【バンドリ】氷川日菜「あまざらしなおねーちゃん」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 08:40:28.00 ID:ueeqel/10

※紗夜さんがちょっとamazarashiっぽくなるSSです

 シリアス寄りな話です

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1519861227
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 08:41:16.92 ID:ueeqel/10
――花咲川女子学園 教室――

――ザァァ...

氷川紗夜「……ひどい雨ね」

紗夜(暦は立春を過ぎたころの午後4時。そんな時間だとは思えないほど外は暗かった)

紗夜(朝の天気予報でも言われていたが、お昼頃から降り出した雨は次第に強さを増していった)

紗夜「はぁ……まさかこんな日に傘を忘れるなんて……」

紗夜(……これは日菜のせいね)

紗夜(寝坊した、とかなんとかでバタバタしてるのを見ているうちについうっかり、玄関に傘を置き忘れてきてしまった)

紗夜(そのせいで私は帰るに帰れず、放課後の教室に1人取り残されることになってしまったのだった)

紗夜「…………」

紗夜(教室の窓を雨粒がバタバタ叩いている。それがなんだか私を『間抜けなやつめ』と嘲笑っているかのように感じられて、机の上に目を落とす)

紗夜(そこに置かれたスマートフォンには日菜からのメッセージが表示されていた)

氷川日菜『おねーちゃん! あたしが迎えに行くから一緒に帰ろーよっ!』

紗夜(手持無沙汰な私はそのトーク履歴を読み返す)

日菜『おねーちゃん、今日傘持たないで出てったでしょ?』

紗夜『……そうね。あなたが喧しくバタバタしていたせいかもしれないわね』

日菜『おねーちゃんが忘れ物するなんてめずらしーね! だからこんなに雨が強いのかなぁ?』

紗夜『話を聞きなさい、日菜』

日菜『あ、そうだ! いいこと思いついた!』

紗夜『だから話を聞きなさい』

紗夜「まったく……どういう意味よ、私が忘れ物したから雨が強くなるなんて」

紗夜(先ほどまでのやり取りを見ながらため息を吐く)

紗夜(毒づきながら呆れつつも自分の口元が緩んでいるのが分かる)

紗夜(こんな風にあの子と笑えるようになったのも……ロゼリアやつぐみさんのおかげなのかもしれないわね)

紗夜(良いか悪いか、で考えれば、これもいい傾向でしょう)

紗夜(日菜とこうしていられるのも悪くない。最近はそう思うようになった)

スマートフォン<ピピ

紗夜(机の上のスマートフォンから着信音が鳴る。確認すると日菜からのメッセージだった)

日菜『おねーちゃん、もうすぐ着くよ! 昇降口で待っててね!』

紗夜『はいはい。走って転ばないように気をつけなさい』

紗夜(それに返信すると、私は鞄を手にして昇降口へと向かった)
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 08:42:06.45 ID:ueeqel/10
――昇降口――

紗夜「……ますます酷くなってるわね、雨。雷も段々近づいてきているみたいだし……本当になんでこんな日に限って傘を忘れるのかしら」

紗夜「……なんだか秋のころを思い出すわね」

紗夜(……そういえば、あの日もこんな雨だった)

紗夜(七夕以降、日菜とは少しは向き合えるようになって、私たちの関係もいい方へ向かっていた)

紗夜(だけど、あの子のギターを聞いて……私の音はなんてつまらないものなんだろうかと、また劣等感を抱いてしまった)

紗夜(散々悩んで、ロゼリアのみなさんにも迷惑をかけた)

紗夜(あの日も……あまざらしな私の元へ日菜が傘を持ってきてくれた)

紗夜(そうやって常に歩み寄ってくれた日菜を蔑ろにしていたことを思うと、自分が少し情けなくなる)

紗夜(でも、あの時の経験も決して無駄じゃなかった。もしまた日菜とすれ違うようなことがあっても、星に願う短冊を探し回ったこと、秋時雨に傘をさしたこと……この思い出があればきっとすぐに和解できる)

紗夜(……1年前の私からすれば、まさかこんなことを思うことになるとは夢にも思わないでしょうね)

紗夜(これも良いこと……なのかしらね)

日菜「おねーちゃーんっ! お待たせーっ!」

紗夜(感傷に浸る思考を切り裂いて、日菜の大きな声が耳に届く)

紗夜(視線を校門の方へ送ると、傘をさした日菜が大きく手を振ってこちらに小走りで向かってきていた)

紗夜「日菜、あまり走ると転ぶわよ」

日菜「へーきへーき!」

紗夜「…………」

紗夜(確かに日菜の運動神経なら転ばないでしょうけど……走ったおかげで泥水が跳ねて付着したその靴下を、あなたは事前に泥を落とそうともしないで洗濯機に放り込むでしょう)

紗夜(そうすると他の服にも土が付いて大変なのよ……)

紗夜「まったく……しょうがないわね」

紗夜(小さく呟いて、日菜の方へ足を踏み出したその時だった)
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 08:42:44.84 ID:ueeqel/10

――ドンッ!

紗夜(一瞬の白い閃光が視界を奪い、全身を震わせるような轟音が響いた。次に感じたのは地響き)

紗夜「きゃっ――」

紗夜(学園の近くに雷が落ちたのだ、と分かるより早く、世界が揺れる。傾く。足元には小さな階段があった。踏み外したのだ)

――ゴン

日菜「お、おねーちゃん!?」

紗夜(次に感じたのは、右の側頭部あたりに大きな衝撃。鈍い音が頭の中で反芻する)

日菜「だ、大丈夫!? おねーちゃん!?」

紗夜(その場にへたりこみ、ぶつけた箇所を手で押さえながら顔を上げると、さしていた傘など放り出して駆け寄ってくる日菜の姿があった)

紗夜(それと同時にじんじんと頭全体に痛みが広がっていく)

紗夜「大丈夫……よ。少し驚いただけだから……」ヨロ

紗夜「あ、れ……」

紗夜(立ち上がろうと足に力を籠める。しかし思うように体が動いてくれない)

日菜「……ちゃ……!? お……――」

紗夜(日菜の声がかすむ。触れられるくらいに近いのに声が聞こえない)

紗夜(泣きそうなその姿もどこか薄いフィルターを通した別の世界のものに見える)

紗夜(じんじんとした頭の痛みもどこか遠くへ行ってしまったような気がした)

紗夜(そう思っているうちに、私の意識は闇に飲まれた)


――――――――――
―――――――
――――
……
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 08:43:15.56 ID:ueeqel/10

日菜(目の前でおねーちゃんがバランスを崩して転んで、階段の手すりに頭を打った)

日菜(そしてその場にうずくまったまま意識をなくした時はこの世の終わりがやってきたのかと思った)

日菜(すぐに救急車を呼んで、お医者さんに見てもらったら、軽い脳震盪だと言われた)

日菜(じきに目も覚ますでしょう、と言われた時にはずっと入りっぱなしだった全身の力がやっと抜けてくれた、とかそんな風なことを思った)

日菜(今は病室に眠るおねーちゃんとあたしが2人)

日菜(救急車を待つ間、おかーさんには状況の説明をして病院に来てもらっていたけど、診療室でお医者さんと、大事をとって何日かの入院をするだとかそんな話をしていた)

日菜「よかったぁ……」

日菜(ベッドの上で眠るおねーちゃんの顔を見つつ、心からの呟きが漏れる)

日菜(もしもおねーちゃんが二度と目を覚まさなかったら、なんて考えたくもないことばっかりが頭の中をぐるぐる回っていた)

日菜(その不安からもようやく解放された)

日菜「本当によかったよ……おねーちゃん……」

日菜(不安で不安で堪らなくて涙が出そうだった。またあたしのせいでおねーちゃんが苦しむのかもしれない。考えるだけで気持ちが沈んだ)

日菜(その心配がなくなって、今度は安心で涙が出そうだった)

日菜(でも、そんなあたしを見たら、きっと優しいおねーちゃんは負い目を感じちゃうかもしれない)

日菜(だから、あたしはしっかり明るい顔をしてなきゃ。おねーちゃんが起きたら『ドジだなぁ』の一言でも言ってやるんだ)
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 08:43:58.13 ID:ueeqel/10

紗夜「……ん、んん……」

日菜「!」

日菜(おねーちゃんの口から小さな声が漏れる。飛びついて揺り起こしたい衝動があった)

日菜(でもお医者さんから頭も体も動かさないように、と言われているから、それは我慢する)

日菜「おねーちゃん、おねーちゃん……」

日菜(小さな声で呼びかけることしか出来ないのがもどかしい。お願い、おねーちゃん……早く起きて)

紗夜「…………」

日菜「おねーちゃん……?」

紗夜「……日菜?」

日菜(うっすらと目を開いたおねーちゃんがあたしの声に反応する)

日菜(それだけのことが嬉しくて堪らなかった。嬉しすぎて、涙がどんどん出てくる)

日菜「うぅ……おねーちゃん……っ、もうほんとに……ドジなんだから……」

紗夜「…………」

日菜「……? ぐすっ、どうしたの、おねーちゃん?」

紗夜「ここは……」

日菜「病院だよ。覚えてない? おねーちゃん、頭を打って意識なくなっちゃって……」

紗夜「頭を打って……覚えがないわね」

日菜(おねーちゃんの言葉にお医者さんの説明を思い出す)

日菜(しばらくは前後の記憶が抜け落ちることもあるだろうけど、それはこういう時にはよくあること……らしい)

日菜(大きな外傷もなく、頭蓋骨にも異常はまったく見られなかったから、それは自然に治るだろう……とのことだった)

紗夜「どうしてあなたがそんなに泣いてるのよ」

日菜「だって、だって……あたしのせいでまた……おねーちゃんが苦しんだらって思うと……」

紗夜「……っ」

日菜「……おねーちゃん?」
142.78 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)