千歌「白球を追いかけろ!」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/18(日) 02:01:31.25 ID:ZgYk+aKC0
初投稿です
色々と拙い点があるかもしれませんが、よろしくお願いします


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1521306090
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/18(日) 02:03:29.46 ID:ZgYk+aKC0
 第一部



千歌(私はずっと、退屈な日々を過ごしていた)

千歌(色々なことをしてみたけど、どれも長続きしない)

千歌(途中で壁にぶつかると、つい投げ出してしまうから)

千歌(そんな風に何もできない普通怪獣のまま、私は高校二年生になっていた)

千歌(でも、そんな私に運命の出会いが訪れた)

千歌(幼馴染の野球少女、曜ちゃんの応援で行った東京で存在を知った、美しい9人の女子野球選手、μ’s)

千歌(ありとあらゆる野球に関する知識を持つデータの鬼、小泉)

千歌(圧倒的な快足で塁を奪っていく、星空)

千歌(人を惹きつけるスター性を持つ天才、西木野)

千歌(あらゆるプレーを寸分の狂いもなくこなす精密機械、園田)

千歌(柔軟な身体を生かしてあらゆる方向へ打ち分ける打撃を持つ魔術師、南)

千歌(小柄ながら堅実な守備と技術の高さが光る、矢澤)

千歌(恵まれた体格から生み出される圧倒的なパワーを持つ、東條)

千歌(走攻守三拍子揃った一流選手、絢瀬)

千歌(そしてそんな最強のチームをまとめるキャプテンにしてエース、高坂)

千歌(動画で見た彼女たちの姿は、私に今までになかった刺激を与えてくれた)

千歌(私はそれからすぐに決断した、野球を始めることを)

千歌(彼女たちのように輝きたかったから)
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/18(日) 02:08:30.90 ID:ZgYk+aKC0
−浦の星女学院・グラウンド−


曜「相変わらず、千歌ちゃんは思い込んだら一直線だね」

千歌「むぅ、何だか馬鹿にされてるみたいなんだけど」

曜「でもさ、ちょっと刺激を受けただけでいきなりキャッチボールをしようなんて」

千歌「ちょっとじゃないよ、凄いんだよ!」

曜「そんなに?」

千歌「うん! なんかこう、キラキラと輝いてて!」

曜「まあ、今まで何度誘っても野球をやろうとしなかった千歌ちゃんをそこまで惹きつけるんだから、μ’sって人たちはよっぽど凄いんだね」

千歌「曜ちゃん、μ’s知らないの!?」

曜「いや、名前ぐらいは知ってるけどさ。そこまで詳しくは」

千歌「え〜、女子野球をやってるのに」

曜「そうかなぁ。案外選手のことなんて知らないもんだよ」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/18(日) 02:10:43.32 ID:ZgYk+aKC0
千歌「あの人たちを知らないなんて、曜ちゃんは人生損してるよ」

曜「大丈夫、私は千歌ちゃんがいれば幸せだよ」

千歌「何それ、変なの」

曜「でもさ、本当に私は野球部に入らなくてもいいの?」

千歌「だってクラブチームと掛け持ちじゃ大変でしょ」

曜「まあそうかもしれないけど」

千歌「日本代表候補にもなってる渡辺曜ちゃんだよ。無理させて何かあったら大変だよ」

曜「でも……」

千歌「本当に困ったらお願いするからさ」

曜「……分かった。でも困ったことがあったら言ってね」

曜「名前も貸すし、助っ人ぐらいはするから」

千歌「ありがとう! 曜ちゃん大好き!」

曜「もう、千歌ちゃんってば〜」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/18(日) 02:20:52.49 ID:ZgYk+aKC0
−十千万−


千歌(でも実際問題、部員を集めるのは大変なんだよね)

千歌(部として認められるのには最低5人、試合をするには9人)

千歌(在校生のあてはほとんどないし、もうすぐ新入生が入ってくるとはいえ、野球部のない浦の星に入ってくる人間に期待するのは難しい)

千歌「せめて経験者の果南ちゃんを誘えればなぁ」

千歌(でもお父さんが怪我したせいで、実家のスポーツショップも大変そうだし……)

千歌「もう、上手くいかない!」

美渡「千歌、うるさいよ!」

千歌「ご、ごめんなさい」

美渡「まだ野球? 今さら始めるなんて無理だから、いい加減諦めな」

千歌「ソフトボールの経験はあるし……」

美渡「そもそもこんな田舎で人が集まるわけないでしょ」

千歌「そうかもしれないけど……」

美渡「馬鹿な事考えている暇があったら手伝いでもしな、全く――」

千歌(むう、痛いところばっかり突いてきて)

千歌(新入生も相当少ないらしいし、人集めは難しいのかも)

千歌「うぅ、前途多難だなぁ」

千歌(まあ嘆いても仕方ない。まずは勧誘頑張ろう!)
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/18(日) 02:24:04.11 ID:ZgYk+aKC0
−入学式当日・校門前−


千歌「野球部〜。大人気、女子野球部ですよ〜」

モブ「……」スルー

曜「君も一緒に白球を追いかけてみよう!」

モブ「あ、いえ、私は」

曜「そこの君、ぜひ野球部に!」

モブ「すいません、私はもうバスケ部に」

ようちか「……」

曜「全然人集まらないね」

千歌「うぅ、曜ちゃんどうしよう」

曜「とにかくもう少し声かけてみるしか」

千歌「そうだね。あ、ちなみに今のは『曜』ちゃんとどうし『よう』をかけた――」

曜「お、あの子たちに声かけてみよう!」

千歌「無視しないでよ!」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/18(日) 02:27:32.01 ID:ZgYk+aKC0
曜「すいませ〜ん、ちょっといいですか」

???「ピギィ!」

??「は、はい。何でしょうか」

曜「私たち野球部の者なんですけど、野球に興味ありませんか?」

??「いや、おらは別に……」

曜「おら?」

??「いや、私は……」

???「あ、あのぉ」

千歌「もしかして、野球に興味あるの!」

???「部員はどれぐらい居るんですか?」

千歌「まだ1人なの、だから部員募集中でさ」

???「なるほど……」

千歌「だからあなたみたいに有望そうな子に入ってほしいんだよ!」

???「ピ」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/18(日) 02:30:58.21 ID:ZgYk+aKC0
千歌「ピ?」


???「ピギャ――――!」


千歌「うわっ」

曜「な、なに!? どうしたの」

??「す、すいません、ルビィちゃんはプレッシャーに弱くて……」

曜「いやいや、これってそんなレベルじゃ……」

ルビィ「うわぁん、おねぇちゃーん!」

??「る、ルビィちゃん!? ちょっと待つずら〜」


曜「……なんか凄い子たちだったね」

千歌「でもルビィちゃんって子、凄い逃走スピードだよ。またスカウトしに行かなきゃ」

曜「あのメンタルだと、なかなか苦労しそうだけど……」

千歌「でもさ、せっかく興味を持ってくれてたんだから」

曜「そうだね――そういえばさ、自己紹介で野球のスイングについて語りだした子のうわさ、知ってる?」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/18(日) 02:34:01.03 ID:ZgYk+aKC0
千歌「ううん、知らない」

曜「一年生なんだけどね。凄い勢いで話してたらしくて、途中で恥ずかしくなったのか教室を飛び出しちゃったんだって」

千歌「へぇ、それならその子は野球好きなんだよね。スカウトに行けばもしかしたら」

曜「私もそう思ったんだけどさ。その後学校に帰ってこなかったみたいで」

千歌「そうなんだ、それは残念だなぁ」

曜「まあ、どこかで誘う機会はあるでしょ」

千歌「そうだね、引きこもりにでもならない限り、学校に来るわけだから――」


???「そこのあなた、少しいいかしら」

ようちか「!」

千歌「もしかして入部希望ですか!」

???「いえ、このチラシの件でお話がありまして」

千歌「ふぇ」

曜「! ヤバいよ千歌ちゃん、この人生徒会長の黒澤ダイヤじゃん」

千歌「へっ」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/18(日) 02:39:00.05 ID:ZgYk+aKC0
―生徒会室―


ダイヤ「なるほど、野球部を作る為に、無許可で勧誘などをしていたと」

千歌「は、はい」

曜「ち、千歌ちゃん、無許可だったの!?」ヒソヒソ

千歌「いやー、ばれたら怒られると思ってさ……」ヒソヒソ

ダイヤ「……部の設立には最低でも5人の部員が必要だとは分かってますよね」

千歌「は、はい」

ダイヤ「ちなみに今の部員数は?」

千歌「え、えっと、私と」

曜「私だけです……」

ダイヤ「ほぅ、なるほど」

千歌「どうしよう曜ちゃん、生徒会長怒ってるよ!」ヒソヒソ

曜「い、今からでも謝った方が」ヒソヒソ

千歌「だ、だよね――あ、あの」



ダイヤ「素晴らしいですわね」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/18(日) 02:41:56.41 ID:ZgYk+aKC0
ようちか「へっ」

ダイヤ「私も常日頃から嘆いていたのですよ。浦の星に野球部がない現状を」

千歌「は、はぁ」

ダイヤ「いつの日か部の設立を夢見ていましたが、ただでさえ生徒数の少ない学校。現実的に難しいと思っていました」

ダイヤ「しかし貴女のような、ルールを破ってでも野球部を作りたいという高い志を持った人がいるなら別です」

千歌(高い志?)

ダイヤ「生徒会長という立場上、大手を振って助けることはできませんが、出来る限り部員集めに協力しましょう」

千歌「本当ですか!」

ダイヤ「ええ、今回の件についても生徒会長権限で不問とします」

千歌「ありがとうございます!」

曜「い、いいんですか、それ」

ダイヤ「ええ、もちろんです」

ダイヤ「だってあの渡辺曜が所属しようとしている部なのですから」

曜「へっ」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/18(日) 02:45:08.25 ID:ZgYk+aKC0
ダイヤ「貴女の事はよく知っています。その類稀な野球センスに抜群の身体能力」

ダイヤ「ショートとピッチャーをハイレベルにこなし、一部では高坂穂乃果の後継者とまで言われていますね」

曜「い、いやいや、私はそんなたいした選手じゃないというか」

千歌「よ、曜ちゃんってそんなに凄い選手だったんですか」

ダイヤ「ええ、貴女は知らなかったんですか、とても親しいようなのに」

千歌「も、もちろん上手なことは知ってましたけど」

曜「というか生徒会長、詳しいですね。野球好きなんですか?」

ダイヤ「ええ、もちろんです。プロからアマまで、男女関係なくあらゆるデータを網羅してますわ」

曜「そ、それはまた」

ダイヤ「特にμ’sと出会ってからは女子の高校野球に夢中でして。毎年のように東京でおこなわれる全国大会には駆けつけていますの」

千歌「す、すごいですね」

ダイヤ「当然です、私を誰だと思っているのですか!」ドヤァ

曜「……ねえ千歌ちゃん。もしかして生徒会長って野球オタク?」

千歌「みたいだね」

ダイヤ「とにかく、2人共頑張って部員を集めてください。応援してますから」

ようちか「は、はい!」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/18(日) 02:52:00.61 ID:ZgYk+aKC0
―帰り道―


千歌「いやー、無事で済んで良かったね」

曜「そうだね、理解のある人で助かったよ」

千歌「帰り際、曜ちゃんにサインと握手を要求したのはびっくりしたけどね」

曜「あはは、でもあそこまでされると悪い気はしないよね」

千歌「いいなぁ、私もあんな風にサインを求められてみたい」

曜「千歌ちゃんならできるよ。昔、ソフトボールは得意だったでしょ」

千歌「そんなに甘いものなのかなぁ」

曜「大丈夫だよ!」

千歌「でも……」

曜「じゃあ諦める?」

千歌「もちろん諦めない!」

曜「だよね!」


千歌「でもちょっと困ったよね。ダイヤさん、完全に曜ちゃんを部員として誤解してたし」

千歌「もし曜ちゃんが幽霊部員だってばれたら怒られるかなぁ」



曜「……それなら、正式に入っちゃえばいいかな」

千歌「え?」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/18(日) 02:54:06.24 ID:ZgYk+aKC0
曜「私ね、昨日クラブチーム辞めてきたの」

千歌「な、なんで。曜ちゃん有名選手なんでしょ、そんなこと――」

曜「いいんだよ、部があれば野球ができなくなるわけじゃないし」

千歌「でも、まだ正式な部になれるかも分からないのに」

曜「大丈夫だよ、千歌ちゃんなら」

千歌「……」

曜「夢だったの、千歌ちゃんと一緒に野球をやることが」

曜「その為には、片手間なんて中途半端じゃ駄目、そう思ったから」

千歌「曜ちゃん……」

曜「なんて、ちょっと重いかな?」

千歌「う、ううん。そんなことない」

千歌「曜ちゃんが一緒にやってくれれば、何とかなる、そんな気がする!」

曜「千歌ちゃん……」

千歌「生徒会長の協力もあるんだから、きっとできる!」

曜「うん!」

千歌「よーし、明日からまた勧誘頑張ろー!」

曜「おー!」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/18(日) 02:59:48.97 ID:ZgYk+aKC0
 第一部完

補足
現時点でのパワプロ的に例えた能力(女子野球基準)

千歌:弾道2 ミE パE 走E 肩E 守E 捕C 
   調子安定 怪我B チームプレー○ ムード○

曜:弾道3 ミB パC 走A 肩A 守B 捕D
 :球速132 コンF スタB カーブ5 スライダー1
   積極打法 積極盗塁 チャンスB エラー 併殺 人気者
   テンポ○ 乱調 奪三振

(女子野球の平均球速は120に満たないと考えてください)
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/18(日) 06:14:21.53 ID:n/h3NlnzO
期待
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 13:40:11.15 ID:d4sVAPrC0
すごい楽しみ
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 18:33:37.60 ID:Wl8cuTOG0
 第二部



―十千万前・海岸―


千歌「あーあ、集まらないなぁ、部員」

千歌(始業式から一週間。せっかく曜ちゃんが入ってくれたのに、その後勧誘で来た部員はゼロ)

千歌(ルビィちゃんには逃げられっぱなしだし、他に目ぼしい子は見つからないし)

千歌「どうしよう〜」

千歌(せっかくダイヤさんがグラウンドの都合を付けてくれて、明日から練習できるのに)

千歌「どっかに都合よく経験者でも落ちてないかなぁ」



 バンッ



千歌「んっ、あれは……」



??「あぁ、また変なところに……」 パシッ
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 18:36:17.79 ID:Wl8cuTOG0
千歌(珍しいな、防波堤で壁当てをやってる人なんて)

千歌(酷いコントロールだけど、その後の捕球は完璧なのが、凄いギャップ)


??「もう、これじゃあ私はまた……」


千歌(見慣れない子だけど、同年代? この辺の子だったら浦女の生徒の可能性も――)


曜『自己紹介でスイングについて語りだした――』


千歌(そういえば例の子を一度も見かけてないけど、もしかしたらこの子なのかな)

千歌(声をかけるだけかけてみようか)


千歌「す、すいませーん」

??「へっ、わ、私?」

千歌「はい!」

??「な、なんでしょうか」

千歌「えっと――」

千歌(あれ、でもよく考えたら浦女の生徒じゃなかったら恥ずかしいかも)

千歌(そもそも合っていたとしても、こんなところでいきなり勧誘したら嫌がるかな)

??「あ、あの……」

千歌「キャッ」

??「キャッ?」

千歌「キャッチボール、しませんか?」

??「はぁ」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/25(日) 00:02:39.20 ID:mpIDCroJ0
―――――
――――
―――


千歌「へぇ、梨子ちゃんって言うんだ」シュッ

梨子「うん、千歌ちゃんと同じ、高校二年生」パシッ

千歌「高校はどこなの?」

梨子「東京のね、音ノ木坂って高校だったんだけど」シュッ

千歌「東京、凄いね!」パシッ

千歌(やっぱり他校生じゃん、勧誘しなくてよかった〜)

千歌「なんで内浦に来たの?」シュッ

梨子「え、えっと、その……」パシッ

千歌「あっ、何か言いにくい理由だった?」

梨子「う、ううん、そういうわけじゃないんだけど……」

千歌「梨子ちゃん?」

千歌(地雷踏んじゃったかな。都会の子は繊細って言うからね)

千歌(でも音ノ木坂かぁ、どこかで聞いたことあるような――)


千歌「!」

千歌「もしかして、音ノ木坂ってμ’sの母校!」

梨子「う、うん」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/25(日) 00:06:43.72 ID:mpIDCroJ0
千歌「女子野球部の名門だよね!」

梨子「まあね」

千歌「そこの選手ってことは、もしかして梨子ちゃん野球エリート!?」

梨子「……元、ね」

千歌「元?」


梨子「ねえ千歌ちゃん、イップスって知ってる?」

千歌「イップス?」

梨子「主にスポーツ選手が患う、精神的な病気。簡単に言えば、当たり前に出来ていた動作が、急にできなくなるの」

千歌「……もしかして、さっきの壁当て」


梨子「私ね、結構有望な投手だったの」

梨子「周囲からは天才だって言われて、実際に結果を残して、名門の音ノ木坂に進学して」

梨子「でもね、ある日突然、投げられなくなった」

梨子「それまで自然とできていた投球動作が、できなくなって」

梨子「必死に治そうとしたよ。でもね、考えれば考えるほど、症状は悪化して」

梨子「投手を辞めてね、外野手に転向しようともしたの。でも外野からの送球ですら、まともに投げられなくなって」

千歌「でも、今はキャッチボールできてたよね」

梨子「普通に会話ができる程度の距離ならね。でももう少し離れるだけで、それさえもできなくなる」

梨子「私はね、天才から練習もまともに出来ないお荷物になっちゃったの」

千歌「そんな……」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/25(日) 12:12:01.09 ID:mpIDCroJ0
梨子「結局ね、野球部は辞めちゃった」

梨子「学校も音ノ木坂って言ったけど、もうすぐ転校予定なの」

千歌「そうなんだ……」

梨子「周囲からは止められたけど、あそこにはもう私の居場所はなかったから」

千歌「だったら、何でまだ壁当てをしてるの」

梨子「諦めきれないから。小さい頃からやってきた野球の道を」

千歌「苦しい想いをしてまで、続けるんだ、野球」

梨子「そうね」

梨子「例え普通に投げられなくなっても、私は野球が大好きだから」

千歌「……なんか素敵だね、そういうの」

梨子「千歌ちゃんはどこかの野球部員?」

千歌「うん」

梨子「それならどこかで対戦することもあるかもね。転校する予定の学校、この辺りだから」

千歌「そうなんだ、楽しみだね!」

千歌(浦の星だったら嬉しいけど、廃校の噂もある学校にはこないだろうしなぁ)
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/25(日) 12:19:52.49 ID:mpIDCroJ0
梨子「そういえば千歌ちゃんって、ポジションはどこなの?」

千歌「え、えっと……」

千歌(よく考えたら決めてなかったような)

千歌(向いているところ――昔から曜ちゃんの投球練習に付き合うことはあったし)

千歌「たぶん、キャッチャーかな」

梨子「たぶん?」

千歌「私ね、実は本格的に野球を始めたのは最近だから、ちゃんと決まってなくて」

梨子「えっ、でもその割に上手よね」

千歌「ソフトボールの経験はあったし、幼馴染に凄い上手な子がいて、時々練習に付き合ったりはしてたから」

梨子「なんか、特殊な環境ね」

千歌「うん」

梨子「何で今さら、本格的に始めようと思ったの?」

千歌「始めた理由はね、出会ったから。凄くキラキラと、輝いていた人たちに」

梨子「輝いていた人たち?」

千歌「梨子ちゃんも音ノ木坂出身なら知ってるでしょ。μ’sの存在」

梨子「もちろん、伝説のOGだもん」

千歌「私は最近になってね、μ'sの存在を知ったの」

千歌「それで動画を観ている内に、私もこんな風に輝きたいと思って」

梨子「分かるよ、その気持ち。私もμ'sに憧れてたから」

千歌「おぉ、仲間だね!」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/25(日) 12:29:34.91 ID:mpIDCroJ0
梨子「千歌ちゃんはあれかな。穂乃果さんのファンでしょ」

千歌「な、なんで分かったの?」

梨子「うーん、雰囲気が少し似てたからかな」

千歌「雰囲気?」

梨子「そんなにはっきりとした根拠があるわけじゃないけどね」

千歌「それなら梨子ちゃんは? やっぱり穂乃果さんのファン?」

梨子「私は、西木野真姫さんかな」

千歌「あー、何かそれっぽい。自分で天才とか言っちゃう辺りとか似てるもんね」

梨子「べ、別に自分で天才って言ってるわけじゃないわよ」

千歌「えへへ、分かってるよ」

梨子「もうっ」


千歌「でもさ、ちゃんとした理由もあるんだよ」

梨子「え、そうなの?」

千歌「真姫さんがさ、梨子ちゃんが言ってたイップスみたいな病気持ちだったって知ってる?」

梨子「ううん、初めて聞いた」

千歌「彼女もね、梨子ちゃんみたいに天才って呼ばれてた」

千歌「でも家が大きなお医者さんで、ご両親からはいつも野球をやることを反対されてたの」

千歌「それが結構辛かったみたいで、精神的に追い詰められて、中学の頃、気づけばボールが投げられなくなっちゃったんだって」

梨子「……まるで私みたいね」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/25(日) 12:32:46.66 ID:mpIDCroJ0
千歌「でもね、高校に入って、何かのきっかけで立ち直れたみたい」

梨子「その理由は?」

千歌「えへへ、実はよく知らなくて」

千歌(この前ダイヤさんから教えてもらった話だからなぁ。ちゃんと聞いておけばよかった)

梨子「それならなんでこの話を?」

千歌「えっとね、私が言いたいのは、きっとイップスは治る病気だってこと」

梨子「……」

千歌「大丈夫だよ、真姫さんは治ったんだから、不治の病ってわけじゃないよ」

千歌「梨子ちゃんなら、また投げられるようになるよ!」

梨子「……変な人ね、千歌ちゃんって」

千歌「あはは、よく言われる」

梨子「でもありがとう、おかげで少し元気が出た」

千歌「そう? 力になれたなら良かったよ!」

梨子「――じゃあ私は行くわね、お父さんたちが待ってると思うから」

千歌「うん――あ、そうだ」

梨子「どうしたの?」

千歌「せっかくだし、サイン頂戴!」

梨子「……本当に、変な人」クスッ
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 23:30:40.91 ID:yEieoGN10
―浦の星女学院・二年生教室―


曜「おはヨ―ソロー!」

千歌「おはよう!」

曜「おお、今日は元気だね!」

千歌「昨日ちょっといいことがあってね」

曜「いいこと?」

千歌「実はね、音ノ木坂の子と話したんだ」

曜「東京の? そりゃまた珍しいね」

千歌「うん、それも野球部の子でね〜」

曜「へぇ、私も会ってみたかったな」

千歌「あとね、さっき話したら、むっちゃん達が入部はできないけど、試合の時に助っ人をしてくれるらしくてさ」

曜「本当!?」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 23:38:17.38 ID:yEieoGN10
むつ「うん!」

よしみ「まあ私ら、全然上手くはないけどさ」

いつき「2人共頑張ってるみたいだし、それぐらいは協力しようかなーって」

曜「3人とも、ありがとう!」

千歌「一応全員経験者みたいだよ」

曜「おぉ、それは頼りになるね」

むつ「あはは、期待はしないでよ」

曜「でもこれで、あと4人揃えば試合ができる!」

千歌「ふふふ、形になってきたね〜」


 ガラッ


教師「おーい、全員席につけー」

千歌「ありゃ、先生来ちゃったね」

曜「むぅ、いいところだったのに」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 23:41:05.31 ID:yEieoGN10
教師「今日は転校生を紹介するぞ〜」


 ザワザワ


千歌「こんな時期に珍しいね、曜ちゃん何か聞いてる?」

曜「ううん、全然」


 ガラッ


梨子「……」


千歌「あ、あの子は……」

梨子「えっと、東京の音ノ木坂高校から転校してきた、桜内梨子です」

梨子「みなさんよろしくお願いします」ペコリ

千歌「梨子ちゃ――」

曜「梨子ちゃん!」

梨子「よ、曜ちゃん!?」

千歌「ふぇ」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 23:45:05.92 ID:yEieoGN10
――――
―――


―放課後―


千歌「2人は知り合いだったの?」

曜「うん、中学の時に年代別代表の合宿でね」

梨子「まさか曜ちゃんがいるなんて、ビックリしたよ」

曜「私の方こそ。最近見かけなかったから、心配してたんだよ」

梨子「あはは、ちょっと色々あってね」

千歌「梨子ちゃん、曜ちゃんと同じぐらい野球が上手だったんだね」

梨子「いやいや、私と曜ちゃんじゃ格が違うよ」

曜「えー、そんなことはないと思うけど」

梨子「でも千歌ちゃんの野球が上手な幼馴染って曜ちゃんのことだったんだね」

千歌「あはは、まあね」

梨子「それなら経験が浅いのに上手なのも納得ね」


曜「そういえばさ、こっちではどこのチームに入るの?」

梨子「一応ね、学校の野球部に入ろうと思ってるんだけど」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/01(日) 23:48:16.92 ID:yEieoGN10
曜「マジで! じゃあ私とチームメイトじゃん!」

梨子「あれ、曜ちゃんってどこかのチームに所属してなかった?」

曜「最近部活に専念するために辞めたのさ」

梨子「もしかして、浦の星って強豪校?」

千歌「ううん、まだ部員が2人で正式な部にもなってないよ」

梨子「えっ」

曜「あれ、知らなかった?」

梨子「え、ええ。入学前に会った生徒会長さんからはちゃんとした野球部があるって聞いたんだけど……」

千歌(ダイヤさん、また無責任なことを……)

曜「まあその辺はおいおい考えるとして――とりあえず今日から練習だよ!」

千歌「あっ、部員集めに必死で忘れてたけど、そうだよね!」

曜「梨子ちゃんも部に入るつもりだったなら練習着ぐらい持ってきてるでしょ」

梨子「う、うん」

曜「じゃあ早速行こう! 久しぶりに梨子ちゃんの球を打ってみたいし!」

梨子「え、えっ」

千歌「よーし、出発だ!」


梨子「ま、待ってよ2人共〜」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/02(月) 21:37:17.67 ID:VqmKz2Bj0
―グラウンド―


曜「さて、アップも終わったところで――早速勝負だよ、梨子ちゃん!」

千歌「いやいや、もっと基礎的な練習とかさ。3人しかいないんだし」

曜「いいじゃん! せっかく初練習日なんだから楽しいことやりたい!」

千歌「気持ちは分からなくもないけど……」

千歌(そもそも梨子ちゃんはイップスで投げられないんだよね)

曜「梨子ちゃんはピッチャーで、私がバッターね!」

梨子「う、うん、分かった」

曜「千歌ちゃんはキャッチャーよろしく!」

千歌「えっ、でも――」

梨子「私は大丈夫だよ、千歌ちゃん」

千歌「投げられるの?」

梨子「まあ、やってみる」

千歌「でも……」

梨子「何かね、千歌ちゃんに励ましてもらってから、投げられるようになった気がするのよ」

千歌「そうなの?」

梨子「うん、だからお願いね」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/02(月) 21:42:57.18 ID:VqmKz2Bj0
曜「一打席勝負ね!」

梨子「う、うん」

千歌(梨子ちゃん、どんな球投げるんだろう)


梨子(うぅ、緊張する)

梨子(でも懐かしいな、マウンドの感触)

梨子(やっぱりマウンドに立つと不安かも)

梨子(でもキャッチボールをした時の感触なら大丈夫、私は投げられる)

曜「よーし、こい!」


梨子「んー」ググッ

千歌(確かに昨日より綺麗なフォーム)

梨子「えいっ」シュッ

千歌「おっ、本当にストライクが――」


カッキーン!


梨子「あー、これは……」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/02(月) 21:49:17.42 ID:VqmKz2Bj0
曜「よっしゃ、ホームラン!」

千歌「容赦なさすぎるよ!」

曜「えー、でも真剣勝負だし」

梨子「あはは、流石曜ちゃんだね」

曜「ところでさ、今のストレート?」

梨子「うん」

曜「梨子ちゃん、球遅くなった?」

梨子「うーん、ちょっと色々あって」

千歌「てか誰もいないのにあんなに飛ばして、ボールはどうするのさ」

曜「あー……取ってくる?」

千歌「どこにいったのか分からないよ〜」


 おーい


千歌「ん、ボールが飛んでいった方から何か」


??「おーい」


曜「おっ、あの声は」

??「千歌、いくよ〜」


 ヒューン


梨子「わっ、ボールが」パシッ
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/02(月) 21:54:00.58 ID:VqmKz2Bj0
??「ごめーん、めっちゃ逸れたー」タッタッ

千歌「もぅ、果南ちゃんは相変わらずノーコンだねぇ」

果南「あはは、それはもう病気みたいなもんだからさ」

梨子「でもあんなところから、凄い肩……」

果南「捕ってくれて助かったよ、ありがとう」

梨子「い、いえ」

曜「珍しいね、学校に来るなんて」

果南「いやー、ダイヤに野球部の備品を頼まれてさ」

曜「あー、それでもう道具があったんだね」

果南「2人が部を作ったなんて驚いたけど、うち的には助かったよ。こんな大型注文貰っちゃってさ〜」

千歌「部員も揃ってない部とは思えない部費の使い方だねぇ」

果南「あ、そっちの子はもしかして新入部員」

千歌「うん。桜内梨子ちゃん。転校生で、凄い上手なんだよ!」

果南「へぇ、それは期待できる。よろしくね!」ハグッ

梨子「え、ええ」

曜「果南ちゃんのハグは挨拶みたいなもんだから、気にしないで」

果南「あっ、ヤバい。早く戻らないと時間無くなる――じゃあね!」タッタッ

千歌「バイバイ〜」

曜「またね〜」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/02(月) 21:59:26.59 ID:VqmKz2Bj0
梨子「……豪快な人だったね」

曜「あはは、梨子ちゃんとはだいぶ性格が違うよね」

千歌「でも良い人だよ、野球も大好きだし」

曜「昔はプレーもしてたよね」

千歌「最近は家の手伝いが忙しくてあんまりみたいだけど」

梨子「あの果南さんって人、上手なの?」

千歌「……まあ、実力はあるんだけど」

曜「上手かと言われると、微妙かも」

梨子「どういうこと?」

曜「まあ、いつかプレーを見ればわかるよ」

梨子「何だか気になるね」

千歌「まあまあ、今は練習中だし」

曜「そうそう、じゃあ練習再開――あれ?」

千歌「どうしたの?」

曜「いや、今人影が見えたような……」


???「ピギッ」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/14(土) 01:54:17.05 ID:Fi6QlKB7O
続きまだかな〜
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/19(木) 03:20:32.06 ID:Wk78mcc80
―公園―



ゲーム画面『祝・日本一!』


花丸「よしっ」

花丸(これで最高難易度、高卒ルーキー縛りのペナントも優勝)

花丸(いんたーねっと?の使い方がよく分からないから対人戦はほとんどできないけど、CPUにはもう負ける気がしない)

花丸(早くルビィちゃんに報告しないと)


花丸「ルビィちゃん、早くこないかなぁ」

花丸(マルは昔から、目立たない子だった)

花丸(いつも隅でゲームばかりしていて、小学校に入った時からパ○ポケに夢中で、パ○プロやプロ○ピにも手を出して)

花丸(気づけば一人でゲームばかりやっていた)

花丸(でもね、ある日いつものように公園でゲームをしていた時、出会った)

花丸(一人きりでレッスン本を見ながら練習をする子と)

花丸(出会ってすぐに意気投合して、それ以来放課後にいつも2人で練習したり、ゲームをしたりして過ごしていた)

花丸(今日みたいに、野球を観に行くルビィちゃんと別行動をすることもあるけど――)
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/19(木) 03:21:59.75 ID:Wk78mcc80

ルビィ「花丸ちゃん!」


花丸「あ、ルビィちゃん」

ルビィ「やっぱり野球部できてた!」

花丸「えっ、部員集まってたの?」

ルビィ「ううん、見かけたのは3人だけ。でも練習始めてたよ」

花丸「本当に作っちゃったんだ、凄いねぇ」

ルビィ「あぁ、これで母校の応援ができる〜」


花丸「応援? プレーじゃなくて?」

ルビィ「駄目かな?」

花丸「でもやりたいんでしょ、野球」

ルビィ「だけどほら、ルビィ、プレッシャーに弱すぎるし」

花丸「そうだけど」

ルビィ「それにね、お姉ちゃんに悪い気がして」

花丸「ダイヤさんに?」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/19(木) 03:24:58.88 ID:Wk78mcc80
ルビィ「お姉ちゃんが、昔は野球をやっていたのは知ってるでしょ」

花丸「うん」

ルビィ「本当はね、今もやりたいはずなの」

ルビィ「でも家を継ぐ長女だから、お母さんから禁止されちゃってて……」

花丸「でも、ルビィちゃんはやってもいいんだよね」

ルビィ「駄目だよ。お姉ちゃんができないのにルビィだけなんて、可哀想だもん」

花丸「ルビィちゃん……」

ルビィ「それにね、ルビィはこうやって花丸ちゃんと2人で野球をやっている時が一番楽しいから」

花丸「マルと?」

ルビィ「2人でキャッチボールして、ノックを受けて、バントの練習をして。休憩時間になったら一緒にゲームで遊ぶ」

ルビィ「それだけでも、十分楽しいと思わない?」

花丸「……うん、そうだね」


ルビィ「じゃあ早速練習始めようよ! 早くしないと日が暮れちゃう!」

花丸「うん!」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/19(木) 03:26:23.46 ID:Wk78mcc80
花丸(ルビィちゃん、やっぱり良い子)

花丸(それに、きっと現状に満足しているのは本当)


ルビィ「今日は何をする予定だっけ」

花丸「ノックだよ」

ルビィ「あ、そうだったね。じゃあお願いできるかな」

花丸「うん!」

花丸(でも狭い公園で、2人で出来る練習は限られてる)


花丸「ルビィちゃん、いくよ〜」

ルビィ「はーい」


花丸「それっ」キン

ルビィ「ほっ」パシッ

花丸「ほい」キン

ルビィ「やっ」パシッ

花丸「あっ、ミスった」キーン

ルビィ「わっと」タタッ――パシッ
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/19(木) 03:27:33.53 ID:Wk78mcc80
花丸(マルは下手だから変なところにノックをしちゃうこともあるけど、ルビィちゃんは全部捕ってくれる)

花丸(プレイ経験がないから間違っているかもしれないけど、守備や走塁だけ見れば、相当レベルは高いはず)


ルビィ「もっと強くていいよ!」

花丸「分かった!」カキーン

ルビィ「うん、そんな感じ!」パシッ


花丸(それなのに精神的な問題でプレーできないなんて、勿体ないよ)

花丸(このままじゃ駄目、やっぱりマルは――)


42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 02:37:30.77 ID:PBjY6MVz0
―翌々日・浦の星女学院―




ルビィ「助っ人?」


花丸「うん。千歌さんたちに聞いてみたらね、やっぱり試合に出れる人数が足りないんだって」

ルビィ「うゅ、三人しかいなかったもんね」

花丸「だからね、野球経験のあるルビィちゃんに、せめて試合だけでも出てくれないかって」

ルビィ「で、でも……」

花丸「やっぱり嫌?」

ルビィ「だ、だって、昨日も言ったけど――」


花丸「ダイヤさんにもね、お願いされたんだ」

花丸「試合ができないなんて嫌だから、ルビィちゃんにも協力してほしいって」

ルビィ「お姉ちゃんが……」

花丸「それにね、ルビィちゃんがいてくれないと、困る人がいるんだよね」

ルビィ「困る人?」

花丸「実はね、マルも助っ人として参加することになったんだ」

ルビィ「マルちゃんが!?」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 02:39:08.41 ID:PBjY6MVz0
花丸「うん」

ルビィ「な、なんで……」

花丸「やってみたかったから、それじゃ駄目?」

ルビィ「駄目じゃないけど……」

花丸「マルね、1人だと心細いんだよ」

花丸「今日も一度プレーを見てみたいからって、練習に参加することになってるの」

花丸「マルは初心者だから、ルビィちゃんがいてくれると心強いんだけど」

ルビィ「マルちゃん……」


花丸「友達としてのお願い、駄目かな?」

ルビィ「……分かった」

花丸「ルビィちゃん!」

ルビィ「助っ人は分からないけど、今日練習だけでも出てみるよ」

花丸「ありがとう! 今度ちゃんとお礼はするから」ギュー

ルビィ「ま、マルちゃん、痛いよ」



花丸(上手くいった!)

花丸(あとはこれでルビィちゃんを――)
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 02:42:20.83 ID:PBjY6MVz0
―グラウンド―



千歌「やあやあ、よく来たね!」ガシッ


ルビィ「ピギッ」

曜「話は花丸ちゃんから聞いてるよ、とっても上手なんだって」

ルビィ「そ、そんなことは……」

千歌「いやぁ、助かるよ、ほんと。まさに期待の星!」

ルビィ「う、うぅ」

花丸「あ、あのその辺にしておかないと――」


ルビィ「ま、マルちゃぁん」ヒシッ

花丸「よしよし、落ち着いて」


曜「ありゃ、後ろに隠れちゃった」

梨子「千歌ちゃん、ルビィちゃん怖がってるよ」

千歌「あはは、ごめん。つい興奮しちゃって」

ルビィ「い、いえ、すいません、ルビィの方こそ……」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 02:44:04.39 ID:PBjY6MVz0
花丸「ルビィちゃん、がんばルビィだよ」

ルビィ「う、うん!」


曜「もう練習できそう?」

ルビィ「はい!」

千歌「よーし、じゃあ練習開始だ!」



―――
――




花丸「も、もう駄目ずらぁ……」

花丸(ランニングの時点でもう限界、運動不足にもほどがあるよ……)


ルビィ「だ、大丈夫?」

花丸「大丈夫じゃ……ない……」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 02:46:10.63 ID:PBjY6MVz0
曜「あはは、最初はそんなもんだよね」

梨子「でもルビィちゃんは元気ね」

ルビィ「あっ、はい。一応体力トレーニングは欠かさずやってるんで」


曜「練習どうする? 花丸ちゃんが回復するまで一回休憩にしようか?」

花丸「い、いえ、マルの事は気にせず続けてください」

花丸「動けるようになったら戻りますから」

千歌「分かったよ、じゃあ続けようか!」

曜「了解ヨ―ソロー!」

ルビィ「ま、マルちゃん。ルビィ1人じゃ……」

花丸「大丈夫だよ、ルビィちゃんなら」

曜「ルビィちゃん、ポジションはどこなの?」

ルビィ「え、えっと」


ルビィ(決まってないけど、ルビィの適性的には……)

ルビィ「たぶん、セカンドです」
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 02:48:29.73 ID:PBjY6MVz0
曜「おっ、セカンドかぁ。私と二遊間だね!」

ルビィ「えっ」


ルビィ(曜さんと、あの有名人と二遊間なんて)

ルビィ(そんなの絶対に目立っちゃうよ……)

ルビィ「あ、あの、やっぱり――」


曜「よし、早速ノックしてみよう!」

ルビィ「ピッ」

曜「私が打つから、ルビィちゃんはセカンドに入って」

曜「返球はキャッチャーに千歌ちゃんにすればいいから」

梨子「あっ、じゃあ私は後ろで逸れたボールを回収しておくね」

曜「ありがとう〜」

ルビィ「ぴぃ……」


花丸(ルビィちゃん、だいぶ追い詰められちゃってる……)
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 02:50:17.90 ID:PBjY6MVz0
ルビィ(うぅ、緊張する)

ルビィ(よく考えたらグラウンドで野球をするのは始めてだよぉ)


曜「じゃあ行くよ〜」

ルビィ「は、はい」


曜「それ」キン

ルビィ「あっ」ポロッ

曜「もう一丁!」キン

ルビィ「あぅ」ポロ


ルビィ(駄目だ、緊張で身体が上手く動かない)


梨子「ルビィちゃん、落ち着いて!」

千歌「次は捕れるよ!」


ルビィ(……注目されてる)

ルビィ(嫌だ、そんなにルビィを見ないでよぉ……)
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 02:53:53.93 ID:PBjY6MVz0
―――
――




ルビィ「ハァ、ハァ」


花丸「ルビィちゃん……」


千歌(ここまで数十球打ったけど、ルビィちゃんは一球も捕れてない)

千歌(最初はグローブには当てられていたのに、今はかすりもしない)

千歌(それどころか、動きさえほとんどなくなって……)


曜「どうしよう、もう止めた方がいいかな」

千歌「で、でも、流石に一球も捕れないまま止めるのも」

曜「……あの様子だと、いつまでたっても捕れないかもしれないよ」

曜「私はむしろここで止めてあげた方がいいと思う」

千歌「……そうだね、このままだとルビィちゃんも――」



花丸「ま、待ってください!」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 02:56:07.96 ID:PBjY6MVz0
千歌「!」


曜「花丸ちゃん、もう回復したの?」

花丸「はい」


花丸「あの、マルもルビィちゃんと一緒にノックを受けさせてください」

曜「えっ、でも花丸ちゃんは初心者だったよね?」

花丸「だ、大丈夫です。ルビィちゃんと一緒に練習はしてましたから」

曜「いや、でも」

千歌「いいんじゃないかな」

曜「千歌ちゃん?」

千歌「本人がやりたいっていうんだから」

千歌「どっちにしろ、試合になればボールは飛んでくるんだし」

曜「まあ、千歌ちゃんが言うなら」

花丸「ありがとうございます!」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 02:59:50.92 ID:PBjY6MVz0
   ※



ルビィ(頭がグルグルして、前も見えない)

ルビィ(そういえば、ボールが来なくなったなぁ)

ルビィ(終わったのかな。一球もボールが取れないまま)


ルビィ(……)


ルビィ(まあ、いっか)

ルビィ(やっぱりルビィには向いてなかったんだよ、野球は――)



花丸「ルビィちゃん!」



ルビィ「……マルちゃん、どうしたの?」

花丸「一緒にやろう!」

ルビィ「一緒に? でもマルちゃんはノックを受けたことなんてほとんど――」

花丸「ふふん、これでもゲームではファインプレーを連続してるから!」

ルビィ「もぅ、ゲームと現実の世界は違うよ」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 03:01:13.46 ID:PBjY6MVz0
花丸「それでもイメージはできてるずら!」

ルビィ「ふふっ、そっかぁ」



千歌(あ、ルビィちゃんの表情が和らいできた)

千歌(本当に仲良しだね、あの2人は)


曜「順番にいくよ!」

花丸「はい!」

曜「花丸ちゃん!」キン

花丸「わっと――あれ」



 ドスッ



曜「あら?」

ルビィ「ピギィ!」


花丸「――――!」ジタバタ
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 03:04:40.07 ID:PBjY6MVz0
梨子「顔面直撃……、あれは痛そうね……」


千歌「よ、曜ちゃん、強く打ち過ぎだよ!」

曜「ご、ごめん、大丈夫?」

花丸「だ、大丈夫れす」


ルビィ「駄目だよぉ、ちゃんとボールを見なきゃ」

花丸「あはは、やっぱりゲームとは違うね」

ルビィ「もう、マルちゃんは意外とやんちゃさんなんだから」

花丸「むぅ、いけると思ったんだけどなぁ」




曜「大丈夫そうなら――ルビィちゃんいくよ〜」

ルビィ「あ、はい!」


曜「それ!」カキーン


曜「あっ、また強く――」


ルビィ「!」パシッ


曜「えっ、あれを捕った!?」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 03:06:43.80 ID:PBjY6MVz0
ルビィ「千歌さん!」シュ


千歌「えっ」



 ドスッ



曜「ち、千歌ちゃん!?」

千歌「し、しまった、ボーっとしてた」


ルビィ「だ、大丈夫ですか!?」

千歌「あはは、大丈夫大丈夫……」


千歌「それよりも――凄いよルビィちゃん!」

ルビィ「ふぇ?」

曜「そうだよ、あんな私でも捕れるか分からないボールだったのに」

ルビィ「そ、そうですか?」


曜「今の感じで続けて――あ、でも次は花丸ちゃんか」

花丸「あ、マルはぶつかったところが痛むんで、少し休んでもいいですか?」

曜「分かった――じゃあルビィちゃん、続けよう!」

ルビィ「はい!」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 04:17:31.15 ID:PBjY6MVz0
―帰り道―



花丸「うぅ、体中が痛いずら……」

ルビィ「あはは、守備の後も自打球当てたりしてたもんね」

花丸「あんなにふんわりとしたボールを打つのが、こんなにも難しいなんて」

ルビィ「公園じゃ打撃練習とかはできなかったから、仕方ないよ」

花丸「でもその分、バントをしてきたからそこは褒められたよね〜」

ルビィ「えへへ、ルビィも『バント職人』なんて褒められちゃったし」


花丸「2年生の先輩たち、凄かったよね」

ルビィ「そうだよね! 千歌さんも始めたばかりなのに大体のプレーをこなせてたし」

花丸「梨子さんも流石は元名門校って感じの華麗な動きで」

ルビィ「何といっても曜さん! 動き一つ一つが、まさにスターって感じだった!」

花丸「だよね! まるで別世界の人みたいだった!」


ルビィ「凄かったなぁ、今日は」

花丸「2人じゃできない事もたくさんできて、楽しかったね、本当に」

ルビィ「うん!」

花丸「だからこれからも――」




ダイヤ「2人とも、お疲れ様です」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 04:36:55.56 ID:PBjY6MVz0
ルビィ「!」ビクッ


花丸「……ダイヤさん」

ダイヤ「ルビィ、少しいいですか」

ルビィ「えっと、その」

花丸「……ルビィちゃん」

花丸「マルは待ってるから、行ってきなよ」

ルビィ「だけど……」

花丸「大丈夫だから、ね」

ルビィ「う、うん」







ダイヤ「練習、楽しかったですか」

ルビィ「……うん」

ダイヤ「そうでしょうね、あんなに楽しそうに話していたんですもの」

ルビィ「……」
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/22(日) 04:38:46.70 ID:PBjY6MVz0
ダイヤ「話は花丸さんから聞きました」

ルビィ「マルちゃんから?」

ダイヤ「私に気を遣って、野球をしなかったそうですね」

ルビィ「そんな、ことは」


ダイヤ「否定しなくても大丈夫です、知っていましたから」

ルビィ「えっ」


ダイヤ「貴女は自分よりも他人を優先することができる、とてもやさしい子」


ダイヤ「私に見つからないよう、陰に隠れて一生懸命努力してきましたよね」

ダイヤ「いつもは花丸さんと2人で練習し、1人でも素振りや体力トレーニングを欠かさない」

ダイヤ「貯めたお小遣いを使ってバッティングセンターに通ったり、試合を観に行ったりしている事」

ダイヤ「隠しているつもりかもしれませんが、全部知っていますよ」

ルビィ「お姉ちゃん……」
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