杏奈「百合子さんに嘘をついてみる」

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4 : ◆bncJ1ovdPY [saga]:2018/04/01(日) 23:54:57.12 ID:ZQSaMPV50



「百合子ちゃ〜ん、私ね……」

午前のレッスンが終わって水筒を片手に一息入れようとした時、後ろから翼がとても嬉しそうな様子で話しかけてくる。
これから起こる会話を予測してため息を吐き……振り返りもせず、どこかあしらうように返す。

「……翼、彼氏でも出来たの?」
「そうなの〜!……あれ、知ってたの?」

分かりやすいだけだと言うと翼は「なんだ……つまんな〜い」と呟いて走り去っていく。
そう、今日は四月一日。嘘をつくことを許された影響で皆はしゃぎ回るものの、聞く側に回るだけの私にとっては正直面倒臭い。
最初は騙されていたが、同じような内容を何回か聞いた時点で飽きてしまい……そろそろ驚くフリをすることすら面倒だと感じ始めていた。

「早く戻ろ……」

事務所に戻ればきっと静かな時間を過ごせるはずだ。
元々騒ぎ立てるのが好きでない私は、事務所で唯一の穏やかな場所を求めて立ち上がる。

その場所とは、杏奈ちゃんの隣。
私以上に喧騒を好まない杏奈ちゃんの周囲は、とても心地良い時間を過ごすことが出来る。
本を読んだりゲームをしている杏奈ちゃんを眺めているだけでも楽しいけど……私の持ってきた本の感想を共有したりゲームについて語ったりもする。
だから音がないわけではないけれど……周りがどうあっても穏やかな空気が流れるその場所は、事務所での数少ない私の居場所となっていた。
「今日はどの本をおすすめしようかな」なんて考えて、小さく笑いながら歩き出した。


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