花丸「恋の魔力」

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95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:41:31.62 ID:Kzn9sCI40
   ※

 

 デート当日。

 電車に揺られ、無事にたどり着いた遊園地。


花丸「わぁ、凄いねぇ」

曜「あはは、ごめんね、TDLとかUSJじゃなくて」

花丸「ううん、マルはこういう場所の方が好きだよ」

 それなりに賑わっているけど、人が多すぎることはない。

 鮮やかに彩られたアトラクション、楽しそうに響く笑い声。

 日常と非日常の境目にあるような空間に、不思議と心が躍る。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:42:56.10 ID:Kzn9sCI40
曜「花丸ちゃん、遊園地に来たのは初めて?」

花丸「なんで?」

曜「いや、何となくそんなイメージが」

花丸「一応、中学の時に一度、ルビィちゃんと一緒に行ったよ」

曜「そうなんだ」

花丸「でもその時は2人とも慣れない場所でパニックになって、あんまり楽しめなくて」

曜「あー、人見知りちゃんだし?」

花丸「否定はしないずら……」

 田舎の中学生2人ではなかなか厳しいシチュエーションだったと、心の中では言い訳しておこう。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:48:39.70 ID:Kzn9sCI40
曜「そんな感じなら、私が主導でいいかな」

花丸「そうだね、その方が助かるかも」

曜「今日は天気が崩れるかもしれないって予報だよね」

花丸「うん、朝の天気予報だとそうだったよ」

曜「ならとりあえず、最初に定番のところを回っちゃおうか」

花丸「定番?」


曜「もちろん、ジェットコースター!」

花丸「へっ」

曜「今回の目的の一部はこれだからね! 最低3回は乗らないと!」

花丸「いや、流石に三回はちょっと――」

曜「いいから、行くよ!」

花丸「よ、曜ちゃん〜」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:50:49.54 ID:Kzn9sCI40
―――
――



曜「いやぁ、満足〜」

花丸「ひ、酷い目にあったずら……」

 言葉通り満足げな曜ちゃんと対照的なマル。

 抵抗もむなしく、結局複数のジェットコースターに、数回ずつ乗る羽目になった。

 おかげですっかり疲れ切って、ベンチでダウンしてる。


曜「おーい、こっち向いて」

花丸「ふぇ」


 カシャリ


 響くシャッター音と、したり顔の曜ちゃん。

曜「よし、弱った可愛い姿を撮る計画も完了!」

花丸「そんな計画も立ててたんだね……」

 たぶん文句を言うべきところだけど、その元気もない。
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 00:49:33.05 ID:E7bAYQzi0
曜「こういうアトラクションに乗るの、初めてだっけ」

花丸「うん、ルビィちゃんと来たときは、結局メリーゴーランドやコーヒーカップしか乗ってなくて」

 最初はジェットコースターにも乗ろうと思っていたけど、ルビィちゃんが他の人の悲鳴で怖がって止めちゃった思い出。

 結局、身長制限に引っかかる小学生みたいな遊び方をしたっけ。

 それはそれで、とても楽しい時間だった気がするけど。


曜「ふーむ、なら私たちもその辺に乗ってみようか」

花丸「えっ、でも流石に高校生になって恥ずかしいような……」

曜「中学生も高校生も変わらないよ、ほら!」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 00:51:14.43 ID:E7bAYQzi0
花丸「結構高さあるね」

曜「だね、子どもだとなかなかのスリルかも」

 受付のお姉さんの視線が気になりながらも、結局引っ張られて乗ることに。


『それでは発車します』


 お姉さんの合図とともに、回りだす馬。

曜「あはは、揺れてるね〜」

花丸「そうだね」

曜「あっ、あそこで子どもが見てるよ――おーい」

花丸「ちょ、ちょっと、恥ずかしいよ」

 だけど子どもも楽しそうに手を振り返してくれてる。

 こういう場所では恥とか考えたら駄目なのかな。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 00:52:52.68 ID:E7bAYQzi0
曜「ほら、花丸ちゃんも振ってみなよ」

花丸「う、うん」

 でも曜ちゃん、子どもみたいにはしゃぎながらも、白馬に跨る姿は、流石に様になっている。

 やっぱり格好いいなぁ、地味なマルとは大違い。

 まさに王子様って感じで、ますます好きになっちゃう。


『終了です、降りる時は転ばないように注意してください』


 そんな風に見惚れている内に、遊具は動きを止める。

曜「だってさ――よっと」

 アナウンスに逆行するように、馬から飛び降りる曜ちゃん。
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/13(日) 01:00:58.38 ID:E7bAYQzi0
花丸「駄目だよ、ゆっくり降りないと」

曜「まあいいじゃん、子どもじゃないんだし」

 そう言いながら、差し出される手。


花丸「……マルも子どもじゃないんだけど」

曜「そうだね、私のお姫様だもの」

花丸「お姫様――」


 お姫様って、そんな子どもやお姉さんが見ている前で。

 でもここで拒否しちゃうのも勿体ないから、大人しく曜ちゃんの手を借りて馬から降りる。

 恥ずかしい、でも曜ちゃんがマルのことを大切にしてくれているみたいで、嬉しかった。
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:09:43.54 ID:E7bAYQzi0

曜「あー、楽しかったね」

花丸「そうだね――ん?」

 メリーゴーランドを出ると、盛り上がってきた気持ちを妨げるように、顔にポツリと当たる雨粒。

曜「ありゃ、降ってきちゃったか」

花丸「予報だともう少し持つはずだったのに」

曜「とりあえず一度、濡れない場所に入ろう」

花丸「うん」




曜「あーあ、だいぶ雨が強くなっちゃったね」

 徐々に強くなる雨、とりあえず急いで近くの施設の屋根の下へ。

 一息つくと、雨はすっかり大降りになっていた。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:11:33.35 ID:E7bAYQzi0
曜「どうしよう、もう帰る?」

花丸「せっかくだから、屋内の施設を見て回ろうよ、雨も止むかもしれないし」

曜「そりゃそうだよね、このままだと――」

 曜ちゃんが突然、言葉を詰まらせてマルの後ろを凝視する。

 マルもそれに倣って後ろを向くと、見覚えのある顔が見えた。


ダイヤ「あら、花丸さん」

花丸「ダイヤさん?」

ダイヤ「珍しいですね、こんなところで会うなんて」

花丸「あの、何でここに」

ダイヤ「私は遊びに来たんですよ、ね、ルビィ」

ルビィ「……」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:13:05.43 ID:E7bAYQzi0
 そこにはダイヤさんと一緒のルビィちゃんの姿。

 何で、こんなタイミング悪く鉢合わせに。


ダイヤ「花丸さんは曜さんと2人で来たんですか」

花丸「う、うん」

ルビィ「マルちゃん、何でここにいるの」

花丸「えっと、その」


 ルビィちゃんには曜ちゃんとの関係は内緒

 でもこの状態、曜ちゃんとの元々の関係を考えれば言い逃れは難しい。

 そもそも今までの行動を見られていたら、どうやって説明したら――


曜「デートだよ」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:17:09.93 ID:E7bAYQzi0
ダイヤ「はい?」

花丸「ちょ、曜ちゃん」

曜「2人でデートしにきたんだよ」

 マルの悩みなんて気にもせず、はっきりと告げる。

 まるでその事を強調するみたいに。


ダイヤ「デート?」

 怪訝そうな顔をするダイヤさん。

 そっか、この人は女の子二人でデートって発想にはならないんだね。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:22:43.86 ID:E7bAYQzi0
ルビィ「それ、本当なの」

 でもルビィちゃんは違う。

 その意味をしっかりと理解している。


曜「もちろんだよね、花丸ちゃん」

花丸「うん……」

 ここまで来たら隠せない。

 下手に誤魔化しても逆効果だ。


ルビィ「付き合ってたんだ、2人は」

曜「うん、ずっと前からね」

ルビィ「っ――」


ダイヤ「あっ、ルビィ!」

 曜ちゃんの言葉に、ダイヤさんの静止も聞かず、雨の中へ駆け出していくルビィちゃん。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:27:14.33 ID:E7bAYQzi0
ダイヤ「どうしたのかしら、傘も持たずに」
 

曜「追いかけなよ、花丸ちゃん」

花丸「でも、今は――」

曜「いいから、あのままだとマズいよ」

花丸「わ、分かった」

 そうだよね、いくらデート中だからって、様子がおかしい親友を放っておくわけにはいかない。


曜「これ、ルビィちゃんに渡してあげて」

 鞄から折り畳み傘を取り出し、渡してくれる。

花丸「ありがとう」

曜「何があったのか、ちゃんと話してきなよ、時間かかっても待ってるから」

花丸「うん」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:36:40.15 ID:E7bAYQzi0
 園内を走り回り、ようやくルビィちゃんを見つけ出したのは、さっきまで曜ちゃんと乗っていたメリーゴーランドの傍。


花丸「ルビィちゃん……」

ルビィ「マルちゃん……」

 すっかりびしょ濡れになっているルビィちゃん。

 近づくと、驚いたような表情を見せる。

 マルが来るとは、まるで想像もしていなかったような。


ルビィ「なんで、来てくれたの」

花丸「その、曜ちゃんに言われて」

ルビィ「……あぁ、そういうこと」

花丸「追いかけていいのか分からなかったけど、心配だったから」

ルビィ「……うん」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:40:12.03 ID:E7bAYQzi0
花丸「この傘、使う?」

ルビィ「いい、ちょっと濡れてたいの」

花丸「……そっか」

 でもそんなわけにもいかないので、自分の傘の中にくっつくようにしてルビィちゃんを入れる。

ルビィ「……ありがとう、マルちゃん」

花丸「うん」



「「…………」」



 無言で、降りしきる雨を眺める。

 ルビィちゃんはただうつむいて、地面を見ている。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/13(日) 01:48:22.04 ID:E7bAYQzi0
花丸「どうして、急に飛び出したの」

花丸「マル、何かルビィちゃんの気に障るようなことを言っちゃったの?」

ルビィ「……違うよ、ルビィが勝手にショックを受けただけ」

花丸「ショック?」


ルビィ「チケットを二枚買ったんだ、友達と二人で、遊園地へ行こうと思って」

ルビィ「本当は今日ね、お姉ちゃんじゃなくて、その子とここに来るつもりだったの」

ルビィ「でもね、断られちゃったの。ううん、厳密には誘えなかった」


『そういえばマルちゃん、今度――』


花丸「あっ……」

 あの時だ、練習終わりの、曜ちゃんに呼ばれた時。

 そこで誘うつもりだったんだ、マルのことを。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:51:07.95 ID:E7bAYQzi0
花丸「ごめん……」

ルビィ「ううん、ルビィの方こそごめんね」

ルビィ「知らなかったの。マルちゃんが曜ちゃんと付き合ってるなんて」

花丸「ルビィちゃんの所為じゃないよ、言わなかったマルの所為」
 
 知らないルビィちゃんからしたら、裏切られたような気分だっただろう。

 
ルビィ「ねえ、なんでルビィにその事を隠したの」

花丸「それは、善子ちゃんに言われて」

ルビィ「そっか、善子ちゃんが気を遣ってくれたんだ」

花丸「うん、自分だけ恋人がいないって知ったら、悲しむかもと思って」


ルビィ「……違うよ、そんな理由じゃない」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:55:22.52 ID:E7bAYQzi0
花丸「でも、それ以外には」

ルビィ「察し悪いなぁ、でもずっと気づいてくれなかったマルちゃんらしいか」


 どういうこと。

 それ以外、理由なんて――


ルビィ「ルビィね、花丸ちゃんのことが好きなの」


花丸「えっ」


ルビィ「花丸ちゃんのことを、ずっと前から愛してた」

ルビィ「だから曜ちゃんとデートしてる所を見て傷ついた」

ルビィ「善子ちゃんはそれを知ってるから、曜ちゃんとの関係をルビィに隠そうとした」

ルビィ「ただ、それだけのことだよ」

 
 これは、告白?

 いや、疑問を持つことすらおかしい、正真正銘のそれ。

 ルビィちゃんから、マルへの告白。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:59:49.67 ID:E7bAYQzi0
花丸「そう、だったんだ」

 駄目だ、いま必要なのはそんな言葉じゃない。

 でも、でも、何も出てこない、脳の機能が停止している。


ルビィ「返事はいいよ、分かってるから」

花丸「でも――」

ルビィ「ごめん、しばらく関わらないで」

 走り去っていくルビィちゃん。

 遅れて追おうとした時には、もう姿は見えなくなって。


花丸「待って、ルビィちゃん!」

 方角だけを頼りに、必死に追いかける。

 でもいくら走っても、ルビィちゃんの姿を目にすることはできない。


花丸「……マルの、馬鹿」

 残ったのは、渡すはずだった曜ちゃんの傘だけだった。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:03:31.07 ID:E7bAYQzi0
―――
――



 雨宿りしていた場所に戻ると、そこにはちゃんと曜ちゃんが待っていてくれた。

曜「おかえり」

花丸「……」

曜「どうだった、ルビィちゃん」

花丸「…………」

 曜ちゃんの顔を見ると、泣きそうになる。

 でも泣く資格なんてないからと必死に耐えるせいで、言葉が出ない。


曜「その様子だと、駄目だったみたいだね」

 近づいて、抱きしめてくれようとする。

 でもマルは、その大好きな人の手を振りほどく。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:06:39.23 ID:E7bAYQzi0
花丸「ルビィちゃん、マルのこと好きだったんだって」

曜「……そっか」


花丸「マルね、ルビィちゃんを傷つけた」

花丸「きっと、いくらでも気づく機会はあったのに、見ないふりをして」


 知らなかったなんて言い訳。

 思い返せば、いくらでもそれを知らせる行動はあった。

 それなのに、勝手にルビィちゃんは自分と同じ考えだと決めつけて。


 最悪だ、マルはなんて自分勝手な人間なんだ。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:08:32.74 ID:E7bAYQzi0
曜「花丸ちゃんはルビィちゃんが好きなんだよね」

花丸「……うん」

曜「もしもさ、私より先に告白されたら、付き合っていたと思う?」

花丸「……そうだね」

 きっと、凄く悩んで、考えるだろう。

 でも最終的に、ルビィちゃんから気持ちを伝えられれば、それを受け入れていたと思う。



曜「……ねえ、観覧車に乗らない?」

花丸「観覧車?」

 何で、この状況で。


曜「話さなきゃいけないことがあるんだ、私も」
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:16:01.67 ID:E7bAYQzi0
―――
――



 雨が降りしきる中での観覧車。

 物語のデート中に出てくるシチュエーションとは、全然違う、薄暗い空間。


曜「さて、と」

 頂上へ向けて登っていく中、曜ちゃんはゆっくりと口を開き始める。

曜「ごめんね、花丸ちゃん」

曜「実は私、隠していたことがたくさんある」

曜「それを全部、正直に話すよ」


花丸「曜ちゃん……」

 口ぶりと状況を考えれば、歓迎できる話なのは察することは容易だ。

 聞きたくなかった、でもこの場所では、どこにも逃げることはできない。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:18:58.88 ID:E7bAYQzi0


曜「私ね、一番好きな人は花丸ちゃんと別にいるんだ」


 単刀直入に放たれた、衝撃的な曜ちゃんの言葉。

花丸「そっか……」

 でも不思議と、それを動揺することなく受け止めることができた。


 心のどこかで理解してはいたんだ。

 強く自覚するべきだった、告白された時か、その直後に。

 曜ちゃんが求めていたのは、マルじゃないと。


 でもルビィちゃんの気持ちから逃げていたのと同じ。

 そこに踏み込むのを恐れて、逃げてしまった。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:26:56.28 ID:E7bAYQzi0
曜「私が好きな人、千歌ちゃんなんだ」


 驚くことはない。

 自分の事を好きじゃないと分かった時点で、その名前が出てくるのは自然な事。


曜「ずっとずっと、小さい頃から千歌ちゃんが好きだった」

曜「他の人から告白されることはそれなりにあったけど、全部断ってきた」

曜「私の恋人は、千歌ちゃん以外に考えられなかったから」


曜「でも千歌ちゃんね、とある人と付き合い始めたの」

曜「その人は私もよく知ってる、素敵な人」

曜「とても頼りになって、千歌ちゃんにとって、私より数倍魅力的な人」

曜「千歌ちゃんは昔からその人と仲良しで、信頼しあってる」

曜「だから悟ったの、私が千歌ちゃんを手に入れるのは不可能だって」
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:32:31.69 ID:E7bAYQzi0
曜「だけど頭では理解しても、心は違う、千歌ちゃんから離れてくれない」

曜「その板挟みが、苦しくて、耐えられなかった」

曜「だからそれを誤魔化すために、他の癒しを求めた」


曜「花丸ちゃんと付き合う少し前の時期ね、恋人をとっかえひっかえしてたの」

曜「告白されたら、とりあえず受け入れて、楽しんで。面倒になったらすぐに別れて」

曜「それは全部、千歌ちゃんのことを考えないようにするため」


花丸「…………」


曜「花丸ちゃんも、例外じゃない」

曜「あの時も、誰でも良かったんだよ」

曜「水泳部の後輩と喧嘩別れした後、たまたま通りかかった教室に、花丸ちゃんが居ただけ」
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:34:30.69 ID:E7bAYQzi0
曜「ほかの人とは違って、特別だったけどね」

曜「だって千歌ちゃんの大切な、Aqoursの仲間なんだから」


 やっぱり、クラスメイトの子とも付き合っていたんだ。

 この様子だと曜ちゃんは、違和感を覚えた相手に尋ねられたら、こうやって話してるんだろうな。


 そりゃ、みんな別れるよね。

 曜ちゃんの行為は最低だ。

 水泳部を辞めなきゃいけないぐらい揉めても、仕方ないこと。

 むしろ今まで、刺されていないのが奇跡。

 本当に最低最悪、なんて酷い女たらし。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:36:35.58 ID:E7bAYQzi0
曜「私たち、別れよう」


曜「別れて、花丸ちゃんはルビィちゃんの元へ行ってあげて」

曜「きっと二人はお互いの事が好きになれるから」

曜「恋をするなら、もっと健全な相手としなよ」

曜「私みたいな、最低の相手じゃなくてさ」


 別れよう、か。

 マルだって、ショックだよ。

 曜ちゃんの言うとおり、別れるのが正しいと思う。


花丸「……遅いよ、もう」

 でも無理だよ。

 今さら、告白される前には戻れない。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:40:50.32 ID:E7bAYQzi0
花丸「そんなことを言われても、遅いよ」

花丸「告白された直後だったら、すんなり別れていたかもしれない」

花丸「でもね、マルはもう曜ちゃんのことが大好きになっちゃったから」

花丸「世界で一番、他の誰よりも、曜ちゃんのことが」

花丸「どんな酷いことをされても、別れられないぐらい」
 

曜「…………」

 マルの言葉に、曜ちゃんはポカンと口を開けて呆然としてしまう。

 曜ちゃんのイメージからはかけ離れた、まさに間抜け面。


花丸「今の言葉の意味、分かるよね」

曜「……これは予想外だよ、変わってるね、花丸ちゃんは」

花丸「曜ちゃんよりはマシだよ」

曜「ははっ、それもそうか」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 02:46:36.58 ID:D71cD55SO
なんっつってなヨーソロー
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:50:43.45 ID:E7bAYQzi0
曜「一番は、千歌ちゃんだよ」

花丸「それでもいいよ」

曜「きっともう、ルビィちゃんとは以前のような関係に戻れないよ」

花丸「分かってる」

曜「私はきっと、たくさん迷惑をかける」

花丸「大丈夫、全部受け入れるから」

曜「後悔しても、知らないからね」

花丸「しないよ、後悔なんて」



 安定しないゴンドラを叩く雨音、鈍く明かりの見える夜景。

 それらはまるで行く末を暗示し、警告を与えているようで。


 でももう、そんなことは関係なかった。


 例え先にどんな道が待っているとしても、この人からは、恋の魔力からは逃れられないから。

127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:53:21.19 ID:E7bAYQzi0
予定より投稿が遅れてすいません
待ってくださった方ありがとうございます

明日までには完結させたいと思っています
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/13(日) 03:00:09.89 ID:eyJXwyhA0
待ってます!期待
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 00:54:09.61 ID:l8lGRxzr0
  ☆



 9月になり、新学期に入った。


 ルビィちゃんとマル、曜ちゃんと千歌ちゃん。

 その関係は、何も変わっていない。

 歪な関係のまま、Aqoursの活動は続いている。


 実質的に決まってしまった廃校。

 それを阻止しようという目標が全員を一つにまとめ、回避という行動を抑制する鎖となっているから。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 00:55:51.76 ID:l8lGRxzr0


善子「ルビィ、帰りましょう」

ルビィ「うん」

善子「今日はどこに行こうかしら」

ルビィ「やっぱり梨子ちゃんのおうち?」
 

 教室ではずっと、ひとりぼっち。


 遊園地での出来事、マルは善子ちゃんに全部話した。

 それ以降、善子ちゃんはずっとルビィちゃんと2人でいる。

 きっと気に病んでいるんだ、自分がルビィちゃんを傷つける一因を担ってしまったことを。

 でもルビィちゃんも善子ちゃんと梨子ちゃんの中を邪魔したくないと、最近はずっと、その3人で遊んでいるみたい。

 まるで姉妹みたいで微笑ましいと、何も知らないダイヤさんが話してくれた。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 00:58:13.44 ID:l8lGRxzr0

 彼女はそこに、マルがいないことに違和感を持っていないみたい。

 それも仕方ないこと。

 遊園地の件を考えれば、ルビィちゃんより、曜ちゃんを優先していると思われても仕方がないから。


 善子ちゃんはルビィちゃんと一緒にいる。

 ルビィちゃんはマルを避ける。

 その状況で弾きだされるのは誰か、考えるまでもない。


 他に友達のいないマルの居場所は、どこにもない。

 残った居場所は、Aqoursと、曜ちゃんの横だけだった。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:00:34.99 ID:l8lGRxzr0
  ※



曜「…………」

 図書室の椅子に座りながらぐったりとしている曜ちゃん。


花丸「大丈夫?」

曜「……駄目、無理」

 時間の経過とともに、曜ちゃんはさらに不安定になってしまった。


曜「昨日もね、千歌ちゃんが楽しそうに惚気てきたんだ、恋人との関係」

曜「私は心の中では歯ぎしりしながら、笑顔でそれに相槌をうつ」

曜「心が悲鳴をあげてる、止めて、止めてと」

曜「それでも私は、止められなくて」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:02:27.54 ID:l8lGRxzr0
 話しかけてくるわけでもなく、ブツブツとほとんど独り言のようにつぶやく。

 マルの力が足りないから、曜ちゃんはずっとこのまま。

 千歌ちゃんと恋人の関係が深まるにつれて、苦しみを増している。


 曜ちゃんの気を紛らわす方法はたくさん考えた。

 色々な場所に遊びに行く、スポーツで汗を流す、やけ食いみたいなこともした。

 それでも全然効果がない。


 だから最終的には、性的な行為も提案した。

 でも曜ちゃんはそれを拒否した。

 理由は『下手そうだから』だって、酷いよね。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:04:38.67 ID:l8lGRxzr0
曜「千歌ちゃん、わざとやってるのかな」

曜「わたしの気持ちを知って、苦しむのを楽しむために、わざと」

曜「それで楽しんでくれているなら、千歌ちゃんの為になっている?」

曜「でも私は苦しくて――あれ、私は何をしたいのかな」

 頭を抱え、髪を掻き毟る。

 その姿は、ほとんど狂人のようで。


花丸「落ち着いて。千歌ちゃんはそんなこと――」

曜「うるさいな! そんなこと言って、私の気持ちなんて分からない癖に!」

花丸「ご、ごめんなさい……」

 最近の曜ちゃんは、余裕がないことが多い。

 こうやって怒鳴られることは日常茶飯事になってる。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:05:38.71 ID:l8lGRxzr0
曜「……ごめん、ちょっと頭を冷やしてくる」

 鞄を持って、図書室を出ていく。

 ちょっとと言いながら、今日は戻ってこないんだろうな。
 

 遊園地の件の後、曜ちゃんはマルに気を遣わなくなった。

 平気でキツイことを言ってくるし、手が出そうになることもある。

 やさしい人に囲まれて育ってきたマルには、それが結構辛いの。


 だけどそれは、心を許してくれた証。

 曜ちゃんが他人には絶対に見せない部分。

 それを晒すほど、信頼されているという事実は素直に嬉しかった。
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:08:50.43 ID:l8lGRxzr0
 そしてどんなに辛くても、弱音を吐くわけにはいかない。

 マルが助けてあげないと、曜ちゃんは壊れてしまうもの。

 
 それにね、冷静になった曜ちゃんはやさしいんだ。

 本を数ページ読んでから、曜ちゃんに薦められて買ったスマホの電源を入れる。

 そして、曜ちゃん相手にしか使わないSNSアプリを開く。

 そこには予想通り、メッセージが届いていた



『怒鳴ってごめんね』

『お詫びに今度の日曜日、デートしない?』
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:10:35.64 ID:l8lGRxzr0
   ※



曜「さっきのショー、凄かったよね」

花丸「うん!」

 デート当日。

 水族館で魚のショーを楽しんだ後、松月でお茶をしながら、二人で笑顔を浮かべる。


花丸「あのイルカさん、あんなに高く跳ぶなんてビックリしたよ」

曜「私も何度かバイトしたり、遊びに行ったりしてるけど、あそこまでの高さは始めて見たかも!」

 興奮気味に話す曜ちゃん。

 飛び込みの選手として、どこかシンパシーを感じたりしているのかな。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:13:36.60 ID:l8lGRxzr0
 こんなに楽しそうな曜ちゃんは久しぶり。

 水族館へ行くことを提案したのはマルだった。

 行き慣れた場所だから心配だったけど、上手くいってよかった。


曜「この後は花丸ちゃんの家に行っていいんだっけ」

花丸「うん、そうだよ」

 家族はみんな、都合よく用事で家を空けている。

 ただでさえ、Aqoursの練習の忙しさもあり、デート自体が久しぶり。

 今までに家に来たことがない曜ちゃんを呼ぶには最適な状況、逃す気ははない。

139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:14:41.97 ID:l8lGRxzr0
曜「うーん、でもその前にさ、海で泳いでいこうよ」

花丸「えっ、この時期に泳ぐのはちょっと……」

曜「あはは、冗談だよ」

 今日の曜ちゃんはずっとこんなテンションのまま。

 不安定じゃない時は、今までと変わらない、明るい曜ちゃんのまま。


曜「でも恋人の家か、少し緊張するなぁ」

花丸「曜ちゃんなら慣れてるでしょ」

曜「いやいや、そうでもなくてさ」

花丸「そうなの?」

曜「うん、今まで付き合った人の家に行ったことはなくて、今回が初めてなんだ」

花丸「へぇ」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:20:34.14 ID:l8lGRxzr0
 ちょっと意外かも。

 でも早く別れることが多かったから、行く暇もなかったのかな。

 事実だとしたら、初めて曜ちゃんが家を訪れた恋人ということになる。

 意味はないのかもしれないけど、少し嬉しい。


曜「でも親御さんに挨拶できないのは残念だなぁ」

花丸「普通は恋人の親って、気まずいものじゃないの?」

曜「そうかもだけど、私はそこまで気にしないな」

 逆の立場だったら、絶対に無理なのに、変わってる。

 まあ普段の曜ちゃんなら、気に入られることはあっても嫌われることはなさそうだし。
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:22:24.89 ID:l8lGRxzr0
曜「さて、と」

 曜ちゃんは美味しそうにみかんジュースを飲み干すと、席を立つ。

曜「そろそろ行こうか」

花丸「うん、そうだね」

 マルも残ったジュースを飲み、曜ちゃんに倣う。


曜「歩いていけるんだっけ?」

花丸「うーん、微妙な距離かも」

曜「それならとりあえず歩こうか、タイミングよくバスが来たら乗ればいいし」

花丸「そうだね」
 
 お店を出て、鼻歌を歌いながら、上機嫌で歩き出す曜ちゃん。


 本当に機嫌が良い、良すぎて逆に不安になるぐらい――
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:24:53.49 ID:l8lGRxzr0
??「あー、何で上手くいかないの!」



花丸「あ」

 すぐ近くの砂浜から響く声。

 その声の主は、いま一番遭遇したくない相手。


曜「千歌ちゃん……」

 マルでも聞き取れるんだから、当然曜ちゃんも気づき、走り出す。

 慌てて後を追い、二人で隠れて様子を見ると、そこには――


花丸「一緒にいるの、果南ちゃん?」

曜「…………」

花丸「曜ちゃん?」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:26:29.31 ID:l8lGRxzr0
 黙り込み、二人を睨むように鋭い視線を向けている。

 こんな怖い顔の曜ちゃんは、今まで見たことがない。



果南「でもさ、今のはよかったよ」

千歌「そうかな?」

果南「うん、今の調子で、もう少し練習してみよう」



花丸「もしかして、今度のライブの練習かな」

曜「……そうみたいだね」

花丸「ちょっと意外かも、あの2人が一緒にいるところ、あんまり見ないから」

曜「……そんなこと、ないよ」


 言われてみれば、幼馴染だっけ。

 曜ちゃんも含めて三人で。

 千歌ちゃんと曜ちゃん二人のイメージが強いから、すっかり忘れてたけど。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:28:18.68 ID:l8lGRxzr0
千歌「今の惜しくなかった?」

果南「そうだね、でももう少し勢いをつけるといいかも」

千歌「なるほど……」



 何となくその場から離れられないまま、立ち尽くすマルたち。

 そうしている間にも、二人の特訓は続く、

 一生懸命、でも楽しそうに。


曜「……」

花丸「曜ちゃん?」


 そんな様子を見ながら、曜ちゃんは口を真一文字に結び、震えている。

 よくない兆候だということは理解できた。

 つまり、早くこの場を離れた方がいいということは。
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:29:43.04 ID:l8lGRxzr0
花丸「ねえ、曜ちゃん――」



千歌「できた、出来たよ!」

 でもそれを提案しようとしたタイミングで、一段と大きく響く千歌ちゃんの歓声。


果南「千歌!」

千歌「ねえ、今の見たでしょ!」

果南「うん! 流石は私の恋人だよ!」



花丸「えっ!?」

 恋人、恋人ってどういうこと?

 抱き合って喜ぶ二人の姿に、頭が混乱する。
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:31:49.52 ID:l8lGRxzr0
曜「……花丸ちゃんには、話してなかったね」

曜「付き合ってるの、あの二人」

 千歌ちゃんの恋人は、果南ちゃんってこと?


『その人は私も知ってる、素敵な人』


 思い出す、曜ちゃんとの観覧車での会話。

 確かに果南ちゃんなら、以前の曜ちゃんの言葉に当てはまる。


 それに以前、ルビィちゃんと沼津で千歌ちゃんを見かけた時。

 一緒にいた相手が、髪を下した果南ちゃんなら、特徴と合致する。


曜「行こう、花丸ちゃん」

花丸「曜ちゃ――」

曜「これ以上、ここに居たくないから」

 曜ちゃんはマルの手を取ると、強引に引っ張って歩き出す。

 急なことで驚いたし、痛かったけど、何も言えずに、マルはそれに従うしかなかった。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:41:48.70 ID:l8lGRxzr0
―――
――



「「…………」」


 沈黙が続く。

 ただ二人並んで歩き、一度落ちつこうと、近くの公園のベンチに腰を下ろしたのに、何を言えばいいのか分からず、黙り込んだまま。


曜「千歌ちゃんがバク転するの、果南ちゃんの提案だったよね」

 曜ちゃんが唐突に、口を開く。

花丸「うん、そうだね」


曜「なんで、私に任せてくれないんだろう」

曜「私だったら、バク転なんて簡単にできるのに」

花丸「それは……」
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:43:47.16 ID:l8lGRxzr0
 確かに千歌ちゃんが苦労して練習しなくてもいい。

 運動神経のいい曜ちゃんか果南ちゃんがやれば済む話。

 やっぱり、千歌ちゃんがセンターだから?

 その辺りの話は果南ちゃんと千歌ちゃんで決めていたことだから、分からない。


曜「絶対、二人三脚で、恋人同士でやりたいからだよ」

曜「なんかさ、誇示されているみたいで嫌なんだよね、自分たちの関係を」

曜「失敗、しちゃえばいいのにな」

花丸「だ、駄目だよ、そんなこと言ったら」


 曜ちゃんの気持ちは、少し分かる。

 でも本当に失敗したら、今までAqoursで頑張ってきた事が台無しになってしまう。

 そんなこと、口に出してはいけない。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:45:25.30 ID:l8lGRxzr0
曜「なんで、そんなことを言うの」


 だけど、曜ちゃんの言葉で気づいた。

 今の状況での否定の言葉、それもまた、口に出してはいけない事だと。


花丸「ご、ごめん、曜ちゃん」

曜「黙って!」


 慌てて謝るけど、遅かった。

 突然逆上した曜ちゃんに首を絞められる。

 鍛えられた腕力で締め上げられると息ができない、苦しい。
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:47:29.15 ID:l8lGRxzr0
曜「黙れ、黙れ……」

花丸「っ……」


 でも、どんなに苦しくても抵抗はしない。

 受け止めるのが、曜ちゃんを落ち着かせる一番の手段だから。

 信じてる、我を失っていても、最後には冷静さを取り戻してくれると。


曜「ぁ、ぁぁ」

 でも、段々意識が無くなってきた。

 これは少し、マズいかも。


 頭の中が真っ黒になっていく、意識が落ちる、落ちる――
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:50:06.49 ID:l8lGRxzr0
  ※


 目が覚めると、目の前には曜ちゃんの泣き顔。

 安堵と罪悪感が入り混じった、なんて綺麗な顔なんだろう。


曜「ごめんね、ごめんね」

花丸「……大丈夫だよ、変なことを言ったマルが悪かったんだから」


 落ち着かせるための言葉。

 でも掠れた声では逆効果のようで、涙がさらに溢れる。


曜「私、花丸ちゃんを傷つけた」

曜「八つ当たりみたいに、こんなことっ」

 言葉に詰まり、嗚咽も漏れる。

152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:55:17.56 ID:l8lGRxzr0
花丸「大丈夫、曜ちゃんの為になれるなら、マルは幸せだから」

 そんな曜ちゃんを、包み込むように、ゆっくりと抱き寄せる。

花丸「このぐらい、平気だから」

曜「花丸ちゃん……」

 少しずつ、涙の勢いが弱まっていくのが分かる。

 良かった、落ち着いてくれたんだ。


 辺りを見回すと、空は暗くなっている。

 時計を見ると、既に常識的な帰宅時間は過ぎている。


花丸「もうこんな時間なんだね」

曜「ごめんね、せっかくのデートが」

花丸「大丈夫だよ、膝枕してもらって、ちょっと得した気分だもん」
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:58:30.73 ID:l8lGRxzr0
曜「でも、せっかく家に誘ってくれたのも」

花丸「大丈夫だよ、家にくる機会なんて、またあるだろうし」

曜「……そうだね」

花丸「じゃあ、そろそろ帰ろう――」


 言い終わる前に、キスをされる。

 曜ちゃんは寂しくなると取る行動だと、最近になって分かった。


花丸「もう少しだけ、ここにいる?」

曜「……うん」

 心細そうに、マルの袖を掴む。

 守ってあげたくなる、王子様の弱気な姿。


 マルは曜ちゃんの傍を絶対に離れない。

 例え死んでも、霊的な存在になって彼女を支え続ける。

 だから、曜ちゃんもマルから離れないでね。


 約束だよ。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 02:01:36.88 ID:l8lGRxzr0
   ※


 Aqoursのラブライブは、廃校の阻止という目標は、あっさりと終わってしまった。


 原因は明白だった。

 千歌ちゃんが気になって演技に集中できない曜ちゃんと、何度もダンスでミスをしたマル。


 そしてリズム乗れず、バク転を失敗してしまった千歌ちゃん。



 あの時の冷え切った会場の雰囲気は忘れられない。

 必死に立て直そうとみんなで頑張ったけど、無理だった。

 身体が重い、応援の歓声もない、途中から、早く曲が終わることだけを祈っていた。

 
 結果発表で本選に進めないことが確定した瞬間、千歌ちゃんは膝から崩れ落ち、涙を流した。

 それを慰めながら、自分でも泣く果南ちゃんや梨子ちゃん。


 その中で曜ちゃんだけは、不思議な顔をしていた。

 歓喜と悲しみが入り混じったような、複雑な顔を。
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 02:05:24.94 ID:l8lGRxzr0
また予告より投稿が遅くなってすみません
既に最後まで書き溜めてありますが、時間も時間なので一度休みます

明日の昼過ぎの予定ですが、早ければ朝の早い時間、遅くても夜には続きを投稿して完結させます
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 21:46:34.71 ID:l8lGRxzr0
  ※


善子「暇ね」

花丸「……」

 教室、ルビィちゃんがダイヤさんの元へ行っている状況で、久しぶりに善子ちゃんと二人の放課後。


善子「元気出しなさいよ」

花丸「うん……」

善子「仕方ないわよ、最終予選になればみんな緊張であんなもんなんだから」

花丸「そうだね……」

花丸「花丸……」
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 21:48:04.58 ID:l8lGRxzr0
 大衆の前で盛大なミス、それで入学希望者が増えるわけがなかった。

 ライブ後、全員が集まって状況を見たけど、目標の人数に達するどころか、むしろ希望者が減ってしまったぐらい。

 廃校は決まり、ラブライブも敗退。

 目標を一気に失い、メンバーはみんな、どうすればいいのか分からなくなってる。


 リーダーの千歌ちゃんはふさぎ込んでしまい、学校にもほとんど来ていないらしい。

 みんなが心配してお見舞いに行くけど、受け入れるのは果南ちゃんだけど、それ以外の人は拒否された。

 そう、幼馴染で親友のはずの、曜ちゃんまでも。


 当然、曜ちゃんは荒れた。

 精神的に安定する事は無くなり、常に余裕がなくなっている。

 そしてそのしわ寄せは当然、マルに来る。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 21:50:09.98 ID:l8lGRxzr0
花丸「ごめん善子ちゃん、ちょっとお手洗いに行ってくるね」

善子「……分かったわ」




 
 鏡に映る自分の姿。

 首には絞められた跡、服をまくると、節々に残る痣。


 曜ちゃんはマルに、日常的に暴力を振るうようになった。

 そしてマルもそれを止めるどころか、むしろ積極的に受け入れた。

 そうすれば、曜ちゃんは一時的に落ち着きを取り戻してくれるから。



 身体中が、痛くて、痛くて、仕方がない。

 でも誰にも言えない。薬を買ったり、病院へ行くこともできない。

 そうすれば、曜ちゃんの行動が周囲に知れ渡ってしまうかもしれないから。

 曜ちゃんは悪くない、あんなに辛い想いをしているんだもの。


 それに、どんなに酷いことをしても、その後に謝ってくれる。

 泣きながら、ごめん、ごめんと。

 そんな彼女を、どうして貶めることができるだろうか。
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 21:52:15.83 ID:l8lGRxzr0
花丸「はぁ」

 漏れる小さなため息。

 髪で首を隠し、制服をきちんと着直す。


???「マルちゃん」

 トイレを出たタイミングで、後ろからかけられる声。


マル「ルビィちゃん」

 マルちゃんと呼ぶ人は、一人しかいない。

 見なくても分かる、そこには久しく話していない、親友の姿。


ルビィ「ちょっと時間いいかな」

 突然の誘い。

 今まで会話どころか、ほとんど目を合わせることもなかったのに、何で。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 21:54:08.62 ID:l8lGRxzr0
 嫌な予感がする。


花丸「ごめん、ちょっと今は――」

ルビィ「待って、マルちゃん」

花丸「いっ」
  
 腕を掴まれる。ちょうど痣になっている部分で、痛みで足が止まる。


ルビィ「少し、お話できないかな」

花丸「でも早く行かないと――」

ルビィ「待ってくれないなら、みんなに話しちゃうよ」

ルビィ「マルちゃんが、曜ちゃんから受けている行為について」

花丸「なっ」

 鎌をかけてる? 

 それとも、本当に何かを知っての質問?
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:18:48.70 ID:l8lGRxzr0
ルビィ「ちょっとごめんね」

 考えている間に、制服をまくられると出てくる痣。

ルビィ「こっちも、だよね」

 髪を寄せられ、露わになる首。

 間違いなく、ルビィちゃんは知った上で、質問してきたんだ。


花丸「なんで、気づいたの」

 ルビィちゃんとはまともに会話もしてないのに。


ルビィ「そりゃ、気づくよ」

ルビィ「三年間、ずっと二人だけで過ごしてきた相手のことだもん」
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:45:20.16 ID:l8lGRxzr0
 やさしく、労わるようにルビィちゃんに抱きしめられる。

ルビィ「ごめんね、気づいていたのに、何もできなくて」

ルビィ「自分の我儘で、マルちゃんを曜ちゃんから救えなくて」

花丸「救うって、そんな――」


ルビィ「無理しなくていいよ、ルビィの前では」

花丸「だけど、曜ちゃんは辛い想いをしてるのに」

ルビィ「辛いのは、花丸ちゃんも一緒だよね」

花丸「っ」


ルビィ「もう無理はしないで」

ルビィ「ルビィはマルちゃんの『親友』で、『味方』だから」


『親友』、『味方』、その言葉に、心を何とか支えていた柱が崩れ落ちる。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:47:49.12 ID:l8lGRxzr0
花丸「あ、あれ」

 自然と涙が溢れ出る。

 ぽろぽろと、零れ落ち、地面を濡らす。


 蘇る記憶。

 痛みを、苦痛を、次から次へと思い出す。

 濁流にのみ込まれ、自分が崩壊していく。


 嘔吐する、抱きしめてくれているルビィちゃんに向かって。

 それでもルビィちゃんは手を離さない。

「大丈夫だよ」とささやき、そっと頭を撫でてくれる。


 そのやさしさに甘えて、マルはあらゆるものを、吐き出し続ける。

 一人で溜めこんでいた黒い物を、全て外へ放出するように。
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:49:42.95 ID:l8lGRxzr0
―――
――




ルビィ「落ち着いたかな」

花丸「うん」

 すっかり汚れてしまった制服から、置いてあった練習着に着替えたルビィちゃんは笑顔だ。


ルビィ「少しは楽になれた?」

花丸「おかげさまで」

 少しだけ、噛みあわない会話。

 まるで数ヶ月もまともに会話していなかったことの証明みたい。
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:51:57.89 ID:l8lGRxzr0
ルビィ「ねえ、マルちゃん」

花丸「うん」

ルビィ「曜ちゃんと、別れなよ」


花丸「……」

ルビィ「もう限界だよ、このままだとマルちゃんは壊れちゃう」

ルビィ「もし何かあっても、ルビィが守ってあげるから」
 

 もうマルは限界、そんなことは分かっている。

 溺れてしまいたかった。

 彼女のやさしさに、このまま。

 
 でも、それだと曜ちゃんは――
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:53:45.70 ID:l8lGRxzr0
ルビィ「踏ん切りがつかないなら、無理にでも別れさせる」

ルビィ「お姉ちゃんや鞠莉ちゃんに事情を話せば、何とかなるはずだから」


 ルビィちゃんは嫌われるのを覚悟で、マルの為に言ってくれているんだ。

 そうしないと、マルは曜ちゃんから離れられないって分かっているから。


花丸「お願い、曜ちゃんのことは誰にも言わないで」

 それでも、マルは曜ちゃんと別れられない。

花丸「今の曜ちゃんを見捨てることなんできないよ」

 恋の魔力から逃れることができない。
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:55:56.52 ID:l8lGRxzr0
ルビィ「いいの、それで」

花丸「うん」

ルビィ「……分かったよ」

 ルビィちゃんは諦めたように、少し目を伏せる。

花丸「本当に?」

ルビィ「こうなったらマルちゃんを説得する大変さは、よく分かっているから」


ルビィ「でも、辛くなったら今みたいに吐き出しに来てね」

ルビィ「一人で溜め込んじゃ駄目だよ」

花丸「うん、ありがとう」
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 22:59:54.33 ID:l8lGRxzr0
  ※



 冬休みが迫った頃、浦の星の統廃合が決まった。

 Aqoursも、当然解散。

 マルたちのスクールアイドルは終わった。


 ルビィちゃんや善子ちゃんとの関係は、以前のよう仲良しに戻った。

 そして曜ちゃんとの関係も変わらない。

 Aqoursがなくなったけど、日常は続いている。

169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:03:21.08 ID:l8lGRxzr0
  ※


ルビィ「またね、マルちゃん」

花丸「うん、また明日」


 今日は放課後の教室に残るよう、曜ちゃんに言われている。

 告白されて、初めてのキスをされた場所。

 最近、曜ちゃんが忙しいらしく会う機会が減っていた。

 その分、何か特別なサプライズがあるのではないか、そんな予感に、ちょっとワクワク。
 




曜「ごめん、待ったかな」

 本を読んで待っていると、約束より早めの時間にやってくる。曜ちゃん。
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:04:38.21 ID:l8lGRxzr0
花丸「ううん、さっきHRが終わったばかりだよ」

曜「それならよかった、待たせたら悪いから」


花丸「曜ちゃん、今日はどうしたの?」

曜「報告があってね、花丸ちゃんに」

花丸「報告?」

 なんだろう、全く心当たりがない。



曜「私ね、千歌ちゃんに告白してきた」



花丸「へっ」

 前兆のない、予想外の言葉。
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:06:50.85 ID:l8lGRxzr0
曜「それでフラれた、当然だけどね」

 告白、フラれた、理解が追い付かず、言葉が出ない。


曜「でもさ、フラれたらスッキリしたんだ」

曜「これ以上、誰かの支えがいらないぐらい」

 だけど曜ちゃんは、それを好都合と言わんばかりに言葉を続ける。



曜「だから別れよう、花丸ちゃん」



 別れる?

 曜ちゃんは今、確かにそう言った。


花丸「なに言ってるの、冗談だよね」

曜「ううん、冗談じゃないよ」
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:08:07.93 ID:l8lGRxzr0
 真顔で語る曜ちゃんの言葉に、嘘があるようには思えない。

 まさか、本当に。


花丸「嫌だよ、マルは別れたく――」

曜「わかった、言い方を変えるよ」

花丸「曜、ちゃん」


曜「もういらないんだよ、花丸ちゃんは」

曜「不要なんだ、私にとって」


 冷たく言い放たれる言葉。


 不要。

 マルは曜ちゃんにとって、不要。
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:09:45.77 ID:l8lGRxzr0
花丸「なんで、なんで、そんなこと」

曜「……もう限界だったんだよ、花丸ちゃんも、私も」

 マルも、曜ちゃんも、限界。


曜「ごめん、私が花丸ちゃんにやったことは、どんなに謝っても取り返しのつかない事だと思う」

曜「でもね、それを償う方法が、私にはわからない」

曜「だからもう、私は消えるよ」


花丸「消えるって、どこに」

曜「みんな沼津の学校に行くだろうけど、海外に行く」

曜「そこで本格的に飛び込みをする」

曜「二度とここでの事を思い出さないように、それだけに集中する」
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:10:42.65 ID:l8lGRxzr0
花丸「そんなの、ズルいよ」

曜「そうだね、卑怯だと思う。責任も取らずに、逃げ出すなんて」

花丸「嫌だよ、マルから逃げないでよ」


曜「ごめんね、もう無理なんだ」

 曜ちゃんはそう言い残し、教室を出ていく。


花丸「待って、待ってよ」

 必死に追いすがろうとするけど、ショックで身体が動かない。

 這うように扉まで行き、外を見ると、そこにはもう姿はなくて。


 へたり込む、曜ちゃんはもう消えてしまった。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:13:00.98 ID:l8lGRxzr0


ルビィ「終わった、かな」

 入れ替わるように入ってくる、ルビィちゃんの姿。

 彼女のしたり顔は、すぐにこの出来事の裏側を理解させる。


花丸「話したんでしょ、ルビィちゃんが全部」

ルビィ「うん」

花丸「マルは言ったよね、曜ちゃんには言わないように」

ルビィ「そうだね」


花丸「ふざけるな!」

 頭にきて、勢いのままに掴みかかる、


ルビィ「……」

 でもルビィちゃんは、表情一つ変えない
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:15:17.57 ID:l8lGRxzr0
花丸「マルは曜ちゃんと居られればよかったの」

花丸「例えどんな目に遭っても、曜ちゃんと2人で居られれば――」


ルビィ「駄目だよ」

ルビィ「それだと、マルちゃんは絶対に幸せになれない」


花丸「黙れ!」


 思いっきり、首を絞める。

 曜ちゃんに刷り込まれた、無意識の行動。

 強く、強く、何も考えずに、力を入れる。


 それでも、ルビィちゃんは抵抗しない。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:18:01.62 ID:l8lGRxzr0
ルビィ「ぅ、っ」

 でも表情は本当に苦しそうで、


 白い肌が変色していく、徐々に感じる、生命の力が弱まっていく感触。


 苦痛に歪む顔、声、目にするだけで辛くなる。

 曜ちゃんはずっと、こんな光景を見ていたんだ。


 マルの行動は、曜ちゃんの為になっていると思っていた。

 でももしかしたら、さらに曜ちゃんを苦しめるだけで――。


ルビィ「……ぁ…………」

花丸「!」


 考えている間に、ルビィちゃんの反応が鈍くなっている。
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:19:26.42 ID:l8lGRxzr0
ルビィ「…………」

 手を離しても、ルビィちゃんはぐったりとしたまま。


花丸「あ、あぁ」


 息、してない?

 目も閉じている、ピクリとも動かない。


花丸「ルビィちゃん、ルビィちゃん!」

 身体を揺する、でも反応はない。


 こういう時、どうすればいいんだろう。

 分からない、本で知識は持っているはずなのに、何も出てこない。
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:21:25.40 ID:l8lGRxzr0
花丸「ねえ、起きてよ」

 嫌だ、自分の衝動的な行動で、大切な人を失うなんて。


花丸「起きてよ、ルビィちゃん」

 ルビィちゃんは目を開けない。


花丸「謝るから、何でもするから、お願いだから――」



ダイヤ「ルビィ!」

花丸「だ、ダイヤさん!?」


花丸「な、なんでここに」

ダイヤ「話は後です! とにかく今は処置を!」
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:25:06.48 ID:l8lGRxzr0
善子「あなたはこっちに来なさい!」

 遅れて入ってきた善子ちゃんに、腕を引かれる。


花丸「い、嫌だ」

善子「一度落ち着いて」

花丸「でも、でも」

善子「いいから、今のあなたが居ても何の役にも立たない」


 引きずられるように、教室の外に出される。

 遠ざかっていくルビィちゃんの姿と、気丈に振る舞いながらも泣き出しそうなダイヤさんの顔。

 外から響く救急車のサイレンに、現実を突きつけられる。


善子「なんで、何であんなことをしたのよ」

 善子ちゃんも泣いている。

 悲しそうに、マルを見つめている。


花丸「……そっか、マルが間違っていたんだ」

 今さら理解しても、もう遅い。

 今はただルビィちゃんの無事を祈る、それしかできなかった。
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:29:56.61 ID:l8lGRxzr0
―――
――



善子「ダイヤ!」

 善子ちゃんと2人、遅れて病院へ着くと、入り口でダイヤさんが待っていた。


善子「ルビィの状態は?」

ダイヤ「幸い、一命は取り留めました」

ダイヤ「意識もあり、状態は良好です」

ダイヤ「しかし少なくとも数日間は入院が必要だそうです」


花丸「入院……」

 マルの行為の結果が、入院。


ダイヤ「あと、ルビィから花丸さんへ伝言です」

ダイヤ「『ルビィは大丈夫だから、安心して』と」


 この状況でも、ルビィちゃんはマルの心配をしてくれる。

 自分ではなく、マルの事を考えてくれる。
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:32:45.40 ID:l8lGRxzr0
花丸「ダイヤさんは、何であそこに居たんですか」


ダイヤ「詳しい話を聞いていたわけではありません」

ダイヤ「ただルビィに頼まれていました」

ダイヤ「あの時間の教室に様子を見に来てほしいと」

 そっか、ルビィちゃんは分かってたんだ、こうなることを。
 

ダイヤ「ここは黒澤家に縁のある病院、多少の誤魔化しは可能です」

ダイヤ「貴女を責めることはしませんし、何かの罪に問うこともしません」

ダイヤ「それがルビィの希望ですから」


ダイヤ「けど私は、ルビィの姉として貴女を許さない」

ダイヤ「それは覚えておいてください」
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:45:43.08 ID:l8lGRxzr0
   ※



 入院から数日後、ルビィちゃんに呼ばれてお見舞いにやってきた。

 ダイヤさんは否定的な反応を示していたけど、ルビィちゃんが強く望んだらしい。



花丸「ルビィちゃん……」

ルビィ「来てくれたんだね」

花丸「よかったのかな、入院させる怪我を負わせた張本人が」

ルビィ「いいんだよ、その原因を作ったのはルビィだから」


花丸「……やっぱり、分かっててやったんだね」

ルビィ「うん」
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:47:03.71 ID:l8lGRxzr0
花丸「怖くないの、そんなことをされて」

ルビィ「怖いよ、もちろん」


 手を掴まれ、ルビィちゃんの首元へあてがわれる。

 数日前に触れた細い首が、そこにはある。


ルビィ「でもいいの、マルちゃんがそれを望むなら」

ルビィ「首を絞めても、叩いても、ルビィは何も言わない」

ルビィ「抵抗せずに、それを受け入れる」


 にっこりと微笑むルビィちゃん。

 その笑顔から感じられるのは、狂気。

 

ルビィ「ほら、力を入れて」

 ルビィちゃんが掴む手の力を強める。

 すると、首にマルの手が食い込んで――
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/16(水) 23:49:07.88 ID:G+Hp1F+BO
花丸「えんま大王様がやってくる」

ルビィ「手首から糸が出てくる」

ダイヤ「壁に引き出しがある」
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:54:34.61 ID:l8lGRxzr0
花丸「止めて!」


 身体に走る、ゾクリとした感覚。

 思い出す、苦しそうなルビィちゃんの顔。


花丸「嫌だ、マルは、マルはやりたくない」

花丸「ルビィちゃんを傷つけたくない、ルビィちゃんの苦しむ顔を見たくない」

花丸「こんな恐ろしい事、望んでないっ」




ルビィ「……そうだよ、やりたい人も、やられたい人も、本当はいないんだよ」

ルビィ「それを望んでいると、必要だと、思い込んでいるだけ」

ルビィ「必死に自分の置かれた状況を正当化して、心を誤魔化しているの」
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 23:56:57.18 ID:l8lGRxzr0
 ルビィちゃんは手を離し、マルの頭をそっと撫でる。


ルビィ「疲れたね、大変だったね」

ルビィ「もういいの、苦しまなくて」





 どうすればいいか、分からなくなっていた。

 だから抗わないという、楽な方向へ逃げて。


 それがむしろ曜ちゃんを苦しめていた。

 今さら気づいた、そんな当たり前のことに。



花丸「ごめんね、曜ちゃん」

 止めてあげなきゃいけなかった。きっとそれを望んでいたはずなのに。


花丸「ありがとう、ルビィちゃん」

 マルを、曜ちゃんを、救ってくれて。
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/17(木) 00:00:46.28 ID:MBHs/vGf0
  ☆



 春になり、マルは二年生になった。


ルビィ「おはよう、マルちゃん」

花丸「ごめん、待った?」

ルビィ「ううん、大丈夫だよ」


 浦の星は統廃合になり、マルたちは一人を除いて、みんな沼津の高校へ。


 あの後、曜ちゃんとは一度も話を出来ていない。

 周囲に行先を告げることもせず、連絡手段も絶っていた。

 それらはきっと、曜ちゃんの強い意志表示なのだろう。
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/17(木) 00:02:40.80 ID:MBHs/vGf0
 千歌ちゃんと、一度だけ話をした。

 曜ちゃんからの告白の際、彼女の抱いていた感情、行動、洗いざらい話されたらしい。

 全部話しちゃうのは、やっぱり曜ちゃんらしい。

 それで告白を受け入れてもらえるわけないのにね。


 千歌ちゃんは謝ってくれた、『巻き込んでごめんね』と

 でもマルはそれを否定して、お礼を言った。

 曜ちゃんとの縁を繋いでくれて、ありがとうと。



 善子ちゃんと梨子ちゃんの関係も続いている。

 日頃から仲良しのところを見ると、簡単には崩れそうにない。

 いつまでも、そんな関係を続けるんだろうな。

 マルと曜ちゃんが築けなかった、素敵な関係を。
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/17(木) 00:09:52.90 ID:MBHs/vGf0
 曜ちゃんにもう一度、会いたい。

 会って、ちゃんと話したい。

 お互いに謝って、あんなこともあったねと笑い話にして。


 二度と、恋人になることはないと思う。

 それでも、あの日々を無かったことにしたくはない。

 辛い日々だったとしても、楽しい思い出もたくさんあったから。



花丸「……ルビィちゃん、マルの事、好き?」

ルビィ「うん、大好きだよ」


 でも今は、この子との時間を大切にしよう。

 身を挺してマルを守ってくれた、この大切な人との時間を。




 さようなら、マルの初恋。


 恋の楽しさも、怖さも、全部教えてくれて、ありがとう。
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/17(木) 00:10:31.29 ID:MBHs/vGf0




最後まで読んでいただき、ありがとうございました
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/17(木) 07:09:12.25 ID:9w79fjUB0
このお話だと、恋の怖さじゃなくて単に曜個人がクズで頭おかしかっただけじゃないのww
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/17(木) 12:37:11.36 ID:TeYqiCSDO

曜も恋に狂わされていたってことなのかな
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/18(金) 09:30:02.81 ID:PZ6PQBDf0


ルビィいい子や…
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