右京「呪怨?」修正版

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:03:40.78 ID:cw/0nUsY0
このssは私が五年前に速報で書いた右京「呪怨?」の完全リメイクになります。
当時の誤字脱字や未熟な文章はすべて修正、それに相棒本編に合わせて話の内容もいくつか変更させています。
長文ですが興味のある方は是非読んでみてください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1520946220
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:04:22.99 ID:cw/0nUsY0

呪怨


強い恨みを抱いて死んだモノの呪い。


それは、死んだモノが生前に接していた場所に蓄積され、『業』となる。


その呪いに触れたモノは命を失い、新たな呪いが生まれる。

3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:04:54.80 ID:cw/0nUsY0



プロローグ



2017年12月31日―――

「よ、暇か。…って何してんの?」



「おや、見てわかりませんか。大掃除ですよ。」



今日は年の終わりにあたる大晦日、特命係の部屋では大掃除が行われていた。


叩きで本棚の埃を落とす杉下右京に床下の汚れを雑巾で拭き続ける冠城亘の二人。


右京が落とした埃に塗れながら冠城は文句ばかり愚痴っていた。



「ゲホ、ゴホ、何でこんなに汚れが溜まっているんですか?」



「それは…ここ数年色々とありましたからねぇ…」



本棚の埃を叩きながら物思いに耽る右京。


この特命係の部屋でこうして大掃除を行うのは実に二年ぶりだ。


その理由は冠城の前にこの特命係に在籍していた甲斐享ことカイトが原因となる。


彼が引き起こしたダークナイト事件。


さらに冠城亘の警視庁採用と特命係はこの二年間とにかくドタバタしていた。


そのせいでいくら普段は暇な特命係といえど大晦日の大掃除を行う余裕はなかった。



「だからこうして二年ぶりに大掃除をしているんですよ。」



「なるほどな、こんな埃まみれじゃコーヒーも飲めん。悪いが失礼するよ。」



せっかく仕事の合間を抜け出してコーヒーを飲みに来たのに


これでは敵わないと思ったのか早々に退散する角田課長。


右京も自分が担当する分の掃除を終わらせたのかいつものように紅茶を嗜んでいる。


特命係の部屋は右京と冠城のデスクの中間で隔たりがある。


二人は大掃除をする際に共有スペース以外は自分たちで分担して掃除を行っていた。


だから早々に終わらせた右京が冠城に構わず紅茶を飲んでも咎められることもない。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:06:08.05 ID:cw/0nUsY0


「分担して掃除しようと言ったのはキミですから手伝いませんよ。」



「ハイハイ、わかりましたよ。ところで右京さんこの三が日は何か予定ありますか?」



「一応ありますよ。

昔の知り合いが集まって花の里で新年会を開く予定です。

よかったらキミも来ませんか?」



「いや、俺はいいです。女性と二人きりならともかくその手の集まりは遠慮します。」



花の里で美人女将の幸子と二人きりの新年会なら実に魅力的な誘いだ。


だがそこに右京の古い知り合いも交じるのなら話は別だ。


そんな知り合いだらけの集まりに初対面の自分が参加したら気まずくなることは確実だ。


その場で右京の昔馴染みが和気藹々と話し合っている中で


自分一人だけ白ワインをちびちびと飲み続けるなど余りにも惨めでならない。


そんな仲間外れみたいな思いをするのは御免だ。


仕方がないから今年は一人寂しく新年を迎えようと思い


最後に自分のデスク下を掃除しようとそのデスクを退けようとした時だ。


5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:06:45.91 ID:cw/0nUsY0


「何だ…これ…?」



そこには埃に塗れながらあるモノが落ちていた。


それは二つのモノ。ひとつはB3ほどの大きさの画用紙。


それも子供が描いた絵が載せられている。


絵には三人の人物が描かれていた。中央に小さな男の子。左右には男と女。


それにペットなのだろうか黒い猫。恐らくこれは家族を描いたものだ。


絵の印象からして恐らくは小学校低学年が描いたものとみて間違いない。


だがその絵の中で冠城は奇妙に思えたものがあった。



「この髪の長い女は…何だ…?」



思わず口に出してしまったがどうしても気になった。


絵の印象のせいだろうかその母親が妙に不気味に見えてしまった。


気になった冠城は裏面を覗いてみた。


もしもこれを子供が描いたのなら裏に名前を書いているはず。


そう思って裏面を覗くと確かに名前が書かれていた。そこにはこんな名前が記されていた。



[佐伯俊雄]



この絵を描いたであろう少年の名前。


冠城は何故かこの名前がどうしても気になってしまった。

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:07:23.31 ID:cw/0nUsY0

「それで僕に何の用事ですか?今日くらいは早く帰って紅白でも見たいんですけどね。」



ここは警視庁生活安全部サイバーセキュリティ本部。


その室内で冠城は警察学校の同期生であり


さらにかつての事件で


自分が法務省のキャリアを失うきっかけとなった青木年男を尋ねていた。


事ある毎に頼ってきて、また何か厄介な頼み事だろうと頼ってくる冠城を邪険に扱う青木。


元々青木は特命係の右京と冠城に復讐するため警視庁に採用された。


さらに今日は大晦日。


このサイバーセキュリティ本部は警視庁の部署でも一、ニを争うほどの激務を担っている。


普段は暇な窓際部署の特命係とはちがい激務を熟す青木はようやくまともな休日を取れた。


それなのに仕事納めの直前に冠城の妙な頼みなど聞きたくもないのが本音だ。



「だからちょっと協力してほしいんだよ。

昔特命係が解決した事件で佐伯俊雄って子供が関わった事件を調べてほしいだけなんだ。

なあ、頼む!この通り!」



「昔特命係が関わった事件?
それなら当事者の杉下警部にでも聞けばいいじゃないですか。

どうして僕に頼る必要があるんですか。」



まさに青木の言う通りだ。


以前、特命係が解決した事件なら青木に頼むよりも当事者の右京にでも聞けばいい。


だがそんなことは青木に言われなくても出来ない理由があるからだ。


実はここへ来るまでの間、冠城は佐伯俊雄について右京や伊丹たちにそれとなく尋ねた。


しかし返事はろくなものではなかった。


7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:08:16.04 ID:cw/0nUsY0

『佐伯俊雄?知りませんねぇ。』



右京はそんな名前の少年には会ったことがないという。


あの右京が事件関係者の名前を忘れるはずがない。


つまり右京には本当に覚えがないということだ。


さらに特命係が過去の事件に関わったとするなら


捜査一課の伊丹たちもこの佐伯俊雄に関わりがあるかもしれない。


そう踏んだ冠城は伊丹と芹沢にも尋ねたのだが…



『佐伯俊雄?いや、そんな名前は知らないよ。』



『けど…何だ…その名前を聞くと妙に背筋がゾッとするな…』



伊丹と芹沢もそんな名前を聞いたことがないという。


それでも佐伯俊雄の名前を聞いてなにやら妙に顔色を悪くしたのだけは印象に残った。



「それで諦めきれなくて僕のところに泣きついたわけですね。」



「まあ大まかに説明するとそういうことだ。

いくら彼らの記憶になくても特命係の部屋に長年埃まみれになっていたモノだ。

これは俺の勘だがこの絵は間違いなく何かの事件の証拠品だったはずだ。」



普段の冠城は決して勘などというあやふやなモノを信じたりはしない。


自分の経験とそれに推測に基づいて考えを巡らせる。


そんな冠城が珍しく自身の直感を頼った。


自分でも何故ここまで自信を持って言えるのかはわからないが恐らくこれは理屈ではない。


それにあの特命係に置かれていた品だ。不用意に置かれていたとは思えない。


これには必ず何か意味が有るはずだと冠城の直感がそう告げていた。


8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/13(火) 22:08:24.62 ID:Xuji6wSX0
久しぶりだ、旧作と比べてどう変わった読ませて貰いますね
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:12:36.23 ID:cw/0nUsY0


「まあ冠城さんが何を信じようが勝手ですがね…

悪いですけど僕はもう退勤させてもらいますよ。

事件ならともかく私用で僕のプライベートを邪魔しないでください。」



そんな冠城の頼みなど聞く耳持たず、青木は鞄を持って帰り支度を始めた。


青木にしてみれば貴重な時間を潰してまで冠城の頼みを聞く理由などない。


ちなみにだがこのサイバーセキュリティ本部でも部署を上げての忘年会がある。


今日がその日なのだが青木も一応誘われてはいたが


本人の警察嫌いなのとおまけに馴れ合いは結構との理由で突っぱねられた。


誘った同期も付き合い程度なので断られてもどうでもよかった。


そんなわけで青木がこうして一人さっさと帰るのも仕方なかった。


「青木巡査部長!どうかお願いします!」


そんな青木に向かって冠城はキレイなまでにペコリと頭を下げた。

ちなみに警察学校では同期だが階級では一応青木の方が一階級上に値する。

まあ普段は生意気なこの男に頭を下げられるのは悪くはない。

それにもしかしたら過去の事件を暴いて杉下右京の粗を探れるいい機会かもしれない。

そう考えた青木は渋々ながらも冠城の願いを聞き入れた。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:13:10.09 ID:cw/0nUsY0

「けど名前だけじゃ調べようがありませんよ。他に何か手掛かりはないんですか?」



「まあ…あるにはあるが…」



実は先ほどの掃除で発見したのは絵が描かれた画用紙以外にもうひとつあった。


それは古びたノート。


こっちはかなり年季の入ったモノで恐らく10年以上は使い古されたものだ。


だがこのノートは調べようにもどういうわけだが中が張り付いて読むことが出来ない。


無理やり剥がせば間違いなく破れてしまい中が読めなくなる。


それでもひとつだけ読める部分があった。


それはノートの最初のページに記されている住所。そこにはこう記されていた。



「東京都練馬区寿町4-8-5。この住所を調べてくれ。必ず何かの事件が起きていたはずだ。」



それから青木は冠城の指示に従い住所とそれに佐伯俊雄の名前を検索してみた。


すると青木が操るPCのモニターにその検索されたワードがヒットされたようだ。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:14:21.71 ID:cw/0nUsY0

「一応出てはいますけど…変だな…これファイルが二つもあるぞ…?」



「それってどういうことだ?」



「冠城さんの予想通り過去にこの住所で事件が起きています。

けど同じ日付で事件のファイルが二つも存在しているんですよ。

こんなことは普通ならありえない。」



青木からの返答に冠城もまた妙な違和感を抱いた。


つまりこういうことだ。通常事件が起きればその詳細は警察のデータベースに保存される。


だが冠城たちが調べた住所で起きた事件は


どういうわけか同じ日付でこの件に関するファイルが二つ保存されている。


何故こんなことになっているのか?確かに青木の言うように気になることではあった。



「それでこのファイルの作成者は誰だ?」



「待ってください。ひとつは捜査一課ですね。

あれ?でもこれ…角田課長のとこの組対5課も関わってるな。

それで…もうひとつは…特命係…?」



もうひとつのファイルを作成したのは特命係と聞いて冠城はそのファイルに注目した。


やはり冠城の推測通りこの絵とノートはなんらかの事件における証拠品だ。


それが何故か特命係に忘れ去られたかのように放置されていた。


真実を必ず見出す杉下右京がそんなミスを犯すか?答えはNOだ。


それに右京にもこの絵とノートを見せたがまるっきりノーリアクションだった。


つまり右京自身も知らない事実が事件の中に隠されていると冠城は確信した。

12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:15:10.72 ID:cw/0nUsY0

「これは少し僕も気になってきましたね。こうなったらとことん付き合ってあげますよ。」



「それならこの特命係が作成したファイルを出してくれ。

きっとこのファイルにこの絵とノートに関わる事件があるはずだ。」



特命係が作成したファイルを調べるように指示する冠城。


青木もこの件で特命係の粗を探り当てたらと愉快な気分でこの事件を調べだした。


これでかつて杉下右京が関わった事件に触れることが出来る。


そんな期待に不謹慎にも期待を寄せる冠城だが…


それでも少し気になることがあった。


それはこの絵とノートを調べようとした時に右京から告げられた忠告だ。



『もう終わった事件を嗅ぎ回るのはやめなさい。触らぬ神に祟りなしですよ。』



杉下右京がそんな忠告を自分に告げた。率直に言って彼らしくない言動だ。


あの発言はまるでこの事件に触れてほしくないようなそんな気がする。


それでも今はどうでもいい。


早くこの絵とノートの謎を解き明かそうという好奇心が躍起になっていた。


だが…それは過ちだった…


杉下右京は常に正しい。彼の言葉を信じるべきだった。


この呪われた事件を紐解くことがどれほど危険であるのか冠城は理解していなかった。

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:16:37.32 ID:cw/0nUsY0
とりあえずここまで
このssは当時の内容を四代目相棒の冠城さんとついでに青木くんの視点で描いています
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/13(火) 22:17:25.55 ID:cw/0nUsY0


<<第1話 剛雄>>



2008年10月―――



東京都練馬区某所にあるアパートで惨殺死体が発見された。


死体を発見したのは隣室の住人。


それから通報を受けて駆けつけた警視庁の捜査一課により直ちに現場検証が行われた。


米沢たち鑑識が現場検証を行っている中、


捜査一課の伊丹たちもこの光景に思わず吐き気を催すほどだ。



「ウゲェ…酷い状態ですね…思わず吐きたくなりますよ…」



「こんなところで吐くんじゃないぞ。

刑事のゲロで現場荒らされたなんて笑い話にもならないんだからな!」



「たくっ!何年刑事やってんだ!新米じゃねえだろ!」



「だが確かにこいつは酷過ぎるな…なんだってんだ…」



「米沢さん…こんな現場でも黙々と仕事してるんですね…」



「まあプロですから。駅のホームで引かれた死体の方がもっと酷いですからな…」



ベテランの刑事でさえ目を覆いたくなる惨殺死体。現場はこの室内に位置する台所。


そこは被害者の体内から大量に飛び出た血に塗れており


それほどまでにこの殺害現場は凄惨な光景に包まれていた。

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