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【艦これ】ex.彼女
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653 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:43:49.15 ID:tMIn8aavO
「今日は疲れちゃったから、もう少し横になってたいの。
ふふ…私のお昼寝を邪魔したから、お仕置ね。
抱き枕になってもらうわ、それが匿う条件。」
「………本当に?」
「本当よ。あなたも少し疲れてるんじゃないかしら?
子供の体だからよく分かるわ、体温高いもの。きっと眠くなってくる頃よ。
今は可愛い男の子が遊びに来ただけ…大丈夫だから。」
「待っ……むぐっ!?」
問答無用の乳攻撃。しかも眠いとかぬかしてんのに全力でホールドじゃねえか。
それを喰らった途端、くらくらと眠気が襲って来た。
ああ、ガキの頃、メシ食いながら寝そうになってたっけ…こうも急に来んのか。
妹で慣れてんのかね、こいつ子供の寝かせ方分かってやがる…。
あ…ダメだ……疲れが一気に……。
………。
…………すぅ……。
654 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:46:52.86 ID:tMIn8aavO
……………。
……元に、戻った。
捲ってた制服も短パンと半袖状態。拳を見ても、ちゃんとタコがある。
はぁ……良かったぁ〜〜……!
そうだ、眼鏡は無事なのか?すぐにスマホを見ると、LINEが2通入ってた。
『案ずるな、私に掛かればこの通りだ。』
添付画像には屍の山で立て膝座りする、生意気そうなガキが写っていた。
うわ、バケモノかあいつ…。
はぁ、でもこれでよく分かったぜ。あのアホぐらい強くねえと、こんな所まとめらんねえんだろうなぁ…。
さて、早く出ちまわねえと……。
“ぞく……。”
その悪寒を感じた時、一気に意識が覚醒した。
そうだ…俺は元カノに匿ってもらってた。
で、ここはあいつのベッドの上……そこまで理解した時、あるセリフが脳内で木霊する。
“…そうね、確かに今の姿はとっても可愛いけれど…。
私が好きなのは、普段のあなただもの。”
“私が好きなのは、普段のあなただもの…。”
“普段のあなただもの…。”
“フダンノアナタダモノ…。”
幻聴のエコーが切れるその瞬間、俺は後ろを振り向く。
そこには……。
「…………ハァ……ハァ………。」
滝の様なよだれを垂らしつつ、血走った目で獲物を狙う蛇がいました。寝たままで。
655 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:48:22.13 ID:tMIn8aavO
「いやあああああああああっ!!!???」
「“待”ってたわ!!この“瞬間”(とき)を!!」
「ダメ!俺のセカンド童貞死んじゃううう!!」
パリ-ン!!
ウワ!ケンペイサンオチテキタ-!?
ナニイ!?ドコニカクレテタノ!!
ニゲキッタネ!!バツトシテジョソウダヨ!!
………あんな奇跡的な受け身、試合や実戦ですら取った事無かったよ。
人間、やれば出来る。
656 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:49:53.56 ID:tMIn8aavO
“あーあ…またやっちゃったわ……ダメな女ね、私。
………分かってるのに。”
657 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:52:02.39 ID:tMIn8aavO
「………いやぁ、最悪でしたね。」
「ああ…流石に無理があったのか、あの後私も全身筋肉痛になったぞ。
全く、あの二人はどうせ懲りんだろう。また時期を見て間節を増やしに行かねばな。」
「……つくづく感じましたけど、あんたいないと本っ当ここ回んないっすね。
バケモノにはバケモノをぶつけんだよ!なんて映画のセリフでありましたけど、身に染みましたよ…。」
「ふむ…強さも重要だが、一番は慣れだよ。
私もおふざけは大好きだが、デッドラインは見極めているつもりだ。度を超えすぎた者を殴るラインをな。」
「……慣れ?」
「コウヘイ……ああ、提督の本名なんだがな。
あいつとは幼馴染だが、昔はもっとメチャクチャだったのさ。
昔から女への手は早かったし、他にも何かと事件ばかり起こす。
散々一緒に悪さもしたが、同じぐらい殴って止める事も多かったからな。
一時期軍内では、サイコパスと言う単語はあいつを指すものだったんだよ。
だから手加減しないラインは、あいつで学んだものだ。」
「………苦労してきたんすねぇ。」
「まぁそれはそれで面白かったがな……おや、メールか……。
……!?……くく……はははははははははははははははははは!!!!」
「……ど、どうしたんすか…?」
「噂をすればなんとやらかな……リョウ、面白い事になるぞ。」
この時の眼鏡の邪悪な笑みったら無かったな。
こいつもやっぱり悪魔だと、のちの件で思うんだ。
658 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:53:39.53 ID:tMIn8aavO
北欧のある国には、ある食品がある。
それはニシンを薄い塩水に浸け、現在では缶で一月程発酵させるのが主な製法。
その発酵ガスによる膨張力は凄まじく。
ある民家にて25年放置された缶詰を処理する際、爆発物処理班と専門家が召集された事もある程だ。
え?そんな大げさなって?
大げさじゃねえ、至ってマジだ。
発酵食品…要は腐敗に近い。そして臭い。
開ければ飛び散る危険な汁を持つその缶詰の名は、シュールストレミング。世界一臭い食べ物と呼ばれているもの。
臭気は多分磯風のGUSOH……じゃなかった、料理の次ぐらいだ。
後日、その原産国からとある女がやってくる。
シュールストレミング並に発酵と膨張でパンパンになった心を抱えて、とある男に会うために。
勿論土砂降りも付いてくる、おぞましい開缶式の始まりだ。
でも正直、解決する気しなかったなぁ…だってよぉ、アレは…。
提督、少しは俺の気持ちが分かりましたか?あんたが蒔いた種です。
659 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:55:45.83 ID:tMIn8aavO
大分遅れてしまいましたが、今回はこれにて。
次回、雨vs羊。
660 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/04(土) 22:16:32.42 ID:AWg4sXrUO
おつおつ。ゴトちゃんは愛が重そう……
661 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/05(日) 03:50:54.98 ID:rGrRDjGg0
乙!
もうダメだおしまいだ
662 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/05(日) 20:51:52.43 ID:qhgIy0N4O
久しぶりの更新乙です
663 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:12:49.80 ID:FwVAF0RqO
「えーと…海外艦、ですか。」
「ああ、とは言え1週間だけだがな。あちらのスケジュールの問題で、まずうちで仮預かりする事になったんだ。
後々日本に正式配属されるが、うちに来るとは限らん。
まぁ、軽く体感してもらう方が本人も不安が減るだろうと言う配慮さ。」
「また珍しい国からですね…英語通じます?」
「母国語では無いが、あの国は英語も上手いらしいぞ?
それに本人は元々日本語を学んでいたそうでな、JLPTのN1持ちだそうだ。」
「JLPT…日本語能力試験ですか!?N1って要は1級じゃないすか!
じゃあ特に心配要らなそうですね。」
こっちの連中はそうでもねえけど、前んとこで大変な事あったなぁ…。
通じるならまぁ、大丈夫そうか。
「それでその当日なのだが、別件で任務が入っている。」
「別件?」
「前も言っただろう?面白い事になるとな。」
664 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:13:47.87 ID:FwVAF0RqO
第28話・女心は8070Au -1-
665 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:15:46.66 ID:FwVAF0RqO
そんなこんなで1週間が過ぎ、とある任務の日がやってきた。
その内容とは、今日1日の執務室の護衛。
また珍しい任務だが、どうも提督一人の判断では無いらしい。
……だって、眼鏡とお淀がめっちゃニヤニヤしてんだもん。
「表ならともかく、なんで内部なんです?これから来るんでしょう?」
「そう言う結論に至ったからだな。」
「何ですかそれ…それにこれまで引っ張り出して来て。」
「ちょっとこれって何よ!」
そう、何故か眼鏡のリクエストでづほも召集されていた。
曰く、普通に執務室にいる体で頼む…なんて言ったものの、何でこいつなのやら。
「まぁまぁ、あまり物々しくても緊張させてしまうだろう?」
「何か変ですよね、今日の内容。何か企んでません?」
「いや、ただの任務だが?」ニヤァ
“……絶対何かあるよな。”
“だよね、私も呼んでるんだし…。”
いまいち察しが付かねえまま、例の海外艦が来る時間になった。
入って来たのは全体的に青でコーディネートされた女…ああ、この人がと思いつつ全体像を確かめた時。
俺とづほは、『何か』を感じ取った。
666 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:18:19.31 ID:FwVAF0RqO
「北欧スウェーデンから参りました、航空巡洋艦ゴトランドです。
提督、どうぞよろしくお願い致します!」
「うん、短い間になるけどよろしくね。」
提督はいつも通りのゆるい笑顔…だが俺らの位置からは、机の下にある脚が見えていた。
……提督、脚にバイブでも仕込んでんですか?
「ふふ、ではお近付きの印に握手でも。」
「こちらこそよろしく。」
何故だろう。
何故ただの握手がやたらニチャァ…とした動きに見えるんだろう。
「あ、あとこれスウェーデンのお土産!ダーラナホースって言うの!幸せを運ぶ馬だよ!」
「ありがとう、飾らせてもらうよ。」
おかしい、急にフランクになり過ぎだ。あと、机越しに提督に近い気がする。
一見普通に会話をしているよう…だが読唇術を齧ってる俺には、その合間にボソッと囁いた言葉が理解出来た。
“ダーラナホースには、私って言う幸せが乗って来たんだよ。ね、コウヘイ?”
コウヘイ…こないだ聞いた提督の本名。
待て……何でこの人が知って………。
……あ。
667 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:20:23.59 ID:FwVAF0RqO
「じゃあゴトランド、今日は部屋でゆっくりしてくれていいから。場所は分かる?」
「うん!説明は受けたから!じゃあまたね!
………コンドハニガサナイカラ。」
………今、何かすっげー怖い事言わなかった?
ドアの音と共に訪れたのは、それは長ーい静寂。
それを破ったのは……提督が蛙のように机に突っ伏す音だった。
「………!!……!!」
「提督!?大丈夫ですか!?」
おいおいおい…普段糸目な人がすっげえ顔してんぞ。
慌てて駆け寄る俺とづほを尻目に、眼鏡コンビは悪魔の笑みを浮かべていた。
668 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:22:07.80 ID:FwVAF0RqO
「…………かはっ…はぁ、やっと息吸えた…。」
「コウヘイ…大変な事になったなぁ?」
「ふふふ、いつ『あの子』にバレるでしょう?」
「……リョウちゃん、あの人見てどう思った?」
「……うん。キャラは違うけど、何か翔鶴っぽい。
提督……もしかして…。」
「うん……僕の、留学時代の元カノだね…。」
この時俺とづほの脳裏には、ある奴が浮かんだ。
その直後……。
『びたぁん!!』
「何だ!?」
「ひっ…!?リョリョリョ、リョウちゃん…あそこ……!」
づほが指差したのは、ついさっきでかい音を出した窓……そこには。
「…………。」ニコォ…
「「で……出たぁああああぁああああっっ!?」」
この場に最もいてはいけない女、時雨が窓に貼り付いていた…。
669 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:24:06.61 ID:FwVAF0RqO
「……………。」ニコニコ
「……………。」
「……よっ、と…さて提督、何から説明してもらおうかな?」
時雨が窓から入ってくるや否や、途端に空気がヒリヒリしたものに変わる。
提督はいつものアルカイックスマイル…だが、明らかに尋常でない汗がダラダラと。
「はは…21歳の時、半年ぐらいスウェーデンに留学してたんだ。
そ、その時付き合ってた子でね…。」
「へぇ?じゃあ僕と知り合うずぅっと前かぁ…その時ゴトランドさんはいくつだったの?」
「じゅ、16歳…。」
すこーん!とした音が部屋に響く。
時雨は相変わらずニコニコしたまま、持ってたペンを机に刺したんだ。提督の目の前に。
670 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:27:14.03 ID:FwVAF0RqO
「ねぇ…“やる事はやった”の?」
「う……うん…。」
「へえ…あの人の方は初めてだった?」
「うん、そうだったね…。」
「…………。」
2本目が深々と机に刺さる。今度は煙も立てて。
時雨は尚も笑みを崩さず、尋問は続いて行く。
「………本当に愛していたのかい?彼女の事を。」
「うん…その時は日本に連れて帰りたいぐらいに。
結局今生の別れになると思って、そのまま別れてしまったけどね。」
「………別れの言葉は?」
「……別れ話をした翌日、あの子は空港に見送りに来てくれた。
僕だって本当は、別れたくなかった……だからこう言ったんだ。
『またいつか、どこかで。』って…。」
「………そう。」
そこから時雨は黙っちまって、長い沈黙が訪れていた。
「提督……。」
それを破ったのは、づほの靴音。
づほは優しく微笑みながら、提督の肩に手を置き、そっと耳元に顔を寄せて…。
「ギルティ。」
その瞬間、ぎょん!と目を見開いた。
671 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:28:38.75 ID:FwVAF0RqO
「時雨ちゃん!」
「うん!行くよ瑞鳳さん!」
「えっ?ちょ、待っ…!!」
づほが提督を羽交い締めした瞬間、ばちこーん!!と爽快な音が響き渡った。
ブ○ャラティも真っ青の殴られ顔を晒しつつ、肩を固定された体は吹っ飛ぶ事も出来ず。
うわぁ、首すっげえ伸びてる。すっげえ伸びてるよ。
「いい音!時雨ちゃんやっるー♪」
「その為の革手袋さ。」
「提督。」
「う……け、憲兵君…?」
「………俺も1発いいですか?」
「ごめん!君のは死ぬ!」
ちっ…まぁいいや、ここは女性陣にボコってもらうか。
あーあ、眼鏡超笑ってんじゃん…。
ダメだわこの人…俺ですらあいつん時はまだちゃんとよぉ…。
672 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:31:44.74 ID:FwVAF0RqO
「………提督、君には失望したよ。
僕と出会うよりずっと前の事…本来なら僕に口出しする権利は無い。
でもそれはあんまりなんじゃないかな?ゴトランドさんが可哀想だよ。
そんな未練を残す別れ方なら、彼女がああなるのも無理はないね。
あの人が入ってきた時から、君へのドス黒い匂いがプンプンしていたよ。
だからあの人の為にも、この1週間でしっかりケリを着ける事。いい?
それが済んだら……ちゃんと、僕の所に帰って来てね?」ギュッ
「………時雨。」
「もし、失敗したら……。」
「したら?」
「…………。」ニコッ
「頑張ります!頑張りますのでご勘弁をおおおお!!!」ヘコヘコヘコヘコヘコ
提督、キャラぶっ壊れてます。
あれ、おかしいなぁ…何か提督が座布団になってて、時雨がケツに敷いてるように見えるぞ。
673 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:34:22.12 ID:FwVAF0RqO
「はっはっはっ!見事なカカァ天下だな!
時雨も成長したものだ…随分と人の気持ちを考えるようになったな?」
「それはそうさ。僕だって、いつまでも前のままじゃいられないよ。」
「そうか。
……で、本音は?」ポン
「………あのメス、どこからジンギスカンにしてやろうかな…ふふふふふふふふふ……。」ジャキン
「悪魔かあんたは!!時雨もどっからマチェット出した!?」
「ねぇ提督、マトンって好き?今度料理してあげるよ!」
「しれっとおぞましいこと言ってんじゃねえ!!」
こうして俺達による、提督の尻拭い作戦は発動されたのだが…。
俺達は敵を見誤っていた事を、まだ知らなかった。
ゴトランドの資料、もっとガッツリ見とけば良かった…艦娘以前の経歴にこそ、あいつ謹製の爆弾はあったんだ。
………人の心は、理屈を知ってりゃある程度騙せる。
674 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:37:33.10 ID:FwVAF0RqO
今回はこれにて。
降るのは血の雨かシュールストレミングの汁か…。
675 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/08(水) 07:09:13.17 ID:2LlBz2PaO
乙です
これ何て舞姫…
676 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/08(水) 07:40:30.46 ID:RprAZFQJ0
乙!
内戦とかワロエ無い
677 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/08(水) 08:46:16.84 ID:czzEoTE2O
おつおつ。やっぱゴトちゃん怖いw
678 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 18:57:09.42 ID:ozMvv0MOO
「で、建前は提督の護衛って事にゃなったけど…実際どうすんだろな。」
「まぁ、ゴトランドさんは100%アレな感情抱いてるだろうけどね。でも何かやらかしそう?」
「正直あんな一瞬じゃ分かんねえ。」
「だよねぇ。」
着任初日の艦娘は、何かと忙しい。そいつは短期でも同じくだ。
今日はもう大丈夫だろうと解放され、打ち合わせも兼ねてづほと軽く飲んでいた。
「……いや、あのメスは間違いなく何かやるね。
僕には分かるんだ、アレはきっと提督を奪いに…!」
……まぁ、厳密には時雨っておまけもいるんだけどな。
679 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 18:58:00.00 ID:ozMvv0MOO
第29話・女心は8070Au -2-
680 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 18:59:20.35 ID:ozMvv0MOO
「おいおい…烏龍茶で酔ってんのか未成年。」
「し、時雨ちゃん、卵焼き食べる?」
時雨は烏龍茶を飲み干すと、即2杯目に手を付けた。
どっかの吸血鬼みたいに、いかにも飲まずにゃいられねえ!って不機嫌さだ。烏龍茶だけど。
発覚直後はホラーな怒りって感じだったが、今はぷりぷりとヘソ曲げてる。
こっちの方が年頃らしいっちゃらしいが、余程気に触る事でもあったんだろうか。
あの後提督と二人で話してから、ずっとこんな調子だ。
それで見兼ねて飲み屋に連れて来たってわけ。
……因みに、既に時雨の八つ当たりで割り箸3膳が犠牲になってる。
681 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:02:50.19 ID:ozMvv0MOO
「まぁまぁ、あの後何話したの?」
「……ゴトランドさんとの馴れ初め。あと別れた時の事。」
「提督がナンパしたとか?」
「ううん、大分違ったね。詳しく話すと…。」
「どうだったの?」
「軍大学の勧めで留学したはいいけど、行ったのは提督一人だったんだって。
異国で一人だったから、最初は話相手もいなかったらしいんだ。
段々ホームシック気味になってた時、近くのカフェでバイトしてたのがあの人だったみたい。
『コーヒーを一つ。』
『はい…日本の方ですか?』
『ええ、留学でこちらの方に。』
『そうなんですね。えーと、確か日本語で…アリガトウ!でよかったですよね?』
『………!
ふふ…はい、それで合ってますよ。』
提督は英語話せるけど、彼女はわざわざ日本語でそう言って来たんだって。
それから店に行くたび、いつも彼女の方から話しかけて来て……当時の提督は、それに随分救われたみたいだよ。
それである日、いつもみたいにレシートをもらったら…。
『私のアドレスです。もっとたくさんお話したいな。』
それから付き合うまでは、本当に早かったってさ。」
「じゃあきっかけは、ゴトランドさんの方からだったんだ。
でも提督、年の差とか期間の事考えなかったのかな…。」
「ねえ瑞鳳さん、例えば今16〜7歳ぐらいの男の子と知り合ったらどう思う?」
「そうだね、私今年で22だから…弟か後輩みたいに思うかな。
………あ!!」
682 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:05:39.71 ID:ozMvv0MOO
「……そう、その頃の提督は21歳。
5歳違いのカップルなんて、例えば今の提督の年齢で考えれば珍しくもない。相手も瑞鳳さんぐらいの歳になる。
まだ若かった彼は、そんな感覚でいたらしいんだ…ダメ押しにその頃は、好意と寂しさに負けてしまったそうだよ。
いつか別れが来る想像も甘かったって。いざとなれば迎えに行けば良いとすら思ってたってさ。
結局、ゴトランドさんの告白を受け入れる形だったみたいだね…。」
「……提督、もしかして本気だった?」
「……はっきり言われたよ。過去の人の中で、一番好きだったって。
遊び人ではあるけど、実際は提督が来る者拒まずだった部分が強いみたいだね…いや、寧ろ来る者に嫌気が差したからこそと言うか。
彼は所謂エリートだった分、昔からモテたらしいんだ。
ただ話を聞く限り、寄ってくる女の大半は立場に惚れてるだけ。
提督は僕がクズだったからって言うけど…そんな中で次第に歪んで行って、ああなってた部分は強いんじゃないかな。
実際ゴトランドさんと別れて以降、余計ヤケになってた節はあったみたいだよ。
でもあの人は他の女と違って、提督そのものを見て好きになったんだろうね。
だってあの人以来、どれだけ遊んでも『彼女』は作ってなかったって…随分と、後悔してるみたいだった。
彼女の着任を知った時…きっと恨まれてるし、復讐されるだろうって思ってたみたいだね。
お互いいつか終わるって分かってたけど…具体的に帰国が決まるまでは、切り出せなかったって。」
「若気の至りか…後から効いてくるんだよね、そう言うの。」
「なるほどね。」
うーん…まぁ、それも事実だろうな。
でもそれだけじゃねえ気がすんだよなぁ…あのビビりようは罪悪感もあるだろうけど、何か…。
提督、いざって時は腹括るタイプな気もするし。
683 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:08:22.11 ID:ozMvv0MOO
「……でもひどくないかい?
結局僕と色々あったのも、ゴトランドさんの件が尾を引いてたからだろうし…。 」
「あー…でも提督の気持ちも分かるわね。
過去に自分より若い子とそんな事あったら、気にしちゃうかも。」
「…何よりいつまでも昔の女に振り回されてるの、本当むかつく。」プク-
「それな!!」バァン!
「うお!?づほ!酒こぼれんだろ!!」
何いきなりテンション上げてんだこいつ…。
それまでのお姉さんモードから、急にヅホラな雰囲気に変わりやがった。
んー…おや、何か負のオーラが二人から……。
684 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:11:07.89 ID:ozMvv0MOO
「そりゃ彼女と違って、未だに僕とはプラトニックだよ…所詮事実恋愛、正式に付き合えてるわけでもない。
でももう遊び人はやめた以上、今そばにいるのは僕じゃないか…。
何だよ提督の奴……あんなに普段見せないリアクションばっかしてさ…。」
「そーそー!今近くにいるのは時雨ちゃんだもんね!
昔の女にあんなガッタガタ震えてさ、キ○タマ付いてんのかっての!!今近くにいる人を見ろってーの!!」
「ほんとだよ!何だよあの反応!!うー…あったまくるなぁ〜…!!」
「だからさ、しっかり提督の手綱握って、攫われないよう頑張ろ!
自分から振った女にうろたえてさ、男として情けないよね!!リョウちゃんも思うよね!?ねぇっ!?」
「……お、おう。」
………づほ、何そんな目ぇ血走らせてんだ。
ドン引きしてると、時雨はそんな俺の顔を見てくすりと笑った。
「くす…リョウさん、そう言うとこだよ?」
「へ?」
「何でもないよ。」
「……と言うわけで。リョウちゃん、飲めおらーー!!」
「ぶごっ!?」
打ち合わせも何処へやら、この日は怪獣ヅホラのお守りで終わっちまった。
帰り道におぶられてるづほを見て、時雨がボソッと囁いた言葉が忘れられない。
「僕、成人してもお酒はやめておくよ。」と。
づほ、良かったな。立派な反面教師になれたぞ。
685 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:15:31.78 ID:ozMvv0MOO
「食堂はこちらです。明日の歓迎会もここになるので、場所を覚えておくといいかもしれませんね。」
「ありがとう、オーヨド。あなたは食べて行かないの?」
「申し訳ありませんが、私はもう少し仕事があるので。
ふふ、それにしても本当に日本語がお上手ですね。」
「ありがとう。やりたい事があって勉強したの、読み書きはちょっと苦手だけどね。
何度か『旅行』で来た事もあるんだ。」
「そうなんですね…あ、食堂のシステムを教えますね。
席は…あ、ちょうど良かった。紹介したい方がいるんです。
__さん、失礼します。短期赴任の方を紹介したいのですが。」
「初めまして、航空巡洋艦ゴトランドです。」
「あなたが…初めまして、私は___」
「…………ふふ。」
686 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:17:19.13 ID:ozMvv0MOO
翌日、昨日同様執務室にいるが、特に変な事は無い。当番制になったから、眼鏡がいないぐらいだ。
提督も暇じゃないし、ゴトランドは早速任務に参加している。接触なんて、朝に作戦について話してた程度。
「………ふぁ。」
「提督、やっぱり昨日の件でお疲れですか?」
「いや、昨日は早めに寝たはずなんだよ…歳かなー、疲れが取れてないのかもね。」
俺もちょっと眠いが、昨日の酒のせいだろ。
あくびって移るんだよなぁ、俺もうっかり出そうなのを噛み殺してた。
あいつも疲れてっかなこりゃ…えーと、あいつって……あれ?
ああそうだ!時雨だ時雨!あっぶねー…名前出て来なくなるとかどうかしてんぞ。
「おはよう提督、よく眠れた?」
「ああ、おはよう……し、時雨?」
………ん?何だこの違和感。
時雨が入ってきて、ただ提督が返事しただけ。
でも何か変だと思っていると…その答えは、すぐに時雨が導き出してくれた。
687 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:18:20.03 ID:ozMvv0MOO
「ねえ提督…何で疑問形なのかな?
僕 の 名 前 が 。」
688 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:19:54.72 ID:ozMvv0MOO
「………っ!?」
「ひどいなぁ…一瞬思い出せなくなったのかい?あんまりだよ…君と僕の仲じゃないか…。」
「ご、ごごごごめん、ちょっと疲れてて……。」
「くす…言い訳は聞きたくないなぁ……。
……と言いたいところだけど。
リョウさん、恐らく君もお疲れじゃないかな?」
「俺か?そういや確かに…。」
「………提督、ちょっと机を失礼するね。
ほら、あった…。」
「……それは…?」
「超小型スピーカー。
ペットボトルの蓋ぐらいしかないでしょ?Bluetoothで行けるやつさ。
二人とも、これに耳を傾けてよ。」
これは…小さい音で波音が聴こえる。
それに何か、人の声もうっすら……。
689 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:20:54.21 ID:ozMvv0MOO
『アナタハシグレヲワスレル。』
690 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:22:46.83 ID:ozMvv0MOO
「おおおおおおおおおっ!!!???怖え!!」
「催眠か……へぇ、面白いじゃないか。
憲兵さん、君の所にゴトランドさんの資料はないかな?」
「持ってないな…あ、でもスマホからアクセスは出来るかもしれねえ。」
俺の場合、日頃艦娘の資料は見過ぎないようにしてる。
会うまで元カノの存在を知らなかった理由でもあるが、なるべく本人と接して覚えたいと思ってたからだ。
流し見してたゴトランドの資料を、改めてちゃんと見る。
生年月日……本名……血液型……そして日頃、プライベートだからと読むのを避けてたある項目。
そこに辿り着いた時、俺は目を疑った。
『学歴:○○大学、心理学科卒業。』
……………。
………プロだ。
691 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:25:00.52 ID:ozMvv0MOO
「ふふふ……流れで催眠や臨床心理も学んだって所かな?
彼女、日本語検定も高ランクを取ってるんだってね…へぇ、それでそっちもかぁ……。
憲兵さん… い い 雨 が 降 り そ う だ ね ? 」
この時見た時雨の笑顔を、俺は一生忘れないと思う。
子供の頃、悪霊に襲われて死にかけたの……そりゃもう怖かった。
でもそれより怖えんだよこの子!お兄さんちびりそうだよ!
落ち着け…ここまで行ったら流石に眼鏡案件だ…。
そうだ、時雨にも訊きたい事がある。
「なぁ時雨、何で気付いた?」
「んー……一応物証得るまでは偶然だと思うようにしてたんだけど。
あの反応で確信に変わったからかな。」
「……どう言う事?」
「……いつも執務室に入る前、必ずスマホをいじるようにしてるんだ。」
「スマホ?」
「うん!変なBluetoothやwi-fiが無いかね!
皆の使ってるイヤフォンとかの型番、全部把握してるんだ!
だから知らないのは1発でわかるよ!」
時雨さん。その大天使な笑みを絶えず提督に向けてあげればどうでしょう?
言ってる事、最っ高に怖えけど。
あっ….そう言えば提督、どうすんだ?
「提督、どうしま……!?」
「………提督?」
「…………気絶してるな。」
「提督ーーー!?」
半狂乱で叫ぶ時雨だが、俺はこう思っていた。
お前のせいでも、あるんだよと。
692 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:27:07.50 ID:ozMvv0MOO
「今頃バレてるかなぁ……ふふ、でも素晴らしい発想ね。
私がメインにしようとしてた手を超えるアイディアを出すなんて。」
「そんな事ないわ…あなたの手腕あってこそよ。
あなたは他人に思えないもの、だから力を貸してあげたいなって。」
「うん、私も。こんなにシンパシーを感じる人がいるなんてね!
だから私もあなたに力を貸すよ、何でも聞いて!
あ、私の事はゴトって呼んでよ!」
「ふふ…じゃあゴトちゃんでいいかしら?じゃあ私の事も好きに呼んで。」
「うん!私達もう友達だね!
ショーカク。」
693 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:28:32.58 ID:ozMvv0MOO
今回はこれにて。やべー奴らがタッグを組み始めたような…。
694 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/21(火) 21:27:19.17 ID:EHEVTQ2CO
乙。これはひどい。
695 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/22(水) 07:42:43.02 ID:L8eL7naS0
乙!
696 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/22(水) 13:07:32.67 ID:oK+6DSKA0
乙
言うて提督は割と自業自得感強いんだよな
憲兵さんは今回も強く生きて
697 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/04(火) 16:37:17.56 ID:C6YbV9h30
pixivで読んでたわ。面白い!
698 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/17(土) 17:07:50.26 ID:vFoxojSsO
保守
699 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:13:32.96 ID:s1QCE2DCO
第30話・女心は8070Au -3-
700 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:15:00.53 ID:s1QCE2DCO
「………で、どうします?」
「ふむ…ここまでとはな。」
小道具まで仕掛けられてるって事で、さすがに眼鏡を呼んだ。
もはや俺の独断で動いて良いレベルだが、一応話は通しておいた方が良い。
そう判断はしたものの…何やら考え込んでいる様子だ。
「普通に考えれば、上官への洗脳行為としてこちらも動けるな。
だが…これに限っては、少し静観したい所だ。」
「マジで言ってます?さすがにヤバいと思うんですけど…。」
「…いつもの貴様なら、何言ってんだ!?と怒鳴るだろう?
貴様も何か思う所があるんじゃないか?」
「……あ。」
「ほらな。元はと言えば、ちゃんと未練を断ち切ってやらなかったが故の事だ。
…コウヘイ、こればかりは自分でしっかりやってもらおうか。『俺』も今度ばかりは、限度があるぞ?」
「……!」
眼鏡の一人称が素になった瞬間、部屋の空気も一気に変わった。
これ相当怒ってんな…提督と幼馴染だからこそ、思う所はあるって事か。
701 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:15:55.00 ID:s1QCE2DCO
「……憲兵長。」
「時雨。昨日はああ言ったが、貴様もまだまだだな。
何の弱みを握っているかは知らんが…いささか脅しが強過ぎるんじゃないか?こいつの手綱はしっかり握らなければならんが、それは信頼と愛情で示すんだな。
……不安でしょうがないのだろう?奪われてしまわないか。」
「………うん。」
そう俯いてスカートの裾を握る時雨は、何とも年相応に見えたもんだった。
そっか…まだ子供なこいつからしたら、いきなり元カノだ!なんて大人の女が出てくりゃ…。
「私の立場でこんな事を言ってはならんが、自信を持つんだな。
貴様はいい女になる素質は十分にある、簡単に奪われるタマではないさ。こいつが裏でどれだけ貴様に気を揉んでいるかも考えればな。
……こいつは相当な遊び人だったが、惚れ込んだ女にはその限りではない。
くくく…こいつが昔一時帰国した時、ゴトランドへのノロケだけで何度夜を明かした事か。」
「ちょっとキョウ、言わないでってば…。」
「いいや、言うぞ。時雨についても似たようなものだったよな?
いい歳になった男同士でも、そういう所だけは変わらんな。酒を何缶空けたか忘れてしまったよ。」
「提督…それ本当?」
「さ、さてねー。酔っ払って忘れちゃったよ。」
「……ふふ。そう思っておいてあげるよ。」
「……だが、そんな私でも知らん事もある。
こいつから聞き出さねばならん事があるんだが……時雨、少し席を外してくれるか?」
「何で?」
「………男同士の話をするからだ。」
702 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:17:16.05 ID:s1QCE2DCO
そして執務室には、俺たち3人だけになった。
そうだ、何だかんだ言ってこの人も根は肝が据わってる人だ。それがあのビビり方はおかしい。
男同士の話だと時雨を追い出した……多分、眼鏡も俺と同じ疑問を持ったのだと思う。
「リョウ…貴様も私と同じ疑問を抱いたろう?」
「ええ……提督、単刀直入に訊きます。ゴトランドに何されました?
て言うか、ナニされました?」
その単語を口に出した瞬間、何とも虚しくなった。
何なんだ、何でこんなシリアスなトーンでシモな話題を出さなきゃなんねえんだ。
でも男の勘が告げていた、間違いなくそっちで何かトラウマ植え付けられてると。
そして提督は…とても悲しそうに笑った。
703 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:19:06.05 ID:s1QCE2DCO
「ふー…………僕さ、こんなんでも性癖は至ってノーマルなんだ。
アブノーマルな事なんてされたくないし、ましてやする方なんてもっとダメ。女の子の体痛め付けるような事は、僕の美学に反する。
それは彼女に対しても、全く同じだった……だけど。」
「「…………だけど?」」
「彼女にとって僕が初めての男だった…余計な事なんて何も教えちゃいない。
でも……ヒュ-…『彼女が自主的に興味を持って学んだ』なら、その限りじゃ…ヒュ-……ない…。ヒュ-」
……何?この風切り音。
「ふふ……カハッ、ヒュ-…段々と眠っていた……ヒュ-、ヒュ-…本性、がっ…ヒュ-目覚めっ始めたの……かな。
ある時っ……眠って…ったら、僕のっ…。」
提督の座る椅子がガタガタと音を立てる。
風切り音は次第にぜひぜひとした音に変わり、その異常の中でも提督は必死に記憶を掘り返し…。
「あ!あなっ……えねっ…まっ!!」ガタガタガタガタガタガタガタガタ
そのワードを口にした瞬間、提督は白目をグリンと剥いた。
704 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:21:17.06 ID:s1QCE2DCO
「提督!!もういいです!!もうやめましょう!!」
「いかんな、呼び戻そう。はぁ!!」ボキィ!
「………はっ!?僕は一体…。」
うおぉ…ね、寝てる間になんつー事を…。
いや、つーか提督よくそれで逃げなかったな…。
「ふふ……それでも愛していたのさ。
逆に言えば、当時の僕からすればそれしか欠点なんて無かった。」
「いや、それもう決定的…。」
「リョウ、恋は盲目という奴だ。」
「盲目か……だからこそ、舞い上がってしまったんだよ。
何もかも越えられる、そんな甘い事を考えていた。
…今の中佐の地位こそ、戦果の叩き上げで得た物。実力で勝ち取ったと言う自負はある。
でも僕は、それ以前からエリートと呼ばれる立場にいた。それも軍人としての……その重さも、ろくに知りもしないでね。
いや……結局は逃げたんだろうね。
7年前のあの日、彼女に深い傷を負わせてしまった…あれ以来、僕は堕ちる所まで堕ちた。
確かにモテたさ。でも誰も、あの子と違って僕の人となりは見ちゃいない。
だったら逆に、僕も割り切ってしまおう。堕ちる所まで堕ちてしまおう。
それでいつか刺されでもすれば、きっとお笑い種だろう。
そう自暴自棄になって、結局余計に沢山の人を傷付けて来た。
あの子もそんな今の僕を知らない。もはや幻影を追っているだけさ。」
「………提督。」
この時の俺はキレる一歩手前。
と言うか、拳はもう握り込んでた。
「……この馬鹿者がぁ!!」
……だが、先は越されちまったらしい。
眼鏡の本気のパンチで、提督は椅子ごと吹っ飛んじまった。
705 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:23:09.29 ID:s1QCE2DCO
「ならば時雨はどうなる!?あの子はそれでも今のお前そのものを求め、想い続けて来た!!
それに…それでもお前は、時雨を選んだのだろう!?
…振り回されるなよ、コウヘイ。
お前は未来を選んだ。ならばゴトランドの未練も断ち切り、未来を与えてやる事こそがケジメでは無いのか。
それが時雨への、そしてゴトランドへの償いでは無いのか。
お前は時雨に出会い、悪しき過去を捨てたろう……それが答えでは無いのか!!答えろ!!」
「憲兵長!!抑えて下さい!!」
「……っ!!
リョウ、私は詰所に戻る。すまないが手当てをしてやってくれ。」
「……はい。」
「……なぁ、コウヘイ。」
「…なんだい?キョウ。」
「俺がアキの件で腐っていた頃、どこかの誰さんが同じように俺を殴ったよな。
今以上に激しい説教と、ついでに倍の数のパンチも加えてだ。
…俺がこうして憲兵として生きているのは、その拳があったからだ。
貸しは返したぞ?しっかり受け取れよ。」
「……ああ、ありがたくもらっておくよ。」
「ああ、それとな…。」
「………何?」
「“その程度”で怯えているうちは、お前もまだまだだな。
“そんなもの”は、まだまだ通過点に過ぎんぞ?」パタン
……………。
台無し、だ。
706 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:24:14.09 ID:s1QCE2DCO
「はぁ……。」
別に今日じゃなくてもいいんだが…あの後俺は、とぼとぼと夜警に出ていた。
どうにも気が滅入っちまって、あんまり部屋にもいたくない。
一度ぐらい自主的にやったって怒られねえだろ…あんな空気にしたんだ、眼鏡も理解しろって話だ。
それで街灯だけの中庭を歩いてた時、ベンチに人影を見付けた。
アレは…げ、ゴトランドかよ。
「こんばんわ、憲兵さん。」
「あ…ああ、こんばんわ。本当に日本語お上手ですね…。」
スルーしてくれなかったか…。
ちゃんと話をするのは初めてだが、ヤバさはその前からよーく分かってる。
俺ら的にはこれからの敵、君子危うきに近寄らず。今は当たらず障らずで行こう…。
「まだ時差には慣れない感じですか?
今日はちょっと蒸すんで、部屋の方が休めると思いますけど…。」
「そうだね。ふふ、でもさっきまでここで友達とお話してたの。
こんなに早く友達出来るなんて思わなくて、つい話し込んじゃった。」
「と、友達…?
確かにここは皆フレンドリーですけど、誰でしょう?」
「それはね…。」
そう言い始めたと同時に、ゴトランドは俺に向き直った。
クマにも見えそうな長い睫毛と、ブルーの瞳。その奥と目が合った時…。
「ショーカク。」
…………?
今のは…?
707 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:25:10.05 ID:s1QCE2DCO
「ふふ…お言葉に甘えて、今日は帰ろうかな。
じゃあ憲兵さん、おやすみなさい!」
「え、ええ、おやすみなさい…。」
何だ、疲れてんのかな…何か一瞬クラっと来たような…。
「…………今日は夜警かしら?」
「……ショウノ。」
そこに現れたるは、よりにもよって元カノ。
思わず身構えちまうが、あいつは…。
「………。」ギュッ
………はい?
708 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:26:30.92 ID:s1QCE2DCO
「……良い夜ね。
ねえ、覚えてる?昔花火を見に行った事。
浴衣で出かけて、私が下駄の鼻緒を切っちゃったでしょう?」
「………あったな、そんな事。」
今いるのは、中庭のでかい木のそば。
あの時も確か、こんな大木の近くで……ああそうだ、コケそうになったこいつを受け止めて…。
「初めて抱き締めてくれたのは、あの時だったわね…。
ふふ、秘密の場所って言って、高台に連れて行ってくれて…花火の光の中で…。」
記憶の中のこいつと、目の前のこいつが重なる。
そうだったな……初めてこいつを抱き締めて、それで初めて…。
目を閉じてるのが分かる。
次第に何かが込み上げていく。
段々と、自分の顔が近付いてるのが分かる。
なのに止められない。まるであの頃にいるような、今はどこか分からないような。
ああ、もうすぐ触れる…。
その時。
709 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:27:33.88 ID:s1QCE2DCO
『ひゅーー………ぱこーーーん!!!』
「……いってええええええええっ!!!!!????」
後頭部に、実に爽快な激痛が走った。
710 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:28:41.87 ID:s1QCE2DCO
「ふっふっふっ……人の心を自由にしようなんて、傲慢だと思わないかい?
いるんでしょ?ゴトランドさん。」
「………!?ちぃっ…!」
探照灯の眩い光が、茂みに隠れていたゴトランドを炙り出した。
空には月明かり……俺の目には2つの影。
具体的にはこう、あそこ。
何か飛び降りてもあんまり痛くなさそうな庇(ひさし)の上。でも結構ミシミシ言ってる。
そこに立つ2人は…何故か全身タイツにホッケーマスクだった。
「我が名はレイン!」
「そして我が名はビッグバード!」
「「我々は!貴様らの企みを破壊しに現れた名も無き戦士だ!!」」
………いや、もう名乗ってんじゃん。
711 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:30:50.50 ID:s1QCE2DCO
「リョウちゃ…じゃなかったリョウ!私の矢が貴様を救ったのだ!今度ラーメンおごれ!」
「ゴトランド…貴様の手は姑息過ぎる!!女ならば正々堂々追いかけるべきだ!!
翔鶴!!貴様もだ…追跡道の師であるこの僕を捨て、催眠道に走るなど言語道断!!
そう!!女は黙って……いいからストーキングだ!!」
「づほー、時雨ー、危ねえから降りてこーい。」
「ち、違う!!僕たちは断じてそんな和風な名前ではない!」
「そうだ!見ろ!このカッコいいマスクを!!強そうだろう!?」
「………まさに変態仮面、見参。」ボソ
「……違うの!!アレは違うのおおおおお!!!」ビェェェェン
「くっ…邪魔はさせないよ!!ショーカク!!」
「ええ…弟子は師を超えてこそ!師匠!今宵あなたを倒してストーキング道を捨てます!
行くわよゴトちゃん!!」
「「私達の恋路は、誰にも邪魔させない!!」」
執務室でのシリアスかつホラーな空気も、完全にどっか行った。
この時この中庭で、艦娘による伝説の茶番劇………じゃなかった、伝説の陸戦の火蓋が切って落とされたのである。
……ところでお前ら、一体何を賭けて戦ってるんだ。
712 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:32:41.27 ID:s1QCE2DCO
大スランプにはまってしまいましたが、何とか投下できました。余計に頭が悪くなった気がします。
713 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/19(月) 00:38:45.87 ID:Nyy4Npv6O
おつおつ。エネなんとかとは業が深い……
714 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/19(月) 07:22:28.72 ID:P33/Kd1Q0
乙!
715 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/24(土) 01:06:52.04 ID:eoqIWvrpO
某大人向け板の方に、大人向けな番外編を投下しました。
大人の方はよろしければ探してみてください。お子様はだめです。大人向けですが、内容的にはいつものです。
716 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/10/08(火) 18:34:20.25 ID:ZCCjqjJm0
ふう...良かったぜ。
717 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/10/09(水) 18:12:21.73 ID:/V8X8MLho
松輪
718 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/12/17(火) 01:02:56.44 ID:B7yGgTNLO
ひとまず保守
719 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/12/25(水) 22:34:38.05 ID:vd4WLsIgO
“…来ちゃったんだね、この日が。”
“…ごめん。”
“ううん。コウヘイにはコウヘイの、やるべき事があるでしょ?
あなたに出会えて…本当に……幸せだったよ。”
彼の帰国が決まって、別れ話をされた時。
本当は、その前から覚悟は出来ていた。
「いつかまた、どこかで。」
そんな言葉も優しい嘘になってしまう事でさえ、本当は分かってたんだ。
空港から飛行機を見送る時、私は小さな横断幕を掲げた。
『Jag ?lskar dig』
スウェーデン語で、愛してるって意味。
でも本当は、こう言いたかった。
『Jag saknar dig』
日本語に直すと…恋しいや寂しいって意味かな。
ここにいられなかったのなら、いつか会いに行けるよう私が頑張ればいい。
例えこの先ただの思い出や友達になってしまったとしても、人生において大切な人なのに変わりは無いもの。
もしまた会えたなら…その時は、お互いの未来を祝福し合えたらいい。
初めはそんな切っ掛けで、日本語を学び始めた。
その目標が歪んだのは、この戦争が起こった時。
どうしても、何をしてでももう一度彼の心を手に入れなくちゃと思ってしまった。
だって…そうしなくちゃ、守れないと思ってしまったから。
720 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/12/25(水) 22:35:57.56 ID:vd4WLsIgO
第31話・女心は8070Au -4- ?
721 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/12/25(水) 22:37:27.13 ID:vd4WLsIgO
「「行くよ!」」
飛び降りそうな掛け声とともに、ジェイソンマスクなコ〇ンの犯人共は、カサカサと地面に降り立った。脚立を伝って。
率直な感想を言おうか。動きが台所の覇者Gだ。
全身タイツの体のライン…って言うとエロく聞こえそうだが、戦隊っぽく中腰でキマってるケツのラインが地味な笑いを誘う。
「くくく…ゴトランド、君の手の内はもうお見通しさ。
催眠と分かっている以上、提督に何が起きても本心とは言えないねぇ?」
「ふふ、嘘から出た誠…だっけ?日本のことわざ。
初めは刷り込まれたものでも、それが精神の血肉になれば本心になるよ?」
「…外道め。」
「求めよ、されば与えられん。手段は選んでられないもの。
シグレも似たようなものでしょ?でもあなたの場合は…ただの恐怖政治だね。」
「カカァ天下って日本語はまだ知らないみたいだね。女房が強い方が上手く行くのさ。」
「もうママ気取り?まだミルクの匂いも取れないのに。」
「言ったね年増。果たして老いたマトンは美味しいのかな?」
おいおい、煽ってんなぁ…。
で、もう片割れコンビはと言えば…。
「「…………。」」
終始無言の睨み合い。
龍虎の戦いの如くガンを飛ばし合ってんだが……時雨らはともかく、お前ら喧嘩する理由無いだろ。
「…まあまあお前ら、落ち着けよ。
喧嘩するのも分かるけど、そもそも何で決着着ける気なんだよ。」
「「「「……え?」」」」
………。
もしかして、何も考えてないの?
722 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/12/25(水) 22:39:09.51 ID:vd4WLsIgO
ものすっ……ごく、微妙な空気が流れる。
やっちまった。ただ険悪になったならともかく、ここまで茶番があったらどう考えても収拾つかねえ奴。
しかし元は上官への洗脳やら何やら、ヘヴィな事態も噛んでる。解決させない訳にも行かない。
ど、どうする…?アレかなぁ、提督に話通して、また後日演習で手打ちにでも…。
「ふふふ…こうなったら仕方ないよね。ショーカク、奥の手を使うよ。」
「奥の手…ゴトちゃん、まさかアレを…!」
「いや何追い込まれてる風にしてんだ!?」
「…私は艦娘になる前から、何度か日本に来ておいた。
見聞を広め、そしてネットワークを作る為に。」
「いや、聞いてる?俺の話聞いてる?ねえ。」
「黙って!!
そう…その過程で日本にも友達が出来たの。
そしてここに来る前、休暇を取って3日程早く日本に来て…あるものを受け取った。」
ゴゴゴと擬音が見えそうなジェスチャーで、ゴトランドは上着に手を突っ込む。
そこから出てきたのは、黄色と赤の…。
「…この、代理購入してもらったシュールストレミングをね!!」
………洒落になってねえ!!
723 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/12/25(水) 22:42:18.74 ID:vd4WLsIgO
「ゴトランド、落ち着け…そんなもん開けたらお前も死ぬぞ…。」
「ふふ…そうだね。さすが日本の初夏、地元じゃこんな状態のはお目にかかれないよ。」
輸送と日本の初夏を経て、パンッパンに膨らんだ缶詰…。
確か本国じゃ、長年放置された奴の始末に軍が出たって…。
「……シグレ、大人しくコウヘイの事は諦めて。
でなければ、今ここでこれを開けるよ。」
「……卑怯者め。催眠だけに飽き足らず、そんなものまで使うのかい?
いいかい?君の理想の世界に、提督の意思は存在しない。
そんなものは、ただ人形を愛でているだけだ!」
「……何とでも言って。私には私の意地がある。
少なくとも、ショーカクは賛同してくれたよ?」
「翔鶴さん…どうして!?」
「瑞鳳ちゃん。恋というのは修羅の道なの…追いかけてもダメならば、例え卑怯な手を使おうとも…。」
「…本音は?」
「いや、ちょっと催眠掛けて逃げ場なくしてあんなことやこんなことしたい……じゃなかった、自ら退路を断つ覚悟の元、突き進む欲ぼ…でもない!信念の道なのよ!」
「退路断たれてんのはおめえの理性だよ!?」
よだれ隠せてねえぞコラ!!
ああもう、もう解決とか知らねえ!とにかく缶詰取り上げねえと…!?
「…!?」
「う、動けない…!!」
「くす…掛かったね?
シュールストレミングはデコイだよ…ゴトの目を見せる為のね。」
催眠…!!
まずい、指先一つ動かせねえだと…。
724 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/12/25(水) 22:43:42.87 ID:vd4WLsIgO
「そうだね…皆には寝ててもらおうかな?
大丈夫、ちょっと吐いちゃうかもしれないけど、一発で落ちれると思うから…。」
「開ける気かい!?そんな事したら君達だって…。」
「ふふ、ゴトとショーカクには、シュールストレミングの匂いが分からなくなる催眠が掛かってるの。
皆が寝てる間に、コウヘイにしっかり暗示を掛けて……タブンコエタリシナイヨネ…。」
プルタブに指が掛かり、死の予感が俺達を駆け抜けた。
だが……その直後。
「………ちょっと待ったぁ!!」
催眠とは言え、眼球と口だけは何とか動かせた。
俺達の視線が集まるその先には……燦然と輝く満月。
それが照らし出すのは赤と黒のコントラストと…そこから生える、スネ毛の生えた白い脚。
そこにいたのは、何やらカッコいいポーズを決めた…。
「白露型駆逐艦、提督!見参!」
「いや雨風ですらね−!!」
たなびくスカートからは、豪快にオシャレボクパンが見えていた。
はは…細身の人が着てもパッツパツじゃねえか…雄っぱいてんこ盛りだぁ…。
725 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/12/25(水) 22:47:15.92 ID:vd4WLsIgO
「提督…もしかしなくても…。」
「いや、うん…キョウがこれ着て出ろって、倉庫から…。」モジモジ
「提督…かわいい……すっごくかわいいよ…。」ハァハァハァハァ
「興奮すんな本家!!」
「と、とにかく!僕が来たからにはこんな事はもうやめるんだ!!
ゴトランド…いや、Gota(ヨータ)!!
あの時は、本当にすまなかった…でも僕らは…僕らはもう終わったんだ!
僕にはもう、時雨がいる…君も未来を生きてくれ!
…それでも狙うなら僕だけにしろ!!皆を巻き込むのだけは、絶対に許さない!!」
「……!!
……いいよ?幾つか飲んでくれるなら。」
「…え?」
「ふふ…まず、日本での私の配属先をここにする事。
それと、いつでも仕事中は私をそばに置いておく事。秘書艦がダメなら、護衛って体でもいいかな。」
「ダメだよ!!ゴトランド、提督を洗脳する気だろう!?
そんな事…例え提督が飲んでも、この僕が許さない!!」
「…シュールストレミング如きでビビったお子様が、よくそんな事言えるね?
コウヘイよりも、臭い思いしない事が大事なんじゃないの?」
「言ったね…じゃあやってやる!!今すぐ開けてやろうじゃないか!!
ゴトランド…それをよこせえぇぇええ!!!」
時雨は猟犬の如く缶詰を奪い取ると、すぐさまプルタブに指を掛ける。
だがその時、風切り音と共に缶が舞い上がった。
アレは…吸盤矢!?
「………瑞鳳さん、どうして?」
「ふふ……し、ししし時雨ちゃん…また別の機会ででもい、い、いいんじゃないかな?
ほら、その……か、帰ればまた来られるって言うし…。」グルグルメ-
あ…そう言えばづほ、去年台湾旅行で寝込んだって言ってたわ…臭豆腐で。
…って缶詰どこ行った!?ああ!提督の足元に…!
726 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/12/25(水) 22:50:00.09 ID:vd4WLsIgO
時雨の表情は、もはや猟犬から狼にステップアップせんばかりに血走っていた。
そして缶詰と提督に向けダッシュしながら、あいつはこう口走る。
「ゴトランド、僕の提督への愛は本物だ!
だからこそ、君の過去すら許すわけには行かないんだよ!
絶対に許さない…提督の……提督のお尻の処〇は、僕が貰うはずだったのに!!!」
「聞いてやがったのかおい!?」
時雨の渾身の叫びが響き、提督は硬直した。
突き抜ける。
そんな例えが似合う、真っ先に気絶へと到達した白目と共に。
そして……その体は、足元の缶へと倒れ…。
『ぱぁあああん…………』
その瞬間、世界の終わる音がした。
727 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/12/25(水) 22:52:28.30 ID:vd4WLsIgO
「……う…ここは…?」
「お目覚めか?集会室だよ。」
「憲兵長!?……?っ!!」
周りを見渡すと、さっきの面子がのびていた。
その中にはゴトランドと元カノも…ああ、臭いが催眠すら超えちまったのか。
服に染み付いたのか、とんでもねえ悪臭が鼻をつく。
これで軽減された方かよ…そんな中、どうも眼鏡と磯風が俺らの看病をしてくれていたらしかった。
「マスク無しかよ…。」
「ふっ…私と兄ぃは強いからな。だが提督の方は…。」
『臭すぎて死体袋に突っ込まれております』
「提督ー!?ヴォエッ!!」
「私と兄ぃが見付けた時、顔を缶に突っ込んでいたよ。
全く、中庭が酷いことになっているぞ?悪臭とゲロまみれで立入禁止だ。」
はは…近付いただけでこれかよ。中すげえ事になってんだろ。
まぁ、自業自得のツケだ。しっかり熟成されてくれ、人としても。
728 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/12/25(水) 22:54:25.96 ID:vd4WLsIgO
「?…やべえなここ。ちょっと外行ってくる…。」
「そうしてくれ。少し外気に当たった方がいい。」
外に出はしたものの、ここでも若干臭って来てた。
石段に腰掛けてぼーっとしてると、そんな俺に声が掛かる。
「あなたもお目覚め?」
「…ゴトランド!?」
「大丈夫、もう何もしないよ。」
そう言ったきり、ゴトランドは黙っちまった。
気まずい時間も数分か、あいつは不意にまた口を開く。
729 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/12/25(水) 22:56:42.32 ID:vd4WLsIgO
「…さっき、コウヘイが言ったよね?
僕らはもう終わったんだ…って。」
「…ああ。」
「あの一言で、妙に胸がすっとしたんだ。
その時思ったの…私はただ、完璧な終わりが欲しかっただけだったのかなって。何の期待も出来ないような。
ふふ…ちゃんと、別れ話もしてたのにね。」
「……そうかよ。」
「…ショーカクとは、どれぐらい付き合ってたの?」
「…1年半。そう思うと結構長かったよ。」
「夏が近いね…もう憲兵隊は半袖なんだね。
ねえ…『その腕の傷』は、いつのもの?」
「………っ!?
…覚えてねえな。」
「そう。
私があの子に肩入れしたのはね…私とあの子は、同じだからだよ?
例えば私だったら…ただコウヘイを追い掛けて日本に来るだけなら、通訳や留学生向けのカウンセラーなんて手もあった。
それでも敢えて、艦娘って言う危険もある職に就いたの。
『その意味』って、分かる?」
「………っ!?」
「これだけは言わせて。
あの子は私より、もっと切実だよ。
心理学者として言うなら…あなたはもっと、自己と向き合うべき。
じゃあ、私はお風呂に入るから。落とさなきゃ。」
730 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/12/25(水) 22:58:32.30 ID:vd4WLsIgO
「…………。」
「あ…何だ、行っちゃったのか…。」
「……時雨。」
「ゴトランドさんも懲りたようで一安心…と言いたい所だけど、お釣りは大きかったよ。
僕もまだまだだね…つい熱くなっちゃった。提督が止めに来てくれなかったら、僕が死体袋行きだったよ。」
「その割にゃ妙に嬉しそうじゃねえか。」
「えへへ…言質取ったからね。」
僕にはもう時雨がいる!なんてあんだけ堂々と叫んでたもんなぁ。
まぁあの人はもう、一生カカァ天下を覆せねえだろ。
あー…安心したら疲れたぜ…。
ん?そう言えば気になる事が…。
「なぁ時雨、提督何であんなヘコヘコ頭下げてたんだよ。
まさかお前ら、もう…。」
「………カレー。」
「…………へ?」
「本気で僕を怒らせたら、もう一生カレー作ってあげないって前に言ったんだ。
説得失敗したら…って時点で察したみたいだね。
提督、僕のカレー大好きだから!」
…………。
……かわいいか!!
731 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/12/25(水) 23:00:54.47 ID:vd4WLsIgO
ゴトランドも帰国し、何週間かすればもう皆忘れかけていた。
そんな中、俺は頼まれ物で執務室に向かってた訳。
今日はお淀が休みで…代打は時雨か。
まぁあれで、提督もやる事はやる人だ。執務室ん中が桃色って事もねえだろ。
「失礼しまーす。書類持ってきましたー。」
「あ、リョウ君お疲れー。」
「リョウさん、お疲れ様。」
最近は憲兵さんじゃなく、リョウさん呼びしてくる奴が増えた気もする。
なーんか馴染んだっつーか、段々俺も毒されて来てるような。
「…ん?本部からメールか。えーと……辞令?」
「誰か来るの……!?」
硬直する二人を見て、嫌な汗が背中を伝った。
まさか…はは、まさかなぁ……。
732 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/12/25(水) 23:02:10.42 ID:vd4WLsIgO
『ぴこーん』
今度は時雨のスマホが鳴る。
それを確認した時雨の手は、わなわなと震えていて…俺らに向けてきた画面には、イ〇スタのDMが表示されていた。
『アイジンワクなら空いてるよね?』
その直後。
ぴぎゃーーーー!!!
と、耳をつんざく時雨の遠吠えが、俺達の鼓膜を引き裂いたのだった。
733 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/12/25(水) 23:04:19.37 ID:vd4WLsIgO
ゴトランド編、何とか終了。
大分久々になってしまいました、皆様保守ありがとうございます。次回はネタを考え中。
734 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/12/26(木) 08:04:41.57 ID:GxMS3q3bO
乙乙
735 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/12/26(木) 09:01:32.83 ID:ZlScouDPO
おつ。カレーでそういう趣味なのかと考えた俺は逝っていい
736 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/01/02(木) 02:27:34.88 ID:2fkK+HoCo
おつかーれ
737 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2020/01/12(日) 23:16:21.24 ID:gEhD0SI+O
「…もしもし?えっ!?」
それは突然の事だった。
携帯に入った1本の電話は、救急隊からのもの。
状況の説明を受け、一気に血の気が引いた。
「…憲兵長、提督に連絡お願い出来ますか?」
「どうした?」
「………づほが、事故って運ばれたそうです。」
738 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2020/01/12(日) 23:17:57.46 ID:gEhD0SI+O
第32話・転んでも タダでは起きぬ 阿呆鳥-1-
739 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2020/01/12(日) 23:19:37.67 ID:gEhD0SI+O
報せを受け、その時動けたのは俺と元カノ。
電話が来たのは処置に入ってからだったらしく、詳しい怪我は分からない。
命に別状ないとは言ってたが…それでも重症って事もある。
あいつは少し遠くで事故ったらしく、病院も同じくだった。
着いた頃には処置そのものは終わって、一般病棟に入ってると聞いた。
緊急入院…そんなに悪いのか?
案内された区画を、名札を確認しながら歩く。
元カノの方も気が気でないのか、顔色が良くない。
『鳳(おおとり)ミズキ』…病室はここか。
頼む、無事でいてくれ…!
「づほ!」
「瑞鳳ちゃん!!」
病室に入ると、起こされたベッドにもたれるづほ。
点滴こそ打たれているが、座れる程度の怪我ではあるらしい。
俺らはその姿に一度は安堵するが…。
「…あ、来てくれたんだ…ありがとう。」
きいぃ……と振り向いたづほは、真っ白に燃え尽きていた。
740 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2020/01/12(日) 23:21:01.36 ID:gEhD0SI+O
「……肋骨骨折で5日入院…大変だったな。」
「でも良かったわ、命の心配が無くて。」
「………うん。」
………まぁ、大怪我だし、治療明けだ。
ぼーっとしてるのも無理はない。痛み止めだって効いてるだろう。
ただこの時俺らは、何か違和感を感じ取っていた。
“…何か、異様に生気がねえよな。”
“うん、完全にダウナー入ってるわね…。”
何か話しかけずらいオーラが空間を支配している。
どよーんとしたオーラのまま、づほは今度は何やらブツブツと呟き始める始末。
俺らはそこに、こっそり聞き耳を立ててみるんだが…。
「……ゼッタイユルサナイゼッッタイニユルサナイチノハテマデオッテケツゲマデムシッテホッテヤルゼッタイユルサナインダカラアアモウマイニチドッカニアシノコユビブツケルノロイカケテヤルノロウノロウノロウノロウノロウノロウ…」
““ひぃっ……!?””
元カノまでドン引きである。
薄々ただの事故じゃねえのは感じ取ってたが…その理由は、背後からの声で判明した。
「鳳さん、治療明けに申し訳ございません。警察の者です。」
741 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2020/01/12(日) 23:22:47.37 ID:gEhD0SI+O
「「「…………。」」」
づほへの事情聴取がてら、俺らも報告用に一緒に説明を受けた。
状況はこうだ。
丁度信号が黄色から赤に変わる寸前、先行の車は先に抜けられたが、距離が微妙だったづほの車は普通に停車。
そこに行くだろうとタカを括ってた後続のトラックが追突、派手にカマを掘られた。
で、ここからがいけない。
何とそのトラック、降りもしねえで当て逃げしやがったらしい。
まだ昼間で良かったが、これが車通りの少ない夜だったらどんな事になってたか。
これには俺もキレそうだったし、元カノも相当殺気立った顔になった。
不幸中の幸いか、目撃者とドラレコで何とか犯人は追えそうとの事。
本音は俺らの手で潰してやりたい所だが、そこは任せる事にした。
そして警察が見せてきたタブレット。そこに映る画像を見たづほは…。
「……………やっぱり、あの子は死んじゃったんだね…。」
どう見ても廃車確定な愛車を見て、とうとう泣き出してしまった。
742 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2020/01/12(日) 23:24:03.99 ID:gEhD0SI+O
「………どうしよ。」
「凄い落ち込みようだったわね…。」
少し一人にしてくれと言われ、俺らは病院の休憩室にいた。
づほはああ見えて、結構メカ好きな所がある。
艦載機にも愛着持ってるし、よく夕張にメンテの事聞きに行ってる。
あの車も安い中古車だが…丸さが可愛いのよ!丸さが!とそりゃあ大事にしてた訳。
“10:0だろうし保険もある…別の車は手に入るだろうけど、あの子はもう…。”
そう呟くづほの目は、本当に死んだ魚だった。
退院はすぐでも、当面は通院だろう。
それで車まで廃車じゃ、そりゃしばらく立ち直れねえよなぁ…。
「……今日の所は挨拶だけして帰るか。」
「そうね…安静にしてあげたいし、報告もしなくちゃ。」
そうだ、提督と眼鏡に報告もしなきゃならねえ。
それで一旦病室に戻って、づほに声を掛けたんだ。
「じゃあ今日の所は俺ら帰るから、お大事にな。」
「…ありがとう。」
「俺明日休みだから、また来るよ。ショウノは?」
「ごめんなさい、明日は遅くなるかもしれないわ…。」
「……!うん、待ってるね。」
ひとまず微笑んじゃくれたから、多少は落ち着いたか。
でも心配だなぁ…明日は高いアイスでも買ってってやるか。
743 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2020/01/12(日) 23:25:15.60 ID:gEhD0SI+O
くくく……ふっふっふっふっ……。
怪我の功名、転んでもタダじゃ起きない。
これはチャンスね。あの子は最期まで私を守ってくれた、ならばものにしない手は無い。
そう、今の私はアバラ3本折ってる怪我人。
正直今もめっちゃ痛い…入渠や修復剤使えたらどんなにかってぐらい。
…だったらこれを機に、攻めてもいいよね?
744 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2020/01/12(日) 23:26:59.97 ID:gEhD0SI+O
次の日。
……やっばいこれ。一晩寝たら余計痛い。痛すぎて板になる。って誰がまな板よ。
サポーター付けられてるけど、潰れるほど無いって現実が忌々しい…。
昨日はさすがに点滴だったけど、今日から病院食…これがまたキツい。飲み込むたびに痛む。水も同様。
暇潰しにお笑い見たら、この世の終わりが見えそうだった。
こんな時にく〇きーの替え歌見た私を呪う。もう3本砕けてる、ボディーのおかわりはいらない。
痛み止め出ててこれって、切れたら本当…やめよ、怖い。ああ、せめて癒しが欲しい。
181センチ、細マッチョ、なのに極度の女顔。
誰が呼んだか『歩く雑コラ』、『脱ぐだけで笑いの神となる男』。
でも私にとっては…1番暖かくなる奴。
早く来ないかなぁ…こんな時こそ、会いたいや。
745 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2020/01/12(日) 23:28:31.45 ID:gEhD0SI+O
休みって事は、リョウちゃんの性格ならきっと早く来る。荷物だってお願いしたし。
如何せん急な事、それ以外の人が来てくれたとしてもだいぶ遅いはず。
…そして!なんと今この病室は私ともう1人だけ!それも端と端で離れてる!
ふふ…つまりカーテンで仕切ればそこはふたりだけの国……こう、甘えたフリしてうっかりキ、キスとかしちゃったり…!
って何照れてるの私!年齢=彼氏いない歴でも無い!
漫喫事件を思い出せ!キスより恥ずかしいとこ晒したでしょ!
そうだ、まず目標を決めよう。
ここまで来れたって事は、ちゃんと表札見てる…つまり、私の本名は忘れてないって事。
昨日も翔鶴さんの事、思いっ切り本名で呼んでたもんね。
昨日に限らずいつでもそうだけど、内心イラッと来るんだ。
別に元カノなんだし、翔鶴って事務的に呼べばいいじゃん!むかつくー。
………絶対に、退院するまでにミズキって呼ばせてやる。ふふ……。
「…ん゛っ!?」
いったぁ〜〜……!!
やばい、きっと今すっごい顔して…
746 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2020/01/12(日) 23:30:26.83 ID:gEhD0SI+O
「大丈夫か?しわくちゃのピ〇チュウみてえになってるけど。」
「リョ、リョウちゃん…いつの間に…。」
「今入ってきたとこだよ。荷物とお土産な。」
「ありがとー!ダッツだ!いただくねー。」
荷物は…うん、リスト通りだ。助かるー。
あれ?でも下着とかその辺も…?
「荷物自体は隼鷹が部屋からまとめてくれたよ。
ここちょっと遠いけど、来れる奴から見舞い来るってさ。」
隼鷹さん助かるー。ん?何だろこの紙袋…?
『0.02mm』
隼鷹さん無理だよ!!ここ病院!!アバラ折ってるし!
ま、まあ、いつか使うの期待して貰っとこうかな…。
「大分落ち着いたみてえで何よりだよ。アバラって痛えもんなぁ。」
「折った事あるの?」
「一度組手で下手こいてな。防具無しだと色々あるぜー?」
そう笑うリョウちゃんの腕には、おっきい傷がある。
昔の傷って聞いたきりだけど…今なら『何の傷』かは、大体分かるのよね。昔話を知ったから。
747 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2020/01/12(日) 23:32:35.07 ID:gEhD0SI+O
「ん。」
「どうしたよ?手ぇ掴んで。」
「いやー、冷静になると事故の恐怖がねぇ…ちょ、ちょっと掴んでてもいい?」
「まぁ派手にやられたもんな。いいぜ。」
半分本音、半分は下心。
でも私達の関係じゃ、こいつは言葉通りにしか受け取ってくれない。
甘えさせてくれるけど、違うのよ。
……もう、派手にやってやろうかな。
40センチ近い身長差も、リョウちゃんが座ってる今なら殆ど同じ。
いっそこのまま胸ぐら掴んで、思いっきりキスしてやろうか。
そう思って、空いた手を伸ばそうとしたら。
『ぴきっ』
「〜〜〜〜…!!!!!?」
「痛むか?モンハンの山田〇之みてえな顔になってんぞ?」
た、例えがひどい…!
うう、言われなくても今すっごいブスになってるの分かるわよ…!どすっぴんだし。
でも耐えらんないよこれ、か、顔に出るぅ…!
「無理すんなよ、寝てた方がいいって。折った次の日からが痛えんだから。」
「うん…そうする。」
あーあ…まぁ、そうなるよね。
はぁ、ほんと最悪…せっかくの二人きりって言っても、私がこれじゃね。
………。
748 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2020/01/12(日) 23:34:17.06 ID:gEhD0SI+O
「…どした?手ぇ掴んで。」
「ほんとごめん…撫でて?」
ぶるぶる震えてる手を見て察してくれたのか、リョウちゃんは何も言わず撫でてくれた。
今度はガチ。さっき少し思い出したら、事故った時の怖さが一気に蘇ってきちゃって。
………生きてて良かったな、本当に。
事故って『色々失った』けどね。『色々』と。
「鳳さん、検査のお時間です。今大丈夫ですか?」
「あ、はーい。」
「やっぱりまだある感じ?」
「うん、事故だから一応MRIとか一通りやるって。
……ねぇ、リョウちゃん。」
「どうした?」
「この後暇ならで良いんだけどさ……検査終わるまで、待っててもらってもいい?
もう少し、誰かそばにいて欲しいんだ。」
「ああ、大丈夫だ。頃合見て戻ってくるよ。」
「……ありがと。」
ふふ…嬉しいな。
でも本当は、誰かじゃなく君って言いたいし。
ありがとうの後は、大好きって言いたかった。
今はこれが精一杯。
さて、まずは治さなきゃ。他に変な所見付からなきゃいいけど。
749 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2020/01/12(日) 23:36:48.92 ID:gEhD0SI+O
…………そんな風に浸ってた頃が、私にもありました。
幸いアバラ以外は異常無し。脳にも異常は見られず。
だけど検査後の今こそ異常が起こってる。
脳波が全力で乱れまくってると思う。
そりゃ家族みんなに連絡したわよ…でも無理して来なくても大丈夫って言った。
すぐ出てこれる怪我だもん、期間だけならインフル並。
でも確かに『この人』は、すぐ来れなくもなかった…。
「お久しぶりです、随分遠かったでしょう?」
「いえいえ、この子の為だもの。リョウ君もお世話ありがとう。」
「そりゃ大事な友達ですから。」
気持ちは嬉しい、とっても嬉しいけど…今日じゃないともっと嬉しかった。
そう…リョウちゃんには出来るだけ会わせたくなかった…。
「お元気そうで何よりです。」
「ええ、リョウ君も。」
私の姉妹艦にして、イチ個人としても実姉。
それでもって、リョウちゃんの好みどストライク。
我が姉、祥鳳。
こと、ショウコお姉ちゃん。
私は改めて知るんだ…この人の悪意なき恐ろしさを。
リョウちゃん…何か鼻の下伸びてない?殺すよ?
750 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2020/01/12(日) 23:39:43.05 ID:gEhD0SI+O
今回はこれにて。
今回の主役はづほ。憲兵君ポジション的な意味で。
次回・瑞鳳、詰められる。
751 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/01/18(土) 13:01:56.97 ID:WoUvBWi7o
おつおつ
752 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2020/02/01(土) 01:26:39.11 ID:4MF7Q746O
第33話・転んでも タダでは起きぬ 阿呆鳥-2-
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