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【ミリマス】P氏、海美を抱きしめ腰痛になる
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1 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 01:47:52.57 ID:oJjJsh0zo
これは稀代の女難に見舞われた、ある一人の男の話である。
===1.
事の始まりは午前のこと。連勤の疲れが出て来たのか、
はたまた日頃の無精が祟ったか、もしくはそれぞれどちらもか。
兎にも角にもP氏は不覚のうちに接触事故を起こしたのだ。
「明日は待ちに待ってた休みだ」とか、
「早く家に帰って眠りたいな」なんてことに意識をやってたせいもあるのだろう。
前方不注意怪我一生。
とにかく注意力が散漫になっていたことを否定することなどはできやすまい。
不幸にも事故現場となってしまったのはいつもの如く765プロ劇場。
P氏が資料を詰めた大きくて重たい段ボール箱を抱えて階段を上っていた時の出来事だ。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1519836472
2 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 01:50:07.23 ID:oJjJsh0zo
「や、やっぱり少し無茶だったか……?」
口から不安がこぼれ落ちる。
なにせ彼の視界は二段重ねの段ボールによって
見事に遮られていたのだからそれも当然のことだろう。
普通に前に進もうにも、そのままでは行く先すらまともに確認ができない状態だ。
そうしてそんな有様だったからこそ、
P氏は階段を駆け下りて来た一人の少女に気づくのがついつい遅れてしまったのだ。
分かった時にはもう手遅れ。ぶつかる衝撃、響く悲鳴。
踊り場に乗せばかりの彼の足は宙に浮かび、
持っていた荷物は放り投げるようにして後ろへと。
……P氏の運命は定まった。
まず、このまま階段を転がり落ちるのは間違いない。
この先に待ち受けるのはカタい、カタい、廊下である。
叩きつけられれば恐らく凄く痛いだろう。
いくらやせ我慢が特技のP氏でもこれには泣いてしまうかもしれない。
いや、泣いてしまうに決まっている。
3 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 01:51:45.57 ID:oJjJsh0zo
大の大人が痛みに涙するのは随分と格好悪いことだ。
だが、そう悟った瞬間に氏は驚くほど冷静になっていた。
荷物のことは諦めよう。
俺が怪我をするのも仕方がない。
けれどもだ。
抱えていた荷物の代わりに飛び込んで来た相手を傷つけるのだけはよくないな、と。
大体ここは劇場だし、相手は女の子なのだし、
そうなると十中八九この少女は、P氏の知り合いであるアイドルの誰かということに。
骨折なんてされちゃ"コト"だ。
そう思ったP氏は自分をクッションにするためにその子の体を抱きしめると――そのまま下へ一直線。
一足先に落下していた段ボールから飛び出しているファイルや書類、
広告といった紙の山の上へと背中から落ちて行ったというワケだ。
4 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 01:53:08.29 ID:oJjJsh0zo
結果、医者から下った診断は『ぎっくり腰』。
もし紙の束の上に落ちて無かったらもっと酷いことになっていた可能性もあったと言うのだから、
数日のあいだ腰に痛みを覚えるだけで済んだのは不幸中の幸いだと言える。
なにより彼にぶつかって来た少女の方はかすり傷一つ無かったと聞き、
また顛末を知った社長からも
「まぁ明日だけと言わず二、三日はそのまま家で休みたまえ。腰痛を甘く見ちゃあイカン。
かくいう私もいい歳だ、とても他人事には聞こえなくてねぇ」
なんて有難い言葉を貰い、P氏も一先ず安堵のため息をついたのだ。
……しかし、労災は下りず有給も認められなかった。
5 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 01:55:56.99 ID:oJjJsh0zo
「む、う。それでも、腰が痛むっていうのは想像以上にしんどいな……」
そうして、今はその日の午後である。
P氏は自宅のベッドの上で独りごちた。
そりゃあ彼だって仕事中は早く帰って眠りたいと思ってはいた。
が、早退してもやることが無い。
いや、正確にはやろうと思っても何もできない。
立ち上がることも屈むことも、まして歩くことすらままならぬ。
P氏は唸った。理由は単純、腰が痛んでしようがない。
例えるならばその痛みは、高圧の電流が体中を駆け巡るかのような。
だが、これではまるで恋である。
生憎とP氏はぎっくり腰に恋慕の情は抱いていない。
もしくは切り分けられた脊髄を、力任せに背骨ごと叩き出されるような。
こちらも何かに例えるなら、ダルマ落としのダルマになったような気分。
少しでも腰を動かすたび、彼を支えるドーナツ体は容赦なくハンマーによって弾き飛ばされていくのだった。
つまりはそれほどの痛みが襲うのである。
この辛さは身をもって経験してみなければ読者諸氏にも分からぬだろう。
それは人類が二足歩行を始めた時から逃れられないカルマでもある。
ピン! と伸びた背筋を得るために我らは永遠に解決されない腰への負担を
生まれながらにして強いられながら生きるのだ。
どのような動作にもたえず付きまとう腰痛は確実に人間をダメにする。
ダメになってしまった人間は次第にダメ人間へと変貌する。
つまるところベッドに寝ころんだが最後、かれこれ二時間近くは
横になったままのP氏は名実ともに堂々たるダメ人間だと言えるハズだ。
まず、間違いなく。
6 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 01:58:06.61 ID:oJjJsh0zo
こういう時、他者からの手助けを期待できない一人暮らしというのは辛い。
炊事、洗濯、部屋掃除。P氏は持ち帰った資料の整理だってしなくてはならなかった。
メールのチェックだってある。録り溜めたテレビ番組を消化する必要だってあった。
彼が休みの間にやらなければならないことは山とあるが、
その為には痛みをおしてでも腰を動かす必要もまたあったのだ。
けれども少しでも動けば腰が痛む。
痛いのは嫌だ。痛むのが嫌だから動きたくない。
結果、P氏はベッドの上から何処へも動くことができないし動かない。
立派なダメ人間の誕生だ。
今となってはリモコンを取りに起きることすら億劫で、チャンネルを変えることのできない
つけっぱなしのテレビは毒にも薬にもならぬ相撲の取組を安部屋の中に流していた。
おのれ、天下のNHK。
次にP氏はやるかたのない気分で手元のスマホに目を向けた。
それまで二時間近くものあいだ彼とネットの海をクラゲのように漂っていた相棒の充電は残り少なくなっている。
心許ない。充電器はどこか? あった、部屋の隅に存在するコンセントに刺さったままである。
しかしベッドから充電器までの間には千里と言わぬ隔たりが。
これが体調も万全な普段の氏ならば軽やかなステップでその距離を大股のうちに渡っただろう。
だが今は腰が物を言わぬのだ。
僅かにでも体重を支えたが最後、ガラス細工のように繊細な腰骨は無惨にも砕け散ってしまうことが予想できた。
7 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 01:59:09.76 ID:oJjJsh0zo
すなわちこの選択は心にとっての生か死か。
一時の悦楽を貪るために地獄の激痛に立ち向かうか、それとも安静と無為無聊による倦怠な時を重ねるのか。
今、平成の諸葛孔明もかくやと自称するP氏の判断力が試される。
「だったら俺は、こうするしかない」
長い熟考を経てついに、彼は決断し実行した。
スマホの電源を落としたなら自分の枕元へとポイ。
ワイドインチに映し出された汗だく力士たちに背を見せると、
この世の不都合から目を背けるように二つの瞳を閉じたのである。
それはこの場で取れる第三の選択。ふて寝、夢の世界へと。人、この行為を問題を先送りにすると言う。
そうして厄介事に背を向けた場合、往々にして別の厄介事が舞い込んでくるのも世の常だ。
残念ながらP氏もその御多分には漏れていないことが、その直後の出来事で理解できる。
8 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 02:00:18.52 ID:oJjJsh0zo
鳴ったのだ。何が? インターホン。
一般ご家庭の玄関先には必ずついている呼び鈴が、
電子の音色がピンポンピンポンと視覚を遮断したP氏に「出ろっ!」と容赦なく急き立てる。
「居留守だ!」そう判断した氏の素早さは確かに諸葛孔明じみていた。
が、相手はその策を看破しているかの如く執拗にチャイムで責め立てる。
ピンポンピンポン、ピポピポピンポン。ピンポン、ピポン、ピピッピッピンポン――もはや嫌がらせ以外のなにものでもない。
あまつさえ相手は時間と共に簡単なリズムさえも刻みだした。
楽器となったチャイムによってマンションの廊下は大興奮のダンスフロア。
高まるグルーブにオーディエンスも熱狂する。
だがこのままでは近隣の皆様にもご迷惑だ。
騒音の発生源にされてしまえば大家さんからもお叱りを受けることは必至。
……ここは嫌でも動くしか道はあるまい。追い出されるのはマジ勘弁。
9 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 02:02:27.92 ID:oJjJsh0zo
そう結論したP氏は無意識に体を揺らしながらベッドの上よりずり落ちた。
なるべく腰を庇いながら玄関までの匍匐前進。
辛い。脂汗が彼の額を流れ落ちる。
だが先ほどからゴキゲンなビートを刻む騒音馬鹿に罵声の一つも浴びせてやらねばP氏の気持ちは収まらぬ。
否、罵声を浴びせるという行為を前進の為の糧として、ススメ! P氏。
靴箱に手をかけ立ち上がれ! 怒りに震えるその拳を、
空気の読めないアホンダラの顔面に思い切りお見舞いしてやるのだ!!
「はい、どちらさんで?」
怒りを押し殺した声音。左手で扉を開けると同時にP氏は右の拳を握りしめた。
今、どんな高慢ちきの鼻っ柱さえへし折る五本のツワモノが合体する。
人呼んで彼らはオユビレンジャー。
後はその場の勢いに任せて相手を殴りつけてやるだけである――が、振りかぶられたその拳は、
アホンダラ怪人の頬をぶつことなく緩やかに開かれ解散した。
なぜならそこに立っていたのは、チャイムを鳴らし続けていたアホンダラ怪人の正体は。
「あ、やっと出て来たプロデューサー! もぉ、もぉ、もぉ! 部屋で倒れてるのかと思ったよ〜!」
ほんの数時間前にP氏が階段で受け止めた少女、高坂海美だったのである。
10 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 02:03:48.93 ID:oJjJsh0zo
===
とりあえずここまで
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/01(木) 02:08:48.54 ID:i5kf4iyv0
おつー
続き期待してる
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/01(木) 03:57:33.11 ID:Jj4Kjf+No
うみみかわいい
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/01(木) 18:15:23.51 ID:t0OAhNnRo
有給ないとかやはり765プロはブラッk
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/01(木) 19:53:50.25 ID:xfU6Y9Xwo
労基が仕事をしない優しい世界
15 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 20:48:05.33 ID:1Dz8wOupo
仮の話、高坂海美を知らぬ者はアイドル事務所765プロを知らない者である。
もしくは芸能人という生き物に対しての興味を露ほど持たない変わり者、
でなければP氏の圧倒的プロデュース不足、職務怠慢の動かぬ証と言えるだろう。
そんな氏に代わってあえてこちらで補足すれば、各々お手元の検索端末に『高坂海美』と打って検索。
可愛らしい彼女の容姿がハッキリと確認できたならば話を先へと進めよう。
余談だが、ファンクラブの会員は無休で随時募集中だ。
さて、この天真爛漫と猪突猛進を足して二で割った性格をした少女は出迎えたP氏へ詰め寄るなり
「私ね、今日のお仕事が終わったから劇場からここまで急いで来たの!
だってプロデューサーが私のせいで腰を痛めたって話を聞いたから、とにかくプロデューサーに直接会って謝らなくちゃって!!」
「む、う」
「それとね、ぎっくり腰だっけ? 聞いた話じゃ立ってられない程痛いって……あれ?
でもプロデューサー普通に立ってるよね。もしかして腰を怪我したのって勘違い?」
「いや、そんなことは……。今だって中々しんどくって」
「わっ!? 確かによく見たら結構汗かいてる……。プロデューサー、しんどいなら横になって無いと――って、あぁっ!?
もしかして私が来たから無理させた? だったらホントに、ごめんねっ!」
と、海美は会話に地の文を差し込む余裕すら与えず捲し立てるとそのままP氏の家まで押し入った。
その熟練の押し売りセールスだって舌を巻く手際の鮮やかさは夏の嵐のようでもある。
もしくは強制スクロール。家の中という画面端に押し切られてしまったP氏の目に、
陣中に討ち入る猪武者の幻影が小柄な少女に被って見えたのも恐らく気のせいの類ではないだろう。
16 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 20:51:43.23 ID:1Dz8wOupo
そうこうするうちにあっさりと侵入を果たした海美は玄関において靴を脱ぐと。
「じゃあプロデューサー、ベッド行こっ!」
「なに!?」
「横にならなきゃ! ベッドどこ? ソファでなんて寝かせないよ?」
言って、P氏の腕をとったのである。
ここで聡明なる読者諸氏は恐らく覚えておられようが、彼はぎっくり腰を絶賛患い中なのだ。
そんな人間を勢いよく引っ張ってしまえばどうなるか? 答えは手を引く海美だって時間をかければ導き出せる。
が、海美は理解していようがしていまいが「分かった?」と訊かれれば「わかった!」と返してしまう少女だった。
「ま、待て! そんなに強く引っ張ると――」
制止の声は虚しく響く。P氏の腰には激痛が響く。
無理して立っていた彼の膝は間接の曲がる方向へ素直に折れるとそのまま廊下とキスをした。
ついでに崩れ落ちた彼に引っ張られる形で尻もちをついた海美の体は見事にP氏の腰の上へ落ちた。
形容し難い悲鳴が辺りの空気を震わせる。後に氏はこの時を振り返りこう笑う。
「不覚にも、あの時ダルマ落としが決着した」と。
そうして膝から伝わる衝撃と腰に伸し掛かる重量感、
迸る痛みは快感の山野を駆け抜けるとP氏の脳裏に色鮮やかな花をつけた。
眼前に広がる花畑の傍には清らかな川も流れており、数隻の渡し船が岸から岸へ行き来している。
P氏が耳を澄ませばどこからか心安らぐ鳥の声も。
そんなのどかとも呼べる風景の中、心地よい風に吹かれるままぽつねんと佇んでいると
彼に気がついた船着き場の船頭が面倒くさげに振り返った。
17 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 20:55:20.71 ID:1Dz8wOupo
「あによ、兄ちゃんまァた来たんかい」
この船頭の記憶が正しければ、目の前の男は今年に入ってから早くも四度目となる訪問である。
青白く痩せた不健康な肌、額に角を生やした一つ目の船頭は咥えていた煙管の灰を落とし。
「今度はあに? 踏み台の刑け?」
「いえ、本日は桃子関係では無く勢い余った不慮の事故です」
「ほォうかい。兄ちゃんはよくよく死に目に縁があんなァ」
薄紫に晴れ渡る空を見上げるとカカカと笑って膝をうった。
ここは地獄に数ある渡し口、川流れ三途の桃源渡りは四九八区。
ほんの二か月ほど前にはP氏がアイドルたちを連れて慰問ライブに訪れたあの世とこの世の境である。
が、今回は仕事で来てはいない。P氏の魂だけが迷い込んだと表現するのが正しかろう。
彼は気の良い船頭から現世帰りの札を受け取ると、
恐らくは人の世で生死の狭間を彷徨っているであろう己の肉体を思い浮かべて額にお札を張り付けた。
船頭も別れは今よとにこやかに片手を振っている。
「モーモコ様にもよろすくなァ〜」
これぞまさしく地獄の沙汰もファン次第。
札付きP氏が船頭に頭を下げたのと彼の意識が戻ったことを海美が確認したのは殆ど同時のことであった。
開眼、今、触れんばかりに近づけられていた唇僅かに三センチ。
この世の物ならざる奇声と共に気絶したP氏を緊張した面持ちで覗き込んでいた海美だったが、
彼女は唐突な氏の覚醒に戸惑い驚き頬を赤らめると慌てた素振りで顔を離す――皆様は人工呼吸をご存知か?
詳しくは人が外的ないし内的要因によって意識不明となった時、
自力では困難となった呼吸を周囲の人間が補助する行為のことである。
18 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 21:03:06.09 ID:1Dz8wOupo
この場合意識を失ったのはもちろん我らがP氏であり、手助けすべきは居合わせた海美の役目だった。
尊い命の輝きが、蝋燭に揺れるともし火が、P氏が意識を失う外的要因となった少女のその手に握られる。
彼が三途参りをしている頃、海美は一人P氏の体を揺すり、叩き、声をかけ抱き着き心音を聞いた後に呼吸の有無を確認した。
「……息、してない!」
海美は青ざめながら呟いたが、真実を語ればこれは真っ赤な嘘になる。
息を吸い、吐き、吸い、吐き、例え意識は失えど、生命活動を維持する為に氏は規則的な呼吸を続けていた。
にも関わらず海美は己を謀った。なぜか? 答えは人工呼吸をするためだ。
……ここで甚だ唐突と思われるが、読者諸氏の理解を深めるためにも正しい人工呼吸の手順を今一度おさらいするとしよう。
まず初めに意識不明となった病人を用意してもらいたい。
人数は一人で十分だが、寂しければもう一人分余計に準備して頂いても結構だ。
次に病人をなるべく床のような広いスペースに寝かせると、声かけ等を行い反応の有無を確かめる作業があるが省略。
相手の呼吸の有無には関係なく「人工呼吸が必要だ!」とアナタが判断したならば素早く決意を固めよう。
無事に気道の確保が完了すれば、晴れて人工呼吸の出番である。
だが待った。焦りは禁物。
ここで気をつけないといけないのは、仮にアナタがこれまでの人生において異性との接触機会が極めて少ない人であろうとも、
自分と相手の身分の違いが世間的に著しく離れた立場でも、三親等が相手でも、アイドルとプロデューサーという関係であったとしても
「人命救助はなにより優先される事柄である!」という大義名分を振りかざすことを忘れてしまっては問題だ。
これは人工呼吸という健全な救助活動の流れにおいて決して無視できない要素、
すなわち男女がそのやわやわとした唇同士を重ねる瞬間だけを切り取っては
「不衛生だ」「動機が不純」「医療に対する冒涜だ」などと見当違いな反論を声高らかに主張する輩がこの世に蔓延るためなのだが、
今、改めて講習を受けている読者諸氏の中には人工呼吸を単なるお破廉恥行為であるなどと
認識している者が誰一人としていないハズだろうとこちらは自負して締めくくる。
19 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 21:07:10.65 ID:1Dz8wOupo
現に受講済みの海美はれっきとした"医療行為"としてP氏の隣にしゃがんだのだ。
氏が着用しているシャツを講習通りに手早くめくり、露わになった胸に自身の頬を添えたのも
おでことおでこを合わせる要領で体温を測定しようとしたからであり、
決して地肌に伝わる温もりや、耳をうつ鼓動の音にぽぉっと心浮つく為ではない。
……が、海美も実際の救助は素人だ。知識はあっても経験は無い。
日頃から訓練を受けている救命士とは比べるまでもない一般人。
そんな彼女が、である。
予期せぬアクシデントからP氏の気絶したこの状況の中で冷静さを欠いていたとしても一体誰が責められよう!
"たまたま"呼吸していることを見逃して、"偶然"にも二人きりの状態、
"動揺"から最寄りの病院や知人に連絡を取るという選択を頭の中から抹消した彼女が確信を持って選んだのは。
「やっぱり人工呼吸するしかないね……!」
緊張から口に溜まった唾を飲み込む。実に健全。前述したことからも理解できるようにマウス・トゥ・マウスはキスではない。
キスではないから咎められない。いや、そもそもは人命救助を目的とするれっきとした医療行為であるのだから、
実行に移す際に誰かに咎められるというそれ自体が既にどこかおかしい。
つまり実際に不健全なのは実は世の中の方であり、海美がこれから起こそうとしている全ての行動は『人命救助』という大義名分のもとに健全だ。
だから彼女が寝ているP氏の唇を奪う――もとい人工呼吸を試そうとするのはこの場合極めて正しい判断で、
もう僅かに三センチで唇と唇がこっつんこしてしまう直前にP氏が意識を取り戻したのは海美にとって悔しい誤算だった。
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/01(木) 21:07:33.78 ID:lNn1MHJA0
やっぱり黒いじゃないか765
21 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/01(木) 21:08:23.33 ID:1Dz8wOupo
===
とりあえずここまで。
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/01(木) 21:24:58.45 ID:uGl6n7hUO
腰はいかんぜ腰は…
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/01(木) 22:03:57.37 ID:4DrfEKiuo
腰はダメだ
ホントに何も出来なくなる、ペキってちょっと音がしただけで全身が動かなくなるからな
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/01(木) 22:49:39.00 ID:Jj4Kjf+No
うみみかわいい
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/02(金) 01:41:25.90 ID:HIFYzOaV0
地の文あるSSは敬遠しがちだがこの硬っ苦しい地の文で全力でギャグをやっていくスタイル嫌いじゃない
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/02(金) 13:19:28.98 ID:MiuqZjz/o
もしかして押忍にゃんのSS書いてた?
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/02(金) 14:20:43.94 ID:yuCuW9DDO
人工呼吸なら仕方ない
しかし慰問ライブってこの子ら普段から何してるんだ……
28 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/03(土) 07:19:57.38 ID:jVFqZeYmo
訂正。音読のリズムを保つため
>>8
○ピンポンピンポン、ピポピポピンポン。ピンポン、ピポン、ピピッピッピンポーン! ――もはや嫌がらせ以外のなにものでもない。
×ピンポンピンポン、ピポピポピンポン。ピンポン、ピポン、ピピッピッピンポン――もはや嫌がらせ以外のなにものでもない。
>>17
○彼女は唐突な氏の覚醒に戸惑い驚き頬を赤らめると慌てた素振りで顔を離す――ところで皆様は人工呼吸をご存知か?
×彼女は唐突な氏の覚醒に戸惑い驚き頬を赤らめると慌てた素振りで顔を離す――皆様は人工呼吸をご存知か?
>>18
○今、改めて講習を受けている読者諸氏の中には、人工呼吸を単なるお破廉恥行為などと認識している者が誰一人としていないハズであろうとこちらは自負して締めくくる。
×今、改めて講習を受けている読者諸氏の中には人工呼吸を単なるお破廉恥行為であるなどと認識している者が誰一人としていないハズだろうとこちらは自負して締めくくる。
29 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/03(土) 07:22:33.02 ID:jVFqZeYmo
訂正漏れ
>>19
○もう僅かに三センチで唇と唇がこっつんこしてしまう直前にP氏が意識を取り戻したのは海美にとって大変悔しい誤算だった。
×もう僅かに三センチで唇と唇がこっつんこしてしまう直前にP氏が意識を取り戻したのは海美にとって悔しい誤算だった。
30 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/03(土) 07:24:52.62 ID:jVFqZeYmo
===2.
ではそんな誤算繋がりでもう少し二人の関係を掘り下げよう。
熱心な読者諸氏の中には早くもこちらに勧誘されるがまま高坂海美について検索し、
そのファンクラブに入った行動力溢るる御仁もいらっしゃることだと考える。
だが同時にこうも思ったハズ。
「我らファンに支持され輝くアイドルが、例えプロデューサーであろうと氏のように見事なダメ人間、
ひいては男の影を身近にチラつかせていて良いものか?」と。
俊明なる皆々様がこの事に疑問を抱くのはもっともだ。だからこそ尚更説明せねばなるまい。
結論から述べてしまえば驚くなかれ良いのである。許されている。P氏が一人の男として乙女を集めた秘密の園、
また今回の海美のように彼女たちと二人きりの空間に存在してもなお目こぼしされるその理由(わけ)とは!
……あれは既に過ぎ去りし去年のこと、皆様もかの有名な水瀬財閥の名前は耳にしたことがあるだろう。
『つまようじからロケットまで』、拠点を日本に置きながら、
グローバルな商売で富を生み出す多国籍企業水瀬グループの"あの"水瀬だ。
31 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/03(土) 07:27:26.85 ID:jVFqZeYmo
さて現在、水瀬家当主には聡明な三人の子供がいる。
うち二人は男児、一人は女児。
その一人娘は名を伊織といい、千年に一度の美貌を持って生まれた少女であるのだが、
なんとも命知らずなことか! 昨年、彼女を誘拐しようと画策した不届き者が出たのである。
いや、実際に誘拐事件も起こされた。伊織嬢が失踪するとすぐさま全国津々浦々を舞台とし、
グループが有する私設警備会社『水瀬・セキュリティ・システム』通称『MSS』による大規模な犯人探しも行われた。
そうして昼夜を問わず繰り広げられた大捕り物は連日連夜のニュースとなって日本中、
どころか世界中にセンセーショナルな話題を振りまいた事は庶民の記憶にも新しい。
だがしかし、人々が真に驚愕するのは事件が終息を迎えた後である。
国民的な愛らしさを有する伊織嬢をかどわかし、後世に残る一大誘拐劇の幕を上げ、
なおかつ怒涛の追跡を逃れ続けるという前代未聞の鬼ごっこを引き起こした犯人はあらゆる角度から見て平凡な男であったからだ。
むしろ犯人としてカメラの前にしょっ引かれた彼の姿は気弱な青年そのもので、
長い逃亡生活によって憔悴しきったその顔は、まるで猟師に耳を掴まれたウサギ同様哀し気な感情を浮かべていた。
32 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/03(土) 07:28:58.44 ID:jVFqZeYmo
察しの良い諸賢におかれてはもうお気づきのことだと思われるが、
この事件における驚愕の犯人こそ何を隠そうP氏だった。
当時、既に765プロダクションの一社員であったこの男は純真な伊織嬢を言葉巧みに誘引し、
彼女の身の安全と引き換えに水瀬家当主と一対一の面談を要求したのである。
だが一部のゴシップ雑誌はこの事件に、
『これぞ女難! 猫かぶり高飛車娘の奸計にかかった哀れな男のその末路』
などという大変信憑性の無い見出しをつけた記事を書いたりしたようだ。
……ちなみにこれは余談だが、この記事が載った雑誌は既に入手困難となっている。
出版元の会社も程なくして倒産したことによりバックナンバーは全て消失。
大手の図書館や出版倉庫などからも不思議と雑誌の姿は消え、
記事の載っているその号には、現在高額なプレミアがついていたりするとかしないとか。
33 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/03(土) 07:30:51.95 ID:jVFqZeYmo
閑話休題、ここからは事件後のP氏の処遇について語ろう。
これがアイドルと二人きりでも彼が世間に見逃されている理由となる。
件の誘拐騒動でメディアを一躍賑やかし、時の人へと成り上がりを果たしたP氏だが、
やはり彼ほどの梟雄であるからこそ厳格な法の裁きから逃れることはできなかった。
ハズであった。しかしどっこい彼は無罪放免、その身一つで鬱蒼としたコンクリートジャングルに放された。
なぜか? 答えは"宦官"という並んだ二つの漢字に託される。
仔細は後程語るとして、自身が手掛けるアイドル以上に己を売ったこの男。
大衆の間に高まり過ぎた名声もあり速やかに収監されると思われたが、
なんと誘拐された水瀬伊織自身が「彼は無罪」と世論に対して訴えた。
「私、水瀬伊織は氏に誘拐されたなどとは思っていません。とんでもないことです。
ここまで事態を大事にしたのはお父様の早とちりのせいであり、旅行中、彼は私に対してとても紳士な方でした」
会見場。多数のカメラを前にして、騒動の被害者たる伊織嬢は
ふるると肩を震わせながらも毅然とメディアに答えたもの。
曰く、反抗期を迎えた少女が"たまたま知り合った"親切な青年の手を借りて、
気ままな家出旅行をしていただけだと言うのである。
34 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/03(土) 07:33:39.41 ID:jVFqZeYmo
「そうしてこれ以上の質問に関しては、今後一切彼に代わって水瀬家が直接承りますが……如何かしら?」
それは圧倒的な権力を前にメディアが屈した瞬間だ。報道ではよくあることである。
事が終わって気がつけば、この刺激的な令嬢誘拐事件はあり触れた家出に変わっていた。
家出であるなら事件ではない。犯人でないなら裁けない。
おまけに危ない家庭の問題に、首を突っ込む野暮は多数の意味でも居やしない。
かくしてP氏は解放され、財産、友人、家族の縁。
失った物は限りないが、幸いなことに765プロは世間からの信用を全く無くした彼を以前と変わらず受け入れた。
……しかし街を歩けば指をさされ、その影が見えれば噂され、
いわれなき食い逃げの罪すらなすりつけられる日々を送るうちに氏は自分の立場を把握する。
これが受けるべきバチであり咎なのだと。
もはやP氏の周りは監視社会、水瀬家の恩情による庇護なくしてはプライベートタイムすらままならぬ。
35 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/03(土) 07:36:12.29 ID:jVFqZeYmo
そんな状態であるからして、現765プロ会長(当時はまだ社長であったが)高木順一郎は氏に一つの盟約を結ばせる。
彼は水瀬家当主とは旧知の仲の人物で、P氏の良き理解者兼上司でもあった。
ここで宦官という言葉再び。
読者諸氏は知っておられるか? かつて中国を中心として広まった一風変わった風習を。
宦官、それは後宮と呼ばれる王族が住まう場において仕事をしていた男の役人のことである。
ひどくざっくりとした説明になってしまうことを予めご容赦願いたいが、後宮という場所は基本的には男子禁制。
日本的には大奥と言えばイメージもしやすいことだろう。
そのような場所で竿持ちが働くワケなのだ。
考えればこのようなシチュエーションに置かれた男女の間に不義が交わされることは阿呆でも想像できる話であり、
彼らは女性関係の不祥事を起こさぬよう、事前にアレを切り落として職務に当たったと伝えられる。
そうしてこの場合の後宮とは言うまでもなく765プロのことであり、
宦官候補の役人はP氏、女性とはアイドル達であった。
その中には偶然にも件の家出少女水瀬伊織も含まれる。
とはいえ現代日本では個人にそこまでの規律を求めること、まして徹底させるのは難しい。
出処不明の怪しい団体が人権問題云々と提訴でもすれば一大事。
強制は不可、されど己を律する手段としてならばどうであろう?
例えばそう、未だに世間より後ろ指さされる人物が、
信用を取り戻すためのステップ1として贖罪の機会を請うた場合。
36 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/03(土) 07:40:21.33 ID:jVFqZeYmo
こうしてP氏は宣言した。
「私めはこれより公明正大な宦官となりより一層の社会貢献を目指す所存。
所属アイドルを不幸にし、ファンの皆々様方の信頼を裏切る真似など致しませぬ。
また万一宣誓破りしは、速やかにこの愚息とも別れを告げようぞ!」
と、まぁかようなことを氏は自身の尊厳回復の為、
起死回生の一計を案じた順一郎による指示のもと、
水瀬グループがスポンサーとなって始まった765プロ独占の新番組、
「生っすか!? サンデー」初回放送の冒頭において全国のお茶の間の皆様に堂々宣誓したのである。
この道化もかくやな実に見事な踊りぶり。
無論、発表については同席したアイドル達も重々承知のうえであり、
彼女たちもまたそのような関係を迫られた時点で氏を告発、断罪すると誓い、
これを事務所全体における刎頸の交わりとして性別を超えた結束の固さを世間に知らしめることとなったのだ。
つまるところ熱した鉄は熱いうちに打て、ゴシップも冷めぬうちにこそ価値がある。
社運を賭けた新番組として企画されていた765プロダクションの「生っすか!?」は、
計らずも氏がもたらした話題性に乗る形で破竹のスタートを切ったのである。
またこちらも余談ではあるが、この回は異例の緊急再放送まで行われる高視聴率を叩き出し、
新進気鋭を地で行く勢いをもってして人気番組への仲間入りをも果たし得た。
――長い前置きは今終わり、P氏と海美の側へと話の筋を戻そうではないか。
業界一の赤裸々事務所、765プロに所属するアイドル達は皆彼が立てた誓いを知っている。
これは現在二つの抑止を担っており、一つは氏が抑えられぬ劣情から見目麗しい彼女たちへ蛮行に及ぶを阻止すること。
もう一つは年頃な彼女らが"はしか"のような勘違いからP氏へ恋着するのを防ぐことだ。
37 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/03(土) 07:43:47.96 ID:jVFqZeYmo
===
とりあえずここまで。説明パートもこれで終わり、次回からようやくイチャイチャさせられます。
後、26の方に尋ねられましたが押忍にゃんSSは書いてないです。
なにやら人違いをさせてしまったようで申し訳ございません。
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/03(土) 09:43:34.39 ID:Rbrtxurqo
えっ、Pのpちゃんが
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/03(土) 15:01:00.76 ID:ELOK+tC9o
Pからの誘いはアウトだがPを押し倒すのはセーフなんだな?
チャンスだぞうみみ
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/03(土) 23:09:14.84 ID:29CWqjPbo
がんばれうみみ
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/04(日) 14:34:41.20 ID:70fd7/WQo
宦官ってことは玉ないんですかね
42 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/06(火) 00:08:33.45 ID:AWCgvPWLo
事実、P氏に対する欲望の抑止は予想以上の効果を出す。
やせ我慢は大得意だと日頃から吹聴している彼である。
アイドルが意味なく肌を晒そうと、一時の衝動に身を任せ、押し倒すなどといった野生を理性で押さえ込む事は、
金払いの渋いスポンサーをだまくらかすより遥かに容易であると言えた。
その仮説を決定的とした出来事が、ファンとの水着交流会で起きてしまった豊川風花のポロリ事件。
765プロ随一のバストサイズを誇る女性のポロリ。
突然のハプニングに参加していたファンたちは当然の如く歓喜した。
が、風花の最も傍にいたP氏だけは、能面のような表情を一切崩さず事態の収拾に当たったのだ。
人は言った。「彼は男が惜しいのだ」と。
いつぞやの宦官宣言が効果的に働いていたという証拠である。
43 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/06(火) 00:09:55.43 ID:AWCgvPWLo
だがしかし、生粋のヤセガマンサーではないアイドル達はどうだろうか?
基本的に出会いは少ないこの職場。恋愛沙汰は公然のタブー。
文字通り恋に恋するお年頃でもある純真無垢な彼女たちが、平時長い時間を共に過ごす異性、
P氏に対して信頼以上の感情を持つのは自然な流れであると言えよう。
第一だ。既に彼ら彼女らが頼り頼られの関係性を構築しているのは事実であり……とはいえ、
そこから相手を異性として意識するにはもう一段、段階を踏まえなくてはならないのが愛と恋愛の常でもある。
そこに来て今回の階段落下騒ぎ。
生まれて初めて力一杯異性に抱きしめられた乙女海美は、
あの瞬間(とき)よりP氏に対する恋心の芽生えを急速に認識し始めた。
諸氏らは吊り橋効果という言葉を耳にしたことがあるだろうか?
運悪く彼女は悪い魔法にかかったのだ。
恐れていた麻疹が発症した。
「すわ外道プロデューサー許すまじ!」と義憤に駆られるファンの方々は今すぐ二本の蝋燭を頭に巻き、
P氏の身の不幸を願って金づちを振るうもまた一興。
釘を一寸ずつ幹に打ち込むたび彼の背には悪寒が走り、
腰と玉袋には原因不明の痛みがズキズキと襲いかかるはずだ――そう、例えばこのように。
44 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/06(火) 00:13:18.45 ID:AWCgvPWLo
===3.
「ねっ、プロデューサー気持ちいい?」
「あ、ああ……。気持ちいいよ」
海美の囁きにP氏が応え、ベッドはギシギシ音を立てる。
今、少女は未知なる充足感に酔っていた。
己の動きに合わせて大の男が涎を垂らして悦ぶ姿、
相手を手玉に取っている感覚は麻薬のような魅力を持つ。
「ん……こうすると、どう? ちょっとキツいのもイイでしょ」
「う、あ……はぁ、う、海美……!」
「ふふっ、だらしない声出しちゃって。……激しくするよ? それ! それ! それぇっ!!」
「ま、待てっ、あ、ぐあっ!? くっ、うぅ――!!」
部屋を満たすは歓喜の声、満足気な海美が額に流れる汗を拭う。
その左右十本の指だけにとどまらず、手の平、甲、肘まで使った巧みな彼女のマッサージは、
P氏の体に突如として訪れた激痛をたちまちのうちに和らげ気持ちは天へと昇らせた。
あの衝撃の臨死体験から復活を果たしたその直後、
原因不明の腰痛(及び股間痛)に悶える氏は頼れる海美に肩を貸されなんとかベッドに辿り着いた。
その後、彼は「腰、痛くて辛いよね? ……遠慮しないで、私が優しく揉んであげるっ!」
と意気込む海美に流されるまま腰を揉み揉み揉まれており。
「――ハイ、終わりっ! 良かったでしょ?」
「うん……全くかたじけない。随分腰も楽になった……気がする」
感謝の言葉を述べられて、海美は照れ臭そうに頬を掻いた。
ちなみに水を差すようだが、発症直後の腰痛をマッサージでほぐすのは余りよろしくないらしい。
何事もケースバイケースだと思われるが、
基本的には炎症が治まるまでは患部を冷やし、姿勢は安静。
湿布でも貼って大人しくしているのが実際のところは良いのだとか。
45 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/06(火) 00:15:50.39 ID:AWCgvPWLo
「えへへ〜。それじゃあ他のことも私がやったげるから、プロデューサーはゆっくり横になって休んでてね!」
そう言って彼女は立ち上がり、P氏は急速に青ざめた。
なぜなら現在時刻は午後六時。
海美がこの家を訪れてかれこれ三十分は経過している。
既に日も傾き、これからは年頃の娘なら自宅に帰っているのが相応しい時間となるだろう。
そんなP氏にとっては「もう六時」、だが海美にとっては「まだ六時」。
「ま、待つんだ海美。そろそろ時間も遅くなる、家に帰らなくちゃ……。
一応謝罪も聞いたのだし、俺の方なら十分助けてもらったから」
「でもプロデューサー家事もできないんでしょ?
お腹も空いて来る頃だし、ご飯ぐらいは代わりに作らせてっ☆」
「しかし海美! 君の料理の腕前は――」
「大丈夫大丈夫まーかせて! これも乗り込んだ船ってやつだし、ねっ!」
生憎と乗せた覚えは無いのだけれど――P氏が反論する間もなく船は港を離れていき、
密航者海美は勝手知ったる家の中を改めてぐるりと見回した。
実のところ、海美が氏の自宅にお邪魔するのは今回が初めてではない。
と、言うよりもP氏の所には普段から、
「仕事についての相談がある」といった名目でちょくちょくとアイドル達が顔を見せた。
また、訪れる者の中にはここぞとばかりに日頃のお世話の恩返し、
P氏の役に立ちたいと情熱を燃やす娘もいる。
「お部屋、少し荒れてますね。手伝いますから片付けましょう」
「普段は出来合いばかりですか? ダメですよ、ご飯は出来立てを沢山食べなくっちゃ!」
「よし、今日の飲み屋はココに決定! 愚痴ならお姉さんにトコトン吐き出しなさい♪」
そうしてあれよあれよと流されるまま、氏の自宅は事務所にとっての寄合所のような存在に。
今ではアイドル達の私物も増え、食器棚にはそれぞれが使う専用のコップまで置かれているという始末だった。
46 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/06(火) 00:19:13.66 ID:AWCgvPWLo
これをP氏に対する信頼と友情、ひいては敬慕の証と捉えるか、
周りの恋敵へ対する僅かばかりのけん制と考えるかは見る者次第の任せ事。
……今、心新たに生まれ変わった海美は自信をもってこう答える。
「今までの私はお子ちゃまで、駆け引きの"か"の字も知らない阿呆でした」
まだ小さく頼りないとはいえ、海美が灯した恋の種火に照らし出される室内には女の影がちらほらと。
浮かび上がって来る違和感、次第に炙り出されていく不自然。
その一端に触れてみるだけでも、来客用のスリッパ群に圧迫されている玄関に、洗面台には歯ブラシがずらり。
食器棚には先にも述べたコップ類の他にも麺棒を始めとしたお菓子作りの道具一式に使い込まれたたこ焼き器。
本棚には多種多様なジャンルの本が絵本と混ざってごっそりと、
冷蔵庫の中にはお酒やつまみがぎっちりと。
部屋の隅ではアロマが焚かれ、ベランダを使用したガーデンには野菜が栽培されており、
テレビ周辺にはアイドル物のDVDとゲーム機が複数のコントローラーと一緒に収納されているではないか。
こうなってくると棚に並べて飾られた、別段怪しいところの見受けられないイルカやサメのぬいぐるみでさえ、
恋に目覚めたうみみアイを通せば誰かしらの主張が透けて見える如何わしい代物へと早変わり。
47 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/06(火) 00:20:22.84 ID:AWCgvPWLo
「ねえプロデューサー。この辺に私用のルームランナー置いても良い!?」
開口一番、P氏の前へと戻るなり海美は焦った様子で提案した。
が、当然のようにこの申し出は彼に却下され。
「じゃあダンベル! ハンドグリップは? 私も女子力のカケラを残したいのっ!!」
「じょ、女子力とは形で残せる物なのか……?」
「多分、きっと、残せるはず……? とにかく! 私も何かプロデューサーの家に置きたいよっ!」
全くもって要領を得ない話である。P氏は頭を抱え途方に暮れた。
第一彼女は先ほどまで、自らの手料理を振る舞おうと無駄に息巻いていたというのにだ。
ものの数分と経たぬうちに今度は室内運動器具を置こうなどと――
ただこれは、考えようによっては有り難い話だと言えなくもない。
なにせ海美は日々「練習してる!」と言い張るが、
彼女のこしらえる"料理"の出来栄えは常々試食者のコメントを詰まらせてきたような代物だ。
本日もそんなシェフうみみが自慢の腕を振るったところで結果を予想するは容易い。
恐らく惨劇の食卓は免れまい。
ならば財布は多少痛めようと、胃袋がはちきれんばかりに膨らもうと、
ここは味の確実な中華料理屋にデリバリーを頼むが最良策。
48 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/06(火) 00:21:23.51 ID:AWCgvPWLo
「分かった。海美、認めようじゃないか。……ダンベルだったら置いても良い」
「ホントにいいの? やったーっ!」
「ただし! 認める代わりに家に帰れ。料理の方も出前を取るから大丈夫だ」
勝った。完璧な作戦である。P氏は海美に気取られぬよう細心の注意でほくそ笑んだ。
相手の提案を一つ飲み、代わりにこちらの案をも通させる。
おまけに氏はどさくさに紛れて二つの要求を通したのだ。
これを勝利と言わずしてなんと呼ぼう?
伊達に駆け引きの修羅場はくぐっていない。
小娘相手に負ける気はしない。
現に海美は「分かった!」と快く返事をし。
「じゃあ一回、プロデューサーに言われた通りダンベル取りに家に帰るね。ついでに買い出しも済ませて戻るから!」
待て、どうしてそんな流れになる? たまらず首を捻った氏には悪いが、
言語は周波数が合わねば意味はない。理解できなければ負けも無い。
「……ん?」と間抜けに訊き返すP氏に少女は笑顔で答えると、
目についたスケッチブックに何やらサラサラと書き始めた。
「だって冷蔵庫の中お酒と変なのしかないんだもん。お米は炊いてあったから……
キチンとした材料を揃えてきて、美味しいおかず作っちゃうね!」
49 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/03/06(火) 00:23:12.79 ID:AWCgvPWLo
――さて、それからしばらく経ってのことである。
P氏の自宅、玄関前に二人の少女がやって来た。
彼女たちはそれぞれ扉に貼りだされた奇怪な文書に目を通すと。
「なんじゃこりゃ? "留守です。湯治のため二、三日温泉に浸かりに行って来ます"?」
「何って奈緒ちゃん書き置きだよ。プロデューサーさんが温泉に行きましたよっていう」
「いやいやいや、それは誰が見たって分かる話やろ?」
「だね」
「私がココで言いたいのはな、美奈子。なんでプロデューサーさんは
わざわざこんな貼り紙を玄関に貼っとるんかってトコやないの」
おまけにその貼り紙はスケッチブックのページにクレヨンで書かれた物である。
横山奈緒と佐竹美奈子。
流石に大勢で押しかけるのは迷惑だろうということで、厳正なる話し合いとあみだくじの結果、
事務所のメンバーを代表してお見舞いに訪れたこの二人は、なんとも腑に落ちないといった様子で互いに顔を見合わせる。
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