【艦これ】 続 外地鎮守府管理番号88

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223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/19(土) 00:31:31.23 ID:7jmJC1/U0


ぞわり

ぬるぬるとした足元からまとわり付く、滑りのある、あの世からの湿った空気。

足を絡め取る手。無数の亡者の手。

水底へ引き摺りこもうとする……。

その、黄泉の入り口から流れてくる瘴気に真っ先に気付いたのは雪風、そして卯月だった。



雪風「黄泉路が開いたようです。」

卯月「血と脂の匂いがする。」



そして、続いて気付いたのは金剛。



金剛「……、Hey! 地獄の釜蓋が開いたネー。死にたくなければ褌締めやがれネ。」

卯月「雲龍。周辺の索敵状況を教えて!」



促され慌てて四方へ索敵機を飛ばす雲龍。



雲龍「向うに死体が沢山。食人鬼がたくさん。」

雲龍「たくさん……。」



青褪めた顔をして索敵機からの状況を伝える雲龍。

艦娘の死体を漁る深海棲艦が食人鬼に見えるのは仕方無い事か。



卯月「チッ。」



盛大に舌打ちを一つ。



卯月「馬鹿が……。」

天龍「卯月。どうする?」

卯月「雪風。」

雪風「はい。」

卯月「どうみる?」



天龍への答えは当然撤収、ただ、艦隊を預かる卯月が考えるのは

自艦隊が被害無く撤収出来るかという事。

自分だけの考えではなく同じ、いや、それ以上の技量にある者に意見を求めるのは当然であり。

雪風の返答は。

224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/19(土) 00:33:23.98 ID:7jmJC1/U0


雪風「雪風達だけなら帰りつけると判断します。」



自分達だけなら可能、それが意味する所は。



加古「友軍の生存は無いものと考えますかねぇ。」ヤレヤレ



居たとしても連れ帰るは困難。

金で命を売り買いする一同なれば天秤の針の位置は自ずと決まる。



卯月「全力で海域離脱。敵からの追撃に注意。」



ほんの数十秒で素早く判断を下すが雲龍の動きが鈍かった、

いや、離れたくないようだった。

そして、泣き始めた。



卯月(ちぃ。断末魔を拾ったか。)

雪風(生存者に偵察機を見つかりましたか。)

雲龍「あの、前に所属していた鎮守府の娘が……。」

卯月「同名艦娘の間違いじゃないのと言いたいけど。」

卯月「雪風、私に万一の事があれば旗艦宜しく。雲龍何人残ってる!?」



卯月の発言に誰も異を唱える事無く新たに陣形を組みなおす一同。

軍隊である以上の最低限のルール。

負傷者は可能である限り収容し連れ帰ること。

つまり、気付かなければ負傷者は存在し得ない、しかし、雲龍が気付いた。

そして、何がしかの交信をしている、

故にここで見捨てて行ってしまうと友軍を見捨てたとの『 けち 』が付くのだ。

その『 けち 』は時として軍法会議という結論ありきの軍事法廷への招待状となるから厄介なのだ。


225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/19(土) 00:34:53.61 ID:7jmJC1/U0


卯月「生存者はいる!?」



現場へ向かい、いくつかの無線周波数帯で呼びかける。

うっうぅ……。

イ級に食い散らかされたか所々パーツがない艦娘を見つける。



卯月「楽になるための鉛弾なら只だけど?」



相手の目が頷くように閉じたのを確認して卯月は主砲を向け撃つ。



卯月「お疲れ。」



ドン



卯月「救いようの無い馬鹿な作戦をさせられているもんだ……。」

卯月が楽にした相手の装備は何にでも対応できるようごちゃ混ぜに持たされていた。



敵姫級達への情報が不足していたのであろう。

その所為で道中の敵に対応が出来ず無駄死にとなってしまっている。



金剛「大方こうなる事も踏まえての編成ですネー。」

金剛「死んで情報とって来いのやり方ネ。気に入らないヨ。」

金剛「雲龍、前の鎮守府の提督はどんな奴だったデス?」

卯月「ネキ。提督が代わっているかもしれないし聞くだけ詮無いことだよ。」

天龍「さてと皆さんおまた〜?」

天龍「一応周囲捜索で五体満足で生きてたのはこの娘だけ。」



ぺいと天龍が肩から下ろしたのは睦月。
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/19(土) 00:37:26.32 ID:7jmJC1/U0


卯月「あー、輸送任務で連れて来られていたぴょん?

   今の状況分かるぴょん?」



卯月の口調で形式上の姉に語りかける卯月。



卯月「体が小さくてよかったぴょん。

   被弾面積が小さくて済む。生き残りやすいぴょん。」



この一言が余計だった。



睦月「あああぁあぁぁぁあああ!!!!」

加古「あらら。精神的にきちゃってたか。」

加古「軽口に反応できないんじゃ寝てもらってた方がいいか。」



笑顔で腹に拳を決める加古。



加古「で、どうする?救援依頼だしても仲間が来るには少し時間かかるよ?」

卯月「どうもこうも、帰るしか無い訳ですから。」

金剛「とんだ残業ですネー。」

卯月「サビ残で残業代が出ないのはどうしたものか…。」



軽口が叩けるうちはまだまだ余裕がある証拠。



金剛「といっても。周囲にだいぶ敵が集まってきてるヨ。」

金剛「禿鷲どもが死肉を漁りに来てるネー。」

卯月「全力で撤退!加古ちゃんは睦月を担いで!」

加古「あいよ。」

卯月「雪風、天さん!露払いは宜しく!うーちゃんは殿をやる!」

卯月「残業代の払いは敵の命!

   うちらの残業代は高くつくと身を持って知ってもらおうじゃないの!」



しかし、敵の追撃は凄まじく帰路であった事もあり、弾薬の残りも少なく

時間経過と共にだんだんと追撃を裁ききれなくなっていっていた。
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/19(土) 00:38:33.24 ID:7jmJC1/U0


卯月「あっちにスコールの雨雲が溜まっている。」

卯月「このまま直進すれば最短距離。さてどうする?」

雪風「スコールに紛れて敵をやり過ごし救援を待つのが最適です。

   救援に向かってきている方々に不知火さんが居ますので心丈夫です。」

天龍「だが、敵さんも楽に逃がしてはくれないみたいだぜ。」



ふーっと大きく一つ息を吐く卯月。



卯月「ネキは傷病兵として足を飛ばした元提督と添い遂げる為の資金稼ぎ。」

卯月「天さんは出身の児童福祉施設の経営建て直しの資金稼ぎ。」

卯月「加古ちゃんは相棒の古鷹だった娘の目の手術代稼ぎ。雲龍は弟妹の生活費。」

卯月「雪風は司令官との腐れ縁。」

金剛「卯月、急にどうしたネ?」

卯月「んー、みんなが生き残らないといけない理由。」

天龍「この状況での生き残らないといけない理由って俗に言う死亡フラグって奴じゃね?」

卯月「違う違う、あれよ、立てすぎた死亡フラグは生存フラグって奴よ。」

卯月「こんだけ建てておけば大丈夫でしょ?」

加古「よっ、一級フラグ建築士!」


そして、スコールの中へ転進し敵をやり過ごし、88鎮守府からの救援との合流まで後僅かとなったとき。


228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/19(土) 00:39:29.24 ID:7jmJC1/U0


卯月「なんとか帰ってこれたぁ。」フゥ



この一瞬の気の緩みが首に死神の大鎌を当てさせる事となる。

シューッ

ドン!

それはスコールにより荒れた海面を走ってきた為に発見が遅れた。

そして殿を務めていた卯月に命中。



卯月「あっ、これ駄目なやつだわ。」



被雷とともに停止した主機にさっさと見切りをつける卯月。



卯月「まいったねぇ。生存フラグは他人からの借り物で建てるのは効果が無いらしいや。」



ボフボフボフ モスン



卯月「まっ、標的艦程度にはなるでしょ。」ウシッ

卯月「それじゃ皆、私はここまでだから!雪風、荷物は佐世保に宜しく!」



そう言い卯月は全員へ自分を残し撤収するようへ指示を出した。
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/19(土) 00:40:35.43 ID:7jmJC1/U0


提督「後は皆が指示にしたがい救援部隊との合流を急いだ訳だな。」

雪風「はい。」

提督「救援部隊と合流後に卯月を救援へと向かったが時既に遅しだったという事か。」

雪風「はい。」

提督「雪風、卯月は最後まで闘ったか?」

雪風「はい。」

提督「そうか。」

雪風「しれぇ。」

提督「ん?」

雪風「雪風は最後まで沈みませんから!」

雪風「沈みません!」

提督「ん。」ナデナデ
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/19(土) 00:42:12.24 ID:7jmJC1/U0


時は過ぎ、現在。

時雨「夜間出撃前に食事を採る事が出来る様に

   食堂が24時間営業ってのは改めて凄いと思う。」

雪風「ここが出来た当初は営業時間が限られていたのですが

   優秀な調理士さんをお迎えできたので24時間営業が可能になったんです!」

スパ「実際かなりの腕前ですよね。」

「おまちどおさまー。ゆっくりしていってね!」



ウォースパイトが注文していたのはカツ丼である。



スパ「いただきます。」



器用に箸をとりどんぶりの蓋を開け、

上がる蒸気のふわりとした鼻腔をくすぐる甘い香りを楽しみ、ウォースパイトはカツを一切れ。

そう、ふわりととじられた卵からカツを取りだし、ゆっくりと。

口へ、運んだ。



ザクリ。 ジュワァッ。



下ごしらえがしっかりとされた豚肉のロースにはあえて脂身が多く残されている。

そして、サックリとした食感を残す為に衣は厚めで煮込む時間は短め。

カツ丼のメイン食材のカツはフランス料理のコートレットが起源と言われている。

そのカツは脂身の脂が溶け出すギリギリのタイミングで油からあげるのが肝なのだ。

その揚げられた豚肉に付いた脂身からは

甘みが溶け出し衣に少しだけ湿り気を与え、その味の良さと来たら……。

231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/19(土) 00:44:13.78 ID:7jmJC1/U0


スパ「絶妙。」



新玉葱をざっくりと切りこちらは適量を丼つゆに入れカツをその玉葱の上に載せる。

そして贅沢に卵を大量にときその上からかけ鍋の蓋を閉じる。

そのふんわりとした食感はオムレツをほうふつとさせ、食道をつるんと通過してゆく。



スパ「あぁ……。」



すでに言葉にならない程の味に震える状態だがカツ丼の良さはこれで終わりではない。

否、カツ丼の味を語るのであればその味の良さは寧ろこれからが本番なのだ。

カツを卵でとじ少しの間、煮てカツへ味をつける、その丼つゆこそが隠れた主役。

丼つゆはこの食堂では鰹節、昆布をベースとしたものを使い、醤油は九州産の甘口。

これらがおりなす絶妙な味のハーモニーは想像に難くないだろう。

その丼つゆが米へと染み、カツから染み出た脂が飯に染み、

丼つゆの効いた卵とカツとあつあつの飯を同時に口へ運べば……。



スパ「うっまぁぁああああ―――――い!」



高貴な出自?やんごとない身分?

そんなものなど糞食らえとばかりに品なくガツガツと音をたて食べるウォースパイト。

胃袋へそれらが落ちしっかりと満たされていく感覚に幸せを覚えつつ。



スパ「お代わり!」



ウォースパイトはお代わりを頼んだ。



提督「実にいい食いっぷりだな。」

提督「料理人も料理人冥利に尽きるだろう。」

スパ「そほふへつへへかへひたひでふ。」モグモグ

提督「この時間帯の料理人はフランス料理が得意でな。

   歴史的にイギリスの貴族はフランス料理人を雇っていたとは聞くから

   舌に馴染みのある味なのかもな。」

スパ「この味はフランス料理がルーツ……。

   成程、懐かしい感じがしたのはその所為ですね。」モグモグ

時雨「本当にお貴族様なんだね。」アキレ

雪風「何でこんな所でカツ丼食べて感動してるんですか。」マッタク



232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/19(土) 00:45:38.72 ID:7jmJC1/U0


「お代わり持ってきたよー。」

「あれ〜?司令官この時間は珍しいね。って、相変わらず食が細いね。」

提督「あぁ、まぁな。」

「不知火からもしっかり食べろって言われてない?」

提督「あー、あいつには黙っててくれ。」

「分かった。この寸胴の決裁通してくれたらね。」

提督「まったく、お前は調理器具コレクターだな。」

「料理が私に残された最後の戦場だからね。」

「ここから皆を支えるのさね。」

提督「確かに食は重要だな。」

提督「これからも頼む。」

「提督もさ、たまにはフランス料理のコース食べに来てよ。」

「ジョエル・ロブションの弟子の弟子、つまり孫弟子が美味しい料理つくるからさ。」

提督「そのうちな。」



提督は料理人の熱いお誘いをにこやかにかわし食堂を去っていった。



「雪風、司令官は相変わらず?」

雪風「いいえ、最近は以前より少しだけ楽しそうです。」

「ふーん、そっか、それならいい感じなのかな。」

雪風「はい!」

雪風「では、雪風はそろそろ失礼しますね。」

「そう?じゃ、これ注文の二人分のカツサンド。」

「食べる前に艤装の排気煙突から少し離れた所において置くといい感じに暖められるよ。」

雪風「懐かしいですね。」

雪風「では!」



雪風はそう挨拶し時雨と二人夜の海へと出撃していった。



時雨「雪風はあの料理人と知り合いなの?」

雪風「はい。あの方とは古い知り合いであり戦友だった方ですよ。」

雪風「昔の話ですが。」

時雨「そう…。そっか。」



233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/19(土) 00:48:02.17 ID:7jmJC1/U0


おまけ超短編!  不知火の改二!



不知火 ぬい!

提督「ん。」

不知火 ドヤァ

提督「ん。」

明石「いや、提督。そこは何か言ってあげましょうよ。」

提督「ん?今までもこれからも俺が頼りにするのには変わらんだろ?」

提督「確かに戦力として改二が実装されたのは喜ばしいが……。」

提督「公試のデーター見る限りうちでの改造艤装以下のスペじゃねぇか。」

明石「いや、まぁそうなんですけどね。」

提督「量産機が試作機に及ばないのは良くあることだ。気にするな。」

不知火 ぬい〜ん

提督「結局の所はがわの流用だな。」

明石「まぁ、中身は以前以上に弄ってますけどね。」

提督「ベースが底上げされた分だけ全体的にスペがあがったという事か。」

明石「そうですね。例えていうなら今まで軽自動車にフェラーリのエンジン積んでたのを

   今度はフェラーリの車体にフェラーリのエンジンを積んだ感じです!」

提督「成程な、スペックを無理なく引き出せるようになったという事か。」

明石「マージンが、がっつり増えたんで色々改造余地もありますよ!」

提督「そうか、逞しく、頼もしくなった訳だな。」

提督「これからも宜しくな。」

不知火 ぬい!

明石「何格好良く話をまとめてるんですか。」

提督「たまには格好つけても良いだろう?」

提督「薄毛のおっさんが格好良くあらんとするなら

   気取った言葉の一つくらいは言えんといかんもんさ。」

明石「難儀ですねぇ。」

提督「そういうものさ。」

提督「不知火。」

不知火「はい!」

提督「改めてだが、これからはよりいっそう頼りにするぞ。頼んだぞ。」

不知火「お任せ下さい。」ヌイ!

明石「よっ!禿げてても男前!」

不知火 ぬい? ギロリ



この後、不知火の新型魚雷発射装置、火器管制、

アサルトライフル式主砲のテストに明石が喜んで付き合わされたのは言うまでも無い事である。



時雨「明石さんが標的艦役やるって珍しいね。」

スパ「アルゼンチンタンゴ踊ってますね。」

雪風「ひぇ……。あの状態の不知火さんに近づいたらいけませんよ。」
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/19(土) 00:56:24.44 ID:7jmJC1/U0
以上で本日分の更新終了です
皆様、春のミニイベされていますでしょうか?
1は現在偏りという悪魔に魅入られており 米36 梅干3 海苔2 お茶2 という有様です
S勝利とってこんなに偏るなんて……、米どんだけ出やすく設定してるんだというお話
しかもこれ 米 と他の食材が出るところが被ってしまっている所為で余計に他のが出にくくなっているので辛い
今後の予定ですが後、1つか2つ程やってこのスレを落すような形になるかと思います
こちらで活動を始める前に活動していたSS投稿サイトで更新が止まっているのに
未だにしおりをつけたくださったり、お気に入りに登録してくださっている方がいるので
そっちの方の更新もしなくちゃという感じです、はい、エターナルはやっちゃいけませんです、はい……
ではでは、次回もお付き合いいただけると幸いです
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/19(土) 01:30:16.86 ID:or4ML6fA0
おつおつ
新たな道が開けてなにより…
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/19(土) 07:01:43.55 ID:z6wpXQKYO
生きてた
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/19(土) 19:25:42.52 ID:bwX9ROqU0
まあ死なないよね
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/20(日) 10:15:50.41 ID:g9q9r3fTO
艤装番号が嘘八百で製造番号がご苦労さんだった。

うーちゃんの轟沈自体偽装工作だったり?
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/21(月) 22:50:32.05 ID:1gvq7mE60
>>238
しれっと食堂の主やってるみたいだな。
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/21(月) 23:58:51.17 ID:cd4B+0uA0
なんだage荒らしか
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/23(水) 12:26:13.12 ID:DlY+gEt8O
新スレあったのかよ気づかなかった俺のバカ
乙!!!!
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/25(金) 12:08:43.86 ID:6CPUfdoS0
ところで、スパ子はカツ丼食いながらなんて言ってるんだろ。
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/25(金) 12:18:15.14 ID:D9ff12A5o
多分「祖国へ連れて帰りたいです」
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/29(火) 22:13:56.42 ID:9fFsrfIG0
俺も持ち帰りたい
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:08:52.83 ID:PHQWvqIW0
皆様、こんばんは、更新に参りました
春イベの進捗状況は如何でしょうか?
2-4で福江を掘り当てバケツと資源で殴るハイペースで任務を片付けたので
後はカタパルト1枚分確保すれば1は終了です、現在のんびりモード中
変態仮面のSSで次回のおぱんつ様の安価?を頂いておりましたので
雪風、川内、くまのん、陸奥の順番でやっていけたらなぁと思っています(利根は履いていないから無理なのだ!)
ただ、筆が遅いのでそっちはこちらの気分転換で書く様になるので多分、間が空くかなぁと……
では、前書きが長くなりましたが本日もお時間宜しければお付き合いの程宜しくお願いいたします
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:09:37.22 ID:PHQWvqIW0


第十話 天国への扉 前編


247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:10:16.11 ID:PHQWvqIW0


彼女は誰にも理解をして貰えず。

彼女は誰にも助けて貰えなかった。

それでも彼女は戦い続けた。

傷つき。

油も、弾もつき、その最期の時が来るまで。

いつか自分を理解してくれる。

仲間が現れるその時を夢見て。


248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:11:24.97 ID:PHQWvqIW0


88鎮守府 食堂



雪風「しれぇ、胡椒をとっていただいていいですか?」

提督「ん。これか?」

雪風「ありがとうございます!」

提督「雪風はよく食べるな。」

雪風「体が資本ですから!」

提督「そうか。すまんがこれも食べて貰えるか。俺には量が多くてな。」

雪風「餃子が10個。まったく箸をつけられていないようですが。」

提督「流石に食べさしを食ってくれと言って差し出すほどあれじゃない。」

雪風「雪風は食べさしでもかまいませんが。しれぇは食が細くないですか?」

提督「俺は事務屋だからな、それほど腹がへらないのさ。」

雪風「ではいただきます。」



提督が雪風と一緒のテーブルを離れた所にウォースパイトが食事を載せたトレー片手に現れる。


249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:12:05.53 ID:PHQWvqIW0


スパ「雪姉さん、一緒いいですか?」

雪風「どうぞどうぞ。」

スパ「今いたのはAdmiral?」

雪風「しれぇですね。」

スパ「先日もでしたけど士官も私達と一緒の食堂で食べるんですね。」

雪風「しれぇは一人で食事をするのは好きじゃないという事でここを利用されています。」

雪風「それに一人だけ特別メニュー等を食べるのも嫌われる方ですから。」

スパ「軍隊で士官が兵卒と同じ所で同じ食事を取るって珍しい。」

雪風「それも含めてここですよ。」

雪風「個性的な食事を食べたいのでしたら明石さんの所に行くといいですよ。」


250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:13:31.97 ID:PHQWvqIW0


明石の工廠

秋津洲「明石さん、最近お肉ばっかりでバランス悪いかも。」

明石「お肉は大事ですよ!?いいですか?

   お肉はタンパク質です。体を作るのに欠かせない栄養源ですよ?」

明石「米軍の特売を買ったら肉しか入ってなかったんですよ。我慢してください。」

秋津洲「提督にお願いして果物貰ってこようかなぁ……。毎食ステーキは辛いなぁ。」ベソベソ

明石「あんまり提督に迷惑かけちゃだめですよ。

   私達の経歴を誤魔化すのにも色々骨折って貰ったんですから。」

明石「私の元旦那が提督の恩師だった縁もあってここにおいて貰っているのですから。」

秋津洲「そうだったかも。でも、果物は欲しいかも。」

提督「だろうと思って持ってきたぞ。野菜と果物だ。」

明石「あっ、提督。」

提督「すまんな。南太平洋の悲劇の生き証人は

   全員最前線の弾除けに配置換えされていたからな。」

提督「海軍の大失態で証人が生きていちゃまずい訳だ。死んだ奴だけがいい奴だってな。」

提督「可能な限り師匠の部下だった連中は退役させて伝手を頼って逃げさせたが…。」

秋津洲「他の鎮守府の娘達は水底に還っていったかも。」


251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:14:58.19 ID:PHQWvqIW0

明石「私らは一番の危険人物ですからね。」

明石「何が起きて何が原因で負けたか。

   うちの旦那が懇切丁寧に私達に解説して逝きましたからね。」

提督「師匠の手紙を持って来た時に何が起きたかは悟ったがな。」

提督「流石の師匠だよ。

   死んだ後の事まで見越して大まかな敵の動きを予測して対処のやり方を細かく指示。」

提督「手紙の末尾にお前なら適当にやっても勝てるだろ、だからな。」

明石「あの人らしい。」

提督「あげくに艤装管理の穴をついて死者を生者に生者を死者にする手品を教えたりと。」

明石「昔から壁の上を歩いて落ちなければセーフと言っていましたから。」

提督「道徳、倫理観は横においておくとして、

   取り締まる法律が無ければ法律違反ではないという奴だな。」

明石「ここに送られてきた中で何人かそれで外に出していますよね。」

提督 ………。

提督「なぁ、明石。お前は最近の敵の動きどうみる?」

明石「どう、ですか……。」

明石「海軍の上の方に敵に通じている奴が居ませんか?」

提督「やはりそういう感想になるか。」

明石「それか、敵に知恵の回る参謀職の個体が複数生まれたか。」

明石「敵の作戦行動の質が上がってきている雰囲気はありますね。」

明石「よく言う『 他人の嫌がる事は率先してやりましょう 』を理解して動いています。」

提督「こっちは提督になる連中の質の低下は激しいってのに……。」ヤレヤレ

明石「珍しいですね提督がぼやきをいれるなんて。」

提督「いれたくもなるさ。海軍参謀……、

   軍令部の不始末を現場が必死こいて尻拭いしてるんだからな。」

252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:16:45.07 ID:PHQWvqIW0

提督「艦娘にしても初期から居る

  『 二つ名持ち(ネームド) 』の殆どが水底だからな。」

提督「精鋭が簡単に死んでいく戦場なんざ悪夢以外の何物でもない。」

秋津洲「そもそもネームド制度が時代の徒花かも。」

提督「まぁな。今は無くなってしまったが

   ネームドとして二つ名を登録する事が

   艦娘の目標みたいな時期はあったくらいだがな。」

提督「大量の個人戦果と幾つかの叙勲、

   そして所属鎮守府の提督からの推薦で登録なんていう

   華々しい経歴持ちでもないと申請が出来なかった制度だ。」

提督「その実、ネームドなんて危険な前線に回されて使い潰されるのが関の山で

   給料が増える訳でもなければおまけとして個別認識マークが許されたくらい。」

提督「艦娘側にまったくメリットのない制度だったな。」

提督「更に言えば一緒に出撃した他の娘から戦果を期待され無駄なプレッシャーに押し潰される者もいたらしい。」

明石「まぁ、国威発揚目的で導入した制度ですからね。

   聞こえは良いけどその実は地獄行き特急のグリーン席に座れます程度の実しかなかった糞制度。」

明石「秋津洲さんが登録した年が最後でしたっけ?」

秋津洲「かも!前の提督さんが付けてくれたかも!」

253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:18:29.28 ID:PHQWvqIW0


提督「師匠はそういうの好きだったからなぁ。

   部下の功績をきちんと評価してどうおだててれば

   気持ちよく働いてくれるかを知っている方だったよ。」

提督「時代が英雄とか英傑ってもんを必要としていたのさ……。」

明石「時代ですかね。」

秋津洲「ネームド制度が終了した事を差し引いてもここは結構異常かも。」

提督「まぁな。ネームドとして登録しているのが秋津洲いれて4人。」

提督「更に言えば4名全員公式での複数名持ちだからな、

   頭の螺子が捻じ切れているとかでもない限り

   複数名が付けられるなんて事はめったにない。」

提督「艦娘同士の渾名での二つ名ではなく公式での二つ名持ちは今や絶滅危惧種だ。」

秋津洲「もっと褒めていいかもよ!?」ドヤァ

提督「たればこそ、上の胡乱げな動きへの備えになるのさ。」

提督「ある訳が無いという事が無い訳が無いという事だ。」

秋津洲「禅問答かも?」

提督「全ての可能性を捨てるなという事だ。」

提督「いつだって最悪の結果というのはそこにある。

   俺がその結果を踏まないのは運がいいだけさ。」

254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:19:32.70 ID:PHQWvqIW0


明石「それはそうと頼まれていたのを提督が来てくれたのでついでで渡しておきますね。」

明石「知り合いから引っ張ってきたロイズの戦争保険のアンダーライターの名簿です。」

バサリ

明石「きな臭い匂いだらけですよ。でも、どうしてこれが必要に?」

提督「今更だがウォースパイトがここに来た話がちょいと引っかかったんでな。」

提督「吹き飛ばした島がな。」

明石「金融のエアポケット。租税回避地で名高いバージン諸島の島でしたっけ?」

提督「後、付け足すならマネーロンダリングに会社の登記誤魔化しの温床でもある。」

提督「そんでイギリス領でありながらドルが公的通貨として採用されている。」

提督「なんでな、ユダ公に恨みでもあったかと思ったんだがな。」

提督「金融関係者かと思ってウォースパイトの出自を調べたんだが。」

提督「どうにも出自が上位過ぎるんだ。それも、アホみたいにな。」

255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:21:36.27 ID:PHQWvqIW0


明石「どの位上の方だったんですか?」

提督「スチュアート家の血を引いた嫡出子、更に言えば直系だ。」

明石「まじもんのやべぇ奴じゃないですか………。」

提督「案外国内で命を狙われていて亡命目的のカモフラージュかもしれんぞ。」

明石「そんなので地獄の一丁目に送り込みますかね?」

提督「憶測だ。冗談とでも思ってくれ。」

提督「でだ、まぁ、本題なんだが。取り寄せた理由についてだが。」

明石「はい。」

提督「深海棲艦が出てから船舶、海上保険なんてもんは機能しなくなっただろ?」

明石「ですね。船を出した端から撃沈じゃぁ、保険そのものが引き受けできませんからね。」

提督「だが、物流において船程一度に大量に運べるものはないから

   艦娘システムが出来てからこの方、色々な国、

   企業といった団体が艦娘による船の護衛に飛びついた。」

提督「日本政府にしても艦娘制度の維持には莫大な金が掛かるからな。」

明石「日本単独ですと国家予算における割合が半端ないですからね。」

提督「そうだ、金融屋ってのはどんな物でも金に出来る頭があるから金融屋なんだ。」

提督「昔のサブプライムローン問題も本来は借金出来ない連中がした借金を

   優良顧客の借金と合わせて証券化して一見まともな債権金融商品に見せかけた。」

提督「優良顧客の債権はだいたいが格付けとして上位だったから

   抱き合わせの債権も当然のように格付けが良かった。」

明石「で、みんな買っていざ借金が返せない人達が続発してくると

   債権の価値は一気に下がって紙くずへ、でしたっけ。」

秋津洲「始めに売り逃げた人だけが得したかも。」

提督「そういう事。話を戻すと保険も金融債権の一種な訳でな。」

256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:23:30.95 ID:PHQWvqIW0


明石「話が見えてきましたよ。

   艦娘が護衛する航路を決める権限のある連中が

   保険証券で金儲けをしているという事ですか。」

提督「どこを受け持つか、そして、どの艦種の艦娘が護衛に付くかで保険料率は大きく変わる。

   保険を受ける時の掛け金が大幅にだ。」

提督「ロイズのアンダーライターにそれを決める位置に居る奴がいたりすると……。」

明石「勝ち馬が分かった競馬ですね。

   しかも気に入らない相手には駄馬に糞騎手をあてがう事が出来る。」

提督「その通りだ。ロイズはあくまで保険の取引の場を提供しているだけに過ぎないから

   そこを通過する保険の内容については引受人であるアンダーライターと

   保険の加入者の問題でしかないからな。」

提督「だからウォースパイトを利用してその辺りを強化しようとしたらそのあてが外れ、

   儲けの仕組みを知ったウーォスパイトがここに逃げて来たのかなと思ったんだよ。」

明石「もしくは護衛を自由に引き受けるここを利用している同業への探り目的のスパイですか?」

提督「何が信用できて何が信用できないかなんてのは分からんからな。」

提督「探照灯が明るかろうが人生の先の闇は見通せんからな。」

明石「分かる頃には死人がどれだけ出る事やら。」

秋津洲「命のバーゲンセールかも……。」

明石「にしてもユダ公って。昔からシティもウォールも雲の上はそうですけど。」フフ

提督「皮肉が効いてんだろ。裏切り者だけにな。まぁ、気にするな。」

257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:24:55.64 ID:PHQWvqIW0


秋津洲「これも万が一の備えかも?」

提督「外れていてくれるとありがたいんだがなぁ。」

提督「それにぱっと見ただけで分かるような事するほど敵さんも馬鹿じゃないとは思うがね。」

提督「保険だよ。」

明石「保険屋相手に保険ですか。気の利いた冗談ですね。」

提督「見えてるだけじゃないからな。

   金融屋ってのは戦争を飯の種にする連中の中で一番性質が悪い。」

明石「お金の出し手は一番強いですからね。」

提督「実弾の前に跪かない人間は珍しいからな。」

秋津洲「時雨ちゃんの件に繋がっているかも?」

提督「お前は時にするどいな。」

提督「だが、分からんとしか言いようが無い。

   実際、上の連中はどっかで繋がりはあるだろうし、

   繋がりの無い奴を探す方が難しいだろうよ。」

提督「用心に越した事は無いがな。

   連中の手は長い、絡め手は意外とそこら辺りにまで伸びてるかもしれんぞ?」ニヤリ

明石「実際分からないってのは薄ら寒いものがありますね。」

提督「見えているものにしか対処出来ないからな。」

提督「やらざるを得ない状態にされるってのは好きじゃない。」

提督「だが、そうせざるを得ないのが今の状況だ。」

提督「実際、この戦争の落し所を探る動きが上層部にある感じがする。」

提督「ただ、平和にしても勝ち取って得た平和と与えられた平和の2種類があるからな。」

提督「どっちを望んでいるのかが分からん。」

258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:25:59.59 ID:PHQWvqIW0


秋津洲「2種類の平和?」

提督「難しかったな。忘れてくれ。俺の立場で口にしていいものじゃない。」

明石「国の先行きを考えるとどちらが正解かって所ですね。」

提督「誇りで飯は食えんが誇りがないと国は保てん。」

提督「……と、飯時の茶のみ話にしちゃぁ、ちょいと内容が重かったな。」

明石「いいですよ。不知火さん相手じゃ出来ない話もあるでしょ。」

明石「私も心得ていますよ。」

提督「すまんな。また何かあったら頼む。」

明石「お話1時間1万円なら。」

提督「キャバクラ並だなとも思ったが……、器量じゃキャバクラが負けるか。」

秋津洲 エヘヘ

提督「じゃぁ、まぁ、その時は頼むよ。」

秋津洲「お待ちしているかも!」



提督を見送る二人。



明石「本当に支払う気ですかね?」

秋津洲「お金とるようだと私、明石さんの事を本当に見下げ果てた奴だと思うかも。」

明石「挨拶みたいなもんですよ。」

明石「もうかりまっか?ぼちぼちでんな。みたいなね。」

秋津洲「かも。」

明石「元旦那より先に提督に会ってたらと思うときはありますけどねー。」

秋津洲「提督の想い人には勝てないかも。」

明石「流石に相手がこの世にいないんじゃ勝負が成り立たないですからね…。」

259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:26:48.50 ID:PHQWvqIW0


執務室

不知火「司令。艦隊司令部より辞令が届いています。」

提督「ん?辞令?」



厳封され封筒の口には古式ゆかしい封蝋。



提督「めんどくさそうな予感しかないなぁ。」



ペーパーナイフを隙間にあて封を開ける。



不知火「中身はなんでしょうか?」

提督「俺を少将に格上げだとさ。」

不知火「おめでとうございます。」

提督「そんなにめでたいもんでもないさ。」

不知火「ぬい?」

提督「階級があがればそれだけ面倒が増えるって事だ。」

260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:27:37.43 ID:PHQWvqIW0


提督「しかも、俺を上に上げた推薦人。まぁ、これを見てくれ。」

不知火「三元帥のうちの深海融和派と中立派のお二人ですね。」

提督「元帥方が三人でそれぞれ意見対立をして一方に傾かないようにして均衡を保ってる。」

提督「そんななかで荒くればっかり集めた一見、強固派に見えるここの指揮官をだ。」

不知火「まったく別の派閥の長が推薦して昇格人事ですか。」

提督「何を企んでいるのか不気味だ。」

提督「流石に辞退はできんよなぁ。将官も大分減ってきているとも聞くし。」

不知火「人材の枯渇ですか。」

提督「そんな所だ。」

不知火「人は育てるのに時間が掛かりますから。」

提督「育つ前に使い潰しているのが今の状況だからな。」

提督「艦娘を提督にするって話も進んでいるらしいし先が見えないのは良くないな。」

不知火「………。」

提督「なんとか俺達の代で終らせたいもんだ。」

不知火「はい。」

提督「年をとると面倒臭がりが増すのと、なにかと涙もろくなるから良くない。」

提督「年はとりたくないなぁ。」

不知火「不知火は今の司令が好きです。」

提督「ありがとうな。」


261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:28:19.99 ID:PHQWvqIW0


88鎮守府近海

一人の艦娘が単艦で海上を駆け抜けていた。

彼女が身につける制服はボロボロ。

そして、彼女が彼女足りうる理由の連装砲も1体は小脇に抱えられ。

他の2体も彼女の後ろを付いていくのがやっとの状態。

しかし、彼女は足を止める事無く、何かに取り付かれたように航行を続けていた。

262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:28:58.99 ID:PHQWvqIW0



「うちからの救援は出せない。」

「そんな!一番近いのがここなのに!」

「みんなが死んじゃう!」

「うちも助けを出せる程余裕がなくてね。」

「余所をあたってくれ。」


263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:29:35.59 ID:PHQWvqIW0


「うちからは助けにいけないなぁ。」

「なにぶんここは要衝なのでね。」

「敵からの攻勢が激しいから救援を出すほどの余裕がないんだよ。」

「本土まで行けば救援を出して貰えるかも知れない。」

「そんな!ここから本土までなんて!」

「燃料と弾薬くらいの補給は分けてあげよう。」

「私のところもなにぶん資材の余裕は少なくてね。」


264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:31:51.81 ID:PHQWvqIW0

「本土まで後、どれくらいかなぁ。」

「周りの鎮守府全てに救援を断られるだなんて……。」

「後、何日かかるかなぁ………。」

「でも、急がないと皆が待ってるし。」

ボン!

「あっ。」

「もう、駄目なのかな。」

「ここまで来たのに……。皆、ごめんなさい。」グス

川内「諦めるのはまだ早いよ。」

川内「と言うかどうしたのよ。」



機関が火を噴きついに力尽き前のめりに

沈んでいこうとしていた少女を抱き起こしたのは川内だった。



雪風「随分とボロボロですが何があったのですか?」

時雨「単艦でここら辺を航行している事から

   何かあったんだろうとは思うのだけど。」

長門「グラーフが島風を偵察機で発見したと連絡して来たから急行したが。」

長門「随分と酷い有様だ。」

島風「あっ。」



ぐるりと周囲を見渡せば同じ艦娘仲間達の顔。



島風「お願い!皆を助けて!」

川内「ん?」



そう一言、言うと島風は力尽き気絶した。
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:33:22.97 ID:PHQWvqIW0


88鎮守府埠頭



提督「何拾ってきた。」

雪風「付近を単艦で航行中でギリ中破でした。」



島風の状況を一瞥。

そして、付いてきていた不知火に、物珍しがって見に来た明石の二人に指示。



提督「不知火、所属全艦娘に出撃状態で待機命令を出してくれ。」

提督「その後、横須賀に問い合わせてくれ。」

不知火「何をですか?」

提督「救援依頼を出している鎮守府があるかどうか。」

提督「それと、俺の少将権限の再確認だ。」

提督「本来の意味での提督、1個戦闘団の指揮官としての提督なのかだ。」

提督「明石、所属を洗ってくれ。」

提督「それから治すのに時間はどれくらいかかる?」

明石「治せるかじゃなくて治すのに掛かる時間を聞いてきますか。」

提督「当たり前だろ。」

明石「なるだけ早くやりましょう。所属は直ぐに分かると思います。」ニカ

提督「頼む。」

時雨「提督、何か大事なのかな?」

提督「単艦でそれも、速さといえば艦娘で右に出る者のいない島風が

   こんな状態で彷徨ってるとくれば相場は決まってる。」

提督「所属鎮守府が襲撃にあい包囲網を強行突破。

   更に周辺鎮守府からの応援を望めなかったから本土へ向けて全力航行。」

提督「ここまでは頭がめでたい奴でも想像はつく。」


266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/02(土) 00:35:02.13 ID:PHQWvqIW0


長門「で、不知火に自身の権限の確認をさせた理由は?」

提督「俺が最近昇進したんでな。将官といえば本来の意味での提督だ。」

提督「司令長官とか呼ばれて、そうだな旧海軍でいえば艦隊指揮を執る立場だ。」

提督「米軍とからな第○艦隊司令官とかの立場だな。」

提督「なんでな、場合によっちゃ現地の部隊再編も可能。後は分かるな?」

長門「成程な。与えられた権限は良く考えて有効に。

   そして上の言質をとった上でか。」

長門「悪党だな。」

提督「前にも言った事があると思うが俺ほど善人はいやしないさ。」

グラ「どうだろうか?」

摩耶「詐欺師は自分の事を詐欺師とは自己紹介しないもんな。」

川内「提督は詐欺師というより博打打ちの方が近いかな。」

川内「ポーカーとかで負け札でも平気でレイズして相手に心理的揺さぶり掛けた挙句。」

時雨「口八丁で相手を騙すのは得意そうだよね。」

雪風「相手にドロップさせる最低の博打打ちです。」

提督「やれやれ、散々な評価だな。」

長門「なに、それだけ皆提督が凄いと褒めているのさ。」

提督「博打ってのは運じゃねぇ。

   モナコのカジノに入店禁止になった、かの名将も言っている。」

提督「高等数学の確立から言って必ず勝てる時が来るから

   それまでひたすら待ち続ける事がカジノで勝つには重要ってな。」

提督「俺が運に頼るのは最後の最後さ。最悪の結果を踏まないように祈る時だけだ。」

長門「そうか。」

提督「そうだ。」

267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/02(土) 00:43:53.75 ID:PHQWvqIW0
本日の更新はここまでです
今回のお話は今までの話と比べて一番重たくなる感じです(1基準で)
なので明るいSSを書いて気分転換を図りたくもなる訳です、はい
提督の呼称ですがゲーム内の提督は鎮守府責任者の扱いですが本来の意味で行くと将官以上(少将以上)
米軍基準でいくと准将、代将も含める形で艦隊指揮官、第七艦隊とかのあれを指揮する指揮官の事みたいですね
本来の鎮守府であれば提督でも間違いないのですが階級が少佐とか佐官がいるからあれれ?という状況
○○水雷戦隊とかの指揮官は司令官とか司令長官という呼称が正しいようです、ややこしいですね
その辺りは不備が有るかもしれない為詳しい方がいらっしゃいましたら指摘頂けると感謝です
ではでは、次回もお付き合い頂けると大変ありがたく思います
乙レス、感想レス、励みになっております、本当にありがとうございます
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/02(土) 01:08:20.69 ID:+x2f0qNA0
おつおつ
色々とどす黒くて笑うべきか呆れるべきかw
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/02(土) 07:29:25.39 ID:llkzI4mv0
オツカーレ

そもそもスタートの時点で新米少佐が鎮守府を任される末期状態だものw

秋津洲が可愛くて仕方ないかも!
出番増えて欲しいかも!
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/02(土) 09:09:19.12 ID:DJ7zjYtHO
おつ!
毎度読み応えあって良いね
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/02(土) 18:44:32.39 ID:9gvFvlMs0
やったぁ、連装砲ちゃんキター!
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:18:41.55 ID:AIWieGRW0
1です、1週間に1回の更新を目指すもあえなく失敗
また、中編を1度の更新で終わらせようと企むも2回に分けるような形に…
計画性ない作者だなという謗りが聞こえてきそう
感想レス、いつもありがとうございます、読み応えがあるとのありがたいお言葉
今後も精進してまいりますので引き続きお読みいただけると感謝
では、本日分の更新をさせていただきます、お時間宜しければお付き合い宜しくお願いいたします
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:19:46.26 ID:AIWieGRW0


第十一話 天国への扉 中編

274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:23:44.75 ID:AIWieGRW0

明石の工廠内

提督は簡素な椅子に座り紙巻に火を付けずに咥えていた。



秋津洲「吸わないの?」

提督「ん、なんとなくな。」

提督「火気厳禁じゃなかったか?」

秋津洲「アークにアセチレンやるから今更かも?」

提督「まぁ、屋内の灰皿が無いところでは吸うべきではないだろ。大人のマナーだ。」

提督「連装砲は直ったか?」

秋津洲「うん!直ったよ!」



工作艦としての経験もある秋津洲は手先が器用な為、

明石の艤装修理を手伝う事も多く、明石が島風の様態を見ている間に連装砲の修理を行っていた。



秋津洲「長10cm砲ちゃんの部品と共通が多いから割と助かったかも。」

提督「首から下は部品を共有できる所は共有しないと製造コストが跳ね上がるからな。」

提督「島風型はただでさえ姉妹艦がいない分、部品供給がきつい艦娘だからな。」

秋津洲「そうだね。生産数は確かに少ないかも。」

秋津洲「ほとんどワンオフに近い高価な艤装かも。」

秋津洲「テストベッドの天津風ちゃんとも違う部品が多いし。」

秋津洲「天津風ちゃんは陽炎型だから意外と使いまわせる部品が多いんだよ!」

提督「ほう、結構奇抜な艤装と思っていたがそうでもないんだな。」

秋津洲「実は雪風ちゃんや時津風ちゃんと部品の交換が可能かも。」

提督「艤装は色々知らない事が多いから勉強になるな。」
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:27:26.89 ID:AIWieGRW0


秋津洲「連装砲ちゃんが自立型艤装の走りなのは提督も知っていると思うけど

    自立型は使用者負担が重いから適正のある子は意外と少ないかも。」

提督「? 自立型なら使用者が操作しなくていいから負担は少ないんじゃないのか?」

秋津洲「AI自体が処理してくれるから索敵とか迎撃とかは使用者が指示すれば良い訳なんだけど。」

秋津洲「連装砲ちゃんへの命令を出すのは使用者だから

    常にデーターのやり取りを使用者とする事になるのね。」

提督「あー……、つまり、つねに3人から、

   ねぇねぇ、どうする、どうする?って話しかけられるみたいな物か。」

提督「恐ろしくうざいな。」

秋津洲「長10cm砲はその辺を押さえたんだけど……。」

提督「成程、長10cm砲が単独で水上航行出来ないのは使用者負担軽減の為に機能をオミットしたからか。」

明石「ですね。機能削除しただけで使用者への負担が60%減ですからね。」

提督「おっ、明石、治療は終ったのか。」

明石「えぇ、後は王子のキスを待つだけです。」

提督「洒落た事を。」

明石「島風型の量産性が無いのは艤装の軽量化の為に演算処理を使用者の脳負担に任せている所為ですよ。

   内緒のお話ですけどね。」

明石「連装砲の一番大きいサイズを3つ運用させたら脳負担が大きすぎて被験者が廃人に。」

提督「そんなやばい代物だったのか。」ウヘァ

明石「そんなギリギリのやばい代物だから島風型以外の自立型航行機能付きの艤装は出て無いんですよ。」

明石「負担が増すと脳が沸騰しますからね。」

提督「なかなか酷ぇ代物なんだな。」

明石「艦娘運用初期に出てきて色々模索されていた時期だからこそ黙認された倫理観の欠如って奴です。」

明石「秋月型なんかは自立型ではありますが自力航行はしませんし

   普段使用は腰の艤装と接続して使用者負担の処理をかなり減らしていますから。」

提督「島風の適正持ちが個体能力値が高いのはそういった理由があったからなんだな。」

明石「艤装も今は大分見直しが入っていますし初期の娘達の艤装も

   改二や丁改、乙改等で見直し、機能、性能の向上は進んでいますしね。」

明石「今の技術ならもう少し負担を減らして性能向上はやれますよ。」

提督「時間が経てば積み上げた屍から経験値を重ねられるという事か。」

明石「そうなりますかね。」



提督の言葉にどちらの屍かという事を問わず。

しらけたとも、やるせないともとれる表情で言葉を返す明石。


276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:31:12.31 ID:AIWieGRW0


提督「島風の所属は分かったか?」

明石「修理に合わせて色々機関の入れ替えもやりましたからね。」

明石「通常整備ではやらない、

   封印入っている箇所も分解してやりましたので艤装の製造番号から辿れましたよ。」

明石「そしてですね、提督。驚く事無かれ、

   彼女、あのネームドの『 最速 』の島風です。」

提督「あの…、あの、ブルーリボンのか……。」



まさしく絶句。



提督「俺が提督候補生として海軍大学に通っていた頃の憧れみたいな艦娘がねぇ。」

明石「あら、珍しい話ですね。」

提督「大学生の皆で観覧した観艦式の余興でな、ネームド達による模擬戦で一際目を引く強さと速さだった。」

提督「敵の魚雷をその速度で交し、艦載機による急降下爆撃をその身のこなしの軽さで交し。」

提督「俺達提督候補生は皆、一様に駆逐艦島風すげぇって、それこそ少年の様に目をキラキラさせていたもんだ。」

明石「どこの小学生ですか。」

提督「航空主兵論ばっかりの提督の卵には劣勢の中、

   敵の攻撃をものともせずに一矢報いようとする島風が御伽噺の主人公の用に見えただけさ。」

明石「大艦巨砲主義とかいなかったんですか?」

提督「そんな頭のめでたい奴はそもそも入学できねぇよ。」

提督「だいたいそれが前大戦の敗因の一因でもあるだろうが。」

明石「ですよねー。」

提督「日本人は判官贔屓、勧善懲悪。とにかく弱い奴が強い敵を倒すって言うのは大好物だろ。」

提督「提督候補生皆がいつかは自分達もあんな凄い部下を持ちたいものだって夢を語ったものさ。」ホウ



提督の昔話、それも提督になる前の、いや、提督になる志を抱いた者達を虜にした憧れ。

そんな懐かしみを、遠くを見る目で提督はしみじみと語った。


277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:33:17.99 ID:AIWieGRW0


時雨「ブルーリボンって何だい?」

提督「何だ、いたのか。」



時雨がいた事に少し照れを感じたのかぶっきらぼうに返す。



時雨「島風の様子を見にね。それで、ブルーリボンって何だい?」

提督「昔の話だ。20世紀初頭にな大西洋航路最速の客船に贈られたブルーリボン賞ってのになぞらえてな。

   海軍の中で速さの記録持ちをそう呼んでいた時期があったのさ。」

提督「トラックやパラオといった南方と本土を物資を積んで行き来する。

   その掛かった日数の少ない艦娘を毎年選んで表彰していたんだ。」

提督「その速さ類まれなる優秀艦、体のいい飛脚便みたいな扱いだったがな。」

提督「艦娘が積める物資なんざ、たかがしれているしな。」

時雨「それは、その…。」

提督「察しの通りだ。激戦地で独楽鼠の様に休み無く働かせたんだよ。」

提督「島風って艦娘になる奴はどいつもこいつも気のいい奴らでなぁ。」

提督「自分が利用されているってのが分かっていても動くけなげな奴よ。」

提督「俺が提督になって直ぐに持った鎮守府でパシリ扱いしていた戦艦連中をどつきまわした事もあったなぁ。」

時雨「提督、意外と苛烈な一面もあったんだね。」

提督「最初に持った鎮守府は他人の異動により空いた所に就いた形だったからな。」

提督「戦力は整っていたが艦種によるヒエラルキーがあったんだ。」

提督「ついたその日に目の前で駆逐艦に銀蝿を強用する連中をみたりと最悪だったな。」

提督「んで、意識改革して艦娘の戦艦と空母連中を半分くらい他所と入れ替えたりとかな。」

提督「とにかく派閥解体工作よ。そして、駆逐艦の地位向上の為にまぁ、色々だ。」ニヤリ

時雨「あっ、悪党の顔だ。」

提督「初期艦にして秘書艦の叢雲が新任新米の俺には過ぎた出来た奴でな。」

提督「その後も幾つか鎮守府を渡り歩く事になるんだが随分助けてもらったもんさ。」



昔を懐かしむ滅多に見せない提督の顔に意外と人らしい所もあったんだなと思う時雨。

はたと気付く事もあったがそれは今、聞くべき事ではないのだろう。

そして、タイミングよく不知火が提督の下へやって来る。


278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:33:52.13 ID:AIWieGRW0


時雨「ブルーリボンって何だい?」

提督「何だ、いたのか。」



時雨がいた事に少し照れを感じたのかぶっきらぼうに返す。



時雨「島風の様子を見にね。それで、ブルーリボンって何だい?」

提督「昔の話だ。20世紀初頭にな大西洋航路最速の客船に贈られたブルーリボン賞ってのになぞらえてな。

   海軍の中で速さの記録持ちをそう呼んでいた時期があったのさ。」

提督「トラックやパラオといった南方と本土を物資を積んで行き来する。

   その掛かった日数の少ない艦娘を毎年選んで表彰していたんだ。」

提督「その速さ類まれなる優秀艦、体のいい飛脚便みたいな扱いだったがな。」

提督「艦娘が積める物資なんざ、たかがしれているしな。」

時雨「それは、その…。」

提督「察しの通りだ。激戦地で独楽鼠の様に休み無く働かせたんだよ。」

提督「島風って艦娘になる奴はどいつもこいつも気のいい奴らでなぁ。」

提督「自分が利用されているってのが分かっていても動くけなげな奴よ。」

提督「俺が提督になって直ぐに持った鎮守府でパシリ扱いしていた戦艦連中をどつきまわした事もあったなぁ。」

時雨「提督、意外と苛烈な一面もあったんだね。」

提督「最初に持った鎮守府は他人の異動により空いた所に就いた形だったからな。」

提督「戦力は整っていたが艦種によるヒエラルキーがあったんだ。」

提督「ついたその日に目の前で駆逐艦に銀蝿を強用する連中をみたりと最悪だったな。」

提督「んで、意識改革して艦娘の戦艦と空母連中を半分くらい他所と入れ替えたりとかな。」

提督「とにかく派閥解体工作よ。そして、駆逐艦の地位向上の為にまぁ、色々だ。」ニヤリ

時雨「あっ、悪党の顔だ。」

提督「初期艦にして秘書艦の叢雲が新任新米の俺には過ぎた出来た奴でな。」

提督「その後も幾つか鎮守府を渡り歩く事になるんだが随分助けてもらったもんさ。」



昔を懐かしむ滅多に見せない提督の顔に意外と人らしい所もあったんだなと思う時雨。

はたと気付く事もあったがそれは今、聞くべき事ではないのだろう。

そして、タイミングよく不知火が提督の下へやって来る。


279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 00:35:31.41 ID:AIWieGRW0
あっ、ダッブってしまった……
>>278は無しでお願いいたします、申訳けありません
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:37:24.92 ID:AIWieGRW0


不知火「司令。仰せつかった件。調べて参りました。」



不知火は一気呵成に報告を始める。

それは、先程までの会話を聞いていてその先に続いたかもしれない言葉を遮るためかのように。



不知火「艦隊司令部では意味がないと思い軍令部へ直接連絡を取りました。」

不知火「権限の確認の為、人事局責任者へ話を通し人事参謀長へ確認。」

不知火「人事における将官の権限ですが現地部隊の再編の人事権も

    緊急時に於いて認めると言質を引き出しました。」

提督「ほう。あまり時間が経っていない割りによくそこまで連絡を取れたな。」

提督「人事参謀長の言質について録音は?」

不知火「抜かりなく。」

提督「救援依頼を出している鎮守府については?」

不知火「現状としては無い事を確認しています。」

提督「もし、それを受けていながら報告をせずに握りつぶしている鎮守府があったとしたら?」

不知火「海軍省法務局に問い合わせ、万一その様な事態があったと証明されるのであれば

    利敵行為として軍法会議への出頭を命じる可能性も有り得ると確認済みです。」

不知火「当然ですがこれも担当者とのやり取りは録音済みです。」

提督「俺が次に何を考えているか分かるな?」

不知火「先日、陥落させ現在米軍が管理している基地に連絡をとり

    観戦武官の参加と引き換えに揚陸指揮艦のレンタル交渉を行っています。」

不知火「あちらからは二つ返事で了承を頂いています。補給艦も手配済みです。」

不知火「また潜水艦の娘達にも作戦の発令に向け待機させています。」

提督「パーフェクトだ、不知火。」ニチャァ

不知火「感謝の極み。」



正しく不敵。

そう表現するのがぴったりな笑顔を見せ提督は明石の方へ向き直る。


281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:38:28.52 ID:AIWieGRW0


提督「明石、何機用意出来る?」

明石「何機御所望で?」

提督「予算の範囲内でだ。」ニタリ

明石「標準でいいですか?」

提督「あぁ、今回は数重視だ。」

提督「不知火。今年の予算割り当ての残額だが。」

不知火「こちらに。」



ここに回される任務だけでは緊急時、それこそ突発的な事態に対応出来ない事もある。

そんな時の為に毎年幾らかの予算が組まれていて提督が不知火に訊ねたのはその残り。

言うまでも無いが明石の協力の下、毎年の予算の残りは形を変えプールされていたりする。

戦争とはとかく金が掛かるものなのだ。



提督「全員に払う金はあるか。」フン



不知火の提示した書類に記載された金額を確認。



提督「でだ、明石、島風の所属はどこだ?」

明石「こちらですね。」



明石が女袴の笹ひだ部につけたポケットから海図を取り出し位置を示す。

ふーっと提督が大きな溜息を一つ。


282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:40:18.26 ID:AIWieGRW0


提督「明石、お前の事だからここの提督の素性も調べていると思うんだが。」

提督「優秀か?」

明石「並ですかね。」

明石「ただ、周辺から比べれば階級こそ低いものの良。ですね。」



頭に手を当てやれやれと言いたげな提督。



提督「凸部じゃねぇか。まったく。せめてそこそこの階級の奴をあてがえよ上も。」

時雨「凸部?」

提督「あぁ、敵さんへ食い込む形での凸部だ。救援に行くにも相当面倒な事になる。」

提督「敵もそりゃ本腰いれて落としに来る訳だ。」

提督「明石。すまないが島風が目を覚ましたら執務室によこしてくれ。」

提督「ちょいと気軽に助けに行ける場所じゃない。」

提督「きっちり作戦を練らないとこっちがやられちまう。」

不知火「執務室へ戻り必要な物を用意しておきます。」

提督「頼む。」



そして、提督は足早に執務室へ戻ろうとして振り向く。



提督「秋津洲。お前が重要になる。島風が目を覚ましたら来てくれ。」

秋津洲「かも!?」


283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:41:44.78 ID:AIWieGRW0


執務室



提督「さぁてと、上の盆暗ぶりに嫌気が差してきたな。」

提督「さらに言えば周辺鎮守府の提督どもを皆、物理的に首を挿げ替えたいくらいだ。」



不知火が用意した海図にマジックで色々と書き込み現状確認を進めていく提督。



提督「ここの重要性を軍令部で理解出来る奴がいないってのは質の低下が激しいのか。」

提督「はたまた襲撃されている事を知らないから暢気に構えているのか。」

提督「どちらなのかねぇ。」

グラ「Admiral、入るぞ。」

提督「ん?どうした?」

グラ「あぁ、明石から頼まれたので島風を連れてきた。」



目を覚ました島風を連れて執務室に来たのはグラーフ。



提督「明石は?」

グラ「予想される物資の用意に忙しいんだそうだ。

   だから私が島風の付き添いで来たんだ。」

グラ「各所に追加注文をしなきゃと慌しく動いていたぞ。」

提督「商売人だな。」

グラ「それと秋津洲も一緒だ。」

秋津洲「提督、来たかも!」


284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:43:20.26 ID:AIWieGRW0


島風「あの!助けていただきありがとうございました!」

提督「礼にはおよばんよ。」



島風の謝辞に返事を返し、海図を再度見直しフムと考え、一同に向き直る。



提督「グラーフも居てくれた方がいいか。守りの要はグラーフになるだろうしな。」

提督「と、私がこの鎮守府の指揮官である提督だ。」

提督「普通の鎮守府には場所が知らされていない中、

   ここの近くを航行していたのは運が良かったと言える。」

提督「おおよその状況は理解している。詳細を島風の口から話してもらってもいいかな?」

提督「あぁ、そうだ。島風が自分の所の提督に義理立て等があるなら

   俺の呼称は適当に呼んでくれてかまわんよ。」

島風「あの、おじさんがここの提督さんなの?」



妥協の上での提督『 さん 』呼び。

おじさんかと苦笑しつつそうだと答える提督。


285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:45:09.05 ID:AIWieGRW0


島風「提督さん、あのね、私の居た所がね。」



そして、島風から、島風が包囲網を抜け出てきた段階での敵勢の確認。



提督「日数的に陥落していてもおかしくないな。」



情報を改めて整理して感想を一言。



島風「そんなぁ……。」

提督「おいおい。俺は救援に向わないとは一言も言ってないぞ?」

提督「最悪敵の手に渡っているかもしれないが落されてすぐなら奪還する。」

グラ「それ程の要衝なのか?」

提督「まぁ、見てくれ。」

グラ「………。」

グラ「これは、攻守の違いがあれど、バルジの戦いみたいな状態だな。」

提督「日本でなら有名所で長篠の戦だな。」

提督「面で構成される敵との防御線にこちら側が敵側に凸る形で食い込んでいる。」

提督「陸の場合でもそう変わりはないんだがこういう風に

   飛び出た部分は敵地へと侵攻していくのに重要な火点に成る場所だ。」

提督「逆に敵からしてみればわざわざ飛び出てくれているから叩きつぶしやすいという一面もある。」

提督「そして、敵にしてみれば放っておくと蟻の一穴になりかねない。」

提督「攻める側にしても守る側にしても確保しておきたい場所だな。」

秋津洲「それで私が呼ばれた理由はなにかも?」

提督「先日の瑞鶴とグラーフの模擬戦覚えているだろ?」

秋津洲「あぁ、明石さんが試していた新システムの奴かも?」

提督「あれの幾つかの問題点を考えられる範囲内での改善をして実戦に投入してみようと思ってな。」


286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:46:54.56 ID:AIWieGRW0


提督「それでいくと航空管制でバトルオブブリテンを経験している

   ドイツ娘のグラーフに守りを任せるのが適任だろ?」

グラ「負けた側だがいいのかな?」クックック

提督「なぁに、問題ないさ。紅茶ジャンキーどもが構築したシステムだ。」

提督「科学技術だけなら何処にも負けないドイツ様のお前がやるんだ。」

提督「他の誰よりもあてにしているさ。」

グラ「嬉しい事を言ってくれるなぁAdmiralよ。

   だが、電探等の性能は英国の方が上だ。」

提督「今回の戦争は前の戦争の勝ち組、負け組み皆仲間だ。負けようがない。」

グラ「イタリアも一緒だが?」クックック

提督「………、ポーランドボールネタはやめてくれ。」クックック

グラ「だが、かなりの距離の移動に拠点確保も難しいようだが

   艦載機の補充が追いつくだろうか。」

提督「それは心配しないでくれ。我に秘策有りだ。」

287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:48:57.55 ID:AIWieGRW0


提督「不知火。留守番組の選定は任せる。」

提督「これより3時間後にブリーフィングを行う。

   その後、米軍に挨拶して救援へ向うぞ。」

島風「あの!提督さん!救援を待っているみんなの所に知らせに行ってもいい!?」

提督「それは許可出来ない。」



島風からの問いに即答。



島風「どうしてぇ!?」

提督「お前さんが単独で航行していたことから鎮守府通信設備が

   破壊されている等で艦娘が直接乗り込んで知らせるしかないというのは分かっている。」

島風「だから私が!」



島風の必死の訴えを手で制し言葉を続ける提督。



提督「更に敵からしてみれば島風が包囲網から抜けた事で

   何がしかの救援が来る事は予想している筈だ。」

提督「つまり、島風が今から救援が来るよと知らせに帰るのは

   敵が手ぐすね引いて待っている所に自分から突っ込んでいく愚行だ。」

提督「俺たちは戦争をしている。だから犠牲を出さずに勝てるなんて甘っちょろい青二才な考えは持っていない。」

提督「だがな、出す必要性のない犠牲を出す気は毛頭無い。」

提督「救援が出ている事を知らせる為だけの犠牲を出すような真似をするのは無駄の極みだ。」

島風「………。」



切り捨てるような言い方だが提督のいう事は最も。

しかし、理屈では分かっても感情では理解できない事も時としてあるのだ。

今しばらく食い下がるかと思ったがあっさりと引いたのを見てとる提督。


288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:49:52.42 ID:AIWieGRW0


提督「不知火。暫く島風を監視しておいてくれ。」

提督「単独で抜け出して救援先に行くような素振りを見せたら力尽くでとめろ。」

不知火「了解しました。」



とぼとぼと執務室を出て行く島風の後姿を見送り不知火に指示。



提督(止められるだろうか…。)



艦娘としての最古参、そして最速の名を頂く駆逐艦。

手負いなれば止められるかもだが明石が修理して万全の状態ともなれば。



提督(止めようとしたという口実作りでもあるが…。)

提督(不知火には損な役回りをさせる。)



そして、提督が執務室にて秋津洲とグラーフとで綿密な打ち合わせを行って丁度3時間後。

いつぞやの敵北海道侵攻作戦を挫いた時の再現のように大会議室には艦娘達が勢ぞろいしていた。


289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/12(火) 00:51:58.52 ID:AIWieGRW0


提督「今回の救援については敵を徹底的に叩く事が主目的だ。

   そこはいつもと変わりがない。」

提督「ただ、敵の指揮官については今までと毛色が違う事が予想される。」

川内「どーしてー?」

提督「今までどおりにお馬鹿さんな相手なら

   自陣地に凸った地点なんか放置していただろうからさ。」

提督「現に今回の救援対象の鎮守府は設立されて結構な年数経っている。」

提督「俺が敵の指揮官なら鎮守府施設なんか作られる前に潰しているよ。」

長門「今回の作戦にはゴーヤ達も参加するのか?」

提督「俺の学生時代に潜水艦娘を上手く指揮して演習で痛い目合わせてくれた同期が居てな。」

提督「そいつから面白い手品の種を聞いているんだ。」

提督「敵のほうが数は多い。当然ながら潜水艦連中もいるだろうよ。」

提督「ならこっちも使って遊んだところでばちは当たらんだろ?」

長門「米軍から海底データを貰うつもりか。」

提督「あぁ、目的地周辺はあちらの方が詳しいだろうからな。」



提督と部下達の軽い冗談のようでお互い手の内を知っている者同士の応酬。

それが終われば留守番の者達も含めて全員に作戦内容の連絡。



時雨「それで、提督。勝てるのかな?」

提督「勝てるのかな?じゃない。勝つだ。」

提督「勝算の無い作戦など立てんよ。」

摩耶「提督ぅ〜、えらい自信が有るみたいだけど大丈夫かよ〜。」

提督「当たり前だ。いいか?物語ってのは主人公が勝つように出来てんだよ。」

提督「人外の良く分からん生物対人間とくれば

   古今東西、人間様の勝ちって相場が決まってんだ。」

提督「それなら人間側の俺達の勝ちだろが。」

摩耶「ひでぇ根拠だな。」

雪風「ですが、何故か説得力があります。」

グラ「まぁ、我々はやるべき事をやる。それは今までとなんら変わらんさ。」



こうしてブリーフィグを済ませた一同は米軍基地へと移動を始めたのである。



290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 01:02:19.00 ID:AIWieGRW0
本日の更新は此処までです
残りは近日中に更新を予定しております、お待ちいただけると幸いです
そして中編の山場は後半、次回更新の方……、計画性無くてすみません
連投が途中あり御迷惑をお掛けしました、今後の予定としてはこの島風の話が終われば
スレを落そうかどうか思案している所です、燃え系のSSって増えないですね……、なんでだろう……
スレの始めの方で触れましたが砂の薔薇的な番外のような本編の様なのもプロット書きが終了して
少しずつ書き溜めをしている所なのでどこかのタイミングで上げれればなぁとは思っています
最近SSまとめ速報なる存在を知り、このSSも纏められコメントがついて居る事に驚きました
SSまとめ速報でコメントを下さっている読者の皆様、コメントありがとうございます
後、もし宜しければ本スレの此方も覗いてこちらにレスいただけるとありがたいです(←レス乞食)
長々と長文での挨拶失礼いたしました、感想レス、応援レス、いつもありがたく拝読しています
次回以降の更新も宜しければお付き合いいただけると感謝です
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 01:06:14.67 ID:MpivStNto
初期艦叢雲で沈没済み……いや、違うんだろうけど
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 01:06:55.22 ID:MpivStNto
っと乙、HKの方も期待してます
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 06:54:04.24 ID:Q/uTBaQqO
おつ
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 07:24:48.10 ID:WPmZlLt80

まじで面白いからいつも更新楽しみにしてる
できるだけ長く続けて欲しいなあ
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 11:45:01.05 ID:0GkYu2uh0
島風鳥居強右衛門説
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 14:45:58.69 ID:YjPL8qXA0
まだ時雨の謎と不知火登場編見てないんだが
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/13(水) 14:36:58.53 ID:xUswDFZdO
オツカーレ

実はまとめからきたんですよね
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/06/13(水) 19:11:59.53 ID:E2AFYQFiO
まとめから来ました。
今まで見てきた艦これのssの中で最高に面白い!
毎回更新楽しみにしてるので、最後まで書ききって欲しいです。

299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/13(水) 23:43:16.61 ID:S8287FqX0
おつ
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/14(木) 03:56:49.47 ID:Pj3sFZoho
まとめサイトとかいうクソみたいな悪習もSS作者からしてみればいい宣伝の場にもなるのよなぁ
不愉快な思いをするのが元々いる住人だけってのがせめてもの救いか
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/14(木) 10:33:23.43 ID:eD/fmY0JO
個人的にはお間抜け熊さんのガンちゃんのその後が見たくある
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:29:50.58 ID:IyUJskK70
黒潮改二!先日の春のミニイベでカタパルト3枚とったから設計図使って
五航戦二番艦を一気に改二にしたり軽空鈴熊を増やしたから設計図は1枚しかなかったんだ!
伊勢の改造はその内、便利なんだろうけどまぁ、急ぐものでもないかなぁと思っています
陽炎、不知火を先に改二にしてたのでハブる訳にもいきませんしね、可愛い、黒潮病、1は致命傷で済みました

本日の更新をさせていただきます、また、本日の分の更新で中編は終了です
お時間宜しければお付き合いいただけると幸いです
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:34:28.74 ID:IyUJskK70


提督達の一行が米軍基地へ向けての行軍を行う中、

1人の艦娘がこっそりとその列を離れようとしていた。

隊列から少しずつ少しずつ距離を離し、違和感無く外れていった。

そして、行軍の列から外れると彼女は海上を別方向へと航行していく。



島風「もうそろそろ全力航行に移ってもばれないよね。」

島風「えへへ。あれだけ沢山の人達が救援に来てくれるんだから。」

島風「皆、絶対助かるよね。」

島風「皆に知らせてあげないと。」ウキウキ



連装砲達もそれに同意するように頷く。



不知火「お気持ちは分かりますがそれは阻止させていただきます。」

島風「オゥッ!?」



島風の後ろから声を掛けるのは不知火。



不知火「死なない程度に壊すことは司令より許可をいただいています。」

不知火「貴方が救援に向かっている事を知らせる事により

こちらの打つ手が幾つか潰されるのは困ります。」

不知火「また、何より許すまじは司令が貴方の身を案じ知らせる事を許可しなかった

その心を貴方が理解していない事です。」



淡々と、しかしその怒りはまさしく怒髪天を衝く。



不知火「故に、多少の痛みは覚悟していただきます。」



言い終わると同時に動き始める。

艤装のパワーを全力で乗せた手刀による突き。

ひゅうと風を斬る音が手が突き出てきた後に聞こえたのは気のせいか。

304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:35:41.29 ID:IyUJskK70


島風「執務室で観察していて猛者揃いの鎮守府だとは感じていたけど。」

島風「避けなかったら確実に殺られていたかも。」タラリ



背筋に冷たいものが流れる。



不知火「挨拶代わりです。司令に憧れを抱かせた艦娘だけありますね。」ギリッ



周囲の空気が震える。

艦娘達の中でも一際頭の螺子が外れた連中が集まるのが陽炎型。

その一人一人が何がしかのエピソードを持ち、

雪風の様に幾つもの大きな海戦を駆け抜け終戦まで生き抜いたような猛者も居る。

その他の姉妹は華々しく、戦場の華として散っていった。

その2番艦不知火。艦名の由来は九州八代海の夜に現れるという蜃気楼。

科学が発達していなかった昔は妖怪の仕業とされていたとか。

その名の由来の如く、不知火は海上の波の上下動を利用し島風の空間認識をずらし始めた。



島風「あれ!?」



連装砲に不知火を撃たせ討ち取ったと思うが、その砲撃は逸れてしまう。



不知火「その様な砲撃は当たりませんよ。」



ぐいと島風の眼前に迫りその顔に拳をみまう不知火。


305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:37:09.81 ID:IyUJskK70


島風「へぶぅ!?」



まるで漫画表現の様に宙を舞う島風。

しかし、華麗に着水。



不知火「さぁ、駄々をこねていないで帰りますよ。」



ぐしと唇を切ったらしく垂れる血をふき取る島風。



島風「強いね。」



そして島風もまた纏う雰囲気が変わった。

ここからは、さながら頂上決戦の様相を呈した戦闘が行われていく。

蹴りを繰り出す不知火をいなしその懐に潜り込み拳を繰り出す島風。

更にそれを交し先に繰り出した蹴りの勢いを生かして回し蹴りを繰り出す。



島風「体裁きのレベルが高い。」



感心するように不知火に声を掛ける。



不知火「最古参の艦娘である貴方に褒めて頂けるとは恐悦至極。」



島風が回し蹴りも交し距離をとったのを見て取りインファイトスタイルで構えなおす不知火。



島風「ごめんなさい。私はここで時間をとられる訳には行かないの。」

島風「どうして主砲と魚雷を使わないのか理由は知らないけど。」

島風「武器を使わないで私を止める事なんて出来ないんだから!」

不知火(来る!)



最速の名に恥じない全力の突撃。

その動きを予測し体を逸らし島風の突撃をかわす!

だが…………



不知火「おうふぅ。」



島風の突撃をかわしたと思ったら足に感じる激痛とわき腹に感じる痛み。

島風の陰に隠れての連装砲からの砲撃。

一瞬ふら付いた不知火の体勢を見逃さずに不知火の背中の艤装に手を掛け一気に後ろへ引っ張る。


306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:38:36.03 ID:IyUJskK70


島風「えへへ。速き事。島風の如し!だよ!」

不知火「くっ。」



体勢の崩れたところに島風が足をかけ転倒させ排気煙突を海面に水没させる。

ボスボスボス



不知火「機関に海水が入りましたか…。」



機関の燃焼に違和感を感じ若干の出力低下を確認。



不知火「逃げられてしまいましたか。」ハァー…



不知火を始めとする背負い式の艤装は後ろ側に重心がよりやすい為、引っ張られると転倒しやすい。



不知火「背負い式の弱点を突かれましたね…。」



最速の二つ名は伊達ではなく、そして『 島風 』の名を頂く艦娘の系譜。

初代の駆逐艦島風が沈んだ後に2代目駆逐艦島風が島風の名前を付けられた過去の経緯を思い出し。

『 その速き事、島風の如し 』

この言葉がその魂を引き継いだ事を意味していた事を思い出す。



不知火「負けたとは思いませんが、司令にご迷惑をお掛けする事になりそうです。」ゲホッ



痛む脇腹を押さえ足を引き摺りながら島風を行かせてしまった事を報告すべく

不知火は提督達の居る方向へ移動を始めた。


307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:42:20.52 ID:IyUJskK70
米軍基地内

(会話は英語で行っていると脳内補完いただけると幸いです。)



提督「アメリカ級揚陸艦なんて豪華な物は出していただかなくて大丈夫ですよ。」

米海軍中将(以下中将)

「いや、是非使ってくれ。

というよりもだ。我が国の実験的部分でのデーターも取りたいのでね。」

提督「国力に余裕のある国は考える事のスケールが大きいですね。」

中将「景気対策は元より軍艦製造の技術継承を考えると

年で1隻は何がしか作らないといけないという呪いだ。」

中将「1隻受注させれば起工から就役まで数年分の仕事が出来る。」

提督「議会が煩くはないのですか?」

中将「議員へ積極的にロビー活動している投資家連中の耳元に、船が沈むぞと耳打ちすれば議会は黙る。」

提督「ははは。」



アメリカという国が本当に恐ろしい理由は食料から石油まで、川上から川下まで。

その気になれば全てを自国内だけで賄う事が可能という点にある。

何せ第二次世界大戦中、多くの国が食料困窮で配給制度などを用いて糊口を凌いでいたのに対し。

アメリカは嗜好品への切符制配給はあったものの他の国と比べれば不足と言うには些少な物。

タイムライフ社の「パールハーバーの衝撃」という写真集には

ガダルカナルでビール片手にステーキを焼く小隊の写真が掲載されていたり

食事にステーキが出なかった事に抗議行動を行う米兵の写真があったりと

記録宣伝用写真というのを割り引いてみても前線へ食料を過不足無く送ることが出来た能力は

同じガダルカナルで戦っていた日本側が飢えに苦しんでいたのを考えると

圧倒的であると言えるだろう。

また、コーヒーや砂糖といった嗜好品が軍用携行食糧に必ず付いていた事も

その国力の豊かさを象徴すると言える。

そして、陸続きでもある南北アメリカ大陸の上へ下へと手を伸ばせば

不足する資源も揃えられると正に無敵。

その有り余る生産力は他国へ輸出する形で余剰分を解消している為、

中将の船が沈むぞという脅しは各種価格を一気に乱高下させる可能性のある脅しなのだ。

提督が乾いた笑いで返すのも無理からぬ事である。

308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:43:08.91 ID:IyUJskK70


提督「富める国は更に富み、貧しきはより貧しく、ですかな。」

中将「あぁ、同盟国である日本が艦娘というのを発明してくれて実に助かっているよ。」

中将「艦娘を大量に用意して我が海軍が世界の海に平和を取り戻す。」

提督(典型的なパクスアメリカーナの軍人か。やれやれ。)

中将「君の救援策に同行する観戦武官だが、私の部下の大佐をつかせよう。」

中将「それから我が軍からサラトガとアイオワも出すから好きに使ってくれ。」

提督「宜しいのですか?」

中将「あぁ。私の予感が正しければ我が国が今後考えている艦娘運用を君が行うだろうという気がしてね。」

中将「君がそれに彼女達を組み込んでくれれば今後の運用が楽になるという事だよ。」

中将「まさか拒否はしないよな?」



にこりと笑う笑顔は否やを言わせぬ脅し。



提督「えぇ、喜んで。」


309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:44:34.63 ID:IyUJskK70


米軍基地埠頭

明石「こりゃぁまたどえらいの貸してくれましたね。」

貸してくれたアメリカ級揚陸艦に持ってきた色々を積み込み据付、

さらにゴニョゴニョしながら明石が感心する。



提督「さらに艦娘を2名も貸してくれる気前の良さだ。」

明石「ひゃぁー。ありがた過ぎて涙がちょちょぎれますねぇ。」

提督「皮肉が過ぎるなぁ。」マッタク

明石「あからさま過ぎて。」シレッ

提督「まぁな。だが、同盟相手が強くなってくれるなら俺達の負担も減るだろ。」

明石「ですかね。」

秋津洲「提督〜!この船、凄いかも!まるで移動式鎮守府かも!」

提督「なんというかまぁ、凄いよなアメリカさんは。」

もともと12番艦まで建造が決まっていた強襲揚陸艦が深海棲艦の出現により建造が停止されていたのだが、

艦娘の出現により深海棲艦を駆逐していく事に成功。

これに自信をつけたアメリカ海軍は揚陸指揮艦としての機能も持たせた

ワスプ級の次級として建造予定があったアメリカ級の設計を見直し揚陸艦としての広大な格納スペース。

指揮艦としての通信、電探設備、3番艦以降に復活したウェルドック。

これらをそれぞれ入渠ドック、出撃ドックと改造改装し、

開発、建造、解体といった機能を削除、

空いたスペースに艦娘用の資材に燃料、弾薬、食料を積み。

更に居住スペースを追加して簡易式移動海上鎮守府を作ったのだ。



提督「国力がアホほどないと構想は出来ても実現は出来んなこれは。」



ましてや気前良く貸し出すなどという真似は出来る訳が無い。



310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:45:54.31 ID:IyUJskK70


秋津洲「つくづくおかしな国と思うかも。」

提督「なー。」アキレ

長門「ましてや動かす人間まで貸してくれるのだからな。」

長門「太っ腹以外のなにものでもないだろ。」

提督「俺としてはブルーリッジ級くらいかと思っていたんだがな。」

長門「運用実績とデーターとりだろ。お互いにWinWinという奴だ。」

提督「ここの総司令中将殿の掌の上感が半端ないな。」

長門「踊るのは得意だろ?」

提督「俺が踊ると腹踊りになっちまわなぁ。」

明石「実際これだけのサイズの艦を動かそうとすると

護衛の艦娘がかなり必要になりますからね。」

秋津洲「大きさが大きさだけに的になりやすいかも!」

提督「最近就役したジョン・C・バトラーの船が居ただろ。」

明石「あぁ、対潜の尖った性能持ちのサムちゃん。」

提督「安価で大量供給可能な目処がたって護衛用駆逐艦娘の当がついたからって事なんだろうさ。」

明石「大量生産大量消費がこの御時勢に可能ってのは流石アメリカですねぇ。」

提督「なー。」



敵じゃなくて味方で良かったそんな感想を抱きつつ明石と艦を見上げていたところに不知火が帰ってきた。


311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:47:36.63 ID:IyUJskK70


不知火「司令、申訳ありません。」ケホッ

提督「力尽くで止めろとは言ったが沈めろとは言わなかったからな。」

提督「おおかた兵装の使用をせずに止めようとして返り討ちにあったんだろ?」

提督「明石。手当てをしてやってくれ。秋津洲。瑞鶴、川内、雪風、時雨を呼んできてくれ。」

不知火「司令。」



不知火の頭に手を当て言葉を続ける。



提督「島風の力量を見誤っていた俺の落ち度だ。不知火。良く帰ってきてくれた。」

提督「生きていてくれて良かった。命があれば次に生かせる。次の作戦に備えゆっくり治せ。」



そう優しく声を掛け。提督は強襲揚陸艦へと繋がるタラップを艦内へ向け歩みを進めていった。

ザザァ。

提督達の乗った船より先行して移動している瑞鶴一向。



川内「提督とゆく楽しい遊覧観光の旅が―――……。」

瑞鶴「強行偵察ね……。」



瑞鶴に伝えられた指示は強行偵察。

つまりは島風の救出は無理と提督が判断したという事。



時雨「実際島風が本気で航行した場合は僕らじゃ追いつけないよね。」

雪風「救出は無理なのでしょうか……。」

瑞鶴「島風も分かっていて向っているんだろうから覚悟の上だと思うわ。」

瑞鶴「提督が強行偵察をわざわざ出したのは最期を看取らせる為なんじゃないかな。」

瑞鶴「それとプレゼントも渡して来いって言われているし。」

川内「提督も私達に指示を出す時、相当に渋い顔していたからね。」

川内「本当は死なせたくはないんだと思うよ。」

瑞鶴「さてと、そろそろ偵察機を出す頃合かしら。」



背中の矢筒から彩雲の矢を取り出し提督に渡されたプレゼントを括り付け弓に番え放つ。

ぶんと一際強いエンジン音を轟かせ彩雲は消えていく。



瑞鶴「拡張スロにケーブル挿して。視界の共有してあげるから。」



彩雲の搭乗員妖精の視界を時雨達も見られるようにケーブルで瑞鶴の艤装と接続。



瑞鶴「島風の勇姿。きっちりと見届けてあげようじゃないの。」

雪風「………。」


312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:48:30.63 ID:IyUJskK70


救援予定鎮守府近海



提督や瑞鶴の予想通りに島風は捕まっていた。

艦娘同士が使う短距離用無線の通信範囲内に入る前の事である。

捕らえられた後、連装砲達は全て破壊、艤装の通信機能も壊されていた。

島風が突破した事を知っていた深海側は周囲に近づく者達へ厳重な警戒網を敷く。

そこに救援の知らせを持った島風が帰ってきたのだ。

敵が手ぐすね引いて待っている所に帰ってきてしまったのだ。

そして、今、その島風の周囲には姫、鬼級。深海棲艦の指揮官達がずらりと集まる。

戦艦水鬼、戦艦棲姫、重巡棲姫、空母水鬼、空母棲姫。

駆逐棲姫に駆逐古姫。

例えるならG7首脳会談といった様相。


313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:50:58.48 ID:IyUJskK70


戦艦水鬼(以下戦鬼)「あなた、最速の島風よねぇ?」



妖艶な雰囲気を漂わせ艦娘の血で紅を引いていると噂されるその唇から底冷えのする声が漏れる。



戦鬼「あなたの事は知っているわぁ…。敵でありながら目を引く強さだったもの。」

戦鬼「それが、使いぱっしりなんてねぇ。」

戦艦棲姫(以下戦姫)「水鬼ともなると何度か拳を交えた事があるのね。」

戦鬼「えぇ。ただ、多くの場合が戦闘能力の高いこの娘を単騎突撃させて攪乱させる。」

戦鬼「なーんて、策も何もあったもんじゃない命を捨てて来いって形が多かったわ。」

駆逐古姫(以下古姫)

  「島風自体は強いのだけどそれを妬ましく思う他の娘達が連携を嫌っていた事が多かったな。」

空母水鬼(以下空鬼)「俊敏な動きで艦載機の爆撃をよく避けられたものよ。」ニッコリ

戦鬼「島風頼みの一点突破型の強攻策を何処の戦場でも採っていたわね。」

戦鬼「それが正解になってしまうほどにあなたは本当に強かった。」



捕らえられ口に猿轡を噛ませられている島風の頬をついと撫でる水鬼。



戦姫「となればそうそうに始末するのかしら?」

重巡「そうだな。見せしめに惨たらしく殺すのがいいんじゃないのか?」

戦水「まぁ、待って頂戴。私は思うのよ。」

空母棲姫(以下空姫)「何をかしら?」

戦鬼「この島風は私達に近いんじゃないかって。」

一同「?」

戦鬼「ねぇ、島風。私は見たことがあるわ。

    貴方が庇って被弾したにも関わらず庇われた相手が

    礼を言うどころか差し出したその手を跳ね除けるのを。」

戦鬼「そんな仲間以下の相手を助ける意味なんてあるのかしら?」

戦鬼「島風が良ければ私達、深海陣営に来ない?歓迎するわよ?」

戦鬼「あなたの強さがあれば姫、ううん。水鬼級の強さを発揮できるわ。」



そして、耳元で囁く。


314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:51:51.35 ID:IyUJskK70


戦鬼「あなたの魂は私達深海に近しいと思うの。」

島風「………。」

戦姫「確かに魂の有り様で新たな姫級の誕生を見るのも面白いわね。」

重巡「艦娘のまま我々の姫級として指揮官にか。」

古姫「まぁ、いいんじゃない?実力主義が私達の基本なんだし。」

駆逐棲姫(以下駆逐)「……、それより猿轡外さないと何も喋れないんじゃないかな。」

古姫「あぁ、忘れていたわ。」ゴソゴソ

古姫「これで話せるでしょ?」

戦鬼「ねぇ、島風?どうかしら?私達の仲間にならない?」

戦鬼「一緒にあなたを苦しめてきた連中を沈めていきましょう?」

島風「……、それってそんなに気持ちがいいの?」

重巡(しめた。乗ってきた。)

島風「確かに私は今まで酷い扱いを受けてきた。」



島風の目から光が消え、纏う雰囲気が影を背負う。


315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:53:10.13 ID:IyUJskK70


島風「もう、人間を守る為に戦うなんてうんざり。」

戦鬼「いいわ。実にいいわ!そう、強き者はそうあるべきよ?」

島風「手始めに目の前の鎮守府の残党を血祭りにあげたい。」

重巡(こちらに傾いてきているか…。新たな姫の誕生も間近かな?)

重巡(そういえば、地中海での戦いで生まれた同級の重巡棲姫も艦娘由来だったな。)フフン

古姫(強者の艦娘が元の姫。どんな強者に生まれ変わるか。見物ね。)クスクス

戦鬼「それじゃぁ、目の前の連中に絶望を味合わせてあげるなんてどうかしら?」

島風「絶望?」

戦鬼「えぇ、あなたは確か救援を呼びに包囲網を突破して出て行ったのよね?」

戦鬼「今も目の前の拠点に、鎮守府施設が破壊されているにも関わらず

   周辺の森や茂みに隠れて貴方の元仲間は殊勝にも抵抗を続けているの。」

戦鬼「その連中の心を、そう、抵抗を続けている連中の心を折ってしまいましょう。」ンフフ

戦鬼「拘束を解いてあげるから抵抗を続けている連中に貴方が私達の無線で語り掛けるのよ。」

戦鬼「自分は援軍を、救援を呼びに行ったけどどこも応じてくれなかった。援軍は来ないって。」

戦鬼「援軍が来ると、貴方に全てを押し付けてしまっている糞みたいな連中の絶望に沈む顔が見えて来ない?」

駆逐(サディストねぇ。)

島風「その提案、いいね。」

島風「援軍が来ない。皆は死ぬしかないって言えばいい?」

戦鬼「えぇ、それでいいわ。」ンフフ



そして、島風は立つ。

嘗て、味方だった艦娘達へ援軍は来ないと伝える為。

316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:54:38.44 ID:IyUJskK70


戦鬼「周波数は何かしら?」

島風「自分でやる。無線機ごと貸して。」



周波数を聞いてくる戦艦水鬼へ無線機を渡してくれと言う島風。



島風「絶望を叫ぶ連中の声を聞きたいの。」



その返事に満足し無線機を渡す戦艦水鬼。

ブロロロロロ



戦姫「あら?あれは敵の偵察機かしら?」

重巡「ほう。島風が此方側に寝返ったのを敵へ視覚的に見せるのに丁度いいじゃない。」

古姫「撃ち落すのは止めておいた方がよさそうね。」

戦鬼「操作は分かるかしら?」

島風「何となく。」



機械操作に長けた人が良くやる何となく操作。

説明書は困った時に読めばいいのあれで島風は無線機を操作。

そして、嘗ての仲間達の艤装に積まれている短距離用無線を呼び出すことに成功した。



ブゥン ――――――

ザリッザリッ


317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:56:11.06 ID:IyUJskK70


「○×鎮守府の皆!」



島風は呼びかける。



「この声は島風?」

「島風の声だ!」



目の前に広がる森林から歓声こそ上がらないものの

島風が帰ってきたことに沸き立つ雰囲気は伝わってくる。

そして、身を隠しながら沖合いを見やれば敵に囲まれた状態で海上に立つ島風が見えた。



「嘘。」

「島風が捕まってる………。」

「えっ…、じゃぁ、救援は来ないって事?」



広がり始める動揺。



「そんなぁ……。」



救援が来るかもしれないという一筋の希望が見えてからの絶望。



「皆!近隣の××鎮守府からの救援は来ない!」

「△×、□○鎮守府も皆、皆、救援を断ったの。だから近隣からの救援は来ない!」



正に奈落の底へ、絶望に底と言う物があるならその底へ叩き込む。

助かるかもしれないと言う蜘蛛の糸を見せ上り始めた所を鋏でぶった切るかの如き言葉。



戦鬼(あぁ、実に素晴らしいわぁ。)

戦鬼(敵の顔が絶望に歪むのが見えて来そうよ……。)



島風の呼び掛けに恍惚の表情を浮かべ満足そうに笑う戦艦水鬼。



「もう、助けは来ないのか……。」



ぽつりと漏れる悲痛な叫び。



島風「皆、後、もう少し頑張れば楽になるから!」

古姫(死を楽になると言うのであればなんという鬼畜)クスクス

駆逐(その変わり身の素早さは驚嘆に値します。)


318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:57:01.68 ID:IyUJskK70





                     「だって………。」




319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:58:19.65 ID:IyUJskK70






          「もっと、もぉ――――――っと強い鎮守府の人達が助けに来てくれるもん!」





320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 00:59:47.96 ID:IyUJskK70


ざわりと騒ぎ出したのは深海棲艦達かはたまた立て篭もる艦娘達か。



島風「私達の使っている装備よりずっと洗練された装備を持っている娘達。」

島風「その鎮守府に居た人達は皆、皆、一目見れば強いって確信できる人達だったもん!」

島風「すごいんだよ!全力で避けようとした私の顔に拳を入れる娘が居たんだよ!」

島風「こんな、へなちょこ深海棲艦なんか簡単にやっつけちゃうんだから!」

島風「だから!」

島風「だから皆!希望を捨てないで待っていて!」

島風「救援は今もこっちに向って来ているから!」



一気に言い切った島風から無線機を奪いとる駆逐棲姫。

しかし、島風が追いすがりそれを奪おうとしたため已む無く破壊。



「救援が来る!」

「島風が強いと言うとてつもない精鋭が来る!」



目の前の敵拠点が一気に熱を帯びてくるのが分かる。

島風の言葉は立て篭もり耐えている艦娘達にとってこれ以上ない希望となった。


321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 01:02:08.17 ID:IyUJskK70


戦姫「やってくれたわねぇ。」フフフ

戦姫「いえ、その見上げた根性。天晴れと言うベきね。」



味方と連絡を取る為の無線機を壊され、

必死に考えた結果が演技をし敵の無線を利用する事で味方達に希望を与えるという事。

そこに自分の命の事など一切を考えない高潔さ。

してやられたはずの戦艦棲姫をして天晴れと評価する程の自己犠牲。



戦鬼「でも、困ったわね。私達深海陣営に加わらないのなら死んでもらうしか無いわね。」



そう、深海棲艦陣営に寝返る事が島風生存の為の絶対条件。

先程の無線での援軍が来る連絡は間違いなく反故にする連絡。



重巡「普段なら艦娘の死体なんざ、イ級達のおやつなんだがなぁ。」



ぽりぽりと頭をかきながら語る重巡棲姫。



重巡「肉片を残さず綺麗に吹き飛ばしてやるよ。」

重巡「私はねぇ、あんたみたいに根性が座った奴は嫌いじゃないんだよねぇ。」



なればこそ。



重巡「その死体を下級連中の餌にするのは忍びない。」



方向の捩れた敵への敬意の払い方。だがそれは彼女なりの最大限の賛辞なのだろう。

そして速やかに刑は執行へ移される。



戦鬼「あなたが私達の仲間にならなくて残念だわ。」

戦鬼「これは心からの本音よ。」



戦艦水鬼、戦艦棲姫、重巡棲姫、そして駆逐棲姫に駆逐古姫。

主砲を一斉に向け、更には魚雷を持つものは魚雷発射管を島風へ向け。


322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/15(金) 01:03:28.16 ID:IyUJskK70


戦姫「最後に言い残す事はあるかしら?」

島風「えへへ。そうだなぁ、あえて言うなら…。」

島風「悔いは無い、かな!」

戦鬼「総員!砲撃始め!」



ドン!



複数の砲声が鳴り響き、複数の魚雷が炸裂。

標的艦への砲撃演習かの如く全弾島風に命中し、島風は文字通り跡形も無く散った。

深海棲艦達の哨戒網ぎりぎりの所で瑞鶴達は偵察機の視界を通してそれを見ていた。



瑞鶴「島風……。」

時雨「……。」

雪風「島風さん……。」

川内「格好よく散っていったね。」

瑞鶴「提督さんから言われたプレゼントを敵に渡したら私達は帰るよ。」

瑞鶴「皆も分かってると思うけど、あいつらをぶっ潰すのは私達なんだから。」



静かに闘志を燃え上がらす瑞鶴に同意する一同。

グオォォォォオン

彩雲に括り付けていた荷物が切り離され戦艦水鬼前に落ちてゆく。


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