右京「呪いのビデオ?」修正版

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:21:04.78 ID:EAF0Yir90
相棒×リングのクロスssです。
このssは私が五年前に速報で書いた右京「呪いのビデオ?」の完全リメイクになります。
当時の拙い文章を修正してさらに新規のエピソードも追加しました。
よろしければどうぞご覧ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1521559264
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:21:43.93 ID:EAF0Yir90
プロローグ



2016年 夏―――

「それではこちらでお待ちください。」



その日、警視庁特命係に所属する杉下右京は


先日、とある事件での負傷により車椅子を押しながらこの東京拘置所へと趣いていた。


これからこの施設に収監されている人物と面会を果たすためだ。


だがなにやら施設側が手続きに手間取っているために面会室で待たされる羽目になった。


そんな中、右京はこの面会室の天井にある天窓から外の様子を覗いていた。



「雨…ですか…」



どうやら外は生憎の雨模様らしい。


そういえばとここへ来る道中で空に雲が生い茂っていたことを思い出した。


雨…水…そんなことを思い浮かべているとある出来事がその脳裏に過ぎった。


それは今から3年前、右京たち特命係が追いかけた最悪の難事件。


それに纏わる難解な出来事と45年にも及ぶ悲劇の物語だった。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:23:08.74 ID:EAF0Yir90


第1話



8月25日 PM23:30


今から3年前の2013年8月25日。

その夜、都内某所にあるマンションで男性が変死体となって発見された。

すぐに通報を受けて駆けつけた警視庁捜査一課が現場の捜査を開始。

死因はこのマンションからの転落死と断定された。

一見してみれば事故と思えなくもないのだが…


「マンションから転落死か。それにしても…」


「一体何なんですかねこの顔は…?」


「俺も刑事歴長いがこんな顔は見たことねえな…」


被害者の男性は

捜査一課の伊丹、芹沢、三浦の捜査一課のベテラン刑事たちが

思わず身震いするような恐怖に引き攣った形相で亡くなっていた。

その変死体は死の直前、

まるで何か恐ろしいものを見たかのようなそんな恐怖を物語っていた。


「これってアレか?おい米沢、これは死後硬直でこうなったのか?」


「いえ、死後硬直でもこれほど顔面の筋肉が硬直するなんてまずあり得ませんよ。
こんな奇妙な事件は我々だけでは無理だと思い、その手の専門家をお呼びいたしました。」


「ちょっと待った!何だその専門家ってのは!?」


鑑識の米沢ですらこのケースは珍しいと言われてやはりどこか奇妙でならない伊丹。

そんな米沢の連絡を受けてとある専門家が現れた。

この手の怪事件には呼ばれずとも必ず駆けつける二人の男たち。

一人は身奇麗なスーツを着込んだ英国紳士風の男、もう一人はジーンズの若者。

そんな一見正反対な男たちがこの現場に参上した。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:24:48.98 ID:EAF0Yir90


「どうも、その専門家です。」


「ゲッ…特命係…」


「これはこれは警部殿、お早いご到着で。」


「アハハ、米沢さんに呼ばれたので来ちゃいました。」


「それにカイトまで…まあ…確かにこの手の事件の専門家ですね…」


現れたのは警視庁特命係の杉下右京。それに甲斐享ことカイトの二人。

確かに米沢の言うようにこのような不可解な事件にはまさに打って付けかもしれない。

だが伊丹たちにしては特命係が事件に関わること自体が不愉快極まりないのだが…


「あのねぇ…警部殿。いつもいつも言ってますけど…」


「そう言っていつもいつも解決してくれちゃってますからね。」


「コラ芹沢!プライドを持て!」


最早捜査一課のプライドなど何処吹く風かの如く無視して

遅れてやってきた右京とカイトは

隣で伊丹たちの小言をハイハイと聞き流しながらさっそく事件の詳細を尋ねた。


「それで被害者の身元は?」


「被害者の名前は吉野賢三。仕事はTV局のディレクターです。
ただしここ1週間ほど会社を無断欠勤が続いていたそうですが…」


「1週間も無断欠勤…何故そんなことに?」


「その件についてなんですが…今被害者の同僚の方が来てくださっているんですが…」


芹沢に案内されて一人の男が右京たちの前に現れた。

被害者の吉野と同僚だというこの男。名前は小宮という。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:25:22.17 ID:EAF0Yir90


「同僚の小宮です、あの吉野さんは本当に…」


「残念ですがお亡くなりになりました。
それで我々は彼が1週間も無断欠勤をした理由を知りたいのですが…」


「吉野さんが無断欠勤をした理由ですか…
その前に吉野さんの部屋を見せてもらえないでしょうか?」


被害者の吉野の部屋を見せろという小宮。

なにやら事情を察した伊丹たちはこの小宮を吉野の部屋に案内させる。

こうして小宮をマンションに入れるのだが…


「…」


ふと、周囲を見渡すと不審な車がマンションの前を通り過ぎた。

その車のナンバーは[品川 ぬ 23 -38] と記載されていた。

それは以前、右京たち特命係が関わった事件でその関係者が所有する車だった。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:26:12.71 ID:EAF0Yir90


8月25日 PM23:50


さっそく吉野の部屋に入る右京たち。

だがその部屋は取材による資料が散乱していた。

過去に実在されたと思われる超能力者の資料。それに伊豆大島の三原山の資料。

だがそれ以上に驚くべき奇妙なモノに全員が注目した。


「これ…TVですよね?」


カイトが指すようにそれは居間にあるTVだ。

ガムテープによりモニター部分を覆っていたが

それが恐らく何かの拍子で解けたらしくモニター部分が見えていた。

右京たちが調べるとそのTVは特に何か異常があるわけでもない。

故障した形跡もないし機能にもまったく問題はない。

但し、TVのケーブル類を辿ると今時にしては珍しいモノがあった。


「おや、珍しい。これはビデオデッキですよ。」


「あの…警部殿…あまり現場をいじらないでくださいね…」


「ビデオって珍しいですよね。今ならレコーダーが主流なのに?」


「もしかしたらレコーダーにビデオの映像を編集しようとしたのかもしれません。」


「だから現場で勝手な真似をしないで…」


「ちょっとビデオデッキにあるビデオテープを取り出してみましょう。」


「だーかーらー!現場を荒らさないでください!!」


伊丹の怒声も虚しく勝手に捜査を進める右京とカイト。

そんな二人だがビデオデッキから取り出したビデオテープを見ると

そのラベルには『COPY』の文字が記されていた。


「COPYとは…つまりこれはダビングされたモノでしょうか?」


「ダビングってビデオテープの映像を他のビデオテープに写すことですよね。
けどこの部屋にビデオテープはこれだけですよ。一体何から写したんですか?」


カイトの指摘するようにこの部屋にはビデオテープはこの一本しか存在しない。

つまりこのCOPYと書かれたビデオテープがダビングされたモノならば

マスターテープなるモノがなければならないはず。

しかしそんなモノはこの部屋には置いていない。それでは何処に?


「とりあえずこのビデオの映像を見てみましょう。」


「まあビデオデッキもあるしなにより事件に関係しているかもしれませんからね。」


このビデオの映像が事件に関係するかもしれない。

そう考えた右京たちはさっそくビデオをセットして再生ボタンを押そうとした。

だがその時だった。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:27:14.05 ID:EAF0Yir90


「ダ…ダメだぁぁぁぁ!?」


「このビデオを見ちゃダメなんだ!」


「頼む!見ないでくれぇぇぇぇ!!!!」


突然、今まで怯えていた小宮が錯乱したかのように

ビデオデッキに駆け寄ってそれを破壊した。

何度も何度もバン!バン!と床に叩きつけて機能出来なくなるまで壊す小宮。

それから壊したデッキからビデオテープを取り出して

そのテープをビリビリに破いて二度と再生出来ないようにしてみせた。


「ちょっと…アンタ!証拠品に何してんだ!?」


突然のことに怒声を上げる伊丹。

しかし伊丹の怒鳴り声は小宮の耳には届いてはいない。

それどころか彼は次第に妙なことを口走るようになった。


「まさか…嘘だろ…やっぱり噂は本当だったんだ…」


「どうする…次は俺だ…」


「俺の番だ…どうしたらいいんだ…?」


何か得体の知れない存在に恐怖し怯える小宮。

その姿はどう見ても尋常ではなかった。

とりあえず怯える小宮をカイトと芹沢が奥の部屋へと連れて行き

残った右京たちはそのまま捜査を続行した。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:27:48.05 ID:EAF0Yir90


散乱している資料の中にあるファイルが見つかった。

それは15年前に起きたとある事故の新聞記事をまとめたファイルだ。


「15年前に起きた事故のファイルだな。」


「掲載されている記事を読む限りじゃ事件性はない。これは今回の事故とは関係ないだろ。」


伊丹と三浦はそのファイルを一目見た程度ですぐにこの事故との関連はないと判断して

他の方へ移ろうとする。

だが二人が読み終えた後、このファイルを読んだ右京はある発見をした。


「確かに事件性はないように思われます。ですが奇妙ですよ。全員同じ日に死んでます。」


そのことを知ると伊丹たちは右京が持っていたファイルを再び注目した。

それには以下のことが記されていた。


大石智子:17歳 ○月×日 横浜の自宅にて急性心不全で死亡


岩田秀一:19歳 ○月×日 交差点をバイクで信号待ちしていた際に事故により死亡
(なお事故死する直前に急性心不全に見舞われてた模様。)


辻遥子:17歳 ○月×日 恋人の能美武彦とドライブ中に急性心不全で死亡


能美武彦:19歳 ○月×日 辻遥子と同くドライブ中に急性心不全で死亡


そこに記されていたのは15年前に死亡した4人の若者の事故死。

一見、彼らには何の接点もない。

だが同じ日に揃いも揃って事故死を迎えたとなればそれは不自然だ。

さらにこの奇妙な事故死を印象づける記述があった。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:28:37.73 ID:EAF0Yir90


「しかも彼らは死亡した時刻まで同じだそうですよ。」


「また警部殿は勝手に口を出して…確かに奇妙だとは思いますよ。けどねぇ…」


「既に15年前に事故死と断定されてるんです。こんなの調べようがありませんよ。」


確かに伊丹たちも奇妙だと思えた。

だがそれと今回の転落事故が何の関係があるというのか?

そんな疑問を抱いている間に米沢が吉野の遺体の検死結果を報告しに来た。


「たった今検死の結果が出ました。
被害者は転落する直前に心臓発作を起こして急性心不全で亡くなっていたとのことです。」


「また急性心不全ですか。
ファイルにあった被害者たちと同じ死に方…
果たしてこれを偶然で片づけて良いものでしょうかねぇ。」


「しかし急性心不全ということはつまり病気…事故でしょう。」


「そういうことだな。
被害者はベランダに出た途端に急性心不全になりそのまま転落した。
つまり事故という結論以外ないな。」


「現状で考えればそういうことになりますな。
ただそうなると被害者のあの恐ろしいモノを見た形相が気になるところですが…」


「そんなモン知るか。
とにかく事件性が無いならそれに越したことはねえ。
あとは関係者にいくつか事情聴取してそれでこの件は終わりだ。」


米沢の報告を聞いて吉野の転落死を事故として処理する方針を固める伊丹と三浦。

右京も現段階ではその方針を曲げるような証拠を見当たらないので

伊丹たちの判断は妥当だと思い反論することはなかった。

これでこの件はひと段落だとこの場にいる誰もが思ったその時だった。


8月26日 AM0:00


日付が変わったその直後、誰もが予想しえない恐ろしい事態が起きた。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:29:09.02 ID:EAF0Yir90





「 「 「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!?」 」 」




11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:30:39.19 ID:EAF0Yir90


「小宮さん!しっかりしてください!」


「カイトくん!どうしたのですか!?」


「それが…小宮さんが急に苦しみ出して…」


先ほどカイトに連れられて居間で休憩を取っていた小宮が断末魔の悲鳴を上げた。

まるで何か得体の知れない恐ろしいモノに迫られるかのように恐怖する小宮。

彼の全身にその心臓が抉られでもしているかのような痛みが走った。


「うぐ…ぎぎぎぎぎぎ!!!!」


「おいどうなってんだ!こいつ何か持病でも抱えているのか!?」


「そんなこと知りませんよ…とにかく落ち着いて!安静にして!」


この事態に苦しむ小宮をどうにか鎮めさせようと努める伊丹たち。

だがいくら伊丹たちがベテラン刑事たちでも

突然発作を起こした人間に処置を施す術は持ち合わせていない。

だがそんなことを気にしている場合でもなくこのままでは小宮の命が危ない。

三浦は携帯を取り出して急いで救急車の手配をした。

伊丹と芹沢も同じく付き添っているカイトと何度も苦しむ小宮に呼びかけていた。

だがそんな彼らを嘲笑うかのように得体の知れない何かは小宮の命を…


「 「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」 」


壮絶な悲鳴を上げると同時に小宮は心肺停止状態に陥った。

その後、救急車が駆けつけて

小宮の心肺蘇生が施されたがその甲斐虚しく彼の死が確認された。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/21(水) 00:31:21.18 ID:CRJI5WWh0
今度は呪いのビデオの修正か、旧作とどう違うのか読ませてもらいますね
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:31:23.06 ID:EAF0Yir90


8月26日 AM9:00


「 「馬鹿者ォォォォォォッ!!」 」


「刑事が関係者を目の前で死なすとは何事だ!」 


「お前たちは市民を守る警察官だろうが!一体何をやっていた!?」


「お言葉ですが…
小宮さんは急性心不全で亡くなってしまい…我々も手を施したのですが…」


「あまりにも突然だったものでどうすることも出来なかったのです。」


「一応病院の報告だと彼は病死扱いということですけど…」


「当然だ。こちらに落ち度があってたまるか。」


早朝、内村刑事部長の部屋でかつてないほどの怒鳴り声が響いた。

伊丹、三浦、芹沢の三人は昨日発生した吉野賢三の転落事故で

その直後に起きた小宮の病死を内村刑事部長と中園参事官から叱責されていた。

いくら不慮の事故とはいえ小宮の死は明らかに警察側の不始末だ。

何故この事態を避けることが出来なかったのか?

内村は三人にその責任の所在を問い質していた。


「それにしても事情聴取中に急性心不全はあまりにも世間体が悪過ぎます。」


「また謝罪会見か。痛たた…胃が痛くなってしまった。中園やっておけ!」


「えぇっ!またですか!?」


「何だ。不満があるのか?」


今回の事故死は警察の事情聴取中に発生した。

従って警察の責任問題は免れない。

そうなれば当然謝罪会見を行う必要がある。

そのため内村はその嫌な役目をいつも通り部下の中園に押し付けようとしていた。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:33:23.78 ID:EAF0Yir90


「ええ、不満です。」


「杉下…また現場に居たそうだな。今度という今度は…」


「お叱りは後ほど、
今回の被害者である吉野さんは
15年前に急性心不全で亡くなった4人の若者の急性心不全の病死を調査していました。
そして吉野さんご自身も転落する直前に急性心不全で亡くなっている。
それに同僚の方まで…
この一件を事故死で処理するのはあまりにも不可解、調べる必要があると思いますよ。」


「黙れ杉下!捜査に口を挟むな!」


「ちなみに被害者の吉野さんはTV局の人間です。
マスコミがこの事件をただの事故死として扱うとは僕には到底思えませんがね…」


同じく伊丹たちと共にこの場に叱責されていた右京とカイト。

黙れと言われても黙らないよなと心の中で呟くカイトを尻目に話を続ける右京。

本来なら内村は右京の話になど耳も貸したくないが

指摘されたようにマスコミに嗅ぎ回られては面倒なのは確かだ。

そこで部下の伊丹たちに小宮を死なせた懲罰の如くこの事故の捜査を担当させた。

ちなみに特命係はいつものごとく謹慎を命じられたのだが…

全員が退室する直前、内村はもう一度被害者の身元を確認していた。


「ひとつ聞くが転落事故で死んだのは吉野賢三という男なのか?」


「そうですが…それが何か…?」


「いや、なんでもない。下がれ…」


どういうわけか顔色の悪い内村。

右京たちが部屋を退室した後もなにやら思いつめた表情をしていた。

そんな内村の机の上にはある舞台のチラシがあった。

それは城南大学で開催される『仮面』という舞台の公演だった。

あの内村が舞台に興味あるのは少々疑問を抱いたが

さすがに今の興奮状態の内村に問うのは面倒だと思いさっさと退室した。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:34:18.42 ID:EAF0Yir90


8月26日 AM10:00


「よ、暇か?聞いたぞお前ら、また内村部長に怒られたそうだな…って元気ねえな。」


いつものように組織対策5課の角田課長が特命係の部屋にコーヒーを求めてやってきた。

しかしその特命係では…


「…ハァ…」


「落ち込んでますねぇ…」


「そりゃ落ち込みますよ、小宮さんは俺の目の前で亡くなったんですから…」


内村の説教を終えて特命係の部署に戻った右京とカイト。

だがカイトの心中は決して穏やかではない。

何故なら今回もう一人の被害者である小宮は自分の目の前で亡くなった。

それを思えばカイトもその責任を感じずにはいられなかった。


「それにしても吉野さんが調べていた事故は奇妙極まりないですねぇ。
被害者が全員、同じ日、同じ時刻に亡くなっていた。
偶然にしてもこんな確率はありえません。
被害者は何故こんな亡くなり方をしたのでしょうか?」


「そう言われても…けど改めて聞くと一連の事故ってオカルトっぽいですよね。」


ついカイトが口にしてしまったオカルトという言葉。

警察官たる者がオカルトなど馬鹿げた話を信じるわけにはいかないのだが…

だが被害者たちの死因を知るとやはりオカルトと疑うのも無理はなかった。

そんな時、コーヒーを飲んでいた角田課長は

右京が鑑識の米沢から拝借してきた

15年前の事故の資料にある被害者の名前を見てあることに気づいた。


「岩田秀一と能美武彦…この二人何処かで聞いたことある名前だな…何だっけ?」


「本当ですか?」


「ちょっと待ってろ。調べてくる!」


何か思い出したかのように部屋を退室して調べごとを始める角田。

その間に右京たちはある場所へ向かうことにした。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:35:06.12 ID:EAF0Yir90


8月26日 AM11:30


ここは被害者の吉野と小宮が勤めているTV局。

亡くなった二人の同僚から二人の近況を聞き込みしようとしたのだが…


「あ、また特命係!」


「まったく神出鬼没ですな警部殿…」


既に一課の伊丹たちが同僚の聞き込みを行っていた。

ちなみに彼らが聞き込みを行っているのは吉野たちと同じ部署に所属する早津という男。

しかし早津は伊丹たちの事情聴取に対してあまりにも尋常ではない怯え方をしていた。


「吉野さんと小宮さんの死について
何か心当たりはないか同僚のあなたにお伺いしたいのですが…」


「…」


「無駄ですよ警部殿。俺たちが聞いてもずっとこの黙りが続いてますから…」


そんな怯える早津に伊丹たちの事情聴取はあまり捗ってはいなかった。

しかしその様子は昨日吉野の死を知った小宮と同じ怯え方だ。

あの時、目の前で小宮に死なれたカイトは彼が同様の怯え方をしていると確信した。

だがそれが何を意味するのか?
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:36:17.01 ID:EAF0Yir90


「失礼ですが亡くなられた吉野さんと小宮さん、それに早津さん。
あなた方三人はこの数日の間に何か奇妙なことに巻き込まれたのではありませんか?」


怯え続ける早瀬に右京はそんな質問をしてみせた。

今の早瀬の様子からして死んだ吉野と小宮と一緒に何かをしたことだけは確かだ。

しかも昨日の事態を察するに命の危険が関わっていると考えるべきこと。

だからこそ早津はこうして尋常ではない怯え方をしているのではないか。

そしてそのことを察した右京に早津は飛びつくかのように助けを求めた。


「吉野…小宮…あぁ…刑事さん助けてください…俺まだ死にたくないんですよ!」


「ちょ…ちょっと急にどうしたんですか!?」


「あれを見ちまった俺にはもう時間が無い…ダメだ…もうすぐ…俺は死ぬ…」


「落ち着いてください小宮さん!
そうならないためにも我々警察が絶対にあなたのことをお守りしますから!」


「ダメだ…やっぱり俺たちは呪われちまったんだ!?」


「呪われた?一体何にですか?」


呪われた。そう何度も訴える早津。

いきなりのことで何の話だかわからない伊丹たち。

この現代に呪い?馬鹿らしい。それに呪われたとして一体何に呪われたというのか?

思わず呆れ返ってしまった。

だが右京はそんな早津にこんな質問をしてみせた。


「それはひょっとしてビデオテープが関係しているのではありませんか。」


「何故それを?まさかあなた方もビデオを見たんですか?」


「いえ、僕たちはあのビデオを見ていません。
ですがあなたのその怯えた表情…そして小宮さんが死の直前に見せた不可解な行動…
それらを推理すればあのビデオに何かあると察することは出来ますよ。」


「…これから話すこと、刑事さんたちは信じてくれますか?」


「あなたが話すことが真実ならば我々はそれを信じるだけですよ。」


早津は小さく頷き怯えながらも語り始めた。

すべての始まりは今から15年前のことだった。

当時、このTV局に勤務していたディレクターの『浅川玲子』がある取材を行っていた。

それは当時の若者たちの間に広まっていた都市伝説に関する取材だった。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:37:37.53 ID:EAF0Yir90


「呪いのビデオ…それを浅川さんは追っていました。」


「呪いのビデオって…まさか…あの!?」


「おや、カイトくんはご存知なのですか?」


「まあ噂でしか聞いたことありませんけどね。
俺が中学生くらいの頃でしたね。その当時変な噂が流行っていたんですよ。」


それからカイトは右京に呪いのビデオについて語りだした。


【呪いのビデオ】


今から15年前の90年代中頃のことだ。

その当時、誰かが囁き出したとされる呪いのビデオの噂が中高生の間で広まり出した。

呪いのビデオを観た者は1週間以内に呪い殺される。

それもビデオを見た日の1週間後の同時刻に…

そんな都市伝説が巷で出回った。

だがそれはほんのひと時の間だけで気づけば誰もがその噂を忘れていた。

それに現代ではその呪いに使用されるビデオテープ自体が使われなくなった。

そのため今ではそのような噂は人々から忘れ去られていたはずなのだが…
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:38:20.23 ID:EAF0Yir90


「15年前…俺たちは…
浅川さんの頼みでその件を調べていたんです。
そしたら…暫くして浅川さんが死んだって話を聞いて…その取材は中断されました。」


「その浅川さんは呪いのビデオの所為で亡くなられたのですか?」


「いえ、彼女は呪いのビデオを見て1週間経ったのに生きていたんです!
けどその後すぐに交通事故に合って死んだと聞きましたが…
それから15年後…俺たちも呪いのビデオを見たんです。
まずは 吉野さんが先に18日に見て…
次に翌日の19日に小宮さんが…それに俺が22日に…
順番通りなら次に死ぬのは俺なんですよ!」


次に死ぬのは自分の番だ。そう叫びながら怯える早津。

今の早津の話しが確かならば吉野と小宮は1週間前に呪いのビデオを観ていたことになる。

つまり呪いのビデオとやらの噂は本当だということになるのだが…


「あの…ちょっといいですか…警部殿。」


「今の話を聞く限りだと…その…捜査一課でオカルトは扱っていないというか…」


「まあその…我々も忙しいので…
今回は特命係にお任せした方が良いんじゃないかというのが僕たちの判断でして…」


「つまりは今の話を聞いて馬鹿らしくなって俺たちに丸投げってわけですか?」


「あのなぁ!捜査一課はオカルト専門外なんだよ!
まあ呪いのビデオとやらで死体でも出たら呼んでください。それでは!」


伊丹たちはこれ以上事件性が無いと判断し、

後は特命係に一任するといいさっさと帰ってしまう。

無理もない。こんなオカルトみたいな話をまともに聞く方がどうかしている。

それに今回の発端となった出来事も15年前ときている。

殆どの関係者が亡くなっていてそんな昔の話を今更検証することなど不可能に近い。

そんなわけでさっさと退散する伊丹たち。

残った右京とカイトは引き続き早津から事情を聞く事にしたが…
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:38:59.96 ID:EAF0Yir90


「あの人たち…俺が言ったこと…
全然信じてなかったですよね…
あなたたちも馬鹿なこと言っているとそう思っていますよね…」


「いや…そんな事ないッスよ!俺ら信じてますから!」


不安になる早津を落ち着かせるカイト。

だがカイト自身も今の話を聞いて些か半信半疑だ。

伊丹たちの言うようにこんな話をまともに信じる方がどうかしている。

そんな当然のような反応を見せるカイトだが…


「あの…試しに何でもいいから俺を写してもらえますか? そうすればわかりますから…」


「わかりました、カイトくん。ちょっとやってみてください。」


「了解です。」


右京の指示を受けてカイトはスマフォを取り出して怯える早津の画像を撮った。

だが写った早津の画像は明らかに奇妙なものだった。

何故ならその画像に写った早津の顔は奇怪なまでに歪んでいた。

まるでこれが呪いに掛かった証拠でもあるかのように…


「それ…ずっとなんですよ…
呪いのビデオを観てからずっとそんな画像になって…
最初に気付いたのがTVのカメラに自分が映った時でした。
カメラの不調だなって思ってたんですけど…他の人はそんなことなくて…俺だけ…
ねぇ…俺やっぱり呪われているんですよ!刑事さん助けてよ!!」


「落ち着いてください!こんな画像の顔に靄が掛かったくらいじゃ人間死にませんから!」


「何言ってんだ!
呪いのビデオに関わってもう何人もの人間が死んでるんだぞ!
アンタらこの現状を見てもまだ信じられないってのかよ!?」


自分は呪われている。

人は死んでいるし自分もこうして呪われている証拠がある。

それなのに何故信じてくれない?そうカイトを責め立てる早津。

そんな最中、右京は冷静さを失いつつある早津に質問をした。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:39:44.05 ID:EAF0Yir90


「ひとつよろしいでしょうか。」


「ハァ…ハァ…一体何ですか?」


「先ほどあなたが仰った15年前に事件を調べた浅川さんは
1週間経っても死ななかったそうですがそれはつまり呪いを解いたということですよね。
つまり呪いを解く方法は必ずあるとそういうことじゃありませんか?」


早津の話しが正しければ15年前に浅川玲子は呪いを解いたはず。

つまり浅川玲子は呪いの解き方を知っている。

そう右京は早津に助言してみせた。


「そうだ…浅川さんが1週間経っても生きてたから…
てっきり俺たちはあのビデオはインチキだと思ったんです。
けど実際はこうして人が死んで…浅川さんは恐らく呪いを解く方法を知っていたんだ!
それさえわかれば俺も死なずに済むのに…」


「あの…亡くなった浅川さんは呪いのビデオに関して何か残してなかったんですか?」


「それが浅川さんは…事件のことは一人で調べていたらしく…
呪いを解いた直後に彼女は突然失踪して当時の資料は全部失われたんです。
そしてその時にオリジナルの呪いのビデオも焼いてしまったのでもう何も残ってません。」


「オリジナル?
それでは吉野さんの部屋にあった
あの『COPY』のラベルが貼ってあった呪いのビデオはダビングされたものなのですか?」


「当時、浅川さんか紛失しないようにと何本かテープをダビングしてたらしいんです。
詳しくは知りませんがその1本を恐らく吉野さんが入手したんだと思います…
そうだ…ビデオだ!あの呪いのビデオにこの呪いを解く鍵があるはずだ!
刑事さん、吉野さんが持っていたビデオはどこにあるんですか!?」


あのビデオにこの呪いのビデオの謎を解く鍵がある。

右京たちにビデオの在り処を求める早津。

だがそのビデオは昨日小宮によって修復不可能なまでに破壊された。

つまりビデオの謎を解きたくても肝心のビデオが失われてしまったのでは成す術がない。


「そんな…もうダメだ!あのテープが無ければ俺は…死んじまうよ!?」


「落ち着いてください。
我々があなたの呪いを解く方法を必ず調べます。あのテープの内容を教えて頂けますか?」


それから早津はテープの内容について細やかに説明をした。

彼はそのテープを一度しか観ていない。

それにも関わらずその内容を鮮明に覚えていた。

そしてその映像にあった場面をひとつも漏らすことなく右京とカイトに伝えてみせた。

彼が見た映像は以下の通りだ。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 00:40:21.96 ID:EAF0Yir90


冒頭のメッセージ


『終いまできけ、さもないと亡者に喰われるぞ。』


一人の老婆が画面の向こうにいる誰かに向かってこう話しをしている。

『その後、体はなあしい?しょーもんばかりしているとぼうこんがくるぞ。
いいか、たびもんには気ぃつけろ。うぬは、だーせん、よごらをあげる。
あまっこじゃ、おーばーの言うこときいとけぇ。じのもんでがまあないがよ』

それは何処かの地方で使われている方言。しかしその意味が何なのかはわからない。


鏡に映る髪を結う着物を着た30代後半〜40代前半の女。

次にまた鏡に人が映るがそこには先ほどの着物の女性ではなく

髪が長くて白い服を着ている少女が映る。


何かに苦しむ人々の姿。白い布を被り指を指す男性。


新聞記事、噴火についての内容が記されている。


サイコロが振られる音。そして『嘘吐き!嘘吐き!』と人々から罵声される。


空が映るシーン。だがそれは何故か丸く映っている。


人の眼、何度か瞬きをしてその瞳に映る『貞』という文字。


井戸、周りは木々に覆われた森で井戸はかなり古く一部分が欠けている特徴のあるモノ。


最後にまたメッセージが出る。


『これをきいた者は、1週間後のこの時間に死ぬ運命にある。死にたくなければ…』


以上が早津の観た呪いのビデオの映像の内容だった。

それから早津はペンを取り画用紙に数枚の絵を描き出してそれを右京たちに見せた。

丸い何かから見下ろす一人の男、鏡、髪を結う女、髪の長い少女、新聞記事、噴火、

苦しむ人々、老婆、サイコロ、罵倒する人々、白い布を被る男性、井戸の光景、

そして『貞』と文字が書かれた絵。

正直どれも意味不明なモノばかりだ。

だがそれを見た右京とカイトは何かおぞましいモノを肌で感じる感覚に襲われた。

まるで今この瞬間、自分たちにも呪いが振りまかれたというそんな気分に陥った。
385.28 KB Speed:0.1   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)