少年「俺のクラスは亜人だらけ」

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1 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 11:58:50.63 ID:uvoRIYNt0
このSSは男「僕の生徒は亜人だらけ」の番外編です。

更新頻度は遅いですがよろしくおねがいします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1520564330
2 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 12:06:54.18 ID:uvoRIYNt0
人生が変わるきっかけなんていくらでもある。

ただそれが良い方向なのか悪い方向なのか。どっちに転がるかだなんてわかりやしない。

この選べやしないきっかけを俺は運命と呼べばいいのだろうか。

誰かが言った。人間は運命の奴隷だと。選ぶ権利のない選択肢を突きつけられるのだからその通りだ。

親を殺され復讐に走る子供を見た。

金持ちに拾われ娼婦として生きる女を見た。

どれも些細なきっかけだ。少なくともこの場所では。

ただきっかけが些細だとしても結果は些細なんかじゃない。

復讐は遂げられず遺体は道端に晒された。

肉体の旬を過ぎた女は捨てられ、路頭に迷った。

理不尽に迫られ、人生を動かされる弱者の集まり。

それがこの場所。

特別保護地区と名付けられたこの場所だ。

ほんの些細なきっかけに運命を翻弄される奴らの集まり。

俺のきっかけは一つの数式と一杯の暖かいスープだった。
3 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 12:13:12.68 ID:uvoRIYNt0
役立たずと呼ばれていた。

俺の名前だ。

この場所ではその日を生き延びることしか皆考えていない。

大切なのは作り方と手に入れ方。

種をまいて育てる力。

それを奪う力。

胃を満たす以外の力に価値なんてない。

そんな中でなにも生み出さない数式を解き続ける俺は確かに役立たずだ。

今日も俺はカリカリとろう石で煤けた煉瓦に数式を書き続ける。腹は減るばかりで体は不自由になるばかり。

ただ頭と心だけは満たされていく。

ガリリッ

小指の爪より短くなったろう石がついに砕け散った。

少年「………新しいの探さないとな」

グゥゥ

腹の虫が鳴いたがろう石の方が重要だ。

このまま数式に囲まれて安らかに死ぬことが俺の些細な抵抗なのだから。
4 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 12:23:42.08 ID:uvoRIYNt0
カツン

石が壁に跳ね返る音がした。

建物に囲まれたこの中庭に来るものは少ない。

いや一人だけだと言ってもいい。

数に囲まれたこの不気味な場所に入ってくるのは一人だけだ。

メイド「少年」

メイド服を着た少女。俺よりも年下のくせに俺よりも立派に生きている。

なぜだか知らないがときおり俺に食糧を届けてくれる。化粧の下にうっすらと見える頬の色を見たら自分だって満足に食べれてないだろうに。

その礼として簡単な勉学を教えてやってるが、釣り合っているようには思えない。恩返しでもするべきなのだろうが俺にはその術がこれしかない。

少年「今日の勉強か? すまないがろう石がなくなっちまってな」

メイド「いえ違います」

少年「なんだ。荷物運びか? でもお前の方が力は―――」

メイド「買われました」

その言葉に俺は一言「そうか」しか返せなかった。

誰かに買われた方がこんな場所にいるよりかはマシな生活が送れるかもしれない。他の隷属婦よりは器量があるはずだ。悪いようにはならないだろう。

少年「なかなか買われなかったもんな。やっと買われたか」

なんとか軽口をはきだすもメイドの表情はぴくりとも変わりゃしない。

メイド「価値なしと判断される前に買われて良かったです」

価値なしと判断された隷属婦は娼婦に落とされる。その前に買われたことは運が良かったのだろう。

ただ隷属婦が娼婦のように扱われないとは限らないが。

女の魅力を感じないメイドの体ならそうなることはないだろうが。いやそういうのが趣味の奴もいると聞いた。

………心配しても意味がない。メイドがどうなろうと知ったこっちゃない。

自分のためにだけ生きる。それが当たり前で、ルールなのだから。
5 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 12:27:21.90 ID:uvoRIYNt0
少年「まぁ、頑張れよ」

メイド「はい。今までありがとうございました」

メイドはぺこりと頭を下げて元来た道を戻って行った。

今思えば俺はメイドに家族愛を感じていたのかもしれない。

酷く寂しい痛みが、空腹よりも辛い痛みが堪えた。

少年「ろう石………探しにいくか」

メイドの姿が見えなくなってから中庭を出る。

すぐにろう石は見つかるだろう。珍しくもなく、さして欲しがられない物だから。

見つけたらすぐに中庭に戻ろう。

そして一人、数式を書き続け力尽きよう。
6 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 12:33:36.85 ID:uvoRIYNt0
この日に限ってろう石は見つからなかった。

いつもならすぐに見つかるだろうに、不思議と影も見えない。

路地をさまよい続けた俺はいつの間にか特別保護地区を抜け出していた。

人権をほとんどはく奪された第二種人間である俺がここでどんな目にあっても文句は言えない。

急いで戻らなければ。

踵を返して腹立たしいことにこの場所よりは安全な特別保護地区へと戻ろうとしていた時だった。

重い車輪が転がる音と馬のいななきが聞こえた。

音をした方を向くと猛烈な勢いで走ってくる馬車。その行く先に俺がいた。

避けるべきなのだろう。避けるべきだ。避けなければ。

脳が警鐘を鳴らすが栄養不足で痩せ細った体が上手く動かない。

立ちすくんだ俺は目の前に迫る馬の毛並を観察した。

こんな死に方はしたくなかったが仕方ない。

できることなら途中の数式を解き終わりたかった―――。
7 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 12:41:03.14 ID:uvoRIYNt0
ドッ

衝撃は思ったよりも軽かった。

俺の体は宙を飛び、夕焼けがひどく眩しい。

そのままゆっくりと俺の体は地面に向かって落ち―――

なかった。

「何を思ってこの私の進路を妨害した」

誰かに抱えられていた。

白髪赤目の壮年の男が俺を見る。俺はその男の腕の中にいて。

「もう一度問う。なにゆえに私の進路を妨害した」

少年「あ……あんたは?」

ベーラ「ロード家嫡男。ベーラ・ロードである!」
8 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 12:48:40.72 ID:uvoRIYNt0
少年「妨害したつもりはない。よけきれなかっただけだ」

ベーラ「ふむ。その軟弱そうな体ではたしかに道理。弱者の道理はその弱者故と言える」

バカにしているつもりはないのだろうが、口調、抑揚、肩の竦め方まで偉そうだ。

ベーラ「見ればおそらく第二種の人間。なぜ巣を抜け出した」

巣? あれが巣なものか。落ち着ける場所なんてありやしない。

少年「ろう石を探しに、ここまで来た」

ベーラ「ろう石? そんなものでどうする。お絵かき遊びにでも興じるのか?」

少年「数式が途中なんだ」

ベーラ「! これは驚いたぞ。野生のままに生きると言われる醜悪な第二種が数式と言ったか!」

ベーラ「その言葉は知恵者の宝具よ。なにゆえにそれを望むか。疾く答えよ!」

少年「数学は楽しい。いつだって正しい。あの場所で正しいことなんて数式だけだ」

ベーラ「賢人を気取るか第二種よ。これは面白い。これは面白いなぁ!」

ベーラ・ロードがくつくつと笑う。ひとしきり笑うとベーラは大きく目を見開いた。

ベーラ「我に隷属せよ第二種!!」
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