【ミリマス】P氏、海美を抱きしめ腰痛になる

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1 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/03/01(木) 01:47:52.57 ID:oJjJsh0zo
これは稀代の女難に見舞われた、ある一人の男の話である。

===1.

事の始まりは午前のこと。連勤の疲れが出て来たのか、
はたまた日頃の無精が祟ったか、もしくはそれぞれどちらもか。

兎にも角にもP氏は不覚のうちに接触事故を起こしたのだ。

「明日は待ちに待ってた休みだ」とか、
「早く家に帰って眠りたいな」なんてことに意識をやってたせいもあるのだろう。

前方不注意怪我一生。

とにかく注意力が散漫になっていたことを否定することなどはできやすまい。

不幸にも事故現場となってしまったのはいつもの如く765プロ劇場。
P氏が資料を詰めた大きくて重たい段ボール箱を抱えて階段を上っていた時の出来事だ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1519836472
2 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/03/01(木) 01:50:07.23 ID:oJjJsh0zo

「や、やっぱり少し無茶だったか……?」

口から不安がこぼれ落ちる。

なにせ彼の視界は二段重ねの段ボールによって
見事に遮られていたのだからそれも当然のことだろう。

普通に前に進もうにも、そのままでは行く先すらまともに確認ができない状態だ。

そうしてそんな有様だったからこそ、
P氏は階段を駆け下りて来た一人の少女に気づくのがついつい遅れてしまったのだ。

分かった時にはもう手遅れ。ぶつかる衝撃、響く悲鳴。

踊り場に乗せばかりの彼の足は宙に浮かび、
持っていた荷物は放り投げるようにして後ろへと。

……P氏の運命は定まった。
まず、このまま階段を転がり落ちるのは間違いない。

この先に待ち受けるのはカタい、カタい、廊下である。
叩きつけられれば恐らく凄く痛いだろう。

いくらやせ我慢が特技のP氏でもこれには泣いてしまうかもしれない。
いや、泣いてしまうに決まっている。
3 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/03/01(木) 01:51:45.57 ID:oJjJsh0zo

大の大人が痛みに涙するのは随分と格好悪いことだ。

だが、そう悟った瞬間に氏は驚くほど冷静になっていた。

荷物のことは諦めよう。
俺が怪我をするのも仕方がない。

けれどもだ。

抱えていた荷物の代わりに飛び込んで来た相手を傷つけるのだけはよくないな、と。

大体ここは劇場だし、相手は女の子なのだし、
そうなると十中八九この少女は、P氏の知り合いであるアイドルの誰かということに。

骨折なんてされちゃ"コト"だ。

そう思ったP氏は自分をクッションにするためにその子の体を抱きしめると――そのまま下へ一直線。

一足先に落下していた段ボールから飛び出しているファイルや書類、
広告といった紙の山の上へと背中から落ちて行ったというワケだ。
4 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/03/01(木) 01:53:08.29 ID:oJjJsh0zo

結果、医者から下った診断は『ぎっくり腰』。

もし紙の束の上に落ちて無かったらもっと酷いことになっていた可能性もあったと言うのだから、
数日のあいだ腰に痛みを覚えるだけで済んだのは不幸中の幸いだと言える。

なにより彼にぶつかって来た少女の方はかすり傷一つ無かったと聞き、

また顛末を知った社長からも

「まぁ明日だけと言わず二、三日はそのまま家で休みたまえ。腰痛を甘く見ちゃあイカン。
かくいう私もいい歳だ、とても他人事には聞こえなくてねぇ」

なんて有難い言葉を貰い、P氏も一先ず安堵のため息をついたのだ。

……しかし、労災は下りず有給も認められなかった。
5 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/03/01(木) 01:55:56.99 ID:oJjJsh0zo

「む、う。それでも、腰が痛むっていうのは想像以上にしんどいな……」

そうして、今はその日の午後である。
P氏は自宅のベッドの上で独りごちた。

そりゃあ彼だって仕事中は早く帰って眠りたいと思ってはいた。

が、早退してもやることが無い。
いや、正確にはやろうと思っても何もできない。

立ち上がることも屈むことも、まして歩くことすらままならぬ。
P氏は唸った。理由は単純、腰が痛んでしようがない。

例えるならばその痛みは、高圧の電流が体中を駆け巡るかのような。

だが、これではまるで恋である。
生憎とP氏はぎっくり腰に恋慕の情は抱いていない。

もしくは切り分けられた脊髄を、力任せに背骨ごと叩き出されるような。

こちらも何かに例えるなら、ダルマ落としのダルマになったような気分。
少しでも腰を動かすたび、彼を支えるドーナツ体は容赦なくハンマーによって弾き飛ばされていくのだった。


つまりはそれほどの痛みが襲うのである。

この辛さは身をもって経験してみなければ読者諸氏にも分からぬだろう。

それは人類が二足歩行を始めた時から逃れられないカルマでもある。

ピン! と伸びた背筋を得るために我らは永遠に解決されない腰への負担を
生まれながらにして強いられながら生きるのだ。

どのような動作にもたえず付きまとう腰痛は確実に人間をダメにする。
ダメになってしまった人間は次第にダメ人間へと変貌する。

つまるところベッドに寝ころんだが最後、かれこれ二時間近くは
横になったままのP氏は名実ともに堂々たるダメ人間だと言えるハズだ。

まず、間違いなく。
6 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/03/01(木) 01:58:06.61 ID:oJjJsh0zo

こういう時、他者からの手助けを期待できない一人暮らしというのは辛い。
炊事、洗濯、部屋掃除。P氏は持ち帰った資料の整理だってしなくてはならなかった。

メールのチェックだってある。録り溜めたテレビ番組を消化する必要だってあった。

彼が休みの間にやらなければならないことは山とあるが、
その為には痛みをおしてでも腰を動かす必要もまたあったのだ。

けれども少しでも動けば腰が痛む。
痛いのは嫌だ。痛むのが嫌だから動きたくない。

結果、P氏はベッドの上から何処へも動くことができないし動かない。

立派なダメ人間の誕生だ。

今となってはリモコンを取りに起きることすら億劫で、チャンネルを変えることのできない
つけっぱなしのテレビは毒にも薬にもならぬ相撲の取組を安部屋の中に流していた。

おのれ、天下のNHK。

次にP氏はやるかたのない気分で手元のスマホに目を向けた。

それまで二時間近くものあいだ彼とネットの海をクラゲのように漂っていた相棒の充電は残り少なくなっている。

心許ない。充電器はどこか? あった、部屋の隅に存在するコンセントに刺さったままである。

しかしベッドから充電器までの間には千里と言わぬ隔たりが。

これが体調も万全な普段の氏ならば軽やかなステップでその距離を大股のうちに渡っただろう。

だが今は腰が物を言わぬのだ。

僅かにでも体重を支えたが最後、ガラス細工のように繊細な腰骨は無惨にも砕け散ってしまうことが予想できた。
7 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2018/03/01(木) 01:59:09.76 ID:oJjJsh0zo

すなわちこの選択は心にとっての生か死か。

一時の悦楽を貪るために地獄の激痛に立ち向かうか、それとも安静と無為無聊による倦怠な時を重ねるのか。

今、平成の諸葛孔明もかくやと自称するP氏の判断力が試される。

「だったら俺は、こうするしかない」

長い熟考を経てついに、彼は決断し実行した。

スマホの電源を落としたなら自分の枕元へとポイ。

ワイドインチに映し出された汗だく力士たちに背を見せると、
この世の不都合から目を背けるように二つの瞳を閉じたのである。

それはこの場で取れる第三の選択。ふて寝、夢の世界へと。人、この行為を問題を先送りにすると言う。


そうして厄介事に背を向けた場合、往々にして別の厄介事が舞い込んでくるのも世の常だ。

残念ながらP氏もその御多分には漏れていないことが、その直後の出来事で理解できる。
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