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北上「我々は猫である」
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842 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/07(木) 04:34:23.91 ID:BrqyKwfY0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
北上「あぁぁぁぁぁ…」
机に顔を擦りつけ体に蓄積された疲れを声とともに絞り出す。残念ながら疲れの方は一切取れやしないのだが。
大井「カレー冷めちゃいますよ」
北上「食べる気力も湧かないよぉ」
ハード。ハードだった。飛龍さんの訓練は。
朝っぱらからいきなり訓練やるよ〜と連れ出されたかと思えばお昼までみっちり対空訓練である。
北上「死にそう」
大井「初日からそんなんじゃ持ちませんよ?」
北上「既に持ってない…」
843 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/07(木) 04:35:14.76 ID:BrqyKwfY0
私がバテたのでお昼とはいえ少し早めの時間の昼食。食堂にはあまり人気がない。
「午前はこの辺にしとこっか」と飛龍さんは言っていたが、午後はもっと長いのかな…
北上「大井っちはよく平気だね」
大井「平気とは言い難いですけど、北上さんよりは丈夫ですから」
北上「むむ」
負けてはいられんな。少し冷めて食べやすくなったカレーに手をつける。
大井「北上さん、今日は少し力み過ぎてませんでしたか?」
北上「そりゃ今までみたいに逃げ回る訳にはいかないしさ」
大井「それはそうですけれど」
日向「随分と頑張っているようじゃないか」
大井「日向さん」
日向「一緒にいいかい?」
北上「もちろん」
向かい側に座る日向さん。
和風定食か。この人洋物とか食べるのだろうか?少なくとも見た事はないし想像ができない。
844 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/07(木) 04:36:02.25 ID:BrqyKwfY0
日向「提督から聞いたよ。まさか君が、君達がね」
大井「私もですか?」
日向「そうだ。少なくとも私から見たらな」
大井「必然ですよ」
日向「何がきっかけかは知らないが以前の君ならそうしなかった。違うか?」
大井「…」
日向「まあ一番わからないのは北上なんだけれどね」
北上「それについては内緒ですよ」
日向「では私のデザートをやろう」
デザート。おしるこか…
北上「カレーにおしるこはちょっと…」
日向「それは残念」
ちっとも残念そうには見えないが。
845 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/07(木) 04:36:41.25 ID:BrqyKwfY0
日向「君達二人だけの秘密というわけか。素敵な話じゃないか」
それは違う。私は大井っちには
大井「私も知りませんよ。北上さんだけの秘密です」
先に口を開いたのは大井っちだった。
日向「ほお…」
表情を変えずにサラッと言ってのけた大井っちと、それに驚いた私の表現を見て日向さんがどこか納得したように頷いた。
日向「どうやら中々に込み入った事情があるようだね。まあそこに口は出さないさ」
北上「日向さんこそ、どうして?」
日向「分かりきっているだろう?飛龍のやつと同じ、何処にでもあるような極々単純な復讐心さ」
そう言って味噌汁を啜る。
846 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/07(木) 04:37:31.43 ID:BrqyKwfY0
日向「というのは違うか」
北上「え」
大井「違うんですか?」
日向「そういう気持ちが無いわけじゃあないんだ。だが私が協力している理由は、提督に頼まれたからさ」
大井「頼まれたって一体どんな風にです?」
日向「何も土下座されたり脅されてるわけじゃない。普通に、実に紳士的に、とても真摯に頼まれただけだ。私は船だからね。船長が舵を切ったらそちらを向くだけさ」
北上「船、まあそうりゃそうだけど」
大井「それじゃあ自分の意思ではないみたいじゃないですか」
日向「北上には前に話しただろう。艦娘とはそういうものだよ。多かれ少なかれ。だからこそ君達の反応は、私から見ればかなり意外でとても興味深いね」
相変わらずだなこの人は。アナタ以上に変わっている人もそうはいないと思うけれど。
847 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/07(木) 04:38:17.76 ID:BrqyKwfY0
日向「だからまあそんな変わった後輩に私からのアドバイスだ。ひとつの事に夢中にならずに周りを見ることだ」
北上「なんだか抽象的過ぎてちょっと」
日向「憎しみは人の無意識のセーブを外すのには有効かもしれないが私達艦娘にとっては逆効果だ。私達の力とは艦の部分であり個々の意思ではない」
大井「復讐そのものを否定するような言い方ですね」
日向「もちろんそうさ。私はそれを肯定した事は一度もないし、これからもしないつもりだ」
キッパリと言い切って箸を置く。
いつもそうだ。日向さんは自分の考えをきっちりと持っている。
それが相手を真っ向から否定する事だとしても。
日向「安心するといい。基本的に君達の見方だよ、私は」
北上「日向さんはその基本的って所が怖いんだよねぇ」
日向「おや、それは心外だな」
848 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/07(木) 04:38:52.97 ID:BrqyKwfY0
日向「そうだな、なら具体的なアドバイスをしようか。北上」
北上「私?」
日向「図書室に行くといい。神風のやつが最近寂しそうだぞ」
北上「!」
そういえば最近行ってなかったな。そんな余裕がなくて、
北上「余裕か」
日向「必死になる事はいい事だが余裕がなくなるのはいけない。余力を残せという意味じゃないのは分かるだろ?」
北上「まあ、なんとなく?」
日向「ふむ、そうだな」
何やら考え込む日向さん。何が飛び出すのやら…
849 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/07(木) 04:39:33.85 ID:BrqyKwfY0
日向「八八歩」
北上「へ?えー、えっと七五歩?」
将棋だろうと当たりをつけて適当にそれっぽい事を返してみる。
確か最初の数字が将棋盤の座標なんだっけか。そもそもアレって縦横幾つなんだっけ?
日向「将棋、まあチェスでもいいが、これが戦争と言うやつだ」
大井「王を取れば勝ち、という事ですか?」
日向「ルールがあるということさ。守るかどうかは別としてだが。そして」
ギシリと木製の椅子が、いや床そのものが軋む音がする。
無理もない。戦艦の背負う巨大な砲塔はその重さだけで十分な破壊力を持っているのだから。
日向「これが私達がやろうとしている事だよ」
そう言いながら今しがた何食わぬ顔で身につけた艤装を、砲塔をこちらに向ける。
850 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/07(木) 04:41:00.68 ID:BrqyKwfY0
とてつもない威圧感だ。本来戦艦の砲塔をこれ程間近で向けられる事などまずない。
日向「ルールなど気にする必要は無い。戦略などない。如何なる手段を使ってでも敵を討つ」
北上「なら将棋なんていらなかったんじゃ」
日向「そうでもない。こうして無防備なまま私の前に座ってくれるだろう?」
大井「ルールを守るのではなく使えと」
日向「そういう事も視野に入れろ、という話さ。さて、王手だ」
北上「こーさん」
無茶苦茶だな。でもその通りだ。
大井「ところでそろそろ椅子が限界のようですけれど」
日向「ふむ、そうだな。提督には内緒にしておいてくれ」
なんでもお見通しなのか、案外考えなしなのか、読めない人だ。
851 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/07(木) 04:42:07.68 ID:BrqyKwfY0
北上「余裕、視野か」
大井「ふふ、午後はもう少し上手く出来そうですね」
北上「かもね。うんにゃ、そうだね」
どこか穏やかな空気が流れ出した食堂。だったのだが、そこに突風が吹いた。
飛龍「さぁ午後の!!ってあり?二人ともまだ食べてた?」
大井「飛龍さん?」
食堂に飛龍さんが駆け込んできたのだ。
北上「え、まさかもう食べたの?」
飛龍「別に私ら消化とか気を使う必要も無いし詰めこみゃ大丈夫よ。それよりほら、時間は有限なんだから!」
思わず大井っちと顔を見合わせる。
スパルタだ。もちろんやる気はあるけれど流石にこれは。
日向「飛龍」
飛龍「ん?あ、日向も一緒にやる?」
やる気スイッチMAXの飛龍を横目に日向さんが懐から本を出す。
いや、本ではない。その本に挟んであった栞を出した。あれは確か鏡の着いている栞だったはずだ。
それを無言で飛龍さんの前に突きだした。
852 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/07(木) 04:42:46.85 ID:BrqyKwfY0
飛龍「ッ!!」
鏡を見て飛龍さんが妙な反応をする。強ばるというか、怯えたような、そんな感じの。
日向「甘い物は乙女の動力源なのだろう?デザートを食べる余裕はあるか?」
飛龍「…勿論」
日向「奢ってやろう」
飛龍「…ごちになります」
そう言うやいなや来た時と同じように駆けて行った。
大井「えっと、今のは一体?」
日向「余裕が無い、ということさ」
北上「?」
やはりさっぱり分からない。古株同士なにか通じていたようだが。
大井「私達もデザートいっちゃいますか」
北上「私お汁粉で」
日向「私は餡蜜で頼む」
大井「何サラッと押し付けてるんですか」
853 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/07(木) 04:47:52.77 ID:BrqyKwfY0
なんやかんやでデザートを取りに行ってくれる大井っち。
飛龍さんと並んでメニューを見ているようだ。
北上「日向s、あれ?」
いない。いや体を屈めているのか?どうやら椅子と床の損傷を確かめているらしい。
やらなきゃ良かったのに…
日向さんに飛龍さん、大井っちと私。この四人で、挑むのか。
まあとりあえずは白玉でも頬張っておきますか。
854 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/07(木) 04:53:23.34 ID:BrqyKwfY0
瑞雲師匠も好きだけど仙人じみた日向も好き
ボスはとりあえず雷巡CIに祈る時代も今は昔。
戦闘に関してはゲームに忠実にすると味気ないしかと言って実際のお船の知識は皆無なので割と無茶苦茶書くと思います。
五月雨ちゃんを見るような暖かい目で見て頂ければ嬉しいですしご指摘があっても嬉しいです。
吹雪ちゃんにはこの後色々やってもらいます。
855 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/07(木) 07:40:21.04 ID:Ld4+G0poo
おっつ
856 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/07(木) 20:13:08.65 ID:HpueXL3bO
乙
戦闘は他に上手いことやってる人の参考に
アレンジすればエエのでは?
最近はバトルものあったか知らぬが
857 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/09(土) 16:55:23.66 ID:01m84aVYO
船の戦いまんまだと1ドットくらいから戦闘始まるし……
アーケード参考にしよう
858 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/09(土) 18:44:32.49 ID:rH40GOM3O
AAでブラウザ版の戦闘を表現しよう
859 :
◆9GJgiqK3MpKd
[sagasaga]:2019/03/18(月) 04:34:45.37 ID:NvEJ31sT0
82匹目:香箱
猫の香箱座り。
後ろ足を曲げ腹を地面につけ前足の先を折りたたむように胸元にしまいまるで箱のようにコンパクトに座るその様を指して香箱と呼ぶ。
これを海外だとcat loafと呼ぶ。
loafはパン1斤の意味で、まるで焼きたての四角いパンのように見えるかららしい。
顔を地面につけた姿などはまさに箱だ。今思うと我ながら凄い格好である。
人間で言うならどんな格好だろうか。
二足歩行なので流石に地面に腹をつけてとはいかないが、例えば椅子に座り机に両腕をまるで枕にするかのように組みそこに頭をのせ突っ伏す。
そう、まるで
860 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:35:19.26 ID:NvEJ31sT0
北上「うわっ!」
咄嗟に防御体制をとる。
直撃かと思ったがどうやら至近弾だったらしい。直ぐに体制を立て直しつつ自分へのダメージを確認する。
北上「ちぇ、防御力はないんだよぉ」
右足の魚雷発射管がダメになっている。爆発がないのは有難いが使えないものは使えない。
飛龍「動ける!?」
北上「はいっ!」
消えた選択肢を惜しんでも意味は無い。まだ敵は残っている。
鎮守府から少し離れた海域。敵はそう強くはないが、それでもいつもと違う戦闘に私は苦戦していた。
私と大井っちと飛龍さん。
三人編成による戦闘に。
861 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:36:00.90 ID:NvEJ31sT0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
北上「ふへぇ〜」
大井「中々、思っていたより、キツイですね」
飛龍「本番はこんなもんじゃ済まないわよ。制空にも余裕がなくなるからね」
普段の戦艦などに守られながらの安全な戦いと違い自分の身を自分で守る戦い。
先制雷撃の緊張感も半端じゃない。何せ少しでも数を減らさないと手が足りなくなるのだ。
飛龍「どう?キツそうなら引き返す?訓練なんだから無理する意味は無いからね」
北上「私はまだ大丈夫」
これまでの逃げの技術が役に立っているのかそれでも私は小破で済んでいる。
大井「私も大丈夫です」
大井っちは逆に殺られる前に殺れ精神だ。チャンスを見つけて飛かかる様はネズミを追う猫の様だった。
862 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:36:32.76 ID:NvEJ31sT0
飛龍「おーけーおーけー。次でラストね」
飛龍さんは、汗一つかいてない…分かってはいるけれどレベルが違う。
軽い足取りで進んでいく。
大井「行きましょう北上さん」
北上「うん」
真剣な顔の大井っち。
私はそれが気になっていた。
863 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:37:20.97 ID:NvEJ31sT0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
リベンジ、と大井っちは言った。
かつて大井っち達は件のレ級に遭遇し逃げられている。
その時の詳しい状況は知らないが、少なくとも大井っちにとってそれはトラウマのようなものらしい。
リベンジ。私の事を差し引いてもそれは大井っちにとってとても重大な意味を持つもののようだ。
一体何が?
大井「北上さん!!」
北上「んなっ!?」
ギリギリのところで砲弾を躱す。
ちぇっ、余裕を持てと言われたがこれじゃあただの余所見でしかない。
しかしどうにも気になってしまう。大井っちの事が、無性に。
なんなんだろうか。初めての感覚だ。
また少し痛みが走る。
864 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:38:04.07 ID:NvEJ31sT0
艦載機に気を取られた敵駆逐艦に砲弾をぶち込み改めて周囲の状況を確認する。
北上「!!」
魚雷だ。敵軽巡が魚雷を放った。
あの方向は、大井っちだ!
大井っちは重巡の方に集中している。今当たると確実に大損害になる。
大井っちに知らせなきゃ!
北上「ッ!」
でも、そこで詰まった。
あのまま、あのまま魚雷が当たったらどうなるだろうか。
側面から魚雷がぶち当たる。艤装は壊れ魚雷発射管や砲塔の大半がダメになるだろう。
そうなれば攻撃は疎か回避もままならない。そうなればいい的だ。最悪轟沈しかねない。
そんなことになれば
そうなれば
もしそうなったら
北上「…」
なってくれたら?
865 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:38:43.00 ID:NvEJ31sT0
飛龍「大井!!」
飛龍さんが叫ぶのと艦載機が軽巡を沈めるのは同時だった。
一瞬そちらに気を逸らした大井っちが魚雷に気づく。
間一髪の回避。その隙に私が最後の重巡に魚雷を放つ。
北上「大井っち!大丈夫!?」
大井「はい!なんとか…」
飛龍「ひゃー焦ったぁ。冷や汗かいちゃったよ」
北上「私も…」
私はホッと胸をなでおろした。
飛龍「よしっ。今日は帰りますか」
北上「今日は、ねぇ」
大井「明日もあるんですね…」
飛龍「さぁさぁ帰ってご飯だよ、ご は ん」
北大「「はぁ…」」
空は少し赤みがかってきていた。
866 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:39:24.34 ID:NvEJ31sT0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
北上「…」
夜、食堂。
午前午後のスパルタ訓練による疲れで逆に寝れなくなったので自販機で甘い物でも買おうかとやってきたのだが、
飛龍さんがいた。
窓際の、月明かりが差し込む暗くて明るい机に突っ伏していた。
まさに香箱。周りにあるのはお酒かな?酔って寝てしまったようだ。
でもなんでこんな所で?しかも一人で。
867 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:40:11.68 ID:NvEJ31sT0
北上「…」
触らぬ神に祟りなし。君子危うきに近寄らず。
ここはスルー決め込んでさっさとジュース買って
飛龍「ぁ、きらかみだ」ムクリ
北上「わっ、起きてた…の?」
飛龍「今起きた…の…ん〜…ッ」ノビー
大きく伸びをする飛龍さん。意外と細身の彼女だが横から見るとやはり出るとこは出ている。
飛龍「あり、もう月があんなに登ってる」
北上「もう日付変わりますよ。一体いつからここに?」
飛龍「んー10時くらいからかなあ。覚えてないや」
そう言ってゆっくりと酒を片付け、いや違う!まだ入ってるのを探してんだこれ!飲む気だ!!
飛龍「さあ一緒に飲もう!」ドン
北上「あー、私お酒はあんまし」
飛龍「いーよいーよジュースでも。飲みで大事なのはお酒を飲む事じゃなくてアルコールがあるって事だからね」
北上「なんかそれっぽい事言ってるけど飲みたいだけですよね」
飛龍「まあね」
868 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:40:40.52 ID:NvEJ31sT0
まあいいか。この人にも聞きたいことがある。
急ぎ足でジュースを買って飛龍さんの向かい側に座る。
飛龍「さーって、乾杯ってのもなんか変だけど、今日も一日お疲れ様っ」
北上「お疲れ様〜」
缶とおチョコという妙な組み合わせ。月光の下で乾杯をした。
869 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:41:22.95 ID:NvEJ31sT0
北上「それ何杯目なんですか?」
飛龍「ん〜…何杯目だろうね」
北上「さいですか」
空母の皆さんはしょっちゅう飲んでるイメージがあるがどうやらそれは間違いではないようだ。しかし、
飛龍「ンッ…っあー生き返る〜」
一口ずつ味わって飲む姿はなんというか上品というか、普段の豪快な飛龍さんとは打って変わって滑らかさみたいなものを感じる。
まあこんだけ飲み散らかしてりゃそれも薄れるのだが。
北上「どうしてこんな所で?」
飛龍「あーダメダメ。次は私が質問する番だからね」
北上「そーゆー感じですか」
しかし話が進めやすいのも事実だ。ここは乗っていこう。
870 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:42:14.57 ID:NvEJ31sT0
飛龍「なんでこの件に関わったの?」
北上「それは…」
いきなり答えにくいものが来たな。というかみんな聞いてくるよねこれ。当たり前かもしれないけど。
北上「きっかけに関しては半ば強制的に知らされたというか、まあ吹雪に色々言われたもので」
少し本筋から逸らしつつ別の話題で興味を惹いてみる。
飛龍「吹雪が?」
北上「うん。何故か私に色々と」
飛龍「へぇ〜。吹雪が、ねえ。吹雪が。なんだろうね」
北上「なんでだろう」
飛龍「吹雪の事は私もよくわかんないのよ。協力的なようで非協力的というか。この件について賛成なのか反対なのかイマイチ掴みにくいのよね」
飛龍さんもよく分かっていないらしい。
871 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:42:42.35 ID:NvEJ31sT0
北上「じゃあ次はこっちの番で」
飛龍「ばっちこい」
北上「何故一人で飲んでるんですか」
飛龍「ノーコメント」
北上「あズルい!それはズルい!」
飛龍「だぁーってぇ〜」
またしても机に突っ伏した。
ちゃんと容器は避けているのが少し可笑しい。
飛龍「…怖がられちゃったんだもん」ボソッ
北上「怖がられた?誰に?」
飛龍「…蒼龍に」ムクリ
起き上がった飛龍さんの表情はまるで捨てられた子猫のように弱々しいものになっていた。
872 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:43:59.32 ID:NvEJ31sT0
酒の入ったおチョコを、まるで穏やかな海をゆく船のように揺らしながら静かに話し始めた。
飛龍「私、自分じゃそんなつもりないんだけどさ。この件に関することだとついムキになるっていうか、変なスイッチ入っちゃうのよ」
北上「あー」
昼間のあれを思い出す。鏡を見て、自分を見ての反応はそれか。
飛龍「別に気が触れるみたいな事じゃないんだけどね。ただ分かる人には分かるって感じで」
北上「それが日向さんとか蒼龍さん?」
飛龍「そ。日向は事情知ってるからいいんだけど、蒼龍は何も知らないから」
そうか。
話していないんだ。
飛龍「蒼龍も何かは分かってないの。分かってないけど、私を見て怯えるような目をするの」
私にはいつもとそう違いはないように思えたけれど、やはりこの二人だからこそ分かるものがあるのだろう。
飛龍「それでね、向こうもそれを誤魔化そうとして距離をとるのよ。それがまたなんてゆーか、すごくクるのよ」
北上「だから一人で」
飛龍「ヤケ酒よヤケ酒」
そう言って寂しそうに笑う。
873 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:44:32.67 ID:NvEJ31sT0
こうしている今の自分を周りはどう思うか。考えたこともなかった。
飛龍「はい終わり。次は私の番ね」
おぉ切り替えが早い。
北上「どーぞ」
さてお次はなんだろうか。
飛龍「午後になってから急に注意散漫になってた。というか大井ちゃんばっか気にして、何かあった?」
それは、
北上「それは、自分でもよくわからなくて…」
飛龍「わからない?」
北上「えっと、でもその答えは同時に次の質問でもあって」
飛龍「つまりどういうことよ」
北上「大井っちはなんであんなに強くこの件に関わろうとしてるのか」
私は誤魔化した。大井っちが気になる理由はきっとほかにある。
でもこの疑問自体は本物だ。
飛龍「…」
また一口。お酒を流し込む。
874 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:45:04.81 ID:NvEJ31sT0
飛龍「それが気になる、って?」
北上「まあ、そんな感じです」
飛龍「そっかぁ」
また一口。まるで口の滑りを良くするための潤滑油のように。
そうでもなければ話せないというように。
飛龍「ねえ、これから話す事は誰にも言わないでよね」
北上「は、はい」
お酒が入っているとは思えないほどとても真剣な顔で確認とる飛龍さんについ緊張をしてしまう。
飛龍「一年前の、つまり私達が初めてアイツに会った時の話よ。
輸送大型船とその乗客乗員。そしてその護衛艦隊。それら全員が謎の深海棲艦に沈められ、私達がたどり着いた時には跡形もなかった。
記録上はそうなっている、あの時の。
875 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:45:42.93 ID:NvEJ31sT0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
知ってると思うけど私達は間に合ってたの。
いや、間に合ったとは言い難いかな。
着いた時には船は火災でドス黒い煙を吐いていて、護衛の艦娘達はその船より先に全員沈んでた。
深海棲艦は一体もいない。そう思って私達は船に近づいた。
そこで出会ったのよ。アイツに。
艦載機は出してた。でも黒い煙に隠れていたし、何よりあの状況で一体だけで残り船を破壊するでもなく溺れる人々を見て楽しんでるようなのがいるなんて想像もしてなかった。
予想外の邂逅。でもそれは向こうも同じだったみたい。
これほどまでに早く援軍が来るとは全く思ってなかったのよ。
876 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:46:25.51 ID:NvEJ31sT0
至近距離。私達にとってはね。
特に空母の私からすればスナイパー持ってるのに殴った方が早いみたいな距離よ。それほどの距離で私達とアイツは出会った。
お互い同様で一瞬動けなかったのを覚えるわ。
私達にとって幸運だったのはアイツが大きな損傷を抱えていた事ね。護衛艦隊は本当に優秀だったのよ。
レ級のダメージは控えめに見ても中破。だから私は勝てると踏んだ。提督も。
思っちゃったの。
空母1、重巡2、雷巡1、駆逐2。
手負い相手に至近距離。実際勝てる戦いだったわ。ただ状況と、相手が異質すぎた。
こっちが突っ込むなりアイツは下がったのよ。
船と人々の方へ。気持ちの悪い笑みを浮かべながら。
撃てるわけがない。私達は船や人々を救出するために来たんだもの。
877 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:47:04.05 ID:NvEJ31sT0
敵の異質な行動による動揺もあって皆どうしていいか分からなくなってた。後は一方的嬲られるだけよ。
こっちは撃てない。向こうは撃ち放題。良い的よ。
ただ私達にはまだ幸運があった。
船が爆発したの。どこかは分からないけど、突然それまでとは比べ物にならない量の煙を吐き出した。
それらは風に乗って私達全員を包み込んだ。
だから私達は突っ込んだ。砲撃じゃない。肉薄して直接ぶち込むために。
今思えば馬鹿よね。何も見えない中策もなしにただ突進する。感情だけで動いてたわ。
それに空母の私は外から見てるだけ。あれで誰か沈んでたらと思うと今でもゾッとする。
878 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:47:45.41 ID:NvEJ31sT0
飛龍「だから結局そこで何があったかはよく知らないのよ。
確かなのはレ級には逃げられた事と、
あそこで提督が、前の提督が死んだ事よ」
北上「…」
飛龍「って、あー前の提督の事とかって北上知ってるっけ?」
北上「うん、まあ」
飛龍「私もね、後から知ったの。あの船に乗ってたって。というか皆そう。日向も吹雪も、提督も」
北上「なんで船に?」
飛龍「海外に隠居してたんだって。んで、なんでかこっちに向かってる最中に運悪く、ね」
なら、だとしたら、間に合わなかったというのは、飛龍さんにとってそれは…
879 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:48:22.81 ID:NvEJ31sT0
飛龍「でさ、その時大井ちゃんの様子が変だったのよ」
北上「変?」
飛龍「多分、人間の死を見ちゃったからでしょうね。たまにいるのよ、そういうのに敏感な娘」
たまに、か。前にも聞いたっけ、艦娘は人とは違う。違うから人に感情移入しにくい。人の死を、人のように悼むことが出来ない。
飛龍「大井ちゃんにとってトラウマなのよ。きっとね。リベンジってのはそういう事、なんじゃないかな。まあ憶測なんだけどね?」
北上「うん、でもすごく参考になった。流石に本人に聞くのはちょっと気が引けるから…」
飛龍「デリケートなところだもんねえ」
北上「そうなるとやっぱり吹雪がなんであやふやな立場にいるのか分からないなぁ」
飛龍「私的には北上がなんで参加してるのかもかなり謎なんだけど」
北上「それは!そのぉ…。ん?」
飛龍「何何?話してくれちゃう?」
北上「あれ?飛龍さん、前任の提督の事私に話しちゃっていいんですか?」
880 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:48:56.48 ID:NvEJ31sT0
飛龍「え、まあ事実知ってる相手なら別にいっかなって。他の娘になら話さないわよ」
北上「いえ…そうじゃなくて」
飛龍「?何が?」
あれ?おかしくないか?
北上「だって、前任者について話さないって…」
谷風が言ってた。以前からこの鎮守府にいた皆は吹雪が言わない限りはそれについて口を閉ざしていると。
結果的に私は知ってしまっているからいいということなのか。
飛龍「あ〜、あ?まあ迂闊に話すことじゃないけどさ。でも別に、聞かれれば答えるわよ」
北上「え」
飛龍「そもそも普通前の提督がいることなんて気にもとめないもんね。一応隠してはいるけど、知らないと嘘をつく事じゃないと思うし」
なんのことも無いという感じで話す。
881 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:49:31.01 ID:NvEJ31sT0
飛龍「それにさ、私としては少し、その事はむしろ知っていて欲しいなぁって。そう思ったりもするから…」
そう言って最後の一口を飲み干した。
北上「そう、ですか」
じゃあ何故だ。あのウミネコ。
何故隠すだけじゃなく嘘をついた。
協力すると言ったのに、どうして。
北上「はぁぁぁぁ。皆何考えてるのかサッパリだぁ」
飛龍「皆?皆ねぇ。そうね、きっと各々色んなこと考えてるんでしょうねえ」
北上「そりゃそうでしょうけどぉ」
飛龍「北上。明日は訓練お休みね」
北上「なんで!?」
飛龍「一回頭を冷やそ。お互いに、ね?」
882 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:50:01.63 ID:NvEJ31sT0
北上「頭を、冷やす」
視野を広く。
余裕を持って。
北上「お休みかあ」
何をしようか。
久々に球磨型皆で遊ぼうか。図書室も行こう。阿武隈でもいじりに行って、駆逐艦に絡まれるのも悪くない。
後は、後は…
883 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:50:49.76 ID:NvEJ31sT0
飛龍「あとこれ」ドンッ
北上「お酒?」
瓶1本。一升瓶って言うんだっけ。
飛龍「分からないことはね、お酒飲んで話し合えば解決するのよ!」
北上「酔ってますよね」
飛龍「よっれない!」
うわダメだこれ。だいぶまわってきてる。
北上「でも確かに話し合うのは大切だよね…」
飛龍「そうよ!私達がこの体で得た一番のポイントは言葉なんだから!」
北上「!」
言葉。なるほどその通りだ。
猫のままなら私は自分の気持ちを誰かに伝える事は出来なかっただろう。
言葉を理解していなかったらこれ程色々な感情を抱く事もなかった。
みんな私が北上になったからの物だ。
884 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:51:40.72 ID:NvEJ31sT0
飛龍「北上。私はね、日向も言ってたけどさ、復讐は何も得ることの出来ないものだと思ってる」
北上「ならどうして?」
飛龍「復讐したって私から失われた物は何一つ戻らない。でもね、やっぱりすごくスカッとすると思うの」
北上「スカッとって、そんな適当な」
飛龍「うん。すごく幼稚で安易な考え。でもそれが私の気持ち」
真っ直ぐで素直な気持ち。それが飛龍さんの動機か。
日向さんも飛龍さんも自分の信念がある。
私もはっきりさせなくちゃね。
北上「もっと話し合わなきゃ」
飛龍「おっいいねいいねぇ。ほら、一杯いっとく?」
北上「…一杯だけ」
885 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:52:20.48 ID:NvEJ31sT0
この後、疲れた体に覿面だったらしいアルコールによって気を失ったかのように机に突っ伏して寝てしまった私を飛龍さんが部屋まで運んでくれた事を朝起きて大井っちに聞いた。
886 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/03/18(月) 04:59:10.74 ID:NvEJ31sT0
飛龍蒼龍はお互いに引け目を感じてるみたいなのが凄く好きだと伝えたい
わかりやすいのでアーケードの規模を目安にしてみようと思います。
コメントがいつもとても嬉しいのでこれからも私の好きを書き殴っていきたいです。
887 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/18(月) 10:52:24.35 ID:wOQQWDY9o
おつおっつ
888 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/19(火) 08:40:32.67 ID:1MPlXr0tO
アーケード意識しつつ現実的な艦娘の利点を考えていこう
889 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/19(火) 12:38:08.20 ID:QinpyiJpO
乙
激しい運動の後にアルコールはキクよねー
> 艦娘の利点
「深海棲艦に有効な攻撃が通る唯一の存在」で必要十分では
890 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/19(火) 17:40:09.61 ID:qEIWk0BG0
そういう意味じゃないと思うぞ
深海の攻撃も艦娘に普通に通る以上有利にも不利にもならんし
人型を取ったことで獲得出来る動作はレ級にもできるしどうしたもんか
あえて言えば艦同士に比べて艦隊連動は早いし密集出来るはずだから囲んで棒で殴るかw
891 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/19(火) 18:05:09.19 ID:yyINivxKo
現実的にって言うワードの時点でゲンダイヘイキガーとかの呪文が出てきかねないし
艦これのSSとかを考える以上、唯一の存在以外必要ないべ
892 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/19(火) 19:06:20.09 ID:zC54lprNO
余計な事書いたみたいだね
ごめん
893 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:39:01.33 ID:n0Gr5d1d0
83匹目:猫の日常
それらは全てまるで夢のような体験で、
ふとすれば消えてしまいそうなほどフワフワとしたものだったけれど、
気がつけばハッキリと私の中に入り込んでいて、
でもそれはきっと周りではなく私がそこに入り込んでいたからで、
だから私にとって二度目の生である今は、確かに日常と呼べる程当たり前のものになっていた。
894 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:39:40.97 ID:n0Gr5d1d0
神風「…」
北上「…」ジー
神風「…」ペラッ
北上「…」ジー
神風「…」
北上「…」ジー
神風「…」ペラッ
北上「…」チラッ
神風「…」ピタッ
北上「!」
神風「ヘクチッ」
北上「…」
神風「…」ペラッ
895 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:40:54.75 ID:n0Gr5d1d0
図書室。図書館。なんであれ文字を読む、書く空間というのは独特の雰囲気がある。
本を読んでいるといつの間にか時間が過ぎ去っていて、
こうして読んでる人を後ろからこっそり覗き込んでいると時計の針の音がやけに時間の進みを遅くさせているような錯覚に陥る。
常に誰か他人がいてその他人と交わる事を前提とした設計となっている鎮守府だが、ここ図書室だけは例え他に誰がいようと個人の空間として機能する。
神風「…」ペラッ
北上「そいつが犯人だよ」
神風「ひゃあっ!?」ビクンッ
文字通り飛び上がる神風。うん、やはり楽しい娘だ。
神風「ききき北上さん!?いつの間に!?」
北上「さっきのまにまに」
神風「そんな神のまにまにみたいに言われても」
北上「神風だけに?」
神風「そんな事言ってません!」
896 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:44:40.40 ID:n0Gr5d1d0
神風「…」
北上「…」
何処かポカンとした表情で私を見つめる神風。そして
神風「なんだか久しぶりですね」ニヘラ
北上「うん、そだね」
まるで喉をかかれている時の猫のような緩んだ表情に変わる。私も釣られて口元が緩んでしまった。
神風「一応この部屋の責任者なんですからね北上さん」
北上「え、そうなってたっけ?」
神風「なってますよ、もぉ」
北上「あはは、別に何も無いからいーじゃんか」
神風「そうじゃなくて…ねえ」ギュッ
北上「?」
手を握られた。恐る恐る。でも、しっかりと。
北上「なにさ?」
神風「なんだか最近忙しないですね」
北上「あーまあ色々あってさ」
897 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:45:24.24 ID:n0Gr5d1d0
神風「そのまま」
北上「?」
神風「そのままどこかへ行ってしまいそうで」
北上「…私は猫タイプらしいもんね。きっと行きたいところに行くよ」
神風「茶化さないでください!」
北上「本心なんだけどなあ」
神風「だったら尚更ダメです」
北上「手厳しい」
神風「別に、別に何処へ行くのも北上さんの勝手ですけど、でもきっとここには帰ってきてくださいね」
北上「ホントにどっかへ行ったりはしないよ。ここが私の家だしね」
神風「きっと、きっとよ!」
北上「分かってるって」
神風「でも心配なのよ。世の中何が起こるか分からないもの」
北上「そうだね。本当に。事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもんだよ」
898 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:46:08.35 ID:n0Gr5d1d0
神風「私達の境遇もまるでお伽噺みたいなものですもんね」
北上「本にしたら売れるかな」
神風「軍事機密とかで捕まりそうですけどね」
北上「でもそうすれば記録には残るじゃん?」
神風「司令官が覚えてくれているなら問題ないわ」
北上「…」
その司令官がずっといてくれる保証はないと教えたら、どう反応するだろうか。
北上「ねえねえ、なにかオススメの本ない?アクション物がいいな」
神風「アクションですか。珍しいですね」
北上「ちょっと参考にね」
神風「何の参考になるんですか…」
北上「わかんないよ?世の中何が役に立つか」
神風「そうですねぇ、最近読んだのだと…あ、その前に」
北上「ん?」
神風「この人が犯人って、本当ですか?」
目が笑ってない。
899 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:46:37.85 ID:n0Gr5d1d0
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
夕張「カーンカーン、ハロー鎮守府」
明石「助手のヒートパイラーです」
夕張「え、そういう方向でいくの?」
明石「受けループ愛好家の方がよかった?」
夕張「じゃあそれで。えー運命力論者です」
明夕「「イエーイ(ヤッホー)」
北上「揃わないのかい」
明石「…」
夕張「…」
北上「グダグダすぎる…」
900 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:47:17.28 ID:n0Gr5d1d0
久々の読書を堪能した後、工廠に来てみた。
ちなみに神風へのネタバレは勿論適当についた嘘である。とはいえその適当が当たってる可能性も無きにしも非ずなので後が怖い。
夕張「はい今日ご紹介するのはこれ!」バッ
北上「無理やり行くね」
明石「わお!小型の拳銃ですか?」
夕張「そう!かの有名なベレッタポケットをモデルにしたものよ!」
明石「有名だっけ?」
夕張「あれ、有名じゃなかったっけ?」
明石「正直ぱっと出てこない」
夕張「なんかスパイ物とかでよく出てこなかった?」
明石「普通のベレッタとかワルサーが目立ちすぎてる疑惑が」
夕張「なんてこった」
明石「そもそもこれ実在したんだっけ?」
夕張「…多分」
北上「打ち合わせとかないのこれ」
明石「ライブ感大事かなって」
901 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:47:51.51 ID:n0Gr5d1d0
夕張「まあいいわ。私が今からでもこいつを有名にしてあげる!」
明石「頑張れー」
夕張「なんとこれ、驚きの」
明石「驚きのー」
夕張「ジャララララララ」
明石「…」
北上「…」
夕張「…」
明石「夕張巻舌ってできないんだっけ」
夕張「うるさいバカあ!」パン
明石「ちょお!!撃つのなし撃つのなあし!!」
北上「提督にバレるよー」
巻舌は私もできない。
902 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:48:30.52 ID:n0Gr5d1d0
明石「ジャラrrrrrrrダン!」
夕張「実弾なのです!」
明石「おおー」
夕張「え?それって違法なんじゃ?と思ったそこのあなた!」
北上「今更でしょ」
明石「まあそうなんだけどねえ」
夕張「でもでも、これはなんと実弾であって実弾ではないのです!」
明石「つまりどういうことなんです!?」
夕張「なんと艦娘の弾薬とかいう謎成分から弾を精製するのです!」
明石「つまり!?」
夕張「法律上セーフ!」
明石「わお!」
北上「どの道銃の方はアウトでしょうが」
903 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:49:12.06 ID:n0Gr5d1d0
北上「つまり装備だよね?」
明石「一応?」
夕張「分類は、機銃とかかな…」
北上「ちなみに威力は」
明石「普通の拳銃と同じくらい」
北上「つまり」
夕張「深海棲艦に対しては豆鉄砲」
北上「ダメだこれ」
明石「至近距離で装甲薄い所ならワンチャン…」
北上「まだ魚雷で殴った方がマシでしょそれ」
904 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:49:47.38 ID:n0Gr5d1d0
明石「やっぱりヤマト砲作ろうよ」
夕張「宇宙戦艦の時代か〜」
北上「でもそれで前に爆発事故起こしたんでしょ?」
明石「それは水に流しましょう」
夕張「船も水は流すしね」
北上「冷却水とかだっけ?」
明石「ほとぼりが冷めるまで待つ的な意味で」
夕張「うまい!」
明夕「「ワハハ」」
北上「なんかイラッとする」
905 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:50:21.81 ID:n0Gr5d1d0
夕張「で、今日はなんか用?」
北上「あ、もう終わりなんだ」
明石「飽きた」
北上「身も蓋もない」
夕張「YouTuber目指そうかなって」
明石「まあ鎮守府内の映像とか勝手に流したらそくコレよコレ」クビチョンパ
夕張「私達の場合首より足とかなのかしら」
明石「雷撃処分じゃない?」
夕張「ヒエッ」
北上「相変わらず暇そうで安心したよ」
明石「チッチッチッ、実は最近真面目に忙しいのよこれが」
夕張「提督から装備の開発改修の注文が沢山来てるのよ」
北上「なのにそんなに遊んでていいの?」
明石「急に忙しくなったからどうしていいか分からなくなっちゃって」
夕張「とりあえず遊んでた」
北上「これはひどい」
906 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:51:10.26 ID:n0Gr5d1d0
明石「今回は吹雪からも念を押されちゃってるのよ」
北上「吹雪が?」
夕張「無駄遣いとかなしで真面目にお願いしますね?って。可愛らしい頼み方だったけど顔は笑ってなかった」
北上「一番怖いやつだ」
明石「なんか最近提督と何か企ててるっぽいしね」
夕張「前みたいに自由にはできなさそうかなあ」
北上「それが普通なんだけどね」
明石「それじゃ仕事しますかあ」
夕張「とびきりイかしたの作るわよ!」
907 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:52:00.71 ID:n0Gr5d1d0
久々に二人の職人顔を見た気がする。前に見たのは、改装した時かな。
北上「あ」
明石「どうしたの?」
北上「あのさ、前に私と大井っちが改装した時の事覚えてる?」
明石「そりゃもちろん。ついこの前だしね」
北上「あの時大井っちが何か聞きに来なかった?」
明石「えーっと、あーきたきた。なんか体調が優れないみたいな事言ってた」
北上「それで!それでなんて?」
明石「まあ改装すると身長とか身体の造りが少し変化したりするし、力加減も変わるから慣れれば平気よーって言ったくらいかな。後ほら、北上にも話したけど別の記憶が混じったりするよって話とか」
北上「あーそんな事言ってたような」
夕張「改装後のテンプレみたいなもんよ。よくある質問みたいなやつ」
明石「後、服装については諦めて、と」
北上「やっぱそこか」
夕張「ヘソ出しは慣れよ慣れ。別に艦娘だからお腹壊す事はないし」
明石「実際に臍出してるから説得力凄い」
夕張「えっへん」
明石「準備出来た?」
夕張「バッチグー」
908 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:52:54.04 ID:n0Gr5d1d0
北上「それじゃ私はこれで」
夕張「また遊びに来てもいいのよ〜」
明石「というか来て」
北上「口実にするつもりか」
せっかく二人が真面目に仕事をするというなら邪魔をするわけにもいくまい。
しばらくはそっとしておいてやろう。
日向「やあ」
北上「あれ、夕張達に用事?」
日向「まあな。サボっていたか?」
北上「サボってた。今はちゃんとやってる、と思う」
日向「そうか。なあに、やる時はやるやたらだ。きっと大丈夫だろう、多分」
全然大丈夫じゃなさそうな言いぶりだ。
909 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 03:53:20.74 ID:n0Gr5d1d0
北上「ねえ日向さん。前の提督ってどんな人だったの?」
日向「ん?提督から聞いてなかったのか。そうだな、随分と思い切りのよい人だった。読書家でもあったが彼の場合勉強という側面が強かったらしい」
北上「ふーん」
日向「何故急に?」
北上「興味本位かな。でも随分あっさりと話してくれるのが意外だった」
日向「別に隠す事もないからな。吹聴する事でもないが」
やはり隠す気はなし、か。
日向「君は何処へ?」
北上「私は、ちょっと倉庫へ」
ポケットに入れた鍵を触る。
扉は壊れてもう無用の長物となったものだが、なんとなく必要な気がした。
前の提督の書庫。そこへ再び足を運んでみようと思った。
910 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/04(木) 04:00:45.19 ID:n0Gr5d1d0
作者隻狼中につき…一日が短いのが悪い
船と艦娘じゃあまりに作りが違いすぎるので比べるのが難しいですが、個人的に船から人型になった場合一番便利に感じそうなのは少し体を捻るだけで砲の狙いを360度動かせるところかなと思いました。
お船の細かい所はあまり知りません。
911 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/04(木) 08:27:51.75 ID:5+K9ctDRO
おつおつ
912 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/04(木) 12:23:07.68 ID:OkjPsvoKO
乙
そろそろ次スレかな
913 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/04(木) 16:39:07.13 ID:d4JX3sa4o
おっつ
914 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/04(木) 22:20:45.23 ID:2HMxSSu00
目は二つしかなく同時に違う方向見れないから時雨の二丁拳銃スタイルって隙の元になりそ
915 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 04:48:18.93 ID:AncEZzLZ0
85匹目:猫と海猫
北上「相変わらず埃っぽい」
私以外訪れる者はいないであろう書庫はその静けさをしっかりと保っていた。
北上「本、好きだったんだなあ」
私がそうなのも飼い主に似たということなのだろうか。
それにまだハッキリとしていないことがある。
私の知ってる飼い主は麦畑の中にいた金髪のオッサンだ。
私の知らない飼い主は元提督で、提督の父親だ。
それにあの神社で見た黒髪のオッサンと金髪の女性。
未だにしっくりこない。
北上「日本人、なんだよね。英語の本ばっかりだけど」
提督に直接聞くのが早いんだろうけど、なんとなく憚られる。
916 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 04:49:17.96 ID:AncEZzLZ0
床に座り目の前に並ぶ本を眺める。
そういえば前に提督と閉じ込められたっけ。
一緒に本を見て、膝枕をしてもらったり。
北上「…」ムズ
なんだか無性にこそばゆい。
楽しい思い出なのに妙に体が熱くなる。
北上「…」
姿勢を変えたりしてみたがどうにも変な感じが治まらない。
ノミでもいるのか?
北上「猫じゃあるまいし」
谷風「いやいや立派な猫じゃあないか」ヒョコ
北上「うわっ!」
谷風「やあやあ喜んでくれたようで何よりだ。谷風さん冥利に尽きるね」
北上「そのまま尽き果ててしまえ…」
ちくしょう腰が抜けた。
脅かされるって結構ビックリするもんだな。人の振り見て我が振り直せか。やめないけど。
917 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 04:50:25.54 ID:AncEZzLZ0
北上「なんでまたここに」
谷風「丁度ここに入ってく君が見えてね」
北上「やっぱりストーカーなの」
谷風「それは買い被り過ぎだよ」
北上「褒めてはないから」
谷風「まあ私の好きなのはつけまわす事じゃなくてお喋りの方だからね」
北上「…ひよっとしてstalkingと掛けてる?」
谷風「おいおいジョークは説明したらおしまいじゃあないか」
北上「それじゃあオヤジギャグと変わんないよ」
918 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 04:51:02.85 ID:AncEZzLZ0
谷風「よっこらせ」
私の向かい側に私と同じように本棚を背に座る谷風。
北上「今日は何を話してくれるの?」
谷風「そうだねえ。でももう私が話すような事もないんじゃないかな」
北上「いや、話してもらうよ」
谷風「?」
北上「なんで嘘なんてついたの」
谷風「…」
北上「私に協力すると言ってくれた。それは決して嘘じゃあなかったけど正しくもなかった」
前の提督の事を知っていた。知っていて黙っていた。いや知らないと、言えないと嘘をついた。
北上「どうして?」
別に怒ってるわけじゃない。
ただ不思議だった。
919 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 04:51:48.00 ID:AncEZzLZ0
谷風「もうそんなに色々と知ってるのかい。吹雪かな?彼女も、なんだかよく分からないよね。いや逆か。私と同じで」
北上「同じ?吹雪と」
谷風「正直に答えよう。だから君にも応えて欲しい」
真っ直ぐ見つめてくるその目は、私と同じ人間の目だった。
谷風「本当に君は帰ってくる気があるのかい?」
北上「…」
谷風「谷風さんはね、寂しいんだ。君が何処かへ行ってしまいそうで。私には姉妹がいる、仲間がいる。でも君とのそれは唯一無二なんだ。
失いたくない。行って欲しくない。
だから隠した。ごめんね。それについては謝るよ。でもだからハッキリと言おう。
行かないでおくれよ」
北上「…」
谷風「いやもっとハッキリと言おう。帰ってこないよ、君は。そういう目をしてる」
920 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 04:53:25.12 ID:AncEZzLZ0
北上「私にもわからないよ」
谷風「ならハッキリとさせるべきだ。それとも頭の中では分かっていつつも言葉にはしないようにしていたのかい?
なら私がしよう。
君は提督、君の言うところの飼い主の元へ行くつもりだ」
北上「…」
谷風「勿論それだけじゃあないだろうさ。ここに残りたい気持ちがまさかないとは思わないよ?
でもそれでも今のままなら君はきっと行ってしまう。そう断言しよう。この谷風さんが」
北上「…」
谷風「なんとなくそんな気はしてたんだ。話し相手が欲しい、そう言ったろ?私の願いはそれだけさ。
君を応援したい、協力したい。その気持ちは真実だよ。でもそれはそれだ。単純で複雑な話さ。君もそうだろ?それはそれとして、願いがある」
あぁ、そうか。そうだね。その通りだ。
ここは好きだ。でもそれ以上に私はあの人に会いたい。
でも、やっぱりなにか引っ掛る。
喉に魚の骨でも引っかかったような違和感が。
北上「まだ、まだ分からないよ。でも谷風の言ったことはその通りだ」
谷風「だろうね」ハハ
なんて事ない風に笑う。
921 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 04:54:58.90 ID:AncEZzLZ0
谷風「私は寂しいんだ」
北上「気づかなかった」
谷風「君は一途だからね。いい事さ」
北上「ゴメンね。でも私はやっぱりまだわからないや」
谷風「いいよ。ハッキリとさせる気はあるんだろ?」
北上「うん」
谷風「ならいいよ。言ったろ?君に行って欲しくないのは確かだ。でもそれはそれとして君の願いが叶う事を、やっぱり望んでもいるんだ」
北上「ややこしいね」
谷風「ややこしいんだ。それが人だよ」
北上「艦娘でしょ?」
谷風「人さ。船も人も、海猫も猫も、人が想うから船であり人なんだ。人を想うなら、海猫も猫も人と変わらないんだ。
例えば君は私から見れば猫だ。
でも君の姉妹から見れば君は妹だったり姉だったりする。他にも友人や同士やら。提督から見れば、なんだろうね。
君にはそれだけの君がいるんだ。人は人でできている。君を見る人の数だけ君がいる。
皆提督一人しか知らないから勘違いしているんだよ。私達艦娘は、十二分に人だよ」
922 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 04:56:24.36 ID:AncEZzLZ0
人。そんな話をまさか海猫からされるとはおもわなかった。
谷風「艦娘の中には様々な思いが宿っていると言うけど、それは人もそうだよ。矛盾した色々な自分を抱えて生きているのさ。
別にいいんだ。矛盾してたって、どれかを選ばなくたって。
でも選ばなくっちゃあいけない時がある。今がそれだよ。君は決めなくっちゃあならないんだよ」
北上「分かってるよ。それは分かってる」
谷風「それは重畳」
よく喋る口がようやく落ち着いた。
北上「色んな自分かあ。多分そうなんだろうね。私の中に私がよくわからない自分がいる。それが問題なんだ」
谷風「きっと大変だろうけど、大いに悩むといい。私達がこうして人だから出来ることだよ、それは」
人だから。そうなんだろう。あまり考えた事はなかったけれど、今の私の想いもこうしてこの体になれたからあるものだ。
猫の時にはこんなにもしっかりとした想いはなかっただろう。
でも
北上「ねえ谷風」
谷風「なんだい」
北上「自分はここに居るべきじゃない、と感じた事はある?」
谷風「そりゃまた、随分後ろ向きな考えだね」
北上「明石から聞いたんだ。艦娘は色々な人の魂で出来てる。そして時折その記憶やらが混ざる時があるって。だから私の猫の記憶は不純物なんじゃないかって。
だって猫の私がいるから北上は北上でなくなってる。たまたま混ざった私のせいでこんな事に巻き込まれて、私は随分我儘をしてるなって」
923 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 04:57:08.97 ID:AncEZzLZ0
谷風「ふむ、そうだねえ。さっき私は艦娘も人も変わらないと言ったよね」
北上「まあ、そんな感じのことだったね」
谷風「実際のところ違いが一つある」
北上「それは?」
谷風「艦娘は人より人らしい」
北上「それはよく分からない」
谷風「例えるなら、そう、ニセモノなのに本物よりホンモノらしく見えるって話に近い」
北上「んーまだ分かんないや」
谷風「なら本で例えよう。とても有名な作家がいる。その人は独特な書き方の本を数冊出していて世界中で人気になった」
北上「実際に思い当たるものがあるね」
924 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 04:58:05.70 ID:AncEZzLZ0
谷風「ところが次に出した本が売れなかった。次もその次も。何故かな」
北上「何故って、そんなヒントもなしに」
谷風「今出た情報の中にしか答えがないとしたら」
北上「独特な書き方が変わったとか?」
谷風「そう、変わった。最初の数冊はたまたまその書き方になっただけだった、という事にしよう。
さてその売れなくなった作家はショックで隠居した。ところがどういうわけか世間にその作家の復活作品として一冊の本が出回った。それも昔のような人気で」
北上「隠居したのに?」
谷風「隠居したのに。まして文章なんて庭先に貼ったペットの糞は持って帰れの張り紙を書いたのが最後なのにだ」
北上「その情報いらないでしょ絶対」
谷風「ジョークだよ。さてではその謎の本は何故売れたのかな」
北上「誰が書いたのか、とかじゃないんだね」
谷風「そこは誰でもいいんだ。谷風さんという事にしておくかい?」
北上「じゃあそうしよう贋作者め」
925 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 04:59:01.59 ID:AncEZzLZ0
谷風「で、答えは?」
北上「独特な書き方を真似たから」
谷風「そう。それもこれ以上なくこってりと、昔よりもマシマシ濃いめにした。
結果世間はそれをホンモノにした」
北上「あー。本物よりホンモノらしく、か」
谷風「そういうことさ」
北上「でもそれが、艦娘は人より人らしいに繋がるの?」
谷風「人は人になろうとして人にはならないのさ。まっさらな赤ん坊として産まれて、色々な人を取り込んで自分ができるんだ。
艦娘もほぼそうだ。環境によって大きく変わる。でも一つ違いがあるよね」
北上「…まっさらじゃない」
谷風「そう。私達には元がある。大元が。谷風なら谷風が、北上なら北上が。そうあれかしと人々が望んだ、人となるための人となりがね」
926 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 05:02:43.52 ID:AncEZzLZ0
確かにそうだ。私もあの鎮守府の北上も大小差異はあれど根本的には北上に違いない。
谷風「私達は最初から表面上だけ見栄えがいいようになってるのさ。でもやっぱり中身はからっぽ。そこから何を経験してどうなるかは艦娘それぞれだよ。
経験とは記憶だ。君や私の場合、前世の記憶がある、その経験によって皆とは少し違う価値観を持ってる。とまあ私はそう考えてるよ。あくまで谷風さんはね」
北上「経験かあ。言い得て妙だね」
でも全部納得は出来なかった。筋は通ってるようだし説得力もある。でも納得出来ない。
それは猫の時の私の気持ちや想いを捨ててしまうような気がしたから。
谷風「腑に落ちないって顔だね」
北上「そんなに顔に出てた?」
谷風「そりゃもうとびきり湿気た顔してたね。自分で焼いた秋刀魚を自分で食べてみた時の磯風みたいな顔だったよ」
北上「どんな顔だ」
想像に難くないけど。しかし姉妹の事を話す谷風を見て思った。
私も球磨型の皆の事を話す時こんな顔をしてるのだろうか。
きっとそうなのだろう。私はその時、確かに球磨型軽巡洋艦の三番艦、北上でいるのだろう。
927 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 05:03:20.47 ID:AncEZzLZ0
北上「猫の私も今の私も、確かに私なんだけどね」
谷風「船だったという昔の私達も、この身にある沢山の魂とやらも、全部私達なんだよ」
北上「でも最近の私は、猫じゃなくて少し北上に近いかもしれない」
谷風「どうしてだい?」
北上「わかんない。わかんない私がいるから、そうなのかなって」
谷風「なるほど」
北上「谷風は今、どの谷風なの?」
谷風「私かい?そりゃあ勿論君の友人だよ。秘密の友達さ」
北上「読書仲間?」
928 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 05:03:48.29 ID:AncEZzLZ0
谷風「読書かぁ。生憎と私ゃぁ本はあんまし読まないからねえ」
そう言いながら背もたれにしている本棚から無作為に本を一冊取り出す。
谷風「ん、これ読みかけかい?」
北上「読みかけ?」
谷風「栞が挟まってるから」
北上「どれどれ」
読みかけの本をここにしまった覚えはない。その本自体も私の知らないものだ。
谷風「ほらこれ」
北上「んー見たことない栞、栞?あー、ん?あっ!?」
谷風「ぉお?なんだい素っ頓狂な声上げて」
929 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 05:04:41.85 ID:AncEZzLZ0
栞に書いてあった妙な模様、マークに見覚えがあった。
以前に提督とここに閉じ込められた時にも同じ栞を見たのだ。
いやそれよりも、
北上「ここって」
以前見た栞より随分状態が良いおかげが、下の方に文字が書いてあるのが分かる。
谷風「住所だね。えぇっと、ん、地名はここと同じか。艦だからね、地理はサッパリだけどそう遠くは無さそうだ」
北上「これには心当たりがある」
谷風「ほおほお」
北上「この前近くに古本屋を見つけたんだ」
谷風「近くにかあ。なるほど外には出てみるものだね」
北上「もしそこで買っていたなら、提督の事が聞けるかもしれない」
谷風「行くのかい?」
北上「当然」
930 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 05:09:50.74 ID:AncEZzLZ0
谷風「なら私はここで祈っておこう。君にとって何かいい未来が待ってるようにさ」
北上「止めないの?」クスッ
祈る、という単語がおかしくて意地悪な質問をしてみる。
谷風「止めないよ。雛は一度巣立てば後は自分で飛びものだからね」
北上「そういうものなの?」
谷風「そういうものなのさ。寂しくても、見送らなくっちゃあね」
北上「そっか。なら、行ってくるよ」
谷風「その背中を追うことは出来ないけど、帰りはしっかり待っててあげるから安心して行ってくるといいよ」
北上「粋だねえ海猫さん」
谷風「行くのは君だよ猫さん」ニカッ
楽しそうに笑う海猫。前にもこんな会話をしたなあ。
谷風にとって大切な、唯一無二だというこの関係を、私は断つ事になるのかもしれない。
後ろ髪を引かれる思いだが、見送ってくれた友人のためにも淀みない足取りで壊れた扉から書庫を出た。
931 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/20(土) 05:14:40.71 ID:AncEZzLZ0
由良シューが一番好き
艦娘とはなんなのか、のような話。
もし想いや魂の集まりなら例えばそこに猫の魂が混ざったら?というのが書き始めたきっかけだった気がします。
次スレにすべきかは悩むところ。しかしまさか三つも立てることになるとはよもやよもや…
932 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/20(土) 19:33:41.06 ID:qJRfI0xto
乙した
ココで畳みに入るのは何か勿体無い、無理に要求する気は無いけど、願わくば次スレに続いてほしい
933 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/21(日) 05:11:12.65 ID:QZw627YFO
なんやかんやで一年半以上やっとるね
じっくりことこと煮込むかのようにやっていこう
934 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/21(日) 20:02:27.04 ID:RgAMSUgF0
不時着みたいな終わり方だけは勘弁な
俺たちのカリカリはこれからだ!的なw
935 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/22(月) 00:48:35.65 ID:zd1gvGugo
おつなの
936 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/23(火) 15:08:35.43 ID:uVBWRiENO
やっぱりこれは良いものだ
また楽しみにしてるよ
937 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/26(金) 17:43:55.03 ID:u/HhqEf50
いやー長いこと見続けてるけどホント面白いから楽しみです。応援してます。
938 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/30(火) 23:34:29.34 ID:aDGpkj0q0
86匹目:猫目
提督「本屋?またか?」
北上「すぐそこだよ。歩いて20分くらい」
提督「いやな、例え一歩でも外出は外出になるわけでな」
吹雪「あーあそこですか」
提督「あれ、知ってんの?」
吹雪「ええまあ。いいんじゃないですか?近いし」
提督「いやだから近くても許可とか色々とな」
吹雪「いーじゃないですか近いし」
提督「そうは言ってもよ」
吹雪「別にそんなとこでいい子ちゃんぶる必要もないじゃないですか」
提督「…それもそうか」
吹雪「だしょ?」
提督「だな」
北上「…」
いいのか?ありがたいけどさ。
939 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/30(火) 23:34:58.82 ID:aDGpkj0q0
だいぶ寒くなってくる季節なので以前皆で買った洋服を着て鎮守府を出る。
北上「このオシャレさはド田舎には不釣り合いだよね」
そんな独り言をバス停近くの草むらに投げかけてみる。
ふと、もしかしたら彼も私のように艦娘になるなんて事があるのかもなんて思った。
そうしたら一体何を考えるのだろうか。
そんな益体もない事を想像しながらバイクで通った道を辿る。
940 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/30(火) 23:35:47.66 ID:aDGpkj0q0
北上「ここか」
古本屋というものがどういうものかは知っていた。と言っても本で読んだだけだが。
木造の古ぼけた店の中には人が歩けるギリギリまで本棚が並べられていて、そこには長い歴史を纏い変色した本達が所狭しと並んでいる。
うん、イメージ通りの店だここ。
開け放されている入口からそおっと店内に入る。
鎮守府の書庫と同じ匂いが一瞬にして私を包み込んだ。
いやあ、落ち着くなあこの感じ。
941 :
◆rbbm4ODkU.
[saga]:2019/04/30(火) 23:37:36.16 ID:aDGpkj0q0
「いらっしゃい」
北上「!」ビクッ
奥から声がした。
思わずビクッとなったがよく考えればお店なのだから人がいるに決まってる。
少し入り組んだ棚を超えて店の奥を覗く。
奥の部屋は私の立っている所から床が一段高くなっていた。縁側みたいな作りなのかな?
その縁側に置かれたレジの奥にいかにもな老人が奥に座っていた。私の身長だとレジ台から老人の顔がギリギリ見える程度だ。
あ、いやレジじゃない。ただの机だ。レジがないぞここ。
老人「ほう。客人とは珍しい」
おっとここで艦娘と名乗るわけにゃいかない。聞かれたらお爺ちゃんのウチに遊びに来た孫という事にしよう。
北上「ちょっと聞きたい事があってさ」
老人「何かね」
北上「この栞ってここのモノであってる?」
例の栞を差し出す。
老人「んー?ちょっと待ってなさい」
奥に引っ込んでく老人。どうしたんだろ?
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