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ライラ「夕焼けはソーダの味がする」
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1 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:32:30.22 ID:aw+Q2owr0
モバマスよりライラさんのSSです。
独自解釈、ファンタジー要素などありますためご注意ください。
(※番外編的エピソードなので、本作単体でもお楽しみ頂けます)
前作です↓
小日向美穂「アホ毛が無いっ!!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1526048861/
最初のです↓
小日向美穂「こひなたぬき」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1508431385/
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1526056349
2 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:34:32.65 ID:aw+Q2owr0
そのアパートは四畳半一間の木造モルタル、風呂なしトイレ共同の築ざっと半世紀。
唯一の自慢は都心にもかかわらず家賃が四桁台という安さ一点突破ぶりで、
平成も終わるご時世によくまあ生き残っていたと思うほどのまさに「建つ骨董品」。
――というのが、おおかたの評となりましょう。
一体どこのどなたが管理しているものか存じ上げませぬが、大層オンボロで住民ゼロにも関わらず、
「入居者募集」の看板を今なおしぶとく掲げておられます。
今にも崩れそうなその佇まいは、住宅街の一角で道祖神のように半ば風景と一体化しておりました。
掲示される家賃の数字は下がる一方で、近頃はついに水道光熱費の合計をも下回りそうになる始末。
ただ古いだけならまだしも、どうしてそこまで値下がりを続けるのかと申せば――――
3 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:35:45.12 ID:aw+Q2owr0
???「デル、でございますか?」
不動産屋「そうなんだよお客さん。あのね、もちろんおたくの懐事情も十分承知してますよ」
不動産屋「けどねぇ、何も知らない外人さんにそんな胡乱なとこ押し付けるのも騙すみたいでアレじゃない」
???「ほぉー……」
不動産屋「ぶっちゃけ、悪いこと言わないからもっとマシなとこにした方がよろしい。安かろう悪かろうにも限度がありますわな」
???「ですがわたくし、ここよりお高いところのお家賃は、お出しできないでございますです」
不動産屋「それだったらほら、都下のベッドタウンとか、ちょっと離れれば相場の低いとこは幾らでもあるわけだし」
???「もっとお安いおうちはありますですか?」
不動産屋「それは…………ちょっと無いと思うけど」
不動産屋「…………本当にいいのかい?」
ライラ「はいー。ライラさんは、ここに決めましたですよー」
ライラ「――ところで、『デル』ってなんでございますですか?」
4 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:36:55.14 ID:aw+Q2owr0
雨が降れば雫が漏れる。
風が吹けば屋根ごと軋む。
火でも付いたらたちまち黒焦げに違いなく、耐震性など言うも愚か。
極めつけに、夜が来たら女性が泣くのです。
5 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:37:55.55 ID:aw+Q2owr0
メイド「お嬢様……」
ライラ「おー、セ…………メイドさん、でございますね?」
メイド「はい。私のことはここではただ、メイド、とお呼びくださいでございます」
メイド「申し訳ございませんです。このような場所しかご用意できず……」
ライラ「そんなことはー。ええと、このような時は……気にすんな? でございますか?」
メイド「ええ、とっても日本語がお上手でございますです!」
ライラ「うふふ。メイドさんにたくさん教えてもらいましたですからー」フンス
メイド「それではお嬢様、私は追っ手に対処するでございますゆえ」スチャッ!
ライラ「おぉー。お気を付けるのでございますよー」
メイド「抜かりはありませんです。お嬢様はご安心してお休みなさいませ!」シュババッ
ライラ「いってらっしゃいませー」
6 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:38:50.52 ID:aw+Q2owr0
「うぅっ……」
「うっ、うっ、ううっ」
「うぅううぅ〜〜……っ」
「……? どなたか、いらっしゃいますですか?」
扉を開けても、外に人影は無く。
ひょうひょうと吹く夜風が、声に聞こえたものでしょうか。
さにあらず。
声は確かに悲しみを乗せ、涙に濡れて響きます。
一室以外はがらんどうのアパートに、他の誰もおりますまいに。
7 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:39:41.34 ID:aw+Q2owr0
何故に泣いておられるものか。
声だけ聞こえたとて、どうともしようがなく。
尽きせぬ夜泣きの調べと共に、今は眠るほかないのです。
ああ、成る程。
デルとは日本語で「何やら不思議なことが起こる」という意味なのですね。
まどろみの中にあって、ただ納得するのでした。
8 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:40:14.21 ID:aw+Q2owr0
――ねぇ、聞きました? あの幽霊屋敷に、誰かが住み着いたんですって。
――聞いた聞いた。やだねぇ、ただでさえ縁起の悪い場所だってのに。
――きっとまたろくなことにならないと思うわよ。
――そうよねぇ。だって、あそこには――――
9 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:42:44.19 ID:aw+Q2owr0
とにもかくにも、極東に根を下ろした身の上。
着の身着のままの来日ゆえ、足りぬものも数多くございます。
とりわけ、食べもの。
それと日本のお金。
メイドさんの蓄えもございますが、あまり頼るわけには参りません。
幸い近所に商店街がありましたため、どこかお手伝いできる場所がありますまいかと、てろてろと巡るのでした。
「帰(けえ)ってくれ」
がらがらぴしゃんっ。
けんもほろろ、とはこのことでしょうか。
お弁当屋さんは一目見るなり、きっぱり扉を閉じてしまいました。
10 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:44:36.99 ID:aw+Q2owr0
はてさて、何か無礼なことでもしてしまったのでしょうか?
考えてもさっぱり。なにぶん遠い異国の地なものですから、異邦人にはわからぬ符丁や作法があるのやも。
とはいえ誠実なることは、言葉ならず態度にて示せるというもの。
たとえ砕けるにしても、まずは当たらねば道は拓けますまい。
そう決意して商店街を巡りに巡り――
「間に合ってるよ」
「うちでは募集してません」
「残念です」
「あんた引っ越した方がいいよ」
これがまた、全て玉と砕けた次第でございますな。
11 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:45:33.14 ID:aw+Q2owr0
ライラ「おー……」
ライラ「お仕事、できないでございますねー」
ライラ「これでは、ごはんが食べられないでございます……」
カー カー
ライラ「夕焼け、まっかっか……」
ライラ「カレーの匂いがしてきますです……」
ライラ「公園の鳩さんは、ごはんがあるでございますか?」
ライラ「……おなかがすいてしまったですねー」
???「ねえ」
12 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:46:27.26 ID:aw+Q2owr0
ライラ「はいー……?」
女の子「あの、さっきはごめんね。お店に来てくれた子でしょ?」
ライラ「?」
女の子「ああ……その。あたし、商店街の弁当屋の子なの」
女の子「信じらんないよね。お父さんてば、なんにも言わずに追い返したんでしょ?」
ライラ「ああー……それはきっと、わたくしが何か無礼を働いたものかとー」
女の子「そんなことない。余所者で色々面倒だからってあんなことしたんだよきっと」
ライラ「おー」
女の子「それでね。余計なお世話かもしんないけど……」ガサガサ
女の子「お弁当。あ、廃棄とかじゃなくて、あたしがお小遣いでちゃんと買った奴だよ」
ライラ「!!」
女の子「どうかな? 気にしないで、奢りってことでいいから」
ライラ「い、い、いいのでございますですか?」
13 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:47:07.09 ID:aw+Q2owr0
女の子「――――そっか、ドバイから……。……あれ、ドバイってどこらへんだっけ」
ライラ「もぐもぐもぐ、んぐんぐ、ふぉの、ふっほ」
女の子「あ、いいよいいよゆっくり食べて」
ライラ「ごっくん。……ふー、ごちそうさまでございますです」
女の子「? まだ半分残ってるよ?」
ライラ「これは、わたくしのメイドさんの分ですねー。二人で来たのでございます」
女の子「あ、じゃあもう一つ買っとけば良かったね」
ライラ「よいのでございますよー。とっても幸せでございます」
女の子「そう? ――あ、それじゃこれもどうぞ。溶ける前に食べちゃって」
ライラ「? これはー……?」
女の子「ソーダアイス知らない? そのまま齧っていいよ」
ライラ「なるほどー……しゃくっ」
ライラ「!!!」
ライラ「おぉおぉお……!? しゅわしゅわで、甘くて……!?」
女の子「気に入ってくれた? なら良かった!」
14 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:48:10.32 ID:aw+Q2owr0
女の子「だけど、ごめんね。お父さん達のこと」
ライラ「どうして謝るのでございます?」
女の子「だってせっかく遠くから来たのに、あんな態度でさ」
ライラ「それは……良くないことでございますか?」
女の子「そうだよ! 下町人情なんて嘘っぱち! 結局みんな身内にしか優しくないんだから」
ライラ「おぉ……わたくしは、それもよいことと思いますです」
ライラ「みなさま、家族を守っていますです。お身内が一番というのは、当たり前でございますねー」
女の子「怒ってないの?」
ライラ「怒ることなんて、ありませんですねー。立派なひとたちでございます」
女の子「……ふふ、優しいんだね。ごめんね。あと、ありがと」
女の子「でも……あのアパートを引っ越した方がいいっていうのは、ほんとだと思うの」
ライラ「?」
15 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:48:56.52 ID:aw+Q2owr0
その子は、件のボロアパートについて教えてくださいました。
デルとは、幽霊(シャバハ)が現れるということだそうなのです。
なんでも、元々ずっと前にそのアパートで暮らしていた女性なのだとか。
なにかとても哀しいことがありまして、その御方は、生きてゆくのに疲れたと申します。
それで、真っ赤っかな夕間暮れの刻に、御自身で命を。
今や何号室であったのかは定かではございません。
ただその御方の魂は今でもあそこに囚われ、一人寂しく泣いておられます。
16 :
◆DAC.3Z2hLk
[saga]:2018/05/12(土) 01:49:48.01 ID:aw+Q2owr0
アパートに越してきた方々は、以前にも幾人かおられたそうな。
しかし彼らはどうしたことか、お体やお心を病み、皆すぐに出て行ってしまいました。
このアパートが「デル」危ない場所だと知れ渡るに十分な出来事でございましょう。
となれば、新たに入った異国の小娘などは、存在自体が恐怖なのやも知れませぬ。
お化け屋敷に住む者もまた、お化けの仲間に違いないと。
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