のように 飛んでいけるなら
緩やかに、柔らかに。
私が歌うテンポより少し遅めに、楓さんは歌い上げていきます。
「……そん、な」
……ああ。
私は手で口元を押さえ、ただ聴き入るばかり。
なぜ。何故。
私の、歌なのでしょう?
71 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/11/17(土) 12:33:57.63 ID:hYXGsH5LO
――知らない世界に 指先すくむけど
――知りたいこの気持が 翼に変わる
私と楓さんの周りだけ、時が止まってしまった錯覚に囚われます。
そこだけが、色めいて華やかで。
私の中に、言いようのない感情が生まれました。
悔しさ? いいえ。
悲しさ? いいえ。
感動? いいえ。
そのどれもが正しくて、どれも当てはまらない。
本当に、表現しがたい衝動。
72 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/11/17(土) 12:34:41.81 ID:hYXGsH5LO
――私が今 できること それは歌うこと
その通りです。私がそうであり、楓さんがそうであるように。
アイドルであること。私であること。それは、歌うこと。
歌は、私そのものなのです。ですから。
「……!」
悔しさも、悲しさも、感動も、驚きも、全て。
私の中に、あるもの。
私の目に涙があふれてくるのを、感じ取りました。
73 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/11/17(土) 12:35:41.63 ID:hYXGsH5LO
――奏でていく 明日の希望(ひかり)
――願うの 歌うの
歌が、終わろうとしています。
もっと聴いていたい、浸ってしまいたいと思う気持ちと。歌いたい、私の歌を届けたいという気持ちと。
それは、私の歌ですという、渇望と。
そんな私の想いとは裏腹に、彼女はあまりにも、美しく……
歌が終わり。周りが再び、動き始めます。
楓さんはこちらを見つめ、深くお辞儀をしました。そして、私へ歩むと。
「ありがとう」
と、一言。
74 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/11/17(土) 12:36:30.51 ID:hYXGsH5LO
……ああ。
私はその場にしゃがみ込み、顔を伏せます。
楓さんは私の肩に手をかけると、こう言ったのです。
「歌織さん……私は本当に、あなたがうらやましいんです。ですから」
その言葉に顔を上げると、彼女はさらに、こう言うのでした。
「歌ってください……あなたの、歌を」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
75 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/11/17(土) 12:38:55.98 ID:hYXGsH5LO
※ とりあえずここまで ※
速報がしばらく落ちていて、他の掲示板に移動することも考えましたが、やはりここがいいので。
落ちてる間、モチベーションが著しく低下して、しばらく筆を休めておりました。
また、よろしくお願いします。
では ノシ
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/18(日) 06:41:23.71 ID:26H9hpo4o
まってたで!
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/18(日) 21:59:36.22 ID:B7ar1fJao
待ってたぜ
楓さんは不器用…でいいのかな?
78 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/12/27(木) 23:11:48.87 ID:5pCpTt5t0
ぽーん……
ぽーん……
いつかの、ように。
私はピアノの前に座っています。
以前もそうであったように、私は楓さんのことを考えて、こうしてピアノを前に黄昏ているのでした。
どう表現すればいいのでしょう。
楓さんの歌は、最上と言えるものでした。しかし、その紡がれた歌は『ハミングバード』
そして、楓さんから告げられた一言。
歌ってください、と。私の歌を、と……
あの日から、心は乱れたまま。私は私自身を、持て余していたのです。
私の歌を楓さんが歌ってくださったこと、それはとても光栄なことで。
その歌に私は、心を奪われました。
そう思いながらなぜ、私の歌なのですか、と。嫉妬と呼ぶべきものなのでしょうか。
そうかもしれません。
それでも彼女の歌は、あまりに完璧だったのです。
「……」
79 :
◆eBIiXi2191ZO
[saga]:2018/12/27(木) 23:14:50.80 ID:5pCpTt5t0
涙があふれてきます。
なぜ、私は。『楓さんではないのだろう?』
思ったところで、詮方ないことです。私は、彼女ではないのだから。
わかっています。
彼女には、なれない。その事実が、肌に痛い。
私が好きなこと。それは歌うこと。
そのことにおいて、これほど心乱れることは、今までなかったのでした。
私の歌、って? なに?
考えるほどに、苦しくなるのです。
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