【ご注文はうさぎですか?】シャロ「居場所の話」

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1 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:02:53.31 ID:fCSMHa2S0


シャロ(率直に言ってしまうと、私は学校に居場所がない)

シャロ(……とはいっても、苛めを受けているわけではない)

シャロ(というか、学校の人達は皆いい人だ。そんな陰湿なことをやるような人間はいない……と思う。少なくとも、私はそういう話を聞いたことはない)

シャロ(だから、居場所がないというのは私の気分の問題。私が勝手に疎外感を抱いているだけの話だ)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1521986573
2 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:03:33.34 ID:fCSMHa2S0


シャロ(私が通う学校は、言わずと知れたあのお嬢様高校。通う学生はお金持ちか才女か、でなければお金持ちでありかつ才女だ)

シャロ(私はお金持ちはおろか一般人と呼べるかも怪しい貧乏生活を送っているので、消去法的に才女ということになるのだろう。……自分で言うのもなんだけれど)

シャロ(しかし、私は貧乏人だ。お金持ち、ないしお金持ちの才女とは価値観が違う。それはもう、ビックリするくらいに)

シャロ(例を挙げよう。私が愛して止まない、というか愛せざるを得ない食材の一つにもやしがある)
3 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:04:17.21 ID:fCSMHa2S0


シャロ(言うまでもないことだが、もやしは貧乏人の味方だ。下手な人間より余程信頼できる)

シャロ(なのだが、ある生徒はもやしの調理法を知らなかった。炒めるか茹でるかどう食感が変わるかについても分かっていなかった。もやしの調理法は貧乏人には必須レベルの知識だというのに!)

シャロ(……どうにも、持っている価値観や常識がどうしようもなく離れている。そのことがよくよく理解できてしまった出来事だった)

シャロ(反対に、お金持ちの常識を私が理解していなかったこともあった)

シャロ(お茶会の最中に飛び出した、流行りのサロンだとか文房具だとかレストランといった話題)

シャロ(私は、散髪は幼馴染みに任せているし、流行りの文房具はどれもこれも高くて買い辛いし、レストランはおろかたまの喫茶店でさえ行くのが億劫になるほど余裕がない。本来なら付いていける訳がないのだ

4 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:05:17.23 ID:fCSMHa2S0


シャロ(一応勉強したのでそういう話題にもある程度付いていけるようにはなったが、しかしそのような手の届かない物の知識を蓄えるというのは中々精神的にきつい)

シャロ(しかも、そうまでして得た知識が生かされるのはクラスメイトとのうわべだけの会話なのだ。礼儀作法やお嬢様を気取らなければいけないこと――後者は自然体で出来るようになってしまったが――も合わせて、窮屈に感じてしまう)

シャロ(せめて、うわべだけではない、本当の友人が居てくれたら。せめて、リゼ先輩と同じ学年だったら。……この浮かない空模様に、晴れ間が差したかもしれないのに)

5 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:05:54.02 ID:fCSMHa2S0


シャロ(だけど、ココアや千夜は別の学校に通っているし、リゼ先輩は一つ年上だ)

シャロ(それはどうしようもなく厳然とした事実として横たわっていて、何人たりともそれに手出しすることは出来ない)

シャロ(現実は、いつだって残酷なのだ)



6 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:06:25.18 ID:fCSMHa2S0





シャロ(いつものようにバイトを終えて帰ってくると、なんだか甘兎が騒がしかった)

シャロ(私の家はボロい。甘兎の物置小屋と言われたり、廃屋系心霊スポットとして扱われるくらいには。
なので壁が壁としての役割を果たしていない。隙間風は入ってくるし、壁が薄すぎて防音機能が皆無なのだ。此方の話し声は筒抜けだし、甘兎側もそれは変わらない。だから甘兎が騒がしいと、それだけ私の家も騒がしくなってしまう)

シャロ(バイト帰りで疲れた体には、騒がしさは酷く応える。私は文句を言おうと甘兎のドアを開けた)


シャロ「ちょっと、一体何を騒いでる……のよ……」


シャロ(そうして、絶句した)

シャロ(ココアとチマメちゃん達が、千夜にもふもふされていたのだ)

7 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:06:59.71 ID:fCSMHa2S0


ココア「千夜お姉ちゃ〜ん」

マヤ「千夜姉〜」

チノ「千夜お姉さま……」

メグ「千夜お姉ちゃん……」

シャロ(……しかも、お姉ちゃん呼びのおまけ付きで)

シャロ(私は混乱した。いつから千夜は彼女達のお姉ちゃんになってしまったのだろう。モカさんじゃあるまいし。……もしかして、何か秘術でも使ってしまったのだろうか。人を惚れさせる云々といった、禁呪の類いの)

シャロ(そんなものが実在するとは到底思えないが、しかしこの幼馴染みは底が知れないところがある。例え持っていたとしてもおかしくはない。何なら明日、唐突に「私、実は宇宙人なの!」とか言ってきたとしても何らおかしくはない。……いや、流石におかしいか)

8 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:07:29.21 ID:fCSMHa2S0


シャロ(そんな私の思考は、二つの外的要因によって遮られることとなった)

シャロ(一つは義妹ハーレムの渦中に居る幼馴染みの呼び掛け)


千夜「あ、シャロちゃんいらっしゃい。……シャロちゃんももふもふされる?」

シャロ「しないわ――フゴッ!」


シャロ(そして、もう一つは。甘兎のマスコットにして、私の不倶戴天の天敵、あんこの手厚い歓迎だった)


9 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:08:11.33 ID:fCSMHa2S0




シャロ(嬉々として私の顔面にタックルを仕掛けてきたあんこから逃れると、私は尋ねた)


シャロ「……で、何がどうしたらこんなことになったの?」

千夜「こんなことって?」

シャロ「コチマメちゃんを好き放題にモフっていることよ! どんな手順を辿ったらこうなるわけ!?」

シャロ(いきりたつ私に千夜はぽかんとしたが、すぐに何か納得したようにうんうんと頷いた)

千夜「分かる。分かるわシャロちゃん。シャロちゃんももふもふしてみたいのね?」

シャロ「そういうことじゃないッ!」


シャロ(ああもう、 私はいきさつが知りたいだけなのに! どうしてモフらなければならないの!?)

10 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:08:48.94 ID:fCSMHa2S0


シャロ(そんな私に、メグちゃんがするりと千夜から離れると)

メグ「……しゃ、シャロお姉ちゃん?」

シャロ(と言ってきて……)

シャロ(……か、可愛い。撫でたい。愛らしい。モフりた………………………はっ!?)

シャロ(い、いけないいけない。グッときてしまったが、モフってしまえば全てがうやむやになってしまう。私は強靭な精神力で何とかモフりたい衝動を抑え込んだ。
危ないところだった。あのままでは、流されてメグちゃんをモフっていたところだったろう)

シャロ(安堵の溜め息を吐くと共に、私は改めて千夜に尋ねた)

11 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:09:17.78 ID:fCSMHa2S0


シャロ「あのねえ千夜。私はいきさつが知りたいだけで、別にもふもふしたい訳じゃ」

ココア「お姉ちゃんの座は渡さないよ!」


が、突如いきりたったココアによって遮られた。ココアは千夜からがばっと離れると、私に詰め寄ってくる。


ココア「皆のお姉ちゃんは私だけなの! シャロちゃんには渡さないからね!」

シャロ「でもココア、あんたさっき千夜にしがみついて「千夜お姉ちゃん……」とか言ってたじゃない」

ココア「あれは……その……千夜ちゃんのお姉ちゃん力が高すぎたんだよ!」

12 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:10:14.07 ID:fCSMHa2S0

シャロ(しどろもどろになるココアから目線を外し、千夜の方へと目を向けた)


シャロ「本当に、どういういきさつでこんなことになったわけ!?」


シャロ(それに答えたのは、千夜ではなく。いつの間にか千夜から離れていたチノちゃんだった)


チノ「……私から説明します。後、ココアさんはシャロさんから離れてください、迷惑そうですよ」

13 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:10:46.01 ID:fCSMHa2S0









千夜「甘兎は現在、フェアのアイディアを募集中でーす♪」

チノ(発端は、千夜さんの一言でした)


ココア「募集中って……。つまり、私たちのアイディアがフェアとして開催されるかもしれないってこと!?」


チノ(ココアさんが尋ねると千夜さんは頷きました)

14 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:11:15.01 ID:fCSMHa2S0


千夜「ええ。いつもは店側で決めちゃうから、たまにはお客さまに決定権を委ねるのもいいかなと思ったの」

チノ「なるほど、お客様参加型イベントですか。面白いですね」

メグ「チノちゃんがライバル企業を視察してる社長さんみたいな目をしてる……!」

千夜「……それに」

マヤ「それに?」

千夜「将来の甘兎グループの社長として、新しいことにも挑戦しなきゃと思ったの」

マヤ「……甘兎グループの社長って、冗談で言ってた訳じゃなかったのか。でも、そういうことならいいよ、楽しそうだし」


チノ(マヤさんはニヤリと笑って八重歯を見せつけると、嬉々として言いました)


マヤ「千夜の将来のために、人肌脱いだげる!」


15 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:12:08.79 ID:fCSMHa2S0




チノ(マヤさんは一肌脱いであげるとは言いましたが、真面目にやるとは言っていません)

マヤ「闇の魔道士フェアはどうかな? 千夜の雰囲気といい、メニュー名といい、甘兎にはぴったりだよ!」

ココア「私は十二単フェアを推すよ! 和服美人の千夜ちゃんには十二単は絶対似合う!」

マヤ「重くて動けなくね?」

メグ「わ、私はメイド服の千夜さんが見たいです!」

マヤ「いつから千夜の仮装アイディア考案会になったんだ?」

チノ(マヤさんの切れ味鋭いツッコミが飛び交う中、私は密かに首を傾げていました。千夜さんは以前にメイド服を着ていたような気がしたからです)

チノ(疑問に思った私は、そのまま記憶に思いを馳せました。浮かんでくるのは、足首を挫いたリゼさんのお見舞いに行ったときのこと。そういえば、あのときマヤとメグはいなかったのでしたね)


16 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:12:53.25 ID:fCSMHa2S0


チノ(懐かしい思い出に浸っていると、ココアさんが私の方を見ていることに気付きました)


ココア「チノちゃんはどんなフェアがいいと思うの?」

チノ「え……。私の意見、ですか?」


チノ(私はたじろいで、周りを見回しました。ココアさんだけではありません、マヤさん、メグさんに千夜さんも私に目を向けていました)

チノ(考えてみれば当然で、千夜さんと私を除けば既に全員意見が出たのです。皆が私に注目するのは自然なことでした)

チノ(私は押し黙りました。思い付かなかったのです。中々ボリュームのある和菓子、別の意味でボリュームのあるメニュー名、時折何を考えているか分からなくなる看板娘の千夜さん。
これら三つの長所(長所?)を引き立てる、フェアのアイディアというものが)

17 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:13:28.11 ID:fCSMHa2S0


チノ(一般的な店であるならば順当に怪盗ラパンとのコラボフェアでいいでしょう。ですがここは甘兎庵。順当な意見なんて封殺されてしまうに違いありません)

チノ(甘兎の特徴を殺さずフェアの特別感が最大限に活かされたブレンドにするためには、どうすればいいのでしょう。私は暫し黙考しました。
……ちなみに、その時の思考経路は大体こんな感じでした)


チノ『甘兎……。甘兎といえば和菓子、メニュー名、千夜さんですよね。和菓子はさておき、メニュー名は千夜さんが元凶です。ところで、千夜さんといえば? ……甘兎庵の店員さんで、ココアさんの友人。ココアさんしか理解できない独特な感性を持っています。
文化祭の実行委員になるくらいには人望があって、能力もあるということでしょうか。スタイルもいいですし、物腰も柔らか。和服美人な見た目とは裏腹にノリが良くて付き合いやすいです。……こうして並べてみると、意外にスペックが高いですね。運動が苦手らしいですが、私も得意な方とは言えませんし。
大抵の分野に秀でているのに完璧超人ではないというところがモカさんを彷彿とさせますね。……あれ?』


チノ(そこで私ははっとしました)

チノ『……よく考えてみれば。千夜さんはモカさんと意気投合していました。それに落ち着きがあって頼りがいがあります。ひょっとしたらココアさんよりお姉ちゃんらしいかもしれません。
奇抜なメニュー名の元凶だったり、ココアさんと一緒にいると途端にポンコツになったりしますが、愛嬌があるということでしょうか。
……となると』

18 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:14:20.29 ID:fCSMHa2S0


チノ(一般的な店であるならば順当に怪盗ラパンとのコラボフェアでいいでしょう。ですがここは甘兎庵。順当な意見なんて封殺されてしまうに違いありません)

チノ(甘兎の特徴を殺さずフェアの特別感が最大限に活かされたブレンドにするためには、どうすればいいのでしょう。私は暫し黙考しました。
……ちなみに、その時の思考経路は大体こんな感じでした)


チノ『甘兎……。甘兎といえば和菓子、メニュー名、千夜さんですよね。和菓子はさておき、メニュー名は千夜さんが元凶です。ところで、千夜さんといえば? ……甘兎庵の店員さんで、ココアさんの友人。ココアさんしか理解できない独特な感性を持っています。
文化祭の実行委員になるくらいには人望があって、能力もあるということでしょうか。スタイルもいいですし、物腰も柔らか。和服美人な見た目とは裏腹にノリが良くて付き合いやすいです。……こうして並べてみると、意外にスペックが高いですね。運動が苦手らしいですが、私も得意な方とは言えませんし。
大抵の分野に秀でているのに完璧超人ではないというところがモカさんを彷彿とさせますね。……あれ?』


チノ(そこで私ははっとしました)

チノ『……よく考えてみれば。千夜さんはモカさんと意気投合していました。それに落ち着きがあって頼りがいがあります。ひょっとしたらココアさんよりお姉ちゃんらしいかもしれません。
奇抜なメニュー名の元凶だったり、ココアさんと一緒にいると途端にポンコツになったりしますが、愛嬌があるということでしょうか。
……となると』

19 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:18:16.13 ID:fCSMHa2S0


千夜「で、デレたわ! チノちゃんがデレた! ココアちゃんの前でお姉ちゃんフェアだなんて!」

チノ「えっ」

マヤ「と、とうとうこんな日がやって来たのか……」

メグ「満を持して、って感じだね〜。学校でココアさんのことを嬉しそうに語ってたとき、妙だなあとは思ってたけど」

ココア「その話、詳しく」


チノ「待ってください、深い意味は無いんですってば! それとメグさんは余計なことを言わないでください!」


チノ(私の大声が消火栓の役割を果たしたのでしょうか、混乱と興奮に包まれた甘兎庵に冷静な思考が舞い戻りました)

チノ(……ココアさんだけは相変わらず私をもふもふしていましたが)


マヤ「えっと、つまりどういうこと?」


チノ(ようやくちゃんと説明できる。ほっとしながら口を開きました)

20 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:19:27.86 ID:fCSMHa2S0


チノ「実は……」





チノ「……というわけです」

ココア「えええ!? 漸くデレたと思ったら、私じゃなくて千夜ちゃんにデレてたなんて!」

マヤ「まあ、そんなところだとは思ってたけど」

チノ(目をいっぱいに見開くココアさん。苦笑するマヤさんとメグさん)

21 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:20:19.05 ID:fCSMHa2S0


千夜「やだ……誉められすぎて爆発しそう……」


チノ(ほおずきみたいな頬を押さえるも、ニヤケが隠しきれない千夜さん。
その仕草が当て付けのように思われたのでしょうか、ココアさんは人差し指をぴしっと千夜の方に突きつけると、高らかに宣言しました)


ココア「チノちゃんのお姉ちゃんの座をかけて勝負だよ、千夜ちゃん! チノちゃんは渡さないんだから!」

「「「「ええッ!?」」」」


22 : ◆mL2ZRk1cK. [saga]:2018/03/25(日) 23:21:07.34 ID:fCSMHa2S0









シャロ「超展開にも程があるんじゃないかしら」


シャロ(そこまで聞いて、素直にそう述べる。話の腰を折られて不満だったのだろうか、チノちゃんは眉を潜めた)

チノ「見も蓋も無いこと言わないで下さいよ。事実なんですから」

シャロ「事実……かぁ」


シャロ(私は千夜に目を向けた。私としては、彼女が新しいことに挑戦することが意外でならなかった)

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