唯「奇跡も、魔法も、あるんだよ」

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1 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:46:33.21 ID:Kkr9l5xs0
0 プロローグ


絶望の鐘が鳴る。
地球最後の太陽が堕ちる。

「最後の変身だね」

私は光に包まれる。
希望と絶望に包まれた、そんな光に。


"私たちは、朝を嫌った"




これは、奇跡の物語。
私がずっと私であって、彼女がずっと彼女であった物語。

1人で見上げる灰色の空に、私は高く手を伸ばした。


これは、もしもの物語。
ただの、唯の青春の物語。
夢みたいな。

……そんな現実の物語。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1521297992
2 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:47:52.79 ID:Kkr9l5xs0
けいおんのクロスSS『白金の空』第一部です。

全四部、第一部はまどマギとのクロスオーバーです。
全13万字。

シリアス、若干グロテスクありですのでご了承を。
よろしくお願いします
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/17(土) 23:48:55.42 ID:5hIRECXl0
>全13万字。

久々に逸材が来たな
4 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:49:02.39 ID:Kkr9l5xs0
1.

学校の鐘が鳴る。気持ちのいい日差しにやはり眠気も黙っていないようで、私はうとうと夢見心地だった。

「こーら唯! さっさと部室行くぞー」

りっちゃんは私をがくがくと振り回すと、いつもみたいにイタズラっぽく笑った。私もえへへと笑ってしまう。

「澪ちゃんとあずにゃんは?」

「澪は当直だ。梓は知らんっ」

ふーん、そう私はふらつく頭で立ち上がる。重たいキー太を持ち上げて、部室へと向かうのだった。
5 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:50:05.86 ID:Kkr9l5xs0
2.

「りっちゃーーん」

ドラムのお手入れをしてるりっちゃんは、私のほうを見ずに空返事をした。

「あずにゃん遅いねーー」

「ん、梓なら職員室で見たぞ?」

澪ちゃんも澪ちゃんで、ノートと睨めっこしている。新しい歌詞作りだろうか。

「えーじゃあ、私職員室見てこようかな」

「普通に待ってればいいんじゃないか? まだ言うほど経ってないけど」

「でもね澪ちゃん、私はひまなのです」

「じゃあ歌詞作り手伝ってくれないか……?」

私はだらーっと長椅子の上で横になっている。あずにゃんがいないとひまだなぁと思いながら、それに何かがおかしいような気がしながら。

「私、いってくるよ!」

澪ちゃんが何か言っていた気がするけど、聞き終わる前に私は部室を駆け出ていた。

6 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:50:44.75 ID:Kkr9l5xs0
3.

「あー! あずにゃん!」

廊下の向こうからあずにゃんがやって来るのが見えて、私はブンブンと手を振った。

「職員室に何か用だったの?」

「え、いや特には……」

あずにゃんは少し気まずそうに手に持っていた紙を隠した。

54点

そんな赤い文字がちらりと見えた。
私が気づいたことに気づいたようで、あずにゃんは目線を下げて小さな声で、

「ごめんなさい」

そう言った。
追試なんて誰にでもある。あずにゃんにも筆の誤りなんだよ、そう冗談を言うのはなんとなく憚られた。


「唯はさ……」


目が合った。彼女はぱくぱくと口を動かすけれども、何か諦めたみたいに口調を変えた。

「唯は、ここまで何しに来たの?」

「あずにゃんを探しに来たのです! 早く通し練習したかったんだよ〜」

私はあずにゃんの腕をやんわりと掴んで引っ張った。

3日後は2年目の桜校祭。
ほんのりと日差しの暖かい、穏やかな秋のことだった。
7 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:51:15.73 ID:Kkr9l5xs0
4.夜

「おねーちゃーん! ごはんできたよー!」

「今行くよー!」

ハンバーグだっ、匂いが鼻に広がって来て身体が軽くなる。

「おお〜! おいしそうだねぇ」

「えへへ、さっ食べよ?」

いただきますと手を合わせ、味わってハンバーグをかきこんだ。
しばらく憂は私に今日の出来事を尋ねて、普段と対して変わらない日常の語りを楽しそうに聞いてくれた。

「あ、そうだお姉ちゃん」

憂は席を立って音楽プレイヤーを持って来て差し出した。

「今回の学園祭には間に合わなかったけど、これ。結構自信作なんだ。後で聞いてくれる?」

後で、というのは食事中だからだろう。私は最後の野菜を口いっぱいに詰め込んでお皿を下げると、面白そうに笑う憂にしたり顔をして、イアホンを耳につけた。

♪〜♪〜

「今回はね、ちょっと落ち着いた曲にしてみたの。ほら、『ごはんはおかず』が結構ポップな曲だったからね」

私は少し新鮮だった。こんなゆっくりとした、こういうのをバラードって言うのかは分からないけれど、そんな曲を憂が作ったのは初めてだったからだ。

「どうかな……?」

「すごいよ……さすが憂!」

うーいー、と私は抱きつく。
本当はこの曲も入れたいんだけど、3日後じゃ流石に間に合わないよね。

「いつもありがとね」

「うんん、お姉ちゃんのおかげで私、いつも頑張れてるから」

面と向かってそう言われると、とても照れる。私はパソコンの前のイスに座って、

「この曲、あずにゃんにも聞かせてあげよ! いいよね?」

「もちろん! え、でも梓先輩? 澪先輩じゃなくて」

「もちろん後で澪ちゃんにも見せるけど、まずギターの梓先輩の意見を聞きたいっす!」

後でキー太にも教えてあげよう、私は溢れるものを抑えきれずに、あずにゃんに向けてのメールを打ち込んでいったのだった。
8 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:51:54.58 ID:Kkr9l5xs0
5. past  律side 1年生4月

「入部希望者を待つ!!」

「……待つの?」

「待ぁつ!」

澪はいつもみたいに困ったように笑っている。強引に連れて来たのは普通ならまずいのかもしれないけど、私は今までこうやって澪と過ごしてきたんだ。澪もなんだかんだはっきりしてるところもあるから、本当に嫌なら自分から出て行くだろう。

それから間も無く、

「あの〜見学したいんですけど……」

「…!! 軽音部のっ?!」

「い、いえ。ジャズ研の……」

「軽音部に入りませんか?! 今人数が足りなくて!」

「え、あの……」

「後悔は……させません!!」

「おい律! そんな誘い方したら迷惑だろ?」

澪が割って入る。私がブーブー言って、澪が鞄を担ぎながら何か言おうとしたその時、

「あ、あの!」

人付き合いの苦手そうな、このきれいな黒髪のツインテールの子は意を決したように私に詰め寄った。

「一年生、ですよね? 私と同じで。他に部員いないんですか?」

「そう、後2人集めないと廃部になっちまうんだよ」

じゃあ、と彼女は視線を泳がせて、多分澪のことを見て、しばらく考えたあと、

「……練習」

「ん?」

「練習、真面目にやっていきますか? 私、もっともっと上手くなって、大勢の人の前ですごい演奏をしてみたいんです!」

勢いに気圧された。澪もびっくりしているようだった。

「ももももちろん! がっつり練習していくぞ!」

彼女は澪を見た。期待と不安がごちゃごちゃになった目だ。

「ほんとう……ですか?」

「まあ私はまだ軽音部に入るなんて言ってなゴフゥ」

鳩尾に腹パンした。

「ま、まあやるからには本気だよな。少なくとも私は。律の方は不真面目だけど、ドラムに関しては毎日楽しそうにやってるから平気だと思うよ」

彼女の表情が少し明るくなった。また少し考えた後、

「分かりました。私も仲間に、えっと……仲間に、いれてください!!」

やった! そう私は彼女の手を取って笑いかけた。

「私はドラムの田井中律! でこっちがベースの秋山澪」

「私は中野梓です。担当はギターを少々……」

よろしく、と澪とも握手した。澪も軽音部参加を決めてくれたようだ。

「後は……」

私は未来の入部希望者を想像して、

「キーボード、だな!」

走り出した。梓と澪の手を引っ張って。まずはファーストフード店にでも行って梓と話をしよう。それから後1人について考える。

「お、おい引っ張るなって!」

軽音部は動き出す。私たちは廊下を駆け抜けた。


……曲がり角で同じクラスの人とすれ違った。その人は金髪のきれいな、お嬢様みたいな少女だった。
9 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:53:52.25 ID:Kkr9l5xs0
>>3 人が見てくれていると思うと心強いです
どうぞゆっくりしていってください
10 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:54:20.08 ID:Kkr9l5xs0
7.放課後  Butterfly Effect

「どうなの、かな」

「ん、なにが?」

今日の軽音部の活動も終わって先ほどりっちゃんや澪ちゃんと別れ、またあずにゃんと二人きりになった。太陽はほとんど沈んでしまって、暗いオレンジが西側の空を包み込む。

「ほら、昼休みの……きゅうべえの」

「あーあれのことね」

私の中で答えは出ている。だからこそ議論は不要だ。

ーー魔法少女になってくれたら、なんでも一つだけ願いを叶えてあげる。

ーー魔法少女になったら、魔女と戦う使命を背負うことになる。

これだけで根拠は充分。こんな夢みたいな話は滅多にない。他にはない。きっとこれを逃したら、一生こんなチャンスは来ないだろう。だから、


「私は絶対に魔法少女になんかならないよ」

あずにゃんがびっくりしてポカーンとしている。そんなに変なこと言ったのかな。

「え、だって唯は面白そうって言ってたよね。だから私は、唯がなるなら一緒にならなきゃって思ってたんだけど」

あずにゃんはどこか安心したような顔で私の方を見ていた。私も彼女の方に向くと、

「だってね、私はこの日常が願いなんだもん。あずにゃんとこうやってお喋りしたり、りっちゃんや澪ちゃんと練習したりするの、すっごく楽しいもん」

中学の頃を思い出す。クラスみんなと仲良くなって、みんなによくしてもらいながら、でも本当の友達は和ちゃんしかいない。遊びに行ったりしたのは、ほどんどが和ちゃんだけだった。

軽音部を始めてから、私は変わった。和ちゃんはそんなに変わってないと言ってたけど、正確には変わったのは私ではなく周りだって、つまり環境が変わったんだって言ってたけれど、私の願いはこの環境がずっと続いてくれることだったと思う。

「だからあずにゃんにもお願い。絶対に魔法少女にはならないでね。私の一生のお願いだから」

彼女のぬくもりはいつも私を安心させてくれた。りっちゃんと澪ちゃんは仲がいいので、自然と私はあずにゃんと二人きりになることが多くなる。和ちゃん以来初めての二人きりの友達。和ちゃんもあずにゃんも、ずっと私と遊んでくれるのかな。

「分かったよ。唯がそこまで言うんなら、私もそうする」

信号が赤になった。いつも私たちが別れる交差点だ。二人して信号を待っている。

なんだか手を離したくなくて。反対側の歩行者信号が点滅し始めたのが嫌で、私は強く手を握った。

「じゃあ、また明日」

青になり、あずにゃんは歩き出した。私はそっと手を離す。笑えてたかな、あずにゃんも私に笑いかけてくれた。

その時。

その時、彼女は固まった。

物凄い音が迫っていた。

私は思い切り手を伸ばす。彼女も辛うじて手を伸ばす。




しかしその手は届かなくて。


目の前を、トラックが突き通って行った。
11 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:54:58.97 ID:Kkr9l5xs0
8.

夜、だった。

夢をみていた。多分、幸せな夢を。

「ゆ、唯……」

「澪ちゃん! あずにゃんは!?」

「落ち着け唯!」

近くにいた澪ちゃんが私に近づいてくる。私は起き上がろうとしたけれど、上手く動くことができなかった。

「あ、あずにゃんが……あずにゃんが!」

「落ち着け!!」

澪ちゃんは私を抱きしめた。頭を撫でてくれた。いつの間にか流れていた涙が澪ちゃんの肩を濡らす。

息が苦しい。身体が震える。息が苦しい。息ができない。

澪ちゃんが何か耳元で囁いていたけど、何を言っているのかは分からなかった。


5分くらい経った後、呼吸は少し落ち着いた。澪ちゃんは私を離して、言い聞かせるように、私の手を握って言った。

「唯はすぐ気を失って、その時に地面に頭をぶつけたんだ。その怪我は大したことない」

そんなことはどうでもいい。

「あずにゃんは……?」

「……梓は…………」

澪ちゃんはもう一度私を抱きしめた。
それが答えだ。
これが現実だ。

「……即死、だったそうだ」

何も見えなかった。何も聞こえなかった。

何も、何もかもいらなかった。

あずにゃんのいない、この世界は。
12 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:55:34.79 ID:Kkr9l5xs0
9.  6日後

「……唯、唯」

雲はゆっくりと流れる。ゆっくりと時間も流れていった。あの出来事が6日前だということが嘘かのようだ。私はなんとか、しばらくぶりに学校に登校してきた。

「唯、次の美術、頑張れる?」

和ちゃんはいつもより優しく話しかけてくれる。和ちゃんもあずにゃんと仲良かったから、辛いと思うのに、私の気遣いをしてくれる。
クラスのみんなもそうだ。あずにゃんは私とはクラスが違うから、あずにゃんを直接知っているクラスメイトはあまりいないので、みんな軽音部の、特に私の心配をよくしてくれた。

私は和ちゃんに頷くと、私の頭を撫でてくれた。

「あんまり無理しちゃだめよ? 辛い時はみんなに頼ればいいし、逃げたい時は私に頼ればいいから」

私はまた頷いた。ありがとう、そう心の中でお礼を言った。

その後の美術の時間、授業中に発作的に泣き出した私を、和ちゃんはすぐに教室から連れ出して、泣き喚く私をずっと抱きしめてくれた。

13 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:56:06.56 ID:Kkr9l5xs0
10.

「お姉ちゃんどこ行くの?!」

憂が玄関に走ってきた。今は夜11時。普通は出かけない時間かもしれない。

私が黙っていると、憂は真後ろまで来ていた。

「変なこと……考えてないよね」

私の袖を軽く掴む手を私は握り、私は笑って頷いた。

私は憂の渡してくれたコートを来て、なんとなく歩き出した。


14 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:56:37.58 ID:Kkr9l5xs0
11.

…………不細工な顔。

コンビニのトイレで手を洗っていた。
酷いクマ、半開きな目、ボサボサな髪、唇もガサガサだ。
クラスのみんなが心配するのも当たり前だよね。

適当にリップクリームや漫画を買ってコンビニを出た。

「お客さん!」

店員の若い女性が追いかけてきた。

「財布! 忘れてますよ!」

私はポケットに手を入れたが財布の感触がない。

「……ありがとう、ございます」

背の高いその女性は、屈んで私に目線を合わせて言った。

「大丈夫? 顔色悪いみたいだけど」

私は頷いた。あまり今の顔を見て欲しくなくて、私は俯いていた。

「そっか。中高生だよね? こんな時間に出歩いちゃ補導されちゃうよ」

気をつけます、そう言ったつもりだが、多分掠れて言えなかった。

「気をつけて帰ってね。これ、おねえさんのおごりだから!」

温かい、おいしそうなコロッケだった。

女性は私がお礼を言う前にじゃあね、と店内に戻って行ってしまった。

「ありがとう、ございます」

数日間ほとんど何も食べていない胃袋が悲鳴をあげた。数日ぶりに感じる食欲だった。
15 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:57:55.08 ID:Kkr9l5xs0
12.

川の水の音が聞こえてくるほど静かだった。虫たちの鳴き声が心地よく耳に響いた。

ここは思い出の河原だ。一年生のとき、受験勉強をする憂に悪いと思ってここでキーボードの練習をしていたところに、買い物帰りのあずにゃんが通りかかった。

その頃は私はまだ楽譜も読めないくらい初心者で、それからよくここであずにゃんと楽器の練習をしていた。

ここに来ればあずにゃんを思い出せるような気がして、なんとなく会えるような気がしてここに来てしまっていた。

……現実は、受け止めなきゃだめだよね。

『僕なら君に、夢を見せてあげられるよ』

びっくりして私は仰け反った。

「きゅうべえ!」

その時あの言葉を思い出す。

ーー魔法少女になってくれたら、なんでも一つだけ願いを叶えてあげる。

『まあ落ち着きなよ。僕は君に最後のチャンスをあげに来たんだよ』

「あずにゃんを生き返らせることってできる?!」

私の目の前に舞い降りてきたきゅうべえに、私は掴みかかる。変な呻き声を聞いて我に返り、必死に震える体を抑えた。

『ああ、もちろん。その魔法を使うために必要なのは、魔法のステッキでもすごい薬でもなく君の意思だ』

「じゃあお願い! 私、魔法少女になるよ!!」

その時、突然後ろから抱きつかれた。

「お姉ちゃん! な、何、突然どうしたの?!」

「う、憂」

何で憂がここに、なんてのはよく考えれば当たり前だった。憂はほんとに優しい子だ。心配して後をつけてくれたなんて、迷惑をかけてしまった。

『君の妹かい?』

「うん、そうだよ」

『じゃあこの子にも声を聞こえるようにしてあげるよ。この子は……すごい才能の持ち主だ』

憂はきゅうべえに気づいたようで、

「お姉ちゃん、これ、なに?」

「きゅうべえっていうんだ。私の願いを叶えてくれるんだよ!」

「お姉ちゃんの願い?」

夜空の星たちのように。夜空の一等星のように強く、私は言った。

「あずにゃんを、生き返らせるんだよ!!」
16 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:58:30.23 ID:Kkr9l5xs0
13.

「なんでも一つ、願いを……」

きゅうべえは私にした説明を、もう一度憂にもした。

「お姉ちゃんは絶対、梓先輩を生き返らせたいの?」

私は頷いた。

「今後の人生が、180度変わると知ってても?」

迷わず頷いた。

「私はね、あずにゃんを助けてあげられなかったんだ。目の前にいたのに。手を掴めなかったの」

私はきゅうべえに向かって手を伸ばした。

「その手が、ここにあるんだ。今摑めるんだ。今度は躊躇わずに、ちゃんと助けてあげたいんだよ」

あの時の躊躇い。トラックの音への怯え。私は一瞬、身が竦んでしまっていたんだ。

「わかった」

憂はきゅうべえの元に歩み寄り、こう言い放った。

「きゅうべえさん、私も一緒に魔法少女になりたいです」
17 :1 [saga]:2018/03/17(土) 23:59:12.44 ID:Kkr9l5xs0
13.

「なんでも一つ、願いを……」

きゅうべえは私にした説明を、もう一度憂にもした。

「お姉ちゃんは絶対、梓先輩を生き返らせたいの?」

私は頷いた。

「今後の人生が、180度変わると知ってても?」

迷わず頷いた。

「私はね、あずにゃんを助けてあげられなかったんだ。目の前にいたのに。手を掴めなかったの」

私はきゅうべえに向かって手を伸ばした。

「その手が、ここにあるんだ。今摑めるんだ。今度は躊躇わずに、ちゃんと助けてあげたいんだよ」

あの時の躊躇い。トラックの音への怯え。私は一瞬、身が竦んでしまっていたんだ。

「わかった」

憂はきゅうべえの元に歩み寄り、こう言い放った。

「きゅうべえさん、私も一緒に魔法少女になりたいです」
18 :1 [saga]:2018/03/18(日) 00:00:11.49 ID:61wO2nel0
14.

「なななんで憂まで」

「お姉ちゃん」

憂は初めて笑って、優しく言った。

「お姉ちゃんの願いが梓先輩や軽音部の人たち、私や和ちゃんと一緒にいたいってことだと同じように、私の願いはお姉ちゃんと一緒にいたいってことだから」

憂は強かった。いままでも、いつまでも。いつも憂に頼ってばかりで、当たり前になっていた。

今度は私も頼られたい。憂の願いを、叶えてあげるために。

『覚悟は決まったかい?』

私たちは頷いた。

『じゃあ改めて、願いを聞くよ』

憂の手を握る。憂から伝わってくる熱が、私に勇気を与えてくれた。


「私は、あずにゃんをーー中野梓を生き返らせてほしい」


「私は、どんな魔女からもお姉ちゃんを守れるような、最強の魔法少女になりたい」


私たちは虹色の光に包まれた。
希望と絶望に包まれた、そんな光に。

19 :1 [saga]:2018/03/18(日) 00:00:55.97 ID:61wO2nel0
15. 梓side

「あずにゃんっっ!!!」

「ゆ、唯?」

長い夢でも見ていたような、かつてないくらい意識がぼやけ、さっきから何度も呼びかけられる名前が私のものだと、呼びかけている少女が唯だとやっと気づいた。

「だ、大丈夫!? 身体、おかしいところない?」

「く、苦しいよ。大丈夫だよ」

唯はくっついたまま離れようとしない。私は抵抗するのをやめて、泣きじゃくる唯の頭を撫でていた。

近くで憂ちゃんが少し困ったような笑顔でこちらを見守っていた。それにしても2人とも、変な格好だ。

「憂ちゃん、これは一体……」

「えへへ、もうちょっとだけお姉ちゃんに付き合ってあげてください」

なんだか心の黒く染まった部分が洗い落とされていくような気分。まるで唯に居場所を確立させてもらっているようで、私はとてつもない安心感に浸っていた。

私は確かに、ここにいる。

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