【ミリ×デレ】桜守歌織「わたしのうた」

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1 : ◆eBIiXi2191ZO [saga]:2018/05/18(金) 22:33:59.93 ID:O0+7TRfs0

・ミリシタ・桜守歌織さんのSS
・ミリとデレのクロスです
・短い
・ゆっくり書きます
・お久しぶりです


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1526650439
2 : ◆eBIiXi2191ZO [saga]:2018/05/18(金) 22:36:26.77 ID:O0+7TRfs0



「……ありがとうございました」

 赤くともるカメラのサイン。私は、深くお辞儀をしました。
 パチパチと、まばらな拍手の音。
 スタッフさんや共演の方々の視線に見守られ、私はひな壇へと戻るのです。

 ふう。

 テレビの歌番組でこうして歌を届けること。私は、未だ慣れずにいました。
 カメラの前、その先にたくさんのファンの方が待っている。それは理解しています。でも。
 熱気、視線、息遣い。
 それを想像し、自分に落とし込んで、ここで歌い上げることに難しさを感じているのです。
 それでも、多くの歌手の方や同じアイドルが共演している中、私は私の歌を、その先の見えない方々へ届けようとして。
 そして。

3 : ◆eBIiXi2191ZO [saga]:2018/05/18(金) 22:37:26.49 ID:O0+7TRfs0

 今日もまた、届けられたでしょうか。
 次の方のインタビューが、続いています。私の身体は、浮いた感覚を残したまま。
 ひな壇で、時が過ぎます。

「それでは、お聴きください」

 司会の方が曲紹介をします。そしてイントロ。歌が始まりました。
 私は、ぼんやりした視界が急に戻ってくる、そんな錯覚に襲われました。
 それは。

 ああ。
 もし、一目惚れならぬ、「ひと耳惚れ」という言葉があるのなら……
 私はたぶん、その声色に囚われたのでしょう。
 圧倒的ななにかに、私は息をすることも忘れてしまうようでした。

 彼女の名は、高垣楓。
 346プロダクションのアイドルであり、そして。

 シンデレラガール。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇
4 : ◆eBIiXi2191ZO [saga]:2018/05/18(金) 22:39:27.42 ID:O0+7TRfs0



「みなさん、お疲れさまでしたー!!」

 ADの方のお疲れさまでしたの声が、スタジオ内に広がります。
 生放送の本番が終わり、私は楽屋へと戻ります。

「歌織さん」
「あ」

 楽屋に向かう廊下で、私は声をかけられました。

「お疲れさまでした」
「ありがとうございます」

 それは、いつも傍にいてくださる声。プロデューサーさんが私を出迎えてくれました。
 楽屋までの短い時間、私たちふたりは今日の感想を語らいます。

「今日の私の歌、どうでした?」
「ええ、しっかり伝わってました」

5 : ◆eBIiXi2191ZO [saga]:2018/05/18(金) 22:40:27.95 ID:O0+7TRfs0

 プロデューサーさんは「よかった」ではなく「伝わった」と、そうおっしゃいます。その言葉に、私は安堵を覚えるのです。
 私の歌は、画面の向こう側の皆さんのために。それを分かっているからこその「伝わった」
 この上ない賛辞です。

 楽屋に着くと、あるものが目に留まりました。
 ドレッサーの前に、水分補給の飲み物。それも、小さな紙コップに半分ほど。
 一気に水分と取りすぎないようにとの、プロデューサーさんの心遣い。その気持ちがすうっと、私の中に染みとおっていくようです。

「いつも、ありがとうございます」

 心遣いに、感謝を込めて。私は笑顔を贈ります。
 衣装がしわにならないようゆっくりと腰を掛け、まずは飲み物をひと口。そして、もうひと口。
 鏡の中には、安堵の表情の私。
 頑張ったねと心でつぶやき、私はメイクを落とす準備を始めました。

「じゃあ歌織さん、ちょっとスタッフさんに挨拶してきます」
「はい、いってらっしゃい」

6 : ◆eBIiXi2191ZO [saga]:2018/05/18(金) 22:42:24.55 ID:O0+7TRfs0

 プロデューサーさんは私の様子をうかがうと、挨拶まわりに中座するのでした。
 私はコットンにクレンジングを含ませ、肌にあてます。ひやりとした感触。
 先ほどまでの照明の熱さと、スタジオの熱気。
 中てられた熱が洗い落とされるような、そんな気がします。

 ふう。
 ため息を、またひとつ。

 鳴り響く歌を、思い出します。
 その歌が、私の心を締め付けます。上手いとか素晴らしいとか、そんな、簡単に表現できることではなくて。
 なんと言えば、いいのでしょう。意図することなくただ、心を締め付けるのです。
 それは、表現力? 存在感? あるいは?
 いえ。そのどれでもなくて、でも、どれも当てはまって。

 考えるほどに、頭の中がかき混ぜられていくようです。

7 : ◆eBIiXi2191ZO [saga]:2018/05/18(金) 22:43:57.30 ID:O0+7TRfs0

 照明の熱さでひりつく肌に、化粧水を与えて。
 鏡の中の私が、少しずつ変化していきます。
 ええ、そうですね、と。気持ちをリセット。
 そう、私は私のできることを。歌を皆さんに届けることを。それを嬉しく思えばよいのです。
 果たして、それは成功したのですから。

 今日のお仕事はこれで終わり。
 事務所にはまだ、小鳥さんがお仕事をこなしながら、私たちの帰りを待ってくれていることでしょう。
 保湿クリームをつけ、眉を整えれば、いつもの私に。

 これで、よし。
 そろそろ、着替えることにしましょう。

「おつかれさまです」

 ふと。
 背中越しに、声をかけられました。
 それは先ほど、スタジオで聞いた、声。そして心を締め付ける、声。

「あっ」

8 : ◆eBIiXi2191ZO [saga]:2018/05/18(金) 22:45:01.61 ID:O0+7TRfs0

 私は慌てて振り向き、挨拶を返します。

「……高垣さん、おつかれさまです!」

 振り向いた先には、優しげな微笑み。高垣楓さんご本人。
 立ち姿は、高貴なお姫さまのようでした。

「ふふっ、どうぞ。お座りください」
「は、はい……」

 高垣さんは、あわてて立ち上がった私を、席へと促してくださいます。
 かああ、と。恥ずかしさに顔がほてります。

「……桜守、歌織さん、ですよね?」
「……はい」
「素敵な歌でした」
「あ……ありがとう、ございます」
「本当に、素敵でした……私、大好きです」

9 : ◆eBIiXi2191ZO [saga]:2018/05/18(金) 22:45:49.55 ID:O0+7TRfs0

 そうおっしゃる高垣さん。その言葉に私は顔を上げました。
 目の前には先ほどと変わらぬ、柔らかい笑み。

「歌織さん?」
「……はい」
「今日は私この後もお仕事なので、ご挨拶だけですけど」

 私の目に映るは、吸い込まれそうな瞳。
 高垣さんは私に、こう、言葉を残したのです。

「また、お会いしましょう」

 と。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇
10 : ◆eBIiXi2191ZO [saga]:2018/05/18(金) 22:47:12.98 ID:O0+7TRfs0



 ぽーん……
 ピアノの音が、レッスンスタジオに響きます。
 いつものように、星梨花ちゃん達と歌のレッスンを行って。そして。
 私はひとり、スタジオに残ったのです。

 あの歌が。
 高垣さんのあの歌が、今も耳に残ります。

 幼い頃から歌に親しんでいて、もちろん、私などよりはるかに上手な方の歌も、多く耳にしています。
 でも。彼女の歌は。
 言葉では表現し難い、なにか。そう……なにか。
 理由を探す心の澱が、私の中を駆け巡るのです。

 ぽーん……
 指先に感じる鍵盤の重み。
 ぽーん……
 ぽーん……

11 : ◆eBIiXi2191ZO [saga]:2018/05/18(金) 22:48:27.11 ID:O0+7TRfs0

 C(ツェー)の音に促され、私はピアノを弾き始めました。
『ローレライ』 ジルヒャーの曲です。
 小さいころから弾き慣れた曲を、紡いでいきます。
 一音、一音。私は、漂う音に身をゆだねるのでした。

 そして弾き終わると。
 ふう。
 私は、ため息を吐いていました。

 本当に、このところの私はため息ばかり。レッスンもお仕事も、楽しいと思う気持ちは間違いない、のに。
 鍵盤をさまよう、指先。定まらない視線。

「あら? 歌織ちゃん?」
「……あ」

 ふと、顔を上げると。

「……このみさん」

 このみさんがレッスンスタジオへ入ってきたのでした。

12 : ◆eBIiXi2191ZO [saga]:2018/05/18(金) 22:49:23.59 ID:O0+7TRfs0

「どうしたの? そんな浮かない顔して」
「……え」

 ふいにこのみさんから出た言葉に、私は戸惑います。

「……あの、私。そんな顔、してました?」
「ええ、そりゃあもう。ね」

 このみさんはそばにあった椅子を持つと、にこりと微笑んで私のとなりへやってきました。

「なにか、悩みごと?」
「いえ……そんなんじゃなくて」
「ふーん……」

 椅子にまたがるように座り、このみさんは私の顔を伺います。

「ひょっとして」
「……」
「楓ちゃん……かな?」

13 : ◆eBIiXi2191ZO [saga]:2018/05/18(金) 22:50:21.64 ID:O0+7TRfs0

 え?
 驚く私に、このみさんはくすりと笑います。

「んふふ、そっか……図星ね」
「……あ、あの」
「ん?」
「このみさん、高垣さんのことご存じなんですか?」

 そう私が尋ねると、このみさんはからからと笑いました。

「まあそりゃあ、ね。彼女、私のお友達だし」
「……」
「楓ちゃん、すごいわよねえ」

14 : ◆eBIiXi2191ZO [saga]:2018/05/18(金) 22:51:10.21 ID:O0+7TRfs0

 このみさんは、語り始めます――

 楓ちゃん、あのとおり美人だし歌もうまいし、そんでもって気さくだし飾らないし。
 人気になるのもわかるわね。
 なるほど、シンデレラガールに、なるべくしてなったなあって、感じ。でも。

「セクシーなら私に敵わないけどね!」 このみさんはそう言って笑いました。

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