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【艦これ】ex.彼女
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603 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/02/19(火) 18:24:14.67 ID:Va0jqsDhO
「提督も大人しくなったよねぇ。なぁ、ところであんたは最近どうなのさ?」
「私か?何も変わらずだな。」
へへ、ちょっと目え泳いだね?
こいつはめでたい事に、あたしからの認識はたまーに火遊びしてた頃で止まってると思ってる。
お互い遊びって割り切ってくれる女だけとそんな事してたらしいが、元はと言やぁ、『あいつ』が死んだ寂しさから。
でも知ってんだよ?
あたしと飲みに行くようになってから、火遊びは一切しなくなったって。
それこそあの夜から気付いてた。『あいつ』はずっと不安そうに、こいつの後ろに憑いてた事。
それとあん時チラッと見えたのは、安堵したような『あいつ』の顔。
ムカつくよなー。
勝手にくたばってこいつをこんなんにしてよ、何もしちゃあくんねえんだもん。そりゃ『あいつ』の方はリョウにぶん投げるっての。
…ったく、ほんと死にゃあ手遅れだよ……お陰でこいつは、『あいつ』にずっと捕まってんだよ?
なぁ、あきつ丸?
案の定いねえけどさー、ちょっとは落とし方教えろっての。
あたしは今まで口説かれてばっかで、口説くのはてんでダメなんだ。すぐ真っ赤になっちまう。
除霊は出来てもさ、生きてる奴の無念までは払えないよ。
こいつの憲兵としての信念は、過去への後悔も強い。だから翔鶴につい自分を重ねちまうんだろ。
人の事ばっか気にしてないで、少しは自分の事考えろっての。
……ま、そこをぶっ壊すのが、生者の務めって奴なんだろうけどね。
604 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/02/19(火) 18:25:43.81 ID:Va0jqsDhO
「へー…惚れてる女でも出来た?」
「いないな。仕事で手一杯だよ。」
「じゃ、あたしで手ェ打てば?」なんて言えりゃ上出来かね。
そんなん言えないから、今でもこうして踏んだり蹴ったりだけど。
面白え時間は一瞬さ。
慣れて来た帰り道は、公園を突っ切りゃ近道なんだ。
回り道すりゃ長くいられるけど、あたしはそれより人がいないとこがいい。
だってさー、なるべく二人きりがいいじゃん?
ここなら空もよく見える。少なくともあの日からは、月夜の酒も美味くなったってもんさ。こいつがいるからね。
605 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/02/19(火) 18:27:06.30 ID:Va0jqsDhO
「…もうすぐ夏だな。」
「そだねえ、そろそろビールが良い季節って奴かな!」
「ああ。しかし私は、今年も提督と引率かな。」
「花火大会だっけ?去年駆逐達連れて行ってたもんね。」
「放っておくと工廠組が攫っていくからな。
私達で先回りしておかねば、妙な火遊びを教えられかねん。物理的にな。」
「あはは…まぁあそこはねぇ。」
「2日目はあたしとどう?」
そこまで出かかって、立ち止まる。
こいつの信念を知ってるからこそ、迷っちまう。
……迷うなよ、あたし。
鎮守府の日常を守るのがこいつの意地。
それがこいつが過去に誓った事で、ある種の復讐でもあるんだろう。
でもさ、こっから先はどうすんだい?
それは生者の務めだ。ならあたしが……
「……なぁ、憲兵ちょ…」
606 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/02/19(火) 18:28:25.39 ID:Va0jqsDhO
「………今年の2日目は、ゆっくり花火見物と行きたい所だな。美味いビールと共に。
その日は付き合ってもらえるか?」
607 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/02/19(火) 18:30:21.48 ID:Va0jqsDhO
…………ちぇっ、こんな時ぐれえカッコつけさせろよ、ばーか。
先回りかよー、いけ好かねえ奴ー。
「……おや?先に何か言おうとしてたか?」
「ん?何でもないよ!
へへっ、いーねえ。じゃあ行こうぜ!」
「助かるよ。去年行った時は、飲みたいのを我慢していたからな。」
「大人だって楽しみたいってもんだよね。つまみはもろこしだねー。」
こいつからの誘いなんて、実は今までなかった事さ。ありがたく受け取るよ。
………少しだけ、こっちに引っ張れたのかな?
寮ん所まで来ちまえば、後は別れて帰るだけさ。
いつもなら挨拶して終わり。でもこの時あたしは、ちょっとだけ仕込んどく事にした。
「さて、部屋に帰るか…隼鷹、寝坊するなよ?」
普段はここで軽口叩いて、『憲兵長』って呼んで終わり。
気付くかねー…きっとこいつは、知らないフリすんだろうけど。
608 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/02/19(火) 18:31:28.03 ID:Va0jqsDhO
「しないってーの。
じゃ、おやすみ!『磯村』!」
「………!!
ふっ……ああ、おやすみ。隼鷹。」
609 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/02/19(火) 18:33:01.51 ID:Va0jqsDhO
へへ、ちょっと笑ったね?
まだ『キョウ』とまでは言えねーけど、苗字ぐらいは呼ばせなよ。
憲兵長って呼ぶの、他人みたいで嫌だからさ。
さーて、とっとと部屋帰っか……
「……うらめしやー。」
「げ、不法侵入。」
「幽霊の専売特許でありますよ。
おやおや、『風呂はこれから』でありますかな?」
「んなホイホイ進むかっつーの。帰った帰った、しっしっ。」
「ふふ…随分機嫌が良く見えたもので。
……どうにか、キョウを頼むのでありますよ。」
「…へっ…分かってるっての。」
「アレは意固地な所もありますからなぁ…では、おやすみなさい。」
言うだけ言ったら、満足そうにどっか行っちまいやがった。
嫌なもん見ちったなー、飲み直すかぁ。
610 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/02/19(火) 18:33:58.89 ID:Va0jqsDhO
「………ぷはー。」
一人っきりで飲む缶ビールは、例に漏れず美味いけど。
この時のあたしは、やたら早くまた酔っ払ってた。
「……へへ、誘われちったなー。」
今年の夏のビールは、きっとこれより美味いはずさ。
そんな味を想像しちゃあ、一人ニヤニヤ笑ってたもんだった。
いやぁ、良い夜だ。
やっぱ良い気分の酒程、美味いもんは無いね。へへ。
611 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/02/19(火) 18:36:03.22 ID:Va0jqsDhO
今回はこれにて。眼鏡と飲んべえの番外編となりました。
保守ありがとうございます。投下ペースはスローになってしまっておりますが、ネタは貯めております。
次回はまたいずれ。お次は工廠編でございます。
612 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/19(火) 22:07:04.63 ID:TK+YyM81O
おつおつ。相変わらず読ませますなあ。
613 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/02/22(金) 08:52:21.70 ID:DyZ5U7sZO
乙!
614 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/12(火) 23:47:07.03 ID:HX+f6vTQO
『どぉ…ん…』
今日も遠くから爆音が聞こえる。
これは工廠の実験の音だ。
大体何時から〜って報告来てて、時間から外れてなけりゃ問題ない。
それ以外だと俺らの特性上出動しなきゃならなくて、この辺の報・連・相が上手く行ってないとトラブルの元って訳。
『どかん!』
派手にやってんなぁ…ま、前んとこから慣れた音だ。
『どごお!!どん!』
…………。
『どすん!ばん!がらがっしゃーーーん!!』
……………何か、いつもより多くね?
『どばばばば!!どん!どん!ひゅーー……どぉん!!』
「…………うるせええええええええええぇえええ!!!!」
「うおっ!?」
ここでキレたのは俺じゃなく、眼鏡の方だった。
どっちがうるせえんだよ…しかし珍しいな、いつもは何も言わねえくせに。
「…失礼した。リョウ、行くぞ。」
「え?どこにです?」
「工廠だよ。明らかに予定を超えている、これは出動案件だ。
久々に連中の病気が出たようだな。」
「病気?」
「ああ、貴様はまだ面識が無かったか…あいつらは歓迎会にも来ていなかったしな。
……うちの火薬庫どもさ。」
615 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/12(火) 23:48:06.82 ID:HX+f6vTQO
第25話・ガチはごっこの顔をしていない-1-
616 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/12(火) 23:49:28.53 ID:HX+f6vTQO
促されるまま駆け付けたのは、工廠の入口。
裏は海に面していて、弾の実験はいつもそこで行われているらしい。
艦娘も行くばっかで、基本中の連中は出てこないって聞いたな…俺もメールのやり取りはしてたけど、文面からは特に変な印象も受けなかった。
さて、鬼が出るか蛇が出るか…扉を開けてみる。
ここは…まあ玄関か。ん?何か足元に…
\おう、よく来たな/
カ、カ○ルおじさん?
いや、違う。ヒゲに手拭い巻きな妖精だ。
よく見りゃ顔に描いてる…この格好は…法被?
617 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/12(火) 23:53:59.41 ID:HX+f6vTQO
「可愛いでしょ?私のお手製。」
声のした方を見ると、黄色いツナギの女がいた。
何やらドヤった笑みを浮かべてるが、眼鏡はそれを見てげんなりとした様子だ。
「はぁ…少しは焦れ。私達が乗り込んできた理由は察せるだろう?」
「……何の事でしょう?」
「自覚無しか。まぁいい、奥にあいつがいるだろう?」
「いますよ。整備長ー、憲兵隊来てますー。」
「………憲兵隊だぁ?」
奥の方からずりずりと足音が聞こえる。
如何にもガラ悪そうな歩き方の影は、次第にその正体を現してきた。
さっきの妖精と同じ格好の……
「なんでえキョウ、珍しいじゃねえか!」
ア、アウトレ○ジ?
タオル巻きに眉無し、ダメ押しのレイバン。さっきの女と並ぶ様はさながら美女と野獣。
どう見てもカタギじゃないのが目の前にいた。
618 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/12(火) 23:57:28.83 ID:HX+f6vTQO
「憲兵長、俺達カチコミに来ましたっけ…。」
「現実から目を背けるな、ここは工廠だ。
この二人がうちの火力の要だよ…誠に残念ながらな。」
「おう!おめえが新任のか!?
歓迎会出れなくてすまねえな!俺はシュウ!ここの整備長だ!」
「私は夕張!ここの助手よ、よろしくね!」
「は、はい、よろしくお願いします…。」
「挨拶は済んだか。さて、貴様ら…私が来た理由はわかるな?」
「固え事言うんじゃねえやい!火事と喧嘩は江戸の華ってんだろ?
あいつらが派手に決めれるよう、いい弾になるか試してただけじゃねえか!」
「建前はそうだろうな。だが、数が多過ぎるんだよ。
貴様らの我慢が効かなくなっただけだろう?」
「憲兵長…私はここに入って大切な事を学んだわ。
いい?芸術は爆発よ?
そう、爆発……爆発は芸術なのよ!!まさに戦場の華!!燃え盛る美の快感を死ぬほど体感したくなるじゃない!!」
「そうでえそうでえ!メロン、いい事言うじゃねえか!!俺らは炎のゲージツって奴をよ…」
「貴様らが。」ラリアット
「ぶっ!?」
「ぶっ放したいだけだろう?」アイアンクロ-
「いたたたたたっ!?出ちゃう!顔から何か出ちゃうから!!」
「やれやれ、出るのは腐ったメロン汁だな。」
うわ、容赦ねえ……整備長はぶっ飛ばされ、夕張は[首の骨が折れる音]って感じでだらんと垂れ下がってる。
しかし今のやり取りからすると、あの騒音って…。
「憲兵長、こいつらって…。」
「ああ、こいつは実家が花火屋でな。で、夕張と妖精達もその悪影響を受けている。
……だからぶっ放すのが大好きなんだよ、こいつらは。たまに暴走するのを止めに来るのさ。」
619 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/12(火) 23:59:39.34 ID:HX+f6vTQO
「…………。」ムス-
「………憲兵長のけち。」プク-
眼鏡がこってり絞りはしたものの、二人はヘソ曲げっぱなし。
整備長、こっち睨むなよ…完全にヤーさんだよあんた。
「リョウ、こいつらはこうしてたまに灸を据えてやらねばならんのだ。
これでもうちの整備や開発を一手に担う場所なのだが、どうにも頭がハッピーでな。特にシュウが。」
「あんまり整備長を悪く言わないでくださいよ、この人は天才なんですから。」
「そうでい!俺にかかりゃ何だってござれよ!」
「バカと紙一重だ。
リョウ、こいつはこんなのでもアメリカの大学を出ている…12歳でな。天才児と言う奴だった。」
「………へ?」
「真性のバカに、お勉強的な天才の頭脳と技術だけ与えた結果がこれだよ。
こいつはその気になればBC兵器だって作れるぞ、未知のな。」
「そうなのよ!整備長にかかれば何だって出来る!まさに発想の爆は…いたたたた!?」
「夕張、そろそろ黙れ。爆発しているのは貴様のメロン色の脳ミソだ。」
天才……このヤクザが?
どう見ても教師殴る方な雰囲気だけどよ…。
620 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/13(水) 00:02:24.23 ID:zAl0aIraO
「大したもんじゃねえやい。一通り学んでくりゃ花火に使えるって思ったからよ。
さっさと飛び級しちまえば、学校行かねえで済むしな!」
「結局その力を花火以外で使う羽目になったのは、運命の皮肉と言った所か?
バカと天才は紙一重と言うが、バカで天才なのは貴様だけだよ。」
「変わんねえよ…花火打ち上げに来てんだこちとら。
あいつらが攻めてきた年、うちの工場が出る花火大会が中止になった。ガキ共の落ち込んだツラァ忘れらんねえ。
それ抜きでも頭来てんだよ…連中を汚ねえ花火にしてやらぁって俺ぁ決めてんだ!!平和になるまでな!」
「整備長…私も最後まで手伝います!二人ででかいの行っちゃいましょう!!」
「おうよメロン!!でっけえスターマイン決めてやろうじゃねえか!!
まずは最高の弾をよ……」
「……と言いつつ実験に戻ろうとするな。」
「「ふぼっ!?」」
華麗なダブルラリアットが、二人の喉元を捉えた。
いやぁ、でもさっきからやりすぎじゃねぇ…?
整備長はともかく、夕張なんて女の子だぞ…。
621 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/13(水) 00:04:24.71 ID:zAl0aIraO
「憲兵長、ちょっとハードなんじゃ…。」
「甘いな。軍事施設の側とは言え、さすがにこれだけの爆音を放っておけば苦情が来る。
それに言っただろう?こいつらはバカで天才だと。
……騒音以外も色々あったんだよ、今までもな。」
「………へ?」
「……へへへ、俺らが弾ぁだけだと思ったかよ?メロン!!」
「はい!!」
「なっ…!?」
直後、激しい煙が俺達を襲った。
催涙ガスか…!?何も見えねえ…!!
「へっへっへっ…今度の『新作』は効くぜぇ?
おめえら用にこさえた特製だかんなぁ!!」
煙は一向に晴れない。
やべえ、くらくらしやがる…その変調の中、ようやく煙が晴れ始めた時、俺の前に差し出された手があった。
「リョウ、大丈夫か?」
そうは言っても手しか見えない。
だがこの時、凄まじい違和感が俺を襲った。
………こいつの手、こんなデカかったっけ?
622 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/13(水) 00:06:21.13 ID:zAl0aIraO
「………っ!?
リョウ、すまない。せいぜい催涙ガスだと油断していたようだ。」
「何言って……!?」
声が、高い?
自分の声に違和感を感じた時、他の事象も次々と現実として俺に襲い掛かってくる。
服がダボダボだ…それに眼鏡の手だけじゃない、煙がより晴れた今、周りのすべての高さが変わってるのに気付く。
まさか……まさか……。
「……小さくなってるううううううっ!?」
そうだ…あのガスをモロに吸った俺は、子供になっていたんだ…!
623 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/13(水) 00:08:18.01 ID:zAl0aIraO
「ふふふ…成功。やっぱり整備長は天才ね。」
「いーや、改善の余地ありだな…知能は大人のままになってやがる…。
まぁいいや…どうでえ!幼児化ガスの味はよ!これでおめえらは手も足も出ねえ!!」
「………やはりバカだな。」
「……ぶべっ!?」
整備長をぶっ飛ばしたのは、ガスマスク姿の眼鏡だった。
ついでに夕張にもチョップ喰らわせて、一瞬で二人を縛り上げちまった。
「……やれやれ、最初から手荒く行っておくべきだったな。貴様ら相手に保険無しな訳なかろう。
予め貴様らはワクチンを接種しておいたと言ったところか…。」
「うう、女の子に容赦無いわね…。」
「マッドサイエンティストをしばくのに性別など関係ない。
ガスの効能はどれほどだ?」
「ちっ…5時間ぐれぇだよ。」
「なるほど、その間貴様らを放置しておけばいいと言う事か。」
「………へへへ。」
「何がおかしい?」
「……今日はよお、翔鶴が出撃だよな?
そこの新人、話は聞いてるぜ?あいつおめえの元カノらしいじゃねえか。大分ストーカーな。」
「ふふ、あと何分で帰ってくるかしらねぇ?5分ぐらいかしら?」
「「………っ!?」」
この時俺達は、恐らく同じ事を考えたと思う。
そうだ…帰港したら、まず皆ここへ艤装を置きに来る。
俺はショタ状態………そこにあいつ……導き出される答えは……。
何 か が 起 こ る 。
624 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/13(水) 00:09:13.66 ID:zAl0aIraO
「……まずいな、艤装ありではさすがの私でも勝てぬかもしれん。」
「…ダメそうですか?」
「……ああ、手強いだろうな。
母港からここへは一本道、今から逃げてもどこかで遭遇するだろう。」
「………つまり。」
「…大人の隠れ鬼開催と言う事だ。」
たった今、俺達にとって長い5時間が始まった。
そしてこの後俺は知るのだ。人の欲望とは、人の数だけ存在するのだと言う事を。
そしてそいつらは、普段は眠っていると言う事を。
『鬼』は何も、一人だけでは無かったんだ…この鎮守府においてはな。
625 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/13(水) 00:10:54.31 ID:zAl0aIraO
今回はこれにて。次回はまたいずれ。
さて、また頭を悪く行きましょう。
626 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/13(水) 06:49:18.31 ID:BmTGH/oDo
おつなのね
627 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/13(水) 08:32:43.41 ID:eRIACwESO
憲兵長、自分だけ対策してるとか
なにかあったら犠牲にする気満々やん
628 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/17(日) 14:03:46.41 ID:/FnRg9alO
確かにショタ食いそうな奴いっぱい心当たりが・・・・
629 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/18(月) 00:01:38.92 ID:0fe9XufhO
第26話・ガチはごっこの顔をしていない-2-
630 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/18(月) 00:04:29.87 ID:0fe9XufhO
「よし、服の準備はいいな?」
「ちょっと動きにくいすね…なんでまた制服折るだけなんです?整備長の予備かっぱらっても…。」
「法被は今ならカバー出来るかもしれんが、元に戻った時にまずい。途中で何か起こるかもしれんからな。
またチン兵さんと言われたいのか?」
「げ…それは勘弁ですね。」
「ふむ…あそこにロッカーがあるだろう?あの大きさなら2人入れる。そこに隠れよう。」
工廠コンビは気絶させて、それぞれ机の下に隠した。
ロッカーからなら確かに外の様子は窺えるが…やっぱ子供の体はキツい。制服ですら重く感じる。
そろそろ来るか…俺らは息を呑んで扉の様子を伺っていた。
“足音がするな…いいか?音を出すなよ。”
扉が開き、話し声も聞こえてきた。げ…元カノの声だ。
「お疲れ様です。あら、出掛けてるみたいね。」
『現在外出中です。』と立て札は出したが、あいつは妙な所で鋭い。
頼むぜ…気付くんじゃねえぞ…。
「珍しいわね…とりあえず艤装を置いて行きましょう。」
「そうですね、持ち帰っても危ないですし。」
よし…!!
ガチャガチャと艤装を置く音がする間、緊張感はどんどん高まっていく。
足音が外へ向かって行く…そいつに安堵しかけた時、俺達にまた緊張が走った。
「あ、私ちょっと待ってみるね。夕張ちゃんに聞きたい事あったんだ!」
誰だ!?
いや、待て……この声は……。
631 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/18(月) 00:07:10.32 ID:0fe9XufhO
「じゃあ瑞鳳ちゃん、私達は先に上がるわね。お疲れ様。」
「うん!お疲れ様ー。」
ふー…何だ、づほか。
あいつなら最悪見付かっても大丈夫…でも、酒のネタにされてもなぁ。
びっくりされて大声出されても困るし、あいつが出るまで隠れてるか。
“瑞鳳君か…しかし今の貴様を見ても、気付いてもらえないだろうな。”
“大丈夫じゃないすかね…いくらなんでも。”
“……ああ、鏡を見ていないのか。今の貴様はざっと見、5〜6歳頃の体格になっているぞ。”
“……そんなにですか。”
“まさかあのように攻めてくるとはな。せいぜい笑いガスぐらいなものかと思っていたが、誤算だったよ。
昔喰らった時は、まだ精神攻撃系だったが…。”
“……因みに内容は?”
“…こちらの意思と関係なく立ちっぱなしになるガスをな。
自慢ではないが、私はモノは大きい方でな…憲兵の制服で立ち上がってはとても目立つ。
一つでもミスがあれば社会死と言う恐怖の2時間を味わったぞ…。”
“……………そう言えばあんた、自分だけガスマスク持ってましたね?”
“……連中の脅威を、一度身を以て知ってもらおうと思ったのさ。”
「てめえ生贄にしたな!?」
「バカ!!声を出すな!!」
「………あ!!」
空気が凍る。
カツカツと響くのは下駄の音……それは今まさに俺達が潜んでるロッカーの前で止まった。
「………誰かいるの?」
万事休す……!!
元カノらはまだそんな遠くに行ってないだろう…ゆっくりと扉が開けられ、俺達はこの後の地獄を覚悟した。
632 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/18(月) 00:08:43.22 ID:0fe9XufhO
「憲兵長……?え?その子は…。」
“しーーーっ!!小声で頼む!”
「むっ!?」
ファインプレーだ眼鏡!!
づほの口を塞ぐと、眼鏡はまくし立てるように事の顛末を伝えた。
「………と言うわけで、こいつはリョウなのだ。変身が解けるまで内密にしてもらえると助かる。」
「………。」コクコク
「よし、分かってくれたか…離してやろう。」
「……ぷはっ。あー、でもちゃんと見るとリョウちゃんだね。
ふふっ、ちっちゃいと本当に女の子みたい。」
「頭撫でんなよ…づほ、隠しといてくれるか?」
「うん!何なら私の部屋で匿おっか?詰所だと誰か来ちゃいそうだし。」
「………良いの?」
633 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/18(月) 00:10:36.62 ID:0fe9XufhO
“狭えなぁ…うお、揺れる…。”
で、どうなったかと言うと。
俺はボストンバッグに詰め込まれ、づほの部屋へ向かっている。
「よし…では瑞鳳君、頼んだぞ。変身が解けたら連絡してくれ。」
「はーい。」
運び手の眼鏡も、どうやら上手い事周りに悟らせないようやってくれたようだ。
ようやくの床の感覚に、俺は一息をついていた。
「お待たせー、今開けるね。」
「ふー…狭かった……ありがとな。」
「どういたしましてー。ふふ、まさか見下ろす日が来るなんてねぇ。」
「だから撫でんなっての…ちょっと座らせてくれ…。」
あー、疲れた…喉もカラッカラだぜ…。
まだ20分しか経ってねえのかよ、先が長えなぁ。
634 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/18(月) 00:13:19.20 ID:0fe9XufhO
「ごめん、飲み物もらってもいい?」
「うん、いいよー。はい!」
「お、コーラじゃん、いいの?ありがとな、づほ。」
「…………リョウ『くん』、づほ『姉ちゃん』でしょ?」
……………ん?
その声からは、何とも例えようのないものを感じた。
なんて言ったらいいか、ドドメ色っつーか、腐った果物の匂いっつーか…。
しょ、瘴気?
「………ど、どうした?」
気付けばづほの両手は、俺の肩をがっちり後ろからハグ…。
そして後頭部にかかる吐息と共に、『何かが肩に滴る感触』と『ある匂い』を感じた。
“私ね、弟か妹欲しかったんだ!”
“山風本当かわいー!もう私の妹だよ!”
何故か走馬灯のようにづほの過去の発言が巡る。
きいいいいいい……と後ろを振り返ると…。
「ふふ…ふふふふふ……弟…愛でりゅ…!!」ハァハァハァハァハァハァハァハァハァ
濃い鉄のかほりの正体は、づほの鼻からボタボタ垂れる鼻血…。
貞子の如く血走る瞳と目が合った時、俺の脊髄は思考を凌駕した。
635 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/18(月) 00:15:03.57 ID:0fe9XufhO
「いやあああああああああああっ!?」
「大丈夫!ちょっとだっこして匂い嗅ぐだけだから!ぜったいかじらないから!かじらないからぜったい!ねっ!?ねえええぇっ!?」
「いやあああっ!!ぜったいかじる!かじるぜったい!!俺は逃げりゅ…!?」
ドアに向かおうとするが、強烈なタックルに姿勢を崩された。
ってこれ逮捕術じゃねえか!!どこでこんなもん覚えた!?
「…ハァ……ハァ…ふふ、チビでも私、大人の女よ?子供が勝てる訳ないじゃん…。
リョウくん……いっぱい遊ぼうねええええええっ!!!!」
「リョウ!『づほ姉ちゃん』と言え!!可愛くだ!!」
「………っ!?
………づ、づほねーちゃん?」
「………。
…………ごふっ……!!」
直後、血の花が咲いた。
そいつの正体は、づほの鼻血と吐血
それを浴びせられた俺の顔面はびったびた。さながらそれはスプラッター。
俺にとっちゃホラー極まりない事だったんだが……後に知る事となるのだが、そいつはこう呼ぶそうだった。
『尊みが鼻から溢れる』と。
636 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/18(月) 00:17:44.64 ID:0fe9XufhO
血を浴びて血の気を引かせている間、カーキの影が部屋へ飛び込んだ。
とんっ…と小さな音がすると、倒れ込むづほをそいつは受け止めていたんだ。
「……憲兵長!!」
「やれやれ、念の為ドアの前にいたらこれだ。
どうやら今の貴様が相当お気に召したようだな。」
「づほ……ショタ趣味あったのか…。」
「また違うかもな…改めて鏡を見てみろ。」
「鏡……げっ!?」
大人の頭脳で見る子供の俺。
そいつは否応なしに認めたくない現実を突き付けて来た…。
「……はは…笑えねー……俺、完っ全にロリじゃないっすか…。」
「故に、見た者が覚醒してしまったと言う方が正確だろうな…。
この鎮守府は変態の素質を持つ者が多い、それで今の騒ぎでは…。」
「瑞鳳ちゃん、何かあったの?」コンコンコン
「……この有様だ。」
「…………終わった。」
この声、蒼龍か……どうする?どうするよ!?
またボストンバッグに…いや、そもそも何で眼鏡だけいんだって話だ。
「ふむ……あまり気乗りはしないが…。」
「………へ?」
え?俺を小脇に…
え?何で窓行くの?
え?何その鉤…引っ掛け……
「てええええええっ!?」
「外から行くぞ!こうなれば限界まで逃げる!!」
「嘘でしょ!?」
づほが起きればバレるのは確定…その後は容易に想像出来る。
たった今、隠れ鬼がバイオハザードかメタルギアに格上げされたのであった…。
637 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/03/18(月) 00:18:48.69 ID:0fe9XufhO
小出しになってしまいましたが、今回はこれにて。受難は続くよどこまでも。
638 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/18(月) 00:47:48.81 ID:J/9ZgsQQO
おつおつ。これは酷いw
639 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/18(月) 08:42:10.85 ID:EaQb5tlZ0
乙!
640 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/18(月) 13:53:57.47 ID:lzg+TCAP0
メタルギアww
641 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:24:58.98 ID:tMIn8aavO
昼の風をきり箱で匍匐して行くのは誰だ?
それは上司と部下(ショタ化中)
上司は部下を腕にかかえ
しっかりと抱いて息を殺している
“リョウ、何故顔を隠すのだ?ここからは何も見えないはずだ。”
“憲兵長には見えませんか?ギラギラとした目を持つ女達が。”
“リョウ、あれはただの霧だ。”
“…今は昼です。”
「可愛い坊や、私と一緒においでぇ、楽しく遊ぼう!
キレイなメイク道具と可愛い衣装もたくさんあるよぉ。」
“憲兵長、憲兵長!蒼いののささやきが聞こえませんか!?”
“落ち着くんだリョウ、枯葉が風で揺れているだけだ!魔王的なのはいない!”
デデデデデデデン!
と恐ろしげなピアノが脳内再生されるような空気の中を、俺達は進んでいる。
辺りにはゾンビの如く俺達を探し回る艦娘の群れ…ここは詰所の裏だ。
俺達は今、段ボール内で息を殺していた。
642 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:26:03.87 ID:tMIn8aavO
第27話・ガチはごっこの顔をしていない-3-
643 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:27:51.10 ID:tMIn8aavO
窓から逃げた時も騒ぎになったが、まだ俺が誰かはバレてなかった…だが詰所に逃げ込んで一息付いてたら、すぐ大変な事になった。
づほか夕張か、とにかく子供の正体が俺だとバレたらしい。
窓からペタペタ音がし、そっちを見たら蒼龍達がニチャァ…とした顔で貼り付いていた。
初めは籠城作戦に打って出たものの、ここで出てきたのがあの整備長。
あのヤクザは難なくピッキングをこなし、一斉にゾンビ共が雪崩れ込んで来たのが数分前。
突破を読んだ眼鏡が外の段ボールに隠れ、ギリギリ難を逃れているのが今の状況だ。
「……鬼畜系眼鏡×ショタって、尊いと思いません?」
「いやぁ、そこは男の娘っしょー…生で見るとありゃ逸材だねえ。」
「ひひひ、当分話のネタになるよー。ね、蒼龍!」
「ふふ、何が良いかなー…ドレス…いや、スモックも捨てがたい…。」
腐臭漂う駆逐艦どものリビドーが聞こえ、着せ替え人形を探す空母どもの声が耳を犯す。
変身が解ける前に捕まったら最後…いや、社会的な最期だ…!
“いいか、ゆっくりと動くんだ。我々陸軍の得意分野だぞ。”
“匍匐前進…目指すはどちらで?”
“裏門だ…着いたらカードを通して即脱出。それしか無い。”
“………憲兵長、なんでそこまでしてくれるんです?”
“奴らを見誤ったツケと言うのもあるが……今回は笑い話で済まない気がするからだよ。”
この眼鏡が悪ふざけを封じた。
その事実は、状況の悪さを容赦なく俺に突き付けて来ている。
まだ2時間…クソッ、あと3時間どう逃げ切りゃいい…。
644 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:28:58.43 ID:tMIn8aavO
「けけけ…なぁメロン、あいつらどこ行ったんだろうなぁ?」
「ふふ、どこでしょうね?日頃のツケは払ってもらわないと…セキュリティカードは?」
「へっ、俺を誰だと思ってんでぇ!んなもんハッキング済みよ!敷地にいんのは間違いねぇだろ!」
“なっ…!?”
“……バレてはいないが、聞こえるように言っているな。近いとは見ているか。
アレはバカで天才だ、プログラムの書き換えなど造作も無い。
ふむ…脱出は厳しいか。そうなると…。”
“なると?”
“解けるまでひたすら這いずるしかないな。”
オーケイ、俺たちは傭兵じゃないし、堅固な蛇的な名前でも無い。
………無理だな、これは。
645 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:30:51.95 ID:tMIn8aavO
「皆ー、いた?」
「ダメだねー、見つかんない。瑞鳳ちゃん、翔鶴さんどうだった?」
「昼寝してるっぽいね、全然連絡付かない。あの人一度寝ると起きないもん。」
「そっかー、翔鶴さんいたら速攻なのにね。あの人憲兵さんへの嗅覚すごいから。」
あいつが参加してないのは不幸中の幸いか…確かに昔から一度寝たら起きない奴だ。
ん?あいつは寝てて、この状況…何か糸口があるような…。
“憲兵長…もしかして人増えてないですか?”
“ああ、この騒ぎだ。表に集まって来ているな……そうか、その手があったか。 リョウ、良いものがあるぞ。”
“何ですか!?”
“……寮の鍵束だ。夜警用に持ち歩いていたのを忘れていたよ。”
“そうか…今は暇な奴らの大半が出て来てる!”
“ああ…寮に人が少ない今、空き部屋に逃げ込めば勝機はある。寮の裏口に回り込むぞ。”
進め…進め……!
声の方向、人の気配、それらを常々監視しながら、俺達はゆっくりと動き始めた。
もうどれぐらい経ったろう…切れる息すら押し殺し、やっとの思いで固い感触に触れた。これは…裏口の石段…!!
“少しダンボールを持ち上げてくれ。よし、届いた…開いたぞ。”
眼鏡が腕を出し扉を開け、慎重に中へ。
誰かいる様子は無い…最寄りの空き部屋は3階、エレベーターを目指してまたずりずりととダンボールを進めた。
“何とか乗れたな…もう少しだ。”
“ええ、長かったですね…。”
この扉が開けば、即空き部屋へ。
ダンボールも脱ぎ捨て、俺達はようやくの解放感に浸っていた。
『3階 デス。』
着いた……さぁ、開いたらダッシュして…
646 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:31:35.08 ID:tMIn8aavO
「ふふ……来たわね。」
647 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:32:37.11 ID:tMIn8aavO
「「なっ……!?」」
緑が見えた時にはもう遅かった。
エントランスにガスが充満し、視界を全て遮る。
そいつが晴れた時には、ニヤつく夕張の姿と…カツンと眼鏡が落ちる音があった。
ああ、眼鏡も子供になっちまった…!
「ふふふ…敢えて皆をあっちに誘導したのよ…。
一度憲兵長に試してみたかったのよね…。」
「憲兵長!大丈夫ですか!?
くっ…夕張!!てめえどう言うつもりだ!?」
「どう言うつもり?元々アイディア出したのは私よ?
整備長でないと実現出来ないから、ちょっとそそのかしてね。だって……」
「……だって?」
「………切れ長のショタとか見てみたいじゃない!!」ハァハァハァハァ
…………。
ダメだ、この女。
648 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:34:38.04 ID:tMIn8aavO
「……………バカなの?」
「私達、いつも良いようにやられてたわ…時にはハードな技を掛けられる場面も。
そう…次第にそれが私に新たな発想を与え、爆発させた。
どんどん載せていい気持ち……小さくなったこの鬼畜に踏まれたら何が起こるだろう…或いは逆にのし掛かったらどんな気持ちになるだろう…。
技術者はね、一度思い付いたら実現せずにはいられないのよ!!あははははははは!!!」
そう高笑いする夕張は、俺の目にはアレに見えた。
あのー、アレだ。変態後のメ○ン熊。
本性むき出しにガバーッと口開けてる方。
うわぁ…しれっとソロSMな性癖暴露してら。
「憲兵長、日頃の感謝を込めてたっぷり可愛がってあげますよ……後で感想聞かせてねえええええ!!」
……っ!?引いてる場合じゃねえ!今眼鏡も子供だ!
どうする!?突っ込むしかねえ…!
649 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:35:41.26 ID:tMIn8aavO
「………やれやれ、ナメられたものだな。」
650 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:38:22.37 ID:tMIn8aavO
次の瞬間、夕張の体は宙を舞っていた。
それは俺の頭上を越え、エレベーターの鉄扉へ顔面シュート。
めろっ!?と悲鳴が聞こえる頃、俺の目の前にはすくっと立ち上がる影が見えていた。
「…知能を低下させられなかった時点で、貴様らの負けだよ。
格闘技には受け流す技もある、そいつに力は要らん。」
「う"…ふふ、負けた、わ……ぷぎゃっ!?」
「ふん、そこでのびていろ。」
……踏まれてこんな幸せそうに気絶してるの、こいつぐらいだな。
はぁ…眼鏡も小さくなっちまったが、ラスボスは倒せたか。後は空き部屋に…。
「夕張ちゃーん?いるー?」
「何かすごい音したよね?」
………何だと?
「リョウ!!」
「これは…!?」
「鍵束だ、すぐに隠れろ!!」
「なっ…あんたはどうすんですか!?」
「今回は私にも非があるからな…ここで食い止めるとしよう。
なぁに、心配には及ばん。私を誰だと思っている?」
「…………憲兵長!!ご武運を!!」
眼鏡…あんたの死は無駄にはしねえ!
時間がねえ、もう目に付いた部屋でいい!!部屋番と鍵は…あった!!
「………ふぅ。」
飛び込んだ部屋の鍵を閉め、思わずへたり込んだ。
ここはどこだ…そう天井を見た時。
651 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:40:27.99 ID:tMIn8aavO
『A2サイズの憲兵の写真(盗撮)』
……………。
ベッドを見ると、明らかに膨らみがある…そこには。
「…………すぅ…すぅ……。」
元カノーーーーーー!!!!????
ななななんてこった!ラスボス倒したと思ったら隠しボス!
必死にエンカウント避けても強制イベントってかおい!?
652 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:42:34.68 ID:tMIn8aavO
「………ん……あれ、あなたは…。」
起きちまった……つくづく神はいねえ…!
ベッドから降りてくる様は、まさに終わりの始まりに見えたが…。
「………ふふ。あなた、リョウね?夕張ちゃんが何かしたって所かしら。」
「あ…あ…。」
「………大丈夫よ。」
その瞬間、ふわっとした感触が俺を包んだ。
他の奴同様襲ってくるもんだと思ってたが…こいつは随分優しく俺を抱きしめていたんだ。
「………な、何もしねえのか?」
「…そうね、確かに今の姿はとっても可愛いけれど…。
私が好きなのは、普段のあなただもの。
………えいっ。」
「ぶっ!?」
体が浮いたと思えば、投げられたのは柔らかい場所。
すぐに何かが顔面に掛かって、思わずうめき声が出ちまった。
………布団?
653 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:43:49.15 ID:tMIn8aavO
「今日は疲れちゃったから、もう少し横になってたいの。
ふふ…私のお昼寝を邪魔したから、お仕置ね。
抱き枕になってもらうわ、それが匿う条件。」
「………本当に?」
「本当よ。あなたも少し疲れてるんじゃないかしら?
子供の体だからよく分かるわ、体温高いもの。きっと眠くなってくる頃よ。
今は可愛い男の子が遊びに来ただけ…大丈夫だから。」
「待っ……むぐっ!?」
問答無用の乳攻撃。しかも眠いとかぬかしてんのに全力でホールドじゃねえか。
それを喰らった途端、くらくらと眠気が襲って来た。
ああ、ガキの頃、メシ食いながら寝そうになってたっけ…こうも急に来んのか。
妹で慣れてんのかね、こいつ子供の寝かせ方分かってやがる…。
あ…ダメだ……疲れが一気に……。
………。
…………すぅ……。
654 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:46:52.86 ID:tMIn8aavO
……………。
……元に、戻った。
捲ってた制服も短パンと半袖状態。拳を見ても、ちゃんとタコがある。
はぁ……良かったぁ〜〜……!
そうだ、眼鏡は無事なのか?すぐにスマホを見ると、LINEが2通入ってた。
『案ずるな、私に掛かればこの通りだ。』
添付画像には屍の山で立て膝座りする、生意気そうなガキが写っていた。
うわ、バケモノかあいつ…。
はぁ、でもこれでよく分かったぜ。あのアホぐらい強くねえと、こんな所まとめらんねえんだろうなぁ…。
さて、早く出ちまわねえと……。
“ぞく……。”
その悪寒を感じた時、一気に意識が覚醒した。
そうだ…俺は元カノに匿ってもらってた。
で、ここはあいつのベッドの上……そこまで理解した時、あるセリフが脳内で木霊する。
“…そうね、確かに今の姿はとっても可愛いけれど…。
私が好きなのは、普段のあなただもの。”
“私が好きなのは、普段のあなただもの…。”
“普段のあなただもの…。”
“フダンノアナタダモノ…。”
幻聴のエコーが切れるその瞬間、俺は後ろを振り向く。
そこには……。
「…………ハァ……ハァ………。」
滝の様なよだれを垂らしつつ、血走った目で獲物を狙う蛇がいました。寝たままで。
655 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:48:22.13 ID:tMIn8aavO
「いやあああああああああっ!!!???」
「“待”ってたわ!!この“瞬間”(とき)を!!」
「ダメ!俺のセカンド童貞死んじゃううう!!」
パリ-ン!!
ウワ!ケンペイサンオチテキタ-!?
ナニイ!?ドコニカクレテタノ!!
ニゲキッタネ!!バツトシテジョソウダヨ!!
………あんな奇跡的な受け身、試合や実戦ですら取った事無かったよ。
人間、やれば出来る。
656 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:49:53.56 ID:tMIn8aavO
“あーあ…またやっちゃったわ……ダメな女ね、私。
………分かってるのに。”
657 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:52:02.39 ID:tMIn8aavO
「………いやぁ、最悪でしたね。」
「ああ…流石に無理があったのか、あの後私も全身筋肉痛になったぞ。
全く、あの二人はどうせ懲りんだろう。また時期を見て間節を増やしに行かねばな。」
「……つくづく感じましたけど、あんたいないと本っ当ここ回んないっすね。
バケモノにはバケモノをぶつけんだよ!なんて映画のセリフでありましたけど、身に染みましたよ…。」
「ふむ…強さも重要だが、一番は慣れだよ。
私もおふざけは大好きだが、デッドラインは見極めているつもりだ。度を超えすぎた者を殴るラインをな。」
「……慣れ?」
「コウヘイ……ああ、提督の本名なんだがな。
あいつとは幼馴染だが、昔はもっとメチャクチャだったのさ。
昔から女への手は早かったし、他にも何かと事件ばかり起こす。
散々一緒に悪さもしたが、同じぐらい殴って止める事も多かったからな。
一時期軍内では、サイコパスと言う単語はあいつを指すものだったんだよ。
だから手加減しないラインは、あいつで学んだものだ。」
「………苦労してきたんすねぇ。」
「まぁそれはそれで面白かったがな……おや、メールか……。
……!?……くく……はははははははははははははははははは!!!!」
「……ど、どうしたんすか…?」
「噂をすればなんとやらかな……リョウ、面白い事になるぞ。」
この時の眼鏡の邪悪な笑みったら無かったな。
こいつもやっぱり悪魔だと、のちの件で思うんだ。
658 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:53:39.53 ID:tMIn8aavO
北欧のある国には、ある食品がある。
それはニシンを薄い塩水に浸け、現在では缶で一月程発酵させるのが主な製法。
その発酵ガスによる膨張力は凄まじく。
ある民家にて25年放置された缶詰を処理する際、爆発物処理班と専門家が召集された事もある程だ。
え?そんな大げさなって?
大げさじゃねえ、至ってマジだ。
発酵食品…要は腐敗に近い。そして臭い。
開ければ飛び散る危険な汁を持つその缶詰の名は、シュールストレミング。世界一臭い食べ物と呼ばれているもの。
臭気は多分磯風のGUSOH……じゃなかった、料理の次ぐらいだ。
後日、その原産国からとある女がやってくる。
シュールストレミング並に発酵と膨張でパンパンになった心を抱えて、とある男に会うために。
勿論土砂降りも付いてくる、おぞましい開缶式の始まりだ。
でも正直、解決する気しなかったなぁ…だってよぉ、アレは…。
提督、少しは俺の気持ちが分かりましたか?あんたが蒔いた種です。
659 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/04(土) 21:55:45.83 ID:tMIn8aavO
大分遅れてしまいましたが、今回はこれにて。
次回、雨vs羊。
660 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/04(土) 22:16:32.42 ID:AWg4sXrUO
おつおつ。ゴトちゃんは愛が重そう……
661 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/05(日) 03:50:54.98 ID:rGrRDjGg0
乙!
もうダメだおしまいだ
662 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/05(日) 20:51:52.43 ID:qhgIy0N4O
久しぶりの更新乙です
663 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:12:49.80 ID:FwVAF0RqO
「えーと…海外艦、ですか。」
「ああ、とは言え1週間だけだがな。あちらのスケジュールの問題で、まずうちで仮預かりする事になったんだ。
後々日本に正式配属されるが、うちに来るとは限らん。
まぁ、軽く体感してもらう方が本人も不安が減るだろうと言う配慮さ。」
「また珍しい国からですね…英語通じます?」
「母国語では無いが、あの国は英語も上手いらしいぞ?
それに本人は元々日本語を学んでいたそうでな、JLPTのN1持ちだそうだ。」
「JLPT…日本語能力試験ですか!?N1って要は1級じゃないすか!
じゃあ特に心配要らなそうですね。」
こっちの連中はそうでもねえけど、前んとこで大変な事あったなぁ…。
通じるならまぁ、大丈夫そうか。
「それでその当日なのだが、別件で任務が入っている。」
「別件?」
「前も言っただろう?面白い事になるとな。」
664 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:13:47.87 ID:FwVAF0RqO
第28話・女心は8070Au -1-
665 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:15:46.66 ID:FwVAF0RqO
そんなこんなで1週間が過ぎ、とある任務の日がやってきた。
その内容とは、今日1日の執務室の護衛。
また珍しい任務だが、どうも提督一人の判断では無いらしい。
……だって、眼鏡とお淀がめっちゃニヤニヤしてんだもん。
「表ならともかく、なんで内部なんです?これから来るんでしょう?」
「そう言う結論に至ったからだな。」
「何ですかそれ…それにこれまで引っ張り出して来て。」
「ちょっとこれって何よ!」
そう、何故か眼鏡のリクエストでづほも召集されていた。
曰く、普通に執務室にいる体で頼む…なんて言ったものの、何でこいつなのやら。
「まぁまぁ、あまり物々しくても緊張させてしまうだろう?」
「何か変ですよね、今日の内容。何か企んでません?」
「いや、ただの任務だが?」ニヤァ
“……絶対何かあるよな。”
“だよね、私も呼んでるんだし…。”
いまいち察しが付かねえまま、例の海外艦が来る時間になった。
入って来たのは全体的に青でコーディネートされた女…ああ、この人がと思いつつ全体像を確かめた時。
俺とづほは、『何か』を感じ取った。
666 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:18:19.31 ID:FwVAF0RqO
「北欧スウェーデンから参りました、航空巡洋艦ゴトランドです。
提督、どうぞよろしくお願い致します!」
「うん、短い間になるけどよろしくね。」
提督はいつも通りのゆるい笑顔…だが俺らの位置からは、机の下にある脚が見えていた。
……提督、脚にバイブでも仕込んでんですか?
「ふふ、ではお近付きの印に握手でも。」
「こちらこそよろしく。」
何故だろう。
何故ただの握手がやたらニチャァ…とした動きに見えるんだろう。
「あ、あとこれスウェーデンのお土産!ダーラナホースって言うの!幸せを運ぶ馬だよ!」
「ありがとう、飾らせてもらうよ。」
おかしい、急にフランクになり過ぎだ。あと、机越しに提督に近い気がする。
一見普通に会話をしているよう…だが読唇術を齧ってる俺には、その合間にボソッと囁いた言葉が理解出来た。
“ダーラナホースには、私って言う幸せが乗って来たんだよ。ね、コウヘイ?”
コウヘイ…こないだ聞いた提督の本名。
待て……何でこの人が知って………。
……あ。
667 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:20:23.59 ID:FwVAF0RqO
「じゃあゴトランド、今日は部屋でゆっくりしてくれていいから。場所は分かる?」
「うん!説明は受けたから!じゃあまたね!
………コンドハニガサナイカラ。」
………今、何かすっげー怖い事言わなかった?
ドアの音と共に訪れたのは、それは長ーい静寂。
それを破ったのは……提督が蛙のように机に突っ伏す音だった。
「………!!……!!」
「提督!?大丈夫ですか!?」
おいおいおい…普段糸目な人がすっげえ顔してんぞ。
慌てて駆け寄る俺とづほを尻目に、眼鏡コンビは悪魔の笑みを浮かべていた。
668 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:22:07.80 ID:FwVAF0RqO
「…………かはっ…はぁ、やっと息吸えた…。」
「コウヘイ…大変な事になったなぁ?」
「ふふふ、いつ『あの子』にバレるでしょう?」
「……リョウちゃん、あの人見てどう思った?」
「……うん。キャラは違うけど、何か翔鶴っぽい。
提督……もしかして…。」
「うん……僕の、留学時代の元カノだね…。」
この時俺とづほの脳裏には、ある奴が浮かんだ。
その直後……。
『びたぁん!!』
「何だ!?」
「ひっ…!?リョリョリョ、リョウちゃん…あそこ……!」
づほが指差したのは、ついさっきでかい音を出した窓……そこには。
「…………。」ニコォ…
「「で……出たぁああああぁああああっっ!?」」
この場に最もいてはいけない女、時雨が窓に貼り付いていた…。
669 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:24:06.61 ID:FwVAF0RqO
「……………。」ニコニコ
「……………。」
「……よっ、と…さて提督、何から説明してもらおうかな?」
時雨が窓から入ってくるや否や、途端に空気がヒリヒリしたものに変わる。
提督はいつものアルカイックスマイル…だが、明らかに尋常でない汗がダラダラと。
「はは…21歳の時、半年ぐらいスウェーデンに留学してたんだ。
そ、その時付き合ってた子でね…。」
「へぇ?じゃあ僕と知り合うずぅっと前かぁ…その時ゴトランドさんはいくつだったの?」
「じゅ、16歳…。」
すこーん!とした音が部屋に響く。
時雨は相変わらずニコニコしたまま、持ってたペンを机に刺したんだ。提督の目の前に。
670 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:27:14.03 ID:FwVAF0RqO
「ねぇ…“やる事はやった”の?」
「う……うん…。」
「へえ…あの人の方は初めてだった?」
「うん、そうだったね…。」
「…………。」
2本目が深々と机に刺さる。今度は煙も立てて。
時雨は尚も笑みを崩さず、尋問は続いて行く。
「………本当に愛していたのかい?彼女の事を。」
「うん…その時は日本に連れて帰りたいぐらいに。
結局今生の別れになると思って、そのまま別れてしまったけどね。」
「………別れの言葉は?」
「……別れ話をした翌日、あの子は空港に見送りに来てくれた。
僕だって本当は、別れたくなかった……だからこう言ったんだ。
『またいつか、どこかで。』って…。」
「………そう。」
そこから時雨は黙っちまって、長い沈黙が訪れていた。
「提督……。」
それを破ったのは、づほの靴音。
づほは優しく微笑みながら、提督の肩に手を置き、そっと耳元に顔を寄せて…。
「ギルティ。」
その瞬間、ぎょん!と目を見開いた。
671 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:28:38.75 ID:FwVAF0RqO
「時雨ちゃん!」
「うん!行くよ瑞鳳さん!」
「えっ?ちょ、待っ…!!」
づほが提督を羽交い締めした瞬間、ばちこーん!!と爽快な音が響き渡った。
ブ○ャラティも真っ青の殴られ顔を晒しつつ、肩を固定された体は吹っ飛ぶ事も出来ず。
うわぁ、首すっげえ伸びてる。すっげえ伸びてるよ。
「いい音!時雨ちゃんやっるー♪」
「その為の革手袋さ。」
「提督。」
「う……け、憲兵君…?」
「………俺も1発いいですか?」
「ごめん!君のは死ぬ!」
ちっ…まぁいいや、ここは女性陣にボコってもらうか。
あーあ、眼鏡超笑ってんじゃん…。
ダメだわこの人…俺ですらあいつん時はまだちゃんとよぉ…。
672 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:31:44.74 ID:FwVAF0RqO
「………提督、君には失望したよ。
僕と出会うよりずっと前の事…本来なら僕に口出しする権利は無い。
でもそれはあんまりなんじゃないかな?ゴトランドさんが可哀想だよ。
そんな未練を残す別れ方なら、彼女がああなるのも無理はないね。
あの人が入ってきた時から、君へのドス黒い匂いがプンプンしていたよ。
だからあの人の為にも、この1週間でしっかりケリを着ける事。いい?
それが済んだら……ちゃんと、僕の所に帰って来てね?」ギュッ
「………時雨。」
「もし、失敗したら……。」
「したら?」
「…………。」ニコッ
「頑張ります!頑張りますのでご勘弁をおおおお!!!」ヘコヘコヘコヘコヘコ
提督、キャラぶっ壊れてます。
あれ、おかしいなぁ…何か提督が座布団になってて、時雨がケツに敷いてるように見えるぞ。
673 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:34:22.12 ID:FwVAF0RqO
「はっはっはっ!見事なカカァ天下だな!
時雨も成長したものだ…随分と人の気持ちを考えるようになったな?」
「それはそうさ。僕だって、いつまでも前のままじゃいられないよ。」
「そうか。
……で、本音は?」ポン
「………あのメス、どこからジンギスカンにしてやろうかな…ふふふふふふふふふ……。」ジャキン
「悪魔かあんたは!!時雨もどっからマチェット出した!?」
「ねぇ提督、マトンって好き?今度料理してあげるよ!」
「しれっとおぞましいこと言ってんじゃねえ!!」
こうして俺達による、提督の尻拭い作戦は発動されたのだが…。
俺達は敵を見誤っていた事を、まだ知らなかった。
ゴトランドの資料、もっとガッツリ見とけば良かった…艦娘以前の経歴にこそ、あいつ謹製の爆弾はあったんだ。
………人の心は、理屈を知ってりゃある程度騙せる。
674 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/08(水) 02:37:33.10 ID:FwVAF0RqO
今回はこれにて。
降るのは血の雨かシュールストレミングの汁か…。
675 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/08(水) 07:09:13.17 ID:2LlBz2PaO
乙です
これ何て舞姫…
676 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/08(水) 07:40:30.46 ID:RprAZFQJ0
乙!
内戦とかワロエ無い
677 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/08(水) 08:46:16.84 ID:czzEoTE2O
おつおつ。やっぱゴトちゃん怖いw
678 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 18:57:09.42 ID:ozMvv0MOO
「で、建前は提督の護衛って事にゃなったけど…実際どうすんだろな。」
「まぁ、ゴトランドさんは100%アレな感情抱いてるだろうけどね。でも何かやらかしそう?」
「正直あんな一瞬じゃ分かんねえ。」
「だよねぇ。」
着任初日の艦娘は、何かと忙しい。そいつは短期でも同じくだ。
今日はもう大丈夫だろうと解放され、打ち合わせも兼ねてづほと軽く飲んでいた。
「……いや、あのメスは間違いなく何かやるね。
僕には分かるんだ、アレはきっと提督を奪いに…!」
……まぁ、厳密には時雨っておまけもいるんだけどな。
679 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 18:58:00.00 ID:ozMvv0MOO
第29話・女心は8070Au -2-
680 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 18:59:20.35 ID:ozMvv0MOO
「おいおい…烏龍茶で酔ってんのか未成年。」
「し、時雨ちゃん、卵焼き食べる?」
時雨は烏龍茶を飲み干すと、即2杯目に手を付けた。
どっかの吸血鬼みたいに、いかにも飲まずにゃいられねえ!って不機嫌さだ。烏龍茶だけど。
発覚直後はホラーな怒りって感じだったが、今はぷりぷりとヘソ曲げてる。
こっちの方が年頃らしいっちゃらしいが、余程気に触る事でもあったんだろうか。
あの後提督と二人で話してから、ずっとこんな調子だ。
それで見兼ねて飲み屋に連れて来たってわけ。
……因みに、既に時雨の八つ当たりで割り箸3膳が犠牲になってる。
681 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:02:50.19 ID:ozMvv0MOO
「まぁまぁ、あの後何話したの?」
「……ゴトランドさんとの馴れ初め。あと別れた時の事。」
「提督がナンパしたとか?」
「ううん、大分違ったね。詳しく話すと…。」
「どうだったの?」
「軍大学の勧めで留学したはいいけど、行ったのは提督一人だったんだって。
異国で一人だったから、最初は話相手もいなかったらしいんだ。
段々ホームシック気味になってた時、近くのカフェでバイトしてたのがあの人だったみたい。
『コーヒーを一つ。』
『はい…日本の方ですか?』
『ええ、留学でこちらの方に。』
『そうなんですね。えーと、確か日本語で…アリガトウ!でよかったですよね?』
『………!
ふふ…はい、それで合ってますよ。』
提督は英語話せるけど、彼女はわざわざ日本語でそう言って来たんだって。
それから店に行くたび、いつも彼女の方から話しかけて来て……当時の提督は、それに随分救われたみたいだよ。
それである日、いつもみたいにレシートをもらったら…。
『私のアドレスです。もっとたくさんお話したいな。』
それから付き合うまでは、本当に早かったってさ。」
「じゃあきっかけは、ゴトランドさんの方からだったんだ。
でも提督、年の差とか期間の事考えなかったのかな…。」
「ねえ瑞鳳さん、例えば今16〜7歳ぐらいの男の子と知り合ったらどう思う?」
「そうだね、私今年で22だから…弟か後輩みたいに思うかな。
………あ!!」
682 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:05:39.71 ID:ozMvv0MOO
「……そう、その頃の提督は21歳。
5歳違いのカップルなんて、例えば今の提督の年齢で考えれば珍しくもない。相手も瑞鳳さんぐらいの歳になる。
まだ若かった彼は、そんな感覚でいたらしいんだ…ダメ押しにその頃は、好意と寂しさに負けてしまったそうだよ。
いつか別れが来る想像も甘かったって。いざとなれば迎えに行けば良いとすら思ってたってさ。
結局、ゴトランドさんの告白を受け入れる形だったみたいだね…。」
「……提督、もしかして本気だった?」
「……はっきり言われたよ。過去の人の中で、一番好きだったって。
遊び人ではあるけど、実際は提督が来る者拒まずだった部分が強いみたいだね…いや、寧ろ来る者に嫌気が差したからこそと言うか。
彼は所謂エリートだった分、昔からモテたらしいんだ。
ただ話を聞く限り、寄ってくる女の大半は立場に惚れてるだけ。
提督は僕がクズだったからって言うけど…そんな中で次第に歪んで行って、ああなってた部分は強いんじゃないかな。
実際ゴトランドさんと別れて以降、余計ヤケになってた節はあったみたいだよ。
でもあの人は他の女と違って、提督そのものを見て好きになったんだろうね。
だってあの人以来、どれだけ遊んでも『彼女』は作ってなかったって…随分と、後悔してるみたいだった。
彼女の着任を知った時…きっと恨まれてるし、復讐されるだろうって思ってたみたいだね。
お互いいつか終わるって分かってたけど…具体的に帰国が決まるまでは、切り出せなかったって。」
「若気の至りか…後から効いてくるんだよね、そう言うの。」
「なるほどね。」
うーん…まぁ、それも事実だろうな。
でもそれだけじゃねえ気がすんだよなぁ…あのビビりようは罪悪感もあるだろうけど、何か…。
提督、いざって時は腹括るタイプな気もするし。
683 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:08:22.11 ID:ozMvv0MOO
「……でもひどくないかい?
結局僕と色々あったのも、ゴトランドさんの件が尾を引いてたからだろうし…。 」
「あー…でも提督の気持ちも分かるわね。
過去に自分より若い子とそんな事あったら、気にしちゃうかも。」
「…何よりいつまでも昔の女に振り回されてるの、本当むかつく。」プク-
「それな!!」バァン!
「うお!?づほ!酒こぼれんだろ!!」
何いきなりテンション上げてんだこいつ…。
それまでのお姉さんモードから、急にヅホラな雰囲気に変わりやがった。
んー…おや、何か負のオーラが二人から……。
684 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:11:07.89 ID:ozMvv0MOO
「そりゃ彼女と違って、未だに僕とはプラトニックだよ…所詮事実恋愛、正式に付き合えてるわけでもない。
でももう遊び人はやめた以上、今そばにいるのは僕じゃないか…。
何だよ提督の奴……あんなに普段見せないリアクションばっかしてさ…。」
「そーそー!今近くにいるのは時雨ちゃんだもんね!
昔の女にあんなガッタガタ震えてさ、キ○タマ付いてんのかっての!!今近くにいる人を見ろってーの!!」
「ほんとだよ!何だよあの反応!!うー…あったまくるなぁ〜…!!」
「だからさ、しっかり提督の手綱握って、攫われないよう頑張ろ!
自分から振った女にうろたえてさ、男として情けないよね!!リョウちゃんも思うよね!?ねぇっ!?」
「……お、おう。」
………づほ、何そんな目ぇ血走らせてんだ。
ドン引きしてると、時雨はそんな俺の顔を見てくすりと笑った。
「くす…リョウさん、そう言うとこだよ?」
「へ?」
「何でもないよ。」
「……と言うわけで。リョウちゃん、飲めおらーー!!」
「ぶごっ!?」
打ち合わせも何処へやら、この日は怪獣ヅホラのお守りで終わっちまった。
帰り道におぶられてるづほを見て、時雨がボソッと囁いた言葉が忘れられない。
「僕、成人してもお酒はやめておくよ。」と。
づほ、良かったな。立派な反面教師になれたぞ。
685 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:15:31.78 ID:ozMvv0MOO
「食堂はこちらです。明日の歓迎会もここになるので、場所を覚えておくといいかもしれませんね。」
「ありがとう、オーヨド。あなたは食べて行かないの?」
「申し訳ありませんが、私はもう少し仕事があるので。
ふふ、それにしても本当に日本語がお上手ですね。」
「ありがとう。やりたい事があって勉強したの、読み書きはちょっと苦手だけどね。
何度か『旅行』で来た事もあるんだ。」
「そうなんですね…あ、食堂のシステムを教えますね。
席は…あ、ちょうど良かった。紹介したい方がいるんです。
__さん、失礼します。短期赴任の方を紹介したいのですが。」
「初めまして、航空巡洋艦ゴトランドです。」
「あなたが…初めまして、私は___」
「…………ふふ。」
686 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:17:19.13 ID:ozMvv0MOO
翌日、昨日同様執務室にいるが、特に変な事は無い。当番制になったから、眼鏡がいないぐらいだ。
提督も暇じゃないし、ゴトランドは早速任務に参加している。接触なんて、朝に作戦について話してた程度。
「………ふぁ。」
「提督、やっぱり昨日の件でお疲れですか?」
「いや、昨日は早めに寝たはずなんだよ…歳かなー、疲れが取れてないのかもね。」
俺もちょっと眠いが、昨日の酒のせいだろ。
あくびって移るんだよなぁ、俺もうっかり出そうなのを噛み殺してた。
あいつも疲れてっかなこりゃ…えーと、あいつって……あれ?
ああそうだ!時雨だ時雨!あっぶねー…名前出て来なくなるとかどうかしてんぞ。
「おはよう提督、よく眠れた?」
「ああ、おはよう……し、時雨?」
………ん?何だこの違和感。
時雨が入ってきて、ただ提督が返事しただけ。
でも何か変だと思っていると…その答えは、すぐに時雨が導き出してくれた。
687 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:18:20.03 ID:ozMvv0MOO
「ねえ提督…何で疑問形なのかな?
僕 の 名 前 が 。」
688 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:19:54.72 ID:ozMvv0MOO
「………っ!?」
「ひどいなぁ…一瞬思い出せなくなったのかい?あんまりだよ…君と僕の仲じゃないか…。」
「ご、ごごごごめん、ちょっと疲れてて……。」
「くす…言い訳は聞きたくないなぁ……。
……と言いたいところだけど。
リョウさん、恐らく君もお疲れじゃないかな?」
「俺か?そういや確かに…。」
「………提督、ちょっと机を失礼するね。
ほら、あった…。」
「……それは…?」
「超小型スピーカー。
ペットボトルの蓋ぐらいしかないでしょ?Bluetoothで行けるやつさ。
二人とも、これに耳を傾けてよ。」
これは…小さい音で波音が聴こえる。
それに何か、人の声もうっすら……。
689 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:20:54.21 ID:ozMvv0MOO
『アナタハシグレヲワスレル。』
690 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:22:46.83 ID:ozMvv0MOO
「おおおおおおおおおっ!!!???怖え!!」
「催眠か……へぇ、面白いじゃないか。
憲兵さん、君の所にゴトランドさんの資料はないかな?」
「持ってないな…あ、でもスマホからアクセスは出来るかもしれねえ。」
俺の場合、日頃艦娘の資料は見過ぎないようにしてる。
会うまで元カノの存在を知らなかった理由でもあるが、なるべく本人と接して覚えたいと思ってたからだ。
流し見してたゴトランドの資料を、改めてちゃんと見る。
生年月日……本名……血液型……そして日頃、プライベートだからと読むのを避けてたある項目。
そこに辿り着いた時、俺は目を疑った。
『学歴:○○大学、心理学科卒業。』
……………。
………プロだ。
691 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:25:00.52 ID:ozMvv0MOO
「ふふふ……流れで催眠や臨床心理も学んだって所かな?
彼女、日本語検定も高ランクを取ってるんだってね…へぇ、それでそっちもかぁ……。
憲兵さん… い い 雨 が 降 り そ う だ ね ? 」
この時見た時雨の笑顔を、俺は一生忘れないと思う。
子供の頃、悪霊に襲われて死にかけたの……そりゃもう怖かった。
でもそれより怖えんだよこの子!お兄さんちびりそうだよ!
落ち着け…ここまで行ったら流石に眼鏡案件だ…。
そうだ、時雨にも訊きたい事がある。
「なぁ時雨、何で気付いた?」
「んー……一応物証得るまでは偶然だと思うようにしてたんだけど。
あの反応で確信に変わったからかな。」
「……どう言う事?」
「……いつも執務室に入る前、必ずスマホをいじるようにしてるんだ。」
「スマホ?」
「うん!変なBluetoothやwi-fiが無いかね!
皆の使ってるイヤフォンとかの型番、全部把握してるんだ!
だから知らないのは1発でわかるよ!」
時雨さん。その大天使な笑みを絶えず提督に向けてあげればどうでしょう?
言ってる事、最っ高に怖えけど。
あっ….そう言えば提督、どうすんだ?
「提督、どうしま……!?」
「………提督?」
「…………気絶してるな。」
「提督ーーー!?」
半狂乱で叫ぶ時雨だが、俺はこう思っていた。
お前のせいでも、あるんだよと。
692 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:27:07.50 ID:ozMvv0MOO
「今頃バレてるかなぁ……ふふ、でも素晴らしい発想ね。
私がメインにしようとしてた手を超えるアイディアを出すなんて。」
「そんな事ないわ…あなたの手腕あってこそよ。
あなたは他人に思えないもの、だから力を貸してあげたいなって。」
「うん、私も。こんなにシンパシーを感じる人がいるなんてね!
だから私もあなたに力を貸すよ、何でも聞いて!
あ、私の事はゴトって呼んでよ!」
「ふふ…じゃあゴトちゃんでいいかしら?じゃあ私の事も好きに呼んで。」
「うん!私達もう友達だね!
ショーカク。」
693 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/05/21(火) 19:28:32.58 ID:ozMvv0MOO
今回はこれにて。やべー奴らがタッグを組み始めたような…。
694 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/21(火) 21:27:19.17 ID:EHEVTQ2CO
乙。これはひどい。
695 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/22(水) 07:42:43.02 ID:L8eL7naS0
乙!
696 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/22(水) 13:07:32.67 ID:oK+6DSKA0
乙
言うて提督は割と自業自得感強いんだよな
憲兵さんは今回も強く生きて
697 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/04(火) 16:37:17.56 ID:C6YbV9h30
pixivで読んでたわ。面白い!
698 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/17(土) 17:07:50.26 ID:vFoxojSsO
保守
699 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:13:32.96 ID:s1QCE2DCO
第30話・女心は8070Au -3-
700 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:15:00.53 ID:s1QCE2DCO
「………で、どうします?」
「ふむ…ここまでとはな。」
小道具まで仕掛けられてるって事で、さすがに眼鏡を呼んだ。
もはや俺の独断で動いて良いレベルだが、一応話は通しておいた方が良い。
そう判断はしたものの…何やら考え込んでいる様子だ。
「普通に考えれば、上官への洗脳行為としてこちらも動けるな。
だが…これに限っては、少し静観したい所だ。」
「マジで言ってます?さすがにヤバいと思うんですけど…。」
「…いつもの貴様なら、何言ってんだ!?と怒鳴るだろう?
貴様も何か思う所があるんじゃないか?」
「……あ。」
「ほらな。元はと言えば、ちゃんと未練を断ち切ってやらなかったが故の事だ。
…コウヘイ、こればかりは自分でしっかりやってもらおうか。『俺』も今度ばかりは、限度があるぞ?」
「……!」
眼鏡の一人称が素になった瞬間、部屋の空気も一気に変わった。
これ相当怒ってんな…提督と幼馴染だからこそ、思う所はあるって事か。
701 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:15:55.00 ID:s1QCE2DCO
「……憲兵長。」
「時雨。昨日はああ言ったが、貴様もまだまだだな。
何の弱みを握っているかは知らんが…いささか脅しが強過ぎるんじゃないか?こいつの手綱はしっかり握らなければならんが、それは信頼と愛情で示すんだな。
……不安でしょうがないのだろう?奪われてしまわないか。」
「………うん。」
そう俯いてスカートの裾を握る時雨は、何とも年相応に見えたもんだった。
そっか…まだ子供なこいつからしたら、いきなり元カノだ!なんて大人の女が出てくりゃ…。
「私の立場でこんな事を言ってはならんが、自信を持つんだな。
貴様はいい女になる素質は十分にある、簡単に奪われるタマではないさ。こいつが裏でどれだけ貴様に気を揉んでいるかも考えればな。
……こいつは相当な遊び人だったが、惚れ込んだ女にはその限りではない。
くくく…こいつが昔一時帰国した時、ゴトランドへのノロケだけで何度夜を明かした事か。」
「ちょっとキョウ、言わないでってば…。」
「いいや、言うぞ。時雨についても似たようなものだったよな?
いい歳になった男同士でも、そういう所だけは変わらんな。酒を何缶空けたか忘れてしまったよ。」
「提督…それ本当?」
「さ、さてねー。酔っ払って忘れちゃったよ。」
「……ふふ。そう思っておいてあげるよ。」
「……だが、そんな私でも知らん事もある。
こいつから聞き出さねばならん事があるんだが……時雨、少し席を外してくれるか?」
「何で?」
「………男同士の話をするからだ。」
702 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2019/08/19(月) 00:17:16.05 ID:s1QCE2DCO
そして執務室には、俺たち3人だけになった。
そうだ、何だかんだ言ってこの人も根は肝が据わってる人だ。それがあのビビり方はおかしい。
男同士の話だと時雨を追い出した……多分、眼鏡も俺と同じ疑問を持ったのだと思う。
「リョウ…貴様も私と同じ疑問を抱いたろう?」
「ええ……提督、単刀直入に訊きます。ゴトランドに何されました?
て言うか、ナニされました?」
その単語を口に出した瞬間、何とも虚しくなった。
何なんだ、何でこんなシリアスなトーンでシモな話題を出さなきゃなんねえんだ。
でも男の勘が告げていた、間違いなくそっちで何かトラウマ植え付けられてると。
そして提督は…とても悲しそうに笑った。
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